(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】検知管
(51)【国際特許分類】
G01N 31/22 20060101AFI20230615BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
G01N31/22 121B
G01N31/00 V
(21)【出願番号】P 2019116646
(22)【出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-06-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトhttp://www.komyokk.co.jp,http://www.komyokk.co.jp/kweb/contents.do?bunrui1=0001&regdate=20180827173937&je=0,平成30年9月11日掲載日、にて公開及び譲渡の申出
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 アズワン株式会社(大阪府大阪市西区江戸掘2-1-27)に対し、平成31年2月4日、平成31年4月5日、令和元年5月7日に譲渡
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ケニス株式会社(大阪府大阪市北区天満2-7-28)に対し、平成30年12月5日に譲渡
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 株式会社フジマテリアル(埼玉県上尾市中新井452-2)に対し、令和元年5月8日に譲渡
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (株)ユーアイ(大阪府大阪市北区天神橋3-6-5)に対し、平成30年11月15日に譲渡
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 株式会社三商物流センター(東京都足立区鹿浜3-15-8)に対し、平成30年12月7日、令和元年6月18日に譲渡
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 早坂理工株式会社埼玉営業所(埼玉県東松山市小松原町17-17)に対し、平成30年10月5日に譲渡
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 株式会社池田理化(東京都千代田区鍛冶町1-8-6)に対し、令和元年5月13日に譲渡
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 株式会社入江商会(東京都千代田区神田佐久間町3-37)に対し、平成31年2月7日に譲渡
(73)【特許権者】
【識別番号】390010364
【氏名又は名称】光明理化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000235
【氏名又は名称】弁理士法人 天城国際特許事務所
(74)【代理人】
【氏名又は名称】石島 茂男
(74)【代理人】
【識別番号】100106666
【氏名又は名称】阿部 英樹
(72)【発明者】
【氏名】三枝 正吾
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 和正
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-092487(JP,A)
【文献】特開昭52-026289(JP,A)
【文献】特開平06-324049(JP,A)
【文献】特開2009-257838(JP,A)
【文献】特開2006-112992(JP,A)
【文献】特開2017-173204(JP,A)
【文献】AZUMA Michiyo et al.,“Efficacy of a Detector Tube Method in Formaldehyde Measurement”,INDUSTRIAL HEALTH,2003年,Vol.41, No.4,pp.306-312,DOI: 10.2486/indhealth.41.306
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/00,31/22,
