(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
B60K 6/36 20071001AFI20230622BHJP
B60K 6/445 20071001ALI20230622BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20230622BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20230622BHJP
F16H 3/72 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
B60K6/36 ZHV
B60K6/445
B60K6/52
B60K6/547
F16H3/72 A
(21)【出願番号】P 2019056665
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 聡宏
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-006676(JP,A)
【文献】米国特許第06428438(US,B1)
【文献】特開2005-035475(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0375756(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/36
B60K 6/445
B60K 6/52
B60K 6/547
F16H 3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素の間で動力を伝達する遊星歯車機構と、
前記第1回転要素に動力伝達可能に連結された第1電動機と、
前記第2回転要素に動力伝達可能に連結された内燃機関と、
前記第3回転要素に動力伝達可能に連結された第1駆動輪と、
前記第1回転要素、前記第2回転要素及び前記第3回転要素のうちの2つ回転要素の接続と切断とを切り替える要素間クラッチと、
前記第1電動機が発電した電力で力行運転可能な第2電動機と、
前記第2電動機に動力伝達可能に連結された第2駆動輪と、
前記第3回転要素から前記第1駆動輪までの第1動力伝達経路に介在し、異なる変速比で動力を伝達する第1ギヤセット及び第2ギヤセットと、
前記第1ギヤセットと前記第1動力伝達経路との接続と切断とを切り替える第1クラッチと、
前記第2ギヤセットと前記第1動力伝達経路との接続と切断とを切り替える第2クラッチと、
前記第1電動機と前記第1回転要素までの動力伝達経路に含まれる回転軸と、前記第1ギヤセットの回転軸とを連結可能な第3クラッチと、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
前記第1駆動輪に動力伝達可能な第3ギヤセットと、
前記第1電動機と前記第1回転要素までの動力伝達経路に含まれる回転軸と、前記第3ギヤセットの回転軸とを連結可能な第4クラッチを更に備えることを特徴とする請求項
1記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両の駆動システムとして、1つの内燃機関と、主に発電を行う第1電動機と、駆動軸に連結された第2電動機と、内燃機関の動力を第1電動機と駆動軸とに分配する遊星歯車機構とを有するスプリット方式の駆動システムが知られている。スプリット方式の駆動システムは、パラレル方式の利点とシリーズ方式の利点とを併せ持つ。
【0003】
特許文献1には、前輪を駆動する駆動システムとして、1つの内燃機関(12)と、第1電動機(MG1)と、駆動軸に連結された第2電動機(MG2)と、内燃機関(12)の動力を第1電動機(MG1)と駆動軸とに分配する第2遊星歯車機構(50)とを備えた駆動システムが開示されている。さらに、この駆動システムには、内燃機関と第1電動機とを直結可能な直結クラッチ(CS)と、内燃機関の出力を2つの変速比に切り替えて出力可能とする第1遊星歯車機構(48)及び2つのクラッチ(B1、C1)と、が設けられている。
【0004】
特許文献1の駆動システムは、第1電動機(MG1)の駆動と発電との切替え、並びに、クラッチ(B1、C1)及び直結クラッチ(CS)の切替えにより、複数のEV(Electric Vehicle)モードと、シリーズ方式、パラレル方式及びスプリット方式(シリーズ・パラレル方式)の各HVモードの切り替えを実現できる(特許文献1の
