(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-20
(45)【発行日】2023-06-28
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 33/02 20060101AFI20230621BHJP
F16H 29/12 20060101ALI20230621BHJP
【FI】
F16H33/02 B
F16H29/12
(21)【出願番号】P 2020016142
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2021-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米澤 紀男
(72)【発明者】
【氏名】森 重文
(72)【発明者】
【氏名】遠山 智之
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-40379(JP,A)
【文献】特開2018-105771(JP,A)
【文献】実公昭33-4913(JP,Y1)
【文献】実公昭33-14510(JP,Y1)
【文献】特開昭49-119065(JP,A)
【文献】特開昭49-117870(JP,A)
【文献】特公昭48-2747(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0067317(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 33/02
F16H 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力が入力される入力軸と、動力が出力される出力軸と、
前記入力軸と前記出力軸との間に配置され、前記入力軸から入力されたエネルギーを蓄積可能なエネルギー蓄積部と、
前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との差を許容する動力伝達部であって、少なくとも一部が捩り歪みを蓄積可能な弾性体を含む動力伝達部と、
を備え、
前記エネルギー蓄積部において運動エネルギーを他のエネルギーに変換して蓄積することによって回転速度に差がある前記入力軸と前記出力軸との間で動力を伝達することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
前記入力軸の回転速度より前記出力軸の回転速度が大きい増速型であり、
前記弾性体は、前記入力軸から動力が入力されている期間と前記出力軸から動力が出力されている期間とに重なりが生じるような回転弾性力を有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1に記載の動力伝達装置であって、
前記入力軸の回転速度より前記出力軸の回転速度が小さい減速型であり、
前記弾性体は、前記動力伝達部に蓄積されたエネルギーが前記出力軸へ放出されるような回転弾性力を有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記弾性体は、捩りば
ねであることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の動力伝達装置であって、
前記エネルギー蓄積部は、周期反転ばねであり、
前記周期反転ばねは、捩り角度に応じてトルク振動及び方向が周期的に変化するクランクばね構
造を含むことを特徴とする動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
比較的簡素な構造で弾性体の弾性エネルギーを出力軸に伝達可能な動力伝達装置が開示されている(特許文献1)。間欠駆動型変速原理(PDT)を利用した動力伝達装置では、間欠的なパルス状の駆動力(トルク)が入力軸側から出力軸側へ伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
間欠駆動型変速原理(PDT)は、ギア機構のような幾何学的形状による制約やベルト式無段変速機(CVT)のような摩擦発熱による摺動損失が発生しないため、装置の小型化や高効率化が期待される変速原理である。しかしながら、間欠的な動力伝達でギアのような連続的動力伝達と同等の出力を得るためには大きな瞬間出力が必要となる。瞬間的な大きな出力に耐えるためには、機械強度への要求が高くなり、動力脈動の制振も必要になる。特に、構造が簡素で実現性の高い受動型間欠駆動変速機(PPD)においては、装置の体格当たりの出力が小さいことが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の1つの態様は、動力が入力される入力軸と、動力が出力される出力軸と、前記入力軸と前記出力軸との間に配置され、前記入力軸から入力されたエネルギーを蓄積可能なエネルギー蓄積部と、前記入力軸の回転速度と前記出力軸の回転速度との差を許容する動力伝達部であって、少なくとも一部が捩り歪みを蓄積可能な弾性体を含む動力伝達部と、を備え、前記エネルギー蓄積部において運動エネルギーを他のエネルギーに変換して蓄積することによって回転速度に差がある前記入力軸と前記出力軸との間で動力を伝達することを特徴とする動力伝達装置である。
【0006】
ここで、前記入力軸の回転速度より前記出力軸の回転速度が大きい増速型であり、前記弾性体は、前記入力軸から動力が入力されている期間と前記出力軸から動力が出力されている期間とに重なりが生じるような回転弾性力を有することが好適である。
【0007】
また、前記入力軸の回転速度より前記出力軸の回転速度が小さい減速型であり、前記弾性体は、前記動力伝達部に蓄積されたエネルギーが前記出力軸へ放出されるような回転弾性力を有することが好適である。
【0008】
また、前記弾性体は、捩りばね又は磁気ばねであることが好適である。
【0009】
また、前記エネルギー蓄積部は、周期反転ばねであり、前記周期反転ばねは、捩り角度に応じてトルク振動及び方向が周期的に変化するクランクばね構造又は磁気ばね構造を含むことが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、動力伝達装置において時間的に動力遮断が起きない構成とすることができ、動力脈動が抑えられ、平均出力を向上することができる。また、従来構造よりも瞬間出力も低くすることができ、装置の機械的強度への要求を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態における動力伝達装置の構成を示す図である。
【
