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特許7299606電流計測装置、電流計測方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】電流計測装置、電流計測方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 19/00 20060101AFI20230621BHJP
   G01R 15/18 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
G01R19/00 B
G01R15/18 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019101808
(22)【出願日】2019-05-30
(65)【公開番号】P2020197384
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100180921
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】大村 一郎
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150726(WO,A1)
【文献】特表2012-511157(JP,A)
【文献】特開2001-165965(JP,A)
【文献】特開2013-061322(JP,A)
【文献】特開2014-137359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/00
G01R 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気回路における第1導通部を流れる直流電流の電流値を計測する電流計測装置であって、
コイルと、
前記第1導通部と正極同士及び負極同士が接続されている第2導通部と、
前記第1導通部及び前記第2導通部のON/OFFを制御するスイッチ部と、
前記スイッチ部を制御するスイッチ制御部とを備え、
前記スイッチ部は、並列に存在する第1トランジスタ及び第2トランジスタを有し、
前記コイルは、前記第1導通部又は前記第2導通部を囲んでおり
前記第1トランジスタは、前記第1導通部に接続されており、
前記第2トランジスタは、前記第2導通部に接続されており、
前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタは、それぞれ順方向に直列接続されており、
前記スイッチ制御部は、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタにゲート電圧を印加するゲート電圧制御部であり、
前記ゲート電圧制御部は、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタの両方又はいずれか一方がONとなるように制御する、電流計測装置。
【請求項2】
前記コイルは、ロゴスキーコイルである、請求項1記載の電流計測装置。
【請求項3】
前記コイルに接続された積分アンプをさらに備える、請求項1又は2記載の電流計測装置。
【請求項4】
前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタと並列に接続された保護ダイオードをさらに備え、
前記保護ダイオードは、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタとは順方向が逆向きとなるように接続されている、請求項記載の電流計測装置。
【請求項5】
並列に接続された前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタと逆方向に直列接続された第3トランジスタをさらに備える、請求項記載の電流計測装置。
【請求項6】
前記第1トランジスタの有効面積及び前記第2トランジスタの有効面積の和は、前記第3トランジスタの有効面積以下である、請求項記載の電流計測装置。
【請求項7】
前記第3トランジスタと並列に接続された第4トランジスタをさらに備え、
前記第4トランジスタの順方向は、前記第3トランジスタと同じ向きであり、
前記第1トランジスタ、前記第2トランジスタ、前記第3トランジスタ、及び、前記第4トランジスタの有効面積は、ほぼ同じである、請求項5又は6記載の電流計測装置。
【請求項8】
前記第1導通部は、前記第1トランジスタのソース電極に接続されており
前記コイルは、前記第1導通部だけでなく、前記第1トランジスタのゲート電流が流れる第1ゲート導線をも囲むものである、請求項1から7のいずれかに記載の電流計測装置。
【請求項9】
電気回路における第1導通部を流れる直流電流の電流値を計測する電流計測装置を用いた電流計測方法であって、
