(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】硬貨搬送装置、及び、釣銭入出金機
(51)【国際特許分類】
G07D 1/00 20060101AFI20230616BHJP
【FI】
G07D1/00 Z GBN
(21)【出願番号】P 2019138090
(22)【出願日】2019-07-26
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】秋田 基晴
(72)【発明者】
【氏名】村岡 至紘
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽平
【審査官】小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-221629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07D 1/00- 3/16
G07D 9/00-13/00
G07F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬貨を搬送する硬貨搬送装置であって、
環状の周壁部と、
弾性又は可撓性を有するシートと
を備え、
前記周壁部は、前記周壁部の内部に供給された前記硬貨を前記周壁部の外部に排出する排出口を含み、
前記シートは、前記排出口に設けられ、前記周壁部の外周面に対して傾斜
し、
前記周壁部の下部に配置される回転板をさらに備え、
前記回転板は、
正回転することで、前記周壁部の内部の前記硬貨を前記排出口から前記周壁部の外部へ排出し、
逆回転することで、前記排出口から前記周壁部の外部へはみ出た前記硬貨を前記周壁部の内部へ戻し、
前記回転板の回転軸の軸方向から見て、前記シートは、前記排出口のうち前記回転板の正回転方向の下流側の部分における前記周壁部の接線に対して、傾斜し、
前記周壁部の外周面に固定される介装部材をさらに備え、
前記シートは、前記介装部材に固定され、
前記介装部材は、前記接線に対する前記シートの傾斜角度に合わせて、屈曲又は湾曲した形状を有する、硬貨搬送装置。
【請求項2】
前記硬貨が前記シートを通過する際に、前記シートが前記硬貨と接触することで前記シートの厚み方向に撓みを生じるように、前記シートが配置される、請求項1に記載の硬貨搬送装置。
【請求項3】
前記シートは、前記接線に対して45°以上135°以下の角度で傾斜する、請求項
1又は2に記載の硬貨搬送装置。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の硬貨搬送装置を備えた釣銭入出金機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬貨搬送装置、及び、釣銭入出金機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動販売機、セルフ式ガソリンスタンド、又はスーパーマーケットに設置された自動精算機には、釣銭入出金機が内蔵されている。
【0003】
特許文献1には、釣銭入出金機に備えられる硬貨搬送装置Gが開示されている。
図17、
図18(a)、及び
図18(b)に示すように、特許文献1に記載の硬貨搬送装置Gでは、シートHは、周壁部G1の外周面に固定され、周壁部G1の外周面に沿うように設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、排出口G3に硬貨Kが滞留した場合、回転板G2を逆回転させて、周壁部G1の内部へ硬貨Kを戻す処理が行われる。この場合、硬貨KがシートHの厚み部分H2に接触することで、硬貨Kに対してシートHから周壁部G1の内部へ戻る方向とは反対方向に付勢力F2が付与される。その結果、排出口G3に硬貨Kが滞留した場合に、周壁部G1の内部へ硬貨Kを円滑に戻すことが困難となる可能性があった。
【0006】
