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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-21
(45)【発行日】2023-06-29
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20230622BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20230622BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20230622BHJP
   H02P 5/46 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
B60L3/00 N
B60L9/18 P
B60L15/20 S
H02P5/46 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019184334
(22)【出願日】2019-10-07
(65)【公開番号】P2021061681
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】矢野 拓也
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-123759(JP,A)
【文献】特開2017-175711(JP,A)
【文献】特開2014-23407(JP,A)
【文献】特開2014-207748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 9/18
B60L 15/20
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1駆動輪の動力と第2駆動輪の動力とをそれぞれ発生させる2つの走行モータと、
前記2つの走行モータの回転角をそれぞれ検出する2つの回転位置センサと、
走行中に、前記2つの回転位置センサの原点位置の測定を順に実行する測定制御部と、
を備え、
前記2つの回転位置センサには原点位置の測定が可能な異なる車輪速範囲が設定され、
前記測定制御部は、走行の加速又は減速の情報に応じて、前記2つの回転位置センサのうちどちらを先に測定するかを切り替えることを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記2つの回転位置センサは、第1車輪速範囲のときに原点位置の測定が可能な第1回転位置センサと、前記第1車輪速範囲よりも低い第2車輪速範囲のときに原点位置の測定が可能な第2回転位置センサとを含み、
前記測定制御部は、車速が前記第1車輪速範囲内にあり、かつ、減速中であれば、前記第1回転位置センサから前記第2回転位置センサの順で測定を実行することを特徴とする請求項1記載の電動車両。
【請求項3】
前記2つの回転位置センサは、第1車輪速範囲のときに原点位置の測定が可能な第1回転位置センサと、前記第1車輪速範囲よりも低い第2車輪速範囲のときに原点位置の測定が可能な第2回転位置センサとを含み、
前記測定制御部は、車速が前記第2車輪速範囲内にあり、かつ、加速中であれば、前記第2回転位置センサから前記第1回転位置センサの順で測定を実行することを特徴とする請求項1記載の電動車両。
【請求項4】
前記測定制御部は、前記第1駆動輪と前記第2駆動輪とのトルク割合を1:0又は0:1に変更し、前記2つの走行モータのうちトルクゼロの方に対応する前記回転位置センサの原点位置の測定を行った後、前記トルク割合を逆転させ、もう一方の走行モータに対応する前記回転位置センサの原点位置の測定を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動車両。
【請求項5】
加速と制動の制御を行う走行制御部を更に備え、
