(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】ガス拡散層、膜電極接合体および燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/96 20060101AFI20230627BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20230627BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M4/96 H
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2019536601
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2019025767
(87)【国際公開番号】W WO2020066191
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018183744
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 海
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 将道
(72)【発明者】
【氏名】茂本 勇
(72)【発明者】
【氏名】谷村 寧昭
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/146706(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/125748(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/076132(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110690(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/96
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素シートと、前記炭素シートの少なくとも片面に微多孔層と、を有するガス拡散層であって、
前記ガス拡散層における幅10mmかつ奥行き3mmの任意に選択される領域を、前記ガス拡散層の片側から面直方向に0.5MPaの圧力で圧縮したときに、ガス拡散層内部を面内方向に酸素が透過する「面内酸素透過係数」をAとし、
前記ガス拡散層の面直方向を2MPaで圧縮したときの「電気抵抗」をBとし、
Aから、Bに60を乗じた数を減じ、310を加えた数を「面内酸素透過係数と電気抵抗の両立性指標」Cとしたとき、
Cが0以上となる関係を満たす、ガス拡散層。
【請求項2】
炭素シートと、前記炭素シートの少なくとも片面に微多孔層と、を有するガス拡散層であって、
前記炭素シートは、
細孔径10μm以上100μm以下の空隙を有する炭素繊維からなる領域と、
細孔径0.01μm以上10μm未満の内部細孔体で占められる領域とを有し、
内部細孔体は、前記炭素シート表面から面直方向に10μm以上30μm以下の平均厚さで存在する、請求項1に記載のガス拡散層。
【請求項3】
前記内部細孔体の目付が3g/m
2以上15g/m
2以下である、請求
項2に記載のガス拡散層。
【請求項4】
前記炭素シートはフッ素系の撥水剤を含み、かつ、片面のみに微多孔層を有し、その逆側の面において、表面の炭素繊維上の、炭素元素数に対するフッ素元素数の比が0.002以上0.030以下である、請求項2または3に記載のガス拡散層。
【請求項5】
前記内部細孔体の空隙率が80%以上95%以下である、請求項
2~4のいずれかに記載のガス拡散層。
【請求項6】
前記炭素シートの微多孔層を有する面から面直方向に20μmの位置までの範囲を表層としたとき、前記炭素シートの表層の密度が0.34g/cm
3以上であり、かつ炭素シート全体の密度は0.29g/cm
3以上0.33g/cm
3以下である、請求項1~5のいずれかに記載のガス拡散層。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のガス拡散層を含む膜電極接合体。
【請求項8】
請求項7に記載の膜電極接合体を含む燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池、特に固体高分子型燃料電池に好適に用いられる炭素シートと微多孔層を含むガス拡散層、およびそのガス拡散層を含む膜電極接合体およびそのガス拡散層を含む燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素を含む燃料ガスをアノードに供給し、酸素を含む酸化ガスをカソードに供給して、両極で起こる電気化学反応によって起電力を得る固体高分子型燃料電池は、一般的に、セパレータ、ガス拡散層、触媒層、電解質膜、触媒層、ガス拡散層、およびセパレータを順に積層して構成されている。上記のガス拡散層には、セパレータから供給されるガスを触媒層へと拡散するための高いガス拡散性と、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、および発生した電流を取り出すための高い導電性が必要であり、そのため炭素繊維などからなる炭素シートを基材としてその表面に微多孔層を形成したガス拡散層が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、このようなガス拡散層の課題として、導電性とガス拡散性のトレードオフ関係が挙げられる。導電性に影響する代表的な因子は、ガス拡散層に含まれる炭素繊維などの導電材料同士の接触による導電経路である。また、ガス拡散性に影響する代表的な因子は、ガス拡散層内部の空隙率、すなわちガス拡散経路の存在量である。導電性を高めるため、たとえば密度の高い炭素シートを用いて導電経路を増加させ、炭素シート内部の材料抵抗を低減したガス拡散層を作製すると、炭素シートの高密度化により炭素シート内部のガス透過経路が減少し、ガス拡散性は悪化する。逆に、ガス拡散性向上のために炭素シート内部の密度を小さくすることで、ガス透過経路を増大させると、炭素シート内部の導電経路が増大し、導電性が悪化する。このように、高導電性と高ガス拡散性を両立させることは難しく、一方の特性の向上を目的としたガス拡散層開発の取り組みでは、もう一方の特性は犠牲にせざるを得ないため、ガス拡散層を含む燃料電池の発電性能を向上させようとしても、性能向上の程度には限界がある。
【0004】
たとえば、前記ガス拡散層のガス拡散性および排水性を向上させるために、微多孔層の前駆体である塗液を炭素シートに塗布する工程において、基材の搬送ローラーに撥水性を付加することにより、前記塗液の炭素シート面直方向へのしみ込みを抑制し、基材内部のガス透過経路を増大させる方法(特許文献1参照。)や、寸法の異なる2種類の炭素繊維を含むガス拡散層において、一方の炭素繊維の存在比率を厚さ方向に一定方向に変化させることで、厚さ方向の細孔径を変化させ、厚さ方向のガス拡散性を向上する方法(特許文献2参照。)が提案されている。また、ガス拡散性と導電性の両立を目的として、ガス拡散層の前駆体シートにおいて、炭素短繊維の分散性および交絡性を高めるなどにより、シート強度が大きく、製造コストが低く、かつガス拡散性と導電性に優れたガス拡散層を提供する方法(特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-50073号公報
【文献】特開2018-14275号公報
【文献】特開2015-118944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明においては、微多孔層前駆体の炭素シートへのしみ込みを抑制した結果、ガス拡散層内部に十分な微多孔層が形成されず、前記ガス拡散層の導電経路が増大し、導電性が低下する可能性が存在する。また、特許文献2および3に記載の発明は、微多孔層を含まないガス拡散層であるため、微多孔層を含むガス拡散層ほどの導電性は実現できない。微多孔層を有するガス拡散層においては、ガス拡散層内部のどの位置に、どの程度の量の微多孔層を形成するかが重要であるため、前駆体シートの構造に応じ、微多孔層前駆体塗液の組成および目付等について、適切な制御を行わなければならない。
