(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/463 20210101AFI20230620BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20230620BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20230620BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20230620BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20230620BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20230620BHJP
【FI】
H01M50/463 A
H01M50/417
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/451
H01M50/489
(21)【出願番号】P 2023501406
(86)(22)【出願日】2022-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2022047562
【審査請求日】2023-03-07
(31)【優先権主張番号】P 2021212047
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022111593
(32)【優先日】2022-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】林 健一
(72)【発明者】
【氏名】越前 絹似
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/187607(WO,A1)
【文献】特開2015-181110(JP,A)
【文献】特開2015-99787(JP,A)
【文献】特開2016-66629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に無機粒子を含む多孔層を有し、前記多孔層の表面に無機粒子を多数含む隆起部を有し、かつ130℃/1hにおける熱収縮率が0%以上2%以下である電池用セパレータ。
[多孔層表面の隆起部の定義]
レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)を用いて下記の方法で測定し、体積面積計測にて面積が3.995μm
2以上、かつ高さが1μm以上の部分を隆起部と定義する。
(1)電池用セパレータの多孔層を上にして皺なく固定する。
(2)レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)を用いて下記の条件で多孔層の任意の10点を測定する。
・測定部:VK-X160(赤色レーザー658nm)
・制御部:VK-X150
・対物レンズ:株式会社ニコン製CF IC EPI Plan 50倍
・解析ソフト:マルチファイル解析アプリケーション バージョン2.2.0.93
・測定範囲:273μm×205μm
(画像処理)
・基準面設定:画像全体
・平滑化:サイズ3×3、ガウシアン
・欠測点除去:有り
(3)体積面積計測にて隆起部の個数を計測し、10点の個数より平均値を算出する。この平均値を測定範囲(273μm×205μm)で除し、1平方ミリメートルあたりの個数を算出する。
(体積面積計測)
・測定範囲:273μm×205μm
・計測モード:凸部
・微小領域設定 下限値:3.995μm
2
・高さしきい値:1.000、2.000または4.000μm
[無機粒子を多数含む隆起部の定義]
走査電子顕微鏡を用いて下記の方法で多孔層表面を観察し、多孔層表面の隆起部がいくつの無機粒子を含むか確認する。
(1)電子線によるチャージアップを防ぐため、日本電子株式会社製JFC-1600オートファインコーターを用いて多孔層表面に白金を蒸着させる。
(2)電解放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM-6701F)を用いて下記の条件で多孔層表面の任意の0.7mm×0.7mm=0.49mm
2を観察し、多孔層表面の各隆起部がいくつの無機粒子を含むか確認する。
・観察モード:SEM
・加速電圧:2kV
・イメージセレクタ:LEI
・倍率:250~10000倍
多孔層表面の0.49mm
2内に観察される全ての隆起部の内、10個以上の無機粒子を含む隆起部の割合が90%以上のものを「無機粒子を多数含む」と定義する。
【請求項2】
前記多孔層の研磨時の脱落量が0.1mg以上、3.0mg未満である請求項1に記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
前記無機粒子の粒子径D50が3.0μm未満である請求項1または2に記載の電池用セパレータ。
【請求項4】
前記無機粒子が硫酸バリウムである請求項1または2に記載の電池用セパレータ。
【請求項5】
前記多孔層の隆起部の高さが1μm以上、4μm未満である請求項1または2に記載の電池用セパレータ。
【請求項6】
前記多孔層の表面の動摩擦係数が0.54以上である請求項1または2に記載の電池用セパレータ。
【請求項7】
前記多孔層表面の算術平均高さSaが1.0μm未満である請求項1または2に記載の電池用セパレータ。
【請求項8】
前記電池用セパレータにおける前記多孔層の厚み比率が18%以上37%以下である請求項1または2に記載の電池用セパレータ。
【請求項9】
請求項1または2に記載の電池用セパレータを有する二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂多孔質膜は、物質の分離や選択透過及び隔離材等として広く用いられている。例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル-水素電池、ニッケル-カドミウム電池、及びポリマー電池等に用いる電池用セパレータや、電気二重層コンデンサ用セパレータ、逆浸透濾過膜、限外濾過膜、及び精密濾過膜等の各種フィルター、透湿防水衣料、及び医療用材料等である。