前記電流計測装置は、
コイルと、
前記第1導通部と正極同士及び負極同士が接続されている第2導通部と、
前記第1導通部及び前記第2導通部のON/OFFを制御するスイッチ部と、
前記スイッチ部を制御するスイッチ制御部と、
前記電流値を計測する計測部とを備え、
前記スイッチ部は、並列に存在する第1トランジスタ及び第2トランジスタを有し、
前記コイルは、前記第1導通部又は前記第2導通部を囲んでおり、
前記第1トランジスタは、前記第1導通部に接続されており、
前記第2トランジスタは、前記第2導通部に接続されており、
前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタは、それぞれ順方向に直列接続されており、
前記スイッチ制御部は、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタにゲート電圧を印加するゲート電圧制御部であり、
前記スイッチ制御部が、前記スイッチ部を制御して、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタの両方又はいずれか一方がONとなるように前記第1導通部又は前記第2導通部のON/OFFを制御する制御ステップと、
前記計測部が、前記第1導通部の電流値として得られたピーク値から前記第1導通部に流れる電流を計測する計測ステップとを含む、電流計測方法。
【請求項10】
前記制御ステップにおいて、前記スイッチ制御部が、前記スイッチ部を制御して、前記第1導通部と前記第2導通部のいずれか一方のみをオフとする制御を行い、
前記計測ステップの後に、前記スイッチ制御部が、前記スイッチ部を制御して、第1導通部及び第2導通部の両方に電流を流させる回復ステップをさらに含む、請求項記載の電流計測方法。
【請求項11】
前記コイルに接続された積分アンプをさらに備え、
前記制御ステップにおいて、前記スイッチ制御部が、前記スイッチ部を制御して、前記第1導通部と前記第2導通部のいずれか一方のみをオフとする制御を複数回切り替えて行い、
前記計測ステップにおいて、前記計測部が、前記第1 導通部の電流値として得られた複数のピーク値から前記第1導通部に流れる電流を計測する、請求項9又は10記載の電流計測方法。
【請求項12】
コンピュータを、請求項9から11のいずれかに記載の電流計測方法における前記スイッチ制御部及び前記計測部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流計測装置、電流計測方法及びプログラムに関し、特に、電気回路における第1導線を流れる電流値を計測する電流計測装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等の2次電池は、過充電、過放電、セル毎のアンバランスにより信頼性や蓄電効率が低下する。そのため、各電池の充電・放電電流、又は、電荷の計測により、充放電を制御することが重要である。現状では、2次電池電極間の電圧を検出して電池の充放電保護などを行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-033260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、直接的に充電電荷量(充放電電流)を計測していないため、十分な充電・放電電荷量の把握ができていなかった。
【0005】
また、コイルの電磁誘導の原理を応用して電流を計測することが知られているが、電流値の変化に対して応答するものであるため、コイルでは交流を計測できても直流を計測することはできない。直流を計測できる電流センサーも存在するが、非常に高価であり、リチウムイオン電池の保護のために用いることは現実的ではない。
【0006】
結果として、2次電池を確実に保護できず、電池の寿命を著しく損なうことが生じていた。逆に、マージンを多くとる場合には、保護はできたとしても実効的な充電容量が小さくなるという問題も生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、高価な電流センサーを用いることなく、直流電流を直接的に計測する電流計測装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、電気回路における第1導通部を流れる電流値を計測する電流計測装置であって、コイルと、前記第1導通部と正極同士及び負極同士が接続されている第2導通部と、前記第1導通部及び前記第2導通部のON/OFFを制御するスイッチ部と、前記スイッチ部を制御するスイッチ制御部とを備え、前記コイルは、前記第1導通部又は前記第2導通部を囲んでいる、電流計測装置である。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点の電流計測装置であって、前記コイルは、空芯コイルである。
