(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】パワープラントの制振構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230615BHJP
F02F 7/00 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F02F7/00 G
(21)【出願番号】P 2019124770
(22)【出願日】2019-07-03
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢部 正
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正博
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-113043(JP,U)
【文献】特開2015-052292(JP,A)
【文献】実開昭54-012609(JP,U)
【文献】特開2001-295619(JP,A)
【文献】実開昭63-186955(JP,U)
【文献】実開昭61-063454(JP,U)
【文献】実開昭58-081332(JP,U)
【文献】実開昭57-113748(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F02F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動力源を含むパワープラントに取り付けられ、裏面側に潤滑油が存在するカバー部材と、
マス、弾性体を含み、前記カバー部材の表面側に取り付けられるダイナミックダンパと、
を備え、
前記ダイナミックダンパは、前記カバー部材の表面側であって、前記パワープラントの外形よりも窪んだ取付部に取り付けられ
、
前記カバー部材は、フロントカバーであり、
前記フロントカバーは、クランクシャフトが貫通する開口部を有し、前記開口部の周囲に凹形状の前記取付部が形成され、
複数の前記ダイナミックダンパは、前記取付部に複数配置される
ことを特徴とするパワープラントの制振構造。
【請求項2】
請求項1に記載のパワープラントの制振構造であって、
前記カバー部材は、前記パワープラントの外部への前記潤滑油の飛散を遮蔽する部材であり、
前記ダイナミックダンパは、前記カバー部材の表面側に取り付けられることを特徴とするパワープラントの制振構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のパワープラントの制振構造であって、
前記ダイナミックダンパは、前記ダイナミックダンパ同士が干渉することなく複数取り付けられることを特徴とするパワープラントの制振構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一つに記載のパワープラントの制振構造であって、
前記取付部の前記ダイナミックダンパの取付面は平面であることを特徴とするパワープラントの制振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワープラントの制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンのオイルパンの表面部に接合され、所定のばね定数を有するばね板と、このばね板に接合され慣性力を発生させる質量を有するマスと、減衰作用を有しばね板とオイルパンに挟持される弾性体とにより構成される動吸振器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、エンジンの制振のため、オイルパンのようなカバー部材にバネ及びマスからなる制振装置(ダイナミックダンパ)を取り付けると、制振装置の高さ分だけケースが外側へと拡大することになり、エンジンの外側形状が大きくなるという問題がある。これに対して、カバー部材の内側に制振装置を取り付けるように構成することもできるが、オイルパンのようなカバー部材の内側は潤滑油が存在する場所であるため、制振装置に付着した潤滑油の重量により制振装置の特性が変化したり、付着した潤滑油の粘性により制振装置の動作が制限されるという問題がある。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、エンジン又は変速機等を含むパワープラントの寸法を拡大することなく、振動を低減できる制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様は、駆動力源を含むパワープラントに取り付けられ、裏面側に潤滑油が存在するカバー部材と、マス、弾性体を含み、カバー部材の表面側に取り付けられるダイナミックダンパと、を備えて構成される。