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特許7299185多孔質微粒子、冷却液、および多孔質微粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-19
(45)【発行日】2023-06-27
(54)【発明の名称】多孔質微粒子、冷却液、および多孔質微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/18 20060101AFI20230620BHJP
   C01B 37/00 20060101ALI20230620BHJP
   B01D 15/04 20060101ALI20230620BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20230620BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20230620BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20230620BHJP
   C09K 5/10 20060101ALI20230620BHJP
【FI】
C01B33/18 E
C01B37/00
B01D15/04
B01D15/00 N
B82Y30/00
B82Y40/00
C09K5/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020047546
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021147265
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100157277
【弁理士】
【氏名又は名称】板倉 幸恵
(74)【代理人】
【識別番号】100182718
【弁理士】
【氏名又は名称】木崎 誠司
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】福井 健二
(72)【発明者】
【氏名】布施 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】笠松 伸矢
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-176488(JP,A)
【文献】特開2014-185838(JP,A)
【文献】特開2006-347849(JP,A)
【文献】特開2021-017453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
C01B 37/00
B01D 15/04
B01D 15/00
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C09K 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質微粒子であって、
中心に設けられ、多孔体材料により形成された核部と、
前記核部の周囲に形成され、前記核部と同一の多孔体材料により形成された外層部と、
を備え、
前記核部と前記外層部とは、それぞれ細孔を有し、
前記核部と前記外層部との各細孔の内部のうち、一方が酸性基により修飾され、他方が塩基性基により修飾されている、多孔質微粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質微粒子であって
前記核部と前記外層部とは、シリカメソ多孔体により形成され、
前記多孔質粒子は、さらに、
前記外層部の周囲に設けられ、未修飾のシリカメソ多孔体であって、前記核部および前記外層部と同一のシリカメソ多孔体により形成されたコーティング層を備える、多孔質微粒子。
【請求項3】
請求項1または請求項に記載の多孔質微粒子であって、
前記核部と前記外層部との一方が修飾される酸性基は、スルホン酸基およびカルボキシル基のいずれかであり、他方が修飾される塩基性基は、アミノ基およびピリジン基のいずれかである、多孔質微粒子。
【請求項4】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の多孔質微粒子であって、
