(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】多層膜形成体の評価装置および評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/27 20060101AFI20230622BHJP
G03G 5/047 20060101ALI20230622BHJP
G03G 5/14 20060101ALI20230622BHJP
G03G 5/00 20060101ALI20230622BHJP
G03G 5/04 20060101ALI20230622BHJP
G03G 5/05 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
G01N21/27 B
G03G5/047
G03G5/14 101
G03G5/00 101
G03G5/04
G03G5/05 102
(21)【出願番号】P 2019125287
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】宮西 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 力也
(72)【発明者】
【氏名】馬場 公希
(72)【発明者】
【氏名】森田 竜廣
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-106218(JP,A)
【文献】特開2013-040813(JP,A)
【文献】特開平11-051618(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0147070(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G03G 5/00 - G03G 5/16
G03G 21/00 - G03G 21/12
G01B 11/00 - G01B 11/30
G01J 3/00 - G01J 4/04
G01J 7/00 - G01J 9/04
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の曲面を有する基本部材の表面に多層膜が形成された多層膜形成体の評価装置であって、
前記多層膜形成体を所定の方向に移動可能に取り付ける多層膜形成体取付部と、
前記多層膜形成体の表面に光を照射する光源、および前記多層膜形成体の表面によって反射された反射光を受光し、光の波長ごとに前記反射光の受光強度に対応した受光信号を出力する光検出器とからなる分光光度計と、
前記出力された複数の受光信号から、所定数の複数の波長に対する受光強度を取得し、少なくとも前記取得された受光強度を入力情報として設定して、光学スペクトルを計算するスペクトル計算部と、
複数の特性値が既知である基準多層膜形成体から取得された受光強度から設定された前記入力情報と前記多層膜形成体の複数の特性値との関係を示す変換行列を記憶した記憶部と、
前記入力情報と前記変換行列を利用して、前記多層膜形成体の複数の特性値からなる出力情報を計算する出力情報計算部と、
前記多層膜形成体の所望の位置に光が照射されるように、前記多層膜形成体取付部に取り付けられた多層膜形成体と前記分光光度計との位置関係を調整する多層膜形成体位置調整部とを備え、
前記光源から所定の波長幅を持つ光を、複数の特性値が未知である多層膜形成体の表面に照射し、
前記光検出器によって、前記多層膜形成体の表面からの反射光を受光して複数の波長ごとに前記反射光の受光強度に対応した受光信号を出力し、
前記スペクトル計算部が、前記出力された複数の受光信号から、前記複数の波長に対する入力情報を設定し、
前記出力情報計算部が、前記設定された入力情報と前記記憶されている変換行列を用いた行列計算により、評価対象である多層膜形成体の複数の特性値を出力することを特徴とする多層膜形成体の評価装置。
【請求項2】
前記多層膜形成体取付部に取り付けられた前記多層膜形成体を構成する多層膜が形成されていない基本部材のみからなる基準基本部材と、前記分光光度計との測定距離を、前記多層膜形成体位置調整部により設定した後、
前記スペクトル計算部が、前記受光信号から出力された受光強度を利用して、設定された複数の異なる測定距離ごとに、前記反射光の光学スペクトルを測定して、前記複数の異なる測定距離に対応した光学スペクトルのSN比を計算し、
前記多層膜形成体位置調整部が、複数の異なる測定距離に対応したスペクトルのSN比のうち、最大のSN比に対応する測定距離を、前記
基準基本部材と前記分光光度計との測定距離に固定設定することを特徴とする請求項1に記載の多層膜形成体の評価装置。
【請求項3】
前記入力情報には、反射光の波長ごとに取得された複数の受光強度、反射光の波長ごとの複数の反射率、および反射光の分光吸収比のうち、少なくともいずれかが含まれることを特徴とする請求項1に記載の多層膜形成体の評価装置。
【請求項4】
前記多層膜形成体の複数の特性値からなる出力情報には、前記基本部材の反射率と、多層膜を構成する各膜の膜厚とが含まれることを特徴とする請求項1に記載の多層膜形成体の評価装置。
【請求項5】
前記多層膜形成体は、導電性の基本部材と、基本部材の表面に順に積層された下引層と電荷発生層とからなり、
前記多層膜形成体の複数の特性値からなる出力情報には、前記基本部材の反射率と、前記下引層の膜厚と、前記電荷発生層の膜厚とが含まれることを特徴とする請求項1に記載の多層膜形成体の評価装置。
【請求項6】
目標とする既知の多層膜形成体の特性値であって、多層膜形成体の多層膜の膜厚を含む基準多層膜形成体情報を、前記記憶部に予め記憶し、
前記多層膜形成体取付部に取り付けられた、前記基本部材の表面に複数の多層膜が形成された多層膜形成体であって、多層膜の構成および多層膜形成体の特性値が既知である基準多層膜形成体に対して、前記分光光度計が複数の所定の波長を持つ光を照射して、複数の波長ごとの受光強度を測定し、
前記スペクトル計算部が前記測定した受光強度を入力情報とし
て記憶し、
前記出力情報計算部が、
前記入力情報を利用した所定の行列計算をした結果と、出力情報となる前記基準多層膜形成体情報との誤差が最小となるように、所定の多重回帰分析処理によって
再設定された前記行列計算に使用した行列の成分要素を
持つ行列と、前記測定した受光強度とを用いた行列計算をすることによって、前記基準多層膜形成体情報にほぼ一致する出力情報が得られる場合に、その再設定した成分要素からなる行列を、変換行列として、前記記憶部に記憶することを特徴とする請求項1に記載の多層膜形成体の評価装置。
【請求項7】
前記多層膜形成体取付部に取り付けられた、前記基本部材の表面に複数の多層膜が形成された多層膜形成体であって、多層膜の構成および多層膜形成体の特性値が未知である被測定多層膜形成体
に対して、前記分光光度計が複数の所定の波長を持つ光を照射して、複数の波長ごとの受光強度を測定し、
前記スペクトル計算部が前記測定した受光強度を入力情報とし
て記憶し、
前記出力情報計算部が、前記入力情報と前記変換行列を用いた行列計算により、前記被測定多層膜形成体の複数の特性値からなる出力情報を計算して、前記被測定多層膜形成体の未知であった複数の特性値を同時に出力することを特徴とする請求項1に記載の多層膜形成体の評価装置。
【請求項8】
所定の基本部材の表面に多層膜が形成された多層膜形成体の特性値を評価する多層膜形成体の評価方法であって、
前記多層膜形成体が所定の方向に移動可能となるように、多層膜形成体取付部材に取り付け、
前記多層膜形成体の所望の位置に光が照射されるように、前記取り付けられた多層膜形成体と、分光光度計との位置関係を調整し、
前記分光光度計に備えられた光源から所定の波長幅を持つ光を前記多層膜形成体の表面に照射し、
前記分光光度計に備えられた光検出器によって、前記多層膜形成体の表面からの反射光を受光して複数の波長ごとに前記反射光の受光強度に対応した受光信号を出力し、
前記出力された複数の波長ごとの受光信号から、前記複数の波長に対する入力情報を設定し、
予め記憶されている変換行列であって、前記入力情報と前記多層膜形成体の複数の特性値との関係を示す変換行列を読み出し、
前記設定された入力情報と前記読み出された変換行列とを用いた行列計算により、評価対象である多層膜形成体の複数の特性値を出力することを特徴とする多層膜形成体の評価方法。
【請求項9】
所定の基本部材の表面に複数の多層膜を形成することによって、被測定多層膜形成体を製造する多層膜形成体の製造装置であって、
前記請求項1から7のいずれかに記載した評価装置によって、
前記製造された被測定多層膜形成体の光学スペクトルを測定し、出力された被測定多層膜形成体の複数の特性値を利用して、被測定多層膜形成体を評価し、製造工程の製造条件を調整することを特徴とする多層膜形成体の製造装置。
【請求項10】
