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特許7297605ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及び車両用灯具エクステンション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-16
(45)【発行日】2023-06-26
(54)【発明の名称】ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及び車両用灯具エクステンション
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/12 20060101AFI20230619BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20230619BHJP
   C08L 25/06 20060101ALI20230619BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20230619BHJP
   B29C 45/27 20060101ALI20230619BHJP
【FI】
C08L71/12
C08L53/02
C08L25/06
B29C45/00
B29C45/27
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019160720
(22)【出願日】2019-09-03
(65)【公開番号】P2021038321
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】許斐 康昭
(72)【発明者】
【氏名】二井野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】安間 英任
(72)【発明者】
【氏名】長田 和仁
(72)【発明者】
【氏名】古井 崇嗣
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/070592(WO,A1)
【文献】特表平04-500094(JP,A)
【文献】特開2012-246400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/12
C08L 53/02
C08L 25/06
B29C 45/00
B29C 45/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)還元粘度(クロロホルム溶媒中、30℃)が0.39~0.43dL/gであるポリフェニレンエーテル系樹脂を42~57質量%と、
(B)還元粘度(クロロホルム溶媒中、30℃)が0.31~0.34dL/gであるポリフェニレンエーテル系樹脂を11~26質量%と、
(C)ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック(c1)と水素添加された共役ジエン重合体ブロック(c2)とを含むブロック共重合体を9~15質量%と、
(D)ビニル芳香族炭化水素の単独重合体を15~23質量%とを含有し、
前記(C)ブロック共重合体は、ビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位を62~70質量%含み、重量平均分子量Mwが50,000~70,000であり、分子量分布Mw/Mn(Mnは数平均分子量)が1.00~1.30であることを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)成分が、ポリスチレンと水素添加されたポリブタジエンとから構成されるc1―c2―c1型ブロック共重合体である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(D)成分が、重量平均分子量Mwが170,000~210,000であり、分子量分布Mw/Mnが2.0~3.0であるポリスチレンである、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
幅8mm、成形厚み2mmのスパイラル状金型を備え付けた射出成形機により、シリンダー温度330℃、金型温度120℃、射出圧力100MPa(ゲージ圧力)、射出速度50mm/sec、射出時間/冷却時間=9sec/15secで成形した時に、得られた成形品のゲート対応位置からの流動長Lが400mm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする、車両用灯具エクステンション。
【請求項6】
比重が1.10以下であり、かつ60℃、95%RHにおいて1,000時間吸水させた時の吸水率が0.4質量%以下である、請求項5に記載の車両用灯具エクステンション。
【請求項7】
アルミニウム蒸着後、155℃の環境に24時間静置した場合の静置前後の表面粗さRaの変化(ΔRa)が10nm以下である、請求項5又は6に記載の車両用灯具エクステンション。
【請求項8】
ゲート対応位置からの最大流動長Lmaxと平均厚みtとの比Lmax/tが150以上である、請求項5~7のいずれか一項に記載の車両用灯具エクステンション。
【請求項9】
平均厚みtが3mm以下である、請求項5~8のいずれか一項に記載の車両用灯具エクステンション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物及び同組成物からなる車両用灯具エクステンションに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンエーテル樹脂は、機械的物性、電気的特性、耐酸・耐アルカリ性、耐熱性に優れると共に、低比重で、吸水性が低く、且つ寸法安定性が良好である等の多様な特性を有している。そのため、ポリフェニレンエーテル樹脂は、家電製品、OA機器、事務機、情報機器や自動車等の材料として、幅広く利用されている。
特に、低比重、高耐熱性という特性を持つことから、自動車用ランプ周辺部品(例えば、ハウジング、リフレクター、エクステンション)や各種照明器具等の光反射成形体用途においても、ポリフェニレンエーテル樹脂組成物の利用が期待されている。
中でも、車両用灯具エクステンション等の自動車用ランプ周辺部品は、軽量化や薄肉化、良好な表面外観への要求が近年ますます高まりつつあり、同用途にポリフェニレンエーテル樹脂組成物を用いる場合には、更に高い耐熱性と剛性、良好な成形流動性、高い光反射特性、アルミ蒸着性の簡便さが要求される。またその成形品が、良好な表面外観及び輝度感を有すること等が期待されている。
【0003】