ダイナミックダンパは、カバー部材の表面側であって、パワープラントの外形よりも窪んだ取付部に取り付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、ダイナミックダンパが、裏面に潤滑油が存在するカバー部材の外側であってパワープラントの外形よりも凹となる箇所に取り付けられるので、パワープラントの寸法が拡大することなく、潤滑油の影響も受けないため、パワープラントに生じる振動をより確実に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るパワープラントの斜視図である。
【
図3B】
図3Bは、ダイナミックダンパの等価式を示す図である。
【
図3C】
図3Cは、ダンパ取付部のダイナミックダンパの取付けの一例を示す図である。
【
図3D】
図3Dは、ダンパ取付部のダイナミックダンパの取付けの一例を示す図である。
【
図3E】
図3Eは、ダンパ取付部のダイナミックダンパの取付けの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係るパワープラント10の斜視図である。
【0011】
本実施形態のパワープラント10は、例えば車両に搭載されて車両を走行させる。パワープラント10は、駆動力源であるエンジン1及び変速機2等を含んで構成される。
【0012】
エンジン1は、ガソリンや軽油を燃料として駆動力を発生する内燃機関である。変速機2はエンジン1の回転を変速して出力する。変速機2の出力は車両の車輪に伝達される。
【0013】
エンジン1は、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、フロントカバー15、ヘッドカバー16、オイルパン17を備える。
【0014】
シリンダブロック11は、ピストン、シリンダ、クランクシャフト等を備える。シリンダブロック11に形成されたシリンダに導入された混合気が爆発燃焼することでピストンが押し下げられ、クランクシャフトが回転駆動する。シリンダブロック11において、クランクシャフトの軸方向の一方の端部(前側)には、タイミングチェーンやオイルポンプ等の機構が備えられる。シリンダブロック11の他方の端部(後側)は、クランクシャフトの回転を変速機2に伝達する機構が備えられる。
【0015】
シリンダヘッド12は、シリンダブロック11の上部に取り付けられる。シリンダヘッド12は、シリンダへの混合気を点火する点火プラグ、混合気の吸気を行なう吸気弁、排ガスの排気を行なう排気弁及びこれらを駆動するカムシャフト等からなる吸排気機構を備える。
【0016】
フロントカバー15は、エンジン1の前側の端部に備えられ、タイミングチェーンやオイルポンプ等を覆うためのカバー部材である。フロントカバー15には、クランクシャフトが貫通する円形の開口部151が形成されている。開口部151を貫通するクランクシャフトの端部にはプーリが固定され、補機ベルトを介してオルタネータやコンプレッサ等の補機を駆動する。フロントカバー15は、金属(例えばアルミニウムやマグネシウム等の合金)により形成される。
【0017】
フロントカバー15の裏面側においては、フロントカバー15とシリンダブロック11、シリンダヘッド12との間に収容されるタイミングチェーン等が潤滑油により潤滑される構成となっている。つまり、フロントカバー15の裏面側は潤滑油が存在し、エンジン1の駆動に伴いこの潤滑油が飛散する箇所である。フロントカバー15は外部への潤滑油の飛散を遮蔽する。
【0018】
ヘッドカバー16はシリンダヘッド12の上側に備えられ、シリンダヘッド12に備えられる吸排気機構を覆うカバー部材である。ヘッドカバー16には、点火コイルが貫通する複数の円形の開口部161が形成されている。フロントカバー15は、樹脂(例えばポリプロピレン(PP)樹脂やポリアミド(PA)樹脂等)により形成される。
【0019】
ヘッドカバー16の裏面側においては、ヘッドカバー16とシリンダヘッド12との間に収容されるカムシャフト等が潤滑油により潤滑される。つまり、ヘッドカバー16の裏面側には潤滑油が存在し、エンジン1の駆動に伴いこの潤滑油が飛散する箇所である。ヘッドカバー16は外部への潤滑油の飛散を遮蔽する。
【0020】