図2】従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の構成例を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の構成例を示す図である。
【
図4】従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の構成例を示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の構成例を示す図である。
【
図6】従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図7】改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図8】従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図9】改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図10】増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の変速点毎の特性例を示す図である。
【
図11】従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図12】改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図13】従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図14】改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図15】従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図16】改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図17】減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の変速点毎の特性例を示す図である。
【
図18】従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【
図19】改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態における動力伝達装置100は、
図1に示すように、動力源10、入力軸20、動力伝達部30及び出力軸40を備える。
【0013】
動力伝達装置100は、動力源10から得られる動力を利用して出力軸40を回転駆動させる。動力源10は、例えば、モータやエンジン等とすることができる。動力源10から得られる動力は、入力軸20に入力され、動力伝達部30を経由して出力軸40に伝達される。
【0014】
動力伝達部30は、入力軸20から得られるエネルギーの少なくとも一部を蓄積し、入力軸20及び出力軸40の少なくとも一方へ蓄積されたエネルギーを放出することを繰り返すことにより、入力軸20から出力軸40へ動力を伝達する。すなわち、動力伝達部30は、入力軸20から入力された動力のエネルギーを蓄積可能なエネルギー蓄積部として機能する。
【0015】
図2~
図5は、間欠駆動型(パルスドライブ)の動力伝達部30に関する具体例を示す。
図2及び
図3は、増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の具体例を示している。
図4及び
図5は、減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の具体例を示している。
【0016】
図2は、従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)を示す。入力軸20がワンウェイクラッチOWC(N)を介してクランクCを回転させることにより、ばねSに弾性エネルギーが蓄積される。また、蓄積された弾性エネルギーにより、ばねSがクランクCを回転させて弾性エネルギーを放出することにより、ワンウェイクラッチOWC(O)を介して出力軸40を回転させる。これにより、入力軸20から得られる動力が間欠的に出力軸40へ伝達される。
【0017】
図3(A)は、改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の一例を示す。入力軸20がワンウェイクラッチOWC(N)を介してクランクCを回転させることにより、ばねSに弾性エネルギーが蓄積される。また、蓄積された弾性エネルギーにより、ばねSがクランクCを回転させて弾性エネルギーを放出することにより、捩りばね50を備えた出力軸40を回転させる。これにより、入力軸20から得られる動力が間欠的に出力軸40へ伝達される。
【0018】
図3(B)は、改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の別例を示す。入力軸20が捩りばね50を介してクランクCを回転させることにより、ばねSに弾性エネルギーが蓄積される。また、蓄積された弾性エネルギーにより、ばねSがクランクCを回転させて弾性エネルギーを放出することにより、ワンウェイクラッチOWC(O)を備えた出力軸40を回転させる。これにより、入力軸20から得られる動力が間欠的に出力軸40へ伝達される。
【0019】
図4は、従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)を示す。入力軸20がクランクC(I)を回転させることにより、ばねSからの反力によってクランクC(O)が回転され、ワンウェイクラッチOWC(1)とワンウェイクラッチOWC(2)を介して出力軸40が駆動される。また、入力軸20と出力軸40との回転の差によってばねSに弾性エネルギーが蓄積され、蓄積された弾性エネルギーが入力軸20へ戻されることによって当該エネルギーが次回駆動時のアシスト(増トルク)に用いられる。これにより、入力軸20から得られる動力が間欠的に出力軸40へ伝達される。
【0020】
図5(A)は、改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)を示す。入力軸20がクランクC(I)を回転させることにより、ばねSからの反力によってクランクC(O)が回転され、ワンウェイクラッチOWC(1)と捩りばね50を介して出力軸40が駆動される。すなわち、入力軸20と出力軸40との回転の差によってばねSに弾性エネルギーが蓄積され、蓄積された弾性エネルギーの一部が捩りばね50の弾性エネルギーとなり、そのエネルギーが出力軸40に伝達されつつ、残りの蓄積された弾性エネルギーが入力軸20へ戻されることによって当該エネルギーが次回駆動時のアシスト(増トルク)に用いられる。これにより、入力軸20から得られる動力が間欠的に出力軸40へ伝達される。
