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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】紫外線照射装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/12 20060101AFI20230620BHJP
   A61L 2/10 20060101ALI20230620BHJP
   A61L 9/20 20060101ALI20230620BHJP
   C02F 1/32 20230101ALI20230620BHJP
【FI】
B01J19/12 C
A61L2/10
A61L9/20
C02F1/32
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019021951
(22)【出願日】2019-02-08
(65)【公開番号】P2020127924
(43)【公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 直人
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 篤史
(72)【発明者】
【氏名】杉山 聖
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-034101(JP,A)
【文献】特開2017-140560(JP,A)
【文献】特開2017-060668(JP,A)
【文献】特表2016-523594(JP,A)
【文献】特開2019-098055(JP,A)
【文献】特開2019-187659(JP,A)
【文献】特開2019-187658(JP,A)
【文献】特開2017-104230(JP,A)
【文献】特開2017-104773(JP,A)
【文献】特開2018-134607(JP,A)
【文献】特表2014-530027(JP,A)
【文献】特開2000-126589(JP,A)
【文献】特開2016-221486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00-19/32
A61L 9/00- 9/22
A61L 2/00- 2/28
C02F 1/30- 1/38
F24F 8/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と、
前記筒状部を収容するケース部と、
前記筒状部の外周面と前記ケース部の内周面との間に密着して設けられ少なくとも前記ケース部の内周面と接する部分が弾性部材で形成された環状の部材と、
前記筒状部と前記ケース部との間の筒状の隙間のうちの前記部材よりも前記筒状部の一端側の領域である第一室と、
前記筒状部と前記ケース部との間の筒状の隙間のうちの前記部材よりも前記筒状部の他端側の領域である第二室と、
前記第一室に対象物を流入する流入部と、
前記第二室から前記対象物を流出させる流出部と、
前記筒状部の前記一端側又は前記他端側の少なくとも一方に設けられ、前記処理流路を通過する前記対象物に向けて紫外光を照射する発光素子と、
前記筒状部の、前記発光素子側の端部寄りの位置に設けられ、径方向を向き、前記筒状部を貫通する連通口と、
前記筒状部の前記一端側の開口部に固定され、前記筒状部内に流入される前記対象物を整流するための円盤状の板と、
前記対象物が前記処理流路にあることを検出する流体検知器と、
前記流体検知器の検知信号に基づき前記発光素子を駆動制御する制御部と、
を備える紫外線照射装置。
【請求項2】
前記部材は、前記筒状部の外周面と前記ケース部の内周面との間に設けられた弾性部材である請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
前記部材は、前記筒状部の外周面に当該筒状部と一体に形成され、前記部材の外周面に環状の弾性部材が設けられている請求項1又は請求項2に記載の紫外線照射装置。
【請求項4】
前記処理流路の前記対象物は、前記連通口のみを介して前記第二室に流出する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項5】
前記筒状部の外周面の静止摩擦係数は、前記ケース部の内周面の静止摩擦係数よりも小さい請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項6】
前記筒状部の外周面の静止摩擦係数は、前記ケース部の内周面の静止摩擦係数の1/2以下である請求項5に記載の紫外線照射装置。
【請求項7】
前記処理流路の最上流部から最下流部までの断面積の変化量は、5%以下である請求項1から請求項のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項8】
前記筒状部の前記第一室を含む位置における、前記長手方向と直交する断面において、前記第一室の断面積が前記処理流路の断面積の1/10以上1以下である請求項1から請求項のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項9】
前記筒状部が、拡散透過率が1〔%〕/1〔mm〕以上20〔%〕/1〔mm〕以下であり、且つ紫外線領域における全反射率が80〔%〕/1〔mm〕以上99〔%〕/1〔mm〕以下である紫外線反射性材料で形成されている請求項1から請求項のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項10】
前記拡散透過率と前記紫外線領域における全反射率との和が90〔%〕/1〔mm〕以上である請求項に記載の紫外線照射装置。
【請求項11】
前記紫外線反射性材料として、ポリテトラフルオロエチレン、シリコン樹脂、内部に0. 05〔μm〕以上10〔μm〕以下の気泡を含む石英ガラス、内部に0.05〔μm〕以上10〔μm〕以下の結晶粒を含む部分結晶化石英ガラス、0.05〔μm〕以上10〔μm〕以下の結晶粒状のアルミナ焼結体、0.05〔μm〕以上10〔μm〕以下の結晶粒状のムライト焼結体のうちの少なくともいずれか一つを含む請求項又は請求項10に記載の紫外線照射装置。
【請求項12】
前記筒状部の肉厚が1〔mm〕以上20〔mm〕以下である請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項13】
紫外線照射装置は流体殺菌モジュールである、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項14】
前記流入部は、ポリオレフィンで形成されている請求項1から請求項13のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項15】
前記対象物は、液体である請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項16】
前記流体検知器は歯車式である、請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項17】
前記流体検知器は電磁式である、請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項18】