前記走行制御部は、ペダルの順方向の操作に基づき加速処理を実行し、前記ペダルの逆方向の操作に基づき制動処理を実行可能であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの走行モータを有する電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、走行モータには、モータ軸の回転角度を検出する回転位置センサが設けられている。電動車両では、回転位置センサの出力が用いられて走行モータのトルク制御が実現される。従来、回転位置センサの原点位置を校正するため、電動車両の走行中に、回転位置センサのオフセット量を学習する技術が提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-123759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転位置センサのオフセット量を学習する際、すなわち回転位置センサの原点位置を測定する際、走行モータは測定に適した回転速度にされていることが要求される。2つの走行モータを有する電動車両では、走行モータ又は回転位置センサの仕様の違いにより、あるいは、走行モータから車輪までの減速比の違いにより、通常、個々の回転位置センサごとに原点位置の測定に適した車速が異なる。
【0005】
本発明は、2つの走行モータを有し、各々の回転位置センサの原点位置の測定を効率的に行うことのできる電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
第1駆動輪の動力と第2駆動輪の動力とをそれぞれ発生させる2つの走行モータと、
前記2つの走行モータの回転角をそれぞれ検出する2つの回転位置センサと、
走行中に、前記2つの回転位置センサの原点位置の測定を順に実行する測定制御部と、
を備え、
前記2つの回転位置センサには原点位置の測定が可能な異なる車輪速範囲が設定され、
前記測定制御部は、走行の加速又は減速の情報に応じて、前記2つの回転位置センサのうちどちらを先に測定するかを切り替えることを特徴とする電動車両。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電動車両において、
前記2つの回転位置センサは、第1車輪速範囲のときに原点位置の測定が可能な第1回転位置センサと、前記第1車輪速範囲よりも低い第2車輪速範囲のときに原点位置の測定が可能な第2回転位置センサとを含み、
前記測定制御部は、車速が前記第1車輪速範囲内にあり、かつ、減速中であれば、前記第1回転位置センサから前記第2回転位置センサの順で測定を実行することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の電動車両において、
前記2つの回転位置センサは、第1車輪速範囲のときに原点位置の測定が可能な第1回転位置センサと、前記第1車輪速範囲よりも低い第2車輪速範囲のときに原点位置の測定が可能な第2回転位置センサとを含み、
前記測定制御部は、車速が前記第2車輪速範囲内にあり、かつ、加速中であれば、前記第2回転位置センサから前記第1回転位置センサの順で測定を実行することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動車両において、
前記測定制御部は、前記第1駆動輪と前記第2駆動輪とのトルク割合を1:0又は0:1に変更し、前記2つの走行モータのうちトルクゼロの方に対応する前記回転位置センサの原点位置の測定を行った後、前記トルク割合を逆転させ、もう一方の走行モータに対応する前記回転位置センサの原点位置の測定を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電動車両において、
加速と制動の制御を行う走行制御部を更に備え、
前記走行制御部は、ペダルの順方向の操作に基づき加速処理を実行し、前記ペダルの逆方向の操作に基づき制動処理を実行可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