ここで、ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物を用いてなる自動車用ランプ周辺部品に関する技術としては、例えば、特許文献1には、特定の加熱変形温度及び引張強度保持率を有するポリフェニレンエーテル系樹脂を主体とする熱可塑性樹脂組成物から成形された、耐熱性、成形加工性、及び耐加水分解性に優れた車両用灯具用反射板が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ポリフェニレンエーテル系樹脂と、特定の重量平均分子量及びZ平均分子量における分岐点の数を有するポリスチレン系樹脂と、任意でゴム状重合体とを含むことにより、流動性及び得られる成形品の外観に優れた熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
特許文献3には、特定の粒度及び熱変形温度を有するポリフェニレンエーテル系樹脂成形材料から成形され、乾式法で形成された金属反射板を有する、耐熱性、鮮映性、及び機械的特性に優れたランプリフレクターが開示されている。
【0006】
特許文献4には、ヘッドランプ等の反射部品において、エクステンションの熱可塑性樹脂層に変性ポリフェニレンエーテル樹脂が好適に用いられることが開示されている。
【0007】
特許文献5には、特定の比率のポリフェニレンエーテル系樹脂を含有し、特定のフォギング性を有する樹脂組成物を用いることにより、高い耐熱性、剛性及び表面平滑性を有し、更には、アルミ蒸着外観や、高温条件下でのフォギング性にも優れた車両用灯具周辺部品が得られることが開示されている。
【0008】
特許文献6には、特定の含有量のポリフェニレンエーテルを含有し、特定の比重を有することにより、低比重で、良好な耐熱性と成形流動性とのバランスを有して、更には、成形品光沢及び輝度感に優れた樹脂組成物、及び当該樹脂組成物を含む車両用灯具エクステンション成形体が開示されている。
【0009】
特許文献7には、ポリフェニレンエーテル樹脂と、ポリスチレン樹脂と、特定の分子量の水素添加ブロック共重合体を含むゴム重合体とを特定の比率で含む樹脂組成物からなる、金属蒸着、例えばアルミ蒸着された薄肉部分において、熱エージング前後の外観、特に表面反射率の保持に優れた高輝度・低ガス性薄肉樹脂反射鏡が開示されている。
【0010】
特許文献8には、ポリ(アリーレンエーテル)、特定の体積平均粒径を有するゴム粒子を含むゴム変性ポリスチレン、特定量のポリ(アルケニル芳香族)を含む特定の重量平均分子量の水素化ブロックコポリマー、及び炭化水素樹脂を特定の比率で含む組成物から成形され、ミネラル充填及び非充填ポリエステルにより調製された対応物品よりも軽く、衝撃強度、耐熱性、光沢、及び溶融流動特性を犠牲にすることなく、燃費向上に貢献する射出成形品(自動車ヘッドライトベゼル)が開示されている。
【0011】
特許文献9には、ポリフェニレンエーテルと、スチレン系樹脂と、カーボンブラックとを特定の比率で含有する樹脂組成物から成形され、成形体表面の鏡面部分における特定の面積内に存在する白斑が特定個数以下であることにより、低比重で、成形体表面の白斑が極めて少なく、アルミ蒸着外観に優れた黒色成形体及び光反射成形体が開示されている。
【0012】
特許文献10には、ポリフェニレンエーテルと、特定量のアクリロニトリルを含有するスチレン-アクリロニトリル樹脂とを特定の比率で含有する樹脂組成物から成形される、アルミ蒸着後の成形体表面の白斑を極めて少なくすると同時に、高温滞留成形条件下において成形体表面にシルバーの発生が抑制された光反射部品用成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平5-320495号公報
【文献】特開平7-268151号公報
【文献】特開平9-167511号公報
【文献】特開平11-96805号公報
【文献】国際公開第2010/134608号
【文献】国際公開第2012/070592号
【文献】特開2012-164577号公報
【文献】特開2014-507537号公報
【文献】特開2016-138200号公報
【文献】特開2014-47343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、車両用灯具エクステンションのような薄肉(例えば、厚み2.5mm以下)の大型成形品において、高強度化や高外観化を図るためにフルショットで射出成形するには、上記先行技術文献に開示されるような従来のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物では必ずしも流動性が十分ではなく、この点で改良の余地がある。また、車両用灯具エクステンションでは優れた表面外観及び輝度感が要求されるが、従来のポリフェニレンエーテル系樹脂組成物からなる成形品では、熱履歴による変形や湿熱環境下での膨れ等による外観不良が生じる可能性がある。更に、車両用灯具エクステンションは密閉構造内で使用されるものが多く、また、特に照明のLED化に伴い、吸水性の高い樹脂を用いた場合、車両用灯具の前面にある透明カバーの内面に、車両用灯具の内部温度と外気との温度差により結露が発生してランプの照度が低下する場合がある。
【0015】
そこで、本発明は、優れた流動性及び耐熱性を有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物、及び当該樹脂組成物からなり、軽量で外観及び低吸水性に優れた車両用灯具エクステンションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、還元粘度の異なる2種類のポリフェニレンエーテル系樹脂、ビニル芳香族炭化水素重合体ブロックと水素添加された共役ジエン重合体ブロックとを含み、特定の分子量及び分子量分布を有するブロック共重合体、及びビニル芳香族炭化水素の単独重合体を特定の含有量で含むことにより、優れた流動性及び耐熱性を有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物が得られ、また、当該樹脂組成物により軽量で外観及び低吸水性に優れた車両用灯具エクステンションが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明は、以下の通りである。
[1]
(A)還元粘度(クロロホルム溶媒中、30℃)が0.39~0.43dL/gであるポリフェニレンエーテル系樹脂を42~57質量%と、
(B)還元粘度(クロロホルム溶媒中、30℃)が0.31~0.34dL/gであるポリフェニレンエーテル系樹脂を11~26質量%と、
(C)ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック(c1)と水素添加された共役ジエン重合体ブロック(c2)とを含むブロック共重合体を9~15質量%と、
(D)ビニル芳香族炭化水素の単独重合体を15~23質量%とを含有し、