図2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、燃費の向上を目的としたハイブリッド車両においても、走行性能を向上するためにHVモードにおけるAWD(All Wheel Drive)を実現したいという要求がある。
【0007】
従来のスプリット方式のハイブリッド車両では、一組の駆動輪を駆動するのに、2つの電動機を要する。したがって、スプリット方式のハイブリッド車両で、電気式のAWD(All Wheel Drive)を実現しようとすると、もう一組の駆動輪を駆動する電動機が必要となり、合計3つの電動機を含んだ駆動システムとなる。電動機の重量及び体積は大きく、さらに電動機の部品コストは高いことから、3つの電動機を含んだ駆動システムは、車両の重量及び寸法が増大し、コストが高騰するという課題がある。
【0008】
本発明は、HVモードのAWDを実現しつつ、駆動システムの重量増、大型化及びコストの高騰を抑制できるハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、
第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素の間で動力を伝達する遊星歯車機構と、
前記第1回転要素に動力伝達可能に連結された第1電動機と、
前記第2回転要素に動力伝達可能に連結された内燃機関と、
前記第3回転要素に動力伝達可能に連結された第1駆動輪と、
前記第1回転要素、前記第2回転要素及び前記第3回転要素のうちの2つ回転要素の接続と切断とを切り替える要素間クラッチと、
前記第1電動機が発電した電力で力行運転可能な第2電動機と、
前記第2電動機に動力伝達可能に連結された第2駆動輪と、
前記第3回転要素から前記第1駆動輪までの第1動力伝達経路に介在し、異なる変速比で動力を伝達する第1ギヤセット及び第2ギヤセットと、
前記第1ギヤセットと前記第1動力伝達経路との接続と切断とを切り替える第1クラッチと、
前記第2ギヤセットと前記第1動力伝達経路との接続と切断とを切り替える第2クラッチと、
前記第1電動機と前記第1回転要素までの動力伝達経路に含まれる回転軸と、前記第1ギヤセットの回転軸とを連結可能な第3クラッチと、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両である。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のハイブリッド車両において、
前記第1駆動輪に動力伝達可能な第3ギヤセットと、
前記第1電動機と前記第1回転要素までの動力伝達経路に含まれる回転軸と、前記第3ギヤセットの回転軸とを連結可能な第4クラッチを更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、要素間クラッチを切断に切り替えることで、内燃機関の動力の一部で第1駆動輪を駆動し、内燃機関の残りの動力の一部を用いて第1電動機が発電した電力で、第2電動機及び第2駆動輪を駆動できる。すなわち、スプリット方式のHVモードで全輪駆動を実現できる。また、要素間クラッチを接続に切り替えることで、内燃機関と第1電動機でパラレル方式のHVモードを実現でき、さらに、パラレル方式のときに第1電動機で発電した電力を用いて第2電動機を駆動することで、パラレル方式のHVモードで全輪駆動を実現できる。さらに、このようなHVモードを、第1電動機と第2電動機と内燃機関とで実現できることから、ハイブリッド車両の大型化、重量の増加及びコストの高騰を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態1に係るハイブリッド車両の駆動システムを示す骨子図である。
【
図2】
図1のハイブリッド車両において第2速のときの動力伝達経路(a)と、第4速のときの動力伝達経路(b)とを示す図である。
【
図3】第2速のときの動作(a)と第4速のときの動作(b)とを説明する共線図である。
【
図4】各シフト段におけるエンジン回転速度と車速との関係を示すグラフである。
【
図5】各走行モードの車速と加速度との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施形態2に係るハイブリッド車両の駆動システムを示す骨子図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係るハイブリッド車両の駆動システムを示す骨子図である。
