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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/04 20060101AFI20230622BHJP
   B60W 10/18 20120101ALI20230622BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20230622BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20230622BHJP
   B60W 10/184 20120101ALI20230622BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20230622BHJP
   B60L 7/26 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
B60W10/00 120
B60T8/00 Z
B60T8/17 C
B60W10/04
B60W10/184 ZHV
B60L7/24 D
B60L7/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019114272
(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公開番号】P2021000868
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】堀口 陽宣
(72)【発明者】
【氏名】石塚 勇太
(72)【発明者】
【氏名】中内 誠
(72)【発明者】
【氏名】水谷 亮一
(72)【発明者】
【氏名】砂川 正樹
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-8238(JP,A)
【文献】特開2006-224768(JP,A)
【文献】特開2006-131122(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0250081(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
B60T 7/12- 8/1769
B60T 8/32- 8/96
B60L 1/00- 3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪とともに回転する回転体に摩擦材を押圧する摩擦ブレーキ装置における押圧力、及び、車輪側からの入力により回生発電を行う発電装置の回生発電量を制御する制動制御装置であって、
前記摩擦ブレーキ装置における特定の振動状態を検出する振動検出部と、
前記発電装置による回生発電の可否を判別する回生発電可否判別部とを備え、
前記回生発電が実行不能である場合に、前記振動状態の検出に応じて、前記摩擦ブレーキ装置における押圧力を変化させるとともに、車両の駆動力を制御する駆動力制御部に、前記押圧力の変化に伴う車両の前後加速度の変動を抑制するよう、前記駆動力を変化させる駆動力協調制御を行い、
前記回生発電が実行可能である場合に、前記振動状態の検出に応じて、前記押圧力を変化させるとともに、前記押圧力の変化に伴う車両の前後加速度の変動を抑制するよう、前記発電装置の回生発電量を変化させる回生協調制御を行うこと
を特徴とする制動制御装置。
【請求項2】
前記駆動力協調制御を行った後に前記振動状態が検出された場合に、車両の走行速度が所定値よりも小さい低速状態においては、前記押圧力を維持した状態で前記駆動力を変化させること
を特徴とする請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記駆動力協調制御における前記駆動力の変化量の制限値が設けられ、前記駆動力の変化量が前記制限値に達した後に前記振動状態が検出された場合に、前記駆動力を維持した状態で前記押圧力を変化させること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記回生協調制御において、前記押圧力を低減するとともに前記回生発電量を増加させること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記回生発電が実行可能である場合に、前記振動状態の検出に応じて、前記押圧力を増加させるとともに、前記押圧力の増加に伴う車両の減速度増加量が所定範囲内となるよう、前記発電装置の回生発電量を低下させる回生協調制御を行うこと