前記請求項1から7のいずれかに記載した評価装置を備えた多層膜形成体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多層膜形成体の評価装置および評価方法に関し、特に、円筒形ドラムなどの曲面を有する基本部材表面に形成された多層膜の膜厚等の光学定数を評価する多層膜形成体の評価装置および評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、レーザープリンタやコピー機などの画像形成装置において、トナーを印刷用紙に付着させて、所望の画像情報を印刷用紙に転写定着させるために、電子写真感光体(以下、感光体、感光体ドラムとも呼ぶ)が利用されている。帯電された感光体にレーザーを照射した後、レーザーを照射した部分に付着したトナーが、印刷用紙に転写定着される。
【0003】
また、高速、高品質の画像を形成するために、最近の感光体では、導電性の支持部材の上に、下引層、電荷発生層、電荷輸送層を、この順に形成した機能分離型の感光体が利用されることが多い。
このような多層の各層は、非常に薄い膜であるが、各層の膜厚が均一になるように形成することが要求され、所定の光学特性を有するように形成されることが要求される。また、感光体が所定の光学特性等を満たすように製造されているか否かを精度良く評価することや、その評価結果を利用して製造工程の調整を行うことが行われている。
【0004】
たとえば、特許文献1では、導電性基体上に被評価対象となる層が形成された感光体の表面に光を照射して反射光の分光特性を分光光度計で検出し、検出された分光特性から分光吸収比を計算し、予め記憶されている分光吸収比を説明変数とする重回帰式に、分光特性から計算した分光吸収比を代入して、重回帰式の目的変数である膜厚または膜厚に依存する特性値を求めて、感光体を構成する各層の膜厚等の特性値を評価する感光体の評価装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来技術の重回帰式を用いた評価では、感光体に形成された多層膜のうち、特定の一つの層ごとに、分光特性を求めて評価をする必要があった。
さらに、重回帰式の説明変数に適用される分光吸収比が多数ある場合には、重回帰分析特有の過剰適合(オーバーフッティング)の問題が生じていた。
すなわち、多層膜からなる感光体に、重回帰分析を適用する場合に、各層ごとに、分光特性の計測や分光吸収比の計算等を複数回繰り返し行う必要があり、各層の膜厚等の特性値の評価に時間がかかり、さらに、過剰適合が生じた場合には、精度の高い評価結果が得られない場合があった。
【0007】
そこで、この発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであり、感光体に形成された多層膜の膜厚等の評価を、同時に、少ない測定操作で、高精度に行うことのできる感光体の評価装置および評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、所定の曲面を有し表面に多層膜が形成された多層膜形成体の評価装置であって、前記多層膜形成体を所定の方向に移動可能に取り付ける多層膜形成体取付部と、前記多層膜形成体の表面に光を照射する光源、および前記多層膜形成体の表面によって反射された反射光を受光し、光の波長ごとに前記反射光の受光強度に対応した受光信号を出力する光検出器とからなる分光光度計と、前記出力された複数の受光信号から、所定数の複数の波長に対する受光強度を取得し、少なくとも前記取得された受光強度を入力情報として設定して、光学スペクトルを計算するスペクトル計算部と、前記入力情報と前記多層膜形成体の複数の特性値との関係を示す変換行列を記憶した記憶部と、前記入力情報と前記変換行列を利用して、前記多層膜形成体の複数の特性値からなる出力情報を計算する出力情報計算部とを備え、前記多層膜形成体の所望の位置に光が照射されるように、前記多層膜形成体取付部に取り付けられた多層膜形成体と前記分光光度計との位置関係を調整し、前記光源から所定の波長幅を持つ光を前記多層膜形成体の表面に照射し、前記光検出器によって、前記多層膜形成体の表面からの反射光を受光して複数の波長ごとに前記反射光の受光強度に対応した受光信号を出力し、前記スペクトル計算部が、前記出力された複数の受光信号から、前記複数の波長に対する入力情報を設定し、前記出力情報計算部が、前記設定された入力情報と前記変換行列を用いた行列計算により、評価対象である多層膜形成体の複数の特性値を出力し、前記多層膜及び前記多層膜形成体に関する光学定数を評価することを特徴とする多層膜形成体の評価装置を提供するものである。
【0009】
また、前記多層膜形成体と前記分光光度計との測定距離を調整する多層膜形成体位置調整部をさらに備え、前記多層膜形成体を構成する多層膜が形成されていない基本部材のみからなる基準基本部材を、前記多層膜形成体取付部に取り付け、前記多層膜形成体位置調整部によって前記測定距離を設定した後、前記反射光の光学スペクトルを測定してそのスペクトルのSN比を計算し、複数の異なる測定距離に対応したスペクトルのSN比のうち、最大のSN比に対応する測定距離を、前記多層膜形成体と前記分光光度計との測定距離に固定設定することを特徴とする。
ここで述べているSN比とは、品質工学の分野で用いられている田口メソッドにおける、製品の特性バラつきの尺度をSN比で表すことを意味する。
【0010】
また、前記入力情報には、反射光の波長ごとに取得された複数の受光強度、反射光の波長ごとの複数の反射率、および反射光の分光吸収比のうち、少なくともいずれかが含まれることを特徴とする。
【0011】
また、前記多層膜形成体の複数の特性値からなる出力情報には、前記基本部材の反射率と、多層膜を構成する各膜の膜厚とが含まれることを特徴とする。
また、前記多層膜形成体は、導電性の基本部材と、基本部材の表面に順に積層された下引層と電荷発生層とからなり、前記多層膜形成体の複数の特性値からなる出力情報には、前記基本部材の反射率と、前記下引層の膜厚と、前記電荷発生層の膜厚とが含まれることを特徴とする。
【0012】
また、目標とする既知の多層膜形成体の特性値であって、多層膜形成体の多層膜の膜厚を含む基準多層膜形成体情報を、前記記憶部に予め記憶し、前記基本部材の表面に複数の多層膜が形成された多層膜形成体であって、多層膜の構成および多層膜形成体の特性値が既知である基準多層膜形成体を、前記多層膜形成体取付部に取り付け、前記基準多層膜形成体に、複数の所定の波長を持つ光を照射して、複数の波長ごとの受光強度を測定し、前記測定した受光強度を入力情報とし、前記入力情報を利用した所定の行列計算をした結果と、出力情報となる前記基準多層膜形成体情報との誤差が最小となるように、所定の多重回帰分析処理によって、前記行列計算に使用した行列の成分要素を再設定し、前記測定した受光強度と再設定した成分要素を持つ行列との所定の行列計算によって、前記基準多層膜形成体情報にほぼ一致する出力情報が得られる場合に、その再設定した成分要素からなる行列を、変換行列として、前記記憶部に記憶することを特徴とする。
【0013】
また、前記基本部材の表面に複数の多層膜が形成された多層膜形成体であって、多層膜の構成および多層膜形成体の特性値が未知である被測定多層膜形成体を、前記多層膜形成体取付部に取り付け、前記被測定多層膜形成体に、複数の所定の波長を持つ光を照射して、複数の波長ごとの受光強度を測定し、前記測定した受光強度を入力情報とし、前記出力情報計算部が、前記入力情報と前記変換行列を用いた行列計算により、前記被測定多層膜形成体の複数の特性値からなる出力情報を計算して、前記被測定多層膜形成体の未知であった複数の特性値を同時に出力することを特徴とする。
【0014】
また、この発明は、所定の基本部材の表面に多層膜が形成された多層膜形成体の特性値を評価する多層膜形成体の評価方法であって、前記多層膜形成体が所定の方向に移動可能となるように、多層膜形成体取付部材に取り付け、前記多層膜形成体の所望の位置に光が照射されるように、前記取り付けられた多層膜形成体と、分光光度計との位置関係を調整し、前記分光光度計に備えられた光源から所定の波長幅を持つ光を前記多層膜形成体の表面に照射し、前記分光光度計に備えられた光検出器によって、前記多層膜形成体の表面からの反射光を受光して複数の波長ごとに前記反射光の受光強度に対応した受光信号を出力し、前記出力された複数の波長ごとの受光信号から、前記複数の波長に対する入力情報を設定し、予め記憶されている変換行列であって、前記入力情報と前記多層膜形成体の複数の特性値との関係を示す変換行列を読み出し、前記設定された入力情報と前記読み出された変換行列とを用いた行列計算により、評価対象である多層膜形成体の複数の特性値を出力することを特徴とする多層膜形成体の評価方法を提供するものである。
【0015】
また、この発明は、所定の基本部材の表面に複数の多層膜を形成することによって、被測定多層膜形成体を製造する多層膜形成体の製造装置であって、上記したいずれかの多層膜形成体の評価装置によって、前記製造された被測定多層膜形成体の光学スペクトルを測定し、出力された被測定多層膜形成体の複数の特性値を利用して、被測定多層膜形成体を評価し、製造工程の製造条件を調整することを特徴とする多層膜形成体の製造装置を提供するものである。
また、多層膜形成体の製造装置は、上記したいずれかの評価装置を備えてもよい。