前記(C)ブロック共重合体は、ビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位を62~70質量%含み、重量平均分子量Mwが50,000~70,000であり、分子量分布Mw/Mn(Mnは数平均分子量)が1.00~1.30であることを特徴とする、樹脂組成物。
[2]
前記(C)成分が、ポリスチレンと水素添加されたポリブタジエンとから構成されるc1―c2―c1型ブロック共重合体である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]
前記(D)成分が、重量平均分子量Mwが170,000~210,000であり、分子量分布Mw/Mnが2.0~3.0であるポリスチレンである、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]
幅8mm、成形厚み2mmのスパイラル状金型を備え付けた射出成形機により、シリンダー温度330℃、金型温度120℃、射出圧力100MPa(ゲージ圧力)、射出速度50mm/sec、射出時間/冷却時間=9sec/15secで成形した時に、得られた成形品のゲート対応位置からの流動長Lが400mm以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物からなることを特徴とする、車両用灯具エクステンション。
[6]
比重が1.10以下であり、かつ60℃、95%RHにおいて1,000時間吸水させた時の吸水率が0.4質量%以下である、[5]に記載の車両用灯具エクステンション。
[7]
アルミニウム蒸着後、155℃の環境に24時間静置した場合の静置前後の表面粗さRaの変化(ΔRa)が10nm以下である、[5]又は[6]に記載の車両用灯具エクステンション。
[8]
ゲート対応位置からの最大流動長Lmaxと平均厚みtとの比Lmax/tが150以上である、[5]~[7]のいずれかに記載の車両用灯具エクステンション。
[9]
平均厚みtが3mm以下である、[5]~[8]のいずれかに記載の車両用灯具エクステンション。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた流動性及び耐熱性を有するポリフェニレンエーテル系樹脂組成物、及び当該樹脂組成物からなり、軽量で外観及び低吸水性に優れた車両用灯具エクステンションを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0020】
〈樹脂組成物〉
本実施形態の樹脂組成物は、(A)還元粘度(クロロホルム溶媒中、30℃)が0.39~0.43dL/gであるポリフェニレンエーテル系樹脂を42~57質量%と、(B)還元粘度(クロロホルム溶媒中、30℃)が0.31~0.34dL/gであるポリフェニレンエーテル系樹脂を11~26質量%と、(C)ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック(c1)と水素添加された共役ジエン重合体ブロック(c2)とを含むブロック共重合体を9~15質量%と、(D)ビニル芳香族炭化水素の単独重合体を15~23質量%とを含有し、前記(C)ブロック共重合体は、ビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位を62~70質量%含み、重量平均分子量Mwが50,000~70,000であり、分子量分布Mw/Mn(Mnは数平均分子量)が1.00~1.30であることを特徴とする。
本実施形態の樹脂組成物は、還元粘度の異なる2種類のポリフェニレンエーテル系樹脂を特定の比率で含有することにより、優れた流動性を有することが可能となり、薄肉の成形品を良好に成形することができる。また、ポリフェニレンエーテル系樹脂及びビニル芳香族炭化水素の単独重合体の含有量が特定の範囲であることにより、成形品において、灯具に必要な性能を保持しつつ、軽量化や高外観化を実現することができる。更に、ブロック共重合体の含有量が特定の範囲であることにより、成形品の湿熱環境下での膨れや成形時の離型不良(割れ)を防止することができる。
【0021】
以下、本実施形態の樹脂組成物の構成成分について説明する。
【0022】
《(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂》
本実施形態の樹脂組成物は、(A)還元粘度(クロロホルム溶媒中、30℃)が0.39~0.43dL/gであるポリフェニレンエーテル系樹脂(本明細書において、「(A)PPE系樹脂」と称する場合や、単に「(A)成分」と称する場合がある。)を樹脂組成物100質量%に対して42~57質量%含有する。(A)成分を含有することにより、本実施形態の樹脂組成物は、優れた湿熱耐性、高DTULを有し、また、成形品の軽量化を実現することができる。
【0023】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、特に限定されることなく、例えば、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、及び両者の混合物等が挙げられる。(A)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0024】
-ポリフェニレンエーテル-
ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されることなく、例えば、下記式(1)で表される繰り返し単位構造からなる単独重合体、及び/又は下記式(1)で表される繰り返し単位構造を有する共重合体が挙げられる。
【化1】
[式中、R1、R2、R3、及びR4は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~7の第1級のアルキル基、炭素原子数1~7の第2級のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、及び少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群より選ばれる一価の基である。]
【0025】
このようなポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる。ポリフェニレンエーテルの具体例としては、例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)等の単独重合体;2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールや2-メチル-6-ブチルフェノール等の他のフェノール類との共重合物等の共重合体;等が挙げられる。中でも、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合物が好ましく、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)がより好ましい。
