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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-23
(45)【発行日】2023-07-03
(54)【発明の名称】非水系リチウム蓄電素子
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/62 20130101AFI20230626BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20230626BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20230626BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20230626BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20230626BHJP
   H01G 11/36 20130101ALI20230626BHJP
   H01G 11/10 20130101ALI20230626BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230626BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20230626BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230626BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230626BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230626BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230626BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230626BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230626BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20230626BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20230626BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20230626BHJP
【FI】
H01G11/62
H01G11/64
H01G11/24
H01G11/26
H01G11/46
H01G11/36
H01G11/10
H01G11/06
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M4/36 E
H01M4/58
H01M10/052
H01M10/0568
H01M4/583
H01M4/133
H01M10/0567
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021551621
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2020037639
(87)【国際公開番号】W WO2021066174
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019183525
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019183851
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019199309
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019199191
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019232393
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019234819
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020038263
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】高田 一昭
(72)【発明者】
【氏名】梅津 和照
(72)【発明者】
【氏名】中村 文哉
(72)【発明者】
【氏名】山端 祐介
(72)【発明者】
【氏名】木村 維摩
(72)【発明者】
【氏名】松下 忠史
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/169028(WO,A1)
【文献】特表2018-534731(JP,A)
【文献】特表2019-525009(JP,A)
【文献】特開2019-029110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/62
H01G 11/64
H01G 11/24
H01G 11/26
H01G 11/46
H01G 11/36
H01G 11/10
H01G 11/06
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/62
H01M 4/36
H01M 4/58
H01M 10/052
H01M 10/0568
H01M 4/583
H01M 4/133
H01M 10/0567
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ、及びリチウムイオンを含む非水系電解液を含む、非水系リチウム型蓄電素子であって、
前記正極が、正極集電体と、前記正極集電体の片面上又は両面上に設けられた正極活物質層とを有し、
前記正極活物質層は、正極活物質と、カーボンナノチューブと、前記正極活物質以外のアルカリ金属化合物とを含み、
前記正極活物質は活性炭を含み、
前記正極の前記正極活物質層の全質量に対する前記アルカリ金属化合物の質量比率をC2(質量%)とするとき、0.1≦C2≦7.0であり、
前記正極の前記正極活物質層表面について、倍率10,000倍で撮影された、1,280×890ピクセル(1ピクセル=9.96nm)のSEM像の二値化画像において、明視野領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円の集合を直径ごとの頻度分布として表したとき、直径100nm未満の最大内接円の合計面積が最大内接円の全面積に占める面積割合Z’2が7.5%以上35.0%以下であり、かつ、
以下の構成(1)及び(2):
(1)前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体の片面又は両面上の負極活物質層とを含み、
前記負極活物質層は、負極活物質、カーボンナノチューブ、及び分散剤を含み、
前記負極活物質は、炭素材料を含み、
前記負極活物質層表面について撮影されたSEM像の二値化画像において、明視野領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円の集合を直径ごとの頻度分布として表したとき、直径100nm未満の最大内接円の合計面積が最大内接円の全面積に占める面積割合Z1が3.5%以上25.5%以下である;
(2)前記非水系電解液は、
(A)LiPF、及びLiBFのうち少なくとも1種のリチウム塩と、
(B)イミド構造を有するリチウム塩と、
(C)オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩と
を含有し、かつ、
前記非水系電解液において、(A)成分の質量及び(B)成分の質量の和に対する(C)成分の質量の割合が、1.0質量%以上10.0質量%以下である;
のうちの少なくとも1つを備える、
非水系リチウム蓄電素子。
【請求項2】
前記非水系電解液は、(B)イミド構造を有するリチウム塩を含有し、前記(B)成分が、下記式(a):
【化1】
{式(a)中、R及びRは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又はハロゲン化アルキル基であり、R及びRのうちの少なくとも1つは、ハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基である。}で表されるイミド構造を有するリチウム塩である、
請求項1に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項3】
前記(B)イミド構造を有するリチウム塩が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドから成る群から選ばれるリチウム塩である、請求項1に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項4】
前記非水系電解液は、(C)オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩を含有し、前記(C)成分が、リチウムビスオキサレートボレート、リチウムフルオロオキサレートボレート、及びリチウムジフルオロオキサレートボレートから成る群から選ばれる1種以上のリチウム塩である、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項5】
前記非水系電解液が、1種以上のニトリル化合物を、前記非水系電解液中に0.1モル/L以上5モル/L以下の範囲で含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項6】
前記非水系電解液が、2―アミノ―1,1,3-トリシアノ-1-プロペン、1-ブチル―3-メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド、及びリチウム トリシアノメタニドから成る群から選択される1種以上のトリニトリル化合物を、前記非水系電解液中に0.1モル/L以上5モル/L以下の範囲で含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項7】
前記負極活物質層は、表面に固体電解質界面(SEI)物質を有し、
前記固体電解質界面(SEI)物質が、下記式(b):
【化2】
で表されるシュウ酸リチウムを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項8】
前記負極活物質層のX線光電子分光法(XPS)において、289eV以上290eV以下の範囲に観察されるピークP1の強度I1と、284eV以上285eV以下の範囲に観察されるピークP2の強度I2との比I1/I2が0.1以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項9】
前記非水系電解液が、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1.3-ジオキサン、1.4-ジオキサン、及び2-メチルテトラヒドロフランから成る群から選択される1種以上のエーテル化合物を、前記非水系電解液中に1モル/L以上10モル/L以下の範囲で含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項10】
前記負極活物質層表面のSEM像の二値化画像において、暗視野領域のうちの、1,000nm以上5,000nm以下の領域の合計面積が、1,000nm以上20,000nm以下の領域の合計面積に占める面積割合Z2が、63.0%以上92.0%以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項11】
前記負極活物質層中における、Fe原子及びNi原子の合計の含有濃度が、1ppm以上500ppm以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項12】
前記負極活物質層について測定されたXRD(X線回折)スペクトルにおいて、2θが26.2°以上26.5°以下の範囲にピークトップを有するピークY1を有し、前記ピークY1の半値幅が0.1°以上0.5°以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項13】
前記負極活物質層中の前記分散剤が、カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及び界面活性剤からなる群より選択される2種以上である、請求項1~12のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項14】
前記カーボンナノチューブの平均繊維径が2nm以上100nm未満である、請求項1~13のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項15】
前記正極活物質層について測定されたXRD(X線回折)スペクトルにおいて、2θが25.7°以上27.0°以下の範囲にピークX2を有し、前記ピークX2の半値幅が0.1°以上0.5°以下である、請求項1~14のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項16】
前記正極活物質層中における、Fe原子及びNi原子の合計の含有濃度が、1ppm以上500ppm以下である、請求項1~15のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項17】
前記正極活物質層が分散剤を更に含み、
前記分散剤が、カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及び界面活性剤から成る群より選択される2種以上である、
請求項16のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項18】
前記アルカリ金属化合物が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムから成る群より選択される1種以上である、請求項17のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項19】
前記カーボンナノチューブの平均繊維径が2nm以上100nm未満である、請求項18のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項20】
前記正極活物質がリチウム遷移金属酸化物を更に含み、
前記リチウム遷移金属酸化物が、LiNiCoAl(1-a-b)(a、b、及びは、それぞれ、0.02<a<0.97、0.02<b<0.97、及び0≦x≦1を満たす。)、LiNiCoMn(1-c-d)(c、d、及びxは、それぞれ、0.02<c<0.97、0.02<d<0.97、及び0≦x≦1を満たす。)、LiCoO(xは、0≦x≦1を満たす。)、LiMn(xは、0≦x≦1を満たす。)、LiFePO(xは、0≦x≦1を満たす。)、LiMnPO(xは、0≦x≦1を満たす)、及びLi(PO(zは、0≦z≦3を満たす。)から成る群より選択される少なくとも1種である、
請求項19のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項21】
前記正極活物質層に含まれる前記活性炭の平均粒子径をXとするとき、
3.0μm≦X≦7.0μmであり、
前記活性炭のラマンスペクトルにおけるラマンシフト1,590cm-1付近に現れる極大値のピーク強度I1とラマンシフト1,470cm-1付近に現れる極小値のピーク強度I2の比I1/I2をYとするとき、
2.0≦Y≦5.5であり、
前記Xと前記Yの積Xが、
10≦X≦28であり、かつ
前記活性炭の官能基量Zが、
0.80mmol/g≦Z≦2.5mmol/gである、
請求項20のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項22】
前記Xが4.0μm≦X≦6.0μmである請求項21に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項23】
前記Xと前記Yとの積Xが、13≦X≦26である、請求項21又は22に記載の非水系リチウム蓄電素子。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子を含む、蓄電モジュール。
【請求項25】
電力回生アシストシステム、電力負荷平準化システム、無停電電源システム、非接触給電システム、エナジーハーベストシステム、蓄電システム、太陽光発電蓄電システム、電動パワーステアリングシステム、非常用電源システム、インホイールモーターシステム、アイドリングストップシステム、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、電動バイク、急速充電システム、及びスマートグリッドシステムから成る群から選択されるシステムに組み込まれている、請求項24に記載の蓄電モジュール。
【請求項26】
請求項1~23のいずれか一項に記載の蓄電素子と、鉛電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池、又は燃料電池とを、直列又は並列に接続した、蓄電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系リチウム蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全及び省資源を目指すエネルギーの有効利用の観点から、風力発電の電力平滑化システム又は深夜電力貯蔵システム、太陽光発電技術に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車用の蓄電システム等が注目を集めている。
【0003】
これらの蓄電システムに用いられる電池の第一の要求事項は、エネルギー密度が高いことである。このような要求に対応可能な高エネルギー密度電池の有力候補として、リチウムイオン電池の開発が精力的に進められている。
【0004】
第二の要求事項は、出力特性が高いことである。例えば、高効率エンジンと蓄電システムとの組み合わせ(例えば、ハイブリッド電気自動車)又は燃料電池と蓄電システムとの組み合わせ(例えば、燃料電池電気自動車)において、加速時には蓄電システムにおける高出力放電特性が要求されている。
【0005】
現在、高出力蓄電デバイスとしては、電気二重層キャパシタ、ニッケル水素電池等が開発されている。
【0006】
電気二重層キャパシタのうち、電極に活性炭を用いたものは、0.5~1kW/L程度の出力特性を有する。この電気二重層キャパシタは、耐久性(サイクル特性及び高温保存特性)も高く、上記高出力が要求される分野で最適のデバイスと考えられてきた。しかしながら、そのエネルギー密度は1~5Wh/L程度に過ぎない。そのため、更なるエネルギー密度の向上が必要である。
【0007】
他方、現在ハイブリッド電気自動車で採用されているニッケル水素電池は、電気二重層キャパシタと同等の高出力を有し、かつ160Wh/L程度のエネルギー密度を有している。しかしながら、そのエネルギー密度及び出力をより一層高めるとともに、耐久性(特に、高温における安定性)を高めるための研究が精力的に進められている。
【0008】
また、リチウムイオン電池においても、高出力化に向けての研究が進められている。例えば、放電深度(蓄電素子の放電容量の何%を放電した状態かを示す値)50%において3kW/Lを超える高出力が得られるリチウムイオン電池が開発されている。しかしながら、そのエネルギー密度は100Wh/L以下であり、リチウムイオン電池の最大の特徴である高エネルギー密度を敢えて抑制した設計となっている。その耐久性(サイクル特性及び高温保存特性)については、電気二重層キャパシタに比べ劣る。そのため、実用的な耐久性を持たせるためには、放電深度が0~100%の範囲よりも狭い範囲での使用となる。実際に使用できる容量は更に小さくなるから、耐久性をより一層向上させるための研究が精力的に進められている。
【0009】
上記のように、高エネルギー密度、高出力特性、及び耐久性を兼ね備えた蓄電素子の実用化が強く求められている。しかしながら、上述した既存の蓄電素子には、それぞれ一長一短がある。そのため、これらの技術的要求を充足する新たな蓄電素子が求められている。その有力な候補として、リチウムイオンキャパシタと呼ばれる蓄電素子が注目され、開発が盛んに行われている。
【0010】
リチウムイオンキャパシタは、リチウム塩を含む非水系電解液を使用する蓄電素子(非水系リチウム蓄電素子)の一種であって、正極においては約3V以上で電気二重層キャパシタと同様の陰イオンの吸着及び脱着による非ファラデー反応、負極においてはリチウムイオン電池と同様のリチウムイオンの吸蔵及び放出によるファラデー反応によって、充放電を行う蓄電素子である。
【0011】
上述の電極材料とその特徴をまとめると、電極に活性炭等の材料を用い、活性炭表面のイオンの吸着及び脱離(非ファラデー反応)により充放電を行う場合は、高出力かつ高耐久性を実現するが、エネルギー密度が低くなる(例えば1倍とする。)。電極に酸化物や炭素材料を用い、ファラデー反応により充放電を行う場合は、エネルギー密度が高くなる(例えば活性炭を用いた非ファラデー反応の10倍とする。)が、耐久性及び出力特性に課題がある。
【0012】
これらの電極材料の組合せとして、電気二重層キャパシタは、正極及び負極に活性炭(エネルギー密度1倍)を用い、正負極共に非ファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、高出力かつ高耐久性を有するがエネルギー密度が低い(正極1倍×負極1倍=1)という特徴がある。
【0013】
リチウムイオン二次電池は、正極にリチウム遷移金属酸化物(エネルギー密度10倍)、負極に炭素材料(エネルギー密度10倍)を用い、正負極共にファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、高エネルギー密度(正極10倍×負極10倍=100)だが、出力特性及び耐久性に課題がある。ハイブリッド電気自動車等で要求される高耐久性を満足させるためには放電深度を制限しなければならず、リチウムイオン二次電池では、そのエネルギーの10~50%しか使用できない。
【0014】
以上に記載した、蓄電システムにて用いられる電池(蓄電素子)の中でも、リチウムイオンキャパシタは、正極に活性炭(エネルギー密度1倍)、負極に炭素材料(エネルギー密度10倍)を用い、正極では非ファラデー反応、負極ではファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、電気二重層キャパシタ及びリチウムイオン二次電池の特徴を兼ね備えた新規の非対称キャパシタである。高出力かつ高耐久性でありながら、高エネルギー密度(正極1倍×負極10倍=10)を有し、リチウムイオン二次電池の様に放電深度を制限する必要がないことが特徴である。
【0015】
上記リチウムイオンキャパシタの更なる高出力化、高耐久性化については、様々な検討が行われている(特許文献1~10)。
特許文献1には、リチウム塩にリチウムビス(オキサラト)ボレートを用い、溶媒にアクリロニトリルを含有し高出力特性を実現するリチウムイオン二次電池が提案されている。
特許文献2には、含フッ素リチウム塩に、LiPFと、LiBFと、リチウムジフルオロオキサラトボレートを用いた、Al集電体の腐食、長期安定性等に優れたリチウムイオン二次電池が提案されている。
特許文献3には、粒子径3μm以下の負極活物質を添加し、電解液に、オキサラトボレート型化合物とジフルオロリン酸化合物とを用い、入力特性と保存耐久性とのバランスのよいリチウムイオン二次電池が提案されている。
特許文献4には、イミド構造を有するリチウム塩電解質と、電解液に対する溶解度を抑制したポリマーを含む結着剤とを用い、85℃の高温環境において、容量を維持することができ、かつ内部抵抗の増加が小さいリチウムイオンキャパシタが提案されている。
【0016】
特許文献5には、オキサラトボレート型の化合物を含む非水系電解質を用い、被膜厚みの増大を抑制し、負極抵抗が高くなることを抑制できる、リチウムイオン二次電池が提案されている。
特許文献6には、ビスマレイミド化合物及びフルオロエチレンカーボネートを、それぞれ所定量含み、60℃の環境下において、容量を維持することができる、非水系電解液が提案されている。
特許文献7には、イミド構造を有するリチウム塩電解質と、リチウムジフルオロオキサレート ホスフェート、トリメチルシリルプロピル ホスフェート、1,3-プロペンスルトン、及びエチレンスルフェートからなる群から選択される1種以上の添加剤とを含む非水系電解液を用い、60℃の環境下において、容量を維持することができる、リチウムイオン二次電池が提案されている。
特許文献8には、リチウムイオンキャパシタを高出力化するために、負極活物質の表面にカーボンナノチューブとカルボキシメチルセルロースからなる被膜が形成され、その配合量が質量比で、カルボキシメチルセルロース/カーボンナノチューブ=1.5~7.0の負極が開示されている
【0017】
特許文献9には、正極前駆体に含有されたアルカリ金属化合物の分解を促進し、高容量かつ高出力な正極前駆体が提案されている。
特許文献10には、エネルギー密度の向上及び高出力化のために、コアとなる炭素粒子と、該炭素粒子の表面に形成されたグラフェン構造を有する繊維状炭素との炭素複合体が開示されている。
【0018】
なお、本明細書において、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。
BJH法は非特許文献1において提唱されている。
MP法は、「t-プロット法」(非特許文献2)を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、及びマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、非特許文献3において示される。
更に、本明細書におけるBoneJのThicknessについては、非特許文献4に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2016-192377号公報
【文献】特開2018-60689号公報
【文献】国際公開第2014/002939号
【文献】特開2017-17299号公報
【文献】特開2011-34893号公報
【文献】特開2019-186222号公報
【文献】国際公開第2015/065093号
【文献】特開2015-156293号公報
【文献】特開2013/73526号公報
【文献】特開2008-66053号公報
【非特許文献】
【0020】
【文献】E.P.Barrett,L.G.Joyner and P.Halenda,J.Am.Chem.Soc.,73,373(1951)
【文献】B.C.Lippens,J.H.de Boer,J.Catalysis,4319(1965)
【文献】R.S.Mikhail,S.Brunauer,E.E.Bodor,J.Colloid Interface Sci.,26,45(1968)
【文献】T.Hildebrand,P.Ruesgsegger,J.of Microscopy,185(1996)67-75.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
以上の現状に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、優れた入出力、及び80℃以上の高温下での保存に対する高い耐久性を有する、非水系リチウム蓄電素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題は以下の技術的手段により解決される。すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
《態様1》正極、負極、セパレータ、及びリチウムイオンを含む非水系電解液を含む、非水系リチウム型蓄電素子であって、
前記正極が、正極集電体と、前記正極集電体の片面上又は両面上に設けられた、正極活物質を含む正極活物質層とを有し、
前記正極活物質は活性炭を含み、かつ、
以下の構成(1)及び(2):
(1)前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体の片面又は両面上の負極活物質層とを含み、
前記負極活物質層は、負極活物質、カーボンナノチューブ、及び分散剤を含み、
前記負極活物質は、炭素材料を含み、
前記負極活物質層表面について撮影されたSEM像の二値化画像において、明視野領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円の集合を直径ごとの頻度分布として表したとき、直径100nm未満の最大内接円の合計面積が最大内接円の全面積に占める面積割合Z1が3.5%以上25.5%以下である;
(2)前記非水系電解液は、
(A)LiPF、及びLiBFのうち少なくとも1種のリチウム塩と、
(B)イミド構造を有するリチウム塩と、
(C)オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩と
を含有し、かつ、
前記非水系電解液において、(A)成分の質量及び(B)成分の質量の和に対する(C)成分の質量の割合が、1.0質量%以上10.0質量%以下である;
のうちの少なくとも1つを備える、
非水系リチウム蓄電素子。
《態様2》前記非水系電解液は、(B)イミド構造を有するリチウム塩を含有し、前記(B)成分が、下記式(a):
【化1】
{式(a)中、R及びRは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又はハロゲン化アルキル基であり、R及びRのうちの少なくとも1つは、ハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基である。}で表されるイミド構造を有するリチウム塩である、
態様1に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様3》前記(B)イミド構造を有するリチウム塩が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドから成る群から選ばれるリチウム塩である、態様1に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様4》前記非水系電解液は、(C)オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩を含有し、前記(C)成分が、リチウムビスオキサレートボレート、リチウムフルオロオキサレートボレート、及びリチウムジフルオロオキサレートボレートから成る群から選ばれる1種以上のリチウム塩である、態様1~3のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様5》前記非水系電解液が、1種以上のニトリル化合物を、前記非水系電解液中に0.1モル/L以上5モル/L以下の範囲で含有する、態様1~4のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様6》前記非水系電解液が、2―アミノ―1,1,3-トリシアノ-1-プロペン、1-ブチル―3-メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド、及びリチウム トリシアノメタニドから成る群から選択される1種以上のトリニトリル化合物を、前記非水系電解液中に0.1モル/L以上5モル/L以下の範囲で含有する、態様1~5のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様7》前記負極活物質層は、表面に固体電解質界面(SEI)物質を有し、
前記固体電解質界面(SEI)物質が、下記式(b):
【化2】
で表されるシュウ酸リチウムを含む、態様1~6のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様8》前記負極活物質層のX線光電子分光法(XPS)において、289eV以上290eV以下の範囲に観察されるピークP1の強度I1と、284eV以上285eV以下の範囲に観察されるピークP2の強度I2との比I1/I2が0.1以上である、態様1~7のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様9》前記非水系電解液が、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1.3-ジオキサン、1.4-ジオキサン、及び2-メチルテトラヒドロフランから成る群から選択される1種以上のエーテル化合物を、前記非水系電解液中に1モル/L以上10モル/L以下の範囲で含有する、態様1~8のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様10》前記負極活物質層表面のSEM像の二値化画像において、暗視野領域のうちの、1,000nm以上5,000nm以下の領域の合計面積が、1,000nm以上20,000nm以下の領域の合計面積に占める面積割合Z2が、63.0%以上92.0%以下である、態様1~9のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様11》記負極活物質層中における、Fe原子及びNi原子の合計の含有濃度が、1ppm以上500ppm以下である、態様1~10のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様12》前記負極活物質層について測定されたXRD(X線回折)スペクトルにおいて、2θが26.2°以上26.5°以下の範囲にピークトップを有するピークY1を有し、前記ピークY1の半値幅が0.1°以上0.5°以下である、態様1~11のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様13》前記負極活物質層中の前記分散剤が、カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及び界面活性剤からなる群より選択される2種以上である、態様1~12のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様14》記カーボンナノチューブの平均繊維径が2nm以上100nm未満である、態様1~13のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様15》前記正極活物質層が、カーボンナノチューブ、及び前記正極活物質以外のアルカリ金属化合物を更に含み、