G01N 21/80,
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象ガスが流される筒状の検知管本体と、
前記検知管本体の内部に配置され、前記試験対象ガスに含有される検知対象物質と化学反応して反応生成物を生成する反応剤と、
前記反応生成物によるpH値の減少によって呈色するpH指示薬が含有された検知剤と、
を有する検知管であって、
前記反応剤と前記検知剤との間に配置され、前記試験対象ガスに含有された非検知物質と前記反応剤とが化学反応して生成された副反応生成物を吸着する吸着剤を有し、
前記検知対象物質はアセトアルデヒド又はエタノールのいずれか一方であり、
前記非検知物質はホルムアルデヒド又はメタノールのいずれか一方又は両方であり、
前記反応生成物は酢酸であり、
前記副反応生成物はギ酸であり、
前記反応剤にはクロム酸化物と硫酸とが含有され、
前記吸着剤にはホウケイ酸ガラス粒子が含有された検知管。
【請求項2】
前記反応剤には、粒径が4nm以上30nm以下の範囲の小シリカ粒子が、粒径が150μm以上425μm以下の範囲の大シリカ粒子の表面に複数個付着された担体粒子に、前記クロム酸化物と前記硫酸とが付着された反応性粒子の粉体を含有する請求項1記載の検知管。
【請求項3】
前記反応剤に含有された前記クロム酸化物には、酸化クロム(IV)と、二クロム酸(H
2Cr
2O
7)と、クロム酸カリウム(K
2CrO
4)と、二クロム酸カリウム(K
2Cr
2O
7)のうち、いずれか一種又は二種以上の化合物が含有された請求項2記載の検知管。
【請求項4】
前記検知剤にはアルカリ試薬が含有され、前記検知剤はアルカリ性にされた請求項1記載の検知管。
【請求項5】
前記検知管本体は、それぞれ細長の第一分割管と第二分割管と、前記第一分割管の内部と前記第二分割管の内部とを接続させる接続管とを有し、
前記反応剤と前記吸着剤とは、前記第一分割管の内部に配置され、
前記検知剤は前記第二分割管の内部に配置された請求項1乃至請求項
4のいずれか1項記載の検知管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検知管の技術分野に関し、特に、アセトアルデヒドを検出する検知管の技術分野にかかる。
【背景技術】
【0002】
繊維布等の消臭加工製品の消臭性能を評価する試験分野では検知管法が採用されている。検知対象となる化学物質(検知対象物質)には、アンモニア、酢酸、メチルメルカプタン、硫化水素、ピリジン、アセトアルデヒド、トリメチルアミン等がある。
【0003】
近年ではシックハウス等の室内空気の汚染による健康被害の問題が注目されており、「現時点で入手可能な毒性に係る科学的知見から、ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、健康への有害な影響は受けないであろうと判断される値を算出したもの。」、という室内濃度指針値が規定されており、ホルムアルデヒドやトルエン等の13種の化学物質の室内濃度指針値が設定されている。
【0004】
検知対象物質の濃度を測定する方法のうち、固体捕集-HPLC法では、測定対象の現場の雰囲気から試験対象ガスを捕集し、持ち帰って試験対象ガス中の化学物質の機器分析を行う測定方法であるが、結果が得られるまでに時間を要するという問題がある。
【0005】
このため、現場で直ちに測定結果を得られる測定方法が求められており、検知対象物質を含有する試験対象ガスを検知管に吸引し、吸引された試験対象ガスに含有される検知対象物質を検知管に内蔵された反応試薬と反応させ、生成された酸性物質を検知する検知管法が行われている。
【0006】
検知対象物質としてアセトアルデヒドを測定する場合には、リン酸ヒドロキシルアンモニウムや塩酸ヒドロキシルアンモニウム等のヒドロキシルアミンを反応試薬とされた測定方法や、キシレンなどの芳香族炭化水素と硫酸による重合反応が用いられる測定方法があるが、これら測定方法の反応原理では、試験対象ガスにアセトアルデヒドとホルムアルデヒドとの両方が含有される場合は、両方とも化学反応し、アセトアルデヒド単独の正確な測定値を得ることができない。
【0007】