前記流体検知器は超音波式である、請求項1から請求項15のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項19】
前記流体検知器は、前記検知信号として、単位時間当たりに前記処理流路を通過する前記対象物の量に応じて変化する信号を出力する、請求項1から請求項18のいずれか一項に記載の紫外線照射装置。
【請求項20】
前記制御部は、前記検知信号に基づき前記紫外光の強度を調整する、請求項19に記載の紫外線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体検知器を備えた紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線には、殺菌能力があることから、水等の流体に紫外線を照射することで、流体を連続的に殺菌する装置が提案されている。
このような装置においては、従来、紫外線光源として、水銀ランプやキセノンランプ等の管球が用いられている。また、殺菌を行うことの可能な波長の光を照射することのできるLED(light emitting diode)を紫外線光源とした流体殺菌装置も提案されている。
例えば、殺菌対象物を、積分球の中空部を通過させ、中空部で紫外線照射を行うことで、殺菌処理を行うようにした殺菌装置(例えば、特許文献1参照。)、また、長手方向に延びる流路を構成する直流管内を流れる流体に向けて、長手方向に紫外光を照射するようにした流体殺菌装置等も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5432286号公報
【文献】特許第6080937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、積分球の中空部を、紫外線照射を行う処理流路として用いる方法にあっては、処理流路は曲面で囲まれているため、加工時間が長くなり、工業上の経済性が悪い。
また、直流管を用いた、断面積の変わらない処理流路を持つ流体殺菌装置の場合、シンプルな構造要素で形成されるため、生産性は良いが、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)を構造材として用いた場合には塑性変形やクリープ破壊を起こすため、耐久性の低い殺菌装置になる。
【0005】
また、紫外線照射を行うことにより流路を流れる流体の殺菌を行うことができるが、紫外線照射に伴い直流管等で形成される処理流路等の劣化も進む。また、紫外線の照射時間が長いほど紫外線を照射する光源の寿命も短くなる。本発明者らは、紫外線照射装置の寿命の観点や、コスト削減の観点等から、必要以上の紫外線照射を行うことを抑制し、効率よく紫外線照射を行うことができ、耐久性の高い紫外線照射装置を検討した。
この発明は、従来の未解決の課題に着目してなされたものであり、効率よく紫外線照射を行うことができ且つ耐久性の高い紫外線照射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る紫外線照射装置は、長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と、筒状部を収容するケース部と、筒状部の外周面とケース部の内周面との間に密着して設けられ少なくともケース部の内周面と接する部分が弾性部材で形成された環状の部材と、筒状部とケース部との間の筒状の隙間のうちの部材よりも筒状部の一端側の領域である第一室と、筒状部とケース部との間の筒状の隙間のうちの部材よりも筒状部の他端側の領域である第二室と、第一室に対象物を流入する流入部と、第二室から対象物を流出させる流出部と、筒状部の一端側又は他端側の少なくとも一方に設けられ、処理流路を通過する対象物に向けて紫外光を照射する発光素子と、筒状部の、発光素子側の端部寄りの位置に設けられ、径方向を向き、筒状部を貫通する連通口と、筒状部の一端側の開口部に固定され、筒状部内に流入される対象物を整流するための円盤状の板と、対象物が処理流路にあることを検出する流体検知器と、流体検知器の検知信号に基づき発光素子を駆動制御する制御部と、を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、効率よく紫外線照射を行うことができ且つ耐久性の高い紫外線照射装置を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る紫外線照射装置を適用した流体殺菌モジュールの一例を示す概念図である。
図2】(a)は図1の縦断面図、(b)は図1のA-A′線端面図である。
図3】拡散透過率の測定に用いる装置の一例である。
図4】整流用の板の一例を示す平面図である。
図5】殺菌エリアの長さと殺菌に必要な紫外線のドーズ量との関係を示す特性図の一例である。
図6】本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュールの変形例である。
図7】紫外線の透過状況を説明するための説明図である。
図8】本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュールの変形例である。
図9】実施例A1における流体殺菌モジュールの概略を示す構成図である。
図10】実施例A2における流体殺菌モジュールの概略を示す構成図である。
図11】実施例A3における流体殺菌モジュールの概略を示す構成図である。
図12】比較例A1における流体殺菌モジュールの概略を示す構成図である。
図13】比較例A2における流体殺菌モジュールの概略を示す構成図である。
図14】流体シミュレーション結果の一例である。
図15】流体殺菌モジュール内における流速分布のシミュレーション結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
図1及び図2は、本発明に係る紫外線照射装置を適用した流体殺菌モジュールの一例を示す概念図である。また、図2(a)は図1の縦断面図、図2(b)は図1のA-A′線端面図である。
流体殺菌モジュール1は、図1に示すように、殺菌処理部2と、発光部3と、流入部4と、流出部5と、流体検知器6と、制御部7と、を備える。
殺菌処理部2は、図2(a)に示すように、内筒(筒状部)21と、内筒21を収容するケース部22と、内筒21の一端側の開口部に固定され、内筒21内に流入される流体を整流するための円盤状の板23と、内筒21とケース部22との間に配置され、内筒21とケース部22との間の隙間を区画する部材(環状の部材)24とを備える。
【0012】
内筒21は、両端が開口された筒状に形成され、肉厚が1〔mm〕以上20〔mm〕以下であることが好ましい。また、内筒21は、紫外線反射性材料で形成され、この紫外線反射性材料は、拡散透過率が1〔%〕/1〔mm〕以上20〔%〕/1〔mm〕以下であり、且つ紫外線領域における全反射率が80〔%〕/1〔mm〕以上99〔%〕/1〔mm〕以下である。拡散透過率と紫外線領域における全反射率との和は90〔%〕/1〔mm〕以上であることが好ましい。内筒21に適用される紫外線反射性材料としては、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene PTFE)、シリコン樹脂、内部に0.05〔μm〕以上10〔μm〕以下の気泡を含む石英ガラス、内部に0.05〔μm〕以上10〔μm〕以下の結晶粒を含む部分結晶化石英ガラス、0.05〔μm〕以上10〔μm〕以下の結晶粒状のアルミナ焼結体、及び0.05〔μm〕以上10〔μm〕以下の結晶粒状のムライト焼結体等のうちの少なくともいずれか一つを含むものを挙げることができる。