前記正極の前記正極活物質層の全質量に対する前記アルカリ金属化合物の質量比率をC2(質量%)とするとき、0.1≦C2≦7.0であり、
前記正極の前記正極活物質層表面について、倍率10,000倍で撮影された、1,280×890ピクセル(1ピクセル=9.96nm)のSEM像の二値化画像において、明視野領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円の集合を直径ごとの頻度分布として表したとき、直径100nm未満の最大内接円の合計面積が最大内接円の全面積に占める面積割合Z’2が7.5%以上35.0%以下である、
態様1~14のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様16》前記正極活物質層について測定されたXRD(X線回折)スペクトルにおいて、2θが25.7°以上27.0°以下の範囲にピークX2を有し、前記ピークX2の半値幅が0.1°以上0.5°以下である、態様15に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様17》前記正極活物質層中における、Fe原子及びNi原子の合計の含有濃度が、1ppm以上500ppm以下である、態様15又は16に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様18》前記正極活物質層が分散剤を更に含み、
前記分散剤が、カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、及び界面活性剤から成る群より選択される2種以上である、
態様15~17のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様19》前記アルカリ金属化合物が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムから成る群より選択される1種以上である、態様15~18のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様20》前記カーボンナノチューブの平均繊維径が2nm以上100nm未満である、態様15~19のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様21》前記正極活物質がリチウム遷移金属酸化物を更に含み、
前記リチウム遷移金属酸化物が、LiNiCoAl(1-a-b)(a、b、及びxは、それぞれ、0.02<a<0.97、0.02<b<0.97、及び0≦x≦1を満たす。)、LiNiCoMn(1-c-d)(c、d、及びxは、それぞれ、0.02<c<0.97、0.02<d<0.97、及び0≦x≦1を満たす。)、LiCoO(xは、0≦x≦1を満たす。)、LiMn(xは、0≦x≦1を満たす。)、LiFePO(xは、0≦x≦1を満たす。)、LiMnPO(xは、0≦x≦1を満たす)、及びLi(PO(zは、0≦z≦3を満たす。)から成る群より選択される少なくとも1種である、
態様15~20のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様22》前記正極活物質層に含まれる前記活性炭の平均粒子径をXとするとき、
3.0μm≦X≦7.0μmであり、
前記活性炭のラマンスペクトルにおけるラマンシフト1,590cm-1付近に現れる極大値のピーク強度I1とラマンシフト1,470cm-1付近に現れる極小値のピーク強度I2の比I1/I2をYとするとき、
2.0≦Y≦5.5であり、
前記Xと前記Yの積Xが、
10≦X≦28であり、かつ
前記活性炭の官能基量Zが、
0.80mmol/g≦Z≦2.5mmol/gである、
態様15~21のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様23》前記Xが4.0μm≦X≦6.0μmである態様22に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様24》前記Xと前記Yとの積Xが、13≦X≦26である、態様22又は23に記載の非水系リチウム蓄電素子。
《態様25》態様1~24のいずれか一項に記載の非水系リチウム蓄電素子を含む、蓄電モジュール。
《態様26》電力回生アシストシステム、電力負荷平準化システム、無停電電源システム、非接触給電システム、エナジーハーベストシステム、蓄電システム、太陽光発電蓄電システム、電動パワーステアリングシステム、非常用電源システム、インホイールモーターシステム、アイドリングストップシステム、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、電動バイク、急速充電システム、及びスマートグリッドシステムから成る群から選択されるシステムに組み込まれている、態様25に記載の蓄電モジュール。
《態様27》態様1~24のいずれか一項に記載の蓄電素子と、鉛電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池、又は燃料電池とを、直列又は並列に接続した、蓄電システム。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、高温耐久性と入力性能とを共に有する非水系リチウム蓄電素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例13で得られた負極20の負極活物質層のSEM像である。
図2図1のSEM像の二値化画像である。
図3図2の二値化画像から得られた、最大内接円の直径ごとの頻度分布図である。
図4】比較例9で得られた負極21の負極活物質層のSEM像である。
図5図4のSEM像の二値化画像である。
図6図5の二値化画像から得られた、最大内接円の直径ごとの頻度分布図である。
図7】実施例84で得られた正極前駆体36の正極活物質層のSEM像である。
図8図7のSEM像の二値化画像である。
図9図8の二値化画像から得られた、最大内接円の直径ごとの頻度分布図である。
図10】比較例42で得られた正極前駆体37の正極活物質層のSEM像である。
図11図10のSEM像の二値化画像である。
図12図11の二値化画像から得られた、最大内接円の直径ごとの頻度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」という。)を例示する目的で詳細に説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本願明細書において、各数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0026】
《非水系リチウム蓄電素子》
非水系リチウム蓄電素子は一般に、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを主な構成要素として有する。電解液としては、有機溶媒と、該有機溶媒に溶解されたリチウム塩を含む電解質を含む、非水系電解液が用いられている。
【0027】
本発明の非水系リチウム型蓄電素子は
正極、負極、セパレータ、及びリチウムイオンを含む非水系電解液を含む、非水系リチウム型蓄電素子であって、
前記正極が、正極集電体と、前記正極集電体の片面上又は両面上に設けられた、正極活物質を含む正極活物質層とを有し、
前記正極活物質は活性炭を含み、かつ、
以下の構成(1)及び(2):
(1)前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体の片面又は両面上の負極活物質層とを含み、前記負極活物質層は、負極活物質、カーボンナノチューブ、及び分散剤を含み、
前記負極活物質は、炭素材料を含み、
前記負極活物質層表面について撮影されたSEM像の二値化画像において、明視野領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円の集合を直径ごとの頻度分布として表したとき、直径100nm未満の最大内接円の合計面積が最大内接円の全面積に占める面積割合Z1が3.5%以上25.5%以下である;
(2)前記非水系電解液は、
(A)LiPF、及びLiBFのうち少なくとも1種のリチウム塩と、
(B)イミド構造を有するリチウム塩と、
(C)オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩と
を含有し、かつ、
前記非水系電解液において、(A)成分の質量及び(B)成分の質量の和に対する(C)成分の質量の割合が、1.0質量%以上10.0質量%以下である;
のうちの少なくとも1つを備える、
ことを特徴とする。
【0028】
以下、本発明の非水系リチウム型蓄電素子を構成する要素について、順に詳説する。
【0029】
<正極>
後述のように、本実施形態では、蓄電素子組み立て工程内で、負極にアルカリ金属イオンをプレドープすることが好ましく、そのプレドープ方法としては、アルカリ金属化合物を含む正極前駆体、負極、セパレータ、外装体、及び非水系電解液を用いて蓄電素子を組み立てた後に、正極前駆体と負極との間に電圧を印加することが好ましい。この場合、アルカリ金属化合物は、正極前駆体中にいかなる態様で含まれていてもよい。例えば、アルカリ金属化合物は、正極集電体と正極活物質層との間に存在してよく、正極活物質層の表面上に存在してよく、正極活物質層中に存在していてよい。アルカリ金属化合物は正極前駆体の正極集電体上に形成された正極活物質層に含有されることが好ましい。このような態様では、負極へのアルカリ金属イオンのプレドープに伴って、正極活物質層中に空孔が形成されて、正極活物質層の実効面積が増大する。
本明細書では、アルカリ金属ドープ工程前における正極を「正極前駆体」、アルカリ金属ドープ工程後における正極を「正極」と定義する。
【0030】
本実施形態における正極は、正極集電体と、その片面又は両面上に設けられた、正極活物質を含む正極活物質層とを有する。本実施形態に係る正極活物質層は、正極活物質、及びカーボンナノチューブを含み、これら以外に正極活物質以外のアルカリ金属化合物を含んでいてもよい。
【0031】
[正極の正極活物質層]
正極の正極活物質層は、正極活物質、及びカーボンナノチューブを含み、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を含んでいてもよい。本実施形態の非水系リチウム型蓄電素子では、正極前駆体の正極活物質層は、正極活物質以外のアルカリ金属化合物を含むことが好ましい。しかし、このアルカリ金属化合物は、負極へのプレドープに消費され、正極の正極活物質層には空孔が形成される。結果物である正極の正極活物質層中には、正極活物質以外のアルカリ金属化合物が残存していてもよいし、残存していなくてもよい。
正極の正極活物質層中に、正極活物質以外のアルカリ金属化合物が残存している場合、例えば充電時に、正極と負極との間に電圧を印加することにより、正極内のアルカリ金属化合物が分解されて陽イオンを放出し、この陽イオンが負極で還元されることにより、負極がプレドープされる。
アルカリ金属化合物の分解は、酸化分解反応である。この反応が適切に行われるためには、正極と非水系電解液との反応面積、及び正極体の電子導電性を、適正に制御することが必要である。
正極活物質層は、正極活物質、カーボンナノチューブ、及び正極活物質以外のアルカリ金属化合物以外に、必要に応じて、後述の任意成分を含んでいてもよい。
【0032】
[正極活物質]
正極活物質は、活性炭を含み、活性炭の他に、グラフェン、導電性高分子、リチウム遷移金属酸化物等を更に含んでいてもよい。
本実施形態の正極前駆体における正極活物質層中の正極活物質は、活性炭と、リチウム遷移金属酸化物とを含むことが好ましい。
【0033】
活性炭を正極活物質として用いる場合、活性炭の種類及びその原料には特に制限はないが、高い入出力特性と、高いエネルギー密度とを両立させるために、活性炭の細孔を最適に制御することが好ましい。具体的には、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV(cc/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV(cc/g)とするとき、
(1)高い入出力特性のためには、0.3<V≦0.8、及び0.5≦V≦1.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が1,500m/g以上3,000m/g以下である活性炭(以下、活性炭1ともいう。)が好ましく、又は、
(2)高いエネルギー密度を得るためには、0.8<V≦2.5、及び0.8<V≦3.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が2,300m/g以上4,000m/g以下である活性炭(以下、活性炭2ともいう。)が好ましい。
【0034】
前記のような特徴を有する活性炭は、例えば、以下に説明する原料及び処理方法を用いて得ることができる。
【0035】
本実施形態では、活性炭の原料として用いられる炭素源は、特に限定されるものではない。例えば、木材、木粉、ヤシ殻、パルプ製造時の副産物、バガス、廃糖蜜等の植物系原料;泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、石油蒸留残渣成分、石油ピッチ、コークス、コールタール等の化石系原料;フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂、セルロイド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種合成樹脂;ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン等の合成ゴム;その他の合成木材、合成パルプ等、及びこれらの炭化物が挙げられる。これらの原料の中でも、量産対応及びコストの観点から、ヤシ殻、木粉等の植物系原料、及びそれらの炭化物が好ましく、ヤシ殻炭化物が特に好ましい。
【0036】
これらの原料を前記活性炭とするための炭化及び賦活の方式としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の既知の方式を採用できる。
【0037】
これらの原料の炭化方法としては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、ネオン、一酸化炭素、燃焼排ガス等の不活性ガス、又はこれらの不活性ガスを主成分とした他のガスとの混合ガスを使用して、400~700℃(好ましくは450~600℃)程度において、30分~10時間程度に亘って焼成する方法が挙げられる。
【0038】
炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法、及びアルカリ金属化合物と混合した後に加熱処理を行うアルカリ金属賦活法がある。
【0039】
賦活ガスを用いる方法では、賦活ガスを0.5~3.0kg/h(好ましくは0.7~2.0kg/h)の割合で供給しながら、得られた炭化物を3~12時間掛けて800~1,000℃まで昇温して賦活するのが好ましい。
【0040】
しかしながら、賦活ガスを用いて高温で賦活を行うと活性炭の非晶性の部分だけでなく結晶性の部分も賦活されてしまい、かつ官能基量も減少してしまう可能性があり蓄電デバイスの耐久性には不利に働くと推測される。したがって高結晶性の活性炭を得るには200~600℃程度の低温で3~5時間程度の短時間で賦活を行うことで活性炭の結晶性と官能基量を損なうことなく十分な賦活ができる。
【0041】
アルカリ金属化合物を用いる方法では、炭化物とKOH、NaOH等のアルカリ金属化合物との質量比が1:1以上(アルカリ金属化合物の量が、炭化物の量と同じかこれよりも多い量)となるように混合した後に、不活性ガス雰囲気下で600~900℃の範囲において、0.5~5時間加熱を行い、その後アルカリ金属化合物を酸及び水により洗浄除去し、更に乾燥を行う。
【0042】
アルカリ賦活を行う場合は賦活の際にアルカリ金属イオンが炭素構造の結晶層間に挿入するため、結晶性には不利に働く。したがって、高結晶性の活性炭を得るにはガス賦活が有効であると推測される。
【0043】
マイクロ孔量を大きくし、メソ孔量を大きくしないためには、賦活する際に炭化物の量を多めにしてKOHと混合するとよい。マイクロ孔量及びメソ孔量の双方を大きくするためには、KOHの量を多めに使用するとよい。また、主としてメソ孔量を大きくするためには、アルカリ賦活処理を行った後に水蒸気賦活を行うことが好ましい。
【0044】
更に、上記で説明された炭化物の賦活処理に先立ち、予め炭化物を1次賦活してもよい。この1次賦活では、通常、炭素材料を水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて、900℃未満の温度で焼成してガス賦活する方法が、好ましく採用できる。
【0045】
上記で説明された炭化方法における焼成温度及び焼成時間と、賦活方法における賦活ガス供給量、昇温速度及び最高賦活温度とを適宜組み合わせることにより、本実施形態において使用できる活性炭を製造することができる。活性炭の賦活条件については好ましくは200~600℃で3~5時間の水蒸気賦活、より好ましくは400~600℃で4~5時間の水蒸気賦活、更に好ましくは500~550℃で4~5時間の水蒸気賦活である。
【0046】
活性炭の平均粒子径Xは、3.0μm以上7.0μm以下である(すなわち、3.0μm≦X≦7.0μm)ことが好ましい。平均粒子径Xが3.0μm以上であると、活物質層の密度が高いために粒子間の電子伝導度が上がり、更に反応の際の有効な表面積が大きくなるためアルカリ金属化合物の酸化反応が促進される。なお、平均粒子径Xが小さいと耐久性が低いという欠点を招来する場合があるが、平均粒子径Xが3.0μm以上であればそのような欠点が生じ難い。一方で、平均粒子径Xが7.0μm以下であると、アルカリ金属化合物の酸化反応以外の副反応が抑えられる。活性炭の平均粒子径Xは、より好ましくは4.0μm以上6.0μm以下であり、更に好ましくは4.2μm以上6.3μm以下である。
【0047】
本実施形態に係る活性炭は、その分光測定におけるラマンシフト1590cm-1付近の極大値のピーク強度及びラマンシフト1470cm-1付近に現れる極小値のピーク強度により特徴付けられる。本実施形態における活性炭のGバンドの強度GとDバンドの強度Dは以下の方法によって求められる値である。励起波長532nmにおけるラマン分光測定によって求めたスペクトル(以下「ラマンスペクトル」という)においてピーク分離を行い、1600nm付近の極大のピーク強度をG、1300nm付近の極大のピーク強度をDとする。ピーク分離ではベースライン補正を行い、ピークはGバンドとDバンドの二つのみとした。
【0048】
本明細書において、ラマンスペクトルとは、ラマン分光分析装置としてRenishaw社製inVia Reflexを用いて測定されたものをいう。
【0049】
炭素材料においてラマンシフト1590cm-1付近のバンドはGバンドと呼ばれグラファイト構造(sp結合)に起因し、ラマンシフト1360cm-1付近のバンドはDバンドと呼ばれダイヤモンド構造(sp結合)に由来する。GバンドとDバンドの強度比は一般的に炭素材料の結晶性(sp性)と相関するが、同じく結晶性を表すバンドの半値幅が考慮されておらず定義としては不十分である。ここで半値幅とはスペクトルの極大値の強度に対する相対強度が50%になるときのラマンシフトの幅を指し、Gバンドの半値幅が小さいほど結晶性は高いといえる。そこで結晶性の定義をGバンドの強度Iとラマンシフト1470cm-1付近に現れる極小値のピーク強度Iの比I/I(Y)とすることでピーク強度に加え半値幅も考慮に入れることができる。ここでI、Iはベースライン補正後の強度である。ベースライン補正とは500cm-1から2200cm-1のラマンシフト範囲においてスペクトルのベースラインを直線で近似し、直線からの距離をピーク強度としベースラインの傾きを補正することを指す。なおラマンスペクトルの極値の波数は活性炭の微細構造の差等により多少変動することがあるため「付近」と表現した。
【0050】
活性炭のYは0.40以上0.50以下である(すなわち、2.0≦Y≦5.5、2.0≦I/I≦5.5)ことが好ましい。Yが2.0以上であると活性炭の結晶性が高く、電子伝導性が高いため、正極前駆体又は正極におけるアルカリ金属化合物の分解反応に有利となる。また、正極の劣化に伴い炭素材料のsp性が下がっていくため、予め高いsp性の材料を使用することで高耐久性の電極とすることができる。他方、Yが5.5以下であれば、電子伝導性が高すぎることによる副反応が抑えられ、正極前駆体又は正極におけるアルカリ金属化合物の分解反応に有利となる。
【0051】
は、より好ましくは2.5以上5.0以下であり、更に好ましくは2.8以上4.5以下である。
【0052】
上記で説明されたXとYの積Xは、反応場の大きさと電子伝導性を表すパラメータであり、化学反応の起こり易さを示す。本実施形態では、Xは、10以上かつ28以下である(すなわち、10≦X≦28、10≦X/I≦28)ことが好ましい。Xが10以上であると、正極前駆体又は正極におけるアルカリ金属化合物の分解反応が円滑に進行する。Xが28以下であると、アルカリ金属化合物の酸化反応以外の副反応が抑制できる。同様の観点から、Xは、より好ましくは13以上27以下である。
【0053】
また、本実施形態における活性炭は、その官能基量により特徴付けられる。本実施形態における活性炭の官能基量Zは、以下の方法によって求められる値である。すなわち、官能基量Zとは、試料を50℃から1000℃まで加熱し、発生した分解ガスの成分を質量分析装置によって特定し、ガス発生時の温度と総合することで表面官能基を定量したものをいう。
【0054】
本明細書において官能基量測定は、次の条件下で測定されたものをいう。
熱分解装置としてFRONTIER LAB Py3030Dを用いる。
加熱温度条件は、試料を50℃で20分保持した後に20℃/分で昇温し、そして1000℃で30分保持する。
加熱炉の温度は250℃である。
加熱雰囲気は、Heガス下である。
ガスクロマトグラフ/質量分析(GC/MS)装置として、AgilentMSD5975を用い、カラムとしてAgilent FSDeactivatedを用い、注入口及びGCオーブンの温度は250℃であり、温度230℃下で電子イオン化法にて発生したイオンをイオン源とし、3mgの試料を用いる。
【0055】
活性炭の官能基量Zは0.80mmol/g以上2.5mmol/g以下である(すなわち、0.80≦Z(mmol/g)≦2.5)ことが好ましい。官能基量Zが0.80mmol/g以上であると、電極の濡れ性が上がることで電解液が十分に含浸し、アルカリ金属化合物の分解反応に有利に働く。官能基量Zが2.5mmol/g以下であると、官能基由来の副反応が抑えられる。活性炭の官能基量Zは、より好ましくは0.90mmol/g以上2.1mmol/gである。
【0056】
本実施形態における活物質のBET比表面積及びメソ孔量、マイクロ孔量、平均細孔径は、それぞれ以下の方法によって求められる値である。試料を200℃で一昼夜真空乾燥し、窒素を吸着質として吸脱着の等温線の測定を行なう。ここで得られる吸着側の等温線を用いて、BET比表面積はBET多点法又はBET1点法により、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。
BJH法は一般的にメソ孔の解析に用いられる計算方法で、Barrett,Joyner, Halendaらにより提唱されたものである(非特許文献1)。
また、MP法とは、「t-プロット法」(非特許文献2)を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、及びマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、R.S.Mikhail, Brunauer,Bodorにより考案された方法である(非特許文献3)。
また、平均細孔径とは、液体窒素温度下で、各相対圧力下における窒素ガスの各平衡吸着量を測定して得られる、試料の質量あたりの全細孔容積を上記BET比表面積で除して求めたものを指す。
【0057】
(活性炭の使用態様)
活性炭は、1種の活性炭であってもよいし、2種以上の活性炭の混合物であって、混合物全体として、前記した各々の特性値を示すものであってもよい。
【0058】
正極活物質は、活性炭以外の材料(例えば、上記で説明された特定のメソ孔量V及び/若しくはマイクロ孔量Vを有さない活性炭、又は活性炭以外の材料(例えば、導電性高分子等))を含んでもよい。
例示の態様において、
正極活物質層中の活性炭含有量の質量割合をAとするとき、又は、
正極の正極活物質中に導電性フィラー、結着剤、分散安定剤等が含まれる場合には、活性炭とこれらの材料の合計量をAとするとき、
が15質量%以上65質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは20質量%以上50質量%以下である。
が15質量%以上であれば、電気伝導度の高い炭素材料とアルカリ金属化合物の接触面積が増えるため、プレドープ工程においてアルカリ金属化合物の酸化反応が促進し、短時間でプレドープをすることができる。Aが65質量%以下であれば、正極活物質層の嵩密度が高まり高容量化できる。
【0059】
(リチウム遷移金属酸化物)
正極活物質は、リチウム遷移金属化合物を更に含むことが好ましい。リチウム遷移金属酸化物を含むことで非水系リチウム蓄電素子を高容量化することができる。リチウム遷移金属酸化物は、リチウムを吸蔵及び放出可能な遷移金属酸化物を含む。正極活物質として用いられる遷移金属酸化物には、特に制限はない。遷移金属酸化物としては、例えば、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、バナジウム、及びクロムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物が挙げられる。遷移金属酸化物として具体的には、下記式:
LiCoO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiNiO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiNi(1-y){式中、Mは、Co、Mn、Al、Fe、Mg、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは0≦x≦1を満たし、かつyは0.05<y<0.97を満たす。}、
LiNi1/3Co1/3Mn1/3{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiMnO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
α-LiFeO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiVO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiCrO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiFePO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiMnPO{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
Li(PO{式中、zは0≦z≦3を満たす。}、
LiMn{式中、xは0≦x≦1を満たす。}、
LiMn(2-y){式中、Mは、Co、Mn、Al、Fe、Mg、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは0≦x≦1を満たし、かつyは0.05<y<0.97を満たす。}、
LiNiCoAl(1-a-b){式中、xは0≦x≦1を満たし、かつa及びbは0.02<a<0.97と0.02<b<0.97を満たす。}、
LiNiCoMn(1-c-d){式中、xは0≦x≦1を満たし、かつc及びdは0.02<c<0.97と0.02<d<0.97を満たす。}
で表される化合物等が挙げられる。これらの中でも、高容量、低抵抗、サイクル特性、アルカリ金属化合物の分解、及びプレドープ時の正極活物質の欠落の抑制の観点から、上記式LixNiaCobAl(1-a-b)2(a、b、及びxは、それぞれ、0.02<a<0.97、0.02<b<0.97、及び0≦x≦1を満たす。)、LixNicCodMn(1-c-d)2(c、d、及びxは、それぞれ、0.02<c<0.97、0.02<d<0.97、及び0≦x≦1を満たす。)、LixCoO2(xは、0≦x≦1を満たす。)、LixMn24(xは、0≦x≦1を満たす。)、LixFePO4(xは、0≦x≦1を満たす。)、LixMnPO4(xは、0≦x≦1を満たす。)、及びLiz2(PO43(zは、0≦z≦3を満たす。)から成る群より選択される少なくとも1種の化合物が好ましい。
【0060】
本実施形態では、正極前駆体に、正極活物質とは異なるアルカリ金属化合物が含まれていれば、プレドープにてアルカリ金属化合物がアルカリ金属のドーパント源となり負極にプレドープができるため、遷移金属化合物に予めリチウムイオンが含まれていなくても(すなわち、x=0、又はz=0であっても)、非水系リチウム蓄電素子として電気化学的な充放電をすることができる。
正極の正極活物質層中におけるリチウム遷移金属酸化物の含有量は10.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。正極の正極活物質層中のリチウム遷移金属酸化物の含有量が10.0質量%以上であれば非水系リチウム蓄電素子を高容量化することができる。この値が50.0質量%以下の場合、非水系リチウム蓄電素子を低抵抗化することができる。
なお、正極前駆体の正極活物質層中におけるリチウム遷移金属酸化物の含有量は8.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましい。正極前駆体の正極活物質層中のリチウム遷移金属酸化物の含有量が8.0質量%以上であれば非水系リチウム蓄電素子を高容量化することができる。この値が30.0質量%以下の場合、非水系リチウム蓄電素子を低抵抗化することができる。
【0061】
(カーボンナノチューブ)
正極活物質層は、カーボンナノチューブを含む。
正極活物質層に含まれるカーボンナノチューブとしては、多層カーボンナノチューブが好適に用いられる。カーボンナノチューブの平均繊維径は2nm以上100nm未満であることが好ましく、より好ましくは3nm以上80nm以下である。平均繊維径が2nm以上であればカーボンナノチューブの分散性が向上する。平均繊維径が100nm未満であれば、高出力化することができる。
本実施形態に係るカーボンナノチューブは、例えば、化学気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法等の適宜の方法で合成することができる。
【0062】
正極の正極活物質層中のカーボンナノチューブの含有割合は、正極の正極活物質層の全質量を100質量%としたときに、6.0質量%以上33.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは7.0質量%以上30.0質量%以下である。この値が6.0質量%以上であれば、蓄電素子を高出力化することができる。この値が33.0質量%以下であれば、蓄電素子のエネルギー密度を向上させることができる。
なお、正極前駆体の正極活物質層中のカーボンナノチューブの含有割合は、正極前駆体の正極活物質層の全質量を100質量%としたときに、5.0質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは6.0質量%以上19.0質量%以下である。この値が5.0質量%以上であれば、アルカリ金属化合物の分解を促進でき、高出力の蓄電素子を得ることができる。この値が20.0質量%以下であれば、エネルギー密度を向上させることができる。
【0063】
正極の正極活物質層中における、活性炭及びカーボンナノチューブの合計の含有量割合は、正極の正極活物質層の全質量を100質量%としたときに、60.0質量%以上90.0質量%以下であってよい。
なお、正極前駆体の正極活物質層中における、活性炭及びカーボンナノチューブの合計の含有量割合は、正極前駆体の正極活物質層の全質量を100質量%としたときに、55.0質量%以上85.0質量%以下であることが好ましい。この値が55.0%以上であれば、正極前駆体中の電子伝導性が高まり、アルカリ金属化合物の分解を促進させることができる。この値が85.0%以下であればアルカリ金属化合物が分解した後の空孔率が高まり、イオンの拡散性が高くなって、得られる蓄電素子の高出力化が達成される。
【0064】
カーボンナノチューブは、正極活物質の表面に均一に分散されていることが好ましい。
カーボンナノチューブを正極活物質の表面に均一分散させることにより、正極活物質粒子間の電子伝導性及び結着性を高めることができ、結着剤の混合量を低減させることが可能となる。結着剤は、80℃以上の高温環境下で徐々に分解が進むため、結着剤の混合量を低減させることにより、80℃以上の高温環境下における耐久性を付与することができる。
分散状態の定量的評価については、後述する。
【0065】
(アルカリ金属化合物)
本実施形態に係る正極前駆体の正極活物質層は、アルカリ金属化合物を含む。アルカリ金属化合物は、正極前駆体中で分解して陽イオンを放出し、負極で還元されることにより、負極をプレドープすることが可能である。
正極の正極活物質層には、正極前駆体の正極活物質層に含まれていたアルカリ金属化合物が残存していてもよいし、残存していなくてもよい。正極の正極活物質層に、アルカリ金属化合物が残存している場合、その好ましい含有量については、後述する。