【0003】
特に、リチウムイオン二次電池用セパレータとしては、電解液含浸によりイオン透過性を有し、電気絶縁性、耐電解液性及び耐酸化性に優れ、電池異常昇温時に120~150℃程度の温度において電流を遮断し、過度の昇温を抑制する孔閉塞効果を備えているポリオレフィン微多孔膜が好適に使用されている。
【0004】
しかしながら、何らかの原因で孔閉塞後も昇温が続く場合、ポリオレフィン微多孔膜が破膜することがある。この現象はポリオレフィンを用いた場合に限定される現象では
なく、その微多孔膜を構成する樹脂の融点以上では避けることができない。
【0005】
これに対し、ポリオレフィン微多孔膜に対して、無機粒子とバインダー樹脂を主として
構成する多孔層を被覆した耐熱性セパレータが採用されている。この耐熱性セパレータを用いることで、ポリオレフィン微多孔膜の昇温による収縮が多孔層により抑制されている。
このようなセパレータにおいて、ポリオレフィン系樹脂多孔フィルムの少なくとも片面に、硫酸バリウムとポリビニルアルコールとを含む耐熱層を積層した積層多孔フィルム(特許文献1)、多孔質膜からなる基材の少なくとも一方の面に形成され、粒子と樹脂材料を含有し、凹凸形状を有する多孔質の表面層を備える非水電解質電池用セパレータ(特許文献2)が提案されているが、耐熱収縮性に優れ、かつ電池の巻回時に電極とセパレータの巻きずれが少ないセパレータではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-110704号公報
【文献】特開2013-137984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、耐熱収縮性に優れ、かつ電池の巻回時に電極とセパレータの巻きずれが少ないセパレータの提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来の技術を鑑み、鋭意検討し、以下の構成により、本課題を解決することを見出した。
(1)ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に無機粒子を含む多孔層を有し、前記多孔層の表面に無機粒子を多数含む隆起部を有し、かつ130℃/1hにおける熱収縮率が0%以上2%以下である電池用セパレータ。
(2)前記多孔層の研磨時の脱落量が0.1mg以上、3.0mg未満である前記(1)に記載の電池用セパレータ。
(3)前記無機粒子の粒子径D50が3.0μm未満である前記(1)または(2)に記載の電池用セパレータ。
(4)前記無機粒子が硫酸バリウムである前記(1)~(3)のいずれかに記載の電池用セパレータ。
(5)前記多孔層の隆起部の高さが1μm以上、4μm未満である前記(1)~(4)のいずれかに記載の電池用セパレータ。
(6)前記多孔層の表面の動摩擦係数が0.54以上である前記(1)~(5)のいずれかに記載の電池用セパレータ。
(7)前記多孔層表面の算術平均高さSaが1.0μm未満である前記(1)~(6)のいずれかに記載の電池用セパレータ。
(8)前記電池用セパレータにおける前記多孔層の厚み比率が18%以上37%以下である前記(1)~(7)のいずれかに記載の電池用セパレータ。
(9)前記(1)~(8)のいずれかに記載の電池用セパレータを有する二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に多孔層を有する電池用セパレータは、耐熱収縮性に優れ、かつ電池の巻回時に電極とセパレータの巻きずれが少ないため、電池の安全性や歩留まりが向上する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電池用セパレータ、正極、負極を巻回する際の一例を示す概略図である。
【
図2】電池用セパレータ、正極、負極の巻回体を巻き戻した際の電池用セパレータと正極の巻きずれの一例を示す概略図である。
【0011】
なお、図面においては、各構成をわかりやすくするために、一部を強調して、あるいは一部を簡略化して表しており、実際の構造または形状、縮尺等が異なっている場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明はポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に多孔層を有する電池用セパレータに関する。より詳細には、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に多孔層を有する電池用セパレータであって、前記多孔層は無機粒子を含み、前記多孔層の表面に隆起部を有し、前記隆起部が前記無機粒子を多数含んでおり、130℃/1hにおける熱収縮率が0%以上、2.0%以下である電池用セパレータに関する。
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実
施形態に限定されるものではない。
【0014】
<ポリオレフィン微多孔膜>
本発明の実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜の厚さは、電池用セパレータの機能を有する限りにおいて特に制限されるものではないが、25μm以下が好ましい。より好ましくは3μm以上、20μm以下であり、さらに好ましくは5μm以上、16μm以下である。ポリオレフィン微多孔膜の厚さが25μm以下であると、実用的な膜強度と孔閉塞機能を両立させることができ、電池ケースの単位容積当たりの面積が制約されず、電池の高容量化に適する。
【0015】
ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂は特に制限されるものではない
が、ポリエチレンやポリプロピレンが好ましい。また、単一物又は2種以上の異なるポリ
オレフィン樹脂の混合物、例えばポリエチレンとポリプロピレンとの混合物であってもよいし、異なるオレフィンの共重合体であってもよい。ポリオレフィン微多孔膜は、電気絶縁性、及びイオン透過性等の基本特性に加え、電池異常昇温時において、電流を遮断し、過度の昇温を抑制する孔閉塞効果を具備しているため、好ましい。
【0016】
