(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】樹脂補強用アラミド繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 13/11 20060101AFI20230622BHJP
D06M 13/513 20060101ALI20230622BHJP
D06M 15/263 20060101ALI20230622BHJP
D01F 6/60 20060101ALI20230622BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20230622BHJP
D06M 15/227 20060101ALI20230622BHJP
D06M 101/36 20060101ALN20230622BHJP
【FI】
D06M13/11
D06M13/513
D06M15/263
D01F6/60 371A
F16D69/02 A
D06M15/227
D06M101:36
(21)【出願番号】P 2019059837
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】森 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鵜篭 敏臣
(72)【発明者】
【氏名】横川 重宏
(72)【発明者】
【氏名】葛巻 英津子
(72)【発明者】
【氏名】竹田 悠太
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160535(JP,A)
【文献】特開2004-092906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715、
D01F1/00-6/96、9/00-9/04、
F16D49/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アラミド繊維の表面もしくは繊維骨格内に、(A)エポキシ化合物、(B)シランカップリング剤、及び(C)酸変性ポリオレフィンが、付着もしくは浸透して
おり、前記(A)エポキシ化合物は、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、及びポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種または2種以上であり、かつ、前記エポキシ化合物あるいはエポキシ化合物混合物のエポキシ当量が200(g/eq)以下であることを特徴とする樹脂補強用アラミド繊維。
【請求項2】
(A)エポキシ化合物の付着もしくは浸透量(質量%)をエポキシ化合物のエポキシ当量(g/eq)で除して算出されるアラミド繊維単位質量あたりのエポキシ官能基数(E)に対し、同様にして算出される、(B)シランカップリング剤が有するシラノール基数(S)の比率(S/E)が50%以下に制御されている請求項
1に記載の樹脂補強用アラミド繊維。
【請求項3】
(B)シランカップリング剤が、アミノ基含有シランカップリング剤である請求項1
または2に記載の樹脂補強用アラミド繊維。
【請求項4】
(C)酸変性ポリオレフィンが、無水マレイン酸変性ポリエチレンまたは無水マレイン酸変性ポリプロピレンである請求項1~
3のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維。
【請求項5】
アラミド繊維が、あらかじめエポキシ化合物を繊維表面に付着させたアラミド繊維である請求項1~
4のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維。
【請求項6】
アラミド繊維が、あらかじめエポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたアラミド繊維である請求項1~
4のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維をフィブリル化しパルプ状としたことを特徴とする樹脂補強用アラミド繊維パルプ。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維を0.5mm以上に切断して短繊維としたことを特徴とする樹脂補強用アラミド短繊維。
【請求項9】
請求項1~
6のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維を、繊維状材料として含む摩擦材料。
【請求項10】
請求項
9に記載の摩擦材料を用いた摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂補強用のアラミド繊維、アラミド繊維パルプ及びアラミド短繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂の補強繊維として、高強度、高弾性率及び優れた耐熱性を有するアラミド繊維が用いられている。
【0003】
しかしながら、アラミド繊維は他の補強繊維であるガラス繊維、炭素繊維に比して、樹脂との接着性が劣る。
【0004】
そのため、アラミド繊維に、エポキシ化合物とシランカップリング剤を付与する方法(特許文献1、2参照)、エポキシ化合物と酸変性ポリオレフィンとレゾルシン/ホルマリン/ラテックス(RFL)樹脂を特定比率で付与する方法(特許文献3参照)等が提案されている。
【0005】