2つの走行モータと2つの回転位置センサがある場合、一方の回転位置センサの原点位置の測定に適した車輪速範囲と、他方の回転位置センサの原点位置の測定に適した車輪速範囲とが、完全に一致しないようにできる。本発明によれば、2つの回転位置センサの原点位置の測定を順に行う際に、加速又は減速の情報に応じて、制御部が、どちらの回転位置センサについて先に測定するかを切り替える。この切り替えにより、通常時の運転操作の流れのまま、車速が、先に測定する回転位置センサの測定に適した車輪速範囲から、次に測定する回転位置センサの測定に適した車輪速範囲へ、変化する状況を多く作ることができる。よって、このように車速が変化する状況において、1つ目の回転位置センサの測定と、2つ目の回転位置センサの測定とを、順に実行することで、原点位置の測定のために車速を制限したりすることなく、それぞれに適した車輪速範囲で測定を遂行することができる。したがって、これらの測定の効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る電動車両を示すブロック図である。
図2】踏み戻し制動モードのペダル操作と車両状態との関係を示す説明図である。
図3】制御部が実行する原点位置測定処理の手順を示すフローチャートである。
図4図3のステップS2~S5により判別される第1条件から第4条件の走行状況を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電動車両を示すブロック図である。
【0014】
本発明の実施形態の電動車両1は、前輪2a及び後輪2bと、前輪2aの動力を発生する第1走行モータ3aと、第1走行モータ3aから前輪2aへ動力を伝達する第1変速部6aと、後輪2bの動力を発生する第2走行モータ3bと、第2走行モータ3bから後輪2bへ動力を伝達する第2変速部6bと、第1走行モータ3a及び第2走行モータ3bへ電力を供給するバッテリ8と、バッテリ8の電力により第1走行モータ3a及び第2走行モータ3bをそれぞれ駆動する第1インバータ4a及び第2インバータ4bとを備える。第1変速部6aは第2変速部6bよりも大きい減速比を有する。第1変速部6aと第2変速部6bとは、異なる減速比であればよく、複数段に減速比が可変であってもよい。前輪2aは、本発明に係る第1駆動輪の一例に相当し、後輪2bは、本発明に係る第2駆動輪の一例に相当する。
【0015】
第1走行モータ3a及び第2走行モータ3bには、それぞれモータ軸の回転角度を検出する第1回転位置センサ5a及び第2回転位置センサ5bが設けられている。第1回転位置センサ5a及び第2回転位置センサ5bは、例えばモータ軸の回転角度を示すアナログ信号を出力するレゾルバである。
【0016】
第1走行モータ3aは、例えば三相交流モータであり、ベクトル制御によりモータ軸の回転と同期された三相電流を第1インバータ4aから入力又は第1インバータ4aへ出力して力行運転、惰行運転又は回生運転される。第1インバータ4aは、バッテリ8と第1走行モータ3aとの間で電力を変換して伝送する。
【0017】
第2走行モータ3b及び第2インバータ4bは、第1走行モータ3a及び第1インバータ4aと同様の構成である。第2走行モータ3b及び第2インバータ4bは、各種の定格などの仕様が第1走行モータ3a及び第1インバータ4aと異なっていてもよい。
【0018】
さらに、電動車両1は、前輪2a、後輪2b又はこれら両方に制動トルクを発生させる制動機構(31、32)と、アクセルペダル11、ブレーキペダル12及び操舵ハンドル13を含み運転者からの操作指令が入力される運転操作部10と、車速を検出する車速センサ16とを備える。制動機構は、ブレーキキャリパなどの制動部31と、制動部31を動かす液圧を電気的に制御する液圧制御部32とを有する。車速センサ16は、各前輪2a及び各後輪2bの車輪速をそれぞれ検出する複数の車輪速センサを含み、全部の車輪速の平均を車速として検出する構成であってもよい。
【0019】
さらに、電動車両1は、各種の制御を行う制御部20を備える。制御部20には、運転操作部10からの信号を入力してインバータ及び制動機構(31、32)を制御する走行制御部21と、第1回転位置センサ5a及び第2回転位置センサ5bの原点位置の測定処理を行う測定制御部22と、制御データと制御プログラムが格納される記憶部23とを備える。記憶部23には、第1回転位置センサ5aの原点位置のズレ量である第1オフセットデータを記憶するデータ記憶部23aと、第2回転位置センサ5bの原点位置のズレ量である第2オフセットデータを記憶するデータ記憶部23bとを有する。
【0020】