【0007】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の背景に鑑み、ガス拡散層において、ガス拡散性と導電性の双方を向上させることにより、ガス拡散層を含む燃料電池の発電性能を向上させるガス拡散層を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、従来の方法では作製が困難であった十分なガス拡散性と導電性を有するガス拡散層を安定的に生産することにある。
【0009】
さらに本発明の他の目的は、上記のガス拡散層を含む燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ね、次のような手段を採用することとした。
(1)炭素シートと、前記炭素シートの少なくとも片面に微多孔層と、を有するガス拡散層であって、
前記ガス拡散層における幅10mmかつ奥行き3mmの任意に選択される領域を、前記ガス拡散層の片側から面直方向に0.5MPaの圧力で圧縮したときに、ガス拡散層内部を面内方向に酸素が透過する「面内酸素透過係数」をAとし、
前記ガス拡散層の面直方向を2MPaで圧縮したときの「電気抵抗」をBとし、
Aから、Bに60を乗じた数を減じ、310を加えた数を、「面内酸素透過係数と電気抵抗の両立性指標」Cとしたとき、
Cが0以上となる関係を満たす、ガス拡散層。
(2)炭素シートと、前記炭素シートの少なくとも片面に微多孔層と、を有するガス拡散層であって、
前記炭素シートは、細孔径10μm以上100μm以下の細孔体で占められる、炭素繊維を含む領域と、細孔径0.01μm以上10μm未満の細孔体(以下、内部細孔体)で占められる領域とを有し、
内部細孔体は、前記炭素シート表面から面直方向に10μm以上30μm以下の平均厚さで存在する、ガス拡散層。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来困難であった、ガス拡散層の面内方向の酸素透過性と、前記ガス拡散層の面直方向の導電性の両立により、燃料電池に用いたときに発電性能を向上させることが可能なガス拡散層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のガス拡散層の構成を例示説明するための模式断面図である。
【
図2】本発明のガス拡散層を用いた膜電極接合体を例示説明するための模式断面図である。
【
図3】本発明のガス拡散層の面内酸素透過係数Aの測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の構成要素である炭素シートおよびガス拡散層について詳細に説明する。
【0014】
以下、本発明におけるガス拡散層の構成を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明のガス拡散層の例を示す模式断面図である。
【0015】
図1(a)の例では、ガス拡散層は炭素シート1の一方の表面2(面X)側の炭素シート1の内部に層状に内部細孔体4を有し、面Xの外側に微多孔体5を有している。炭素シート1の内部に層状に内部細孔体4を有するとは、多孔質体である炭素シート1の空隙部分に層状に内部細孔体4が存在することをいう。内部細孔体については後述する。
【0016】
図1(b)の例では、ガス拡散層は炭素シート1の一方の表面2(面X)側の炭素シート1の内部に不均一に分布した状態で内部細孔体4を有し、面Xの外側に微多孔体5を有している。炭素シート1の内部に不均一に分布した状態で内部細孔体4を有するとは、多孔質体である炭素シート1の空隙部分に内部細孔体4が存在する部分と存在しない部分が混在していることをいう。この場合、内部細孔体4が存在する部分は、離散的に不連続に存在してもよいし、網目状に連続して存在してもよい。なお、
図1(b)は、より実際に近い態様である。
【0017】
図2は本発明のガス拡散層を用いた膜電極接合体の一例である。本例の膜電極接合体は、電解質膜7の両側に触媒層6a,6bが配され、微多孔層5a,5bと触媒層6a,6bとが接するように本発明のガス拡散層0a,0bが積層されたものである。
図2にはセパレータは記載されていないが、炭素シート1の表面2(面X)の反対側の表面3(面Y)側に設けられる。
【0018】
本発明のガス拡散層は、前記ガス拡散層における幅10mmかつ奥行き3mmの任意に選択される領域を片側から面直方向に0.5MPaで圧縮したとき、ガス拡散層内部を面内方向に酸素が透過する「面内酸素透過係数」をAとし、前記ガス拡散層を面直方向に2MPaで圧縮したときの「電気抵抗」をBとし、AからBに60乗じた数を減じ、310を合計した数を面内酸素透過係数と電気抵抗の両立性の指標Cとしたとき、Cが0以上となる関係を満たす、すなわち、本発明のガス拡散層は、以下の式を満たすことにより、良好な発電性能を示すことができる。
【0019】
C=(面内酸素透過係数)-(面直方向の加圧時導電抵抗)×60+310≧0
さらに良好な発電性能を得るためにはCが10以上であることが好ましく、きわめて良好な発電性能を得るためにはCが20以上200以下であることが好ましい。なお、面直方向とは面に対して垂直な方向(厚さ方向)を表すものである。
以下に本発明のガス拡散層の詳細を述べる。
【0020】
[炭素シート]
本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートは、後述する炭素繊維またはその前駆体を含む多孔体の作製、樹脂組成物の含浸、熱処理、炭化を含む工程により作製することができる。ここで樹脂組成物を含まない場合は含浸の工程を削除することもできる。また、炭素シートは、微多孔層を積層することでガス拡散層を作製することができる。かかる加工の際に必要に応じて内部細孔体の形成及び/又は撥水加工を行ってもよい。
【0021】
本発明においては、炭化された炭素繊維、結着材、及び、炭化または黒鉛化工程前に内部細孔体前駆体を形成した場合は、かかる前駆体を含む多孔質のものを炭素シートとする。
【0022】
そして本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートは、多孔質であることが重要である。炭素シートが多孔質であることにより、優れたガス拡散性と排水性を両立することができる。炭素シートを多孔質とするためには、炭素シートを作製するために用いる材料として多孔体を用いることが好ましい。
【0023】
本発明において、結着材とは炭素繊維同士を結着させる役割を果たすものである。結着材には、樹脂組成物の炭化物が含まれる。また、本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートに撥水剤を用いた場合には、撥水剤は結着材に含まれる。
【0024】
次に、炭素シートを作製するために用いられる多孔体について説明する。本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートにおいては、セパレータから供給されるガスを触媒へと拡散するための高いガス拡散性と、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、および発生した電流を取り出すための高い導電性を有することが重要である。このため、導電性を有し、かつ、平均細孔径が10~100μmである多孔体を用いることが好ましい。炭素シートを作製するために用いる多孔体について、より具体的には、例えば、炭素繊維織物、炭素繊維抄紙体および炭素繊維不織布などの炭素繊維を含む多孔体を用いることが好ましい態様である。中でも、耐腐食性が優れていることから、炭素シートを得るためには炭素繊維を含む多孔体を用いることが好ましく、さらには、電解質膜の面直方向(厚さ方向)の寸法変化を吸収する特性、すなわち「ばね性」に優れていることから、炭素繊維抄紙体を炭化物で結着してなる「カーボンペーパー」を炭素シートとして用いることが好ましい態様である。この他に、炭素繊維の織物として「カーボンクロス」や炭素繊維不織布としてフェルトタイプの「カーボン不織布」を用いることもできる。以下、炭素繊維抄紙体を代表例として説明する。
【0025】
本発明において、炭素繊維抄紙体を結着材で結着してなる炭素シートは、後述するように、炭素繊維抄紙体に樹脂組成物を含浸し炭化することによっても得ることができる。
