(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】車両の着座装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/90 20180101AFI20230615BHJP
A47C 7/18 20060101ALI20230615BHJP
A47C 27/15 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B60N2/90
A47C7/18
A47C27/15 A
(21)【出願番号】P 2019239814
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100182051
【氏名又は名称】松川 直宏
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【氏名又は名称】河村 育郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-163403(JP,A)
【文献】実開昭58-126757(JP,U)
【文献】特開2017-113491(JP,A)
【文献】特開2012-000242(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0302651(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/90
A47C 7/18
A47C 27/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に乗車した乗員が座面クッションに着座する着座装置であって、
乗員が着座する前記座面クッションの少なくとも一部に設けられ、荷重が継続的に作用することにより変形が進む遅変形部と、
前記遅変形部の内部において荷重方向に沿って立設され、前記遅変形部が荷重により変形することにより倒れる複数の倒立部材と、
有し、
前記遅変形部の外側部分に立設される前記倒立部材は、前記遅変形部の外側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の位置から前傾し、
前記遅変形部の内側部分に立設される前記倒立部材は、前記遅変形部の内側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の位置から後傾する、
車両の着座装置。
【請求項2】
複数の前記倒立部材は、前記遅変形部の中心の周囲において、円周状に配列されており、
各前記倒立部材は、前記遅変形部の外側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の各々の位置から、円周に沿って倒れる、
請求項1記載の車両の着座装置。
【請求項3】
前記遅変形部の外側部分に立設される前記倒立部材は、前記遅変形部に荷重が作用していない状態において、前傾して設けられ、
前記遅変形部の内側部分に立設される前記倒立部材は、前記遅変形部に荷重が作用していない状態において、後傾して設けられる、
請求項1または2記載の車両の着座装置。
【請求項4】
前記倒立部材は、板形状を有する、
請求項1から3のいずれか一項記載の車両の着座装置。
【請求項5】
前記遅変形部は、低反発素材を用いて形成されている、
請求項1から4のいずれか一項記載の車両の着座装置。
【請求項6】
前記遅変形部は、円板形状に形成されて、前記座面クッションに形成される円形の凹部に収容されている、
請求項1から5のいずれか一項記載の車両の着座装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の着座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両では、着座装置を用いる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の着座装置は、座面クッションについて、正しい着座位置がある。この着座位置に着座することにより、乗員は、長時間の着座においても疲れ難くなる。
しかしながら、車両に乗車した乗員は、座面クッションについての正しい着座位置に正しい向きや姿勢で着座しているとは限らない。
たとえば、乗員は、乗員室のドアを開けて乗り込み、着座装置に着座する。この場合、乗員は、腰部や下肢が前方より外向きになっている状態で、着座装置に着座し易い。また、乗員は、下肢と上体とがねじれている状態のまま、車両を運転したり、同乗したりすることがある。下肢と上体とのねじれについての違和感を受けない場合、乗員は、そのねじれた姿勢を正すことなく、走行する車両に乗車し続ける。その結果、乗員は、たとえば長時間の乗車の後に、ねじれによる強い違和感を受けることがある。
【0005】