本発明は、周壁部の内部へ硬貨を円滑に戻すことができる硬貨搬送装置、及び、釣銭入出金機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1局面によれば、硬貨搬送装置は、硬貨を搬送する。硬貨搬送装置は、環状の周壁部と、弾性又は可撓性を有するシートとを備える。周壁部は、前記周壁部の内部に供給された前記硬貨を前記周壁部の外部に排出する排出口を含む。前記シートは、前記排出口に設けられ、前記周壁部の外周面に対して傾斜する。
【0008】
本願の第2局面によれば、釣銭入出金機は、上記硬貨搬送装置を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、周壁部の内部へ硬貨を円滑に戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る釣銭入出金機の構成を示すブロック図である。
【
図2】硬貨搬送装置の一部の構成を示す斜視図である。
【
図3】(a)は、硬貨の逆流が生じる場合を示す説明図である。(b)は、硬貨のすり抜けが生じる場合を示す説明図である。
【
図4】釣銭入出金機に備えられる硬貨搬送装置の一部及び硬貨収納部の構成を示す平断面図である。
【
図5】硬貨搬送装置の硬貨搬送機構の構成を示す説明図である。
【
図6】硬貨搬送装置の硬貨搬送機構及び硬貨収納機構の構成を示す説明図である。
【
図10】硬貨が周壁部の内部で移動している状態を示す図である。
【
図11】硬貨が周壁部の内部から排出口を介して周壁部の外部に排出されている状態を示す図である。
【
図12】(a)は、
図11に示すシートを矢印R方向から見た図であり、(b)は、
図12(a)に示す状態の平面図である。
【
図13】排出口から周壁部の外部へはみ出た硬貨が周壁部の内部に戻されている状態を示す図である。
【
図14】(a)は、
図13に示すシートを矢印R方向から見た図であり、(b)は、
図14(a)に示す状態の平面図である。
【
図15】硬貨が周壁部の内部から排出口を介して周壁部の外部に排出されている状態を示す図である。
【
図16】(a)は、
図15に示すシートを矢印R1方向から見た図であり、(b)は、
図16(a)に示す状態の平面図である。
【
図17】排出口から周壁部の外部へはみ出た硬貨Kが周壁部の内部に戻されている状態を示す図である。
【
図18】(a)は、
図17に示すシートを矢印R1方向から見た図であり、(b)は、
図18(a)に示す状態の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0012】
図1~
図6を参照して、本発明の実施形態に係る釣銭入出金機100について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る釣銭入出金機100の構成を示すブロック図である。
図2は、釣銭入出金機100に備えられる硬貨搬送装置30の一部の構成を示す斜視図であり、
図3(a)は、硬貨Kの逆流が生じる場合を示す説明図であり、
図3(b)は、硬貨Kのすり抜けが生じる場合を示す説明図である。
図4は、釣銭入出金機100に備えられる硬貨搬送装置30の一部及び硬貨収納部の構成を示す平断面図である。
図5は、硬貨搬送装置30の硬貨搬送機構の構成を示す説明図である。
図6は、硬貨搬送装置30の硬貨搬送機構及び硬貨収納機構の構成を示す説明図である。
【0013】
[釣銭入出金機100の全体構成について]
図1に示すように、釣銭入出金機100は、硬貨収納出金装置1と、硬貨投入口11及び硬貨投入口12と、硬貨搬送装置30と、硬貨識別部20と、モータMと、硬貨払出口40と、制御部50とを備える。硬貨収納出金装置1は、金種を識別された硬貨Kを対応する室内に収納する。硬貨収納出金装置1は、硬貨収納出金装置1Aと、硬貨収納出金装置1Bと、硬貨収納出金装置1Cとを含む。硬貨搬送装置30は、硬貨投入口11及び硬貨投入口12の各々に投入された硬貨(貨幣)Kを搬送する。硬貨搬送装置30は、搬送通路311、搬送通路312、ホッパー32、搬送通路33、及び搬送通路切換機構34を含む。硬貨識別部20は、搬送通路33に搬送された硬貨Kの金種を識別する。モータMは、硬貨収納出金装置1毎に設けられる。硬貨払出口40は、硬貨収納出金装置1内の硬貨Kを釣銭として払い出す。制御部50は、硬貨識別部20、硬貨搬送装置30、及び硬貨収納出金装置1と電気的に接続される。
【0014】
