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特許7299450合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法
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  • 特許-合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法 図1
  • 特許-合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20230621BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
G01N1/28 Z
B09B5/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021098432
(22)【出願日】2021-06-14
(65)【公開番号】P2022190216
(43)【公開日】2022-12-26
【審査請求日】2023-04-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第55回日本水環境学会年会 開催日 令和3年3月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公益社団法人日本水環境学会 第55回日本水環境学会年会講演集 発行日 令和3年3月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594033341
【氏名又は名称】東レテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】小杉 剛史
(72)【発明者】
【氏名】馬場 大哉
(72)【発明者】
【氏名】武井 直子
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/003995(WO,A1)
【文献】特許第6811370(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第112577805(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第112903349(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111346729(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108593401(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第113245357(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
B09B 3/70
B09B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂小片と天然物に含まれる有機物とが含まれた混合物から合成樹脂小片を分離する方法であって、前記の方法は、
(1)前記の混合物に次亜塩素酸、亜塩素酸または塩素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および、界面活性剤を添加し、加熱処理を行う工程、
(2)前記工程(1)の処理後の液を固液分離する工程、
(3)前記工程(2)で固液分離された固体成分にリン酸を加えて処理を行う工程、
とを含む、合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法。
【請求項2】
工程(2)のあと工程(3)の前に、工程(2)で固液分離された固体成分に対してアルカリ金属の水酸化物の溶液で加熱処理を行う工程を含む、請求項1記載の合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法。
【請求項3】
次亜塩素酸、亜塩素酸または塩素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として次亜塩素酸ナトリウムを用いる請求項1または請求項2に記載の合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法。
【請求項4】