【0016】
また、この発明は、所定の基本部材の表面に多層膜が形成された多層膜形成体の特性値を評価する多層膜形成体の評価方法であって、白色板を利用した分光光度計の調整処理と、基準基本部材を利用した評価装置の位置調整処理と、基準多層膜形成体を利用したスペクトル測定と変換行列の計算処理と、多層膜形成体の特性値が未知である被測定多層膜形成体の評価測定処理からなることを特徴とする多層膜形成体の評価方法を提供するものである。
【0017】
また、前記評価装置が、多層膜形成体を取り付ける多層膜形成体取付部と、前記分光光度計を備え、前記基準基本部材を利用した評価装置の位置調整処理が、前記多層膜を形成していない基準基本部材を、前記多層膜形成体取付部に固定設置し、前記基準基本部材の表面から前記分光光度計までの測定距離を、複数の異なる数値に変更し、前記基準基本部材に、前記光源から所定の波長幅を持つ光を照射して、前記光検出器によって、複数の波長ごとに受光強度を測定し、測定した受光強度を利用して、所定の計算式により、前記測定距離ごとにSN比を計算し、前記SN比が最大となるSN比に対応した測定距離を、多層膜形成体の評価に利用する最適な測定距離として固定設定することからなる多層膜形成体の評価方法である。
【0018】
また、基準多層膜形成体が、基本部材の表面に複数の多層膜が形成された多層膜形成体であって、多層膜の構成および多層膜形成体の特性値が既知である多層膜形成体であり、前記基準多層膜形成体を利用したスペクトル測定と変換行列の計算処理が、前記基準多層膜形成体を、前記多層膜形成体取付部に固定設置し、前記基準多層膜形成体の表面から前記分光光度計までの測定距離を、最適な測定距離に固定設定して、前記基準多層膜形成体に、前記光源から所定の波長幅を持つ光を照射して、前記光検出器によって、複数の波長ごとに受光強度を測定し、測定した受光強度を、説明変数として記憶し、目標とする多層膜形成体の既知の複数の特性値を予め設定した多層膜形成体基準情報を、教師データとして設定し、前記記憶された説明変数と、乱数が初期設定された変換行列とを用いた所定の行列計算によって目的変数を計算し、前記教師データと前記計算された目的変数との誤差が最小となるように、所定の多重回帰分析処理によって、前記行列計算に使用した変換行列の成分要素を再設定し、再設定された成分要素を持つ行列を、多層膜形成体の複数の特性値を計算するための変換行列として記憶することからなる多層膜形成体の評価方法である。
【0019】
また、基準多層膜形成体が、基本部材の表面に複数の多層膜が形成された多層膜形成体であって、多層膜の構成および多層膜形成体の特性値が既知である多層膜形成体であり、前記基準多層膜形成体を利用したスペクトル測定と変換行列の計算処理が、前記基準多層膜形成体を、前記多層膜形成体取付部に固定設置し、前記基準多層膜形成体の表面から前記分光光度計までの測定距離を、最適な測定距離に固定設定して、前記基準多層膜形成体に、前記光源から所定の波長幅を持つ光を照射して、前記光検出器によって、複数の波長ごとに受光強度を測定し、測定した受光強度を、説明変数として記憶し、目標とする多層膜形成体の既知の複数の特性値を予め設定した多層膜形成体基準情報を、教師データとして設定し、前記記憶された説明変数と、乱数が初期設定された変換行列とを用いた所定の行列計算によって目的変数を計算し、前記教師データと前記計算された目的変数との誤差が最小となるように、所定の多重回帰分析処理によって、前記行列計算に使用した変換行列の成分要素を再設定し、受光強度測定を行う前記波長の測定点数を変え、前記行列計算に使用した変換行列の成分要素を再設定し、情報量規準が極小となる前記波長の測定点数での変換行列の成分要素を再設定し、再設定された成分要素を持つ行列を、多層膜形成体の複数の特性値を計算するための変換行列として記憶することからなる多層膜形成体の評価方法である。
【0020】
また、前記多層膜形成体の特性値が未知である被測定多層膜形成体の評価測定処理が、前記被測定多層膜形成体を、前記多層膜形成体取付部に固定設置し、前記被測定多層膜形成体の表面から前記分光光度計までの測定距離を、最適な測定距離に固定設定して、前記被測定多層膜形成体に、前記光源から所定の波長幅を持つ光を照射して、前記光検出器によって、複数の波長ごとに受光強度を測定し、測定した受光強度を、説明変数として記憶し、前記記憶された説明変数と、前記記憶された変換行列とを用いた所定の行列計算によって目的変数を計算し、前記計算された目的変数を、特性値が未知である被測定多層膜形成体の特性値として記憶することからなる多層膜形成体の評価方法である。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、多層膜形成体の所望の位置に光が照射されるように、多層膜形成体取付部に取り付けられた多層膜形成体と分光光度計との位置関係を調整し、光源から所定の波長幅を持つ光を多層膜形成体の表面に照射し、光検出器によって多層膜形成体の表面からの反射光を受光して複数の波長ごとに反射光の受光強度に対応した受光信号を出力し、スペクトル計算部が出力された複数の受光信号から複数の波長に対する入力情報を設定し、出力情報計算部が設定された入力情報と変換行列を用いた行列計算により、評価対象である多層膜形成体の複数の特性値を出力するので、多層膜形成体の特性値である多層膜形成体に形成された多層膜の膜厚等の評価を、同時に、少ない測定操作で、高精度に行うことのできる多層膜形成体の評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の感光体評価装置の一実施例の構成ブロック図である。
【
図2】この発明の感光体評価装置における感光体の配置の一実施例の概略説明図である。
【
図3】この発明の感光体の層構成の一実施例の説明図である。
【
図4】この発明の感光体評価に利用する入力情報と出力情報の関係の一実施例の説明図である。
【
図5】この発明の感光体評価に利用する入力情報と、変換行列と、出力情報の計算式の一実施例の説明図である。
【
図6】この発明の感光体評価に利用する入力情報と、変換行列と、出力情報の関係を示す計算式の一実施例の説明図である。
【
図7】この発明の感光体評価で実施される処理の概略を示す一実施例のフローチャートである。
【
図8】白色板を利用した分光光度計の調整処理に関する一実施例のフローチャートである。
【
図9】基準基本部材を利用した評価装置の位置の調整処理に関する一実施例のフローチャートである。
【
図10】基準感光体を利用した受光強度測定と変換行列の計算に関する一実施例のフローチャートである。
【
図11】未知感光体の評価測定と、感光体の特性値(目的変数)の計算に関する一実施例のフローチャートである。
【
図12】測定対象の感光体の評価測定と、計算した特性値のフィードバックに関する一実施例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を使用して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の実施例の記載によって、この発明が限定されるものではない。
この発明は、所定の曲面を有する基本部材の表面に多層膜が形成された基本部材を多層膜形成体、あるいは単に感光体と定義し、多層膜が形成された多層膜形成体の特性値を評価する多層膜形成体の評価装置(単に、感光体評価装置とも呼ぶ)であり、評価対象である多層膜形成体の性能を示す特性値を評価するために、特性値に関係する情報を測定して、その測定情報から特性値を計算する。
特性値に関係する情報としては、たとえば、分光光度計から多層膜形成体の表面に光を照射し、多層膜形成体の表面からの反射光を受光したときの受光強度や、反射率が利用される。
【0024】
この発明では、後述するように、重回帰分析を利用して、複数の波長ごとに測定した受光強度を複数の入力情報とし、これらの複数の入力情報と、所定の変換行列との演算により、出力情報である感光体の複数の特性値を計算する。
感光体の性能を示す特性値とは、たとえば、感光体の表面に積層された多層膜の各膜の膜厚、感光体の基本部材となる部材の反射率、その他、屈折率、消衰係数、吸収係数、透過率、複素誘電率、複素電気伝導度、などの光学定数や線形応答係数を意味する。
【0025】
また、感光体評価装置で評価する対象は、レーザプリンタ等で利用される電子写真感光体である。電子写真感光体は、円柱形状の部材であり、たとえば、アルミニウム等の導電性の基本部材で形成され、さらに、導電性の基本部材の円柱側面には、後述するような所定の複数の膜が積層される。
【0026】
<感光体評価装置の構成>
図1に、この発明の感光体評価装置の一実施例の構成ブロック図を示す。
以下の実施形態では、多層膜形成体を、感光体と記するものとする。
図1において、この発明の感光体評価装置1は、主として、感光体取付部10、分光光度計20、評価情報処理部30、記憶部50を備える。
【0027】
感光体取付部10は、上記した多層膜形成体取付部に相当し、評価対象である感光体を、所定の方向に移動可能に取り付ける部分であり、取り付ける対象である感光体11と、感光体位置調整部12を含む。