中でもポリエチレンが優れた孔閉塞性能を有することから、特に好ましい。以下、本発明に用いるポリオレフィン樹脂としてポリエチレンを例に詳述するが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。
【0017】
ポリエチレンとしては、例えば、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレン等が挙げられる。また重合触媒にも特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒やフィリップス系触媒やメタロセン系触媒等が挙げられる。これらのポリエチレンはエチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外のα-オレフィンとしてはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等が好適である。
【0018】
ポリエチレンは単一物でもよいが、2種以上のポリエチレンからなる混合物であること
が好ましい。ポリエチレン混合物としては重量平均分子量(Mw)の異なる2種類以上の
超高分子量ポリエチレン同士の混合物、高密度ポリエチレン同士の混合物、中密度ポリエチレン同士の混合物及び低密度ポリエチレン同士の混合物を用いてもよいし、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選ばれる2種以上のポリエチレンの混合物を用いてもよい。
【0019】
ポリオレフィン微多孔膜は、充放電反応の異常時に孔が閉塞する機能を有することが好ましい。従って、構成する樹脂の融点(軟化点)は70℃以上、150℃以下が好まし
い。より好ましくは80℃以上、140℃以下、さらに好ましくは100℃以上、130
℃以下である。構成する樹脂の融点が70℃以上、150℃以下であると、正常使用時に
孔閉塞機能が発現して電池が使用不可になることがなく、異常反応時に孔閉塞機能が発現することで安全性を確保できる。
【0020】
<多孔層>
本発明の多孔層は、前記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に設けられるものであり、無機粒子を含む。多孔層には、さらにバインダーおよび添加剤を含有することができる。多孔層をポリオレフィン微多孔膜の片面のみに設ける場合、多孔層を形成する工程が少なく、生産コストを抑えることができる。多孔層をポリオレフィン微多孔膜の両面に設ける場合、ポリオレフィン微多孔膜の熱による収縮を両面から抑制することで、より効果的に電池用セパレータの熱による収縮を低減することができる。
【0021】
前記多孔層は表面に隆起部を有している。隆起部が存在すると、電池生産工程で電池用セパレータ、正極、負極を巻回する際に、隆起部が電極表面に引っかかり、さらに変形することで多孔層と電極が滑りにくくなり、電池用セパレータと電極の巻きずれを抑制する。隆起部の高さは1μm以上、4μm未満であることが好ましく、より好ましくは1μm以上、3μm以下、さらに好ましくは1μm以上、2μm未満である。
隆起部の高さが1μm以上であると、電極への引っかかりや、変形が十分となり電池生産工程で電池用セパレータ、正極、負極を巻回する際に、電池用セパレータと電極の巻きずれを抑制する効果が好適となる。隆起部の高さが3μm以下であると、電池生産工程で多孔層と搬送ロールが接触した際に多孔層が脱落して工程を汚染するなどの問題を抑制し、好適となる。隆起部の個数は1個/mm2以上、150個/mm2以下が好ましい。
【0022】
前記隆起部は無機粒子を多数含む。本発明において、前記隆起部が無機粒子を多数含むとは、後述する測定方法において、多孔層表面の一定の領域に観察される全隆起部の内、10個以上の無機粒子を含む隆起部の割合が90%以上であることをいう。通常、無機粒子を含む多孔層を形成するための多孔層用塗工液を調整する際には、無機粒子を十分に分散し、多数の粒子が凝集した2次粒子を1次粒子に解砕させる。このように無機粒子を分散させた多孔層用塗工液を用いた場合、得られる多孔層において無機粒子は均一に存在しているため、多孔層表面には無機粒子の凝集物に起因する隆起部はほとんど存在しない。一方、多孔層用塗工液を調整する際に、無機粒子を均一に分散させずに凝集した粒子を残すことで、多孔層表面に多数の無機粒子を含む隆起部を形成させることができる。そして、前記隆起部が無機粒子を多数含むことにより、巻きずれを抑制する効果が得られる。この効果が得られる理由は明らかになっているわけではないが、本発明者らは、前記隆起部が無機粒子を多数含むことで、隆起部が電極表面の微小な凹みに引っかかり、隆起部を形成する多数の無機粒子が変形することによって、巻きずれを抑制する効果が得られているものと推定している。前記多数の無機粒子を含む隆起部の高さおよび個数は、多孔層に用いる粒子の種類、粒子径、分散条件等により調整可能である。
【0023】
また、後述する条件で測定した多孔層研磨時の脱落量は0.1mg以上、3.0mg未満であることが好ましく、より好ましくは0.2mg以上、2.0mg以下である。多孔層研磨時の脱落量が0.1mg以上であると、電池生産工程で電池用セパレータ、正極、負極を巻回する際に電池用セパレータと電極の巻きずれを抑制する効果が好適となる。多孔層研磨時の脱落量が3.0mg未満であると、電池生産工程で多孔層と搬送ロールが接触した際の多孔層の脱落を抑制し、好適となる。多孔層研磨時の脱落量は、多孔層表面の隆起部の高さおよび個数などを適宜調整することで、上記範囲とすることができる。
【0024】
後述する条件で測定する多孔層表面の動摩擦係数は0.54以上であることが好ましい。研磨フィルムと多孔層表面の動摩擦係数が0.54以上であると、電池生産工程で電池用セパレータ、正極、負極を巻回する際に、多孔層と電極が滑りにくくなり、電池用セパレータと電極の巻きずれを抑制する。動摩擦係数の理論上の上限は1.00以下である。
【0025】
動摩擦係数は、多孔層表面の隆起部の高さおよび個数などを適宜調整することで、上記範囲とすることができる。
【0026】
以下、無機粒子を含む隆起部を例に詳述するが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。
