(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】色素増感太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01G 9/20 20060101AFI20230614BHJP
【FI】
H01G9/20 109
H01G9/20 107C
H01G9/20 115A
H01G9/20 119
H01G9/20 111D
H01G9/20 107B
H01G9/20 111A
(21)【出願番号】P 2021536995
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2020028431
(87)【国際公開番号】W WO2021020272
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】P 2019137939
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【氏名又は名称】山下 亮司
(74)【代理人】
【識別番号】100125922
【氏名又は名称】三宅 章子
(74)【代理人】
【識別番号】100184985
【氏名又は名称】田中 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100202142
【氏名又は名称】北 倫子
(72)【発明者】
【氏名】福井 篤
(72)【発明者】
【氏名】笠原 恵
(72)【発明者】
【氏名】吉江 智寿
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 大介
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150120(WO,A1)
【文献】特開2012-014849(JP,A)
【文献】特開2018-019092(JP,A)
【文献】特開2017-011131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属酸化物粒子を含み、色素を担持した多孔質半導体層を有する第1電極と、
前記第1電極の対極となる第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた多孔質絶縁層であって、酸化還元対およびピラゾール系化合物を含む電解液を保持し、第2金属酸化物粒子を含む多孔質絶縁層と、
を備え
、
前記第2金属酸化物粒子の平均粒径は、前記第1金属酸化物粒子の平均粒径よりも大きく、かつ、前記多孔質絶縁層の空隙率は前記多孔質半導体層の空隙率よりも大きい、色素増感太陽電池。
【請求項2】
前記ピラゾール系化合物は、下記の一般式で表され、
【化1】
ここで、式中のR
1は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数が1~5のアルキル基、ハロゲン基、アミノ基、フェニル基、フリル基、メトキシフェニル基、チエニル基、およびメチルフェニル基からなる群から選択される1種であり、同一の基であってもよい、請求項1に記載の色素増感太陽電池。
【請求項3】
前記電解液中における前記ピラゾール系化合物のモル濃度は、0.3M以上1.2M以下である、請求項1
または2に記載の色素増感太陽電池。
【請求項4】
前記電解液は、比誘電率が20以上80以下の溶剤を含む、請求項1から
3のいずれかに記載の色素増感太陽電池。
【請求項5】
前記溶剤は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項
4に記載の色素増感太陽電池。
【請求項6】
前記第2電極は、炭素微粒子を含む対極導電層を有する、請求項1から
5のいずれかに記載の色素増感太陽電池。
【請求項7】
前記第2金属酸化物粒子は、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化アルミニウム、および酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1から
6のいずれかに記載の色素増感太陽電池。
【請求項8】
前記第2金属酸化物粒子は、価数が異なる2種以上の金属酸化物粒子を含む、請求項1から
6のいずれかに記載の色素増感太陽電池。
【請求項9】
前記第2金属酸化物粒子は、第1価数の金属酸化物粒子および前記第1価数よりも小さい第2価数の金属酸化物粒子を含む、請求項1から
6のいずれかに記載の色素増感太陽電池。
【請求項10】
前記第1価数の金属酸化物粒子の平均粒径は、前記第2価数の金属酸化物粒子の平均粒径よりも大きい、請求項
9に記載の色素増感太陽電池。
【請求項11】
前記第1価数の金属酸化物粒子は酸化ジルコニウムであり、前記第2価数の金属酸化物粒子は2価または3価の金属酸化物粒子である、請求項
9または10に記載の色素増感太陽電池。
【請求項12】
前記第2価数の金属酸化物粒子は酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムである、請求項
11に記載の色素増感太陽電池。
【請求項13】
前記第2金属酸化物粒子の全体に含まれる前記第1価数の金属酸化物粒子と前記第2価数の金属酸化物粒子との質量比は、80:20以上99:1以下である、請求項
9に記載の色素増感太陽電池。
【請求項14】
前記第1電極を支持する透明基板をさらに備え、
第1透明導電層が前記透明基板に形成され、かつ、第2透明導電層が前記第1透明導電層から電気的に分離されて前記透明基板に形成されており、
前記第1電極が有する前記多孔質半導体層は前記第1透明導電層上に形成され、前記第2電極は前記第2透明導電層に電気的に接続されている、請求項1から
13のいずれかに記載の色素増感太陽電池。
【請求項15】
