IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

特許7297171非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等
<>
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図1
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図2
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図3
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図4
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図5
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図6
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図7
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図8
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図9
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図10
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図11
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図12
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図13
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図14
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図15
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図16
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図17
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図18
  • 特許-非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-15
(45)【発行日】2023-06-23
(54)【発明の名称】非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20230616BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20230616BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230616BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20230616BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230616BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0525
H01M10/48 P
H01G11/50
H01G11/06
【請求項の数】 29
(21)【出願番号】P 2022560999
(86)(22)【出願日】2022-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2022021950
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2021201108
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021201107
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021201089
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100190137
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 仁郎
(72)【発明者】
【氏名】平岡 浩一
(72)【発明者】
【氏名】中村 文哉
(72)【発明者】
【氏名】大越 隆介
(72)【発明者】
【氏名】森川 裕介
【審査官】儀同 孝信
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-047587(JP,A)
【文献】特開2018-056410(JP,A)
【文献】特開2014-032825(JP,A)
【文献】特開2015-228324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 10/0525
H01M 10/48
H01G 11/50
H01G 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法であって、
前記非水系リチウム蓄電素子は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを含み、
前記方法は、前記セルのドープ中の炭酸リチウムの分解状態に基づいてドープ後の非水系リチウム蓄電素子の性能を予測する手法に用いられ、
前記方法は、前記セルのドープ中に測定された前記セルの電圧及び電流に基づいて、前記セルのコンデンサ電流I及び炭酸リチウムの分解反応並びにその他の副反応を含む電極反応電流Iを算出する工程を含む、電流分離方法。
【請求項2】
予測方法であって、
前記予測方法は、請求項1における前記セルのドープ中の炭酸リチウムの分解状態に基づいてドープ後の非水系リチウム蓄電素子の性能を予測するものであり、そして、請求項1に記載の電流分離方法により算出されたコンデンサ電流I及び電極反応電流Iから算出されるパラメータを用いる工程を含む、予測方法。
【請求項3】
予測方法であって、
前記予測方法は、請求項1に記載の電流分離方法により算出されたコンデンサ電流I及び炭酸リチウムの分解反応並びにその他の副反応を含む電極反応電流Iから算出されるパラメータを用いる工程を含む、ドープ中の炭酸リチウムの分解状態に基づいたドープ後の非水系リチウム蓄電素子の性能を予測する予測方法。
【請求項4】
前記予測方法は、以下:
前記セルのドープ中に、前記セルの正極電位E(V)を測定する、測定工程と、
前記セルの測定された正極電位E(V)に基づいて、前記セルのコンデンサ電流I(A)を算出する工程と、
定電流(CC)充電領域における、前記コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、前記コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、パラメータ算出工程と、
前記パラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習した学習済モデルに、算出された前記パラメータを入力し、非水系リチウム蓄電素子の性能を出力する予測工程であって、前記性能は、セル容量、セル抵抗及び自己放電性能からなる群から選択される少なくとも一つを含む、予測工程とを含む、請求項2に記載の予測方法。
【請求項5】
前記予測方法は、以下:
前記セルのドープ中に、前記セルの正極電位E(V)及びバルク電流I(A)を測定する、測定工程と、
前記セルの測定された正極電位E(V)に基づいて、前記セルのコンデンサ電流I(A)を算出し、前記バルク電流I(A)から前記コンデンサ電流IC(A)を差し引くことにより、前記セルの電極反応電流Id(A)を算出する工程と、
定電流(CC)充電領域における、前記コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、前記コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、前記電極反応電流Id(A)の積算容量パラメータ、前記電極反応電流Id(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、パラメータ算出工程と、
前記パラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習した学習済モデルに、算出された前記パラメータを入力し、非水系リチウム蓄電素子の性能を出力する予測工程であって、前記性能は、セル容量、セル抵抗及び自己放電性能からなる群から選択される少なくとも一つを含む、予測工程とを含む、請求項2に記載の予測方法。
【請求項6】
前記コンデンサ電流I(A)は、下記式:
【数1】
{式中、Iはコンデンサ電流(A)、Cは前記セルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは前記測定された正極電位E(V)であり、tは時間(s)である。}により算出され、
前記パラメータ算出工程では、前記測定された正極電位E(V)から算出される前記コンデンサ電流I(A)に基づいて、又は前記測定された正極電位E(V)に基づいて、前記パラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、請求項4に記載の予測方法。
【請求項7】
前記予測方法は、以下:
(1)入力電流又は入力電圧を含むドープ条件を設定する、ドープ条件設定工程と、
(2)前記セルに前記入力電流又は前記入力電圧を印加しつつ、前記セルの正極電位E(V)及びバルク電流密度i(A/m)を測定する、測定工程と、
(3)前記セルの測定された正極電位E(V)に基づき、系の時間をΔt変化させたときの仮定された正極電位E(V)を仮定して、下記式:
【数2】
{式中、Iはコンデンサ電流(A)、Cは前記セルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは前記仮定された正極電位E(V)であり、tは時間(s)である。}により、前記セルのコンデンサ電流I(A)を算出し、前記コンデンサ電流I(A)を正極前駆体面積(m)で除することで前記セルのコンデンサ電流密度i(A/m)を算出し、そして、炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応の電極反応1の電流密度iR1(A/m)、及び副反応の電極反応2~N(Nは3以上の整数)の電流密度iR2(A/m)~電流密度iRN(A/m)を、バトラー-フォルマー式及び拡散方程式に基づいて算出する、電流算出工程と、
(4)前記コンデンサ電流密度iと各電極反応の電流密度iR1~iRNとの合計電流密度が前記バルク電流密度iに等しくなるように、前記仮定された正極電位E(V)を修正して、修正された正極電位E(V)を得る、正極電位修正工程と、
(5)系の時間を変化させて、前記合計電流密度が前記バルク電流密度iに収束するように工程(3)及び(4)を繰り返す、電流分離工程と、
を含み、
前記パラメータ算出工程では、前記仮定された正極電位E(V)から算出される前記コンデンサ電流I(A)に基づいて、又は前記修正された正極電位E(V)に基づいて、前記パラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、請求項4に記載の予測方法。
【請求項8】
前記パラメータ群のそれぞれのパラメータは、定電流(CC)充電領域において、正極電位E(V)がx(V)~y(V){x及びyは、それぞれ独立に3.3V以上3.8V以下、かつx<yである。}の範囲で算出される、請求項4に記載の予測方法。
【請求項9】
前記工程(3)における前記算出は、以下の基準:
(i)前記測定された正極電位E(V)が電極反応x(xは1~Nに対応)の開始電位未満であれば、電極反応xの電流密度iRxは生じていない(0A/m)とし、
(ii)前記測定された正極電位E(V)が電極反応xの開始電位以上である場合、バトラー-フォルマー式により電極反応xの電流密度を求め、当該電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合、当該電流密度を電極反応xの電流密度iRxとし、そして
(iii)前記(ii)により求められる電流密度が電極反応xの限界電流密度以上である場合、拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により求められる電流密度を電極反応xの電流密度iRxとすることにより行う、請求項7に記載の予測方法。
【請求項10】
請求項4に記載の学習済モデルを用いた非水系リチウム蓄電素子の製造条件予測方法であって、
前記非水系リチウム蓄電素子は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを含み、
前記学習済モデルに、非水系リチウム蓄電素子の要求される性能を入力する工程と、
前記学習済モデルに、前記要求される性能を入力し、電極製造条件、ドープ条件、エージング条件及びセル設計からなる群から選択される少なくとも一つの製造条件を出力する工程と、を実行させることを含む、製造条件予測方法。
【請求項11】
請求項4に記載の学習済みモデルの製造方法であって、前記方法は、
炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有する非水系リチウム蓄電素子のセルをドープする工程と、
前記セルのドープ工程から得られる、定電流(CC)充電領域における、電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、前記電極反応電流I(A)の電流容量(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータ群、或いは、
定電流(CC)充電領域における、前記コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、前記コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群を算出する工程と、
算出された前記少なくとも一つのパラメータと、ドープ工程後の前記セルの性能データとを教師データとして機械学習モデルに入力し、前記少なくとも一つのパラメータと前記性能データとの相関を学習させる工程と、
を含む、学習済みモデルの製造方法。
【請求項12】
前記電極反応電流I(A)は、下記式:
【数3】
{式中、Iはコンデンサ電流(A)、Cは前記セルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは前記測定された正極電位(V)であり、tは時間(s)であり、Iはバルク電流(A)である。}により算出され、
前記パラメータ算出工程では、前記測定された正極電位E(V)から算出される前記電極反応電流I(A)に基づいて、又は前記測定された正極電位E(V)に基づいて、前記パラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、請求項に記載の予測方法。
【請求項13】
前記予測方法は、以下:
(1)入力電流又は入力電圧を含むドープ条件を設定する、ドープ条件設定工程と、
(2)前記セルに前記入力電流又は前記入力電圧を印加しつつ、前記セルの正極電位E(V)及びバルク電流I(A)を測定する、測定工程と、
(3)前記セルの測定された正極電位E(V)に基づき、系の時間をΔt変化させたときの仮定された正極電位E(V)を仮定して、下記式:
【数4】
{式中、Iはコンデンサ電流(A)、Cは前記セルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは前記仮定された正極電位(V)であり、tは時間(s)であり、Iはバルク電流(A)である。}により、前記セルのコンデンサ電流I(A)及び電極反応電流I(A)を算出し、前記バルク電流I(A)及び前記コンデンサ電流I(A)を正極前駆体面積(m)で除することでバルク電流密度i(A/m)及びコンデンサ電流密度i(A/m)を算出し、そして、炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応の電極反応1の電流密度iR1(A/m)、及び副反応の電極反応2~N(Nは3以上の整数)の電流密度iR2(A/m)~電流密度iRN(A/m)を、バトラー-フォルマー式及び拡散方程式に基づいて算出する、電流算出工程と、
(4)前記コンデンサ電流密度iと各電極反応の電流密度iR1~iRNとの合計電流密度が前記バルク電流密度iに等しくなるように、前記仮定された正極電位E(V)を修正して、修正された正極電位E(V)を得る、正極電位修正工程と、
(5)系の時間を変化させて、前記合計電流密度が前記バルク電流密度iに収束するように工程(3)及び(4)を繰り返す、電流分離工程と、
を含み、
前記パラメータ算出工程では、前記仮定された正極電位E(V)から算出される前記電極反応電流I(A)に基づいて、又は前記修正された正極電位E(V)に基づいて、前記パラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、請求項4に記載の予測方法。
【請求項14】
前記パラメータ群のそれぞれのパラメータは、定電流(CC)充電領域において、正極電位E(V)がx(V)~y(V){x及びyは、それぞれ独立に3.8Vより大きく、かつx<yである。}の範囲で算出される、請求項4に記載の予測方法。
【請求項15】
前記工程(3)における前記算出は、以下の基準:
(i)前記測定された正極電位E(V)が電極反応x(xは1~Nに対応)の開始電位未満であれば、電極反応xの電流密度iRxは生じていない(0A/m)とし、
(ii)前記測定された正極電位E(V)が電極反応xの開始電位以上である場合、バトラー-フォルマー式により電極反応xの電流密度を求め、当該電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合、当該電流密度を電極反応xの電流密度iRxとし、そして
(iii)前記(ii)により求められる電流密度が電極反応xの限界電流密度以上である場合、拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により求められる電流密度を電極反応xの電流密度iRxとすることにより行う、請求項13に記載の予測方法。
【請求項16】
前記基準(ii)における電極反応1~電極反応Nのバトラー-フォルマー式は、
【数5】
{式中、iRxは電極反応x(xは1~Nに対応)の電流密度(A/m)であり、i0xは、電極反応xの交換電流密度(A/m)、CRx及びCeRxは、電極反応xの還元体表面濃度(mol/m)及び還元体バルク濃度(mol/m)、mxは反応次数(=1)、αは電極反応xの対称因子、nは電極反応xの価数、Fはファラデー定数、Rは気体定数、Tは温度(K)、ηは電極反応xの過電圧(V)、Eは前記仮定された正極電位(V)、そしてE eqは電極反応xの開始電位(V)である。}によって表され、
前記基準(iii)における電極反応1~電極反応Nの拡散方程式は、
【数6】
{式中、tは時間(s)であり、CRxは、電極反応x(xは1~Nに対応)の還元体表面濃度(mol/m)であり、Dは還元体の拡散係数(m/s)であり、rは拡散層の厚み(m)である。}
によって表され、
ただし、r=0のとき、
【数7】
{式中、C Rxは、還元体バルク濃度(mol/m)である。}とし、r=L(拡散層厚)のとき、
【数8】
{式中、nは電極反応xの価数であり、Fはファラデー定数であり、Qは還元体の物質流束(mol/ms)であり、そしてiRxは電極反応xの電流密度(A/m)である。}
とする、請求項1に記載の予測方法。
【請求項17】
前記副反応は、水の分解反応である電極反応、及び電解液溶媒の分解反応である電極反応を含む、請求項16に記載の予測方法。
【請求項18】
前記非水系リチウム蓄電素子の耐久性能を予測する為に用いる学習済みモデルが、
前記セルのドープ工程から得られる、
定電流(CC)充電領域における、電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、前記電極反応電流I(A)の電流容量(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータ群、或いは、
定電流(CC)充電領域における、前記コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、前記コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群と、
電極製造条件と、ドープ条件と、エージング条件と、セル設計と、セル性能との相関を学習した学習済モデルである請求項15に記載の予測方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法に基づいて得られる、学習済モデル。
【請求項20】
非水系リチウム蓄電素子の性能を予測するシステムであって、
請求項1に記載の非水系リチウム蓄電素子を用い、
前記システムは、以下:
前記セルの正極電位E(V)を測定する測定装置、及び/又は前記セルの正極電位E(V)及びバルク電流I(A)を測定する測定装置と、
前記測定装置によって測定される正極電位E(V)に基づいて、セルの電極反応電流I (A)を算出し、かつ、
定電流(CC)充電領域において、電極反応電流I (A)の積算容量パラメータ、電極反応電流I (A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなる少なくとも一つのパラメータを含む前記パラメータ群を算出し、そして、
前記パラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の前記性能との相関を学習した学習済モデルから、算出された前記パラメータと一致するサンプルを抽出し、非水系リチウム蓄電素子の前記性能を予測する、演算装置と、
前記算出及び予測を前記演算装置に実行させるためのプログラム、パラメータ及び学習済モデルを記憶する記憶装置と、
前記予測結果を出力する出力装置と、
を含む、システム。
【請求項21】
非水系リチウム蓄電素子の製造方法であって、前記方法は、
非水系リチウム蓄電素子をドープする際に、請求項2~18のいずれか1項に記載の予測方法により、セル容量、セル抵抗及び自己放電性能からなる群から選択される少なくとも一つの性能を予測することを含み、かつ、
予測された前記性能の検査を行わない、
非水系リチウム蓄電素子の製造方法。
【請求項22】
請求項4に記載の学習済モデルを用いた非水系リチウム蓄電素子の製造条件予測方法であって、
前記非水系リチウム蓄電素子は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを含み、
前記学習済モデルに、非水系リチウム蓄電素子の要求される性能を入力する工程と、
前記学習済モデルに、前記要求される性能を入力し、電極製造条件、ドープ条件、エージング条件及びセル設計からなる群から選択される少なくとも一つの製造条件を出力する工程と、を実行させることを含む、製造条件予測方法。
【請求項23】
請求項4に記載の学習済みモデルの製造方法であって、前記方法は、
炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有する非水系リチウム蓄電素子のセルをドープする工程と、
前記セルのドープ工程から得られる、定電流(CC)充電領域における、電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、前記電極反応電流I(A)の電流容量(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータ群、或いは、
定電流(CC)充電領域における、前記コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、前記コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群を算出する工程と、
算出された前記少なくとも一つのパラメータと、ドープ工程後の前記セルの性能データとを教師データとして機械学習モデルに入力し、前記少なくとも一つのパラメータと前記性能データとの相関を学習させる工程と、
を含む、学習済みモデルの製造方法。
【請求項24】
非水系リチウム蓄電素子のセル状態の判定方法であって、
請求項1に記載の非水系リチウム蓄電素子を用い、
前記方法は、以下:
(S1)セル温度及び入力電圧を含むドープ条件を設定する、ドープ条件設定工程と、
(S2)前記セルに前記入力電圧を印加しつつ、前記セルの正極電位E(V)及びバルク電流密度i(A/m)を測定する、測定工程と、
(S3)請求項1に記載の電流分離方法であって、当該電流分離方法が、前記工程(2)で測定された前記セルの正極電位E及びバルク電流密度iと正極前駆体面積(m)とに基づき、前記セルのコンデンサ電流Iと電極反応由来の電流Iとを、下記式:
【数9】
{式中、Iはバルク電流(A)、iはバルク電流密度(A/m)、Iは電極反応由来の電流(A)、iは電極反応由来の電流密度(A/m)、Iはセルのコンデンサ電流(A)、iはセルのコンデンサ電流密度(A/m)であり、Cはコンデンサ容量(F)であり、Eはセルの正極電位E(V)であり、tは時間(s)である。}
より電流分離により算出する、電流算出工程と、
(S4)前記電極反応由来の電流Iの時間変化(dI/dt)から前記セルの状態を判定する、状態判定工程と、
を含むセル状態の判定方法。
【請求項25】
上記状態判定工程では、
前記セルのコンデンサ電流I、及び前記電極反応由来の電流Iから選択される少なくとも1つの積算容量値を基準に前記セルの状態を判定するか、または、
前記セルのコンデンサ電流I、及び前記電極反応由来の電流Iから選択される少なくとも1つの積算容量値を含む学習モデルから要求特性に近似するサンプル情報を抽出して前記セルの状態を判定する、
請求項24に記載のセル状態の判定方法。
【請求項26】
前記電極反応由来の電流Iは、以下:
主反応:炭酸リチウムの分解反応、
副反応1:水の分解反応、および
副反応2:電解液溶媒の分解反応、
を主成分とする電極反応から構成され、かつ
上記状態判定工程での判定の基準となる特定の電流の積算容量値が、以下:
主反応の電流の積算容量値が5Ah/m以上10Ah/m以下、
副反応1の電流の積算容量値が0.01Ah/m以上0.3Ah/m以下、または
副反応2の電流の積算容量値が0.05Ah/m以上0.5Ah/m以下、
のいずれかである、請求項24に記載のセル状態の判定方法。
【請求項27】
前記電極反応由来の電流Iは、以下:
主反応:炭酸リチウムの分解反応、
副反応1:水の分解反応、および
副反応2:電解液溶媒の分解反応、
を主成分とする電極反応から構成され、
上記主成分は以下の手順:
(SS3)系の時間を△t変化させたときの正極電位E(V)を仮定して、セルのコンデンサ電流密度i(A/m)を算出し、かつ、炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応、水の分解反応である副反応1、電解液溶媒の分解反応である副反応2の各電流を、下記基準に基づいて算出する、電流密度算出工程と、
(SS4)前記コンデンサ電流iと各電極反応の電流密度iR1~iRNとの合計電流密度が前記バルク電流密度iに等しくなるように、仮定された前記正極電位Eを修正して、修正された正極電位Eを得る、正極電位修正工程と、
(SS5)系の時間を変化させて、前記合計電流密度が前記バルク電流密度iに収束するように工程(SS3)及び(SS4)を繰り返す、電流分離工程と、
で規定され、かつ
前記工程(SS3)における前記下記基準とは、以下:
(i)前記測定された正極電位Eが電極反応x(xは1~Nに対応)の開始電位未満であれば、電極反応xの電流密度iRxは生じていない(0A/m)とし、