【0016】
実施形態1に係るハイブリッド車両1は、1組の駆動輪(例えば前輪)Fと、もう1組の駆動輪(例えば後輪)Rと、これらを駆動する駆動システムと、を備える。駆動輪FはディファレンシャルギヤDF1を介して駆動軸29Fに連結されている。駆動輪RはディファレンシャルギヤDF2を介して駆動軸29Rに連結されている。1組の駆動輪Fは本発明に係る第1駆動輪に相当し、もう一組の駆動輪Rは本発明に係る第2駆動輪に相当する。
【0017】
駆動システムは、内燃機関であるエンジン10と、エンジン10の動力が伝達されるエンジン伝達軸22と、力行運転及び回生運転が可能な第1電動機11と、第1電動機11の動力が伝達されるモータ伝達軸21と、エンジン10の動力を分配可能な遊星歯車機構15と、駆動軸29Fに出力される動力が伝達される出力伝達軸23とを備える。第1電動機11のモータ軸は、ギヤGm1、Gm2を介してモータ伝達軸21に連結されている。エンジン10は、エンジンクラッチCeを介してエンジン伝達軸22と断続可能に連結されている。遊星歯車機構15は、第1回転要素(リングギヤ)15aと、第2回転要素(遊星キャリア)15bと、第3回転要素(サンギヤ)15cとを有する。第1回転要素15aにはモータ伝達軸21が連結され、第2回転要素15bにはエンジン伝達軸22が連結され、第3回転要素15cには出力伝達軸23が連結されている。
【0018】
さらに、駆動システムは、出力伝達軸23と駆動軸29Fとの間に断続可能に介在するハイギヤGh1、Gh2及びこの断続を行うハイクラッチChと、出力伝達軸23と駆動軸29Fとの間に断続可能に介在するローギヤGl1、Gl2及びこの断続を行うロークラッチClとを備える。また、駆動システムは、モータ伝達軸21とハイギヤGh1、Gh2の回転軸とを断続する直結クラッチCdと、遊星歯車機構15の第1回転要素15a~第3回転要素15cのうち2つを断続する要素間クラッチCmとを備える。ハイギヤGh1、Gh2は本発明に係る第1ギヤセットの一例に相当する。ローギヤGl1、Gl2は本発明に係る第2ギヤセットの一例に相当する。ハイクラッチChは本発明に係る第1クラッチの一例に相当する。ロークラッチClは本発明に係る第2クラッチの一例に相当する。直結クラッチCdは本発明に係る第3クラッチの一例に相当する。
【0019】
駆動システムは、さらに、力行運転及び回生運転が可能で駆動輪Rを駆動する第2電動機12を備える。第2電動機12のモータ軸は、ギヤGm3、Gm4を介して駆動輪Rの駆動軸29Rに連結されている。第2電動機12は、駆動輪Rから動力を出力する際、力行運転され、駆動輪Rから制動力を発生させる際、回生運転される。
【0020】
第1電動機11を駆動する図示略のインバータと第2電動機12を駆動する図示略のインバータとは電力線Lを介して接続されている。加えて、電力線Lにはバッテリ31が接続されている。バッテリ31に電力が蓄積されているとき、第1電動機11と第2電動機12とはバッテリ31の電力を用いて力行運転できる。また、第2電動機12は、第1電動機11が発電した電力を用いて力行運転できる。第1電動機11又は第2電動機12で発電された電力は、バッテリ31に蓄積できる。
【0021】
<シフト段>
上記構成の駆動システムにおいては、次のギヤセッティング表に示すように、要素間クラッチCm、ロークラッチCl及びハイクラッチCh、直結クラッチCdを切り替えることで、第1速から第4速まで及びリバースのシフト段の切替えを行うことかできる。続いて、各シフト段について説明する。
【表1】
【0022】
第1速では、要素間クラッチCmが接続に切り替えられることで、遊星歯車機構15の第1回転要素15a~第3回転要素15c、すなわち、モータ伝達軸21とエンジン伝達軸22と出力伝達軸23とが一体的に回転する。さらに、ロークラッチClが接続されることで、モータ伝達軸21とエンジン伝達軸22と出力伝達軸23とが、ローギヤGl1、Gl2を介して駆動軸29Fと接続される。
【0023】
第1速では、エンジン10の回転速度が決まると、第1電動機11の回転速度と、駆動軸29Fの回転速度とが一意に決まる。したがって、第1電動機11を力行運転すれば、エンジン10の動力と第1電動機11の動力とが加算されて、駆動軸29Fへ出力される。一方、第1電動機11を回生運転すれば、走行中、エンジン10の動力の一部を用いて発電できる。そして、発電した電力で第2電動機12を駆動することで、駆動輪F、Rの全輪駆動が実現する。