感光体位置調整部12は、上記した多層膜形成体位置調整部に相当し、主として、感光体11と分光光度計20との測定距離を調整する部分であり、感光体11を設置する固定部材と、分光光度計20との距離等を調整する調整部材からなる。
【0028】
図2に、感光体評価装置における感光体の配置の一実施例の概略説明図を示す。
固定部材によって、感光体11の表面に、分光光度計20から光(出射光3)が照射されるように、感光体11を固定配置する。
さらに、調整部材によって、感光体11と分光光度計20との相対位置関係を調整する。
主に、円柱形状の感光体11の中心軸の方向のX軸と、感光体11を中心軸の周りに回転する場合の基準位置からの回転角度θと、中心軸Xに直交する方向であるZ軸方向の距離であって照射された光の照射位置2と分光光度計20との測定距離Lzを調整する。
また、調整部材によって、中心軸XとZ軸双方に直行したY軸方向に分光光度計20の相対位置関係が調整できる。
【0029】
たとえば、分光光度計20が固定設置されている場合、感光体取付部10に取り付けた感光体11をX軸方向(図の上下方向)に移動させることにより、上下方向の照射光の照射位置2を調整する。また、Y軸方向(図の奥行き方向)に移動させることにより、奥行き方向の出射光の照射位置2を調整する。出射光の軸が感光体11の中心軸からずれた場合に調整できるようになっている。反射光4の強度が最大になるようにY軸方向の位置が調整されており、以下の説明ではY軸方向の位置が調整されていることとして記載を省略する。
また、回転角度θを変化させて、感光体11を回転させることにより、出射光の照射位置2を調整する。
さらに、感光体11をZ軸方向(図の左右方向)に移動させることにより、出射光の照射位置2と分光光度計20との測定距離Lzを調整する。
【0030】
また、詳細な処理は後述するが、測定に最適な測定距離Lzを決定するために、感光体を構成する多層膜が形成されていない基本部材のみからなる基準基本部材を、感光体取付部に取り付け、感光体位置調整部によって測定距離を設定した後、反射光の光学スペクトルを測定してそのスペクトルのSN比を計算し、複数の異なる測定距離に対応したスペクトルのSN比のうち、最大のSN比に対応する測定距離を、感光体と分光光度計との測定距離Lzに固定設定する。
【0031】
図3に、感光体の層構成の一実施例の説明図を示す。
図3では、感光体11の層構成として、2つの実施例を示す。以下の
図3等では、基本部材71を、基体と呼ぶ。
図3(a)には、導電性の基本部材71(基体)の上に、下引層72と、電荷発生層73を、この順に積層した感光体11を示している。
図3(a)には、導電性の基本部材71の上に、下引層72と、電荷発生層73と、電荷輸送層74を、この順に積層した感光体11を示している。
図3(b)に、分光光度計20から出射された光(出射光3)と、出射光3が最上層である電荷発生層73に反射された光(反射光4)の概要を示している。
【0032】
導電性の基本部材71(基体)は、たとえば、アルミニウム、ステンレス、マグネシュウムなどの加工が容易で剛性が有る金属材料で形成される。
感光体の基本部材71の上に形成される多層膜の構成は、
図3のものに限定されるものではなく、他の多層膜を形成した感光体もある。たとえば、基本部材71の上に、下引層と、電荷発生層、電荷輸送層、オーバーコート層などを形成してもよい。
また、膜の干渉縞を防止するために、基本部材71の表面や、下引層72の界面について、粗度が高くなるように、加工してもよい。
以下の実施形態では、感光体11としては、導電性の基本部材71の上に、下引層72と、電荷発生層73を、この順に積層した感光体11について、説明する。
【0033】
分光光度計20は、光を照射し、評価対象物である感光体からの反射光を受光する装置であり、受光した光の強度(以下、受光強度と呼ぶ)に対応した信号(受光信号)を出力する。
受光信号は、分光光度計20から、評価情報処理部30の信号受信部31に転送される。
分光光度計20は、主に、光源21と、光検出器22と、光度計位置調整部23とを含む。
【0034】
光源21は、感光体の表面に光を出射する部分であり、広範囲の波長を持つ光を出射する。
たとえば、近紫外光と、可視光と、近赤外光を含み、360nmから740nm程度までの波長を持つ光を出射する。
光源21から出射された光は、
図2に示したように、感光体の照射領域2に照射され、感光体によって反射された光(反射光4)の一部分が、分光光度計20に入射される。
光源21としては、たとえば、発光ダイオードLED、ハロゲンランプ、キセノンランプ、水銀ランプなどが利用される。
【0035】
光検出器22は、感光体の表面によって反射された反射光を受光し、光の波長ごとに反射光の受光強度に対応した受光信号を出力する部分であり、たとえば、フォトダイオード、光電子増倍管などが利用される。
光検出器22は、感光体の所定の照射領域2に光が出射されると、その照射領域2からの反射光4を受光し、波長ごとに、受光強度Rsに対応した信号(受光信号)を、評価情報処理部30の信号受信部31に出力する。
分光光度計20から出力された波長ごとの受光信号を分析することにより、多層膜が形成された後の感光体の照射領域2における光学スペクトルが測定される。
光学スペクトルは、所定の波長ごとの受光強度の分布を示した情報であり、単に、スペクトル、あるいは、反射スペクトルとも呼ぶ。
【0036】
光度計位置調整部23は、分光光度計を構成する光源21と光検出器22の配置を調整する部分であり、光源21から出射された光に対しての反射光の受光強度Rsが最大となるように、光源21と光検出器22の配置を調整する。また、配置の調整だけでなく、光源21からの出射光の発光強度も補正される。
【0037】
評価情報処理部30は、多層膜の膜厚など、感光体の特性値を評価するための情報を計算する部分であり、主として、CPU、ROM、RAM、I/Oコントローラ、タイマー等からなるマイクロコンピュータによって実現される。
CPUは、感光体評価装置の各構成要素の動作を制御する部分(制御部)であり、ROM等に予め格納された制御プログラムに基づいて、各種ハードウェアを有機的に動作させて、この発明の光の出射および受光機能、スペクトル計算機能などを実行する。
【0038】
この評価情報処理部30は、主に、信号受信部31、スペクトル計算部32、出力情報計算部35からなる。
信号受信部31は、上記したように、光検出器22から出力される波長ごとの受光信号を、受信する部分である。受信した受光信号から、受光強度Rsを取得し、取得した受光強度Rsを、波長ごとに記憶する。
【0039】
スペクトル計算部32は、波長ごとの受光信号から、光学スペクトルを計算する部分であり、出力された複数の受光信号から、所定数の複数の波長に対する受光強度を取得し、少なくとも取得された受光強度を入力情報として設定して、光学スペクトルを測定する。
スペクトル計算部32は、主として、入力情報計算部33と、行列計算部34からなる。
たとえば、波長ごとの受光信号から波長ごとの反射率を計算し、感光体の複数の特性値を同時に求めるための変換行列を計算する。
【0040】
入力情報計算部33は、感光体の複数の特性値を計算するのに必要な入力情報を取得または計算する部分である。
入力情報には、反射光の波長ごとに取得された複数の受光強度、反射光の波長ごとの複数の反射率、および反射光の分光吸収比のうち、少なくともいずれかが含まれる。
たとえば、上記したように、360nmから740nm程度までの波長の光から得られた受光強度Rsから、所定数の複数の波長に対する受光強度Rsを取得し、取得した波長ごとの受光強度Rsを、入力情報xi53として記憶する。
あるいは、取得した複数の波長の受光強度から、クロマース―クローニッヒ変換、線形応答変換などをした他の情報を利用してもよい。たとえば、分光吸収比、透過率、誘電率、などの情報も、入力情報として記憶してもよい。
【0041】
行列計算部34は、上記した入力情報Xi53と、出力情報Yiに相当する感光体の複数の特性値との関係を示す所定の成分要素からなる変換行列Mを計算する部分である。
たとえば、n個の波長に対応する受光強度Xi(i=1~n)を、m個の特性値に相当する出力情報Yi(i=1~m)に変換するための変換行列Mを計算する。
また、後述するように、変換行列Mは、膜構成が予め分かっている基準感光体を利用して測定した受光強度Xiを入力情報とし、既知の特性値を予め設定した基準感光体情報y'を出力情報として、従来から用いられている多重回帰分析手法を利用することによって、計算される。
変換行列Mは、たとえば、m行、n+1列の成分要素(以下、単に成分とも呼ぶ)からなるとした場合、m行、n列の重み成分(Wmn)と、m行のバイアス項(bm)からなる。
【0042】
出力情報計算部35は、評価対象である出力情報を計算する部分であり、入力情報Xi53と変換行列Mとを利用して、感光体の複数の特性値からなる出力情報を計算する。
出力情報Yiは、入力情報Xi53と変換行列Mとを利用した所定の行列計算により計算される。
感光体の複数の特性値からなる出力情報Yiは、たとえば、基本部材の反射率と、感光体の多層膜を構成する各膜の膜厚とが含まれる。