前記核部および前記外層部に修飾されている官能基の重量分率は、2wt%以上50wt%以下である、多孔質微粒子。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の多孔質微粒子であって、
平均粒子径は、10nm以上3000nm以下である、多孔質微粒子。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の多孔質微粒子を含む冷却液であって、
前記多孔質微粒子が混合される溶媒としてのベース液体を備え、
前記ベース液体中の前記多孔質微粒子の表面のゼータ電位の絶対値が、16.2mV以上である、冷却液。
【請求項7】
請求項に記載の冷却液であって、
前記ベース液体に対する前記多孔質微粒子の濃度は、10vol%以下である、冷却液。
【請求項8】
請求項または請求項に記載の冷却液であって、
導電率は、10μS/cm以下である、冷却液。
【請求項9】
多孔質微粒子の製造方法であって、
多孔体材料により形成された核部が有する細孔の内部を、酸性基と塩基性基との一方により修飾する核部形成工程と、
前記核部の周囲に形成される外層部であって前記核部と同一の多孔体材料により形成された外層部が有する細孔の内部を、酸性基と塩基性基との他方により修飾する外層形成工程と、
を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質微粒子、冷却液、および多孔質微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の冷却系では、液体の熱輸送流体(以下、「冷却液」と称する)を用いた熱輸送システムが採用されている。冷却液を長期間に亘り使用すると、冷却液に混入したイオンにより絶縁性が低下するおそれがある。これに対し、冷却液の絶縁性を確保するために、イオン交換器を備える冷却系が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたイオン交換膜では、硬度成分の吸着能力が向上している。
【0003】
ところで、多孔質構造をもつ物質は高い表面積を有するため、触媒担体、酵素や機能性有機化合物等の固定化担体として広く使用されている。そして、均一で微細な細孔を有する多孔体として、メソ細孔構造を有しポリマーを包含する複合シリカ粒子、メソ細孔構造を有する中空シリカ粒子が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-176051号公報
【文献】特許第5480461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオン交換器を用いて自動車等の冷却液の絶縁性を確保すると、冷却器を備える冷却系のシステムが複雑になってしまう。また、イオン交換器が高価であるため、システムが高コストになってしまう。そのため、自動車等の冷却系のシステムを、安価で簡単に構成したい課題があった。また、このような課題は、自動車等の冷却系の分野にかかわらず、液体中の重金属イオンなどのイオン除去に関する技術全般に共通する課題であった。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、液体中の金属イオン等のイオンを除去する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現できる。多孔質微粒子であって、中心に設けられ、多孔体材料により形成された核部と、前記核部の周囲に形成され、前記核部と同一の多孔体材料により形成された外層部と、を備え、前記核部と前記外層部とは、それぞれ細孔を有し、前記核部と前記外層部との各細孔の内部のうち、一方が酸性基により修飾され、他方が塩基性基により修飾されている、多孔質微粒子。そのほか、本発明は、以下の形態としても実現可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、多孔質微粒子が提供される。この多孔質微粒子は、中心に設けられた核部と、前記核部の周囲に形成された外層部と、を備え、前記核部と前記外層部とのうち、一方が酸性基により修飾され、他方が塩基性基により修飾されている。
【0009】
この構成の多孔質微粒子は、酸性基の性質と、塩基性基の性質との両方を有している。そのため、この多孔質微粒子が、溶媒などに混合されると、溶液中に存在する陽イオンおよび陰イオンを捕獲できる。そのため、本構成の多孔質微粒子を用いることにより、溶液中の重金属イオンを除去できる。また、本構成の多孔質微粒子は、溶液中の陽イオンと陰イオンとの混在による導電性を低下させる。すなわち、本構成の多孔質微粒子のみを溶媒に含ませることにより、溶液中の絶縁性を向上させることができる。
