(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-22
(45)【発行日】2023-06-30
(54)【発明の名称】開繊機構
(51)【国際特許分類】
D02J 1/18 20060101AFI20230623BHJP
D01D 11/02 20060101ALI20230623BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
D02J1/18 A
D01D11/02
C08J5/04
(21)【出願番号】P 2019125205
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 利生
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-270420(JP,A)
【文献】特開平5-247716(JP,A)
【文献】特開2008-246782(JP,A)
【文献】特開2020-28844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
D01D 1/00 - 13/02
B29B 11/16
B29B 15/08 - 15/14
C08J 5/04 - 5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束を開繊する開繊機構であって、
長手方向に延びる溝が形成された複数の開繊ロールから成る開繊バーと、
前記開繊ロールの前記溝内に吸引力を発生させる吸引装置と
を備え、
開繊の際に前記繊維束に生じた毛羽を前記溝内に発生させた吸引力によって除去することを特徴とする開繊機構。
【請求項2】
前記開繊ロールは、前記溝の開口を前記繊維束の位置する側に向けて前記繊維束の上下に配置されていることを特徴とする請求項1記載の開繊機構。
【請求項3】
前記吸引装置は、前記開繊ロールの一端側または両端側に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の開繊機構。
【請求項4】
前記溝の開口部分には、面取りが施されていることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の開繊機構。
【請求項5】
前記溝の前記吸引装置側の端部における吸引流速は、前記吸引装置が前記開繊ロールの一端側に配置されている場合においては、0.1m/秒以上20m/秒以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の開繊機構。
【請求項6】
前記溝の前記吸引装置側の端部における吸引流速は、前記吸引装置が前記開繊ロールの両端側に配置されている場合においては、0.05m/秒以上10m/秒以下であることを特徴とする請求項3または4に記載の開繊機構。
【請求項7】
長繊維強化樹脂を製造する装置に用いられることを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の開繊機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、長繊維強化樹脂を製造する装置において、繊維束を開繊する際に用いられる開繊機構に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維で強化された樹脂として、長繊維強化熱可塑性樹脂が知られている。この長繊維強化熱可塑性樹脂は、繊維と熱可塑性樹脂から成る複合材料であり、熱可塑性樹脂の特性と繊維の強度や耐熱性が複合化され、さまざまな構造部材、耐熱部材に使用されている。
【0003】
従来より、かかる長繊維強化熱可塑性樹脂を製造する際には、繊維束を溶融された熱可塑性樹脂に含侵させて連続繊維強化ストランドを作成することが行われている。ここで、連続繊維強化ストランドに熱可塑性樹脂を十分に含侵させるために、繊維束は開繊バーによって予め開繊されてから熱可塑性樹脂に含侵される。
【0004】
ところで、かかる開繊工程においては、繊維束に負担が掛かるため、繊維破断が生じるおそれがある。繊維破断が生じた場合、切断された繊維が毛羽になり、含侵ダイに毛羽が侵入し、含侵ダイの排出口で毛羽詰まりが惹起され、連続繊維強化ストランドの破断に繋がる可能性がある。
【0005】
このため、このような毛羽詰まりの問題を解決する手段として、毛羽を吹き飛ばす機能を備えた開繊バー(例えば、特許文献1参照)や、開繊バーの上部に吸引部を備えた製造装置(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-247716号公報
【文献】特開2008-246782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の開繊バーにおいては、毛羽を吹き飛ばすことにより周囲の環境が汚染されるという問題があった。また、上述の製造装置においては、吸引部が繊維束から一定の距離を置いて配置されるため、毛羽の除去はなお困難であるという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、周囲を汚染することなく確実に毛羽を除去することができる開繊機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の開繊機構は、
繊維束を開繊する開繊機構であって、
長手方向に延びる溝が形成された複数の開繊ロールから成る開繊バーと、
前記開繊ロールの前記溝内に吸引力を発生させる吸引装置と
を備え、
開繊の際に前記繊維束に生じた毛羽を前記溝内に発生させた吸引力によって除去することを特徴とする。
【0010】