(ii)前記測定された正極電位Eが電極反応xの開始電位以上である場合、バトラー-フォルマー式により電極反応xの電流密度を求め、当該電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合、当該電流密度を電極反応xの電流密度iRxとし、そして
(iii)前記(ii)により求められる電流密度が電極反応xの限界電流密度以上である場合、拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により求められる電流密度を電極反応xの電流密度iRxとすることである、請求項24に記載のセル状態の判定方法。
【請求項28】
前記電極反応由来の電流Iは、以下:
主反応:炭酸リチウムの分解反応、
副反応1:水の分解反応、および
副反応2:電解液溶媒の分解反応、
を主成分とする電極反応から構成され、
上記主成分は以下の手順:
(SS3)系の時間を△t変化させたときの正極電位E(V)を仮定して、セルのコンデンサ電流密度i(A/m)を算出し、かつ、炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応、水の分解反応である副反応1、電解液溶媒の分解反応である副反応2の各電流を、下記基準に基づいて算出する、電流密度算出工程と、
(SS4)前記コンデンサ電流iと各電極反応の電流密度iR1~iRNとの合計電流密度が前記バルク電流密度iに等しくなるように、仮定された前記正極電位Eを修正して、修正された正極電位Eを得る、正極電位修正工程と、
(SS5)系の時間を変化させて、前記合計電流密度が前記バルク電流密度iに収束するように工程(SS3)及び(SS4)を繰り返す、電流分離工程と、
で規定され、かつ
前記工程(SS3)における前記下記基準とは、以下:
(i)前記測定された正極電位Eが電極反応x(xは1~Nに対応)の開始電位未満であれば、電極反応xの電流密度iRxは生じていない(0A/m)とし、
(ii)前記測定された正極電位Eが電極反応xの開始電位以上である場合、バトラー-フォルマー式により電極反応xの電流密度を求め、当該電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合、当該電流密度を電極反応xの電流密度iRxとし、そして
(iii)前記(ii)により求められる電流密度が電極反応xの限界電流密度以上である場合、拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により求められる電流密度を電極反応xの電流密度iRxとすることである、請求項24に記載のセル状態の判定方法。
【請求項29】
請求項2~28のいずれか1項に記載のセル状態の判定方法を含む非水系リチウム蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、予測方法及びシステム等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全又は省資源を目指すエネルギーの有効利用の観点から、風力発電の電力平滑化システム又は深夜電力貯蔵システム、太陽光発電技術に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車用の蓄電システム等が注目を集めている。これらの蓄電システムに用いられる電池は、エネルギー密度が高いことが要求される。このような要求に対応可能な高エネルギー密度電池の有力候補として、非水系リチウム蓄電素子の開発が精力的に進められている。
【0003】
非水系リチウム蓄電素子の製造方法は、一般に、正極活物質を含む正極活物質層を有する正極と、負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、正極及び負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを組み立てた後、リチウムイオンを負極活物質にドープするドープ工程を含む。従来の一般的なドープ方法は、リチウム金属箔を積層した負極活物質層を有する負極を用いてセルを組み立て、次いでセルに電圧を印加することによってリチウム金属箔を溶解し、リチウムイオンを負極活物質層に吸蔵させることを含む。近年では、例えば特許文献1に記載されるように、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体を用いてセルを組み立て、次いでセルに電圧を印加することによって炭酸リチウムを分解し、リチウムイオンを負極活物質に吸蔵させることを含む、炭酸リチウム分解型のドープ方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-167350号公報
【文献】特開2008-241246号公報
【文献】特開2019-114475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水系リチウム蓄電素子の性能(例えば、セル容量、セル抵抗、及び自己放電性能等)は、使用する材料が同じである場合、ドープ工程における電極反応の進行状況に大きく影響を受ける。炭酸リチウム分解型のドープ方法では、炭酸リチウムを分解する電極反応(主反応)だけでなく、様々な複数の電極反応が起こり、かつ、それぞれの電極反応の進行状況は、ドープ工程の進行に応じて変化すると考えられる。したがって、得られる非水系リチウム蓄電素子の性能を予測することは困難であった。
【0006】
一般的に、二次電池の充放電における内部状態を推定する手段としては、二次電池の電圧、電流、温度等の情報に基づいて、電極反応を電気化学的に推定する方法が挙げられる。例えば、引用文献2は、二次電池の充放電における電圧、電流および温度を検出し、電池モデルに従って内部状態を動的に推定し、これによって電池の充電率をより正確に推定する装置を記載している。引用文献3は、負極活物質の内部におけるリチウム濃度分布を算出するための電池モデル等を用いて負極電位を算出し、二次電池のSOC(State Of Charge)、充電期間における平均電流値、及び充電期間における積算電流値によって負極電位を補正することにより、リチウムイオン二次電池の負極へのリチウムの析出状態を推定する二次電池システムを記載している。しかしながら、非水系リチウム蓄電素子の炭酸リチウム分解型ドープ工程において、得られる非水系リチウム蓄電素子の性能を予測する方法はこれまでに存在しなかった。
【0007】
そこで、本開示は、炭酸リチウム分解型のドープ方法により製造される非水系リチウム蓄電素子の性能を予測することができる方法及びシステム等、また、これらに利用可能な電流分離方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の実施形態の例を以下に開示する。
[1]
非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法であって、
前記非水系リチウム蓄電素子は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを含み、
前記方法は、前記セルのドープ中に測定された前記セルの電圧及び電流に基づいて、前記セルのコンデンサ電流I及び電極反応電流Iを算出する工程を含む、電流分離方法。
[2]
前記方法は、項目1に記載の電流分離方法により算出されたコンデンサ電流I及び電極反応電流Iから算出されるパラメータを用いる工程を含む、予測方法。
[3]
前記方法は、以下:
前記セルのドープ中に、前記セルの正極電位E(V)を測定する、測定工程と、
前記セルの測定された正極電位E(V)に基づいて、前記セルのコンデンサ電流I(A)を算出する工程と、
定電流(CC)充電領域における、前記コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、前記コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、パラメータ算出工程と、
前記パラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習した学習済モデルに、算出された前記パラメータを入力し、非水系リチウム蓄電素子の性能を出力する予測工程であって、前記性能は、セル容量、セル抵抗及び自己放電性能からなる群から選択される少なくとも一つを含む、予測工程とを含む、項目1又は2に記載の予測方法。
[4]
前記コンデンサ電流I(A)は、下記式:
【数1】
{式中、Iはコンデンサ電流(A)、Cは前記セルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは前記測定された正極電位E(V)であり、tは時間(s)である。}により算出され、
前記パラメータ算出工程では、前記測定された正極電位E(V)から算出される前記コンデンサ電流I(A)に基づいて、又は前記測定された正極電位E(V)に基づいて、前記パラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、項目3に記載の予測方法。
[5]
前記方法は、以下:
(1)入力電流又は入力電圧を含むドープ条件を設定する、ドープ条件設定工程と、
(2)前記セルに前記入力電流又は前記入力電圧を印加しつつ、前記セルの正極電位E(V)及びバルク電流密度i(A/m)を測定する、測定工程と、
(3)前記セルの測定された正極電位E(V)に基づき、系の時間をΔt変化させたときの仮定された正極電位E(V)を仮定して、下記式:
【数2】
{式中、Iはコンデンサ電流(A)、Cは前記セルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは前記仮定された正極電位E(V)であり、tは時間(s)である。}により、前記セルのコンデンサ電流I(A)を算出し、前記コンデンサ電流I(A)を正極前駆体面積(m)で除することで前記セルのコンデンサ電流密度i(A/m)を算出し、そして、炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応の電極反応1の電流密度iR1(A/m)、及び副反応の電極反応2~N(Nは3以上の整数)の電流密度iR2(A/m)~電流密度iRN(A/m)を、バトラー-フォルマー式及び拡散方程式に基づいて算出する、電流算出工程と、
(4)前記コンデンサ電流密度iと各電極反応の電流密度iR1~iRNとの合計電流密度が前記バルク電流密度iに等しくなるように、前記仮定された正極電位E(V)を修正して、修正された正極電位E(V)を得る、正極電位修正工程と、
(5)系の時間を変化させて、前記合計電流密度が前記バルク電流密度iに収束するように工程(3)及び(4)を繰り返す、電流分離工程と、
を含み、
前記パラメータ算出工程では、前記仮定された正極電位E(V)から算出される前記コンデンサ電流I(A)に基づいて、又は前記修正された正極電位E(V)に基づいて、前記パラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、項目3又は4に記載の予測方法。
[6]
前記パラメータ群のそれぞれのパラメータは、定電流(CC)充電領域において、正極電位E(V)がx(V)~y(V){x及びyは、それぞれ独立に3.3V以上3.8V以下、かつx<yである。}の範囲で算出される、項目3~5のいずれか1項に記載の予測方法。
[7]
前記工程(3)における前記算出は、以下の基準:
(i)前記測定された正極電位E(V)が電極反応x(xは1~Nに対応)の開始電位未満であれば、電極反応xの電流密度iRxは生じていない(0A/m)とし、
(ii)前記測定された正極電位E(V)が電極反応xの開始電位以上である場合、バトラー-フォルマー式により電極反応xの電流密度を求め、当該電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合、当該電流密度を電極反応xの電流密度iRxとし、そして
(iii)前記(ii)により求められる電流密度が電極反応xの限界電流密度以上である場合、拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により求められる電流密度を電極反応xの電流密度iRxとすることにより行う、項目5又は6に記載の予測方法。
[8]
項目3~7のいずれか1項に記載の学習済モデルを用いた非水系リチウム蓄電素子の製造条件予測方法であって、
前記非水系リチウム蓄電素子は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを含み、
前記学習済モデルに、非水系リチウム蓄電素子の要求される性能を入力する工程と、
前記学習済モデルに、前記要求される性能を入力し、電極製造条件、ドープ条件、エージング条件及びセル設計からなる群から選択される少なくとも一つの製造条件を出力する工程と、を実行させることを含む、製造条件予測方法。
[9]
項目3~7のいずれか1項に記載の学習済みモデルの製造方法であって、前記方法は、
炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有する非水系リチウム蓄電素子のセルをドープする工程と、
前記セルのドープ工程から得られる、定電流(CC)充電領域における、電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、前記電極反応電流I(A)の電流容量(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータ群、或いは、
定電流(CC)充電領域における、前記コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、前記コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群を算出する工程と、
算出された前記少なくとも一つのパラメータと、ドープ工程後の前記セルの性能データとを教師データとして機械学習モデルに入力し、前記少なくとも一つのパラメータと前記性能データとの相関を学習させる工程と、
を含む、学習済みモデルの製造方法。
[10]
非水系リチウム蓄電素子の予測方法であって、
項目1~9のいずれか1項に記載の非水系リチウム蓄電素子を用い、
前記方法は、以下:
前記セルのドープ中に、前記セルの正極電位E(V)及びバルク電流I(A)を測定する、測定工程と、
前記セルの測定された正極電位E(V)に基づいてコンデンサ電流I(A)を算出し、前記バルク電流I(A)から前記コンデンサ電流I(A)を差し引くことにより、前記セルの電極反応電流I(A)を算出する工程と、
定電流(CC)充電領域における、前記電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、前記電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、パラメータ算出工程と、
前記パラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の耐久性能との相関を学習した学習済モデルに、算出された前記パラメータを入力し、非水系リチウム蓄電素子の耐久性能を出力する、予測工程と
を含む、予測方法。
[11]
前記電極反応電流I(A)は、下記式:
【数3】
{式中、Iはコンデンサ電流(A)、Cは前記セルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは前記測定された正極電位(V)であり、tは時間(s)であり、Iはバルク電流(A)である。}により算出され、
前記パラメータ算出工程では、前記測定された正極電位E(V)から算出される前記電極反応電流I(A)に基づいて、又は前記測定された正極電位E(V)に基づいて、前記パラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、項目10に記載の予測方法。
[12]
前記方法は、以下:
(1)入力電流又は入力電圧を含むドープ条件を設定する、ドープ条件設定工程と、
(2)前記セルに前記入力電流又は前記入力電圧を印加しつつ、前記セルの正極電位E(V)及びバルク電流I(A)を測定する、測定工程と、
(3)前記セルの測定された正極電位E(V)に基づき、系の時間をΔt変化させたときの仮定された正極電位E(V)を仮定して、下記式:
【数4】
{式中、Iはコンデンサ電流(A)、Cは前記セルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは前記仮定された正極電位(V)であり、tは時間(s)であり、Iはバルク電流(A)である。}により、前記セルのコンデンサ電流I(A)及び電極反応電流I(A)を算出し、前記バルク電流I(A)及び前記コンデンサ電流I(A)を正極前駆体面積(m)で除することでバルク電流密度i(A/m)及びコンデンサ電流密度i(A/m)を算出し、そして、炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応の電極反応1の電流密度iR1(A/m)、及び副反応の電極反応2~N(Nは3以上の整数)の電流密度iR2(A/m)~電流密度iRN(A/m)を、バトラー-フォルマー式及び拡散方程式に基づいて算出する、電流算出工程と、
(4)前記コンデンサ電流密度iと各電極反応の電流密度iR1~iRNとの合計電流密度が前記バルク電流密度iに等しくなるように、前記仮定された正極電位E(V)を修正して、修正された正極電位E(V)を得る、正極電位修正工程と、
(5)系の時間を変化させて、前記合計電流密度が前記バルク電流密度iに収束するように工程(3)及び(4)を繰り返す、電流分離工程と、
を含み、
前記パラメータ算出工程では、前記仮定された正極電位E(V)から算出される前記電極反応電流I(A)に基づいて、又は前記修正された正極電位E(V)に基づいて、前記パラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する、項目10又は11に記載の予測方法。
[13]
前記パラメータ群のそれぞれのパラメータは、定電流(CC)充電領域において、正極電位E(V)がx(V)~y(V){x及びyは、それぞれ独立に3.8Vより大きく、かつx<yである。}の範囲で算出される、項目12に記載の予測方法。
[14]
前記工程(3)における前記算出は、以下の基準:
(i)前記測定された正極電位E(V)が電極反応x(xは1~Nに対応)の開始電位未満であれば、電極反応xの電流密度iRxは生じていない(0A/m)とし、
(ii)前記測定された正極電位E(V)が電極反応xの開始電位以上である場合、バトラー-フォルマー式により電極反応xの電流密度を求め、当該電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合、当該電流密度を電極反応xの電流密度iRxとし、そして
(iii)前記(ii)により求められる電流密度が電極反応xの限界電流密度以上である場合、拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により求められる電流密度を電極反応xの電流密度iRxとすることにより行う、項目12又は13に記載の予測方法。
[15]
前記基準(ii)における電極反応1~電極反応Nのバトラー-フォルマー式は、
【数5】
{式中、iRxは電極反応x(xは1~Nに対応)の電流密度(A/m)であり、i0xは、電極反応xの交換電流密度(A/m)、CRx及びCeRxは、電極反応xの還元体表面濃度(mol/m)及び還元体バルク濃度(mol/m)、mxは反応次数(=1)、αは電極反応xの対称因子、nは電極反応xの価数、Fはファラデー定数、Rは気体定数、Tは温度(K)、ηは電極反応xの過電圧(V)、Eは前記仮定された正極電位(V)、そしてE eqは電極反応xの開始電位(V)である。}によって表され、
前記基準(iii)における電極反応1~電極反応Nの拡散方程式は、
【数6】
{式中、tは時間(s)であり、CRxは、電極反応x(xは1~Nに対応)の還元体表面濃度(mol/m)であり、Dは還元体の拡散係数(m/s)であり、rは拡散層の厚み(m)である。}
によって表され、
ただし、r=0のとき、
【数7】
{式中、C Rxは、還元体バルク濃度(mol/m)である。}とし、r=L(拡散層厚)のとき、
【数8】

{式中、nは電極反応xの価数であり、Fはファラデー定数であり、Qは還元体の物質流束(mol/ms)であり、そしてiRxは電極反応xの電流密度(A/m)である。}
とする、項目14に記載の予測方法。
[16]
前記副反応は、水の分解反応である電極反応、及び電解液溶媒の分解反応である電極反応を含む、項目12~15のいずれか1項に記載の予測方法。
[17]
前記非水系リチウム蓄電素子の耐久性能を予測する為に用いる学習済みモデルが、
前記セルのドープ工程から得られる、
定電流(CC)充電領域における、電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、前記電極反応電流I(A)の電流容量(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータ群、或いは、
定電流(CC)充電領域における、前記コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、前記コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群と、
電極製造条件と、ドープ条件と、エージング条件と、セル設計と、前記セル性能との相関を学習した学習済モデルである項目10~16のいずれか1項に記載の予測方法。
[18]
項目1~17のいずれか1項に記載の方法に基づいて得られる、学習済モデル。
[19]
非水系リチウム蓄電素子の性能を予測するシステムであって、
項目1~18のいずれか1項に記載の非水系リチウム蓄電素子を用い、
前記システムは、以下:
前記セルの正極電位E(V)を測定する測定装置、及び/又は前記セルの正極電位E(V)及びバルク電流I(A)を測定する測定装置と、
前記測定装置によって測定される正極電位E(V)に基づいて、前記パラメータ群を算出し、そして、
前記パラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の前記性能との相関を学習した学習済モデルから、算出された前記パラメータと一致するサンプルを抽出し、非水系リチウム蓄電素子の前記性能を予測する、演算装置と、
前記算出及び予測を前記演算装置に実行させるためのプログラム、パラメータ及び学習済モデルを記憶する記憶装置と、
前記予測結果を出力する出力装置と、
を含む、システム。
[20]
非水系リチウム蓄電素子の製造方法であって、前記方法は、
非水系リチウム蓄電素子をドープする際に、項目2~17のいずれか1項に記載の予測方法により、セル容量、セル抵抗及び自己放電性能からなる群から選択される少なくとも一つの性能を予測することを含み、かつ、
予測された前記性能の検査を行わない、
非水系リチウム蓄電素子の製造方法。
[21]
項目10~20のいずれか1項に記載の学習済モデルを用いた非水系リチウム蓄電素子の製造条件予測方法であって、
前記非水系リチウム蓄電素子は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを含み、
前記学習済モデルに、非水系リチウム蓄電素子の要求される性能を入力する工程と、
前記学習済モデルに、前記要求される性能を入力し、電極製造条件、ドープ条件、エージング条件及びセル設計からなる群から選択される少なくとも一つの製造条件を出力する工程と、を実行させることを含む、製造条件予測方法。
[22]
項目10~21のいずれか1項に記載の学習済みモデルの製造方法であって、前記方法は、
炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有する非水系リチウム蓄電素子のセルをドープする工程と、
前記セルのドープ工程から得られる、定電流(CC)充電領域における、電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、前記電極反応電流I(A)の電流容量(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータ群、或いは、
定電流(CC)充電領域における、前記コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、前記コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群を算出する工程と、
算出された前記少なくとも一つのパラメータと、ドープ工程後の前記セルの性能データとを教師データとして機械学習モデルに入力し、前記少なくとも一つのパラメータと前記性能データとの相関を学習させる工程と、
を含む、学習済みモデルの製造方法。
[23]
非水系リチウム蓄電素子のセル状態の判定方法であって、
項目1~22のいずれか1項に記載の非水系リチウム蓄電素子を用い、
前記方法は、以下:
(S1)セル温度及び入力電圧を含むドープ条件を設定する、ドープ条件設定工程と、
(S2)前記セルに前記入力電圧を印加しつつ、前記セルの正極電位E(V)及びバルク電流密度i(A/m)を測定する、測定工程と、
(S3)項目1に記載の電流分離方法であって、当該電流分離方法が、前記工程(2)で測定された前記セルの正極電位E及びバルク電流密度iと正極前駆体面積(m)とに基づき、前記セルのコンデンサ電流Iと電極反応由来の電流Iとを、下記式:
【数9】
{式中、Iはバルク電流(A)、iはバルク電流密度(A/m)、Iは電極反応由来の電流(A)、iは電極反応由来の電流密度(A/m)、Iはセルのコンデンサ電流(A)、iはセルのコンデンサ電流密度(A/m)であり、Cはコンデンサ容量(F)であり、Eはセルの正極電位E(V)であり、tは時間(s)である。}
より電流分離により算出する、電流算出工程と、
(S4)前記電極反応由来の電流Iの時間変化(dI/dt)から前記セルの状態を判定する、状態判定工程と、
を含むセル状態の判定方法。
[24]
上記状態判定工程では、
前記セルのコンデンサ電流I、及び前記電極反応由来の電流Iから選択される少なくとも1つの積算容量値を基準に前記セルの状態を判定するか、または、
前記セルのコンデンサ電流I、及び前記電極反応由来の電流Iから選択される少なくとも1つの積算容量値を含む学習モデルから要求特性に近似するサンプル情報を抽出して前記セルの状態を判定する、
項目23に記載のセル状態の判定方法。
[25]
前記電極反応由来の電流Iは、以下:
主反応:炭酸リチウムの分解反応、
副反応1:水の分解反応、および
副反応2:電解液溶媒の分解反応、
を主成分とする電極反応から構成され、かつ
上記状態判定工程での判定の基準となる特定の電流の積算容量値が、以下:
主反応の電流の積算容量値が5Ah/m以上10Ah/m以下、
副反応1の電流の積算容量値が0.01Ah/m以上0.3Ah/m以下、または
副反応2の電流の積算容量値が0.05Ah/m以上0.5Ah/m以下、
のいずれかである、項目23又は24に記載のセル状態の判定方法。
[26]
前記電極反応由来の電流Iは、以下:
主反応:炭酸リチウムの分解反応、
副反応1:水の分解反応、および
副反応2:電解液溶媒の分解反応、
を主成分とする電極反応から構成され、
上記主成分は以下の手順:
(SS3)系の時間を△t変化させたときの正極電位E(V)を仮定して、セルのコンデンサ電流密度i(A/m)を算出し、かつ、炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応、水の分解反応である副反応1、電解液溶媒の分解反応である副反応2の各電流を、下記基準に基づいて算出する、電流密度算出工程と、
(SS4)前記コンデンサ電流iと各電極反応の電流密度iR1~iRNとの合計電流密度が前記バルク電流密度iに等しくなるように、仮定された前記正極電位Eを修正して、修正された正極電位Eを得る、正極電位修正工程と、
(SS5)系の時間を変化させて、前記合計電流密度が前記バルク電流密度iに収束するように工程(SS3)及び(SS4)を繰り返す、電流分離工程と、
で規定され、かつ
前記工程(SS3)における前記基準とは、以下:
(i)前記測定された正極電位Eが電極反応x(xは1~Nに対応)の開始電位未満であれば、電極反応xの電流密度iRxは生じていない(0A/m)とし、