【0021】
図5(B)は、改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)を示す。入力軸20がクランクC(I)を回転させることにより、ばねSからの反力によってクランクC(O)が回転され、捩りばね50とワンウェイクラッチOWC(2)を介して出力軸40が駆動される。このとき、入力軸20と出力軸40との回転の差によってばねSに弾性エネルギーが蓄積され、蓄積された弾性エネルギーの一部が捩りばね50の弾性体エネルギーと共に出力軸40に伝達され、残りのばねSの弾性体エネルギーが捩りばね50と入力軸20へ放出されることによって当該エネルギーが次回駆動時のアシスト(増トルク)に用いられる。これにより、入力軸20から得られる動力が間欠的に出力軸40へ伝達される。
【0022】
なお、本実施の形態の動力伝達部30では、ばねSの弾性エネルギーを利用して捩り角度に応じてトルク振動及び方向が周期的に変化する間欠駆動型(パルスドライブ)を示したが、これに限定されるものではない。例えば、ばねSの弾性エネルギーに代えて、又は、ばねSの弾性エネルギーに加えて、磁石の磁気エネルギーを利用する構成としてもよい。磁石の磁気エネルギーを利用する構成として、例えば、特許文献1の
図31,
図32に例示される磁気式ばねの構成としてもよい。
【0023】
また、本実施の形態の動力伝達部30では、ワンウェイクラッチOWC及び捩りばね50は入力軸20の回転速度と出力軸40の回転速度との差を許容する動力伝達部として機能する。本実施の形態では、捩りばね50を介して動力を伝達する構成としたが、これに限定されるものではなく、入力軸20及び出力軸40の少なくとも一方の回転に対して捩り歪みを蓄積可能な弾性を有する構成であればよい。例えば、捩りばね50の回転弾性に代えて、磁石の磁気エネルギーを利用する構成としてもよい。磁石の磁気エネルギーを利用する構成として、例えば、特許文献1の
図31,
図32に例示される磁気式ばねの構成としてもよい。
【0024】
図6は、従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性を示す。グラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は上から順に回転速度(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。
図7は、改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性を示す。
図7は、
図3(A)に示したように出力軸40側に捩りばね50を配置した動力伝達部30を適用した改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)を
図6と同様の条件で運転したときの特性を示す。グラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は上から順に回転速度(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。また、細実線は入力軸20の特性を示し、太実線は出力軸40の特性を示し、破線は振動子(クランク)の特性を示す。
【0025】
図8は、従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性を示す。グラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は上から順に回転速度(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。
図9は、改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性を示す。
図9は、
図3(B)に示したように入力軸20側に捩りばね50を配置した動力伝達部30を適用した改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)を
図8と同様の条件で運転したときの特性を示す。グラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は上から順に回転速度(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。また、細実線は入力軸20の特性を示し、太実線は出力軸40の特性を示し、破線は振動子(クランク)の特性を示す。
【0026】
図6~
図9は、入力回転数を2000(rpm)、出力回転数2400(rpm)とした運転条件におけるシミュレーション結果である。ただし、動力伝達部30の振動子慣性(クランク慣性)I=1.7×10
-4(kgm
2)、周期反転ばねトルクの片振幅A=107(Nm)、1回転当たりの周期反転回数N=6とし、出力軸40側に配置した捩りばね50の回転弾性を1200(Nm/rad)とした。
【0027】
図6に示した従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)と
図7に示した改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性について説明する。
図10は、従来型と改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性を纏めた図である。
図10(A)は、従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)における入力軸20の回転速度と出力軸40の回転速度の組み合わせに対する伝達動力の動作シミュレーションの結果を示す。
図10(B)は、改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)における入力軸20の回転速度と出力軸40の回転速度の組み合わせに対する伝達動力の動作シミュレーションの結果を示す。
図10(C)は、従来型の伝達動力に対する改良型の伝達動力の比を示す。
図10(A)~
図10(C)において、伝達動力及び伝達動力の比が大きいほど明度が高くなるように示している。
【0028】
図10(A)に示すように、従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)では変速領域の全体においてほぼ均一の伝達動力が得られるが、伝達動力の大きさは非常に小さい値に留まった。これに対して、