【0010】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点の電流計測装置であって、前記コイルに接続された積分アンプをさらに備える。
【0011】
本発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点の電流計測装置であって、前記スイッチ部は、並列に存在する第1トランジスタ及び第2トランジスタを有し、前記第1トランジスタは、前記第1導通部に接続されており、前記第2トランジスタは、前記第2導通部に接続されており、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタは、それぞれ順方向が同じ向きとなるように接続されており、前記スイッチ制御部は、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタに流れる電流を制御するゲート電圧制御部であり、前記ゲート電圧制御部は、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタの両方又はいずれか一方がONとなるように制御する。
【0012】
本発明の第5の観点は、第4の観点の電流計測装置であって、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタと並列に接続された保護ダイオードをさらに備え、前記保護ダイオードは、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタとは順方向が逆向きとなるように接続されている。
【0013】
本発明の第6の観点は、第4又は第5の観点の電流計測装置であって、並列に接続された前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタと直列に接続された第3トランジスタをさらに備え、前記第3トランジスタの順方向は、前記第1トランジスタ及び前記第2トランジスタの順方向とは逆向きとなるように接続されている。
【0014】
本発明の第7の観点は、第6の観点の電流計測装置であって、前記第1トランジスタの有効面積及び前記第2トランジスタの有効面積の和は、前記第3トランジスタの有効面積以下である。
【0015】
本発明の第8の観点は、第6又は第7の観点の電流計測装置であって、前記第3トランジスタと並列に接続された第4トランジスタをさらに備え、前記第4トランジスタの順方向は、前記第3トランジスタと同じ向きであり、前記第1トランジスタ、前記第2トランジスタ、前記第3トランジスタ、及び、前記第4トランジスタの有効面積は、ほぼ同じである。
【0016】
本発明の第9の観点は、第4から第8のいずれかの観点の電流計測装置であって、前記第1導通部は、前記第1トランジスタのソース電極に接続されており前記コイルは、前記第1導通部だけでなく、前記第1トランジスタのゲート電流が流れる第1ゲート導線をも囲むものである。
【0017】
本発明の第10の観点は、電気回路における第1導線を流れる電流値を計測する電流計測装置を用いた電流計測方法であって、前記電流計測装置は、コイルと、前記第1導通部と正極同士及び負極同士が接続されている第2導通部と、前記第1導線及び前記第2導線のON/OFFを制御するスイッチ部と、前記スイッチ部を制御するスイッチ制御部と、前記電流値を計測する計測部とを備え、前記コイルは、前記第1導通部又は前記第2導通部を囲んでおり、前記スイッチ制御部が、前記スイッチ部を制御して、前記第1導通部又は前記第2導通部のON/OFFを制御する制御ステップと、前記計測部が、前記第1導通部の電流値として得られたピーク値から前記第1導通部に流れる電流を計測する計測ステップとを含む、電流計測方法である。
【0018】
本発明の第11の観点は、前記制御ステップにおいて、前記スイッチ制御部が、前記スイッチ部を制御して、前記第1導通部と前記第2導通部のいずれか一方のみをオフとする制御を行い、前記計測ステップの後に、前記スイッチ制御部が、前記スイッチ部を制御して、第1導通部及び第2導通部の両方に電流を流させる回復ステップをさらに含む。
【0019】
本発明の第12の観点は、第10又は第11の観点の電流計測方法であって、前記コイルに接続された積分アンプをさらに備え、前記制御ステップにおいて、前記スイッチ制御部が、前記スイッチ部を制御して、前記第1導通部と前記第2導通部のいずれか一方のみをオフとする制御を複数回切り替えて行い、前記計測ステップにおいて、前記計測部が、前記第1導通部の電流値として得られた複数のピーク値から前記第1導通部に流れる電流を計測する。
【0020】
本発明の第13の観点は、コンピュータを、第10から第12のいずれかの観点に記載の電流計測方法における前記スイッチ制御部及び前記計測部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の各観点によれば、高価な電流センサーを用いることなく、コイルを用いて直流電流を直接的に計測することが可能となる。