また、反応試薬にヒドロキシルアミンを用いた場合は、試験対象ガス中の湿度が検知精度に大きく影響し、また、ヒドロキシルアミンは熱的安定性に欠け経時変化する。下記はヒドロキシルアミンとアルデヒドとの付加反応であり、アセトアルデヒドとホルムアルデヒドとは同種の酸を生成するため、酸を検知してもアセトアルデヒドとホルムアルデヒドとを別々に濃度測定することができない。
【0008】
R-C(=O)-R'+HONH2→R-C(=NOH)-R'+H2O+Acid
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
試験対象ガスに含有されるホルムアルデヒドやメタノールを検知せずに、アセトアルデヒド又はエタノールを検知する検知管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は試験対象ガスが流される筒状の検知管本体と、前記検知管本体の内部に配置され、前記試験対象ガスに含有される検知対象物質と化学反応して反応生成物を生成する反応剤と、前記反応生成物によるpH値の減少によって呈色するpH指示薬が含有された検知剤と、を有する検知管であって、前記反応剤と前記検知剤との間に配置され、前記試験対象ガスに含有された非検知物質と前記反応剤とが化学反応して生成された副反応生成物を吸着する吸着剤を有し、前記検知対象物質はアセトアルデヒド又はエタノールのいずれか一方であり、前記非検知物質はホルムアルデヒド又はメタノールのいずれか一方又は両方であり、前記反応生成物は酢酸であり、前記副反応生成物はギ酸であり、前記反応剤にはクロム酸化物と硫酸とが含有され、前記吸着剤にはホウケイ酸ガラス粒子が含有された検知管である。
また、本発明は、前記反応剤には、粒径が4nm以上30nm以下の範囲の小シリカ粒子が、粒径が150μm以上425μm以下の範囲の大シリカ粒子の表面に複数個付着された担体粒子に、前記クロム酸化物と前記硫酸とが付着された反応性粒子の粉体を含有する検知管である。
また、本発明は、前記担体粒子は、アンモニア水に前記小シリカ粒子が分散されたコロイダルシリカと前記大シリカ粒子とが混合され、乾燥されて形成され、前記反応性粒子は、前記担体粒子が前記クロム酸化物と前記硫酸とを含有する溶液に浸漬された後、乾燥されて形成された検知管である。
また、本発明は、前記反応剤に含有された前記クロム酸化物には、酸化クロム(IV)と、二クロム酸(H2Cr2O7)と、クロム酸カリウム(K2CrO4)と、二クロム酸カリウム(K2Cr2O7)のうち、いずれか一種又は二種以上の化合物が含有された検知管である。
また、本発明は、前記検知剤にはアルカリ試薬が含有され、前記検知剤はアルカリ性にされた検知管である。
また、本発明には、前記検知管本体が、それぞれ細長の第一分割管と第二分割管と、前記第一分割管の内部と前記第二分割管の内部とを接続させる接続管とを有し、前記反応剤と前記吸着剤とは、前記第一分割管の内部に配置され、前記検知剤は前記第二分割管の内部に配置された検知管も含まれる。
【発明の効果】
【0012】
試験対象ガスに含有されるホルムアルデヒドやメタノール等の非検知対象物質からギ酸が生成されても、吸着剤によってギ酸が除去され、酢酸が除去されずに通過するので、試験対象ガス中のエタノールやアセトアルデヒドの濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】アセトアルデヒドガス濃度と変色長との関係を示すグラフ
【
図4】エタノールガス濃度と変色長との関係を示すグラフ
【
図5】酸化クロム水溶液量と変色長との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
【0015】
この検知管2は、筒状で内部中空の検知管本体10を有している。検知管本体10の両端のうち、一端部を本体入口側21とし、反対側の端部を本体出口側22とすると、検知管本体10の両端を切り欠いて本体入口側21の切り欠き部分と本体出口側22の切り欠き部分とに開口を形成すると、検知管本体10の内部は、検知管本体10外部の雰囲気と両端で連通する。
【0016】
両端を切り欠いた状態で本体出口側22の切り欠き部分の開口には気体を吸引する吸引装置を取り付け、本体入口側21の切り欠き部分の開口を検出対象ガスの雰囲気中に配置して吸引装置を動作させ、本体入口側21の切り欠き部分から検知管本体10の内部の気体を吸引すると、試験対象ガスは本体入口側21の切り欠き部分から検知管本体10の内部に吸引され、検知管本体10の内部を通過して本体出口側22から流出して吸引装置に移動する。