図10(B)に示すように、改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)では変速領域によって伝達動力の変化が大きいが、伝達動力の大きさは従来型に比べて大きい値となる領域が増大した。
【0029】
従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)に対して改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)では、伝達動力は最大で300%程度増加した。また、動力伝達部30の弾性体性能で決まる入出力の差回転上限(6186rpm)を避けて、入出力回転が差回転上限(6186rpm)以下である領域において伝達動力比の平均値は133.6%であった。
【0030】
また、当該領域内において動力を伝達できる範囲は従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)に対して改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)では76%であった。すなわち、改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)では動力伝達性能が向上する領域は全域ではなく、一部の領域では伝達能力の低下や変速域の縮小がみられた。これら変化は、入力軸20からの運動エネルギーを周期反転ばねの弾性エネルギーに一度変換し、再変換することで動力伝達する蓄積経路(Storage Path)ではなく、新たに導入した捩りばね50を介して入力軸20から出力軸40へと運動エネルギーが直接伝達する直接経路(Direct Path)で主な動力が伝達されたからと考えられる。なお、伝達能力の低下は、周期反転ばねの一部のエネルギーを捩りばね50が吸収したためと考察される。
【0031】
図11は、
図10(A)に示した従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の伝達特性において白点(×)で示した回転数の組み合わせのときの時間(sec)に対する回転数(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。
図11に示されるように、従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)では、入力軸20と出力軸40での動力伝達に重なりがなく、入力軸20と出力軸40との間で直接的な運動エネルギーのやり取りは無く、すべて周期反転ばねを介した伝達であると考えられる。すなわち、直接経路(Direct Path)で動力が伝達されず、入力軸20からの運動エネルギーを周期反転ばねの弾性エネルギーに一度変換し、再変換することで出力軸40へ伝達される蓄積経路(Storage Path)によって動力が伝達される。
【0032】
図12は、
図10(B)に示した改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)の伝達特性において白点(×)で示した回転数の組み合わせのときの時間(sec)に対する回転数(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。
図12に示されるように、改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)では、入力軸20と出力軸40の両軸から同時に動力伝達されるタイミングが存在している。すなわち、蓄積経路(Storage Path)のみならず、入力軸20から出力軸40へ運動エネルギーが直接伝達される直接経路(Direct Path)が存在する。直接経路(Direct Path)は、入力軸20と出力軸40との回転差以上に捩られた捩りばね50の弾性体の反力による動力の伝達である。すなわち、蓄積経路(Storage Path)により弾性体歪みを与え、その歪みが解放される期間において直接経路(Direct Path)により動力が伝達されている。したがって、改良型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)では、直接経路(Direct Path)による動力伝達が加わることによって従来型の増速型パッシブパルスドライブ(PPD)よりも動力伝達の性能の向上がみられたと考えられる。
【0033】
言い換えると、増速型パッシブパルスドライブ(PPD)では、入力軸20から動力が入力されている期間と出力軸40から動力が出力されている期間とに重なりが生じるような回転弾性力を有する捩りばね50を適用することによって、動力伝達の性能を向上させることができる。
【0034】
図13は、従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性を示す。グラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は上から順に回転速度(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。
図14は、改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性を示す。
図14は、
図5(A)に示したように捩りばね50を配置した動力伝達部30を適用した改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)を
図13と同様の条件で運転したときの特性を示す。グラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は上から順に回転速度(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。また、細実線は入力軸20の特性を示し、太実線は出力軸40の特性を示し、破線は振動子(クランク)の特性を示す。
【0035】
図15は、従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性を示す。グラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は上から順に回転速度(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。
図16は、改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性を示す。
図16は、
図5(B)に示したように捩りばね50を配置した動力伝達部30を適用した改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)を