このように、開繊ロールに形成された溝に吸引力を発生させることにより、至近距離で繊維束を吸引することができるため、周囲を汚染することなく確実に毛羽を除去することができる。
【0011】
また、本発明の開繊機構は、
前記開繊ロールが、前記溝の開口を前記繊維束の位置する側に向けて前記繊維束の上下に配置されていることを特徴とする。
このように、各々の開繊ロールに溝を形成し、上下双方から毛羽を吸引することにより、漏れなく毛羽を除去することができる。
【0012】
また、本発明の開繊機構は、
前記吸引装置が、前記開繊ロールの一端側または両端側に配置されていることを特徴とする。
すなわち、開繊ロールの長さが短い場合には一端側のみに吸引装置を配置することでコストを抑えることができ、開繊ロールの長さが長い場合には、両端側に吸引装置を配置し、双方向から吸引を行うことで有効な吸引力を保持することができる。
【0013】
また、本発明の開繊機構は、
前記溝の開口部分に、面取りが施されていることを特徴とする。
これにより、開繊ロールと接触する繊維束を傷つけないようにすることができる。
【0014】
また、本発明の開繊機構は、
前記溝の前記吸引装置側の端部における吸引流速が、前記吸引装置が前記開繊ロールの一端側に配置されている場合においては、0.1m/秒以上20m/秒以下であることを特徴とする。
すなわち、吸引装置が開繊ロールの一端側に配置されている場合、溝の前記吸引装置側の端部における吸引流速をかかる範囲にすることにより、的確に毛羽を除去することができる。
【0015】
また、本発明の開繊機構は、
前記溝の前記吸引装置側の端部における吸引流速が、前記吸引装置が前記開繊ロールの両端側に配置されている場合においては、0.05m/秒以上10m/秒以下であることを特徴とする。
すなわち、吸引装置が開繊ロールの両端側に配置されている場合、溝の前記吸引装置側の端部における吸引流速をかかる範囲にすることにより、的確に毛羽を除去することができる。
【0016】
また、本発明の開繊機構は、
長繊維強化樹脂を製造する装置に用いられることを特徴とする。
すなわち、本発明の開繊機構は、長繊維強化樹脂を製造する際に用いるのが好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、周囲を汚染することなく確実に毛羽を除去できる開繊機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係る開繊機構を用いた長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置の概略図である。
【
図2】実施の形態に係る開繊機構を上方から視た斜視図である。
【
図3】実施の形態に係る開繊ロールに形成された溝の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態に係る開繊機構を備えた装置の概略図である。本実施の形態においては、開繊機構を用いて長繊維強化熱可塑性樹脂製造を製造する場合を例に説明する。
図1に示すように、長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置2は、繰出機4、開繊機構5、押出機8、含浸ダイ10、賦形ダイ12、水槽14、フォーミングロール16、引取機18、カッター部20を備えている。
【0020】
ここで、繰出機4には、繊維束32が巻回された複数の炭素繊維ロービング4aが収納されている。また、繰出機4は、炭素繊維ロービング4aから繊維束32を繰り出すための繰出ロール4bを備えている。なお、繊維束32には、たとえば、ガラス繊維、炭素繊維などが用いられる。
【0021】
開繊機構5は、繰出ロール4bから繰り出された繊維束32を開繊する開繊工程を実行するためのロールバーである開繊バー6、および開繊バー6を介して繊維束32に発生した毛羽を吸引する吸引装置7を備えている。なお、開繊機構5の構造、作用については、後に詳しく説明する。
【0022】
押出機8は、溶融した熱可塑性樹脂を含浸ダイ10に供給する装置であり、含浸ダイ10は、開繊された繊維束32に溶融した熱可塑性樹脂を含浸する含浸工程を実行する装置である。かかる含浸工程において連続繊維強化ストランド34が作成される。なお、熱可塑性樹脂には、たとえば、ポリプロピレン、ポリアミドなどが用いられる。
【0023】
賦形ダイ12は、連続繊維強化ストランド34の径を絞るための装置であり、含浸ダイ10の連続繊維強化ストランド34が排出される側に取り付けられている。ここで、賦形ダイ12は、含浸ダイ10から離れた位置に配置すると熱可塑性樹脂が冷却されて固化し連続繊維強化ストランド34の賦形がしづらくなるため、少なくとも含浸ダイ10のごく近傍に配置される必要がある。
【0024】
水槽14は、賦形ダイ12で径が絞られた連続繊維強化ストランド34を水などの液体に浸し、冷却を行うための装置である。
フォーミングロール16は、水槽14で冷却された連続繊維強化ストランド34の外径形状を成形するためのロールバーである。
【0025】
引取機18は、連続繊維強化ストランド34を引き取る引取工程を実行するためのロールである。
カッター部20は、引取機18で引き取った連続繊維強化ストランド34を所定の長さにカッティングするための装置である。このカッター部20で連続繊維強化ストランド34をカットすることにより、長繊維強化熱可塑性樹脂38が製造される。
【0026】
次に、本発明において長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置2の要部を構成する開繊機構5について説明する。
図2は実施の形態に係る開繊機構5を上方から視た斜視図である。
