(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】高精細ハイメッシュフィルター用単成分ポリエステルモノフィラメント
(51)【国際特許分類】
D01F 6/62 20060101AFI20230620BHJP
【FI】
D01F6/62 302A
D01F6/62 302E
D01F6/62 303C
(21)【出願番号】P 2018554126
(86)(22)【出願日】2018-08-09
(86)【国際出願番号】 JP2018029929
(87)【国際公開番号】W WO2019044449
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2017165843
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篠川 恒
(72)【発明者】
【氏名】遠山 純史
(72)【発明者】
【氏名】丸山 洋
(72)【発明者】
【氏名】藤森 稔
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-021296(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052269(WO,A1)
【文献】特開2005-194669(JP,A)
【文献】特開2008-101287(JP,A)
【文献】特開2008-101288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00-9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記A~
Eを満足することを特徴とする高精細ハイメッシュフィルター用単成分ポリエステルモノフィラメント。
A.モノフィラメントの繊維長手方向100万mに存在する、光学式検査機器にて測定した、繊維直径に対して2μm以上の節について、その直径の合計(%)が式(1)で表される。
【数1】
(x
n:節の直径、x’:繊維直径、k:繊維長手方向100万mに含まれる節の個数)
B.モノフィラメントの繊度が3.0~13.0dtex、
C.強度が5.0~6.5cN/dtex、
D.5%伸長時の強度が2.7~3.3cN/dtex
E.ポリエステルの固有粘度が0.97~1.50dL/g
【請求項2】
酸化チタンを0.20~0.60重量%含有していることを特徴とする請求項1に記載の高精細ハイメッシュフィルター用単成分ポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
下記A~
Eを満足することを特徴とする高精細ハイメッシュフィルター用単成分ポリエステルモノフィラメントの製造方法であって、ポリエステルを固相重合し、次いで溶融紡糸してモノフィラメントを製造するに際して、固相重合に供するポリエステルに含まれる二価の金属もしくは一価の金属元素含有量Mとリン元素含有量Pのモル比が、式(I)(II)で表される関係を満たし、かつ固相重合における最高温度領域を200~220℃の範囲とし、かつ前記温度範囲での加熱時間を180~240分とすることを特徴とする高精細ハイメッシュフィルター用単成分ポリエステルモノフィラメントの製造方法。
A.モノフィラメントの繊維長手方向100万mに存在する、光学式検査機器にて測定した、繊維直径に対して2μm以上の節について、その直径の合計(%)が式(1)で表される。
【数2】
(x
n:節の直径、x’:繊維直径、k:繊維長手方向100万mに含まれる節の個数)
B.モノフィラメントの繊度が3.0~13.0dtex、
C.強度が5.0~6.5cN/dtex、
D.5%伸長時の強度が2.7~3.3cN/dtex
E.ポリエステルの固有粘度が0.97~1.50dL/g
0.25 ≦ M/P ≦ 0.85 (I)
M=(M
2+M
1/2) (II)
(M
2は二価の金属含有量、M
1は一価の金属含有量をそれぞれ示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高精細ハイメッシュフィルター用の細繊度単成分高強度ポリエステルモノフィラメントに関する。さらに詳しくは、音響フィルター、燃料フィルターなど濾過性能と透過性能の高度な両立が要求されるハイメッシュでハイモジュラスなスクリーン紗を得るのに好適なモノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーン紗と呼ばれるモノフィラメントを製織した紗織物は、近年、急成長を続けるエレクトロニクス分野において、プリント回路基板のスクリーン印刷用メッシュクロスをはじめ、自動車、家電などに利用される成形フィルター用途などに使用されている。