【0027】
<無機粒子>
本発明の無機粒子は、電気化学的に安定であれば特に材質を制限するものではない。具
体的には、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バ
リウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化ストロンチウム、酸化バナジウム、SiO2
-MgO(ケイ酸マグネシウム)、SiO2-CaO(ケイ酸カルシウム)、ハイドロタ
ルサイト、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バ
リウム、炭酸ランタン、炭酸セリウム、塩基性チタン酸塩、塩基性ケイチタン酸塩、層状複水酸化物(Mg-Alタイプ、Mg-Feタイプ、Ni-Feタイプ、Li-Alタイプ)、層状複水酸化物-アルミナシリカゲル複合体、ベーマイト、アルミナ、ヘマタイト、酸化ビスマス、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の陰イオン吸着材、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム、アパタイト、非塩基性チタン酸塩、ニオブ酸塩、ニオブ・チタン酸塩等の陽イオン吸着材、ゼオライト、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、石膏、硫酸バリウム、アルミナ三水和物(ATH)、ヒュームドシリカ、沈殿シリカ、ジルコニア、及びイットリア等の酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、カオリナイト、タルク、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロ無機粒子イト、モンモリロナイト、セリサイト、アメサイト、ベントナイト等の層状シリケート、アスベスト、ケイ藻土、ガラス繊維、合成層状シリケート、雲母から成る群から選択される。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、無機粒子の凝集体を形成しやすく、多孔層の隆起部に無機粒子を多数含ませることが容易となる観点から、特に硫酸バリウムが好ましく、より好ましくは、沈降性硫酸バリウムである。具体的には、炭酸バリウム、又は硫化バリウムに硫酸を加えることによって硫酸バリウムを得る方法(硫酸法)、塩化バリウムに硫酸ナトリウムを加えることによって硫酸バリウムを得る方法(芒硝法)で得られる硫酸バリウム粒子である。合成法により作製された硫酸バリウム粒子を用いることにより、無機粒子の体積平均粒子径の制御を精度良く行うことができる。
【0028】
本発明における無機粒子は、粒子径D50が0.01μm以上、3.0μm未満であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上、2.5μm以下であり、さらに好ましくは0.3μm以上、2.0μm以下である。粒子径D50が0.01μm以上であると、無機粒子間の空隙が十分となり、電池内でのリチウムイオンの移動経路が狭くかつ長くなることで電気抵抗度が大きくなることを抑制し、好適となる。さらに、ポリオレフィン微多孔膜の細孔に無機粒子が目詰まりすることで、電池の性能を著しく低下させることを抑制し、好適となる。粒子径D50が3.0μm未満であると、無機粒子の凝集体を形成しやすく、多孔層の隆起部に無機粒子を多数含ませることが容易であり、好適となる。また、多孔層の無機粒子同士の接点が少なくなることで、多孔層の構造がもろくなり、高温時にポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制することが困難となることや、電池の製造工程で多孔層が脱落して電池へ混入することで電池の不良率が高くなることを抑制し、好適となる。
【0029】
<バインダー>
本発明で用いるバインダーは、高分子骨格に、アミノ基、アミド基、カルボニル基、カルボキシル基、スルホニル基、リン酸基、水酸基、アルキル基およびハロゲン基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基を含んでいることが好ましい。この事により多孔層に含有する無機粒子同士を結着させる効果、及び多孔層をポリオレフィン微多孔膜と密着させる効果を発現することができる。バインダーとして、特に限定されるものではないが、具体的には(メタ)アクリル酸共重合樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ(メタ)アラミド樹脂、ポリエチレングリコール樹脂、セルロースエーテル樹脂、の群より選ばれる1つ以上を使用することができ、中でも、セルロースエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリルアミド樹脂が好ましく、セルロースエーテル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂がさらに好ましい。これらの水溶性高分子は、単独あるいは二種以上を混合して用いてもよい。例えば、市販されている水溶液を使用することができ、アクリル系樹脂として、具体的には、東亜合成株式会社製“ジュリマー”(登録商標)AT-210、ET-410、“アロン”(登録商標)A-104、AS-2000、NW-7060、荒川化学株式会社製“ポリストロン”(登録商標)117、705、1280、昭和電工株式会社製“コーガム”(登録商標)シリーズ、日本ゼオン株式会社製“BM”シリーズ等が挙げられる。ポリビニルアルコールとして、クラレ株式会社製“クラレポバール”(登録商標)3-98、3-88、三菱ケミカル株式会社製“ゴーセノール”(登録商標)N-300、GH-20等が挙げられる。セルロース系樹脂として、日本製紙株式会社製“サンローズ”(登録商標)MACシリーズ等が挙げられる。
【0030】
<添加剤>
前記多孔層には、無機粒子の分散安定性を向上させる目的の分散剤や、塗工性を向上させる目的で増粘剤及び濡れ剤等や、耐熱性を向上させる目的で熱硬化剤及び架橋剤等を適宜含んでもよい。
【0031】