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の制動制御を行う制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の液圧式サービスブレーキは、例えばブレーキディスク等の車輪とともに回転する回転体に、ブレーキパッド等の摩擦材を押圧し、摩擦力によって制動力を得るものである。
このような摩擦式のブレーキにおいては、摩擦箇所に発生する振動によってブレーキ装置の構成部品等が共振し、著大な騒音(いわゆるブレーキ鳴き)やジャダー振動が発生する場合がある。
例えば、ドライバのブレーキペダル操作に応じてブレーキ液圧(摩擦材の押圧力)を発生させる手動運転(非自動運転)の場合には、ブレーキ鳴きなどの発生時にドライバがペダル踏力を変化させて摩擦材の押圧力を変化させ、振動の抑制を図ることも可能であるが、例えば自動運転や、先行車追従クルーズコントロール(ACC)などのように車両側の制御に従って自動的に制動力を発生させる場合には、車両側において振動を低減する制御を行うことが求められる。
【0003】
ブレーキ装置の振動抑制に関する従来技術として、例えば特許文献1には、ブレーキ振動の発生時に、制動トルクを低下させるとともに、車両の走行状態が変化しないよう駆動トルクを低下させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007- 8238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジン電気ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(いわゆるピュアEV)のように、車輪側からの入力により回生発電を行って制動力を得ることが可能な電動車両においては、制動要求に応じて液圧式サービスブレーキ(摩擦ブレーキ)と回生ブレーキとを協調させる回生協調制御が行われている。
こうした電動車両において、摩擦ブレーキの鳴きやジャダーが発生した場合には、例えばブレーキ装置等の共振が発生しない程度まで摩擦ブレーキの押圧力を変化させるとともに、回生発電量を変化させて車両の減速度を維持することが考えられる。
しかし、このような回生ブレーキは、例えばバッテリの充電状態(SOC)が高く、充電可能な電力量(回生エネルギの取り代)に余裕がない場合や、車両の走行速度(車速)が低速であり回生効率が低下する場合には、実行できない場合がある。この場合、ブレーキ振動を抑制するために摩擦ブレーキの押圧力を変化させると車両の減速度が変化し、乗員に違和感を感じさせてしまう。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、回生発電の可否に関わらず乗員の違和感を抑制しつつブレーキに起因する振動を抑制した制動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1に係る発明は、車両の車輪とともに回転する回転体に摩擦材を押圧する摩擦ブレーキ装置における押圧力、及び、車輪側からの入力により回生発電を行う発電装置の回生発電量を制御する制動制御装置であって、前記摩擦ブレーキ装置における特定の振動状態を検出する振動検出部と、前記発電装置による回生発電の可否を判別する回生発電可否判別部とを備え、前記回生発電が実行不能である場合に、前記振動状態の検出に応じて、前記摩擦ブレーキ装置における押圧力を変化させるとともに、車両の駆動力を制御する駆動力制御部に、前記押圧力の変化に伴う車両の前後加速度の変動を抑制するよう、前記駆動力を変化させる駆動力協調制御を行い、前記回生発電が実行可能である場合に、前記振動状態の検出に応じて、前記押圧力を変化させるとともに、前記押圧力の変化に伴う車両の前後加速度の変動を抑制するよう、前記発電装置の回生発電量を変化させる回生協調制御を行うことを特徴とする制動制御装置である。
これによれば、ブレーキ系の共振に起因するブレーキ鳴きやジャダー振動などの特定の振動状態の発生時に、発電装置における回生発電(回生制動)の可否を判別し、回生発電できない場合には、液圧ブレーキの液圧(ブレーキパッド押圧力)を変化させることにより振動状態を改善するとともに、車両の駆動力を変化させることにより、減速度の変化による乗員の違和感を抑制することができる。