このように車両の着座装置は、改善することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両の着座装置は、車両に乗車した乗員が座面クッションに着座する着座装置であって、乗員が着座する前記座面クッションの少なくとも一部に設けられ、荷重が継続的に作用することにより変形が進む遅変形部と、前記遅変形部の内部において荷重方向に沿って立設され、前記遅変形部が荷重により変形することにより倒れる複数の倒立部材と、有し、前記遅変形部の外側部分に立設される前記倒立部材は、前記遅変形部の外側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の位置から前傾し、前記遅変形部の内側部分に立設される前記倒立部材は、前記遅変形部の内側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の位置から後傾する。
【0007】
好適には、複数の前記倒立部材は、前記遅変形部の中心の周囲において、円周状に配列されており、各前記倒立部材は、前記遅変形部の外側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の各々の位置から、円周に沿って倒れる、とよい。
【0008】
好適には、前記遅変形部の外側部分に立設される前記倒立部材は、前記遅変形部に荷重が作用していない状態において、前傾して設けられ、前記遅変形部の内側部分に立設される前記倒立部材は、前記遅変形部に荷重が作用していない状態において、後傾して設けられる、とよい。
【0009】
好適には、前記倒立部材は、板形状を有する、とよい。
【0010】
好適には、前記遅変形部は、低反発素材を用いて形成されている、とよい。
【0011】
好適には、前記遅変形部は、円板形状に形成されて、前記座面クッションに形成される円形の凹部に収容されている、とよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、乗員が着座する座面クッションの少なくとも一部に、荷重が継続的に作用することにより変形が進む遅変形部が設けられ、さらに遅変形部の内部には、遅変形部が荷重により変形することにより倒れる複数の倒立部材が荷重方向に沿って立設される。よって、座面クッションに着座した乗員の荷重が継続的に遅変形部に作用することにより、遅変形部が変形し、変形する遅変形部では、荷重方向に沿って立設されていた複数の倒立部材が倒れる。これにより、乗員の腰部および下肢は、遅変形部に荷重が乗っている状態で安定化できる。
しかも、本発明では、遅変形部に立設される複数の倒立部材の内で、遅変形部の外側部分に立設されるものは、遅変形部の外側部分が荷重により変形すると前傾し、遅変形部の内側部分に立設されるものは、逆に後傾する。その結果、遅変形部に荷重が乗っている乗員の腰部および下肢は、遅変形部の内側部分に乗る部位が後ろへ下がり、遅変形部の外側部分に乗る部位が前へ出て、その向きが着座中に内向きに変化する。乗員室のドアを開けて乗り込み、着座装置に着座した乗員の腰部および下肢の向きは、着座した後の着座中に内向きとなるように修正され得る。乗員は、着座した状態での下肢と上体とのねじれが減り、たとえば長時間で乗車した後であっても、これらのねじれによる違和感を受け難くなる。長時間の着座においても疲れ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る着座装置としてのシートが適用される自動車の説明図である。
【
図2】
図2は、
図1の自動車のシートへの乗員の着座状態の説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係るシートの座面クッションの構造の模式的な説明図である。
【
図4】
図4は、
図3の座面クッションに対する乗員の着座状態についての模式的な説明図である。
【
図5】
図5は、
図3の座面クッションに着座した乗員の着座状態の変化の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るシート4が適用される自動車1の説明図である。
図1(A)は、上面図である。
図1(B)は、左側面図である。
【0016】
自動車1は、車両の一例である。自動車1は、内燃機関を走行の動力源としているものでも、バッテリの蓄電電力を走行の動力源としているものでも、それらを組み合わせたものでもよい。
図1の自動車1は、車体2の前後方向の中央部分に乗員室3が設けられる。乗員室3には、自動車1に乗り込んだ乗員が着座する着座装置としてのシート4が設けられる。
図1には、前後に並ぶシート4のうちで、前側の独立シートが図示されている。シート4は、乗員の臀部が乗る座面クッション5、座面クッション5の後縁から立設される背面クッション6、を有する。
シート4に着座した乗員の前には、ダッシュボードから後向きにハンドル7が突出して設けられる。乗員は、シート4に着座した姿勢においてハンドル7、不図示のフットペダル、シフトレバーを操作し、自動車1の走行などを操作する。
【0017】
図2は、
図1の自動車1のシート4への乗員の着座状態の説明図である。
【0018】
図2(A)は、乗員が、臀部および下肢を自動車1の前後方向に揃えた正しい向きおよび姿勢によりシート4に着座している状態である。乗員の臀部は、座面クッション5の後部の正しい着座位置に乗り、背部は背面クッション6に沿っている。