釣銭入出金機100において、硬貨投入口11から投入された硬貨Kは、搬送通路311を通ってホッパー32内に搬送される。硬貨投入口12から投入された硬貨Kは、搬送通路312を通ってホッパー32内に搬送される。
【0015】
ホッパー32内に搬送された硬貨Kは、搬送通路33に搬送された後、硬貨識別部20により金種を識別され、複数の搬送通路切換機構34により、硬貨収納出金装置1の対応する室内に収納される。
【0016】
釣銭入出金機100は、硬貨収納出金装置1Aと、硬貨収納出金装置1Bと、硬貨収納出金装置1Cと、非硬貨収納室2aとを備える。硬貨収納出金装置1Aは、1円硬貨及び5円硬貨を個別に収納する。硬貨収納出金装置1Bは、10円硬貨及び50円硬貨を個別に収納する。硬貨収納出金装置1Cは、100円硬貨及び500円硬貨を個別に収納する。非硬貨収納室2aは、硬貨K以外の非硬貨Nを収納する。
【0017】
硬貨収納出金装置1は、釣銭使用頻度の高い硬貨(1円硬貨、10円硬貨、又は100円硬貨)を収納する第1室と、釣銭使用頻度が低い硬貨(5円硬貨、50円硬貨、又は500円硬貨)を収納する第2室とを有する。第1室の容積の方が、第2室の容積よりも大きい。
【0018】
本実施形態では、硬貨収納出金装置1Aは、第1室1Aaと、第2室1Abとを含む。第1室1Aaと第2室1Abとには、1円硬貨と5円硬貨とが収納される。硬貨収納出金装置1Bは、第1室1Baと、第2室1Bbとを含む。第1室1Baと第2室1Bbとには10円硬貨と50円硬貨が収納される。硬貨収納出金装置1Cは、第1室1Caと,第2室1Cbとを含む。第1室1Caと第2室1Cbとには、100円硬貨と500円硬貨が収納される。
【0019】
なお、図示は省略するが、釣銭入出金機100は、紙幣収納出金装置と、紙幣導入口と、紙幣識別部と、紙幣搬送部と、紙幣払出口とを備えてもよい。紙幣収納出金装置は、複数種類の紙幣(例えば、千円札、五千円札、及び一万円札)を種類別に収納出金可能である。紙幣識別部は、紙幣導入口に導入された紙幣の金種を識別する。紙幣搬送部は、金種を識別された紙幣を紙幣収納出金装置に搬送する搬送通路を有する。紙幣払出口は、紙幣収納出金装置内の紙幣を釣銭として払い出す。この場合、制御部50は、紙幣識別部、紙幣搬送部、及び紙幣収納出金装置と電気的に接続される。
【0020】
硬貨識別部20は、例えば,硬貨の大きさ(厚みを含む)、重量、及び/又は、材質から金種を識別し、硬貨識別信号を制御部50へ送信する。また、紙幣識別部は、例えば、紙幣の印刷パターン(透かしを含む)、印刷インクの材質、及び/又は、縦横寸法から金種を識別し、紙幣識別信号を制御部50へ送信する。
【0021】
硬貨搬送装置30は、硬貨搬送機構をさらに含む。硬貨搬送機構は、搬送通路311、搬送通路312、ホッパー32、及び搬送通路33上に設けられる。
【0022】
図1及び
図5を参照して、硬貨搬送機構について説明する。
図5は、硬貨搬送機構を示す図である。
【0023】
図1及び
図5に示すように、硬貨搬送機構は、エンドレスベルト332と、プーリー331と、モータ(不図示)とを含む。エンドレスベルト332は、搬送通路33上に設けられるゴム製の部材である。プーリー331は、エンドレスベルト332が架けられ、エンドレスベルト332を回転させる。モータは、プーリー331を回転させる駆動源である。硬貨Kは、エンドレスベルト332に接触しながら搬送方向(矢印A方向)へ摺動する。
【0024】
搬送通路切換機構34は、ソレノイド341と、シャッター342とを含む。ソレノイド341は、シャッター342を開閉する。シャッター342は、搬送通路31に設けられる。ソレノイド341によってシャッター342が開いたとき、硬貨Kが搬送通路33から落下し、硬貨収納出金装置1Aの第1室1Aa等に収納される。
【0025】
[ホッパー32の搬送機構の説明]
図2、及び
図3(a)~
図6を参照して、ホッパー32について説明する。
図2は、硬貨搬送装置30の一部の構成を示す斜視図である。
図3(a)は、硬貨Kが逆流している状態を示す図である。
図3(b)は、硬貨Kのすり抜けが生じている状態を示す図である。
図4は、釣銭入出金機100の構成を示す平断面図である。
図5は、ホッパー32及び搬送通路33の構成を示す断面図である。