【0026】
ポリフェニレンエーテルの製造方法としては、特に限定されることなく、従来公知の方法を用いることができる。ポリフェニレンエーテルの製造方法の具体例としては、例えば、第一銅塩とアミンとのコンプレックスを触媒として用いて、例えば、2,6-キシレノールを酸化重合することによって製造する、米国特許第3306874号明細書等に記載される方法や、米国特許第3306875号明細書、米国特許第3257357号明細書、米国特許第3257358号明細書、特公昭52-17880号公報、特開昭50-51197号公報、特開昭63-152628号公報等に記載される方法等が挙げられる。
【0027】
-変性ポリフェニレンエーテル-
変性ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されることなく、例えば、上記ポリフェニレンエーテルに、スチレン系重合体及び/又はその誘導体をグラフト化及び/又は付加させたもの等が挙げられる。グラフト化及び/又は付加による質量増加の割合は、特に限定されることなく、変性ポリフェニレンエーテル100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、また、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることが更に好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
変性ポリフェニレンエーテルの製造方法としては、特に限定されることなく、例えば、ラジカル発生剤の存在下又は非存在下で、各種ビニル化合物をグラフト化及び/又は付加させたものが挙げられる。好ましくは、溶融状態、溶液状態又はスラリー状態において、80~350℃の条件下で、上記ポリフェニレンエーテルと、スチレン系重合体及び/又はその誘導体と、を反応させる方法等である。
【0029】
(A)成分が、ポリフェニレンエーテルと変性ポリフェニレンエーテルとの混合物である場合には、上記ポリフェニレンエーテルと上記変性ポリフェニレンエーテルとの混合割合は、特に限定されることなく、任意の割合としてよい。
【0030】
(A)成分の還元粘度は、樹脂組成物の流動性、得られる成形品の強度の観点から、0.39~0.43dL/gであり、0.39~0.42dL/gであることが好ましく、0.40~0.42dL/gであることがより好ましい。還元粘度は、重合時間や触媒量により制御することができる。
なお、(A)成分の還元粘度は、ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液を用いて、温度30℃の条件下、ウベローデ型粘度管で測定することができる。
【0031】
本実施形態の樹脂組成物中の(A)成分の含有量は、樹脂組成物の流動性、得られる成形品の強度及び軽量性の観点から、樹脂組成物全量(100質量%)に対して、42~57質量%であり、48~56質量%であることが好ましく、50~56質量%であることがより好ましい。
【0032】
《(B)ポリフェニレンエーテル系樹脂》
本実施形態の樹脂組成物は、(B)還元粘度(クロロホルム溶媒中、30℃)が0.31~0.34dL/gであるポリフェニレンエーテル系樹脂(本明細書において、「(B)PPE系樹脂」と称する場合や、単に「(B)成分」と称する場合がある。)を樹脂組成物100質量%に対して11~26質量%含有する。(B)成分を含有することにより、本実施形態の樹脂組成物は、優れた湿熱耐性、優れた成形流動性、及び高DTULを有し、また、成形品の軽量化を実現することができる。
【0033】
本実施形態で用いられる(B)ポリフェニレンエーテル系樹脂としては、特に限定されることなく、上記の(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と同様のものを用いることができる。
【0034】
(B)成分の還元粘度は、樹脂組成物の流動性、得られる成形品の強度の観点から、0.31~0.34dL/gであり、0.32~0.33dL/gであることが好ましい。還元粘度は、重合時間や触媒量により制御することができる。
なお、(B)成分の還元粘度は、ηsp/c:0.5g/dLのクロロホルム溶液を用いて、温度30℃の条件下、ウベローデ型粘度管で測定することができる。
【0035】
本実施形態の樹脂組成物中の(B)成分の含有量は、樹脂組成物の流動性、得られる成形品の強度及び軽量性の観点から、樹脂組成物全量(100質量%)に対して、11~26質量%であり、12~20質量%であることが好ましく、12~18質量%であることがより好ましい。
【0036】
《(C)ブロック共重合体》
本実施形態の樹脂組成物は、(C)ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック(c1)と水素添加された共役ジエン重合体ブロック(c2)とを含むブロック共重合体(本明細書において、単に「(C)成分」と称する場合がある。)を樹脂組成物100質量%に対して9~15質量%含有する。本実施形態の樹脂組成物は、(C)成分を含有することにより、(A)成分及び(B)成分との混和性や耐衝撃性が向上する。
(C)ブロック共重合体としては、特に限定されることなく、例えば、未変性ブロック共重合体、変性ブロック共重合体、及びこれらの混合物等が挙げられる。(C)成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
なお、(C)成分には、ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック(c1)及び水素添加された共役ジエン重合体ブロック(c2)以外のブロックが本発明の目的を阻害しない程度で少量含まれていてもよい。
【0037】
-ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック(c1)-
ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック(c1)を構成するビニル芳香族炭化水素化合物としては、特に限定されることなく、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-tert-ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。上記ビニル芳香族炭化水素化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0038】
(C)ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロック(c1)の含有量(ビニル芳香族炭化水素由来の単量体単位の含有量)は、(A)成分及び(B)成分との混和性の観点から、62~70質量%であり、64~70質量%であることが好ましく、64~68質量%であることがより好ましい。