【0022】
また、本発明の第2の観点によれば、空芯コイルを用いるため、発明者らが開発したプリント基板でも実現可能となる。コイルをプリント技術で形成可能となることにより、本発明に基づく電流計測装置を効率的に生産することが容易となる。特に、二重巻きのロゴスキーコイルを用いることにより、より正確に微分波形を取得でき、正確なピーク値を得ることが可能となる。
【0023】
さらに、本発明の第3の観点によれば、デルタ関数のようなピークではなく、時間軸に一定の幅を持たせたピークを得ることが可能となる。そのため、ピーク値の計測の見逃しをしにくくなり、正確な電流値を計測することが容易となる。
【0024】
さらに、本発明の第4の観点によれば、例えば、従来のリチウムイオン電池のようにトランジスタを用いた電流制御回路に本発明の電流計測装置を適用することが容易となる。
【0025】
さらに、本発明の第5の観点によれば、第1トランジスタや第2トランジスタに内蔵されたダイオードの順方向とは逆方向に大電圧が印加された際に、保護ダイオードに大電流が流れて第1トランジスタや第2トランジスタを保護することが可能となる。
【0026】
さらに、本発明の第6の観点によれば、本発明に係る電流計測装置を容易に構成できる。例えば、従来のリチウムイオン電池を制御する複数のトランジスタが直列に並んで配置されている場合に、片方のトランジスタに代えて第1トランジスタ及び第2トランジスタの並列回路とすることにより、スムーズに本発明の構成を導入することが可能となる。
【0027】
さらに、本発明の第7の観点によれば、第6の観点において、片方のトランジスタを第1トランジスタ及び第2トランジスタの並列回路とした場合に、元の構成と抵抗値を大きく変化させずに済む。そのため、スムーズに本発明の構成を導入することがさらに容易となる。
【0028】
さらに、本発明の第8の観点によれば、例えば、従来のリチウムイオン電池に本発明を導入する際、チップを左右反転させても問題なく機能するため、生産工程で左右を気にする必要がなくなる。そのため、スムーズに本発明の構成を導入することがさらに容易となる。
【0029】
ここで、本当に計測したいのはドレイン電流であるが、直列に配置された2つの電解効果トランジスタのコモンドレインがチップの内部で接続されてコイルでドレイン電極に接続された導線を囲むことができないことも想定される。この場合、ソース電極に接続された導線をコイルで囲む必要がある。しかし、ソース電極に接続された第1導線には、ソース電流に加えてスイッチングの際のゲート電流も流れていて計測に誤差が生じてしまう。
【0030】
そこで、本発明の第9の観点によれば、第1導通部に加えて第1ゲート導線も囲むことにより、第1導通部に流れるゲート電流分をキャンセルして、純粋にドレイン電流に対応する電流値を計測することが可能となる。
【0031】
さらに、本発明の第11の観点によれば、電流値を測定する時以外は第1導通部及び第2導通部の両方をONとすることにより、第1導通部及び第2導通部の導通損失を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明に係る電流計測装置の概要を示すブロック図である。
図2】本発明に係る電流計測装置1の動作の概要を示す図である。
図3】実施例1に係る電流計測装置1の回路の一例を示す図である。
図4】実施例1に係るゲート電圧制御部の回路の一例を示す図である。
図5】本発明に係る空芯コイルの使用方法の一例を示す図である。
図6】実施例2に係る電流計測装置におけるトランジスタの配置の一例を示す図である。
図7】従来のリチウムイオン電池を含む保護回路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の実施の形態は、以下の内容に限定されるわけではない。
【0034】
図7は、従来のリチウムイオン電池を含む保護回路の一例を示す図である。従来の保護回路101は、リチウムイオン電池103と、キャパシタ105と、抵抗107と、抵抗109と、トランジスタ111と、トランジスタ113と、保護IC115と、抵抗117とを備える。
【0035】
リチウムイオン電池103は、キャパシタ105及び抵抗107と、キャパシタ105に近い接続点118、及び、抵抗107に近い接続点119とにおいて、並列に接続されている。また、リチウムイオン電池103、キャパシタ105及び抵抗107の並列回路部は、抵抗109、トランジスタ111、トランジスタ113と順に直列に接続されている。
【0036】