【0010】
(2)上記形態の多孔質微粒子において、さらに、前記外層部の周囲に設けられ、未修飾のシリカメソ多孔体により形成されたコーティング層を備えてもよい。
この構成によれば、コーティング層を備える多孔質微粒子が溶媒に混合された際の溶媒の分散性が向上する。溶液中で多孔質微粒子の表面電荷が増えることにより、多孔質微粒子は、良好な分散性を有する。その結果、溶液中の絶縁性がより向上する。
【0011】
(3)上記形態の多孔質微粒子において、前記核部と前記外層部とは、それぞれ細孔を有し、前記核部と前記外層部との少なくとも一方の前記細孔の内部が、官能基により修飾されていてもよい。
この構成によれば、核部および外層部に対する官能基の修飾により、核部および外層部のイオン吸着機能が強化されている。この結果、同じ量の多孔質微粒子が溶媒に混合された場合に、同じ量の多孔質微粒子であっても、溶液中のより多くのイオンを吸着できる。
【0012】
(4)上記形態の多孔質微粒子において、前記核部と前記外層部との一方が修飾される酸性基は、スルホン酸基およびカルボキシル基のいずれかであり、他方が修飾される塩基性基は、アミノ基およびピリジン基のいずれかであってもよい。
この構成によれば、溶媒に混合された多孔質微粒子のイオン吸着機能が強化される。
【0013】
(5)上記形態の多孔質微粒子において、前記核部および前記外層部に修飾されている官能基の重量分率は、2wt%以上50wt%以下であってもよい。
この構成によれば、溶媒に混合された多孔質微粒子のイオン吸着機能が強化される。
【0014】
(6)上記形態の多孔質微粒子において、平均粒子径は、10nm以上3000nm以下であってもよい。
この構成によれば、溶媒に混合された多孔質微粒子のイオン吸着機能が強化される。
【0015】
(7)本発明の他の一形態によれば、多孔質微粒子を含む冷却液が提供される。この冷却液は、前記多孔質微粒子が混合される溶媒としてのベース液体を備え、前記ベース液体中の前記多孔質微粒子の表面のゼータ電位の絶対値が、16.2mV以上である。
この構成によれば、複数の多孔質微粒子が溶媒中に分散した場合に、ゼータ電位の電荷によって多孔質微粒子同士が反発してくっつかずに済む。これにより、本構成の多孔質微粒子は、良好な分散性を有する。
【0016】
(8)上記形態の冷却液において、前記ベース液体に対する前記多孔質微粒子の濃度は、10vol%以下であってもよい。
この構成によれば、冷却液の圧損の増加が抑制され、かつ、冷却液の熱伝達率が向上する。
【0017】
(9)上記形態の冷却液において、導電率は、10μS/cm以下であってもよい。
この構成によれば、冷却液の絶縁性が保持される。
【0018】
(10)本発明の他の一形態によれば、多孔質微粒子の製造方法は、細孔を有する核部を、酸性基と塩基性基との一方により修飾する核部形成工程と、前記核部の周囲において、細孔を有する外層部を、酸性基と塩基性基との他方により修飾する外層形成工程と、を備える。
この構成によれば、核部と外層部との両方で、細孔が官能基により修飾されている。そのため、核部と外層部との一方は、より強い酸性を有し、他方がより強い塩基性を有することができる。この結果、本構成の多孔体微粒子が混合された溶液は、より多くのイオンを吸着できる。
【0019】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、多孔質微粒子、多孔質微粒子を含む液体、多孔質微粒子を含む冷却液、冷却液を用いる熱輸送システム、多孔質微粒子の製造方法、冷却液の製造方法、および、これらシステムや製造方法を実行するためのコンピュータプログラム、このコンピュータプログラムを配布するためのサーバ装置、コンピュータプログラムを記憶した一時的でない記憶媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態の多孔質微粒子を含む冷却液を用いる熱輸送システムの概略ブロック図である。
図2】第1実施形態の多孔質微粒子の概略断面図である。
図3】本実施形態の多孔質微粒子を含む冷却液の説明図である。
図4】多孔質微粒子の拡大画像である。
図5】多孔質微粒子の製造方法のフローチャートである。
図6】第2実施形態の多孔質微粒子の概略断面図である。