前記多孔質絶縁層の厚さは、前記多孔質半導体層の厚さよりも薄い、請求項1から
14のいずれかに記載の色素増感太陽電池。
【請求項16】
前記多孔質絶縁層の厚さは、0.2μm以上20μm以下である、請求項1から
14のいずれかに記載の色素増感太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、材料によって、シリコン系、化合物系および有機系の3つに大別される。シリコン系は、変換効率が高く、ポリシリコンを用いた太陽電池が太陽光を用いた発電に最も広く用いられている。有機系の1つに色素増感太陽電池(Dye-sensitized solar cell、以下「DSC」と略称することがある。)がある。DSCは、変換効率はシリコン系よりも劣るが、シリコン系や化合物系などの無機半導体を用いる場合よりも製造コストが低い利点を有しており、近年注目されている。また、DSCは、低照度環境下においては、シリコン系のよりも高い発電効率が得られる利点を有しており、この点でも注目されている。
【0003】
特許文献1から3は、ピラゾール系化合物が含有された電解質溶液を有する色素増感太陽電池を開示している。電解質溶液にピラゾール系化合物を含有することにより、光の照射とは無関係に流れ得る逆電流を抑制し、DSCの開放電圧を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-331936号公報
【文献】特開2004-47229号公報
【文献】特開2005-216490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者の検討によると、DSCに約80°以上の熱を加えると、開放電圧Vocおよび短絡電流Jscが低下する。その理由の1つは、ピラゾール系化合物の耐熱性が、決してよいものとは言えないからである。そのため、特に、DSCが高温になると、電解質溶液にピラゾール系化合物を含有するだけでは、開放電圧および短絡電流の低下を抑制する十分な効果が得られない。DSCの熱に対する耐久性、つまり、耐熱性を向上させることによって、開放電圧よび短絡電流の低下を抑制できる効果が期待される。
【0006】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、開放電圧Vocおよび短絡電流Jscの低下を適切に抑制することが可能な色素増感太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る色素増感太陽電池は、第1金属酸化物粒子を含み、色素を担持した多孔質半導体層を有する第1電極と、第1電極の対極となる第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられた多孔質絶縁層であって、酸化還元対およびピラゾール系化合物を含む電解液を保持し、第2金属酸化物粒子を含む多孔質絶縁層とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の例示的な実施形態によると、開放電圧Vocおよび短絡電流Jscの低下を適切に抑制することが可能な新規な色素増感太陽電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態によるDSC100の模式的な断面図である。
【
図2】比較例によるDSC200の模式的な断面図である。
【
図3】ピラゾール系化合物が対極導電層28の表面近傍に偏在する様子を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を説明する前に、
図3を参照しながら本発明の基礎となった本発明者の知見を説明する。
【0011】
図3に、従来のサンドイッチ型のセル構造を有するDSC200の模式的な断面を示す。DSC200は、透光性を有する基板12と、基板12上に形成された透明導電層14と、透明導電層14上に形成された多孔質半導体層16とを有している。多孔質半導体層16は、半導体微粒子と細孔とを有しており、色素(不図示)が担持されている。多孔質半導体層16は、例えば酸化チタンから形成される。
【0012】
DSC200は、さらに、透光性を有する基板22と、基板22上に形成された透明導電層24と、透明導電層24上に形成された対極導電層28とを有している。多孔質半導体層16と対極導電層28との間には電解液(電解質溶液)42が充填されている。電解液42は、基板12と基板22との間隙に封止部52によって密閉されている。電解液42は、メディエータ(酸化還元対)として例えばI-とI3
-とを含む。封止部52は、光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂を用いて形成される。多孔質半導体層16は正極として機能し、対極導電層28は負極として機能する。このように、正極および負極を貼り合わせたセル構造は、一般に、サンドイッチ型のセル構造と呼ばれる。特許文献1から3に開示された色素増感太陽電池は、サンドイッチ型のセル構造を有する。
【0013】
色素増感太陽電池について、熱に対する耐性が弱いとされており、特に、JIS8938の耐熱性試験B-1(高温保存:温度85±2℃)に準拠した試験を行うと性能が著しく低下するという課題がある。DSCに約80℃以上の熱を加えると、電解液中の酸化還元対I3
-が分解されて、I2とI-が生成される。I2は、酸化チタンから形成された多孔質半導体層16の表面に吸着して電流リーク源となり、これが開放電圧Voc、短絡電流Jscを低下させる。
【0014】
特許文献1から3に開示された色素増感太陽電池の電解液にピラゾール系化合物を添加すると、確かに、ピラゾール系化合物がI2と結合して酸化チタン表面への吸着を抑止することができる。これにより、多孔質半導体層の表面から酸化還元対I3
-への電子のリークが抑制され、その結果、開放電圧Vocの向上が期待される。
