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特許7298610プリプレグシート、及び低ボイド含有量繊維強化複合材料の製造に有用であるプリプレグスタック
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  • 特許-プリプレグシート、及び低ボイド含有量繊維強化複合材料の製造に有用であるプリプレグスタック 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】プリプレグシート、及び低ボイド含有量繊維強化複合材料の製造に有用であるプリプレグスタック
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20230620BHJP
   B29B 15/08 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C08J5/24
B29B15/08
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020527950
(86)(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 IB2019000099
(87)【国際公開番号】W WO2019150193
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】62/624,584
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/794,839
(32)【優先日】2019-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小柳・アンドリュー・秀夫
(72)【発明者】
【氏名】アルフレッド・ピー・ハロ
(72)【発明者】
【氏名】荒井 信之
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0374018(US,A1)
【文献】国際公開第2015/007862(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/103669(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/096968(WO,A2)
【文献】国際公開第2012/135754(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110991(WO,A1)
【文献】米国特許第04957801(US,A)
【文献】特開2008-050587(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066600(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16,15/08-15/14
C08J 5/04-5/10,5/24
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面を定める第一の外面及び第二の外面を有し、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂粒子を含む熱硬化性樹脂組成物で含浸された繊維層を含むプリプレグシートであって、前記熱可塑性樹脂粒子が、5ミクロン~25ミクロンの粒子サイズを有し、前記プリプレグシートは、複数プライにレイアップされた場合、前記プリプレグシートの前記平面に対して平行である方向の面内気体透過性を有するプリプレグスタックを提供し、及び属性a)~d)のうちの少なくとも3つを有する、プリプレグシート。
a)前記プリプレグシートの前記外面の少なくとも一方が、3μm~8μmの平均表面粗さRを有すること;
b)前記プリプレグシートの前記外面の少なくとも一方が、20%~80%の熱可塑性樹脂粒子露出率を有すること;
c)所望される公称厚さ(およそ0.07インチ(1.8mm))に基づいてプライをレイアップし、5kPaのレベルの真空下、室温(23℃)でコンソリデーションさせた場合、前記プリプレグシートが、前記プリプレグシートの前記平面に対して平行である方向の積層体長さ方向の気体透過率が、積層体長さ1mにおいて5.5×10-14超であるプリプレグスタックを提供すること;
d)Bが、積層体長さ1mでの前記プリプレグシートの前記平面に対して平行である方向の前記積層体長さ方向の気体透過率であり、Aが、前記プリプレグシートの前記平面に対して平行である方向の前記面内気体透過率である場合、B/Aの比が、少なくとも0.5であること。
【請求項2】
前記プリプレグシートが、属性a)~d)の全てを有する、請求項1に記載のプリプレグシート。
【請求項3】
Aが、5.5×10-14よりも大きい、請求項1または2に記載のプリプレグシート。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂組成物が、最低粘度温度を有し、前記プリプレグシートが、前記熱硬化性樹脂組成物の前記最低粘度温度よりも20℃~80℃低い温度でコンディショニングされたものである、請求項1~のいずれか一項に記載のプリプレグシート。
【請求項5】
熱可塑性樹脂粒子が、前記第一の外面又は前記第二の外面のうちの少なくとも一方の上に露出している、請求項1~のいずれか一項に記載のプリプレグシート。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂粒子が、積算曲線が合計体積を100%として特定された場合に、90%の積算曲線を有する前記熱可塑性樹脂粒子の粒子径が、約5μm~約20μmであるような、レーザー回折散乱法によって測定された粒子サイズ分布を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のプリプレグシート。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂組成物が、5~15重量%の熱可塑性樹脂粒子を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のプリプレグシート。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂粒子が、ポリアミド、ポリスルホン、ポリイミド、及びポリエステルから成る群より選択される熱可塑性樹脂を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のプリプレグシート。
【請求項9】
前記プリプレグシートが、2~7%の吸水率を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のプリプレグシート。
【請求項10】
前記プリプレグシートが、前記プリプレグシート内に繊維通気経路を提供するために前記熱硬化性樹脂組成物で部分的に含浸されている、請求項1~のいずれか一項に記載のプリプレグシート。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のプリプレグシートを複数備えたプリプレグスタック。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のプリプレグシートを製造する方法であって、繊維層を熱硬化性樹脂組成物で含浸して、第一の側が少なくとも部分的に前記熱硬化性樹脂組成物で覆われている前駆体プリプレグシートを形成すること、及び前記前駆体プリプレグシートを、前記プリプレグシートを製造するのに有効である温度及び時間で真空条件にさらすこと、を含む、方法。
【請求項13】
前記温度が、20℃~80℃であり、前記時間が、0.1時間~24時間である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記前駆体プリプレグシートが、0.01MPa~0.1MPaの真空にさらされる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
請求項11に記載のプリプレグスタックを硬化することを含む、繊維強化複合材料を製造する方法。
【請求項16】
前記硬化が、オーブン中で行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記プリプレグスタックが、硬化の間、真空バッグ中に配置される、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1517のいずれか一項に記載の方法によって得られた繊維強化複合材料。
【請求項19】
繊維強化複合構造を製造する方法であって:
a)請求項1~10のいずれか一項に記載のプリプレグシートの複数をスタック順序で積層して、プリプレグスタックを形成すること;及び
b)前記プリプレグスタックをコンソリデーションさせ及び硬化させ、それによって繊維強化複合構造を形成すること
を含む、方法。
【請求項20】
前記積層してプリプレグスタックを形成することが、繊維強化複合構造を形成するための金型表面上にプリプレグシートを供給し、直接圧縮成形するための手段を備えた自動繊維配置(AFP)システム又は自動テープレイアップ(ATL)システムによって行われる、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年1月31日に出願された米国仮特許出願第62/624,584号、及び2019年1月21日に出願された米国仮特許出願第62/794,839号に関連し、並びにこれらの優先権の利益を主張するものであり、これら両方の全内容は、あらゆる点で参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、高い度合いの加工性を有するプリプレグスタックを提供することができるプリプレグシート、さらにはそのようなプリプレグスタックから製造され、非常に低いボイド含有量及び非常に優れた耐衝撃性を有する硬化された繊維強化複合材料に関し、プリプレグは、大型で複雑な構造体の製造に良好に適し、自動レイアップ装置に適合する。プリプレグスタックは、脱オートクレーブプロセスにおいて真空ポンプ及びオーブンを用いるだけで成形することができる。本発明はまた、そのようなプリプレグシート及びプリプレグスタックを用いて製造された繊維強化複合材料、さらにはプリプレグシート及びプリプレグスタックを用いる製造方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
繊維強化複合材料は、特に優れた構造機械的特性、さらには耐熱性を必要とする航空宇宙及び宇宙船構成部材を含む産業で広く用いられている。従来から、好ましい成形法の1つは、高い圧密圧力を発生させるオートクレーブを用いて、例えば大型で複雑な構造を、コンソリデーションさせ、硬化された材料中にボイドが存在しないことを実現することで、剛性、軽量、及び強固な複合体を製造するものである。他方、これらのオートクレーブ法は、運転及び設備コストが高く、装置容量に場合によっては起因して、成形サイズが制限され得る。したがって、有効な代替成形法の開発が、大きな関心を集めている。
【0004】
非常により低い圧密圧力を適用する真空のみの方法(VBO-真空バッグのみの方法、としても知られる)に依存する脱オートクレーブ(OOA)プロセスなどの成形法が開発されてきた。OOAプロセスでは、設備コスト削減の可能性が示され、成形サイズの拡張が可能であるが、これらのプロセスでは、オートクレーブで用いられるような高い圧密圧力が存在しないことにより、大型で複雑な構造の作製を試みる場合に、一貫してボイドを含まない複合体を実現することが困難である。加えて、OOA加工は、プリプレグシート又はプリプレグとしても知られるマトリックス樹脂で予備含浸された繊維を用いて製造された繊維強化複合体構成部材に適している。プリプレグシートから、大型で複雑な構造を有する複合体パーツを形成するためには、プリプレグシートの1又は複数の層が、典型的には、1回あたり数週間掛かる場合もある綿密なハンドレイアップによってモールド内で組み上げられる。マトリックス樹脂を流動させるためにプリプレグシートのこの集合体に熱が掛けられて、プリプレグ層をコンソリデーションさせ、最終複合体が製造される。
【0005】