図7】第2実施形態の多孔質微粒子の拡大画像である。
図8】第2実施形態の多孔質微粒子の製造方法のフローチャートである。
図9】4つの実施例のサンプルの核特性についての説明図である。
図10】実施例の4つのサンプルと、比較例の2つのサンプルとのイオン吸着の効果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
図1は、第1実施形態の多孔質微粒子を含む冷却液を用いる熱輸送システム100の概略ブロック図である。熱輸送システム100は、多孔質微粒子を含む冷却液(液体の熱媒体)を用いて、熱源を放熱させるシステムである。本実施形態の冷却液は、ベース液体と、多孔質微粒子とを含む。なお、ベース液体および多孔質微粒子の詳細については後述する。
【0022】
熱輸送システム100は、第1熱交換器10と、第2熱交換器20と、冷却液タンク30と、バルブ40と、冷却液を送液するポンプ50と、を備える。第1熱交換器10と、第2熱交換器20と、冷却液タンク30と、ポンプ50とは、配管62~65を介して環状に接続されている。冷却液は、ポンプ50によって、配管62~65を介して、第1熱交換器10、第2熱交換器20、冷却液タンク30の順(図1中の矢印の方向)に循環している。
【0023】
第1熱交換器10は、冷却液を用いて熱源を放熱させる。本実施形態では、熱源として、電気自動車に搭載された電池CEを例示する。第2熱交換器20は、第1熱交換器10の下流に配置されており、第1熱交換器10を通過した冷却液を放熱させる。本実施形態では、第2熱交換器20としてラジエータを例示する。配管64上にはバルブ40が設けられており、例えば、電気自動車の運転中に開弁される。
【0024】
冷却液タンク30は、内部に配管62~65内を循環する冷却液35を貯蔵している。図1に示されるように、冷却液35は、溶媒としてのベース液体32と、ベース液体32に混合されている複数の多孔質微粒子31とを含んでいる。本実施形態のベース液体32は、エチレングリコール水溶液である。本実施形態の多孔質微粒子31は、メソポーラスシリカ(mesoporous silica)である。
【0025】
図2は、第1実施形態の多孔質微粒子31の概略断面図である。図2には、1つの多孔質微粒子31の拡大した状態の断面図が示されている。図2に示されるように、多孔質微粒子31は、中心設けられた核部C1と、核部C1の周囲に形成された外層部S1とを備えている。すなわち、多孔質微粒子31は、いわゆる「コアシェル構造」を有している。
【0026】
図2に示されるように、核部C1は、複数の核部細孔(細孔)CHを有している。核部C1は、核部C1の元となる塩基性シリカ原料を用いて製造される。そのため、核部C1は、塩基性基により修飾されている。核部C1は、核部細孔CHの内部がアミノ基を含有する官能基Rcで修飾された単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)である。本実施形態の官能基Rcは、例えば、アミノプロピル基、アミノエチルアミノプロピル基、アミノエチルアミノエチルアミノプロピル基、およびアミノ基等の塩基性基である。そのため、核部C1は、強塩基性粒子であり、陰イオンを捕獲可能である。多孔質微粒子31の核部C1における官能基Rcの重量分率は、小さいとイオン吸着能が不十分であり、大きいと細孔が閉塞してイオン吸着能が低下する。そのため、多孔質微粒子31の核部C1における官能基Rcの重量分率は、2~50wt%が好ましい。
【0027】
図2に示されるように、外層部S1は、複数の外層部細孔(細孔)SHを有している。外層部S1は、核部C1の周囲に酸性シリカが積層された層である。そのため、外層部S1は、酸性基の官能基Rsにより修飾されている。外層部S1は、外層部細孔SHの内部がスルホン酸基又はカルボキシル基を含有する官能基Rsで修飾された単分散球状メソポーラスシリカ層である。本実施形態の官能基Rsは、例えば、アルキルスルホン酸基、フェニルスルホン酸基、およびアルキルカルボン酸基等の酸性基である。そのため、外層部S1は、強酸性基層であり、陽イオンを捕獲可能である。多孔質微粒子31の外層部S1における官能基Rsの重量分率は、2~50wt%が好ましい。なお、第1実施形態の多孔質微粒子31では、核部C1が塩基性で、外層部S1が酸性であったが、他の実施形態では、核部C1が酸性で、外層部S1が塩基性であってもよい。
【0028】