【0013】
ここで、内筒21として、拡散反射性の材料を用いる場合、材料自体での紫外線の吸収は無いと仮定すると、内筒21の一端側に設けられた発光部3による照射光の少なくとも一部は、内筒21の他端側まで透過するように設定している。このときの透過率が、20〔%〕/1〔mm〕より大きいと、有効な紫外線反射量を増やすために内筒21の肉厚として非常に厚い素材が必要になる。そのため、流体殺菌モジュール1全体が大きくなったり、適切な流路設計が困難になったりするばかりでなく、深層から反射を制御しなくてはならなくなり、光学的な設計も困難になる。散乱体の光学密度が高く、透過率が低いことは一般的に望ましいが、非多孔質の場合は、結晶部と非晶部等、材料内部の粗密差が散乱体となるため、1〔%〕/1〔mm〕を下回る構造とすることは困難である。多孔質の場合には1〔%〕/1〔mm〕を下回る構造は可能であるが、後述の処理流路21dが殺菌対象物(以下、単に対象物ともいう。)に接触するため、菌類の温床となる微細な穴構造を提供してしまうことになり、内筒21の構成部材としてふさわしくない。
【0014】
また、紫外線領域における全反射率は80〔%〕/〔mm〕以下では有効な紫外光線の多重反射効果を得ることが出来ない。全反射率は高ければ高いほど望ましいが、非多孔質の場合は、結晶部と非晶部等、材料内部の粗密差が散乱体となるため、全反射率を99〔%〕/1〔mm〕を上回る構造とすることは困難である。多孔質の場合には99〔%〕/1〔mm〕を上回る構造は可能であるが、処理流路21dが対象物に接触するため、菌類の温床となる微細な穴構造を提供してしまうことになり、内筒21の構成部材としてふさわしくない。
【0015】
さらに、拡散透過率と紫外線領域における全反射率との和が90〔%〕/1〔mm〕以下、すなわち、内部で吸収されるエネルギが10〔%〕以上である素材は、有効な紫外光線の多重反射効果を得ることが出来ないため、処理流路21dの構成部材としてふさわしくない。
なお、拡散透過率は、紫外線反射性材料をスライスした板状サンプルを用いて測定する。具体的には、例えば紫外線反射性材料としてPTFEの拡散透過率を測定する場合には、以下の手順で行う。
すなわち、PTFEは、拡散性を有する材料であるため、通常の直線光を用いた透過率測定では適切に測定することが困難である。そのため、積分球を用いた拡散透過率の測定を行う。この積分球を用いた拡散透過率の測定は、例えば図3に示すように、懸濁性物質の拡散透過率を測定する際に一般的に用いられる分光光度計等を用いて行えばよい。
なお、図3において、101は板状サンプル、102は検出器、103は測定光、104は対照光、105は標準白板である。
【0016】
図2に戻って、内筒21は、その外周面の静止摩擦係数が、ケース部22の内周面の静止摩擦係数よりも小さい材料で形成されることが好ましい。つまり、内筒21とケース部22との間の隙間からなる後述の第一室26において、第一室26の内周側の壁面を形成する内筒21の外周面の静止摩擦係数が、第一室26の外周側の壁面を形成するケース部22の内周面の静止摩擦係数よりも小さいことが好ましい。このような構成であれば、バイオフィルムが発生する状況では、第一室26の外周側の壁面の方が第一室26の内周側の壁面よりも先にバイオフィルムが発生する。第一室26の外周側の壁面つまり、ケース部22の内周面に付着したバイオフィルムは外側から懐中電灯等を当てると影ができることで、その存在を確認できる。そのため、第一室26内におけるバイオフィルムの発生を容易に検出することができると共に、第一室26内全体にバイオフィルムが発生する前の、第一室26の外周側の壁面、つまりケース部22の内周面側にバイオフィルムが発生した段階で、バイオフィルムの発生を検出することができる。そのため、バイオフィルムによるリスクの発生を抑制することができる。
【0017】
なおバイオフィルムによるリスクをより低減するため、内筒21の外周面の静止摩擦係数は、ケース部22の内周面の静止摩擦係数の1/2以下であることが好ましい。また、内筒21の外周面の静止摩擦係数は、ケース部22の内周面の静止摩擦係数の1/10以下であることがより好ましい。
表1、表2に、樹脂の摩擦係数を示す。表1は、代表的な樹脂の摩擦係数を示したものである。表2は、フッ素樹脂の静止摩擦係数及び動摩擦係数を示したものである。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
図2(a)に戻って、内筒21の、発光部3側の端部寄りの位置には、周方向の例えば60度離れた6箇所に、径方向を向き、内筒21を貫通する連通口21aが形成されている。なお、連通口21aの配置位置及び配置数はこれに限るものではない。
連通口21aの形状は、機械加工の観点から、断面が円形であることが望ましい。連通口21aの形状は断面が円形である場合に限るものではなく、任意の形状とすることができる。また、連通口21aの直径は処理流路21dの直径の1/100以上1/4以下であることが望ましく、1/20以上1/5以下であることがさらに望ましい。
連通口21aの配置位置は、発光部3側の端部から処理流路21dの発光部3とは反対側の端部に向かって少しずれた位置が望ましい。具体的には、連通口21aの開口部における中心位置と処理流路21dの発光部3側の端部との間の距離が、処理流路21dの直径の1/20以上直径以下となる、処理流路21dの発光部3とは逆側の端部寄りとなる位置であることが望ましい。連通口21aの配置位置は、より好ましくは処理流路21dの直径の1/10以上1/4以下となる処理流路21dの逆側の端部寄りとなる位置である。
【0021】
内筒21の、内筒21が延びる方向の中央部分の外周面には、部材24と嵌合する溝21bが形成されている。溝21bの断面は例えば矩形状である。
内筒21の発光部3とは逆側の端部の内周面には板23と嵌合する段差部21cが形成されている。そして、内筒21の中空部が処理流路21dを形成している。
なお、処理流路21dは、処理流路21d内で対象物の流速のむらを抑制するという観点から、処理流路21dの最上流部、つまり、内筒21の内周面の板23側の端部から内筒21の内周面の発光部3側の端部までの間の、主たる断面積の変化量は5%以下であることが好ましい。また、処理流路21dは円筒でなくともよい。
【0022】
ケース部22は、例えば、ポリオレフィン、具体的にはポリプロピレン又はポリエチレンで形成され、一端が閉じ、他端が開放された、断面が円形の筒状を有する。ケース部22の開放端の外周面にはフランジ部22aが形成される。また、ケース部22の開放端の内周面には段差部22bが形成されている。
ケース部22の開放端とは逆側の閉端には、ケース部22の内側に向いて突出する凸部22αが形成されている。凸部22αは、周方向の例えば120度離れた3箇所に設けられている。なお、凸部22αの配置位置また配置数はこれに限るものではなく、要は、後述のように板23を固定することができればよい。