【0026】
本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートおよびそれを得るために用いられる多孔体中の炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ピッチ系およびレーヨン系などの炭素繊維が挙げられる。中でも、機械強度に優れていることから、PAN系炭素繊維とピッチ系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0027】
本発明のガス拡散層に用いられる炭素シート中の炭素繊維は、単繊維の平均直径が3~20μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは5~10μmの範囲内である。好ましい範囲として、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。単繊維の平均直径が3μm以上であると、細孔径が大きくなり排水性が向上する。一方、単繊維の平均直径が20μm以下であると、燃料電池として用いた場合に、水蒸気拡散性が小さくなり、水蒸気拡散が小さくなる結果、80℃以上の比較的高い温度で作動させる場合、電解質膜が乾燥し、プロトン伝導性が低下する結果、発電性能が低下する、という問題を抑制することができる。
【0028】
ここで、炭素繊維における単繊維の平均直径は、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、炭素繊維を1000倍に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選んでその直径を計測し、その平均値を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S-4800あるいはその同等品を用いることができる。
【0029】
本発明で用いられる炭素繊維は、単繊維の平均長さが3~20mmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは5~15mmの範囲内である。平均長さが3mm以上であると、炭素シートが機械強度、導電性および熱伝導性が優れたものとなる。一方、単繊維の平均長さが20mm以下であると、抄紙の際の炭素繊維の分散性に優れ、均質な炭素シートが得られる。このような単繊維の平均長さを有する炭素繊維は、連続した炭素繊維を所望の長さにカットする方法などにより得られる。
【0030】
ここで、炭素繊維の単繊維の平均長さは、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、炭素繊維を50倍に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選び、その長さを計測し、その平均値を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S-4800あるいはその同等品を用いることができる。
【0031】
炭素シートにおける炭素単繊維の平均直径や平均長さは、通常、原料となる炭素繊維についてその炭素繊維を直接観察して測定されるが、炭素シートを観察して測定することもできる。
【0032】
炭素シートを得るために用いられる多孔体の一態様である、抄紙により形成された抄紙体は、面内の導電性と熱伝導性を等方的に保つという目的で、炭素繊維が二次元平面内にランダムに分散したシート状であることが好ましい。炭素繊維抄紙体を得る際の炭素繊維の抄紙工程は、一回のみ行なっても、複数回積層して行なうこともできる。
【0033】
本発明において、炭素繊維抄紙体は、炭素繊維の目付が10~50g/m2の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは15~35g/m2の範囲内であり、さらに好ましくは20~30g/m2の範囲内である。なお、好ましい範囲として、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。炭素繊維抄紙体における炭素繊維の目付が10g/m2以上であると、その炭素繊維抄紙体から得られる炭素シートが機械強度の優れたものとなる。また、炭素繊維抄紙体における炭素繊維の目付が50g/m2以下であると、該炭素繊維抄紙体から得られる炭素シートが面内方向のガス拡散性と排水性の優れたものとなる。抄紙体を複数枚貼り合わせることにより炭素繊維抄紙体とする場合は、貼り合わせ後の炭素繊維抄紙体の炭素繊維の目付が上記の範囲内にあることが好ましい。
【0034】
<樹脂組成物の含浸>
本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートを得る際においては、炭素繊維抄紙体などの炭素繊維を含む多孔体などに結着材となる樹脂組成物が含浸されることが好ましい。
【0035】
本発明において、炭素シート中の結着材は、主に炭素繊維同士を結着させる役割を果たす材料であり、結着材としては樹脂組成物の炭化物が用いられる。炭素繊維を含む多孔体に、結着材となる樹脂組成物を含浸した、炭素シートとする前段階のものは「予備含浸体」と呼ばれる。本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートは予備含浸体から得ることができる。炭素繊維を含む多孔体に結着材となる樹脂組成物を含浸して予備含浸体を作製する方法としては、樹脂組成物を含む溶液中に多孔体を浸漬する方法、樹脂組成物を含む溶液を多孔体に塗布する方法、および樹脂組成物からなるフィルムを多孔体に重ねて転写する方法などが用いられる。中でも、生産性が優れることから、樹脂組成物を含む溶液中に多孔体を浸漬する方法が特に好ましく用いられる。
【0036】
予備含浸体を作製する際に用いる樹脂組成物は、後の工程における焼成時に炭化して導電性の炭化物となって結着材としての役割を果たす樹脂組成物が好ましい。予備含浸体を作製する際に用いる樹脂組成物は、樹脂成分に溶媒などを必要に応じて添加したものを用いることができる。ここで、樹脂成分とは、熱硬化性樹脂などの樹脂を含み、さらに、必要に応じて炭素粉末や界面活性剤などの添加物を含むものである。
【0037】
本発明において、予備含浸体を作製する際に用いる樹脂組成物中の樹脂成分を構成する樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂およびフラン樹脂などの熱硬化性樹脂などが挙げられる。中でも、炭化収率が高いことから、フェノール樹脂が好ましく用いられる。また、樹脂組成物を炭化させずに結着材として用いることもでき、フッ素樹脂、ABS樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ウレタン樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0038】
また、予備含浸体を作製する際に用いる樹脂組成物中の樹脂成分として、必要に応じて添加される添加物としては、炭素シートの機械特性、導電性および熱伝導性を向上させる目的で、炭素粉末を用いることができる。ここで、炭素粉末としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、セルロースやキチンやアラミドなどの微細繊維の炭化物、炭素繊維のミルドファイバー、黒鉛、薄片グラファイトなどを用いることができる。このうち、表層に高空隙細孔部を形成するためにはカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、セルロースやキチンやアラミドなどの微細繊維の炭化物、炭素繊維のミルドファイバーが好ましく用いることができる。
【0039】
予備含浸体を作製する際に用いる樹脂組成物は、前述の樹脂成分をそのまま使用することもできるし、必要に応じて、炭素繊維抄紙体などの多孔体への含浸性を高める目的で、各種溶媒を含むことができる。ここで、溶媒としては、メタノール、エタノールおよびイソプロピルアルコールなどを用いることができる。
【0040】
予備含浸体を作製する際に用いる樹脂組成物は、25℃の温度で、0.1MPaの状態で液状であることが好ましい。樹脂組成物が上記条件にて液状であると抄紙体への含浸性が優れ、得られる炭素シートの機械特性、導電性および熱伝導性に優れたものとなる。