図3は、本実施形態の多孔質微粒子31を含む冷却液35の説明図である。図3には、配管62~65を流れる冷却液35中の多孔質微粒子31のイメージが示されている。本実施形態の多孔質微粒子31では、核部C1が陰イオンを捕獲可能であり、かつ、外層部S1が陽イオンを捕獲可能である。そのため、多孔質微粒子31は、ベース液体32中に存在する陽イオンおよび陰イオンを捕獲する。この結果、ベース液体32中の陽イオンおよび陰イオンが減少するため、冷却液35の導電性が低下する。すなわち、多孔質微粒子31は、ベース液体32中の絶縁性の低下を抑制する。なお、冷却液35の導電率は、10μS/cm以下に保持されることが好ましい。
【0029】
図4は、多孔質微粒子31の拡大画像IM1である。拡大画像IM1は、多孔質微粒子31をSEM(Scanning Electron Microscope:走査電子顕微鏡)で撮影した画像である。実施例1としての多孔質微粒子31のサンプルSM1は、平均粒子径が298nm、単分散性が5.4%、比表面積が876(m2/g)、細孔径が1.73~1.86nm、細孔容量が0.46(ml/g)、有機分率が11.9(wt%)であった。なお、「平均粒子径」は、SEM画像中の粒子径から算出されている。「単分散性」は、平均粒子径の標準偏差を平均粒子径で除した(%)であり、分散性を表す一指標である。単分散性の値が小さいほど、粒子の大きさが略均一であって、溶媒に混合された場合に凝縮せずに散り張りやすい状態を表している。「細孔径」は、BJH法により測定されている。「細孔容量」は、窒素の吸着量によって測定されている。
【0030】
図5は、多孔質微粒子31の製造方法のフローチャートである。図5に示されるように、多孔体微粒子31の製造フローでは、初めに、水、メタノール、水酸化ナトリウムを用いて、ベースシリカ原料を元にして、核部細孔CHを有する核部C1を生成する核部形成工程が行われる(ステップS1)。核部形成工程では、界面活性剤と塩基性シリカ原料とを混合し、塩基性基が導入されたコア粒子としての核部C1を析出させる。
【0031】
核部C1の周囲において、外層部細孔SHを有する外層部S1を形成する外層形成工程が行われる(ステップS2)。外層形成工程では、析出した核部C1を含む溶媒中に、さらに酸性シリカ原料を混合し、酸性基が導入された外層部S1が核部C1の外側に積層される。外層部S1の積層後に、界面活性剤が除去される。なお、界面活性剤を除去する方法としては、例えば、焼成による方法、有機溶媒で処理する方法、イオン交換法などが挙げられる。外層形成工程が行われると、多孔質微粒子31の製造フローが終了する。
【0032】
なお、スルホン酸基、カルボキシル基等の酸性基は、その前駆体、例えば、メルカプト基、シアノ基を有するシリカ原料を用いて粒子を合成後、酸化処理を行うことによって導入することができる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の多孔質微粒子31では、核部C1は、塩基性シリカを原料に製造されることによって塩基性に修飾されている。また、外層部S1は、酸性シリカを原料として核部C1の周囲に積層されることによって酸性に修飾されている。そのため、多孔質微粒子31のみがベース液体32に混合されるだけで、ベース液体32中に存在する陽イオンおよび陰イオンを捕獲可能である。多孔質微粒子31を冷却液35に用いることにより、ベース液体32中のイオンを取り除くためのイオン交換膜が不要になる。これにより、冷却液35を備える熱輸送システム100を安価かつ簡単に構成できる。また、重金属イオンを除去したい溶液に多孔質微粒子31を混合することにより、重金属イオンおよび溶液中の陰イオンを除去できる。
【0034】
また、本実施形態の核部C1および外層部S1は、内部が官能基Rc,Rsによって修飾された細孔CH,SHを備える。この修飾により、核部C1および外層部S1は、イオン吸着機能が強化されている。この結果、同じ量の多孔質微粒子31であっても、ベース液体32中のより多くのイオンを吸着できる。
【0035】
また、本実施形態の核部C1が備える塩基性基は、アミノ基、およびピリジン基である。一方で、外層部S1が備える酸性基は、カルボキシル基、スルホン酸基である。そのため、多孔質微粒子31のイオン吸着機能が強化される。
【0036】
また、本実施形態の核部C1および外層部S1に修飾されている官能基の重量分率は、2wt%以上50wt%以下である。そのため、多孔質微粒子31のイオン吸着機能が強化される。