図6は、搬送通路33の構成を示す断面図である。
【0026】
図2、
図4、及び
図5に示すように、ホッパー32は、回転ディスク状の通路をなしている。硬貨Kは、エンドレスベルトにより搬送通路311又は搬送通路312からホッパー32内に搬送される。ホッパー32は、通路の底に設けられた回転板321により硬貨Kを時計回りに回転させて一対の搬送ローラ351及び搬送ローラ352に搬送する。
【0027】
詳しく説明すると、ホッパー32内に搬送された硬貨Kは、回転板321により時計回りに回転する際に、遠心力を受けて周壁部322に向かって移動する。
【0028】
回転板321は、複数個の小孔が設けられており、硬貨Kを時計回りに高速回転させつつ、遠心力により周壁部322に移動させるため、回転速度が調整されている。
【0029】
周壁部322は、環状に形成される。周壁部322には、硬貨Kを排出するための排出口323が設けられている。周壁部322の下部には、回転板321が設けられる。
【0030】
回転板321により回転する硬貨Kは、遠心力を受けて排出口323から一対の搬送ローラ351及び352に向かって排出される。排出口323は、回転板321の縁部と周壁部322の下端との間に形成される隙間である。
【0031】
排出口323から排出された硬貨Kは、一対の搬送ローラ351及び搬送ローラ352間に挟まれて搬送速度Vrで搬送通路33内に運ばれる。
【0032】
硬貨Kは、搬送ローラ351によって駆動され、搬送ローラ352は、硬貨Kの動きに合わせて従動する。なお、搬送ローラ351及び搬送ローラ352の両方を駆動するようにしてもよい。
【0033】
搬送ローラ352は、図示しない板バネにより搬送ローラ351に加圧されている。硬貨Kが一対の搬送ローラ351及び搬送ローラ352間に挿入されると、硬貨Kの厚みにより搬送ローラ352が板バネの付勢力に抗して搬送ローラ351から遠ざかる方向に押し広げられる。
【0034】
エンドレスベルト332の搬送速度Vcは、搬送ローラ351及び搬送ローラ352による搬送方向Xにおける搬送速度Vrよりも大きい(Vc>Vr)。
【0035】
このようにすることで、隣り合った硬貨K1及び硬貨K2の間隔を適度にあけて硬貨K1及び硬貨K2間の近接を防止し、硬貨識別部20による硬貨K1及び硬貨K2の識別を容易にする。
【0036】
また、硬貨K1のすり抜けによる硬貨K2への衝突を回避することにより、硬貨K1の逆流を防止することもできる。
【0037】
図5及び
図6に示すように、搬送通路33内に運ばれた硬貨Kは、上下に組み合わされた2つのエンドレスベルト332を介して、硬貨収納出金装置1Aの第1室1Aa等の上まで運ばれて対応する室内に収納される。
【0038】
硬貨Kの処理速度を高めるには、回転板321の回転速度を速くすることが望ましいが、回転板321の回転速度を上げると、遠心力によって硬貨Kが搬送ローラ351及び搬送ローラ352に向かって滑走する搬送速度Vbも大きくなる。
【0039】
しかしながら、硬貨Kが搬送ローラ351及び搬送ローラ352に向かって滑走する勢い(運動量)が大きくなり、硬貨Kが搬送ローラ351及び搬送ローラ352に勢いよく衝突した場合、搬送ローラ351及び搬送ローラ352に硬貨Kが噛み合わずに跳ね返されてしまうことがある。
【0040】
特に、スペースの都合から、搬送ローラ352の駆動機構を設けることができない場合、搬送ローラ352は硬貨Kの動きに従動するだけで、硬貨Kを直接引き込むことができない。
【0041】
その結果、
図3(a)に示すように、硬貨Kが搬送ローラ352に噛み合わず、搬送ローラ352の縁に当たって跳ね返されることがあるため、硬貨Kの逆流が生じやすい。
【0042】
また、500円硬貨のような厚みのある硬貨Kは、搬送ローラ351及び搬送ローラ352に挟まれにくいだけでなく、遠心力により搬送ローラ351及び搬送ローラ352や硬貨Kの前方を搬送中の別の硬貨に向かって滑走する勢いも大きいため、このような衝突時の硬貨Kの逆流が特に生じやすい。
【0043】
ここで、回転板321の回転速度を下げて、硬貨Kに生じる遠心力を小さくすれば、硬貨Kが搬送ローラ351及び搬送ローラ352に向かって滑走する搬送速度Vbも小さくなり、硬貨Kが搬送ローラ351及び搬送ローラ352間に確実に噛み合うようにすることができる。