脱オートクレーブプロセスへの現行の手法は、典型的には、セミプリプレグシートを用い、これを組み上げて複数のプリプレグシートを備えるプリプレグスタックとする。そのようなセミプリプレグシートは、プリプレグシートの中央(コア)セクションにドライ(非含浸)繊維領域を有することを特徴とし、それによって、プリプレグシート内に存在する空気、水分、及び他の揮発性物質を、硬化中にプリプレグシートから除去することができる。そのような揮発性物質は、プリプレグシート中に残留させた場合、そのようなプリプレグシートのスタックから形成された硬化された繊維強化複合材料中にボイドを発生させる。硬化された繊維強化複合材料中にボイドが存在することは、望ましいことではなく、なぜなら、そのような欠陥は、通常、これらの材料の物理的及び機械的特性に有害な影響を与えるからである。しかし、セミプリプレグを用いた上述した手法は、すべての状況下で完全に適切というわけではないことが見出された。例えば、セミプリプレグは、長さ及び幅に関して比較的小さい繊維強化複合体物品に対しては良好に作用し得るが、より大きい構造の場合にボイドフリーの積層体を製造するために用いることは、一般的にはできない。この理由は、硬化時に揮発性物質が通過する個々のプリプレグシートの中央セクション内の通気経路が、ある特定の積層体長さ又は幅を超えると、不連続となるからである。すなわち、プリプレグスタックの寸法(長さ、幅)が増加するに従って、そのような通気経路が、ブロックされる、又は硬化時にプリプレグスタックから実質的にすべての揮発性物質を確実に除去することが困難である状態まで少なくとも制限される可能性が次第に高くなるからである。
【0006】
セミプリプレグシートを用いることで直面してきた別の問題は、セミプリプレグシートのロールからプリプレグスタックを組み上げるために自動レイアップ機が用いられる場合に見られる。自動レイアップの過程では、ドライ繊維玉(すなわち、ドライ繊維のクラスター)が多くの場合発生し、積層体の表面上に堆積する。そのようなドライ繊維玉は、製造される硬化された繊維強化複合材料の品質を損ない得る欠陥と見なされることから、製造者は、典型的には、積層体からドライ繊維玉を取り除くために製造を停止する必要がある。このことは、明らかに、生産性及びコストに対して負の影響を与える。
【発明の概要】
【0007】
ここで、繊維強化複合材料の製造において、熱硬化性樹脂組成物で含浸された繊維層を含むプリプレグシートを用いることによって、大型の繊維強化複合体中でのボイドの発生を有利には低減することができることが見出され、プリプレグシートは、平面を定める第一の外面及び第二の外面を有し、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂粒子を含む熱硬化性樹脂組成物で含浸された繊維層を含み、プリプレグシートは、複数プライにレイアップされた場合、プリプレグシートの平面に対して平行である方向の面内気体透過性を有するプリプレグスタックを提供し、及び以下の特性のうちの1又は複数(例:2つ以上、3つ以上、又は4つすべて)を有する。
【0008】
a)プリプレグシートの外面の少なくとも一方が、3μm~8μmの平均表面粗さRを有すること;
b)プリプレグシートの外面の少なくとも一方が、20%~80%の熱可塑性樹脂粒子露出率を有すること;
c)複数プライにレイアップされた場合、プリプレグシートは、プリプレグシートの平面に対して平行である方向の積層体長さ方向の気体透過率が、積層体長さ1mにおいて5.5×10-14超であるプリプレグスタックを提供すること;
d)Bが、積層体長さ1mでのプリプレグシートの平面に対して平行である方向の積層体長さ方向の気体透過率であり、Aが、プリプレグシートの平面に対して平行である方向の面内気体透過率である場合、B/Aの比は、少なくとも0.5であること。
【0009】
さらに、そのような低ボイド含有量繊維強化複合材料は、本発明のある特定の態様に従って、脱オートクレーブプロセスを用いて都合良く製造することができる。本発明の別の利点は、自動レイアップ機で用いられる場合、プリプレグシートは、製造される積層体の表面にドライ繊維玉が形成される傾向の低減を呈することである。
【0010】
上記で述べた特徴の1又は複数は、プリプレグシートをプリプレグスタックに組み上げる前に、プリプレグシートをコンディショニング工程に掛けることによって付与することができ、それは、前駆体プリプレグシート(前駆体プリプレグシートの少なくとも一方の側が、少なくとも部分的に、熱可塑性樹脂粒子を含有する熱硬化性樹脂組成物で覆われている)を真空条件にさらすことを含む。そのようにしてプリプレグシートをコンディショニングすることによって、プリプレグシートの表面が修飾されることが見出され、それによって、熱可塑性樹脂粒子は、より多い度合いでプリプレグシート表面に優先的に露出するようになる、又は集中するようになる。理論に束縛されるものではないが、この修飾は、熱可塑性樹脂粒子を優先的にプリプレグシートの外面に引き寄せる熱可塑性樹脂粒子中の残留揮発性物質の結果として、及び/又は熱硬化性樹脂(コンディショニング温度ではある程度流動可能である)が下地の繊維マトリックス中にさらに引き込まれる(コンディショニング温度では固体のままである熱可塑性樹脂粒子は、繊維マトリックスのフィルター効果によって、同様に繊維マトリックス中に引き込まれることから少なくとも部分的にブロックされる)結果として起こり得るものと考えられる。この結果、表面の粗さが増加し、このことは、プリプレグシートのスタックされた層間における、そのようなプリプレグスタックの硬化時の層間気体流経路(本明細書において「層間通気経路」とも称される)の発生及び維持を補助することが見出された。プリプレグシート表面に露出した熱可塑性樹脂粒子は、直接隣接する第二のプリプレグシート表面(やはり、そのような表面上に同様に露出又は集中した熱可塑性樹脂粒子を有し得る)と相互作用を起こし、それによって、プリプレグシート表面同士が、所望される透過特性が実現されない程度まで直接接触した状態となることが防止される。したがって、プリプレグシートの表面形態を変化させることによって、スタック中の隣接するプリプレグシート間の点での表面接触が可能となり、それによって、得られる繊維強化複合材料中のボイドの発生率が低い結果となる(例:<1%)ようにプリプレグスタックをコンソリデーションさせ及び硬化させるのに有効である透過度の実現に寄与する層間通気経路が作り出される。層間通気経路から得られる改善されたプリプレグの透過度によって、プリプレグシートは、自動レイアップ機での使用にさえも適するようになる。硬化の過程で、層間空気流経路は、そうでなければ硬化された繊維強化複合材料中にボイドを形成する結果となる揮発性物質のプリプレグスタックからの除去を可能とするが、硬化の完了までには、経路を閉じて、本質的に完全に中実である(低ボイド含有量)物品を提供する。
【0011】
本発明の様々な実施形態は、以下の有益性及び利点のうちの1又は複数を提供し得る。改善された長さ方向の透過率を有するプリプレグシート及びプリプレグスタックを提供することができ、これらは、大型構造用途(例:比較的サイズの大きい、例えば、長さ及び幅の両方において、少なくとも0.2m、少なくとも0.3m、少なくとも0.4m、少なくとも0.5m、少なくとも0.6m、少なくとも0.7m、少なくとも0.8m、少なくとも0.9m、又は少なくとも1.0mである硬化された繊維強化複合材料を含む物品の製造)に良好に適している。プリプレグスタックの製造に用いられるプリプレグシートの粗い表面の結果として、硬化の初期段階での揮発性物質の効果的な除去のための拡張された通気経路が依然として利用可能であり、それによって、極めて低いボイド含有量(例:1%未満、0.5%未満、0.1%未満、又はさらには0%)を有する硬化された繊維強化複合材料の製造が可能となる。本発明の少なくともある特定の態様に従うプリプレグシート及びプリプレグスタックは、自動レイアップ機と共に、さらには大型構造用途の製造において、適切に用いることができる。
【0012】
本発明の様々な例示的態様を、以下のようにまとめることができる
【0013】
態様1:平面を定める第一の外面及び第二の外面を有し、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂粒子を含む熱硬化性樹脂組成物で含浸された繊維層を含むプリプレグシートであって、前記熱可塑性樹脂粒子が、5ミクロン~25ミクロンの粒子サイズを有し、プリプレグシートは、複数プライにレイアップされた場合、プリプレグシートの平面に対して平行である方向の面内気体透過性を有するプリプレグスタックを提供し、及び属性a)~d)のうちの少なくとも3つ:
【0014】
a)プリプレグシートの外面の少なくとも一方が、3μm~8μmの平均表面粗さR を有すること;
b)プリプレグシートの外面の少なくとも一方が、20%~80%の熱可塑性樹脂粒子露出率を有すること;
【0015】
c)所望される公称厚さ(およそ0.07インチ(1.8mm))に基づいてプライをレイアップし、5kPaのレベルの真空下、室温(23℃)でコンソリデーションさせた場合、プリプレグシートは、プリプレグシートの平面に対して平行である方向の積層体長さ方向の気体透過率が、積層体長さ1mにおいて5.5×10 -14 超であるプリプレグスタックを提供すること;
d)Bが、積層体長さ1mでのプリプレグシートの平面に対して平行である方向の積層体長さ方向の気体透過率であり、Aが、プリプレグシートの平面に対して平行である方向の面内気体透過率である場合、B/Aの比は、少なくとも0.5であること、
を有する、プリプレグシート。
【0016】
態様4:プリプレグシートが、属性a)~d)の全てを有する、態様1に記載のプリプレグシート。
【0017】
態様5:Aが、5.5×10 -14 よりも大きい、態様1~4のいずれか1つに記載のプリプレグシート。
【0018】
態様6:プリプレグシートが、属性a)又b)のうちの少なくとも1つと、属性c)及びd)の両方とを有し、Aが、5.5×10 -14 よりも大きい、態様1に記載のプリプレグシート。
【0019】
態様7:熱硬化性樹脂組成物が、最低粘度温度を有し、プリプレグシートが、熱硬化性樹脂組成物の最低粘度温度よりも20℃~80℃低い温度でコンディショニングされたものである、態様1に記載のプリプレグシート。
【0020】
態様8:熱可塑性樹脂粒子が、第一の外面又は第二の外面のうちの少なくとも一方の上に露出している、態様1~7のいずれか1つに記載のプリプレグシート。
【0021】
態様9:熱可塑性樹脂粒子が、積算曲線が合計体積を100%として特定された場合に、90%の積算曲線を有する熱可塑性樹脂粒子の粒子径が、約5μm~約20μmであるような、レーザー回折散乱法によって測定された粒子サイズ分布を有する、態様1~8のいずれか1つに記載のプリプレグシート。
【0022】
態様10:熱硬化性樹脂組成物が、5~15重量%の熱可塑性樹脂粒子を含む、態様1~のいずれか1つに記載のプリプレグシート。
【0023】
態様11:熱可塑性樹脂粒子が、ポリアミド、ポリスルホン、ポリイミド、及びポリエステルから成る群より選択される熱可塑性樹脂を含む、態様1~10のいずれか1つに記載のプリプレグシート。
【0024】
態様12:熱可塑性樹脂粒子が、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン6、ナイロン6/12コポリマー、及びセミIPN(相互侵入高分子網目構造)を有するように修飾されたナイロンから成る群より選択されるポリアミドを含む、態様1~11のいずれか1つに記載のプリプレグシート。
【0025】
態様13:プリプレグシートが、2~7%の吸水率を有する、態様1~12のいずれか1つに記載のプリプレグシート。
【0026】
態様14:プリプレグシートが、プリプレグシート内に繊維通気経路を提供するために熱硬化性樹脂組成物で部分的に含浸されている、態様1~13のいずれか1つに記載のプリプレグシート。
【0027】
態様15:態様1~14のいずれか1つに記載の複数のプリプレグシートを備えたプリプレグスタック。
【0028】
態様16:繊維層を熱硬化性樹脂組成物で含浸して、第一の側が少なくとも部分的に熱硬化性樹脂組成物で覆われている前駆体プリプレグシートを形成すること、及び前駆体プリプレグシートを、プリプレグシートを製造するのに有効である温度及び時間で真空条件にさらすこと、を含む、態様1~15のいずれか1つに記載のプリプレグシートを製造する方法。
【0029】
態様17:温度が、20℃~80℃であり、時間が、0.1時間~24時間である、態様16に記載の方法。
【0030】