【0015】
発明者の検討によれば、電解液中においてピラゾール系化合物の第1位の窒素元素に結合している水素元素(プロトン)は脱離し易い。そのため、ピラゾール系化合物は水素基を遊離して負に帯電し易くなる。また、サンドイッチ型のDSCの場合において対極は正に帯電されやすい。そのため、水素基を遊離して負に帯電したピラゾール系化合物は、
図3の矩形領域50に示される、正に帯電した対極側に引き寄せられて対極近傍に偏在することとなる。その結果、対極に対向した多孔質半導体層の表面近傍にける電解液中のピラゾール系化合物の濃度が薄くなり、ピラゾール系化合物は酸化チタン細孔内のI
2と反応し難くなる。
【0016】
このように、サンドイッチ型のセル構造では、電解液にピラゾール系化合物を添加しても、多孔質半導体層の表面から酸化還元対I3
-への電流リークを適切に抑制する十分な効果が発揮されないという課題がある。さらに、ピラゾール系化合物の耐熱性は決してよいものとは言えない。
【0017】
本発明者は上記の知見に基づいて、多孔質半導体層上に多孔質絶縁層および対極導電層を積層すること、すなわち、モノリシック型のセル構造を採用することにより、ピラゾール系化合物が対極近傍に遍在する現象を改善できることを見出し本発明に至った。
【0018】
本発明の色素増感太陽電池は、非限定的で例示的な実施形態において、第1金属酸化物粒子を含み、色素を担持した多孔質半導体層を有する第1電極と、第1電極の対極となる第2電極と、第1電極と第2電極との間に設けられた多孔質絶縁層とを備える。多孔質絶縁層は、酸化還元対およびピラゾール系化合物を含む電解液を保持し、第2金属酸化物粒子を含む。第1電極は、少なくとも色素を担持した多孔質半導体層を含み、さらに導電層を含んでもよい。第1電極は光電極ともいう。第2電極は、光電極の対極として機能する電極であり、単に対極ということがある。対極は、少なくとも対極導電層を有し、さらに触媒層を有してもよい。対極導電層が触媒層を兼ねてもよい。
【0019】
複数の色素増感太陽電池(「単位セル」または単に「セル」ということがある。)を一体化したモジュールにおいては、例えば、互い隣接するセルが電気的に直列または並列に接続される。このとき、例えば、基板上に形成された透明導電層を共有することによって一方のセルの光電極が他方のセルの対極に接続される。本実施形態による色素増感太陽電池のセル構造の典型例は、モノリシック型集積構造である。
【0020】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。たとえば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複した説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供する。これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似の構成要素には、同一の参照符号を付している。以下に説明する実施形態は、あくまでも例示であり、技術的に矛盾が生じない限りにおいて種々の態様の組み合わせが可能である。
【0021】
図1にDSC100の模式的な断面図を示す。DSC100は、モノリシック型のセル構造を有するDSCである。DSC100は、透光性を有する基板12と、基板12上に形成された透明導電層14aと、透明導電層14a上に形成された多孔質半導体層16Aと、多孔質半導体層16Aを覆う多孔質絶縁層36Aと、基板12上に形成された透明導電層14bと、多孔質絶縁層36A上に形成された対極導電層28Aと、透光性を有する基板22と、を備えている。
【0022】
多孔質半導体層16Aと対極導電層28Aは、多孔質絶縁層36Aを介して互いに対向する部分をより多く含むように配置されている。対極導電層28Aは、基板12上に形成された透明導電層14bに電気的に接続されている。透明導電層14aを透明導電層14bから電気的に分離するスクライブライン60が基板12上に形成されている。すなわち、透明導電層14aと透明導電層14bとは、基板12上で互いに絶縁されている。
【0023】
基板12と基板22の間の隙間に電解液42が充填され、封止部52によって密閉されている。電解液42は、多孔質半導体層16A、多孔質絶縁層36Aおよび対極導電層28Aの全体に浸透している。電解液42は、酸化還元対として例えばI-とI3
-とを含む。封止部52は、光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂を用いて形成される。
【0024】
基板12、22として、例えばガラス基板や可撓性フィルムを用いることができる。ただし、基板12、22は、後述する色素に実効的な感度を有する波長の光を実質的に透過させる材料で形成されていればよく、必ずしもすべての波長領域の光に対して透光性を有する必要はない。基板12、22の厚さは、例えば0.2mm以上5.0mm以下である。なお、基板22は、透光性を有しなくてもよい。
【0025】
基板12、22の材料として、一般に太陽電池に用いられる基板材料を広く用いることができる。例えば、ソーダガラス、溶融石英ガラス若しくは結晶石英ガラスなどのガラス基板、または可撓性フィルムなどの耐熱性樹脂板を用いることができる。可撓性フィルムとして、例えば、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンスルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PA)、ポリエーテルイミド(PEI)、フェノキシ樹脂またはテフロン(登録商標)などを用いることができる。
【0026】