しかしながら、上記の手法では樹脂との十分な接着が得られない等、多くの問題がある。また、一般的にアラミド繊維の接着性を向上させるためにRFL樹脂が広く用いられているが、樹脂補強用として用いた場合に実用的な接着性を得るには至っていない。このような観点より、アラミド繊維による補強効果をより一層高めるために、樹脂との接着性が改善された接着剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-303456号公報(特許請求の範囲、実施例11等)
【文献】特開2004-092906号公報(特許請求の範囲等)
【文献】特開2013-001831号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、樹脂補強用繊維として用いた場合に樹脂と良好な接着性を示すアラミド繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アラミド繊維に、エポキシ化合物、シランカップリング剤及び酸変性ポリオレフィンを付着もしくは浸透させることで、樹脂補強用として用いた場合に、樹脂に対する接着力が大幅に向上したアラミド繊維が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)アラミド繊維の表面もしくは繊維骨格内に、(A)エポキシ化合物、(B)シランカップリング剤、及び(C)酸変性ポリオレフィンが、付着もしくは浸透しており、前記(A)エポキシ化合物は、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、及びポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種または2種以上であり、かつ、前記エポキシ化合物あるいはエポキシ化合物混合物のエポキシ当量が200(g/eq)以下であることを特徴とする樹脂補強用アラミド繊維。
(2)(A)エポキシ化合物の付着もしくは浸透量(質量%)をエポキシ化合物のエポキシ当量(g/eq)で除して算出されるアラミド繊維単位質量あたりのエポキシ官能基数(E)に対し、同様にして算出される、(B)シランカップリング剤が有するシラノール基数(S)の比率(S/E)が50%以下に制御されている前記(1)に記載の樹脂補強用アラミド繊維。
(3)(B)シランカップリング剤が、アミノ基含有シランカップリング剤である前記(1)または(2)に記載の樹脂補強用アラミド繊維。
(4)(C)酸変性ポリオレフィンが、無水マレイン酸変性ポリエチレンまたは無水マレイン酸変性ポリプロピレンである前記(1)~(3)のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維。
(5)アラミド繊維が、あらかじめエポキシ化合物を繊維表面に付着させたアラミド繊維である前記(1)~(4)のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維。
(6)アラミド繊維が、あらかじめエポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたアラミド繊維である前記(1)~(4)のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維。
(7)前記(1)~(6)のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維をフィブリル化しパルプ状としたことを特徴とする樹脂補強用アラミド繊維パルプ。
(8)前記(1)~(6)のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維を0.5mm以上に切断して短繊維としたことを特徴とする樹脂補強用アラミド短繊維。
(9)前記(1)~(6)のいずれかに記載の樹脂補強用アラミド繊維、繊維状材料として含む摩擦材料。
(10)前記(9)に記載の摩擦材料を用いた摺動部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の補強用として用いた場合でも、該樹脂との良好な接着性を示す樹脂補強用アラミド繊維を提供できる。
また、本発明の樹脂補強用アラミド繊維をフィブリル化あるいは切断することにより、樹脂と高い接着力を有する、耐久性に優れた、樹脂補強用アラミド繊維パルプあるいは樹脂補強用アラミド短繊維を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る樹脂補強用アラミド繊維は、アラミド繊維の表面もしくは繊維骨格内に、(A)エポキシ化合物、(B)シランカップシング剤、及び(C)酸変性ポリオレフィンが付着もしくは浸透しているものである。
【0012】
本発明において、(A)エポキシ化合物としては、脂肪族エポキシ化合物、芳香環を有するエポキシ化合物のいずれでもよく、これらを併用してもよいが、アラミド繊維に対する浸透・含浸性に優れる点より、脂肪族エポキシ化合物が好ましい。
【0013】
脂肪族エポキシ化合物は、公知のものから適宜選択して用いることができるが、本発明では、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロール等の3価以上の多価アルコールのグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種、または2種以上の混合物が好ましい。
脂肪族エポキシ化合物の具体例としては、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0014】