【0023】
ケース部22の閉端寄りの外周面には、円筒状の中空部を内部に有する流入部4がケース部22と一体に形成され、ケース部22の開放端寄りの外周面には、円筒状の中空部を内部に有する流出部5がケース部22と一体に形成されている。流入部4の中空部の開口部が流入口4aとなり、流出部5の中空部の開口部が流出口5aとなる。
流入部4及び流出部5は、それぞれの中空部を対象物が流れる方向と、ケース部22の長手方向とが直交するように形成されることが好ましい。
流入部4は、内筒21の、段差部21c側の外周面の端部との間の距離が、流入口4aの流入口相当半径以上、処理流路21dの処理流路長の2/3以下の距離だけ、内筒21の連通口21a側の端部寄りとなる位置に形成される。
流出部5は、連通口21aからの距離が、流出口5aの流出口相当半径以上、処理流路長の2/3以下の距離だけ、内筒21の、段差部21c側の端部寄りとなる位置に形成される。
【0024】
流入部4及び流出部5をそれぞれこのような範囲内に形成することによって、処理流路21dにおいて、流速が極端に速い部分の発生を抑制することができる。
なお、流入部4の配置位置は、内筒21の、段差部21c側の外周面の端部との間の距離が、処理流路21dの相当内径(以下、処理流路相当内径ともいう。)の1/2以上、処理流路長の2/3以下の距離だけ、内筒21の、連通口21a側の端部寄りとなる位置がより好ましく、処理流路相当内径の3/4以上、処理流路長の2/3以下の距離だけ、内筒21の、連通口21a側の端部寄りとなる位置がさらにより好ましい。
【0025】
同様に、流出部5の配置位置は、連通口21aからの距離が、処理流路相当内径の1/2以上、処理流路長の2/3以下の距離だけ、段差部21c側の端部寄りとなる位置がより好ましく、処理流路相当内径の3/4以上、処理流路長の2/3以下の距離だけ、段差部21c側の端部寄りの位置がさらにより好ましい。
なお、流入部4及び流出部5の配置位置が、処理流路長の2/3を上回る位置となると、流入部4及び流出部5を配置する設計自由度が低くなるため、処理流路長の2/3以下の範囲が好ましい。
板23は、PTFE等の紫外線反射性材料で形成される。板23は、図4の平面図に示すように、表裏間を通じる開口孔23aを複数有し、開口率は、0.05以上0.8以下に設定される。また、各開口孔23aの相当直径は、0.5〔mm〕以上、処理流路21dの処理流路相当内径の1/3以下に設定される。
【0026】
開口率を0.05以上0.8以下とすることによって、第一室26及び後述の第二室27を設けない場合に比較して、より整流効果を得ることができる。つまり処理流路21dにおける対象物の流速のばらつきを抑制することができる。開口率は、0.05以上0.6以下であることが好ましく、0.05以上0.35以下であることがより好ましい。なお、開口率が0.05を下回ると、処理流路21dの大きさに対して最大処理流量が少なくなるため、開口率は0.05以上であることが好ましい。
なお、ここでは、第一室26から処理流路21dに流入される対象物の流れを制御する目的で板23を設けているが、整流用の板23に限るものではなく、整流することの可能な整流機構を設ければよい。また、要求される殺菌効果を得ることができるのであれば、整流用の板23つまり整流機構を必ずしも設けなくともよい。
【0027】
図2に戻って、部材24は、例えば、バイトン(登録商標)等のフッ素ゴムで形成される。部材24は、円環状に形成され、内周面側には、内筒21に形成された溝21bと嵌合する凸部24aが形成されている。部材24の外周面側には断面が半円の環状の凸部24bが幅方向に複数(例えば3つ)形成されている。
また、部材24は、径方向の肉厚によって、内筒21とケース部22と密着し、且つこれらの間に予め設定した一定の隙間を形成する形状を有する。
そして、内筒21とケース部22との間の隙間において、部材24で区分けされた区画のうちの、ケース部22の閉端側の領域が、流入部4と処理流路21dとの間に設けられ、内筒21の、段差部21c側の開口部と連通する、流入側の整流室となる第一室26を形成している。また、部材24で区分けされた区画のうちの、ケース部22の開放端側の領域が、流出部5と処理流路21dとの間に設けられ、連通口21aを介して処理流路21dと連通する、流出側の整流室となる第二室27を形成している。
【0028】
このとき、第一室26の内容積は、処理流路21dの処理流路相当内径の三乗の2/3(約67〔%〕)以上、処理流路21dの処理流路内容積の3倍以下に設定される。第一室26の内容積を、このような範囲とすることによって、第一室26及び第二室27を設けない場合に比較して、より整流効果を得ることができる。なお、第一室26の内容積は、処理流路相当内径の三乗の75〔%〕以上、処理流路内容積の2倍以下とすることがより好ましく、処理流路相当内径の三乗の85〔%〕以上、処理流路内容積以下であることがより好ましい。第一室26の内容積を大きくしすぎると、流体殺菌モジュール1全体のサイズが処理流量に対して大きくなり過ぎるため、第一室26の内容積は処理流路内容積の3倍以下であることが好ましい。
【0029】
また、図2(b)に示す第一室26の断面積A26は、処理流路21dの断面積A21の1/10以上1以下であることが好ましく、より好ましくは、1/10以上1/2以下に設定される。第一室26の断面積A26が、処理流路21dの断面積A21よりも大きい場合には、流体殺菌モジュール1として機能させることが困難であり、断面積A26が断面積A21よりも大きいとバイオフィルムの発生を十分に抑制することが困難となる。
【0030】
つまり、流体殺菌モジュール1における殺菌処理の処理流量が2〔L/min〕であるときに殺菌に必要な断面積つまり処理流路21dの断面積A21がA21>3.14〔cm〕であり、バイオフィルムの発生防止に必要な第一室26の断面積A26がA26<1.53〔cm〕であるとする。これらの相対値が流量に比例すると考えられるため、処理流量がX〔L/min〕であるときには、殺菌に必要な処理流路21dの断面積A21は、A21>1.57×X〔cm〕であり、バイオフィルムの発生防止に必要な第一室26の断面積A26は、A26<0.76×X〔cm〕と表すことができる。したがって、「殺菌に必要な断面積A21÷バイオフィルム発生防止に必要な断面積A26」が2.06よりも大きい((A21/A26)>2.06)ことが好ましい。なお、処理流路21dの長さは対象物の透過率によって決まり、目的処理流量には因らない。
【0031】
図5は、殺菌エリアの長さ、つまり、処理流路21dの長さと、流体に吸収され殺菌に利用される紫外線のドーズ量(積算照射量)との関係を示す特性図である。図5において横軸は殺菌エリアの長さ〔mm〕、縦軸は紫外線のドーズ量(積算照射量)〔mJ/cm〕を示す。各特性線は、処理流路21dの内径及び処理流路21dの反射率が異なる。処理流路21dの内径と、処理流路21dの反射率とが決まれば、図5から処理流路21dの長さ及び紫外線のドーズ量(積算照射量)を決定することができる。つまり、バイオフィルムの発生を防止する流速と、一定の殺菌能力を担保するドーズ量とを両立することで、長期的に安定した殺菌能力を提供することができる。
【0032】