制御部20は、例えば1つのECU(Electronic Control Unit)から構成されてもよいし、互いに通信を行って連携して動作する複数のECUから構成されてもよい。ECUのCPU(Central Processing Unit)が制御プログラムを実行することで、制御部20、走行制御部21又は測定制御部22により各種の制御処理が実行される。
【0021】
<走行制御>
走行制御部21は、通常モードと踏み戻し制動モードとの2つのモードで電動車両1の走行制御を行うことができる。通常モードでは、主に、アクセルペダル11の踏み込みによって電動車両1が加速し、ブレーキペダル12の踏み込みによって電動車両1が減速する。踏み戻し制動モードでは、主に、アクセルペダル11の踏み込みによって電動車両1が加速し、アクセルペダル11の踏み戻しによって電動車両1が減速する。すなわち、アクセルペダル11の踏み込み方向(順方向)の操作に基づき加速処理が実行され、アクセルペダル11の踏み戻し方向(逆方向)の操作に基づき制動処理が実行される。通常モード又は踏み戻し制動モードは、ユーザの操作又は設定により選択される。
【0022】
電動車両1の加速の操作が行われると、走行制御部21は、操作量に基づき電動車両1の全車輪(全前輪2a及び全後輪2b)の駆動トルクを決定し、決定された駆動トルクが得られるように第1インバータ4a及び第2インバータ4bを力行運転用に駆動する。第1インバータ4a及び第1走行モータ3a、並びに、第2インバータ4b及び第2走行モータ3bは、ベクトル制御されて要求された駆動トルクを発生させる。ベクトル制御の際、走行制御部21は、第1回転位置センサ5aの出力にデータ記憶部23aの第1オフセットデータの値を付加して第1走行モータ3aのモータ軸の回転位置を取得し、第1インバータ4aのパワー素子を制御する。同様に、走行制御部21は、第2回転位置センサ5bの出力にデータ記憶部23bの第2オフセットデータの値を付加して第2走行モータ3bのモータ軸の回転位置を取得し、第2インバータ4bのパワー素子を制御する。
【0023】
電動車両1の減速の操作が行われると、走行制御部21は、ブレーキペダル12の操作に基づき電動車両1の全車輪(全前輪2a及び全後輪2b)の制動トルクを決定し、決定された制動トルクが得られるように第1インバータ4a及び第2インバータ4bを回生運転用に駆動する。回生運転用の駆動は、トルクの方向が逆なだけで、上述した力行運転用の駆動と同様である。さらに、走行制御部21は、回生運転で生成しきれない制動トルクを、制動機構の液圧制御部32の調整により発生させる。
【0024】
駆動トルク又は制動トルクを発生させる際、走行制御部21は、車両バランスなどの他の要素を考慮して、駆動トルク又は制動トルクを前輪2aと後輪2bとに分配する。そして、分配された前輪2aの駆動トルク又は制動トルクを前輪2aの要求トルク、分配された後輪2bの駆動トルク又は制動トルクを後輪2bの要求トルクとし、走行制御部21は、各要求トルクが生じるように第1走行モータ3a、第2走行モータ3b及び制動機構(31、32)を制御する。
【0025】
図2は、踏み戻し制動モードのペダル操作と車両状態との関係を示す説明図である。図2において上死点P1と下死点P2とにより、踏み込みを解除したときと、最大限踏み込んだときのアクセルペダル11の位置を示す。
【0026】
踏み戻しモードでは、前述したように、アクセルペダル11の踏み込みによって電動車両1の加速が実現され(状態J2、J2aを参照)、アクセルペダル11の踏み戻しによって電動車両1の減速が実現される(状態J1、J1aを参照)。また、アクセルペダル11を途中まで踏み込んで停止させた状態で、電動車両1の惰行が実現され(状態J3、J3aを参照)、アクセルペダル11の踏み込みが解除されたときに、電動車両1の停止が保持される(状態J4、J4aを参照)。
【0027】
車速が維持される惰行は、通常モードでは、アクセルペダル11の踏み込みを解除すれば実現されるのに対し、踏み戻し制動モードでは、アクセルペダル11を途中まで踏み込んだ状態で停止させる操作が必要となり、運転操作が容易でない。このため、踏み戻し制動モードでは、通常モードに比べて、車速が一定に維持される惰行の走行状況の発生が少なく、僅かに加速が続く走行状況か、僅かに減速が続く走行状況が多く発生する。
【0028】
<回転位置センサの原点位置の測定処理>