(ii)前記測定された正極電位Eが電極反応xの開始電位以上である場合、バトラー-フォルマー式により電極反応xの電流密度を求め、当該電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合、当該電流密度を電極反応xの電流密度iRxとし、そして
(iii)前記(ii)により求められる電流密度が電極反応xの限界電流密度以上である場合、拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により求められる電流密度を電極反応xの電流密度iRxとすることである、項目23~25のいずれか1項に記載のセル状態の判定方法。
[27]
前記電極反応由来の電流Iは、以下:
主反応:炭酸リチウムの分解反応、
副反応1:水の分解反応、および
副反応2:電解液溶媒の分解反応、
を主成分とする電極反応から構成され、
上記主成分は以下の手順:
(SS3)系の時間を△t変化させたときの正極電位E(V)を仮定して、セルのコンデンサ電流密度i(A/m)を算出し、かつ、炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応、水の分解反応である副反応1、電解液溶媒の分解反応である副反応2の各電流を、下記基準に基づいて算出する、電流密度算出工程と、
(SS4)前記コンデンサ電流iと各電極反応の電流密度iR1~iRNとの合計電流密度が前記バルク電流密度iに等しくなるように、仮定された前記正極電位Eを修正して、修正された正極電位Eを得る、正極電位修正工程と、
(SS5)系の時間を変化させて、前記合計電流密度が前記バルク電流密度iに収束するように工程(SS3)及び(SS4)を繰り返す、電流分離工程と、
で規定され、かつ
前記工程(SS3)における前記基準とは、以下:
(i)前記測定された正極電位Eが電極反応x(xは1~Nに対応)の開始電位未満であれば、電極反応xの電流密度iRxは生じていない(0A/m)とし、
(ii)前記測定された正極電位Eが電極反応xの開始電位以上である場合、バトラー-フォルマー式により電極反応xの電流密度を求め、当該電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合、当該電流密度を電極反応xの電流密度iRxとし、そして
(iii)前記(ii)により求められる電流密度が電極反応xの限界電流密度以上である場合、拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により求められる電流密度を電極反応xの電流密度iRxとすることである、項目23~26のいずれか1項に記載のセル状態の判定方法。
[28]
項目23~27のいずれか1項に記載のセル状態の判定方法を含む非水系リチウム蓄電素子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、炭酸リチウム分解型のドープ方法により製造される非水系リチウム蓄電素子の性能を予測することができる方法及びシステム等が提供される。また、本開示によれば、上記方法及びシステム等に利用可能な電流分離方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の非水系リチウム蓄電素子の性能予測方法の例を説明するフロー図である。
図2図2は、本開示の非水系リチウム蓄電素子の性能予測方法の好ましい態様を説明するフロー図である。
図3図3は、本開示の非水系リチウム蓄電素子の性能予測方法の好ましい態様を説明するフロー図である。
図4図4は、本開示の非水系リチウム蓄電素子の製造方法の例を説明するフロー図である。
図5図5は、本開示の非水系リチウム蓄電素子のセル状態判定方法の例を説明するフロー図である。
図6図6は、本開示の電流と時間の関係によるセル状態判定工程の例を説明するフロー図である。
図7図7は、本開示の各電極反応の電流密度を算出する工程の例を説明するフロー図である。
図8図8は、実施例におけるセル1のドープ工程におけるドープ時間(s)と電流密度(A/m)の関係を示すグラフである。
図9図9は、実施例におけるセル2のドープ工程におけるドープ時間(s)と電流密度(A/m)の関係を示すグラフである。
図10図10は、実施例におけるセル3のドープ工程におけるドープ時間(s)と電流密度(A/m)の関係を示すグラフである。
図11図11は、実施例におけるセル4のドープ工程におけるドープ時間(s)と電流密度(A/m)の関係を示すグラフである。
図12図12は、実施例におけるセル5のドープ工程におけるドープ時間(s)と電流密度(A/m)の関係を示すグラフである。
図13図13は、実施例におけるセル6のドープ工程におけるドープ時間(s)と電流密度(A/m)の関係を示すグラフである。
図14図14は、実施例で作製されたセル1のドープ工程中の各反応における電流密度の時間変化を表すグラフである。
図15図15は、実施例で作製されたセル2のドープ工程中の各反応における電流密度の時間変化を表すグラフである。
図16図16は、実施例で作製されたセル3のドープ工程中の各反応における電流密度の時間変化を表すグラフである。
図17図17は、実施例で作製されたセル4のドープ工程中の各反応における電流密度の時間変化を表すグラフである。
図18図18は、実施例で作製されたセル5のドープ工程中の各反応における電流密度の時間変化を表すグラフである。
図19図19は、実施例で作製されたセル6のドープ工程中の各反応における電流密度の時間変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
《非水系リチウム蓄電素子の性能予測方法》
本開示の非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法、性能予測方法(耐久性能予測方法を含む)及びセル状態判定方法等は、炭酸リチウム分解型のドープ方法により製造される非水系リチウム蓄電素子を対象とする。すなわち、本開示の電流分離方法、性能予測方法、及びセル状態判定方法等は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、上記正極前駆体及び上記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを含む、非水系リチウム蓄電素子を対象とする。炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体を用いることにより、ドープ工程で炭酸リチウムが分解してリチウムイオンを放出し、リチウムイオンを負極活物質に吸蔵させることができる。なお、本願明細書において、ドープ工程を完了する前の正極を「正極前駆体」といい、ドープ工程を完了した後の「正極」と区別する。本開示の性能予測方法は、単一のセルに対して行ってもよく、二以上のセルを含む非水系リチウム蓄電素子のセル-スタックに対して行うこともできる。本願明細書において、「セル」は、単セル及びセル-スタックを包含する。
【0012】
本開示の電流分離方法は、セルのドープ中に測定されたセルの電圧及び電流に基づいて、セルのコンデンサ電流I及び電極反応電流Iを算出する工程を含む。詳細には、本開示の性能予測方法は、上記電流分離方法により算出されたコンデンサ電流I及びその他電極反応電流Iから算出されるパラメータを用いる工程を含む。更に詳細には、本開示の予測方法は、図1に例示するように、(S2)ドープ中にセルの正極電位E(V)を測定する測定工程と、(S3)セルのコンデンサ電流I(A)及び電極反応電流I(A)を算出する電流算出工程と、(S6)上記コンデンサ電流I(A)及び電極反応電流I(A)又は正極電位E(V)に基づく少なくとも一つのパラメータを算出するパラメータ算出工程と、(S7)上記パラメータと非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習した学習済モデルを用いて非水系リチウム蓄電素子の性能を予測する予測工程とを含む。上記少なくとも一つのパラメータは、コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータ、又は電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される。各パラメータについて詳細は後述する。すなわち、本開示の性能予測方法は、正極前駆体及び負極のうち正極前駆体側に着目して、ドープ工程におけるバルク電流(セル全体の電流)からコンデンサ電流I(A)及び電極反応電流I(A)を計算上分離し、当該コンデンサ電流I(A)又は電極反応電流I(A)の影響を受けるパラメータ群のうち少なくとも一つのパラメータを利用する。コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、及びコンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータは、共にコンデンサ電流I(A)から導かれる。正極電位E(V)はコンデンサ電流I(A)の影響を受け、コンデンサ電流I(A)が変化するとこれに応じて変化するため、正極電位E(V)の時間変化パラメータもまたコンデンサ電流I(A)の影響を受けるパラメータ群として利用できる。電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、及び電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータは、共に電極反応電流I(A)から導かれる。正極電位E(V)は電極反応電流I(A)の影響を受け、電極反応電流I(A)が変化するとこれに応じて変化するため、正極電位E(V)の時間変化パラメータもまた電極反応電流I(A)の影響を受けるパラメータ群として利用できる。発明者らは、当該特定のパラメータ群が、非水系リチウム蓄電素子の性能、特にセル容量、セル抵抗及び自己放電性能、耐久性能と相関することを見いだした。特定のパラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習した学習済モデルを用いることにより、ドープ工程における電極反応の進行状況を考慮した非水系リチウム蓄電素子の性能予測が可能である。
【0013】
本開示の性能予測方法は、ドープ中に測定されるセルの正極電位E(V)からコンデンサ電流I(A)を算出してもよい。図2は、ドープ中に測定されるセルの正極電位E(V)からコンデンサ電流I(A)を算出する場合の、非水系リチウム蓄電素子の性能予測方法を説明するフロー図である。図2において、性能予測方法は、(S2)正極電位E(V)を測定する測定工程と、(S3)測定された正極電位(本願明細書において、「実測正極電位」ともいう。)E(V)からコンデンサ電流I(A)を算出する電流算出工程と、(S6)コンデンサ電流I(A)又は実測正極電位E(V)に基づく少なくとも一つのパラメータを算出するパラメータ算出工程と、(S7)パラメータと非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習した学習済モデルを用いて非水系リチウム蓄電素子の性能を予測する予測工程とを含んでもよい。
【0014】
本開示の性能予測方法は、ドープ中に測定されるセルの正極電位E(V)に基づいて仮定される正極電位からコンデンサ電流I(A)を算出してもよい。図3は、仮定される正極電位からコンデンサ電流I(A)を算出する場合の、非水系リチウム蓄電素子の性能予測方法を説明するフロー図である。図3において、性能予測方法は、(S1)ドープ条件設定工程と、(S2)正極電位E(V)及びバルク電流密度i(A/m)を測定する測定工程と、(S3)実測正極電位E(V)から仮定される正極電位(本願明細書において、「仮定正極電位」ともいう。)E(V)に基づき、コンデンサ電流I(A)、コンデンサ電流密度i(A/m)、及び各電極反応の電流密度iR1~iRN(A/m)を算出する電流算出工程と、(S4)バルク電流密度i(A/m)に基づいて仮定された正極電位を修正し、修正された正極電位(本願明細書において、「修正正極電位」ともいう。)を得る正極電位修正工程と、(S5)系の時間を変化させて工程(S3)及び(S4)を繰り返す電流分離工程と、(S6)工程(S3)によって算出されるコンデンサ電流I(A)に基づいて、又は工程(S4)によって得られる修正正極電位E(V)に基づいて、特定のパラメータ群のうち少なくとも一つのパラメータを算出する、パラメータ算出工程と、そして、(S7)パラメータと非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習した学習済モデルを用いて非水系リチウム蓄電素子の性能を予測する、予測工程とを含んでもよい。
【0015】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本開示の態様を説明するが、本開示の態様は図面の具体的態様に限定されるものではない。
【0016】
〈ドープ条件設定工程〉
ドープ条件設定工程(S1)は、入力電流(A)又は入力電圧(V)を含むドープ条件を設定する工程である。ドープ条件としては、入力電流(A)及び入力電圧(V)の他にも、セル温度(℃)、バルク電流密度(A/m)、及びセル圧力(kgf/cm)等が挙げられる。ドープ条件の設定及び調整は、セルに接続された充放電機、温度調整装置及び圧力調整装置等の条件調整装置で行うことができる。
【0017】
「セル温度」は、セルの外装体の温度で測定される系の温度である。セル温度は、好ましくは25℃以上、30℃以上、又は35℃以上、好ましくは80℃以下、75℃以下、70℃以下、又は65℃以下の範囲から選択される。セル温度が25℃以上であれば、正極前駆体に含まれる炭酸リチウムが効率よく分解され、リチウムイオンのドープを速やかに行うことができる。セル温度が80℃以下であれば、電解液の分解が抑制でき、非水系リチウム蓄電素子の抵抗を低くすることができる。
【0018】
「入力電圧」は、ドープ工程でセルに印加する外部電源の電圧である。入力電圧は、好ましくは4.0V以上、4.2V以上、又は4.4V以上、好ましくは5.0V以下、4.8V以下、又は4.6V以下の範囲から選択される。入力電圧が4.0V以上であれば、正極前駆体に含まれる炭酸リチウムが効率よく分解され、リチウムイオンのドープを速やかに行うことができる。電圧が5.0V以下であれば、ドープ工程での微短絡を抑制できる。
【0019】
「バルク電流」は、ドープ工程でセル全体に流れる電流の総量である。バルク電流は、Cレートで換算して、好ましくは0.1C以上、1C以上、又は10C以上、100C以下、50C以下、40C以下、又は30C以下の範囲から選択される。バルク電流が1C以上であれば、正極前駆体に含まれる炭酸リチウムが効率よく分解され、リチウムイオンのドープを速やかに行うことができる。バルク電流が100C以下であれば、正極前駆体にかかる電圧が高くなり過ぎず、正極集電体の腐食を抑制できる。
【0020】
「バルク電流密度」は、バルク電流を正極前駆体面積(正極活物質層の面積)で除した値である。正極前駆体面積とは、詳細には正極活物質層が負極に対向する面積である。バルク電流密度は、好ましくは0.04A/m以上、0.4A/m以上、又は1.3A/m以上であり、好ましくは45A/m以下、40A/m以下、又は35A/m以下の範囲から選択される。バルク電流密度が0.4A/m以上であれば、正極前駆体に含まれる炭酸リチウムが効率よく分解され、リチウムイオンのドープを速やかに行うことができる。バルク電流密度が45A/m以下であれば、正極前駆体にかかる電圧が高くなり過ぎず、正極集電体の腐食を抑制できる。
【0021】
「セル圧力」は、ドープ工程において、任意に、セルの外装体の外側から、電極の面に対して垂直方向に加えられる力による圧力である。セル圧力によって、電極間距離及び保液量が変動し、電極表面におけるLiイオンの滞留や、電極のたわみなどから生じる局所電解強度の増減により、電極反応速度や電極反応種に影響を与える。セル圧力は、好ましくは0.1kgf/cm以上、0.5kgf/cm以上、又は1kgf/cm以上、1000kgf/cm以下、100kgf/cm以下、又は10kgf/cm以下の範囲から選択される。セル圧力が0.1kgf/cm以上であると、正極前駆体および負極の歪みが圧力により矯正され、対向する正極前駆体と負極との距離が面内で均一になるため、ドープが均一に行われ、得られる非水系リチウム蓄電素子の耐久性が向上するため好ましい。圧力が1000kgf/cm以下であれば、正極前駆体、負極及びセパレータ等のセルを構成する部材に与えるダメージが低減される。
【0022】
ドープ工程における充電方式としては、定電流充電、及び定電圧充電が挙げられる。例えば、ドープ工程の開始~初期は定電流充電により正極電圧を上昇させ、正極電圧が任意の値に到達した時点から定電圧充電に切り替えることができる。これによって、セルの正極電圧が必要以上に高くならず、電解液の分解などの好ましくない副反応の発生を抑制することができる。本開示の方法は、定電流充電及び定電圧充電のいずれにも用いることができる。ドープ工程の開始~初期は正極電位の上昇に伴い各副反応が起こりやすく、主反応の進行状況を推定する必要性が高いため、本開示の方法は、ドープ工程の開始から定電圧充電に切り替える前の、定電流充電の段階に用いることが効果的である。
【0023】
ドープ工程の継続時間は、入力電圧の印加を開始した時点から測定して、好ましくは0.5時間以上、1時間以上、又は1.5時間以上、好ましくは30時間以下、10時間以下、又は5時間以下である。ドープ工程の継続時間が0.5時間以上であればリチウムイオンのドープを充分に進行させることができる。ドープ工程の継続時間が30時間以下であれば、電解液の分解などの好ましくない副反応が抑制でき、得られる非水系リチウム蓄電素子の抵抗を低くすることができる。
【0024】
ドープ工程の開始~初期に定電流充電を行う場合、定電流充電の継続時間は、好ましくは15分以上、30分以上、又は1時間以上、好ましくは4時間以下、3時間以下、又は2時間以下である。これらの範囲内であれば、ドープ工程を速やかに行い、かつセルの正極電圧が過度に高くならず副反応を抑制することができる。定電流充電から定電圧充電への切り替えは、実測正極電位が、好ましくは4.3V以上、4.4V以上、又は4.5V以上、好ましくは4.9V以下、4.8V以下、又は4.7V以下である。
【0025】
〈測定工程〉
測定工程(S2)は、ドープ中に、少なくともセルの正極電位E(V)を測定する工程である。測定工程(S2)は、セルの正極電位E(V)及びバルク電流密度i(A/m)を測定してもよい。ドープ中、セルには入力電圧が印加される。入力電圧を印加することにより、正極前駆体に存在する炭酸リチウムを分解してリチウムイオンを放出し、負極活物質へのリチウムイオンのドープを行うことができる。測定工程では、セルの正極電位及びバルク電流密度以外にも、セル温度(℃)、及びセル圧力(kgf/cm)等を測定することができる。各物性の測定は、必要に応じてセルのそれぞれの測定個所に接続された、電圧線、参照電極、電流線、熱電対及び圧力計等の測定装置で行うことができる。
【0026】
セルの正極電位E(V)の測定は、限定されないが、セルの正極及び負極端子に電圧線を接続してセル電圧を測定するとともに、リチウム参照電極をセル中に入れて参照電極電位を測定することにより測定することができる。あるいは、正極電位E(V)は、参照電極を入れずにセル電圧を測定することにより推算してもよい。本開示の測定される正極電位E(V)は、参照電極により直接測定される正極電位と、セル電圧の測定等から間接的に求められる正極電位を包含する。セルのバルク電流密度i(A/m)は、セルの正極及び負極端子に電流線を接続してバルク電流(A)を測定し、これを正極前駆体面積(正極活物質層の面積)で除することにより測定することができる。本願明細書において、測定工程で測定される正極電位を「実測正極電位」、測定されるバルク電流密度を「実測バルク電流密度」という。
【0027】
〈電流算出工程〉
電流算出工程(S3)は、実測正極電位に基づいて、少なくともコンデンサ電流I(A)を算出する工程である。実測正極電位に基づいてコンデンサ電流I(A)を算出する方法としては、(a)実測正極電位から直接コンデンサ電流I(A)を算出する方法と、(b)実測正極電位から仮定される仮定正極電位からコンデンサ電流I(A)を算出する方法とが挙げられる。電流算出工程は、セルの条件調整装置及び測定装置等の外部機器に接続された情報処理装置(コンピュータ)で行うことができる。
【0028】
(a)の場合におけるコンデンサ電流Iの算出について説明する。「コンデンサ電流」は、セルの正極前駆体にコンデンサとして電気二重層が形成される際に流れる電流である。ここで、蓄えられる電荷をQ(C)、コンデンサ容量をC(F/m)、正極電位をE(V)とすると、Q=CEであるから、この両辺を時間微分することにより、
【数10】
すなわち、
【数11】
の関係が成り立つ。式(2)中、Iはコンデンサ電流(A)、Cはセルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは測定された正極電位E(V)であり、tは時間(s)である。コンデンサ容量C(F/m)は、正極前駆体に使用する活性炭を含む正極活物質の種類及び量に応じて設定することができる。
【0029】
(b)の場合におけるコンデンサ電流I等の算出について説明する。(b)の場合、上記実測正極電位の測定時点において系の時間をΔt変化させたときの仮定正極電位E(V)を仮定し、これに基づいてセルのコンデンサ電流I(A)を算出するほか、コンデンサ電流密度i(A/m)、及び仮定されるN種の電極反応のそれぞれの電流密度iR1(A/m)~電流密度iRN(A/m)を算出する。
【0030】
正極電位の仮定は、ある時点における実測正極電位、入力電圧及び実測バルク電流密度等に基づいて、系の時間をΔt変化させたときの実測正極電位の変化を仮定することにより行うことができる。以下に再掲する式(2):
【数12】
において、Eとして仮定された正極電位E(V)を用いることにより、仮定正極電位からコンデンサ電流I(A)を算出することができる。
【0031】
コンデンサ電流密度iは、式(2)より求められるコンデンサ電流I(A)を、正極前駆体面積(正極活物質層の面積)(m)で除することにより算出することができる。
【0032】
仮定される複数の電極反応として、合計でN種の電極反応1~Nがあると仮定すると、Nは、好ましくは3以上、又は4以上、好ましくは10以下、又は5以下である。Nが3以上であると、主反応の進行状況をより正確に推定することができ、Nが10以下であると、算出される各電流密度の合計を実測バルク電流密度に収束させることが容易である。Nは、より好ましくは3又は4である。
【0033】
ドープ工程における正極前駆体での電極反応は、還元体(Red)がnモルの電子(e)を放出して酸化体(Ox)へと酸化される電極反応:
Red → Ox + ne
として一般化することができる。仮定される複数の電極反応は、少なくとも、炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する電極反応を主反応(電極反応1)として含む。主反応は、例えば、
LiCO+ solvent → 2Li + 2CO + C + 2e
と仮定することができる。式中、「solvent」は電解液溶媒、「C」は、電解液溶媒からCOが引き抜かれた有機化合物であり、好ましくは、xは1~5、yは2~10、zは1~3である。
【0034】
電解液溶媒としてエチレンカーボネート(EC)が系中に存在する場合には、主反応は、例えば、
LiCO + EC → 2Li + 2CO + C +2e
と仮定することができる。当該炭酸リチウムの分解反応では、還元体はEC、電荷は2である。
【0035】
仮定される複数の電極反応は、主反応以外の副反応を少なくとも1つ含む。副反応としては、例えば、水の分解反応、電解液溶媒の分解反応、及びリチウム塩の分解反応等が挙げられる。水の分解反応は、典型的には活性炭中に含まれる水に由来し、好ましくは、
O → H + ・OH + e
と仮定することができる。式中、「・OH」は、ヒドロキシラジカルである。当該水の分解反応では、還元体はHO、電荷は1である。
【0036】
電解液溶媒の分解反応は、例えば、
solvent → (solvent**) + H +e
と仮定することができる。式中、「solvent」は電解液溶媒、「(solvent**)」は、電解液溶媒から水素が引き抜かれた酸化体(ラジカル)である。このような電解液溶媒の分解反応では、還元体は電解液溶媒、電荷は1である。電解液溶媒として、例えばエチレンカーボネートの場合、分解反応は、
【化1】
と仮定することができる。当該エチレンカーボネートの分解反応では、還元体はEC、電荷は1である。
【0037】
リチウム塩の分解反応としては、非水系電解液に含まれるリチウム塩の分解反応が挙げられる。リチウム塩として、例えばLiPFの場合、分解反応は、
O + LiPF → LiF + 2HF + POF、あるいは
LiCO + LiPF → 3LiF + CO + POF
等と仮定することができる。当該LiPFの分解反応では、還元体はLiPFである。
【0038】
ある電極反応x(xは1~Nに対応)の電流密度iRx(A/m)は、対象の電極反応が反応律速にあると判断されるときにはバトラー-フォルマー式に基づいて、拡散律速にあると判断されるときには拡散方程式に基づいて求めることができる。より詳細に、電流密度iRx(A/m)は、以下に説明する基準(i)~(iii)に基づいて算出することができる。
(i)測定された正極電位Eが電極反応x(xは1~Nに対応)の開始電位未満であれば、電極反応xの電流密度iRxは生じていない(0A/m)とし、
(ii)測定された正極電位Eが電極反応xの開始電位以上である場合、バトラー-フォルマー式により電極反応xの電流密度を求め、当該電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合、当該電流密度を電極反応xの電流密度iRxとし、そして
(iii)上記(ii)により求められる電流密度が電極反応xの限界電流密度以上である場合、拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により求められる電流密度を電極反応xの電流密度iRxとする。
【0039】
基準(i)について:
基準(i)は、実測正極電位が電極反応xの開始電位未満であれば、電極反応xの電流密度iRxは生じていない(0A/m)とすることである。正極前駆体における電極反応は電子の放出を含む反応であり、セルの正極電位E(V)が当該電極反応xの開始電位E eq(V)以上であるとき(すなわち、電極反応xに対して過電圧(V)が生じているとき)に進行することができる。ドープ工程の開始~初期の段階では、実測正極電位の上昇に伴い、開始電位E eq(V)の小さい電極反応から順に起こり、電流密度を生じさせると考えられる。したがって、主反応の進行状況をより正確に推定するためには、仮定される複数の電極反応のそれぞれに、開始電位E eq(V)の値をパラメータとして設定することが好ましい。そして、セルの実測正極電位E(V)が開始電位E eq(V)未満のときには当該電極反応の電流密度iRxは0A/mとして考慮に入れず、開始電位E eq(V)以上となったら考慮に入れることができる。より具体的には、以下の基準(ii)及び(iii)に基づいて考慮に入れることができる。
【0040】
基準(ii)について:
基準(ii)とは、実測正極電位が電極反応xの開始電位以上である場合、バトラー-フォルマー式により電極反応xの電流密度を求め、当該電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合、当該電流密度を電極反応xの電流密度iRxとして採用することである。一般に、電極反応の進行は、電荷移動反応(電子授受反応)が律速となる反応律速段階、及び拡散(物質移動)が律速となる拡散律速段階により説明することができる。電極反応の反応速度は電極電位の指数関数であるのに対して、拡散などの物質移動の速度定数は電極電位に関係なく一定であると考えられる。電極表面近傍に反応物質が多く存在する電極反応開始~初期の段階では、拡散(物質移動)に関わらず電荷移動反応の速度が律速となり、電極電位の上昇とともに電流が指数関数的に増大する。そして、反応がある程度進行して電極表面近傍に存在する反応物質が少なくなると、拡散(物質移動)が律速となり、反応物質は電極表面に到達するや否や直ちに反応するような状況となる。このような拡散律速段階では、電極電位が上昇しても電流が上昇することはなく、ある限界値に到達する。この電流の限界値を、一般に「限界電流」、その電流密度を「限界電流密度」と呼ぶ。すなわち、基準(ii)において「電流密度が電極反応xの限界電流密度未満である場合」とは、電極反応が反応律速段階にあると判断される場合を意味している。