【0039】
-水素添加された共役ジエン重合体ブロック(c2)-
水素添加された共役ジエン重合体ブロック(c2)(本明細書において、「水素添加共役ジエン重合体ブロック(c2)」、「水添共役ジエン重合体ブロック(c2)」と記載する場合がある。)は、熱安定性の観点から、水素添加率が50%以上であるものが好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは95%以上である。
なお、水素添加率は、核磁気共鳴装置(NMR)を用いて測定することができる。
【0040】
共役ジエン重合体ブロック(c2)を構成する共役ジエン化合物としては、以下に制限されないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、及びこれらの組み合わせ等が挙げられ、ブタジエンが特に好ましい。上記共役ジエン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0041】
(C)ブロック共重合体中の水素添加された共役ジエン重合体ブロック(c2)の含有量は、機械的強度の観点から、30~38質量%であることが好ましく、30~36質量%であることがより好ましく、32~36質量%であることが更に好ましい。
【0042】
(C)ブロック共重合体を構成する繰り返し単位の配列の様式は、リニアタイプでもラジアルタイプでもよく、好ましくは、リニアタイプである。具体的には、(C)ブロック共重合体は、上記ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック(c1)及び上記共役ジエン重合体ブロック(c2)の構造が、c1-c2、c1-c2-c1、c2-c1-c2-c1等であるものが挙げられる。中でも、湿熱環境下での膨れ発生を防止するという観点からは、特に好ましくは、ポリスチレン-水素添加ポリブタジエン-ポリスチレン構造で構成されるc1-c2-c1型のブロック共重合体である。
【0043】
(C)成分の重量平均分子量Mwは、樹脂組成物の成形流動性、得られる成形品の外観保持、(A)成分及び(B)成分との混和性の観点から、50,000~70,000であり、51,000~70,000であることが好ましく、51,000~68,000であることがより好ましい。
また、(C)成分の分子量分布Mw/Mn(Mnは数平均分子量)は、成形流動性の観点から、1.00~1.30であり、1.05~1.20であることが好ましく、1.05~1.15であることがより好ましい。
なお、(C)成分の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、及び分子量分布Mw/Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、移動相をクロロホルムとして測定したポリスチレン換算の分子量とし、従来公知の方法により求めることができる。
【0044】
本実施形態の樹脂組成物中の(C)成分の含有量は、得られる成形品の湿熱環境下での膨れや、成形品の製造時における離型不良(割れ)等を防止する観点から、樹脂組成物全量(100質量%)に対して、9~15質量%であり、9~13質量%であることが好ましく、10~13質量%であることがより好ましい。
【0045】
(C)ブロック共重合体の製造方法としては、特に限定されることなく、公知の製造方法を用いることができる。公知の製造方法の具体例としては、例えば、特開昭47-11486号公報、特開昭49-66743号公報、特開昭50-75651号公報、特開昭54-126255号公報、特開昭56-10542号公報、特開昭56-62847号公報、特開昭56-100840号公報、特開平2-300218号公報、英国特許第1130770号明細書、米国特許第3281383号明細書、米国特許第3639517号明細書、英国特許第1020720号明細書、米国特許第3333024号明細書、及び米国特許第4501857号明細書に記載の方法等が挙げられる。
【0046】
《(D)ビニル芳香族炭化水素の単独重合体》
本実施形態の樹脂組成物は、(D)ビニル芳香族炭化水素の単独重合体(本明細書において、単に「(D)成分」と称する場合がある。)を樹脂組成物100質量%に対して15~23質量%含有する。本実施形態の樹脂組成物は、(D)成分を含有することにより、流動性が促進され、耐熱性が好適に調整される。
【0047】
(D)成分を構成するビニル芳香族炭化水素化合物としては、特に限定されることなく、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-tert-ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。
【0048】
(D)成分の重量平均分子量Mwは、170,000~210,000であることが好ましく、180,000~210,000であることがより好ましく、185,000~210,000であることが更に好ましい。重量平均分子量Mwが170,000以上であることにより、高強度の成形品を得ることができ、210,000以下であることにより、樹脂組成物の粘度が良好となり、成形品の射出成形時にショートを防ぐことができる。
また、(D)成分の分子量分布Mw/Mn(Mnは数平均分子量)は、成形流動性の観点から、2.0~3.0であることが好ましく、2.2~2.8であることがより好ましい。
なお、(D)成分の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、及び分子量分布Mw/Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により、移動相をクロロホルムとして測定したポリスチレン換算の分子量とし、従来公知の方法により求めることができる。
【0049】
本実施形態の樹脂組成物中の(D)成分の含有量は、得られる成形品の耐熱性及び樹脂組成物の成形流動性の観点から、樹脂組成物全量(100質量%)に対して、15~23質量%であり、15~22質量%であることが好ましい。
【0050】
《(E)その他の添加剤》
本実施形態で任意選択的に用いられる、その他の添加剤(E)としては、特に限定されることなく、例えば、(C)成分以外のビニル芳香族炭化水素重合体-共役ジエン重合体のブロック共重合体、酸化防止剤、金属不活性化剤、熱安定剤、難燃剤、フッ素系ポリマー、可塑剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、耐候(光)性改良剤、スリップ剤、カーボンブラック等の各種着色剤、離型剤、混和剤等が挙げられる。
【0051】