【0041】
本発明において、予備含浸体中の炭素繊維100質量部に対して、樹脂成分が30~400質量部となるように含浸することが好ましく、50~300質量部含浸することがより好ましい。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。予備含浸体中の炭素繊維100質量部に対する樹脂成分の含浸量が30質量部以上であると、炭素シートが機械特性、導電性および熱伝導性の優れたものとなる。一方、樹脂成分の含浸量が400質量部以下であると、炭素シートが面内方向のガス拡散性と面直方向のガス拡散性に優れたものとなる。
【0042】
<熱処理>
本発明においては、炭素繊維抄紙体などの多孔体に樹脂組成物を含浸した予備含浸体を形成した後、炭化を行うに先立って、予備含浸体に熱処理を行うことができる。
【0043】
本発明において熱処理の目的は、予備含浸体中の樹脂組成物を増粘および硬化させることである。熱処理する方法としては、熱風を吹き付ける方法、プレス装置などの熱板にはさんで加熱する方法、および連続ベルトに挟んで加熱する方法などを挙げることができる。
【0044】
<炭化>
本発明において、炭素繊維抄紙体などの多孔体に樹脂組成物を含浸した予備含浸体を、炭化するために、不活性雰囲気下で焼成を行う。この焼成は、バッチ式の加熱炉を用いることもできるし、連続式の加熱炉を用いることもできる。また、炉内に窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを流すことにより不活性雰囲気とすることができる。
【0045】
本発明において、焼成の最高温度は1300~3000℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1700~3000℃の範囲内であり、さらに好ましくは1900~3000℃の範囲内である。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。最高温度が1300℃以上であると、予備含浸体中の樹脂成分の炭化が進み、炭素シートが導電性と熱伝導性に優れたものとなる。一方、最高温度が3000℃以下であると、加熱炉の運転に伴う消費エネルギーを低減できる。
【0046】
本発明において、炭素繊維抄紙体などの多孔体に樹脂組成物を含浸した後、炭化したものを、「炭素繊維焼成体」と記載することがある。すなわち炭素シートとは、通常は炭素繊維焼成体を意味し、撥水加工がされているかいないかに関わらず、炭素繊維焼成体は炭素シートに該当する。
【0047】
<撥水加工>
本発明において、炭素シートの撥水加工は、排水性を向上させる目的で行うものであり、炭素繊維焼成体に撥水加工を施すことで実施可能である。この場合、撥水加工は、炭素繊維焼成体に撥水剤を塗布し熱処理することにより行うことができる。炭素シートの撥水加工のもう一つの方法として、炭素シートに直接的に撥水加工を行わない方法があり、これは、前記焼成体に撥水剤を塗布するのではなく、例えば、微多孔層前駆体塗液を炭素シートに塗布した後、熱処理を行うことで、前記塗液に含まれる撥水剤を炭素シート内に移動させて行う方法を採ることができる。炭素シートに直接的に撥水剤を塗布する場合は、撥水加工することにより、結着材として撥水剤を含む炭素シートとすることができる。なお、撥水剤を用いて撥水加工した場合、前記撥水剤は結着材として炭素シートに含まれ得る。
【0048】
ここで、撥水剤としては、耐腐食性が優れることから、フッ素系のポリマーを用いることが好ましい。フッ素系のポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、およびテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが挙げられる。
【0049】
一方、フッ素系の撥水剤は絶縁性を有することから、焼成された炭素シートの表面に撥水剤を薄く付着させることにより、撥水性と、導電性セパレータとの導電性との両方を良好にすることができる。撥水加工において使用する撥水剤の融点は、好ましくは150℃以上400℃以下とすることで、樹脂の溶融と樹脂付着後の炭素シートの乾燥を効率的に行うことができ、さらに好ましくは200℃以上320℃以下とすることで、樹脂溶融時に、樹脂の炭素繊維抄紙体への濡れ拡がりを均一にすることができる。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。
【0050】
このような撥水剤の種類としては、FEPまたはPFAが挙げられる。これらの材料を用いることにより、本発明において用いられる構造を有する炭素シートの排水性を格段に大きくすることができ、撥水加工された炭素シート内部での水の蓄積を低減できるために、ガスの拡散性も大きく改善することができる。このため、大幅な発電性能の向上につながる。
【0051】
撥水剤の塗布量は、炭素繊維焼成体100質量部に対して1~50質量部であることが好ましく、より好ましくは2~40質量部である。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。撥水剤の塗布量が1質量部以上であると、炭素シートが排水性に優れたものとなる。一方、塗布量が50質量部以下であると、炭素シートが導電性の優れたものとなる。
【0052】
上記の撥水加工において、炭素繊維焼成体に対する熱処理は、炭素繊維焼成体に撥水剤を塗布した後、さらに微多孔層の前駆体塗液を塗布した後に行うことができる。後述のように、前記塗液にも撥水剤が含まれることが好ましく、この場合、前記塗液を炭素シートに塗布した際、微多孔層前駆体塗液中の撥水剤が炭素シートに移動するため、熱処理を行った後に炭素シートが有する撥水剤量は、前記塗液の塗布前から炭素シートに含まれる撥水剤と、前記塗液に含まれる撥水剤のうち、炭素シートに移動した分の合計量に基づいて決定される。炭素シートにおけるセパレータ側の面Y(
図1における符号3)において、セパレータと接する炭素繊維表面上の撥水剤量が少ないほど接触抵抗は小さくなり、良好な導電性を有するガス拡散層を得ることができる。また、炭素シート内部における炭素繊維上の撥水剤量が少ないほど炭素繊維間の接触抵抗は小さくなるため、良好な導電性を有するガス拡散層を得ることができる。ここで、前記したとおり微多孔層前駆体塗液を炭素シートに塗布した際に、塗液中の撥水剤が炭素シートに移動する現象が発生する。この際、撥水剤は濃度勾配により拡散するため、移動先の撥水剤の濃度は均一に維持される。したがって、比較的少ない量の撥水剤で、ガス拡散層に十分な撥水性を与えることができる。このため、ガス拡散層の導電性の向上を目的として、面Yの炭素繊維上の撥水剤量を低減することができ、炭素シートの導電性を制御するための指標として、ガス拡散層の炭素シートに付着する撥水剤の量を用いることができる。フッ素系のポリマーを撥水剤として用いる場合には、炭素シートに付着する撥水剤量の指標として、炭素シート上の炭素元素に対するフッ素元素数の比を用いることができ、本発明においては、0.002以上0.030以下の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.003以上0.030以下が好ましい。前記のフッ素元素比率の測定には、二次電子を用いたX線マイクロアナリシスを用いることができ、面Yにある炭素繊維表面上のフッ素元素と炭素元素濃度を、無作為に選んだ異なる10点について測定し、その比率を平均することで求めることができる。
<微多孔層の形成>
次に、本発明の構成要素の一つである微多孔層について説明する。
本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートは、一方の表面に微多孔層を形成することで、ガス拡散層として用いることができる。そして本発明のガス拡散層は、炭素シートの少なくとも面Xの上に微多孔層を有するものである。
【0053】