態様18:前駆体プリプレグシートが、0.01MPa~0.1MPaの真空にさらされる、態様16に記載の方法。
【0031】
態様19:温度が、20℃~80℃であり、時間が、0.1時間~24時間であり、前駆体プリプレグシートが、0.01MPa~0.1MPaの真空にさらされる、態様16に記載の方法。
【0032】
態様20:態様1~14のいずれか1つに記載のプリプレグシートを複数スタックすることを含む、プリプレグスタックを製造する方法。
【0033】
態様21:態様15に記載のプリプレグスタックを硬化すること、又は態様21に記載の方法によって得られたプリプレグスタックを硬化すること、を含む、繊維強化複合材料を製造する方法。
【0034】
態様22:硬化が、オーブン中で行われる、態様21に記載の方法。
【0035】
態様23:プリプレグスタックが、硬化の間、真空バッグ中に配置される、態様21又は22に記載の方法。
【0036】
態様24:態様2123のいずれか1つに記載の方法によって得られた繊維強化複合材料。
【0037】
態様25:繊維強化複合材料が、0.5%未満のボイド含有量を有する、態様24に記載の繊維強化複合材料。
【0038】
態様26:繊維強化複合構造を製造する方法であって:
a)態様1~14のいずれか1つに記載のプリプレグシートの複数をスタック順序で積層して、プリプレグスタックを形成すること;及び
b)プリプレグスタックをコンソリデーションさせ及び硬化させ、それによって繊維強化複合構造を形成すること
を含む、方法。
【0039】
態様27:前記積層してプリプレグスタックを形成することが、繊維強化複合構造を形成するための金型表面上にプリプレグシートを供給し、直接圧縮成形するための手段を備えた自動繊維配置(AFP)システム又は自動テープレイアップ(ATL)システムによって行われる、態様26に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、本発明のある特定の態様に従う例示的なプリプレグシートのスタックの断面を模式的に示す図である。
図2図2は、図1のプリプレグスタックの繊維強化複合材料へのコンソリデーションを示す図である。
図3図3は、本発明の態様に従う、真空コンディショニング前(図3A)及び真空コンディショニング後(図3B及び図3C)のプリプレグシートの表面写真を示す図である。
図4図4は、積層体ボディ(プリプレグスタック)の気体透過率の測定に適する透過率測定器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、本明細書において特定の実施形態を参照して説明され、記載されるが、本発明は、示される詳細事項に限定されることを意図するものではない。そうではなく、請求項の均等物の範囲内で、本発明から逸脱することなく、詳細事項に様々な改変が行われてもよい。
【0042】
「およそ」及び「約」の用語は、本明細書で用いられる場合、記載された量に近く、依然として所望される機能を発揮する、又は所望される結果を実現する量を表す。「室温」の用語は、本明細書で用いられる場合、文脈からそうでないことが示されない限り、23℃を意味する。
試験方法
本発明のある特定の実施形態に従うプリプレグシート、プリプレグスタック、及び繊維強化複合材料に特徴的なパラメータのいくつかは、以下のようにして測定され得る。
a)平均表面粗さ(Ra)
以下の手順は、プリプレグの表面テクスチャを測定するために行われる工程を含む。表面テクスチャ測定は、試験法「JIS B 0601(1994)、日本工業規格(表面粗さ)」に従って行う。表面粗さは、表面接触式測定器(Surftest SV-2100H4)を用い、プリプレグ表面上を60mmの範囲にわたって走査させることで測定する。実験では、プリプレグの表面形状のサイズ及びテクスチャを適切に特定する標準的な触針を用いる。
b)熱可塑性樹脂粒子露出率
以下の手順は、プリプレグ表面上での熱可塑性樹脂粒子の露出率(本明細書において、「熱可塑性樹脂粒子露出率」と称する)を測定するために用いる。この分析は、走査型電子顕微鏡(SEM 装置-Phenom Pro)を用いてプリプレグの表面画像を取り込み、タイリングすることによる画像分析を通して行う。取り込む対象領域は、8mm×8mmであり、熱可塑性樹脂粒子の露出率は、露出粒子の面積を全表面積で除して100を掛けることによって算出する。
c)「プリプレグシートの平面に対して平行である方向の面内気体透過率」及び「積層体長さ方向の気体透過率」
以下の手順は、複数のプリプレグシート(プリプレグシートを複数プライにレイアップしてプリプレグスタックを得た)を用いて製造された積層体ボディ(プリプレグスタック)の透過特性を測定するために用いる。透過率試験測定は、「Gas Transport and Water Vaporization in Out-of-Autoclave Prepreg Laminates」(University of British Columbia 2012)と題するKevin Hsiaoの修士論文の36~48ページに記載の手順に従って行う。面内及び厚さ方向の気体透過率を測定し、アウトタイム、保存、及び真空コンディショニング時間などの加工条件の効果を記録する。まず、4~8プライの一方向プリプレグを、およそ50mm(w)×300mm(l)の寸法で切り出す。次に、所望される公称厚さ(およそ0.07インチ(1.8mm))に基づいてプライをレイアップし、約5kPaのレベルの真空下、室温(約23℃)でコンソリデーションさせる。各サンプルを、図4に示されるように、2つの通気エッジ部(breathing edges)が面内試験方向に露出したままとなるように載せる。露出したエッジ部を、ガラス繊維束で覆い、ブリーザーの層及び真空ポートと接触して配置して、気体(空気)の除去及びモニタリングのための完全な経路を形成する。次に、透過率試験機を、リークしていないか確認する。その後、試験を開始し、定常状態の流れが得られたところで、流量データを、所望される時間間隔で記録する。
【0043】
この試験では、積層体スタックを通してのQを測定し、透過率Kを、ダルシーの定常流から算出するが:
【0044】
【数1】
【0045】
式中:
K[m]は、透過率であり、
Q[m/s]は、定常状態の体積流量であり、
μ[Pas]は、室温における空気の動粘度であり、
L[m]は、積層体長さであり、
A[m]は、断面積であり、
[Pa]は、流入圧力であり、
[Pa]は、流出圧力である。
【0046】
積層体長さ方向の気体透過率を測定するために、積層体は、透過率測定において所望される長さに作製される。本発明の状況における積層体長さ方向の気体透過率測定は、幅100mmである1mの積層体に対して行われる。これにより、ある特定の長さの積層体の透過率を測定して、積層体が、特に大型構造の製造のための透過率を獲得することができるかどうかを判定することができる。
d)吸水率
プリプレグ含浸レベルは、繊維中への樹脂の含浸度合いを決定するものであり、吸水率試験によって測定することができる。この試験方法は、貯水槽から未含浸ドライ繊維を通ってプリプレグ中に水を吸い上げる毛細管現象によって作用する。吸水率試験の手順は、以下の工程に従う。6プライのプリプレグを、100mm×100mmに切り出す。裏紙を取り除いた後、個々のプライの質量をそれぞれ測定する。次に、この6プライを、WPU装置中、プライ間に離型フィルムスペーサーを挟んで各プライをスタックすることによって組み上げ、スタックの0°の繊維方向が水面に対して垂直となるように装置中にしっかり固定する。固定したスタックを装置中に垂直に配置する際、23℃で相対湿度50%の実験室環境中、プリプレグスタックの5mmを室温の水に浸漬する。浸漬の10分後、サンプルを水から取り出し、外側の過剰の水を取り除き、試料の質量を再度測定して、以下の式を用いて初期状態からの吸水率のパーセントを得る。吸水率のパーセントWPU(%)は、6つのサンプルに対して測定した重量の平均によって算出する。
【0047】
【数2】
【0048】
e)ボイド含有量
[0°/90°]の積層順での35プライの一方向プリプレグから成る、積層体ボディ長さ1000mm及び幅1000mmの硬化された複合体品は、脱オートクレーブ硬化条件下で硬化されている。この積層体ボディから、長さ25mm×幅25mmのサンプル片3つを切り出し、顕微鏡分析のために断面を研磨する。積層体試料全体が分析のための視野内に収まるように、25mm積層体長さ全体にわたる複数の画像を、50×以上の倍率で取り込む。ボイド含有量は、ボイド面積を合計し、次にそれを全断面画像で除することによって算出する。
f)最低粘度
本発明の他の実施形態では、熱硬化性樹脂組成物は、特定の温度で(例:30℃、40℃、130℃)ある特定の粘度を有し得る。本発明では、「粘度」とは、複素粘弾性率ηを意味する。熱硬化性樹脂組成物の粘度は、40mm径のパラレルプレートを用いた動的粘弾性測定装置(ARES、TA Instruments製)を用い、2℃/分の速度で昇温しながら、歪10%、周波数0.5Hz、及びプレート間隔1mmで、40℃から150℃で測定する。熱硬化性樹脂組成物が温度上昇を受けるに従って、最初は粘度が減少する。しかし、ある特定の温度において、熱硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂が硬化を開始し、その時点で、粘度は再度増加を開始する。最低粘度は、2℃/分の昇温速度、振動周波数0.5Hz、及びパラレルプレート(40mm径)の条件下での温度と粘度との相関曲線から算出することができる。30℃での粘度(初期粘度と称する)及び最低粘度(最高樹脂流動性点(highest resin flow point)と称する→ほぼ液体状態)は、同じパラメータを用いたARES装置のプロットから曲線を作成して得ることができる。「最低粘度温度」とは、熱硬化性樹脂組成物が最低粘度を呈する温度を意味する。
g)粒子サイズ/粒子径
以下の手順は、熱硬化性樹脂組成物中に用いられた、プリプレグ表面に存在する熱可塑性樹脂粒子の粒子サイズ(本明細書において「粒子径」と称する)を特定するために用いる。レーザー回折は、レーザービームが分散されたサンプル中を通過する際に散乱する光の強度の角度による変動を測定することによって、粒子サイズ分布を測定するものである。角度による散乱強度データをコンピュータで計算して、散乱パターンを発生させた粒子のサイズを分析する。この方法により、粒子径を体積相当粒子サイズとして報告することができる。特に、JIS Z 8825(2013年版)に記載の手順を、粒子サイズの測定に用いることができる。
【0049】
本明細書において、「プリプレグ」とは、強化繊維のマトリックス(例:層)がマトリックス樹脂で含浸されている成形中間基材を意味する。本発明において、熱硬化性(熱硬化)樹脂と熱可塑性樹脂の粒子又は繊維(「熱可塑性樹脂粒子」)とを含有する熱硬化性(熱硬化)樹脂組成物が、マトリックス樹脂として用いられる。他の成分も、熱硬化性樹脂組成物中に存在してよく、例えば、1又は複数の硬化剤が挙げられる。プリプレグ中の熱硬化性樹脂は、未硬化の状態であり、繊維強化複合材料は、プリプレグをレイアップし(複数層のプリプレグをスタックして積層体ボディを形成、本明細書において「プリプレグスタック」とも称される)、硬化することによって得ることができる。繊維強化複合材料が、複数のプリプレグをレイアップし、得られた積層体ボディを硬化することによって製造される場合、プリプレグの表面部分は、熱硬化された樹脂(熱硬化性樹脂から形成された)及び熱可塑性樹脂粒子を含有する、強化繊維の層上に形成され、好ましくは強化繊維の表面から約20%の深さまでである層間成形層となり、プリプレグの内部は、繊維強化複合材料の強化繊維層となる。
【0050】
本発明のある特定の実施形態では、プリプレグは、0.005インチから0.011インチ(0.13mmから0.28mm)の厚さを有するシート(本明細書において「プリプレグシート」と称する)の形態である。本発明に従うプリプレグのプライを有する積層体ボディ(プリプレグスタック)は、2つ以上のプリプレグプライ、例えば、2~30プライ又は4~20プライを有し得る。
【0051】
本発明に従うプリプレグシートは、様々な方法を用いて製造することができる。1つの適切な方法は、前駆体プリプレグシートを、本発明のプリプレグシートに付随する特性の1又は複数を有するプリプレグシートを得るのに有効である条件下で処理することを含む。本明細書で用いられる場合、「前駆体プリプレグシート」の用語は、本発明に従うプリプレグシートの前駆体であるプリプレグシート(すなわち、本発明のプリプレグシートに付随する属性を有しないが、本明細書で述べる手順に従ってコンディショニングすることによって、本発明のプリプレグシートに変換することができるプリプレグシート)を意味する。