【0017】
検知管本体10の内部には、本体入口側21から本体出口側22に向けて除湿剤12と、保護剤13と、反応剤14と、吸着剤15と、検知剤16とが配置されており、検知管本体10の内部を通過する試験対象ガスは除湿剤12と、保護剤13と、反応剤14と、吸着剤15と、検知剤16とを通過する。
【0018】
除湿剤12よりも本体入口側21に近い位置と、検知剤16よりも本体出口側22に近い位置とには、通気性を有する入口側栓28(繊維)と出口側栓29(モレキュラーシーブ)が配置されており、除湿剤12や検知剤16等の充填剤が、検知管本体10の外部に流失しないように保持されている。
図1の符号19は検知管本体10に封入された乾燥空気を示している。
【0019】
試験対象ガスが本体入口側21の切り欠きから検知管本体10の内部に流入すると、除湿剤12の内部と、保護剤13の内部と、反応剤14の内部と、吸着剤15の内部と、検知剤16の内部とをこの順序で通過して、本体出口側22の切り欠きから流出する。
【0020】
本体入口側21から流入する試験対象ガスは、空気と、本検知管2によって検知すべき検知対象物質の他、検知対象物質以外の非検知対象物質とが含有されている。
【0021】
除湿剤12には、担体に水酸化カリウムが付着された粉体が用いられており、試験対象ガスが除湿剤12を通過する際に、試験対象ガス中の検知対象外物質に含まれる水分が吸着されて除去される。ここでは担体にケイ砂が用いられている。
【0022】
本発明の検知管2では、アセトアルデヒドが検知対象物質であり、この除湿剤12は、アセトアルデヒドと反応しない性質と、アセトアルデヒドを吸着しない性質とを有する粉体が採用されており、除湿剤12を通過した試験対象ガスはケイ砂に付着した水酸化カリウムに接触し、試験対象ガスから検知対象物質が吸着されずに水分が除去される。
【0023】
ここで、ケイ砂とは、SiO2で表せるシリカの粒子の集合物であり、本発明では、150μm以上180μm以下の範囲の粒径のシリカ粒子がケイ砂として用いられている。
【0024】
除湿剤12の下流側には、反応剤14と除湿剤12とが接触しないように、保護剤13が配置されている。除湿剤12を通過した試験対象ガスは保護剤13の中に流入する。保護剤13は反応剤14と除湿剤12との間に配置されている。
【0025】
保護剤13は、硫酸液に浸漬されたケイ砂が乾燥された粉末であり、硫酸が付着した状態で充填されている。
【0026】
保護剤13の中を通過した試験対象ガスは、検知対象物質が除去されずに反応剤14の中に流入する。
【0027】
反応剤14は、検知対象物質と化学反応して酸性物質を生成する性質を有している。
【0028】
ここでは、反応剤14には、コロイダルシリカに含有された小シリカ粒子が複数個表面に付着された大シリカ粒子から成る担体粒子に、酸化クロムと、硫酸とが付着された反応性粒子の粉体が用いられている。
【0029】
反応性粒子を製造するためには、先ず、アンモニア水に10nm以上15nm以下の範囲の粒径の小シリカ粒子の粉体が分散され、ゾル状態のコロイダルシリカと、150μm以上180μm以下の範囲の粒径の大シリカ粒子の粉体とを混合し、攪拌して分散させた後、加熱してアンモニアと水とを蒸発させて除去すると、大シリカ粒子の表面に複数個の小シリカ粒子が付着し、乾燥された担体粒子から成る乾燥粉末が得られる。
図2(a)の符号30は一個の担体粒子を示しており、大シリカ粒子31に多数の小シリカ粒子32が付着している。
【0030】
次いで、多数の担体粒子30から成る粉体を、クロム酸化物と硫酸とが溶解された液に浸漬させ、攪拌して分散させた後、加熱して水を蒸発させて除去すると、
図2(b)に示すように、担体粒子30に硫酸とクロム酸化物とが付着された反応性粒子35の乾燥粉末が得られる。
【0031】
同図の符号33は、担体粒子30の表面に付着したクロム酸化物と硫酸とから成る反応層である。
【0032】
試験対象ガスが反応剤14を通過する際に、試験対象ガスは反応層33中のクロム酸化物と硫酸とに接触する。
【0033】
一般に試験対象物に含有されたアルデヒドは、硫酸とクロム酸化物の存在下で水和されてgem-ジオールになり、gem-ジオールは、硫酸とクロム酸化物によって酸化されてカルボン酸が生成される。
RCHO → R(OH)2 → RCOOH
【0034】