モノフィラメントを製織した紗織物の具体的な用途としては、例えば、スクリーン印刷の用途では、Tシャツやのぼり旗、看板、自動販売機プレート、車のパネル、屋外・屋内サイン、ボールペン、各種カード類、ネームプレート、スクラッチ、点字、CD・DVD、プリント基板、プラズマディスプレイ、液晶ディスプレイなどが挙げられる。また、フィルター用途では、洗濯水中のゴミ再付着を防止するリントフィルター、エアコンの中に装着されている室内のホコリ・塵を除去するフィルター、掃除機の中に装着されているホコリ・塵・ゴミを除去する成形フィルター、医療分野では気泡などを除去する輸血キットや人工透析回路用フィルター、自動車分野では燃料ポンプ、燃料噴射装置といった燃料の流路や、ABS、ブレーキ、トランスミッション、パワーステアリングなどが挙げられ、さらには横滑り防止装置や燃費向上・出力アップのための最新機構であるVVTといった油圧回路においても、電磁弁へのゴミや異物の混入を防止し、ろ過して清浄化するという大切な役割を果たしている。
【0003】
なかでも、近年急成長を続けるエレクトロニクス分野や自動車分野では、フィルターの高精細化が進んでいる。例えば、音響フィルターは、携帯端末の小型化に伴い、フィルターが小型化し、防塵性能と音響透過性の高度な両立が要求されており、フィルターの目開き均一性を維持したまま、メッシュの細線径化、ハイメッシュ化が進んでいる。そのため、モノフィラメントとして、高強力、高モジュラス、長手方向の繊維径の均一性を維持したまま、細繊度化を行う必要がある。
【0004】
高強力、高モジュラスなモノフィラメントの設計について、強度・高モジュラス化に伴い、繊維表面の配向・結晶化が進行するため、製織筬などとの擦過により表面の一部が削り取られ、ヒゲ状のかす、いわゆるスレ毛羽が発生しやすくなる。このスレ毛羽は量的に少量であっても、高精細用のハイメッシュ織物においては、メッシュの詰まりという致命的な欠点となる。また、繊維表面が削れることで、繊維径均一性が低下し、音響透過性能、濾過性能が低下する。そのため、特許文献1(特開2013-194330号公報)では、ポリエステル固有粘度を高くすることで、高強度・高モジュラスであっても繊維表面の配向・結晶化を抑制することを提案している。
【0005】
長手方向の繊維径が均一なモノフィラメントの設計について、モノフィラメント表面に生じる節は製織時において糸の切断やスカム発生の原因となることに加え、ハイメッシュ織物においてはフィルター性能の低下に繋がるため、出来るだけ発生を防止する必要がある。節の発生要因としては、ポリマー自体が高分子量化したゲル化物が挙げられる。そのため、特許文献2(特開2012-117196号公報)では、ポリマー送液配管の曲りを減らし、パック導入から吐出までの時間を1分以内とし、ポリマーが受ける熱量を出来る限り軽減することによってポリマーの熱分解を抑制することを提案している。また、特許文献3(特開2014-118574号公報)では、ポリエステル中のエステル結合の加水分解および高温下での熱分解に着目し、特定構造のジシラノール化合物を共重合することで、触媒金属の寄与を抑制し、耐加水分解性と耐熱性を付与することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-194330号公報
【文献】特開2012-117196号公報
【文献】特開2014-118574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高強力、高モジュラス、長手方向の繊維径が均一なモノフィラメントの細繊度化については、大きな節を抑制することが重要である。細繊度化により、溶融紡糸するポリマー量が減少するため、ポリマー送液配管内の滞留時間が長くなる結果、ポリマーが受ける熱量が増加し、ポリマー自体の劣化が促進されてしまう。また、高い固有粘度のポリマーを溶融紡糸するため、粘度が高いことに起因して異常滞留が発生しやすい。すなわち、ポリマーが受ける熱量が増加し、溶融ポリマーの劣化が促進されやすくなる。さらには、細繊度化することで、繊維径に対して劣化したゲル化物のサイズ比が相対的に増加するため、従来問題とならなかった微小なゲル化物が節として顕在化することが予想される。その結果、細繊度モノフィラメントは大きな節が存在しやすく、整経や製織を行ったときに糸切れやスカムが発生することが想像できる。高精細ハイメッシュフィルター用途としては、微小な節の数を少なくすることが重要である。節を有するモノフィラメントを製織したとき、節は繊維直径より大径であるため、節に対して垂直方向の糸道が長くなる。そのため、節に対して水平方向に隣接するモノフィラメントとの目開きは広がり、節と隣接していない近傍のモノフィラメントの目開きは狭くなる。結果として、フィルターとしたときに粗大物の通過や目詰まりが発生してしまう。特にハイメッシュ織物は、目開きが狭い織物であり、微小な節であっても目開きの変化率が大きいため、微小な節が数多く存在する場合、フィルターの濾過精度が低下する。したがって、高精細ハイメッシュフィルター用途として、高強力、高モジュラスであり、長手方向の繊維径が均一な細繊度モノフィラメントを得るためには、ポリマー自体の劣化を抑制することで微小なゲル化物の生成およびゲル化物の粗大化を抑制し、微小な節を含めて節の直径および個数を抑制することが必要である。