また、回生発電が可能である場合には、ブレーキ鳴き、ジャダーなどの振動状態の検出に応じて、摩擦ブレーキ装置の押圧力を変化させて振動状態を改善するとともに、車両の前後加速度の変動を抑制するよう回生発電量を変化させることにより、乗員の違和感を抑制することができる。
【0007】
請求項2に係る発明は、前記駆動力協調制御を行った後に前記振動状態が検出された場合に、車両の走行速度が所定値よりも小さい低速状態においては、前記押圧力を維持した状態で前記駆動力を変化させることを特徴とする請求項1に記載の制動制御装置である。
これによれば、車両の走行に伴う騒音が低くなって他の騒音が顕在化しやすい低速走行時に、摩擦ブレーキ装置の押圧力を変化させるためのアクチュエータ(典型的にはハイドロリックユニットのポンプ、バルブ等)が騒音、振動を発生することを防止し、車室内の快適性を向上することができる。
【0008】
請求項3に係る発明は、前記駆動力協調制御における前記駆動力の変化量の制限値が設けられ、前記駆動力の変化量が前記制限値に達した後に前記振動状態が検出された場合に、前記駆動力を維持した状態で前記押圧力を変化させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の制動制御装置である。
これによれば、摩擦ブレーキ装置の押圧力と、車両の駆動力との協調制御により振動状態の改善を図る際に、駆動力が過度に変化して車両の状態が不安定となることを防止できる。
【0010】
請求項に係る発明は、前記回生協調制御において、前記押圧力を低減するとともに前記回生発電量を増加させることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の制動制御装置である。
これによれば、回生発電量を増加させる余裕がある場合には、摩擦ブレーキの押圧力を低減し、回生発電量を増加させることにより、回生されるエネルギを増加させて車両の燃料消費(燃費)、電力消費(電費)を改善することができる。
【0011】
請求項に係る発明は、前記回生発電が実行可能である場合に、前記振動状態の検出に応じて、前記押圧力を増加させるとともに、前記押圧力の増加に伴う車両の減速度増加量が所定範囲内となるよう、前記発電装置の回生発電量を低下させる回生協調制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の制動制御装置である。
これによれば、振動状態の検出時に先ず摩擦ブレーキ装置の押圧力を増加させ、車両の減速度変化量が所定範囲内で収まる場合には現在の回生発電量が維持されることから、車両の燃費(電費)の悪化を抑制することができる。
また、減速度変化量が所定範囲の限度に達し、回生発電量を低下せざるを得ない場合であっても、回生発電量の低下を抑制することができる。

【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、回生発電の可否に関わらず乗員の違和感を抑制しつつブレーキに起因する振動を抑制した制動制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を適用した制動制御装置の実施形態を有する車両の構成を模式的に示すブロック図である。
図2】実施形態の制動制御装置の動作を示すフローチャートである。
図3】実施形態の制動制御装置におけるブレーキ液圧、減速度、駆動力の推移の一例を示す図であって、回生発電を行わない低速走行時の例を示す図である。
図4】実施形態の制動制御装置におけるブレーキ液圧、減速度、駆動力の推移の一例を示す図であって、回生発電を行わない高速走行時の例を示す図である。
図5】実施形態の制動制御装置における回生制動力、ブレーキ液圧、減速度の推移の一例を示す図である。
図6】実施形態の制動制御装置における回生制動力、ブレーキ液圧、減速度の推移の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用した制動制御装置の実施形態について説明する。
実施形態の制動制御装置は、例えば、エンジン-電気ハイブリッドのパワートレーンを有し、自動運転機能を有する乗用車等の自動車に設けられるものである。
図1は、実施形態の制動制御装置を有する車両の構成を模式的に示すブロック図である。
【0015】