試験対象ガスにアセトアルデヒド(CH3CHO)が含有される場合は、下記(1)式の反応のように反応剤14中で水和されて1,1-エタンジオール(CH3CH(OH)2)になり、酸化されて酢酸(CH3COOH)を生成する。
CH3CHO→CH3CH(OH)2→CH3COOH……(1)
【0035】
試験対象ガスにホルムアルデヒドが含有されている場合は、反応剤14中では下記(2)式によってギ酸が生成される。
HCHO→CH2(OH)2→HCOOH……(2)
【0036】
従って、試験対象ガスにアセトアルデヒドとホルムアルデヒドとが含有されている場合は、試験対象ガスが反応剤14を通過する際に、酢酸とギ酸とが生成され、酢酸とギ酸を含有する試験対象ガスが吸着剤15の中に流入する。
【0037】
吸着剤15は、反応剤14と検知剤16の間に配置され、吸着剤15により、反応剤14と検知剤16とが接触しないようにされている。
【0038】
吸着剤15には、粒径が250μm以上425μm以下の範囲のホウケイ酸ガラス粒子の粉体が吸着粒子として含有されており、試験対象ガスが吸着剤15を通過する際に、ギ酸はホウケイ酸ガラス粒子に吸着されて試験対象ガスから除去される。
【0039】
他方、酢酸はホウケイ酸ガラス粒子に吸着されずに吸着剤15を通過して検知剤16の中に流入する。
【0040】
従って、吸着剤15により、検知対象物質であるアセトアルデヒドの化学反応によって発生した反応生成物は除去されずに非検知対象物質であるホルムアルデヒドの化学反応によって発生した副反応生成物は除去される。
【0041】
検知剤16には、アルカリ性のアルカリ試薬と、アルカリ性から中性又は酸性に変化したときに変色するpH指示薬とが含有されており、アルカリ試薬とpH指示薬とは、担体に付着されている。酢酸を含有する試験対象ガスが検知剤16の中に流入するとアルカリ試薬と酢酸とが反応し、検知剤16の反応した部分ではアルカリ性が中性又は酸性に変化すると、このpH値の減少により、中性付近を変色域とするpH指示薬が変色する。
【0042】
pH指示薬の変色により、検知剤16は、試験対象ガスの流れに沿って、入口側に近い部分から出口側に向けて変色する。
【0043】
検知剤16中のアルカリ試薬やpH指示薬は検知剤16中で均一に含有されており、検知剤16の試験対象ガスの流れに沿った変色部分の長さである変色長と、試験対象ガスに含有された検知対象物質の量との間には比例関係がある。ここでは、変色長は酢酸の量に比例し、酢酸の量とアセトアルデヒドの量は比例するから、変色長は試験対象ガスに含有されたアセトアルデヒドの量に比例する。
【0044】
検知管本体10は透明なガラスや透明な樹脂で形成されており、pH指示薬の変色による検知剤16の変色と、変色していない検知剤16との境界の位置を観察することができる。
【0045】
検知管本体10のうち、検知剤16が配置された部分の外周面には、検知管本体10の長さ方向とは垂直にされた目盛線と、本体入口側21から昇順に値に応じた位置に記載された数字とから成る目盛20が設けられている。
【0046】
検知管本体10を介して観察した検知剤16の中で、変色した部分と未変色の部分との境界位置に対応した目盛20中の数字を読み取ることで変色した部分の長さが測定される。予め求めておいた変色部分の長さと酢酸量との関係と、アセトアルデヒド量と酢酸量との関係とから、検知剤16を通過した試験対象ガス中のアセトアルデヒドの量が分かる。検知管2に吸引した試験対象ガスの体積が既知であれば、試験対象ガス中のアセトアルデヒドの濃度が分かる。
【0047】
検知剤16の中を酢酸以外の酸が通過した場合も、検知剤16のpH値が減少し、検知剤16が変色する。
【0048】
仮に、検知剤16の中を通過する試験対象ガスにギ酸が含有されていた場合は、酢酸が含有されていなくても検知剤16が変色する。
【0049】
本発明では、上述したように、反応剤14の中でギ酸が生成されても、ギ酸は吸着剤15によって吸着され、検知剤16に到達しないようにされており、試験対象ガスにアセトアルデヒドとホルムアルデヒドとが含有されていても、アセトアルデヒドの濃度を測定することができる。
【0050】
<吸着剤>
下記表1は、吸着剤15として用いた無機化合物粒子の吸着特性を測定した実験結果であり、ホウケイ酸ガラスだけがギ酸を除去してアセトアルデヒドを測定できることが分かる。
【0051】
【0052】