正極前駆体の正極活物質層に含まれるアルカリ金属化合物については後述する。
【0066】
(正極活物質層のその他の成分)
本発明における正極の正極活物質層には、正極活物質、カーボンナノチューブ、及びアルカリ金属化合物の他に、必要に応じて、例えば、分散剤、導電性フィラー、結着剤、Fe原子及びNi原子から選ばれる1種以上の原子、pH調整剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0067】
(分散剤)
分散剤としては、特に制限されるものではないが、例えばカルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、界面活性剤等から選択される1種又は2種以上が好適に用いられる。特に、上記分散剤を2種以上用いることにより、カーボンナノチューブの分散性と塗工液との安定性を両立させることができる。分散剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースと、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールから選択される1種以上と、を含むことが、特に好ましい。
分散安定剤の総使用量は、正極活物質層中の固形分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上7.0質量部以下である。分散安定剤の量が7.0質量部以下であれば、正極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0068】
(導電性フィラー)
導電性フィラーは、正極活物質よりも導電性の高い導電性炭素質材料から成ることが好ましい。このような導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン等、及びこれらの混合物等から選択される1種以上が好ましい。カーボンブラックは、例えば、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等を包含する。黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛等を包含する。導電性フィラーとしては、特にカーボンブラックが好適に用いられる。
正極の正極活物質層における導電性フィラーの混合量は、正極活物質100質量部に対して、0~20質量部が好ましく、1~15質量部の範囲が更に好ましい。導電性フィラーは高入力の観点からはできるだけ多く配合する方が好ましい。しかしながら、配合量が20質量部よりも多くなると、正極活物質層における正極活物質の含有割合が少なくなるために、正極活物質層体積当たりのエネルギー密度が低下するので、好ましくない。
【0069】
(結着剤)
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、ポリイミド、ラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル共重合体等を使用することができる。正極活物質層における結着剤の使用量は、正極活物質100質量部に対して、0~20質量部が好ましく、0.1~15質量部の範囲が更に好ましい。
本実施形態においては、カーボンナノチューブが正極活物質の表面を覆い、正極活物質粒子間を架橋するために、結着剤の使用量を0質量部にすることができる。このことにより、正極活物質層中のイオンの拡散性が向上するため、蓄電素子を高出力化できる。結着剤の量は、20質量部以下であれば、正極の活物質表面上における結着剤量が過剰になることがなく、活物質細孔内のイオンの拡散が促進される。
【0070】
(Fe原子及びNi原子から選ばれる1種以上の原子)
正極活物質層中には、Fe原子及びNi原子から選ばれる1種以上の原子が含まれていてもよい。このばあい、Fe原子及びNi原子の合計の含有濃度は、正極活物質層の全質様を基準として、1ppm以上500ppm以下であることが好ましい。より好ましくは2ppm以上300ppm以下、更に好ましくは3ppm以上200ppm以下である。Fe又はNi原子の含有濃度が1ppm以上の場合、Fe又はNi原子が触媒的にアルカリ金属化合物の分解を促進させることができる。Fe又はNi原子の含有濃度が500ppm以下の場合、溶媒の分解を抑制することで非水系リチウム蓄電素子を高電圧化することができる。
【0071】
(pH調整剤)
正極活物資層形成用の塗工液の溶媒に水を使用する場合には、アルカリ金属化合物を加えることによって塗工液がアルカリ性になることがある。そのため、正極活物資層形成用の塗工液には、必要に応じてpH調整剤を塗工液に添加してもよい。
pH調整剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素;次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸等のハロゲンオキソ酸;蟻酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸;硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、二酸化炭素等の酸等を用いることができる。
【0072】
(正極の正極活物質層の好ましい態様)
本実施形態の非水系リチウム蓄電素子では、負極にアルカリ金属イオンをプレドープすることが予定されている。そのプレドープ方法としては、アルカリ金属化合物を含む正極前駆体、負極、セパレータ、外装体、及び非水系電解液を用いて蓄電素子を組み立てた後に、正極前駆体と負極との間に電圧を印加する方法によることが好ましい。この電圧印加により、正極前駆体内のアルカリ金属化合物が分解されて陽イオンを放出し、この陽イオンが負極で還元されることにより、負極がプレドープされる。
アルカリ金属化合物の分解は、酸化分解反応である。この反応が適切に行われるためには、正極前駆体と非水系電解液との反応面積、及び正極前駆体の電子導電性を、適正に制御することが必要である。
本実施形態の正極前駆体は、このような負極のアルカリ金属ドープ工程を経ることにより、正極となる。
負極へのアルカリ金属ドープ工程を経た正極の正極活物質層中には、アルカリ金属化合物が分解されることによって空孔が形成され、正極活物質層の実効面積が増大している。しかしながら正極の正極活物質層には、負極へのアルカリ金属ドープ工程において、消費されなかったアルカリ金属が残存していてもよい。
【0073】
本実施態様の正極は、好ましくは、
正極集電体と、前記正極集電体の片面又は両面上の正極活物質層とを含む、正極であって、
前記正極活物質層は、正極活物質、カーボンナノチューブ、及び前記正極活物質以外のアルカリ金属化合物を含み、
前記正極活物質は、活性炭を含み、
前記正極の前記正極活物質層の全質量に対する前記アルカリ金属化合物の質量比率をC2(質量%)とするとき、0.1≦C2≦7.0であり、
前記正極の前記正極活物質層表面について、倍率10,000倍で撮影された、1,280×890ピクセル(1ピクセル=9.96nm)のSEM像の二値化画像において、明視野領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円の集合を直径ごとの頻度分布として表したとき、直径100nm未満の最大内接円の合計面積が最大内接円の全面積に占める面積割合Z’2は、7.5%以上35.0%以下である。
【0074】
正極前駆体の正極活物質層中のアルカリ金属化合物は、アルカリ金属ドープ工程において負極のドープ源として使用されるため、該アルカリ金属ドープ工程を経た正極の正極活物質層中のアルカリ金属化合物含有量は、正極前駆体の正極活物質層中のアルカリ金属化合物含有量よりも少なくなる。
正極の正極活物質層の全質量に対するアルカリ金属化合物の質量比率C2(質量%)は、0.1≦C2≦7.0であり、好ましくは0.5≦C2≦6.0であり、より好ましくは1.0≦C2≦5.0であり、更に好ましくは1.5≦C2≦4.5である。
正極の正極活物質層中のアルカリ金属元素の定量は、ICP-AES、原子吸光分析法、蛍光X線分析法、中性子放射化分析法、ICP-MS等により行うことができる。
【0075】
本実施形態の正極では、正極活物質層表面について撮影されたSEM像の二値化画像において、明視野領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円の集合を直径ごとの頻度分布として表したとき、直径100nm未満の最大内接円の面積割合Z’2は、7.5%以上35.0%以下である。この面積割合Z’2は、7.5%以上35.0%以下であり、好ましくは7.7%以上33.0%以下であり、より好ましくは8.0%以上30.0%以下であり、更に好ましくは10.0%以上25.0%以下である。
【0076】
直径100nm未満の最大内接円の合計面積が最大内接円の全面積に占める面積割合Z’2は、正極の正極活物質表面のSEM像を用いて、以下の方法で算出することができる。
正極活物質層の表面について、倍率10,000倍の条件、1,280×960ピクセルの解像度でSEM像を撮影する。次いで、画像下のキャプションを除いた1,280×890ピクセルで画像を切り抜き、ImageJ(オープンソース、パブリックドメインの画像処理ソフトウェア)を使用して以下の条件で処理を行う。
1nm=0.1004ピクセルとして設定し、median filter処理(Radiusを2.0ピクセルとする。)を行い、Otsu(大津)法により定められる閾値をもとにSEM像を二値化する。得られた二値化画像のうち、明視野領域を抽出して、解析に使用する。この明視野領域には、正極活物質層の表面を被覆しているカーボンナーチューブが多く含まれると考えられる。一方の暗視野領域は、正極活物質層の表面凹凸における影に相当する場合が多いので、無視してよい。
明視野階調に属する領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円を想定する。そして、想定された最大内接円の集合を、直径ごとの頻度分布として表す。
【0077】
このとき、複数の最大内接円が重複する部分を有する場合には、重複する最大内接円が、それぞれ、以下の面積を持つものと仮定して、当該面積を、当該最大内接円が完全円であるときの面積で除した値を、当該最大内接円の個数としてカウントする:
(1)重複する前記複数の最大内接円の直径が等しい場合、重複部分の面積は、他の最大内接円と案分する、及び、
(2)重複する前記複数の最大内接円の直径に大小がある場合、重複部分の面積は直径が最大の最大内接円に帰属し、直径が小さい最大内接円の面積は、直径がより大きい他の最大内接円と重複しない部分の面積とする。)
以上の処理により、最大内接円の面積の合計が、明視野領域の面積と一致するように調整される。
以上の操作を行うことにより、最大内接円の直径ごとの頻度分布が得られる。そしてこの頻度分布から、直径100nm未満の最大内接円の面積割合Z’2を求めることができる。
【0078】
実際の操作においては、二値化画像から抽出された領域に対して、ImageJのプラグインであるBoneJのThicknessを実施し、全ピクセルについての最大内接円の直径ごとの頻度分布を得て、これを用いてZ’2を算出する。この操作を、正極活物質表面のSEM像の任意の10視野について実施して、10視野の平均値を、Z’2として採用する。
【0079】
(正極の正極活物質層のX線回折測定)
本実施形態の正極では、更に、正極活物質層について測定されたXRD(X線回折)スペクトルにおいて、2θが25.7°以上27.0°以下の範囲にピークトップを有するピークX1を有し、このピークX1の半値幅が0.1°以上0.5°以下であることが好ましい。ピークX1の2θが25.7°以上であれば、正極活物質粒子間にイオンが拡散し易い空孔が存在している状態であると考えられ、正極活物質層内のイオン拡散が向上することで、高出力化できる。ピークX1の2θが27.0°以下であれば、正極活物質表面をカーボンナノチューブが満遍なく被覆している状態であり、正極活物質内の電子伝導性が高まることで、高出力化できると考えられる。
【0080】
[正極前駆体の正極活物質層]
本実施形態における正極前駆体は、正極集電体と、その片面又は両面上に設けられた、正極活物質を含む正極活物質層とを有する。本実施形態に係る正極活物質層は、正極活物質、カーボンナノチューブ、及び正極活物質以外のアルカリ金属化合物を含み、これら以外の任意成分を含んでいてもよい。
正極前駆体の正極活物質層に含まれる正極活物質、カーボンナノチューブ、及び任意成分は、正極の正極活物質層に含まれる正極活物質、カーボンナノチューブ、及び任意成分として上述したものと同じである。
ここでは、本実施形態の正極前駆体の正極活物質層に必須的に含まれる、正極活物質以外のアルカリ金属化合物について説明する。
【0081】
(正極活物質以外のアルカリ金属化合物)
本実施形態における正極前駆体の正極活物質層に含まれるアルカリ金属化合物としては、例えば、MをLi、Na、K、Rb、Csから選ばれる1種以上として、MO等の酸化物;MOH等の水酸化物;MF、MCl等のハロゲン化物;RCOOM(式中、RはH、アルキル基、アリール基である。)等のカルボン酸塩を例示でき、これらのうちの1種以上を使用してよい。アルカリ金属化合物として、具体的には、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、酸化リチウム、水酸化リチウム等が挙げられる。アルカリ金属化合物としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、及び炭酸セシウムから選択されるアルカリ金属炭酸塩の1種以上が好適に用いられ、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、又は炭酸カリウムがより好適に用いられ、単位質量当たりの容量が高いという観点からは、炭酸リチウムが特に好適に用いられる。
本実施形態に係る正極前駆体としては、少なくとも1種のアルカリ金属化合物を含んでいればよく、
本実施形態に係る正極前駆体は、上記のアルカリ金属化合物に代えて、又は、上記のアルカリ金属化合物とともに、Be、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれるアルカリ土類金属の、炭酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、及びカルボン酸塩から選択される1種以上を、含んでいてもよい。
【0082】
アルカリ金属化合物、及び使用する場合にはアルカリ土類金属化合物は、微粒子状であることが好ましい。
本実施形態において、アルカリ金属化合物の平均粒子径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。平均粒子径が0.1μm以上であれば正極前駆体中での分散性に優れる。平均粒子径が10μm以下であれば、アルカリ金属化合物の表面積が増えるために分解反応が効率よく進行する。
また、アルカリ金属化合物の平均粒子径は、上記で説明された活性炭の平均粒子径より小さいことが好ましい。アルカリ金属化合物の平均粒子径が活性炭の平均粒子径より小さければ、正極活物質層の電子伝導が高まるために、電極体又は蓄電素子の低抵抗化に寄与することができる。
正極前駆体中におけるアルカリ金属化合物の平均粒子径の測定方法については特に限定されないが、正極断面のSEM画像、及びSEM-EDX画像から算出することができる。正極断面の形成方法については、正極上部からArビームを照射し、試料直上に設置した遮蔽板の端部に沿って平滑な断面を作製するBIB加工を用いることができる。
アルカリ金属化合物の微粒子化には、様々な方法を用いることができる。例えば、ボールミル、ビーズミル、リングミル、ジェットミル、ロッドミル等の粉砕機を使用することができる。
【0083】
正極前駆体の正極活物質層に含まれるアルカリ金属化合物の含有割合は、正極活物質の全質量を100質量%としたときに、15.0質量%以上45.0質量%以下であることが好ましい。この値が15.0質量%以上であれば、負極に十分な量のアルカリ金属イオンをプレドープすることができ、非水系リチウム蓄電素子の容量が高まる。この値が45.0質量%以下であれば、正極前駆体中の電子伝導を高めることができるので、アルカリ金属化合物の分解を効率よく行うことができる。
正極前駆体が、アルカリ金属化合物の他に上記2種以上のアルカリ金属化合物、又はアルカリ土類金属化合物を含む場合は、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物の総量を、上記の範囲内であることが好ましい。
ができる。
上記アルカリ金属元素、及びアルカリ土類金属元素の定量は、ICP-AES、原子吸光分析法、蛍光X線分析法、中性子放射化分析法、ICP-MS等により行うことができる。
【0084】
[正極集電体]
本実施形態に係る正極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出及び電解質又はイオンとの反応等による劣化が起こらない材料であれば特に制限はないが、金属箔が好ましい。本実施形態に係る非水系リチウム蓄電素子における正極集電体としては、アルミニウム箔がより好ましい。
金属箔は凹凸又は貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
後述されるプロドープ処理の観点からは、無孔状のアルミニウム箔が更に好ましく、アルミニウム箔の表面が粗面化されていることが特に好ましい。
正極集電体の厚みは、正極の形状及び強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1~100μmが好ましい。
前記金属箔の表面に、例えば黒鉛、鱗片状黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維等の導電性材料を含むアンカー層を設けることが好ましい。アンカー層を設けることで正極集電体と正極活物質層間の電気伝導が向上し、低抵抗化できる。アンカー層の厚みは、正極集電体の片面当たり0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0085】
[正極前駆体の製造]
本実施形態において、非水系リチウム蓄電素子の正極となる正極前駆体は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、正極活物質及びアルカリ金属化合物、並びに必要に応じて使用されるその他の任意成分を水又は有機溶剤中に分散又は溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を正極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより正極前駆体を得ることができる。更に、得られた正極前駆体にプレスを施して、正極活物質層の膜厚又は嵩密度を調整してもよい。
正極活物質層形成用塗工液の調製、正極集電体上への塗工液の塗工、塗膜の乾燥、及びプレスは、それぞれ、負極の製造について後述する方法に準じて行うことができる。
【0086】
本実施形態に係る正極前駆体の正極活物質層の厚みは、正極集電体の片面当たり10μm以上200μm以下であることが好ましい。正極活物質層の厚みは、より好ましくは片面当たり20μm以上100μm以下であり、更に好ましくは30μm以上80μm以下である。この厚みが10μm以上であれば、十分な充放電容量を発現することができる。他方、この厚みが200μm以下であれば、電極内のイオン拡散抵抗を低く維持することができる。そのため、十分な出力特性が得られるとともに、セル体積を縮小することができ、従ってエネルギー密度を高めることができる。
なお、正極集電体が貫通孔又は凹凸を有する場合における正極活物質層の厚みとは、正極集電体の貫通孔又は凹凸を有していない部分の片面当たりの厚みの平均値をいう。
【0087】
上述したように、カーボンナノチューブは正極活物質の表面に均一に分散されていることが好ましい。
カーボンナノチューブを正極活物質の表面に均一分散させる方法としては、例えば、予めカーボンナノチューブの分散液を調製しておき、この分散液中に、正極活物質を添加して混合する方法が例示できる。
分散液は、カーボンナノチューブ及び溶媒とともに、分散剤を含有することが好ましい。溶媒としては、例えば、水、NMP等が挙げられる。分散剤は、正極活物質層に含まれ得る分散剤として上記したものから適宜に選択して使用することができ、カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、界面活性剤等から選択される1種又は2種以上が好適に用いられる。特に、好ましくは、カルボキシメチルセルロースと、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールから選択される1種以上と、を含む分散剤を使用することである。
【0088】
カーボンナノチューブの分散液は、任意の方法によって調製されてよい。例えば、分散剤を溶媒中に溶解させ、得られた溶液に、カーボンナノチューブを混合し、適当な分散手段によって、カーボンナノチューブを分散させる方法によってよい。分散手段としては、例えば、超音波処理、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。このカーボンナノチューブ分散液には、Fe原子及びNi原子から選ばれる1種以上の原子を与える化合物(例えば、酸化鉄(II)、酸化亜鉛等)を含有させてもよい。
こうして得られたカーボンナノチューブ分散液に、正極活物質及びアルカリ金属化合物、並びに必要に応じてその他の任意成分を添加して、混合及び分散することにより、カーボンナノチューブが表面上に均一に分散された正極活物質を含む、正極活物質層形成用塗工液が得られる。
【0089】
カーボンナノチューブを正極活物質の表面に均一分散させることで正極活物質粒子間の電子伝導性及び結着性を高めることができ、結着剤の混合量を低減させることが可能となる。結着材は80℃以上の高温環境下で徐々に分解が進むため、結着材の混合量を低減させることで80℃以上の高温耐久性を付与することができる。
【0090】
正極活物質層形成用塗工液の調製方法は、特に制限されるものではないが、好適にはホモディスパー、多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機を用いて行うことができる。良好な分散状態の塗工液を得るためには、塗工液を、周速1m/s以上50m/s以下で分散することが好ましい。周速1m/s以上であれば、各種材料が良好に溶解又は分散するため好ましい。周速50m/s以下であれば、分散による熱又はせん断力により各種材料が破壊されることなく、再凝集が抑制されるため、好ましい。
【0091】
塗工液の分散度は、粒ゲージで測定した粒度が0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。分散度の上限としては、粒ゲージで測定した粒度として、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは50μm以下である。この範囲の粒度であれば、塗工液の調製時に、材料を破砕することなく、塗工時のノズルの詰まり、塗膜のスジ発生等が抑制され、安定な塗工ができることとなる。
塗工液の粘度(ηb)は、1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは1,500mPa・s以上10,000mPa・s以下、更に好ましくは1,700mPa・s以上5,000mPa・s以下である。粘度(ηb)が1,000mPa・s以上であれば、塗膜形成時の液ダレが抑制され、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。また、粘度が20,000mPa・s以下であれば、塗工機を用いた際の塗工液の流路における圧力損失が少なく、安定に塗工でき、塗膜厚みの制御が容易となる。
塗工液のTI値(チクソトロピーインデックス値)は、1.1以上が好ましく、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.5以上である。TI値が1.1以上であれば、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。
【0092】
正極活物質層の塗膜の形成には、特に制限されるものではないが、好適にはダイコーター又はコンマコーター、ナイフコーター、グラビア塗工機等の塗工機を用いることができる。塗膜は単層塗工で形成してもよいし、多層塗工して形成してもよい。多層塗工の場合には、塗膜各層内の成分の含有量が異なるように塗工液組成を調整してもよい。
正極集電体上に塗膜を塗工する際、多条塗工してもよいし、間欠塗工してもよいし、多条間欠塗工してもよい。
正極集電体の両面に正極活物質層を形成する場合、正極集電体の片面に塗工、乾燥し、その後もう一方の面に塗工、乾燥する逐次塗工を行ってもよいし、正極集電体の両面に同時に塗工液を塗工、乾燥する両面同時塗工を行ってもよい。また、この場合、正極集電体の表面及び裏面の正極活物質層の厚みの差は、両者の平均厚みの10%以下であることが好ましい。表面及び裏面における正極活物質層の質量比、及び膜厚比が1.0に近いほど、一方の面に充放電の負荷が集中することがないため、高負荷充放電サイクル特性が向上する。
【0093】
正極集電体上に正極活物質層の塗膜を形成した後、該塗膜の乾燥を行う。
正極前駆体の塗膜の乾燥は、好ましくは熱風乾燥、赤外線(IR)乾燥等の適宜の乾燥方法により、好ましくは遠赤外線、近赤外線、又は熱風で行なわれる。塗膜の乾燥は、単一の温度で乾燥させてもよいし、多段的に温度を変えて乾燥させてもよい。複数の乾燥方法を組み合わせて乾燥させてもよい。
乾燥温度は、25℃以上200℃以下であることが好ましく、より好ましくは40℃以上180℃以下、更に好ましくは50℃以上160℃以下である。乾燥温度が25℃以上であれば、塗膜中の溶媒を十分に揮発させることが出来る。他方、200℃以下であれば、急激な溶媒の揮発による塗膜のヒビ割れ又はマイグレーションによる結着剤の偏在、正極集電体又は正極活物質層の酸化を抑制できる。
【0094】
乾燥後の正極活物質層に含まれる水分は、正極活物質層の全質量を100質量%としたときに、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。水分量が0.1質量%以上であれば、過剰な乾燥による結着剤の劣化を抑え、低抵抗化できる。水分量が10質量%以下であれば、アルカリ金属イオンの失活を抑え、高容量化できる。
塗工液の調製にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた場合、乾燥後の正極活物質層におけるNMPの含有量は、正極活物質層の全質量を100%としたときに、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
正極活物質層に含まれる水分量は、例えばカールフィッシャー滴定法(JIS 0068(2001)「化学製品の水分測定方法」)により測定することができる。
正極活物質層に含まれるNMP量は、25℃環境下、正極活物質層の質量の50~100倍の質量のエタノールに正極活物質層を24時間含侵させてNMPを抽出し、その後GC/MSを測定し、予め作成した検量線に基づいて定量することができる。
【0095】
正極活物質層のプレスには、好適には、油圧プレス機、真空プレス機、ロールプレス機等の適宜のプレス機を用いることができる。正極活物質層の膜厚、嵩密度及び電極強度は、後述するプレス圧力、プレスロール間の隙間、プレス部の表面温度により調整できる。プレス圧力は0.5kN/cm以上20kN/cm以下が好ましく、より好ましくは1kN/cm以上10kN/cm以下、更に好ましくは2kN/cm以上7kN/cm以下である。プレス圧力が0.5kN/cm以上であれば、電極強度を十分に高くできる。他方、プレス圧力が20kN/cm以下であれば、正極前駆体に撓み及びシワが生じることがなく、正極活物質層を所望の膜厚又は嵩密度に調整できる。
プレスにロールプレス機を使用する場合、プレスロール間の隙間としては、正極活物質層が所望の厚み及び嵩密度となるように、適宜の値を設定できる。
プレス速度は、正極前駆体に撓み及びシワが生じない適宜の速度に設定できる。
【0096】
プレス部の表面温度は室温でもよいし、必要により加熱してもよい。加熱する場合のプレス部の表面温度の下限は、使用する結着剤の融点マイナス60℃以上が好ましく、より好ましくは結着剤の融点マイナス45℃以上、更に好ましくは結着剤の融点マイナス30℃以上である。他方、加熱する場合のプレス部の表面温度の上限は、使用する結着剤の融点プラス50℃以下が好ましく、より好ましくは結着剤融点プラス30℃以下、更に好ましくは結着剤の融点プラス20℃以下である。
例えば、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(融点150℃)を用いる場合、プレス部を90℃以上200℃以下に加温することが好ましく、より好ましく105℃以上180℃以下、更に好ましくは120℃以上170℃以下に加熱することである。また、結着剤にスチレン-ブタジエン共重合体(融点100℃)を用いた場合、プレス部を、40℃以上150℃以下に加温することが好ましく、より好ましくは55℃以上130℃以下、更に好ましくは70℃以上120℃以下に加温することである。
結着剤の融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)の吸熱ピーク位置で求めることができる。例えば、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC7」を用いて、試料樹脂10mgを測定セルにセットし、窒素ガス雰囲気中で、温度30℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温したときに、昇温過程における吸熱ピーク温度が融点となる。
【0097】
プレス圧力、隙間、速度、プレス部の表面温度の条件を変えながら複数回プレスを実施してもよい。
正極活物質層を多条塗工した場合には、プレスの前にスリットすることが好ましい。多条塗工された正極活物質層をスリットせずに正極前駆体のプレスを行うと、正極活物質層が塗工されていない正極集電体部分に過剰の応力が掛かり、皺ができる場合がある。プレス後に、正極活物質層を再度スリットしてもよい。
【0098】
(正極前駆体の正極活物質層のSEM分析)
本実施形態の正極前駆体では、正極活物質層表面について撮影されたSEM像の二値化画像において、明視野領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円の集合を直径ごとの頻度分布として表したとき、9.96nm)のSEM像の二値化画像において、明視野領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円の集合を直径ごとの頻度分布として表したとき、直径100nm未満の最大内接円の合計面積が最大内接円の全面積に占める面積割合Z’1は、5.9%以上28.0%以下である。
本実施形態の正極前駆体では、カーボンナノチューブは、正極活物質層の全体に満遍なく分布していることが好ましい。具体的には、カーボンナノチューブは、少なくとも、正極活物質の表面を満遍なく被覆し、かつ、正極活物質及びアルカリ金属化合物の粒子間を満遍なく被覆していることが好ましい。
正極活物質層表面について撮影されたSEM像の二値化画像における、直径100nm未満の最大内接円の面積割合Z’1が5.9%以上の場合、カーボンナノチューブが正極活物質層の全体に満遍なく分布していると評価することができる。この場合、正極活物質の表面と、正極活物質及びアルカリ金属化合物の粒子間との双方を、繊維径100nm未満のカーボンナノチューブが満遍なく被覆している状態にあると考えられる。正極活物質層がこのような状態にあると、アルカリ金属化合物の分解が促進されるとともに、高温環境下において、蓄電素子の容量低減及び抵抗上昇が抑制される。直径100nm未満の最大内接円の面積割合Z’1が28.0%以下の場合、正極活物質層内のイオンの拡散速度が向上し、正極を低抵抗化できる。
【0099】
カーボンナノチューブが正極活物質の表面に均一分散させることで正極活物質粒子間の電子伝導性及び結着性を高めることができ、結着剤の混合量を低減させることが可能となる。結着材は80℃以上の高温環境下、又は4.1V以上の高電圧環境下で徐々に分解が進むため、結着材の混合量を低減させることで80℃以上の高温耐久性、及び4.1V以上の高電圧耐久性を付与することができる。
正極前駆体の正極活物質層のSEM像からの、面積割合Z’1の算出は、正極の正極活物質層のSEM像からの、直径100nm未満の最大内接円の面積割合Z’2の算出と、同じ手法によって行うことができる。
本発明の正極前駆体では、このような手順で求められたZ’1の値が、5.9%以上28.0%以下である。このZ’1の値は、6.0%以上26.0%であることが好ましく、8.0%以上24.0%以下であることがより好ましく、8.5%以上22.0%以下であることが更に好ましく、特に10.0%以上20.0%以下であることが好ましい。
【0100】
<負極>
本発明の負極は、負極集電体と、その片面又は両面上に存在する負極活物質層とを有する。
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質、カーボンナノチューブ、及び分散剤を含み、これ以外に、必要に応じて、導電性フィラー、結着剤、金属化合物等の任意成分を含んでよい。
【0101】
(負極活物質)
負極活物質は、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な物質を用いることができる。具体的には、炭素材料、チタン酸化物、ケイ素、ケイ素酸化物、ケイ素合金、ケイ素化合物、錫及び錫化合物等が例示される。
本実施態様の負極活物質は炭素材料を含み、好ましくは負極活物質の総量に対する炭素材料の含有率が50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。炭素材料の含有率は、100質量%であることができるが、他の材料の併用による効果を良好に得る観点から、例えば、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下でもよい。炭素材料の含有率の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0102】