【0052】
特に、そのような方法は、繊維層を熱硬化性樹脂組成物で含浸して、第一の側が少なくとも部分的に熱硬化性樹脂組成物で覆われている前駆体プリプレグシートを形成すること、及び前駆体プリプレグシートを、プリプレグシートを製造するのに有効である温度及び時間で真空条件にさらすこと、を含んでよい。別の実施形態では、前駆体プリプレグシートの両側が、少なくとも部分的に熱硬化性樹脂組成物で覆われている。
【0053】
繊維層の熱硬化性樹脂組成物による含浸は、本技術分野で公知の又は用いられているいかなる方法を用いて行われてもよい。含浸法としては、ウェット法及びホットメルト法(ドライ法)が挙げられる。
【0054】
ウェット法は、熱硬化性樹脂組成物をメチルエチルケトン又はメタノールなどの溶媒中に溶解することによって作製された熱硬化性樹脂組成物の溶液中に、強化繊維がまず浸漬され、取り出され、続いてオーブンなどによる蒸発を通して溶媒が除去されて、強化繊維が熱硬化性樹脂組成物で含浸される方法である。ホットメルト法は、予め加熱することによって流体とされた熱硬化性樹脂組成物で強化繊維を直接含浸することによって、又は樹脂フィルムとして用いるために、離型紙などを熱硬化性樹脂組成物でまずコーティングし、次に平らな形状に構成された強化繊維の片面若しくは両面の上にフィルムを配置し、続いて熱及び圧力を適用することで強化繊維を熱硬化性樹脂組成物で含浸することによって実行され得る。ホットメルト法では、実質的に残留溶媒を中に含まないプリプレグが得られ得る。
【0055】
1つの実施形態によると、含浸は、完全に含浸された前駆体プリプレグシートを提供するのに有効である方法で行われ得る。すなわち、熱硬化性樹脂組成物は、強化繊維の厚さ全体にわたって浸透するように導入される。しかし、他の実施形態では、強化繊維の含浸は、前駆体プリプレグシート中に少なくとも1つの通気経路が、すなわち、熱硬化性樹脂組成物によって含浸されていない強化繊維層を通って延びている領域(そのような領域は、本明細書において「繊維通気経路」と称される場合がある)が存在する条件下で行われる。なおさらなる実施形態では、そのような繊維通気経路は、前駆体プリプレグシートを本発明に従うプリプレグシートに変換した後も維持される(しかし、厚さは減少される可能性がある)。繊維通気経路は、本発明に従って製造される複数のプリプレグシートから形成されるプリプレグスタック内からの揮発性物質の除去をさらに補助することができる。プリプレグシート内に繊維通気経路を提供するのに有効である方法で強化繊維の部分含浸を行う方法は、本技術分野において公知であり、そのような方法のいずれも、本発明に関連する使用に適合され得る。そのような部分含浸法は、例えば、国際公開第2017/103669号、米国特許第6,391,436号、米国特許出願公開第2013/0217283号、米国特許出願公開第2014/0087178号、及び米国特許出願公開第2014/0309336号に記載されており、これらの開示事項の全内容は、あらゆる点で参照により本明細書に援用される。
【0056】
プリプレグシートの含浸度は、特定の最終用途における所望又は都合に応じて、変動及び制御され得る。吸水率(WPU)が、典型的には、プリプレグシートの含浸度の相対的尺度に用いられる。ある特定の態様によると、本発明に従うプリプレグシートは、例えば、約1%~約10%、又は約2%~約7%のWPUを有し得る。プリプレグシートが、自動繊維配置(AFP)又は自動テープレイアップ(ATL)などの自動レイアップ法での使用を意図している場合、プリプレグシートは、有利には、約1%~約5%のWPUを有し得る。プリプレグシートがハンドレイアップ法での使用を意図されている場合は、プリプレグシートは、有利には、約5%~約10%のWPUを有し得る。AFPで用いられるプリプレグシートは、典型的には、約1/8インチ~約2インチの幅であり、ATLで用いられるプリプレグシートは、典型的には、約6インチ~約12インチの幅である。
【0057】
本発明のプリプレグシートでは、熱可塑性樹脂の粒子(「熱可塑性樹脂粒子」)は、プリプレグシートの表面部分に局所的に提供される。言い換えると、多量の上述した熱可塑性樹脂粒子を有する層が、プリプレグシートの少なくとも1つの表面上に存在してよく、この場合、熱可塑性樹脂粒子は、プリプレグシートを断面から観察した場合に局所的に存在することが明らかに識別可能である。この層は、積層体ボディ中、並びに積層体ボディを硬化及び成形することによって得られる繊維強化複合材料中のプリプレグの隣接する層間に存在することから、以降、層間成形層とも称される。それによって、プリプレグが重ね合わされ、マトリックス樹脂が硬化されて繊維強化複合材料が形成された場合、上述した熱可塑性樹脂粒子が局所的に存在する層間層が、強化繊維層間に形成される。この特徴は、強化繊維層間の靭性を高めるように働き、得られる繊維強化複合材料は、高度の耐衝撃性を有することになる。
【0058】
図1は、本発明に従うプリプレグシートを用いて製造することができる典型的な積層体ボディの断面図の例を示す。詳細には、図1は、部分的に含浸されたプリプレグシートの2つの層(2及び3)(プライ)から成る硬化前の積層体ボディ(1)の例を断面で示す。各プライは、強化繊維(4)及び熱硬化性樹脂組成物(5)を含み、熱硬化性樹脂組成物(5)は、強化繊維(4)の層を部分的に含浸している。強化繊維(4)の層を部分的に含浸した熱硬化性樹脂組成物(5)の部分における熱可塑性樹脂粒子(8)の濃度は、強化繊維(4)の層のフィルター効果によって低下する。熱硬化性樹脂組成物(5)及び熱可塑性樹脂粒子(8)を含む表面層(6)並びに(7)は、プライ(2)の最下部及びプライ(3)の最上部に存在する。表面層(6)及び(7)に存在する熱可塑性樹脂粒子(8)の少なくとも一部は、熱硬化性樹脂組成物(5)のマトリックスから外向きに、少なくとも部分的に拡がっており又は飛び出しており、それによって、表面層(6)及び(7)に粗いテクスチャを付与している。そのような構成は、例えば、真空コンディショニング工程において前駆体プリプレグシートを真空条件にさらすことによって得られ得る。表面層(6)及び(7)は、積層体ボディ(1)中で互いに接触しており、表面に露出した熱可塑性樹脂粒子が、プライ(2)と(3)との間に層間空気流層(9)を形成する補助となっている。そのような層間空気流層(9)は、積層体ボディ中に透過性の経路を提供し、それを通して、積層体ボディのコンソリデーション及び硬化の間に揮発性物質(10)を排出することができる。強化繊維層の部分含浸(5)の結果として作り出された未含浸強化繊維層内層(11及び12)は、積層体ボディ中にさらなる透過性経路(繊維通気経路)を提供し、これも、揮発性物質の除去をさらに補助することができる(6)。
【0059】
本発明の1つの実施形態に従うプリプレグの2プライの場合のコンソリデーション及び硬化プロセスは、図2を参照して記載され得る。図2は、プリプレグの2プライ(図1に示されるように、一緒になって透過性積層体ボディを成す)の場合のコンソリデーション及び硬化プロセスの模式図であり、硬化前(透過性である時点)の積層体ボディ(図2の左側)、及び硬化後(好ましく低いボイド含有量を有する繊維強化複合材料に変換された時点)の積層体ボディ(図2の右側)を示す。図2の左側の積層体ボディ(1)は、硬化前の図1に類似する構成を示す。コンソリデーション及び硬化の後(図2の右側に示されるように)、強化繊維及び硬化された熱硬化性樹脂組成物を含む層内層(15)及び(16)は、コンソリデーションされ硬化された積層体ボディ(13)中に完全に形成され、それによって、繊維通気経路(11)及び(12)は、コンソリデーションの結果として排除され、表面層(6)及び(7)のコンソリデーション及び硬化から得られた層間成形層(14)が、コンソリデーションされ硬化された積層体ボディ(13)中の2つの繊維層間でさらに区別可能である。したがって、層間空気流層(9)は、表面層(6)及び(7)のコンソリデーションの結果として排除されている。未含浸層(11、12)及び層間空気流層(9)は、積層体ボディを通る気体透過性経路として機能し、それによって、そうでなければ熱硬化性樹脂組成物(5)の硬化時に積層体ボディ中にトラップされることで、積層体ボディから作製される得られた繊維強化複合材料(13)中に望ましくないボイドを作り出す可能性のある積層体ボディ中の気体及び揮発性物質の放出が促進される。
【0060】
本発明の1つの実施形態では、プリプレグは、繊維通気経路を提供する未含浸層(11、12)を有する。積層体ボディ(プリプレグスタック)(1)中のプリプレグの硬化時、熱硬化性樹脂組成物(5)は、未含浸層(11、12)を含浸する。同時に、未含浸層(11、12)及び層間空気流層(9)中の空気間隙(air spaces)が熱硬化性樹脂組成物(5)によって置き換えられる結果として、プリプレグの密度が増加する。未含浸層(11、12)の両側に、及びプライ(2)と(3)との間で、互いに分離されていた熱硬化性樹脂組成物の一部が、硬化時に互いに一体化された状態となり、それによって、そうして得られる繊維強化複合材料(13)中に連続する樹脂マトリックスが形成されるものと考えられ得る。本発明では、この一連のプロセスを、コンソリデーションプロセスと定義する。得られる繊維強化複合材料中に低ボイドを実現するために、上述したコンソリデーションプロセスが、プリプレグの硬化時に完了される。さらに、コンソリデーションプロセスの1工程として、レイアップ時にトラップされた空気及びプリプレグからの揮発性成分が(そのような空気及び揮発性成分を、本明細書において、まとめて「揮発性物質」と称する)、コンソリデーションプロセスの過程でプリプレグから放出される又は引き抜かれる。レイアップ時にトラップされた空気及びプリプレグからの揮発性成分が、プリプレグから放出される一方、同時に、プリプレグ内部の未含浸層(11、12)は、マトリックス樹脂で含浸され、隣り合うプリプレグシート間の表面層(6、7)は、一緒に合わされて層間気体流層(9)を排除することができ、プリプレグのコンソリデーションプロセスを完了することができる。さらに、得られる繊維強化複合材料は、同時に、低ボイド含有量及び高い耐衝撃性を有することができる。
【0061】
プリプレグの強化繊維の断面密度は、50~350g/mであってよい。断面密度が少なくとも50g/mである場合、繊維強化複合材料の成形時に、所定の厚さを確保するために積層する必要のあるプリプレグの数が少なくなる可能性があり、このことによって、積層作業が単純化され得る。他方、断面密度が350g/m以下である場合、プリプレグのドレープ性が許容可能であり得る。強化繊維の体積分率が少なくとも50%である場合、このことによって、非常に優れた比強度及び比弾性率という点での繊維強化複合材料の利点が提供され得、さらには、硬化時間の最中に繊維強化複合材料が過剰な熱を発生させることが防止され得る。強化繊維の体積分率が、80%以下である場合、樹脂による含浸が充分となり得、FRP材料中に大量のボイドが形成されるリスクが低減され得る。
【0062】
本発明のプリプレグシートでは、単位面積あたりの強化繊維の量は、好ましくは、100~310g/mである。強化繊維の量が少ない場合、積層体ボディに所望される厚さを得るのに必要とされる積層数を増やす必要があり、作業が複雑となり得るが、強化繊維の量が多過ぎると、プリプレグシートのドレープ性が損なわれ得る。
【0063】
本発明のプリプレグシートは、好ましくは30%~80%、より好ましくは40%~70%、最も好ましくは50%~65%の繊維重量含有率を有する。繊維重量含有率が低過ぎる場合、マトリックス樹脂の量が多過ぎる可能性があり、非常に優れた比強度及び比弾性率を有する繊維強化複合材料の利点が実現されなくなる。繊維重量含有率が高過ぎる場合、樹脂が不充分であることによって不適切な含浸が発生する可能性があり、プリプレグを用いて得られる繊維強化複合材料中に大量のボイドが形成される可能性がある。
本発明に従うプリプレグシートの製造