【0041】
反応律速段階では、バトラー-フォルマー式に基づいて、電流密度を推定することができる。以下、バトラー-フォルマー式の導出の例を説明する。まず、電極表面における一般的な電極反応:
【数13】
を想定する。電極反応によって生じる電流密度iの大きさは、還元体(Red)の酸化に対応する部分アノード電流密度i(A/m)、及び酸化体(Ox)の還元に対応する部分カソード電流密度i(A/m)の和であり、下式:
【数14】
で表される。
【0042】
電流というのは電荷の移動速度であるから、電極反応によって生じる電流は当該電極反応の反応速度に比例する。電極反応の反応速度は電極表面における反応物質の濃度に比例するから、部分アノード電流密度i(A/m)及び部分カソード電流密度i(A/m)は、ファラデーの法則に従い、それぞれ、
【数15】
と表すことができる。これらを式(3)に代入すると、
【数16】
となる。nは電極反応の価数、Fはファラデー定数、kox及びkredは、それぞれ酸化及び還元方向への速度定数、C及びCはそれぞれ電極表面における還元体濃度及び酸化体濃度である。
【0043】
電極反応の速度定数はアレニウス式に従い、さらに活性化エネルギーが電極電位により影響を受けることを考慮すれば、電極反応の酸化方向及び還元方向の速度定数kox及びkredは、それぞれ、
【数17】
と表される。kox°及びkred°は、それぞれ、電極電位がゼロのときの酸化方向及び還元方向の速度定数である。αは対称因子であり、αは酸化方向への移動係数、1-αは還元方向への移動係数を表している。また、Fはファラデー定数、Rは気体定数、Tは温度(K)である。式(4)に式(5)及び(6)を代入すると、
【数18】
となる。
【0044】
ところで、酸化反応の速度と還元反応の速度とが等しく、電極反応が速度論的に平衡状態にあるとき(電流密度i=0)、部分アノード電流密度(A/m)及び部分カソード電流密度(A/m)の大きさは等しくなる。これを交換電流密度iとすると、i=i=-iである。平衡状態におけるC及びCは、拡散層から十分に遠ざかった箇所における電解液中における反応物質の濃度(バルク濃度)C 及びC に等しいと考えられる。したがって、交換電流密度iは、
【数19】
と表すことができる。式(8)において、Eeqは、平衡電極電位(すなわち、酸化反応の開始電位)であり、C 及びC は、それぞれ還元体及び酸化体のバルク濃度である。
【0045】
式(7)を式(8)で割って整理すると、
【数20】
すなわち、
【数21】
との関係式が得られる。η(=E-Eeq)は、電極反応の過電圧(V)である。
【0046】
式(9)は、反応次数が1の場合の電極反応を対象としている。酸化反応の反応次数をm、還元反応の反応次数をl(エル)とすると、
【数22】
との関係式が得られる。このような、電極反応における過電圧と電流密度との指数関数的な関係を表す式は、一般に「バトラー-フォルマー式」と呼ばれる。
【0047】
以上は、一般の電極反応におけるバトラー-フォルマー式の導出例を説明した。次に、式(10)を、本開示の対象とする非水系リチウム蓄電素子のドープ方法における正極前駆体における電極反応xに適用する。ドープ工程において、入力電圧の印加により、電極反応xは酸化方向に進行する。この場合、反応初期においては、酸化体表面濃度C(mol/m)が酸化体バルク濃度C (mol/m)に等しいとみなすことができる。また、反応がある程度進行して正極電位が充分大きいときには式(10)の括弧内の第二項は第一項に対して充分小さく無視できるから、酸化体表面濃度C(mol/m)が酸化体バルク濃度C (mol/m)に等しいと仮定したままでよい。すると、以下:
【数23】
のバトラー-フォルマー式を得ることができる。式(11)中、iRxは電極反応x(xは1~Nに対応)の電流密度(A/m)であり、i0xは、電極反応xの交換電流密度(A/m)、CRx及びC Rxは、電極反応xの還元体表面濃度(mol/m)及び還元体バルク濃度(mol/m)、mは反応次数、αは電極反応xの対称因子、nは電極反応xの価数、Fはファラデー定数、Rは気体定数、Tは温度(K)、ηは電極反応xの過電圧(V)、Eは仮定された正極電位(V)、そしてE eqは電極反応xの開始電位(V)である。反応律速領域では、反応物質がリッチな状態なので、還元体表面濃度CRx(mol/m)は還元体バルク濃度C Rx(mol/m)に等しいとみなすことができる。
【0048】
上記式(11)は、本開示で適用しうるバトラー-フォルマー式の一例であり、過電圧と電流密度との指数関数的な関係を利用する限り、式を変形してもよい。例えば、上記式(11)は、1次元の拡散(線拡散)について記述したものであるが、これを2次元、又は3次元の拡散に拡張してもよい。
【0049】
バトラー-フォルマー式により電流密度をより正確に推定するためには、電極反応に応じて必要なパラメータを設定することが好ましい。例えば、式(11)によって電極反応x(xは1~Nに対応)の電流密度iRx(A/m)を算出するためには、電極反応xの交換電流密度i0x(A/m)、還元体表面濃度CRx(mol/m)、還元体バルク濃度C Rx(mol/m)、反応次数m、対称因子α、価数n、及び開始電位E eq(V)をパラメータとして設定することができる。温度T(K)は、パラメータとして設定してもよく、セル外装体から実測した値を使用してもよい。
【0050】
各パラメータは、電極反応が既知であればその電極反応の既知のパラメータを使用することができる。電極反応自体が未知の場合、又はパラメータが未知の場合には、算出される合計電流密度が実測バルク電流密度に収束することができる範囲で予め設定してもよい。
【0051】
炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応(電極反応1)について、開始電位E eq(V)は、好ましくは3.50V以上、3.60V以上、又は3.70V以上、好ましくは4.40V以下、4.30V以下、又は4.20V以下である。主反応の交換電流密度i01は、好ましくは3.00E-03A/m以上、3.50E-03A/m以上、又は4.00E-03A/m以上、好ましくは7.00E-03A/m以下、6.50E-03A/m以下、又は6.00E-03A/m以下である。主反応の還元体表面濃度CR1は、好ましくは50mol/m以上、250mol/m以上、又は450mol/m以上、好ましくは5000mol/m以下、3000mol/m以下、又は1500mol/m以下である。主反応の還元体バルク濃度C R1は、好ましくは100mol/m以上、300mol/m以上、又は500mol/m以上、好ましくは5000mol/m以下、3000mol/m以下、又は1500mol/m以下である。主反応の反応次数mは、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数、更に好ましくは1である。主反応の対称因子αは、好ましくは0.05以上、0.06以上、又は0.07以上、好ましくは0.15以下、0.12以下、又は0.10以下である。主反応の価数nは、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数である。
【0052】
例えば、主反応(電極反応1)として、
LiCO + EC → 2Li + 2CO + C +2e
を仮定する場合、反応次数mは1であり、価数nは2であり、還元体はエチレンカーボネート(EC)である。
【0053】
副反応として具体的な電極反応が明らかでない場合でも、各パラメータの値を設定して算出される合計電流密度の結果が実測バルク電流密度に収束することができる各パラメータの範囲を実験的に求めることができる。実験的に求められた各パラメータの値から、どのような副反応が起きているかを推定することも可能である。
【0054】
副反応(電極反応2~N)について、開始電位E eq(V)は、好ましくは2.50V以上、2.80V以上、又は3.00V以上、好ましくは4.00V以下、3.70V以下、又は3.50V以下である。副反応の交換電流密度i0xは、好ましくは0.10E-03A/m以上、0.30E-03A/m以上、又は0.50E-03A/m以上、好ましくは5.00E-03A/m以下、4.00E-03A/m以下、又は3.00E-03A/m以下である。副反応の還元体表面濃度CRxは、好ましくは0.001mol/m以上、0.01mol/m以上、又は0.1mol/m以上、好ましくは1000mol/m以下、500mol/m以下、又は100mol/m以下である。副反応の還元体バルク濃度C Rxは、好ましくは0.1mol/m以上、1mol/m以上、又は10mol/m以上、好ましくは1000mol/m以下、500mol/m以下、又は100mol/m以下である。副反応の反応次数mは、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数、更に好ましくは1である。副反応の対称因子αは、好ましくは0.10以上、0.15以上、又は0.20以上、好ましくは0.90以下、0.80以下、又は0.70以下である。副反応の価数nは、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数である。
【0055】
例えば、副反応1(電極反応2)として、水の分解反応:
O → H + ・OH + e
を仮定する場合、反応次数mは1であり、価数nは1であり、還元体は水(HO)である。当該電極反応2の開始電位E eq(V)は、好ましくは3.00V以上、3.10V以上、又は3.20V以上、好ましくは3.60V以下、3.50V以下、又は3.40V以下である。当該電極反応2の交換電流密度i02は、好ましくは0.10E-03A/m以上、0.30E-03A/m以上、又は0.50E-03A/m以上、好ましくは2.50E-03A/m以下、2.00E-03A/m以下、又は1.50E-03A/m以下である。当該電極反応2の還元体表面濃度CR2は、好ましくは0.001mol/m以上、0.01mol/m以上、又は0.1mol/m以上、好ましくは200mol/m以下、150mol/m以下、又は100mol/m以下である。当該電極反応2の還元体バルク濃度C R2は、好ましくは10mol/m以上、15mol/m以上、又は20mol/m以上、好ましくは200mol/m以下、150mol/m以下、又は100mol/m以下である。当該電極反応2の対称因子αは、好ましくは0.45以上、0.50以上、又は0.55以上、好ましくは0.75以下、0.70以下、又は0.65以下である。
【0056】
例えば、副反応2(電極反応3)として、エチレンカーボネートの分解反応:
【化2】
を仮定する場合、反応次数mは1であり、価数nは1であり、還元体はエチレンカーボネート(EC)である。当該電極反応3の開始電位E eq(V)は、好ましくは3.10V以上、3.20V以上、又は3.30V以上、好ましくは3.70V以下、3.60V以下、又は3.50V以下である。当該電極反応3の交換電流密度i03は、好ましくは0.10E-03A/m以上、0.30E-03A/m以上、又は0.50E-03A/m以上、好ましくは2.50E-03A/m以下、2.00E-03A/m以下、又は1.50E-03A/m以下である。当該電極反応3の還元体表面濃度CR3は、好ましくは0.001mol/m以上、0.01mol/m以上、又は0.1mol/m以上、好ましくは100mol/m以下、50mol/m以下、又は20mol/m以下である。当該電極反応3の還元体バルク濃度C R3は、好ましくは1mol/m以上、3mol/m以上、又は5mol/m以上、好ましくは100mol/m以下、50mol/m以下、又は20mol/m以下である。当該電極反応3の対称因子αは、好ましくは0.15以上、0.20以上、又は0.25以上、好ましくは0.45以下、0.40以下、又は0.35以下である。
【0057】
基準(iii)について:
基準(iii)とは、上記(ii)により求められる電流密度が、電極反応xの限界電流密度以上である場合、拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により求められる還元体表面濃度CRを用いて、バトラー-フォルマー式から電流密度を電極反応xの電流密度iRxとして採用することである。電極反応がある程度進行して電極電位が上昇しても、電極反応の電流密度は、その電極反応の限界電流密度を超えて上昇することはない。そのような段階では電極反応の速度は拡散(物質移動)が律速となっており、電流密度は拡散方程式で算出することができる。
【0058】
電極反応xの反応物質(還元体)は拡散層の厚みr方向に濃度勾配を持つから、反応物質(還元体)の物質流束Qは、フィックの第一法則により、下式:
【数24】
によって与えられる。式(12)中、Qは還元体の物質流束であり、Cは還元体表面濃度(mol/m)、rは拡散層の厚み(m)である。Dは還元体の拡散係数であり、電極表面からバルクまで(あるいはバルクから電極表面まで)還元体が移動する速度を表す。Dは温度依存性があり、電解液の性状、及び還元体の種類等に基づいて設定することができる。位置r=0(電極表面)のとき、拡散律速における反応物質(還元体)の物質流束Qと電流密度iとの関係は、フィックの法則により結びつけられ、下式:
【数25】
で表すことができる。式(13)において、nは電極反応の価数であり、Fはファラデー定数である。式(12)と(13)をまとめれば、下式:
【数26】
の関係式が得られる。
【0059】
位置rにおける還元体表面濃度CRxの時間変化(dCRx/dt)は、フィックの第二法則により、
【数27】
によって与えられる。式(15)中、CRxは還元体表面濃度(mol/m)であり、tは時間(s)であり、rは拡散層の厚み(m)であり、Dは還元体の拡散係数である。なお、式(15)において、Dは位置rによらず一定であるとみなしている。
【0060】
また、拡散律速において、位置r=L(拡散層厚)のとき、還元体表面濃度CRx(mol/m)は還元体バルク濃度C Rx(mol/m)に等しく、すなわち、
【数28】
とみなすことができる。
【0061】
式(16)をr=L(拡散層厚)のときの境界条件、式(14)をr=0(電極表面)のときの境界条件として、方程式(15)を解くと、拡散律速における還元体表面濃度CRxを求めることができる。そして、この拡散律速における還元体表面濃度CRxをバトラーボルマー式(11)に代入することで、拡散律速における電極反応x(xは1~Nに対応)の電流密度iRx(A/m)を求めることができる。
【0062】
上記式(14)~(16)は、本開示で適用しうる拡散方程式の一例であり、フィックの第一及び第二法則に基づく物質流束と濃度勾配との比例関係を利用する限り、式を変形してもよい。例えば、上記式(14)~(16)は、直交座標系1次元モデルにおける電極表面からの物質移動を記載したが、球座標系1次元モデルで還元体表面からの物質移動について記載してもよい。また、2次元モデル、3次元モデルに拡張してもよい。
【0063】
拡散方程式及びバトラー-フォルマー式により電流密度をより正確に推定するためには、電極反応に応じて必要なパラメータを設定することが好ましい。例えば、式(14)~(16)によって電極反応x(xは1~Nに対応)の電流密度iRx(A/m)を算出するためには、電極反応xの還元体の拡散係数D、拡散層厚L、還元体バルク濃度C Rx(mol/m)、及び価数nをパラメータとして設定することができる。ある電極反応について、拡散方程式におけるパラメータがバトラー-フォルマー式におけるパラメータと重複する場合、これらは異なってもよく(すなわち独立して設定してもよく)、又は同じ値であってもよい。
【0064】
各パラメータは、電極反応が既知であればその電極反応の既知のパラメータを使用することができる。電極反応自体が未知の場合、又はパラメータが未知の場合には、算出される合計電流密度が実測バルク電流密度に収束することができる範囲で予め設定してもよい。
【0065】
炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応(電極反応1)について、還元体の拡散係数Dは、好ましくは0.5E-10m/s以上、1.0E-10m/s以上、又は1.5E-10m/s以上、好ましくは4.0E-10m/s以下、3.0E-10m/s以下、又は2.0E-10m/s以下である。主反応の拡散層厚Lは、好ましくは0.10E-04m以上、0.50E-04m以上、又は0.80E-04m以上、好ましくは2.00E-04m以下、1.50E-04m以下、1.20E-04m以下である。主反応の還元体バルク濃度C R1(mol/m)は、好ましくは50mol/m以上、250mol/m以上、又は450mol/m以上、好ましくは5000mol/m以下、3000mol/m以下、又は1500mol/m以下である。主反応の価数nは、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数である。
【0066】
例えば、主反応(電極反応1)として、
LiCO + EC → 2Li + 2CO + C +2e
を仮定する場合、価数nは2であり、還元体はエチレンカーボネート(EC)である。当該電極反応1におけるエチレンカーボネート(EC)の拡散係数Dは、好ましくは1.0E-12m/s以上、1.0E-11m/s以上、又は1.0E-10m/s以上、好ましくは1.0E-9m/s以下、1.0E-8m/s以下、又は1.0E-7m/s以下である。
【0067】
副反応として具体的な電極反応が明らかでない場合でも、各パラメータの値を設定して算出される合計電流密度の結果が実測バルク電流密度に収束することができる各パラメータの範囲を実験的に求めることができる。実験的に求められた各パラメータの値から、どのような副反応が起きているかを推定することも可能である。
【0068】
副反応(電極反応2~N)について、還元体の拡散係数Dは、好ましくは1.0E-16m/s以上、1.0E-15m/s以上、又は1.0E-14m/s以上、好ましくは1.0E-7m/s以下、1.0E-8m/s以下、又は1.0E-9m/s以下である。副反応の拡散層厚Lは、好ましくは0.10E-04m以上、0.50E-04m以上、又は0.80E-04m以上、好ましくは2.00E-04m以下、1.50E-04m以下、1.20E-04m以下である。副反応の還元体バルク濃度C Rx(mol/m)は、好ましくは0.1mol/m以上、1mol/m以上、又は10mol/m以上、好ましくは2000mol/m以下、1500mol/m以下、又は1000mol/m以下である。副反応の反応次数mは、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数、更に好ましくは1である。副反応の価数nは、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1~3の整数である。
【0069】
例えば、副反応1(電極反応2)として、水の分解反応:
O → H + ・OH + e
を仮定する場合、価数nは1であり、還元体は水(HO)である。電極反応2における水(HO)の拡散係数Dは、好ましくは1.0E-13m/s以上、1.0E-12m/s以上、又は1.0E-11m/s以上、好ましくは1.0E-8m/s以下、1.0E-9m/s以下、又は1.0E-10m/s以下である。
【0070】
例えば、副反応2(電極反応3)として、エチレンカーボネートの分解反応:
【化3】
を仮定する場合、価数nは1であり、還元体はエチレンカーボネート(EC)である。電極反応3におけるエチレンカーボネート(EC)の拡散係数Dは、好ましくは1.0E-16m/s以上、1.0E-15m/s以上、又は1.0E-14m/s以上、好ましくは1.0E-11m/s以下、1.0E-12m/s以下、又は1.0E-13m/s以下である。
【0071】
〈正極電位修正工程〉
正極電位修正工程(S4)は、コンデンサ電流密度iと各電流密度i(A/m)との合計電流密度がバルク電流密度に等しくなるように、仮定正極電位E(V)を修正して、修正された正極電位E(V)(以下、単に「修正正極電位」ともいう。)を得る工程である。その測定時点におけるバルク電流密度をコンデンサ電流密度iと各電流密度i(A/m)の成分に分離することができる。これによって、その測定時点において、主反応及び副反応がどの程度起こっているかを推定することができる。正極電位修正工程は、電流算出工程と同様に情報処理装置で行うことができる。
【0072】
合計電流密度がバルク電流密度と等しくなる修正正極電位が存在しない場合には、バトラー-フォルマー式及び拡散方程式のパラメータの値を変更することができる。本開示の方法は、好ましくは、修正正極電位が存在するよう予め設定されたパラメータを用いる。
【0073】
〈電流分離工程〉
電流分離工程(S5)は、系の時間を変化させて、上記合計電流密度が上記バルク電流密度i(A/m)に収束するように電流算出工程及び正極電位修正工程を繰り返す工程である。すなわち、ある時間範囲に渡って、バルク電流密度をコンデンサ電流密度iと各電流密度i(A/m)の成分に分離するとともに、当該時間範囲における修正正極電位の挙動(変化)に関する情報を得ることができる。これによって、当該時間範囲において主反応及び副反応がどのタイミングでどの程度進行したかを推定することができる。電流分離工程は、電流算出工程及び正極電位修正工程と同様に、情報処理装置で行うことができる。
【0074】
合計電流密度がバルク電流密度に収束しない場合、バトラー-フォルマー式及び拡散方程式のパラメータの値を変更することができる。本開示の方法は、好ましくは、ドープ開始からドープ完了までの間の本開示の方法を適用する期間(対象期間)にわたって、合計電流密度がバルク電流密度に収束するよう予め設定されたパラメータを用いる。例えば、ドープ工程において最初に定電流充電を行い、その後低電圧充電を行う場合、バトラー-フォルマー式及び拡散方程式のパラメータは、定電流充電の工程に渡って合計電流密度がバルク電流密度に収束するよう予め設定されていることがより好ましい。
【0075】
〈コンデンサ電流に由来するパラメータ算出工程〉
パラメータ算出工程(S6)は、コンデンサ電流I(A)又は正極電位E(V)に基づいて、特定のパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する工程である。コンデンサ電流I(A)は、(a)実測正極電位から直接算出されたコンデンサ電流I(A)であるか、又は(b)実測正極電位から仮定される仮定正極電位から算出されたコンデンサ電流I(A)であることができる。正極電位E(V)は、実測正極電位であるか、又は仮定正極電位から修正された修正正極電位であることができる。パラメータ算出工程もまた、電流算出工程等と同様に、情報処理装置で行うことができる。
【0076】
パラメータ群としては、定電流(CC)充電領域における、コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータが挙げられる。
【0077】
コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータは、コンデンサ電流I(A)の時間変化のモデル関数を時間積分して得られる、イオン吸脱着由来の電流容量Q(mAh)である。積算容量パラメータは、正極電位E(V)が副反応の開始電位以上、主反応の開始電位以下の範囲で算出されることが好ましく、定電流(CC)充電領域において、正極電位E(V)がx(V)~y(V){ただし、x及びyは、それぞれ独立に3.3V以上3.8V以下、かつx<yである。}の範囲で算出されることがより好ましい。正極電位E(V)が3.3V以上3.8V以下の範囲では、バルク電流の内、副反応に対してコンデンサ電流I(A)の占める割合が比較的大きく、かつ副反応やその他の外的要因を受けてコンデンサ電流I(A)が増減しやすいため、セルの電流漏れなどの状態が反映されやすい。積算容量パラメータをこの電位範囲で算出することにより、コンデンサ電流I(A)の進行状況を考慮することができる。積算容量パラメータは、より具体的には、以下で表される。
【数29】
{式中、tは、定電流(CC)充電領域において正極電位E(V)が副反応の開始電位以上になった時間、好ましくは正極電位E(V)が3.3V以上になった時間であり、tは定電流(CC)充電領域において正極電位E(V)が主反応の開始電位になった時間、好ましくは正極電位E(V)が3.8V以上になった時間である。}
【0078】
コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータは、上記コンデンサ電流I(A)を時間積分して得られる電流容量Q(mAh)の正極電位変化のモデル関数から算出されるパラメータである。正極電位変化パラメータは、正極電位が副反応の開始電位以上、主反応の開始電位以下の範囲で算出されることが好ましい。パラメータ開始電位E(V)の算出方法は、電流分離から算出する、あるいは対象となるセルと同設計の正極を用いた単極のサイクリックボルタメトリ(CV)測定により算出することができる。正極電位変化パラメータは、定電流(CC)充電領域において、x正極電位E(V)がx(V)~y(V){ただし、x及びyは、それぞれ独立に3.3V以上3.8V以下、かつx<yである。}の範囲で算出されることが好ましい。正極電位変化パラメータとして、より具体的には、コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位微分(dQ/dE)である。
【0079】
正極電位E(V)の時間変化パラメータは、正極電位E(V)の経時的な変化に関するパラメータである。コンデンサ電流I(A)による影響を考慮するためには、時間変化パラメータは、定電流(CC)充電領域において、正極電位E(V)がx(V)~y(V){ただし、x及びyは、それぞれ独立に3.3V以上3.8V以下、かつx<yである。}の範囲で算出されることが好ましい。時間変化パラメータとして、より具体的には、例えば、時間-正極電位におけるモデル関数の時間微分(dE/dt)が挙げられる。
【0080】
〈電極反応電流に由来するパラメータ算出工程〉
パラメータ算出工程(S6)は、電極反応電流I(A)又は正極電位E(V)に基づいて、特定のパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する工程である。電極反応電流I(A)は、(a)実測正極電位から算出された電極反応電流I(A)であるか、又は(b)実測正極電位から仮定される仮定正極電位から算出された電極反応電流I(A)であることができる。正極電位E(V)は、実測正極電位であるか、又は仮定正極電位から修正された修正正極電位であることができる。パラメータ算出工程もまた、電流算出工程等と同様に、情報処理装置で行うことができる。
【0081】
パラメータ群としては、定電流(CC)充電領域における、電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータが挙げられる。パラメータ群としては、電流分離工程による正極電位E(V)のフィッティングで得られるパラメータを含んでもよい。
【0082】
電極反応電流I(A)の積算容量パラメータは、電極反応電流I(A)の時間変化のモデル関数を積算して得られる、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)である。積算容量パラメータは、正極電位E(V)が主反応の開始電位より大きい範囲で算出されることが好ましく、定電流(CC)充電領域において、正極電位E(V)がx(V)~y(V){ただし、x及びyは、それぞれ独立に3.8Vより大きく、かつx<yである。}の範囲で算出されることがより好ましい。主反応は正極電位E(V)が3.8Vより大きい電位で起こることが多いので、積算容量パラメータをこの電位範囲で算出することにより、主に主反応の進行状況を考慮することができる。積算容量パラメータは、より具体的には、以下で表される。
【数30】
{式中、tは、定電流(CC)充電領域において正極電位E(V)が主反応の開始電位より大きくなった時間、好ましくは正極電位E(V)が3.8Vより大きくなった時間であり、tは定電流(CC)充電を終了する時間である。}
【0083】