【0008】
本発明の目的は、フィルターに用いられるメッシュ織物に好適なポリエステルモノフィラメントを提供することである。特に、節の直径が小さく、節の数も少ないことから目開き均一性に優れ、フィルターの濾過性能と透過性能の高度な両立が要求されるハイメッシュでハイモジュラスの織物を得るのに好適なモノフィラメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、下記A~Eを満足することを特徴とする高精細ハイメッシュフィルター用単成分ポリエステルモノフィラメントを提供する。
A.モノフィラメントの繊維長手方向100万mに存在する、繊維直径に対して2μm以上の節について、その直径の合計(%)が式(1)で表される。
【0010】
【0011】
(xn:節の直径、x’:繊維直径、k:繊維長手方向100万mに含まれる節の個数)
B.モノフィラメントの繊度が3.0~13.0dtex、
C.強度が5.0~6.5cN/dtex、
D.5%伸長時の強度が2.7~3.3cN/dtexであること。
E.ポリエステルに含まれる二価の金属もしくは一価の金属元素含有量Mとリン元素含有量Pのモル比が、式(I)(II)で表される関係を満たす。
0.25 ≦ M/P ≦ 0.85 (I)
M=(M
2
+M
1
/2) (II)
(M
2
は二価の金属含有量、M
1
は一価の金属含有量をそれぞれ示す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明のモノフィラメントは、節欠点がなくモノフィラメントの均一性が良好で、濾過性と透過性の良好な品質を両立したフィルターを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、メッシュ開口部の面積の測定方法を説明するためのものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ハイメッシュ織物は、目開きの間隔が短い織物であるため、節の直径を小さくし、節の数も少なくすることが必要である。一般的には、繊維径×1.1倍のスリットガイドにモノフィラメントを通し、断糸した回数を節の数と見なしているが、本発明者は更に高度な繊維径の均一性を得るために鋭意検討した結果、節の直径および節の個数が特定範囲内のとき、生機にしたときの目開きのバラツキが小さくなり、フィルターの濾過性能と透過性能を高度に両立できることを見出した。すなわち、本発明の高精細ハイメッシュフィルター用単成分ポリエステルモノフィラメントは、該モノフィラメントの繊維長手方向100万mに存在する、繊維直径に対して2μm以上の節について、その直径の合計(%)が式(1)を満たすことが必要である。
【0015】
【0016】
(xn:節の直径、x’:繊維直径、k:繊維長手方向100万mに含まれる節の個数)
式(1)の左辺は、繊維直径x’における節の直径xnの増加率を示しており、大きな節が存在するとき、式(1)の左辺の値は増加する。また、式(1)の左辺は、繊維長手方向100万mに存在する、繊維直径に対して2μm以上の節の直径xnの増加率を足し合わせており、2μm以上の節が多いとき、式(1)の左辺の値は増加する。すなわち、節の径が小さく、節の数も少ないことが重要である。本発明のモノフィラメントは、式(1)の左辺の値が10000以下であると、モノフィラメントの均一性が良好で、生機にしたときの目開きのバラツキが小さく、濾過性と透過性が良好な品質を両立したフィルターを得ることができる。より好ましくは9000以下、さらに好ましくは8000以下である。
【0017】
本発明のモノフィラメントは、高精細ハイメッシュフィルター用途として、繊度が3.0~13.0dtexであることが必要である。好ましくは3.0~8.0dtex、より好ましくは3.0~6.0dtexである。製織性の低下やフィルターとして使用したときの寸法安定性の低下などの発生を抑えるため、強度が5.0~6.5cN/dtex、5%伸長時の強度が2.7~3.3cN/dtexであることが必要である。強度が5.0cN/dtex未満ではフィルターの強度が不足し、目ズレが発生しやすくなり、濾過性能の低下や破れが発生しやすくなる。6.5cN/dtexを越えると製織時に筬による削れが発生し、織物に織り込まれて欠点となる。好ましくは、5.0~6.0cN/dtexである。5%伸長時の強度は、2.7cN/dtex未満では、フィルターの寸法安定性が低下し、目ズレが発生しやすくなり、濾過性能が低下し、部分的な目詰まりが発生しやすくなる。3.3cN/dtexを超えると、製織時に筬による削れが発生しやすくなる。好ましくは、2.7~3.0cN/dtexである。