合成樹脂小片と天然物に含まれる有機物とが含まれた混合物が海洋水から調製されたものである請求項1から請求項3のいずれかに記載の合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋水や湖水や河川水などの自然界に存在する水資源あるいは工場排水等の排水に含まれた合成樹脂片の分析に際して、合成樹脂片を分取する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題としてマイクロプラスチック問題が大きく取り上げられている。生活の中でプラスチックの消費が増大する中、廃棄されるプラスチックごみが、河川や湖水や海洋に投棄され、投棄されたプラスチックごみは、紫外線等の活性光線または摩擦等の外力で分解されることによって、小さなプラスチック粒子となる。該プラスチック粒子の中でも、長径が5mm以下のプラスチック片は、マイクロプラスチックと呼ばれる。このようなマイクロプラスチックは、世界中の湖沼や水辺や海中に存在することが知られている。合成樹脂、すなわちプラスチックを消化・代謝することのできる生物はごく希にしか存在しない。は虫類や魚類や哺乳類などの一部である海洋生物において、マイクロプラスチックが摂取されると、それを消化・代謝できず体内にその形を保ったままとどまることとなれば、呼吸器系の不全や消化器系の不全を引き起こす危険性があることから、マイクロプラスチックは海洋生物の生態系に対しての脅威と理解されている。
【0003】
そこで、マイクロプラスチックによる汚染度を分析し、必要な施策を講じることが急務とされており、簡便かつ精度の高いマイクロプラスチックの分析法が求められている。
【0004】
ところで、海洋水や湖水や河川水などの自然界に存在する水には、各種生態系に由来する有機物が含まれている。例えば、木片、草の切れ端などの植物に由来する小片や、藻類、プランクトン、海洋生物の幼生、魚の死骸などの海洋生物に由来する小片が挙げられる。こうした有機物はマイクロプラスチックを分析する上では、コンタミとなって分析精度を低下させる要因となっている。
【0005】
マイクロプラスチックを捕集する手段として、特許文献1にはフィルターを多段階に設けて分取する方法が提示されている。しかしながら、これらの手段は近似したサイズの有機物を分離することはできず、また、マイクロプラスチックに付着した有機物を取り除くこともできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6792758号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、海洋水等からサンプリングされたマイクロプラスチックと天然物由来の有機物とを効果的に分離する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記した課題を解決するため、次の構成を有する。
【0009】
すなわち、合成樹脂小片と天然物に含まれる有機物とが含まれた混合物から合成樹脂小片を分離する方法であって、前記の方法は、
(1)前記の混合物に次亜塩素酸、亜塩素酸または塩素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および、界面活性剤を添加し、加熱処理を行う工程、
(2)前記工程(1)の処理後の液を固液分離する工程、
(3)前記工程(2)で固液分離された固体成分にリン酸を加えて処理を行う工程、
とを含む、合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法、である。
【0010】
また、本発明の分取方法は、好ましく、工程(2)のあと工程(3)の前に、工程(2)で固液分離された固体成分に対してアルカリ金属の水酸化物の溶液で加熱処理を行う工程を含む、合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法、すなわち、
(1)前記の混合物に次亜塩素酸、亜塩素酸または塩素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および、界面活性剤を添加し、加熱処理を行う工程、
(2)前記工程(1)の処理後の液を固液分離する工程、
(2)’ 前記工程(2)で固液分離された固体成分にアルカリ金属の水酸化物の溶液で加熱処理を行う工程、
(2)” 前記工程(2)’の処理後の液を固液分離する工程、
(3)前記工程(2)”で固液分離された固体成分にリン酸を加えて処理を行う工程、
とを含む、合成樹脂片含有水からの合成樹脂片の分取方法、である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マイクロプラスチックと、藻類や木片といったセルロース等の多糖類が多く含まれた天然物由来の有機物や海洋生物の幼生や魚貝類の死骸といったタンパク質が多く含まれた有機物との混合物から、マイクロプラスチックを効果的かつ効率的に分取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実験3の処理後残渣を撮影した写真である。
図2】実験3の処理後残渣の赤外線吸収スペクトルとポリエチレンテレフタレートの赤外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。ただし、本発明はかかる説明で挙げた具体的例に限定して解釈されるものではない。
【0014】