電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータは、上記電極反応電流I(A)を時間積分して得られる電流容量Q(mAh)の正極電位変化のモデル関数から算出されるパラメータである。正極電位変化パラメータは、好ましくは、正極電位が主反応の開始電位より大きい範囲で算出される。開始電位E(V)の算出方法は、電流分離から算出する、あるいは対象となるセルと同設計の正極を用いた単極のサイクリックボルタメトリ(CV)測定により算出することができる。正極電位変化パラメータは、定電流(CC)充電領域において、x正極電位E(V)がx(V)~y(V){ただし、x及びyは、それぞれ独立に3.8Vより大きく、かつx<yである。}の範囲で算出されることが好ましい。正極電位変化パラメータとして、より具体的には、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位微分(dQ/dE)である。
【0084】
正極電位E(V)の時間変化パラメータは、正極電位E(V)の経時的な変化に関するパラメータである。主反応による影響を考慮するためには、時間変化パラメータは、定電流(CC)充電領域において、x正極電位E(V)がx(V)~y(V){ただし、x及びyは、それぞれ独立に3.8Vより大きく、かつx<yである。}の範囲で算出されることが好ましい。時間変化パラメータとして、より具体的には、例えば、時間-正極電位におけるモデル関数の時間微分(dE/dt)が挙げられる。
【0085】
電流分離工程による正極電位E(V)のフィッティングで得られるパラメータとしては、主反応及び/又は副反応の、拡散係数D(m/s)、交換電流密度i(A/m)、対称因子α、還元体バルク濃度C(mol/m)及び開始電位Eeq(V)からなる群から選択される少なくとも一つが挙げられる。
【0086】
〈予測工程〉
予測工程は、上記特定のパラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習した学習済モデルに、算出されたパラメータを入力し、非水系リチウム蓄電素子の性能を出力する工程である(S7)。予測工程もまた、電流算出工程等と同様に、情報処理装置で行うことができる。
【0087】
非水系リチウム蓄電素子の性能としては、セル容量(mAh)、セル抵抗(mΩ)及び自己放電性能からなる群から選択される少なくとも一つを含む。非水系リチウム蓄電素子の性能としては、該非水系リチウム蓄電素子の耐久性能を含んでよい。自己放電性能は、自己放電係数で表すことができる。発明者らは、機械学習モデルを用いてドープ工程における様々なパラメータと非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習させることにより、なかでも上記特定のパラメータ群は、これらの非水系リチウム蓄電素子の性能に相関が高いことを見いだした。その技術的理由は、出願時において必ずしも明らかではないが、電流分離により得られたコンデンサ電流I(A)の挙動は、正極表面におけるイオンの吸脱着の量を表しており、副反応やその他の外的要因を受けて増減する。すなわち、コンデンサ電流I(A)がセルの電流漏れ量や被膜状態を反映するためであると推測している。
【0088】
非水系リチウム蓄電素子の耐久性能は、好ましくは、容量維持率、抵抗増加率、及びガス発生量からなる群から選択される少なくとも一つを含む。予測される非水系リチウム蓄電素子の耐久性能は、これら以外にも、セル厚み増加率、及びLi失活速度等が挙げられる。発明者らは、機械学習モデルを用いてドープ工程における様々なパラメータと非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習させることにより、なかでも上記特定のパラメータ群は、これらの非水系リチウム蓄電素子の耐久性能に相関が高いことを見いだした。その技術的理由は、出願時において必ずしも明らかではないが、ドープ中の電極反応に由来する被膜が耐久試験中に分解することで容量の減少や抵抗の増加、ガス発生が生じるためであると推測している。
【0089】
「容量維持率」は、例えば、非水系リチウム蓄電素子の充放電を繰り返すサイクル試験、外部の直流電源を用いて一定の電圧を保つフロート試験、又は一定条件下に一定時間保持する保存試験を行った際の、非水系リチウム蓄電素子の容量(mAh)の維持率である。「抵抗増加率」は、例えば、サイクル試験、フロート試験、又は保存試験を行った際の、非水系リチウム蓄電素子の抵抗(mΩ)の増加率である。「ガス発生量」は、例えば、フロート試験、又は保存試験を行った際の、非水系リチウム蓄電素子のガス発生量(cc)である。それぞれの試験について詳細は、実施例の欄に記載する。
【0090】
〈予測工程後の処理〉
本開示の性能予測を完了した後、必要に応じ、非水系リチウム蓄電素子のドープを更に継続してもよい。ドープ完了後、必要に応じ、充放電サイクル工程、高温エージング工程、並びにガス抜き及び封止工程等の処理を経て、非水系リチウム蓄電素子を製造することができる。
【0091】
《学習済みモデル及びその製造方法》
本開示における学習済みモデルは、上記特定のパラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習した学習済みモデルである。学習済みモデルは、セルのドープ工程から得られる、定電流(CC)充電領域における、コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータ、又は電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを入力することにより、セルの予測される性能を出力することを情報処理装置に実行させることができる。
【0092】
本開示における学習済みモデルの製造方法は、教師用の非水系リチウム蓄電素子(本願明細書において、「教師用セル」ともいう。)のドープを行う、ドープ工程と、上記ドープ工程の定電流(CC)充電領域における、コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータ、又は電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出する工程と、算出された前記少なくとも一つのパラメータと、ドープ工程後の教師用セルの性能データとを教師データとして機械学習モデルに入力し、少なくとも一つのパラメータと性能データとの相関を学習させる工程と、を含む。複数の教師データからこれらの相関を学習させることにより、より精度の高い予測が可能である。
【0093】
学習済モデルは、好ましくは、上記パラメータ群と、電極製造条件と、ドープ条件と、エージング条件と、セル設計と、セルの耐久性能との相関を学習した学習済モデルであり、当該学習済モデルは、非水系リチウム蓄電素子の要求される性能を入力することにより、電極製造条件、ドープ条件、エージング条件及びセル設計からなる群から選択される少なくとも一つの製造条件を出力することを情報処理装置に実行させることができる。これによって、非水系リチウム蓄電素子の顧客(自動車メーカ、モバイル端末メーカ等)が要求する耐久性能を実現するための適切な製造条件で非水系リチウム蓄電素子を製造し、あるいは非水系リチウム蓄電素子メーカに製造条件を提案する等して、新規顧客の獲得につなげることができる。
【0094】
学習済モデルが学習している電極製造条件としては、例えば、正極製造条件及び負極製造条件が挙げられる。正極製造条件としては、正極活物質層の目付(g/m)、正極活物質層の厚み(μm)、正極活物質層の嵩密度(g/cc)、正極活物質層中の正極活物質の種類及び量(質量%)、正極前駆体における正極活物質層中の炭酸リチウムの量(質量%)、正極活物質層中のバインダーの種類及び量(質量%)、正極活物質層中の導電材の種類及び量(質量%)、並びに正極活物質層中の分散材の種類及び量(質量%)等が挙げられる。負極製造条件としては、負極活物質層の目付(g/m)、負極活物質層の厚み(μm)、負極活物質層の嵩密度(g/cc)、負極活物質層中の負極活物質の種類及び量(質量%)、負極活物質層中のバインダーの種類及び量(質量%)、負極活物質層中の導電材の種類及び量(質量%)、並びに負極活物質層中の分散材の種類及び量(質量%)等が挙げられる。
【0095】
学習済モデルが学習しているドープ条件としては、セル温度(℃)、入力電圧(V)、バルク電流(A)、バルク電流密度(A/m)、セル拘束圧力(kgf/cm)、充電方式(CC及びCV、並びにこれらの切り替え条件等)、並びにドープ時間等が挙げられる。
【0096】
学習済モデルが学習しているエージング条件しては、放電時のセル温度(℃)、バルク電流(A)、バルク電流密度(A/m)、セル拘束圧力(kgf/cm)、放電方式(CC及びCV、並びにこれらの切り替え条件等)、エージング温度、及びエージング時間等が挙げられる。
【0097】
学習済モデルが学習しているセル設計としては、積層形態(扁平型、捲回型等)、反応面積(m)(反応に寄与する電極面積。対向数や電極のフットプリントに応じて変化する。)、セル厚み(mm)、セパレータの厚み(μm)、セパレータの抵抗(mΩ・m)、電解液の塩の種類及び濃度(M)、電解液の液量(g)、及び電解液の余剰液量(g)等が挙げられる。「反応面積(m)」とは、反応に寄与する電極面積であり、電極の対向数や電極のフットプリントに応じて変化する。「電解液の余剰液量(g)」とは、電極体に保液されていない電解液量である。
【0098】
学習済みモデルの製造方法における教師用セルのドープは、好ましくは、
(1)入力電流又は入力電圧を含むドープ条件を設定する、ドープ条件設定工程と、
(2)教師用セルに上記入力電流又は入力電圧を印加しつつ、上記教師用セルの正極電位E(V)及びバルク電流密度i(A/m)を測定する、測定工程と、
(3)上記教師用セルの測定された正極電位E(V)に基づき、系の時間をΔt変化させたときの仮定された正極電位E(V)を仮定して、下記式:
【数31】
{式中、Iはコンデンサ電流(A)、Cは上記教師用セルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは上記仮定された正極電位E(V)であり、tは時間(s)である。}により、上記教師用セルのコンデンサ電流I(A)を算出し、上記コンデンサ電流I(A)を正極前駆体面積(m)で除することで上記教師用セルのコンデンサ電流密度i(A/m)を算出し、そして、炭酸リチウムを分解してリチウムイオンと電子を放出する主反応の電極反応1の電流密度iR1(A/m)、及び副反応の電極反応2~N(Nは3以上の整数)の電流密度iR2(A/m)~電流密度iRN(A/m)を、バトラー-フォルマー式及び拡散方程式に基づいて算出する、電流算出工程と、
(4)上記コンデンサ電流密度iと各電極反応の電流密度iR1~iRNとの合計電流密度が上記バルク電流密度iに等しくなるように、上記仮定された正極電位E(V)を修正して、修正された正極電位E(V)を得る、正極電位修正工程と、
(5)系の時間を変化させて、上記合計電流密度が上記バルク電流密度iに収束するように工程(3)及び(4)を繰り返す、電流分離工程と
を含む方法により、教師用セルのドープを行う。
【0099】
上記仮定された正極電位E(V)から算出される上記コンデンサ電流I(A)に基づいて、又は上記修正された正極電位E(V)に基づいて、定電流(CC)充電領域における、コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出することができる。そして、算出された少なくとも一つのパラメータと、ドープ工程後の当該教師用セルの性能データとを教師データとして機械学習モデルに入力して、これらの相関を学習させることができる。複数の教師用セルのドープを行い、複数の教師データを機械学習モデルに入力することでこれらの関連性を学習させることができる。
【0100】
教師データは、ドープ後の教師用セルを実際に使用する際の充放電データを更に含んでもよい。これによって、上記パラメータ群と、非水系リチウム蓄電素子を使用する際の充放電データと、使用状況における非水系リチウム蓄電素子の耐久性能との相関を学習した学習済モデルを製造することができる。
【0101】
教師データは、教師用セルの電極製造条件、ドープ条件、エージング条件、及びセル設計からなる群から選択される少なくとも一つの製造条件を更に含んでもよい。これによって、上記パラメータ群と、電極製造条件と、ドープ条件と、エージング条件と、セル設計と、セルの耐久性能との相関を学習した学習済モデルを製造することができる。
【0102】
《非水系リチウム蓄電素子の耐久性能予測システム》
本開示の耐久性能予測システムは、セルの正極電位E(V)及びバルク電流I(A)を測定する測定装置と、電極反応電流I(A)の算出、パラメータの算出、及び学習済モデルを用いた予測を行う演算装置と、上記算出及び予測を演算装置に実行させるためのプログラム、パラメータ及び学習済モデルを記憶する記憶装置と、予測結果を出力する出力装置とを含む。演算装置は、より具体的に、セルのドープ中に測定装置によって測定される正極電位E(V)に基づいて、セルの電極反応電流I(A)を算出し、定電流(CC)充電領域において、電極反応電流I(A)の積算容量パラメータ、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出し、そして、パラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の耐久性能との相関を学習した学習済モデルに算出されたパラメータを入力し、非水系リチウム蓄電素子の耐久性能を出力する演算処理を行うことができる。
【0103】
耐久性能予測システムは、ドープ条件の設定及び調整のために、セルに接続された充放電機、温度調整装置及び圧力調整装置等の条件調整装置を更に含んでもよい。測定装置は、必要に応じてセルのそれぞれの測定個所に接続された、電圧線、参照電極、電流線、熱電対及び圧力計等を含むことができる。情報処理装置は、条件調整装置及び測定装置等を制御する制御装置を更に含んでもよい。
【0104】
《非水系リチウム蓄電素子の性能予測システム》
本開示の性能予測システムは、セルの正極電位E(V)を測定する測定装置と、コンデンサ電流I(A)の算出、パラメータの算出、及び学習済モデルを用いた予測を行う演算装置と、上記算出及び予測を演算装置に実行させるためのプログラム、パラメータ及び学習済モデルを記憶する記憶装置と、予測結果を出力する出力装置とを含む。演算装置は、より具体的に、セルのドープ中に測定装置によって測定される正極電位E(V)に基づいて、セルのコンデンサ電流I(A)を算出し、定電流(CC)充電領域において、コンデンサ電流I(A)の積算容量パラメータ、コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位変化パラメータ、及び正極電位E(V)の時間変化パラメータからなるパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータを算出し、そして、パラメータ群と非水系リチウム蓄電素子の性能との相関を学習した学習済モデルに算出されたパラメータを入力し、非水系リチウム蓄電素子の性能を出力する演算処理を行うことができる。
【0105】
性能予測システムは、ドープ条件の設定及び調整のために、セルに接続された充放電機、温度調整装置及び圧力調整装置等の条件調整装置を更に含んでもよい。測定装置は、必要に応じてセルのそれぞれの測定個所に接続された、電圧線、参照電極、電流線、熱電対及び圧力計等を含むことができる。情報処理装置は、条件調整装置及び測定装置等を制御する制御装置を更に含んでもよい。
【0106】
《性能予測方法及びシステムの利用》
本開示の性能予測方法及びシステムは、非水系リチウム蓄電素子の製造に利用することができる。より具体的に、非水系リチウム蓄電素子をドープする際に、本開示の予測方法によりセル容量、セル抵抗及び自己放電性能からなる群から選択される少なくとも一つの性能を予測することで、予測された性能の検査を行わずに、非水系リチウム蓄電素子を製造することができる。従来、非水系リチウム蓄電素子を製造する際には、製造された非水系リチウム蓄電素子が所定の性能を満たすか否かについて検査を行うことが必要であるところ、本開示の性能予測方法及びシステムにより、当該検査工程を簡略化することができる。
【0107】
《性能予測方法及びシステムの利用》
本開示の性能予測方法及びシステムは、非水系リチウム蓄電素子の製造に利用することができる。より具体的に、非水系リチウム蓄電素子をドープする際に、本開示の予測方法により上記性能(耐久性能等)を予測することで、予測された耐久性能の検査を行わずに、非水系リチウム蓄電素子を製造することができる。従来、非水系リチウム蓄電素子を製造する際には、製造された非水系リチウム蓄電素子が所定の耐久性能を満たすか否かについて検査を行うことが必要であるところ、本開示の耐久性能予測方法及びシステムにより、当該検査工程を簡略化することができる。
【0108】
非水系リチウム蓄電素子をドープする際に、本開示の予測方法により自己放電性能を含む性能を予測することで、予測された自己放電性能を非水系リチウム蓄電素子モジュールの設計に役立てることができる。より具体的には、予測された自己放電性能に基づいて、非水系リチウム蓄電素子を直列に接続するか、又は並列に接続するかを選択することができる。より具体的には、予測された自己放電性能が0.030V/√h未満であれば、非水系リチウム蓄電素子を直列又は並列に接続してもよく、予測された自己放電性能が0.030V/√h以上であれば、非水系リチウム蓄電素子を並列に接続することが好ましい。これによって、非水系リチウム蓄電素子モジュールの設計を容易に最適化することができる。
【0109】
《非水系リチウム蓄電素子》
本開示のドープ方法の対象である非水系リチウム蓄電素子は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、上記正極前駆体及び上記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを含む、非水系リチウム蓄電素子である。
【0110】
〈正極前駆体〉
正極前駆体は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する。本願明細書において、「正極前駆体」は、ドープ工程が完了する前の正極をいう。正極活物質層は、炭酸リチウム及び活性炭以外の正極活物質、例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン、酸化グラフェン、導電性高分子、又は多孔性の炭素材料(ただし、活性炭を除く)、リチウム(Li)と遷移金属との複合酸化物(リチウム遷移金属酸化物)等を含んでもよい。正極活物質層は、必要に応じて、導電性フィラー、結着剤、分散安定剤、及びpH調整剤等の任意成分を含んでもよい。
【0111】
正極活物質層は、典型的には正極集電体上に形成される。正極集電体は、電子伝導性が高く、電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こりにくい金属箔であることが好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。
【0112】
〈負極〉
負極は、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する。負極活物質としては、例えば、炭素材料、チタン酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素合金、ケイ素化合物、錫及び錫化合物等が挙げられ、好ましくは炭素材料、更に好ましくは活性炭である。負極活物質層は、必要に応じて、導電性フィラー、バインダー、及び分散剤等の任意成分を含んでもよい。
【0113】
負極活物質層は、典型的には負極集電体上に形成される。負極集電体は、電子伝導性が高く、電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こりにくい金属箔であることが好ましく、銅箔がより好ましい。
【0114】
〈セパレータ〉
セパレータは、正極前駆体及び上記負極の間に配置される。セパレータの材料としては、例えば、ポリオレフィン、セルロース及びアラミド樹脂が挙げられる。セパレータとして、好ましくは、ポリオレフィン製微多孔膜を含むセパレータである。ポリオレフィン製微多孔膜に含まれるポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン等が挙げられる。
【0115】
〈電解液〉
電解液は、電解質及び非水溶媒を含む非水系電解液であることが好ましい。電解質は、高い伝導度の観点から、好ましくはアルカリ金属塩、好ましくはリチウム塩である。
【0116】
リチウム塩としては、高い伝導度の観点から、例えば、(LiN(SOF))、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiN(SOCF)(SOH)、LiC(SOF)、LiC(SOCF、LiC(SO、LiCFSO、LiCSO、LiPF、LiBF等が挙げられる。リチウム塩は、より好ましくはLiPF、LiN(SOF)及びLiBFから成る群から選択される少なくとも一つである。リチウム塩は、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0117】
非水溶媒としては、鎖状カーボネート、及び環状カーボネートが挙げられる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート及びジブチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、及びフルオロエチレンカーボネート等のアルキレンカーボネートが挙げられる。所望の量の電解質を溶解させ、高いリチウムイオン伝導度を奏する観点から、非水溶媒としては、好ましくは環状カーボネート、より好ましくはエチレンカーボネート(EC)である。
【0118】
電解液は、必要に応じて、含硫黄化合物、リン酸エステル化合物、非環状含フッ素エーテル、環状ホスファゼン、含フッ素環状カーボネート、環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル及び環状酸無水物等の添加剤を含んでもよい。
【0119】
〈外装体〉
非水系リチウム蓄電素子は、典型的には、金属缶又はラミネート包材に代表される外装体の中に収容される。外装体の封止方法としては、ラミネート包材を用いる場合は、ヒートシール、インパルスシール等の方法を用いることができる。
【0120】
《非水系リチウム蓄電素子の製造方法》
図4は、本開示の非水系リチウム蓄電素子の製造方法の例を説明するフロー図である。本開示の非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法は、後述する電極積層体又は電極捲回体を、非水系電解液とともに外装体内に収納して非水系アルカリ金属蓄電素子を構成することに関する。本開示の非水系リチウム蓄電素子の製造方法は、図に示されるとおり、正極前駆体の作製工程、セパレータの作製工程、負極の作製工程、外装体の作製工程、非水系電解液の作製工程、組立工程、電極積層体又は電極捲回体の外装体への収納工程、注液工程、封止工程、及びドープ工程を含む。所望により、本開示の非水系リチウム蓄電素子の製造方法は、乾燥工程、注液工程前の加圧工程、注液工程後の含浸工程、ドープ工程前の加圧工程、ドープ工程後の充放電サイクル、(高温)エージング、ガス抜き及び封止工程、得られた非水系リチウム蓄電素子の検査工程などを含んでよい。
【0121】
非水系リチウム蓄電素子の製造方法において、本開示のセル状態判定方法は、図4に示されるとおり、ドープ工程、エージング工程及び検査工程から成る群から選択される少なくとも1つにおいて行われることができ、中でもドープ工程で行われることが好ましい。
【0122】
正極前駆体、セパレータ、負極、外装体及び非水系電解液は、非水系リチウム蓄電素子の構成要素として後述されるとおりでよく、既知の方法により作製されることができるか、又は市場から入手可能である。
【0123】
〈組立工程〉
組立工程では、典型的には、枚葉の形状にカットした正極前駆体及び負極を、セパレータを介して積層して電極積層体を得て、電極積層体に正極端子及び負極端子を接続する。又は、正極前駆体及び負極を、セパレータを介して積層及び捲回して電極捲回体を得て、電極捲回体に正極端子及び負極端子を接続する。電極捲回体の形状は円筒型であっても、扁平型であってもよい。
正極端子と負極端子の接続は、抵抗溶接や超音波溶接などの方法で行う。
【0124】
〈外装体への収納工程〉
電極積層体又は電極捲回体は、金属缶又はラミネート包材に代表される外装体の中に収納し、開口部を1方だけ残した状態で封止することが好ましい。外装体の封止方法としては、ラミネート包材を用いる場合は、ヒートシール、インパルスシール等の方法を用いることができる。
【0125】
〈乾燥工程〉
外装体へ収納した電極積層体又は電極捲回体は、乾燥することで残存溶媒を除去することが好ましい。乾燥方法としては、真空乾燥等を挙げることができる。残存溶媒は、正極活物質層又は負極活物質層の質量当たり、1.5質量%以下が好ましい。残存溶媒が1.5質量%以下であれば、自己放電特性又はサイクル特性が低下し難いため好ましい。
【0126】
〈加圧工程〉
乾燥された電極積層体又は電極捲回体が収納された外装体の外側から、電極の面に対して垂直方向に、両側から圧力を掛けることが好ましい。圧力は0.01kgf/cm2以上1000kgf/cm以下が好ましい。圧力の下限値は、より好ましくは、0.05kgf/cmである。圧力の上限値はより好ましくは、500kgf/cmであり、さらに好ましくは、100kgf/cmであり、より好ましくは30kgf/cmであり、特に好ましいのは10kgf/cmである。圧力が0.01kgf/cm2以上であると、正極前駆体および負極の歪みが圧力により矯正され、対向した正極前駆体と負極の距離が面内で均一になるため、アルカリ金属ドープ工程において面内でドープが均一に行われ、耐久性が向上するため好ましい。また、後述する充放電サイクル工程、高温エージング工程における反応も均一に進むため、耐久性が向上するため好ましい。圧力が1000kgf/cm以下であれば、電極積層体又は電極捲回体に非水系電解液が浸透する空間が確保され、電極積層体又は電極捲回体への非水系電解液の浸透速度が向上するため、好ましい。
この加圧工程は、加圧治具を用いて行われることができ、また後述される注液工程中に継続して行なってもよい。
【0127】
乾燥された電極積層体又は電極捲回体が収納された外装体の外側から圧力を掛ける手段としては、圧力を掛けることができる冶具であればどのようなものでもよい。一例として、一対の平坦な金属製の板を準備し、電極積層体の面に合わせて電極積層体を挟持し、金属製の板の四隅をネジ止め拘束して圧力を掛けることができる。
【0128】
[圧力の測定方法]
圧力の測定には、面圧分布測定システムI-SCAN(ニッタ株式会社製)を用いる。面圧測定のためのセンサーシートは、加圧面全体を覆う面積であることが好ましい。例えば、加圧面が縦60mm×横100mmであれば、I-SCAN100センサー(測定面の寸法:112mm×112mm)を用いることができる。
センサーシートは、外装体の主面と、一対の冶具が有する加圧面との間に配置する。
【0129】
センサーシートの最大測定圧力は、外装体に掛ける最大加圧力以上であり、最大加圧力の3倍以下であることが好ましい。例えば、外装体に掛ける最大加圧力が5kgf/cmであれば、センサーシートの最大測定圧力は5kgf/cm以上、15kgf/cm以下が好ましいため、例えばセンサーシートとしてはI-SCAN100(R)(最大測定圧力:13kgf/cm)を用いることが好ましい。センサーシートの最大測定圧力が、外装体に掛ける最大加圧力以上、最大加圧力の3倍以下であれば、外装体に掛ける面内の加圧力を精度よく測定することができるため、好ましい。
【0130】
センサーシートのセンサー点数は、400ポイント(縦20×横20ポイント)以上であることが好ましく、900ポイント以上(縦30×横30ポイント)であることが更に好ましい。例えば、加圧面積Sが縦60mm×横100mm(60cm)の場合、I-SCAN100センサー(測定面積S:112mm×112mm=125.44cm、センサー点数1936ポイント)を適応することで、加圧面全体に用いられるセンサー点数が(S/S)×1936ポイント=926ポイントとなるため、好ましい。