【0018】
本発明のモノフィラメントは酸化チタンを、0.20~0.60重量%含有せしめることにより、生機にしたときのスレ毛羽欠点、すなわちモノフィラメントが整経・製織工程のガイドで摩耗して糸が削れる欠点を良好に抑制することができる。0.20重量%以上含有することで、繊維表面に微小な凹凸を形成することができ、整経・製織工程における工程通過性が良好となるのでモノフィラメント表面の削れを防ぎ、得られた生機のスレ毛羽欠点を抑制できる。より好ましくは0.45重量%以上である。0.60重量%以下であると、整経・製織工程におけるガイドの摩耗傷を抑制し、ガイドの摩耗傷によるモノフィラメントの削れを防ぎ、生機にしたときのスレ毛羽欠点を抑制できる。含有する酸化チタンの結晶形はアナターゼ型が好ましい。レーザー回折/散乱式粒度分布計を用いた酸化チタンの平均粒子径は0.6~0.8μmが好ましい。酸化チタンの添加時期は、エステル交換反応終了後から重縮合反応開始前までの間が好ましい。
【0019】
本発明のフィルター用モノフィラメントは、糸の固有粘度(IV)を0.74以上とすることにより、高強度、高モジュラスを維持したまま、繊維表面の配向および結晶化を抑制とすることができ、繊維表面の削れを抑制することができる。1.20以下であれば、繊維配向の内外層差が大きくなり過ぎず、繊維表面の削れが発生しにくい。
【0020】
本発明のモノフィラメントの特徴は、ポリエステルを固相重合し、0.97~1.50dL/gの高いIVのポリエステルを用いることであり、固相重合におけるポリマー自体の劣化を抑制することが重要である。ポリエステルの固相重合における最高温度領域を200~220℃、最高温度領域での加熱時間を180~240分とすることで、節の直径および個数を減らすことができ、好ましい。効果を発現する機構は明らかではないが、ゲル化物は微小ゲルを核として大径化していき、固相重合中のポリマーが受ける熱量を減少させることで、ポリマー自体の劣化による微小ゲルの生成を抑制し、その後に行われる溶融紡糸におけるゲル化物の成長を抑制し、節の直径と個数を抑制すると推測される。固相重合における最高到達温度は200℃未満では高いIVのポリエステルを得にくい。220℃を超えると、節の直径および個数が増加する。そのため、より好ましくは200~210℃である。最高温度領域での加熱時間が180分未満のとき、高いIVのポリエステルを得にくい。一方、240分を超えると、節の直径および個数が増加する。そのため、より好ましくは、180~200分である。
【0021】
また、固相重合に供するポリエステルが二価の金属もしくは一価の金属を含み、その金属元素含有量Mとリン元素含有量Pのモル比が、式(I)(II)で表される関係を満たす。
0.25 ≦ M/P ≦ 0.85 (I)
M=(M2+M1/2) (II)
(M2は二価の金属含有量、M1は一価の金属含有量をそれぞれ示す。)
【0022】
式(I)を満たすことで、ポリエステルの固相重合における最高温度領域を200~220℃、最高温度領域での加熱時間を180~240分として、0.97~1.50dL/gの高いIVのポリエステルを得ることができる。効果を発現する機構は明らかではないが、リン化合物が適度に配位した金属元素がCOOH末端やOH末端に作用し、エステル化反応や脱EG反応の活性化エネルギーが下がるため、ポリエステルの高分子量化が進行しやすいと推測される。金属元素モル量に対してリン元素モル量が多いとき、すなわちM/Pが小さいとき、金属元素の触媒作用が失活するため、固相重合反応の活性化エネルギーを下げることができないと推測される。金属元素モル量に対してリン元素モル量が少ないとき、すなわちM/Pが大きいとき、金属元素の触媒作用が弱く、反応速度が低下すると推測される。さらには、式(I)を満たすことで、ポリマー自体の劣化を抑制し、節の原因となるゲル化物の生成を抑制することができる。効果を発現する機構は明らかではないが、触媒金属にリン化合物が適度に配位し、金属の触媒作用を抑制して熱分解への寄与を抑制する効果によると推測される。M/Pは、0.25以上、0.85以下であることが好ましく、より好ましくは、0.40以上、0.65以下である。金属元素Mは、触媒作用の点から、二価の金属M2としてCa、Mg、Mn、Coの中から、一価の金属M1としてNa、Li、Kの中から選ばれることが好ましい。二価の金属M2と一価の金属M1は、それぞれ複数の組み合わせで使用されても構わないが、ポリマー自体の劣化を抑制するためには、少なくとも二価の金属M2を一種類以上含んでいることが好ましい。
【0023】
使用するポリエステルの種類としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のような芳香族ポリエステルが挙げられ、いずれでもよい。中でもPETは溶融紡糸を行う際の操業性、コストの面でもっとも好ましい。