感光体が、導電性の基本部材71と、基本部材の表面に順に積層された下引層72と電荷発生層73とからなる場合、後述するように、感光体の複数の特性値からなる出力情報Yiには、電荷発生層73の膜厚(Y1)と、下引層72の膜厚(Y2)と、基本部材71の反射率(Y3)とが含まれる。
感光体の特性値の一つである電荷発生層などの多層膜の膜厚が、出力情報に相当するので、出力情報計算部35は、膜厚変換部とも呼ぶ。
【0043】
出力情報Yiとしては、上記した3つの特性値(Y1~Y3)に限るものではなく、他の光学定数も、出力情報Yiとしてもよい。
たとえば、膜厚に依存する特性値である色空間の表色系の、CIE、RGB、XYZ、xyz、L*u*v*、L*a*b*、マンセル表色系(色相、彩度、明度)や、透過率、消衰係数、吸収係数などの光学定数も、出力情報Yiとして計算できる。
【0044】
この発明の評価装置では、感光体の特性値を評価するが、主として、上記のような構成を備えて、感光体の所望の位置に光が照射されるように、感光体取付部に取り付けられた感光体と分光光度計との位置関係を調整し、光源から所定の波長幅を持つ光を感光体の表面に出射し、光検出器によって、感光体の表面からの反射光を受光して複数の波長ごとに反射光の受光強度に対応した受光信号を出力し、スペクトル計算部が、前記出力された複数の受光信号から、前記複数の波長に対する入力情報を設定し、出力情報計算部が、前記設定された入力情報と前記変換行列を用いた行列計算により、評価対象である感光体の複数の特性値を出力することによって、感光体の特性値を評価する。
【0045】
記憶部50は、この発明の感光体評価装置の機能を実行するために必要な情報やプログラムを記憶する部分であり、ROM、RAM、フラッシュメモリなどの半導体記憶素子、HDD、SSDなどの記憶装置、その他の記憶媒体が用いられる。
記憶部50は、感光体評価装置の内部に備えることが好ましいが、感光体の製造装置に備えられた記憶装置を利用してもよい。あるいは、LAN等のネットワークを介して、感光体評価装置とパソコンなどの情報処理装置やファイルサーバとを接続し、情報処理装置やファイルサーバに備えられた記憶装置を記憶部50として利用してもよい。
記憶部50には、たとえば、測定距離51、受光強度52、入力情報53、変換行列54、出力情報55、基準感光体情報56、感光体既測定情報57などが記憶される。
基準感光体情報56は、上記した基準多層膜形成体情報に相当する。
【0046】
測定距離51は、感光体の光学スペクトルを測定するときの出射光の照射位置2と分光光度計20との距離Lzに相当する。具体的には、測定距離51は、Z軸方向の距離で、出射光の照射位置2と光検出器22との直線距離に相当する。
評価対象の感光体の光学スペクトルを測定する前に、基準基本部材を利用して、所定の光学特性の測定精度が最適となる距離Lzを決定し、測定距離(Lz)51として記憶する。
【0047】
受光強度52(Rs)は、上記したように、光検出器22から出力された波長ごとの受光信号に対応した信号レベルの情報である。
【0048】
入力情報53(Xi)は、出力情報55の計算に利用する情報であり、たとえば、複数の波長ごとの受光強度Rsが、入力情報Xiに相当する。
選択された光の波長の数nが100個であれば、入力情報Xiは、100個の受光強度Rsからなる(i=1~n)。
あるいは、受光強度Rsから計算した感光体の反射率を、入力情報Xiとして記憶してもよい。
入力情報Xiは、後述する説明変数に相当する。
【0049】
変換行列54(M)は、入力情報と、感光体の複数の特性値との関係を示す行列であり、入力情報53(Xi)を、出力情報55(Yi)に変換するための行列である。
たとえば、n個の波長に対応する受光強度Xi(i=1~n)を、m個の膜厚等の特性値に相当する出力情報Yi(i=1~m)に変換するための変換行列であり、変換行列Mの成分要素(成分)は、重み成分(Wmn)と、バイアス項(bm)からなる。
【0050】
出力情報55(Yi)は、評価対象である感光体の特性値に相当し、入力情報Xiと変換行列Mによる行列計算により計算される情報である。
たとえば、評価対象となる感光体の特性値が10個であれば、出力情報Yiは、10個の情報からなる(m=10)。
出力情報Yiは、後述する目的変数に相当する。
【0051】
図4に、この発明の感光体評価に利用する入力情報と出力情報の関係の一実施例の説明図を示す。
図4(a)に、入力情報と出力情報の関係の概略説明図を示す。
m個の情報からなる出力情報Ymが、n個の情報からなる入力情報Xnと、変換行列Mにより計算されることを示している。
ここでは、入力情報Xnは、上記した受光強度Xi(i=1~n)である。
出力情報Ymは、3つの情報からなり、電荷発生層73の膜厚(Y1)、下引層72の膜厚(Y2)、基本部材71(基体)の反射率(Y3)からなるものとする。
変換行列Mは、m行、n+1列の行列M(Wmn、bm)とし、m行、n列の重み成分(Wmn)と、m行のバイアス項(bm)からなるものとする。
【0052】
図4(b)に、入力情報の一実施例を示す。
ここで、入力情報は、n個の波長に対する受光強度Xiであるが、ただし、バイアス項に対応するn+1個目の入力情報Xn+1を導入する。
たとえば、n=39の場合、入力情報は、39個の波長に対する受光強度(X1~X39)と、40(=n+1)個目の入力情報X40とからなる。
40個目の入力情報X40は、1に固定する(X40=1)。
これらの入力情報(X1~X40)は、行列計算における説明変数に相当する。
【0053】
図4(c)に、出力情報の一実施例を示す。
ここで、出力情報は、m個の評価対象の特性値Yi(i=1~m)である。
また、評価対象の特性値を3個(m=3)とし、3つの出力情報を、上記した電荷発生層73の膜厚(Y1)、下引層72の膜厚(Y2)、基本部材71(基体)の反射率(Y3)とする。
これらの出力情報(Y1~Y3)は、行列計算における目的変数に相当する。
【0054】
図4(d)に、変換行列Mの一実施例を示す。
ここでは、
図4(b)の入力情報と、
図4(c)の出力情報とを関係付ける変換行列M(Wmn、bm)を示している。
m=3、n=39の場合、変換行列Mは、3行、40列の行列となり、1行当たり、39個の重み成分Wmnと、1つのバイアス項bmとからなる。
W11~W1,39、W21~W2,39、W31~W3,39が、重み成分であり、b1~b3がバイアス項である。
【0055】
図5に、この発明の感光体評価に利用する入力情報と、変換行列と、出力情報の計算式の一実施例の説明図を示す。
ここでは、入力情報に相当する説明変数Xnをn+1個とし、n個の受光強度X1~Xnと、定数であるXn+1(=1)からなるものとする。
変換行列Mは、m行、n+1列の行列であり、m個のバイアス項bmと、1行当たりn個の重み成分Wmnとからなるものとする。ただし、m=3である。
出力情報に相当する目的変数Ymを3個(m=3)とし、目的変数Ymは、上記した3つの特性値(Y1~Y3)とする。
図5では、変数Xn、変数Ymとして小文字で表記しているが、大文字と小文字は区別せず、同じものを意味する。
【0056】
図5において、目的変数Ymは、変換行列Mのm個のバイアス項bmと、1行当たりn個の重み成分Wmnと、説明変数Xnとを用いると、次の関係式で表される。
【数1】
【0057】
また、目的変数Ymを目的変数ベクトルで表し、説明変数Xnを説明変数ベクトルで表し、説明変数Xn+1を1とすることにより、次の関係式で表すこともできる。
【数2】
【0058】
上記のような計算式を利用することによって、入力情報と変換行列とから、出力情報を計算することができるが、変換行列Mを、予め設定記憶しておく必要がある。
変換行列Mは、たとえば、次のように、基準感光体と、基準感光体情報を利用して計算することができる。
すなわち、目標とする既知の感光体の特性値であって、感光体の多層膜の膜厚を含む基準感光体情報を、記憶部に予め記憶し、基本部材の表面に複数の多層膜が形成された感光体であって、多層膜の構成および感光体の特性値が既知である基準感光体を、感光体取付部に取り付け、基準感光体に、複数の所定の波長を持つ光を出射して、複数の波長ごとの受光強度を測定し、測定した受光強度を入力情報とし、この入力情報を利用した所定の行列計算をした結果と、出力情報となる基準感光体情報との誤差が最小となるように、所定の多重回帰分析処理によって、行列計算に使用した行列の成分要素を再設定し、測定した受光強度と再設定した成分要素を持つ行列との所定の行列計算によって、基準感光体情報にほぼ一致する出力情報が得られる場合に、その再設定した成分要素からなる行列を、変換行列として記憶部に記憶する。
【0059】
また、感光体の特性値を計算したい測定対象の感光体については、上記した入力情報と変換行列を利用して、出力情報である感光体の特性値を計算することができる。