本明細書では、圧力の単位としてkgf/cmを例として用いるが、単位は圧力を示すものであればどのようなものでもよく、例えばPa、mmHg、Bar、atmなどであってもよい。
【0131】
上記で得られたI-SCANにより取得したデータは、冶具の端の辺又は隅においては、冶具のバリなどの影響で、実体の加圧力とは関係のない過剰な圧力を検出し易いため、面内の圧力斑を評価するためのデータとして活用しない。具体的には、測定した加圧面内の全圧力データについて、4辺のデータそれぞれの、最初と最後の3ポイント分については、データとして活用しない。例えば、加圧面内のデータが縦44ポイント×横30ポイントであった場合、縦44ポイントのうち、最初の3ポイント分の行および最後の3ポイント分の行を削除し、横30ポイントのうち、最初の3ポイント分の列と最後の3ポイント分の列を削除したデータを用いて、面内の圧力分布を取得する。得られた圧力分布の平均値Pavg.を下記式:
【数32】
{式中、x,yは圧力分布の座標を意味し、m及びnは、x及びyそれぞれの最大ポイント数を示す。}
により得て、得られた平均値を、外装体に加える圧力として記録する。
【0132】
〈注液工程、含浸工程、封止工程〉
組立工程の終了後に、外装体の中に収納された電極積層体又は電極捲回体に、非水系電解液を注液する。注液の方法としては、電極積層体又は電極捲回体を大気圧下、又は減圧下において注液する方法があり、減圧下で注液することが好ましい。一実施形態では、外装体の内圧が大気圧を基準として-5kPa~-101.32kPaになるように、減圧を行うことができる。減圧下で注液することにより、注液工程の時間を短縮でき、生産効率が向上する。また、正極前駆体、負極、及びセパレータに均一に非水系電解液を浸すことができる。
【0133】
正極前駆体、負極、及びセパレータのうちの少なくとも一部に非水系電解液が浸っていない状態では、後述するアルカリ金属ドープ工程において、非水系電解液が浸っていない正極前駆体の一部、または非水系電解液が浸っていない負極、及びセパレータと対向する正極前駆体の一部に存在するリチウム化合物が分解せずに残る。その結果、正極、負極、及びセパレータの細孔内部にまで十分に非水系電解液が行き渡った蓄電素子を高温・高電圧に曝した際にリチウム化合物の分解反応が起こってガスが発生する。また、ドープが不均一に進むため、面内のドープ斑又は局所的なリチウム(Li)の析出が発生し、得られる非水系アルカリ金属蓄電素子の抵抗上昇、耐久性低下、歩留まり低下などを引き起こすことがある。そのため、正極前駆体、負極、及びセパレータの細孔内部まで、非水系電解液を均一に浸透させることが好ましい。正極、負極、及びセパレータの細孔内部にまで十分に非水系電解液が行き渡った蓄電素子とは、例えば、上記で定義された完成後の非水系アルカリ金属蓄電素子、又は長期間使用した非水系アルカリ金属蓄電素子である。
【0134】
注液工程では、外装体の内部を、大気圧(常圧)を基準として、-5kPa~-101.32kPaに減圧した状態で、外装体に非水系電解液を注液することが好ましく、-10kPa~-101.32kPa又は-10kPa~-101.30kPaで注液することがより好ましく、-30kPa~-101.10kPa、-50kPa~-101.00kPa、又は-50kPa~-100.00kPaで注液することがさらに好ましい。常圧を基準として-5kPa以下の環境で注液することで、正極前駆体、負極、及びセパレータに非水系電解液を均一に浸すことができる。一方、常圧を基準として-101.32kPa以上の環境であれば、注液時に非水系電解液中の非水溶媒が蒸発することを抑制し、非水系電解液の組成変化を防ぐことで、得られる非水系アルカリ金属蓄電素子の特性を安定化することができる。
【0135】
注液時の非水系電解液の温度は、5℃~60℃であることが好ましく、より好ましくは15℃~45℃である。注液時の非水系電解液の温度が5℃以上であれば、非水系電解液の高粘度化を抑制し、正極前駆体、負極、及びセパレータに非水系電解液を均一に浸すことができる。一方、注液時の非水系電解液の温度が60℃以下であれば、注液時に非水系電解液中の非水溶媒が蒸発することを抑制し、非水系電解液の組成変化を防ぐことで、得られる非水系アルカリ金属蓄電素子の特性を安定化することができる。
【0136】
注液工程の終了後に、更に、含浸工程を行い、正極前駆体、負極、及びセパレータを非水系電解液で十分に浸すことが望ましい。含浸の方法としては、例えば、注液後の電極積層体又は電極捲回体を、外装体が開口した状態で、減圧チャンバー内に設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にし、再度大気圧に戻す方法等を用いることができる。このような観点から、本実施形態では、注液工程の後に、さらに以下の工程:
(a1)開口した状態の外装体の内圧を、大気圧を基準として、-50kPa~-100.00kPaに調整する再減圧工程と、
(a2)開口した状態の外装体の内圧を大気圧に戻す復元工程と、
を行うことが好ましい。再減圧工程(a1)では、外装体の内圧を、大気圧を基準として、-60.00kPa~-100.00kPaに調整することがより好ましい。注液工程、及び含浸工程終了後、封止工程を行うことができる。封止工程において、ラミネート包材を用いる場合は、外装体が開口した状態の電極積層体又は電極捲回体を減圧しながら封止することで密閉する。金属缶を用いる場合は、溶接又はカシメ等の封口手段を用いる。
【0137】
〈注液工程による微短絡率改善〉
アルカリ金属蓄電素子前駆体として、正極活物質と、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を含有する正極前駆体を有している、アルカリ金属蓄電素子は、微短絡率が高く、製品歩留まりが低下するという課題があるが、注液工程で外装体内部を大気圧以下にして非水系電解液を注液することによって、この課題が解決される。
【0138】
理由は定かではないが、正極前駆体が、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有している場合、正極、負極、及びセパレータのうちの少なくとも一部に非水系電解液が浸っていない状態ではドープ工程におけるアルカリ金属化合物の酸化分解反応が進まず、負極活物質層へのドープむらが生じ易くなる。その結果、負極電位にむらが生じ、負極の一部で電位が下がりすぎた結果、リチウムが析出し、正極と負極の微短絡に至るものと考えられる。注液工程で外装体内部を大気圧以下にして非水系電解液を注液することによって、正極、負極、及びセパレータの細孔内部にまで非水系電解液を行き渡らせることが出来るため、ドープむらが解消され、負極のリチウム析出が抑制されるので微短絡率が低下すると考えられる。
【0139】
一方で、アルカリ金属蓄電素子前駆体として、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を含有しない正極前駆体を用いる、アルカリ金属蓄電素子で微短絡が生じる要因は、上記アルカリ金属化合物を有する正極前駆体とは異なる要因、例えば、正極や負極の活物質崩落による正極負極間の短絡などが原因と考えられる。このため、前記注液工程を導入しても微短絡率改善効果は発現しない。
【0140】
〈再加圧工程〉
注液工程後に、外装体の外側から掛ける圧力を強めることが好ましい。本明細書では、注液工程後に外装体の外側から加圧する工程は、収納工程後かつ注液工程前に上記で説明された加圧工程を少なくとも1回行なった場合には「再加圧工程」と称され、収納工程後かつ注液工程前に上記で説明された加圧工程を行っていない場合には単に「加圧工程」と称される。圧力は、0.1kgf/cm2以上1000kgf/cm2以下が好ましく、0.5kgf/cm2以上100kgf/cm2以下がより好ましく、1kgf/cm2以上10kgf/cm2以下がさらに好ましい。圧力が0.1kgf/cm2以上であると、正極前駆体および負極の歪みが圧力により矯正され、対向した正極前駆体と負極と距離が面内で均一になるため、アルカリ金属ドープ工程にて面内でドープが均一に行われ、耐久性が向上するため好ましい。圧力が1000kgf/cm2以下であれば、電極積層体又は電極捲回体に過度な圧力が掛からず、構成材料である正極前駆体、負極及びセパレータにダメージを与えないため、好ましい。加圧工程又は再加圧工程は、後述されるドープ工程中に継続して行われることができる。加圧工程又は再加圧工程は、加圧治具を用いて行われることができる。
【0141】
〈非水系リチウム蓄電素子のドープ工程〉
本開示の非水系リチウム蓄電素子のドープ工程は、炭酸リチウム分解型のドープ方法を対象とする。すなわち、本開示のドープ工程は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、上記正極前駆体及び上記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを含む、非水系リチウム蓄電素子に対して行う。
【0142】
炭酸リチウム分解型リチウムイオンドープの好ましい操作としては、正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、正極前駆体中の炭酸リチウムを分解してリチウムイオンを放出し、負極でリチウムイオンを還元することにより負極活物質層にリチウムイオンをプレドープする方法が挙げられる。本明細書では、正極前駆体と負極とセパレータと非水系電解液と外装体とを含むセルに対して電圧を掛けて、負極にリチウムイオンをドープする工程は、「ドープ工程」、「プレドープ工程」又は「電圧印加工程」と称されることがある。
【0143】
〈セル状態判定方法〉
本開示のセル状態判定方法は、図4に示されるとおり、ドープ工程中に;ドープ工程後に、例えば、充放電サイクル工程、(高温)エージング工程、ガス抜き工程、ガス抜き工程後の封止工程及び検査工程から成る群から選択される少なくとも1つの工程で;またはドープ工程中とドープ工程後の両方で行われることができる。中でも、ドープ工程での電極反応の進行状況の判定、得られる非水系リチウム蓄電素子の物性評価及び品質管理の観点から、少なくともドープ工程で本開示のセル状態判定方法を行なうことが好ましい。本開示の一例として、ドープ工程中のセル状態判定方法を以下に説明する。
【0144】
本開示のセル状態判定方法は、(S1)ドープ条件設定工程と(S2)正極電位及びバルク電流(密度)の測定工程と(S3)コンデンサ電流(密度)及び電極反応由来の電流(密度)を算出する工程と(S4)電流と時間の関係からセル状態を判定する工程とを含む。
【0145】
本開示のセル状態判定方法は、ドープ装置又はドープ・エージング装置とともに、セルの条件調整装置及び測定装置等の外部機器に接続された情報処理装置(コンピュータ)で行うことができる。情報処理装置は、電流密度算出等を実行させるためのプログラム、パラメータ、測定データ及び演算結果等を記憶する記憶装置と、電流密度の算出等を行う演算装置と、充放電機等の外部機器の動作を制御することができる制御装置とを含む。プログラムは、情報処理装置に、電流密度算出、正極電位修正、電流分離、電流の時間微分、電流の時間積分等の本開示のセル状態判定における情報処理を実行させることができる。
【0146】
図5は、本開示の非水系リチウム蓄電素子のセル状態判定方法を説明するフロー図である。以下、図5の符号を引用しながら各工程を説明するが、本開示のセル状態判定方法は図5の態様に限定されるものではない。
【0147】
〈ドープ条件設定工程〉
ドープ条件設定工程(S1)は、セル温度(℃)及び入力電圧(V)を含むドープ条件を設定する工程である。ドープ条件としては、セル温度(℃)及び入力電圧(V)の他にも、バルク電流(A)、バルク電流密度(A/m)、及びセル圧力(kgf/cm)等が挙げられる。ドープ条件の設定及び調整は、セルに接続された充放電機、温度調整装置及び圧力調整装置等の条件調整装置で行うことができる。
【0148】
「セル温度」は、セルの外装体の温度で測定される系の温度である。セル温度は、好ましくは25℃以上、30℃以上、又は35℃以上、好ましくは80℃以下、75℃以下、70℃以下、又は65℃以下の範囲から選択される。セル温度が25℃以上であれば、正極前駆体に含まれる炭酸リチウムが効率よく分解され、リチウムイオンのドープを速やかに行うことができる。セル温度が80℃以下であれば、電解液の分解が抑制でき、非水系リチウム蓄電素子の抵抗を低くすることができる。
【0149】
「入力電圧」は、ドープ工程でセルに印加する外部電源の電圧である。入力電圧は、好ましくは4.0V以上、4.2V以上、又は4.4V以上、好ましくは5.0V以下、4.8V以下、又は4.6V以下の範囲から選択される。入力電圧が4.0V以上であれば、正極前駆体に含まれる炭酸リチウムが効率よく分解され、リチウムイオンのドープを速やかに行うことができる。電圧が5.0V以下であれば、ドープ工程での微短絡を抑制できる。
【0150】
「バルク電流」は、ドープ工程でセル全体に流れる電流の総量である。バルク電流は、Cレートで換算して、好ましくは0.1C以上、1C以上、又は10C以上、100C以下、50C以下、40C以下、又は30C以下の範囲から選択される。バルク電流が0.1C以上であれば、正極前駆体に含まれる炭酸リチウムが効率よく分解され、リチウムイオンのドープを速やかに行うことができる。バルク電流が100C以下であれば、正極前駆体にかかる電圧が高くなり過ぎず、正極集電体の腐食を抑制できる。
【0151】
「バルク電流密度」は、バルク電流を正極前駆体面積(正極活物質層の面積)で除した値である。正極前駆体面積とは、詳細には正極活物質層が負極に対向する面積である。バルク電流密度は、好ましくは0.04A/m以上、0.4A/m以上、又は1.3A/m以上であり、好ましくは45A/m以下、40A/m以下、又は35A/m以下の範囲から選択される。バルク電流密度が0.4A/m以上であれば、正極前駆体に含まれる炭酸リチウムが効率よく分解され、リチウムイオンのドープを速やかに行うことができる。バルク電流密度が45A/m以下であれば、正極前駆体にかかる電圧が高くなり過ぎず、正極集電体の腐食を抑制できる。
【0152】
「セル圧力」は、ドープ工程において、任意に、セルの外装体の外側から、電極の面に対して垂直方向に加えられる力による圧力である。セル圧力によって、電極間距離及び保液量が変動し、電極表面におけるLiイオンの滞留や、電極のたわみなどから生じる局所電解強度の増減により、電極反応速度や電極反応種に影響を与える。セル圧力は、好ましくは0.1kgf/cm以上、0.5kgf/cm以上、又は1kgf/cm以上、1000kgf/cm以下、100kgf/cm以下、又は10kgf/cm以下の範囲から選択される。セル圧力が0.1kgf/cm以上であると、正極前駆体および負極の歪みが圧力により矯正され、対向する正極前駆体と負極との距離が面内で均一になるため、ドープが均一に行われ、得られる非水系リチウム蓄電素子の耐久性が向上するため好ましい。圧力が1000kgf/cm以下であれば、正極前駆体、負極及びセパレータ等のセルを構成する部材に与えるダメージが低減される。
【0153】
ドープ工程における充電方式としては、定電流充電、及び定電圧充電が挙げられる。例えば、ドープ工程の開始~初期は定電流充電により正極電圧を上昇させ、正極電圧が任意の値に到達した時点から定電圧充電に切り替えることができる。これによって、セルの正極電圧が必要以上に高くならず、電解液の分解などの好ましくない副反応の発生を抑制することができる。本開示の方法は、定電流充電及び定電圧充電のいずれにも用いることができる。ドープ工程の開始~初期は正極電位の上昇に伴い各副反応が起こりやすく、主反応の進行状況を推定する必要性が高いため、本開示の方法は、ドープ工程の開始から定電圧充電に切り替える前の、定電流充電の段階に用いることが効果的である。
【0154】
ドープ工程の継続時間は、入力電圧の印加を開始した時点から測定して、好ましくは0.5時間以上、1時間以上、又は1.5時間以上、好ましくは30時間以下、10時間以下、又は5時間以下である。ドープ工程の継続時間が0.5時間以上であればリチウムイオンのドープを充分に進行させることができる。ドープ工程の継続時間が30時間以下であれば、電解液の分解などの好ましくない副反応が抑制でき、得られる非水系リチウム蓄電素子の抵抗を低くすることができる。
【0155】
ドープ工程の開始~初期に定電流充電を行う場合、定電流充電の継続時間は、好ましくは15分以上、30分以上、又は1時間以上、好ましくは4時間以下、3時間以下、又は2時間以下である。これらの範囲内であれば、ドープ工程を速やかに行い、かつセルの正極電圧が過度に高くならず副反応を抑制することができる。定電流充電から定電圧充電への切り替えは、実測正極電位が、好ましくは4.3V以上、4.4V以上、又は4.5V以上、好ましくは4.9V以下、4.8V以下、又は4.7V以下である。
【0156】
〈測定工程〉
測定工程(S2)は、セルに入力電圧を印加しつつ、セルの正極電位E(V)及びバルク電流密度i(A/m)を測定する工程である。入力電圧を印加することにより、正極前駆体に存在する炭酸リチウムを分解してリチウムイオンを放出し、負極活物質へのリチウムイオンのドープを行うことができる。測定工程では、セルの正極電位及びバルク電流密度以外にも、セル温度(℃)、及びセル圧力(kgf/cm)等を測定することができる。各物性の測定は、必要に応じてセルのそれぞれの測定個所に接続された、電圧線、参照電極、電流線、熱電対及び圧力計等の測定装置で行うことができる。
【0157】
セルの正極電位E(V)の測定は、限定されないが、セルの正極及び負極端子に電圧線を接続してセル電圧を測定するとともに、リチウム参照電極をセル中に入れて参照電極電位を測定することにより測定することができる。あるいは、正極電位E(V)は、参照電極を入れずにセル電圧を測定することにより推算してもよい。本開示の測定される正極電位E(V)は、参照電極により直接測定される正極電位と、セル電圧の測定等から間接的に求められる正極電位を包含する。セルのバルク電流密度i(A/m)は、セルの正極及び負極端子に電流線を接続してバルク電流(A)を測定し、これを正極前駆体面積(正極活物質層の面積)で除することにより測定することができる。本願明細書において、測定工程で測定される正極電位を「実測正極電位」、測定されるバルク電流密度を「実測バルク電流密度」という。
【0158】
〈電流(密度)算出工程〉
電流(密度)算出工程(S3)は、工程(S2)で測定されたセルの正極電位E及びバルク電流密度iと正極前駆体面積(m)とに基づき、セルのコンデンサ電流I(A)及びコンデンサ電流密度i(A/m)と、電極反応由来の電流I(A)及び電流密度i(A/m)とを、下記式:
【数33】
{式中、Iはバルク電流(A)、iはバルク電流密度(A/m)、Iは電極反応由来の電流(A)、iは電極反応由来の電流密度(A/m)、Iはセルのコンデンサ電流(A)、iはセルのコンデンサ電流密度(A/m)であり、Cはコンデンサ容量(F)であり、Eはセルの正極電位E(V)であり、tは時間(s)である。}
より算出する工程である。
【0159】
電流(密度)算出工程(S3)では、工程(S2)の特定の測定時点から系の時間を△t変化させたときの正極電位E(V)を測定又は仮定して、セルのコンデンサ電流I(A)及びコンデンサ電流密度i(A/m)と、電極反応由来の電流I(A)及び電流密度i(A/m)を算出してよい。
【0160】
〈状態判定工程〉
状態判定工程(S4)は、電極反応由来の電流Iの時間変化(dI/dt)からセルの状態を判定する工程である。(dI/dt)の基準値または合格数値範囲は、限定されるものではないが、非水系リチウム蓄電素子の物性、例えば、放電容量、静電容量、常温放電内部抵抗などの初期特性;微短絡発生率;充放電サイクル特性、高負荷充放電サイクル特性などのサイクル特性;釘刺試験、高温高電圧フロートガス発生量などの安全性に基づいて、予め設定されるか、又は学習モデルの適用により連続的又は逐次的に設定されることができる。
【0161】
具体的には、状態判定工程(S4)では、電極反応由来の電流Iの時間微分値を算出し、算出された(dI/dt)と予め設定しておいた基準値との対比から、若しくは予め設定しておいた数値範囲の属否から、又は本開示のセル状態判定方法を通じて作成された学習モデルに基づいて、セル状態を判定することができる。
【0162】
〈電流(密度)算出工程及び状態判定工程の好ましい一例〉
図6は、本開示の電流と時間の関係によるセル状態判定工程の例を説明するフロー図である。図6を参照して、電流(密度)算出工程(S3)および状態判定工程(S4)の好ましい一例について、実測正極電位の場合と仮定正極電位の場合とに分けて、以下に説明する。
【0163】
・実測正極電位の場合
電流(密度)算出工程(S3)では、工程(2)の特定の測定時点から系の時間を△t変化させたときの正極電位E(V)を測定(実測正極電位)し、電極反応由来の電流I、及びセルのコンデンサ電流Iを算出した場合には、電極反応由来の電流I又はセルのコンデンサ電流Iの時間積分(Integral I(t)dt)により積算容量値を算出する工程(SCIntegral I(t)dt)を行なうことが好ましい。
【0164】
工程(SCIntegral I(t)dt)後、算出された積算容量値からセル状態を判定する工程(SDIntegral I(t)dt)を行なうことが好ましい。
【0165】
工程(SDIntegral I(t)dt)後、必要に応じて、例えばドープ装置若しくはそれにデータ連通する制御装置、又はオンライン上の制御システムに予め設定しておいた学習モデル作成条件に合致した場合に、積算容量値を含む学習モデルを作成してよい。学習モデルを作成した場合には、学習モデルからセル完成後の被膜生成量、又は、炭酸リチウムの分解率、又は、負極へのリチウムイオンのドープ量、又は初期のセル容量、抵抗、並びに耐久性試験後のセルの性能(例えば容量維持率、抵抗増加率及びガス発生量等)、又は、ドープ前のセルの含水率などの要求される特性に近似するサンプル情報を抽出して、実測又は仮定正極電位に基づいて算出された積算容量値と照合し、セルの状態を判定してよい。
【0166】
工程(SDIntegral I(t)dt)前、工程(SDIntegral I(t)dt)中、又は工程(SDIntegral I(t)dt)後に、工程(S4)を行なってよい。
【0167】
・仮定正極電位の場合
電流(密度)算出工程(S3)では、工程(2)の特定の測定時点から系の時間を△t変化させたときの正極電位E(V)を仮定(仮定正極電位)し、電極反応由来の電流I、及びセルのコンデンサ電流Iを算出する工程を行なう工程(SCI又はSCI)と、電極反応由来の電流I又はセルのコンデンサ電流Iの時間積分(Integral I(t)dt)により積算容量値を算出する工程(SCIntegral I(t)dt)とを行なうことが好ましい。
【0168】
仮定正極電位に基づいた工程(SCIntegral I(t)dt)後に、実測又は仮定正極電位に基づいて算出された積算容量値を含む学習モデルを作成する。作成された学習モデルからセル完成後の被膜生成量、又は、炭酸リチウムの分解率、又は、負極へのリチウムイオンのドープ量、又は初期のセル容量、抵抗、並びに耐久性試験後のセルの性能(例えば容量維持率、抵抗増加率及びガス発生量等)、又は、ドープ前のセルの含水率などの要求される特性に近似するサンプル情報を抽出して、実測又は仮定正極電位に基づいて算出された積算容量値と照合し、セル状態を判定する。
【0169】
学習モデルを用いるセル状態の判定中、又は学習モデルを用いるセル状態の判定前後に、工程(S4)を行なってよい。
【0170】
図7は、本開示の各電極反応の電流密度を算出する工程の例を説明するフロー図である。図7を参照して、工程(2)の特定の測定時点から系の時間を△t変化させたときの正極電位E(V)を仮定(仮定正極電位)し、電極反応由来の電流Iを算出する工程(SCI)の好ましい一例を以下に詳述する。図7に示されるとおり、工程(SCI)は、工程(SS3)~(SS5)を含むことが好ましい。
【0171】
工程(SCI)では、上記測定時点において、系の時間を△t変化させたときの正極電位E(V)を仮定し、これに基づいてセルのコンデンサ電流密度i(A/m)と、仮定されるN種の電極反応のそれぞれの電流密度iR1(A/m)~電流密度iRN(A/m)を算出する電流密度算出工程(SS3)を行なうことが好ましい。本願明細書において、工程(SCI)又は電流密度算出工程(SS3)において仮定される正極電位を「仮定正極電位」という。電流密度算出工程は、セルの条件調整装置及び測定装置等の外部機器に接続された情報処理装置(コンピュータ)で行うことができる。情報処理装置は、電流密度算出等を実行させるためのプログラム、パラメータ、測定データ及び演算結果等を記憶する記憶装置と、電流密度の算出等を行う演算装置と、充放電機等の外部機器の動作を制御することができる制御装置とを含む。プログラムは、情報処理装置に、電流密度算出、正極電位修正及び電流分離等の本開示のドープ工程及びセル状態判定方法における情報処理を実行させることができる。
【0172】
正極電位の仮定は、ある時点における実測正極電位、入力電圧及び実測バルク電流密度等に基づいて、系の時間を△t変化させたときの実測正極電位の変化を仮定することにより行うことができる。
【0173】
コンデンサ電流密度icの算出の例を説明する。「コンデンサ電流」は、セルの正極前駆体にコンデンサとして電気二重層が形成される際に流れる電流である。ここで、蓄えられる電荷をQ(C)、コンデンサ容量をC(F/m)、正極電位をE(V)とすると、Q=CEであるから、この両辺を時間微分することにより、
【数34】
すなわち、
【数35】
の関係が成り立つ。式(1)中、Iはコンデンサ電流(A)、Cはセルのコンデンサ容量(F/m)であり、Eは仮定された正極電位E(V)であり、tは時間(s)である。コンデンサ容量C(F/m)は、正極前駆体に使用する活性炭を含む正極活物質の種類及び量に応じて設定することができる。したがって、コンデンサ電流密度iは、式(2)より求められるコンデンサ電流I(A)を、正極前駆体面積(正極活物質層の面積)(m)で除することにより算出することができる。
上記のようにして得られたコンデンサ電流を仮定する電極反応に分離する考え方で採用する三つの基準、及びその際に利用するバトラーフォルマー式については、前述のとおりである。
【0174】
・積算容量値に基づく判定基準
実測又は仮定正極電位に基づいて算出された積算容量値と予め設定しておいた基準値との対比から、若しくは予め設定しておいた数値範囲の属否から、又は本開示のセル状態判定方法を通じて作成された学習モデルに基づいて、セル状態を判定することができる。好ましい判定基準の一例を以下に示す。
【0175】
電極反応由来の電流Iを、電流密度算出工程(SS3)、正極電位修正工程(SS4)及び電流分離工程(SS5)において、以下:
主反応:炭酸リチウムの分解反応、
副反応1:水の分解反応、および
副反応2:電解液溶媒の分解反応、
に分離し、電極反応由来の電流Iが主反応、副反応1、および副反応2を主成分とする電極反応から構成されるときに、電流(密度)算出工程(S3)及び状態判定工程(S4)での判定の基準となる特定の電流の積算容量値が、以下:
主反応の電流の積算容量値が5Ah/m以上10Ah/m以下、
副反応1の電流の積算容量値が0.01Ah/m以上0.30Ah/m以下、若しくは0.01Ah/m以上0.3Ah/m以下、または
副反応2の電流の積算容量値が0.05Ah/m以上0.50Ah/m以下OO以上OO以下、若しくは0.05Ah/m以上0.5Ah/m以下、
のいずれかであることが好ましい。上記の特定の電流としては、セルのコンデンサ電流I、及び電極反応由来の電流Iから選択される少なくとも1つでよく、中でも電極反応由来の電流Iが好ましい。
【0176】
〈ドープ条件変更工程〉
本開示のドープ方法は、任意にドープ条件変更工程(S6)を更に含んでもよい。ドープ条件変更工程(S6)は、電流分離工程から得られる修正正極電位E(V)の挙動と、実測正極電位E(V)の挙動の差が小さくなるように、ドープ条件設定工程におけるドープ条件を変更する工程である。変更されたドープ条件は、次の非水系リチウム蓄電素子のドープに役立てることができる。これによって、主反応及び副反応の進行状況をより正確に推定することができる。ドープ条件変更工程は、情報処理装置で行った演算結果を、セルの充放電機、温度調整装置、及び圧力調整装置等の条件調整装置にフィードバックすることにより行うことができる。電流分離工程から得られる修正正極電位E(V)の挙動と、実測正極電位E(V)の挙動の差が閾値内であれば、ドープ条件を変更しなくともよい。