【0024】
図2(a)は、第2速の動力伝達経路を説明する図を示す。
図2(a)中、3種類の太線によりエンジン10の動力伝達経路、第1電動機11の動力伝達経路、駆動軸29Fへの動力伝達経路を表わす。
図3(a)は、第2速の遊星歯車機構の共線図を示す。
図3(a)において、LoOUTは、ローギヤGl1、Gl2を介した駆動軸29Fの接続を示し、HiOUTは、ハイギヤGh1、Gh2を介した駆動軸29Fの接続を示す。
【0025】
第2速では、要素間クラッチCmが切断に切り替えられることで、遊星歯車機構15の第1回転要素15a~第3回転要素15cが異なる速度で回転可能となる。しかしながら、第1回転要素15aに連結されたモータ伝達軸21は、直結クラッチCdによりハイギヤGh1、Gh2を介して駆動軸29Fに接続される。一方、第3回転要素15cに連結された出力伝達軸23はロークラッチClの接続によりローギヤGl1、Gl2を介して駆動軸29Fに接続される。このため、駆動軸29Fと第1回転要素15a、並びに、駆動軸29Fと第3回転要素15cが、所定の回転比率で回転することとなる。すなわち、
図3(a)の共線図の関係線K1の傾きが一定値に制限され、第1回転要素15aと第3回転要素15cとが所定の回転比率で回転するように制限される。これにより、
図3(a)の共線図に示すように、第1回転要素15aと第3回転要素15cとの回転比率に応じて、第2回転要素15bも所定の回転比率で回転するように制限される。すなわち、第1回転要素15aの回転速度r1と第3回転要素15cの回転速度r3との比(r1/r3)は、ローギヤGl1、Gl2のギヤ比とハイギヤGh1、Gh2のギヤ比との比に一致し、これらの回転速度r1、r3に応じて第2回転要素15bの回転速度r2が一意に決まる。
【0026】
したがって、第2速においても、エンジン10の回転速度が決まると、第1電動機11の回転速度と、駆動軸29Fの回転速度とが一意に決まる。したがって、第1電動機11を力行運転すれば、エンジン10の動力と第1電動機11の動力とから加算されて、駆動軸29Fへ出力される。一方、第1電動機11を回生運転すれば、走行中、エンジン10の動力の一部を用いて発電できる。そして、発電した電力で第2電動機12を駆動することで、駆動輪F、Rの全輪駆動が実現する。第2速の変速比(エンジン10の回転速度に対する駆動軸29Fの回転速度の減速比)は、第1速の変速比よりも小さい。
【0027】
第3速では、要素間クラッチCmが接続に切り替えられることで、遊星歯車機構15の第1回転要素15a~第3回転要素15c、すなわち、モータ伝達軸21とエンジン伝達軸22と出力伝達軸23とが一体的に回転する。さらに、ハイクラッチChが接続されることで、モータ伝達軸21とエンジン伝達軸22と出力伝達軸23とが、ハイギヤGh1、Gh2を介して駆動軸29Fと接続される。
【0028】
第3速では、エンジン10の回転速度が決まると、第1電動機11の回転速度と、駆動軸29Fの回転速度とが一意に決まる。したがって、第1電動機11を力行運転すれば、エンジン10の動力と第1電動機11の動力とが加算されて、駆動軸29Fへ出力される。一方、第1電動機11を回生運転すれば、走行中、エンジン10の動力の一部を用いて発電できる。そして、発電した電力で第2電動機12を駆動することで、駆動輪F、Rの全輪駆動が実現する。第3速の変速比は、第2速の変速比よりも小さい。
【0029】
図2(b)は、第4速の動力伝達経路を説明する図を示す。
図2(b)中、3種類の太線により、エンジン10の動力伝達経路、第1電動機11の動力伝達経路、駆動軸29Fへの動力伝達経路を表わす。
図3(b)は、第4速の遊星歯車機構の共線図を示す。
図3(b)において、HiOUTは、ハイギヤGh1、Gh2を介した駆動軸29Fの接続を示す。
【0030】
第4速では、スプリット方式のHVモードが実現される。すなわち、第4速では、要素間クラッチCmが切断に切り替えられることで、遊星歯車機構15の第1回転要素15a~第3回転要素15cが異なる速度で回転可能となる。さらに、ロークラッチClが切断、ハイクラッチChが接続、直結クラッチCdが切断に切り替えられる。これにより、出力伝達軸23は、ハイギヤGh1、Gh2を介して駆動軸29Fに連結される。そして、エンジン10の動力が、遊星歯車機構15の第1回転要素15a~第3回転要素15cを介して、第1電動機11と、駆動軸29Fとに分配される。