本発明において、微多孔層の目付は、10~30g/m2の範囲内であることが好ましい。微多孔層の目付が10g/m2以上であると、微多孔層の前駆体塗液を炭素シートに塗布する際、前記塗液が、炭素シートの表面から面直方向にしみ込みやすく、前記炭素シートの内部に微多孔層が形成され、この微多孔層が内部細孔体となる。また、微多孔層の目付が30g/m2以下であると、前記塗液の炭素シートへの過剰なしみ込みを抑制できるため、前記炭素シートの内部において、前記炭素シートの表面Xから面直方向に適切な位置までの範囲に微多孔層が形成される。ガス拡散層内部の微多孔層、すなわち内部細孔体の存在範囲を制御するためには、内部細孔体を含めた微多孔層の目付は、10~20g/m2の範囲内であることが、より好ましい。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。
【0054】
本発明において、微多孔層は、導電性粒子を含むことが好ましい。耐腐食性の観点から、導電性粒子は炭素粉末を含むことがさらに好ましい。また、導電性と排水性を向上するという観点から、微多孔層には線状カーボンと撥水剤を含む多孔体を用いることもできる。導電性粒子のうち炭素粉末としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ランプブラックおよびサーマルブラックなどのカーボンブラックや、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、および薄片グラファイトなどのグラファイトやCNTなどの炭素粉末が挙げられる。それらの中でも、カーボンブラックがより好ましく用いられ、不純物が少ないことからアセチレンブラックが最も好ましく用いられる。
【0055】
本発明において、内部細孔体の空隙率は、80%以上95%以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、85%以上95%以下である。前記微多孔層の空隙率が85%以上であると、面内方向のガス拡散が促され、ガス拡散性を改善でき、かつガス拡散層からの排水性を改善できる。また、微多孔層の空隙率が95%以下であると、ガスの逆拡散が促進されるため、80℃以上の比較的高い温度条件で燃料電池を作動させる場合、電解質膜が乾燥してプロトン伝導性が低下する問題を抑制することができる。
【0056】
本発明において、液体状態の水の排水を促進するとの観点から、微多孔層には撥水剤を含むことが好ましい態様である。中でも、耐腐食性に優れていることから、撥水剤としてはフッ素系のポリマーを用いることが好ましい。フッ素系のポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、およびテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが挙げられる。
【0057】
微多孔層は、炭素シートの表面に、前述の導電性粒子を含む導電性粒子含有塗液を塗布することによって形成することができる。
【0058】
導電性粒子含有塗液は、水や有機溶媒などの分散媒を含んでも良く、界面活性剤などの分散助剤を含有させることもできる。分散媒としては水が好ましく、分散助剤にはノニオン性の界面活性剤を用いることが好ましい。また、前記したような各種炭素粉末や撥水剤を含有させることもできる。
【0059】
導電性粒子含有塗液の炭素シートへの塗布は、市販されている各種の塗布装置を用いて行うことができる。塗布方式としては、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、ダイコーター塗布、バー塗布、およびブレード塗布などの塗布方式を使用することができる。上記に塗布方法はあくまでも例示のしたものであり、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0060】
導電性粒子含有塗液の炭素シートへの塗布後、80~180℃の温度で塗液を乾かすことが好ましい。すなわち、塗布物を、80~180℃の温度に設定した乾燥器に投入し、5~30分の範囲で乾燥する。乾燥風量は適宜決めることができるが、急激な乾燥は、表面の微小クラックを誘発する場合がある。塗布物を乾燥した後、マッフル炉や焼成炉または高温型の乾燥機に投入し、好ましくは300~380℃の温度で5~20分間加熱して、撥水剤を溶融し、炭素粉末などの導電性粒子同士のバインダーにして微多孔層を形成することが好ましい。
【0061】
<内部細孔体>
本発明においては、
図1(a)に示すように、炭素シート1の表面2(面X)側の内部の表面近傍に、0.01μm以上10μm未満の細孔径を有する内部細孔体4が符号12で表される平均厚さを有する層状の領域として含まれることが好ましい態様である。また、別の好ましい態様として、
図1(b)に示すように炭素シート1の表面2(面X)側の内部の表面近傍に、0.01μm以上10μm未満の細孔径を有する内部細孔体4が不均一に分布した状態で含まれる態様が挙げられる。かかる態様を採る場合は、炭素シート1の表面2(面X)側の内部の表面近傍において内部細孔体が充填する範囲を平均化した値を内部細孔体の平均厚さ12と定義する。炭素シートにおいて、炭素繊維からなる領域が主として10μm以上100μm以下の細孔径の空隙を有するのに対し、この内部細孔体は上記の細孔径を有する。この内部細孔体は炭素シート表面から面直方向に適切な位置までの範囲に存在することが重要である。平均厚さ12は、前記炭素シートの表面から面直方向に10μm以上30μm以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは12~25μmであり、さらに好ましくは15~25μmである。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。前記範囲が10μm以上であると、前記炭素シート内部の導電経路が増加し、導電性が向上する。また、前記範囲が30μm以下であると、前記炭素シート内部にガス透過経路が良好に形成され、ガス拡散性が向上する。なお、内部細孔体の存在位置および厚みは、炭素シートまたはガス拡散層の面直断面を高倍率で写真撮影し、前記写真を観察することで決定することができる。
【0062】
前記の内部細孔体は、細孔径が小さいことから、炭素繊維間の導電性を向上させる効果をもたらし、ガス拡散層の電気抵抗を低減することができる。この内部細孔体は、炭素シートの製造過程で、焼成工程前に内部細孔体の前駆体塗液を炭素シートの面Xとなる側に塗布し、形成することができ、この場合、微多孔層前駆体塗液を炭素シートに塗布する前に内部細孔体が形成されるため、微多孔層前駆体塗液が炭素シートに過剰に浸透する現象を抑制することができる。この結果、炭素シート内のガス透過性を向上させることができる。本発明では、炭素シートの炭化前に内部細孔体前駆体が形成された場合は、内部細孔体も含めた炭素繊維焼成体も「炭素シート」に当たるものとする。また、前記内部細孔体は、炭素シート製造後に、内部細孔体の前駆塗液を塗布することで形成することもでき、この場合、微多孔層前駆体塗液を内部細孔体の前駆塗液と兼用することもできる。炭素シート内部細孔体の目付けは、3g/m2以上15g/m2以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは5g/m2以上12g/m2以下である。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。
【0063】
炭素シートの製造工程中に内部細孔体を形成する場合、内部細孔体前駆塗液としては、焼成後に導電性粒子となる材料と、焼成後に結着剤となる樹脂の混合物と、からなる樹脂組成物を用いることができ、焼成後に導電性粒子になる材料として、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、セルロースやキチンやアラミドなどの微細繊維やその炭化物、炭素繊維のミルドファイバー、黒鉛、薄片グラファイトなどを用いることができる。このうち、高空隙となる内部細孔体を形成するためには、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、セルロースやキチンやアラミドなどの微細繊維の炭化物、炭素繊維のミルドファイバーが好ましく用いることができる。
【0064】
[炭素シートの特徴]
以上のような工程により得られた本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートの特徴について、説明する。
【0065】