本発明は、背景技術の項で説明したことから理解されるとおり、本発明に用いられる合成樹脂小片と天然物に含まれる有機物とが含まれた混合物は、自然界の海洋水、湖水、河川水からサンプリングされることが想定されている。また、工場排水や下水処理場からの排水といった人工施設からの排水からサンプリングされることも考えられる。例えば、海洋水を汲み上げ、静置して小石や砂利などの固形の無機物を分離して調製する方法や、固形の無機物を分離したのち、もしくは、固形の無機物の分離を行わないで、海洋水に含まれる全ての固形分を濾取し、濾取された固形分を水に分散させて調製する方法が挙げられる。このように合成樹脂小片と天然物に含まれる有機物とが含まれた混合物の調製は、試料中に含まれる合成樹脂の量や天然物に含まれる有機物等の量や性状に応じて適宜選択することで良い。なお、本発明に用いられる合成樹脂小片と天然物に含まれる有機物とが含まれた混合物には、生物死骸に由来する骨分が含まれていても構わない。
【0015】
また、本発明において、合成樹脂とは主として化石燃料に由来する原材料から合成された樹脂をいい、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン10、ナイロン12、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、いわゆるエンジニアリングプラスチック、合成ゴム、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。すなわち、かかる樹脂は、ほとんど全ての水生生物や海洋生物が消化・代謝できない樹脂である。
【0016】
本発明は、合成樹脂小片と天然物に含まれる有機物とが含まれた混合物から合成樹脂小片を分離する方法であって、以下の(1)~(3)の工程を含んでいる。
(1)前記の混合物に次亜塩素酸、亜塩素酸または塩素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および、界面活性剤を添加し、加熱処理を行う工程、
(2)前記工程(1)の処理後の液を固液分離する工程、
(3)前記工程(2)で固液分離された固体成分にリン酸を加えて処理を行う工程。
【0017】
工程(1)においては、前記の混合物に、次亜塩素酸、亜塩素酸または塩素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および、界面活性剤を添加し、加熱処理を行う。次亜塩素酸のアルカリ金属塩、亜塩素酸のアルカリ金属塩、塩素酸のアルカリ金属塩、次亜塩素酸のアルカリ土類金属塩、亜塩素酸のアルカリ土類金属塩および塩素酸のアルカリ土類金属塩の中では、酸化力の点で次亜塩素酸のアルカリ金属塩を用いることが好ましく、次亜塩素酸のアルカリ金属塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウムが代表的であるが、酸化力の点や取り扱い性の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いることが好ましい。アルカリ金属の水酸化物は、次亜塩素酸、亜塩素酸または塩素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩とともに用いられることでタンパク質やセルロースの分解に有利な作用を発揮する。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが代表的であるが、分解力の点や取り扱い性の点から、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。また、界面活性剤は天然物に含まれる有機物に対しての処理液の浸透性を高める有利な作用を発揮する。界面活性剤としては、公知の界面活性剤を用いて構わないが、例えば、アルキル硫酸エステル塩やアルキルスルホン酸塩などの陰イオン界面活性剤、および、アルキルアミンオキシドなどの両性界面活性剤、などが挙げられる。中では、入手が容易な点から、ラウリル硫酸ナトリウムやラウリルジメチルアミンオキシドなどを用いることが好ましい。
【0018】
次亜塩素酸、亜塩素酸または塩素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、アルカリ金属の水酸化物、および、界面活性剤は、逐次的に加えてもよく、混合剤として添加しても良い。また、被処理剤の性状に応じて、原体で加えてもよく、水溶液として加えても構わない。また、当然のことながら、天然物に含まれる有機物の分解に十分な量を用いる(他の工程においても同様である)。
【0019】
また、工程(1)で前記の混合物に対して、混合水溶液として用いるときの濃度(質量百分率)は、次亜塩素酸、亜塩素酸または塩素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の有効塩素濃度として1%以上、10%以下、アルカリ金属の水酸化物は水酸化ナトリウム相当濃度として0.1%以上5%以下、界面活性剤は0.1%以上5%以下であることが好ましい。
【0020】
また、工程(1)で行う加熱処理の条件としては、合成樹脂小片が分解されず、かつ、被処理物に含まれた天然物に含まれる有機物の分解が進行する条件であれば特に制限はないが、代表的には、50℃から70℃である。
【0021】