【0031】
第4速では、
図3(b)の共線図に示すように、第1電動機11の回転速度r1とエンジン10の回転速度r2に応じて駆動軸29Fの回転速度r3が決定される。さらに、共線図の関係直線K2、K3に示すように、第1電動機11の回転速度が変わると(r1→r1a)が変わると、エンジン10と駆動軸29Fとの間の変速比が変化する。
【0032】
さらに、第4速では、
図3(b)の共線図から分かるように、エンジン10の回転速度r2を一定とし、第1電動機11の回転速度r1を上昇させると、関係直線K2の勾配が小さくなる方に変化する。すなわち、駆動軸29Fの回転速度r3が小さくなる。したがって、第4速では、第1電動機11を力行運転すると、エンジン10の回転速度を上昇させる作用が働くだけで、駆動軸29Fの出力トルクを大きくする作用が生じない。このため、第4速においては、第1電動機11は、専ら、回生運転されて発電に利用される。
【0033】
したがって、第4速では、エンジン10の動力を分配して、第1電動機11における発電と、駆動輪Fの駆動とが行われる。発電された電力が第2電動機12に出力されることで、もう一方の駆動輪Rを駆動できる。言い換えれば、エンジン10の動力の一部で一方の駆動輪Fが駆動され、エンジン10の残りの動力でもう一方の駆動輪Rが駆動され、全輪駆動が実現される。さらに、ハイブリッド車両1の発進時にバッテリ31が枯渇しているような場合でも、エンジン10を中回転~高回転に駆動し、第1電動機11で発電し、発電された電力により第2電動機12を駆動することで、非効率なエンジン10の低回転駆動を避けて、エネルギー効率の高い発進が実現される。また、第4速においては、第1電動機11の回転速度を変化させることで、エンジン10から駆動輪Fまでの変速比を変化させることができる。
【0034】
なお、第4速におけるハイクラッチChの接続を、ロークラッチClの接続に置き換えたシフト段が追加されてもよい。このシフト段により、上記の第4速とは変速比が異なるスプリット方式のHVモードを実現することができる。
【0035】
リバースでは、ロークラッチCl、ハイクラッチCh及び直結クラッチCdの切断により駆動軸29Fとエンジン10とが切り離され、エンジン10の動力は第1電動機11の発電のみに利用可能とされる。さらに、第2電動機12が逆回転の力行運転によりもう一方の駆動輪Rを駆動して、ハイブリッド車両1の後退を実現できる。バッテリ31の枯渇時には、第1電動機11がエンジン10の動力を用いて発電し、発電された電力で第2電動機12を駆動できる。すなわち、シリーズ方式の走行モードで、ハイブリッド車両1を後退できる。なお、バッテリ31に十分な電力が蓄積されている場合は、要素間クラッチCmとロークラッチClを接続する一方、他のクラッチを切断し、第1電動機11及び第2電動機12を逆回転に力行運転させることで、ハイブリッド車両1をEV走行で後退させることもできる。
【0036】
<各シフト段の変速比>
図4は、各シフト段におけるエンジン回転速度と車速との関係を示すグラフである。
図4において、第4速のプロット線は、第1電動機11を停止したときの関係を示し、パワースプリット領域Rspは、第1電動機11を回生運転させたときの、エンジン回転速度と車速との関係を示す。
【0037】
図4に示すように、実施形態1の駆動システムにおいては、適度なステップ比で各々が開いた複数のシフト段が実現される。これらのうち、変速比の低い第1速から第3速においては、エンジン10を停止して第1電動機11を力行運転することで、EVモードの走行が実現される。さらに、エンジン10の駆動と第1電動機11の力行運転により、パラレル方式HVモードの走行が実現される。さらに、第1電動機11を回生運転することで、エンジン10の動力の一部を利用して発電を行い、発電された電力でバッテリ31を充電、あるいは、第2電動機12を力行運転することができる。第2電動機12が力行運転されることで、ハイブリッド車両1の全輪駆動が実現される。第1速から第3速においては、車速に応じて走行モードを適宜に切り替えることで、高いエネルギー効率の走行を実現できる。なお、中高速域での前進のEVモードは、直結クラッチCdのみを接続して第1電動機11、又は第1電動機11と第2電動機12とを力行運転させることによっても実現することができる。
【0038】