なお、部材24は、フッ素ゴムに限るものではなく、内筒21とケース部22との間の隙間において、ケース部22の閉端側と開放端側との間を対象物が行き来しないように区画することができ、耐久性があればどのような材料で形成されていてもよい。
また、部材24に設けられた凸部24bは3つでなくともよく複数備えていればよい。凸部24bを複数備えることによって、内筒21とケース部22とを安定して固定することができる。凸部24bは、幅方向に例えば等間隔で配置されていればよく、要は、凸部24bの配置位置が偏ること等により、内筒21とケース部22との間隔が不均一となることがなく、均等となる位置に配置すればよい。
なお、ここでいう、相当内径又は相当直径とは、「流路断面積の四倍/流路断面周長」のことをいう。
また、相当半径とは、「流路断面積の二倍/流路断面周長」のことをいう。
また、整流室とは、処理流路と外部装置との間に配置され、流体殺菌モジュール1と外部装置との間で対象物の授受を行うための流入口及び流出口を有し、処理流路相当内径に対して、1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上の相当内径を有する空間のことをいう。
【0033】
図2(a)に戻って、発光部3は、窓部(開口部全体を塞ぐ部品)31と、素子部32とを備える。
窓部31は、例えばステンレス等で形成され、ケース部22のフランジ部22aの外径と同一の外径を有する円環状に形成される。窓部31の内周面には、第一段差部31aと、第一段差部31aよりも直径の大きい第二段差部31bとが形成され、第二段差部31bに、例えば石英ガラス等の紫外線透過性素材からなる円盤状の窓33が窓部31の素子部32側の表面と面一となるように嵌め込まれている。
素子部32は、例えばステンレス等で形成され、窓部31の外径と同一の外径を有する円環状に形成される。素子部32の窓部31と対向する面には、平面視で円形の凹部32aが形成されている。UVC-LED(深紫外LED)等の発光素子34aとこの発光素子34aが実装された基板34bとを含む光源34は、発光面が窓33と対向するように凹部32aに固定される。光源34は、光源34からの照射光の光軸と、処理流路21dの長手方向の中心軸とが一致するように配置される。
【0034】
素子部32の窓部31とは逆側の面には、流体殺菌モジュール1を駆動制御する制御部7が搭載された制御基板(図示せず)を固定するための凹部32bが形成されている。
殺菌処理部2と発光部3とは、ケース部22のフランジ部22aの部分で、貫通ボルト25により一体に固定されている。
このとき、段差部22bには、ゴム等の弾性部材からなるOリング22cが設けられると共に、内筒21の連通口21a側の端部と窓部31との間に弾性部材からなる円環状の弾性シート22dが設けられ、対象物が窓部31とケース部22との接触部分から外部に漏れだすことを防止している。弾性シート22dとなる弾性部材としては、シリコン樹脂エラストマー、フッ素樹脂エラストマー等のエラストマーを適用することが好ましい。
【0035】
また、内筒21の連通口21a側の端部と窓部31との間に弾性シート22dを介在させた状態で貫通ボルト25で固定することにより、内筒21の段差部21cに設けられた板23を凸部22αによって押圧し、凸部22αと段差部21cとで挟み込むことによって板23を段差部21cに固定するようになっている。
また、窓部31の第一段差部31aと窓33との間にゴム等の弾性部材からなるOリング31cが設けられ、対象物が窓部31と窓33との接触部分から外部に漏れだすことを防止している。
内筒21の端部と、窓部31の、弾性シート22dを介して内筒21の端部と対向する領域との間の隙間は、機械加工の精度等の観点から、25〔μm〕以下に設定できる。さらに10〔μm〕以下であれば、対象物としての水等の表面張力によって、実質的に漏洩することがなくなる。
【0036】
図1に戻って、流体検知器6は、流入口4aに連通する流入配管61に設けられる。流体検知器6は、流入配管61を通過する流体の流れを検知し、検知したことを表す電気信号からなる検知信号を制御部7に出力する。流体検知器6は、歯車式、超音波式、電磁式等、いずれの検知方式であっても適用することができる。また、流体検知器6は、流入配管61を通過する流体の流れを検知することができればよく、流入配管61を流れる流体の速度、粘度、温度等に応じて適用する流体検知器の方式を選定すればよい。
【0037】
制御部7は、流体検知器6からの検知信号に基づき光源34を駆動制御すると共に、流体殺菌モジュール1全体の制御を行う。制御部7では、具体的には、流体検知器6で流体の流れを検知したとき光源34を起動し、流体検知器6で流体の流れを検知しなくなったとき光源34を停止させる。
なお、流体検知器6と制御部7との間は有線で接続されていてもよく無線で接続されていてもよい。また、制御部7は、実際には、前述のように図2(a)に示す凹部32bに制御基板に搭載されて設けられているが、図1では、説明のため制御部7を明示している。
【0038】
〔動作〕
次に、上記実施形態の動作を説明する。
流入配管61を介して処理流路21d内に殺菌対象物が流入されていないときには、流入配管61に設けられた流体検知器6では、流体の流れを検知しない。制御部7では、流体検知器6からの検知信号を入力し、流入配管61を通過する流体の流れが検知されないときには、処理流路21d内の対象物が静止していると判断して、光源34を動作させない。
一方、流入配管61を通して処理流路21d内に殺菌対象物が流入される状態となると、流体検知器6では流体の流れを検知する。そのため、制御部7では、流体検知器6で流入配管61を通過する流体の流れが検知されたことから、処理流路21d内の対象物が流動していると判断し、光源34を起動する。そのため、流入配管61を通して処理流路21d内を通過する殺菌対象物に対して紫外線照射が行われる。
この状態から、流体検知器6で流体の流れを検知しない状態となると、制御部7では光源34を停止させる。これにより、紫外線照射が停止する。
【0039】
〔流体検知器6を設けることによる効果〕
(1)本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1は、流入配管61を通過する流体の流れを検出する流体検知器6を設け、流体検知器6の検知信号に基づき、処理流路21d内の殺菌対象物が流動しているとみなされる状態となったときに紫外線照射を行い、流入配管61を通る流体の流れを検知できない状態となると紫外線照射を停止するようにしている。そのため、処理流路21d内の殺菌対象物が静止している状態で紫外線照射が行われることを回避することができ、その分、不要な紫外線照射を行うことを回避することができる。その結果、紫外線照射を効率よく行うことができ、流体殺菌モジュール1の寿命を伸ばすことができ、また、コスト削減を図ることができる。
【0040】
(2)本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1は、流体検知器6を、流入配管61に設け、流入配管61を通過する流体の流れを検知するようにしている。そのため、実際に処理流路21d内に対象物が流入される以前の時点で光源34を起動させることができる。その結果、処理流路21d内に実際に対象物が流入された時点から対象物に対して紫外線照射を行うことができる。つまり、流体検知器6で流体の流れを検知した時点から実際に紫外線照射が開始されるまでのタイムラグを考慮して光源34を駆動することができる。そのため、処理流路21d内に流入される対象物に対し、より一層漏れが生じることなく紫外線照射を行うことができ、殺菌効果を向上させることができる。