実施形態の制動制御装置であるブレーキ制御ユニット100は、自動運転制御ユニット10、ブレーキペダルセンサ20からの入力(制動要求)に応じて、車両の液圧式サービスブレーキ(摩擦ブレーキ装置)、モータジェネレータ(発電装置)による回生発電ブレーキが発生する制動力を制御するものである。
ブレーキ制御ユニット100は、CPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶手部、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を有して構成されている。
ブレーキ制御ユニット100は、制動時に上述した各ブレーキとエンジン、トランスミッションとの協調制御を行う機能を備えている。この点については、後に詳しく説明する。
【0016】
自動運転制御ユニット10は、環境認識ユニット11が認識した自車両周辺の環境に基づいて、自車両の目標走行軌跡、目標車速推移などからなる自動運転シナリオを生成し、自動運転シナリオに従って自車両が走行するよう、車両の加減速及び操向を制御するものである。
自動運転制御ユニット10は、制動が必要である場合には、ブレーキ制御ユニット100に制動要求を伝達する。
この制動要求には、例えば、車両の目標減速度に関する情報が含まれる。
【0017】
環境認識ユニット11は、例えば、ステレオカメラ装置、単眼カメラ装置、ミリ波レーダ装置、LIDAR装置、GPS測位装置などの各種センサや、予め準備された高精度3D地図データ等を用いて、自車両周囲の車線形状や、他車両、歩行者、建築物などの各種障害物を検出するものである。
環境認識ユニット11が取得した自車両周囲の環境に関する情報は、自動運転制御ユニット10に伝達される。
【0018】
ブレーキペダルセンサ20は、車両がドライバの運転操作に応じて走行する手動走行時に、制動操作を入力する図示しないブレーキペダルの踏込量を検出するストロークセンサである。
ブレーキペダルセンサ20の出力は、ブレーキ制御ユニット100に伝達される。
手動走行時においては、ブレーキ制御ユニット100は、ブレーキペダルセンサ20の出力に基づいて、目標減速度を設定する。
【0019】
ブレーキ制御ユニット100は、例えばCAN通信システムなどの車載LAN装置を介して、あるいは直接に、ハイドロリックユニット30、モータジェネレータ制御ユニット40、エンジン制御ユニット50、トランスミッション制御ユニット60と接続され、相互に通信が可能となっている。
【0020】
ハイドロリックユニット30は、車両の液圧式サービスブレーキ(液圧ブレーキ)のフルード液圧を発生させ、制御するものである。
ハイドロリックユニット30は、フルードを加圧する電動ポンプ、及び、各車輪のホイルシリンダ液圧(ブレーキ液圧)を個別に制御する加圧弁、調圧弁、減圧弁などの電磁弁を有する。
各車輪のホイルシリンダは、車輪とともに回転するブレーキロータ等の回転体に、摩擦材を有するブレーキパッドを、ホイルシリンダ液圧に応じた押圧力で押圧する。
液圧ブレーキは、回転体と摩擦材との摩擦力により制動力を発生する摩擦ブレーキである。
【0021】
モータジェネレータ制御ユニット40は、車両の加速時における駆動アシスト、及び、減速時における回生発電を行う回転電機である図示しないモータジェネレータ及びその補機類を統括的に制御するものである。
モータジェネレータは、図示しないバッテリから電力の供給を受けて駆動アシストを行うとともに、減速時に車輪側からの入力を利用して回生発電した電力をバッテリに充電する機能を有する。
モータジェネレータ制御ユニット40は、駆動アシスト時におけるモータジェネレータの出力トルク、及び、回生発電時における回生トルク(回生発電量・回生ブレーキの制動力)を制御する機能を有する。
モータジェネレータ制御ユニット40は、バッテリの充電状態(SOC)に関する情報をバッテリに設けられたバッテリ制御ユニットより取得する。
取得されたSOCに関する情報はブレーキ制御ユニット100に伝達され、ブレーキ制御ユニット100は、SOC及び車速に関する情報などから、回生発電(回生制動)の可否を判別する。
ブレーキ制御ユニット100は、回生発電可否判別部としての機能を有する。
【0022】
エンジン制御ユニット50は、モータジェネレータとともに車両の走行用動力源として機能する図示しないエンジン及びその補機類を統括的に制御するものである。
エンジンとして、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの各種内燃機関を用いることができる。