【0024】
本発明で使用するポリエステルは、ポリエステルを製造するための装置、技術プロセスは通常用いられるものであれば、どのような装置とプロセスであっても構わない。以下、具体例を挙げるが、これに限定されるものではない。
【0025】
本発明で使用するポリエステルは、Ca、Mg、Li、K、Na、Co、Zn、Sn、Ti、Ge、Sb、Alなどの各種金属元素を含有することができる。重合触媒としては、Sb、Ti、Geから選ばれる金属化合物のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。重合触媒の添加時期は、エステル化反応終了後からエステル交換反応開始前までの間が好ましい。
【0026】
エステル交換反応法では、テレフタル酸ジメチル、エチレングリコールを反応容器に仕込む。この際、エチレングリコールの仕込み量を全ジカルボン酸成分に対して、1.7~2.3倍モルにすることで反応性が良好になる。これらを150℃で溶融後、触媒として酢酸マンガン、三酸化二アンチモンを添加し撹拌する。次いで、240℃まで除々に昇温しながら、メタノールを留出させ、エステル交換反応を実施する。
【0027】
エステル交換反応後、リン化合物を添加し、エステル交換反応触媒を失活させる。リン化合物は特に限定しないが、リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスホノアセテート、フェニルホスホン酸ジメチルなどのリン酸、リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸エステルまたそれらの金属塩などが用いられる。
【0028】
また、各種の添加剤、たとえば艶消剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、耐衝撃剤の添加剤、または補強剤としてモンモリナイト、ベントナイト、ヘクトライト、板状酸化鉄、板状炭酸カルシウム、板状ベーマイト、あるいはカーボンナノチューブなどの添加剤を添加することができる。各種の添加剤の添加時期は、エステル化反応終了後からエステル交換反応開始前までの間が好ましい。
【0029】
その後、反応物を重合装置に仕込み、重合装置内温度を除々に290℃まで昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から133Pa以下まで除々に減圧して、エチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で、反応を終了し、反応系内を窒素にて常圧にし、冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ペレット状のポリエステルを得る。その後、ペレット状のポリエステルを固相重合装置に仕込み、真空度0.30Torr以下で常温から加熱し、高IVポリエステルを得る。高IVを維持したまま、固相重合においてポリマーが受ける熱量を減らし、微小な節を抑制する点から、固相重合における最高温度領域は200~220℃、最高温度領域での加熱時間は180~240分が好ましい。
【0030】
本発明のモノフィラメントは、上記ポリエステルを使用して、常法により紡糸口金を用いて、溶融紡糸しモノフィラメントとし、続いて延伸を施すことにより得られる。紡糸工程で一旦未延伸糸として巻き取り、改めて延伸工程に供することもできるが、紡糸工程と直結して延伸を行うことが好ましい。
【0031】
直接紡糸延伸においては、数対の加熱ロールを用い、一段または多段で延伸することが好ましく、最終的に繊度、強度、5%伸長時の強度が所定の範囲に入るように延伸倍率を定める。この延伸にはリラックス延伸等の弛緩処理を含めることができ、5%伸長時の強度を所定の範囲に入るよう微調整することができる。
【0032】
パック入り口から口金吐出口までに濾過層を形成することで、ポリマーに含有する未溶融異物やポリマー自体が劣化したゲル化物の排出を抑制させたり、分散させたりすることができる。この濾過層については、モノフィラメント直径の約20~30%の目開き量が好ましく、20%未満にするとパック内に異常な圧力がかかり、パック内部品とパック本体の破損につながる。30%以上にすると、節糸の主因となる未溶融異物およびゲル化物が粗大粒子のまま糸に含有し、大きな節が発生したり節の個数が増加したりする。また、濾過層に、金属短繊維を積層し焼結したフィルターを導入することで、ゲル化物を細分化させることができ、さらに節を抑制できる。
【0033】
ポリマー自体の劣化についてはポリマー送液に関し、配管の曲がりを減らし、ポリマー溶融から吐出までの時間を20分以内とし、ポリマーが受ける熱量を出来る限り軽減することによって節の発生リスクを低減させることができる。