【0037】
また、本実施形態の冷却液35では、ベース液体32中の多孔質微粒子31の平均粒子径は、10nm以上3000nm以下である。そのため、多孔質微粒子31のイオン吸着機能が強化される。
【0038】
また、本実施形態の冷却液35の導電率は、10μS/cm以下である。そのため、冷却液35の絶縁性が保持される。
【0039】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態の多孔質微粒子31aの概略断面図である。第2実施形態の多孔質微粒子31aは、第1実施形態の多孔質微粒子31の外層部S1の周囲に、シェル層(コーティング層)SL1を備えている。そのため、第2実施形態では、第1実施形態と異なるシェル層SL1について説明し、第1実施形態と同じ構成についての説明を省略する。
【0040】
図6に示されるように、第2実施形態のシェル層SL1は、外層部S1の周囲に有機基を有さないシリカを原料として積層された層である。そのため、第2実施形態の多孔質微粒子31aは、いわゆる「コアシェルシェル構造」を有している。シェル層SL1は、複数のシェル層細孔SLHを有している。シェル層細孔SLHの内部は、核部C1および外層部S1と異なり、官能基によって修飾はされていないメソポーラスシリカ層である。すなわち、多孔質微粒子31aは、未修飾のシリカメソ多孔体により形成されている。シェル層細孔SLHが未修飾のため、シェル層SL1は、弱酸性である。これにより、多孔質微粒子31aの表面(シェル層SL1の表面)のゼータ電位の符号(電荷の符号)は、負(-:マイナス)である。多孔質微粒子31aでは、外層部S1およびシェル層SL1が酸性であるが、外層部S1が強酸性であり、シェル層SL1が弱酸性である。そのため、ベース液体32中の陽イオンは、外層部S1により多く捕獲される。この結果、シェル層SL1における陽イオンの捕獲が抑制されるため、多孔質微粒子31aの表面の電荷状態は変化しにくい。
【0041】
図7は、第2実施形態の多孔質微粒子31aの拡大画像IM2である。拡大画像IM2は、第1実施形態の拡大画像IM1(図4)と同じように、多孔質微粒子31aをSEMで撮影した画像である。実施例2としての多孔質微粒子31aのサンプルSM2は、平均粒子径が394nm、単分散性が6.3%、比表面積が801(m2/g)、細孔径が1.74nm、細孔容量が0.41(ml/g)、有機分率が9.7(wt%)であった。
【0042】
図8は、第2実施形態の多孔質微粒子31aの製造方法のフローチャートである。図8に示されるステップS11~ステップS12までの処理は、第1実施形態(図5)のステップS1~ステップS2の処理と同じであるため、説明を省略する。図8に示されるように、外層部S1の外層部細孔SHを官能基で修飾する外層形成工程(ステップS12)が行われると、外層部S1の表面にシェル層SL1を形成するシェル層形成工程が行われる(ステップS13)。シェル層形成工程では、第1実施形態の多孔質微粒子31を含む溶媒中に、さらに酸性シリカ原料を混合し、外層部S1の外側にシェル層SL1が積層される。シェル層SL1の積層後に、界面活性剤が除去される。シェル層形成工程が行われると、第2実施形態の製造フローは終了する。
【0043】
図9は、4つの実施例1~4のサンプルSM1~SM4の核特性についての説明図である。図9には、4つのサンプルSM1~SM4について、平均粒子径(nm)、単分散性(%)、比表面積(m2/g)、細孔径(nm)、細孔容量(ml/g)、および有機分率(wt%)と、各サンプルがベース液体32であるエチレングリコール水溶液に混合された場合のゼータ電位(mV)および光散乱測定により求められた溶液中での直径(nm)と、が示されている。ゼータ電位および直径は、ベース液体32に各サンプルが混合されてから所定の時間が経過した後に測定された値である。
【0044】
サンプルSM3は、実施例2のサンプルSM2における核部C1と、外層部S1との官能基が入れ替わった「コアシェルシェル構造」を有する多孔質微粒子である。すなわち、サンプルSM3では、核部C1が強酸性を有し、外層部S1が強塩基性を有している。サンプルSM4は、サンプルSM3のシェル層SL1を有さない「コアシェル構造」を有する多孔質微粒子である。換言すると、サンプルSM4は、実施例1のサンプルSM1における核部C1と、外層部S1との官能基が入れ替わった多孔質微粒子である。
【0045】