エンジン制御ユニット50は、エンジンが実際に発生するトルクが、所定の要求トルクと一致するようにエンジンの出力を制御する機能を有する。
【0023】
トランスミッション制御ユニット60は、エンジンの出力を変速して車輪側へ伝達する図示しないトランスミッション及びその補機類を統括的に制御するものである。
トランスミッションとして、例えば、チェーン式や電気式などの無段変速機(CVT)を備え、車速ゼロからの発進を可能とする発進デバイスとしてロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを有する構成とすることができる。
ブレーキ制御ユニット100は、車両の減速時にエンジン制御ユニット50、トランスミッション制御ユニット60に指令を与え、エンジンの出力トルクやトランスミッションの変速比、ロックアップクラッチの状態等を変化させることにより、駆動輪に伝達される駆動トルク(クリープトルク)を制御することが可能となっている。
【0024】
ブレーキ制御ユニット100は、自動運転制御ユニット10、ブレーキペダルセンサ20からの入力に基づいて、ハイドロリックユニット30、モータジェネレータ制御ユニット40に指令を与え、車両全体としての制動力が目標減速度を得られる制動力となるようにこれらを協調制御する機能を有する。
また、ブレーキ制御ユニット100は、液圧ブレーキに鳴き、ジャダー振動などの特定の振動状態が発生した場合には、ハイドロリックユニット30、モータジェネレータ制御ユニット40とともにエンジン制御ユニット50、トランスミッション制御ユニット60を協調制御し、減速度変化を抑制しつつ振動状態を改善する機能を備えている。
この点に関しては、後に詳しく説明する。
【0025】
ブレーキ制御ユニット100は、液圧ブレーキにおける特定の振動状態を判別する振動検出部110を有する。
振動検出部110には、加速度センサ111が接続されている。
加速度センサ111は、液圧ブレーキを加振源として振動が発生する部品に取り付けられ、当該部品の加速度を検出するものである。
加速度センサ111は、例えば、車輪が締結されるハブを回転可能に支持するハブベアリングを収容するとともに、液圧ブレーキのホイルシリンダが取り付けられるハブベアリングハウジング(ハウジング、ナックル)に取り付けることができる。
【0026】
また、ブレーキ制御ユニット100には、車速センサ120が設けられている。
車速センサ120は、例えば、車輪の回転速度に比例する周波数の車速信号を出力するものである。
ブレーキ制御ユニット100は、車速センサ120の出力に基づいて、車両の走行速度(車速)を演算することが可能である。
【0027】
実施形態の制動制御装置は、車両の自動運転中における液圧ブレーキの鳴き、ジャダー振動発生時に、以下説明する制御により振動を抑制する機能を有する。
図2は、実施形態の制動制御装置の動作を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
<ステップS01:自動運転中判断>
ブレーキ制御ユニット100は、車両が自動運転制御ユニット10からの指令に応じて走行する自動運転中であるか否かを判別する。
自動運転中である場合はステップS02に進み、その他の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0028】
<ステップS02:制動中判断>
ブレーキ制御ユニット100は、自動運転制御ユニット10から制動要求があり、制動を行っている状態か否かを判別する。
制動中である場合はステップS03に進み、その他の場合は一連の処理を終了する。
【0029】
<ステップS03:振動状態判断>
ブレーキ制御ユニット100の振動検出部110は、加速度センサ111の出力に基づいて、液圧ブレーキに起因する特定の振動状態(鳴き騒音、ジャダー振動の発生状態)が生じているか否かを判別する。
振動状態が発生している場合はステップS04に進み、その他の場合はステップS14に進む。
【0030】
<ステップS04:車速判断>
ブレーキ制御ユニット100は、車速センサ120の出力に基づいて算出される現在の車速を、予め設定された閾値と比較する。
閾値は、例えば、それ以下の車速ではモータジェネレータの回生効率が著しく低下し、実質的に回生発電が行えない(回生ブレーキを利用できない)車速を考慮して設定される。
閾値は、例えば、10km/h程度に設定することができる。