また、負極活物質に含まれる炭素材料は、ラマンスペクトルにおいて、Dバンド(1,360cm-1付近)のピークPdのピーク強度Idと、Gバンド(1,580cm-1付近)のピークPgのピーク強度Idとの比Id/Igで表されるR値が、0.6以下である。
本実施形態の非水系リチウム型蓄電素子は、ラマンスペクトルにおけるR値が0.6以下の炭素材料を含む負極活物質を用いることにより、優れた高温保存特性を発揮することとなる。その原理は明らかではないが、R値を0.6以下に調整することにより、負極表面における非水系電解液の分解反応を抑制できるため、高電圧における高温保存特性が向上されるものと推察される。特に、正極前駆体がリチウム化合物を含有する場合、一般的には、高電圧の印加によってリチウム化合物が分解して、負極表面の保護被膜(SEI)を破壊し、高温においてはガス発生し易くなる。しかしながら、0.6以下のR値を示す炭素材料を含む負極活物質を用いると、負極表面でのリチウム化合物の分解が抑制され、その結果、優れた高電圧高温保存特性を発現できるものと推察される。
【0103】
ラマンスペクトルにおける炭素材料のR値は、好ましくは0.05以上0.5以下であり、より好ましくは0.1以上0.45以下であり、更に好ましくは0.15以上0.4以下であり、特に、0.2以上0.35以下であることが好ましい。
炭素材料のラマンスペクトルの測定は、例えば、波長532nmのレーザー光を用いる顕微ラマン分光法によって行われる。
【0104】
負極活物質に含まれる炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素材料;易黒鉛化性炭素材料;カーボンブラック;カーボンナノ粒子;活性炭;人造黒鉛;天然黒鉛;黒鉛化メソフェーズカーボン小球体;黒鉛ウイスカ;ポリアセン系物質等のアモルファス炭素質材料;炭素質材料前駆体を熱処理して得られる炭素質材料;フルフリルアルコール樹脂又はノボラック樹脂の熱分解物;フラーレン;カーボンナノファイバー;及びこれらの複合炭素材料を挙げることができる。炭素質材料前駆体としては、熱処理により炭素質材料となるものであれば特に制限されず、例えば、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、コークス、合成樹脂(例えばフェノール樹脂等)等が挙げられる。
【0105】
これらの中でも、負極の抵抗を低くする観点から、
人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン小球体、黒鉛ウイスカ、高比表面積黒鉛等から選択される黒鉛質材料1種以上と、
石油系のピッチ、石炭系のピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、コークス、合成樹脂(例えばフェノール樹脂等)等の炭素質材料前駆体1種以上と
を共存させた状態で熱処理を行い、黒鉛質材料と炭素質材料前駆体由来の炭素質材料とを複合させた複合炭素材料が好ましい。
炭素質材料前駆体としては、熱処理により炭素質材料となるものであれば特に制限はないが、石油系のピッチ又は石炭系のピッチが特に好ましい。
熱処理を行う前に、炭素質材料前駆体の融点より高い温度において、黒鉛質材料と炭素質材料前駆体とを混合してもよい。熱処理温度は、使用する炭素質材料前駆体の揮発又は熱分解によって発生する成分が炭素質材料となる温度であればよいが、好ましくは400℃以上2,500℃以下、より好ましくは500℃以上2,000℃以下、更に好ましくは550℃以上1,500℃以下である。熱処理を行う雰囲気は特に制限はないが、非酸化性雰囲気が好ましい。
【0106】
複合炭素材料のBET比表面積は、好ましくは1m/g以上50m/g以下、より好ましくは1.5m/g以上40m/g以下、更に好ましくは2m/g以上25m/g以下である。複合炭素材料のBET比表面積が1m/g以上であれば、非水系電解液中のリチウムイオンとの反応サイトを十分に多く確保できるため、高い入出力特性を示すことができる。複合炭素材料のBET比表面積が50m/g以下であれば、リチウムイオンの充放電効率が向上し、かつ充放電中の非水系電解液の還元分解が抑制されるため、高い高負荷充放電サイクル特性を示すことができる。
【0107】
複合炭素材料の平均細孔径は、好ましくは1.5nm以上25nm以下、より好ましくは2nm以上22nm以下、更に好ましくは3nm以上20nm以下、特に好ましくは3.5nm以上18nm以下である。複合炭素材料の平均細孔径が1.5nm以上であれば、非水系電解液中の溶媒和したリチウムイオンのサイズ(約0.9nm~1.2nm)よりも大きい細孔が多いため、複合炭素材料内における溶媒和したリチウムイオンの拡散が良好となり、これを用いた非水系リチウム型蓄電素子は高い入出力特性を示すことができる。他方、複合炭素材料の平均細孔径が25nm以下であれば、これを用いた負極活物質層の嵩密度を十分に向上できるため、高いエネルギー密度を示すことができる。
【0108】
複合炭素材料は、粒子状であってよく、その平均粒子径は、好ましくは1μm以上10μm以下、より好ましくは2μm以上8μm以下、更に好ましくは3μm以上6μm以下である。複合炭素材料の平均粒子径が1μm以上であれば、リチウムイオンの充放電効率を向上できるため、高い高負荷充放電サイクル特性を示すことができる。複合炭素材料の平均粒子径が10μm以下であれば、非水系電解液中のリチウムイオンとの反応サイトが増加するため、高い入出力特性を示すことができる。
【0109】
複合炭素材料における、黒鉛質材料に対する炭素質材料の質量比率は、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは1.2質量%以上15質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以上10質量%以下、より更に好ましくは2質量%以上5質量%以下である。炭素質材料の質量比率が1質量%以上であれば、炭素質材料により非水系電解液中のリチウムイオンとの反応サイトを十分に増加でき、かつリチウムイオンの脱溶媒和も容易となるため、高い入出力特性を示すことができる。炭素質材料の質量比率が20質量%以下であれば、炭素質材料と黒鉛質材料との間のリチウムイオンの固体内拡散を良好に保持できるため、高い入出力特性を示すことができる。また、リチウムイオンの充放電効率が向上できるため、高い高負荷充放電サイクル特性を示すことができる。
【0110】
複合炭素材料の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量は、好ましくは50mAh/g以上700mAh/g以下、より好ましくは70mAh/g以上650mAh/g以下、更に好ましくは90mAh/g以上600mAh/g以下、より更に好ましくは100mAh/g以上550mAh/g以下である。
リチウムイオンをドープすることにより、負極電位が低くなる。従って、リチウムイオンがドープされた複合炭素材料を含む負極を正極と組み合わせた場合には、非水系リチウム型蓄電素子の電圧が高くなるとともに、正極の利用容量が大きくなる。そのため、得られる非水系リチウム型蓄電素子の容量及びエネルギー密度が高くなる。
複合炭素材料の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量が50mAh/g以上であれば、複合炭素材料におけるリチウムイオンを一旦挿入したら脱離し得ない不可逆なサイトにもリチウムイオンが良好にドープされるため、高いエネルギー密度が得られる。ドープ量が多いほど負極電位が下がり、入出力特性、エネルギー密度、及び耐久性は向上する。
複合炭素材料の単位質量当たりのリチウムイオンのドープ量が700mAh/g以下であれば、リチウム金属の析出等の副作用が発生し難くなる。
【0111】
複合炭素材料に用いる黒鉛質材料のBET比表面積は、好ましくは0.5m/g以上80m/g以下、より好ましくは1m/g以上70m/g以下、更に好ましくは1.5m/g以上60m/g以下である。複合炭素材料に用いる黒鉛質材料のBET比表面積が上記範囲であれば、複合炭素材料のBET比表面積を上述する範囲に調整できる。
【0112】
複合炭素材料に用いる黒鉛質材料は、粒子状であってよく、その平均粒子径は、好ましくは1μm以上10μm以下、より好ましくは2μm以上8μm以下である。複合炭素材料に用いる黒鉛質材料の平均粒子径が1μm以上10μm以下の範囲内であれば、複合炭素材料の平均粒子径を上述する範囲に調整できる。
【0113】
複合炭素材料の原料として用いる炭素質材料前駆体とは、熱処理することにより、黒鉛質材料に炭素質材料を複合させることができる、固体、液体、又は溶剤に溶解可能な有機材料である。この炭素質材料前駆体としては、例えば、ピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、コークス、及び合成樹脂、例えばフェノール樹脂等を挙げることができる。これらの炭素質材料前駆体の中でも、安価であるピッチを用いることが、製造コスト上好ましい。ピッチは、大別して石油系ピッチと石炭系ピッチとに分けられる。石油系ピッチとしては、例えば原油の蒸留残査、流動性接触分解残査(デカントオイル等)、サーマルクラッカーに由来するボトム油、ナフサクラッキングの際に得られるエチレンタール等が例示される。
【0114】
負極活物質は粒子状であることが好ましい。
負極前駆体の負極活物質層における負極活物質の含有割合は、負極活物質層の全質量を位基準として、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0115】
(カーボンナノチューブ)
本実施形態に係るカーボンナノチューブとしては、多層カーボンナノチューブが好適に用いられる。カーボンナノチューブの平均繊維径は2nm以上100nm未満であることが好ましく、より好ましくは3nm以上80nm以下である。平均繊維径が2nm以上であればカーボンナノチューブの分散性が向上する。平均繊維径が100nm未満であれば、高出力化することができる。
本実施形態に係るカーボンナノチューブは、例えば、化学気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法等の適宜の方法で合成することができる。
【0116】
負極活物質層中のカーボンナノチューブの含有割合は、負極活物質層の全質量を100質量%としたときに、5.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは6.0質量%以上25.0質量%以下である。
負極活物質層中において、炭素材料及びカーボンナノチューブの合計の含有割合は、負極活物質層の全質量を100質量%としたときに、60.0質量%以上100.0質量%未満であることが好ましく、70質量%以上99.0質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上98.0質量%であることが、更に好ましい。
【0117】
カーボンナノチューブは、負極活物質の表面に均一に分散されていることが好ましい。
カーボンナノチューブを負極活物質の表面に均一分散させることにより、負極活物質粒子間の電子伝導性及び結着性を高めることができ、結着剤の混合量を低減させることが可能となる。結着剤は、80℃以上の高温環境下で徐々に分解が進むため、結着剤の混合量を低減させることにより、80℃以上の高温環境下における耐久性を付与することができる。
分散状態の定量的評価については、後述する。
【0118】
(分散剤)
分散剤としては、特に制限されるものではないが、例えばカルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、界面活性剤等から選択される1種又は2種以上が好適に用いられる。特に、上記分散剤を2種以上用いることにより、カーボンナノチューブの分散性と塗工液との安定性を両立させることができる。分散剤は、例えば、カルボキシメチルセルロースと、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールから選択される1種以上と、を含むことが、特に好ましい。
分散安定剤の総使用量は、負極活物質層中の固形分100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上7.0質量部以下である。分散安定剤の量が7.0質量部以下であれば、負極活物質へのイオンの出入り及び拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0119】
(負極活物質層のその他の成分)
本実施形態に係る負極活物質層は、必要に応じて、負極活物質の他に、結着剤、導電性フィラー等の任意成分を含んでよい。
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、ポリイミド、ラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル共重合体等を使用することができる。負極活物質層における結着剤の使用量は、負極活物質100質量部に対して、0~20質量部が好ましく、0.1~15質量部の範囲が更に好ましい。
本実施形態においては、カーボンナノチューブが負極活物質の表面を覆い、負極活物質粒子間を架橋するために、結着剤の使用量を0質量部にすることができる。このことにより、負極活物質層中のイオンの拡散性が向上するため、蓄電素子を高出力化できる。一方、負極活物質層中にカーボンナノチューブを実質的に含まない場合、又はカーボンナノチューブが解砕されずに凝集している状態において、結着剤の量が0.1質量部以上であれば、負極集電体と負極活物質層との間の密着性が十分に高くなり、集電体と活物質層間との界面抵抗を低くすることができる。一方、結着剤の量が20質量部以下である場合には、負極の活物質表面上を結着剤量が過剰になることがなく、活物質細孔内のイオンの拡散が促進される。
【0120】
上記導電性フィラーは、負極活物質よりも導電性の高い導電性炭素質材料から成ることが好ましい。このような導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン等、及びこれらの混合物等から選択される1種以上が好ましい。カーボンブラックは、例えば、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等を包含する。黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛等を包含する。導電性フィラーとしては、特にカーボンブラックが好適に用いられる。
負極活物質層における導電性フィラーの混合量は、負極活物質100質量部に対して、25質量部以下が好ましく、5質量%以上20質量部以下の範囲がより好ましい。導電性フィラーは、高入力化の観点からは負極活物質層に混合した方が好ましいが、混合量が25質量部以下に留めることが、蓄電素子体積当たりのエネルギー密度を維持する観点から好ましい。
【0121】
金属化合物は、カーボンナノチューブを均一に分散させる目的で、負極活物質層に含まれてよい。
この金属化合物は、Fe原子及びNi原子から選ばれる1種以上の原子を含む化合物が好適に用いられる。このような化合物としては、例えば、Fe原子及びNi原子から選ばれる1種以上の原子を含む、酸化物、水酸化物、水素化物、硫化物、ハロゲン化物、ポルフィリン誘導体、シクロペンタジエニル誘導体等が挙げられる。中でも、Fe原子及びNi原子から選ばれる1種以上の原子を含む酸化物が好ましく、より好ましくは酸化鉄(II)又は酸化ニッケルである。
負極活物質層における金属化合物の含有量は、負極活物質層の全質量に対する金属原子の含有割合(質量ppm)として、1ppm以上500ppm以下であることが好ましい。より好ましくは2ppm以上300ppm以下、更に好ましくは3ppm以上200ppm以下である。
【0122】
[SEI物質]
また、負極活物質層は、表面に固体電解質界面(SEI)を有する。SEI物質としては、例えば、下記式(b):
【化3】
で表されるシュウ酸リチウムを含むことが好ましい。
本実施形態の負極活物質層におけるSEI物質としてのシュウ酸リチウムは、負極活物質層の任意の構成要素により調整することができる。好ましくは非水系電解液の分解生成物として調製されることである。シュウ酸リチウムは、例えば、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩等の化合物を非水系電解液に溶解させ、負極にリチウムイオンをドープすることにより、調製することができる。
【0123】
(負極活物質層のSEM分析)
本実施形態の負極では、負極活物質層表面について撮影されたSEM像の二値化画像において、明視野領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円の集合を直径ごとの頻度分布として表したとき、直径100nm未満の最大内接円の合計面積が最大内接円の全面積に占める面積割合Z1は、3.5%以上25.5%以下である。
本実施形態の負極において、カーボンナノチューブは、負極活物質層の全体に満遍なく分布していることが好ましい。具体的には、カーボンナノチューブは、少なくとも、負極活物質の表面を満遍なく被覆し、かつ、負極活物質の粒子間を満遍なく被覆していることが好ましい。
負極活物質層表面について撮影されたSEM像の二値化画像における、直径100nm未満の最大内接円の面積割合Z1が3.5%以上の場合、カーボンナノチューブが負極活物質層の全体に満遍なく分布していると評価することができる。この場合、負極活物質の表面と、負極活物質の粒子間との双方を、繊維径100nm未満のカーボンナノチューブが満遍なく被覆している状態であると考えられる。負極活物質層がこのような状態にあると、負極活物質粒子間の電子伝導性を高めて高出力化されるとともに、負極活物質表面での電解液の分解が抑制され、高温環境下における容量低減及び抵抗上昇を抑制することができる。直径100nm未満の最大内接円の面積割合Z1が25.5%以下の場合、負極活物質層中のリチウムイオンの拡散が向上し、低抵抗化できる。
【0124】
直径100nm未満の最大内接円の合計面積が最大内接円の全面積に占める面積割合Z1は、負極活物質表面のSEM像を用いて、以下の方法で算出することができる。
負極活物質層の表面について、倍率10,000倍の条件、1,280×960ピクセルの解像度でSEM像を撮影する。次いで、画像下のキャプションを除いた1,280×890ピクセルで画像を切り抜き、ImageJ(オープンソース、パブリックドメインの画像処理ソフトウェア)を使用して以下の条件で処理を行う。
1nm=0.1004ピクセルとして設定し、median filter処理(Radiusを2.0ピクセルとする。)を行い、Otsu(大津)法により定められる閾値をもとにSEM像を二値化する。得られた二値化画像のうち、明視野領域を抽出して、解析に使用する。この明視野領域には、負極活物質層中のカーボンナーチューブが多く含まれると考えられる。一方の暗視野領域は、負極活物質層の表面凹凸における影に相当する場合が多いので、無視してよい。
明視野階調に属する領域中の全ピクセルについて、各ピクセルが内包される最大内接円を想定する。そして、想定された最大内接円の集合を、直径ごとの頻度分布として表す。
【0125】
このとき、複数の最大内接円が重複する部分を有する場合には、重複する最大内接円が、それぞれ、以下の面積を持つものと仮定して、当該面積を、当該最大内接円が完全円であるときの面積で除した値を、当該最大内接円の個数としてカウントする:
(1)重複する前記複数の最大内接円の直径が等しい場合、重複部分の面積は、他の最大内接円と案分する、及び、
(2)重複する前記複数の最大内接円の直径に大小がある場合、重複部分の面積は直径が最大の最大内接円に帰属し、直径が小さい最大内接円の面積は、直径がより大きい他の最大内接円と重複しない部分の面積とする。
以上の処理により、最大内接円の面積の合計が、明視野領域の面積と一致するように調整される。
以上の操作を行うことにより、最大内接円の直径ごとの頻度分布が得られる。そしてこの頻度分布から、直径100nm未満の最大内接円の面積割合Z1を求めることができる。
【0126】
実際の操作においては、二値化画像から抽出された領域に対して、ImageJのプラグインであるBoneJのThicknessを実施し、全ピクセルについての最大内接円の直径ごとの頻度分布を得て、これを用いてZ1を算出する。この操作を、負極活物質表面のSEM像の任意の10視野について実施して、10視野の平均値を、Z1として採用する。
本発明の負極では、このような手順で求められたZ1の値が、3.5%以上25.5%以下である。このZ1値は、4.0%以上23.0%以下であることが好ましく、4.5%以上20.0%以下であることがより好ましく、5.0%以上18.0%以下であることが更に好ましい。
【0127】
また、本実施形態の負極では、負極活物質層表面について、上記と同様に、倍率10,000倍で撮影された、1,280×890ピクセル(1ピクセル=9.96nm)のSEM像の二値化画像において、暗視野領域のうちの、1,000nm以上5,000nm以下の領域の合計面積が、1,000nm以上20,000nm以下の領域の合計面積に占める面積割合Z2が、63.0%以上92.0%以下であることが好ましい。この面積割合Z2が63.0%以上の場合、負極活物質表面に、リチウムイオンが拡散可能な微小な空隙(隣接するカーボンナノチューブに挟まれた微細な間隙)が多数存在し、非水系リチウム蓄電素子を高出力化できる。面積割合Z2が92.0%以下の場合、負極活物質とリチウムイオンとの接触面積が増えるため、蓄電素子を高出力化できる。
【0128】
1,000nm以上5,000nm以下の領域の面積割合Z2を求める方法については、負極活物質層のSEM像の撮影及び二値化までは、100nm未満の最大内接円の面積割合Z1の評価と同様に行うことができる。二値化処理後、得られた二値化画像において、暗視野領域を抽出して、解析に使用する。このとき、明視野領域は、負極活物質表面上に分散されたカーボンナノチューブに相当する凸部の場合が多く、負極活物質表面の微小な空隙とはあまり関係がないので、無視してよい。また、暗視野領域であっても、20,000nm以上の面積の領域は、負極活物質表面上にカーボンナノチューブが存在しない蓋然性が高いため、無視してよい。
次に、抽出された暗視野領域のうちの1,000nm以上20,000nm以下の領域を、面積ごとの頻度分布として表す。
そして、得られた面積ごとの頻度分布から、1,000nm以上5,000nm以下の領域の合計面積が、1,000nm以上20,000nm以下の領域の合計面積に占める面積割合Z2を、求めることができる。
【0129】
実施の操作においては、ImageJのプラグインである、Analyze Particlesを用いて、二値化画像から抽出された暗視野領域すべてについて、面積及び個数を算出し面積分布を得て、Z2を算出する。このとき、画像の外枠に接している領域は除外する。この操作を、負極活物質表面のSEM像の任意10視野について実施して、10視野の平均値をZ2として採用する。
本発明の負極では、このような手順で求められたZ2の値が、63.0%以上92.0%以下であることが好ましく、64.0%以上85.0%以下であることがより好ましく、65.5%以上80.0%以下であることが更に好ましい。
【0130】
(負極活物質層のX線回折測定)
本実施形態の負極では、更に、負極活物質層について測定されたXRD(X線回折)スペクトルにおいて、2θが26.2°以上26.5°以下の範囲にピークトップを有するピークY1を有し、このピークY1の半値幅が0.1°以上0.5°以下であることが好ましい。ピークY1の2θが26.2°以上であれば、負極活物質粒子間にイオンが拡散し易い空孔が存在している状態であると考えられ、負極活物質層内のイオン拡散が向上することで高出力化できる。ピークY1の2θが26.5°以下であれば、負極活物質表面、及び負極活物質の粒子間の双方をカーボンナノチューブが満遍なく被覆している状態であり、負極活物質内の電子伝導性が高まることで高出力化できると考えられる。
【0131】
[負極集電体]
本実施形態に係る負極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出、電解質又はイオンとの反応による劣化等が起こらない材料であることが好ましく、例えば金属箔であってよい。このような金属箔としては、特に制限はなく、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔等が挙げられる。本実施形態に係る非水系リチウム蓄電素子における負極集電体としては、銅箔が好ましい。
負極集電体としての金属箔は、凹凸又は貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
負極集電体の厚みは、負極の形状及び強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1~100μmである。
【0132】
[負極の製造]
負極は、負極集電体の片面上又は両面上に負極活物質層を有して成る。典型的な態様において負極活物質層は負極集電体に固着している。
負極は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、負極活物質を含む各種材料を水又は有機溶剤中に分散又は溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を負極集電体上の片面又は両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより、負極を得ることができる。更に得られた負極にプレスを施して、負極活物質層の膜厚又は嵩密度を調整してもよい。
【0133】
上述したように、カーボンナノチューブは負極活物質の表面に均一に分散されていることが好ましい。
カーボンナノチューブを負極活物質の表面に均一分散させる方法としては、例えば、予めカーボンナノチューブの分散液を調製しておき、この分散液中に、負極活物質を添加して混合する方法が例示できる。
分散液は、カーボンナノチューブ及び溶媒とともに、分散剤を含有することが好ましい。溶媒としては、例えば、水、NMP等が挙げられる。分散剤は、負極活物質層に含まれ得る分散剤として上記したものから適宜に選択して使用することができ、カルボキシメチルセルロース、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、界面活性剤等から選択される1種又は2種以上が好適に用いられる。特に、好ましくは、カルボキシメチルセルロースと、ポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールから選択される1種以上と、を含む分散剤を使用することである。
【0134】
カーボンナノチューブの分散液は、任意の方法によって調製されてよい。例えば、分散剤を溶媒中に溶解させ、得られた溶液に、カーボンナノチューブを混合し、適当な分散手段によって、カーボンナノチューブを分散させる方法によってよい。分散手段としては、例えば、超音波処理、ボールミル、ビーズミル等が挙げられる。
負極活物質層形成用塗工液は、上記のカーボンナノチューブ分散液に、必要に応じて負極活物質等のその他の成分を添加することにより、調製されてよい。
このような塗工液を用いて形成された負極活物質層では、カーボンナノチューブが負極活物質の表面、及び負極活物質の粒子間に均一分散され、これらを満遍なく被覆することになる。このことにより、負極活物質粒子間の電子伝導性及び結着性を高めることができるので、負極活物質層中の結着剤の混合量を低減させることが可能となる。結着材は80℃以上の高温環境下で徐々に分解が進むため、結着材の混合量を低減させることで80℃以上の高温耐久性を付与することができる。
【0135】
負極活物質層形成用塗工液の調製方法は、特に制限されるものではないが、好適にはホモディスパー、多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機を用いて行うことができる。良好な分散状態の塗工液を得るためには、塗工液を、周速1m/s以上50m/s以下で分散することが好ましい。周速1m/s以上であれば、各種材料が良好に溶解又は分散するため好ましい。周速50m/s以下であれば、分散による熱又はせん断力により各種材料が破壊されることなく、再凝集が抑制されるため、好ましい。
【0136】
塗工液の分散度は、粒ゲージで測定した粒度が0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。分散度の上限としては、粒ゲージで測定した粒度として、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは50μm以下である。この範囲の粒度であれば、塗工液の調製時に、材料を破砕することなく、塗工時のノズルの詰まり、塗膜のスジ発生等が抑制され、安定な塗工ができることとなる。
塗工液の粘度(ηb)は、1,000mPa・s以上20,000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは1,500mPa・s以上10,000mPa・s以下、更に好ましくは1,700mPa・s以上5,000mPa・s以下である。粘度(ηb)が1,000mPa・s以上であれば、塗膜形成時の液ダレが抑制され、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。また、粘度が20,000mPa・s以下であれば、塗工機を用いた際の塗工液の流路における圧力損失が少なく、安定に塗工でき、塗膜厚みの制御が容易となる。
塗工液のTI値(チクソトロピーインデックス値)は、1.1以上が好ましく、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.5以上である。TI値が1.1以上であれば、塗膜幅及び厚みが良好に制御できる。
【0137】
負極活物質層の塗膜の形成には、特に制限されるものではないが、好適にはダイコーター又はコンマコーター、ナイフコーター、グラビア塗工機等の塗工機を用いることができる。塗膜は単層塗工で形成してもよいし、多層塗工して形成してもよい。多層塗工の場合には、塗膜各層内の成分の含有量が異なるように塗工液組成を調整してもよい。
負極集電体上に塗膜を塗工する際、多条塗工してもよいし、間欠塗工してもよいし、多条間欠塗工してもよい。
負極集電体の両面に負極活物質層を形成する場合、負極集電体の片面に塗工、乾燥し、その後もう一方の面に塗工、乾燥する逐次塗工を行ってもよいし、負極集電体の両面に同時に塗工液を塗工、乾燥する両面同時塗工を行ってもよい。また、この場合、負極集電体の表面及び裏面の負極活物質層の厚みの差は、両者の平均厚みの10%以下であることが好ましい。表面及び裏面における負極活物質層の質量比、及び膜厚比が1.0に近いほど、一方の面に充放電の負荷が集中することがないため、高負荷充放電サイクル特性が向上する。
【0138】
負極集電体上に負極活物質層の塗膜を形成した後、該塗膜の乾燥を行う。
負極前駆体の塗膜の乾燥は、好ましくは熱風乾燥、赤外線(IR)乾燥等の適宜の乾燥方法により、好ましくは遠赤外線、近赤外線、又は熱風で行なわれる。塗膜の乾燥は、単一の温度で乾燥させてもよいし、多段的に温度を変えて乾燥させてもよい。複数の乾燥方法を組み合わせて乾燥させてもよい。
乾燥温度は、25℃以上200℃以下であることが好ましく、より好ましくは40℃以上180℃以下、更に好ましくは50℃以上160℃以下である。乾燥温度が25℃以上であれば、塗膜中の溶媒を十分に揮発させることが出来る。他方、200℃以下であれば、急激な溶媒の揮発による塗膜のヒビ割れ又はマイグレーションによる結着剤の偏在、負極集電体又は負極活物質層の酸化を抑制できる。
【0139】
乾燥後の負極活物質層に含まれる水分は、負極活物質層の全質量を100質量%としたときに、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。水分量が0.1質量%以上であれば、過剰な乾燥による結着剤の劣化を抑え、低抵抗化できる。水分量が10質量%以下であれば、アルカリ金属イオンの失活を抑え、高容量化できる。
塗工液の調製にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた場合、乾燥後の負極活物質層におけるNMPの含有量は、負極活物質層の全質量を100%としたときに、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
負極活物質層に含まれる水分量は、例えばカールフィッシャー滴定法(JIS 0068(2001)「化学製品の水分測定方法」)により測定することができる。
負極活物質層に含まれるNMP量は、25℃環境下、負極活物質層の質量の50~100倍の質量のエタノールに負極活物質層を24時間含侵させてNMPを抽出し、その後GC/MSを測定し、予め作成した検量線に基づいて定量することができる。
【0140】
負極活物質層のプレスには、好適には、油圧プレス機、真空プレス機、ロールプレス機等の適宜のプレス機を用いることができる。負極活物質層の膜厚、嵩密度及び電極強度は、後述するプレス圧力、プレスロール間の隙間、プレス部の表面温度により調整できる。プレス圧力は0.5kN/cm以上20kN/cm以下が好ましく、より好ましくは1kN/cm以上10kN/cm以下、更に好ましくは2kN/cm以上7kN/cm以下である。プレス圧力が0.5kN/cm以上であれば、電極強度を十分に高くできる。他方、プレス圧力が20kN/cm以下であれば、負極に撓み及びシワが生じることがなく、負極活物質層を所望の膜厚又は嵩密度に調整できる。
プレスにロールプレス機を使用する場合、プレスロール間の隙間としては、負極活物質層が所望の厚み及び嵩密度となるように、適宜の値を設定できる。
プレス速度は、負極に撓み及びシワが生じない適宜の速度に設定できる。
【0141】
プレス部の表面温度は室温でもよいし、必要により加熱してもよい。加熱する場合のプレス部の表面温度の下限は、使用する結着剤の融点マイナス60℃以上が好ましく、より好ましくは結着剤の融点マイナス45℃以上、更に好ましくは結着剤の融点マイナス30℃以上である。他方、加熱する場合のプレス部の表面温度の上限は、使用する結着剤の融点プラス50℃以下が好ましく、より好ましくは結着剤融点プラス30℃以下、更に好ましくは結着剤の融点プラス20℃以下である。