透明導電層14a、14bは、一般に太陽電池に用いられ、導電性および透光性を有する材料から形成される。材料として、例えば、インジウム錫複合酸化物(ITO)、酸化錫(SnO2)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)および酸化亜鉛(ZnO)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。透明導電層14a、14bの厚さは、例えば0.02μm以上5.00μm以下である。透明導電層14a、14bの電気抵抗は低い方が好ましく、例えば40Ω/□以下であることが好ましい。
【0027】
多孔質半導体層16Aは、半導体微粒子(第1金属酸化物粒子)16sと、細孔16pとを有しており、色素(不図示)が担持されている。多孔質半導体層16Aは、例えば酸化チタンの半導体微粒子の集合体であり、多孔質である。
【0028】
多孔質半導体層16Aは、光電変換材料から形成される。材料として、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、酸化鉄、酸化ニオブ、酸化セリウム、酸化タングステン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、硫化カドミウム、硫化鉛、硫化亜鉛、リン化インジウム、銅-インジウム硫化物(CuInS2)、CuAlO2およびSrCu2O2からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。高い安定性を有する点や自身がもつバンドギャップの大きさの点から、酸化チタンを用いることが好ましい。
【0029】
酸化チタンとしては、例えば、アナターゼ型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、無定形酸化チタン、メタチタン酸、オルソチタン酸などの各種の狭義の酸化チタン、水酸化チタンまたは含水酸化チタンなどを単独で、または混合して用いることができる。アナターゼ型およびルチル型の2種類の結晶系酸化チタンは、その製法および熱履歴によりいずれの形態にもなり得るが、一般的に結晶系酸化チタンはアナターゼ型である。酸化チタンとして、アナターゼ型の含有率の高い酸化チタン、例えばアナターゼ型の含有率が80%以上である酸化チタンを用いることが色素増感の観点から好ましい。
【0030】
半導体の結晶系は、単結晶または多結晶のいずれであってもよいが、安定性、結晶成長の容易さおよび製造コストなどの観点から多結晶であることが好ましく、多結晶からなるナノスケールまたはマイクロスケールの半導体微粒子を用いることが好ましい。したがって、多孔質半導体層16Aの原材料としては、酸化チタンの微粒子を用いることが好ましい。酸化チタンの微粒子は、例えば、水熱合成法若しくは硫酸法などの液相法、または気相法などの方法により製造することができる。また、デグサ(Degussa)社が開発した塩化物を高温加水分解することによっても製造することができる。
【0031】
半導体微粒子としては、同一または異なる半導体化合物からなる2種類以上の粒子径の微粒子を混合したものを用いてもよい。粒子径の大きな半導体微粒子は入射光を散乱させることによって光捕捉率の向上に寄与し、粒子径の小さな半導体微粒子は吸着点をより多くすることによって色素の吸着量の向上に寄与すると考えられる。
【0032】
粒子径の異なる微粒子が混合された半導体微粒子を用いる場合、微粒子同士の平均粒径の比率が10倍以上であることが好ましい。粒子径の大きな微粒子の平均粒径は、例えば、100nm以上500nm以下である。粒子径の小さな微粒子の平均粒径は、例えば、5nm以上100nm以下である。異なる半導体化合物が混合された半導体微粒子を用いる場合、吸着作用の強い半導体化合物の粒子の径を小さくすることが有効である。
【0033】
多孔質半導体層16Aの厚さは、例えば0.1μm以上100.0μm以下である。また、多孔質半導体層16Aの比表面積は、例えば10m2/g以上200m2/g以下であることが好ましい。
【0034】
多孔質半導体層16Aに担持される色素としては、可視光領域または赤外光領域に吸収を有する種々の有機色素および金属錯体色素の1種または2種以上を選択的に用いることができる。
【0035】
有機色素としては、例えば、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、ペリレン系色素、インジゴ系色素およびナフタロシアニン系色素からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。有機色素の吸光係数は、一般に、ルテニウムなどの遷移金属に分子が配位結合した形態をとる金属錯体色素の吸光係数に比べて大きくなる。
【0036】
金属錯体色素は、分子に金属が配位結合することによって構成されている。分子は、例えば、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素またはルテニウム系色素などである。金属は、例えば、Cu、Ni、Fe、Co、V、Sn、Si、Ti、Ge、Cr、Zn、Ru、Mg、Al、Pb、Mn、In、Mo、Y、Zr、Nb、Sb、La、W、Pt、TA、Ir、Pd、Os、Ga、Tb、Eu、Rb、Bi、Se、As、Sc、Ag、Cd、Hf、Re、Au、Ac、Tc、TeおよびRhからなる群から選択された少なくとも1種である。金属錯体色素として、フタロシアニン系色素またはルテニウム系色素に金属が配位したものを用いることが好ましく、ルテニウム系金属錯体色素を用いることが特に好ましい。
【0037】
ルテニウム系金属錯体色素として、例えば、Solaronix社製の商品名Ruthenium535色素、Ruthenium535-bisTBA色素、またはRuthenium620-1H3TBA色素などの市販のルテニウム系金属錯体色素を用いることができる。
【0038】