特に、カーボンブラックとしては、一次平均粒子径が8~50nmであるものが好ましく、より好ましくは一次平均粒子径が10~40nm、更に好ましくは一次平均粒子径が10~30nmである。樹脂組成物の流動性の観点から、一次平均粒子径が8nm以上であることが好ましい。また、一次平均粒子径が50nm以下であると、粒子径の大きいカーボンが表面に出ることによる外観不良を回避することができるため、好ましい。
樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量は、得られる成形品の高外観性の観点から、樹脂組成物全量(100質量%)に対して、0.05~2.0質量%であることが好ましく、0.05~1.0質量%であることがより好ましい。
【0052】
本実施形態の樹脂組成物中のその他の添加剤の含有量は、得られる成形品の長期エージング特性及び高外観性の観点から、樹脂組成物全量(100質量%)に対して、各々1.0質量%以下であることが好ましい。また、その他の添加剤全量で、樹脂組成物全量(100質量%)に対して5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であってもよい。
【0053】
本実施形態の樹脂組成物の成形流動性は、樹脂組成物を、幅8mm、成形厚み2mm、長さ500mmのスパイラル状金型を備え付けた射出成形機(例えば、東芝機械社製、EC-40N)により、シリンダー温度330℃、金型温度120℃、射出圧力100MPa(ゲージ圧力)、射出速度50mm/sec、射出時間/冷却時間=9sec/15secで成形した時に、得られる成形品のゲート対応位置(金型のゲートに対応する位置)からの流動長L(mm)により評価することができる。
流動長Lは、400mm以上であることが好ましく、より好ましくは420mm以上、更に好ましくは430mm以上である。流動長Lが上記範囲であると、ゲート点数の少ない射出成形で、薄肉、高外観の成形品を容易に製造することができる。
なお、流動長L(mm)は、10個の成形品について測定した値の平均値であり、具体的には、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0054】
〈樹脂組成物の製造方法〉
本実施形態の樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル系樹脂(A)及び(B)、ブロック共重合体(C)、ビニル芳香族炭化水素の単独重合体(D)、並びに任意成分としてのその他の材料(E)等の原材料を、ポリフェニレンエーテル(A)の製造方法における溶融混練と同様にして溶融混練することにより製造することができる。前記樹脂組成物を製造するための前記成分(A)~(E)等の溶融混練の条件については、特に制限されるものではないが、本実施の形態の所望の効果を十分に発揮し得る樹脂組成物を大量且つ安定的に得るという観点から、スクリュー径25~90mmの二軸押出機を用いることが好適である。一例として、TEM58SS二軸押出機(東芝機械社製、バレル数13、スクリュー径58mm、L/D=53);ニーディングディスクL:2個、ニーディングディスクR:14個、及びニーディングディスクN:2個を有するスクリューパターン)を用いた場合に、シリンダー温度270~330℃、スクリュー回転数150~700rpm、押出レート150~600kg/h、及びベント真空度11.0~1.0kPaの条件で溶融混練する方法が挙げられる。
【0055】
押出樹脂温度は250~380℃の範囲内で行なうことが好ましい。押出樹脂温度のより好ましい範囲は270~360℃であり、更により好ましい範囲は300~350℃である。押出樹脂温度は、本願用途で求められる効果の十分な発現と押出性の観点から250℃以上が好ましく、押出性及び樹脂組成物の分解防止の観点から380℃以下が好ましい。
【0056】
本実施の形態に用いる樹脂組成物を、大型(スクリュー径40~90mm)の二軸押出機を用いて製造する際に注意すべきは、押出樹脂ペレット中に押出時に生じた、前記(A)成分から生じるゲルや炭化物が混入することで、成形品の表面外観や積層成形品の表面反射率を低下させる原因となる場合もある。そこで、前記(A)成分を最上流(トップフィード)の原料投入口から投入して、最上流投入口におけるシューター内部の酸素濃度を15容量%以下に設定しておくことが好ましく、より好ましくは8容量%以下であり、更により好ましくは1容量%以下である。
【0057】
酸素濃度の調節は、原料貯蔵ホッパー内を十分に窒素置換して、原料貯蔵ホッパーから押出機原料投入口までの、フィードライン中での空気の出入りがないように密閉した上で、窒素フィード量の調節、ガス抜き口の開度を調節することで可能である。
【0058】
〈成形品〉
本実施形態の成形品は、上述の樹脂組成物を成形することにより得ることができる。
【0059】
本実施の形態の成形品の用途としては、特に制限されないが、例えば、プロジェクターや各種照明器具等の光源反射部品や、自動車のランプリフレクターや、成形品をベースとし表面にアルミニウム蒸着して得られる車両用灯具エクステンション等が挙げられる。中でも、本実施形態の成形品は、車両用灯具リフレクターや車両用灯具エクステンションとして用いることが好ましく、特に、車両用灯具エクステンションとして用いることが好ましい。
【0060】
ここで、車両用灯具エクステンションとは、自動車の前照灯の光源ビームの後方にある光反射部品であるリフレクターと、ランプ前面カバーとの間に存在する比較的大型の光反射部品である。車両用灯具エクステンションは、リフレクターほどの高い耐熱性は必要とされないが、成形品光沢面の良好な輝度感やアルミニウム蒸着後の表面外観、耐熱性と成形流動性との十分なバランス特性、軽量性(低比重の材料であること)等がよりいっそう高いレベルで要求される。
【0061】
本実施形態の成形品は、軽量性の観点から、比重が1.15以下であることが好ましく、より好ましくは1.00~1.15、更に好ましくは1.00~1.10である。
なお、成形品の比重は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0062】
また、本実施形態の成形品は、結露防止の観点から、60℃、95%RHにおいて1,000時間吸水させた時の吸水率が、0.4質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.35質量%以下、更に好ましくは0.30質量%以下である。上記吸水率の下限は特に限定されず、0質量%以上とすることができる。
なお、成形品の吸水率は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0063】
また、本実施形態の成形品は、アルミニウム蒸着後も良好な外観を維持する観点から、155℃の環境に24時間静置した場合の静置前後の表面粗さRaの変化(ΔRa)が10nm以下であることが好ましく、より好ましくは8nm以下、更に好ましくは5nm以下である。
なお、成形品の表面粗さRaの変化(ΔRa)は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により観察することができる。