測定制御部22は、例えば診断要求が生じた場合に、電動車両1の走行中に第1回転位置センサ5aと第2回転位置センサ5bとの原点位置の測定を順に行う。診断要求は、例えば定期的に生じてもよいし、任意の条件に基づいて生じてもよく、その発生頻度及び発生条件は特に制限されるものではない。
【0029】
ここで、一般的な回転位置センサの原点位置の測定方法について説明する。原点位置の測定は、モータ軸にトルクが発生されずにモータ軸が回転している状態で行われる。測定時、走行モータにおいて回転位置センサの出力に基づくベクトル制御が行われ、d軸電流とq軸電流とがゼロに制御される。q軸電流がゼロであるため、走行モータにトルクは発生しない。このとき、回転位置センサの原点位置にズレがなければ、d軸電圧はゼロとなる。一方、回転位置センサの原点位置にズレがあると、d軸電圧はゼロにならない。d軸電圧がゼロでない場合、回転位置センサの出力に徐々に変化するオフセットを付加し、オフセットされた回転位置センサの出力に基づき、上記と同様のベクトル制御とd軸電圧の測定とが行われる。そして、d軸電圧がゼロとなるオフセット量が探索される。このような測定方法により、探索されたオフセット量が原点位置のズレ量として得られる。
【0030】
原点位置の測定では、オフセット量を変えつつベクトル制御を繰り返す探索処理を行うため、瞬時に測定を終えることはできず、有限の測定期間を要する。また、測定中、走行モータのq軸電流をゼロにするため、走行モータの要求トルクはゼロに制限される。
【0031】
原点位置の測定では、測定に適した走行モータの回転速度が定められる。先ず、原点位置の測定では、d軸電圧がゼロか否かの判定がなされるため、ゼロでないときのd軸電圧が大きな値になることが好ましい。d軸電圧は誘起起電力であるため、回転速度が高い方が大きな値が得られる。したがって、検出すべき原点位置の最小ズレ量に対してd軸電圧を判別できるように、走行モータの回転速度の下限値が定められる。一方、回転速度が高すぎると、PWM(Pulse Width Modulation)制御を行えず効率のよいモータ制御が行えなくなるなど他の課題が生じるため、課題が生じない範囲で走行モータの回転速度の上限値が定められる。これらの下限値と上限値とにより、測定に適した走行モータの回転速度範囲が定められる。走行モータの回転速度範囲は、変速部の減速比及び車輪径から車輪速範囲に変換される。
【0032】
本実施形態の電動車両1では、第1回転位置センサ5aの原点位置の測定に適した車輪速範囲W1(以下、「第1車輪速範囲W1」と呼ぶ)は、第2回転位置センサ5bの原点位置の測定に適した車輪速範囲W2(以下、「第2車輪速範囲W2」と呼ぶ)よりも高いものとする(図4を参照)。第1車輪速範囲W1と第2車輪速範囲W2とは一部が重なっていてもよい。
【0033】
<原点位置測定処理>
続いて、測定制御部22が、第1回転位置センサ5a及び第2回転位置センサ5bの原点位置を順に測定する原点位置測定処理についてフローチャートを参照しながら説明する。この原点位置測定処理は、ペダル踏み戻し制動モード(僅かに加速が続く走行状況と僅かに減速が続く走行状況とが多く発生する運転モード)が選択された状態で、診断要求が生じた場合に実行される。図3は、測定制御部22が実行する原点位置測定処理を示すフローチャートである。図4は、図3のステップS2~S5により判別される第1条件から第4条件の走行状況を説明する図である。
【0034】
診断要求に基づき原点位置測定処理が開始されると、先ず、測定制御部22は、第1回転位置センサ5aの学習状況フラグ(以下、「第1学習状況フラグ」と呼ぶ)と、第2回転位置センサ5bの学習状況フラグ(以下、「第2学習状況フラグ」と呼ぶ)とを、確認する(ステップS1)。各学習状況フラグは、第1回転位置センサ5aと第2回転位置センサ5bとの原点位置の測定完了又は未了を表わすフラグであり、記憶部23に設けられる。各学習状況フラグの値は、診断要求により、初期値として未完の値が設定される。
【0035】
ステップS1の判別の結果、第1学習状況フラグ及び第2学習状況フラグの両方が未了である場合、測定制御部22は、ステップS2、S3の判別処理へ処理を進める一方、一方の学習状況が完了で他方の学習状況が未了の場合、完了と未了となった方に応じてステップS4又はステップS5の判別処理へ処理を進める。また、両方が完了であれば、測定制御部22は原点位置測定処理を終了する。