多孔質半導体層16Aには共吸着材が担持されてもよい。多孔質半導体層16Aに共吸着材が含まれることで、共吸着材が多孔質半導体層16A内で増感色素が会合または凝集することを抑制する。共吸着材としては、当該分野における一般的な材料の中から、組み合わせる増感色素に応じて適宜選択することができる。
【0039】
多孔質絶縁層36Aは、多孔質半導体層16Aの全体を覆うように多孔質半導体層16A上に形成されている。多孔質絶縁層36Aは、多孔質半導体層16Aと対極導電層28Aの間に位置し、それら2つの層を絶縁する。さらに、多孔質絶縁層36Aは、透明導電層14aと透明導電層14bの間を埋めるように配置され、それら2つの透明導電層を絶縁する。多孔質絶縁層36Aは、酸化還元対およびピラゾール系化合物を含む電解液42を保持している。多孔質絶縁層36Aは、さらに、絶縁体微粒子(第2金属酸化物粒子)36sと、細孔36pとを有している。
【0040】
多孔質半導体層16A上に積層された多孔質絶縁層36Aの厚さは、多孔質半導体16Aよりも薄いことが好ましく、例えば0.2μm以上20μm以下の膜厚であることが好ましく、1μm以上10μm以下の膜厚であることがより好ましい。
【0041】
電解液42は、主として、多孔質絶縁層36Aの細孔36p内に侵入し保持される。絶縁体微粒子36sは、例えば、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、シリカガラスまたはソーダガラスなどの酸化ケイ素、酸化アルミニウムおよびチタン酸バリウムからなる群から選択された少なくとも1種から形成され得る。酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの絶縁体微粒子にAlまたはMgをドープしたものを用いることが好ましい。さらに、絶縁体微粒子36sとして、ルチル型酸化チタンを用いることが好ましい。また、絶縁体微粒子36sにルチル型酸化チタンを用いる場合、ルチル型酸化チタンの平均粒径は5nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上300nm以下であることがさらに好ましい。
【0042】
スクライブライン60の溝にも絶縁体微粒子36sを充填しておくことが好ましい。これにより、透明導電層14aと透明導電層14bとを、基板12上で互いに確実に絶縁することができる。
【0043】
電解液42は、酸化還元対を含む液状物(液体)であればよく、一般的な電池または色素増感太陽電池などにおいて使用することができる液状物であれば特に限定されない。具体的には、電解液42は、酸化還元対とこれを溶解可能な溶剤からなる液体、酸化還元対とこれを溶解可能な溶融塩からなる液体、酸化還元対とこれを溶解可能な溶剤と溶融塩とからなる液体などである。また、電解液42は、ゲル化剤を含み、ゲル化されていてもよい。
【0044】
酸化還元対は、例えば、I-/I3
-系、Br2
-/Br3
-系、Fe2
+/Fe3
+系、キノン/ハイドロキノン系などである。より具体的には、酸化還元対は、ヨウ化リチウム(LiI)、ヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨウ化カリウム(KI)、ヨウ化カルシウム(CaI2)などの金属ヨウ化物と、ヨウ素(I2)との組み合わせであり得る。また、酸化還元対は、テトラエチルアンモニウムアイオダイド(TEAI)、テトラプロピルアンモニウムアイオダイド(TPAI)、テトラブチルアンモニウムアイオダイド(TBAI)、テトラヘキシルアンモニウムアイオダイド(THAI)などのテトラアルキルアンモニウム塩と、ヨウ素との組み合わせであり得る。さらに、酸化還元対は、臭化リチウム(LiBr)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)、臭化カルシウム(CaBr2)などの金属臭化物と、臭素との組み合わせであってもよい。酸化還元対としては、LiIとI2との組み合わせを用いることが好ましい。
【0045】
酸化還元対の溶剤は、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン化合物、3-メトキシプロピオニトリル、アセトニトリルなどのニトリル化合物からなる群から選択された少なくとも1種を含む溶剤であることが好ましい。電解液42にピラゾール系化合物を添加する場合には、比誘電率が20以上80以下の溶剤を用いることが好ましく、高い誘電率を有するγ-ブチルラクトンを溶剤として用いることが特に好ましい。
【0046】
ピラゾール系化合物は、下記の一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。ここで、式中のR1は、それぞれ独立して、水素原子、低級アルキル基、ハロゲン基、アミノ基、フェニル基、フリル基、メトキシフェニル基、チエニル基、およびメチルフェニル基からなる群から選択される1種である。式中の全てのR1は同一の基であってもよい。ここで低級アルキル基とは、炭素数が1~5までのアルキル基と定義する。
【0047】
【0048】
ピラゾール系化合物は、例えば、下記の一般式(2-1)のピラゾール、一般式(2-2)の3-メチルピラゾールまたは一般式(2-3)の3,5-ジメチルピラゾールである。電解液42中におけるピラゾール系化合物のモル濃度は、0.1M以上1.5M以下であることが好ましく、0.3M以上1.2M以下であることがさらに好ましい。電解液42中におけるピラゾール系化合物のモル濃度が1.5Mを超えると粘性が大きくなり、多孔質絶縁層36Aの温度が高くなりやすい。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
ピラゾール系化合物の多くは、一般に、高い粘性を有するために、モノリシック型のセル構造にピラゾール系化合物を適用する場合、セルの電気抵抗が高くなること(高抵抗化)が懸念される。