保護IC115は、端子VDD、端子VSS、端子RSENSE、端子Dout、端子Cout、端子Vを有する。保護IC115は、キャパシタ105と並列に接続されている。具体的には、端子VSSが、キャパシタ105と接続点118の間の接続点121と接続されており、端子VDDが、キャパシタ105と抵抗107の間の接続点123と接続されている。また、端子RSENSEが、抵抗109とトランジスタ111の間の接続点125と接続されている。端子Dout、端子Coutは、それぞれ、トランジスタ111及びトランジスタ113のゲート電極と接続されている。端子Vは、抵抗117を介して、トランジスタ113と接続された接続点127に接続されている。
【実施例1】
【0037】
図1は、本実施例に係る電流計測装置1(本願請求項における「電流計測装置」の一例である)の概要を示すブロック図である。図1を参照して、電流計測装置1は、空芯コイル3(本願請求項における「コイル」の一例である)と、不完全積分アンプ5(本願請求項における「積分アンプ」の一例である)と、計測部7と、第1トランジスタ9(本願請求項における「第1トランジスタ」の一例である)と、第2トランジスタ11(本願請求項における「第2トランジスタ」の一例である)と、第3トランジスタ13(本願請求項における「第3トランジスタ」の一例である)と、ゲート電圧制御部15と、保護ダイオード17(本願請求項における「保護ダイオード」の一例である)を備える。
【0038】
電流計測装置1は、直流電流を計測する。空芯コイル3は、導線等の直流電流の経路を囲んで、直流電流の計測に用いられる。不完全積分アンプ5は、電流のピーク幅を拡げるために用いられる。計測部7は、電流のピーク値を計測する。第1トランジスタ9は、第1導線に接続されており、第1導線に流れる電流を制御する。第2トランジスタ11は、第2導線に接続されており、第2導線に流れる電流を制御する。なお、第1トランジスタ9と第2トランジスタ11とは、並列に接続されている。すなわち、電源が接続された場合の第1導線と第2導線の正極側の端同士と、負極側の端同士が、それぞれ接続されている。第1トランジスタ9がオンで第2トランジスタがオフとなったときに第1導線に流れる電流の大きさと、第1トランジスタがオフで第2トランジスタ11がオンとなったときに第2導線に流れる電流の大きさは同じである。第1導線と第2導線をそれぞれ電気回路の部位とみると、少なくともそれぞれONとなっているときには、それぞれの部位が両端で電気的に接続されているという意味で、第1導線と第2導線は並列に接続されているといえる。第3トランジスタ13は、第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11と直列に接続されている。ゲート電圧制御部15は、第1トランジスタ9、第2トランジスタ11、第3トランジスタ13のゲート電極に印加するゲート電圧を制御して、各トランジスタのオン/オフを制御する。保護ダイオード17は、第1トランジスタ及び第2トランジスタと並列に接続されており、第1トランジスタ及び第2トランジスタとは順方向が逆向きとなるように接続されている。少なくとも第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11は、本願請求項における「スイッチ部」の一例である。また、ゲート電圧制御部15は、本願請求項における「スイッチ制御部」及び「ゲート電圧制御部」の一例である。
【0039】
図2は、本実施例に係る電流計測装置1の動作の概要を示す図である。図2を参照して、スイッチ部SW、第1導線21(本願請求項における「第1導通部」の一例である)、第2導線23(本願請求項における「第2導通部」の一例である)を含む回路において、第1導線21に流れる電流を計測するとする。第1導線21をロゴスキーコイル等の空芯コイル3が囲んでおり、空芯コイル3に不完全積分アンプが接続されている。なお、発明者らは、プリント基板を貫通する形で空芯コイルを搭載可能とした。このため、サイズ、高さ、発熱が問題とならずにコイルを回路に組み込むことが可能となる。
【0040】
図2(a)に示す向きに直流電流が流れている状態で、スイッチ部SWが接続を切り替えた瞬間には、電流のオン/オフが生じるため、コイルが電流の変化を受けて電磁誘導によりコイルに電圧が生じる。図2(b)に示すように、切り替える度に不完全積分アンプの出力電圧が生じ、A,B切り替えのスイッチング時間が不完全積分アンプの時定数に比べて十分高速であれば、電圧の振幅は流れる電流値に正確に比例する。また、流れる直流電流の向きを反対にすると、生じる電圧の位相が反転する。
【0041】
続いて、本実施例の電流計測装置1の具体的な回路について述べる。図3は、本実施例に係る電流計測装置1の回路の一例を示す図である。図3に示すように、本実施例に係る電流計測装置1は、例えば図7に示す2つのトランジスタと置き換えることにより、リチウムイオン電池等の保護用回路に内蔵することが可能である。
【0042】