<多孔層の重量組成比>
本発明の実施形態における多孔層に含まれる無機粒子の含有量は、多孔層を形成する組成物の合計を100質量%として92質量%以上、99質量%以下が好ましい。より好ましくは93質量%以上、98質量%以下であり、さらに好ましくは94質量%以上、97質量%以下である。無機粒子の含有量が92質量%以上であると、高温時にポリオレフィン微多孔膜が収縮するのを抑制することができ、好適となる。無機粒子の含有量が99質量%以下であると、無機粒子同士を結着している組成物が十分となり、多孔層の脱落を抑制し、好適となる。
【0032】
<多孔層の平均厚さ>
本発明の実施形態における多孔層の平均厚さは、0.5μm以上、6.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは1.0μm以上、5.0μm以下であり、さらに好ましくは1.5μm以上、4.0μm以下である。多孔層の厚さが0.5μm以上であると、熱によりポリオレフィン微多孔膜が収縮して電気抵抗度が大きくなることを抑制し、好適となる。多孔層の平均厚さが6.0μm以下であると、電池セルの正極と負極の極間距離が大きくなるために、電気抵抗度が大きくなる場合や、電池の体積に占める電池用セパレータの割合が多くなり、電池の体積エネルギー密度が低くなることを抑制し、好適となる。また、電池用セパレータの厚さに占める多孔層の厚さの割合が多いほど、多孔層によるポリオレフィン微多孔膜の熱収縮抑制効果は大きくなる。
【0033】
<電池用セパレータにおける多孔層の厚み比率>
本発明の実施形態における電池用セパレータの多孔層の厚み比率は、18%以上37%以下であることが好ましい。比率の下限値は、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは22%以上、特に好ましくは24%以上である。比率の上限値は、より好ましくは35%以下、さらに好ましくは33%以下、特に好ましくは31%以下である。比率の下限値が18%以上であると、上記したメカニズムに基づく巻きずれ防止効果を得るために十分であり、好適となる。比率の上限値が37%以下であると、電池巻回時の電池用セパレータのカールが小さく、搬送が安定するため、巻きずれ量を低減することができ、好適となる。
【0034】
<多孔層表面の算術平均高さSa>
後述する条件で測定した多孔層表面の算術平均高さSaは、1.0μm未満であることが好ましい。より好ましくは0.8μm以下、さらに好ましくは0.6μm以下である。
【0035】
多孔層表面の算術平均高さSaは、多孔層表面の隆起部の高さおよび個数などを適宜調整することで、上記範囲とすることができる。
【0036】
<多孔層の形成方法>
本発明における多孔層は以下の工程で得ることができる。
(a)無機粒子とバインダーと添加剤と分散媒を用いたマスターバッチ液の作製。
(b)マスターバッチ液とバインダーと添加剤と分散媒を用いた多孔層用塗工液の作製。
(c)ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面、又は両面に前記塗工液を塗工する工程。
(d)前記塗工後、分散媒をドライヤーで乾燥させ、多孔層を形成する工程。
【0037】
前記工程(a)においては、水溶性バインダーを用いることが好ましい。水溶性バインダーの投入量は、無機粒子100質量部に対し、0.5~1.8質量部が好ましい。より好ましくは、0.7~1.5質量部である。水溶性バインダーは、無機粒子と共に分散媒に加えて撹拌するのが好ましい。無機粒子を含むマスターバッチ液の粘度は、20mPa・s以上、50mPa・s以下が好ましい。水溶性バインダーを用いて無機粒子を含むマスターバッチ液の粘度を上記範囲とすることで、無機粒子を含む凝集体を好適に形成することができる。
【0038】
分散媒としては水を用いることが好ましい。多孔層用塗工液の分散安定性を損なわない範囲であれば、分散媒として水にエタノール、イソプロパノール、N-メチルピロリドンなどの親水性の溶媒を混ぜたものを使用してもよい。無機粒子を分散する方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、サンドミル、コロイドミル、ロールミル、高速インペラー分散、ディスパーザー、ホモジナイザー、プラネタリーミキサーおよび遊星式混練機、超音波分散、撹拌羽根等による機械撹拌等が挙げられる。機械撹拌を強く行うと、分散媒中に無機粒子が均一に分散する傾向があり、機械撹拌を弱く行うと、分散媒中に無機粒子の凝集体が残存する傾向がある。分散媒中に無機粒子の凝集体を残存させると、多孔層中に無機粒子の凝集体を含ませることとなり、多孔層表面に多数の無機粒子を含む隆起部を形成させることが容易となる。
【0039】
前記工程(b)において、塗工性を向上させる目的で増粘剤及び濡れ剤等、耐熱性を向上させる目的で熱硬化剤及び架橋剤等を適宜加える。
【0040】
前記工程(c)において、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面又は両面に
多孔層用塗工液を塗工する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、ダイレクトグラビアコート法、リバースグラビアコート法、キスリバースグラビアコート法、ダイレクトバーコート法、エアナイフコート法、マイヤーバーコート法、パイプドクター法、ブレードコート法及びダイコート法等が挙げられ、これらの方法は単独又は組み合わせて行うことができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。なお、実施例中の測定値は以下の方法で得た値である。
【0042】
<マスターバッチ液の粘度(mPa・s)>
マスターバッチ液の粘度はレオメータ(Anton Paar製、MCR302)を用いて下記の条件にて測定した。
【0043】
コーンプレート:CP50-1
温度:25℃
せん断速度:100sec-1
<無機粒子の粒子径(μm)>
無機粒子の粒子径は、JIS Z 8825(2013)に従いレーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラック製、MT3300-EXII)を用いて、体積基準積算率が50%のときの粒子径D50を測定した。