たとえば、基本部材の表面に複数の多層膜が形成された感光体であって、多層膜の構成および感光体の特性値が未知である被測定感光体を、感光体取付部に取り付け、被測定感光体に、複数の所定の波長を持つ光を出射して、複数の波長ごとの受光強度を測定し、測定した受光強度を入力情報とし、出力情報計算部が、入力情報と変換行列を用いた行列計算により、被測定感光体の複数の特性値からなる出力情報を計算すれば、被測定感光体の未知であった複数の特性値を同時に出力することができる。
【0060】
図6に、この発明の感光体評価に利用する入力情報と、変換行列と、出力情報の関係を示す計算式の一実施例の説明図を示す。
図6(a)に、
図4(a)と同様に、入力情報と出力情報の関係の概略説明図を示す。
ここで、入力情報(説明変数)Xn+1については、n=4であり、5つの情報(X1~X5)からなる場合を示しており、4つの受光強度Xi(X1~X4)と、定数であるX5(=1)からなるものとする。
変換行列Mは、3行、5列の行列M(Wmn、bm)とし、3行、4列の重み成分(Wmn:W11~W34)と、3行のバイアス項(bm:b1~b3)からなるものとする。
出力情報(目的変数)Ymは、
図4(a)と同様に、3つの特性値情報からなり、電荷発生層73の膜厚(Y1)、下引層72の膜厚(Y2)、基本部材71(基体)の反射率(Y3)からなるものとする。
【0061】
この場合、
図6(b)に示すように、3つの出力情報(目的変数)Ymは、3行5列の変換行列Mと、5つの入力情報(説明変数)Xn+1との行列計算により、計算される。
Y1= W11X1+W12X2+W13X3+W14X4+b1X5
Y2= W21X1+W22X2+W23X3+W24X4+b2X5
Y3= W31X1+W32X2+W33X3+W34X4+b3X5
ここで、X5=1である。
【0062】
基準感光体情報56(y’)は、基準感光体を利用して、変換行列を計算するときに用いる基準となる情報であり、目標とする既知の特性値を予め設定した情報である。
基準感光体情報56(y’)は、教師データとも呼ぶ。
基準感光体情報y’は、たとえば、感光体の多層厚の各層の膜厚、基本部材(基体)の反射率、屈折率、消衰係数、吸収係数、透過率、複素誘電率、複素電気伝導度、などの情報からなり、測定条件である所定のX軸方向の位置情報、回転角度θ、Z軸方向の距離Lzと対応付けて、記憶部50に、予め記憶しておく。
上記した
図4や
図6に示したように、出力情報(目的変数)が、3つの特性値(電荷発生層73の膜厚(Y1)、下引層72の膜厚(Y2)、基本部材71(基体)の反射率(Y3))からなる場合は、これら3つの特性値についての目標とする既知の特性値を、基準感光体情報y’として、予め記憶しておく。
【0063】
感光体既測定情報57は、測定対象とした感光体(被測定感光体とも呼ぶ)について、既に測定および計算された特性値等の情報を記憶した情報である。この情報57は、これから実施する感光体の製造工程の製造条件を調整するために利用される。
また、感光体既測定情報57は、新たに製造された感光体の良品または不良品の判定にも利用される。
【0064】
以上が、この発明の感光体の評価装置の構成であるが、上記した感光体の評価装置は、感光体の製造装置に組み込んでもよい。
感光体の製造装置は、所定の基本部材の表面に複数の多層膜を形成することによって、評価対象である被測定感光体を製造するものであるが、上記した感光体の評価装置によって、製造された被測定感光体の光学スペクトルを測定し、出力された被測定感光体の複数の特性値を利用して、被測定感光体を評価し、さらに、製造工程の製造条件を調整することができる。
【0065】
<感光体評価装置における評価処理>
この発明の感光体評価装置では、所定の基本部材の表面に多層膜が形成された感光体の特性値を評価するための処理を実行するが、感光体評価装置における評価処理(評価方法)は、主として、4つの工程に分類することができる。
4つの工程は、白色板を利用した分光光度計の調整処理と、基準基本部材を利用した評価装置の位置調整処理と、基準感光体を利用したスペクトル測定と変換行列の計算処理と、特性値が未知の感光体あるいは測定対象の感光体(被測定感光体)の評価測定処理とフィードバック処理であり、この順に実施する。
【0066】
(評価処理の実施形態1)
図7に、この発明の感光体評価で実施される全体的な概略処理の一実施例のフローチャートを示す。
図7のステップS1において、所定の白色板を利用して、分光光度計20の受光強度を調整する処理を行う(白色板を利用した分光光度計の調整処理)。
このステップS1の処理は、分光光度計20を利用して測定されるスペクトルの受光強度について、できるだけロスがなく、測定すべき各波長について光源からの発光強度に近い受光強度が取得できるように、受光強度を調整するものである。
【0067】
この調整処理では、白色板を用いて、反射スペクトルを測定する。
白色板としては、分光器やセンサーなどの光測定機器の校正に用いられている標準反射板を利用すればよい。
白色板は、
図2に示した感光体11の代わりに、感光体取付部10に固定設置する。
固定設置した白色板に所定の光を出射して、反射スペクトルを測定する。
白色板を利用した分光光度計の調整処理の詳細については、
図8のフローチャートに示す。
【0068】
ステップS2において、所定の基準基本部材(基準基体とも呼ぶ)を利用して、評価装置の感光体取付部10の位置を調整する処理を行う(基準基体を利用した評価装置の位置調整処理)。
ここでは、感光体取付部10に設置する基準基本部材と分光光度計20との位置関係を調整するが、特に、スペクトルのSN比ができるだけ大きくなるように、スペクトルを測定する基準基本部材の表面から分光光度計までの距離Lzを適切な数値に設定する。
基準基本部材(基準基体)としては、アルミニウム等で製作され、測定対象である感光体と同一形状の部材を利用する。基準基本部材には、多層膜は形成しない。
基準基本部材を利用した評価装置の位置調整処理の詳細については、
図9のフローチャートに示す。
【0069】
ステップS3において、所定の基準感光体ドラムD(以下、基準感光体とも呼ぶ)を利用して、反射スペクトルを測定する。すなわち、複数の所定の波長を持つ光を基準感光体に出射して、所定の波長ごとの受光強度を測定し、測定した受光強度Xiを記憶する。
基準感光体ドラムDは、特性値が予め分かっている感光体ドラムであり、測定対象の感光体と同一形状で、基本部材(基体)の上に同一の多層膜を有する部材である。
たとえば、基本部材の材質、寸法および反射率、基本部材に積層する多層膜の構成と、各膜の膜厚、屈折率、消衰係数、吸収係数、透過率、複素誘電率、複素電気伝導度、その他、色空間の表色系の、CIE、RGB、XYZ、xyz、L*u*v*、L*a*b*、マンセル表色系(色相、彩度、明度)に対する特性値について、予め記憶されている部材である。
この測定処理は、基準感光体を利用したスペクトル測定と変換行列の計算処理の一部分である。
この処理の詳細については、
図10のフローチャートに示す。
【0070】
ステップS4において、記憶した受光強度Xiと、感光体基準情報56を利用して、変換行列Mを計算する。ここでは、計算された変換行列Mの成分Wmnとbmが、変換行列M54として記憶される。
感光体基準情報56は、上記したように、教師データであり、評価する感光体の特性値について、目標とする既知の特性値を予め設定した情報y’である。
上記のように、基準感光体を利用して測定された受光強度Xiと、変換行列Mとの行列計算によって、目標とする既知の特性値を予め設定した情報y’が求められるように、多重回帰分析によって、変換行列Mの各成分が計算される。
この計算処理も、基準感光体を利用したスペクトル測定と変換行列の計算処理の一部分であり、この処理の詳細については、
図10のフローチャートに示す。
【0071】
ステップS5において、未知の感光体Pの評価測定を行う。
ここでは、特性値が未知である感光体Pを、感光体取付部10に設置して、反射スペクトル(受光強度)を測定する。
測定した受光強度Xiを、入力情報として記憶する。
測定した受光強度Xiである入力情報Xnと、各成分が記憶された変換行列Mを利用して、上記したような行列計算をすることにより、出力情報Ymを計算する。
出力情報Ymは、未知の感光体Pについての複数の特性値であるので、この計算された出力情報Ymを利用して、未知の感光体Pを評価することができる。
特性値が未知である感光体を、被測定感光体、あるいは、未知感光体と呼ぶ。
未知の感光体Pの評価測定処理の詳細については、
図11のフローチャートに示す。
【0072】
ステップS6において、出力情報Ymを利用して、未知の感光体Pを評価や、感光体の製造工程へのフィードバックを行う。
フィードバックとしては、たとえば、多数の感光体を製造した後、出力情報Ymである複数の特性値のうち、特定の特性値(たとえば、下引層の膜厚)が、目標とする基準値の所定の範囲からずれた場合に、その特性値が、基準値の範囲内に入るように、製造工程の製造条件を調整する。たとえば、出力情報Ymである下引層の膜厚が、目標とする膜厚の基準値よりも薄くなっていることがわかった場合、下引層の膜厚が、基準値の範囲内に入るように、下引層の製造条件を調整する。
【0073】