図3(a)に示す電流計測装置1は、空芯コイル3と、不完全積分アンプ5と、計測部7と、第1トランジスタ9と、第2トランジスタ11と、第3トランジスタ13と、図示しないゲート電圧制御部と、アナログ・デジタル・コンバータ25とを備える。第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11は並列に接続されており、これらが第3トランジスタ13に直列に接続されている。さらに、第3トランジスタ13は、リチウムイオン電池等の直流電源27に直列に接続されている。第1トランジスタ、第2トランジスタ及び第3トランジスタをすべてオフすると、リチウムイオン電池を保護できる。第1導線を囲む空芯コイル3は、不完全積分アンプ5、計測部7、デジタル・アナログ・コンバータ25に順に直列に接続されている。
【0043】
図3(b)を参照して、第1導線に流れる直流電流の電流値を計測するフローについて説明する。まず、第2トランジスタ11が短時間だけ第2導線23に流れる電流をOFFにする。このとき、第1導線21に流れる直流電流の増加を受けて、空芯コイル3に電磁誘導により電圧が生じる。この電圧ピークは、不完全積分アンプにより一定の時間をかけて減衰していく。続いて、第2トランジスタ11が第2導線23に流れる電流をONにすると同時に、第1トランジスタ9が第1導線21に流れる電流をOFFにする。このとき、第1導線21に流れる直流電流の減少を受けて、空芯コイル3に電磁誘導により先ほどとは逆向きの電圧が生じる。このように、切替ステップを複数回繰り返すことにより、複数の電圧ピークが得られ、正確なピーク値を得ることが容易となる。
【0044】
また、電流を計測する以外の時間は、常時、第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11の両方をONにしておく。これにより、導通損失を低減できる。なお、第3トランジスタ13は、リチウムイオン電池を保護する場合以外は常時ONとなっている。このように、本検出回路はもともとリチウムイオン電池に付加されている従来の保護回路に用いられている第2トランジスタ及び第3トランジスタに、第2トランジスタ又は第3トランジスタと並列に接続されている第1トランジスタ、第1トランジスタが接続されている第1導線を囲む空芯コイル3、不完全積分アンプ5、計測部7、デジタル・アナログ・コンバータ25及び図示していない制御回路を付加することで容易に構成できる。
【0045】
ここで、非常に良い積分アンプであれば高精度になる。ただし、時定数が非常に長くなるため、リセット回路を付加する。リセット回路は、一定時間後に積分回路の出力を0Vに戻すための回路であり、オペアンプの帰還回路のコンデンサにたまった電荷を放電するスイッチ回路である。不完全積分回路であっても、精度を上げるためには時定数を長くして、リセット回路を付けることとなる。その分、回路は複雑になる。
【0046】
リセット回路がない不完全積分回路の場合、回路が単純になるメリットがある。この場合、不完全積分回路の時定数は、スイッチ部の切り替えの間隔(図2におけるAやBの期間)より十分に短くする必要がある。また、ONからOFF、OFFからONへの遷移時間よりは十分に長い必要がある。
【0047】
例えば、ON/OFFの遷移期間をT1、不完全積分回路の時定数をT2、スイッチ部の切り替えと切り替えの間隔をT3とすると、リセット回路を付けない積分アンプを用いる場合の誤差の最大値は、T1/T2+EXP(-T3/T2)となる。電池の電荷を計測する場合の誤差を1%以下とするには、上記の値を0.01以下とすることになる。
【0048】
リチウムイオン電池の保護回路とは別に電流検出装置とするときは、第3トランジスタ13を用いず、保護用のダイオード17を付加して、必ず電流導通が確保できるようにする。なお保護ダイオードはPN接合ダイオードやショットキーバリアダイオードであり、順方向導通の閾値電圧(電流が流れ始める順方向電圧)が0.1V以上1V未満のものを用いると良い。0.1Vより低いと、保護が必要ない場合でも若干の電流が保護ダイオードに流れて測定精度を低下させる。1V以上であると、保護時の発熱が大きい。
【0049】
ここで、第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11が同時にOFFとなると、電流が流れないこととなる。これは、ペースメーカーのように常時ONであることを前提とする機器にとって問題となり得る。
【0050】
そこで、図4を参照して、第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11の両方がOFFとならないための制御回路について述べる。図4は、本実施例に係るゲート電圧制御部の回路の一例を示す図である。
【0051】