【0036】
ステップS2、S3では、測定制御部22は、電動車両1の走行状況が第1条件を満たすか否かの判別(ステップS2)と、電動車両1の走行状況が第2条件を満たすかの判別(ステップS3)とを行う。第1条件でも第2条件でもない場合には、測定制御部22は、ステップS2、S3の判別処理を繰り返す。
【0037】
第1条件とは、図4(A)に示すように、車速が第2車輪速範囲W2にあり、かつ、電動車両1の加速度aが、ゼロより大きく、かつ、第1閾値ath1よりも小さいという条件である。第1条件は、加速度aにより車速が緩やかに上昇し、かつ、この加速度aにより車速が第2車輪速範囲W2から第1車輪速範囲W1へ徐々に遷移する走行条件を示す。加速度aの第1閾値ath1は、例えば発進時などの大きな加速、並びに、原点位置の正常な測定に支障が生じるような大きい加速を除外する値であり、ペダル踏み戻し制動モードにおいて、惰行に近い運転操作により僅かに生じる加速度aを判別可能な値に設定される。
【0038】
第2条件とは、図4(B)に示すように、車速が第1車輪速範囲W1にあり、かつ、電動車両1の加速度aが、ゼロより小さく(減速)かつ第2閾値ath2(負の値)より大きいという条件である。第2条件は、負の加速度aにより車速が緩やかに下降し、かつ、この加速度aにより車速が第1車輪速範囲W1から第2車輪速範囲W2へ徐々に遷移する走行条件を示す。加速度aの第2閾値ath2は、例えば停止時の大きな減速、並びに、原点位置の正常な測定に支障が生じるような大きさの減速を除外する値であり、ペダル踏み戻し制動モードにおいて、惰行に近い運転操作により僅かに発生する負の加速度a(減速)を判別可能な値に設定される。
【0039】
ステップS2の判別処理の結果、第1条件を満たしていれば、測定制御部22は、先ず、トルク配分を前輪2a:後輪2b=1:0に変更するよう車両制御部へ要求を出力し(ステップS6)、第2走行モータ3bのトルクがゼロにされたら、第2回転位置センサ5bの原点位置の探索処理(ステップS7、S8、S9)を開始する。上述したように、探索処理において、測定制御部22は、第2走行モータ3bのd軸電流とq軸電流とをゼロに制御し(ステップS7)、d軸電圧がゼロになったか判定し(ステップS8)、ゼロでなければ第2回転位置センサ5bの出力に付加されるオフセットを変更する(ステップS9)。そして、ステップS8の判別結果がYESとなるまで、ステップS7~S9の処理を繰り返す。
【0040】
探索処理において、d軸電圧がゼロになったら、測定制御部22は、ステップS7~S9の探索処理を抜けて、そのときのオフセットが原点位置のズレ量であるものとして、このズレ量を第2オフセットデータとしてデータ記憶部23bに格納する(ステップS10)。そして、測定制御部22は、第2学習状況フラグに完了の値をセットし(ステップS11)、ステップS1に処理を戻す。
【0041】
上記のステップS7~S9の探索処理中、電動車両1の走行状況は第1条件を満たしていることで、車速は第2車輪速範囲W2にあり、車速は緩やかに上昇する状況にある。このため、ステップS7~S9の探索処理は、その時点の電動車両1の運転の流れのまま、車速が第2車輪速範囲W2から外れないうちに完了する確率が高く、多くの場合、正常に探索処理を完了することができる。
【0042】
なお、ステップS7~S9の探索処理中に、電動車両1の車速が第2車輪速範囲W2を逸脱した場合には、測定制御部22は、探索処理を終了し、処理をステップS2に戻してもよい。また、ステップS7~S9の探索処理に費やす時間と、電動車両1の加速度とを考慮して、探索処理が完了するまで車速が第2車輪速範囲W2を超えないよう、第1条件の車速は、第2車輪速範囲W2中の低い方の範囲W2a内としてもよい。
【0043】
ステップS3の判別処理の結果、第2条件を満たしていれば、測定制御部22は、先ず、トルク配分を前輪2a:後輪2b=0:1に変更するよう車両制御部へ要求を出力し(ステップS12)、第1走行モータ3aのトルクがゼロにされたら、第1回転位置センサ5aの原点位置の探索処理(ステップS13、S14、S15)を開始する。上述したように、探索処理においては、測定制御部22は、第1走行モータ3aのd軸電流とq軸電流とをゼロに制御し(ステップS13)、d軸電圧がゼロになったか判定し(ステップS14)、ゼロでなければ第1回転位置センサ5aの出力に付加されるオフセットを変更する(ステップS15)。そして、ステップS14の判別結果がYESとなるまで、ステップS13~S15の処理を繰り返す。