オイルパン17は、シリンダブロック11の下側に備えられ、潤滑油を貯留するカバー部材である。オイルパン17は、金属(鉄やアルミニウム等の合金)により形成される。オイルパン17に貯留された潤滑油はオイルポンプにより吸い上げられてタイミングチェーンやカムシャフト等の潤滑に用いられる。つまり、オイルパン20の裏面側には潤滑油が存在する。
【0021】
変速機2は、エンジン1の後側の端部に備えられ、変速機カバー21に図示しない変速機構が収容されて構成される。変速機カバー21は、金属(アルミニウムやマグネシウム等の合金)により形成される。変速機構は複数のギヤを備えて構成され、エンジン1の回転を変速(減速)して出力する。
【0022】
変速機カバー21の裏面側には潤滑油が存在する。変速機カバー21の裏面側は変速機構の駆動に伴い潤滑油が飛散する箇所である。変速機カバー21は外部への潤滑油の飛散を遮蔽する。
【0023】
次に、このように構成されたパワープラント10における振動の低減について説明する。
【0024】
エンジン1は、シリンダ内の混合気を爆発燃焼させることでピストンを下降させて回転駆動力を得る。このときエンジン1は振動を発生する。このように発生した振動は、エンジン1の構成部品や付属部位に伝達されて、それらを振動させる。
【0025】
シリンダブロック11やシリンダヘッド12は、それ自体の質量が大きく薄板平面で構成される部位は少ないため、伝達された振動はその多くが減衰する。
【0026】
一方、質量が小さく、薄板平面の形状のカバー部材、例えば、フロントカバー15、ヘッドカバー16、変速機カバー21等は、エンジン1の振動が伝わることで薄板平面の部位が振動しやすい。さらに、薄板平面の部位の材質や形状によっては振動が共振して振動が増幅(加振)されるため、その部位における騒音が増大する。近年では、ドライバビリティや環境性能がより求められており、特にエンジン1の駆動中とアイドルストップ中とでは振動の変化が大きく、ドライバーに不快感を与える可能性がある。このため、車両の振動の低減や静粛性の向上が要求されている。
【0027】
そこで、本実施形態では、次のような構成により、振動を低減するように構成した。
【0028】
図2Aは、本実施形態のフロントカバー15の斜視図であり、
図2Bは、
図2AにおけるII-II断面図である。
【0029】
フロントカバー15は、クランクシャフトが貫通する開口部151と、シリンダブロック11及びシリンダヘッド12に固定する複数のボルト穴152とを備えている。開口部151は、オイルシール155を介してクランクシャフト(図示せず)を軸支する。
【0030】
フロントカバー15はクランクシャフトを軸支するため、エンジン1の振動がクランクシャフトに伝達すると、フロントカバー15にクランクシャフトの回転モーメントに応じた振動が伝達する。このために、ボルト穴152から離間した薄板平面部(例えば
図2Aでハッチングで示す領域A、B)が振動することにより振動(振幅)が増幅され、騒音の発信源となる。
【0031】
この振動による騒音を低減するため、フロントカバー15に、振動を低減する制振装置であるダイナミックダンパ50を取り付けた。
【0032】
より具体的には、フロントカバー15は、開口部151の周囲にフロントカバー15の外周形状よりも窪んだ凹形状のダンパ取付部156を形成する。ダンパ取付部156は、開口部151の全周に沿うように環状溝として形成されている。ダイナミックダンパ50は、潤滑油が飛散するフロントカバー15の裏面側ではなくフロントカバー15の表面側に配置される。ダンパ取付部156の底面に複数のダイナミックダンパ50が固定される。このダンパ取付部156は、フロントカバー15における振動の振幅が最も大きくなる箇所(又はそれに近接した箇所)でもある。
【0033】
図2Bを参照すると、ダンパ取付部156の底面は平面に形成されており、ダイナミックダンパ50は、ダンパ取付部156の底面から起立して固定される。ダイナミックダンパ50は、円環状に形成されたダンパ取付部156に、所定の間隔で複数取り付けられる。ダイナミックダンパ50は、接着材やボルトを用いてダンパ取付部156に固定される。
【0034】
ダイナミックダンパ50は、ダンパ取付部156に取り付けられた状態で、その高さ方向はダンパ取付部156の周辺よりも低い位置となるように構成される。すなわち、ダンパ取付部156は、フロントカバー15から窪んで形成され、かつ、ダイナミックダンパ50は、フロントカバー15の表面よりも外側に突出しないような形状とされている。また、隣り合うダイナミックダンパ50同士は、これらが振動しても接触しないように十分な間隔(例えばダイナミックダンパ50のマス51の径の1/2以上の間隔)を持って取り付けられる。また、ダイナミックダンパ50は、ダンパ取付部156の側壁部に対しても接触しないように十分な間隔を持って取り付けられる。