車速が閾値以上である場合は、回生発電が不能であるとしてステップS05に進み、それ以外の場合はステップS06に進む。
【0031】
<ステップS05:回生ブレーキ利用可否判断>
ブレーキ制御ユニット100は、モータジェネレータ制御ユニット40からバッテリの現在の充電状態(SOC)に関する情報を取得し、回生発電を行った場合に得られる電力を充電可能であるか否か(回生ブレーキを利用可能な状態であるか否か)を判別する。
充電可能である場合は、回生ブレーキを利用可能であるものとしてステップS12に進み、その他の場合は回生発電が不能であるとしてステップS09に進む。
【0032】
<ステップS06:液圧増減判定>
ブレーキ制御ユニット100は、例えば予め準備された液圧ブレーキの押圧力(ブレーキ液圧)と、ブレーキ系の共振周波数特性との相関に関するデータに基づいて、現在発生している振動状態を脱する可能性のある新たなブレーキ液圧を判定する。
ブレーキ制御ユニット100は、判定されたブレーキ液圧に基づいてハイドロリックユニット30に指令値を与え、ホイルシリンダに供給されるブレーキ液圧を変化させる。
その後、ステップS07に進む。
【0033】
<ステップS07:駆動力変化>
ブレーキ制御ユニット100は、エンジン制御ユニット50、トランスミッション制御ユニット60に指令を与え、駆動輪に伝達される駆動力(クリープトルク)を変化させる駆動力協調制御を行う。
このとき、ステップS06においてブレーキ液圧を低下させた場合には、車両の減速度変化を抑制するため、駆動力は増加させることが好ましい。
その後、ステップS08に進む。
【0034】
<ステップS08:振動状態判断>
ブレーキ制御ユニット100の振動検出部110は、振動状態が生じているか否かを判別する。
振動状態が発生している場合はステップS07に戻って以降の処理を繰り返し、その他の場合はステップS14に進む。
【0035】
図3は、実施形態の制動制御装置におけるブレーキ液圧、減速度、駆動力の推移の一例を示す図であって、回生発電を行わない低速走行時の例(ステップS06乃至S08の処理に相当)を示す図である。
図3において、横軸は時間を示し、縦軸はブレーキ液圧(押圧力、制動力と読み替えることができる)、車両の減速度、駆動力(クリープ力)を示している。
例えば、図3に示すように、振動状態の検出に応じて、ブレーキ液圧を増加することにより振動状態の改善を図り、このとき制動力の増加によって車両の減速度が変化しないよう、エンジンのスロットルバルブを開くこと等により、駆動力を増加させる構成とすることができる。
その後、振動状態が改善されない場合には、図3に破線で図示するように、ブレーキ液圧は維持した状態で、駆動力のみを所定の駆動力増減範囲内でさらに増加することにより、振動状態の改善を図る。この場合には、車両の減速度は減少することになるが、乗員が違和感を受けないことを考慮して設定された許容範囲内の減速度変化であれば問題はない。
このような低速状態では、ブレーキ液圧を変化させる場合ハイドロリックユニット30の作動に起因する騒音が問題となりやすいことから、ブレーキ液圧を頻繁に変化させることは好ましくないが、駆動力を駆動力増減範囲の上限又は下限まで変化させても振動状態が改善しない場合には、ブレーキ液圧をさらに変化させる構成としてもよい。
また、図3に示す例とは逆に、振動状態の検出に応じて、ブレーキ液圧、駆動力をともに低下させる構成としてもよい。
【0036】
<ステップS09:液圧増減判定>
ブレーキ制御ユニット100は、現在発生している振動状態を脱する可能性のある新たなブレーキ液圧を判定する。
ブレーキ制御ユニット100は、判定されたブレーキ液圧に基づいてハイドロリックユニット30に指令値を与え、ホイルシリンダに供給されるブレーキ液圧を変化させる。
その後、ステップS10に進む。
【0037】
<ステップS10:駆動力変化>
ブレーキ制御ユニット100は、エンジン制御ユニット50、トランスミッション制御ユニット60に指令を与え、駆動輪に伝達される駆動力(クリープトルク)を変化させる。
このとき、ステップS09においてブレーキ液圧を低下させた場合には、車両の減速度変化を抑制するため、駆動力を低下させる。一方、ステップS09においてブレーキ液圧を増加させた場合には、駆動力を増加させる。駆動力の変化量は、ブレーキ液圧の変化前後を通じて減速度が維持されるよう考慮して設定される。
その後、ステップS11に進む。
【0038】
<ステップS11:振動状態判断>
ブレーキ制御ユニット100の振動検出部110は、振動状態が生じているか否かを判別する。