【0177】
上述のように、ドープ条件としては、セル温度(℃)、入力電圧(V)、バルク電流(A)、バルク電流密度(A/m)、及びセル圧力(kgf/cm)等が挙げられる。ドープ条件を変更しうる好ましい範囲は、ドープ条件設定工程における各条件に関する好ましい範囲と同様である。すなわち、セル温度は、好ましくは25℃以上、30℃以上、又は35℃以上、好ましくは70℃以下、65℃以下、60℃以下、又は55℃以下の範囲内で変更される。入力電圧は、好ましくは4.0V以上、4.2V以上、又は4.4V以上、好ましくは5.0V以下、4.8V以下、又は4.6V以下の範囲内で変更される。バルク電流は、好ましくは1C以上、5C以上、又は10C以上、100C以下、50C以下、40C以下、又は30C以下の範囲内で変更される。バルク電流密度は、バルク電流密度は、好ましくは2.5A/m以上、3.0A/m以上、又は3.5A/m以上、5.0A/m以下、4.5A/m以下、又は4.0A/m以下の範囲内で変更される。そして、セル圧力は、好ましくは0.1kgf/cm以上、0.5kgf/cm以上、又は1kgf/cm以上、1000kgf/cm以下、100kgf/cm以下、又は10kgf/cm以下の範囲内で変更される。
【0178】
正極電位の「挙動」とは、正極電位の経時的な変化をいい、例えば、時間-正極電位におけるモデル関数の時間微分(dE/dt)、及びセルに印加したバルク電流密度の積算電流値Q(Ah)の正極電位微分(dQ/dE)が挙げられる。ドープ条件を変更するより具体的な方法としては、例えば、修正正極電位の挙動が実測正極電位の挙動から正の方向にずれている場合、セル温度を増加する、セルを拘束する圧力を増加する、又はバルク電流密度を低減することにより、両者の差を小さくすることができる傾向がある。修正正極電位の挙動が実測正極電位の挙動から負の方向にずれている場合、セル温度を低減する、セルを拘束する圧力を低減する、又はバルク電流密度を増加することにより、両者の差を小さくすることができる傾向がある。ただし、バルク電流密度を増減させる場合は、上記積算電流値の正極電位微分(dQ/dE)を比較することが好ましい。
【0179】
〈ドープ工程の終了〉
本開示の方法を適用する期間(対象期間)に渡って電流分離を終えれば本開示のドープ方法による電流分離を終了することができる。本開示のドープ方法による電流分離は、たとえば、ドープ開始からドープ完了までの全期間に渡って、ドープ開始から定電流充電までの全期間に渡って、又はドープ開始から定電流充電までの一部の期間に渡って行うことができる。なお、対象期間終了後も、非水系リチウム蓄電素子のドープを更に継続してもよい。
【0180】
〈ドープ工程後の処理〉
ドープ工程を完了した後、必要に応じ、充放電サイクル工程、高温エージング工程、並びにガス抜き及び封止工程等の処理を経て、非水系リチウム蓄電素子を製造することができる。
【0181】
〈充放電サイクル工程〉
電極積層体又は電極捲回体に、充放電を繰り返す、サイクル工程(本明細書では「充放電サイクル工程」ともいう。)を施すことが好ましい。サイクル工程の効果としては、(1)充放電を繰り返すことにより、活性炭の細孔に、非水系電解液中のカチオン、アニオン、アニオンに配位した溶媒が出入りするため、特に正極活物質である活性炭表面の不安定な官能基が安定化し、サイクル耐久性を向上する効果;(2)正極を高電位に曝すことで、ドープ工程で分解しきれなかったアルカリ金属化合物を完全に分解し、高温耐久性を向上する効果;(3)ドープ工程で生成したアルカリ金属化合物の酸化分解反応の副生成物を消費することで、高温耐久性を向上する効果がある。必要以上の負荷でサイクル工程を実施すると、非水系アルカリ金属蓄電素子の抵抗が上昇してしまうため、適切な条件(温度、電圧、充放電回数など)で充放電サイクル工程を行う必要がある。
【0182】
充放電サイクル工程の方法としては、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の電圧を、定電流充電、定電流定電圧充電、パルス充電などに代表される充電方法によって、または定電流放電、定電流定電圧放電、パルス放電に代表される放電方法によって、目標の電圧範囲内で充放電を繰り返す方法が挙げられる。
【0183】
定電流充放電、パルス充放電の際の電流レートに関しては、後述する4.2Vにおける容量を基準として、0.2C以上50C以下が好ましい。0.2C以上であれば、充放電に必要な時間を短くできるため、設備負荷を抑制でき、生産効率が向上する。50C以下であれば、電流分布が均一になるため、サイクル工程の上記効果が顕著に得られる。
【0184】
定電流定電圧充放電の際の定電圧の保持時間に関しては、0.5分以上120分以下が好ましい。0.5分以上であれば、サイクル工程の上記効果が顕著に得られる。120分以下であれば、充放電に必要な時間を短くできるため、設備負荷を抑制でき、生産効率が向上する。
【0185】
充放電サイクル工程では、次に述べる上限電圧と下限電圧の範囲内で充放電することが好ましい。上限電圧としては、3.8V以上4.8V以下が好ましく、4.0V以上4.7V以下がより好ましく、4.1V以上4.6V以下が特に好ましい。上限電圧が3.8V以上であれば、ドープ工程で分解しきれなかったアルカリ金属化合物を分解し、高温耐久性を向上できる。上限電圧が4.8V以下であれば、非水系アルカリ金属蓄電素子を低抵抗に保つことができる。下限電圧としては、1.5V以上3.5V以下が好ましく、1.6V以上3.4V以下がより好ましく、1.7V以上3.3V以下が特に好ましく、1.75V以上3.0V以下が最も好ましい。下限電圧が1.5V以上であれば、負極の集電体である銅の溶出を抑制でき、非水系アルカリ金属蓄電素子を低抵抗に保てる。下限電圧が3.5V以下であれば、非水系アルカリ金属蓄電素子を低抵抗に保てるとともに、高温高負荷サイクル試験後の抵抗上昇率を抑制できる。
【0186】
充放電サイクル工程の温度としては、30℃以上100℃以下が好ましく、35℃以上85℃以下がより好ましく、35℃以上75℃以下が特に好ましい。30℃以上であれば、耐久性の向上効果がある。100℃以下であれば、非水系アルカリ金属蓄電素子を低抵抗に保つことができ、また昇温に必要な設備負荷を抑制できるため、生産効率が向上する。充放電サイクル工程の温度を制御することでは、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の温度を制御(例えば、加温)することができる。非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の加温は、例えば、加温する手段によって調節(加温)することができる。加温する手段の具体例としては、例えば、ヒーター、温水、温風等を利用した熱交換器が挙げられる。
充放電サイクル工程の温度を調節する前にすでに、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の温度が所望の温度範囲内(例えば、30℃以上100℃以下)にある場合には、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の温度を加温する工程がすでに実施されたとみなすことができる。
【0187】
充放電サイクル工程のサイクルの回数としては、充電及び放電の実施を1サイクルとしたとき、1回以上10回以下が好ましく、2回以上8回以下がより好ましい。充放電サイクルを1回以上実施すれば、高温高負荷サイクル試験後の抵抗上昇率を抑制する効果がある。10回以下であれば、非水系アルカリ金属蓄電素子を低抵抗に保つことができる。また、10回以下であれば、必要な充放電設備の負荷を抑制できるため、生産効率の観点からも好ましい。
【0188】
前記充放電サイクル工程では、外装体の外側から圧力を掛けることが好ましい。圧力は0.1kgf/cm以上1000kgf/cm以下が好ましく、0.5kgf/cm以上100kgf/cm以下がより好ましく、1kgf/cm以上10kgf/cm以下がさらに好ましい。
【0189】
圧力が0.1kgf/cm以上であると、正極前駆体および負極の歪みが圧力により矯正され、対向した正極前駆体と負極との距離が面内で均一になり、充放電サイクル工程における反応が均一に進み、高温高負荷サイクル耐久性が向上するため好ましい。圧力が1000kgf/cm以下であれば、電極積層体又は電極捲回体に非水系電解液が浸透する空間が確保され、高温高負荷サイクル耐久性が向上するため好ましい。
非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体に対して加圧する手段、及び圧力の測定等は、上記の〈加圧工程〉と同様の手法を用いることができる。
【0190】
充放電サイクル工程の効果
1.微短絡率抑制効果
従来、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有する正極前駆体を備えるアルカリ金属蓄電素子前駆体に対しては、得られるアルカリ金属蓄電素子は、微短絡率が高く、製品歩留まりが低下するという課題があると認識されていた。これに対して、充放電サイクル工程を製造工程に導入することによって、微短絡率抑制効果が発現することを発明者らは見出した。
【0191】
すなわち、理由は定かではないが、正極前駆体が、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有している場合、ドープ工程におけるアルカリ金属化合物の酸化分解によって、正極前駆体面内で酸化分解反応の面内むらが生じやすく、その結果、負極におけるアルカリ金属イオンのドープ反応の負極面内むらが生じた結果、負極電位に負極面内むらが生じ、負極の面内の一部で電位が下がりすぎたために、アルカリ金属(例えばリチウム)が析出し、正極と負極の微短絡に至るものと考えられる。しかしながら、本実施形態では、充放電サイクル工程を導入することによって、この負極の電位むらが解消され、負極のアルカリ金属の析出が抑制され、微短絡率が低下すると考えられる。
【0192】
一方、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有しない正極前駆体を備えるアルカリ金属蓄電素子前駆体について、得られるアルカリ金属蓄電素子で微短絡が生じる要因は、上記アルカリ金属化合物を有する正極前駆体とは異なる要因、例えば、正極や負極の活物質崩落による正極負極間の短絡などが原因と考えられる。このため、充放電サイクル工程を導入しても微短絡率改善効果は発現しない。
【0193】
2.高温高電圧フロートガス抑制効果
従来、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有する正極前駆体を備えるアルカリ金属蓄電素子前駆体に対しては、得られるアルカリ金属蓄電素子は、高温高電圧フロート時にガスが発生するという課題があると認識されていた。これに対して、充放電サイクル工程を製造工程に導入することによって、高温高電圧フロート時のガス抑制効果が発現することを発明者らは見出した。
【0194】
すなわち、理由は定かではないが、正極前駆体が、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有している場合、ドープ工程においてアルカリ金属化合物の分解反応の副生成物が生成するため、特に高温高電圧フロート試験時に副生成物が悪影響を及ぼし、ガスが発生するものと考えられる。しかしながら、本実施形態では、充放電サイクル工程を導入することによって、充放電サイクル時の正極でのイオンの吸脱着反応、及び/又は負極でのアルカリ金属(例えばリチウム)の挿入脱離反応に伴って、残存した副生成物が消費されるため、完成した非水系アルカリ金属蓄電素子の高温高電圧フロート試験時のガス発生が抑制されると考えられる。
【0195】
一方、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有しない正極前駆体を備えるアルカリ金属蓄電素子前駆体について、得られるアルカリ金属蓄電素子が、高温高電圧フロート試験でガスを発生させる要因は、上記アルカリ金属化合物を有する正極前駆体とは異なる要因、例えば、電解液溶媒の正極での酸化反応又は負極での還元反応に由来するものと考えられる。このため、上記充放電サイクル工程を導入しても高温高電圧フロートでのガス抑制効果は発現しない。言い換えれば、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有する正極前駆体を備えるからこそ、本実施形態によって、上記1.及び2.の充放電サイクル工程の効果を奏することできる。
【0196】
3.効果の発現条件
充放電サイクル工程を有する本実施形態が、上記1.及び2.の充放電サイクル工程の効果を発現するのは、その充放電サイクル工程が、
非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の温度を30℃以上100℃以下に加温し、
上限電圧と下限電圧の範囲内で充放電し、
上限電圧は、3.8V以上4.8V以下であり、
下限電圧は、1.5V以上3.5V以下である、
ときである。
【0197】
〈高温エージング工程〉
電極積層体又は電極捲回体を加温する、高温エージング工程(本願明細書では、「エージング工程」ともいう。)を施す。高温エージング工程の効果としては、(1)非水系電解液中の溶媒又は添加剤が分解し、正極又は負極の表面に有機被膜又は無機被膜が形成されることによる耐久性を向上する効果;(2)正極活物質である活性炭表面の不安定な官能基、正極・負極・セパレータ・電解液中に含まれる不純物が、化学的に反応し、安定化することによるサイクル耐久性の向上効果;が挙げられる。有機被膜又は無機被膜は、高温耐久性を向上する効果があるが、必要以上の被膜が生成すると、非水系アルカリ金属蓄電素子の抵抗が上昇してしまうため、適切な条件(温度、電圧、時間など)で高温エージング工程を行う必要がある。
高温エージング工程の方法としては、例えば、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の電圧を、定電流充電、定電流定電圧充電、パルス充電などに代表される充電方法によって、または定電流放電、定電流定電圧放電、パルス放電に代表される放電方法によって、目標電圧に調整した後、充放電を止めて、高温環境下で一定時間、保存する方法が挙げられる。
【0198】
高温エージング工程は、
(1)高電圧保管工程;非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の電圧を高電圧に調整したのち、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体を45℃以上100℃以下で、保管する工程を有する。電圧としては、4.03V以上5.0V以下が好ましく、4.05V以上4.8V以下がより好ましく、4.1V以上4.5V以下が特に好ましい。4.03V以上であれば、高温高負荷サイクル試験後の抵抗上昇率を抑制することができる。5.0V以下であれば、必要以上に被膜が形成されることを防げるため、非水系アルカリ金属蓄電素子を低抵抗に保つことができる。
高温エージング工程では、(1)高電圧保管工程に加えて(2)低電圧保管工程をさらに備えてもよい。
(2)低電圧保管工程;非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の電圧を低電圧に調整したのち、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体を45℃以上100℃以下で、保管する工程を有する。電圧としては、1.5V以上2.8V以下が好ましく、1.6V以上2.7V以下がより好ましく、1.7V以上2.5V以下が特に好ましい。2.8V以下であれば、高温高負荷サイクル試験後の容量維持率を向上することができる。1.5V以上であれば、負極の集電体である銅の溶出を抑制でき、低抵抗に保てる。
【0199】
高電圧保管工程と、低電圧保管工程の順序は特に制限されない。
【0200】
高電圧保管工程、低電圧保管工程での、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の温度としては、45℃以上100℃以下であり、50℃以上85℃以下が好ましく、55℃以上75℃以下がより好ましい。45℃以上であれば、高温高負荷サイクル試験後の抵抗上昇率の抑制効果又は高温高負荷サイクル試験後の容量維持率向上効果がある。100℃以下であれば、非水系アルカリ金属蓄電素子を低抵抗に保つことができ、また昇温に必要な設備負荷を抑制できるため、生産効率が向上する。温度はエージング工程中、一定であってもよいし、段階的に被膜を生成するため、または均一に被膜を形成するために、多段階に変動させてもかまわない。
【0201】
非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の温度の制御は、例えば、ヒーター、温水、温風等を利用した熱交換器等によって行うことができる。
【0202】
エージング工程の時間としては、0.25時間以上340時間以下が好ましく、0.5時間以上100時間以下がより好ましく、1時間以上50時間以下がさらに好ましい。0.25時間以上であれば、高温高負荷サイクル試験後の抵抗上昇率の抑制効果又は高温高負荷サイクル試験後の容量維持率向上効果がある。340時間以下であれば、非水系アルカリ金属蓄電素子を低抵抗に保つことができ、またエージングに要する時間、設備数を抑えられるため、生産効率が向上する。
【0203】
高電圧保管工程、及び/又は低電圧保管工程において、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体に印加する電圧を調節した後、その電圧の印加を停止してもよいし、電圧の印加を継続しながら、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の温度を制御してもよい。
【0204】
高温エージング工程において、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体をあらかじめ外側から0.1kgf/cm以上1000kgf/cm以下の圧力で加圧することが好ましい。非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体が収納された外装体の外側から、電極の面に対して垂直方向に、両側から圧力を掛けることができる。圧力が0.1kgf/cm以上であると、非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の歪みが圧力により矯正されるため、高温エージング工程における反応が均一に進み易くなり、耐久性が向上するため好ましい。圧力が1000kgf/cm以下であれば、電極積層体又は電極捲回体に非水系電解液が浸透する空間が確保され、電極積層体又は電極捲回体への非水系電解液の浸透速度が向上するため、好ましい。
非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体に対して加圧する手段、及び圧力の測定等は、上記の〈加圧工程〉と同様の手法を用いることができる。
【0205】
エージング工程では、外装体の外側から圧力をかけることが好ましい。圧力は0.1kgf/cm以上1000kgf/cm以下が好ましく、0.5kgf/cm以上100kgf/cm以下がより好ましく、1kgf/cm以上10kgf/cm以下がさらに好ましい。
【0206】
圧力が0.1kgf/cm以上であると、正極前駆体および負極の歪みが圧力により矯正され、対向した正極前駆体と負極と距離が面内で均一になるため、高温エージング工程における反応が均一に進むため、高温高負荷サイクル耐久性が向上するため好ましい。圧力が1000kgf/cm以下であれば、電極積層体又は電極捲回体に非水系電解液が浸透する空間が確保され、高温高負荷サイクル耐久性が向上するため好ましい。
【0207】
高温エージング工程の効果
1.微短絡率抑制効果
従来、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有する正極前駆体を備えるアルカリ金属蓄電素子前駆体に対しては、得られるアルカリ金属蓄電素子は、微短絡率が高く、製品歩留まりが低下するという課題があると認識されていた。これに対して、高温エージング工程を製造工程に導入することによって、微短絡率抑制効果が発現することを発明者らは見出した。
【0208】
すなわち、理由は定かではないが、正極前駆体が、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有している場合、ドープ工程におけるアルカリ金属化合物の酸化分解によって、正極前駆体面内で酸化分解反応の面内むらが生じ易く、その結果、負極におけるアルカリ金属イオンのドープ反応の負極面内むらが生じた結果、負極電位に負極面内むらが生じ、負極の面内の一部で電位が下がりすぎたために、アルカリ金属(例えばリチウム)が析出し、正極と負極の微短絡に至るものと考えられる。しかしながら、本実施形態では、高温エージング工程を導入することによって、この負極の面内電位むらが解消され、負極のアルカリ金属の析出が抑制され、微短絡率が低下すると考えられる。
【0209】
一方、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有しない正極前駆体を備えるアルカリ金属蓄電素子前駆体について、得られるアルカリ金属蓄電素子で微短絡が生じる要因は、上記アルカリ金属化合物を有する正極前駆体とは異なる要因、例えば、正極や負極の活物質崩落による正極負極間の短絡などが原因と考えられる。このため、上記高温エージング工程を導入しても微短絡率改善効果は発現しない。
【0210】
2.高温高電圧フロートガス抑制効果
従来、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有する正極前駆体を備えるアルカリ金属蓄電素子前駆体に対しては、得られるアルカリ金属蓄電素子は、高温高電圧フロート時にガスが発生するという課題があると認識されていた。これに対して、高温エージング工程を製造工程に導入することによって、高温高電圧フロート時のガス抑制効果が発現することを発明者らは見出した。
【0211】
すなわち、理由は定かではないが、正極前駆体が、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有している場合、ドープ工程においてアルカリ金属化合物の分解反応の副生成物が生成するため、特に高温高電圧フロート試験時に副生成物が悪影響を及ぼし、ガスが発生するものと考えられる。しかしながら、本実施形態では、高温エージング工程を導入することによって、この残存した副生成物が高温高電位に置かれた正極上で分解消費されるため、完成した非水系アルカリ金属蓄電素子の高温高電圧フロート試験時のガスが抑制されると考えられる。
【0212】
一方、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有しない正極前駆体を備えるアルカリ金属蓄電素子前駆体について、得られるアルカリ金属蓄電素子が、高温高電圧フロート試験でガスを発生させる要因は、上記アルカリ金属化合物を有する正極前駆体とは異なる要因、例えば、電解液溶媒の正極での酸化反応又は負極での還元反応に由来するものと考えられる。このため、上記高温エージング工程を導入しても高温高電圧フロートでのガス抑制効果は発現しない。言い換えれば、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を有する正極前駆体を備えるからこそ、本実施形態によって、上記1.及び2.の高温エージング工程の効果を奏することできる。
【0213】
3.効果の発現条件
高温エージング工程を有する本実施形態が、上記1.及び2.の高温エージング工程の効果を発現するのは、その高温エージング工程が、
高電圧保管工程;非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体の電圧を4.03V以上5.0V以下に調整したのち、45℃以上100℃以下の温度で非水系アルカリ金属蓄電素子前駆体を保管する工程、
を有するときである。
【0214】
なお、高電圧保管ではなく、高温で高電圧に保ち続ける方法、例えば定電圧充電で充電し続ける方法を用いた場合は、上記1.及び2.の高温エージング工程の効果は発現しない。定電圧充電し続けると、アルカリ金属(例えばリチウム)が析出し易く、微短絡が生じ易くなるため、微短絡抑制効果を発現しない。高温で定電圧充電し続けると、ドープ工程で分解しきれず、残存しているアルカリ金属化合物が酸化分解反応して副生成物が再度生成されるため、完成した非水系アルカリ金属蓄電素子の高温高電圧フロート試験時のガス発生が抑制されない。
【0215】
〈ドープ工程、サイクル工程、エージング工程の順序〉
また、ドープ工程、サイクル工程、エージング工程を行う順序としては、第一にドープ工程を行うのが望ましい。そののちに、サイクル工程又はエージング工程を行う順序、回数は特に制限されない。また、ドープ工程を複数回行ってもよい。
【0216】
〈ガス抜き及び封止工程〉
ドープ工程、サイクル工程、及びエージング工程の終了後に、ガス抜き工程を行い、非水系電解液、正極、及び負極中に残存しているガスを確実に除去してもよい。ガス抜きを行うことで、耐久性が向上する。ガス抜きの方法としては、例えば、外装体を開口した状態で電極積層体又は電極捲回体を減圧チャンバー内に設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にする方法等を用いることができる。ガス抜き工程の後、外装体の開口部分を封止する。
【0217】
〈検査工程〉
本開示の製造方法により得られた非水系リチウム蓄電素子について、上記で説明されたセル状態判定方法を行なって、非水系リチウム蓄電素子の物性評価及び/又は品質管理に供してよい。
【実施例
【0218】
〈セルの性能評価〉
セルの性能評価の具体例を以下に挙げる。
[セル容量(mAh)]
セル容量は、セル電圧4Vからレート1Cの電流値で2Vまで放電したときの容量(mAh)で測定することができる。より詳細には、得られた蓄電素子について、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、20Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電を行い、次いで、4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行った。2.0Vまで1Cの電流値で定電流放電を行い、このときの容量(mAh)を測定した。
【0219】
[セル抵抗(mΩ)]
セル抵抗は、セル電圧4Vからレート50Cの電流値で放電したときの抵抗値(mΩ)で測定することができる。より詳細には、得られた蓄電素子について、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、20Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、次いで、4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行い、次いで、20Cの電流値で2.0Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間-電圧)を得た。この放電カーブにおいて、放電時間1秒及び2秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとし、降下電圧ΔE=4.0-Eo、及びR=ΔE/(20C(電流値A))により、常温放電内部抵抗R(mΩ)を算出した。
【0220】
[自己放電特性]