また、次亜塩素酸、亜塩素酸または塩素酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩由来の有効塩素は処理の進行に伴って消費されてゆくので、加熱処理の途中で、追加添加することが好ましい。追加添加する量は、被処理物に含まれた天然物に含まれる有機物の量に応じて適宜決定することができる。この量は、次亜塩素酸のアルカリ金属塩の場合には次亜塩素酸のアルカリ金属塩に由来しての呈色(黄色)によって判断することができる。
【0022】
次いで、工程(1)による処理液を固液分離する(工程(2))。固液分離は、以降の工程における化学反応の効率を高めるために行うものであり、工程(2)を行わなくても、処理自体は可能であるが、処理液を無駄に消費したり、合成樹脂小片を損なうことがあるので、好ましくない。固液分離の方法には、合成樹脂小片を捕集できる限りにおいて、特に制限はなく、例えば、ガラスフィルターやマイクロポアフィルターで濾過することが好ましい。また、遠心分離法による分離を用いても良い。なお、分取しようとする合成樹脂小片の大きさにもよるが、ろ材の目開きは特に制限はなく、合成樹脂小片が濾材を通過することがない程度の目開きの濾材を用いることが回収率を高めることができるので好ましい。かかる点では、市販で入手が容易な目開き200μm未満のろ過媒体を用いることが好ましい。また、工程(1)で用いた処理剤を取り除くため、固液分離された固体成分に対して水洗を行うことが好ましい。
【0023】
また、本発明においては、工程(2)で固液分離された固体成分に対してアルカリ金属の水酸化物の溶液で加熱処理を行うことが好ましい。この工程は、天然物に含まれる有機物にタンパク質が多く含まれている場合に有用であり、アルカリ金属の水酸化物として水酸化ナトリウムを用いることが、極めて効果的である。ここで、アルカリ金属の水酸化物は水溶液として用いることが好ましい。アルカリ金属の水酸化物水溶液中のアルカリ金属の水酸化物の濃度は、好ましく、5~20質量%である。そして、該水溶液に分散された前記の濾取物に対して加熱処理が行われる。加熱処理の条件としては、温度としては、60℃以下で行うことが、合成樹脂小片を損なうことがない一方でタンパク質の分解を行えることから、好ましい。また、温度は一定の温度で処理を行っても良いが、反応状況に応じて温度を変更しても構わない。時間としては、濾取物に含まれるタンパク質の量に応じて適宜設定することができるが、通常は、5~30分である。アルカリ金属の水酸化物で処理された被処理物は固液分離を行って、必要に応じて、更に水洗を行い、次の工程に供せられる。
【0024】
次の工程(工程(3))として行われるリン酸による処理は、濃度15%以上の濃度のリン酸で処理を行う。効率的な分解を進めるためである。また、処理を行う前に、リン酸水溶液で洗浄することがリン酸中における被処理物の分散性を高めることができるので好ましい。また、工程(3)は数次に分けて行い、徐々にリン酸の濃度を高めて処理を行うことが好ましい。濃度を逐次増加させての処理の回数の下限は3回が処理効率の点で好ましく、回数の上限には特に制限はないが、10回を超えても回数の増加による効果は小さい。
【0025】
また、工程(3)におけるリン酸による処理の条件としては、特にセルロースの溶解を促進させるために、リン酸を加えた後に冷却して静置する。冷却温度は0℃以下が好ましく、静置時間は特に定めないが、操作性を考慮すると30分~2時間の範囲とすることが好ましい。この後、処理後のリン酸を工程(2)と同様の操作により固液分離を行い、固体成分を分離する。さらに、リン酸による処理およびろ過の工程を繰り返すことにより、セルロースの溶解を確実にする。繰り返し数は試料の性状によって変えることができるが、繰り返し数3回以上が好ましい。
【実施例
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。しかし、本発明はかかる実施例に示された態様に限定して解釈されるものではない。
【0027】
実験例1: 天然物由来の有機物の除去効果の評価
(試料)
杉材およびにぼしをそれぞれ粉砕してふるいによって分級し、それぞれ粒径約200μmから500μmの範囲のものを採取し、それぞれ60mgずつを混合して試料とした。なお、この試料の有機炭素含有量は、杉材の主成分であるセルロースの元素組成を参考にして、40%とした。なお、有機炭素とは、物質に含まれる炭素分のうち無機炭素(すすなどの元素状炭素、および、炭酸塩炭素)を除いた炭素分をいう。
【0028】
(処理液1の調製)
次亜塩素酸ナトリウム溶液と水酸化ナトリウムの混合溶液に、アルキル硫酸エステル塩、および、アルキルアミンオキシドを添加して調製を行った。処理液1を分析したところ、有効塩素濃度して3%、残留アルカリ濃度として水酸化ナトリウム相当0.5%、アルキル硫酸エステル塩として0.6%、およびアルキルアミンオキシド0.5%であった(いずれも質量基準)。
【0029】
(除去効果の評価手順)