図15と同様の条件で運転したときの特性を示す。グラフにおいて、横軸は時間を示し、縦軸は上から順に回転速度(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。また、細実線は入力軸20の特性を示し、太実線は出力軸40の特性を示し、破線は振動子(クランク)の特性を示す。
【0036】
図13~
図16は、入力回転数を1000(rpm)、出力回転数500(rpm)とした運転条件におけるシミュレーション結果である。ただし、動力伝達部30の振動子慣性(クランク慣性)I=1.7×10
-4(kgm
2)、周期反転ばねトルクの片振幅A=107(Nm)、1回転当たりの周期反転回数N=6とし、出力軸40側に配置した捩りばね50の回転弾性を100(Nm/rad)とした。
【0037】
図13に示した従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)と
図14に示した改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性について説明する。
図17は、従来型と改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の特性を纏めた図である。
図17(A)は、従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)における入力軸20の回転速度と出力軸40の回転速度の組み合わせに対する伝達動力の動作シミュレーションの結果を示す。
図17(B)は、改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)における入力軸20の回転速度と出力軸40の回転速度の組み合わせに対する伝達動力の動作シミュレーションの結果を示す。
図17(C)は、従来型の伝達動力に対する改良型の伝達動力の比を示す。
図17(A)~
図17(C)において、伝達動力及び伝達動力の比が大きいほど明度が高くなるように示している。
【0038】
図17(A)に示すように、従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)では変速領域の全体においてほぼ均一の伝達動力が得られるが、伝達動力の大きさは非常に小さい値に留まった。これに対して、
図17(B)に示すように、改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)では変速領域によって伝達動力の変化が大きいが、伝達動力の大きさは従来型に比べて大きい値となる領域が増大した。
【0039】
従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)に対して改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)では、伝達動力は最大で300%程度増加した。また、動力伝達部30の弾性体性能で決まる入出力の差回転上限(6186rpm)を避けて、入出力回転が差回転上限(6186rpm)以下である領域において伝達動力比の平均値は214.9%であった。
【0040】
図18は、
図17(A)に示した従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の伝達特性において白点(×)で示した回転数の組み合わせのときの時間(sec)に対する回転数(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。
図18に示されるように、従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)では、入力軸20から入力された運動エネルギーは周期反転ばねの弾性エネルギーとして一旦蓄積された後、出力軸40には伝達されずにすべて入力軸20へ戻される。すなわち、直接経路(Direct Path)のみで動力が伝達され、入力軸20からの運動エネルギーを周期反転ばねの弾性エネルギーに一度変換し、再変換することで出力軸40へ伝達される蓄積経路(Storage Path)によって動力が伝達されない。
【0041】
図19は、
図17(B)に示した改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)の伝達特性において白点(×)で示した回転数の組み合わせのときの時間(sec)に対する回転数(rad/s)、トルク(Nm)及び動力(W)を示す。
図19に示されるように、改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)では、直接経路(Direct Path)のみならず、入力軸20から入力され周期反転ばねと捩りばね50の弾性エネルギーとして一旦蓄積された後、その一部は入力軸20に戻され、残りの一部は入力軸20に戻されずに出力軸40に伝えられる蓄積経路(Storage Path)によっても動力が伝達される。動力伝達部30の弾性体(捩りばね50)に蓄積されたエネルギーが出力軸40へ放出されるタイミングが存在している。したがって、改良型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)では、蓄積経路(Storage Path)による動力伝達が加わることによって従来型の減速型パッシブパルスドライブ(PPD)よりも動力伝達の性能の向上がみられたと考えられる。
【0042】
言い換えると、減速型パッシブパルスドライブ(PPD)では、動力伝達部30に蓄積されたエネルギーが出力軸40へ放出される期間が生じるような回転弾性力を有する捩りばね50を適用することによって、動力伝達の性能を向上させることができる。
【0043】
本発明の具体的な実施態様の一例を説明したが、上述した具体例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【0044】
以上のように、本実施の形態では、ワンウェイクラッチOWCを用いて動力遮断により速度差を許容していた構造を見直し、捩り歪を蓄積可能な弾性体で代替させることで、動力遮断を生じさせることなく速度差を許容した間欠駆動を行うことができる。これによって、動力の伝達期間が連続的(高出力Duty比)になり動力脈動が抑えられる。また、出力時間が増えたことで平均出力が向上し、同じ出力に設計した場合では従来型よりも瞬間出力も低くすることが可能となった。
【符号の説明】
【0045】
10 動力源、20 入力軸、30 動力伝達部、30 動力伝達機構、40 出力軸、50 捩りばね、100 動力伝達装置。