(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】航空機
(51)【国際特許分類】
B64D 45/02 20060101AFI20230621BHJP
【FI】
B64D45/02
(21)【出願番号】P 2019045642
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津端 裕之
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0313438(US,A1)
【文献】特公昭46-003026(JP,B1)
【文献】米国特許第04980795(US,A)
【文献】中国特許出願公開第104691772(CN,A)
【文献】特開平04-071197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
前記機体に
位置を異にして3つ以上設けられた電界センサと、
前記機体からイオンを放出させることで、前記機体の電荷を変える電荷放出機構と、
飛行中、前記電界センサの出力に応じ、前記電荷放出機構を制御する制御部と、
を備え
、
前記制御部は、3つ以上の前記電界センサの出力から、前記機体全体としての正極側の電界強度である正極代表値と、前記機体全体としての負極側の電界強度である負極代表値を推定し、前記負極代表値の絶対値が、前記正極代表値の絶対値よりも大きくなるように、前記電荷放出機構を制御し、
前記機体が存在する空間の電場の大きさに対して前記機体の電荷により生じる電場の大きさを減算して得られる値と、前記機体が存在する空間の電場の大きさに対して前記機体の電荷により生じる電場の大きさを加算して得られる値のうち、正となった方が前記正極代表値で、負となった方が前記負極代表値である航空機。
【請求項2】
前記制御部は、前記電界センサの各々における前記機体が存在する空間の電場の大きさ、前記機体の電荷により生じる電場の大きさ、前記機体が存在する空間の電場の基準方向に対する角度、前記電界センサが検出する電界の方向の前記基準方向に対する角度、および、前記電界センサにより計測された電界強度の関係性に基づいて、前記機体が存在する空間の電場の大きさ、および、前記機体の電荷により生じる電場の大きさを特定する請求項1に記載の航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオン放出により落雷を回避する技術が検討されている。例えば、特許文献1には、コロナ放電を起こして霧に付着させたイオンを地上から放出してイオン雲を形成し、地上への直接の落雷回避を図る落雷防止装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、航空機に対しても、落雷が生じる。航空機は導電体であり、雷雲下の空間の電界が航空機に集中することで、航空機をトリガとした落雷が生じることが多い。そのため、航空機への落雷を抑制する技術の開発が希求される。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑み、落雷を抑制することが可能な航空機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の航空機は、機体と、機体に位置を異にして3つ以上設けられた電界センサと、機体からイオンを放出させることで、機体の電荷を変える電荷放出機構と、飛行中、電界センサの出力に応じ、電荷放出機構を制御する制御部と、を備え、制御部は、3つ以上の電界センサの出力から、機体全体としての正極側の電界強度である正極代表値と、機体全体としての負極側の電界強度である負極代表値を推定し、負極代表値の絶対値が、正極代表値の絶対値よりも大きくなるように、電荷放出機構を制御し、機体が存在する空間の電場の大きさに対して機体の電荷により生じる電場の大きさを減算して得られる値と、機体が存在する空間の電場の大きさに対して機体の電荷により生じる電場の大きさを加算して得られる値のうち、正となった方が正極代表値で、負となった方が負極代表値である。
制御部は、電界センサの各々における機体が存在する空間の電場の大きさ、機体の電荷により生じる電場の大きさ、機体が存在する空間の電場の基準方向に対する角度、電界センサが検出する電界の方向の基準方向に対する角度、および、電界センサにより計測された電界強度の関係性に基づいて、機体が存在する空間の電場の大きさ、および、機体の電荷により生じる電場の大きさを特定してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、落雷を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】航空機に搭載された電荷放出機構の概略図である。
【
図3】航空機の制御系を示す機能ブロック図である。
【
図4】制御部の制御を説明するための回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0012】