【0035】
図3A及び
図3Bは、本実施形態のダイナミックダンパ50の説明のための断面図である。
図3Aはダイナミックダンパ50の断面図を示し、
図3Bはダイナミックダンパ50の等価式を示す図である。
【0036】
ダイナミックダンパ50は、マス51と弾性体52とを備えて構成される。ダイナミックダンパ50は、略円筒形状に形成され、その大きさ(高さ及び直径)は1~数センチメートルに設定される。
【0037】
マス51は、所定の質量を有する金属(例えば鉄やアルミニウムの合金)により円筒形状に形成される。マス51の質量は、抑制する振動の周波数に対応して決定され、例えば数グラム~数十グラムに設定される。
【0038】
弾性体52は、弾性体(例えばゴムやエラストマ)により円柱形状に形成される。弾性体52は、マス51とダンパ取付部156との間に介在し、マス51を支持する。弾性体52は、その弾性によりマス51を揺動するバネとして機能する。さらに弾性体は、その材質の特性により、バネの振動を収束するダンパとしても機能する。
【0039】
なお、ダイナミックダンパ50の形状は一例であり、振動を減少させるダイナミックダンパ50として機能するものであれば、どのような形状であってもよい。
【0040】
ダイナミックダンパ50のマス51の質量をm、弾性体52のバネ定数をk、減衰定数をcとした場合の運動方程式は、
【数1】
で表わされる。
【0041】
フロントカバー15が振動するときに、ダイナミックダンパ50がフロントカバー15と共に振動する。このとき、ダイナミックダンパ50が数式1に示される運動方程式に基づいた振動の減衰を行なうことで、ダイナミックダンパ50が固定されたフロントカバー15の振動も同様に減衰される。
【0042】
図3C~
図3Eは、ダンパ取付部156におけるダイナミックダンパ50の配置の一例を示す説明図である。
【0043】
ダイナミックダンパ50は、ダンパ取付部156に周方向に等間隔に、例えば、環状のダンパ取付部156の中心点Cを通過する線分上に対称に配置することができる(
図3C参照)。又は、ダンパ取付部156の中心点Cに対して点対称に配置することができる(
図3D参照)。さらに、振動をより低減したい領域(領域R)に対してダイナミックダンパ50の個数が多くなるように、不等間隔に取り付けられてもよい(
図3E参照)。
【0044】
図4は、本実施形態のヘッドカバー16の斜視図である。
【0045】
ヘッドカバー16は、イグニッションコイルが貫通する開口部161と、シリンダヘッド12に固定する複数のボルト穴162とを備えている。
【0046】
ヘッドカバー16は、開口部161又はボルト穴162の近傍周辺に薄板平面部を有するため、前述のようにエンジン1の振動によってこの平面部が振動することにより、騒音の発信源となる。
【0047】
特にヘッドカバー16は樹脂製であるので、金属と比較して弾性が大きくヤング率が低いという特性がある。この特性のため、エンジン1が発生する振動に共鳴してより高次の振動が発生することにより、さらに騒音が増加する可能性がある。
【0048】
この振動を低減するために、ヘッドカバー16は、前述のフロントカバー15と同様に、振動を低減する制振装置であるダイナミックダンパ50を備えた。
【0049】
より具体的には、ヘッドカバー16は、ヘッドカバー16の外周形状よりも窪んだ凹形状を有するダンパ取付部166(
図4のハッチング領域)を備える。ダンパ取付部166の底部は平面状となっている。このダンパ取付部166に、複数のダイナミックダンパ50が固定される。
【0050】
このように、複数のダイナミックダンパ50を取り付けることによって、ヘッドカバー16に伝達された振動を低減することが可能となる。
【0051】
ヘッドカバー16に取り付けられるダイナミックダンパ50の個数及び特性は、ヘッドカバー16の材質や振動の特性に応じて適宜決定される。特に、樹脂製のヘッドカバー16の高次の振動を抑制するために、高い周波数成分を抑制する特性を持つダイナミックダンパ50から、より低い周波数成分の振動を抑制する特性を持つダイナミックダンパ50までを組み合わせて取り付けることで、ヘッドカバー16が発生する振動が低減できる。
【0052】
【0053】
変速機2は、変速機構(図示せず)と変速機構を収装するケースである変速機カバー21とを備えて構成される。変速機カバー21は、当該カバー21にエンジン1に固定するための複数のボルト穴211を備えている。
【0054】