芳香環を有するエポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種、または2種以上の混合物が挙げられ、具体例としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールC]等のグリシジルエーテル化物等が挙げられる。これらのエポキシ化合物の中でも、常温で液状の、ビスフェノールA、ビスフェノールFのグリシジルエーテル化物が好ましい。
【0015】
上記のエポキシ化合物の中でも、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがより好ましい。これらのエポキシ化合物あるいはエポキシ化合物混合物のエポキシ当量(1当量のエポキシ基を含むエポキシ化合物の質量)は、200(g/eq)以下が好ましく、150(g/eq)以下がより好ましい。エポキシ化合物のエポキシ当量が200(g/eq)を超える場合は、シランカップリング剤との反応点となるエポキシ官能基数が少なくなるため、十分な接着性が得られない。なお、エポキシ当量は、JIS K 7236(2001)に従って測定することができる。
【0016】
必要に応じて、エポキシ化合物と共に硬化剤を用いても良い。硬化剤としては、アミン化合物が好ましく、三級アミン化合物が特に好ましい。例えば、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミンや、脂肪族一級アミンにエチレンオキサイドを付加した長鎖アルキルポリオキシエチレン型三級アミン等が挙げられる。
【0017】
本発明において、(B)シランカップリング剤としては、公知のものから適宜選択して用いることができるが、本発明では、酸変性ポリオレフィンが有する酸変性部位との反応性に優れている点で、アミノ基含有シランカップリング剤が好ましい。
アミノ基含有シランカップリング剤としては、公知のものから適宜選択して用いればよく、その具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられるが、中でも、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0018】
本発明において、(C)酸変性ポリオレフィンとしては、公知のものから適宜選択して用いることができるが、アミノ基含有シランカップリング剤が有するアミノ基との反応性に優れている点で、無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好ましい。
【0019】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンの具体例としては、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリブタジエン、無水マレイン酸変性ポリスチレン、無水マレイン酸変性ポリメタクリレート、または、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等の直鎖状オレフィン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等の分岐状オレフィン、ブタジエン、スチレン等から選ばれる2種以上のモノマーの共重合体の無水マレイン酸変性体等が挙げられる。中でも、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが好ましい。
無水マレイン酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、1,000~1,000,000が好ましく、5,000~500,000がより好ましい。無水マレイン酸変性ポリオレフィンのビカット軟化点は、樹脂補強用アラミド繊維を補強用に用いる樹脂の種類により選択すればよく、一般的には80℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。
【0020】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンは、市販品を使用してもよく、例えば、ユーメックス(三洋化成工業株式会社製;無水マレイン酸変性ポリプロピレン)、オレヴァック(アルケマ社製;無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン)、カヤブリッド(化薬アクゾ株式会社製;無水マレイン酸変性ポリプロピレン)等が挙げられる。
【0021】
本発明では、(A)エポキシ化合物、(B)シランカップリング剤及び(C)酸変性ポリオレフィンを、アラミド繊維の表面もしくは繊維骨格内に付着もしくは浸透させることで、アラミド繊維と樹脂との接着性が大幅に改善される。
エポキシ化合物は、あらかじめアラミド繊維の表面もしくは繊維骨格内に付着もしくは浸透させておくのがよい。そして、繊維処理剤中にアミノ基含有シランカップリング剤と酸変性ポリオレフィンを添加した場合、酸変性ポリオレフィンが有する酸変性部位とアミノ基含有シランカップリング剤が有するアミノ基とが、反応もしくはイオン結合により塩を形成し、アルコキシシリル基を有するポリオレフィンが生成する。このようにして生成したアルコキシシリル基を有するポリオレフィンが、あらかじめエポキシ化合物を付着もしくは浸透させておいたアラミド繊維中のエポキシ化合物のエポキシ基もしくは水酸基と反応(縮合硬化)することで、アラミド繊維表面にポリオレフィン膜が形成されるものと推察される。