例えば、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(融点150℃)を用いる場合、プレス部を90℃以上200℃以下に加温することが好ましく、より好ましく105℃以上180℃以下、更に好ましくは120℃以上170℃以下に加熱することである。また、結着剤にスチレン-ブタジエン共重合体(融点100℃)を用いた場合、プレス部を、40℃以上150℃以下に加温することが好ましく、より好ましくは55℃以上130℃以下、更に好ましくは70℃以上120℃以下に加温することである。
結着剤の融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)の吸熱ピーク位置で求めることができる。例えば、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC7」を用いて、試料樹脂10mgを測定セルにセットし、窒素ガス雰囲気中で、温度30℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温したときに、昇温過程における吸熱ピーク温度が融点となる。
【0142】
プレス圧力、隙間、速度、プレス部の表面温度の条件を変えながら複数回プレスを実施してもよい。
負極活物質層を多条塗工した場合には、プレスの前にスリットすることが好ましい。多条塗工された負極活物質層をスリットせずに負極のプレスを行うと、負極活物質層が塗工されていない負極集電体部分に過剰の応力が掛かり、皺ができる場合がある。プレス後に、負極活物質層を再度スリットしてもよい。
【0143】
負極活物質層の厚みは、好ましくは片面当たり10μm以上70μm以下であり、より好ましくは20μm以上60μm以下である。この厚みが10μm以上であれば、良好な充放電容量を発現することができる。他方、この厚みが70μm以下であれば、セル体積を縮小することができるから、エネルギー密度を高めることができる。
負極集電体に孔がある場合の負極活物質層の厚みとは、それぞれ、負極集電体の孔を有していない部分の片面当たりの厚みの平均値をいう。
【0144】
〈非水系電解液〉
本実施形態の非水系リチウム蓄電素子において、電解液は非水系電解液である。すなわち、この電解液は、有機溶媒(非水溶媒)を含み、実質的に水を含まない。非水系電解液は、リチウム塩電解質を含有する。すなわち、非水系電解液は、このリチウム塩電解質に由来するリチウムイオンを電解質として含む。
【0145】
[リチウム塩]
前記非水系電解液は、リチウム塩電解質として、
(A)LiPF、及びLiBFのうち少なくとも1種のリチウム塩と、に
(B)イミド構造を有するリチウム塩と、
(C)オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩と
を含有し、かつ、
前記非水系電解液において、(A)成分の質量及び(B)成分の質量の合計に対する(C)成分の質量の割合は1.0質量%以上10.0質量%以下の範囲である。この割合が1.0質量%以上であれば、負極表面への固体電解質界面(SEI)物質の形成能力が、効果的に発揮されるため、高温での耐久性に優れる非水系リチウム蓄電素子が得られる。ただし、(C)オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩の量が多すぎると、電解液の抵抗が上昇して、入力特性が悪化する。この点、(A)成分の質量及び(B)成分の質量の合計に対する(C)成分の質量の割合が10.0%以下であれば、電解液の抵抗を低く維持することができ、入力特性が低下しない。
【0146】
本実施形態の電解液は、(A)成分として、LiPF、及びLiBFのうち少なくとも1種のリチウム塩を含有する。
【0147】
本実施形態の電解液に含有される(B)成分のイミド構造を有するリチウム塩は、下記式(a):
【化4】
{式(a)中、R及びRは、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、又はハロゲン化アルキル基であり、これらのうちの少なくとも1つはハロゲン原子又はハロゲン化アルキル基である。}で表されるイミド構造を有するリチウム塩であることが好ましい。
【0148】
前記イミド構造を有するリチウム塩が、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びリチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドから成る群から選ばれるリチウム塩であるとき、優れた入出力特性を得ることができることから、好ましい。
【0149】
本実施形態の電解液は、(C)成分として、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩を含有する。オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩としては、例えば、リチウムビスオキサレートボレート、リチウムフルオロオキサレートボレート、リチウムジフルオロオキサレートボレート等を挙げることができ、これらのうちから選ばれる1種以上を用いることができる。これにより、負極界面に電解質被膜が形成され、負極表面への固体電解質界面(SEI)物質から成る保護被膜(SEI皮膜)形成能力が効果的に発揮されるため、優れた高温耐久性を得ることができる。
【0150】
非水系電解液中のリチウム塩電解質の総濃度は、非水系電解液の総量を基準として、0.5mol/L以上であることが好ましく、0.5mol/L以上2.0mol/L以下の範囲がより好ましい。リチウム塩電解質の濃度が0.5mol/L以上であれば、陰イオンが十分に存在するので、蓄電素子の容量を十分高くできる。リチウム塩電解質の濃度が2.0mol/L以下である場合、未溶解のリチウム塩が非水系電解液中に析出すること、及び電解液の粘度が高くなり過ぎることを防止でき、伝導度が低下せず、出力特性も低下しないため好ましい。
【0151】
本実施形態における非水系電解液に含まれる非水溶媒としては、例えば、環状カーボネート、鎖状カーボネート等が挙げられる。
環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等に代表されるアルキレンカーボネート化合物が挙げられる。アルキレンカーボネート化合物は、典型的には非置換である。
【0152】
鎖状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート等に代表されるジアルキルカーボネート化合物が挙げられる。ジアルキルカーボネート化合物は、典型的には非置換である。その中でも、高温保存における耐久性の観点から、沸点が低く、耐熱性に劣るジメチルカーボネートを用いないことが好ましい。また、エチレンカーボネートは還元分解された後に負極表面にSEI被膜を形成し、高温及び高電圧での耐久性に優れる非水系リチウム蓄電素子が得られるため、好ましい。プロピレンカーボネートは融点が低いため、低温環境下での非水系電解液の凝固又は非水溶媒成分の析出が生じ難いため、好ましい。エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを混合して用いる場合には、エチレンカーボネートをプロピレンカーボネートよりも多く含むことが、エチレンカーボネートの負極表面へのSEI被膜形成能力が効果的に発揮されることとなるため、好ましい。
【0153】
本実施形態における非水溶媒は、好ましくは、環状カーボネート及び鎖状カーボネートの双方を含有する。非水系電解液が環状カーボネート及び鎖状カーボネートを含有することは、所望の濃度のリチウム塩を溶解させる点、及び高いリチウムイオン伝導度を発現する点で有利である。
環状カーボネート及び鎖状カーボネートの合計含有量は、非水系電解液の総質量を基準として、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。環状カーボネート及び鎖状カーボネートの合計含有量が50質量%以上であれば、所望の濃度のリチウム塩を溶解させることが容易であり、高いリチウムイオン伝導度を発現することができ、95質量%以下であれば、電解液が、後述する添加剤を更に含有することが容易となる。上記合計濃度の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0154】
[添加剤]
本実施形態における非水系電解液は、ニトリル化合物、エーテル化合物等から選ばれる添加剤を、更に含有してもよい。
ニトリル化合物におけるシアノ基の数は、好ましくは1個以上6個以下であり、より好ましくは1個以上4個以下である、更に好ましくは1個以上3個以下である、更に好ましくは3個である。
ニトリル化合物は、分子状の化合物であっても、塩の形態をとっていてもよい。
シアノ基を1個有する分子状のニトリル化合物としては、例えば、下記式(Cy1):
【化5】
{式(Cy1)中、aは0又は1であり、bは1~6の整数である。}で表される化合物が挙げられる。bは、1~4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。式(Cy1)で表される化合物として、具体的には、例えば、アセトニトリル(a=0、b=1)、メトキシアセトニトリル(a=1、b=1)、3-メトキシプロピオニトリル(a=1、b=2)等が挙げられる。
【0155】
シアノ基を2個有する分子状のニトリル化合物としては、例えば、下記式(Cy2):
【化6】
{式(Cy2)中、cは1~8の整数である。}で表される化合物が挙げられる。cは、1~6の整数であることが好ましく、2~4の整数であることがより好ましい。式(Cy2)で表される化合物として、具体的には、例えば、スクシノニトリル(c=2)、グルタロニトリル(c=3)、アジポニトリル(c=4)等が挙げられる。
シアノ基を3個有する分子状のニトリル化合物としては、例えば、2―アミノ―1,1,3-トリシアノ-1-プロペン等が挙げられる。
【0156】
塩の形態をとっているニトリル化合物としては、例えば、トリシアノメタニドアニオン、4,5-ジシアノ-2-(パーフルオロアルキル)イミダゾールアニオン等と、そのカウンターカチオンとから構成される塩が挙げられる。4,5-ジシアノ-2-(パーフルオロアルキル)イミダゾールアニオンにおけるパーフルオロアルキル基は、好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数1~4、更に好ましくは炭素数1~3のパーフルオロアルキル基であってよく、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘキサフルオロプロピル基、ヘキサフルオロイソプロピル基等であってよい。
塩の形態をとっているニトリル化合物におけるカウンターカチオンとしては、例えば、リチウムイオン、下記式(Im1):
【化7】
{式(Im1)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基である。}で表されるカチオンが挙げられる。式(Im1)中のRのアルキル基は、炭素数1~4のアルキル基が好ましく、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。式(Im1)で表されるカチオンとして、好ましくは、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3,4,5-トリメチルイミダゾリウムカチオン、1-ブチル-3,4,5-トリメチルイミダゾリウムカチオン等が挙げられる。
【0157】
塩の形態をとっているニトリル化合物の具体例としては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド、1-エチル-3,4,5-トリメチルイミダゾリウムトリシアノメタニド、1-ブチル-3,4,5-トリメチルイミダゾリウムトリシアノメタニド、リチウム トリシアノメタニド等が挙げられる。
【0158】
本発明におけるニトリル化合物としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2―アミノ―1,1,3-トリシアノ-1-プロペン、1-ブチル―3-メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド、リチウム4,5-ジシアノ―2-(トリフルオロメチル)イミダゾール、及びリチウム トリシアノメタニドから成る群から選択される1種以上が好ましい。
【0159】
本発明におけるトリニトリル化合物としては、2―アミノ―1,1,3-トリシアノ-1-プロペン、1-ブチル―3-メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド、及びリチウム トリシアノメタニドから成る群から選択される1種以上が好ましい。
【0160】
非水系電解液がこのようなニトリル化合物を含有すれば、優れた保存特性を示す蓄電素子を得ることができる。非水系電解液中におけるニトリル化合物の含有量は、5モル/L以下とすることが好ましく、0.1モル/L以上5モル/L以下がより好ましい。
【0161】
エーテル化合物としては、例えば、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1.3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。非水系電解液がこれらのエーテル化合物を含有すれば、優れた入出力特性を示す蓄電素子を得ることができる。非水系電解液中におけるエーテル化合物の含有量は、1モル/L以上10モル/L以下が好ましい。
【0162】
(水分)
本実施形態に係る非水系電解液は、水を実質的に含有しない。非水系電解液が水を実質的に含有しないとは、当該非水系電解液中の水含量が、200ppm以下であることを意味する。非水系電解液中の水含量は、100ppm以下、50ppm以下、又は10ppm以下であってもよく、水を全く含有していなくてもよい。
【0163】
〈セパレータ〉
正極前駆体及び負極は、セパレータを介して積層され、又は積層及び捲回され、正極前駆体、セパレータ、及び負極を有する電極積層体又は電極捲回体が形成される。
セパレータとしては、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等に用いられるセパレータを好適に用いることができる。
【0164】
[セパレータの構成材料]
本実施形態におけるセパレータとして、好ましくは、ポリオレフィン、セルロース、及びアラミド樹脂から成る群から選択される少なくとも1種を含むセパレータである。
本実施形態の1つの形態として、アラミド樹脂、又は無機微粒子を含むコート層を含むセパレータが好ましい。これら材料を含むセパレータは、高温(例えば85℃以上)に保持されたときでも、収縮が起こり難く、非水系電解液の保液性を維持することができ、非水系リチウム蓄電素子の低抵抗性を保つことができるため、好ましい。
【0165】
本実施形態における好ましいセパレータとして、例えば、ポリオレフィン製微多孔膜を含むセパレータ、ポリオレフィン製微多孔膜の少なくとも一方の面に無機微粒子を含むコート層を有する積層体であるセパレータ、ポリオレフィン製微多孔膜の少なくとも一方の面にアラミド樹脂を含むコート層を有する積層体であるセパレータ、セルロース製の不織紙を含むセパレータ等を例示できる。
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等が挙げられる。アラミド樹脂は、パラ系アラミド樹脂、メタ系アラミド樹脂等であってよい。
ポリオレフィン製微多孔膜、無機微粒子を含むコート層、アラミド樹脂を含むコート層、及びセルロース製の不織紙は、それぞれ、単層であっても多層から成る積層体であってもよい。
セパレータの内部に有機又は無機の微粒子が含まれていてもよい。
【0166】
[セパレータの厚み]
セパレータの厚みは、5μm以上35μm以下が好ましい。セパレータを5μm以上の厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため、好ましい。セパレータを35μm以下の厚みとすることにより、非水系リチウム蓄電素子の入出力特性が高くなる傾向があるため、好ましい。セパレータの厚みは、より好ましくは10μm以上30μm以下であり、更に好ましくは15μm以上25μm以下である。
なお、セパレータがコート層を有する場合、上記のセパレータの厚みは、コート層を含めたセパレータ全体の厚みである。
【0167】
[外装体]
外装体としては、例えば、金属缶、ラミネート包材等を使用できる。金属缶としては、アルミニウム製のものが好ましい。ラミネート包材としては、金属箔と樹脂フィルムとを積層したフィルムが好ましく、外層樹脂フィルム/金属箔/内装樹脂フィルムから構成される3層構成のものが例示される。外層樹脂フィルムは、接触等により金属箔が損傷を受けることを防止するためのものであり、ナイロン、ポリエステル等の樹脂が好適に使用できる。金属箔は水分及びガスの透過を防ぐためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。内装樹脂フィルムは、内部に収納する非水系電解液から金属箔を保護するとともに、外装体のヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン、酸変成ポリオレフィン等が好適に使用できる。
【0168】
《非水系リチウム蓄電素子の製造方法》
本実施形態の非水系リチウム蓄電素子は、例えば、電極積層体又は電極捲回体を、非水系電解液とともに外装体内に収納し、次いでリチウムドープ、エージング、及びガス抜きを順次に実施することで製造することができる。以下、非水系リチウム蓄電素子の例示的な製造方法を説明する。
【0169】
〈組立〉
[電極積層体又は電極捲回体]
組立工程では、典型的には、枚葉の形状にカットした正極前駆体及び負極を、セパレータを介して積層して電極積層体を得て、電極積層体に正極端子及び負極端子を接続する。あるいは、正極前駆体及び負極を、セパレータを介して積層及び捲回して電極捲回体を得て、電極捲回体に正極端子及び負極端子を接続する。電極捲回体の形状は円筒型であっても、扁平型であってもよい。
【0170】
電極積層体又は電極捲回体と、正極端子及び負極端子との接続の方法は特に限定されず、抵抗溶接、超音波溶接等の方法で行うことができる。
【0171】
[外装体への収納]
乾燥した電極積層体又は電極捲回体は、金属缶、ラミネート包材等に代表される外装体の中に収納し、開口部を1方だけ残した状態で封止することが好ましい。外装体の封止方法は特に限定されず、ラミネート包材を用いる場合は、ヒートシール、インパルスシール等の方法を用いることができる。
【0172】
[乾燥]
外装体へ収納した電極積層体又は電極捲回体は、乾燥することで残存溶媒を除去することが好ましい。乾燥方法は限定されず、真空乾燥等により乾燥することができる。残存溶媒は、正極活物質層又は負極活物質層の質量あたり、1.5質量%以下が好ましい。残存溶媒が1.5質量%以下であれば、自己放電特性及びサイクル特性が低下し難いため好ましい。
【0173】
〈注液、含浸、及び封止〉
乾燥された電極積層体又は電極捲回体が収納された外装体中に、非水系電解液を注液する。注液後に、正極前駆体、負極、及びセパレータを非水系電解液で十分に含浸することが望ましい。正極前駆体、負極、及びセパレータのうちの少なくとも一部に非水系電解液が浸っていない状態では、後述するリチウムドープ工程において、ドープが不均一に進んで、得られる非水系リチウム蓄電素子の抵抗が上昇し、又は耐久性が低下する場合があり、好ましくない。
含浸方法としては、特に制限されないが、例えば、注液後の非水系リチウム蓄電素子を、外装体が開口した状態で、減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にし、再度大気圧に戻す方法等を用いることができる。含浸後には、開口した状態の外装体を減圧しながら封止することで密閉する。
【0174】
[リチウムドープ工程]
リチウムドープ工程では、正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、正極前駆体中のリチウム化合物を分解してリチウムイオンを放出し、負極でこのリチウムイオンを還元することにより、負極活物質層にリチウムイオンをプレドープすることが好ましい。
リチウムドープ工程において、正極前駆体中のリチウム化合物の酸化分解に伴って、CO等のガスが発生する。そのため、電圧を印加する際には、発生したガスを外装体の外部に放出する手段を講ずることが好ましい。この手段としては、例えば、外装体の一部を開口させた状態で電圧を印加する方法;外装体の一部に予めガス抜き弁、ガス透過フィルム等の適宜のガス放出手段を設置した状態で電圧を印加する方法;等を挙げることができる。
【0175】
〈エージング〉
リチウムドープ後に、非水系リチウム蓄電素子にエージングを行うことが好ましい。エージングでは、非水系電解液中の有機溶媒が負極で分解し、負極表面にリチウムイオン透過性の固体電解質界面(SEI)物質の被膜が形成される。
良好なSEI物質を効率よく形成させるためのエージングの方法については、後述する。
【0176】
〈ガス抜き〉
エージング後に、更にガス抜きを行い、非水系電解液、正極、及び負極中に残存しているガスを確実に除去することが好ましい。非水系電解液、正極、及び負極の少なくとも一部にガスが残存している状態では、イオン伝導が阻害されるため、得られる非水系リチウム蓄電素子の抵抗が上昇する懸念がある。
【0177】
ガス抜きの方法としては、特に制限されず、例えば、外装体を開口した状態で非水系リチウム蓄電素子を減圧チャンバー内に設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にする方法等を用いることができる。
【0178】
《非水系リチウム蓄電素子の特性評価》
以下、本実施形態の非水系リチウム蓄電素子の特性評価の方法について説明する。
【0179】
〈Cレート〉
以下における電流のCレートとは、上限電圧から下限電圧まで定電流放電を行う際、1時間で放電が完了する電流値のことを1Cとした相対値をいう。
【0180】
〈放電容量〉
本明細書中、放電容量Qとは、以下の方法によって得られる値である。
先ず、非水系リチウム蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、20Cの電流値でVmaxに到達するまで定電流充電を行い、次いで、Vmaxの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行う。その後、Vminまで2Cの電流値で定電流放電を施す。このときの放電容量を、本実施形態における放電容量Q(mAh)とする。
【0181】
(静電容量)
本明細書では、静電容量F(F)とは、以下の方法によって得られる値である。
先ず、非水系リチウム蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、2Cの電流値でVmaxに到達するまで定電流充電を行い、続いてVmaxの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行う。その後、Vminまで2Cの電流値で定電流放電を施した際の容量をQとする。ここで得られたQを用いて、静電容量F=Q/(Vmax-Vmin)により算出される値をいう。
【0182】
〈常温放電内部抵抗〉
本明細書では、常温放電内部抵抗Ra(Ω)とは、以下の方法によって得られる値である。
先ず、非水系リチウム蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、20Cの電流値でVmaxに到達するまで定電流充電し、続いてVmaxの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行う。続いて、サンプリング間隔を0.05秒とし、20Cの電流値でVminまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間-電圧)を得る。この放電カーブにおいて、放電時間1秒及び2秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとしたときに、降下電圧ΔE=Vmax-Eo、及びRa=ΔE/(20C(電流値A))により算出される値である。
Ra(Ω)は、大電流に対して十分な充電容量と放電容量を発現させる観点から、3.0(mΩ)以下であることが好ましい。Ra(Ω)が上記の上限値以下であれば、優れた出力特性を得ることができる。
【0183】
(電力量)
本明細書では、電力量E(Wh)とは、以下の方法によって得られる値である。
先に述べた方法で算出された静電容量F(F)を用いて、下記数式:
F×(Vmax-Vmin)/2/3,600
により算出される値をいう。
【0184】
(体積)
蓄電素子の体積V(L)は、外装体のうちの、電極積層体又は電極捲回体が収納された部分の体積を指す。
【0185】
例えば、ラミネートフィルムによって収納された電極積層体又は電極捲回体の場合は、典型的には、電極積層体又は電極捲回体のうち、正極活物質層及び負極活物質層が存在する領域が、カップ成形されたラミネートフィルムの中に収納される。この蓄電素子の体積(V)は、このカップ成形部分の外寸長さ(l)と外寸幅(w)、及びラミネートフィルムを含めた蓄電素子の厚み(t)を用いて、下記数式:
=l×w×t
によって計算される。
【0186】
角型の金属缶に収納された電極積層体又は電極捲回体の場合は、蓄電素子の体積としては、単にその金属缶の外寸での体積を用いる。すなわち、この蓄電素子の体積(V)は、角型の金属缶の外寸長さ(l)と外寸幅(w)、外寸厚み(t)を用いて、下記数式:
=l×w×t
によって計算される。
【0187】
円筒型の金属缶に収納された電極捲回体の場合においても、蓄電素子の体積としては、その金属缶の外寸体積を用いる。すなわち、この蓄電素子の体積(V)は、円筒型の金属缶の底面又は上面の外寸半径(r)、外寸長さ(l)を用いて、下記数式:
=3.14×r×r×l
によって計算される。
【0188】
〈高温保存試験〉
本願明細書において、高温保存試験の後の常温放電内部抵抗上昇率は、以下の方法によって測定する。
【0189】
先ず、非水系リチウム蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vとしたときの常温内部抵抗Raを測定する。その後、セルを100Cの電流値で任意電圧4.0Vに到達するまで定電流充電し、続いて4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を10分間行う。その後、セルを85℃環境下に保存し、1週間毎に85℃環境下から取り出し、前述の充電操作にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを85℃環境下で保存する。この操作を、所定時間繰り返し行うことにより、高温保存試験を行う。
【0190】
高温保存試験後のセルに対して、常温放電内部抵抗と同様の測定方法を用いて得られる抵抗値を、高温保存試験後の常温放電内部抵抗をRbとしたとき、高温保存試験開始前の常温放電内部抵抗Raに対する高温保存試験の後の内部抵抗上昇率を、Rb/Raにより算出する。
【0191】
本願明細書において、高温保存試験の後の放電容量は、以下の方法によって測定する。
【0192】
先ず、非水系リチウム蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vとしたときの放電容量Qaを測定する。その後、セルを100Cの電流値で任意電圧4.0Vに到達するまで定電流充電し、続いて4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を10分間行う。その後、セルを85℃環境下に保存し、1週間毎に85℃環境下から取り出し、前述の充電操作にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを85℃環境下で保存する。この操作を、所定時間繰り返し行うことにより、高温保存試験を行う。
【0193】
高温保存試験後のセルに対して、放電容量と同様の測定方法を用いて得られる容量を、高温保存試験後の放電容量をQbとしたとき、高温保存試験開始前の放電容量Qaに対する高温保存試験の後の放電容量残存率を、Qb/Qaにより算出する。
【0194】
[X線光電分光法(XPS)]
XPSにより電子状態を解析することにより、リチウム化合物の結合状態を判別することができる。
測定条件の例として、以下が挙げられる。
X線源:単色化AlKα
X線ビーム径:100μmφ(25W、15kV)
パスエネルギー:ナロースキャン、58.70eV
帯電中和:有り
スイープ数:ナロースキャン、10回(炭素、酸素)
エネルギーステップ:ナロースキャン、0.25eV
【0195】
XPSの測定前に、測定試料(例えば正極)の表面を、スパッタリングにてクリーニングすることが好ましい。スパッタリングの条件として例えば、加速電圧を1.0kVとし、2mm×2mmの範囲を1分間(SiO換算で1.25nm/min)の条件にて、試料表面をクリーニングすることができる。
得られたXPSスペクトルのピークは、例えば以下のように帰属することができる。
〈Li1sのピーク〉
結合エネルギー50~54eVのピーク:LiO又はLi-C結合
55~60eVのピーク:LiF、LiCO、LiPO(式中、x、y、及びzは、それぞれ1~6の整数である);
〈C1sのピーク〉
結合エネルギー285eVのピーク:C-C結合
286eVのピーク:C-O結合
288eVのピーク:COO
289.5のピーク:COO-
290~292eVのピーク:CO 2-、C-F結合;
〈O1sのピーク〉
結合エネルギー527~530eVのピーク:O2-(LiO)
531~532eVのピーク:CO、CO、OH、PO(式中、xは1~4の整数である)、SiO(式中、xは1~4の整数である)
533eVのピーク:C-O、SiO(式中、xは1~4の整数である);
〈F1sのピーク〉
結合エネルギー685eVのピーク:LiF
687eVのピーク:C-F結合、LiPO(式中、x、y、及びzは、それぞれ1~6の整数である)、PF
〈P2pのピーク〉
結合エネルギー133eVのピーク:PO(式中、xは1~4の整数である)
134~136eVのピーク:PF(式中、xは1~6の整数である);
〈Si2pのピーク〉
結合エネルギー99eVのピーク:Si、シリサイド
101~107eVのピーク:Si(式中、x、及びyは、それぞれ任意の整数である)
得られたスペクトルについて、ピークが重なる場合には、ガウス関数又はローレンツ関数を仮定してピーク分離し、スペクトルを帰属することが好ましい。得られた電子状態の測定結果及び存在元素比の結果から、存在するリチウム化合物を同定することができる。
【0196】
[固体電解質界面(SEI)物質]
本明細書においては、非水系電解液の分解を抑制し、高温耐久性を高めるため、負極表面に非水系電解液等の分解生成物から成る固体電解質界面(Solid Electrolyte Interface;SEI)物質を形成する。このSEI物質は、電気(電子)伝導性はないが、リチウムイオン電導性があり、その形成により、電解液の分解が抑制されることが知られている。
前記固体電解質界面(SEI)物質は、作製した蓄電素子に対して、所定の条件でエージング処理を行うことにより負極の表面に形成することができる。
前記エージング処理は、例えば、25℃環境下、1.0Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、3.0V定電圧放電を1時間行うことにより電圧を3.0Vに調整した後の非水系リチウム蓄電素子を、60℃の恒温槽に60時間保管することにより行うことができる。
前記固体電解質界面(SEI)物質としては、例えば、シュウ酸リチウム、フッ化リチウム、炭酸リチウム、酸化リチウム、有機リチウム化合物、有機ポリマー等が挙げられる。これらの中でも、電解液分解抑制の点から、シュウ酸リチウムが好ましい。
前記負極の表面に固体電解質界面(SEI)物質(例えば、シュウ酸リチウム)が形成されていることは、X線光電子分光法(XPS)により、289eV以上290eV以下の範囲にピークを有することから確認することができる。
【0197】
<鉄元素の定量方法 ICP-MS>
測定試料について、濃硝酸、濃塩酸、王水等の強酸を用いて酸分解し、得られた溶液を2質量%以上3質量%以下程度の酸濃度になるように、純水で希釈する。酸分解に際しては、試料を適宜加熱、加圧してもよい。
得られた希釈液を測定試料として、ICP-MSにより解析する。このとき、内部標準として既知量の元素を加えておくことが好ましい。測定対象の鉄元素が測定上限濃度を超える場合には、希釈液の酸濃度を維持したまま、更に希釈することが好ましい。
得られた測定結果に対し、化学分析用の標準液を用いて予め作成した検量線に基づいて、鉄元素を定量することができる。
【0198】
本願明細書では、正極前駆体中における鉄元素の含有量はICP-MSを用いて測定する。得られた正極前駆体の一部について180℃で20時間真空乾燥を行い、露点-40℃以下のドライエアー環境下で正極前駆体から正極活物質層を採取し、秤量する。採取したサンプルを用いて、ICP-MSにより、正極前駆体の正極活物質層に含まれる鉄元素の含有量を測定し、これを測定に用いた正極前駆体の正極活物質層の質量で除すことにより、正極前駆体の正極活物質層単位質量当たりの鉄元素の含有量を算出した。
【0199】
[XRD(X線回折)]
本実施形態の負極では、負極活物質層のXRD(X線回折)で測定されたスペクトルについて、2θが26.2°以上26.5°以下の範囲にピークトップを有するピークY1を有し、該ピークY1の半値幅が0.1°以上0.5°以下であることが好ましい。ピークY1の半値幅が0.1°以上であれば、負極活物質層中のイオンの拡散性が向上していると評価することができ、負極の低抵抗化が達成されていると考えてよい。ピークY1の半値幅が0.5°以下であれば、負極活物質表面にカーボンナノチューブが均一に分散されている状態であり、高温環境下での容量低減と抵抗上昇を抑制できると考えてよい。
なお、正極活物質層について測定されたXRD(X線回折)におけるピークX1については、前記したとおりである。
【0200】
[負極活物質層のラマン分光分析]