図1は、航空機10の概略図である。
図1では、航空機10は、負極側に帯電した雲CLと地面Eとの間を飛行している。雲CLの影響により、航空機10のうち、鉛直上側(以下、上側という)は、正極側に分極し、鉛直下側(以下、下側という)は、負極側に分極している。
【0013】
雲CLは、正極側に帯電する場合もある。また、航空機10が、負極側に帯電した雲CLと正極側に帯電した雲CLに挟まれる場合もある。そのため、航空機10の帯電は、必ずしも、
図1に示す状態とは限らない。
【0014】
航空機10には、複数(3つ以上)の電界センサ11が搭載される。電界センサ11は、例えば、航空機10の外表面に位置を異にして配される。電界センサ11は、少なくとも、航空機10の上側と下側にそれぞれ配される。
図1中、電界センサ11から延びる矢印は、それぞれの電界センサ11が検出する電界の方向を示す。
【0015】
図2は、航空機10に搭載された電荷放出機構20の概略図である。
図2には、
図1中、一点鎖線の丸で示す部位近傍の内部構造を示す。
図2に示すように、航空機10には、外気通路12が形成される。外気通路12は、上流端および下流端が航空機10の外部に開口している。航空機10の飛行中、外気は、外気通路12の内部を通過する。
【0016】
電荷放出機構20は、外気通路12の下流端側に配される。電荷放出機構20は、針電極21および高電圧発生器22を有する。針電極21は、外気通路12の内部に位置する。針電極21と外気通路12の内壁は、絶縁体によって絶縁されている。
【0017】
高電圧発生器22は、針電極21に高電圧を印加すると、針電極21周りにコロナ放電が発生する。針電極21がコロナ放電中、外気通路12に流入した外気が針電極21を通過すると、帯電したイオンが押し出される。放出されたイオンは、外気通路12から下流に向かってイオン化気流を形成して、航空機10から排出される。その結果、航空機10の電荷が変化する。
【0018】
例えば、針電極21が正極側に帯電している場合、正イオンが放出されて航空機10の電荷が負極側に変化する。針電極21が負極側に帯電している場合、負イオンが放出されて航空機10の電荷が正極側に変化する。
【0019】
図3は、航空機10の制御系を示す機能ブロック図である。
図3では、電荷放出機構20の制御に関するもののみを示す。
図3に示すように、航空機10は、上記の電界センサ11、電荷放出機構20の他に、制御部30を有する。
【0020】
制御部30は、例えば、コンピュータ、航空機10全体を制御する制御装置などで構成される。制御部30は、航空機10の飛行中、電界センサ11の出力に応じ、電荷放出機構20を制御する。
【0021】
まず、制御部30は、電界センサ11の出力から、下記の数式1を用いて正極代表値と負極代表値を推定する。正極代表値は、機体10a全体としての正極側の電界強度である。負極代表値は、機体10a全体としての負極側の電界強度である。
(R+A)cos(α-φn)=Mn
ただし、α-φn<90°のときA=c、α-φn>90°のときA=-cとする。
…(数式1)
【0022】
数式1において、添え字nは、電界センサ11ごとに設定される(例えば、電界センサ11が3つであれば、n=1~3)。変数Rは、機体10aのある空間の電場の大きさである。変数cは、機体10aの電荷による電場の大きさである。出力値Mnは、電界センサ11により計測された電界強度である。
【0023】
また、変数αは、機体10aのある空間の電場の基準方向に対する角度である。定数φ
nは、電界センサ11が検出する電界の方向の基準方向に対する角度であり、機体姿勢によって変化する。基準方向は、任意に設定される。基準方向は、例えば、機体10aの機軸方向であってもよいし、鉛直方向であってもよい。例えば、
図1に示す電界センサ11の配置の場合、機体10a側方から見たとき、機体10aの重心点から基準方向に延びる基準線に対して、反時計回りを正とする角度である。
【0024】
数式1では、未知の変数が3つ(変数c、変数R、変数α)である。そのため、少なくとも、3つの電界センサ11に関し、数式1を立てれば、これらの変数を特定できる。なお、制御部30は、4つ以上の電界センサ11に関し、数式1を立てて用いることで、これらの変数の推定精度を向上させてもよい。制御部30は、例えば、3つの電界センサ11の組み合わせを入れ替えて、それぞれ導出された3つの変数ごとに平均値を導出してもよい。また、出力値Mnが0のものは除外される。
【0025】
そして、制御部30は、変数R-変数Cおよび変数R+変数Cをそれぞれ導出する。これらのうち、正となった方が、正極代表値となり、負となった方が、負極代表値となる。
【0026】
図4は、制御部30の制御を説明するための回路図である。
図4に示す回路図は、回路部品によってハードウェアで実現されてもよいし、制御部30にインストールされたソフトウェアによって実現されてもよい。本回路例は、正極側に対して負極側が2倍の大きさとなるように制御する一例である。
【0027】