第1トランジスタ9のゲート電極G1には、ゲート駆動回路GD1の出力線が接続されている。ゲート駆動回路GD1の入力側にはAND回路A1の出力線が接続されている。AND回路A1の入力側には、図7にDoutで示されているコントロールICの出力線と、OR回路O1の出力線が接続されている。OR回路O1の入力側には、NOT回路N1の出力線と、電流検出時の第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11への信号線とが接続されている。NOT回路N1の入力側は、電流検出時の第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11への信号線に接続されている。
【0052】
第2トランジスタ11のゲート電極G2には、ゲート駆動回路GD2の出力線が接続されている。ゲート駆動回路GD2の入力側にはAND回路A2の出力線接続されている。AND回路A2の入力側には、コントロールICの出力線と、電流検出時の第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11への信号線とが接続されている。
【0053】
コントロールICの出力線は、通常動作時はHigh、保護時にLowの信号を出力する。そのため、通常動作時に第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11への制御信号が両方Lowの誤信号の場合、NOT回路N1の出力がHighになり、OR回路O1の出力もHighになる。その結果、AND回路A1がHighを出力して第1トランジスタ9をONにする。通常動作のその他の場合は、電流検出時の第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11への信号に従って、ゲート電極G1及びG2にゲート信号が出力される。したがって、AND回路A1及びAND回路A2が同時にLowを出力しない構成である。結果として、第1トランジスタ9と第2トランジスタ11とが通常動作時には同時にOFFとならないようになっている。
【0054】
保護時には、コントロールICの出力に基いてAND回路A1及びAND回路A2の出力が両方Lowになり、第1トランジスタ9及び第2トランジスタ11が両方OFFとされ、リチウムイオン電池に流れる電流が遮断される。
【0055】
図5は、本実施例に係る空芯コイル3の使用方法の一例を示す図である。一般に、複数のMOSFETが1チップに共通ドレインで形成されている場合、MOSFETのパッケージからドレイン端子が引き出されていない。この場合、ドレイン電流を求めるには、ソース側にセンサを入れることをまず考える。しかし、電池に流れている電流には、ソース電流とゲート電流が含まれている。そのため、ソース電流が流れる導線のみを計測すると、電池に流れている電流のうち、ゲートに流れる電流分だけ誤差が生じてしまう。
【0056】
そこで、図5(a)に示すように、ソース電流が流れる導線とゲート電流が流れる導線(本願請求項における「第1ゲート導線」の一例)を両方含むように空芯コイル3に囲ませる。こうすると、ゲート電流が流れる導線内のゲート電流と、ソース電流が流れる導線に流れる電流のうちゲート電流成分が反対向きであるため、お互いにキャンセルされる。結果として、ドレイン電流に対応する電流成分を正確に計測することが可能となる。
【0057】
また、MOSFETがドライバを内蔵する場合や、ドライバをMOSFETの直近に配置する場合は、図5(b)に示すように、ドライバのV+配線、スイッチング信号線を空芯コイル3の中に通す。このようにすることで、特に小電流の際の精度が向上する。
【実施例2】
【0058】
図6は、本実施例に係る電流計測装置におけるトランジスタの配置の一例を示す図である。図3において、第3トランジスタ13のみだった部分を、第3トランジスタ13及び第4トランジスタ31の並列配置とした。
【0059】
このような配置とすることで、対称性が高くなるため、装置の取り付けの際に部品を反転させても製造エラーを生じるリスクを低減することが可能となる。
【0060】
なお、本実施例では、リチウムイオン二次電池の保護回路を例示したが、他の用途に応用されてもよい。例えば、一般的な二次電池の保護回路、太陽光発電の発電電流計測や太陽光パネルの保護回路に応用されてもよい。また、将来、家庭、ビル、データセンターなどで直流配電が使われるようになる場合には、分電盤での電流計測に用いることも可能である。さらに、産業用モータ等の巻き線電流計測や、半導体によるブレーカ機器に電流計測機能を組み込むことに用いることも可能である。
【符号の説明】
【0061】
1;電流計測装置、3;空芯コイル、5;不完全積分アンプ、7;計測部、9;第1トランジスタ、11;第2トランジスタ、13;第3トランジスタ、15;ゲート電圧制御部、17;保護ダイオード、21;第1導線、23;第2導線、25;アナログ・デジタル・コンバータ、27;直流電源、31;第4トランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7