【0044】
しかしながら、回転板321の回転速度を下げると、硬貨Kの処理速度が遅くなってしまう。
【0045】
一方、
図3(b)に示すように、搬送ローラ351及び搬送ローラ352間の間隔を広げることで、500円硬貨のような厚みのある硬貨Kも、搬送ローラ351及び搬送ローラ352間に噛み合い易くすることができる。
【0046】
しかしながら、搬送ローラ351及び搬送ローラ352間の間隔を広げた場合、1円硬貨のような薄い硬貨K1が搬送ローラ351及び搬送ローラ352間を勢いよく滑走してすり抜けてしまうことがある。
【0047】
このような硬貨K1のすり抜けが生じた場合、硬貨K1は、搬送通路33内で搬送中の別の硬貨K2に近接することがある。硬貨識別部20において、硬貨K1及び硬貨K2が近接した場合、それらの識別が困難になるため、その種類に応じた硬貨収納室への硬貨K1及び硬貨K2の振り分けが適切に行われなくなるおそれがある。
【0048】
硬貨Kの逆流や近接が生じる条件は、硬貨Kの厚みによって大きく異なるため、搬送ローラ351及び搬送ローラ352間の間隔を調整するなどの単純な工夫によって、1円硬貨から500円硬貨までの厚みの異なる全ての硬貨Kに対して逆流や近接が生じないようにすることは困難であった。
【0049】
このような事情から、回転板321の回転速度を下げたり、搬送ローラ351及び搬送ローラ352間の間隔を広げたりすることなく、硬貨Kの搬送ローラ351及び搬送ローラ352への衝突による衝撃や、硬貨Kの前方を搬送中の別の硬貨との衝突による衝撃を緩和し、またこれらの衝突による硬貨Kの逆流を防止する新たな機構が求められていた。
【0050】
[シート37の構成]
次に、
図7~
図9を参照して、硬貨搬送装置30についてさらに説明する。
図7及び
図9は、硬貨搬送装置30を示す平面図である。
図8は、硬貨搬送装置30を示す斜視図である。
【0051】
図7及び
図8に示すように、硬貨搬送装置30は、搬送速度抑制部をさらに含む。搬送速度抑制部は、ブラケット36と、シート37とを含む。
【0052】
ブラケット36は、シート37を支持する。ブラケット36は、例えば、樹脂、又は、金属により形成される。ブラケット36は、略板状の部材を略垂直に屈曲又は湾曲させた形状を有する。ブラケット36は、シート37の傾斜角度θ(
図9参照)に合わせて、略L字状に屈曲又は湾曲している。ブラケット36は、本発明の介装部材の一例である。
【0053】
ブラケット36は、第1部分36aと、第2部分36bとを含む。第1部分36a及び第2部分36bの各々は、略板状の部材である。
【0054】
第1部分36aは、周壁部322の外周面322aに沿うように設けられ、周壁部322の外周面322aに固定される。第2部分36bは、第1部分36aに連なり、周壁部322の外周面322aから周壁部322の径方向の外側に突出する。
【0055】
シート37は、硬貨Kの搬送速度を抑制する。シート37の素材としては、例えば、PETやゴムなどの弾性又は可撓性を有する材料が用いられる。また、シート37の素材として、ポリスライダー(登録商標)シートなどの摩擦係数の小さい材料を用いることで、硬貨Kがシート37を通過する際に、シート37の下端部37b(
図12(a)参照)にかかる負荷を小さくすることができるため、シート37の寿命を長くすることが可能となる。
【0056】
シート37は、ブラケット36の第2部分36bに固定される。シート37の下端部37bは、ブラケット36の第2部分36bから下方に突出している。シート37の下端部37bは、排出口323の下流(直下流)に配置される。
【0057】
なお、シート37が第2部分36bに接着固定される際、シート37の対向部分(第2部分36bと対向する部分)の全域が第2部分36bに接着されてもよい。その結果、第2部分36bにシート37を安定して固定できる。また、シート37の対向部分のうちの上側部分のみが第2部分36bに接着され、対向部分のうちの下側部分が第2部分36bに接着されなくてもよい。その結果、シート37のうち、変形可能な領域を増大させることができ、硬貨Kの搬送速度を効果的に抑制できる。