【0041】
「流体検知器6が流体の流れを検知した時点から実際に紫外線照射が開始されるまでの所要時間」が、「“流体検知器6の配置位置から処理流路21dの紫外線照射が可能な地点までの体積”を“単位時間当たりの殺菌対象物の流量”で割り算した値」以下、という配置条件、を満足すれば、処理流路21d内に対象物が流入された初期の段階から対象物に対する殺菌を行うことができる。したがって、前記配置条件、つまり、「流体検知器6が流体の流れを検知した時点から実際に紫外線照射が開始されるまでの所要時間」が「流体検知器6で検出された流体が処理流路21d内の紫外線照射が可能な地点に到達するまでの所要時間」以下となるように流体検知器6を配置すれば、処理流路21d内に流入される対象物に対し、より確実に紫外線照射を行うことができる。
【0042】
〔流体検知器6を設ける場合の変形例〕
(1)上記実施形態においては、流入配管61を流れる流体の有無を検知するセンサを用いているが、流体検知器6は、単位時間当たりに流入配管61を流れる流体量に応じた信号を出力するセンサであってもよい。
流体検知器6が、単位時間当たりに流入配管61を流れる流体量に応じた信号を出力するセンサである場合には、制御部7において、単位時間当たりの流体量に応じて、光源34の紫外線照射量、すなわち紫外光の強度を調整するようにしてもよい。つまり、単位時間当たりの流体量が多いときには紫外線照射量を増加させ、単位時間当たりの流体量が少ないときには紫外線照射量を減少させるようにしてもよい。このようにすることによって、処理流路21d内に流入される対象物の量に応じた、より過不足のない紫外線照射量で照射することができる。そのため、不要な紫外線照射を行うことをより一層抑制することができる。また、流体検知器6によって、対象物の流速を検出するようにし、流速に応じて紫外線照射量を調整するように構成してもよい。
【0043】
(2)上記実施形態では、流体検知器6により、流入配管61を通過する流体の流れを検知する場合について説明しているが、流入配管61を流れる殺菌対象物が粉体等流体でない場合には、殺菌対象物が流入配管61を流れていることを検知することができるセンサを適用すればよい。
【0044】
(3)上記実施形態においては、流体検知器6により、流入配管61を通過する流体の流れを検知する場合について説明したがこれに限るものではない。例えば、図6に示すように、流出口5aに連通する流出配管62に流体検知器6を設け、制御部7では、流出配管62を通過する流体の流れに応じて、光源34を制御するようにしてもよい。具体的には制御部7では、流出配管62を通過する流体の流れを検知したときには、処理流路21d内の対象物が流動しているとみなして光源34を駆動し、流出配管62を通過する流体の流れを検知しないときには処理流路21d内の対象物が静止しているとみなして光源34を停止させる。
【0045】
この場合も不要な紫外線照射を行うことを回避することができる。また、流体検知器6は、流出配管62を通過する流体が検知されなくなった時点で紫外線照射を停止するようにしているため、流体検知器6を通過した流体は、紫外線照射が行われた後の流体である。つまり、流体検知器6を通過する流体は殺菌済みである。ここで、流体検知器6が、流出配管62を通過する流体と接触して流体の有無を検知する型式のセンサである場合、流体検知器6に対象物が接触することによって、流体検知器6にバイオフィルム等が生じる可能性がある。しかしながら、流体検知器6を通過する流体は、紫外線照射が行われた後の流体であるため、流体検知器6にバイオフィルム等が生じるリスクを低減することができる。また、流体検知器6を通過する流体は既に紫外線照射が行われた後であるため、流体検知器6は、流出配管62の流出口5aにより近い位置に設けることが好ましい。このようにすることによって、紫外線照射を行うべき対象物に対する紫外線照射が終了した後、より早い時点で紫外線照射を停止することができるため、不要な紫外線照射を行うことをより早い段階で終了することができる。
【0046】
(4)上記実施形態においては、流体検知器6を、流入配管61及び流出配管62のいずれか一方に配置する場合について説明したが、流体検知器6を流入配管61と流出配管62との両方に設けてもよい。この場合には、制御部7は、流入配管61に設けた流体検知器6で流体の流れを検知した時点で光源34を起動し、流出配管62に設けた流体検知器6で流体の流れが停止したことを検知した時点で光源34を停止させるようにすればよい。このようにすることによって、殺菌対象物に対する殺菌処理を開始する時点及び終了時点ともに的確なタイミングで光源34を起動及び停止することができ、より一層、不要な紫外線照射を行うことを回避することができると共に、流出配管62に設けた流体検知器6の寿命の延長を図ることができる。
【0047】
(5)上記実施形態においては、流体検知器6により、流入配管61を通過する流体の流れを検知する場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、流入配管61内に対象物が存在するか否かを検出するようにしてもよい。同様に、流出配管62内に対象物が存在するか否かを検出するようにしてもよい。つまり、処理流路21d内の対象物が移動しているか否かに関係なく、流入配管61に設けた流体検知器6により流体を検知したときには処理流路21d内に対象物が存在するとみなして光源34による紫外線照射を行い、流体検知器6により流体を検知しないときには処理流路21d内に対象物が存在しないとみなして紫外線照射を停止する。流出配管62に流体検知器6を設けた場合も同様に光源34を制御する。
上記実施形態では流体検知器6により流体の流れを検知しているため、処理流路21d内に対象物が存在していても対象物が移動していなければ、流体検知器6で検知されないため、紫外線照射は行われない。一方、流体検知器6で流体の有無を検知することにより、処理流路21d内に対象物が存在するか存在しないかに応じて紫外線照射を起動及び停止させることができる。
【0048】
〔流体殺菌モジュール1の構成の効果〕
(1)本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1は、内筒21とケース部22との間の隙間を、部材24によって流入部4側と流出部5側とに分割している。そのため、組み付け精度が低い場合であっても、第一室26や第二室27等、流路から対象物が漏れることを低減することができる。また、内筒21とケース部22との間に部材24を介在させることで実現することができるため、製造工程の大幅な増加を伴うことなく実現することができる。また、部材24は、弾性部材で構成されるため、例えば稼動時におけるロバストネスにも優れた流体殺菌モジュールを実現することができる。また、比較的加工しやすい形状をしているため、加工に要する所要時間をより短縮することができる。
【0049】