図9に示されるように、4つのサンプルの内の3つのサンプルSM1~SM3は、ゼータ電位が-16.2mV以下である。一方で、サンプルSM4の電位はゼロである。サンプルSM1~SM3の各多孔質微粒子は、符号が同じゼータ電位を有するため、互いに反発し合って、粒子同士がくっつくことがない。また、シェル層SL1を備えるサンプルSM2,SM3の直径は、シェル層SL1を備えないサンプルSM1,SM4の直径よりも小さくなっている。
【0046】
図10は、実施例の4つのサンプルSM1~SM4と、比較例の2つのサンプルSM5,SM6とのイオン吸着の効果の説明図である。図10には、計6つのサンプルSM1~SM6が陽イオンおよび陰イオンを含むベース液体32に同濃度(0.5wt%)で混合された場合に、混合されてから所定時間T1が経過するまでの導電率比の変化が示されている。導電率比は、各サンプルSM1~SM6がベース液体32に混合される前の導電率を1とした際の導電率の比を表している。
【0047】
比較例のサンプルSM5は、シェル構造を有する酸性基を有する微粒子と塩基性基を有する微粒子とを同じ比率で混合したサンプルである。比較例のサンプルSM6は、シェル層SL1を備えない酸性基を有する微粒子と塩基性基を有する微粒子とを同じ比率で混合したサンプルである。
【0048】
図10に示されるように、3つのサンプルSM2~SM4は、所定時間T1経過後に、電率比を約0.85に維持している。サンプルSM1は、所定時間T1経過後に、電率比を約0.91に維持している。一方で、比較例のサンプルSM5は、所定時間T1経過後に、電率比を約0.95に維持している。比較例のサンプルSM6では、所定時間T1経過後の電率比は、サンプルSM6が混合される前の1の導電率比と同じでほぼ変化していない。以上から、実施例1~4のサンプルSM1~SM4の方が、比較例のサンプルSM5,SM6よりも絶縁性を維持できていることがわかる。
【0049】
以上説明したように、第2実施形態の多孔質微粒子31aは、外層部S1の周囲に設けられたシェル層SL1を備えている。シェル層SL1は、未修飾のシリカメソ多孔体により形成されている。そのため、図9に示されるように、シェル層SL1を備えるサンプルSM2,SM3におけるベース液体32に混合された際の直径は、シェル層SL1を備えないサンプルSM1,SM4よりも小さい。これにより、多孔質微粒子31aは、良好な分散性を有する。
【0050】
また、図9に示されるように、第2実施形態の多孔質微粒子31aであるサンプルSM2のゼータ電位の絶対値は、38.5mV(>16.2mV)である。そのため、複数の多孔質微粒子31aがベース液体32中に分散した場合に、多孔質微粒子31a同士が反発してくっつかずに済む。これにより、多孔質微粒子31aは、良好な分散性を有する。
【0051】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0052】
上記第1実施形態および第2実施形態では、多孔質微粒子31,31aおよび冷却液35の一例について説明したが、多孔質微粒子31,31aおよび冷却液35については種々変形可能である。多孔質微粒子31,31aは、メソポーラスシリカ以外の粒子であってもよい。例えば、多孔質微粒子31,31aとして、ゼオライト、シリカゲル等、他の多孔質微粒子を用いることができる。ベース多孔質微粒子としてシリカ系メソ多孔体を用いると、孔径が一定であり、また、分散性がよいため、好ましい。
【0053】
冷却液35のベース液体32は、エチレングリコール水溶液以外であってもよく、例えば、水、アルコール水溶液等種々の液体を用いることができる。ベース液体32は、水と、水と互溶する凝固点降下剤とを混合した、水系クーラントであることが好ましい。水の割合は任意だが、30~50wt%が好ましい。凝固点降下剤としては、アルコール系が好ましい。アルコールが経年劣化で酸となった場合であっても、多孔質微粒子により冷却液の導電率上昇が抑制される。粘性低減の観点からは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノールなどが好ましく、低蒸気圧や実績の観点からは、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが好ましい。さらに、防錆剤を添加してもよい。水による金属腐食を抑制し、金属イオン溶出も抑制される。多孔質微粒子31,31aによる対処負担が低減し、多孔質微粒子31,31aの配合量を低減させることができ、低コスト化を図ることができる。防錆剤は、絶縁性の観点から、非イオン系防錆剤が好ましい。また、対Cu防錆の観点からは、トリアゾール系防錆剤などが好ましく、対Al防錆の観点からは、シリコン系防錆剤などが好ましい。