振動状態が発生している場合はステップS09に戻って以降の処理を繰り返し、その他の場合はステップS14に進む。
【0039】
図4は、実施形態の制動制御装置におけるブレーキ液圧、減速度、駆動力の推移の一例を示す図であって、回生発電を行わない高速走行時の例(ステップS09乃至S11の処理に相当)を示す図である。
図4において、横軸は時間を示し、縦軸はブレーキ液圧、車両の減速度、駆動力を示している。
例えば、図4に示すように、振動状態の検出に応じて、ブレーキ液圧を増加することにより振動状態の改善を図り、このとき車両の減速度が変化しないよう、エンジンのスロットルバルブを開くこと等により、駆動力を増加させる構成とすることができる。
その後、振動状態が改善されない場合には、図4に破線で図示するように、ブレーキ液圧のみをさらに増加させることにより、振動状態の改善を図る。
このとき、駆動力が駆動力増減範囲内であれば、駆動力をさらに増加して車両の減速度変化を抑制する構成としてもよいが、駆動力が駆動力増減範囲の上限あるいは下限に達している場合には、駆動力は維持される。この場合には、車両の減速度は増加することになるが、許容範囲内の減速度変化であれば問題はない。
また、図4に示す例とは逆に、振動状態の検出に応じて、ブレーキ液圧、駆動力をともに低下させる構成としてもよい。
【0040】
<ステップS12:回生・液圧配分変更>
ブレーキ制御ユニット100は、回生発電による制動力と液圧ブレーキによる制動力との制動力分担比を変更する回生協調制御を実行する。
具体的には、ブレーキ液圧を現在発生している振動状態を脱する可能性のある新たな値に再設定するとともに、このときの車両の減速度変化を抑制するよう回生ブレーキの制動力を制御する。
この場合、車両の燃費(電費)の悪化を抑制するためには、回生ブレーキの制動力(回生発電力)を増加させ、液圧ブレーキの制動力(押圧力)を低下させることが好ましい。
その後、ステップS13に進む。
【0041】
<ステップS13:振動状態判断>
ブレーキ制御ユニット100の振動検出部110は、振動状態が生じているか否かを判別する。
振動状態が発生している場合はステップS12に戻って以降の処理を繰り返し、その他の場合はステップS14に進む。
【0042】
図5は、実施形態の制動制御装置における回生制動力、ブレーキ液圧、減速度の推移の一例を示す図である。
図5において、横軸は時間を示し、縦軸は回生制動力(回生発電量)、ブレーキ液圧、車両の減速度を示している。(図6において同じ)
例えば、図5に示すように、振動状態の検出に応じて、ブレーキ液圧を低下させることにより振動状態の改善を図り、このとき車両の減速度が変化しないよう、回生制動力を増加する構成とすることができる。
また、図5に示す例とは逆に、振動状態の検出に応じて、ブレーキ液圧を増加させることにより振動状態の改善を図り、回生制動力を低下させる構成としてもよいが、車両の燃費(電費)を考慮すると、回生発電量を増加させることが好ましい。
【0043】
図6は、実施形態の制動制御装置における回生制動力、ブレーキ液圧、減速度の推移の他の例を示す図である。
例えば、図6に示すように、振動状態の検出に応じて、先ず回生発電量を維持しつつブレーキ液圧を増加させて振動状態の改善を図る構成とすることができる。
この場合、回生発電量を維持することにより、車両の燃費(電費)の悪化を防止することができる。
このとき、ブレーキ液圧の増加に応じて車両の減速度が増加するが、許容範囲内の減速度変化であれば問題はない。
しかし、ブレーキ液圧の増加に伴い、車両の減速度が許容範囲の上限に達した場合には、回生制動力を低下させることにより、車両の減速度が許容範囲の上限を超えないよう制御する。
このように、車両の減速度が許容範囲の上限に達した場合にのみ回生制動力を低下させることにより、車両の燃費(電費)の悪化を最低限に抑えることができる。
【0044】
<ステップS14:制動継続>
ブレーキ制御ユニット100は、現在のハイドロリックユニット30、モータジェネレータ制御ユニット40への制動に関する指令値を保持し、現在の制動状態を維持する。
これにより、液圧ブレーキの液圧(押圧力)及びモータジェネレータの回生発電量は維持される。
その後、一連の処理を終了する。