試料をフィルター孔径が100μmから160μmの範囲であるガラス濾過板を有するソックスレー用ガラス製円筒ろ過管に加え、該試料入りのろ過管を予め処理液1を貯めておいたガラス製容器に浸漬し、撹拌を行った。このとき処理液1は、円筒ろ過管の下部のガラスろ過板を通じてろ過管内に導入され、試料が十分に浸っていることを確認した。これを60℃に設定した水浴に浸漬し120分間加温した。加温中には、30分に1度、処理液1の撹拌を行った。また、加温を開始して60分後には処理液1の色が僅かに呈色する程度に亜塩素酸ナトリウム粉末をガラス製容器内の処理液1に加え撹拌した。加温を終了した後、円筒ろ過管を引き上げ、処理液1をろ過板から排出した。次に円筒ろ過管を17%の水酸化ナトリウム水溶液が貯められたガラス製容器に浸漬し、撹拌した。このとき水酸化ナトリウム水溶液は、円筒ろ過管の下部のガラスろ過板を通じてろ過管内に導入され、試料が十分に浸っていることを確認した。これを40℃に設定した水浴に浸漬し、30分間加温した。加温中には、10分に1度、水酸化ナトリウム水溶液の撹拌を行った。加温を終了した後、円筒ろ過管を引き上げ、水酸化ナトリウム水溶液をろ過板から排出し、次いで、水で試料および円筒ろ過管内を洗浄した。次に、予め調製しておいた、リン酸(富士フイルム和光純薬製。濃度85%以上)と水とを、体積比で、1対4、1対2、2対1、および4対1で混合して調製したリン酸水溶液に対して、リン酸濃度が低い順番に円筒ろ過管内の試料を浸漬し、撹拌し、試料を分散させた。円筒ろ過管内を引き上げ、次に、りん酸(濃度85%以上)が貯められたガラス製容器に浸漬した。これを-20℃に設定された冷凍庫内で120分静置した。静置後、円筒ろ過管を引き上げ、リン酸をろ過板から排出した。このリン酸(濃度85%以上)への浸漬を行っての処理を3回繰り返した。リン酸での処理後、円筒ろ過管内を水で洗浄した。円筒ろ過管内の試料を水洗しながらガラス繊維ろ紙で吸引ろ過を行って回収し、60℃で乾燥した。回収した試料(残渣)の有機炭素量を有機元素分析装置(住化分析センター製 NC-22F)で測定した。処理前に添加した試料の有機炭素量と処理後残渣の有機炭素量の比から除去率を算定した。
【0030】
除去率は次式(1)によって計算した。
除去率(%)=(1-処理後残渣の質量(g)/処理前の質量(g))×100 (1)
ここで、処理後残渣の質量(g)=処理後残渣の全有機炭素量(g)/(試料の当初全有機炭素含有率(%)/100)
なおここで、この実験例1に用いられた「試料の当初全有機炭素含有率」は、前記した40%である。
【0031】
(除去効果の評価)
試験の結果、n=2の併行試験で、1回目の試験結果が除去率99.97%、2回目の試験結果が除去率99.96%であった。このことから、本発明は、天然物由来の有機物を完全に除去することがわかる。
【0032】
実施例2: 合成樹脂小片の回収率の評価
(樹脂試料)
回収率検討用の樹脂として、市販のポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートおよび、ポリエチレンテレフタレートを粒径500μmから1000μmに調整したもの各3mgを用いて試料とした。なお、これら市販の樹脂試料を測定した有機炭素含有量を表1に示した。
【0033】
【表1】
【0034】
(回収率の評価)
前記の樹脂試料に、実施例1と同じ手順の処理を施し、処理後回収された残渣において有機炭素量を求めた。また、前記の式(1)から除去率を求めた。なおここで、「試料の当初全有機炭素含有率」は、表1に記載の各試料に対応した有機炭素含有量を用いた。また、回収率は、[100-除去率](%)として求めた。
【0035】
(回収率の評価)
試験をn=3の併行試験で行った結果得られた平均値を表2に示した。表2の結果から、本発明は、樹脂の小片を失うこと無く回収できていることが分かる。
【0036】
【表2】
【0037】
実験例3: 工場排水等に含まれるマイクロプラスチック量の測定
(排水試料)
某所で採取した排水処理前の工場排水を濾過して得られた固形分を試料(排水試料)として、マイクロプラスチック量を測定した。
【0038】
(マイクロプラスチック量の測定)
前記の排水試料に、実施例1と同じ手順の処理を施し、処理後回収された残渣に含まれていた樹脂の種類をフーリエ変換赤外分光光度計(パーキンエルマー社製 Spectrum65 FT-IR)を用いて分析を行ったところ、後記のとおり、ポリエチレンテレフタレートであることを確認した。また、式(1)を用いて除去率を求めた。ここで、「試料の当初全有機炭素含有率」は、残渣に含まれるプラスチックがポリエチレンテレフタレートであったことから62%とした。また、排水試料中に含まれたマイクロプラスチックの回収率を求めたところ、71.8%であった。
【0039】
また、処理後の残渣に白色繊維質が見られたところ、その写真を図1に、処理後の残渣の赤外吸収スペクトル測定結果を図2に示した。
【0040】
この処理後の残渣の赤外吸収スペクトルには、天然有機物に由来する赤外吸収スペクトルが全く見られなかった。また、ポリエチレンテレフタレートの赤外吸収スペクトルと高い一致性を示した。このことは、本発明によって、排水中の天然有機物がほぼ完全に除去され、樹脂のみが回収されたことを支持する。
【符号の説明】
【0041】
1 処理後残渣
2 ガラス濾過板
3 処理後残渣のスペクトル
4 フーリエ変換赤外分光光度計のライブラリに所蔵されたポリエチレンテレフタレートのスペクトル
図1
図2