本発明のある特定の態様では、前駆体プリプレグシートは、前駆体プリプレグシートが真空条件にさらされるコンディショニング手順によって修飾される。そのようなコンディショニングは、例えば、コンディショニング前の前駆体プリプレグシートの平均表面粗さと比較して、プリプレグシートの平均表面粗さを増加させ得る。ある特定の実施形態によると、そのような増加した表面粗さは、プリプレグ表面での熱可塑性樹脂粒子の濃度の増加に起因すると考えられ得る。したがって、熱硬化性樹脂と強化繊維マトリックスの表面に存在する熱可塑性樹脂粒子とを含む熱硬化性樹脂組成物の層の外面は、最初は(前駆体プリプレグシートにおいて)、強化繊維マトリックスが熱硬化性樹脂組成物で含浸された方法の結果として、比較的平滑であり得る。そのような平滑な表面の前駆体プリプレグシートがレイアップされてプリプレグスタックとされると、前駆体プリプレグシート表面が互いに広く直接接触することができることによって、層間透過率が非常に低いレベルとなり、それによって、プリプレグスタックの長さ方向及び/又は幅方向を通して延びる透過性経路が形成され、維持される(少なくとも硬化の初期段階の間)可能性が大きく低下する。しかし、本発明の態様に従うプリプレグシートの表面を粗化することによって、プリプレグスタック中のプリプレグシート間にそのような透過性経路を提供する効果的な方法が提供される。そのような透過性経路(層間通気経路)が存在することが、繊維強化複合材料が比較的大型のサイズである、及び/又は脱オートクレーブプロセスを用いて製造された場合であっても、少なくとも部分的に、著しく低い(<1%)ボイド含有量を有する硬化された繊維強化複合材料を形成することが可能となる理由であると考えられる。
【0064】
図3は、本発明のある特定の態様に従う、真空コンディショニングの前後での代表的なプリプレグシートの表面の写真を示す。したがって、図3Aは、前駆体プリプレグシート表面の写真であり、表面が、そのような表面に露出された熱可塑性樹脂粒子がほとんどなく比較的平滑であることを示している。加えて、強化繊維層もほとんど視認されない。真空コンディショニングの後(真空オーブン中、50℃で1時間)、前駆体プリプレグシートは、図3Bに示されるように本発明に従うプリプレグシートに変換される。熱可塑性樹脂粒子は、プリプレグシートの外面に非常により多く露出されており、それによって、前駆体プリプレグシートの表面と比較して表面が粗化されている。さらに、下地の繊維層も、真空コンディショニングの結果として、より大きい度合いで露出されている。
【0065】
本発明に従うプリプレグシートは、強化繊維層を熱硬化性樹脂組成物で含浸(部分的に又は完全に)することによって得られる前駆体プリプレグシートに真空(すなわち、準大気圧)を適用することによって製造することができる。本発明の様々な態様によると、前駆体プリプレグシートに適用される真空は、0.5MPa以下、0.4MPa以下、0.3MPa以下、0.2MPa以下、0.1MPa以下、又は0.05MPa以下であってよい。他の実施形態では、適用される真空は、0.005MPa以上、0.01MPa以上、又は0.02MPa以上であってよい。本発明の1つの態様では、前駆体プリプレグシートは、0.01MPa~0.1MPaの真空にさらされる。適用される真空は、コンディショニング工程全体を通して一定であってよい、又はコンディショニング工程の間に変動されてよい。例えば、最初に適用される真空は比較的低くてよく、続いて高められてよい(連続的に又は段階的に)。
【0066】
コンディショニング時の前駆体プリプレグシートの温度は、例えば、周囲温度(室温)、又は通常の室温よりもある程度高い温度であってもよい。例えば、コンディショニング温度は、少なくとも15℃、少なくとも20℃、若しくは少なくとも25℃、及び/又は100℃以下、90℃以下、80℃以下、70℃以下、若しくは60℃以下であってよい。1つの態様によると、温度は、20℃~80℃である。コンディショニング時の前駆体プリプレグシートの温度は、一定に保持されてよい、又は勾配状若しくは段階的に変動されてよい(例えば、コンディショニング温度は、最初は比較的低く、続いて経時で上昇されてよい)。
【0067】
本発明のある特定の実施形態によると、前駆体プリプレグシートは、熱硬化性樹脂組成物の最低粘度温度よりも20℃~80℃低い温度でコンディショニングされる。
【0068】
一般的に述べると、前駆体プリプレグシートは、前駆体プリプレグシートに所望される特性を付与するのに有効である時間(すなわち、特性a)~d)のうちの少なくとも1つを有するプリプレグシートを得るのに有効である時間)にわたって真空及び温度条件にさらされる。そのような時間は、当然、コンディショニング圧力、コンディショニング温度、前駆体プリプレグシートの製造に用いられる成分などを含むいくつかの変数に依存することになるが、通常の手順の試験によって容易に決定され得る。例えば、前駆体プリプレグシートのサンプルは、予め選択された圧力及び温度条件にさらされてよく、個々のサンプルは、次に、目標の特性(例:平均表面粗さ)が達成されたかどうかを確認するために、ある特定の時間間隔で評価される。典型的には、0.1時間~24時間のコンディショニング時間が適切である。ある特定の実施形態によると、前駆体プリプレグシートのコンディショニングは、以下のパラメータに従って行われる:20℃~80℃の温度、0.1時間~24時間の時間、及び0.01MPa~0.1MPaの真空。
【0069】
コンディショニングは、真空チャンバー又は真空オーブンなどの適切ないかなる装置中で行われてもよい。個々の前駆体プリプレグシートがコンディショニングされてよい。別の選択肢として、前駆体プリプレグシートのスタックが形成されてよく、続いて、所望される特性をそのようなシートに付与するのに有効である条件にさらされてよい。
【0070】
一般的に述べると、真空度の上昇及び/又はコンディショニング温度の上昇は、本発明のプリプレグに付随する特性のより早い達成に繋がる。
【0071】
透過率は、材料(積層体ボディ又はプリプレグスタック)の、その材料中に気体(空気)を通過させる状態として表すことができる。比較的高い度合いの透過率は、大型で複雑な構造が、例えば、低ボイド含有量などのパーツ品質に高い一貫性を呈することを可能とし得、さらに、アウトタイム及び保存安定性も改善され得る。積層体ボディの透過率が比較的低い場合、デバルキング(de-bulking)時のトラップされた空気又は揮発性物質の除去に必要な時間が長くなることから、プロセス時間が長くなり得、効率の悪い製造方法の原因となる可能性がある。
【0072】
本発明の少なくともある特定の態様では、熱可塑性樹脂の粒子は、プリプレグの表面部分に局所的に提供される。言い換えると、多量の上述した熱可塑性樹脂粒子を有する層が、プリプレグの少なくとも1つの表面上に存在してよく、この場合、熱可塑性樹脂粒子は、プリプレグを断面から観察した場合に局所的に存在することが明らかに識別可能である。この層は、積層体ボディ(プリプレグスタック)中、並びに積層体ボディ(プリプレグスタック)を硬化及び成形することによって得られる繊維強化複合材料中のプリプレグの隣接する層間に存在することから、以降、層間成形層とも称される。それによって、プリプレグが重ね合わされ、マトリックス樹脂が硬化されて繊維強化複合材料が形成された場合、上述した熱可塑性樹脂粒子が局所的に存在する層間層が、強化繊維層間に形成される。この特徴は、強化繊維層間の靭性を高めるように働き、得られる繊維強化複合材料は、高度の耐衝撃性を有することになる。さらに、既に説明したように、プリプレグは、そのような層間成型層中に存在する熱可塑性樹脂粒子をそのような層から突出させる又はそうでなければそのような層から拡げるのに有効である方法でコンディショニングされてよく、それによって、プリプレグの表面が粗化され、プリプレグスタック中のプリプレグの隣接するシート間に、硬化時に揮発性物質の除去を促進する層間通気経路が提供され、そのことは、得られる硬化された繊維強化複合体のボイド含有量を低下させる補助となる。
【0073】
本明細書で述べる望ましい特性のうちの1又は複数を有するプリプレグシートは、既に述べた真空コンディショニング技術以外の方法によって製造されてもよい。そのような別の選択肢としての方法としては、例えば、繊維層を含浸するために用いられる熱硬化性樹脂組成物の粘度を制御して樹脂を繊維床中に沈ませ、それによって熱可塑性樹脂粒子をプリプレグの表面により多く露出されることが挙げられ得る。繊維床(繊維層)中に樹脂を沈ませ、熱可塑性樹脂粒子を露出させるのに適する温度範囲は、熱硬化性樹脂組成物の最低粘度温度よりも、好ましくは20℃~80℃、より好ましくは20℃~50℃、なおより好ましくは20℃~40℃、最も好ましくは20℃~30℃低い温度範囲である。これによって、熱硬化性樹脂組成物の反応を開始することなく、樹脂を繊維床中に沈ませ、熱可塑性樹脂粒子を露出させることが可能となる。熱可塑性樹脂粒子の露出度も、適切な脱オートクレーブ加工のための重要なパラメータである。熱可塑性樹脂粒子の露出が過剰である場合、プリプレグシートの表面タック性が低下し、プリプレグシートのレイアップ時の取り扱いがより困難となる。
強化繊維
本発明で用いられる強化繊維の種類に特に限定又は制限はなく、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、アラミド繊維、ホウ素繊維、アルミナ繊維、及び炭化ケイ素繊維を含む広範な繊維が用いられてよい。炭素繊維は、特に軽量で堅いFRP材料を提供し得る。例えば、180から800GPaの引張弾性率を有する炭素繊維が用いられてよい。180から800GPaの高い弾性率を有する炭素繊維が熱硬化性樹脂組成物と組み合わされてプリプレグが得られる場合、スチフネス、強度、及び耐衝撃性の望ましいバランスが、そのようなプリプレグから製造されたFRP材料で実現され得る。
【0074】
強化繊維の形態に対して特に限定又は制限はなく、例えば、長繊維(一方向に延伸)、トウ、布、マット、ニット、組紐、及び短繊維(10mm未満の長さに切断)を含む様々な形態の繊維が用いられてよい。ここで、長繊維とは、少なくとも10mmにわたって実質的に連続している単繊維又は繊維束を意味する。他方、短繊維とは、10mm未満の長さに切断された繊維束である。強化繊維束が同じ方向に整列された繊維構成は、高い比強度及び比弾性率が必要とされる用途に適し得る。
熱硬化性樹脂組成物
本発明のプリプレグシートは、熱硬化性樹脂組成物で含浸されている。適切な熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも1つの熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂粒子、及び所望に応じて、硬化剤、熱硬化性樹脂中に溶解された熱可塑性樹脂などの1又は複数の追加成分を含む。
【0075】
本発明で用いられる熱硬化性樹脂組成物の30℃での初期粘度は、長いアウトタイム加工(例えば、20日間のアウトタイム)及び保存安定性を維持するために室温で必要とされる積層体ボディの透過性を最大化する目的で、好ましくは、20000~140000Pa・sであり、最も好ましくは、20000~130000Pa・sである。30℃での粘度が低過ぎる場合、樹脂の流れが通気経路の早過ぎる閉鎖を起こし得る可能性があり、得られる繊維強化複合材料中の高いボイド含有量が引き起こされ、このことは、プリプレグのアウトタイム性能を低下させることになる。30℃での粘度が高過ぎる場合、改善された透過性が実現され得るが、硬化時の樹脂の流れが制限されて、コンソリデーションプロセスが妨げられる可能性があり、それによって、高いボイド含有量がもたらされる。
【0076】
約130℃での熱硬化性樹脂組成物の粘度は、好ましくは0.1~15Pa・s、より好ましくは0.3から10Pa・s、最も好ましくは0.5~10Pa・sである。約130℃での粘度が低過ぎる場合、マトリックス樹脂の流量が高過ぎて、硬化プロセス時に積層体ボディからの樹脂のブリードアウトが引き起こされ得る。さらに、得られる繊維強化複合材料において所望される樹脂分率を実現することができず、プリプレグ中のマトリックス樹脂の流量が不充分となり、得られる繊維強化複合材料中に望ましくないほどに高い含有量のボイドが存在することになる可能性がある。約130℃での粘度が高過ぎる場合、プリプレグ中のマトリックス樹脂の流量が低くなり、積層体ボディのコンソリデーションプロセスが早期に終了する原因となる可能性があり、このことは、得られる繊維強化複合材料中の高いボイド含有量に繋がる可能性が高い(複合材料の機械的特性が損なわれる)。
【0077】
硬化されたマトリックス樹脂のガラス転移温度は、繊維強化複合材料の耐熱性に影響を与える。熱硬化性樹脂組成物の硬化生成物は、高いガラス転移温度を有することが好ましい。具体的には、得られる硬化された熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度は、少なくとも200℃であることが好ましい。