変速機カバー21についてもフロントカバー15等と同様に、ボルト穴211から離間した位置に薄板平面部を有するため、前述のようにエンジン1の振動によって変速機カバー21が振動する。このような変速機カバー21の振動も、騒音の発信源となる。
【0055】
そこで、
図5でハッチングで示すように、変速機カバー21の外周形状よりも窪んだ凹形状を有する部位をダンパ取付部256として設定し、このダンパ取付部256に、複数のダイナミックダンパ50を固定する。なお、ダンパ取付部256の底部は平面状となっている。
【0056】
このように、変速機カバー21に複数のダイナミックダンパ50を取り付けることによって、前述のフロントカバー15と同様に、変速機カバー21における振動を低減することができる。
【0057】
変速機カバー21に取り付けられるダイナミックダンパ50の個数及び特性は、変速機カバー21の材質や振動の特性に応じて適宜決定される。特性が同じダイナミックダンパ50を複数取り付けてもよいし、特性の異なるダイナミックダンパ50を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
以上説明したように、本発明の実施形態におけるパワープラント10の制振構造は、駆動力源としてのエンジン1を含むパワープラント10に取り付けられ、裏面側に潤滑油が存在するカバー部材(フロントカバー15、ヘッドカバー16又は変速機カバー21等)と、マス51及び弾性体52を含み、カバー部材の表面側に取り付けられる制振装置としてのダイナミックダンパ50と、を備える。ダイナミックダンパ50は、カバー部材の表面側であって、パワープラント10の外形よりも窪んだ箇所であるダンパ取付部156、166、256に取り付けられる。
【0059】
本実施形態は、このようにパワープラント10の外形よりも窪んだ箇所にダイナミックダンパ50を取り付けることによって、パワープラント10の外形を拡大することなく、潤滑油の影響も受けないため、パワープラントに生じる振動をより確実に低減できる。
【0060】
また、本実施形態では、カバー部材は、パワープラント10の外部への潤滑油の飛散を遮蔽する部材であり、ダイナミックダンパ50は、カバー部材の表面側のダンパ取付部156、166、256に取り付けられるので、ダイナミックダンパ50に飛散する潤滑油が付着することがなく、ダイナミックダンパ50の特性を損なうことなく振動を低減できる。
【0061】
また、本実施形態では、ダイナミックダンパ50は、ダンパ取付部156、166、256に、互いに干渉することなく複数取り付けられるので、振動をより抑制することができる。さらに、ダイナミックダンパ50の特性をそれぞれ異ならせることで、より広範囲の周波数の振動を低減できる。
【0062】
また、本実施形態では、ダンパ取付部156、166、256のダンパ取付面は平面であるので、ダイナミックダンパ50を容易に取り付けることができ、また、ダイナミックダンパ50が容易に外れることがない。
【0063】
また、本実施形態では、カバー部材は、フロントカバー15、ヘッドカバー16又は変速機カバー21等であるので、これらは裏面に潤滑油が飛散するカバー部材であって、薄板平面形状を有する部材であるので、潤滑油の影響を受けることなく、振動を低減することができる。
【0064】
また、本実施形態では、フロントカバー15はクランクシャフトが貫通する開口部151を有し、開口部151の周囲に凹形状のダンパ取付部156が形成されている。複数のダイナミックダンパ50は、ダンパ取付部156に、互いに対称となる位置(例えば線対称)に配置されるので、ダンパ取付部156の領域を拡大することなく、振動を低減できる。
【0065】
以上説明した本発明の実施形態は、パワープラント10がエンジン1及び変速機2によって構成される例を示したが、これに限られない。駆動力源としてモータ、又は、エンジンとモータの組み合わせであってもよい。
【0066】
特に、潤滑油を冷却に用いる液冷式のモータを用いた場合は、外部への潤滑油の飛散を遮蔽するカバー部材に、上述のようにダイナミックダンパ50を取り付けることで、モータにより発生する振動を低減することができる。特にモータにより走行する車両はエンジン車両と比較して静粛性が高いため、このように構成することによって、モータが発生する騒音を抑制することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 エンジン(駆動力源)
2 変速機
10 パワープラント
11 シリンダブロック
12 シリンダヘッド
15 フロントカバー
16 ヘッドカバー
17 オイルパン
21 変速機カバー
50 ダイナミックダンパ
51 マス
52 弾性体
166 ダンパ取付部
256 ダンパ取付部