また、製造後の被測定感光体について、出力情報Ymである複数の特性値が、目標とする基準値の所定の範囲内にない場合は、その被測定感光体を不良品と判定し、目標とする基準値の所定の範囲内にある場合は、その被測定感光体を良品と判定する。
未知の感光体Pや被測定対象の感光体の評価とフィードバック処理の詳細については、
図12のフローチャートに示す。
【0074】
(評価処理の実施形態2)
白色板を利用した分光光度計の調整処理について、説明する。
白色板を利用した分光光度計の調整処理は、主として、白色板を、所定の位置に固定設置し、白色板に、光源から所定の波長幅を持つ光を出射して、光検出器によって、複数の波長ごとに受光強度を測定し、受光強度が、最大強度となるように、分光光度計を構成する光源と光検出器の配置を調整することからなる。
【0075】
図8に、白色板を利用した分光光度計の調整処理に関する一実施例のフローチャートを示す。
図8のステップS11において、白色板を感光体取付部10に固定設置する。
ステップS12において、白色板に、分光光度計20から光を出射し、スペクトル(受光強度)を測定する。
出射光は、上記したように所定の波長幅を持つ光であり、複数の波長ごとに、測定した受光強度Xiを記憶する。
【0076】
(評価処理の実施形態3)
基準基本部材(基準基体)を利用した評価装置の位置の調整処理について、説明する。
基準基本部材(基準基体)を利用した評価装置の位置の調整処理は、主として、多層膜を形成していない基準基本部材(基準基体)を、感光体取付部に固定設置し、基準基本部材の表面から分光光度計までの測定距離を、複数の異なる数値に変更し、基準基本部材に、光源から所定の波長幅を持つ光を出射して、光検出器によって、複数の波長ごとに受光強度を測定し、測定した受光強度を利用して、所定の計算式により、測定距離ごとにSN比を計算し、SN比が最大となるSN比に対応した測定距離を、感光体の評価に利用する最適な測定距離として固定設定することからなる。
【0077】
図9に、基準基本部材(基準基体)を利用した評価装置の位置の調整処理に関する一実施例のフローチャートを示す。
図9のステップS21において、基準基本部材(基準基体)を感光体取付部10に固定設置する。
ステップS22において、基準基本部材の回転角度θと、回転軸方向の位置(X軸位置)を、所定の位置に固定設定する。これにより、出射光の照射位置が、所望の位置に決定される。
ステップS23において、基準基本部材の表面から分光光度計20までの測定距離Lzが、所定の初期値となるように、分光光度計20のZ軸方向の位置を設定する。
【0078】
ステップS24において、基準基本部材の表面に、分光光度計20の光源21から出射光を照射し、光検出器22によって反射光を受光し、反射光のスペクトル(受光強度)を測定する。
測定した受光強度Xiを、測定機器の位置情報である回転角度θ、X軸位置、測定距離Lzと対応付けて記憶する。
【0079】
ステップS25において、測定した受光強度Xiを利用して、反射スペクトルの平均値μと、反射スペクトルの不変分散σ2を計算する。
さらに、次式を利用して、反射スペクトルの平均値と不変分散とから、感度SとSN比ηとを計算し、感度SとSN比ηを、測定距離Lzに対応づけて記憶する。
ここで述べているSN比とは、品質工学の分野で用いられている田口メソッドにおける、製品の特性バラつきの尺度をSN比で表すことを意味する。
【0080】
【0081】
【0082】
ここで、一般的にSN比は、Z軸方向の測定距離Lzに依存し、測定距離Lzが長くなれば、SN比が小さくなる傾向を示すが、基本部材の表面の粗度の状態によっては、測定距離Lzに対してSN比が極大値を持つ場合もあるため、適正な測定距離Lzを設定する必要がある。
【0083】
ステップS26において、基準基本部材の表面から分光光度計20までの測定距離Lzを、所定量だけ変更して、初期値とは異なる数値に設定する。すなわち、感光体位置調整部12によって基準基本部材をZ軸方向に移動させ、基準基本部材の表面から分光光度計20までの測定距離Lzを再設定する。
その後、反射光のスペクトル(受光強度)を測定し、測定した受光強度Xiを、変更した測定距離Lzと対応付けて記憶する。
また、ステップS25と同様に、測定した受光強度Xiを利用して、反射スペクトルの平均値μ、反射スペクトルの不変分散σ2、感度S、SN比ηを計算する。
【0084】
さらに、測定距離Lzを、複数の異なる数値に設定変更して、再度、反射光のスペクトル(受光強度)の測定と、反射スペクトルの平均値等の計算を繰り返す。
たとえば、3~5個程度の測定距離Lzについて、複数回の反射光のスペクトル(受光強度)の測定を行い、受光強度Xiを記憶する。また、各測定距離Lzについて、反射スペクトルの平均値μ、反射スペクトルの不変分散σ2、感度S、SN比ηを計算する。
【0085】
ステップS27において、測定距離Lzごとに計算したSN比を比較し、SN比が最大となる測定距離Lzを、分光光度計のZ軸方向の最適位置として決定する。
ステップS28において、基準基本部材の表面から分光光度計20までの測定距離Lzが、上記決定された最適位置となるように、分光光度計のZ軸方向の位置を固定設定する。
上記のような調整処理によって、感光体の評価に必要な機器の配置が設定され、感光体を利用した以後の評価処理が実行される。
【0086】
(評価処理の実施形態4)
基準感光体を利用したスペクトル(受光強度)測定と変換行列の計算処理について、説明する。
基準感光体を利用したスペクトル(受光強度)測定と変換行列の計算は、主として、基準感光体が基本部材の表面に複数の多層膜が形成された感光体であって多層膜の構成および感光体の特性値が既知である感光体であり、基準感光体を、感光体取付部に固定設置し、基準感光体の表面から分光光度計までの測定距離を、最適な測定距離に固定設定して、基準感光体に、光源から所定の波長幅を持つ光を出射して、光検出器によって、複数の波長ごとに受光強度を測定し、測定した受光強度を、説明変数として記憶し、目標とする感光体の既知の複数の特性値を予め設定した感光体基準情報を、教師データとして設定し、記憶された説明変数と、乱数が初期設定された変換行列とを用いた所定の行列計算によって目的変数を計算し、教師データと前記計算された目的変数との誤差が最小となるように、所定の多重回帰分析処理によって、行列計算に使用した変換行列の成分要素を再設定し、再設定された成分要素を持つ行列を、感光体の複数の特性値を計算するための変換行列として記憶することからなる。
【0087】
図10に、基準感光体を利用した受光強度測定と変換行列の計算に関する一実施例のフローチャートを示す。
図10のステップS31において、基準感光体を感光体取付部10に固定設置する。
ステップS32において、基準感光体の回転角度θと、回転軸方向の位置(X軸位置)を、所定の位置に固定設定する。
ステップS33において、基準感光体の表面から分光光度計20までの測定距離Lzを、上記調整処理で決定した最適位置に設定する。
【0088】
ステップS34において、基準感光体の表面に、分光光度計20の光源21から出射光を照射し、光検出器22によって反射光を受光し、反射光のスペクトル(受光強度)を測定する。n個の波長ごとに、測定した受光強度を、説明変数Xi(i=1~n)として記憶する。
【0089】
ステップS35において、目標とする既知の特性値を予め設定した感光体基準情報(y')56を、記憶部50から読み出し、理想的な目的変数y'm(教師データ)として設定する。
この目的変数y'm(教師データ)も、ステップS34で測定したときの位置情報(回転角度θ、X軸位置、測定距離Lz)と同じ条件で測定した場合の情報である。
【0090】
ステップS36において、変換行列の各成分を計算するために、記憶された説明変数Xiに対応する目的変数ymと、誤差Eを計算する。
まず、
図5に示した数式を利用して、変換行列Mの各成分(Wmn、bm)に、乱数を初期設定し、記憶された説明変数Xiと、乱数を初期設定した変換行列Mとから、目的変数ymを計算する(ym=M×Xi)。
【0091】
ここで、乱数を初期設定した変換行列Mの各成分は、理想的な特性値とはまだ関係のないデータであるが、教師データである目的変数y'mと、計算された目的変数ymとの差分の平方和に対応した数値である誤差Eが最小となるように、変換行列Mの各成分(Wmn、bm)を計算する。
すなわち、教師データy'mと目的変数ymとの誤差Eを、次式で示す所定の誤差関数により、計算する。
【0092】
【0093】
この数式において、Δymが、教師データy'mと目的変数ymとの差分である。
また、この誤差関数では、感光体の各層の寄与が均等になるように、言い換えれば、各層の目的変数ymと教師データy'mとが均一に近づくように、教師データy'mと目的変数ymとの差分の平方を、教師データy'mの平方で割ることで規格化し、さらに、規格化した数値を足し合わせている。
【0094】
ステップS37において、計算された誤差Eが最小となるように、変換行列Mの各成分(Wmn、bm)を再設定する。
誤差Eを最小化する手法としては、従来から利用されている勾配降下法、再急降下法、確率的勾配降下法などを用いればよい。