このように正しい向きおよび姿勢によりシート4の着座位置に着座することにより、乗員は、長時間の着座においても疲れ難くなる。
【0019】
図2(B)は、乗員が、臀部および下肢が自動車1の前後方向に対して外向きになる向きおよび姿勢によりシート4に着座している状態である。この場合でも、乗員の臀部は、座面クッション5の後部に乗り、背部は背面クッション6に沿うことができる。乗員は、車体2の側面に開閉可能に設けられる不図示の車体2のドアを開閉し、そのドアから車内へ入り、シート4に着座する。このため、乗員の腰部や下肢は、
図2(B)に示すように前後方向に対して若干外向きとなる状態で、シート4に着座し易い。また、座面クッション5の後部に乗って、背部を背面クッション6に沿わせることができるため、乗員は、そのままの姿勢で自動車1を運転したり、同乗したりしがちである。乗車時には下肢と上体とのねじれについての大きな違和感を受けないため、乗員は、そのねじれた姿勢を正すことなく、ねじれた姿勢のままに走行する自動車1に乗車し続ける。その結果、乗員は、たとえば長時間の乗車の後において、ねじれによる強い違和感を受けることがある。
このように乗員は、座面クッション5についての正しい着座位置に正しい向きや姿勢で着座しているとは限らない。自動車1のシート4は、改善することが望まれる。
【0020】
図3は、本発明の実施形態に係るシート4の座面クッション5の構造の模式的な説明図である。
【0021】
図3(A)は、座面クッション5の上面図である。
図3(B)は、座面クッション5を内側から見た模式的な側面図である。
図3(C)は、座面クッション5を外側から見た模式的な側面図である。
図3の座面クッション5は、自動車1に乗車した乗員が着座する座面全体を形成するクッション本体11、遅変形フォーム12、複数の倒立部材13、を有する。
【0022】
クッション本体11は、シート4の座面全体を形成する。クッション本体11の周囲や下部には、通常のシート4と同様に、たとえば金属製のスプリングや枠材が設けられてよい。クッション本体11は、通常のシート4で用いられるウレタン材などで形成されてよく、たとえば荷重が瞬時的に作用する場合でも容易に圧縮変形するように、撓み易い柔らかい特性の素材を用いてよい。
【0023】
遅変形フォーム12は、クッション本体11の後部に形成される円形の上面凹部に収容される。
図3の円形の上面凹部は、クッション本体11についての後部から中央部にかけての一部に形成される。遅変形フォーム12は、円形の上面凹部と同サイズの円板形状に形成する。円形の遅変形フォーム12は、クッション本体11の円形の上面凹部の内部で可動可能に収容されている。これにより、円形の遅変形フォーム12は、
図2(A)の正しい着座位置での乗員の臀部が乗る後部からその後部の前側にかけての範囲に設けられる。なお、円形の遅変形フォーム12は、クッション本体11の円形の上面凹部に対して、接着剤などにより貼着されてもよい。
【0024】
円形の遅変形フォーム12は、座面クッション5の他の部分であるクッション本体11と比べて圧縮変形が進みにくい低反発素材を用いて形成する。低反発素材を用いることにより、遅変形フォーム12は、瞬時的な荷重により圧縮変形し難くなる。遅変形フォーム12は、ある程度の時間をかけて継続的に荷重が作用し続けることにより、圧縮変形が進む。遅変形フォーム12は、クッション本体11と比べて遅れて圧縮変形が進む、硬い特性となる。これにより、座面クッション5に着座した乗員の荷重は、クッション本体11より遅変形フォーム12に対して効率的に作用するようになる。
【0025】
倒立部材13は、板状の弾性板である。板状の倒立部材13は、円形の遅変形フォーム12の内部に、荷重方向に相当する上下方向に延在するように立て設けられる。複数の倒立部材13は、円形の遅変形フォーム12の円周方向に円形に並べて配列される。これにより、 複数の倒立部材13は、座面クッション5の着座(位置の)中心の周囲において、円形の遅変形フォーム12の外側部分から前側部分を通って内側部分に向かうように円弧状に配列されている。そして、各倒立部材13は、円周または円弧と垂直な方向である半径方向の幅が、円弧方向の厚さより大きくなる。複数の倒立部材13は、それぞれが他とは独立して可倒可能である。
【0026】
図3では、荷重が作用していない状態において、倒立部材13は、上下方向と比べて若干傾けて設けられる。具体的には、
図3(B)に示すように、円形の遅変形フォーム12の内側部分に立設される倒立部材13は、遅変形フォーム12に荷重が作用していない状態において、後傾して設けられる。
図3(C)に示すように、遅変形フォーム12の外側部分に立設される倒立部材13は、遅変形フォーム12に荷重が作用していない状態において、前傾して設けられる。これら複数の倒立部材13の傾斜角度は、均一でよい。初期状態で傾いている倒立部材13は、遅変形フォーム12が荷重により圧縮変形すると、その傾きが大きくなるように倒れ易くなる。倒立部材13は、遅変形フォーム12に対して均一に荷重が作用しない場合でも、初期状態での傾きを大きくするように倒れ易くなる。
【0027】