【0078】
本発明で用いられる熱硬化性樹脂組成物の製造では、ニーダー、プラネタリーミキサー、三本ロールミル、二軸押出機などが有利には用いられてよい。2つ以上のエポキシ樹脂又は他の熱硬化性樹脂が用いられる場合、熱硬化性樹脂が装置に配置された後、エポキシ樹脂を均一に溶解するために、この混合物は、撹拌しながら60~160℃の範囲内の温度に加熱される。このプロセスの過程で、硬化剤を除く他の成分(例:熱可塑性樹脂、無機粒子)がエポキシ樹脂に添加されて、エポキシ樹脂と共に混練されてよい。その後、混合物は、撹拌しながら、いくつかの実施形態では100℃以下、他の実施形態では80℃以下の温度まで冷却され、続いて硬化剤が添加され、これらの成分を分散させるために混練される。この方法を用いることで、非常に優れた保存安定性を有する熱硬化性樹脂組成物が得られ得る。
熱硬化性樹脂
本発明で有用である熱硬化性樹脂は、本明細書において、熱の適用によって自己硬化して、又は外部からのエネルギー源(例:熱、光、マイクロ波などの電磁波、UV、電子ビーム、又は他の適切な方法)の供給によって硬化剤若しくは架橋化合物と共に硬化されて、必要とされる樹脂弾性率を有する三次元架橋網目構造を形成することができるいずれかの樹脂として定義され得る。2つ以上の異なる熱硬化性樹脂の混合物又はブレンドが用いられてもよい。熱硬化性樹脂は、限定されないが、エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、エステル樹脂、ビニルエステル樹脂、シアネートエステル樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ビスマレイミド-トリアジン樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、レゾルシノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリウレタン、及びこれらの混合物から選択され得る。
【0079】
強度、歪、弾性率、及び耐環境影響性の極めて優れたバランスの観点から、一官能性、二官能性、及び高官能性(又は多官能性)のエポキシ樹脂並びにこれらの混合物を含むエポキシ樹脂の使用が有利であり得る。多官能性エポキシ樹脂が、非常に優れたガラス転移温度(Tg)、弾性率、及び強化繊維への高い接着性さえも提供することから、好ましくは選択される。これらのエポキシは、アミン(例:ジアミン及び少なくとも1つのアミン基と少なくとも1つのヒドロキシル基とを含有する化合物を用いて製造されたエポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、及びテトラグリシジルキシリレンジアミン、並びにこれらの異性体など)、フェノール(例:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールR型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、及びレゾルシノール型エポキシ樹脂)、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェノール)メタンベースのエポキシ(Huntsman製Tactix(登録商標)742)、グリオキサールフェノールノボラックのテトラグリシジルエーテル、フルオレンベースのエポキシ、イソシアネート変性エポキシ樹脂、及び炭素-炭素二重結合を有する化合物(例:脂環式エポキシ樹脂)などの前駆体から製造される。エポキシ樹脂が、上記の例に限定されないことには留意されたい。これらのエポキシ樹脂をハロゲン化することによって製造されるハロゲン化エポキシ樹脂が用いられてもよい。さらに、これらのエポキシ樹脂の2つ以上と、グリシジルアニリン、グリシジルトルイジン、又は他のグリシジルアミン(特に、グリシジル芳香族アミン)などの1つのエポキシ基を有する化合物(すなわち、モノエポキシ化合物)との混合物が、熱硬化性樹脂マトリックスの製剤に用いられてもよい。
【0080】
市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂製品の例としては、jER(登録商標)825、jER(登録商標)828、jER(登録商標)834、jER(登録商標)1001、jER(登録商標)1002、jER(登録商標)1003、jER(登録商標)1003F、jER(登録商標)1004、jER(登録商標)1004AF、jER(登録商標)1005F、jER(登録商標)1006FS、jER(登録商標)1007、jER(登録商標)1009、jER(登録商標)1010(これらは三菱ケミカル株式会社製)、並びにEPON(登録商標)825及びEPON(登録商標)828(Momentive製)が挙げられる。市販の臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂製品の例としては、jER(登録商標)505、jER(登録商標)5050、jER(登録商標)5051、jER(登録商標)5054、及びjER(登録商標)5057(これらは三菱ケミカル株式会社製)が挙げられる。市販の水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂製品の例としては、ST5080、ST4000D、ST4100D、及びST5100(これらは新日鉄化学株式会社製)が挙げられる。
【0081】
市販のビスフェノールF型エポキシ樹脂製品の例としては、jER(登録商標)806、jER(登録商標)807、jER(登録商標)4002P、jER(登録商標)4004P、jER(登録商標)4007P、jER(登録商標)4009P、及びjER(登録商標)4010P(これらは三菱ケミカル株式会社製)、並びにEpotohto(登録商標)YDF2001、Epotohto(登録商標)YDF2004(これらは新日鉄化学株式会社製)、並びにEPON(登録商標)830(大日本インキ化学工業株式会社製)が挙げられる。市販のテトラメチル-ビスフェノールF型エポキシ樹脂製品の例は、YSLV-80XY(新日鉄化学株式会社製)である。
【0082】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂の例は、Epiclon(登録商標)EXA-154(DIC株式会社製)である。
【0083】
市販のテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂製品の例としては、Sumiepoxy(登録商標)ELM434(住友化学株式会社製)、YH434L(新日鉄化学株式会社製)、jER(登録商標)604 (三菱ケミカル株式会社製)、並びにAraldite(登録商標)MY720、MY721、及びMY722(Huntsman Advanced Materials製)が挙げられる。市販のトリグリシジルアミノフェノール又はトリグリシジルアミノクレゾール樹脂製品の例としては、Sumiepoxy(登録商標)ELM100(住友化学株式会社製)、Araldite(登録商標)MY0500、MY0510、及びMY0600、MY0610 (これらはHuntsman Advanced Materials製)、並びにjER(登録商標)630(三菱ケミカル株式会社製)が挙げられる。市販のテトラグリシジルキシリレンジアミン製品及びその水素化製品の例としては、TETRAD-X及びTETRAD-C(これらは三菱ガス化学株式会社製)が挙げられる。
【0084】
市販のフェノールノボラック型エポキシ樹脂製品の例としては、jER(登録商標)152及びjER(登録商標)154(これらは三菱ケミカル株式会社製)、並びにEpiclon(登録商標)N-740、N-770、及びN-775(これらはDIC株式会社製)が挙げられる。
【0085】
市販のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂製品の例としては、Epiclon(登録商標)N-660、N-665、N-670、N-673、及びN-695(これらはDIC株式会社製)、並びにEOCN-1020、EOCN-102S、及びEOCN-104S(これらは日本化薬株式会社製)が挙げられる。
【0086】
市販のレゾルシノール型エポキシ樹脂製品の例は、Denacol(登録商標)EX-201(ナガセケムテックス株式会社製)である。
【0087】
市販のナフタレン型エポキシ樹脂製品の例としては、HP-4032、HP4032D、HP-4700、HP-4710、HP-4770、HP-5000、EXA-4701、EXA-4750、及びEXA-7240(これらはDIC株式会社製)、並びにMY0816(Huntsman製)が挙げられる。
【0088】
市販のジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂製品の例としては、Epiclon(登録商標)HP7200、HP7200L、HP7200H、及びHP7200HH(これらはDIC株式会社製)、Tactix(登録商標)558(Huntsman Advanced Material製)、並びにXD-1000-1L及びXD-1000-2L(これらは日本化薬株式会社製)が挙げられる。
【0089】
市販のビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂製品の例としては、jER(登録商標)YX4000H、YX4000、及びYL6616(これらは三菱ケミカル株式会社製)、並びにNC-3000(日本化薬株式会社製)が挙げられる。
【0090】
市販のイソシアネート変性エポキシ樹脂製品の例としては、AER4152(旭化成エポキシ株式会社製)、及びACR1348(株式会社ADEKA製)が挙げられ、これらの各々は、オキサゾリドン環を有する。
【0091】
適切なエポキシ樹脂は、室温(23℃)で固体、半固体、又は液体であってよい。固体、半固体、及び/又は液体エポキシ樹脂の混合物が用いられてもよい。
【0092】
適切な他の種類のエポキシ樹脂としては、GAN(日本化薬株式会社製)などのグリシジルアニリン、GOT(日本化薬株式会社製)などのグリシジルトルイジン、及びAraldite(登録商標))MY9655(Huntsman Advanced Materials)などのテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンが挙げられる。
熱可塑性樹脂粒子
1又は複数の熱可塑性樹脂の粒子が、熱硬化性樹脂、及び所望に応じて硬化剤などの1又は複数の他の成分と共に、熱硬化性樹脂組成物中に用いられる。そのような粒子の形状及び形態は、特に限定されない。例えば、粒子は、粉末及び/又は繊維の形態であってよい。熱可塑性樹脂粒子の形状又は形態は、球状、非球状、多孔性、中実、中空、針形状、ウィスカー形状、又はフレーク形状であってもよい。
【0093】
熱可塑性樹脂繊維が用いられる場合、そのような繊維は、短繊維又は長繊維であってよい。短繊維の場合、特開平02-69566(A)号に記載のように粒子と同様に繊維を用いる方法、又はマットでの加工方法が可能である。長繊維の場合、特開平04-292634(A)号に記載のようにプリプレグの表面上に水平方向に長繊維を配向する方法、又は国際公開第94016003(A)号に記載のように繊維をランダムに配向する方法が用いられ得る。さらに、繊維は、特開平02-32843(A)号に記載のように織布などの、又は国際公開第94016003(A)号に記載のように不織材若しくは編布などのシート型の基材として加工され、用いられてもよい。さらに、短繊維チップ、チョップドストランド、ミルドファイバー、及び短繊維が、スレッドとして紡糸され、次に水平方向に又はランダムに配向されて織布又は編布が形成される方法が用いられてもよい。
【0094】
熱可塑性樹脂粒子は、繊維層を含浸してプリプレグを形成するのに用いられる熱硬化性樹脂組成物の他の成分と組み合わされた場合に、それらが25℃で熱硬化性樹脂中に溶解せず、むしろ個別の粒子として維持されるように選択されるべきである。1又は複数の熱可塑性樹脂に加えて、粒子は、フィラー、安定剤などの熱可塑性樹脂に典型的に用いられるいずれの添加剤も含む1又は複数の追加成分を含んでいてもよい。
【0095】