<アセトアルデヒド測定結果>
図3のグラフは、横軸が試験対象ガス中のアセトアルデヒド濃度であり、縦軸が試験対象ガスを検知管2に吸引したときの検知剤16の変色長であり、アセトアルデヒド濃度と変色長の関係が示されている。
【0053】
図3のグラフは、pH指示薬にはフェノールレッドが用いられ、吸着剤にはホウケイ酸ガラスが用いられたサンプル1、サンプル2の二個の異なる検知管2を用いて測定しており、両方共に直線性が高いグラフが得られていることが分かる。
【0054】
<シリカ安定化剤>
一般に、小シリカ粒子32が分散されたコロイダルシリカには、シリカ安定化剤が含有されている。
【0055】
小シリカ粒子32が付着された大シリカ粒子31から成る担体粒子30については、小シリカ粒子32を含有するコロイダルシリカと大シリカ粒子31とを混合した後、乾燥させて担体粒子30の粉末を得ており、この乾燥の際にシリカ安定化剤を除去するためには、シリカ安定化剤としてはアンモニア等の揮発性物質が望ましい。
【0056】
下記表2では、No.4が上記実施例で用いたコロイダルシリカであり、No.1とNo.2は、大シリカ粒子だけを用いた場合であり、No.3はナトリウム安定化のコロイダルシリカを用いた場合である。表2から、コロイダルシリカのシリカ安定化剤は揮発性物質のアンモニアが望ましいことがわかる。
【0057】
【0058】
<ホルムアルデヒド>
下記表3は、本発明の検知管2にホルムアルデヒドだけを含有する試験対象ガスを吸引した場合のホルムアルデヒド濃度と検知剤16の変色長との関係を測定した測定結果である。
【0059】
【0060】
21ppm以下の濃度の場合はホルムアルデヒドから生成されたギ酸は吸着剤に全て吸着され、検知剤16に到達していないことが分かる。32ppm以上では変色が発生している。なお、変色長の測定は2回ずつ行った。
【0061】
<クロム酸化物>
次に、98質量%の濃硫酸液0.14mlと、2質量%の酸化クロム水溶液1mlから9mlとを混合した液に、乾燥した170gの担体粒子30の粉末を添加して撹拌し、得られた反応性粒子35の粉体を検知管本体10に充填し、充填長10mmの検知剤16を形成し、検知管2を得た。
【0062】
アセトアルデヒド濃度が17ppmの試験対象ガスと、1ppmの試験対象ガスとを別々の検知管2に吸引し、酸化クロム水溶液の量と変色長との関係を測定した。
【0063】
測定結果を
図5のグラフに示す。横軸は用いた2質量%の酸化クロム水溶液の量であり、縦軸は変色長である。
【0064】
酸化クロム水溶液1ml当たり0.02gの酸化クロムを含有するが、1mlでは感度が得られていない。
【0065】
酸化クロムの含有量としては、担体粒子170g当たり0.06g以上の範囲(2%水溶液では3ml以上)が適当と考えられる。
【0066】
上限としては0.18g以下(9ml以下)の範囲が適当と考えられる。
【0067】
<硫酸>
酸化クロム0.1gと98質量%の濃硫酸液とを含有する液に、乾燥した170gの担体粒子粉末を添加して撹拌して反応性粒子35の粉末を得て、充填長20mmで充填して検知剤16を形成した。
【0068】
この検知管2にアセトアルデヒド濃度が17ppmの試験対象ガスを吸引させ、濃硫酸の含有量と変色長との関係を測定した。試験対象ガスと検知管2の温度は20℃と5℃とにした。
【0069】
測定結果を
図6のグラフに示す。横軸は98質量%の濃硫酸液の添加量であり、縦軸は変色長である。
【0070】
測定温度が20℃であれば担体粒子170g当たり0.1ml以上の濃硫酸量で反応剤として用いることができることが分かる。
【0071】
但し、0.5ml以上の濃硫酸を170gの担体粒子粉末に担持させることができないため、担体粒子170g当たり0.1ml以上0.5ml未満が実用範囲であり、硫酸の含有量はこの実用範囲内で適した値にして反応性粒子35を作成することができる。
【0072】
<エタノール>
試験対象ガスにアセトアルデヒドではなくエタノールが含有されている場合は試験対象ガスが反応剤14を通過する際に、硫酸とクロム酸化物によって酸化されてエタノールからアセトアルデヒドが生成され、反応剤14の中で、上記(1)式によって、生成されたアセトアルデヒドから酢酸が生成される。
【0073】
従って、吸引する試験対象ガスにエタノールが含有されている場合は、反応剤14を通過して吸着剤15に流入する試験対象ガスには酢酸が含有される。