図4において、第1入力、第2入力に、それぞれ、変数R-変数C、変数R+変数Cが入力される。
図4における「(1+Sign(a))/2 + 1」、「(1+Sign(b))/2 + 1」のうち、Signは、符号関数であり、入力が正ならば1、負ならば-1、0ならば0を出力する。
【0028】
例えば、第1入力>0、第2入力<0の場合、第1入力の2倍の値と第2入力の1倍の値が加算された後、所定のゲイン値が乗算されて出力される。例えば、第1入力の2倍>第2入力の場合、正の値が出力されることになる。
【0029】
制御部30の出力は、電荷放出機構20の高電圧発生器22に入力される。高電圧発生器22には、アンプが設けられており、制御部30の出力は、アンプにより適切な電圧に変換されて、針電極21に印加される。
【0030】
例えば、機体10aの電荷量が0であった場合、観測される正負の電界はほぼ等しく、制御部30から正の値が出力される。この場合、高電圧発生器22によって正の電圧を印加された針電極21から、正のイオンが放出される。こうして、機体10aが負極に帯電され、負極側が正極側の2倍の電界強度となるように調整される。
【0031】
その結果、第1入力、第2入力の値はマイナス側に偏り、回路の差分の計算結果が小さくなり、正負の電界がバランスされる。
【0032】
このように、機体10aの電荷は、フィードバック制御され、負極代表値の絶対値/正極代表値の絶対値=2となる値に近づく。ただし、負極代表値の絶対値/正極代表値の絶対値の比は、1よりも大きければ、2以外の値でもよい。こうして、制御部30は、負極代表値の絶対値が、正極代表値の絶対値よりも大きくなるように、電荷放出機構20を制御する。
【0033】
機体10aをトリガとした落雷が発生する前には、機体10aからストリーマが進展する。ストリーマの進展を抑制できれば、落雷の抑制が期待できる可能性がある。ストリーマは、機体10aに生じる局所的な強い電界によって発生する。ストリーマは、負極側よりも正極側から進展し易いことが知られている。上記のように、制御部30は、負極代表値の絶対値が、正極代表値の絶対値よりも大きくなるように、電荷放出機構20を制御する。そのため、ストリーマの進展が抑制される。
【0034】
図5は、制御部30の処理を示すフローチャートである。
図5に示す制御処理は、航空機10の飛行中、所定の周期で繰り返し実行される。
【0035】
(S100)
制御部30は、数式1を用いて、3つの変数(変数c、変数R、変数α)を導出し、正極代表値、負極代表値を導出する。
【0036】
(S102)
制御部30は、S100で導出された変数R、すなわち、機体10aのある空間の電場の大きさ(電界強度)が閾値より大きいか否かを判定する。電界強度が閾値より大きい場合、S104に処理を移す。電界強度が閾値以下の場合、当該制御処理を終了する。
【0037】
機体10aが雷雲に近づくと、機体10aのある空間の電場が大きくなる。そのため、変数RをS104の制御の契機とすることで、落雷の危険が生じ始めたときに、確実に制御を遂行することができる。また、変数Rを用いず、単に、電界センサ11の出力値と閾値との比較により、落雷の危険性を判断してS104の制御の契機としてもよい。
【0038】
(S104)
制御部30は、負極代表値の絶対値が、正極代表値の絶対値よりも大きくなるように、電荷放出機構20を制御する。
【0039】
図6は、変形例を説明するための図である。
図6に示すように、変形例の電荷放出機構20Aは、機体10aのうち、排気流路13に設けられる。排気流路13の下流端は、機体10aの外部に開口する。排気流路13には、排気ガスが流通する。電荷放出機構20Aは、排気流路13の下流端側に配される。針電極21は、排気流路13内に配される。
【0040】
このように、電荷放出機構20Aは、排気流路13に設けられてもよい。この場合、イオンが排気ガスの力で強制的に排出される。そのため、イオンが機体10aに再付着し難くなり、機体10aの電荷の制御が容易となる。
【0041】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0042】
例えば、上述した実施形態では、電界センサ11は、機体10aに3つ以上設けられ、制御部30は、3つ以上の電界センサ11の出力から、正極代表値と負極代表値を推定する場合について説明した。この場合、機体10aのある空間の電場の向きに拘わらず、機体10aの電界強度を推定できる。ただし、電界センサ11は、機体10aの上側と下側に1つずつ設けられてもよい。この場合、制御部30は、2つの電界センサ11の出力を、第1入力、第2入力として用いる。2つの電界センサ11の出力のうち、正となった方が、正極代表値となり、負となった方が、負極代表値となる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、航空機に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 航空機
10a 機体
11 電界センサ
20、20A 電荷放出機構
30 制御部