好ましくは、熱可塑性樹脂粒子の粒子サイズは、5ミクロン~50ミクロンの範囲内である。特に、熱可塑性樹脂粒子の粒子サイズ分布は、レーザー回折散乱法、及び合計体積を100%として特定される積算曲線によって測定されてよく、90%の積算曲線を有する熱可塑性樹脂粒子の粒子径が、5~50ミクロンである。より具体的には、得られるプリプレグを脱オートクレーブ加工に特に適するようにするために、粒子径サイズは、5~25ミクロンであることが好ましい。OOA硬化プロセスの過程で、一般的には、樹脂の流れがプリプレグ中のギャップを埋めることが必要とされる。熱可塑性樹脂粒子が大き過ぎると(粒子サイズ>25ミクロン)、そのような樹脂の流れを妨げる可能性があり、高ボイド含有量を有する積層体が製造されるなどの問題が起こり得る。
【0096】
熱可塑性樹脂粒子の熱可塑性樹脂は、結晶性であっても、又はアモルファスであってもよい。詳細には、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、及びポリベンズイミダゾールから成る群より選択される少なくとも1つの種類の熱可塑性樹脂が、熱可塑性樹脂粒子を形成するために用いられる。ポリアミド粒子が、本発明での使用のために特に好ましい。ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン6、ナイロン6/12コポリマー、及び特開平01-104624号の実施例1に開示されているセミIPN(相互侵入高分子網目構造)を有するようにエポキシ化合物で修飾されたナイロン(セミIPNナイロン)は、エポキシ樹脂と組み合わされて、特に良好な接着強度を付与し、ナイロン6/12コポリマーは、熱硬化性樹脂組成物に特に好ましい接着強度を付与する。
【0097】
熱可塑性樹脂粒子の量は、好ましくは、プリプレグシートの総重量に対して20重量%以下であり、及び/又は、好ましくは、プリプレグシートの総重量に対して1重量%以上である。熱硬化性樹脂組成物は、より好ましくは、5重量%~15重量%の熱可塑性樹脂粒子の含有量を有する。
可溶性熱可塑性樹脂
本発明のある特定の態様によると、硬化された際にマトリックス樹脂の靭性を向上させ、同時に熱硬化性樹脂組成物の粘度を制御して長いアウトタイム及び保存条件時のプリプレグの透過性を改善するなどの改善効果を提供する目的で、熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも1つの熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂粒子に加えて、熱硬化性樹脂中にブレンドされ、溶解された少なくとも1つの熱可塑性樹脂(以降、「可溶性熱可塑性樹脂」と称する場合がある)を含んでよい。さらに、可溶性熱可塑性樹脂は、結晶性であっても、又はアモルファスであってもよい。詳細には、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、及びポリベンズイミダゾールから成る群より選択される少なくとも1つの種類の可溶性熱可塑性樹脂が用いられる。これらの可溶性熱可塑性樹脂は、市販のポリマーであってよい、又は市販のポリマーよりも低い分子量を有するいわゆるオリゴマーであってもよい。
【0098】
10000から70000g/molの数平均分子量を有する可溶性熱可塑性樹脂が、好ましくは用いられ、より好ましくは、20000から60000g/mol、最も好ましくは、40000から60000g/molである。好ましい範囲内の数平均分子量を有する熱可塑性樹脂が用いられ、熱硬化性樹脂中に溶解される場合、プリプレグのプロセスが損なわれない限りにおいて、多量の可溶性熱可塑性樹脂が組込まれてよい。その結果、プリプレグから得られる硬化された繊維強化複合材料で、良好な樹脂流れ、高い靭性、及び高い引張強度を実現することができる。
【0099】
さらに、熱硬化性樹脂組成物中のこれらの可溶性熱可塑性樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂(例:エポキシ樹脂)の100重量部あたり、好ましくは5から30重量部、より好ましくは10から25重量部、最も好ましくは10から23重量部である。熱可塑性樹脂の配合量が低過ぎる場合、靭性が失われ得る可能性がある。熱可塑性樹脂の配合量が高過ぎる場合、靭性は改善され得るが、樹脂粘度の著しい上昇に起因して加工性が失われる可能性があり、極端な加工条件の原因となる。
【0100】
適切な可溶性熱可塑性樹脂としては、例えば、47000g/molの数平均分子量を有する「スミカエクセル(登録商標)」PES5003P(住友化学株式会社製)などの末端ヒドロキシル基を有するポリエーテルスルホンが挙げられる。
硬化剤
熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂を硬化することができる1つ以上の硬化剤を含有していてよく、含有していることが好ましい。エポキシ樹脂用の硬化剤は、エポキシ基と反応することができる活性基を有するいかなる化合物であってもよい。例えば、少なくとも1つのアミノ基、酸無水物基、又はアジド基を有する化合物が、硬化剤として適している。硬化剤のより具体的な例としては、ジアミノジフェニルスルホンの様々な異性体、アミノ安息香酸エステル、様々な種類の酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオウレアアダクトアミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、及び他のカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタン、並びに三フッ化ホウ素エチルアミン複合体、及び他のルイス酸複合体などが挙げられる。これらの硬化剤は、単独で、又は組み合わせて用いられてもよい。
【0101】
芳香族ジアミンを硬化剤として用いることにより、好ましい耐熱性を有する硬化された樹脂が得られ得る。特に、ジアミノジフェニルスルホンの様々な異性体は、好ましい耐熱性を有する硬化された樹脂を提供することから、最も適している。添加される芳香族ジアミン硬化剤の量は、好ましくは、化学量論的当量(エポキシ樹脂のエポキシ含有量に対して)であるが、場合によっては、およそ0.7~1.0の当量比(硬化剤:エポキシ)を用いることによって、高い弾性率を有する硬化された樹脂が得られ得る。
【0102】
硬化されたマトリックス樹脂のガラス転移温度は、繊維強化複合材料の耐熱性に影響を与える。本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化生成物は、高いガラス転移温度を有することが好ましい。具体的には、得られる硬化された材料のガラス転移温度は、少なくとも200℃であることが好ましい。
プリプレグシートの使用
本発明のプリプレグシートは、成形、硬化されて繊維強化複合材料及び物品を提供する積層体ボディ(プリプレグスタック)の製造に有用である。そのような積層体ボディは、属性a)~d):
a)プリプレグシートの外面の少なくとも一方が、3μm~8μmの平均表面粗さRを有すること;
b)プリプレグシートの外面の少なくとも一方が、20%~80%の熱可塑性粒子露出率を有すること;
c)複数プライにレイアップされた場合、プリプレグシートは、プリプレグシートの平面に対して平行である方向の積層体長さ方向の気体透過率が、積層体長さ1mにおいて5.5×10-14超であるプリプレグスタックを提供すること;
d)Bが、積層体長さ1mでのプリプレグシートの平面に対して平行である方向の積層体長さ方向の気体透過率であり、Aが、プリプレグシートの平面に対して平行である方向の面内気体透過率である場合、複数プライのプリプレグシートをレイアップすることによって得られるプリプレグスタックが呈するB/Aの比は、少なくとも0.5であること、
のうちの1又は複数を有するようにプリプレグシートを修飾することによって作り出された、プリプレグシート間の1又は複数の透過性経路(層間通気経路)を有する。
【0103】
本発明に従うプリプレグシートは、自動レイアップ法を用いた繊維強化複合材料及び構造の製造に特に有用である。そのような自動レイアップ法は、生産率の向上及び大型構造の製造の促進を目的として、産業界においてますます利用されつつある。本発明のプリプレグシートは、例えば、自動繊維配置(AFP)及び自動テープレイアップ(ATL)などの製造技術を利用して用いることができる。
【0104】
本発明に従うプリプレグシートは、繊維強化複合材料及び構造を形成するための脱オートクレーブ手順での使用にも適している。一般的に述べると、そのような方法は、オートクレーブを用いることなく、真空ポンプ及びオーブンのみを用いてプリプレグスタック(積層体ボディ)を成形及び硬化して繊維強化複合材料及び構造を提供することを含むとして記載することができる。繊維強化複合材料を製造する従来の方法は、オートクレーブなどを用いる熱圧成形であるが、そのような方法は、高い成形コスト、大型成形設備が必要であること、及び設備のために成形サイズが制限されること、などのいくつかの欠点が認識されている。本発明のプリプレグシートは、したがって、そのような問題を避けるための方法を提供する。本発明の1つの態様によると、繊維強化複合材料を製造するための方法は、本発明のプリプレグシートをレイアップすること、並びに真空ポンプ及びオーブンを用いてプリプレグシートを成形すること、を含む。例えば、そのような方法は、本発明のプリプレグシートをレイアップすること、及びプリプレグシート(例えば、プリプレグスタックの形態)を成形すること、を含んでよく、成形は、約20~約50℃の温度、及び約10kPa以下の真空度(ここで、真空度とは、完全真空を基準とする絶対圧を意味する)で脱気すること、並びに約10kPa以下の真空度を維持した状態で、温度を硬化温度(例:プリプレグシート中に存在する熱硬化性樹脂組成物の硬化を実現するのに有効である温度、典型的には約60℃~約180℃)まで上昇させることによって硬化すること、を含む。
【0105】
加熱は、オーブン、オートクレーブ、又はプレスなどの装置を用いて行われてよい。低コストの観点から、オーブンが好ましく用いられる。本発明のプリプレグが、オーブン中で加熱、硬化される場合、複数のプライ(プリプレグシート)をレイアップすることによって積層体が形成され、積層体(プリプレグスタック)がバッグに入れられて、20~50℃の温度で、バッグ内部の真空度を11kPa以上として脱気され、真空度を好ましくは11kPa以上に維持した状態で、温度が硬化温度(例:60℃~180℃)まで上昇される、という成形法が用いられる。真空度が11kPa未満である場合、プリプレグ中のマトリックス樹脂の流れが不充分となり得る。その結果、プリプレグの硬化時に未含浸強化繊維がマトリックス樹脂(熱硬化性樹脂組成物)によって含浸されない可能性があり、したがって、得られる繊維強化複合材料中に多くのボイドが発生し得る。本明細書において、脱気は、真空度が、好ましくは0.1kPa~11kPa、より好ましくは0.1kPa~7kPaである条件で行われることが好ましい。本発明のある特定の実施形態では、硬化温度は、120~200℃、より好ましくは130~180℃である。硬化温度が低過ぎると、硬化時間が長くなり、高コストに繋がり得る。しかし、硬化温度が高過ぎると、硬化温度から室温への冷却時に、過剰な熱収縮が発生する場合があり、得られる繊維強化複合材料の機械的特性が劣るものになる可能性がある。
【0106】
初期温度から硬化温度まで温度を上昇させる際、温度は、硬化温度まで一定の速度で上昇されてよい、又は温度は、決められた時間にわたって中間滞留温度で維持され、その後硬化温度まで上昇されてよい。このように、決められた時間にわたって中間温度が維持され、その後温度が硬化温度まで上昇される硬化方法は、ステップ硬化と称される。ステップ硬化時、決められた時間にわたって維持される温度は、例えば、60~160℃、又は80~150℃、又は90~140℃であってよい。このように、決められた時間にわたって中間温度を維持することにより、マトリックス樹脂の充分な流れによってプリプレグの確実なコンソリデーションを補助することができ、必要とされる時間が確保される。したがって、コンソリデーションプロセスを妨げる因子であるプリプレグからの揮発性成分及びプリプレグシートのレアップ時にトラップされた空気を、効率的に除去することができる。決められた時間にわたって維持される温度が低過ぎると、プリプレグスタック中のマトリックス樹脂の流れが少な過ぎる可能性があり、未含浸の強化繊維が樹脂によって充分に含浸されない可能性があり、したがって、コンソリデーションプロセスの終了が早過ぎることが起こり得る。決められた時間にわたって維持される温度が高過ぎると、マトリックス樹脂からの揮発成分の量が大きく増える可能性があり、このことも、コンソリデーションプロセスを妨げ得る。