【実施例】
【0034】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の金属元素含有量、リン元素含有量、酸化チタン含有量、モノフィラメントの節品位、繊度、強度、5%伸長時の強度、固有粘度、メッシュ開口部の面積、スレ毛羽性能は以下に述べる方法で測定した。
【0035】
A.金属元素含有量測定方法
2gのポリエステルを、100℃~160℃の温度で濃HNO3/H2O2中に分解させて、一定の濃度まで希釈して、ICP-MSにて測定する。事前に作成した検出線にて各元素の含有量を算出した。測定精度は0.5ppmである。
【0036】
B.リン元素含有量、酸化チタン含有量の測定方法
5gのポリエステルを、ホットプレス装置にて円盤状の測定サンプルを作って、蛍光X線元素分析装置にてリン元素含有量、酸化チタン含有量を測定した。
【0037】
C.モノフィラメントの節品位
(1)クリールにパッケージを24個仕掛ける。
(2)750m/minの速度で糸を解舒し、光学式検査機器(sensoptic社製 PSD-200)に通す。
(3)糸長2.66m間隔で繊維径を測定する。測定は20分間行う。なお、標準の繊維直径に対して2μm以上増加した測定値1つにつき、1つの節とみなす。
(4)測定終了後、クリールに仕掛けたパッケージ24個を別のパッケージ24個と入れ替える。
(5)(2)~(4)まで2回繰り返し、測定結果から、繊維直径に対して2μm以上の節について、その直径をxnとして下記式(2)を算出する。式(2)が小さいほど、節品位は良好である。
【0038】
【0039】
(xn:節の直径、x’:繊維直径、k:繊維長手方向108万mに含まれる節の個数) 。
【0040】
D.繊度(dtex)
糸条を500mかせ取り、かせの質量(g)に20を乗じた値を繊度とした。
【0041】
E.強度(cN/dtex)、5%伸長時の強度(モジュラス)(cN/dtex)
JIS L1013(1999)に従い、オリエンテック製テンシロンUCT-100を用いて測定した。
【0042】
F.固有粘度(IV)
25℃の温度の純度98%以上のo-クロロフェノール(以下、OCPと略記する。)10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃の温度にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下式により求め、固有粘度(IV)を算出した。
ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)
固有粘度(IV)=0.0242ηr+0.2634
ここで、
η:ポリマー溶液の粘度
η0:OCPの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm3)
t0:OCPの落下時間(秒)
d0:OCPの密度(g/cm3) 。
【0043】
G.メッシュ開口部の面積
(1)経糸、緯糸共に本発明の各実施例および各比較例のポリエステルモノフィラメントを用いて、スルーザー型織機により織機の回転数200回転/分として幅2.2m、長さ300mの下記スクリーン紗(#300)を製織した。
経密度 :300本/2.54cm
緯密度 :300本/2.54cm
(2)得られたスクリーン紗を検反機にセットし、目視にて黒いスジを探す。黒いスジは、メッシュ開口部が周辺の開口部よりも大きいため、黒く見えるものである。
(3)黒いスジのうち、特に太く見える4箇所を、タテ50cm×ヨコ50cmで切り抜く。
(4)切り取ったスクリーン紗を光学式顕微鏡で500倍に拡大し、
図1に示すように、メッシュの開口部が最も広がっている箇所であるAと、前記Aから斜め線上の一目開き間隔にあるモノフィラメント(経糸)(
図1の1)とモノフィラメント(緯糸)(
図1の2)で囲まれた開口部であるB~Dの4箇所の開口部の面積[開口部Aの場合は、経糸間隔(
図1の3)×緯糸間隔(
図1の4)]を求める。
(5)残りの切り抜いたスクリーン紗も同様に測定する。
(6)測定したメッシュ開口部の面積の平均、最大値、最小値、差(最大値-最小値)を求める。モノフィラメントの節品位が良好であるほど、差(最大値-最小値)は小さくなる。
【0044】
H.スレ毛羽性能
(1)ポリエステルモノフィラメントをガイドで張力7.8gで固定する。
(2)筬羽(ステンレス製、厚さ0.15mm)を糸に対して垂直に当て、672回/分の頻度で8.2cmの範囲を往復擦過させる。
(3)糸切れするまでの擦過回数を測定する。糸切れまでの回数が多いほど、製織時にスレ毛羽が発生しにくい。
(4)(1)~(3)を4回繰り返し、糸切れまでの回数の平均を求める。
【0045】
(実施例1)