【0064】
本実施形態の成形品は、車両用灯具エクステンション、車両用灯具リフレクター等の用途に応える観点から、薄肉形状であることが好ましい。
薄肉形状の評価指標としては、成形品のゲート対応位置(金型のゲートに対応する位置)からの最大流動長Lmaxと平均厚みtとの比Lmax/tが挙げられ、Lmax/tは、150以上であることが好ましく、より好ましくは155以上、更に好ましくは160以上である。
なお、最大流動長Lmax及び平均厚みtは、具体的には、後述の実施例に記載の方法により観察することができる。
【0065】
また、本実施形態の車両用灯具エクステンションは、軽量性の観点から、平均厚みtが3.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは2.4mm以下、更に好ましくは1.8mm以下、特に好ましくは1.5mm以下である。
なお、平均厚みtは、具体的には、後述の実施例に記載の方法により観察することができる。
【0066】
〈成形品の製造方法〉
本実施形態の成形品の製造方法としては、以下に制限されないが、例えば、射出成形、押出成形、真空成形及び圧空成形が好適に挙げられ、特に成形外観及び輝度感の観点から、射出成形がより好適に用いられる。
成形品製造時の成形温度は、バレル設定最高温度250~340℃の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは270~330℃であり、更により好ましくは280~320℃である。十分な成形加工性の観点から、成形温度は、250℃以上が好ましく、樹脂の熱劣化抑制の観点から340℃以下が好ましい。
【0067】
成形品製造時の金型温度は、40~170℃の範囲内で行なうことが好ましく、より好ましくは80~150℃であり、更により好ましくは80~130℃の範囲内である。十分な成形品外観保持の観点から、金型温度は、40℃以上が好ましく、成形安定性の観点から170℃以下であることが好ましい。
【実施例
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
実施例及び比較例の樹脂組成物及び成形品に用いた原材料を以下に示す。
【0070】
[原材料]
-(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂
2,6-キシレノールを酸化重合して得た、還元粘度0.41dL/gのポリフェニレンエーテル。
―(B)ポリフェニレンエーテル系樹脂
上記(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と同様にして得た、還元粘度0.31dL/gのポリフェニレンエーテル。
なお、ポリフェニレンエーテル(A)及び(B)の還元粘度(ηsp/c)は、ポリフェニレンエーテルを0.5g/dLのクロロホルム溶液として、ウベローデ型粘度管を用いて、30℃で測定した。
【0071】
―(C)ブロック共重合体
ビニル芳香族炭化水素重合体ブロック(c1)をポリスチレンからなるものとし、水素添加された共役ジエン重合体ブロック(c2)を水素添加ポリブタジエンからなるものとして、未変性のブロック共重合体を合成した。得られたブロック共重合体の物性を下記に示す。
・SEBS(C)-1
重量平均分子量Mwが52.000、分子量分布Mw/Mnが1.09、結合スチレン量が65質量%の、ポリスチレンブロックと水素添加率98%の水添ブタジエンブロックとを有するc1-c2-c1型タイプの水添ブロック共重合体。
・SEBS(C)-2
重量平均分子量Mwが72,000、分子量分布Mw/Mnが1.10、結合スチレン量が32質量%の、ポリスチレンブロックと水素添加率98%の水添ブタジエンブロックとを有するc1-c2-c1型タイプの水添ブロック共重合体。
【0072】
―(D)ビニル芳香族炭化水素の単独重合体
重量平均分子量Mw:200,000、分子量分布Mw/Mn:2.4のゼネラルパーパスポリスチレン(GPPS)。
なお、(C)ブロック共重合体、(D)ビニル芳香族炭化水素の単独共重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布Mw/Mnは、下記の条件により求めた。
装置名:TOSHO EcoSEC HLC-8320GPC
カラム:Shodex K-806H、Shodex K-803L
溶媒:クロロホルム
流量:1.0mL/min
カラム温度:35℃
検出器:UV(254nm)、RI(30℃)
試料濃度:0.1w/v%
重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mnを算出するための検量線は、ポリスチレンを用いて作成した。
【0073】
―(E)その他の添加剤
・カーボンブラック(CB)
一次粒子径が15nmであるカーボンを用い、このカーボンと上記GPPSとを溶融混練して得たマスターバッチ(MB)を用いた。
なお、カーボンの濃度は、カーボン及びGPPSの合計100質量%に対し、45質量%とした。
【0074】
―その他の原料
・ポリカーボネート(PC)(商品名:パンライト[登録商標]L-1225L、帝人株式会社製)
・ポリブチレンテレフタレート(PBT)/ポリエチレンテレフタレート(PET)(PBT/PET)(商品名:バロックス[登録商標]EH7020HF サビック社製)
【0075】
[物性の測定方法]
1.比重
ISO1183に準拠し、樹脂組成物(実施例1~5、比較例1~6)、PC(比較例7)、及びPET/PBT(比較例8)の23℃における比重を測定した。
【0076】
2.荷重たわみ温度(DTUL)
得られた樹脂組成物のペレット(実施例1~5、比較例1~6)を、120℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した。
乾燥後の樹脂組成物から、ISO物性試験片金型を備え付けた射出成形機(東芝機械社製、IS-80EPN)により、シリンダー温度330℃、金型温度120℃、射出圧力50MPa(ゲージ圧)、射出速度200mm/sec、射出時間/冷却時間=20sec/20secで、ISO3167、多目的試験片A型のダンベル成形片を成形した。
得られた成形片を切断して作成した80mm×10mm×4mmの試験片を用いて、ISO75に準拠し、フラットワイズ法、0.45MPaで荷重たわみ温度(DTUL)を測定した。
値が大きいほど、耐熱性に優れていると判定した。
【0077】
3.吸水性
得られた樹脂組成物のペレット(実施例1~5、比較例1~6)を、120℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した。