【0107】
本明細書中において、明確で簡潔な明細書の作成が可能となる方法で実施形態を記載してきたが、実施形態は、本発明から逸脱することなく、様々に組み合わされ、又は分離され得ることを意図しており、そのことは理解される。例えば、本明細書で述べるすべての好ましい特徴は、本明細書で述べる本発明のすべての態様に適用可能であることは理解される。
【0108】
いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書において、プリプレグ、プリプレグを用いるプロセス、又はプリプレグを用いて作製された物品の基礎的で新規な特徴に実質的に影響を与えることのないいずれの要素又はプロセス工程も除外するものとして解釈され得る。加えて、いくつかの実施形態では、本発明は、本明細書において指定されないいずれの要素又はプロセス工程も除外するものとして解釈され得る。
【0109】
本発明は、本明細書において特定の実施形態を参照して説明され、記載されるが、本発明は、示される詳細事項に限定されることを意図するものではない。そうではなく、請求項の均等物の範囲内で、本発明から逸脱することなく、詳細事項に様々な改変が行われてもよい。
【実施例
【0110】
表1(比較例)及び表2(実施例)は、例で記載するプリプレグの製造に用いた成分に関するいくつかの詳細事項、さらにはプリプレグ及びそれから得た繊維強化複合体の特性を示す。
実施例1、4、及び7、並びに比較例1~3
実施例1、4、及び7、並びに比較例1~3は、各々、27.5重量部のPES5003P ポリエーテルスルホンをニーダー中で60重量部のAraldite(登録商標)MY9655及び40重量部のEpon(登録商標)825とEpon(登録商標)830との混合物に添加、溶解し、次に、硬化剤として45重量部のAradur(登録商標)9664-1 4,4’-DDSを加えて混練することで作製した前駆体プリプレグシートを用いた。この後、15重量部の5~50ミクロンサイズのポリアミド熱可塑性樹脂粒子(東レ株式会社製)を添加し、混練して、熱硬化性樹脂組成物を製造する。こうして製造した熱硬化性樹脂組成物をナイフコーターを用いて離型紙に塗布して、52.0g/mの樹脂フィルムを2枚製造した。次に、前述の製造した2枚の樹脂フィルムを、密度1.8g/cmでシートの形態の一方向に配向された炭素繊維(T800S-24K-10E)の両面に重ね合わせ、ローラー温度110℃~130℃及びローラー圧力0.10MPa~0.40MPaを用いて熱硬化性樹脂組成物を炭素繊維のシートに含浸させて(比較例1及び実施例7は、ローラー温度130℃及びローラー圧力0.40MPaを用い、比較例2及び実施例4は、ローラー温度120℃及びローラー圧力0.3MPaを用い、比較例3及び実施例1は、ローラー温度110℃及びローラー圧力0.1MPaを用いた)、炭素繊維の単位面積重量が190g/mでありマトリックス樹脂の重量分率が35%である一方向プリプレグを製造した。実施例7及び比較例1、実施例4及び比較例2、並びに実施例1及び比較例3はすべて、ローラー温度及びローラー圧縮圧力の違いによって定められるように、異なる含浸レベルを有している。含浸レベルは、それぞれ実施例7、4、及び1、並びに比較例1~3に対応する2%、4%、及び7%である吸水率レベルとして定められる。実施例7、4、及び1の前駆体プリプレグシートに対して、真空オーブン中、10kPa以下の真空圧及び22℃の真空温度で180分間にわたってコンディショニングする追加の工程を施し、3.5ミクロンの表面粗さ及び20.5%の粒子露出度を得た。
【0111】
前述のプリプレグの35プライを室温でレイアップすることによって、幅1m×長さ1mの積層体ボディ(プリプレグスタック)を作製し、以下で定めるように、真空容器にそれを入れて約0.1kPaの真空度を用いて室温で3時間脱気することによる真空バッグのみのプロセスを用いて成形した。脱気完了後、積層体ボディを1.7℃/分の速度で室温から120℃とし、120℃で120分間保持し、その後、最終的に1.7℃/分の速度で180℃として120分間硬化して、コンソリデーションされた繊維強化複合体を得た。
【0112】
2ミクロンの表面粗さ及び0%の熱可塑性樹脂粒子露出度を有するプリプレグを得た比較例1~3と比較すると、実施例は、面内気体透過率(A)及び1mでの積層体長さ方向の気体透過率(B)の両方における改善を示した。0m及び1mでの気体透過率の比(比=B/A)は、含浸レベル(吸水率)に関わらず0.03~0.25から0.71~0.85に改善している。より重要なことには、実施例の面積1mのパネルにおけるボイド含有量は、硬化された複合積層体で1%未満であったが、一方比較例では、すべての場合において2%超のボイド含有量を有する硬化された複合積層体が得られた。
実施例4、5、及び6、並びに比較例4
これらの例はすべて、4%のプリプレグ含浸レベル(吸水率)を有している。実施例4、5、及び6の前駆体プリプレグシートを、およそ0.1kPaの真空圧及び22℃~70℃のオーブン温度の真空オーブン中、60分~960分の真空時間でコンディショニングする(実施例4-22℃の温度で180分、実施例5-22℃の温度で960分、及び実施例6-70℃の温度で60分)。これらの例における表面粗さ(Ra)の値は、比較例の場合の2ミクロンから、実施例4、5、及び6の場合の、それぞれ3.5ミクロン、6ミクロン、及び7.5ミクロンに変化した。熱可塑性樹脂粒子の露出率も、それぞれ20.5%、48.8%、及び78.7%に増加した。比較例4では、前駆体プリプレグシートを、真空圧0.1kPa、80℃で60分間にわたってコンディショニングし、表面粗さ(Ra)10ミクロン及び熱可塑性樹脂粒子露出度90%を得た。
【0113】
比較例4を実施例4、5、及び6と比較すると、すべての場合において、面内気体透過率(A)及び1mでの長さ方向の気体透過率(B)は、5.5×10-14超であり、0m及び1mの積層体長さでの気体透過率の比(B/A)は、各々の場合において、0.5超である。これらのすべての例において、大型パネルに対するボイド含有量は1%未満であるが、比較例4では、プリプレグ表面のタック性品質が大きく低下した。プリプレグ表面のタック性品質は、プリプレグ材料の良好に配置するために不可欠な特徴である。言い換えると、高い表面粗さ及び高い粒子露出度を有することは、脱オートクレーブ硬化プロセスのためには良いことであるが、プリプレグの取り扱い及び配置の性能は、大きく低下する。
実施例7、8、及び9、並びに比較例1
これらの例はすべて、2%のプリプレグ含浸レベル(吸水率)を有している。実施例7、8、及び9の前駆体プリプレグシートを、およそ0.1kPaの真空圧及び22℃~70℃のオーブン温度の真空オーブン中、60分~960分の真空時間でコンディショニングした(実施例7-22℃の温度で180分、実施例8-22℃の温度で960分、及び実施例9-70℃の温度で60分)。これらの例における表面粗さ(Ra)の値は、比較例の場合の2ミクロンから、実施例7、8、及び9の場合の、それぞれ3.5ミクロン、6ミクロン、及び7.5ミクロンに変化した。熱可塑性樹脂粒子の露出率も、それぞれ20.5%、48.8%、及び78.7%に増加した。比較例1では、前駆体プリプレグシートをコンディショニングしておらず、このため、粒子露出率は0%であり、表面粗さ(Ra)は2ミクロンである。
【0114】
比較例1を実施例7、8、及び9と比較すると、面内気体透過率(A)及び1mでの長さ方向の気体透過率(B)は、5.5×10-14超であり、0m及び1mの積層体長さでの気体透過率の比(B/A)は、実施例7、8、及び9の各々の場合において、0.5超である。他方、比較例1では、面内気体透過率(A)は、5.5×10-14未満であり、0m及び1mの積層体長さでの気体透過率の比(B/A)は、0.5未満であった。
実施例1、2、及び3、並びに比較例3
これらの例はすべて、7%のプリプレグ含浸レベル(吸水率)を有している。実施例1、2、及び3の前駆体プリプレグシートを、およそ0.1kPaの真空圧及び22℃~70℃のオーブン温度の真空オーブン中、60分~960分の真空時間でコンディショニングした(実施例1-22℃の温度で180分、実施例2-22℃の温度で960分、及び実施例3-70℃の温度で60分)。これらの例における表面粗さ(Ra)の値は、比較例の場合の2ミクロンから、実施例1、2、及び3の場合の、それぞれ3.5ミクロン、6ミクロン、及び7.5ミクロンに変化した。熱可塑性樹脂粒子の露出率も、それぞれ20.5%、48.8%、及び78.7%に増加した。比較例3では、前駆体プリプレグシートをコンディショニングしておらず、このため、粒子露出率は0%であり、表面粗さ(Ra)は2ミクロンである。
【0115】
比較例3を実施例1、2、及び3と比較すると、面内気体透過率(A)及び1mでの長さ方向の気体透過率(B)は、5.5×10-14超であり、0m及び1mの積層体長さでの気体透過率の比(B/A)は、実施例1、2、及び3の各々の場合において、0.5超である。他方、比較例3では、面内気体透過率(A)は、5.5×10-14未満であり、0m及び1mの積層体長さでの気体透過率の比(B/A)は、0.5未満であった。
実施例10、11、及び12、並びに比較例2及び5
これらの例はすべて、4%のプリプレグ含浸レベル(吸水率)を有していた。層間強化粒子(熱可塑性樹脂粒子)の量は、比較例2及び5において、それぞれ15重量部から20重量部に増加させた。これら比較例の両方で得たプリプレグは、まったく表面処理が行われていないことから(粗さ0ミクロン、及び粒子露出度0%)、面内気体透過率及び積層体長さ方向の気体透過率は、いずれも5.5×10-14未満である。実施例10、11、及び12の前駆体プリプレグシートのすべてを、およそ0.1kPaの真空圧及び22℃~70℃のオーブン温度の真空オーブン中、60分~960分の真空時間でコンディショニングした(実施例10-22℃の温度で180分、実施例11-22℃の温度で960分、及び実施例12-70℃の温度で60分)。これらの例における表面粗さ(Ra)は、比較例の場合の2ミクロンから、実施例2、5、及び8の場合の、それぞれ3.5ミクロン、6ミクロン、及び7.5ミクロンに変化した。熱可塑性樹脂粒子の露出度も、それぞれ20.5%、48.8%、及び78.7%に増加した。熱可塑性樹脂粒子含有量に関わらず、定められた真空条件を用いることで、表面粗さの量が向上し、類似の熱可塑性樹脂粒子露出度が観察されることが分かる。面内気体透過率及び積層体長さ方向の気体透過率の両方が増加し、長さ方向の気体透過率の面内気体透過率に対する比(B/A)は、0.5超である。実施例10、11、及び12において、大型パネル製造の場合のボイド率は、1%未満であった。
実施例5、並びに比較例6及び7
これらの例はすべて、4%のプリプレグ含浸レベル(吸水率によって測定された場合)を有している。プリプレグシートは、異なる粒子径を有する熱可塑性樹脂粒子を含有する。実施例5は、20ミクロンの粒子径を有する熱可塑性樹脂粒子を含有し、一方比較例6及び7は、それぞれ30ミクロン及び50ミクロンの粒子径を有する熱可塑性樹脂粒子を含有する。すべての例において、プリプレグシートを同じ方法でコンディショニングする。これらの前駆体プリプレグシートを、およそ0.1kPaの真空圧及び22℃の温度の真空オーブン中、960分間にわたってコンディショニングした。実施例5のプリプレグシートの表面粗さは、6ミクロンであり、比較例6及び7のプリプレグシートの表面粗さは、それぞれ6.3ミクロン及び6.7ミクロンであり、これらは、互いに同等であると見なされる。すべての比較例及び実施例は、面内気体透過率及び積層体長さ方向気体透過率の比を満たしている。表面粗さ及び積層体長さ方向気体透過率に関わらず、比較例6及び7の場合の積層体ボイド含有量は高く(1.1%及び1.3%)、実施例5の場合は低く(0.5%)、このことは、熱可塑性樹脂粒子の平均粒子サイズが積層体の品質に影響していることを示している。粒子径サイズが大き過ぎると、積層体の樹脂含有量が、積層体にとって充分ではなくなり、不充分な樹脂に起因して高いボイド含有量が引き起こされる。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
図1
図2
図3
図4