(2)本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1は、処理流路21dを通過した対象物を、内筒21の発光部3側の端部寄りに設けた連通口21aを介してのみ第二室27に流出させて流出部5から流出させるようにしている。処理流路21dを通過した対象物は全て連通口21aのみを通じて流出されることになる。そのため、流量が変動した場合であっても、この流量の変動に起因して処理流路21d内における流速分布が変動することを抑制することができる。そのため、流速分布が変動することにより殺菌不良が生じることを防止することができる。
【0050】
(3)本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1は、処理流路21dの上流に、一定以上の容積を有する第一室26を設けている。そのため、例えば組み付け精度にばらつきが生じる場合であっても、対象物を、第一室26を介して処理流路21dに流入させることによって、組み付け精度によるばらつきの影響を緩和させることができ、結果的に、処理流路21dにおける対象物の流速のばらつきを抑制することができる。そのため、組み付け精度による個体間のばらつきが抑制された流体殺菌モジュール1を実現することができる。
【0051】
(4)本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1は、第一室26の断面積A26が処理流路21dの断面積A21の1/10以上1以下、より好ましくは1/10以上1/2以下となるようにしている。そのため、処理流路21dにおける殺菌効果を得ることができると共に、第一室26におけるバイオフィルムの発生を防止することができる。
また、内筒21は、その外周面の静止摩擦係数が、ケース部22の内周面の静止摩擦係数よりも小さい材料で形成している。そのため、バイオフィルムの発生を容易に検出することができ、且つ、第一室26内全体にバイオフィルムが発生するよりも前の、ケース部22の内周面側にバイオフィルムが生じた段階でバイオフィルムの発生を検出することができる。そのため、バイオフィルムによるリスク発生の低減に寄与することができる。
ここで、ケース部22側に付着したバイオフィルムは、流体殺菌モジュール1に対する定期的なメンテナンス時に、懐中電灯等の光源をケース部22の外周面に近接させ、ケース部22の内側の反射から汚れ状態を視認することで、発生状況を確認することができる。
【0052】
これに対し、内筒21側は、内筒21とケース部22との間に、流入側の整流室となる第一室26及び流出側の整流室となる第二室27が設けられており、すなわち、屈折率の異なる流体層が存在する。そのため、内筒21側に付着したバイオフィルムは、ケース部22の外側からは視認することはできない。つまり、内筒21側にバイオフィルムが付着していたとしても視認することは困難である。そのため、内筒21側は、ケース部22側よりもバイオフィルムの発生が遅くなる工夫が実用上から非常に重要となる。つまり、ケース部22側にバイオフィルムが付着したことを検出した時点で内筒21側にはバイオフィルムは発生していないと予測されることから、ケース部22側にバイオフィルムが付着したことを検出するタイミングで内筒21についてもバイオフィルムに対する対処を行えばよい。
このように本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1は、第一室26におけるバイオフィルムの発生を抑制することができる。したがって、第一室26を設けることによる殺菌効果の低下を、より小さくすることができる。
【0053】
(5)本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1は、内筒21の肉厚を1〔mm〕以上20〔mm〕以下とし、さらに、内筒21を、拡散透過率が1〔%〕/1〔mm〕以上、20〔%〕/1〔mm〕以下であり、且つ紫外線領域における全反射率が80〔%〕/1〔mm〕以上、99〔%〕/1〔mm〕以下である紫外線反射性材料で形成している。
そのため、発光部3から処理流路21dに向けて照射された紫外光を処理流路21d内に高密度に紫外光を閉じ込めることができ、強い殺菌力を発揮させることができる。また、内筒21は紫外光の一部は透過させるため、処理流路21d内に照射された紫外光は、図7中に符号Zで示すように、内筒21を透過して第一室26及び第二室27内に向けて照射される。つまり、第一室26及び第二室27内の流体に対しても紫外光照射が行われることになるため、これら第一室26や第二室27に溜まっている対象物に雑菌が増殖することを防止することができる。このため、第一室26や第二室27内に対象物が溜まっていたとしても、雑菌の生成を抑えることができ、流動開始時に菌の増殖した対象物が流出されることを抑制することができ、流体殺菌モジュール1の信頼性をより向上させることができる。なお、図7は、図2(a)に示す流体殺菌モジュール1を簡易的に示している。
【0054】
〔流体殺菌モジュール1の構成の変形例〕
上記実施形態においては、流体の殺菌を行う流体殺菌モジュールに適用した場合について説明したが、殺菌対象は、水、水溶液、コロイド分散液等の流体であってもよく、また、空気等の気体や、氷や固体の微粉末等であってもよい。
また、上記実施形態においては、部材24の内周面側には凸部24aを設け、外周面側には複数の凸部24bを設けた場合について説明したが、これに限るものではない。要は、内筒21の外周面に設けた溝21bと嵌合することで、内筒21の延びる方向への部材24の移動を制限することができ、且つ、部材24と内筒21との接触面及び部材24とケース部22との接触面を通して、部材24で区画される一方の側から他方の側へ対象物が移動することを阻止することが可能であって、十分な耐久性を有していれば部材24はどのような形状であってもよい。
【0055】
例えば、図2(a)に示す内筒21に代えて図8に示す内筒21αを用いてもよい。内筒21αは、図8に示すように、内筒21αの延びる方向の中央部の外周面に環状の溝21αaが形成されると共に、溝21αaの両側に環状の凸部21αb、21αcが形成されている。凸部21αb、21αcの高さは、溝21αaの深さよりも大きく、凸部21αb、21αcの外周面とケース部22の内周面とが接するように形成される。また、溝21αaにはゴム等の弾性部材からなるOリング21αdが嵌められている。この内筒21αを、ケース部22に収容することによって、凸部21αb及び21αcの外周面とOリング21αdとがケース部22の内周面と接触し、凸部21αbの流入部4側及び凸部21αcの流出部5側の、ケース部22と内筒21αとの間に隙間が形成される。この凸部21αbの流入部4側の隙間が第一室26を形成し、凸部21αcの流出部5側の隙間が第二室27を形成する。
このような構成を有する内筒21αを用いることによっても、上記と同等の作用効果を得ることができる。
【0056】
また、上記実施形態においては、図2(a)に示すように、内筒21とケース部22との間の隙間を部材24で区分けし、区分けした二つの区画のうち一方の区画を第一室26、他方の区画を第二室27としているがこれに限るものではない。例えば、第一室26及び第二室27をそれぞれ別体として形成するようにしてもよい。