【0054】
核部C1または外層部S1を修飾する酸性基は、スルホン酸基以外であってもよく、例えば、シラノール基、カルボキシル基等を含む他の酸性の官能基であってもよい。また、塩基性基は、アミノ基以外であってもよく、例えば、ピリジン基等を含む他の塩基性の官能基であってもよい。
【0055】
多孔質微粒子31の製造方法には、周知の技術を適用できる。例えば、メソポーラスシリカ層に弱い塩基を導入する方法としては、2-(2-PYRIDYLETHYL)TRIMETHOXYSILANEのような弱い塩基を有するシランカップリング剤を用いて、細孔CH,SHに弱い塩基を導入することによって、合成することができる。
【0056】
核部C1および外層部S1に修飾されている官能基Rc,Rsの重量分率は、2wt%未満であってもよいし、50wt%よりも大きくてもよい。多孔質微粒子31,31aの平均粒子径は、10nm以上3000nm以下が好ましいが、図9に示される値に限定されず、10nm未満であってもよいし、3000nmよりも大きくてもよい。多孔体微粒子31中に多孔体微粒子31,31aが含まれる場合に、多孔体微粒子31aの表面のゼータ電位が小さいと、多孔体微粒子31,31aが凝縮してしまうおそれがある。そのため、ベース液体32中の多孔質微粒子31,31aの表面のゼータ電位の絶対値は、16.2mV以上が好ましいが、図9に示される値に限定されず、16.2mV未満であってもよい。冷却液35の導電率は、10μS/cmよりも大きくてもよい。
【0057】
冷却液35に含まれる多孔質微粒子31の濃度が10vol%以下であると、圧損の増加が抑制され、かつ、熱伝達率が向上するため、好ましい。なお、ベース液体32に対する多孔質微粒子31の濃度は、10vol%を超えてもよい。熱輸送システム100がイオン交換器を備えてもよい。イオン交換器を備える場合であっても、本発明の実施形態にかかる多孔質微粒子31により、冷却液35中に溶出し得るイオンが除去される分だけ、本発明の実施形態にかかる多孔質微粒子31を備えない場合に比して、このイオン交換器の負担が小さくなり得る。したがって、イオン交換器におけるイオン交換樹脂の必要量が小さくなり得、システムの高コストが抑制され得る。
【0058】
上記第1実施形態では、一例として、電気自動車に搭載された電池CEの熱を放熱させる熱輸送システム100について説明したが、例えば、燃料電池、インバータ、モータジェネレータ、PC(Personal Computer)の冷却器を用いてもよい。また、上記第1実施形態において、第2熱交換器20として、ラジエータを例示したが、冷凍サイクル低圧側のチラーが用いられてもよい。すなわち、第2熱交換器20は、冷媒、空気を用いて、放熱することができる。また、冷却液35は、空調設備、プラント等種々の物の冷却に用いることができる。また、多孔質微粒子31,31aは、冷却液35以外、例えば、重金属イオンを含む溶液中に混合されてもよい。この場合に、多孔質微粒子31,31aは重金属イオンを除去できる。
【0059】
上記第2実施形態のシェル層SL1の厚みは、粒子径の15%以上40%以下が好ましい。シェル層SL1の厚みが粒子径の15%以上だと、多孔質微粒子31,31aのゼータ電位の絶対値が16.5mV以上と大きくなり、分散性が向上する。外層部S1またはシェル層SL1の厚みが粒子径の40%以下だと、多孔質微粒子31,31aのイオン吸着性が向上する。
【0060】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0061】
10…第1熱交換器
20…第2熱交換器
30…冷却液タンク
31,31a…多孔質微粒子
32…ベース液体
35…冷却液
40…バルブ
50…ポンプ
62…配管
100…熱輸送システム
C1…核部
CE…電池
CH…核部細孔
IM1,IM2…拡大画像
Rc…核部の官能基
Rs…外層部の官能基
S1…外層部
SH…外層部細孔
SL1…シェル層
SLH…シェル層細孔
SM1~SM4…実施例のサンプル
SM5,SM6…比較例のサンプル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10