図2に示すように、開繊機構5の主要部分を構成する開繊バー6には3本の開繊ロール42が繊維束32の進行方向に沿って上下にジグザグ状に配置されており、それぞれの開繊ロール42には、長手方向に延びる溝42aが形成されている。なお、開繊ロール42の長手方向は、繊維束32の進行方向と直交する方向である。また、開繊バー6の一端側には、吸引装置7が配置されており、各々の開繊ロール42の溝の端部はノズル7aを介して吸引装置7と接続されている。
【0027】
ここで、開繊ロール42は溝42aを繊維束32の位置する側に向けて繊維束32の上下に配置されている。具体的には、繊維束32の上方に位置する二つの開繊ロール42は溝42aの開口を下側に向け、繊維束32の下方に位置する一つの開繊ロール42は溝42aの開口を上側に向けて配置されている。これにより、開繊バー6を通過する繊維束32は、溝42aの開口と直接接触することになる。
【0028】
図3(a)は、繊維束32の上方に位置する開繊ロール42を中心で切断した場合における長手方向の断面図であり、
図3(b)は、この径方向の端面を示す図である。なお、
図3(b)に示す端面の形状は、径方向の断面においても変わらない。
図3(a)に示すように、溝42aは、長手方向のいずれの場所においても同じ深さをもって形成されている。また、
図3(b)に示すように、溝42aの開口部には、面取り42bが施されている。
【0029】
次に、開繊工程における開繊機構5の作用について説明する。まず、開繊工程において、繊維束32が上下に配置された開繊ロール42間に差し掛かると、繊維束32は各開繊ロール42において開繊され、徐々に幅を広げながら含浸ダイ10に向かって進行する。ここで、吸引装置7が駆動すると、ノズル7aを介して溝42a内に吸引力が発生する。ノズル7aが接続されている吸引装置7側の端部における溝42a内の吸引流速は0.1m/秒以上20m/秒以下である。なお、吸引流速は1m/秒以上15m/秒以下であればなお好ましい。
【0030】
ノズル7aによって吸引が行われると、溝42a内に
図3(a)の矢印A方向の流路が生じ、開繊の際に繊維束32に生じた毛羽が溝42aおよびノズル7aを介して吸引装置7に吸引され、繊維束32から毛羽が除去される。
【0031】
この実施の形態に係る発明によれば、開繊ロール42に形成された溝42aに吸引力を発生させることにより、至近距離で繊維束32を吸引することができるため、毛羽が溝42a外に散らばることがない。このため、周囲を汚染することなく確実に毛羽を除去することができる。
【0032】
また、開繊バー6を通過する繊維束32は、溝42aの開口と直接接触しており、上下双方において毛羽を吸引されるため、漏れなく毛羽を除去することができる。また、溝42aの開口部には面取り42bが施されているため、開繊ロール42と接触する繊維束32を傷つけないで開繊することができる。
【0033】
なお、上述の実施の形態においては、吸引装置7が開繊ロール42の一端側にのみ設けられている場合を例に説明しているが、吸引装置7は、開繊ロール42の両端側に備えられていてもよい。すなわち、開繊ロール42の長さが所定の長さより短い場合には一端側のみに吸引装置7を配置することでコストを抑えることができ、開繊ロール42の長さが所定の長さより長い場合には、両端側に吸引装置7を配置し、双方向から吸引を行うことで有効な吸引力を保持することができる。なお、開繊ロール42の両端側に吸引装置7が配置される場合において、ノズル7aが接続されている吸引装置7側の端部における溝42a内の吸引流速は0.05m/秒以上10m/秒以下であり、0.5m/秒以上7.5m/秒以下であればより好ましい。
【0034】
また、上述の実施の形態においては、開繊機構5が長繊維強化熱可塑性樹脂を製造する場合に用いられる場合を例示して説明しているが、開繊機構5は、長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置2以外の長繊維強化樹脂を製造する装置に用いられてもよい。たとえば、繊維束32を熱硬化樹脂との複合材とする場合に開繊機構5を用いてもよい。
【0035】
さらに、開繊機構5は、長繊維強化樹脂のみならず、開繊が必要な他の製品を製造する際にも適用することが可能である。たとえば、UDテープ、シート状成形材料(SMC)、プリプレグ、および繊維の織物などを製造する場合にも用いることができる。なお、これらの製品を製造する場合と比較して、長繊維強化熱可塑性樹脂を製造する場合には、繊維束32の進行速度が速く毛羽が発生しやすい。このため、毛羽の除去という観点からすれば、実施の形態に係る開繊機構5は、長繊維強化熱可塑性樹脂を製造するのに最適である。
【0036】
また、上述の実施の形態においては、含浸ダイ10と賦形ダイ12が個別に構成されている場合を例示しているが、含浸ダイ10と賦形ダイ12はそれぞれ一体になっていても構わない。
【0037】
また、上述の実施の形態において、開繊バー6を構成する開繊ロール42は必ずしも3本に限定されず上下に複数の開繊ロール42が備えられていればよい。一例としては、上下の開繊ロール42を1組とする5組の開繊ロール42セットで開繊バー6を構成してもよい。さらに、開繊ロール42の直径は必ずしも均一でなくてもよい。
【0038】
また、上述の実施の形態においては、溝42aが長手方向のいずれの場所においても同じ深さをもって形成されている場合を例示しているが、溝42aの深さは長手方向において必ずしも均等でなくてもよい。
【符号の説明】
【0039】
2 長繊維強化熱可塑性樹脂製造装置
4 繰出機
4a 炭素繊維ロービング
4b 繰出ロール
5 開繊機構
6 開繊バー
7 吸引装置
7a ノズル
8 押出機
10 含浸ダイ
12 賦形ダイ
14 水槽
16 フォーミングロール
18 引取機
20 カッター部
32 繊維束
34 連続繊維強化ストランド
38 長繊維強化熱可塑性樹脂
42 開繊ロール
42a 溝
42b 面取り