他方、試験対象ガスにメタノールが含有されている場合は、反応剤14中で、
メタノール→ホルムアルデヒド→メタンジオール→ギ酸
の化学反応でギ酸が生成されるが、ギ酸は吸着剤15によって除去される。
従って、エタノールを含有しない試験対象ガス中ではアセトアルデヒドを精度良く測定でき、また、アセトアルデヒドを含有しない試験対象ガス中ではエタノールを精度良く測定することができる。
【0074】
アセトアルデヒドに代え、試験対象ガスにエタノールを含有させ、本発明の検知管2に吸引した。
【0075】
エタノール濃度と検知剤16の変色長との関係を
図4のグラフに示す。
図4のグラフの横軸は試験対象ガス中のエタノール濃度であり、縦軸は試験対象ガスを検知管2に吸引したときの検知剤16の変色長である。
【0076】
<その他>
小シリカ粒子の粒径は10nm以上15nm以下、大シリカ粒子の粒径は150μm以上180μm以下の範囲のものが適している。
【0077】
本発明の反応剤に含有させるクロム酸化物には、酸化クロム(IV)と、二クロム酸(H2Cr2O7)と、クロム酸カリウム(K2CrO4)と、二クロム酸カリウム(K2Cr2O7)のうち、いずれか一種又は二種以上の化合物であり、これらクロム酸化物が濃硫酸と共に担体粒子に付着された反応粒子の粉末である反応剤は、アセトアルデヒドを酸化して酢酸を生成することができる。
【0078】
反応剤の充填長は5mm以上であれば実用上問題が無い感度を有することが確認されている。
【0079】
但し、充填長が長い場合は変色長は伸びるが温度の影響が大きくなり、充填長が短い場合は変色長は短くなるが温度の影響が小さくなるため、10mm以上20mm以下の範囲が好ましく、例えば12mmに設定することができる。
【0080】
<他の例>
なお、
図7(a)、(b)に示す様に、吸着管3aと呈色管3bとに分割された検知管3(
図8)も本発明に含まれる。
【0081】
この検知管3を説明すると、吸着管3aと呈色管3bは、それぞれ細長の第一分割管10aと第二分割管10bとを有している。
【0082】
第一分割管10aの一端は本体入口側21であり、第一分割管10aの内部には、本体入口側21から、封入空気19と、入口側栓28と、除湿剤12と、保護剤13と、反応剤14と、吸着剤15とが配置されている。本体入口側21の反対側を分割管出口側23aと呼ぶと、吸着剤15と分割管出口側23aとの間には、ここでは繊維26aが配置されている。
【0083】
第二分割管10bの一端は本体出口側22であり、その反対側を分割管入口側23bと呼ぶと、第二分割管10bの内部には、分割管入口側23bから、繊維26bと、検知剤16と、出口側栓29(モレキュラーシーブ)とが配置されており、出口側栓29は本体出口側22と隣接した場所に位置している。
【0084】
第一分割管10aの両端と、第二分割管10bの両端とを切り欠いて開口をそれぞれ形成し、分割管出口側23aの開口と分割管入口側23bの開口とを柔軟性を有する接続管11で接続し、第一分割管10aの内部と第二分割管10bの内部とを気密に接続すると、検知管3はアルデヒド濃度を測定可能な状態になる。
【0085】
本体出口側22の切り欠き部分の開口には気体を吸引する吸引装置を取り付け、本体入口側21の切り欠き部分の開口を検出対象ガスの雰囲気中に配置して吸引装置を動作させると、検出対象ガスは、本体入口側21の切り欠き部分から吸引され、吸着管3aの内部と、接続管11の内部と、呈色管3bの内部を通過して、吸引装置に移動する。この移動の間に、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドとが反応剤14と反応し、ホルムアルデヒドから生成されたギ酸が吸着剤15によって除去され、検知剤16はアセトアルデヒドから生成された酢酸によって呈色する。
【0086】
第二分割管10bには目盛20が設けられており、呈色領域の境界に位置する目盛線から、アセトアルデヒドの濃度が測定される。
【0087】
この検知管3では、吸着管3aと呈色管3bのうち、保存期間が経過した方を新しいものに交換するだけでよいから、経済的である。
【符号の説明】
【0088】
2、3……検知管
10……検知管本体
10a……第一分割管
10b……第二分割管
11……接続管
14……反応剤
15……吸着剤
16……検知剤
31……大シリカ粒子
32……小シリカ粒子