ラマン分光分析は、レニショー(株)製の顕微ラマン分光装置、品名「inVia Reflex」を用いて実施した。励起光のレーザーの波長は532nmとし、100倍対物レンズを用い、試料位置で約0.1mWのパワーとなるように集光した。
負極活物質層表面について、40μm×40μmの測定領域について、ラマンスペクトルを得た。
スパイクノイズ除去には、レニショー(株)製の解析ソフト、「WiRE」に付属の「Cosmic ray removal」を用いた。ノイズ除去のための主成分分析には、上記解析ソフト「WiRE」に付属の「Noise filter」を用い、スコアが大きい12成分までのスペクトルを再構築した。
得られたラマンスペクトルにおいて、1,000cm-1から1,800cm-1までの直線のベースラインを引き、1,350±15cm-1に観測されるDバンドのピークPdのピーク強度Idと、1,585±15cm-1に現れるGバンドのピークPgのピーク強度Igとを求め、その強度比Id/Igをもとめた。R値は8回の平均値である。
なお、正極活物質層のラマン分光分析は、後述の実施例に記載の方法によって行った。
【0201】
〈BET比表面積及び平均細孔径、メソ孔量、マイクロ孔量〉
本願明細書において、BET比表面積、平均細孔径、メソ孔量、及びマイクロ孔量は、それぞれ以下の方法によって求められる値である。試料を200℃で一昼夜真空乾燥し、窒素を吸着質として吸脱着の等温線の測定を行なう。ここで得られる吸着側の等温線を用いて、BET比表面積はBET多点法又はBET1点法により、平均細孔径は質量当たりの全細孔容積をBET比表面積で除すことにより、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。
【0202】
BJH法は一般的にメソ孔の解析に用いられる計算方法で、Barrett, Joyner, Halendaらにより提唱されたものである(E. P. Barrett, L. G. Joyner and P. Halenda, J. Am. Chem. Soc., 73, 373(1951))(非特許文献1)。
【0203】
MP法とは、「t-プロット法」(B.C.Lippens,J.H.de Boer,J.Catalysis,4319(1965)(非特許文献2))を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、及びマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、M.Mikhail, Brunauer, Bodorにより考案された方法である(R.S.Mikhail,S.Brunauer,E.E.Bodor,J.Colloid Interface Sci.,26,45 (1968)(非特許文献3))。
【0204】
〈平均粒子径〉
本願明細書において、平均粒子径は、粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定した際、全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径(すなわち、50%径(Median径))を指す。この平均粒子径は市販のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0205】
<非水系リチウム蓄電素子の用途>
本実施形態に係る複数個の非水系リチウム蓄電素子を直列又は並列に接続することにより蓄電モジュールを作製することができる。また、本実施形態の非水系リチウム蓄電素子及び蓄電モジュールは、高い入出力特性と高温での安全性とを両立することができる。そのため、本実施形態の非水系リチウム蓄電素子及び蓄電モジュールは、電力回生アシストシステム、電力負荷平準化システム、無停電電源システム、非接触給電システム、エナジーハーベストシステム、蓄電システム、太陽光発電蓄電システム、電動パワーステアリングシステム、非常用電源システム、インホイールモーターシステム、アイドリングストップシステム、急速充電システム、スマートグリッドシステム等に組み込まれて使用されることができる。
蓄電システムは太陽光発電又は風力発電等の自然発電に、電力負荷平準化システムはマイクログリッド等に、無停電電源システムは工場の生産設備等に、それぞれ好適に利用される。非接触給電システムにおいて、非水系リチウム蓄電素子は、マイクロ波送電又は電界共鳴等の電圧変動の平準化及びエネルギーの蓄電のために、エナジーハーベストシステムにおいて、非水系リチウム蓄電素子は、振動発電等で発電した電力を使用するために、それぞれ好適に利用される。
【0206】
蓄電システムにおいては、セルスタックとして、複数個の非水系リチウム蓄電素子が直列又は並列に接続されるか、又は非水系リチウム蓄電素子と、鉛電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン二次電池又は燃料電池とが直列又は並列に接続される。
また、本実施形態に係る非水系リチウム蓄電素子は、高い入出力特性と高温での安全性とを両立することができるので、例えば、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、電動バイク等の乗り物に搭載されることができる。上記で説明された電力回生アシストシステム、電動パワーステアリングシステム、非常用電源システム、インホイールモーターシステム、アイドリングストップシステム、又はこれらの組み合わせが、乗り物に好適に搭載される。
【実施例
【0207】
<実施例1~13、及び比較例1~9>
以下、実施例及び比較例を示して本発明の実施形態を具体的に説明する。しかしながら本発明は、以下の実施例及び比較例により、何ら限定されるものではない。
【0208】
<カーボンナノチューブ分散体の調製>
市販の多層カーボンナノチューブ(平均繊維径40nm、平均繊維長12μm)を8.0質量%、分散剤1としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を1.0質量%、及び蒸留水を91.0質量%、並びに金属化合物としてFeを鉄原子換算10ppm相当量混合し、遊星ボールミルを用いて100rpmの速度で120分間分散することにより、カーボンナノチューブ分散体(CNT分散体)を調製した。
【0209】
<負極の製造例1>
平均粒子径4.5μmの人造黒鉛を84.0質量部、上記カーボンナノチューブ分散体を100質量部(カーボンナノチューブ8.0質量部、カルボキシメチルセルロースが1.0質量部に相当)、アセチレンブラック(AB)を3.0質量部、分散剤2としてPVP(ポリビニルピロリドン)を1.0質量部、結着剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)を3.0質量部、及び金属化合物の追加分としてFeを鉄原子換算10ppm相当量、並びに蒸留水を混合して、固形分の質量割合が36.5質量%の混合物を得た。
得られた混合物を、シンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度にて20分間分散して、負極塗工液を得た。
得られた負極塗工液の粘度(ηb)及びTI値を、東機産業社のE型粘度計TVE-35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は1,970mPa・s、TI値は3.3であった。
厚さ8μmの電解銅箔の片面に、ドクターブレードを用いて負極塗工液を塗工し、50℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥した。次いでロールプレス機を用いて、圧力5kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスすることにより、負極1を製造した。
小野計器社製の膜厚計「Linear Gauge Sensor GS-551」を用いて、負極1の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値から電解銅箔の厚さを減じて負極活物質層の膜厚を求めたところ、負極1の負極活物質層の膜厚は、31μmであった。
【0210】
<負極の製造例2~17、19、及び20>
多層カーボンナノチューブ(CNT)の平均繊維径及び平均繊維長、CNT分散体調製時のCNTの使用量、並びに金属化合物の種類及びその金属原子換算の使用量を、それぞれ、表1のとおりとした他は、<負極の製造例1>と同様にして、カーボンナノチューブ分散体(CNT分散体)を調製した。
これらのCNT分散体をそれぞれ用い、各成分の種類及び使用量を、それぞれ、表2に記載のとおりになるように調整した他は、<負極の製造例1>と同様にして、負極2~17、19、及び20を製造した。
【0211】
<負極の製造例18>
平均粒子径4.5μmの人造黒鉛を84.0質量部、市販の多層カーボンナノチューブ(平均繊維径40nm、平均繊維長12μm)を8.0質量部、アセチレンブラックを3.0質量部、カルボキシメチルセルロースを1.0質量部、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.0質量部、スチレンブタジエンゴムを3.0質量部、及びFeを鉄原子換算20ppm相当量、並びに蒸留水を混合し、固形分の質量割合が36.5質量%の混合物を得た。
得られた混合物をシンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度で20分間分散して負極塗工液を得た。負極の製造例1と同様にして測定したこの塗工液の粘度(ηb)は1,370mPa・s、TI値は6.3であった。
得られた混合物を用いた他は、負極の製造例1と同様にして、負極活物質層の膜活が32μmの負極18を得た。
【0212】
<負極の製造例21>
各成分の種類及び使用量を、それぞれ、表2に記載のとおりとした他は、負極の製造例18と同様にして、負極21を製造した。
【0213】
【表1】
【0214】
【表2】
【0215】
<正極活物質の調製>
破砕されたヤシ殻炭化物を小型炭化炉内へ入れ、窒素雰囲気下、500℃で3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、予熱炉で加温した水蒸気を1kg/hで賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間かけて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた賦活された活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りし、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭1を得た。
島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2000J)を用いて、活性炭1の平均粒子径を測定した結果、5.5μmであった。また、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB-1 AS-1-MP)を用いて、活性炭1の細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2360m/g、メソ孔量(V)が0.52cc/g、マイクロ孔量(V)が0.88cc/g、V/V=0.59であった。
【0216】
<カーボンナノチューブ分散体の調製>
市販の多層カーボンナノチューブ(平均繊維径40nm、平均繊維長50μm)を8.0質量部、分散剤1としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を1.0質量部、及び蒸留水を91.0質量部、並びにFeを鉄原子換算10ppm相当量混合し、遊星ボールミルを用いて100rpmの速度で120分間分散することにより、正極活物質層形成用のカーボンナノチューブ分散体を調製した。
【0217】
<正極前駆体の製造例1>
活性炭1を56.0質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)を1.5質量部、炭酸リチウムを30.0質量部、アセチレンブラック(AB)を3.0質量部、及びアクリルラテックス(LTX)を4.5質量部、PVP(ポリビニルピロリドン)を5.0質量部、並びに固形分の質量割合が46.5質量%になるように蒸留水を混合し、その混合物をシンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2000rpmの回転速度で30分間分散して正極塗工液を得た。
得られた正極塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE-35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は3,650mPa・s、TI値は5.1であった。また、得られた正極塗工液の分散度をヨシミツ精機社製の粒ゲージを用いて測定した。その結果、粒度は33μmであった。
ドクターブレードを用いて、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に正極塗工液を塗工し、50℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧力6kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスすることにより、正極前駆体1を得た。
小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、得られた正極前駆体1の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値からアルミニウム箔の膜厚を減じて正極活物質層の膜厚を求めたところ、正極前駆体1の正極活物質層の膜厚は、61μmであった。
【0218】
<正極前駆体の製造例2>
活性炭1を53.0質量部、上記正極活物質層形成用のカーボンナノチューブ分散体を100質量部(カーボンナノチューブ8.0質量部、及びカルボキシメチルセルロース1.0質量部に相当)、炭酸リチウムを30.0質量部、アセチレンブラック(AB)を3.0質量部、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、及びアクリルラテックス(LTX)を3.5質量部用いた他は、正極前駆体の製造例1と同様にして、正極塗工液を調製し、これを用いて正極前駆体2を製造した。
【0219】
<電解液の調製例1>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、LiPFとLiFSIとの濃度比が1:1であり、合計1.2mol/Lの濃度となるように電解質塩を溶解することにより、非水系電解液1を得た。
【0220】
<電解液の調製例2>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、LiPFとLiFSIとLiBOBの濃度比が5:6:1であり、合計1.2mol/Lの濃度となるように電解質塩を溶解することにより、非水系電解液2を得た。
【0221】
《実施例1》
<非水系リチウム蓄電素子の製造>
得られた正極前駆体1を、正極活物質層が4.4cm×9.4cmの大きさになるように1枚切り出した。続いて負極1を、負極活物質層が4.5cm×9.5cmの大きさになるように1枚切り出した。また、4.7cm×9.8cmのポリエチレン製のセパレータ(旭化成製、厚み15μm)を1枚用意した。これらを用いて、正極前駆体1、セパレータ、及び負極1の順に、セパレータを挟んで正極活物質層と負極活物質層とが対向するよう積層し、電極積層体を得た。得られた電極体に正極端子及び負極端子を超音波溶接し、アルミラミネート包材で形成された外装体に入れ、電極端子部を含む3辺をヒートシールによりシールした。
大気圧下、温度25℃、露点-40℃以下のドライエアー環境下にて、電極積層体を収納した外装体内に、非水系電解液1を約2.5g注入した。続いて、電極積層体及び非水系電解液を収納している外装体を減圧チャンバーの中に入れ、大気圧から-87kPaまで減圧した後、大気圧に戻し、5分間静置した。その後、チャンバー内の外装体を大気圧から-87kPaまで減圧した後、大気圧に戻す工程を4回繰り返した後、大気圧下にて15分間静置した。以上の工程により、非水系電解液1を電極積層体に含浸させた。
その後、非水系電解液1を含浸させた電極積層体を減圧シール機に入れ、-95kPaに減圧した状態で、180℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることにより外装体を封止した。
【0222】
[アルカリ金属ドープ工程]
封止された電極積層体を、温度40℃にて、電流値50mAで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.5V定電圧充電を2時間継続する手法により、初期充電を行い、負極にアルカリ金属ドープを行った。
[エージング工程]
アルカリ金属ドープ後の電極積層体をドライボックスから取り出し、25℃環境下にて、50mAで電圧4.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、4.0Vでの定電流放電を1時間行うことにより、電圧を4.0Vに調整した。続いて、電極体を60℃の恒温槽中に12時間保管した。
[ガス抜き工程]
エージング後、温度25℃、露点-40℃のドライエアー環境下にて、外装体の一部を開封して、電極積層体を取出した。取り出した電極積層体を、減圧チャンバーの中に入れ、ダイヤフラムポンプを用いて大気圧から-80kPaまで3分間かけて減圧した後、3分間かけて大気圧に戻す工程を合計3回繰り返した。その後、電極積層体を外装体内に戻し入れ、減圧シール機を用いて、-90kPaに減圧した後、200℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールして外装体を封止することにより、非水系リチウム蓄電素子を製造した。
【0223】
上記の手順により、同じ構成の非水系リチウム蓄電素子を複数個製造した。
【0224】
<非水系リチウム蓄電素子の評価>
[静電容量Qa及び内部抵抗Raの測定]
得られた非水系リチウム蓄電素子のうちの1個について、25℃に設定した恒温槽内で、アスカ電子株式会社製の充放電装置(5V,10A)を用い、上述の方法により静電容量Qa及び内部抵抗Raを測定したところ、Qaは9.04mAh、Raは88.3mΩであった。これらの値は、初期静電容量Qa及び初期内部抵抗Raとして、表3に示した。
[高電圧高温保存試験]
得られた非水系リチウム蓄電素子の別の1個について、上述の方法により高電圧高温保存試験を行った。試験後に静電容量Qb、及び内部抵抗Rbを測定したところ、Qbは8.14mAh、Rbは97.3mΩであった。これらの値は、高電圧高温保存後静電容量Qb及び高電圧高温保存後内部抵抗Rbとして、表3に示した。
【0225】
<負極の分析>
[SEM像撮影]
得られた非水系リチウム蓄電素子の更に別の1個について、温度25℃、露点-40℃のドライエアー環境下にて、外装体の一部を開封して、電極積層体を取出し、負極を採取した。
この負極の負極活物質層に、10Paの真空中にて金をスパッタリングすることにより、厚み数nmの金膜を表面にコーティングした。続いて以下に示す条件にて、大気暴露下で負極活物質層表面のSEM像を撮影した。
(SEM測定条件)
・測定装置:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、電界放出型走査型電子顕微鏡 S-4700
・加速電圧:1kV
・エミッション電流:10μA
・測定倍率:10000倍
・検出器:二次電子検出器
・電子線入射角度:90°
撮影にあたっては、SEM像中に最大輝度値に達する画素がなく、輝度値の平均値が最大輝度値の40%~60%の範囲に入るように、輝度及びコントラストを調整した。
撮影したSEM像を用いて、上述の方法により、明視野領域中の、直径100nm未満の最大内接円の面積割合Z1、及び暗視野領域中の、1,000nm以上5,000nm以下の領域の合計面積が、1,000nm以上20,000nm以下の領域の合計面積に占める面積割合Z2を求めたところ、Z1は4.1%、Z2は64.1%であった。
【0226】
[XRD(X線回折)測定]
上記のように非水系リチウム蓄電素子から取り出した負極を、1cm(1cm×1cm)の大きさに切り出して、XRD用の試料とした。
得られたXRD用試料について、以下の条件でXRDを測定した。
・使用機器 : Rigaku Ultima IV
・検出器 : D/teX Ultra
・管球 : CuKα
・管電圧 : 40kV
・管電流 : 40mA
・サンプリング間隔 : 0.01°/point
・走査速度 : 5°/min
・測定角度範囲 : 5~90°
・発散スリット(DS) : 1°
・発散縦 : 10mm
・散乱スリット(SS) : 開放
・受光スリット(RS) : 開放
得られたXRDスペクトルにおいて、2θが26.2°以上26.5°以下の範囲にピークトップを有するピークY1のピークトップ位置及び半値幅を調べたところ、ピークトップ位置は26.47°、半値幅は0.12°であった。
【0227】
《実施例2~13、比較例1~9》
負極、正極前駆体、及び非水系電解液として、それぞれ、表3に記載の物を用いた他は、実施例1と同様にして、非水系リチウム蓄電素子を製造し、評価した。
評価結果は、表3に示した。
また、実施例13の負極20、及び比較例9の負極21の負極活物質層についてのSEM分析の結果を図1図6に示す。
図1は、実施例13で得られた負極20の負極活物質層のSEM像であり;図2は、図1のSEM像の二値化画像であり;図3は、図2の二値化画像から得られた、最大内接円の直径ごとの頻度分布図である。
図4は、比較例9で得られた負極21の負極活物質層のSEM像であり;図5は、図4のSEM像の二値化画像であり;図6は、図5の二値化画像から得られた、最大内接円の直径ごとの頻度分布図である。
【0228】
【表3】
【0229】
【表4】
【0230】
【表5】
【0231】
【表6】
【0232】
<実施例14~47、及び比較例10~18>
〈炭酸リチウムの粉砕〉
-196℃の温度で熱変性を防止しながら脆性破壊することにより、炭酸リチウムの粉砕を行った。
平均粒子径53μmの炭酸リチウム200gを、アイメックス社製の粉砕機(液体窒素ビーズミルLNM)に装填し、液体窒素で-196℃に冷却化した後、ドライアイスビーズを用い、周速10.0m/sにて9分間粉砕した。得られた炭酸リチウムの平均粒子径は、2.26μmであった。
【0233】
〈正極活物質の調製〉
[活性炭2の調製]
破砕したヤシ殻炭化物を、小型炭化炉中、窒素雰囲気下、500℃において3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、予熱炉で加温した1kg/hの水蒸気を上記賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間かけて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却した。得られた活性炭を、10時間通水洗浄した後に水切りした。洗浄及び水切り後の活性炭を、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭2を得た。
【0234】
この活性炭2について、島津製作所社製のレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2000J)を用いて平均粒子径を測定した結果、4.2μmであった。更に活性炭1について、ユアサアイオニクス社製の細孔分布測定装置(AUTOSORB-1 AS-1-MP)を用いて細孔分布を測定した結果、BET比表面積は2,360m/g、メソ孔量(V)は0.52cc/g、及びマイクロ孔量(V)は0.88cc/gであり、V/V=0.59であった。
【0235】
[活性炭3の調製]
フェノール樹脂について、窒素雰囲気下、焼成炉中600℃において2時間の炭化処理を行った後、ボールミルにて粉砕し、分級を行って平均粒子径7.0μmの炭化物を得た。この炭化物とKOHとを質量比1:5で混合し、窒素雰囲下、焼成炉中800℃において1時間加熱して賦活化を行った。その後、濃度2mol/Lに調整した希塩酸中で1時間撹拌洗浄を行った後、蒸留水でpH5~6の間で安定するまで煮沸洗浄した後に乾燥を行うことにより、活性炭3を得た。
【0236】
この活性炭3について、活性炭1と同様にして測定した平均粒子径は7.1μmであり、BET比表面積は3,627m/g、メソ孔量(V)は1.50cc/g、及びマイクロ孔量(V)は2.28cc/gであり、V/V=0.66であった。
【0237】
〈正極前駆体3〉
[鉄元素含有リチウム化合物の調製]
リチウム化合物として炭酸リチウムを100質量部と、塩化第二鉄(FeCl・6HO)を2.3質量部とを蒸留水に添加し、炭酸リチウムの濃度として0.5質量%の水溶液を調製した。得られた水溶液を、オイルバスにより60℃に加熱した状態で、ホモディスパーにより1時間撹拌した。次いで液温を100℃に上昇して、水分を蒸発させ、鉄元素を含有する炭酸リチウム粉末を析出させた。得られた鉄元素含有炭酸リチウム粉末をアルミナ容器に入れて、これをマッフル炉に設置し、窒素/水素混合ガスをフローしながら300℃で10時間加熱して、脱塩素化処理を施した後、ジェットミルで粉砕することにより、所定の粒径を有する、鉄元素含有炭酸リチウム粉末1を得た。島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて鉄元素含有炭酸リチウム粉末1の平均粒子径を測定した結果、0.8μmであった。
【0238】
[正極前駆体3の製造]
正極活物質として、上記[活性炭2の調製]で得られた活性炭2を58.5質量部用い、表4に記載した種類及び量の、正極活物質以外のリチウム化合物、及び導電性フィラーを混合した。得られた混合物に、更に、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を8.0質量部、並びにNMP(N-メチルピロリドン)を混合し、PRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサー「フィルミックス(登録商標)」により、周速17m/sの条件で分散して、塗工液を得た。上記塗工液を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて、正極集電体としての厚さ15μmの貫通孔を持たないアルミニウム箔の片面又は両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度100℃で乾燥して正極前駆体を得た。得られた正極前駆体についてロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスを実施した。
以下、正極集電体の片面のみに塗工して得られた正極前駆体を「片面正極前駆体」といい、正極集電体の両面に塗工して得られた正極前駆体を「両面正極前駆体」ということがある。
【0239】
得られた正極前駆体の一部について、180℃で20時間真空乾燥を行った後、露点-40℃以下のドライエアー環境下で、正極活物質層の一部を採取して測定サンプルとし、これを秤量した。採取したサンプルのICP-MS分析により、当該サンプルに含まれる鉄元素の含有量を定量し、得られた値を、測定に用いたサンプル(正極前駆体の正極活物質層)の質量で除すことにより、正極前駆体の正極活物質層単位質量当たりの鉄元素の含有量を算出した。その結果を表4に示す。
【0240】
[正極前駆体4~9の製造]
[鉄元素含有リチウム化合物の調製]における塩化第二鉄(FeCl・6HO)の使用量、並びに、導電性フィラーの種類及び使用量を、それぞれ、表4に記載のとおりとしたこと以外は、正極前駆体3と同様の方法で、各種の鉄元素含有炭酸リチウム粉末をそれぞれ調製し、これを用いて正極前駆体を製造した。
【0241】
【表7】
【0242】
表4中の各成分の略称は、それぞれ、以下の意味である。
[正極活物質以外のリチウム化合物]
Fe-炭酸Li1:上記〈鉄元素含有リチウム化合物の調製〉で得た、平均粒子径0.8μmの鉄元素含有炭酸リチウム粉末1
Fe-炭酸Li2~4:塩化第二鉄の使用量を変更したこと以外は、鉄元素含有炭酸リチウム粉末1と同様にして製造した、平均粒子径0.8μmの鉄元素含有炭酸リチウム粉末2~4
KB:ケッチェンブラック
【0243】
<カーボンナノチューブ分散体の調製>
市販の多層カーボンナノチューブ(平均繊維径40nm、平均繊維長12μm)を8.0質量%、分散剤1としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を1.0質量%、及び蒸留水を91.0質量%、並びに金属化合物としてFeを鉄原子換算10ppm相当量混合し、遊星ボールミルを用いて100rpmの速度で120分間分散することにより、カーボンナノチューブ分散体(CNT分散体)を調製した。
【0244】
〈負極の製造〉
<負極の製造例22>
平均粒子径4.5μmの人造黒鉛を84.0質量%、アセチレンブラックを10.0質量%、カルボキシメチルセルロースを3.0質量%、及びスチレンブタジエンゴムを3.0質量%、並びに固形分の質量割合が36.5%になるように蒸留水を混合し、その混合物をシンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度で10分間分散して負極塗工液を得た。
得られた負極塗工液の粘度(ηb)及びTI値を、東機産業社のE型粘度計TVE-35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は1,840mPa・s、TI値は3.1であった。
負極集電体としての厚さ8μmの電解銅箔の両面に、ドクターブレードを用いて負極塗工液を塗工し、50℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥して負極を得た。ロールプレス機を用いて圧力5kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスした。プレスされた負極の全厚を、小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、負極面上でランダムに設定した10か所で測定し、その平均値から負極集電体の厚さを減じ、更に1/2倍して得られた値を、負極活物質層の片面あたりの膜厚として採用した。得られた測定結果より、この負極の負極活物質層の膜厚は、片面あたり30μmであった。
【0245】
<負極の製造例23>
平均粒子径4.5μmの人造黒鉛を84.0質量部、上記カーボンナノチューブ分散体を100質量部(カーボンナノチューブ8.0質量部、カルボキシメチルセルロースが1.0質量部に相当)、アセチレンブラック(AB)を3.0質量部、分散剤2としてPVP(ポリビニルピロリドン)を1.0質量部、結着剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)を3.0質量部、及び金属化合物の追加分としてFeを鉄原子換算10ppm相当量、並びに蒸留水を混合して、固形分の質量割合が36.5質量%の混合物を得た。
得られた混合物を、シンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度にて20分間分散して、負極塗工液を得た。
得られた負極塗工液の粘度(ηb)及びTI値を、東機産業社のE型粘度計TVE-35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は1,970mPa・s、TI値は3.3であった。
厚さ8μmの電解銅箔の片面に、ドクターブレードを用いて負極塗工液を塗工し、50℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥した。次いでロールプレス機を用いて、圧力5kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスすることにより、負極23を製造した。
小野計器社製の膜厚計「Linear Gauge Sensor GS-551」を用いて、負極23の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値から電解銅箔の厚さを減じて負極活物質層の膜厚を求めたところ、負極23の負極活物質層の膜厚は、31μmであった。
【0246】
〈非水系電解液3~18の調製〉
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、表5に記載の種類及び濃度の電解質塩を有機溶媒に溶解することにより、非水系電解液3~18をそれぞれ得た。
【0247】
〈非水系電解液19~34の調製〉
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、表6に記載の種類及び濃度の電解質塩を有機溶媒に溶解し、更に、表6に記載の種類及び濃度のニトリル化合物及び/又はエーテル化合物を混合することにより、非水系電解液19~34をそれぞれ得た。
【0248】
【表8】
【0249】
【表9】
【0250】
表5及び表6中の成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
[(A)成分]LiPF、及びLiBFのうち少なくとも1種のリチウム塩
LiBF:テトラフルオロホウ酸リチウム
LiPF :ヘキサフルオロリン酸リチウム
[(B)成分]イミド構造を有するリチウム塩
LiN(SOF):リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
LiN(CFSO:リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
LiN(CFCFSO:リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド
[(C)成分]オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩
LiBOB:リチウムビスオキサレートボラート
LiFOB:リチウムフルオロオキサレートボレート
LiDFOB:リチウムジフルオロ(オキサレート)ボラート
[ニトリル化合物]
AcCN:アセトニトリル
ScCN:スクシノニトリル
MeOAcCN:メトキシアセトニトリル