倒立部材13には、板を曲げるように圧縮する力が作用した場合に比較的容易に湾曲するように変形できる素材を用いてよい。これにより、倒立部材13が、着座した乗員に対して、遅変形フォーム12と比べて強く当たり難くなる。着座した乗員が倒立部材13による違和感を得にくくなる。
【0028】
図4は、
図3の座面クッション5に対する乗員の着座状態についての模式的な説明図である。
【0029】
図4(A)は、座面クッション5に対して乗員が着座し始めたタイミングの着座状態である。乗員は、臀部が円形の遅変形フォーム12に乗るように、座面クッション5に着座する。これにより、着座した乗員の荷重は、臀部を通じて、円形の遅変形フォーム12に対して集中して作用する。乗員が着座し続けることにより、円形の遅変形フォーム12は、圧縮変形を始める。
【0030】
図4(B)および
図4(C)は、座面クッション5に対して乗員が着座し続けている状態である。
図4(B)は、座面クッション5を内側から見た図である。
図4(C)は、座面クッション5を外側から見た図である。乗員が着座し続けているため、円形の遅変形フォーム12は、圧縮変形している。圧縮変形する遅変形フォーム12の内部において、その変形にしたがって、倒立部材13が大きく後傾する。各倒立部材13は、それぞれに作用する荷重に応じて、荷重が作用する前の傾きより大きく傾いている。具体的には、遅変形フォーム12の外側部分に立設される倒立部材13は、
図4(C)に示すように、円形の遅変形フォーム12の外側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の位置から前傾する。遅変形フォーム12の内側部分に立設される倒立部材13は、
図4(B)に示すラウに、円形の遅変形フォーム12の内側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の位置から後傾する。このように、各倒立部材13は、遅変形フォーム12の外側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の各々の位置から、円弧に沿って傾きを大きくするように倒れる。
【0031】
そして、大きく傾いた複数の倒立部材13は、正しい着座位置に着座した乗員の臀部の下側に、略平らな面のようになる。これにより、着座し続けている乗員の臀部は、さらに下へ沈み込みにくくなり、着座状態が安定し易くなる。
【0032】
また、複数の倒立部材13が、円弧に沿ってそれぞれの傾きを大きくするように倒れることにより、座面クッション5に着座し続けている乗員の臀部の向きが修正される。具体的には、遅変形フォーム12の外側部分に着座する部位は、
図4(C)に示すように、着座し始めでの位置から前へ押される。逆に、遅変形フォーム12の内側部分に着座する部位は、
図4(B)に示すように、着座し始めでの位置から後へ押される。その結果、座面クッション5に着座し続けている乗員の臀部の向きは、着座し始めでの向きと比べて内向きとなる。乗員の臀部の向きが内向きに回転し、その結果として、乗員の下肢も内向きに回転するようになる。
【0033】
図5は、
図3の座面クッション5に着座した乗員の着座状態の変化の説明図である。
図5(A)は、座面クッション5に対して乗員が着座し始めたタイミングの着座状態である。
図5(B)は、座面クッション5に対して乗員が着座し続けた後の着座状態である。
【0034】
図5(A)の場合、自動車1に乗車した乗員は、臀部が前後方向に対して若干外向きとなっている。乗員がその状態のまま着座し続けると、円形の遅変形フォーム12と、その内部に円周に沿って配列される複数の倒立部材13により、乗員の臀部に対して、内向き回転させる力が作用する。その結果、乗員の臀部は、内向きに回転し、
図5(B)に示すように、前後方向に向くように向きが修正される。乗員の下肢も、前向きの臀部から前方へ伸びている。
【0035】
以上のように、本実施形態では、乗員の臀部が着座する座面クッション5の少なくとも一部に、荷重が継続的に作用することにより圧縮変形が進む遅変形フォーム12が設けられ、さらに遅変形フォーム12の内部には、遅変形フォーム12が荷重により変形することにより倒れる複数の倒立部材13が荷重方向に沿って立設される。また、遅変形フォーム12は、低反発素材を用いて形成されている。よって、座面クッション5に着座した乗員の荷重が継続的に遅変形フォーム12に作用することにより、遅変形フォーム12が圧縮変形し、圧縮変形する遅変形フォーム12では、荷重方向に沿って立設されていた複数の倒立部材13が倒れる。これにより、乗員の腰部および下肢は、遅変形フォーム12に荷重が乗っている状態で安定化できる。