【0058】
回転板321が正回転することで、周壁部322の内部に位置する硬貨Kが、遠心力により排出口323を介して周壁部322の外側に排出される。正回転は、
図7において、回転板321が正回転方向Y1(時計回り)に回転することを示す。周壁部322の内部は、周壁部322の内周面322bで囲まれる空間を示す。
【0059】
シート37は、周壁部322の外部に配置される。シート37は、周壁部322の外周面322aに沿うように設けられておらず、周壁部322の外周面322aに対して傾斜している。
【0060】
排出口323と、搬送ローラ(搬送ローラ351及び搬送ローラ352)との間には搬送面38が配置される。
【0061】
遠心力により排出口323を介して周壁部322の外側に排出された硬貨Kは、搬送面38上を摺動して、搬送ローラ(搬送ローラ351及び搬送ローラ352)へ送られる。
【0062】
シート37の下端部37bは、遠心力により排出口323から排出された硬貨Kの移動経路上に位置する。すなわち、シート37の下端部37bは、排出口323と搬送ローラ(搬送ローラ351及び搬送ローラ352)との間に位置する。
【0063】
シート37は、搬送面38の上方に配置される。シート37の下端部37bと搬送面38との間には、隙間Sが存在する。隙間Sの上下方向の寸法は、硬貨Kの厚みよりも小さい。
【0064】
図9において、回転軸Zは、回転板321の回転軸を示す。回転板321は、回転軸Zを中心に回転する。
【0065】
図9に示すように、シート37は、シート面37aを有する。シート面37aは、シート37のうちブラケット36の第2部分36bに固定され側とは反対側の面である。
【0066】
回転軸Zの軸方向から見て、シート37は周壁部322の接線Lに対して傾斜する。回転軸Zの軸方向は、回転軸Zの延びる方向である。本実施形態では、回転軸Zは、
図9の図面奥行き方向に延びる。接線Lは、回転軸Zの軸方向から見て、周壁部322に形成される仮想の接線であり、排出口323のうち正回転方向Y1の下流側の部分(排出口323のうち硬貨Kが排出される部分)を通る。
【0067】
図9において、傾斜角度θは、接線Lに対するシート37の傾斜角度を示す。傾斜角度θは、好ましくは、45°以上、135°以下である。傾斜角度θは、さらに好ましくは、90°である。
【0068】
図10~
図14(b)を参照して、硬貨搬送装置30が排出口323を通じて硬貨Kを排出する手順について説明する。
【0069】
図10は、硬貨Kが周壁部322の内部で移動している状態を示す図である。
図11は、硬貨Kが周壁部322の内部から排出口323を介して周壁部322の外部に排出されている状態を示す図である。
図12(a)は、
図11に示すシート37を矢印R方向から見た図である。矢印R方向は、回転軸Z(
図9参照)の軸方向から見て、接線Lに対して垂直な方向である。
図12(b)は、
図12(a)に示す状態の平面図である。
図13は、排出口323から周壁部322の外部へはみ出た硬貨Kが周壁部322の内部に戻されている状態を示す図である。
図14(a)は、
図13に示すシート37を矢印R方向から見た図である。
図14(b)は、
図14(a)に示す状態の平面図である。
【0070】
図10に示すように、回転板321が正回転(正回転方向Y1に回転)すると、周壁部322の内部に位置する硬貨Kが遠心力により周壁部322の内周面322bに沿いつつ、正回転方向Y1に移動する。正回転方向Y1は、周壁部322の内部から排出口323を介して周壁部322の外部に硬貨Kを排出するときの、回転板321の回転方向を示す。
【0071】
図11、
図12(a)、及び
図12(b)に示すように、硬貨Kは、排出口323に到達すると、回転板321の回転により生じた遠心力により、周壁部322の内部から排出口323を介して周壁部322の外部に排出される。
【0072】