【0044】
<厚さ(μm)>
ポリオレフィン微多孔膜及び電池用セパレータを接触式膜厚計(株式会社ミツトヨ製、“ライトマチック”(登録商標))を使用して、超硬球面測定子φ10.5mm、加重0.15Nの条件で測定し、5点の測定値を平均することによって厚さを求めた。さらに、多孔層の厚さは、電池用セパレータを前記多孔層用塗工液に含まれる分散媒と同じ分散媒で洗浄し、多孔層を除去したポリオレフィン微多孔膜を前記接触式膜厚計にて測定し、下記の計算式より得た。
【0045】
多孔層の厚さ=電池用セパレータの厚さ-ポリオレフィン微多孔膜の厚さ。
【0046】
<電池用セパレータにおける前記多孔層の厚み比率(%)>
電池用セパレータにおける前記多孔層の厚み比率は、上記方法で測定した厚さを基に、下記の計算式より得た。
【0047】
電池用セパレータにおける前記多孔層の厚み比率(%)=多孔層の厚さ/(ポリオレフィン微多孔膜の厚さ+多孔層の厚さ)×100。
【0048】
<多孔層表面の隆起部に含まれる無機粒子の個数>
走査電子顕微鏡を用いて下記の方法で多孔層表面を観察し、多孔層表面の隆起部がいくつの無機粒子を含むか確認した。
(1)電子線によるチャージアップを防ぐため、日本電子株式会社製JFC-1600オートファインコーターを用いて多孔層表面に白金を蒸着させる。
(2)電解放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM-6701F)を用いて下記の条件で多孔層表面の任意の0.7mm×0.7mm=0.49mm2を観察し、多孔層表面の各隆起部がいくつの無機粒子を含むか確認する。
観察モード:SEM
加速電圧:2kV
イメージセレクタ:LEI
倍率:250~10000倍
多孔層表面の0.49mm2内に観察される全ての隆起部の内、10個以上の無機粒子を含む隆起部の割合が90%以上のものを「無機粒子を多数含む(表中では多数と記載)」、多孔層表面の0.49mm2内に観察される全ての隆起部の内、10個以上の無機粒子を含む隆起部の割合が90%未満のものを「無機粒子を多数含まない(表中では少数と記載)」と定義した。
【0049】
<多孔層表面の隆起部の個数(個/mm2)>
多孔層の表面にある隆起部の個数はレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)を用いて下記の方法で測定し、体積面積計測にて面積が3.995μm2以上、かつ高さが1μm以上の部分を隆起部と定義した。
(1)電池用セパレータの多孔層を上にして皺なく固定する。
(2)レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)を用いて下記の条件で多孔層の任意の10点を測定する。
測定部:VK-X160(赤色レーザー658nm)
制御部:VK-X150
対物レンズ:株式会社ニコン製CF IC EPI Plan 50倍
解析ソフト:マルチファイル解析アプリケーション バージョン2.2.0.93
測定範囲:273μm×205μm
(画像処理)
基準面設定:画像全体
平滑化:サイズ3×3、ガウシアン
欠測点除去:有り
(3)体積面積計測にて隆起部の個数を計測し、10点の個数より平均値を算出する。この平均値を測定範囲(273μm×205μm)で除し、1平方ミリメートルあたりの個数を算出する。
(体積面積計測)
測定範囲:273μm×205μm
計測モード:凸部
微小領域設定 下限値:3.995μm2
高さしきい値:1.000、2.000または4.000μm。
【0050】
<算術平均高さSa(μm)>
算術平均高さSaはレーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製)を用いて下記の方法で測定した。
(1)多孔層表面の隆起部の個数の測定方法(1)(2)に従い、多孔層の10点を測定する。
(2)表面粗さ計測にて下記の条件で10点の算術平均高さSaを計測し、10点の算術平均高さSaより平均値を算出する。
測定範囲:273μm×205μm
表面粗さのフィルター設定
フィルター種別:ガウシアン
終端効果の補正:有り。
【0051】
<熱収縮率(%)>
本発明において、ポリオレフィン微多孔膜の製膜する方向に平行な方向を製膜方向、長手方向あるいはMD(Machine Direction)と称し、ポリオレフィン微多孔膜面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD(Transverse Direction)と称する。
【0052】
電池用セパレータのMD(長さ方向)とTD(幅方向)の熱収縮率は下記の方法にて測定した。
(1)電池用セパレータをMD100mm×TD100mmの大きさに3枚切り出し、角付近にMDに5mmの直線を引き、MDとTDの取り違えを予防する。次に、透明なガラススケール(測定精度0.1mm)を用いて、電池用セパレータの対辺の中点同士の距離をMDの長さ、TDの長さとして測定し、初期寸法(mm)とする。
(2)前記電池用セパレータをA3サイズの紙2枚で挟み、温度130℃のオーブンに入れ、1時間放置した後、オーブンから電池用セパレータを取り出して30分間室温で放置する。
(3)前記ガラススケールを用いて、電池用セパレータの対辺の中点同士の距離を再度測定し、収縮後の寸法(mm)とする。この時の測定位置は初期寸法を測定した位置と同じ位置であり、電池用セパレータの端部がカールしていた場合は、広げて測定を実施する。得られた初期寸法と、収縮後の寸法より、下記計算式にてMD、及びTDの熱収縮率(%)を得る。
熱収縮率(%)={初期寸法(mm)-収縮後の寸法(mm)}/初期寸法(mm)×100
なお、MDおよびTDが不明な電池用セパレータは以下のように、MDおよびTDを決定する。方形にカットされた電池用セパレータの場合は、上記と同様に熱収縮を測定し、熱収縮率が大きい方向をMD、その垂直方向をTDとする。円形にカットされた電池用セパレータの場合は、上記と同様に熱収縮を測定し、直径が最も小さくなった、すなわち熱収縮率が最も大きい方向をMD、その垂直方向をTDとする。