本発明において、炭素シートの微多孔層を有する面(表面X)から面直方向に20μmの位置までの範囲を表層としたとき、炭素シートの表層の密度は0.34g/cm3以上であることが好ましく、上限としては0.80g/cm3以下が好ましい。かつ炭素シート全体の密度は0.29/cm3以上0.33g/cm3以下の範囲内であることが好ましい。すなわち、本発明で用いる炭素シートは、その好ましい形態においては、炭素シートの表層の密度が、炭素シート全体の密度に比べて高いことが重要である。表層の密度が0.34g/cm3以上であると、炭素シートの細孔径が小さくなる方向であるため、炭素シート内部に存在する内部細孔体の面直方向の厚みを後述する範囲に制御することができる。また、これにより微多孔層が炭素シートの表面を覆うことができ、炭素繊維が微多孔層から突出する可能性が抑えられ、表面品位が向上する。加えて、導電性が高く、高温および低温のいずれにおいても発電性能が向上する。炭素シート全体の密度が0.29g/cm3以上であると、炭素シート内に導電経路が形成され、前記炭素シートを用いたガス拡散層の導電性が向上する。一方、炭素シート全体の密度が0.33g/cm3以下であると、炭素シート内に適度な空隙が形成され、前記炭素シートを用いたガス拡散層のガス拡散性が向上する。
【0066】
このような密度を有する炭素シートは、後述する炭素シートの製法において説明するように、予備含浸体における炭素繊維目付、炭素繊維に対する樹脂成分の配合量、および、炭素シートの厚さを制御することにより得られる。ここで、炭素シートの密度は、電子天秤を用いて秤量した炭素シートの目付(単位面積当たりの質量)を、面圧0.15MPaで加圧した際の炭素シートの厚みで除して求めることができる。
【0067】
また、本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートの厚さは50~230μmであることが好ましく、70~180μmであることがより好ましく、90~130μmであることがさらに好ましい。なお、好ましい範囲としては、上記の上限値のいずれかと下限値のいずれかの組み合わせとすることもできる。炭素シートの厚さが230μm以下、より好ましくは180μm以下、さらに好ましくは130μm以下であることにより、ガスの拡散性が大きくなりやすく、また生成水も排出されやすくなる。さらに、燃料電池全体としてサイズも小さくしやすくなる。一方、炭素シートの厚さが50μm以上、より好ましくは70μm以上、さらに好ましくは90μm以上であることにより、炭素シート内部の面内方向のガス拡散が効率よく行われ、発電性能が向上しやすくなる。
【0068】
なお、本発明のガス拡散層に用いられる炭素シートの厚さは、以下の方法で求める。すなわち、炭素シートおよびガス拡散層を平滑な定盤にのせ、圧力0.15MPaをかけた状態での厚さを測定する。異なる部位にて10箇所サンプリングを行い、測定値を平均したものを厚さとする。
【0069】
炭素シートの表層密度の測定の際は、まずガス拡散層の断面をイオン切削により形成し、SEMにより観察することにより、炭素シートの面Xの位置を決める。次に、上記断面のSEM画像について、面Xから20μmの深さまでの範囲を表層として、表層内の物質充填領域の面積を求め、さらに、その充填面積を表層の面積で除して物質充填率を求める。前記充填率に、充填される物質の密度を乗じた値を、表層密度とする。なお、ガス拡散層から炭素シートを分離することも可能である。たとえばガス拡散層を大気中にて600℃で30分加熱し、ガス拡散層中の微多孔層に含まれる樹脂組成物を酸化分解させた後に、エタノール中で超音波処理を行うことで炭素シートを取り出すことができる。
【0070】
<膜電極接合体>
本発明において、前記したガス拡散層を、触媒層を介して固体高分子電解質膜に接合することにより、膜電極接合体を形成することができる。その際、触媒層側にガス拡散層の微多孔層を配置することにより、より生成水の逆拡散が起こりやすくなることに加え、触媒層とガス拡散層の接触面積が増大し、接触電気抵抗を低減させることができる。
【0071】
<燃料電池>
本発明の燃料電池は、本発明のガス拡散層を含むものであり、上述の膜電極接合体の両側にセパレータを有するものである。すなわち、上述の膜電極接合体の両側にセパレータを配することにより燃料電池が構成される。通常、このような膜電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだものを複数個積層することによって固体高分子型燃料電池を構成する。触媒層は、固体高分子電解質と触媒担持炭素を含む層からなる。触媒としては、通常、白金が用いられる。アノード側に一酸化炭素を含む改質ガスが供給される燃料電池にあっては、アノード側の触媒としては白金およびルテニウムを用いることが好ましい。固体高分子電解質は、プロトン伝導性、耐酸化性および耐熱性の高い、パーフルオロスルホン酸系の高分子材料を用いることが好ましい。このような燃料電池ユニットや燃料電池の構成自体は、よく知られているところである。
【実施例】
【0072】
次に、実施例によって、本発明のガス拡散層について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例で用いた材料、炭素シートおよびガス拡散層の作製方法、ガス拡散層または燃料電池の評価方法を、次に示した。
【0074】
<炭素シートの作製>
東レ(株)製ポリアクリルニトリル系炭素繊維“トレカ”(登録商標)T300(平均炭素繊維径:7μm)を平均長さ12mmにカットし、水中に分散させて湿式抄紙法により連続的に抄紙した。さらに、バインダーとしてポリビニルアルコールの10質量%水溶液を当該抄紙に塗布して乾燥させ、炭素繊維目付が25g/m2の抄紙体を作製した。ポリビニルアルコールの付着量は、炭素繊維抄紙体100質量部に対して22質量部であった。
【0075】
次に、熱硬化性樹脂としてレゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂を1:1の質量比で混合した樹脂組成物と、炭素粉末として鱗片状黒鉛(平均粒径5μm)と、溶媒としてメタノールを用い、熱硬化性樹脂/炭素粉末/溶媒=10質量部/5質量部/85質量部の配合比でこれらを混合し、超音波分散装置を用いて1分間撹拌を行い、均一に分散した樹脂組成物を得た。
【0076】
次に、15cm×12.5cmにカットした炭素繊維抄紙体を、アルミバットに満たした樹脂組成物に水平に浸漬し、ロールで挟んで絞り含浸させた。この際、ロールは一定のクリアランスをあけて水平に2本配置して炭素繊維抄紙体を垂直に上に引き上げることで全体の付着樹脂量を調整した。片面をドクターブレードを用いて余分な樹脂を取り除いた構造を持つ平滑な金属ロールで、反対面を凹凸のついたグラビアロールで挟み、樹脂組成物を絞ることにより表裏での樹脂付着量の差を調整することができる。含浸させた後、100℃の温度で5分間加熱して乾燥させ、予備含浸体を作製した。次に、平板プレスで加圧しながら、180℃の温度で5分間熱処理を行った。加圧の際、平板プレスで予備含浸体の厚み方向端より外側にスペーサーを配置して、上下プレス面板の間隔を調整した。
【0077】
予備含浸体を熱処理した基材を、窒素ガス雰囲気に保たれた最高温度が2400℃の加熱炉に導入し、炭素繊維焼成体からなる炭素シート(厚さ135μm)を作製した。
【0078】
<撥水加工>
上記にて作製した炭素シートを、撥水剤として、PTFE樹脂(“ポリフロン”(登録商標)PTFEディスパージョンD-1E(ダイキン工業(株)製))の水分散液、ないしはFEP樹脂(“ネオフロン”(登録商標)FEPディスパージョンND-110(ダイキン工業(株)製)の水分散液に浸漬することにより、炭素繊維焼成体に撥水剤を含浸した。その後、温度が100℃の乾燥機炉内で5分間加熱して乾燥し、撥水加工された炭素シートを作製した。また、撥水剤の水分散液は、乾燥後で炭素シート100~95質量部に対し、撥水剤が0~5質量部付与されるように適切な濃度に希釈して使用した。
また、炭素シートに対し直接的に上記撥水加工を行わない場合は、微多孔層前駆体塗液を炭素シートに塗布する過程、または内部細孔体前駆体塗液を炭素シートに塗布する過程において、フッ素系ポリマーを含む微多孔層前駆体塗液または内部細孔体前駆体塗液を用い、フッ素系ポリマーを炭素シート内に移動させることで、炭素シートに撥水加工を行った。
【0079】
<ガス拡散層の作製>