しかも、本実施形態では、遅変形フォーム12に立設される複数の倒立部材13は、円形の遅変形フォーム12の中心の周囲において、円周状に配列されている。そして、各倒立部材13は、遅変形フォーム12の外側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の各々の位置から、円周に沿って傾きを大きくするように倒れる。これにより、遅変形フォーム12に立設される複数の倒立部材13の内で、遅変形フォーム12の外側部分に立設されるものは、遅変形フォーム12の外側部分が荷重により変形すると前傾し、遅変形フォーム12の内側部分に立設されるものは、逆に後傾する。その結果、遅変形フォーム12に荷重が乗っている乗員の腰部および下肢は、遅変形フォーム12の内側部分に乗る部位が後ろへ下がり、遅変形フォーム12の外側部分に乗る部位が前へ出て、その向きが内向きに変化する。乗員室3のドアを開けて乗り込み、シート4に着座した乗員の腰部および下肢の向きは、着座後に内向きとなるように修正され得る。乗員は、下肢と上体とのねじれが減って、たとえば長時間で乗車した後であっても、これらのねじれによる違和感を受け難くなる。自動車1に乗車した乗員は、着座状態が改善されて、座面クッション5についての正しい着座位置に正しい向きや姿勢で着座することができ、長時間の着座においても疲れ難くなる。
【0036】
本実施形態では、遅変形フォーム12の外側部分に立設される倒立部材13は、遅変形フォーム12に荷重が作用していない状態において、前傾して設けられ、遅変形フォーム12の内側部分に立設される倒立部材13は、遅変形フォーム12に荷重が作用していない状態において、後傾して設けられる。遅変形フォーム12の外側部分において前傾して設けられる倒立部材13は、遅変形フォーム12に荷重が作用していない状態においても最初から前傾し、遅変形フォーム12の内側部分において後傾して設けられる倒立部材13は、遅変形フォーム12に荷重が作用していない状態においても最初から後傾している。これにより、乗員が着座する瞬間においても、複数の倒立部材13は、乗員の腰部および下肢の向きを内向きに変化させるように機能し得る。乗員室3のドアを開けて乗り込み、シート4に着座しようとする乗員の腰部および下肢の向きは、その着座の際においても常に内向きとなるように修正され得る。乗員は、下肢と上体とのねじれが減って、たとえば長時間で乗車した後であっても、これらのねじれによる違和感を受け難くなる。自動車1に乗車した乗員は、着座状態が改善されて、座面クッション5についての正しい着座位置に正しい向きや姿勢で着座することができ、長時間の着座においても疲れ難くなる。
【0037】
本実施形態では、倒立部材13は、円弧と垂直な方向の幅が円弧方向の厚さより大きい板形状を有する。これにより、倒立部材13は、板形状により規制されている方向へ倒れることができる。倒立部材13は、その全体に対して均一な荷重がかかっていない場合でも、板形状により規制される所望の方向へ倒れることができる。
【0038】
本実施形態では、遅変形フォーム12は、円板形状に形成されて、座面クッション5に形成される円形の凹部に接着することなく可動可能に収容されている。これにより、円板形状の遅変形フォーム12は、その全体が、複数の倒立部材13の倒れの動きにしたがって自転するようになる。これにより、乗員の腰部および下肢に対して、円板形状の遅変形フォーム12の全体の回転により、それらの向きを内向きに変化させる機能を得ることができる。乗員の腰部および下肢を内向きに変化させる能力を高めることができる。
【0039】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0040】
たとえば上述した実施形態では、遅変形フォーム12は、円板形状により円形に形成されている。
この他にもたとえば、遅変形フォーム12は、円形以外の、たとえば四角形形状などに形成されてよい。この場合において、複数の倒立部材13は、遅変形フォーム12の外形にかからず、円周状に配列されても、円周の一部である円弧状に配列されてもよい。複数の倒立部材13は、臀部を内向きに偏向できる配列とすればよい。
【0041】
上述した実施形態では、複数の倒立部材13は、円形の遅変形フォーム12において、円周方向に沿って円弧状に並べて設けられている。
この他にもたとえば、複数の倒立部材13は、遅変形フォーム12の形状などによらずに、単に、座面クッション5の車幅方向の中央の内側と外側とのそれぞれに分けて、二列で並べて設けてもよい。この場合でも、遅変形フォーム12の外側部分に立設される倒立部材13は、遅変形フォーム12の外側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の位置から前傾する。また、遅変形フォーム12の内側部分に立設される倒立部材13は、遅変形フォーム12の内側部分が荷重により変形すると、荷重が作用する前の位置から後傾する。これにより、複数の倒立部材13は、上述した実施形態と同様に、着座している乗員の腰部および下肢の向きを、内向きに回転させるように機能することができる。
【0042】
上述した実施形態では、倒立部材13は、平らな板状に形成されている。
この他にもたとえば、倒立部材13は、平らな板を湾曲または屈曲させた形状に形成されてもよい。また、遅変形フォーム12は、荷重方向において重なる複数の遅変形フォーム12で構成されてもよい。この場合において、倒立部材13は、遅変形フォーム12の重なり構造にしたがってそれらの境界部分において湾曲または屈曲してよい。
【符号の説明】
【0043】
1…自動車(車両)、2…車体、3…乗員室、4…シート(着座装置)、5…座面クッション、6…背面クッション、7…ハンドル、11…クッション本体、12…遅変形フォーム、13…倒立部材