本発明の電池用セパレータのMDおよびTDの熱収縮率はいずれも0%以上、2.0%以下である。熱収縮率の上限値は、より好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.6%以下、特に好ましくは1.4%以下である。熱収縮率が上記範囲であれば、電池が異常発熱した際も電極の短絡を抑制して安全性を維持することができ、好適となる。
【0053】
<多孔層研磨時の脱落量(mg)>
多孔層研磨時の脱落量は摩擦測定機(株式会社トリニティーラボ製、静・動摩擦測定機TL201Tt)を用いて、下記の方法にて測定し、下記の基準にて評価した。
(1)電池用セパレータをTD49mm×MD110mmの大きさに切り出し、電子天秤(測定精度0.01mg)を用いて、重量(mg)を測定する。
(2)50mm×50mmに切り出した片面粘着クッションテープ(トラスコ中山株式会社製、エッジクッションテープTEC-50BK)を接触面に貼った50mm×50mmの平面接触子に、前記クッションテープとポリオレフィン微多孔膜面(片面に多孔層を有する電池用セパレータの場合)もしくは測定しない多孔層面(両面に多孔層を有する電池用セパレータの場合)が接するように前記電池用セパレータを固定する。
(3)90mm×220mmに切り出した研磨フィルム#6000(3M社製、ラッピングフィルムシートA3-2SHT)を前記静・動摩擦測定機の摺動部に水平に固定する。
(4)前記研磨フィルムと前記接触子に固定した電池用セパレータの多孔層を接触させ、前記接触子に1kgの重りを載せる。この際の研磨フィルムと多孔層の接触面積は49mm×50mmとなる。
(5)前記静・動摩擦測定機の摺動部を水平方向に速度10mm/sec、距離25mmで往復5回摺動させた後、前記接触子から電池用セパレータを取り外し、電子天秤(測定精度0.01mg)を用いて、重量(mg)を測定する。
(6)得られた試験前後の電池用セパレータの重量(mg)より、下記計算式にて多孔層研磨時の脱落量(mg)を得る。
多孔層研磨時の脱落量(mg)=試験前の電池用セパレータの重量(mg)-試験後の電池用セパレータの重量(mg)
A:多孔層研磨時の脱落量が1.5mg未満
B:多孔層研磨時の脱落量が1.5mg以上、3.0mg未満
C:多孔層研磨時の脱落量が3.0mg以上
<研磨フィルムと多孔層表面の動摩擦係数>
研磨フィルムと多孔層表面の摩擦係数は摩擦測定機(株式会社トリニティーラボ製、静・動摩擦測定機TL201Tt)を用いて、下記の方法にて測定した。
(1)電池用セパレータをTD49mm×MD110mmの大きさに切り出す。
(2)50mm×50mmに切り出した片面粘着クッションテープ(トラスコ中山株式会社製、エッジクッションテープTEC-50BK)を接触面に貼った50mm×50mmの平面接触子に、前記クッションテープとポリオレフィン微多孔膜面(片面に多孔層を有する電池用セパレータの場合)もしくは測定しない多孔層面(両面に多孔層を有する電池用セパレータの場合)が接するように前記電池用セパレータを固定する。
(3)90mm×220mmに切り出した研磨フィルム#6000(3M社製、ラッピングフィルムシートA3-2SHT)を前記静・動摩擦測定機の摺動部に水平に固定する。
(4)前記研磨フィルムと前記接触子に固定した電池用セパレータの多孔層を接触させ、前記接触子に200gの重りを載せる。この際の研磨フィルムと多孔層の接触面積は49mm×50mmとなる。
(5)200gの重りを載せてから1分後に、前記静・動摩擦測定機の摺動部を水平方向に速度1.7mm/sec、距離70mmで1回摺動させて、摩擦係数を測定する。摺動距離35~65mmの摩擦係数の平均値を動摩擦係数とする。
【0054】
<電池巻回時の巻きずれ量(mm)>
[正極の作製]
コバルト酸リチウム97質量部、カーボンブラック1.8質量部に、PVDFを1.2質量部含むNMP溶液を加えて混合し、正極合剤含有スラリーとした。この正極合剤含有スラリーを、厚みが12μmのアルミ箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥して正極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成型して集電体を除いた正極層の密度を3.6g/cm
3にして正極を作製した。最後に、この正極を28mm幅に切断した。
[負極の作製]
人造黒鉛98質量部に、カルボキシメチルセルロースナトリウムを1.0質量部含む水溶液を加えて混合し、さらにバインダーとして固形分として1.0質量部含むスチレンブタジエンラテックスを加えて混合して負極合剤含有スラリーとした。この負極合剤含有スラリーを、厚みが10μmの銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗付
し、乾燥して負極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成形して集電体を除いた負極層の密度を1.5g/cm
3にして、負極を作製した。最後に、この負極を30mm幅に切断した。
[電池の巻回]
33mm幅に切断した電池用セパレータ、28mm幅に切断した正極、30mm幅に切断した負極を
図1に示すように配置し、カトー機工株式会社製の手動巻取装置を用いて10周巻いて巻回体を作製した。手動巻取装置の巻芯は角型標準幅25mmを使用し、電極を挿入する際は電池用セパレータの幅方向中央部に電極が位置するように挿入し、電池用セパレータには0.98N、正極及び負極には1.96Nの張力をかけて巻回した。
図2に示すように前記巻回体の電池用セパレータの幅方向端部と正極の幅方向端部の距離(
図2のA、B)を透明なガラススケール(測定精度0.1mm)を用いて測定し、それぞれの距離より下記計算式にて巻きずれ量を算出した。
【0055】
巻きずれ量(mm)=|電池用セパレータの幅方向端部と正極の幅方向端部の距離(
図2のA、mm)-電池用セパレータの幅方向端部と正極の幅方向端部の距離(
図2のB、mm)|
前記巻回体から1周を巻き戻す毎に前記巻きずれ量を測定し、10点の巻きずれ量の平均値を各巻回体の巻きずれ量とした。前記方法で5つの巻回体の巻きずれ量を得て、その平均値を電池巻回時の巻きずれ量とし、下記の基準にて評価した。
【0056】
A:電池巻回時の巻きずれ量が1.5mm未満