<材料>
・炭素粉末A:アセチレンブラック:“デンカ ブラック(登録商標)”(電気化学工業(株)製)
・炭素粉末B:線状カーボン:“VGCF(登録商標)”(昭和電工(株)製)アスペクト比70
・材料C:撥水剤:FEP樹脂(FEP樹脂を25質量部含む水分散液である“ネオフロン(登録商標)”FEPディスパージョンND-110(ダイキン工業(株)製)を使用)
・材料D:ノボラック型フェノール樹脂“タマノル(登録商標)”759(荒川化学工業(株)製)
・材料E:界面活性剤“TRITON(登録商標)”X-100(ナカライテスク(株)製)。
・溶媒F:メタノール
・分散媒G:精製水
上記の各材料を、表1に示した組成で分散機を用いて混合し、微多孔層前駆体塗液1、および内部細孔体前駆体塗液2~4を調製した。また、スリットダイコーターを用いて炭素シート上に内部細孔体前駆体塗液を塗布し、必要に応じて炭化処理を行った。この炭素シートに微多孔層前駆体塗液を塗布して面状の微多孔層を形成した。ここで用いた塗液には、炭素粉末、撥水剤、界面活性剤および精製水を、表1に示すように配合量を質量部で記載した導電性粒子含有塗液の組成となるように調整したものを用いた。なお、表1に示すFEP樹脂の配合量は、FEP樹脂の水分散液の配合量ではなく、FEP樹脂自体の配合量を表す。ダイコーターを用いて炭素シートに微多孔層前駆体塗液を塗布後、120℃の温度で10分間、続いて380℃の温度で10分間加熱し、微多孔層を形成した。
<微多孔層の目付の測定>
炭素シートおよびガス拡散層の目付[g/m2]は、10cm四方に切り取ったサンプルの質量を、サンプルの面積(0.01m2)で除して求めた。また、ガス拡散層の目付けから、炭素シートの目付けを減じた値を微多孔層の目付けとした。
【0080】
<厚さ・密度の測定>
炭素シートおよびガス拡散層を平滑な定盤にのせ、圧力0.15MPaをかけた状態での厚さを測定した。異なる部位にて10箇所サンプリングを行い、測定値を平均したものを厚さとした。また、目付を厚さで除して密度[g/cm3]を求めた。
【0081】
<ガス拡散層の面内酸素透過係数Aの評価>
西華産業(株)製水蒸気ガス水蒸気透過拡散評価装置(MVDP-200C)を用いた。
図3に示すような配管系において、最初にバルブA(23)のみ開いて、バルブB(25)を閉じた状態にしておいて、窒素ガス33を一次側配管A(22)に流した。マスフローコントローラー(21)に所定量(190cc/分)のガスが流れ、圧力コントローラー(24)にガス圧力が大気圧に対して5kPaかかるように調整した。ガス室A(27)とガス室B(29)の間に設置した幅10mm、奥行き3mmのシール材(32)の上にガス拡散層(28)をセットし、シール材を加圧することで、ガス拡散層における幅10mm、奥行き3mmの領域が0.5MPaで加圧されるように圧縮した。次いで、バルブA(23)を閉じ、バルブB(25)を開いて、配管B(26)に窒素ガスが流れるようにした。ガス室A(27)に流入する窒素ガスは、ガス拡散層(28)の空隙を通ってガス室B(29)に移動し、配管C(30)を通過、さらにガス流量計(31)を通過して大気中に放出された。このときのガス流量計(31)を流れるガス流量(cc/分)を測定し、その値の90.9%の値を幅10mm奥行き3mmの圧縮領域の面内酸素透過係数A[cc/min]とした。
【0082】
<電気抵抗Bの評価>
ガス拡散層の電気抵抗は、2.0cm×2.0cmにカットしたガス拡散層を2枚の金メッキ板の間に挟んで2.0MPaの一様な面圧をかけつつガス拡散層の厚さ方向に1.0Aの電流を流したときの電気抵抗を測定して、電極面積4cm2をかけた数値として求めた。
【0083】
<ガス拡散性と導電性の両立性の評価>
ガス拡散層のガス拡散性と導電性の両立性を評価するにあたり、上記方法で算出した面内酸素透過係数Aと、上記方法で算出した加圧時の電気抵抗Bを用いて、Aから、Bに60乗じた数を減じ、310を加えた数Cを算出した。
【0084】
<フッ素元素と炭素元素比率の測定>
ガス拡散層において、微多孔層を形成した面と反対側の表面の炭素繊維上から無作為に異なる10点を選び、走査型電子顕微鏡で7kVの加速電圧で2000倍に拡大して顕微鏡で観測し、フッ素元素数と炭素元素数を点分析で測定し、炭素元素数に対するフッ素元素数の比率を10点で平均した値を炭素繊維上のフッ素元素/炭素元素比率とした。なお、走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S-3500Nを用い、エネルギー分散型X線分析装置としては、(株)堀場製作所EX-370を用いた。
【0085】
また、同様の方法でガス拡散層において炭素シートの厚さ方向での中央付近で炭素繊維上の無作為に異なる10点を選び、フッ素元素/炭素元素比率を求めた。
【0086】
<内部細孔体の空隙率と平均厚さの測定>
内部細孔体の空隙率は、次のようにして求めた。まず、走査型電子顕微鏡として(株)日立製作所製S-3500を用い、ガス拡散層の面直断面において、炭素シート内部に存在する内部細孔体を、無作為に異なる20箇所を選び、2000倍程度で拡大して写真撮影を行った。次に、撮影により得られた20枚の画像それぞれに対し、空隙部と非空隙部を分離して、空隙部と非空隙部の合計面積に対する空隙部の面積比を個々の画像の空隙率とした。最後に、上記の個々の空隙率を20枚の画像について平均して空隙率の平均値を求めた。面直断面の作製に際しては、(株)日立ハイテクノロジーズ製イオンミリング装置IM4000を用いた。微多孔層の構造が不均一である場合でも、上述の方法を行えば、無作為に20箇所のサンプルの平均を取ることで平均化された内部細孔体空隙率[%]を求めることができる。また、この際、内部細孔体の存在領域面積を求めることで、内部細孔体が炭素シート内部に均一に存在すると仮定した場合の厚さを求めることができ、この厚さを内部細孔体の平均厚さ(
図1における符号12)とした。
【0087】
<内部細孔体の目付の算出方法>
内部細孔体の目付は、内部細孔体の密度と平均厚さの積によって求めた。ここで、内部細孔体の密度は、内部細孔体の空隙率と、実施例・比較例で用いた内部細孔体を形成する物質の真密度2.1g/cm3を用いて、次の式により求められる。平均厚さは、上記<内部細孔体の空隙率と平均厚さの測定>で求めた値を用いる。
内部細孔体密度[g/cm3]=2.1[g/cm3]×(1-内部細孔体の空隙率[%]÷100)
<表層密度の算出方法>
まず、ガス拡散層の面直断面を無作為に20個選び、SEMを用いてそれぞれの断面を200倍程度で拡大して観察した。次に、観察したそれぞれの領域において、炭素シート表面から垂直に20μmの位置までの領域について、炭素繊維や内部細孔体を形成する物質により充填された部分の面積の合計を抽出した。この際、内部細孔体形成領域の物質充填率は、内部細孔体の存在領域の面積に空隙率を掛けることで求めることができる。次に、表層領域に対する物質充填率に対して、充填物質の密度2.1g/cm3をかけた数値を求め、この値を20箇所について平均したものを表層密度とした。
【0088】
<固体高分子型燃料電池の発電性能評価>
白金担持炭素(田中貴金属工業(株)製、白金担持量:50質量%)1.00gと、精製水1.00g、“Nafion”(登録商標)溶液(Aldrich社製“Nafion”(登録商標)5.0質量%)8.00gと、イソプロピルアルコール(ナカライテスク社製)18.00gとをこの順に加えることにより、触媒液を作製した。
【0089】
次に、5cm×5cmにカットした“ナフロン”(登録商標)PTFEテープ“TOMBO”(登録商標)No.9001(ニチアス(株)製)に、触媒液をスプレーで塗布し、常温で乾燥させ、白金量が0.3mg/cm2の触媒層付きPTFEシートを作製した。続いて、8cm×8cmにカットした固体高分子電解質膜“Nafion”(登録商標)NRE-211CS(DuPont社製)を、2枚の触媒層付きPTFEシートで挟み、平板プレスで5MPaに加圧しながら130℃の温度で5分間プレスし、固体高分子電解質膜に触媒層を転写した。プレス後、PTFEシートを剥がし、触媒層付き固体高分子電解質膜を作製した。
【0090】
次に、触媒層付き固体高分子電解質膜を、各実施例・比較例で作製したガス拡散層を5cm×5cmの大きさに2枚カットしたもので挟み、平板プレスで3MPaに加圧しながら130℃の温度で5分間プレスし、膜電極接合体を作製した。ガス拡散層は、微多孔層を有する面が触媒層側と接するように配置した。