変速比の高い第4速では、スプリット方式のHVモードが実現され、第1電動機11の回転速度を変更することで、パワースプリット領域Rspの中で、エンジン10と駆動輪Fとの間の変速比を変更することができる。第3速から第4速の減速比のステップ比を大きくとることで、駆動システムのレシオカバレッジを大きくすることができ、一方、第1電動機11の回転速度の制御で、第3速から第4速の減速比をパワースプリット領域Rspの中で調整することができる。
【0039】
第4速では、発進時などの車速が低いときでも、第1電動機11で発電しながら、エンジン10を中回転速度で駆動できる。発電された電力で、バッテリ31の充電又は駆動輪Rを駆動することで、高いエネルギー効率の走行を実現できる。なお、発進時等の低速時においてバッテリ31の残量が少ないときには、第4速において、ハイクラッチChの代わりにロークラッチClを接続すれば、第2速相当のスプリット方式のHVモードを実現できる。あるいは、第2電動機12を力行運転することで、シリーズ方式の走行モードを実現することもできる。したがって、第4速においては、バッテリ31の状態及びハイブリッド車両1の要求駆動力等の状況に応じて、これらの走行モードを使い分けることで、状況に適した走行モードを実現できる。
【0040】
<各走行モードの出力>
図5は、各走行モードにおける車速と加速度(駆動力)との関係を示すグラフである。
図5のEV1stとEV3rdは、第1速と第3速のシフト段でエンジンクラッチCeを切断して第1電動機11を力行運転した場合の最高出力特定を示す。HV1st、HV2nd、HV3rdは、第1速、第2速及び第3速のシフト段におけるパラレル方式の走行モードにおける最高出力特性を示す。SOC0_4thは、第4速のシフト段において第1電動機11で発電を行い、発電された電力でもう一方の駆動輪Rを駆動した場合の最高出力特性を示す。SOC0_Rrは、SOC0_4thの加速度のうち、第2電動機12が発生する駆動力の成分を示す。
【0041】
図5に示すように、実施形態1の駆動システムにおいては、シフト段を適宜切り替えることで、車速が低いときには大きな加速度が得られ、車速が高くなるにしたがって出力可能な加速度がなだらかに低下するという、良好な出力特性が得られる。
【0042】
また、SOC0_4thとSOC0_Rtの特性に示されるように、スプリット方式の走行モードを利用することで、発進時又は後退時などの低車速時においても、発進又は後退するのに十分な加速が得られる。このとき、バッテリ31が枯渇していても、第1電動機11の発電により第2電動機12を駆動することができ、かつ、車速が低くてもエンジン10の回転速度を上げて高効率な駆動が実現される。
【0043】
以上のように、本発明に係るハイブリッド車両1によれば、エンジン10の動力を第1電動機11と出力伝達軸23とに分配可能な遊星歯車機構15と、遊星歯車機構15の回転要素間を接続可能な要素間クラッチCmとを備える。さらに、第1電動機11で発電した電力を用いて力行運転可能な第2電動機12と、第2電動機12により駆動される駆動輪Rとを備える。したがって、要素間クラッチCmを切断に切り替えることで、スプリット方式によりエンジン10の動力の一部を用いて一方の駆動輪Fを駆動し、かつ、動力の残りを用いてもう一方の駆動輪Rを駆動できる。これにより、HVモードの良好な効率で全輪駆動が実現される。一方、要素間クラッチCmを接続に切り替えることで、エンジン10と第1電動機11と駆動輪Fとが一定の回転比で回転されるように接続され、パラレル方式のHVモードを実現できる。さらに、これらのHVモードは、エンジン10と第1電動機11と第2電動機12との3つの動力源を用いて実現できるので、ハイブリッド車両1の大型化、重量の増加及びコストの高騰を抑制できる。
【0044】
さらに、本発明に係るハイブリッド車両1によれば、ハイギヤGh1、Gh2及びハイクラッチChと、ローギヤGl1、Gl2及びロークラッチClとを備える。そして、これらによって、遊星歯車機構15の第3回転要素15cに連結される出力伝達軸23と、駆動軸29Fとの間の変速比を変えられる。これにより、例えばパラレル方式のHVモードのときに変速比を切り替えることで、適宜なステップ比のシフト段を実現できる。
【0045】