また、上記実施形態においては、発光素子34aを、処理流路21dの板23とは逆側の端部に設けた場合について説明したが、板23側に設けることも可能であり、板23側及び板23とは逆側の両方に設けることも可能である。
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【実施例
【0057】
以下に、本発明に係る紫外線照射装置を用いた流体殺菌モジュール1の実施例を説明する。
〔実施例A〕
本発明に係る流体殺菌モジュール1を適用した実施例A1~A3に示す構成を有する流体殺菌モジュールと比較例A1及びA2に示す構成を有する流体殺菌モジュールとについて、殺菌効率を検出した。
殺菌効率の測定は、25〔℃〕、透過率97〔%/cm〕、E.Coli NBRC3972(1×10〔CFU/ml〕)の溶液を用い、この溶液を2.0〔L/min〕の流速で流入部4から流入させることで行った。また、光源34は二つの発光素子34aを備え、発光素子34aとして、500〔mA〕のパルス電流を供給したとき35〔mW〕の紫外線を出力する光源を用いた。パルス電流での発光測定は熱に因らずに発光素子の光出力を確認するためであり、殺菌は連続電流で連続発光させて行う。殺菌効率として、残留菌〔%〕と、LRV(Logarithm Reduction Value)とを測定した。LRVは、次式(1)で算出される値である。
LRV=-log(殺菌処理済の溶液中の菌数÷原液(溶液)の菌数)……(1)
なお、図9図13では、流体殺菌モジュール1を簡易的に示している。
【0058】
〔実施例A1〕
実施例A1における流体殺菌モジュール1は、図9に示すように、内筒21の流入部4側の端部及び流出部5側の端部に、第一室26と第二室27とを設けたものである。これら第一室26及び第二室27は、それぞれ別体として形成され、内筒21の流入部4側及び流出部5側において、それぞれ開口部及び外周面を囲むように端部寄りの部分にのみ設けられている。また、内筒21の流入部4側の開口部には、板23が設けられている。
【0059】
〔実施例A2〕
実施例A2における流体殺菌モジュール1は、図10に示すように、実施例1における流体殺菌モジュール1において、さらに石英ガラス等で形成される窓33を含む窓部31と内筒21の端面との間に、弾性シート22dを設けたものである。
〔実施例A3〕
実施例A3における流体殺菌モジュール1は、図11に示すように、図2に示す流体殺菌モジュール1に相当する。
【0060】
〔比較例A1〕
比較例A1における流体殺菌モジュール1aは、図12に示すように、実施例1における流体殺菌モジュール1において、連通口21aに変えて、内筒21と、窓部31との間に隙間51を設け、この隙間51を介して処理流路21dを通過した対象物を流出部5から流出させるようにしたものである。
〔比較例A2〕
比較例A2における流体殺菌モジュール1aは、図13に示すように、比較例A1における流体殺菌モジュール1aにおいて、隙間51ではなく、内筒21の窓部31側の端部に、径方向を向く溝部52を設け、窓部31と内筒21の溝部52との間に形成される流路を通して、処理流路21dを通過した対象物を流出部5から流出させるようにしたものである。
【0061】
〔殺菌効率〕
表3に、実施例A1~A3及び比較例A1、A2における殺菌効率の測定結果を示す。
表3からわかるように、残留菌%は、比較例A1、A2における流体殺菌モジュール1aに比較して、実施例A1~A3における流体殺菌モジュール1の方が、大幅に低減されていることがわかる。また、LRVも、比較例A1、A2における流体殺菌モジュール1aに比較して、実施例A1~A3における流体殺菌モジュール1の方が良好であることがわかる。
【0062】
【表3】
【0063】
〔実施例B〕
図14は、本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1の流体シミュレーション結果を示したものである。
図14に示すように、比較的流速が小さい状態(例えば、流速>1〔m/s〕程度)で、第一室26において乱流が発生することが確認できた。つまり、バイオフィルムが生じにくくなることが確認された。なお、図14では、流体殺菌モジュール1を簡易的に示している。
【0064】
〔実施例C〕
本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1において、図2(b)に示す第一室26の断面積A26と処理流路21dの断面積A21との関係を説明するためのシミュレーションを行った。
図15(a)~(c)に示すように、内筒21の外径φD1の異なる3つの流体殺菌モジュール1-1~1-3を用いて、流入部4と第一室26との連通部分における流速を測定した。
各流体殺菌モジュール1-1~1-3において、内筒21の内径φd1はφ20〔mm〕、ケース部22の内径φd2はφ34〔mm〕とした。また、流体殺菌モジュール1-1の内筒21の外径φD1はφ31〔mm〕、処理流路21dの断面積A21に対する第一室26の断面積A26の比(A26/A21)は48.8〔%〕とした。流体殺菌モジュール1-2の内筒21の外径φD1はφ28〔mm〕、処理流路21dの断面積A21に対する第一室26の断面積A26の比(A26/A21)は93〔%〕とした。流体殺菌モジュール1-3の内筒21の外径φD1はφ26〔mm〕、処理流路21dの断面積A21に対する第一室26の断面積A26の比(A26/A21)は120〔%〕とした。
【0065】
各流体殺菌モジュール1-1~1-3について、流路における流速分布を図15(a)~(c)に示す。なお、図15は、図2(a)に示す流体殺菌モジュール1を簡易的に示している。
断面積の比A26/A21が「1」より小さい流体殺菌モジュール1-1及び1-2の場合、流入部4と第一室26との連通部分Kにおける流速の最小値は1〔m/sec〕より大きく、バイオフィルムの発生を良好に抑制できることが確認された。
一方、断面積の比A26/A21が「1」より大きい流体殺菌モジュール1-3の場合、流入部4と第一室26との連通部分における流速の最小値は1〔m/sec〕より小さく、バイオフィルムの発生を抑制することができない可能性があることが確認された。
以上から、バイオフィルムの発生を抑制するためには、処理流路21dの断面積A21に対する第一室26の断面積A26の比(A26/A21)が「1」より小さいことが好ましいことがわかる。
【0066】
〔実施例D〕
流体殺菌モジュール1について、図1に示す流体殺菌モジュール1を用いて殺菌性能試験を実施した。
その結果、流体検知器6を対象物である水が通過したことを検知した検知信号を元に即時に発光素子34aが点灯することで、処理流路21dを通過した水が十分殺菌されることが確認され、その結果、効率的に殺菌されたことが確認された。
【符号の説明】
【0067】
1 流体殺菌モジュール
2 殺菌処理部
3 発光部
4 流入部
5 流出部
6 流体検知器
7 制御部
21 内筒
21d 処理流路
22 ケース部
23 板(整流用の板)
24 部材(環状の部材)
26 第一室
27 第二室
34 光源
34a 発光素子
61 流入配管
62 流出配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15