【0091】
得られた膜電極接合体を燃料電池評価用単セルに組み込み、電流密度2.0A/cm2の出力電圧を測定した。ここで、セパレータとしては、溝幅、溝深さ、リブ幅がいずれも1.0mmの一本流路のサーペンタイン型セパレータを用いた。また、アノード側には無加圧の水素を、カソード側には無加圧の空気を供給し、評価を行った。
【0092】
(実施例1)
上記の<炭素シートの作製>に従って、炭素シートに撥水剤を含侵させて撥水処理を行った後、<ガス拡散層の作製>に記載した方法に従って、微多孔層前駆体塗液を用いて内部細孔体を形成したガス拡散層を得たところ、ガス拡散性と導電性の両立性は良好であり、発電性能は良好であった。結果を表2に示す。
【0093】
(実施例2)
実施例1と同様の方法であるが、微多孔層の目付を20g/m2、内部細孔体の厚みを11μmとした点のみ異なる方法によりガス拡散層を得たところ、内部細孔体の平均厚さのさらなる適正化によりガス透過経路が増加し、実施例1よりもガス拡散性が向上した。また、ガス拡散性と導電性の両立性は良好であり、発電性能は良好であった。結果を表2に示す。
【0094】
(実施例3)
実施例1と同様の方法であるが、微多孔層の目付を5g/m2とし、微多孔層前駆体塗液の塗布クリアランスを低減し、内部細孔体の厚みを20μmとした点のみ異なる方法によりガス拡散層を得たところ、内部細孔体目付のさらなる適正化により実施例1よりもガス拡散性が向上した。ガス拡散性と導電性の両立性は良好であり、発電性能は良好であった。結果を表2に示す。
【0095】
(実施例4)
実施例1と同様の方法であるが、微多孔層の目付を10g/m2、内部細孔体の平均厚さを10μmとした点のみ異なる方法によりガス拡散層を得たところ、ガス拡散性と導電性の両立性はさらに良好であり、発電性能はさらに良好であった。結果を表2に示す。
【0096】
(実施例5)
実施例4と同様の方法であるが、炭素シートの撥水処理で用いる撥水剤の量を減らし、面Yの繊維上フッ素/炭素比率を0.020としたガス拡散層を得たところ、撥水剤量のさらなる適正化により導電性が向上したため、ガス拡散性と導電性の両立性はさらに良好であり、発電性能はさらに良好であった。結果を表2に示す。
【0097】
(実施例6)
実施例5と同様の方法であるが、炭素シートの撥水処理で用いる撥水剤の量をさらに減らし、裏面繊維上フッ素/炭素比率を0.015としたガス拡散層を得たところ、撥水剤量のさらなる適正化によるさらなる導電性向上があり、ガス拡散性と導電性の両立性はきわめて良好であり、発電性能はきわめて良好であった。結果を表2に示す。
【0098】
(実施例7)
実施例6と同様の方法であるが、炭素シートを撥水剤に含侵させず、微多孔層前駆体塗液によって炭素シートを撥水処理することで、裏面繊維上フッ素/炭素比率を0.0050としたガス拡散層を得たところ、ガス拡散性と導電性の両立性はきわめて良好であり、発電性能はきわめて良好であった。結果を表2に示す。
【0099】
(実施例8)
<ガス拡散層の作製>に記載した方法において、炭素シートに内部細孔体前駆体塗液2を塗布し、乾燥後に微多孔層前駆体塗液1を塗布すること以外は、実施例7と同様の方法を用い、内部細孔体空隙率を80%としたガス拡散層を得たところ、空隙率の増大によりガス拡散性が向上した。ガス拡散性と導電性の両立性はきわめて良好であり、発電性能はきわめて良好であった。結果を表2に示す。
【0100】
(実施例9)
<ガス拡散層の作製>に記載した方法において、炭素シートに内部細孔体前駆体塗液3を塗布し、乾燥後に微多孔層前駆体塗液1を塗布すること以外は、実施例7と同様の方法を用い、内部細孔体空隙率を90%としたガス拡散層を得たところ、空隙率が増大した一方、内部細孔体の平均厚さが増大したために、実施例8と比べ、ガス拡散性は向上しなかったが、導電性が向上した。ガス拡散性と導電性の両立性はきわめて良好であり、発電性能はきわめて良好であった。結果を表2に示す。
【0101】
(実施例10)
<ガス拡散層の作製>に記載した方法において、炭素シートに内部細孔体前駆体塗液4を塗布し乾燥および炭化を行ったのち微多孔層前駆体塗液1を塗布すること以外は、実施例7と同様の方法を用いた上で、内部細孔体空隙率を91%としたガス拡散層を得たところ、表層密度が若干低下し、実施例9よりもガス拡散性が向上した。ガス拡散性と導電性の両立性はきわめて良好であり、発電性能はきわめて良好であった。結果を表2に示す。
【0102】
(実施例11)
炭素シート作製方法の変更を行った。まずポリアクリロニトリルの長繊維を200℃の温度で10分間の耐炎化処理を行い、水流交絡処理により不織布を作製し、ロールプレスを行った。2000℃の温度の加熱炉に導入し、厚み150μmの不織布の炭素繊維焼成体からなる炭素シートを得た。次に、この炭素シートを用いて実施例1と同様の方法でガス拡散層を得たところ、ガス拡散性と導電性の両立性は良好であり、発電性能は良好であった。結果を表2に示す。
【0103】
(実施例12)
炭素シートとして、実施例11で用いたものと同じ不織布を用い、かつ内部細孔体の目付を5g/m2としたこと以外、実施例9と同様の方法を用いてガス拡散層を得たところ、ガス拡散性と導電性の両立性はきわめて良好であり、発電性能はきわめて良好であった。結果を表2に示す。
【0104】
(実施例13)
実施例1と同様の方法であるが、内部細孔体の目付を5g/m2、微多孔層の目付を5g/m2としてガス拡散層を得たところ、高いガス拡散性が得られた一方、微多孔層目付低減により導電性がわずかに低下した。ガス拡散性と導電性の両立性は良好であり、発電性能は良好であった。結果を表2に示す。
【0105】
(実施例14)
実施例2と同様の方法であるが、微多孔層の目付を25g/m2に増やした一方、微多孔層前駆体塗布過程でのクリアランスを拡大し、内部細孔体の平均厚さを30μmとしたガス拡散層を得たところ、ガス拡散性と導電性の両立性は良好であり、発電性能は良好であった。結果を表2に示す。
【0106】
(実施例15)
実施例14と同様の方法であるが、実施例14と比べ、微多孔層前駆体塗液の塗布クリアランスを低減し、内部細孔体の平均厚さを26μmに増大させたガス拡散層を得たところ、ガス拡散性と導電性の両立性は良好であり、発電性能は良好であった。結果を表2に示す。
【0107】
(比較例1)
実施例1と比べ、微多孔層前駆体塗液の塗布クリアランスを低減し、内部細孔体の平均厚さを33μmとしたこと以外は実施例1と同じ方法でガス拡散層を得たところ、ガス拡散性と導電性の両立性は悪く、発電性能は低かった。結果を表2に示す。
【0108】
(比較例2)
実施例1と比べ、炭素シートの作製において炭素繊維目付けを29g/m2として、密度の高い炭素シート作製したこと以外は実施例1と同じ方法でガス拡散層を得たところ、ガス拡散性と導電性の両立性は悪く、発電性能は低かった。結果を表2に示す。
【0109】
(比較例3)
実施例1と比べ、微多孔層前駆体塗液を離型紙に目付け13g/m2で塗布し100℃の温度内で乾燥して得た微多孔層前駆体乾燥物を得た。その微多孔層前駆体乾燥物側を炭素シートに重ねて加圧し、120度の温度で離型紙を剥離することで微多孔層前駆体乾燥物を炭素シート上に転写し、大気中380℃の温度で10分間加熱してガス拡散層を得た。この方法により、内部細孔体の平均厚さは3μmと小さくなった。その他は実施例1と同じ方法でガス拡散層を得たところ、ガス拡散性と導電性の両立性は悪く、発電性能は低かった。結果を表2に示す。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【符号の説明】
【0115】
0、0a、0b: ガス拡散層
1、1a、1b: 炭素シート
2: 面X(微多孔層側)
3: 面Y(セパレータ側)
4: 内部細孔体
5、5a、5b: 微多孔層
6、6a,6b: 触媒層
7: 電解質膜
11: 炭素シートの厚さ
12: 内部細孔体の厚さ
13: 微多孔層の厚さ
21: マスフローコントローラー
22: 配管A
23: バルブA
24: 圧力コントローラー
25: バルブB
26: 配管B
27: ガス室A
28: ガス拡散層
29: ガス室B
30: 配管C
31: ガス流量計
32: シール材
33: 窒素ガス
W: 幅方向
D: 奥行き方向