B:電池巻回時の巻きずれ量が1.5mm以上、2.0mm未満
C:電池巻回時の巻きずれ量が2.0mm以上
電池巻回時の巻きずれ量は2.0mm未満であることが好ましい。より好ましくは1.5mm未満である。巻きずれ量が2.0mm未満であると、電池巻回体が缶等の外装材に収まらないことや、電池用セパレータの幅方向端部と正極の幅方向端部の距離が近くなることで電池の安全性が低下することを抑制し、好適となる。
【0057】
(実施例1)
沈降性硫酸バリウム(粒子径D50=0.3μm)100重量部に対し、ポリアクリル酸系分散剤(東亜合成株式会社製、アロン(登録商標))0.7重量部、水溶性ポリアクリルアミド(荒川化学工業株式会社製、ポリストロン)1.5重量部を用意し、水に加える。次に、ディスパー型の羽根を取り付けた撹拌機(新東科学株式会社製、スリーワンモーター)にて800rpmで撹拌しながら、前記沈降性硫酸バリウムを全量加え、1200rpmで3時間攪拌して、固形分が60重量%の混合液を得た。
【0058】
ビーズ粒径が0.5mmのジルコニアビーズ(東レ株式会社製、トレセラムφ0.5mm、密度6.06g/cm3)を115g充填したビーズミル分散機(淺田鉄工株式会社製、ピコミルPCM-LR、分散部容量0.048L)を用いて、得られた混合液を周速10m/sec、分散機内での合計滞留時間26秒の条件で分散し、マスターバッチ液を得た。なお、分散機内での合計滞留時間は下記計算式にて算出した。
(1)分散機分散部の空き容量(L)=分散部容量(L)-{ビーズ充填量(kg)/ビーズ密度(kg/L)}
(2)分散機内での合計滞留時間(秒)=分散機分散部の空き容量(L)/混合液の流速(L/sec)×分散回数
また、得られたマスターバッチ液について、粘度を評価した結果を表1に示した。
【0059】
得られたマスターバッチ液を前記撹拌機にて800rpmで撹拌しながら、バインダーとして、アクリル樹脂(昭和電工株式会社製、ポリゾール)1.0重量部、添加剤として、濡れ剤(サンノプコ株式会社製、SNウェット366)0.2重量部、及び水を加えた。その後、前記撹拌機にて1000rpmで30分撹拌し、固形分50重量%の多孔層用塗工液を得た。
【0060】
得られた多孔層用塗工液を、厚さ9μmのポリオレフィン微多孔膜の片面に、キスリバースグラビア法にて塗工し、温度60℃で乾燥して、多孔層の厚さが4μmの電池用セパレータを得た。
【0061】
得られた電池用セパレータについて、多孔層の厚さ、電池用セパレータにおける前記多孔層の厚み比率、多孔層表面の隆起部に含まれる無機粒子の個数、多孔層表面の隆起部の個数、多孔層表面の算術平均高さSa、130℃/1h熱収縮率、多孔層研磨時の脱落量、研磨フィルムと多孔層表面の動摩擦係数、電池巻回時の巻きずれ量を評価した結果を表2に示した。
(実施例2~19、比較例1)
表1で示した材料や条件に変更した以外は実施例1と同様に電池用セパレータを得た。
【0062】
(比較例2)
実施例4の混合液に水溶性ポリアクリルアミドを加えずに、マスターバッチ液へ実施例4と同じ水溶性ポリアクリルアミド1.5重量部を加えた以外は、実施例4と同様に電池用セパレータを得た。
(比較例3)
実施例5の混合液には水溶性ポリアクリルアミドを加えずに、分散機内での合計滞留時間を13秒に、マスターバッチ液へ実施例5と同じ水溶性ポリアクリルアミド1.5重量部を加えた以外は、実施例5と同様に電池用セパレータを得た。
(比較例4~5)
表1で示した材料や条件に変更した以外は実施例1と同様に電池用セパレータを得た。
【0063】
(比較例6)
実施例10の混合液には水溶性ポリアクリルアミドを加えずに、マスターバッチ液へ実施例10と同じ水溶性ポリアクリルアミド1.5重量部を加えた以外は、実施例10と同様に電池用セパレータを得た。
【0064】
(比較例7)
表1で示した材料や条件に変更した以外は実施例1と同様に電池用セパレータを得た。
【0065】
(比較例8)
実施例17の混合液に水溶性ポリアクリルアミドを加えずに、マスターバッチ液へ実施例17と同じ水溶性ポリアクリルアミド1.1重量部を加えた以外は、実施例17と同様に電池用セパレータを得た。
【0066】
(比較例9)
表1で示した材料や条件に変更した以外は実施例1と同様に電池用セパレータを得た。
【0067】
(比較例10)
まず、比較例6と同様に多孔層用塗工液Aを得た。次に、比較例6の沈降性硫酸バリウムを沈降性硫酸バリウム(粒子径D50=5.0μm)に変えた以外は、比較例6と同様に多孔層用塗工液Bを得た。多孔層用塗工液Aと多孔層用塗工液Bを重量比A:B=90:10で混合し、ディスパー型の羽根を取り付けた撹拌機(新東科学株式会社製、スリーワンモーター)にて1000rpmで20分撹拌して多孔層用塗工液Cを得た。実施例1の多孔層用塗工液を多孔層用塗工液Cに変え、多孔層の厚さを6μmに変えた以外は、実施例1と同様に電池用セパレータを得た。
【0068】
【0069】
【0070】
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の電池用セパレータは、ニッケル-水素電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-亜鉛電池、銀-亜鉛電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、及びリチウム-硫黄電池等の二次電池等の電池用セパレータとして用いることができる。特に、リチウムイオン二次電池のセパレータとして用いるのが好ましい。
【符号の説明】
【0072】
1:巻回機の巻芯
2:電池用セパレータの多孔層
3:電池用セパレータのポリオレフィン微多孔膜
4:負極
5:正極
6:電池用セパレータ
7:電池用セパレータ、正極、負極を巻回した際の湾曲部
A、B:電池用セパレータの幅方向端部と正極の幅方向端部の距離
【要約】
ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に無機粒子を含む多孔層を有し、前記多孔層の表面に無機粒子を多数含む隆起部を有し、かつ130℃/1hにおける熱収縮率が0%以上2%以下である電池用セパレータ。耐熱収縮性に優れ、かつ電池の巻回時に電極とセパレータの巻きずれが少ないセパレータを提供する。