【0053】
本発明者の検討によれば、絶縁体微粒子36sの平均粒径は、多孔質半導体層16Aに含まれる半導体微粒子16sの平均粒径よりも大きく、かつ、多孔質絶縁層36Aの空隙率aは多孔質半導体層16Aの空隙率bよりも大きいことが好ましい。この関係によって、ピラゾール系化合物の添加に起因して生じ得るセルの高抵抗化を改善することが可能となる。ここで、空隙率aは、多孔質絶縁層36Aの全体積に占める細孔36pの体積の割合で定義され、空隙率bは、多孔質半導体層16Aの全体積に占める細孔16pの体積の割合で定義される。絶縁体微粒子36sの平均粒径は、100μm以上500μm以下であることが特に好ましい。
【0054】
対極導電層28Aは、基板22によって支持され、多孔質半導体層16Aの対極となる電極である。対極導電層28Aは、多孔質絶縁層36Aの全体を覆い、かつ、基板12上の透明導電層14bに電気的に接続するように多孔質絶縁層36A上に形成されている。対極導電層28Aは、例えば炭素微粒子28sと細孔28pとを有している。
【0055】
対極導電層28Aは、導電材料および触媒材料から形成され得る。材料として、例えば、白金、パラジウムなどの貴金属材料、グラファイト、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレンなどの炭素系材料からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。
【0056】
対極導電層28Aの厚さは、例えば0.1μm以上100.0μm以下である。また、対極導電層28Aの比表面積は、例えば10m2/g以上200m2/g以下であることが好ましい。
【0057】
DSC100は、ピラゾール系化合物を含む電解液42を調整して注液することを除き、公知の方法で製造され得る。例えば、国際公開公報第2014/038570号に記載の方法で製造することができる。参考のために、国際公開公報第2014/038570号の開示内容の全体を本願に援用する。
【0058】
本実施形態のDSCによれば、多孔質半導体層16A上に多孔質絶縁層36Aおよび対極導電層28Aが積層される。モノリシック型のセル構造によって、対極導電層28Aの表面に現れる正の電荷が多孔質絶縁層36Aによって弱められ、負に帯電したピラゾール系化合物が対極28Aの側に引か寄せられる現象を抑えることができる。また、金属酸化物から形成される多孔質絶縁層36Aにおいて、ピラゾール系化合物はその表面に吸着され易くなるために、対極28Aの側に引か寄せられにくくなる。これらの作用から、ピラゾール系化合物が対極28Aの近傍に偏在することが改善される。
【0059】
以下、実験例(実施例1~5および比較例1)を示して、本開示をさらに詳細に説明する。実験では、以下で説明する製造方法に従ってDSC100の構成を有する色素増感太陽電池を作製した。
【0060】
<実施例>
(1.モノリシック型の積層体の形成)
市販の酸化チタンペースト(Solaronix社製、商品名:Ti-Nanoxide D/SP、平均粒径:13nm)を、透明導電層14a、14bであるフッ素ドープのSnO2膜が形成された基板(日本板硝子社製)上にドクターブレード法により塗布した。
【0061】
次に、酸化チタンペーストを塗布した基板を100℃で30分間予備乾燥した後、500℃で40分間焼成した。この工程を2回繰り返すことにより、多孔質半導体層16Aとして、酸化チタン膜(膜厚:12μm)を形成した基板を得た。
【0062】
次に、市販の酸化ジルコニウム粒子(タキロンシーアイ社製)が分散された水分散液にエタノールを添加した分散液を調製した。この分散液の溶媒をテルピネオールで置換し、エチルセルロースを混合することによって溶剤の粘度を調整し、酸化ジルコニウム粉末含有ペーストを生成した。酸化チタン膜が形成された基板上にドクターブレード法によりそのペーストを塗布した。
【0063】
次に、酸化ジルコニウム粉末含有ペーストを塗布した基板を100℃で30分間予備乾燥した後、500℃で40分間焼成した。これにより、多孔質絶縁層36Aとして、多孔質半導体層16A上に酸化ジルコニウム膜(膜厚:6μm)が形成された基板を得た。
【0064】
次に、プラチナ粒子(フルヤ金属社製)をテルピネオール中に分散させて作製したプラチナ粉末含有ペーストを、酸化ジルコニウム膜が形成された基板上にドクターブレード法により塗布した。このペーストを塗布した基板を100℃で30分間予備乾燥した後、500℃で30分間焼成することにより、多孔質半導体層16A上に多孔質絶縁層36Aおよび対極導電層28Aを積層したモノリシック型の積層体を有する基板12を得た。多孔質絶縁層36A上に積層された対極導電層28Aの厚さは0.1μmであった。
【0065】
(2、積層体への色素吸着)
FSD19色素をエタノールに溶解させて、濃度が4×10-4Mの色素吸着用溶液を予め調製した。その色素吸着用溶液に積層体を室温で80時間浸漬した。その後、積層体をエタノールで洗浄してから約60℃で約5分間乾燥させた。これにより、色素が担持された多孔質半導体層16Aを有する基板12を得た。
【0066】
(3.電解液の調製)
3-メトキシプロピオニトリル(3MPL、Aldrich社製)に、濃度0.05Mのヨウ素(Aldrich社製)と、濃度0.8Mのジメチルプロピルイミダゾールアイオダイド(DMPII、四国化成製)と、濃度0.5Mの3-メチルピラゾール(Aldrich社製)とを溶解させることによって、酸化還元対を含む電解液42を調製した。
【0067】
(4.電解液の注入)
酸化還元対を含む電解液42をセルの間隙から注入し、電解液42を積層体に浸透させたセルの側面を樹脂(TB03035B、スリーボンド社製)で封止した。最後に、各電極にIV測定用のリード線を取付けた。
【0068】
<比較例>
比較例による色素増感太陽電池は、