なお、上記フローチャートには記載していないが、制動力が全て回生ブレーキによって得られている状態で振動状態が発生している場合には、ブレーキパッドの引き摺りが原因であると考えられるため、液圧ブレーキにより比較的微弱な制動力を発生させるとともに、車両の減速度が維持できるよう回生発電量を低下させる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)液圧ブレーキのブレーキ鳴き、ジャダー振動の発生時に、モータジェネレータによる回生発電の可否を判別し、回生発電できない場合には、液圧ブレーキの液圧(ブレーキパッド押圧力)を変化させることで振動状態を改善するとともに、車両の駆動力を変化させることにより、回生発電が行えない場合であっても振動状態を改善しつつ減速度の変化による乗員の違和感を抑制することができる。
(2)車両が低速であり回生発電を実行できない場合に、駆動力協調制御を行った後に振動状態が継続している場合には、駆動力のみを変更する制御を行うことで、車両の走行に伴う騒音が低い状態でハイドロリックユニット30が騒音、振動を発生することを防止し、車室内の快適性を向上することができる。
(3)駆動力増減範囲の上限、下限に達した状態までブレーキ液圧、駆動力の協調制御を行っても振動状態が改善しない場合に、駆動力を維持した状態でブレーキ液圧を変化させることにより、駆動力が過度に変化して車両の状態が不安定となることを防止できる。
(4)振動状態の発生時に回生発電を実行可能である場合には、ブレーキ鳴き、ジャダーなどの振動状態の検出に応じて、ブレーキ液圧を変化させて振動状態を改善するとともに、車両の前後加速度の変動を抑制するよう回生発電量を変化させることにより、乗員の違和感を抑制することができる。
(5)ブレーキ液圧と回生発電との協調制御により振動状態の改善を図る場合に、回生発電量を増加させる余裕がある場合には、ブレーキ液圧を低減し、回生発電量を増加させることにより、回生されるエネルギを増加させて車両の燃費、電費を改善することができる。
(6)回生発電が可能な状態での振動状態の検出時に、先ずブレーキ液圧を増加させて回生発電量を維持することにより、車両の減速度変化量が所定範囲内で収まる場合には回生発電量が低下することがなく、車両の燃費(電費)の悪化を抑制することができる。
また、減速度変化量が所定範囲の限度に達し、回生発電量を低下させる場合であっても、回生発電量の低下を抑制することができる。
【0046】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)制動制御装置及び車両の構成は、上述した実施形態に限定されることなく、適宜変更することができる。
例えば、実施形態は自動運転時の制動中に摩擦ブレーキ装置の振動状態を改善しているが、本発明は、先行車追従クルーズコントロール(ACC)や、ブレーキ・バイ・ワイヤ式のブレーキ装置における手動運転中の振動状態の改善にも利用することができる。
(2)実施形態においては、摩擦ブレーキ装置は一例としてブレーキフルード液圧により摩擦材(ブレーキパッド)を回転体(ロータ)に押圧する液圧ブレーキであったが、本発明はこれに限らず、例えばモータ等の電動アクチュエータにより摩擦材を回転体に押圧する電動ブレーキにも適用することができる。
(3)実施形態においては、ハブベアリングハウジングに加速度センサを設けて振動状態を検出しているが、振動状態を検出する手法はこれに限らず適宜変更することができる。
例えば、車輪の回転速度から角速度、角加速度を演算し、これらに基づいて振動状態を検出してもよい。
(4)実施形態において、車両は一例としてエンジン電気ハイブリッド車両であるが、本発明はこれに限らず、例えば電動モータのみを走行用動力源とする電気自動車(いわゆるピュアEV)、燃料電池自動車(FCV)などにも適用することができる。
(5)適用対象となる車両が例えば各車輪に走行用動力源として機能するモータを個別に有する場合には、本発明による制動力制御を各車輪単位で行ってもよい。例えば、振動状態が発生した車輪のみ摩擦ブレーキ装置の押圧力、駆動力、回生発電量を変化させてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10 自動運転制御ユニット 11 環境認識ユニット
20 ブレーキペダルセンサ 30 ハイドロリックユニット
40 モータジェネレータ制御ユニット
50 エンジン制御ユニット
60 トランスミッション制御ユニット
100 ブレーキ制御ユニット 110 振動検出部
111 加速度センサ 120 車速センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6