セルの自己放電特性は、セル電圧4Vから開始して、25℃環境下に1kgf/cmの拘束圧力で96hr静置したときの自己放電係数で表すことができる。自己放電係数は、セル電圧をVとすると、(4-V)/√96 [V/√h]で表される。より詳細には、得られた蓄電素子について1Cの電流値で2.5Vまで定電流放電し、その後1Cの電流値で電圧4.0Vまで定電流充電した後に続けて4.0V定電圧充電を1時間継続する手法により、電圧を4.0Vに調整した。続いて45℃に設定した恒温槽内で、電極体を1.0kgf/cmの拘束圧力で加圧した状態で96時間静置し、セル電圧V1を測定し、このときの自己放電係数を算出した。
【0221】
〈セルの耐久性能評価〉
セルの耐久性能評価の具体例を以下に挙げる。
[サイクル試験(容量維持率、抵抗増加率)]
サイクル試験の場合、セルを25℃で充放電を繰り返したときの容量維持率、及び抵抗増加率を測定し、開始~1万サイクル(CY)における容量維持率及び抵抗増加率の傾き(前半)1/√CY、並びに1万CY~20万CYにおける容量維持率及び抵抗増加率の傾き(後半)1/√CYを測定及び評価することができる。より詳細には、得られた蓄電素子について、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、100Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて100Cの電流値で2.2Vに到達するまで定電流放電を行う充放電工程を20万回繰り返し実施した。
【0222】
容量測定は、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、続けて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行い、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を施すことによって行った。容量測定は、少なくともサイクル試験開始前と1万サイクル後と、20万サイクル後に行い、それぞれの容量をQa,Qb,Qcとしたときに、サイクル前半の傾きは、(Qa-Qb)/√1万、サイクル後半の傾きは、(Qb-Qc)/(√20万-√1万)として算出した。
【0223】
抵抗測定は、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、次いで、3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行い、次いで、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間-電圧)を得た。この放電カーブにおいて、放電時間1秒及び2秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとし、降下電圧ΔE=3.8-Eo、及びR=ΔE/(20C(電流値A))により抵抗を算出した。抵抗測定は、少なくともサイクル試験開始前と1万サイクル後と、20万サイクル後に行い、それぞれの抵抗をRa,Rb,Rcとしたときに、サイクル前半の傾きは、(Ra-Rb)/√1万、サイクル後半の傾きは、(Rb-Rc)/(√20万-√1万)として算出した。
【0224】
[フロート試験(容量維持率、抵抗増加率及びガス発生量)]
フロート試験の場合、70℃、3.8Vの条件で500時間保持したときの容量維持率の傾き、抵抗増加率の傾き、及びガス発生量を測定及び評価することができる。より詳細には、得られた非水系リチウム蓄電素子について、70℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で500時間行った。試験開始前のセル体積Va、試験開始後のセル体積Vbをアルキメデス法によって測定し、Vb-Vaによりガス発生量を求めた。
【0225】
容量測定は、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、続けて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行い、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を施すことによって行った。容量測定は、フロート試験開始前と試験終了後に行い容量の維持率を算出した。
【0226】
抵抗測定は、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、次いで、3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行い、次いで、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間-電圧)を得た。この放電カーブにおいて、放電時間1秒及び2秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとし、降下電圧ΔE=3.8-Eo、及びR=ΔE/(20C(電流値A))により抵抗を算出した。抵抗測定は、フロート試験開始前と試験終了後に行い抵抗の増加率を算出した。
【0227】
〈セル(素子前駆体)の製造〉
ドープ工程の対象となるセル(素子前駆体)を、以下のように製造した。
【0228】
[負極1の製造]
人造黒鉛を83.0質量%と、カーボンブラックを13.0質量%とを粉末状態でプラネタリーミキサーにてドライブレンドした。得られた混合物に分散剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を2.0質量%、スチレン-ブタジエン共重合体を2.0質量%、及び蒸留水を分散させ、固形分の質量割合が39.0質量%の混合物を得た。得られた混合物を粉末状態でプラネタリーミキサーにてドライブレンドし、負極塗工液を作製した。東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて厚さ10μmの電解銅箔の両面に負極塗工液を塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度60℃で乾燥して負極1を得た。負極1の全厚を、小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、負極1の任意の10か所で測定した。得られた測定結果より、負極1の膜厚は77μmであった。
【0229】
[負極2の製造]
人造黒鉛を83.0質量%と、カーボンブラックを13.0質量%とを粉末状態でプラネタリーミキサーにてドライブレンドした。得られた混合物に分散剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を2.0質量%、スチレン-ブタジエン共重合体を2.0質量%、及び蒸留水を分散させ、固形分の質量割合が39.0質量%の混合物を得た。得られた混合物を粉末状態でプラネタリーミキサーにてドライブレンドし、負極塗工液を作製した。東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて厚さ10μmの電解銅箔の両面に負極塗工液を塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度60℃で乾燥して負極2を得た。負極2の全厚を、小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、負極2の任意の10か所で測定した。得られた測定結果より、負極2の膜厚は80μmであった。
【0230】
[正極前駆体の製造]
活性炭を53.8質量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)を1.4質量%、炭酸リチウムを34.1質量%、カーボンブラックを4.0質量%、アクリルラテックス(LTX)を3.8質量%、PVP(ポリビニルピロリドン)を2.9質量%、及び蒸留水を混合して、固形分の質量割合が34.1質量%の混合物を得た。その混合物をPRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサー「フィルミックス(登録商標)」を用いて、周速10m/sの条件で2分間分散して正極塗工液を得た。東レエンジニアリング社製の両面ダイコーターを用いて、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に正極塗工液を塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥して正極前駆体を得た。得られた正極前駆体を、ロールプレス機を用いて圧力6kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスした。正極前駆体の全厚を、小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、正極前駆体の任意の10か所で測定した。得られた測定結果より、正極前駆体の膜厚は158μmであった。
【0231】
[電解液の調製]
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、LiPFとLiFSIとの濃度比が1:1であり、合計1.2mol/Lの濃度となるように電解質塩を溶解することにより、非水系電解液1-1を得た。
【0232】
[組立工程]
セル1及び2の組み立て:
得られた正極前駆体を、正極活物質層が10.0cm×10.0cm(100cm)の大きさになるように正極前駆体(両面)を25枚切り出した。続いて負極1を、負極活物質層が10.1cm×10.1cm(102cm)の大きさになるように26枚切り出した。また、10.3cm×10.3cm(106cm)のポリエチレン製のセパレータ(旭化成製、厚み20μm)50枚を用意した。これらを、最外層が負極1になるように、正極前駆体、セパレータ、負極1の順にセパレータを挟んで正極活物質層と負極活物質層が対向するように積層し、電極積層体を得た。得られた電極積層体に正極端子及び負極端子を超音波溶接し、アルミラミネート包材で形成された容器に入れ、電極端子部を含む3辺をヒートシールによりシールした。
【0233】
セル3の組み立て:
負極1の代わりに負極2を用いたこと以外は上記セル1及び2の組み立てと同様にして、セル3を組み立てた。
【0234】
[注液、含浸、封止工程]
大気圧下、温度25℃、露点-40℃以下のドライエアー環境下にて、電極積層体を収納した外装体内に、非水系電解液を約85.0g注入した。続いて、非水系電解液注入後の電極積層体を減圧チャンバーに入れ、大気圧から減圧及び大気圧に戻すことを繰り返し、非水系電解液を電極積層体に含浸させた。含浸後の電極積層体を減圧シール機に入れ減圧状態でシールすることにより外装体を封止し、セル(素子前駆体)を得た。
【0235】
〈実施例の追加的な例示〉
[ドープ条件]
セル1及び3のドープ条件:
セルを、45℃の環境下、セル電圧が4.2Vになるまで0.4Aで定電流充電し、その後電流値を1.4Aに変えて4.5Vまで定電流充電した。4.5Vになった後、定電圧充電に移行し、そのまま2.5時間ドープした。
【0236】
セル2のドープ条件:
セルを、45℃の環境下、セル電圧が4.2Vになるまで0.8Aで定電流充電し、その後電流値を1.4Aに変えて4.5Vまで定電流充電した。4.5Vになった後、定電圧充電に移行し、そのまま2.5時間ドープした。
【0237】
[サイクルエージング条件]
セル1~3のサイクルエージング条件:
(1)セルを、45℃の環境下、10.0Aで電圧4.3Vに到達するまで定電流充電した後、4.3V定電圧充電を5分間行った。
(2)セルを、45℃の環境下、10.0Aで電圧2.0Vに到達するまで定電流放電した後、2.0V定電圧放電を5分間行った。
(1)及び(2)を1サイクルとして、合計5サイクルを実施した。
【0238】
[高温エージング条件]
セル1~3の高温エージング条件:
サイクルエージング工程後のセルを、25℃の環境下、10.0Aで電圧4.2Vに到達するまで定電流充電した後、4.2V定電圧充電を30分間行うことにより電圧を4.2Vに調整した。その後、セルを70℃の恒温槽に10時間保管した。
【0239】
セル1と同じ電極製造条件、セル設計、ドープ条件及びエージング条件で、セル4を製造した。セル2と同じ電極製造条件、セル設計、ドープ条件及びエージング条件で、セル5を製造した。セル3と同じ電極製造条件、セル設計、ドープ条件及びエージング条件で、セル6を製造した。
【0240】
[学習済みモデルの構築、データ解析]
上記セル1、セル2及びセル3を含むセル群の、電極製造条件、セル設計、ドープ条件、エージング条件、及びコンデンサ電流I(A)の影響を受けるパラメータ群と、得られたセルの性能(セル容量、セル抵抗、及び自己放電係数)との相関を機械学習モデルに学習させ、学習済モデルを構築した。これらの中から、セル1、セル2及びセル3のデータを抽出して精査した。ドープ中、実測された正極電位E(V)から算出したコンデンサ電流I(A)から得られるデータを解析し、正極電位が3.3V~3.8Vの範囲における、コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)、コンデンサ電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位微分(dQ/dE)、時間-正極電位の時間微分(dE/dt)、バルク電流で規格化した時間-正極電位の時間微分(dE/dt_i)を算出したところ、表1の結果が得られた。
【0241】
【表1】
【0242】
完成したセルの自己放電係数(V/√h)、セル容量(mAh)、及びセル抵抗(放電抵抗)(mΩ)を測定した結果を表2に示す。
【0243】
【表2】
【0244】
表1及び2より、パラメータ群の変動に伴って、自己放電係数(V/√h)、セル容量(mAh)、及びセル抵抗(放電抵抗)(mΩ)が線形に変動している結果が得られた。以上の結果から、コンデンサ電流I(A)の影響を受けるパラメータ群がこれらのセルの性能を予測する因子として有用であることが分かる。
【0245】
[学習済みモデルの構築、データ解析]
サイクル試験:
上記セル1、セル2及びセル3を含むセル群の、電極製造条件、セル設計、ドープ条件、エージング条件、及び電極反応電流I(A)の影響を受けるパラメータ群と、得られたセルのサイクル試験(容量維持率、及び抵抗増加率)との相関を機械学習モデルに学習させ、学習済モデルを構築した。これらの中から、セル1、セル2及びセル3のデータを抽出して精査した。ドープ中、仮定された正極電位E(V)から算出した電極反応電流I(A)から得られるデータを解析し、正極電位が3.8Vより大きい範囲における、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位微分(dQ/dE)、時間-正極電位の時間微分(dE/dt)、バルク電流で規格化した時間-正極電位の時間微分(dE/dt_i)を算出したところ、表3の結果が得られた。また、電流分離工程による正極電位のフィッティングで得られるパラメータを算出したところ、表4の結果が得られた。
【0246】
【表3】
【0247】
【表4】
【0248】
完成したセルのサイクル試験における容量維持率の前半傾き及び後半傾き、並びに抵抗増加率の前半傾き及び後半傾きを測定した結果を表5に示す。
【0249】
【表5】
【0250】
フロート試験:
上記セル4、セル5及びセル6を含むセル群の、電極製造条件、セル設計、ドープ条件、エージング条件、及び電極反応電流I(A)の影響を受けるパラメータ群と、得られたセルのフロート試験(容量維持率(倍)、抵抗増加率(倍)及びガス発生量(cc))との相関を機械学習モデルに学習させ、学習済モデルを構築した。これらの中から、セル4、セル5及びセル6のデータを抽出して精査した。ドープ中、仮定された正極電位E(V)から算出した電極反応電流I(A)から得られるデータを解析し、正極電位が3.8Vより大きい範囲における、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)、電極反応電流I(A)の電流容量Q(mAh)の正極電位微分(dQ/dE)、時間-正極電位の時間微分(dE/dt)、バルク電流で規格化した時間-正極電位の時間微分(dE/dt_i)を算出したところ、表6の結果が得られた。また、電流分離工程による正極電位のフィッティングで得られるパラメータ群を算出したところ、表7の結果が得られた。
【0251】
【表6】
【0252】
【表7】
【0253】
完成したセルのフロート試験における容量維持率(倍)、抵抗増加率(倍)及びガス発生量(cc)を測定した結果を表8に示す。
【0254】
【表8】
【0255】
表1~8より、特定のパラメータ群から選択される少なくとも一つのパラメータの変動に伴って、サイクル試験における容量維持率及び抵抗増加率、並びにフロート試験における容量維持率、抵抗増加率及びガス発生量が線形に変動している結果が得られた。以上の結果から、コンデンサ電流I(A)の影響を受けるパラメータ群、及び電流分離工程による正極電位のフィッティングで得られるパラメータ群がこれらのセルの性能を予測する因子として有用であることが分かる。
【0256】
なお、図8~13は、それぞれ、実施例におけるセル1~6のドープ工程における、ドープ時間(s)と電流密度(A/m)の関係を示すグラフである。
【0257】
〈セル状態判定方法の例〉
注液、含浸、封止工程後のセル(素子前駆体)について、以下に示す条件下、ドープ工程、サイクルエージング工程、および高温エージング工程を行なって、セル1~6を完成させた。次いで、セル1~6の耐久試験を行なった。耐久試験では、セル1~3について、以下に示す条件下、サイクル試験を行ない、そしてセル4~6について、以下に示す条件下、フロート試験を行なった。また、シミュレーションにより電極反応由来の電流Iを主反応、副反応1、副反応2に分離して、それぞれの積算容量値を算出し、耐久試験結果と比較した。
【0258】
[ドープ条件]
上述のとおり、セル1とセル4は同じであり、セル2とセル5は同じであり、セル3とセル6は同じである。
【0259】
セル1,セル4のドープ条件:45℃ 4.2V-0.4A→4.5V-1.4AcccvCG(cccv2.5h)
45℃の環境下で、セル電圧が4.2Vになるまで、0.4Aで定電流充電し、その後電流値を1.4Aに変えて、4.5Vまで定電流充電した。4.5Vになった後、定電圧充電に移行し、そのまま2.5時間(hr)ドープした。
【0260】
セル2,セル5のドープ条件:45℃ 4.2V-0.8A→4.5V-1.4AcccvCG(cccv2.5h)
45℃の環境下で、セル電圧が4.2Vになるまで、0.8Aで定電流充電し、その後電流値を1.4Aに変えて、4.5Vまで定電流充電した。4.5Vになった後、定電圧充電に移行し、そのまま2.5hrドープした。
【0261】
セル3,セル6のドープ条件:45℃ 4.2V-0.4A→4.5V-1.4AcccvCG(cccv2.5h)
45℃の環境下で、セル電圧が4.2Vになるまで、0.4Aで定電流充電し、その後電流値を1.4Aに変えて、4.5Vまで定電流充電した。4.5Vになった後、定電圧充電に移行し、そのまま2.5hrドープした。
【0262】
[サイクルエージング条件]
セル1~6のサイクルエージング工程:45℃ [4.3V-5A-ccvCG(cv10min)→2.0V-5A-ccvDG(cv10min)]×5
(1)セル1~6を、45℃の環境下、10.0Aで電圧4.3Vに到達するまで定電流充電した後、4.3V定電圧充電を5分間行った。
(2)セル1~6を、45℃の環境下、10.0Aで電圧2.0Vに到達するまで定電流放電した後、2.0V定電圧放電を5分間行った。
上記(1)及び(2)を1サイクルとして、合計5サイクルを実施した。
【0263】
[高温エージング条件]
サイクルエージング工程後のセル1~6を、25℃の環境下、10.0Aで電圧4.2Vに到達するまで定電流充電を行った後、4.2V定電圧充電を30分間行うことにより電圧を4.2Vに調整した。その後、セル1~6を70℃の恒温槽に10時間保管した。
【0264】
(耐久試験)
高温エージング工程後のセル1~6の耐久試験の具体例を以下に挙げる。
【0265】
[サイクル試験(容量維持率、抵抗増加率)]
サイクル試験の場合、セルを25℃で充放電を繰り返したときの容量維持率、及び抵抗増加率を測定し、開始~1万サイクル(CY)における容量維持率及び抵抗増加率の傾き(前半)1/√CY、並びに1万CY~20万CYにおける容量維持率及び抵抗増加率の傾き(後半)1/√CYを測定及び評価することができる。より詳細には、得られたセル1~3について、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、100Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて100Cの電流値で2.2Vに到達するまで定電流放電を行う充放電工程を20万回繰り返し実施した。
【0266】
容量測定は、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、続けて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行い、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を施すことによって行った。容量測定は、少なくともサイクル試験開始前と1万サイクル後と、20万サイクル後に行い、それぞれの容量をQa,Qb,Qcとしたときに、サイクル前半の傾きは、(Qa-Qb)/√1万、サイクル後半の傾きは、(Qb-Qc)/(√20万-√1万)として算出した。
【0267】
抵抗測定は、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、次いで、3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行い、次いで、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間-電圧)を得た。この放電カーブにおいて、放電時間1秒及び2秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとし、降下電圧ΔE=3.8-Eo、及びR=ΔE/(20C(電流値A))により抵抗を算出した。抵抗測定は、少なくともサイクル試験開始前と1万サイクル後と、20万サイクル後に行い、それぞれの抵抗をRa,Rb,Rcとしたときに、サイクル前半の傾きは、(Ra-Rb)/√1万、サイクル後半の傾きは、(Rb-Rc)/(√20万-√1万)として算出した。
【0268】
[フロート試験(容量維持率、抵抗増加率及びガス発生量)]
フロート試験の場合、70℃、3.8Vの条件で500時間保持したときの容量維持率の傾き、抵抗増加率の傾き、及びガス発生量を測定及び評価することができる。より詳細には、得られたセル4~6について、70℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で500時間行った。試験開始前のセル体積Va、試験開始後のセル体積Vbをアルキメデス法によって測定し、Vb-Vaによりガス発生量を求めた。
【0269】
容量測定は、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、続けて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行い、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を施すことによって行った。容量測定は、フロート試験開始前と試験終了後に行い容量の維持率を算出した。
【0270】
抵抗測定は、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、次いで、3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行い、次いで、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間-電圧)を得た。この放電カーブにおいて、放電時間1秒及び2秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとし、降下電圧ΔE=3.8-Eo、及びR=ΔE/(20C(電流値A))により抵抗を算出した。抵抗測定は、フロート試験開始前と試験終了後に行い抵抗の増加率を算出した。
【0271】
〈実施例の追加的な例示〉

(i)ドープ工程中に得られたデータを解析し、電流Iの時間変化から特定の電流の積算容量値を算出したところ、表9の結果が得られた。
(ii)続いて、完成したセル1~3の耐久試験においてサイクル試験を実施したところ、セル1、セル2、セル3の評価結果は表10のとおりであった。
(iii)完成したセル4~6の耐久試験においてフロート試験を実施したところ、セル4、セル5、セル6の評価結果は表10のとおりであった。
(iv)表9で得られた各反応の反応量と、表10で得られた試験の判定結果を比較すると、セル5のフロート試験におけるガス発生量が目標値から外れていることがわかった。ガス発生量は、副反応2の反応量に伴って変動するため、フロートガス発生量を75cc以下に抑制するためには、副反応2の電流の積算容量値が0.158Ah/m以上であることを判定基準にすることがよいとわかる。
(v)この考え方を用いれば、ドープ工程中の各反応量を規定することで、完成したセルが要求される耐久性能に資するセルであるかどうかの状態を判定することができるため、品質管理の項目として有用である。
【0272】
セル1~6のドープ工程中の各反応における電流密度の時間変化を図14図19にそれぞれ示す。
【0273】
また、本実施例では積算容量のみを示したが、電流密度の時間変化には、各反応のバルク濃度や拡散係数、開始電位等による要素が含まれており、更に詳細にドープ工程中に生じた反応を数値で表現することができる。そのため、電流密度の時間変化もまた、完成したセルの要求される目標値に対して、達成可能かどうかの状態判定に有用な情報となる。
【0274】
【表9】
【0275】
【表10】
【0276】
以上のように、本開示の方法を用いて主反応の進行状況を推定することにより計算と実測との差を認識し、ドープ方法を改善することができた。
【産業上の利用可能性】
【0277】
本開示の電流分離方法、性能予測方法及びセル状態の判定方法によれば、製造された非水系リチウム蓄電素子が完成した後の検査又は、耐久試験を行わずとも、非水系リチウム蓄電素子の性能を予測することができ、非水系リチウム蓄電素子の品質管理又は向上、非水系リチウム蓄電素子モジュールの設計等に利用することができる。より具体的には、電極製造データ及び本開示の方法により得られるドープ工程での電極反応に関する充放電データと、このときの実際の非水系リチウム蓄電素子の性能または品質との相関を学習した学習済みモデルを得ることができる。当該学習済みモデルに未知の系の電極製造データ及びドープ工程におけるコンデンサ電流又は電極反応電流に関する充放電データ又は進行状況を入力することで、非水系リチウム蓄電素子のセル状態を判定し、特定の性能および品質の水準を満たすか否か予測又は管理することができる。あるいは、当該学習済みモデルに基づいて、非水系リチウム蓄電素子に求められる性能を達成するためのセル設計、セル試作条件、電極試作条件、セル状態の判定基準、物性評価基準、及び品質管理基準を予測および決定することができる。
【符号の説明】
【0278】
S1 ドープ条件設定工程
S2 測定工程
S3 電流算出工程
S4 正極電位修正工程
S5 電流分離工程
S6 パラメータ算出工程
S7 予測工程
SS3 電流密度算出工程
SS4 正極電位修正工程
SS5 電流分離工程
【要約】
本開示は、非水系リチウム蓄電素子の電流分離方法等に関する。電流分離方法において、前記非水系リチウム蓄電素子は、炭酸リチウム及び活性炭を含む正極活物質層を有する正極前駆体と、リチウムを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む負極活物質層を有する負極と、前記正極前駆体及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液とを有するセルを含む。前記電流分離方法は、前記セルのドープ中に測定された前記セルの電圧及び電流に基づいて、前記セルのコンデンサ電流I及び電極反応電流Iを算出する工程を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19