一方、アミノ基含有シランカップリング剤のみを繊維処理剤中に添加した場合、酸変性ポリオレフィンが有する酸変性部位とアミノ基含有シランカップリング剤が有するアミノ基との反応が生じないため、アミノ基含有シランカップリング剤が有するアルコキシシリル基がアラミド繊維中のエポキシ化合物のエポキシ基もしくは水酸基と反応するが、ポリオレフィン膜を形成したときに比べて樹脂との接着性は弱くなるものと推察される。
【0022】
アミノ基含有シランカップリング剤の添加量は、接着性向上効果、組成物の保存安定性及び得られる膜物性等のバランスを考慮して適宜設定することができるが、繊維処理剤に添加する場合は、該繊維処理剤に含まれる酸変性ポリオレフィン中の酸変性部位1モルに対して0.1~10モルが好ましく、0.2~5モルがより好ましい。
【0023】
シランカップリング剤は、アラミド繊維に付着もしくは浸透したエポキシ化合物量(質量%)と該エポキシ化合物のエポキシ当量(g/eq)の積で算出される、アラミド繊維単位質量あたりのエポキシ官能基数(E)に対する比率が重要である。エポキシ官能基数(E)と同様にして算出される、シランカップリング剤のシラノール基数(S)の比率(S/E)が、50%以下に制御されていることが好ましく、30%以下がより好ましい。シランカップリング剤の添加量は、接着性向上効果、組成物の保存安定性等のバランスを考慮して適宜設定することができるが、シラノール基過剰になると、シラノール基同士が縮合することによりアラミド繊維の接着力が低下する現象が生じる。
【0024】
上述のとおり、本発明の樹脂補強用アラミド繊維の製造方法としては、以下の3通りの方法がある。
第1の方法は、アラミド繊維に対して、(A)エポキシ化合物を付与し、アラミド繊維表面にエポキシ化合物を付着させる工程と、該工程で得られたアラミド繊維に対して、(B)シランカップリング剤及び(C)酸変性ポリオレフィンからなる繊維処理剤を付与する工程と、を備えるものである。さらに、該工程で得られたアラミド繊維を熱処理する工程を備えていてもよい。
第2の方法は、あらかじめエポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたアラミド繊維に対して、上記の繊維処理剤を付与する工程を備えるものである。さらに、該工程で得られたアラミド繊維を熱処理する工程を備えていてもよい。
第3の方法は、アラミド繊維に対して、(A)エポキシ化合物、(B)シランカップリング剤及び(C)酸変性ポリオレフィンからなる繊維処理剤を付与する工程を備えるものである。さらに、該工程で得られたアラミド繊維を熱処理する工程を備えていてもよい。
【0025】
上記の方法の中でも、アラミド繊維表面に対して、酸変性ポリオレフィンを固定化し易い点、結果としてアラミド繊維と樹脂との接着性が高められる点から、第1の方法及び第2の方法が好ましく、第2の方法がより好ましい。第1の方法及び第2の方法は、繊維処理剤を付与する工程の後工程として、RFLを付着させるディップ工程と、付着させたRFLを100~260℃で熱処理する工程とを備えていてもよい。
【0026】
本発明では、アラミド繊維にあらかじめエポキシ化合物を付着もしくは浸透させることで、アラミド繊維と繊維処理剤との接着性が大幅に改善される。あらかじめエポキシ化合物を付着させたアラミド繊維は、エポキシ化合物を常法によりアラミド繊維に付着させる方法により製造することができる。また、あらかじめエポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたアラミド繊維は、特開2012-207326号公報に記載された方法により製造することができる。エポキシ化合物の付着もしくは浸透量は、アラミド繊維の水分率を0%に換算した繊維質量に対して、0.1~10.0質量%が好ましく、0.2~2.0質量%がより好ましい。
【0027】
アラミド繊維に対して、(A)エポキシ化合物、(B)シランカップリング剤及び(C)酸変性ポリオレフィンを付与する方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法が採用されてよく、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。通常、10~40℃程度の室温で付与するが、付着量を調整するために温度等の条件を適宜調整してもよい。
【0028】
本発明のアラミド繊維に付与するエポキシ化合物及び繊維処理剤は、所望の目的に応じて希釈溶媒や、その他の添加物をさらに含んでいてもよい。
添加物の具体例としては、硬化触媒、油剤、非イオン界面活性剤等の浸透剤、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、有機界面活性剤等の平滑剤、オキサゾリンや酸無水物等の樹脂改良剤、ラジカル禁止剤、顔料等が挙げられる。
【0029】
上記した繊維処理剤の希釈溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒等が挙げられる。
【0030】
本発明において、樹脂補強用アラミド繊維に用いられるアラミド繊維としては、繊維を形成するポリマーの繰り返し単位中に、通常置換されていてもよい二価の芳香族基を少なくとも一個有する繊維であって、アミド結合を少なくとも一個有する繊維であれば特に限定はなく、全アラミド繊維またはアラミド繊維と称されるものであってよい。「置換されていてもよい二価の芳香族基」とは、同一又は異なる1以上の置換基を有していてもよい二価の芳香族基を意味する。