あるいは、一般的な統計的モデリングで用いられる最尤方程式を用いたパラメータフィティングを利用してもよい。
【0095】
また、計算モデルの評価規準として従来から利用されている情報量規準AIC(Akaike's information criterion )を用いて、最適なパラメータ数を決定する。
この情報量規準AICは、次式で表され、最尤法によって推定されたモデルの評価にKullback-Leibler情報量を採用した汎用性が高く柔軟なモデル評価規準として知られている。
【0096】
【0097】
ここで、Eは誤差であり、tは、所望の回転角度θ、X軸位置、Z軸方向距離
Lzの位置で測定された反射スペクトルの測定データ数である。
また、m(n+1)は、変換行列のパラメータ数であり、mは変換行列の行数、nは変換行列の列数である。
【0098】
上記した数式により、情報量規準AICを計算し、AICが極小となる最適なパラメータ数を決定する。
たとえば、感光体の評価に利用する変換行列のパラメータ数の決定に、情報量規準AICを利用した場合、情報量規準AICが極小となるような、最適な変換行列の列数nを決定する。
通常、目的変数が少ない場合は、反射スペクトルの間隔が、50nmから60nm程度で、情報量規準AICが極小となり、これにより、最適な変換行列の列数nが6~8程度に決定される。
【0099】
目的変数が多くなった場合は、AICが極小となるように、最適な変換行列の列数nを決定し、変換行列Mの各成分(Wmn、bm)を再設定する。
【0100】
上記のように、情報量規準AICを利用して最適なパラメータ数を決定し、上記計算式で計算された誤差Eが最小となるように、変換行列Mの各成分(Wmn、bm)を再設定することにより、入力情報である記憶された説明変数Xiから計算される目的変数ymを、教師データy'mに近づけることのできる変換行列Mの各成分(Wmn、bm)が求められる。
【0101】
なお、情報量規準AIC以外にも、一般化情報量規準GIC(Generalized information criterion )や、情報量規準EIC(Extended information criterion )などの情報量規準を用いてもよい。
【0102】
ステップS38において、再設定された変換行列Mの各成分(Wmn、bm)を、変換行列M54として記憶部50に記憶する。
以上の処理により、測定された入力情報である受光強度から、評価する感光体の特性値である出力情報を計算する変換行列Mを、計算することができる。
【0103】
(評価処理の実施形態5)
感光体の特性値が未知である被測定感光体の評価測定処理について、説明する。
感光体の特性値が未知である被測定感光体の評価測定処理は、主として、被測定感光体を、感光体取付部に固定設置し、被測定感光体の表面から分光光度計までの測定距離を、最適な測定距離に固定設定して、被測定感光体に、光源から所定の波長幅を持つ光を出射して、光検出器によって、複数の波長ごとに受光強度を測定し、測定した受光強度を、説明変数として記憶し、記憶された説明変数と、記憶された変換行列とを用いた所定の行列計算によって目的変数を計算し、計算された目的変数を、特性値が未知である被測定感光体の特性値として記憶することからなる。
【0104】
図11に、未知感光体の評価測定と、感光体の特性値(目的変数)の計算に関する一実施例のフローチャートを示す。
図11のステップS41において、特性値が未知の感光体(未知感光体)を、感光体取付部10に固定設置する。
ステップS42において、未知感光体の回転角度θと、回転軸方向の位置(X軸位置)を、所定の位置に固定設定する。
ステップS43において、未知感光体の表面から分光光度計20までの測定距離Lzを、上記調整処理で決定した最適位置に設定する。
【0105】
ステップS44において、未知感光体の表面に、分光光度計20の光源21から出射光を照射し、光検出器22によって反射光を受光し、反射光のスペクトル(受光強度)を測定する。n個の波長ごとに、測定した受光強度を、説明変数Xi(i=1~n)として記憶する。
【0106】
ステップS45において、記憶された説明変数Xiと、記憶された変換行列Mとから、行列計算をすることにより、目的変数ymを計算する(ym=M×Xi)。
計算された目的変数ymを、未知感光体の特性値として記憶する。
【0107】
ステップS46において、未知感光体の特性値、変換行列M、測定位置情報(回転角度θ、X軸位置、測定距離Lz)、測定日時、製造日時、製造番号、ロッド番号などを対応付けて、感光体既測定情報57として、記憶部50に記憶する。
これにより、記憶された感光体既測定情報57は、今後製造される特性値が未知の感光体の評価や、基本部材や多層膜の製造工程にフィードバックして各積層膜の製造条件の調整や、変換行列Mの更新等に利用することができる、
【0108】
(評価処理の実施形態6)
図12に、測定対象の感光体の評価測定と、計算した特性値のフィードバックに関する一実施例のフローチャートを示す。
図12のステップS51において、測定対象の感光体(被測定感光体)に関する情報を、ユーザが入力する。
たとえば、被測定感光体の膜構成情報、測定環境情報(回転角度θ、X軸位置、基本部材位置情報など)を入力する。
【0109】
ステップS52において、上記入力された情報を利用して、被測定感光体に対応した感光体既測定情報57(測定距離Lz、変換行列Mなど)を、記憶部50から読み出す。
ステップS53において、被測定感光体を、感光体取付部10に固定設置する。
ステップS54において、被測定感光体の回転角度θと、回転軸方向の位置(X軸位置)と、Z軸方向の測定距離Lzを、所定の位置に固定設定する。
【0110】
ステップS55において、被測定感光体の表面に、分光光度計20の光源21から出射光を照射し、光検出器22によって反射光を受光し、反射光のスペクトル(受光強度)を測定する。n個の波長ごとに、測定した受光強度を、説明変数Xi(i=1~n)として記憶する。
【0111】
ステップS56において、記憶された説明変数Xiと、読み出された変換行列Mとから、行列計算をすることにより、目的変数ymを計算する(ym=M×Xi)。
計算された目的変数ymを、被測定感光体の特性値として記憶する。
【0112】
ステップS57において、被測定感光体の特性値、変換行列M、測定位置情報(回転角度θ、X軸位置、測定距離Lz)などを対応付けて、感光体既測定情報57として、記憶部50に追加記憶する。
【0113】
ステップS58において、記憶された感光体既測定情報57を、感光体の製造工程の製造条件等にフィードバックする。
ここで、感光体既測定情報57のうち、記憶された被測定感光体の特性値を利用して、感光体の製造工程の製造条件を調整する。たとえば、感光体の基本部材の表面を形成するときの製造条件、感光体の基本部材に下引層を積層する場合の製造条件、電荷発生層を積層する場合の製造条件、電荷輸送層を積層する場合の製造条件、オーバーコート層を積層する場合の製造条件などを、調整する。
【0114】
また、感光体を所定数量だけ製造した後、あるいは、所定時間だけ製造装置を稼働した後、製造した感光体のいくつかについて、上記ステップS51からステップS57を実行して、感光体既測定情報57に記憶された被測定感光体の特性値を利用し、被測定感光体の特性値と理想的な特性値とを比較して、被測定感光体の良品又は不良品の判定をしてもよい。
【0115】
あるいは、この発明の評価装置を、感光体の製造工程の最終段階に組み込み、製造されたすべての感光体を、順次、評価装置に取り付けて、上記ステップS51からステップS56を実行して、製造されたすべての感光体についての特性値を利用して、製造されたすべての感光体の良品又は不良品の判定をしてもよい。
【0116】
以上のように、この評価装置を利用すれば、感光体の複数の特性値を、少ない測定操作で、同時に、高精度で取得することができる。
また、感光体の複数の特性値が、変換行列を利用して同時に取得することができるので、感光体の評価処理にかかる評価担当者の負担を軽減でき、感光体を構成する基本部材や多層膜の評価処理にかかる時間を短縮できる。
さらに、取得した感光体の複数の特性値や変換行列を追加更新し、製造工程にフィードバックすることによって、感光体を構成する基本部材の反射率や多層膜の膜厚等の管理が容易となり、感光体の不良品が大量に発生することを抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0117】
1 感光体評価装置、
2 照射領域、
3 出射光、
4 反射光、
10 感光体取付部、
11 感光体、
12 感光体位置調整部、
20 分光光度計、
21 光源、
22 光検出器、
23 光度計位置調整部、
30 評価情報処理部、
31 信号受信部、
32 スペクトル計算部、
33 入力情報計算部、
34 行列計算部、
35 出力情報計算部、
50 記憶部、
51 測定距離、
52 受光強度、
53 入力情報、
54 変換行列、
55 出力情報、
56 基準感光体情報、
57 感光体既測定情報、
71 基本部材(基体)、
72 下引層、
73 電荷発生層、
74 電荷輸送層