硬貨Kが排出口323から排出されるとき、硬貨Kの上面がシート37の下端部37bに触れる。このとき、シート37の下端部37bが、シート37の厚み方向Uの一方側U1(排出方向)に撓みを生じる。その結果、シート37が硬貨Kに対して、硬貨Kの排出方向と逆方向(戻り方向)の付勢力を与えるため、硬貨Kの排出方向への勢いが抑制される。硬貨Kの排出方向は、回転板321の回転による遠心力により硬貨Kが排出口323から排出されるときの硬貨Kの移動方向である。厚み方向Uは、シート面37aに対して垂直な方向である。一方側U1は、排出口323からの硬貨Kの排出方向の略同じ方向である。
【0073】
1円硬貨のような薄い硬貨Kは、500円硬貨のような厚みのある硬貨Kと比べて、排出口323の通過時におけるシート37の撓みが小さくなる。そのため、厚みのある硬貨Kほど強い付勢力が与えられるのに対し、薄い硬貨Kほど弱い付勢力が与えられる。
【0074】
一般に、厚みのある硬貨Kほど、遠心力によって得られる勢いが強く、搬送ローラ351及び352への衝突による衝撃や、硬貨Kの前方を搬送中の別の硬貨Kとの衝突による衝撃が強く、またこれらの衝突による硬貨Kの逆流が生じやすい。それゆえ、シート37の長さを調節して、シート37が硬貨Kの厚みに応じて適切な付勢力を硬貨Kに与えるようにすることで、搬送ローラ351及び搬送ローラ352と硬貨Kとの衝突により発生する衝撃を緩和できる。また、硬貨Kの前方を搬送中の別の硬貨Kとの衝突により、硬貨K間で発生する衝撃を緩和できる。その結果、硬貨Kを円滑に排出することが可能となる。また上記衝突による硬貨Kの逆流を効果的に防止することが可能となる。
【0075】
図13、
図14(a)、及び
図14(b)に示すように、排出口323に硬貨Kが滞留すると、搬送ローラ351及び搬送ローラ352へ硬貨Kを円滑に送れなくなることで、硬貨収納出金装置1(
図1参照)の対応する室内へ硬貨Kを円滑に供給できなくなる可能性がある。この場合、回転板321が逆回転(逆回転方向Y2に回転)される。逆回転方向Y2は、正回転方向Y1(
図11参照)と反対の方向である。
【0076】
回転板321が逆回転すると、排出口323から周壁部322の外部へはみ出た硬貨Kのうち、周壁部322の内部に残存している部分が、回転板321から逆回転方向Y2に摩擦力(静止摩擦力)を受ける。従って、排出口323から周壁部322の外部へはみ出た硬貨Kを、回転板321と共に逆回転方向Y2へ回転させて、周壁部322の内部へ戻すことができる。その結果、排出口323に硬貨Kが滞留している状態を解消することができる。
【0077】
次に、
図15~
図18(b)を参照して、従来の硬貨搬送装置Gが排出口G3を通じて硬貨Kを排出する手順について説明する。
【0078】
図15に示すように、硬貨搬送装置Gは、本実施形態の周壁部322に相当する周壁部G1と、本実施形態の回転板321に相当する回転板G2と、本実施形態の排出口323に相当する排出口G3とを備える。また、シートHは、本実施形態のシートHに相当する。
【0079】
図15は、硬貨Kが周壁部G1の内部から排出口G3を介して周壁部G1の外部に排出されている状態を示す図である。
図16(a)は、
図15に示すシートHを矢印R1方向から見た図である。矢印R1方向は、本実施形態の矢印R方向に相当する。接線L1は、本実施形態の接線Lに相当する。
図16(b)は、
図16(a)に示す状態の平面図である。
図17は、排出口G3から周壁部G1の外部へはみ出た硬貨Kが周壁部G1の内部に戻されている状態を示す図である。
図18(a)は、
図17に示すシートHを矢印R1方向から見た図である。
図18(b)は、
図18(a)に示す状態の平面図である。
【0080】
図15、
図16(a)、及び
図16(b)に示すように、シートHは、周壁部G1の外周面に固定されることで、周壁部G1の外周面に対して傾斜しておらず、周壁部G1の外周面に沿うように設けられる。シートHは、回転板G2の回転軸の軸方向から見て、接線L1に対して傾斜しておらず、接線L1に略沿うように設けられる。
【0081】
硬貨Kが排出口G3から排出される際、硬貨Kは、シートHのシート面H1に対向せず、シートHの厚みを構成する部分である厚み部分H2に対向する。
【0082】
シートHは、周壁部G1の外周面に固定され、周壁部G1の外周面に沿うように設けられる。シートHは、回転板G2の回転軸の軸方向から見て、接線L1に対して傾斜しておらず、接線L1に略沿うように設けられる。