ATCNP:2―アミノ―1,1,3-トリシアノ-1-プロペン
IM-TCNM:1-ブチル―3-メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド
Li-DCNIM:リチウム4,5-ジシアノ―2-(トリフルオロメチル)イミダゾール
Li-TCNM:1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムトリシアノメタニド
[エーテル化合物]
DMEt:1,2-ジメトキシエタン
DIOX:1,3-ジオキサン
表5及び表6中の「-」は、当該欄の成分を使用しなかったことを示す。
【0251】
≪実施例14≫
〈非水系リチウム蓄電素子の製造〉
[組立]
実施例14では、厚み15μmのポリエチレン(PE)製の微多孔膜の片面に、厚み5μmのベーマイト(AlOOH)微粒子を含むコート層を形成した2層構成のセパレータを用いた。
21枚の両面負極、20枚の両面正極前駆体3、及び2枚の片面正極前駆体3を、それぞれ10cm×10cm(100cm)にカットした。最上面及び最下面にはそれぞれ片面正極前駆体3を用いて正極活物質層を内側に配置し、その間に21枚の両面負極22を1枚と20枚の両面正極前駆体3とを交互に用い、積層方向に隣接する負極と正極前駆体との間に、微多孔膜セパレータを挟んで積層した。更に、負極と正極前駆体とに、それぞれ、負極端子と正極端子とを超音波溶接にて接続した後、温度80℃、圧力50Paで、乾燥時間60hrの条件で真空乾燥することにより、電極積層体を得た。
乾燥した電極積層体を、露点-45℃のドライ環境下にて、アルミニウムラミネート包材から構成される外装体内に収納し、正負極の端子部及びボトム部の外装体3方を、温度180℃、シール時間20sec、シール圧1.0MPaの条件でヒートシールした。
【0252】
[注液、含浸、及び封止]
アルミニウムラミネート包材の中に収納された電極積層体に、温度25℃、露点-40℃以下のドライエアー環境下にて、非水系電解液1約80gを大気圧下で注入して、リチウムドープ処理前の非水系リチウム蓄電素子を形成した。続いて、減圧チャンバーの中に、この非水系リチウム蓄電素子を入れ、常圧から-87kPaまで減圧した後、常圧に戻し、5分間静置した。この常圧から-87kPaまで減圧した後、常圧に戻す操作を4回繰り返した後、常圧にて15分間静置した。更に常圧から-91kPaまで減圧した後、常圧に戻した。同様に減圧し、常圧に戻す操作を合計7回繰り返した(このとき、常圧から、それぞれ、-95、-96、-97、-81、-97、-97、-97kPaまで減圧した)。以上の手順により、非水系リチウム蓄電素子の電極積層体に非水系電解液1を含浸させた。
【0253】
非水系電解液3を含浸させた電極積層体が収納された外装体を減圧シール機に入れ、-95kPaに減圧した状態で、180℃、0.1MPaの圧力で、10秒間シールしてアルミニウムラミネート包材を封止することにより、非水系リチウム蓄電素子(リチウムイオンキャパシタ)を得た。
【0254】
[リチウムドープ]
得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT-3100U)を用いて、25℃環境下、電流値50mAで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.5V定電圧充電を72時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。
【0255】
[エージング]
リチウムドープ後の非水系リチウム蓄電素子を、25℃環境下、1.0Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、3.0V定電圧放電を1時間行うことにより電圧を3.0Vに調整した。非水系リチウム蓄電素子を60℃の恒温槽に60時間保管して、エージングを行った。
【0256】
[ガス抜き]
温度25℃、露点-40℃のドライエアー環境下で、エージング後の非水系リチウム蓄電素子のアルミニウムラミネート包材の一部を開封した。次いで、減圧チャンバーの中にアルミニウムラミネート包材の一部を開封した非水系リチウム蓄電素子を入れ、KNF社製のダイヤフラムポンプ(N816.3KT.45.18)を用いて、常圧から-80kPaまで3分間かけて減圧した後、3分間かけて常圧に戻す操作を、合計3回繰り返した。減圧シール機に非水系リチウム蓄電素子を入れ、-90kPaに減圧した後、200℃の温度、及び0.1MPaの圧力で10秒間シールすることにより、アルミニウムラミネート包材を封止(再封止)した。
【0257】
以上の手順により、非水系リチウム蓄電素子の評価を実施した。
【0258】
[Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの放電容量Qの測定]
蓄電素子の放電容量Qは、Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vとして測定した。得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、次いで、3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行った。続いて、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を行うことにより、放電容量Qを測定した。
実施例14の非水系リチウム蓄電素子は、Vmax=3.8Vであり、Vmin=2.2Vのときの放電容量Qは、952.3mAhであった。
【0259】
[Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの常温放電内部抵抗Raの算出]
蓄電素子の初期の常温放電内部抵抗Raは、Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vとして測定した。得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、以下の手順で初期充放電操作を行った。
先ず、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、次いで、3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行った。続いて、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、初期充放電操作を完成させた。この定電流放電のときに得られた放電カーブ(時間-電圧)において、放電時間1秒及び2秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEとし、降下電圧ΔE=3.8-E、及びR=ΔE/(20C(電流値A))により、常温放電内部抵抗Raを算出した。
実施例14の非水系リチウム蓄電素子の初期充放電後の常温放電内部抵抗Raは、1.01mΩであった。
【0260】
[高温保存試験の後のRbの算出、及びRb/Raの算出]
得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、上述した高温保存試験を行った。
非水系リチウム蓄電素子に対し、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、次いで4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で10分間行った。続いて蓄電素子を85℃環境下に保存し、1週間毎に85℃環境下から取り出し、同様の充電操作にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを85℃環境下に戻して保存を継続した。この操作を500時間繰り返し実施して、非水系蓄電素子の高温保存試験を行った。高温保存試験後の蓄電素子に対して、上記[Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの常温放電内部抵抗Raの算出]と同様にして高温保存試験後の常温放電内部抵抗Rbを算出した。このRb(Ω)を、上記で求めた高温保存試験前のVmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの常温放電内部抵抗Ra(Ω)で除すことにより、比Rb/Raを算出したところ、比Rb/Raは4.19であった。
【0261】
[高温保存試験の後のQbの算出、及びQb/Qaの算出]
得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、上述した高温保存試験を行った。
非水系リチウム蓄電素子に対し、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、次いで4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で10分間行った。続いて蓄電素子を85℃環境下に保存し、1週間毎に85℃環境下から取り出し、同様の充電操作にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを85℃環境下に戻して保存を継続した。この操作を500時間繰り返し実施して、非水系蓄電素子の高温保存試験を行った。高温保存試験後の蓄電素子に対して、上記[Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの放電容量Qaの算出]と同様にして高温保存試験後の放電容量Qbを算出した。このQb(mAh)を、上記で求めた高温保存試験前のVmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの放電容量Qa(mAh)で除して、比Qb/Qaを算出したところ、比Qb/Qaは0.70であった。
【0262】
[SEI(シュウ酸リチウム)の形成確認]
得られた非水系リチウム蓄電素子を23℃の部屋に設置された露点-90℃以下、酸素濃度1ppm以下で管理されているArボックス内で解体し、負極を取り出した。負極をジメチルカーボネート(DMC)溶液で洗浄した。前記負極の負極活物質層表面を、X線光電子分光法(XPS)(アルバックファイ株式会社製、Versa Probe II)を用いて、以下の条件下、大気非暴露下にて表面分析を行った。
励起源:単色化AlKα
X線ビーム径:100μmφ(25W、15kV)
パスエネルギー:ナロースキャン、46.95eV
帯電中和:有り
スイープ数:ナロースキャン10回
エネルギーステップ:ナロースキャン、0.25eV
シュウ酸リチウムの形成は、289eV以上290eV以下の範囲にピーク(炭素ピーク)を有することから確認した。
【0263】
[Al腐食の有無の確認]
得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、上述した高温保存試験を行った。
非水系リチウム蓄電素子に対し、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、次いで4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で10分間行った。続いて蓄電素子を85℃環境下に保存し、1週間毎に85℃環境下から取り出し、同様の充電操作にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを85℃環境下に戻して保存を継続した。この操作を500時間繰り返し実施して、非水系蓄電素子の高温保存試験を行った。高温保存試験後の蓄電素子に対して、23℃の部屋に設置された露点-90℃以下、酸素濃度1ppm以下で管理されているArボックス内で解体し、正極集電体表面を目視で確認した。その結果、正極集電体表面に、Al腐食時に特有の黒色化は確認されず、Al腐食はないと判断された。
【0264】
《実施例15~47及び比較例10~18》
正極前駆体、負極並びに非水系電解液を、それぞれ表7~9に示すとおりとした他は、実施例14と同様にして、非水系リチウム蓄電素子をそれぞれ製造し、各種の評価を行った。
得られた非水系リチウム蓄電素子の評価結果を表7~9に示す。
【0265】
【表10】
【0266】
【表11】
【0267】
【表12】
【0268】
【表13】
【0269】
以上の実施例により、本発明の非水系リチウム蓄電素子は、高容量を発現し、初期出力特性に優れ、かつ高温保存耐久性に優れた、非水系リチウム蓄電素子であることが検証された。特に、85℃及び4.0V環境下の高温保存後においても、放電容量残存率Qb/Qaが0.70以上であり、かつ、内部抵抗上昇率Rb/Raが5.0以下であることから、優れた高温耐久性を有することが分かった。
本実施形態の非水系リチウム蓄電素子が、高温耐久性に優れるのは、
(1)正極に含まれる正極活物質以外のリチウム化合物が、充放電によって正極の保護皮膜に転換されること、
(2)正極活物質層中の鉄元素が触媒として機能し、正極活物質以外のリチウム化合物からの保護被膜形成能力が向上したこと、及び
(3)非水系電解液が、(A)~(C)の所定の3種のリチウム塩を、所定の割合で含有していること
の相乗的な効果であると考えられる。
【0270】
なお、実施例46及び47の非水系リチウム蓄電素子では、特に優れた高温耐久性を有することが分かった。
これは、負極中のカーボンナノチューブが電極の膨潤を防ぎ負極構造を維持したこと、
非水系電解液が(A)~(C)の所定の3種のリチウム塩を、所定の割合で含有していること、及び
非水系電解液が所定のトリニトリル化合物を、所定の割合で含有していること
の相乗的な効果であると考えられる。
【0271】
なお、比較例12の非水系リチウム蓄電素子では、高温保存後にAl正極集電体に腐食が確認された。これは、Alの腐食を抑制するフッ化アルミニウムの形成が不十分だったためであると考えられる。
【0272】
<実施例48~67、及び比較例19~27>
〈炭酸リチウムの粉砕〉
-196℃の温度で熱変性を防止しながら脆性破壊することにより、炭酸リチウムの粉砕を行った。
平均粒子径53μmの炭酸リチウム200gを、アイメックス社製の粉砕機(液体窒素ビーズミルLNM)に装填し、液体窒素で-196℃に冷却化した後、ドライアイスビーズを用い、周速10.0m/sにて9分間粉砕した。得られた炭酸リチウムの平均粒子径は、2.26μmであった。
【0273】
〈正極活物質の調製〉
[活性炭4の調製]
破砕したヤシ殻炭化物を、小型炭化炉中、窒素雰囲気下、500℃において3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、予熱炉で加温した1kg/hの水蒸気を上記賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間かけて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却した。得られた活性炭を、10時間通水洗浄した後に水切りした。洗浄及び水切り後の活性炭を、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭4を得た。
【0274】
この活性炭4について、島津製作所社製のレーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2000J)を用いて平均粒子径を測定した結果、4.2μmであった。更に活性炭1について、ユアサアイオニクス社製の細孔分布測定装置(AUTOSORB-1 AS-1-MP)を用いて細孔分布を測定した結果、BET比表面積は2,360m/g、メソ孔量(V)は0.52cc/g、及びマイクロ孔量(V)は0.88cc/gであり、V/V=0.59であった。
【0275】
〈正極前駆体4〉
[鉄元素含有リチウム化合物の調製]
リチウム化合物として炭酸リチウムを100質量部と、塩化第二鉄(FeCl・6HO)を2.3質量部とを蒸留水に添加し、炭酸リチウムの濃度として0.5質量%の水溶液を調製した。得られた水溶液を、オイルバスにより60℃に加熱した状態で、ホモディスパーにより1時間撹拌した。次いで液温を100℃に上昇して、水分を蒸発させ、鉄元素を含有する炭酸リチウム粉末を析出させた。得られた鉄元素含有炭酸リチウム粉末をアルミナ容器に入れて、これをマッフル炉に設置し、窒素/水素混合ガスをフローしながら300℃で10時間加熱して、脱塩素化処理を施した後、ジェットミルで粉砕することにより、所定の粒径を有する、鉄元素含有炭酸リチウム粉末5を得た。島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて鉄元素含有炭酸リチウム粉末5の平均粒子径を測定した結果、0.8μmであった。
【0276】
[正極前駆体4の製造]
正極活物質として、上記[活性炭4の調製]で得られた活性炭4を58.5質量部用い、表1に記載した種類及び量の、正極活物質以外のリチウム化合物、及び導電性フィラーを混合した。得られた混合物に、更に、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を8.0質量部、並びにNMP(N-メチルピロリドン)を混合し、PRIMIX社製の薄膜旋回型高速ミキサー「フィルミックス(登録商標)」により、周速17m/sの条件で分散して、塗工液を得た。上記塗工液を東レエンジニアリング社製のダイコーターを用いて、正極集電体としての厚さ15μmの貫通孔を持たないアルミニウム箔の片面又は両面に塗工速度1m/sの条件で塗工し、乾燥温度100℃で乾燥して正極前駆体を得た。得られた正極前駆体についてロールプレス機を用いて圧力4kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスを実施した。
以下、正極集電体の片面のみに塗工して得られた正極前駆体を「片面正極前駆体」といい、正極集電体の両面に塗工して得られた正極前駆体を「両面正極前駆体」ということがある。
【0277】
[正極前駆体5~10の製造]
正極活物質以外のリチウム化合物及び導電性フィラーの種類及び使用量を、それぞれ、表10に記載のとおりとしたこと以外は、正極前駆体4と同様の方法で正極前駆体5~10を製造した。
【0278】
【表14】
【0279】
表10中の各成分の略称は、それぞれ、以下の意味である。
[正極活物質以外のリチウム化合物]
Fe-炭酸Li5:上記〈鉄元素含有リチウム化合物の調製〉で得た、平均粒子径0.8μmの鉄元素含有炭酸リチウム粉末5
水酸化Li:平均粒子径2.4μmの水酸化リチウム
[導電性フィラー]
KB:ケッチェンブラック
【0280】
〈複合炭素材料1の製造〉
基材として、平均粒子径が9.7μm、BET比表面積が1.2m/gの人造黒鉛200gをステンレススチールメッシュ製の籠に入れ、炭素質材料前駆体としての石炭系ピッチ(軟化点:65℃)60gを入れたステンレス製バットの上に置き、両者を電気炉(炉内有効寸法300mm×300mm×300mm)内に設置した。これを窒素雰囲気下、1,110℃まで8時間で昇温し、同温度で4時間保持することにより熱反応させ、複合炭素材料1を得た。得られた複合炭素材料1を自然冷却により60℃まで冷却した後、電気炉から取り出した。
得られた複合炭素材料1について、波長532nmのレーザー光を用い、上述の方法に準じて、顕微ラマン分光法によるラマン分光分析を行った。その結果、1,580cm-1付近のピークPgの強度Igと、1,360cm-1付近のピークPdの強度Idとの比Id/Igは、0.59であった。
【0281】
(複合炭素材料2~8の製造)
基材及び炭素質材料前駆体の種類及び使用量、並びに加熱温度を、それぞれ、表11に記載のとおりとした他は、上記〈複合炭素材料1の製造〉と同様にして、複合炭素材料2~8を製造した。
上記と同様のラマン分光分析の結果を、表11に合わせて示す。
【0282】
【表15】
【0283】
〈負極24の製造〉
負極活物質として、上記で得られた複合炭素材料1を84.0質量%、アセチレンブラックを10.0質量%、カルボキシメチルセルロースを3.0質量%、及びスチレンブタジエンゴムを3.0質量%、並びに固形分の質量割合が36.5%になるように蒸留水を混合し、その混合物をシンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度で10分間分散して負極塗工液を得た。
得られた負極塗工液の粘度(ηb)及びTI値を、東機産業社のE型粘度計TVE-35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は1,840mPa・s、TI値は3.1であった。
負極集電体としての厚さ8μmの電解銅箔の両面に、ドクターブレードを用いて負極塗工液を塗工し、50℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥して負極を得た。ロールプレス機を用いて圧力5kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスすることにより、負極24を製造した。得られた負極24の全厚を、小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、負極面上でランダムに設定した10か所で測定し、その平均値から負極集電体の厚さを減じ、更に1/2倍して得られた値を、負極活物質層の片面あたりの膜厚として採用した。得られた測定結果より、負極24の負極活物質層の膜厚は、片面あたり30μmであった。
【0284】
(負極25~31の製造)
負極活物質として、表12に記載の複合炭素材料をそれぞれ用いた他は、上記〈負極24の製造〉と同様にして、負極25~31を製造した。
【0285】
【表16】
【0286】
〈非水系電解液35~50の調製〉
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、表13に記載の種類及び濃度の電解質塩を有機溶媒に溶解することにより、非水系電解液35~50をそれぞれ得た。
【0287】
【表17】
【0288】
表13中の成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
[(A)成分]LiPF、及びLiBFのうち少なくとも1種のリチウム塩
LiBF:テトラフルオロホウ酸リチウム
LiPF:ヘキサフルオロリン酸リチウム
[(B)成分]イミド構造を有するリチウム塩
LiN(SOF):リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド
LiN(CFSO: リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
LiN(CFCFSO: リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド
[(C)成分]オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩
LiBOB:リチウムビスオキサレートボラート
LiFOB:リチウムフルオロオキサレートボレート
LiDFOB:リチウムジフルオロ(オキサレート)ボラート
表13中の「-」は、当該欄の成分を使用しなかったことを示す。
【0289】
≪実施例48≫
〈非水系リチウム蓄電素子の製造〉
[組立]
実施例48では、厚み15μmのポリエチレン(PE)製の微多孔膜の片面に、厚み5μmのベーマイト(AlOOH)微粒子を含むコート層を形成した2層構成のセパレータを用いた。
21枚の両面負極、20枚の両面正極前駆体1、及び2枚の片面正極前駆体1を、それぞれ10cm×10cm(100cm)にカットした。最上面及び最下面にはそれぞれ片面正極前駆体1を用いて正極活物質層を内側に配置し、その間に21枚の両面負極1枚と20枚の両面正極前駆体1とを交互に用い、積層方向に隣接する負極と正極前駆体との間に、微多孔膜セパレータを挟んで積層した。更に、負極と正極前駆体とに、それぞれ、負極端子と正極端子とを超音波溶接にて接続した後、温度80℃、圧力50Paで、乾燥時間60hrの条件で真空乾燥することにより、電極積層体を得た。
乾燥した電極積層体を、露点-45℃のドライ環境下にて、アルミニウムラミネート包材から構成される外装体内に収納し、正負極の端子部及びボトム部の外装体3方を、温度180℃、シール時間20sec、シール圧1.0MPaの条件でヒートシールした。
【0290】
[注液、含浸、及び封止]
アルミニウムラミネート包材の中に収納された電極積層体に、温度25℃、露点-40℃以下のドライエアー環境下にて、非水系電解液1約80gを大気圧下で注入して、リチウムドープ処理前の非水系リチウム蓄電素子を形成した。続いて、減圧チャンバーの中に、この非水系リチウム蓄電素子を入れ、常圧から-87kPaまで減圧した後、常圧に戻し、5分間静置した。この常圧から-87kPaまで減圧した後、常圧に戻す操作を4回繰り返した後、常圧にて15分間静置した。更に常圧から-91kPaまで減圧した後、常圧に戻した。同様に減圧し、常圧に戻す操作を合計7回繰り返した(このとき、常圧から、それぞれ、-95、-96、-97、-81、-97、-97、-97kPaまで減圧した)。以上の手順により、非水系リチウム蓄電素子の電極積層体に非水系電解液35を含浸させた。
【0291】
非水系電解液35を含浸させた電極積層体が収納された外装体を減圧シール機に入れ、-95kPaに減圧した状態で、180℃、0.1MPaの圧力で、10秒間シールしてアルミニウムラミネート包材を封止することにより、非水系リチウム蓄電素子(リチウムイオンキャパシタ)を得た。
【0292】
[リチウムドープ]
得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、東洋システム社製の充放電装置(TOSCAT-3100U)を用いて、25℃環境下、電流値50mAで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.5V定電圧充電を72時間継続する手法により初期充電を行い、負極にリチウムドープを行った。
【0293】
[エージング]
リチウムドープ後の非水系リチウム蓄電素子を、25℃環境下、1.0Aで電圧3.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、3.0V定電圧放電を1時間行うことにより電圧を3.0Vに調整した。非水系リチウム蓄電素子を60℃の恒温槽に60時間保管して、エージングを行った。
【0294】
[ガス抜き]
温度25℃、露点-40℃のドライエアー環境下で、エージング後の非水系リチウム蓄電素子のアルミニウムラミネート包材の一部を開封した。次いで、減圧チャンバーの中にアルミニウムラミネート包材の一部を開封した非水系リチウム蓄電素子を入れ、KNF社製のダイヤフラムポンプ(N816.3KT.45.18)を用いて、常圧から-80kPaまで3分間かけて減圧した後、3分間かけて常圧に戻す操作を、合計3回繰り返した。減圧シール機に非水系リチウム蓄電素子を入れ、-90kPaに減圧した後、200℃の温度、及び0.1MPaの圧力で10秒間シールすることにより、アルミニウムラミネート包材を封止(再封止)した。
【0295】
以上の手順により、非水系リチウム蓄電素子の評価を実施した。
【0296】
[Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの放電容量Qの測定]
蓄電素子の放電容量Qは、Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vとして測定した。得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、次いで、3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行った。続いて、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を行うことにより、放電容量Qを測定した。
実施例1の非水系リチウム蓄電素子は、Vmax=3.8Vであり、Vmin=2.2Vのときの放電容量Qは、917mAhであった。
【0297】
[Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの常温放電内部抵抗Raの算出]
蓄電素子の初期の常温放電内部抵抗Raは、Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vとして測定した。得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、以下の手順で初期充放電操作を行った。
先ず、20Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、次いで、3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行った。続いて、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、初期充放電操作を完成させた。この定電流放電のときに得られた放電カーブ(時間-電圧)において、放電時間1秒及び2秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEとし、降下電圧ΔE=3.8-E、及びR=ΔE/(20C(電流値A))により、常温放電内部抵抗Raを算出した。
実施例1の非水系リチウム蓄電素子の初期充放電後の常温放電内部抵抗Raは、1.97mΩであった。
【0298】
[高温保存試験の後のRbの算出、及びRb/Raの算出]
得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、上述した高温保存試験を行った。
非水系リチウム蓄電素子に対し、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、次いで4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で10分間行った。続いて蓄電素子を85℃環境下に保存し、1週間毎に85℃環境下から取り出し、同様の充電操作にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを85℃環境下に戻して保存を継続した。この操作を500時間繰り返し実施して、非水系蓄電素子の高温保存試験を行った。高温保存試験後の蓄電素子に対して、上記[Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの常温放電内部抵抗Raの算出]と同様にして高温保存試験後の常温放電内部抵抗Rbを算出した。このRb(Ω)を、上記で求めた高温保存試験前のVmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの常温放電内部抵抗Ra(Ω)で除すことにより、比Rb/Raを算出したところ、比Rb/Raは1.65であった。
【0299】
[高温保存試験の後のQbの算出、及びQb/Qaの算出]
得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、上述した高温保存試験を行った。
非水系リチウム蓄電素子に対し、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、次いで4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で10分間行った。続いて蓄電素子を85℃環境下に保存し、1週間毎に85℃環境下から取り出し、同様の充電操作にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを85℃環境下に戻して保存を継続した。この操作を500時間繰り返し実施して、非水系蓄電素子の高温保存試験を行った。高温保存試験後の蓄電素子に対して、上記[Vmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの放電容量Qaの算出]と同様にして高温保存試験後の放電容量Qbを算出した。このQb(mAh)を、上記で求めた高温保存試験前のVmax=3.8V、Vmin=2.2Vでの放電容量Qa(mAh)で除して、比Qb/Qaを算出したところ、比Qb/Qaは0.83であった。
【0300】
[SEI(シュウ酸リチウム)の形成確認]
得られた非水系リチウム蓄電素子を23℃の部屋に設置された露点-90℃以下、酸素濃度1ppm以下で管理されているArボックス内で解体し、負極を取り出した。負極をジメチルカーボネート(DMC)溶液で洗浄した。前記負極の負極活物質層表面を、X線光電子分光法(XPS)(アルバックファイ株式会社製、Versa Probe II)を用いて、以下の条件下、大気非暴露下にて表面分析を行った。
励起源:単色化AlKα
X線ビーム径:100μmφ(25W、15kV)
パスエネルギー:ナロースキャン、46.95eV
帯電中和:有り
スイープ数:ナロースキャン10回
エネルギーステップ:ナロースキャン、0.25eV
シュウ酸リチウムの形成は、289eV以上290eV以下の範囲にピークP1(炭素ピーク)を有することから確認した。
【0301】
[SEI(シュウ酸リチウム)の形成量確認]
上記負極活物質層のXPSにおいて、289eV以上290eV以下の範囲に観察されるピークP1の強度I1と、284eV以上285eV以下の範囲に観察されるピークP2の強度I2との比I1/I2は、0.17であった。
【0302】
[Al腐食の有無の確認]
得られた非水系リチウム蓄電素子に対して、上述した高温保存試験を行った。
非水系リチウム蓄電素子に対し、25℃に設定した恒温槽内で、富士通テレコムネットワークス株式会社製の充放電装置(5V,360A)を用いて、100Cの電流値で4.0Vに到達するまで定電流充電し、次いで4.0Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で10分間行った。続いて蓄電素子を85℃環境下に保存し、1週間毎に85℃環境下から取り出し、同様の充電操作にてセル電圧を4.0Vに充電した後、再びセルを85℃環境下に戻して保存を継続した。この操作を500時間繰り返し実施して、非水系蓄電素子の高温保存試験を行った。高温保存試験後の蓄電素子に対して、23℃の部屋に設置された露点-90℃以下、酸素濃度1ppm以下で管理されているArボックス内で解体し、正極集電体表面を目視で確認した。その結果、正極集電体表面に、Al腐食時に特有の黒色化は確認されず、Al腐食はないと判断された。