さらに、本発明に係るハイブリッド車両1によれば、モータ伝達軸21とハイギヤGh1、Gh2の回転軸とを連結可能な直結クラッチCdを備える。そして、直結クラッチCdを接続に切り替えることで、遊星歯車機構15の各回転要素の回転比を所定値に制限することができる。これにより、さらに例えばパラレル方式のHVモードにおける変速比を追加でき、適宜なステップ比のシフト段を実現できる。
【0046】
(実施形態2)
図6は、本発明の実施形態2に係るハイブリッド車両の駆動システムを示す骨子図である。実施形態2に係るハイブリッド車両1Aの駆動システムは、主に、第1実施形態の駆動システムに、駆動軸29Fに動力伝達可能に連結された出力ギヤGm5、Gm6と、モータ伝達軸21と出力ギヤGm5、Gm6の回転軸とを連結可能な第2直結クラッチCd2とが追加されている。さらに、実施形態2に係る駆動システムは、実施形態1の構成からエンジンクラッチCeが省略されている。実施形態1と同様の構成要素については、同一符号を付して、詳細な説明を省略する。出力ギヤGm5、Gm6は本発明に係る第3ギヤセットの一例に相当する。第1直結クラッチCd1は本発明に係る第3クラッチの一例に相当する。第2直結クラッチCd2は本発明に係る第4クラッチの一例に相当する。
【0047】
実施形態2では、遊星歯車機構15の第1回転要素15a~第3回転要素15cのうち、第1電動機11が動力伝達可能に連結される第1回転要素15aがサンギヤであり、駆動軸29Fに出力される動力が伝達される出力伝達軸23が連結される第3回転要素15cがリングギヤである。
【0048】
実施形態2では、第1直結クラッチCd1と第2直結クラッチCd2との切替えにより、モータ伝達軸21と駆動軸29Fとを2つの変速比で直結することができる。第1直結クラッチCd1は、実施形態1の直結クラッチCdと同様に作用し、ハイギヤGh1、Gh2を介して、モータ伝達軸21と駆動軸29Fとを連結できる。第2直結クラッチCd2は、出力ギヤGm5、Gm6を介して、モータ伝達軸21と駆動軸29Fとを連結できる。
【0049】
このような構成により、実施形態1の第2速のシフト段で示したエンジン10、第1電動機11及び駆動軸29Fの回転比を、第1直結クラッチCd1と第2直結クラッチCd2との切替えにより、2つの回転比の間で切替えることができる。
【0050】
また、実施形態2の駆動システムでは、要素間クラッチCm、ロークラッチCl、ハイクラッチChを切断とし、第1直結クラッチCd1又は第2直結クラッチCd2を接続とすることで、エンジンクラッチCeを廃止しつつ、2つの変速比のEVモードを実現することができる。
【0051】
以上のように、実施形態2のハイブリッド車両1Aによれば、出力ギヤGm5、Gm6と第2直結クラッチCd2の追加により、切替え可能なシフト段を増やし、各シフト段の間のステップ比の調整がより容易となるという効果が得られる。
【0052】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、変速比を2段階に切り替える構成として、ハイギヤGh1、Gh2及びローギヤGl1、Gl2と、これらを出力伝達軸23と駆動軸29Fとの間で切り替えるハイクラッチCh、ロークラッチClとを適用した例を示した。しかし、変速比を2段階に切り替える構成は、遊星歯車機構とそのいずれかの回転要素を固定に切り替えるクラッチと要素間を連結するクラッチとの組み合わせなど、様々な構成に置き換えることができる。また、第1電動機の回生運転ができない場合に動作して、モータ伝達軸に制動力を及ぼす摩擦ブレーキを追加したり、遊星歯車機構の要素間クラッチを上記実施形態とは異なる2つの回転要素間に設けるなど、具体的な駆動システムの構成は様々に変形可能である。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0053】
1、1A ハイブリッド車両
10 エンジン
11 第1電動機
12 第2電動機
15 遊星歯車機構
15a 第1回転要素
15b 第2回転要素
15c 第3回転要素
21 モータ伝達軸
22 エンジン伝達軸
23 出力伝達軸
29F、29R 駆動軸
31 バッテリ
Ce エンジンクラッチ
Cm 要素間クラッチ
Ch ハイクラッチ(第1クラッチ)
Cl ロークラッチ(第2クラッチ)
Cd 直結クラッチ(第3クラッチ)
Cd1 第1直結クラッチ(第3クラッチ)
Cd2 第2直結クラッチ(第4クラッチ)
Gh1、Gh2 ハイギヤ(第1ギヤセット)
Gl1、Gl2 ローギヤ(第2ギヤセット)
Gm5、Gm6 出力ギヤ(第3ギヤセット)
F 第1駆動輪
R 第2駆動輪