【0031】
本発明において、アラミド繊維としては、パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維等が挙げられ、特に、引張強さに優れているパラ系アラミド繊維が好ましい。
【0032】
このようなアラミド繊維は市販品として入手でき、その具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(米国デュポン社、東レ・デュポン株式会社製、商品名「Kevlar」(登録商標))、コポリパラフェニレン-3,4´-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」(登録商標))等が挙げられる。
【0033】
本発明の樹脂補強用アラミド繊維において、繊維の単糸繊度は、特に限定されないが、0.5~30dtexが好ましく、0.5~10dtexがより好ましく、1~5dtexが特に好ましい。
【0034】
本発明の樹脂補強用アラミド繊維パルプは、平均繊維長(質量荷重平均)が約3mm以下の高度にフィブリル化したパルプであり、上記の樹脂補強用アラミド繊維に公知の方法を適用して製造することができるが、機械加工法が好ましい。
機械加工法では、樹脂補強用アラミド繊維を1~50mmの長さに切断して短繊維とした後、該短繊維を、破砕、磨り潰し、衝撃あるいは叩解のような機械的剪断力を加えてフィブリル化する。
【0035】
本発明の樹脂補強用アラミド短繊維は、上記の樹脂補強用アラミド繊維を、ギロチン式カッター、ロータリー式カッター等の公知の切断方法を適用して製造することができる。該短繊維の繊維長は、0.5mm~100mmが好ましく、0.5mm~50mmがより好ましい。
【0036】
本発明の樹脂補強用アラミド繊維及びそれを切断してなるパルプ及び短繊維は、樹脂補強用として、公知の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂に適宜な比率で混合することができる。熱硬化性樹脂としてはフェノール樹脂等が好ましく、熱可塑性樹脂としてはポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好ましい。
【0037】
熱可塑性樹脂との混合及び成形方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、短繊維束と熱可塑性樹脂のペレットあるいはパウダーとをドライブレンドし、フィーダーから供給し、押出機から押出してストランドを吐出し、ペレットを成形する。そして、該ペレットを用いて押出成形あるいは射出成形により繊維補強熱可塑性樹脂成形体とすることができる。
【0038】
本発明の樹脂補強用アラミド繊維を切断してなるパルプ及び短繊維は、酸変性ポリオレフィンを繊維表面に固定化しているため、特にフェノール樹脂との接着性に優れている。そのため、自動車、産業用建機・機械の低摩擦材として、ワッシャー、ギアー、軸及び軸受け、クラッチ板、ブレーキ板等の摩擦材料として利用できる。
【0039】
本発明の摩擦材料は、以下の方法で製造することができる。本発明の樹脂補強用アラミド短繊維を、繊維状材料の少なくとも一部として用い、従来法に準じて、繊維状物を湿式抄造し紙状物を製造し、該紙状物を適宜な温度(例えば80~150℃)で乾燥する。短繊維の配合量は、繊維状材料全量に対して、50~100質量%が好ましく、より好ましくは70~97質量%、さらに好ましくは80~95質量%である。
短繊維以外の繊維状材料としては、例えば、アクリル繊維、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、セルロース繊維、液晶ポリエステル系繊維、羊毛繊維等の、フィブリル化できる繊維を用いることができる。これらの繊維の中で、耐熱性と高強度の観点より、アラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維が好ましく、摩耗特性の観点より、より好ましいのはアラミド繊維である。アラミド繊維の中でも、特にパラ系アラミドが好ましい。最も好ましいのは、パラ系アラミド繊維を高度にフィブリル化したアラミドパルプであり、該アラミドパルプとして、本発明の樹脂補強用アラミド繊維パルプを用いることができる。
【0040】
そして、前記のようにして形成された紙状物に、結合樹脂としてフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂をメタノールやアセトン等の有機溶剤にて溶解させ含浸させる。適宜、摩擦調整材や無機材料を添加できる。含浸方法は、スプレー等による吹き付け法、熱硬化性樹脂が入った浴にディップする方法等があるが、特に限定されない。含浸率は形成された紙状物に対して等量の熱硬化性樹脂が好ましいが、適宜設定できる。
その後、熱硬化性樹脂等を含浸した紙状物から60℃以下の温度で揮発成分を除去しプリプレグを作製する。
その後、プリプレグを、プレス機等を用いて130℃以上190℃以下で1分以上15分以下、圧力50kgf/cm2以上500kgf/cm2以下で加熱プレスし、得られた熱硬化性樹脂成形体に130~190℃の高温処理を施し硬化させることにより摩擦材料とする。摩擦材料は、必要に応じて任意の大きさや形状に裁断したり、成形加工したりして、自動車や産業用建機・機械の低摩擦材として、ワッシャー、ギアー、クラッチ板、ブレーキ板、軸及び軸受け等の摩擦材及び摺動部材の補強用繊維として利用できる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。なお、実施例中に記載の評価方法は以下の通りである。