乾燥後の樹脂組成物から、ISO物性試験片金型を備え付けた射出成形機(東芝機械社製、IS-80EPN)により、シリンダー温度330℃、金型温度120℃、射出圧力50MPa(ゲージ圧)、射出速度200mm/sec、射出時間/冷却時間=20sec/20secで、ISO3167、多目的試験片A型のダンベル成形片を成形した。
得られた成形片を切断して80mm×10mm×4mmの試験片を作成した。
なお、ポリカーボネート(比較例7)の試験片は、120℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥したペレットを用い、上記射出成形機で、シリンダー温度320℃、金型温度80℃とした以外は、樹脂組成物の試験片と同様に作製した。
PET/PBT(比較例8)の試験片は、120℃の熱風乾燥機中で5時間乾燥したペレットを用い、上記射出成形機で、シリンダー温度280℃、金型温度80℃とした以外は、樹脂組成物の試験片と同様に作製した。
各試験片を120℃の熱風乾燥機にて5時間乾燥した。
各試験片を室温に戻し、この初期乾燥後の試験片の重量を(i)とした。
続いて、ビーカーに試験片を入れ、60℃、湿度95%に調整した恒湿恒温槽に入れ、1,000時間静置した。取り出した試験片を圧縮空気で軽くブローした後の試験片の重量を(ii)とした。吸水率を、吸水率=(ii)-(i)/(i)として求めた。
【0078】
4.成形性
得られた樹脂組成物のペレット(実施例1~5、比較例1~6)を120℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥した後、金型表面を#8000で磨き上げた60mm×60mm×2mm厚みの金型を備え付けた射出成形機(東芝機械社製、40t)により、シリンダー温度330℃、金型温度120℃、射出圧力100MPa(ゲージ圧)、射出速度50mm/sec、射出時間/冷却時間=0.25sec/20secで成形して、成形品を得た。
良好に成形することができた場合を○、ショートや離型時に表層剥離、割れ等が発生した場合を×として評価した。
【0079】
5.成形流動性(流動長L)
得られた樹脂組成物のペレット(実施例1~5、比較例1~6)を、金型表面を#8000で磨き上げた幅8mm、成形厚み2mm、長さ500mmのスパイラル状金型を備え付けた射出成形機(東芝機械社製、EC-40N、40t)により、シリンダー温度330℃、金型温度120℃、射出圧力100MPa(ゲージ圧)、射出速度50mm/sec、射出時間/冷却時間=9sec/15secで成形して、各々10個の成形品を製造した。各成形品のゲート対応位置からの流動長を測定して平均し、流動長L(mm)を求めた。
【0080】
6.成形品の吸水+熱エージング後の外観
上記4.成形性で得られた成形品(実施例1~5、比較例1~6)について、初期の外観を観察した。
その後、60℃、湿度95%に調整した恒湿恒温槽に入れ、24時間静置し、さらに155℃の熱風乾燥機中に24時間静置し、成形品の外観を目視評価した。
初期と同等の外観であった成形品を○、初期と比較して膨れが発生した成形品を×と評価した。
【0081】
7.蒸着成形品の熱エージング後の外観
上記4.成形性で得られた成形品(実施例1~5、比較例1~6)について、アルミニウム蒸着を行い、蒸着成形品を作製した。アルミニウム蒸着の方法は以下のとおりである。
成形品を真空状態下の蒸着装置内に不活性ガスと酸素を導入し、チャンバー内をプラズマ状態にして、成形品表面を活性化させるプラズマ処理を行ない、真空下の蒸着装置内でアルミニウム蒸着を行うことにより、蒸着成形品を得た。アルミニウム膜厚は約20nmであった。
得られた蒸着成形品を155℃に調整したオーブンで、24時間静置した。
その後、室温に戻し、取り出した蒸着成形品の外観を目視で観察した。
外観に問題ない蒸着成形品は○、蒸着面が虹色に観察されたもの、成形品の膨れ発生による蒸着層の変形が観察されたものは×と評価した。
【0082】
8.蒸着成形品の熱エージング前後の表面粗さの変化(ΔRa)
上記7.蒸着成形品の熱エージング後の外観で作製した蒸着成形品について、熱エージング前後の表面粗さの変化(ΔRa)(nm)を測定した。
熱エージング前の蒸着成形品について、表面形状測定装置(ULVAC社製、DEKTAK 60M)を用いて、3箇所の表面粗さRa1を測定した。
その後、蒸着成形品を155℃に調整したオーブンに24時間静置した。
熱エージング後の蒸着成形品について、熱エージング前と同じ測定箇所の表面粗さRa2を測定し、表面粗さRaの変化(ΔRa=Ra2-Ra1)を計算し、その平均値を求めた。
【0083】
[実施例及び比較例]
以下、各実施例及び比較例について記述する。
・実施例1~5、比較例1~8
各実施例及び各比較例の樹脂組成物の製造において、溶融混練機として、二軸押出機(東芝機械社製、TEM58SS)を用いた。バレル数13、スクリュー径58mm、L/D53とした。
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(B)ポリフェニレンエーテル系樹脂、(C)ブロック共重合体、(D)ビニル芳香族炭化水素の単独重合体、並びに(E)その他の添加剤(カーボンマスターバッチ)をそれぞれ表1に示す組成で二軸押出機の最上流部(トップフィード)から供給し、シリンダー温度300℃、スクリュー回転数450rpm、押出レート400kg/hr、ベント真空度7、998kPa(600Torr)の条件で溶融混練して、樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物及び成形品の各物性を表1に示す。
【0084】
・実施例6
実施例1の組成物を用い、ゲート対応位置からの最大流動長Lmaxと平均厚みtとの比Lmax/tが160で、平均厚みtが1.8mmである車両用灯具エクステンションを射出成形機(東芝機械社製、650t)により成形した。成形条件を、シリンダー温度330℃、金型温度120℃、射出圧力150MPa(ゲージ圧)、射出速度50mm/sec、射出時間/冷却時間=2sec/60secの成形条件で成形したところ、良好に成形ができた。
なお、最大流動長Lmaxは、顕微鏡で看取される樹脂流動の様相から、ゲート対応位置から最も離れた流動部分を流動先端として特定し、ゲート対応位置から流動先端までの流動方向についての長さを計測した値である。また、平均厚みtは、ゲートから最大流動長末端までの5点の厚みを計測した平均値である。
当該成形品を評価サンプルとして、上記6~8の評価を行った。吸水後の熱エージング後の膨れは無く、蒸着後の熱エージング後の外観も良好で熱エージング前後の表面粗さの変化(ΔRa)は5nmであった。
【0085】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の樹脂組成物は、優れた流動性及び耐熱性を有し、当該樹脂組成物からなる車両用灯具エクステンションは、軽量で外観及び低吸水性に優れることから、自動車等の車両の軽量化、高外観化、及び高耐久化に貢献することができる。