テレフタル酸ジメチル100重量%、エチレングリコール58重量%(ジカルボン酸成分の1.9倍モル)、酢酸コバルト4水和物0.017重量%、および三酸化二アンチモン0.03重量%をエステル交換反応装置に仕込み、150℃で溶解した。この溶解物を240℃まで3時間かけて昇温しながら、メタノールを留出させた。所定のメタノールが留出したところで、エステル交換反応を終了した。エステル交換反応が終了した反応物に、酸化チタン0.50重量%/リン酸0.012重量%/エチレングリコール1.6重量%の混合物を添加し、重合装置に移送した。重合装置内温度を、120分かけて235℃から300℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から真空へ徐々に減圧し、エチレングリコールを留出させた。固有粘度0.78相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水にストランド状に吐出、カッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂組成物を得た。極限粘度は0.78であった。このチップを0.20Torrの真空度下、200℃未満で予備乾燥した後、同真空下200~205℃で191分間、固相重合を行い、固有粘度1.01のポリエステル樹脂チップを得た。
【0046】
固有粘度1.01のポリエステル樹脂チップを使用し、295℃の温度にて溶融し、公知の口金に流入させた。口金から吐出された糸条の固有粘度は0.76であった。紡糸口金から吐出されたポリエステルモノフィラメント糸条を、紡糸油剤を付与しつつ、1000m/分の速度で非加熱の第1ゴデットロールに引き取り、一旦巻き取ることなく1010m/分の速度で90℃の温度に加熱された第1ホットロール、3077m/分の速度で90℃の温度に加熱された第2ホットロール、3659m/分の速度で130℃の温度に加熱された第3ホットロールに引き回し、延伸および熱セットを行った。さらに、3649m/分の速度で表面温度がそれぞれ30℃になるように制御された2個の非加熱のゴデットロールに引き回した後、巻取張力が0.3cN/dtexとなるようにスピンドル回転数を制御して巻き取り、4.0dtexのポリエステルモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性は表1のとおりであり、細繊度、高強度、高モジュラスかつ優れた節品位を有し、スレ毛羽性能は良好であった。該モノフィラメントを使用したハイメッシュスクリーン紗のメッシュ開口面積の均一性も良好であった。
【0047】
(実施例2~5)
実施例1のポリエステルを使い、吐出量および延伸倍率を変更し、繊度6.0~13.0dtexにおいて高強度、高モジュラスのポリエステルモノフィラメントを得た。いずれもモノフィラメントの節品位、スレ毛羽性能は良好であり、生機におけるメッシュ開口面積の均一性も良好であった。
【0048】
【0049】
(実施例6~10、比較例1~2)
実施例2において、使用するポリエステルの触媒の添加量、触媒の種類、リン元素の添加量を実施例1から変更した以外は、実施例2と同様にモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性を表2に示す。実施例9は、リン酸と同時に、リン酸水素ナトリウムを0.007重量%添加した以外は、実施例2と同様にモノフィラメントを得た。実施例10は、酢酸コバルト4水和物の代わりに、酢酸マンガン4水和物を0.012重量%添加し、リン酸の添加量を0.012重量%から0.013重量%へ変更した以外は、実施例2と同様にモノフィラメントを得た。比較例2は、酢酸コバルト4水和物の添加量を0.017重量%から0.013重量%へ変更し、同時に酢酸カルシウム1水和物を0.06重量%添加し、リン酸の添加量を0.012重量%から0.013重量%へ変更した以外は、実施例2と同様にモノフィラメントを得た。
【0050】
【0051】
(実施例11~14)
実施例2において、酸化チタンの添加量を変更した以外は同様にしてポリエステルモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性を表3に示す。
【0052】
(実施例15~16、比較例3~4)
実施例2において、固相重合における最高到達温度を変更した以外は、実施例2と同様にモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性を表3に示す。
【0053】
(実施例17~18、比較例5~6)
実施例2において、固相重合における最高温度領域での加熱時間を変更した以外は、実施例2と同様にモノフィラメントを得た。このポリエステルモノフィラメントの特性を表3に示す。
【0054】
【符号の説明】
【0055】
1:モノフィラメント(経糸)
2:モノフィラメント(緯糸)
3:経糸間隔
4:緯糸間隔
A~D:開口部の面積