【0083】
硬貨Kが排出口G3から排出されるとき、硬貨Kの上面がシートHの下端部H3に触れる。このとき、硬貨KがシートHの厚み部分H2に接触する。これにより、シートHの下端部H3が、シートHの面方向Wの一方側W1(排出方向)に撓みを生じる。その結果、シートHが硬貨Kに対して、硬貨Kの排出方向と逆方向(戻り方向)の付勢力を与えるため、硬貨Kの排出方向への勢いが抑制される。面方向Wは、シート面H1に対して平行な方向であり、シートHの厚み方向に対して垂直な方向である。一方側W1は、排出口G3からの硬貨Kの排出方向と略同じ方向である。
【0084】
図17、
図18(a)、及び
図18(b)に示すように、排出口G3に硬貨Kが滞留すると、硬貨Kの滞留を解消するために、回転板G2が逆回転される。
【0085】
図14(a)~
図18(b)を参照して、本実施形態の硬貨搬送装置30と、従来の硬貨搬送装置Gとを比較する。
【0086】
図14(a)、
図14(b)及び
図15に示すように、回転板321が逆回転することで、排出口323から周壁部322の外部へはみ出た硬貨Kが周壁部322の内部へ戻る際、シート37の下端部37bが、シート37の厚み部分37cではなく、シート面37aに接触する。これにより、シート37の下端部37bが、厚み方向Uの他方側U2(戻り方向)に撓みを生じる。その結果、シート37が硬貨Kに対して、排出方向に付勢力F1を与えるため、硬貨Kの逆流方向(周壁部322の内部へ戻る方向)への勢いが抑制される。
【0087】
図17、
図18(a)、及び
図18(b)に示すように、回転板G2が逆回転することで、排出口G3から周壁部G1の外部へはみ出た硬貨Kが周壁部G1の内部へ戻る際、シートHの下端部H3が、シート面H1ではなく、シートHの厚み部分H2に接触する。これにより、シートHの下端部H3が、面方向Wの他方側W2(戻り方向)に撓みを生じる。その結果、シートHが硬貨Kに対して、排出方向に付勢力F2を与えるため、戻り方向(硬貨Kが周壁部G1の内部へ戻る方向)への勢いが抑制される。
【0088】
通常、シート37は、厚み方向U(
図14(a)参照)の方が、面方向W(
図16(a)参照)よりも、撓みやすく、弾性率が小さい。これにより、厚み方向Uの復元力である付勢力F1の方が、面方向Wの復元力である付勢力F2よりも小さくなる(F1<F2)。従って、本実施形態の硬貨搬送装置30の方が、従来の硬貨搬送装置Gよりも、周壁部322の内部へ硬貨Kを戻す処理を行う際に、硬貨Kを戻す処理の妨げとなる付勢力を抑えることができる。その結果、本実施形態の硬貨搬送装置30の方が、従来の硬貨搬送装置Gよりも、周壁部322の内部へ硬貨Kを円滑に戻すことができるので、排出口323に硬貨Kが滞留した状態を効果的に解消することができる。
【0089】
以上、
図1~
図18(b)を参照して説明したように、シート37は、周壁部322の外周面322aに対して傾斜する(
図8参照)。これにより、
図13、
図14(a)、及び
図14(b)に示すように、周壁部322の内部へ硬貨Kを戻す際、シート37の厚み部分37cではなく、シート面37aに硬貨Kを接触させることができる。すなわち、厚み部分37c及びシート面37aのうち、容易に撓む方であるシート面37aへ硬貨Kを接触させることができる。その結果、付勢力F1の増加を抑制できるので、周壁部322の内部へ硬貨Kを円滑に戻すことができる。
【0090】
以上、図面(
図1~
図18(b))を参照しながら本発明の実施形態について説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明の形成が可能である。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の個数等は、図面作成の都合から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、硬貨搬送装置、及び、釣銭入出金機の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0092】
30 硬貨搬送装置
36 シート
100 釣銭入出金機
322 周壁部
322a 外周面
323 排出口
K 硬貨