【0042】
(1)アラミド繊維水分率
約5gの試料の質量(乾燥前質量)を測定する。次いで、300℃×20分熱処理した後、25℃、65%RHで5分間放置し、再度質量(乾燥後質量)を測定する。
水分率(質量%)=[(乾燥前質量-乾燥後質量)/(乾燥後質量)]×100
【0043】
(2)引張強さ
作製した材料について、ASTM D638号の方法により引張強度を測定した。
【0044】
(実施例1)
公知の方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec-1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理した。その後、脱水処理をして、110℃で低温乾燥を行い、水分率を50質量%に調整した。
このPPTA繊維に、エポキシ化合物として、グリセロールポリグリシジルエーテルを含有する油剤(ジイソステアリルアジペート/ジオレイルアジペート/硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物/鉱物油の混合物)を、公知の油剤付与方法によって浸透させた。
次いで、表1に示す量のシランカップリング剤と酸変性ポリオレフィンを、溶剤に溶解させて付与し、120℃で乾燥することにより、PPTA繊維表面に付着させた。
【0045】
(実施例2)
実施例1において、グリセロールポリグリシジルエーテルに替えて、ソルビトールポリグリシジルエーテルを用いた以外は、実施例1と同様にして、あらかじめエポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたPPTA繊維を得た。次いで、実施例1と同様にして、シランカップリング剤と酸変性ポリオレフィンをPPTA繊維表面に付着させた。
【0046】
(比較例1)
実施例1で得た、あらかじめエポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたPPTA繊維を用いた。
【0047】
(比較例2)
実施例2で得た、あらかじめエポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたPPTA繊維に、表1に示す量の酸変性ポリオレフィンのみを溶剤に溶解させて付与し、実施例1と同様にして、PPTA繊維表面に付着させた。
【0048】
(比較例3)
実施例2において、あらかじめエポキシ化合物を繊維骨格内に浸透させたPPTA繊維に、表1に示す量のシランカップリング剤と酸変性ポリオレフィンを、溶剤に溶解させて付与し、室温で乾燥することにより、PPTA繊維表面に付着させた。
【0049】
上記各実施例及び比較例で作製したPPTA繊維をロービングカッターで繊維長3mmに切断し短繊維を調製し、摩擦材評価試験に供した。
【0050】
(試験例1:摩擦材評価)
切断した含水PPTA繊維複合体短繊維の乾燥重量として200gを、60kgのイオン交換水に分散させ、シングルディスクリファイナーを用い3,000rpmの条件でフィブリル化し、PPTA繊維複合体パルプを得た。JIS P8121-2号の方法により測定したパルプのろ水度は770mLであった。
【0051】
こうして得られた含水PPTA繊維複合体パルプの乾燥重量として25gを、パルプ離解装置を用いて3,000rpmで4リットルの水に分散させ、次いで25cm角の角型シートマシーンにより、♯80メッシュの金網を用いて、常法に従って抄紙を行い、その後乾燥して25cm角、単位重量200g/m2のパラアラミド紙を得た。
【0052】
次に、得られたパラアラミド紙を、レゾール型フェノール樹脂プレポリマーを等量のメタノールで希釈した樹脂液に浸漬させて、樹脂液を含浸させた後、室温で30分間乾燥したのち100℃で15分間乾燥させてプリプレグを得た。プリプレグを更に140℃で2分間、10MPaの加圧下にて予備成型を行った後、220℃で8分間で加熱硬化させ、0.6mm、12.5cm角のアラミドパルプ強化フェノール樹脂プレートを作成した。
【0053】
こうして得られた0.6mmのプレートから120mm×10mmの短冊を切り出しチャック間距離60mmとした引張試験片とした。
【0054】
以上の結果を併せて表1に示す。
【0055】
【0056】
なお、表1における各成分は以下のとおりである。
・アミノ基含有シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン
・酸変性ポリオレフィン;無水マレイン酸変性ポリエチレン
【0057】
表1に示されるように、アミノ基含有シランカップリング剤と酸変性ポリオレフィンを付与した実施例1~2のPPTA繊維では、樹脂と繊維の接着力が優れているため、引張強さが高くなることがわかる。
一方、アミノ基含有シランカップリング剤と酸変性ポリオレフィンを付与しない比較例1のPPTA繊維、及び、シランカップリング剤を付与しない比較例2のPPTA繊維では、樹脂に対する接着力が不十分であるため、引張強さが不十分であることがわかる。また、エポキシ官能基数に対するシラノール基数の比率が50%を超える、シラノール基過剰の比較例3のPPTA繊維では、繊維と樹脂の接着性が低下することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の樹脂補強用アラミド繊維は、各種樹脂の補強材として有用である。