図2に示されるサンドイッチ型のセル構造を有する。以下で説明する製造方法に従って、比較例による色素増感太陽電池を作製した。
【0069】
(1.多孔質半導体層の形成)
先ず、市販の酸化チタンペースト(Solaronix社製、商品名:Ti-Nanoxide D/SP、平均粒径:13nm)を、透明導電層14であるフッ素ドープのSnO2膜が形成された基板(日本板硝子社製)上にドクターブレード法により塗布した。
【0070】
次に、酸化チタンペーストを塗布した基板を100℃で30分間予備乾燥した後、500℃で40分間焼成した。この工程を2回繰り返すことにより、多孔質半導体層16として、酸化チタン膜(膜厚:12μm)を形成した基板12を得た。
【0071】
FSD19色素をエタノールに溶解させて、濃度が4×10-4Mの色素吸着用溶液を予め調製した。その色素吸着用溶液に積層体を室温で80時間浸漬した。その後、積層体をエタノールで洗浄してから約60℃で約5分間乾燥させた。これにより、色素が担持された多孔質半導体層16を有する基板を得た。
【0072】
(2.電解液の調製)
3-メトキシプロピオニトリル(3MPL、Aldrich社製)に、濃度0.05Mのヨウ素(Aldrich社製)と、濃度0.8Mのジメチルプロピルイミダゾールアイオダイド(DMPII、四国化成製)と、濃度0.5Mの3-メチルピラゾール(Aldrich社製)とを溶解させることによって、酸化還元対を含む電解液42を調製した。
【0073】
(3.対極導電層の形成)
蒸着装置(機種名:ei-5、アルバック社製)を用いて、透明導電層24であるフッ素ドープのSnO2膜が形成された基板(日本板硝子社製)22上に白金を0.1Å/sで成膜した。対極導電層28の膜厚は0.1μmである。
【0074】
(4.電解液の注入)
対極導電層28と多孔質半導体層16とを短絡防止のためにスペーサを介して貼り合わせ、酸化還元対を含む電解液42を、対極導電層28と多孔質半導体層16の間の空隙に注入し、電解液42を充填したセルの側面を樹脂(TB03035B、スリーボンド社製)で封止した。最後に、各電極にIV測定用のリード線を取付けた。
【0075】
実験例では、ソーラーシミュレータを用いて、JIS規格において規定されている標準状態(AM-1.5、1kW/m2の疑似太陽光、表面温度25℃、光入射方向はセルに直交)におけるDSC(受光面積 5cm×5cm)に流れる短絡電流Jscを測定した。その後、耐熱性試験B-1に準拠して85℃の恒温槽内にDSCを500時間放置し、耐熱性試験前後における光電変換効率の性能保持率を求めた。
【0076】
測定にはWACOM社製のソーラーシミュレータを用い、二次基準太陽電池セルによって照射エネルギーを1kW/m2に調整した。ソーラーシミュレータの照射面の中央に実施例1~5、および比較例の各サンプルセルを設置し、その正極、負極にIV測定システム(サンライズ社製:6246SOL3)をリード線を介して接続して性能評価を行った。また、耐熱性試験用のエスペック社製のSU-261の恒温槽内の温度を85℃に設定し、各サンプルセルを槽内に放置してから500時間経過後にIV測定システムを用いて性能評価を行った。
【0077】
以下に、実施例1~5および比較例の各サンプルセルの特徴を示す。
【0078】
<実施例1>
セル構造:モノリシック型、多孔質絶縁層36Aに含まれる絶縁体微粒子36s:酸化ジルコニウム、ピラゾール系化合物:3-メチルピラゾール、電解液42の溶剤:3-メトキシプロピオニトリル、対極28A:白金
<実施例2>
セル構造:モノリシック型、多孔質絶縁層36Aに含まれる絶縁体微粒子36s:酸化チタン(平均粒径>400nm)、ピラゾール系化合物:3-メチルピラゾール、電解液42の溶剤:3-メトキシプロピオニトリル、対極28A:白金
<実施例3>
セル構造:モノリシック型、多孔質絶縁層36Aに含まれる絶縁体微粒子36s:酸化ジルコニウム、ピラゾール系化合物:3-メチルピラゾール、電解液42の溶剤:γ-ブチルラクトン、対極28A:白金
<実施例4>
セル構造:モノリシック型、多孔質絶縁層36Aに含まれる絶縁体微粒子36s:酸化ジルコニウム、ピラゾール系化合物:3-メチルピラゾール、電解液42の溶剤:3-メトキシプロピオニトリル、対極28A:カーボン
<実施例5>
セル構造:モノリシック型、多孔質絶縁層36Aに含まれる絶縁体微粒子36s:酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウム、ピラゾール系化合物:3-メチルピラゾール、電解液42の溶剤:3-メトキシプロピオニトリル、対極28A:白金
<比較例>
セル構造:サンドイッチ型、多孔質絶縁層に含まれる絶縁体微粒子:含まれない、ピラゾール系化合物:3-メチルピラゾール、電解液42の溶剤:3-メトキシプロピオニトリル、対極28:白金
【0079】
耐熱性試験前後における実施例1~5、比較例の各サンプルセルのIV測定により得られた最大出力点における実効光電変換効率A、B(%)および性能保持率B/A(%)を表1に示す。すでに説明したとおり、DSCに約80℃以上の熱を加えると、電解液中の酸化還元対I3
-が分解して、I2とI-が生成される。I2は、酸化チタンから形成された多孔質半導体層の表面に吸着して電流リーク源となり、その結果、DSCの光電変換効率が低下する。確かに、実施例1~5のDSCから得られた測定結果と比べ、比較例の性能保持率は低い値を示している。
【0080】
【0081】
これに対し、実施例1~5によるDSCでは、積層体の全体に浸透したピラゾール系化合物がI2と錯体を形成することで、酸化チタン表面へのI2の吸着を抑制することが可能となる。実施例1~5の性能評価を行い、耐熱性試験後のDSCの光電変換効率低下が飛躍的に改善されることが分かった。モノリシック型のセル構造を採用することにより、耐熱性試験後の性能保持率は最高で98%に到達した。
【0082】