【0044】
探索処理において、d軸電圧がゼロになったら、測定制御部22は、ステップS13~S15の探索処理を抜けて、そのときのオフセットが原点位置のズレ量であるものとして、このズレ量を第1オフセットデータとしてデータ記憶部23aに格納する(ステップS16)。そして、測定制御部22は、第1学習状況フラグに完了の値をセットし(ステップS17)、ステップS1に処理を戻す。
【0045】
上記のステップS13~S15の探索処理中、電動車両1の走行状況は第2条件を満たしていることで、車速は第1車輪速範囲W1にあり、車速は緩やかに下降する状況にある。このため、ステップS13~S15の探索処理は、その時点の電動車両1の運転の流れのまま、車速が第1車輪速範囲W1から外れないうちに完了する確率が高く、多くの場合、正常に探索処理を完了することができる。
【0046】
なお、ステップS13~S15の探索処理中に、電動車両1の車速が第1車輪速範囲W1を逸脱した場合には、測定制御部22は、探索処理を終了し、処理をステップS2に戻してもよい。また、ステップS13~S15の探索処理に費やす時間と、電動車両1の減速度とを考慮して、探索処理が完了するまで車速が第1車輪速範囲W1を逸脱しないよう、第2条件の車速は、第1車輪速範囲W1中の高い方の範囲W1a内としてもよい。
【0047】
ステップS1の判別処理で、第1学習状況フラグが完了で、第2学習状況フラグが未完と判別されたら、測定制御部22は、電動車両1の走行状況が第3条件を満たすか判別する(ステップS4)。第3条件を満たしていなければ、測定制御部22は、第3条件を満たすまでステップS4の判別処理を繰り返す。第3条件は、図4(C)に示すように、車速が第2車輪速範囲W2内にあり、加速度a又は減速度aの絶対値が第3閾値ath3より小さいという条件である。第3閾値ath3は、大きい加速度、大きい減速度を除外し、ペダル踏み戻し制動モードにおいて、惰行に近い運転操作により僅かに発生する加速度a又は減速度aを判別可能な値に設定される。
【0048】
先に示したように、仮に、電動車両1の走行状況が、第2条件を満たしていたら、車速は緩やかに下降しているので、その時の運転の流れのまま、その後、第3条件を満たす走行状況へ移行する。したがって、走行状況が第2条件を満たしてステップS12~S17の処理を経た後、ステップS4の判別処理に移行すると、その時の運転の流れのまま、速やかにステップS4の判別結果がYESとなる。
【0049】
ステップS4でYESとなると、測定制御部22は、ステップS6に処理を進め、前述したステップS6~S11の処理を実行する。これらのステップで、第2回転位置センサ5bの原点位置の測定が完了し、原点位置測定処理が終了する。
【0050】
ステップS1の判別処理で、第1学習状況フラグが未了で、第2学習状況フラグが完了と判別されたら、測定制御部22は、電動車両1の走行状況は、第4条件を満たすか判別する(ステップS5)。第4条件を満たしていなければ、測定制御部22は、第4条件を満たすまでステップS5の判別処理を繰り返す。第4条件は、図4(D)に示すように、車速が第1車輪速範囲W1内にあり、加速度a又は減速度aの絶対値が第3閾値ath3より小さいという条件である。
【0051】
先に示したように、仮に、電動車両1の走行状況が、第1条件を満たしていたら、車速が緩やかに上昇しているので、その時の運転の流れのまま、その後、第4条件を満たす走行状況へ移行する。したがって、走行状況が第1条件を満たしてステップS6~S11の処理を経た後、ステップS5の判別処理へ移行すると、その時の運転の流れのまま、速やかにステップS5の判別結果がYESとなる。
【0052】
ステップS5でYESとなると、測定制御部22は、ステップS12に処理を進め、前述したステップS12~S17の処理を実行する。これらのステップで、第1回転位置センサ5aの原点位置の測定が完了し、原点位置測定処理が終了する。