【0303】
《実施例49~67及び比較例19~27》
私用した正極前駆体、負極、及び非水系電解液の種類を、それぞれ表14~17に示すとおりとした他は、実施例48と同様にして、非水系リチウム蓄電素子をそれぞれ製造し、各種の評価を行った。
得られた非水系リチウム蓄電素子の評価結果を表14~17に示す。
【0304】
【表18】
【0305】
【表19】
【0306】
【表20】
【0307】
【表21】
【0308】
以上の実施例により、本発明の非水系リチウム蓄電素子は、高容量を発現し、初期出力特性に優れ、かつ高温保存耐久性に優れた、非水系リチウム蓄電素子であることが検証された。特に、85℃及び4.0V環境下の高温保存後においても、放電容量残存率Qb/Qaが0.70以上であることから、優れた高温耐久性を有することが分かった。
【0309】
<実施例68~84、及び比較例28~42>
<正極活物質の調製>
破砕されたヤシ殻炭化物を小型炭化炉内へ入れ、窒素雰囲気下、500℃で3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、予熱炉で加温した水蒸気を1kg/hで賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間かけて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた賦活された活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りし、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した後に、ボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭5を得た。
島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2000J)を用いて、活性炭5の平均粒子径を測定した結果、5.5μmであった。また、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB-1 AS-1-MP)を用いて、活性炭1の細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2,360m/g、メソ孔量(V)が0.52cc/g、マイクロ孔量(V)が0.88cc/g、V/V=0.59であった。
【0310】
<カーボンナノチューブ分散体の調製>
市販の多層カーボンナノチューブ(CNT)(平均繊維径40nm、平均繊維長50μm)を8.0質量部、分散剤1としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を1.0質量部、及び蒸留水を91.0質量部、並びにFeを、CNT及びCMCの合計質量に対して10ppm混合し、遊星ボールミルを用いて100rpmの速度で120分間分散することにより、カーボンナノチューブ分散体(CNT分散体)を調製した。
【0311】
<正極前駆体の製造例10>
正極活物質として活性炭5を53.0質量部、上記カーボンナノチューブ分散体を100質量部(カーボンナノチューブ8.0質量部、及びカルボキシメチルセルロース1.0質量部に相当)、アルカリ金属化合物として炭酸リチウムを30.0質量部、導電性フィラーとしてアセチレンブラック(AB)を3.0質量部、分散剤2としてPVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、及び結着剤としてアクリルラテックス(LTX)を3.5質量部、並びに固形分の質量割合が26.5%になるように蒸留水を混合し、その混合物をシンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度で10分間分散して正極塗工液を得た。
得られた正極塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE-35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は1,650mPa・s、TI値は4.5であった。また、得られた正極塗工液の分散度をヨシミツ精機社製の粒ゲージを用いて測定した。その結果、粒度は20μmであった。
ドクターブレードを用いて、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に正極塗工液を塗工し、50℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧力6kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスすることにより、正極前駆体10を得た。
小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、得られた正極前駆体10の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値からアルミニウム箔の膜厚を減じて」正極活物質層の膜厚を求めたところ、正極前駆体10の正極活物質層の膜厚は、60μmであった。
【0312】
<正極前駆体の製造例11~30、32、34、及び36>
各成分の種類及び使用量、それぞれ、表18のとおりとした他は、<正極前駆体の製造例10>と同様にして、カーボンナノチューブ分散体(CNT分散体)を調製した。
これらのCNT分散体をそれぞれ用い、各成分の種類及び使用量を、それぞれ、表19に記載のとおりとした他は、<正極前駆体の製造例5>と同様にして、正極前駆体11~30、32、34、及び36を製造した。
【0313】
<正極前駆体の製造例31>
正極活物質として活性炭5を53.0質量部、市販の多層カーボンナノチューブ(平均繊維径40nm、平均繊維長50μm)を8.0質量部、分散剤1としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を1.5質量部、アルカリ金属化合物として炭酸リチウムを30.0質量部、導電性フィラーとしてアセチレンブラック(AB)を3.0質量部、結着剤としてアクリルラテックス(LTX)を4.5質量部%、及びFeを、これらの成分の合計質量に対して20ppm、並びに固形分の質量割合が26.5%になるように蒸留水を混合し、その混合物をシンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度で10分間分散して正極塗工液を得た。
得られた正極塗工液の粘度(ηb)及びTI値を東機産業社のE型粘度計TVE-35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は780mPa・s、TI値は7.5であった。また、得られた正極塗工液の分散度をヨシミツ精機社製の粒ゲージを用いて測定した。その結果、粒度は35μmであった。
ドクターブレードを用いて、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に正極塗工液を塗工し、50℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥した後、ロールプレス機を用いて圧力6kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスすることにより、正極前駆体31を得た。
小野計器社製膜厚計Linear Gauge Sensor GS-551を用いて、得られた正極前駆体31の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値からアルミニウム箔の膜厚を減じて正極活物質層の膜厚を求めたところ、正極前駆体31の正極活物質層の膜厚は、61μmであった。
【0314】
<正極前駆体の製造例33、35、及び37>
各成分の種類及び使用量を、それぞれ、表19に記載のとおりとした他は、<正極前駆体の製造例31>と同様にして、正極前駆体33、35、及び37を製造した。
【0315】
【表22】
【0316】
【表23】
【0317】
【表24】
【0318】
【表25】
【0319】
<負極の製造例32>
平均粒子径4.5μmの人造黒鉛を84.0質量部、アセチレンブラック(AB)を10.0質量部、カルボキシメチルセルロース(CMC)を3.0質量部、及びスチレンブタジエンゴム(SBR)を3.0質量部、並びに蒸留水を混合し、固形分の質量割合が36.5質量%の混合物を得た。
得られた混合物を、シンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度にて10分間分散して、負極塗工液を得た。
得られた負極塗工液の粘度(ηb)及びTI値を、東機産業社のE型粘度計TVE-35Hを用いて測定した。その結果、粘度(ηb)は1,840mPa・s、TI値は3.1であった。
厚さ8μmの電解銅箔の片面に、ドクターブレードを用いて負極塗工液を塗工し、50℃に加熱したホットプレートで10分間乾燥した。次いでロールプレス機を用いて、圧力5kN/cm、プレス部の表面温度25℃の条件でプレスすることにより、負極32を製造した。
小野計器社製の膜厚計「Linear Gauge Sensor GS-551」を用いて、負極1の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値から電解銅箔の厚さを減じて負極活物質層の膜厚を求めたところ、負極32の負極活物質層の膜厚は、30μmであった。
【0320】
<負極の製造例33>
平均粒子径4.5μmの人造黒鉛を96.0質量部、上記カーボンナノチューブ分散体を100質量部(カーボンナノチューブ8.0質量部、及びカルボキシメチルセルロースが1.0質量部に相当)、アセチレンブラック(AB)を3.0質量部、及びカルボキシメチルセルロースを更に2.0質量部、並びに蒸留水を混合し、固形分の質量割合が36.5質量%の混合物を得た。
得られた混合物を、シンキー社製の自転公転ミキサー「泡とり練太郎(登録商標)」を用いて、2,000rpmの回転速度にて10分間分散して、負極塗工液を得た。
得られた負極塗工液を用いた他は、負極の製造例32と同様にして、負極33を製造した。
【0321】
<電解液の調製例51>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、LiPFとLiFSIとの濃度比が1:1であり、合計1.2mol/Lの濃度となるように電解質塩を溶解することにより、非水系電解液51を得た。
【0322】
<電解液の調製例52>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、LiPFとLiFSIとLiBOBの濃度比が5:6:1であり、合計1.2mol/Lの濃度となるように電解質塩を溶解することにより、非水系電解液52を得た。
【0323】
《実施例68》
<非水系リチウム蓄電素子の製造>
得られた正極前駆体10を、正極活物質層が4.4cm×9.4cmの大きさになるように1枚切り出した。続いて負極32を、負極活物質層が4.5cm×9.5cmの大きさになるように1枚切り出した。また、4.7cm×9.8cmのポリエチレン製のセパレータ(旭化成製、厚み15μm)を1枚用意した。これらを用いて、正極前駆体10、セパレータ、及び負極32の順に、セパレータを挟んで正極活物質層と負極活物質層とが対向するよう積層し、電極積層体を得た。得られた電極体に正極端子及び負極端子を超音波溶接し、アルミラミネート包材で形成された外装体に入れ、電極端子部を含む3辺をヒートシールによりシールした。
大気圧下、温度25℃、露点-40℃以下のドライエアー環境下にて、電極積層体を収納した外装体内に、非水系電解液51を約2.5g注入した。続いて、電極積層体及び非水系電解液を収納している外装体を減圧チャンバーの中に入れ、大気圧から-87kPaまで減圧した後、大気圧に戻し、5分間静置した。その後、チャンバー内の外装体を大気圧から-87kPaまで減圧した後、大気圧に戻す工程を4回繰り返した後、大気圧下にて15分間静置した。以上の工程により、非水系電解液51を電極積層体に含浸させた。
その後、非水系電解液51を含浸させた電極積層体を減圧シール機に入れ、-95kPaに減圧した状態で、180℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることにより外装体を封止した。
【0324】
[アルカリ金属ドープ工程]
封止された電極積層体を、温度40℃にて、電流値50mAで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.5V定電圧充電を2時間継続する手法により、初期充電を行い、負極にアルカリ金属ドープを行った。
[エージング工程]
アルカリ金属ドープ後の電極積層体をドライボックスから取り出し、25℃環境下にて、50mAで電圧4.0Vに到達するまで定電流放電を行った後、4.0Vでの定電流放電を1時間行うことにより、電圧を4.0Vに調整した。続いて、電極体を60℃の恒温槽中に12時間保管した。
[ガス抜き工程]
エージング後、温度25℃、露点-40℃のドライエアー環境下にて、外装体の一部を開封して、電極積層体を取出した。取り出した電極積層体を、減圧チャンバーの中に入れ、ダイヤフラムポンプを用いて大気圧から-80kPaまで3分間かけて減圧した後、3分間かけて大気圧に戻す工程を合計3回繰り返した。その後、電極積層体を外装体内に戻し入れ、減圧シール機を用いて、-90kPaに減圧した後、200℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールして外装体を封止することにより、非水系リチウム蓄電素子を製造した。
【0325】
上記の手順により、同じ構成の非水系リチウム蓄電素子を複数個製造した。
【0326】
<非水系リチウム蓄電素子の評価>
[静電容量Qa及び内部抵抗Raの測定]
得られた非水系リチウム蓄電素子のうちの1個について、25℃に設定した恒温槽内で、アスカ電子株式会社製の充放電装置(5V,10A)を用い、上述の方法により静電容量Qa及び内部抵抗Raを測定したところ、Qaは8.75mAh、Raは86.5mΩであった。これらの値は、初期静電容量Qa及び初期内部抵抗Raとして、表20に示した。
[高電圧高温保存試験]
得られた非水系リチウム蓄電素子の別の1個について、上述の方法により高電圧高温保存試験を行った。試験後に静電容量Qb、及び内部抵抗Rbを測定したところ、Qbは8.04mAh、Rbは98.2mΩであった。これらの値は、高電圧高温保存後静電容量Qb及び高電圧高温保存後内部抵抗Rbとして、表20に示した。
また、高電圧高温保存試験前後の静電容量及び内部抵抗の変化率を算出し、耐高電圧高温保存性の指標としたところ、静電容量変化率Qb/Qaは0.92、抵抗変化率Rb/Raは1.14であり、いずれも良好であった。
【0327】
<正極前駆体及び正極の分析>
正極前駆体及び正極それぞれの正極活物質層について、SEM分析及びXRD測定を行い、正極の正極活物質層については、更にICP-MS分析を行った。
正極前駆体としては、上記で組み立てた直後の非水系リチウム蓄電素子から取り出した正極前駆体を用いた。正極としては、上記で組み立てた非水系リチウム蓄電素子の電圧を3.5Vに調整した後に、当該蓄電素子から取り出した正極を用いた。
【0328】
[SEM像撮影]
上記の正極前駆体又は正極を有する非水系リチウム蓄電素子について、アルゴンボックス中で外装体の一部を開封して、電極積層体を取出し、正極前駆体又は正極を採取した。この正極前駆体又は正極を、1cm角の大きさのカット片とした。このカット片を、エチルメチルカーボネートで2回洗浄し、風乾した後に、アルゴンボックスから搬出した。次いで、カット片を、25℃において蒸留水中に24時間浸漬した後、80℃、-97kPaの条件下で12時間減圧乾燥した。
乾燥後のカット片の正極活物質層に、10Paの真空中にて金をスパッタリングすることにより、厚み数nmの金膜を表面にコーティングした。続いて以下に示す条件にて、大気暴露下で正極活物質層表面のSEM像を撮影した。
(SEM測定条件)
・測定装置:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、電界放出型走査型電子顕微鏡 S-4700
・加速電圧:1kV
・エミッション電流:10μA
・測定倍率:10000倍
・検出器:二次電子検出器
・電子線入射角度:90°
撮影にあたっては、SEM像中に最大輝度値に達する画素がなく、輝度値の平均値が最大輝度値の40%~60%の範囲に入るように、輝度及びコントラストを調整した。
正極前駆体の正極活物質層について撮影したSEM像を用いて、上述の方法により、明視野領域中の、直径100nm未満の最大内接円の面積割合Z’1を求めたところ、Z’1は5.9%であった。
また、正極の正極活物質層について撮影したSEM像を用いて、上述の方法により、明視野領域中の面積割合Z’2を求めたところ、Z’2は7.7%であった。
【0329】
[XRD(X線回折)測定]
上記と同様に非水系リチウム蓄電素子から取り出した正極前駆体又は正極を、1cm(1cm×1cm)の大きさに切り出して、XRD用の試料とした。
得られたXRD用試料について、以下の条件でXRDを測定した。
・使用機器 : Rigaku Ultima IV
・検出器 : D/teX Ultra
・管球 : CuKα
・管電圧 : 40kV
・管電流 : 40mA
・サンプリング間隔 : 0.01°/point
・走査速度 : 5°/min
・測定角度範囲 : 5~90°
・発散スリット(DS) : 1°
・発散縦 : 10mm
・散乱スリット(SS) : 開放
・受光スリット(RS) : 開放
正極前駆体の正極活物質層について得られたXRDスペクトルにおいて、2θが25.7°以上27.0°以下の範囲にピークトップを有するピークX1の半値幅を調べたところ、半値幅は0.15°であった。
また、正極の正極活物質層について得られたXRDスペクトルにおいて、2θが25.7°以上27.0°以下の範囲にピークトップを有するピークX2の半値幅を調べたところ、半値幅は0.14°であった。
【0330】
[ICP-MS分析]
上記と同様に非水系リチウム蓄電素子から取り出した正極の正極活物質層について、ICP-MS分析を行い、アルカリ金属化合物の含有量を定量した。
正極活物質層の一部をスパチェラで掻き取り、精秤のうえ、王水で酸分解して、酸濃度2質量%程度に純水で希釈した。得られた希釈物に、内部標準元素としてイットリウム元素を含有する内部標準物質溶液(10μg/mL)を加えたものを、測定試料とした。
この測定試料について、ICP-MS分析を行い、標準液を用いて作成した検量線により、当該試料中のアルカリ金属化合物量を定量し、元の試料質量で割り付けることにより、正極活物質層の全質量に対するアルカリ金属化合物濃度を算出したところ、アルカリ金属化合物の濃度は3.5質量%であった。
【0331】
《実施例69~84、及び比較例28~42》
負極、正極前駆体、及び非水系電解液として、それぞれ、表20に記載のものを用いた他は、実施例68と同様にして、非水系リチウム蓄電素子を製造し、評価した。
評価結果は、表20に示した。
また、実施例84の正極前駆体36、及び比較例42の正極前駆体37の正極活物質層についてのSEM分析の結果を図7図12に示す。
図7は、実施例84で得られた正極前駆体36の正極活物質層のSEM像であり;
図8は、図7のSEM像の二値化画像であり;
図9は、図2の二値化画像から得られた、最大内接円の直径ごとの頻度分布図である。
図10は、比較例42で得られた正極前駆体37の正極活物質層のSEM像であり;
図11は、図10のSEM像の二値化画像であり;
図12は、図11の二値化画像から得られた、最大内接円の直径ごとの頻度分布図である。
【0332】
【表26】
【0333】
【表27】
【0334】
【表28】
【0335】
【表29】
【0336】
表20に示されるとおり、アルカリ金属化合物の質量比率C2が、0.1≦C2≦7.0の場合、得られる高容量であることが確認された。また、面積割合Z‘2が7.5%以上35.0%以下の例については優れた耐久性を有する事が確認された。
更に、カーボンナノチューブを含有する負極、ニトリル化合物から選択される添加剤を含有する非水系電解液と組み合わせることにより、更に優れた入出力特性と高温耐久性を示すことが想定される。
【0337】
<実施例85、86、及び比較例43~57>
<正極活物質の調製>
活性炭として下記のものを用いた。平均粒子径は島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2000J)を用いて測定した。
(1)原料としてヤシ殻を用い、500℃まで3時間掛けて水蒸気賦活された、粒径が4.8μmの活性炭6(実施例85)
(2)原料として木炭を用い、500℃まで3時間掛けて水蒸気賦活された、粒径が6.1μmの活性炭7(実施例86)
(3)原料としてヤシ殻を用い、500℃まで3時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が8.2μmの活性炭8(比較例43)
(4)原料としてヤシ殻を用い、800℃まで9時間掛けて水蒸気賦活された、活性炭9(比較例44)
(5)原料としておが屑を用い、500℃まで3時間掛けて水蒸気賦活された、粒径が4.9μmの活性炭10(比較例45)
(6)原料としてフェノール樹脂を用い、900℃まで7時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が3.5μmの活性炭11(比較例46)
(7)原料として石炭を用い、900℃まで8時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が2.8μmの活性炭12(比較例47)
(8)原料としてもみ殻を用い、800℃まで7時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が5.0μmの活性炭13(比較例48)
(9)原料としてもみ殻を用い、800℃まで9時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が5.0μmの活性炭14(比較例49)
(10)原料としてもみ殻を用い、800℃まで5時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が5.0μmの活性炭15(比較例50)
(11)原料としておが屑を用い、1000℃まで6時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が3.8μmの活性炭16(比較例51)
(12)原料としておが屑を用い、1000℃まで4時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が3.8μmの活性炭17(比較例52)
(13)原料としておが屑を用い、1000℃まで8時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が3.8μmの活性炭18(比較例53)
(14)原料としてヤシ殻を用い、900℃まで8時間掛けて水蒸気賦活された、粒径が4.2μmの活性炭19(比較例54)
(15)原料としてフェノール樹脂を用い、800℃まで1時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が7.0μmの活性炭20(比較例55)
(16)原料としてフェノール樹脂を用い、900℃まで8時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が5.3μmの活性炭21(比較例56)
(17)原料としてフェノール樹脂を用い、900℃まで4時間掛けてアルカリ賦活された、粒径が5.3μmの活性炭22(比較例57)
【0338】
<正極前駆体の作製>
前記活性炭6を正極活物質として用いて正極前駆体を製造した。活性炭6を56.8質量%、炭酸リチムを31.8質量%、アセチレンブラックを4.2質量%、CMC(カルボキシメチルセルロース)を1.5質量%、PVP(ポリビニルピロリドン)を1.8質量%、及びアクリルラテックスを4.0質量%、並びに固形分の質量割合が34.1%になるように蒸留水を混合し、その混合物を自転・公転ミキサー(THINKY社製)を用いて、周速2,000回/分の条件で4分間分散して正極塗工液を得た。
【0339】
コントロールコーター(井元製作所製)を用いて、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に正極塗工液を塗工し、50℃のホットプレート上で乾燥して正極前駆体を得た。得られた正極前駆体を、2トンメカ式ロールプレス機(サンクメタル社製)を用いてプレス部の表面温度25℃の条件でプレスした。
【0340】
<負極の製造>
人造黒鉛を82.8質量%、多孔質炭素を4.3質量%、アセチレンブラックを8.7質量%、CMC(カルボキシメチルセルロース)を2.0質量%、及びSBR(スチレンブタジエンゴム)ラテックスを2.2質量%、並びに固形分の質量割合が34.0%になるように蒸留水を混合し、その混合物を自転・公転ミキサー(THINKY社製)を用いて、周速2000回/分の条件で4分間分散して負極塗工液を得た。
【0341】
コントロールコーター(井元製作所製)を用いて、厚さ8μmの銅箔の片面に負極塗工液を塗工し、50℃のホットプレート上で乾燥して負極を得た。得られた負極を、2トンメカ式ロールプレス機(サンクメタル社製)を用いてプレス部の表面温度25℃の条件でプレスした。
【0342】
<金属リチウム対極の作製>
銅箔を4.6cm×9.6cm(44cm)の大きさになるよう切り抜き、長方形状にカットした金属リチウム箔をその上に重ねた。その後、ハンドローラーでリチウム箔を銅箔に圧着させ金属リチウム対極を得た。
【0343】
<電解液の調製>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC):ジメチルメチルカーボネート(DMC)=34:22:44(体積比)の混合溶媒を用い、LiPFとLiFSIとの濃度比が3:1であり、合計1.2mol/Lの濃度となるように電解質塩を溶解して、非水系電解液を調製した。
【0344】
<非水系リチウム蓄電素子の作製>
得られた正極前駆体を正極活物質層が4.3cm×9.5cm(41cm)の大きさになるように、負極を負極活物質層が4.6cm×9.6cm(44cm)の大きさになるように切り出した。また、4.8cm×9.8cm(47cm)のポリオレフィン製のセパレータ(旭化成株式会社製、厚み15μm)を用意し、正極前駆体、セパレータ、負極の順に積層し、電極積層体を得た。得られた電極積層体に正極端子及び負極端子を超音波溶接し、アルミラミネート包材で形成された容器に入れ、電極端子部を含む3辺をヒートシールによりシールした。
【0345】
アルミラミネート包材の中に収納された電極積層体に、大気圧下、25℃の温度、-60℃の露点のアルゴン環境下にて、非水系電解液を約3g注入した。続いて、電極積層体及び非水系電解液を収納しているアルミラミネート包材を減圧チャンバーの中に入れ、大気圧から-87kPaまで減圧した後、大気圧に戻し、5分間静置した。その後、チャンバー内の包材を大気圧から-87kPaまで減圧した後、大気圧に戻す工程を4回繰り返した後、15分間静置した。以上の工程により、非水系電解液を電極積層体に含浸させた。
【0346】
その後、非水系電解液を含浸させた電極積層体を含むアルミラミネート包材を減圧シール機に入れ、-95kPaに減圧した状態で、180℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止して、非水系リチウム蓄電素子を形成した。
【0347】
[アルカリ金属ドープ工程]
続いて、非水系リチウム蓄電素子を温度45℃に設定した恒温槽内に入れた。アスカ電子株式会社製の充放電装置を用いて、正極の電極面積当たりの電流値1.2mA/cmで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、4.5V定電圧充電を3時間継続する手法により初期充電を行い、アルカリ金属ドープを行った。
【0348】
その後、正極の電極面積当たりの電流値1.2mA/cmで4.0Vから2.0Vへの定電流放電と2.0V定電圧放電を10分間継続する放電工程、及び正極の電極面積当たりの電流値1.2mA/cmで2.0Vから4.0Vへの定電流充電と2.0V定電圧充電を10分間継続する充電工程から成る充放電サイクルを5回繰り返した。
【0349】
[エージング工程]
アルカリ金属ドープ工程後の非水系リチウム蓄電素子を温度60℃に設定した恒温槽内に入れ、正極の電極面積当たりの電流値1.2mA/cmで4.0Vまで定電流充電を行った後、4.0V定電圧充電を16時間行った。
【0350】
その後、正極の電極面積当たりの電流値1.2mA/cmで4.0Vから2.0Vへの定電流放電と2.0V定電圧放電を10分間継続する放電工程、及び正極の電極面積当たりの電流値1.2mA/cmで2.0Vから4.0Vへの定電流充電と2.0V定電圧充電を10分間継続する充電工程から成る充放電サイクルを5回繰り返した。
【0351】
[ガス抜き工程]
エージング工程後の非水系リチウム蓄電素子について、25℃の温度、-60℃の露点のアルゴン環境下でアルミラミネート包材の一部を開封した。続いて、減圧チャンバーの中に、電極積層体を含む部分的に開放されたアルミラミネート包材を入れ、ダイヤフラムポンプを用いて大気圧から-80kPaまで3分間掛けて減圧した後、3分間掛けて大気圧に戻す工程を合計10回繰り返した。その後、減圧シール機に電極積層体を含む部分的に開放されたアルミラミネート包材を入れ、-90kPaに減圧した後、200℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止し、非水系リチウム蓄電素子を作製した。
【0352】
[初回のセル容量とセル寿命の算出]
作製した非水系リチウム蓄電素子を温度25℃の環境下において正極の電極面積当たりの電流値10mA/cmで3.8Vから2.2Vに定電流放電を行ったところ、初回のセル容量は6.9mAhと算出された。
【0353】
更に、非水系リチウム蓄電素子を温度65℃の環境下に保存した。上記の条件で測定したセル容量が3.0mAhに達するまでの時間は2.2×10時間だった。
【0354】
<正極単極セルの作製>
正極前駆体を正極活物質層が4.3cm×9.5cm(41cm)の大きさになるように切り出した。また、4.8cm×9.8cm(47cm)のポリオレフィン製のセパレータ(旭化成株式会社製、厚み15μm)、及び4.8cm×9.8cm(47cm)のガラスフィルターを用意した。続いて正極前駆体、セパレータ、ガラスフィルター、金属リチウム対極の順に積層し、電極積層体を得た。得られた電極積層体に正極端子及び負極端子を超音波溶接し、アルミラミネート包材で形成された容器に入れ、電極端子部を含む3辺をヒートシールによりシールした。
【0355】
アルミラミネート包材の中に収納された電極積層体に、大気圧下、25℃の温度、-60℃の露点のアルゴン環境下にて、非水系電解液を約6g注入した。続いて、電極積層体及び非水系電解液を収納しているアルミラミネート包材を減圧チャンバーの中に入れ、大気圧から-87kPaまで減圧した後、大気圧に戻し、5分間静置した。その後、チャンバー内の包材を大気圧から-87kPaまで減圧した後、大気圧に戻す工程を4回繰り返した後、15分間静置した。以上の工程により、非水系電解液を電極積層体に含浸させた。
【0356】
その後、非水系電解液を含浸させた電極積層体を含むアルミラミネート包材を減圧シール機に入れ、-95kPaに減圧した状態で、180℃で10秒間、0.1MPaの圧力でシールすることによりアルミラミネート包材を封止して、正極単極セルを得た。
【0357】
<正極単極セルの評価>
[アルカリ金属ドープ反応効率の算出]
封止後に得られた正極単極セルを、温度45℃に設定した恒温槽内に入れた。その後、東洋システム株式会社製の充放電装置を用いて、正極の電極面積当たりの電流値0.49mA/cmで電圧4.5Vに到達するまで定電流充電を行った後、4.5V定電圧充電を3時間継続する手法により初期充電を行い、アルカリ金属ドープを行った。アルカリ金属ドープ反応効率ηは81%と算出された。
【0358】
[活性炭のラマンスペクトル測定]
活性炭について、以下の条件でラマンスペクトルを測定した。
・使用機器 : Renishaw社製inVia Reflex
・励起波長 : 532nm
・励起光強度: 5%
・対物レンズ: 50倍
・測定方式 : 共焦点
・回折格子 : 1800gr/mm
・露光時間 : 30秒
・積算回数 : 8回
その結果、Yは2.9と算出された。
なおYは、ラマンシフト1,590cm-1付近に現れる極大値のピーク強度I1とラマンシフト1,470cm-1付近に現れる極小値のピーク強度I2の比I1/I2である(Y=I1/I2)。
【0359】
[活性炭の官能基量測定]
以下の条件の熱分解GC/MS分析により、活性炭の官能基量を測定した。
・熱分解装置: FRONTIER LAB Py3030D
・加熱温度 : 50℃で20分保持後20℃/分で昇温し1000℃で30分保持
・IF温度 : 250℃
・加熱雰囲気: Heガス下
・GC/MS装置: AgilentMSD5975
・カラム : Agilent FSDeactivated
・カラム温度 : 250℃
・注入口温度 : 250℃
・イオン源 : 電子衝撃イオン化法、温度230℃、I/F 250℃
・試料量 : 約3mg
その結果、実施例85で使用した活性炭6の官能基量は、2.1mmol/gと算出された。
【0360】
<実施例86、及び比較例43~57>
表21に示される非水系リチウム蓄電素子の構成、及び作製条件にしたがって、蓄電素子を作製し、各種の評価を行った。結果は、表21に示した。
なお、正極単極セルの評価から各活性炭種の容量(F/g)を算出し、セルの正極容量が全ての活性炭で同一になるよう正極活物質層の目付(g/cm)を調整した。
【0361】
【表30】
【0362】
表21に示されるとおり、500℃で3時間水蒸気賦活を行った場合は、高い結晶性の活性炭が得られている。また、平均粒子径Xが3.0μm以上、7.0μm以下であり、かつYが2.5以上の例については、高いドープ反応効率が得られ、かつ高寿命であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12