実施例2のサンプルセルの測定から得られた性能保持率は、実施例1のサンプルセルの測定から得られた性能保持率よりも低い。この理由は、平均粒径の大きい酸化チタン粒子は、多孔質絶縁層としては機能するが、酸化チタン粒子の表面に吸着するI2の割合が酸化ジルコニウム粒子と比べて高くなるためであると考えられる。
【0083】
実施例3のサンプルセルについての特徴をより詳しく説明する。電解液42の溶剤として、高誘電率溶剤であるγ-ブチルラクトン(GBL、キシダ化学社製、比誘電率:42)を用いた。実施例1から3の中で、実施例3のサンプルセルの測定から得られた性能保持率が最も高い値を示している。電解液42の溶剤としてγ-ブチルラクトンを使用することにより、ピラゾール系化合物の溶解性が飛躍的に向上する。ピラゾール系化合物は、I2との反応に効果的に寄与し、これにより、酸化チタンへのI2の吸着を適切に抑制することが可能となる。
【0084】
電解液42の比誘電率は、20以上80以下であることが好ましい。比誘電率が20未満になると、ピラゾール系化合物の溶媒への溶解性は低下する。そのため、ピラゾール系化合物が過剰に添加されると、電解液中で凝集体として存在することとなり、DSCを加熱したときのI2との反応が効果的に促進しない可能性がある。
【0085】
γ-ブチルラクトンの他に、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ-バレロラクトンなどの溶剤を用いても、ピラゾール系化合物の溶解性を飛躍的に向上できることが期待される。
【0086】
実施例4のサンプルセルについての特徴をより詳しく説明する。対極導電層28Aとして、白金の代わりにカーボンを用いた。具体的に説明すると、ケッチェンブラックとグラファイト(共に日本黒鉛社製)の混合粉末をテルピネオール溶液に分散させて混合粉末含有ペーストを生成し、酸化ジルコニウム膜が形成された基板上にドクターブレード法によりそのペーストを塗布した。その後、溶剤のペーストを塗布した基板12を100℃で30分間予備乾燥した後、400℃で30分間焼成した。
【0087】
カーボン材料は、導電性を有するものの、電気伝導性は金属のものよりも低く、比誘電率も金属のものよりも低い。その結果、正の電荷が対極近傍に現れることがないために、ピラゾール系化合物が対極側に誘引される現象が抑えられ、対極側に偏在しにくくなる。したがって、セルの耐熱性が向上する。測定結果においては、実施例1~5の中で、実施例4のサンプルセルの測定から得られた性能保持率が最も高い値を示した。
【0088】
実施例5のサンプルセルについての特徴をより詳しく説明する。多孔質絶縁層36Aとして、酸化ジルコニウムの代わりに、酸化ジルコニウムおよび酸化アルミニウムの混合層を用いた。換言すると、多孔質絶縁層36Aに含まれる絶縁体微粒子36sは、酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムの混合粒子を含んでいる。酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムの質量比は93:7である。
【0089】
実験例の測定結果から、実施例5のサンプルセルの測定から得られた性能保持率がよいことが分かる。この結果から、多孔質絶縁層36Aに含まれる絶縁体微粒子36sは、価数の異なる2種以上の金属酸化物粒子を含んでいることが好ましい。換言すると、絶縁体微粒子36sは、第1価数の金属酸化物および第1価数よりも小さい第2価数の金属酸化物を含んでいることが好ましい。5価の金属酸化物の例は酸化ニオブであり、4価の金属酸化物の例は酸化ジルコニウムまたは酸化チタンであり、3価の金属酸化物の例は酸化アルミニウムであり、2価の金属酸化物の例は酸化マグネシウムである。
【0090】
第1価数の金属酸化物は4価の酸化ジルコニウムであり、第2価数の金属酸化物は2価または3価の金属酸化物であることが特に好ましい。例えば、第2価数の金属酸化物は、3価の酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムである。
【0091】
価数の異なる金属酸化物粒子が互いに接触している場合、その接触界面では、価数の大きい金属酸化物粒子に酸素欠損、つまり正の電荷である正孔が生じる。そのため、負に帯電したピラゾール系化合物は、多孔質絶縁層36Aに引き寄せられ、その結果、対極近傍におけるピラゾール系化合物の遍在を抑制することが可能となる。
【0092】
価数の大きい(第1価数の)金属酸化物粒子の方が、価数の小さい(第2価数の)金属酸化物粒子よりも多く多孔質絶縁層36Aに含まれていることが好ましい。例えば、多孔質絶縁層36Aに含まれる絶縁体微粒子36sは、酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムの混合粒子を含み、酸化ジルコニウム粒子の方が、酸化アルミニウム粒子よりも多く多孔質絶縁層36Aに含まれ得る。絶縁体微粒子36sの全体に含まれる価数の大きい金属酸化物粒子と価数の小さい金属酸化物粒子との質量比は、80:20以上99:1以下であることが好ましい。また、価数の大きい金属酸化物粒子の平均粒径は、価数の小さい金属酸化物粒子の平均粒径とは異なる。価数の大きい金属酸化物粒子の平均粒径は、価数の小さい金属酸化物粒子の平均粒径よりも大きいことが好ましい。例えば、価数の大きい金属酸化物粒子の平均粒径は、100μm以上500μm以下であり、価数の小さい金属酸化物粒子の平均粒径は20μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0093】
〔援用の記載〕
本願は、2019年7月26日に出願された特願2019-137939号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の開示内容の全てを本願に援用する。