【0053】
上記のような原点位置測定処理により、踏み戻し制動モードにおいて運転者がほぼ惰行の運転操作(緩やかな加速、又は緩やかな減速)を行っているときに、第1回転位置センサ5aと第2回転位置センサ5bとの原点位置の測定を、効率的に実施することができる。
【0054】
以上のように、本実施形態の電動車両1によれば、測定制御部22が、第1回転位置センサ5aと第2回転位置センサ5bの原点位置の測定を順次行う際、電動車両1の加速又は減速の情報に基づいて、第1回転位置センサ5a及び第2回転位置センサ5bのどちらを先に測定するかを切り替える。第1回転位置センサ5aの測定に適した第1車輪速範囲W1と、第2回転位置センサ5bの測定に適した第2車輪速範囲W2とは完全一致とならないようにすることができる。このため、電動車両1の加速又は減速により、車速が、第1車輪速範囲W1から第2車輪速範囲W2へと切り替わる状況と、車速が、第2車輪速範囲W2から第1車輪速範囲W1へと切り替わる状況とが生じる。そして、上記の測定の順番の切替えにより、第1回転位置センサ5aの測定と、第2回転位置センサ5bの測定とを、車速の切り替わりに合わせた順で、それぞれ適した車輪速範囲で実施することができ、測定の効率化を図ることができる。
【0055】
具体的には、第1車輪速範囲W1よりも第2車輪速範囲W2の方が低い場合、図4(B)に示すように、車速が、第1車輪速範囲W1内にあり、かつ、減速中であれば、測定制御部22は、第1回転位置センサ5aの測定から開始する。また、図4(A)に示すように、車速が、第2車輪速範囲W2内にあり、かつ、加速中であれば、測定制御部22は、第2回転位置センサ5bの測定から開始する。このような測定順の選択により、その時の運転の流れのまま、速やかに、第1回転位置センサ5aと第2回転位置センサ5bの測定を完了することができる。
【0056】
さらに、本実施形態の電動車両1によれば、第1回転位置センサ5aの測定と第2回転位置センサ5bの測定とを順に行う際、測定制御部22は、前輪2aと後輪2bとのトルク割合を、1:0又は0:1にして、トルクゼロの方の回転位置センサの測定を行い、次に、トルク割合を逆転させてトルクゼロの方の回転位置センサの測定を行う。したがって、第1回転位置センサ5a及び第2回転位置センサ5bの測定の際に、運転者の運転操作に応じたトルクの発生が阻害されてしまうことを抑制できる。
【0057】
さらに、本実施形態の電動車両1によれば、踏み戻し制動モードのときに、第1回転位置センサ5a及び第2回転位置センサ5bの測定を順に行う原点位置測定処理(図3)が実行される。踏み戻し制動モードでは、緩やかに加速が続く走行状況又は緩やかに減速が続く走行状況が多く生じるので、このような走行状況を利用して、第1回転位置センサ5a及び第2回転位置センサ5bの効率的な測定を実施できる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、踏み戻し制動モードのときに、原点位置測定処理(図3)が実行される例を示したが、通常モードのときに実行されてもよい。また、電動車両は、踏み戻し制動モードのみの運転操作、又は、通常モードのみの運転操作が可能な構成であってもよい。また、上記実施形態では、原点位置の測定方法として、三相交流モータに対するベクトル制御のq軸電流及びd軸電流をゼロにして、d軸電圧がゼロとなるのを判別する方法を示したが、この方法に限られず、測定に適した回転速度範囲が定められる測定方法であれば、どのような方法であってもよい。また、上記実施形態では変速部の減速比が異なる例を示したが、変速比が異なってもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 電動車両
2a 前輪(第1駆動輪)
2b 後輪(第2駆動輪)
3a 第1走行モータ
3b 第2走行モータ
4a 第1インバータ
4b 第2インバータ
5a 第1回転位置センサ
5b 第2回転位置センサ
6a 第1変速部
6b 第2変速部
10 運転操作部
11 アクセルペダル
12 ブレーキペダル
16 車速センサ
20 制御部
21 走行制御部
22 測定制御部
23 記憶部
23a、23b データ記憶部
W1 第1車輪速範囲
W2 第2車輪速範囲
図1
図2
図3
図4