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  • 特許-レーザーダイオード 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】レーザーダイオード
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/343 20060101AFI20230627BHJP
【FI】
H01S5/343 610
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021548466
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036467
(87)【国際公開番号】W WO2021060538
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2019177788
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】張 梓懿
(72)【発明者】
【氏名】久志本 真希
(72)【発明者】
【氏名】天野 浩
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-532265(JP,A)
【文献】特開2015-002324(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0103509(US,A1)
【文献】SATO, Kosuke et al.,Light confinement and high current density in UVB laser diode structure using Al composition-graded,Applied Physics Letters,2019年05月16日,Vol.114,pp.191103-1 - 191103-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlN単結晶の基板と、
前記基板上に形成され、n型の導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層と、
前記n型クラッド層上に形成され、一つ以上の量子井戸を含む発光層と、
前記発光層上に形成され、p型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層と、
前記p型クラッド層上に形成され、GaNを含む窒化物半導体を含むp型コンタクト層と、
を備え、
前記p型クラッド層は、
AlGa1-sN(0.3≦s≦1)を含み、前記基板から遠ざかるにつれてAl組成sが小さくなる組成傾斜を有し、膜厚を0.5μm未満とするp型縦伝導層と、
AlGa1-tN(0.3<t≦1)を含むp型横伝導層と、を備え、
前記p型横伝導層は、前記p型縦伝導層との隣接面において、前記Al組成tが前記Al組成sの最小値よりも大きい、レーザーダイオード。
【請求項2】
前記p型クラッド層は、AlGa1-sN(0.35<s≦1)を含む請求項1に記載のレーザーダイオード。
【請求項3】
前記p型横伝導層は、膜厚が20nm以下である請求項1又は2に記載のレーザーダイオード。
【請求項4】
前記n型クラッド層と前記発光層との間に形成されて、前記発光層へ光を閉じ込めるn型導波路層と、
前記p型クラッド層と前記発光層との間に形成されて、前記発光層へ光を閉じ込めるp型導波路層と、を備える、請求項1から3のいずれか一項に記載のレーザーダイオード。
【請求項5】
前記p型縦伝導層と前記p型導波路層との間に形成されて、AlGa1-vN(0<v≦1.0)を含み、前記基板から遠ざかるにつれてAl組成vが増加する組成傾斜を有する中間層、を備える、請求項4に記載のレーザーダイオード。
【請求項6】
前記p型縦伝導層は、前記p型導波路層との界面を含む領域がアンドープである、請求項4又は5に記載のレーザーダイオード。
【請求項7】
前記発光層の発光波長が210nm以上300nm以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載のレーザーダイオード。
【請求項8】
前記p型縦伝導層の膜厚が250nm以上450nm以下である、請求項1から7のいずれか一項に記載のレーザーダイオード。
【請求項9】
前記p型縦伝導層及び前記p型横伝導層が前記基板に対して完全歪である、請求項1から8のいずれか一項に記載のレーザーダイオード。
【発明の詳細な説明】
【関連出願へのクロスリファレンス】
【0001】
本出願は、日本国特許出願2019-177788号(2019年9月27日出願)の優先権を主張するものであり、当該出願の開示全体を、ここに参照のために取り込む。
【技術分野】
【0002】
本開示は、レーザーダイオードに関する。
【背景技術】
【0003】
Al、Gaを含む窒化物半導体は、直接遷移の再結合形態を有することから高い再結合効率、また高い光学利得を得ることができる点で、レーザーダイオードための材料として適している。特に、波長300nm以下の紫外領域の発光波長を得るための高Al組成のAlGa1-xN混晶系において、レーザーダイオードの発光効率、寿命、光学利得はその結晶欠陥密度に強く依存する。近年導入されたAlN単結晶基板上にAlGa1-xN混晶を成長させることで、欠陥密度が抑制された良好な窒化物半導体を得ることが可能となり、レーザーダイオードの特性を著しく向上させる可能性がある。しかしながら、高Al組成のAlGa1-xN混晶系については不純物ドープによってバルクのAlGa1-xN混晶にp型伝導性を得ることが困難である。これに対し、例えば特許文献1には、組成傾斜層を用いてキャリアの注入効率を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-532265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述の組成不連続性を含む組成傾斜層は、垂直方向の電気抵抗率(縦抵抗率)に対して面内方向の電気抵抗率(横抵抗率)の比率(縦横抵抗率の比)が大きい。ここで、垂直方向はレーザーダイオードにおける層の積層方向に対応する。また、面内方向は垂直方向に垂直な1つの層の面に沿った方向である。レーザーダイオードにおいては電極領域にわたって均質に高い電流密度が注入されることが求められる観点から、クラッド層(特にp型クラッド層)については高い縦伝導率と低い縦横抵抗率の比を同時に求められる。また同時に、電極へ光モードが吸収されることで内部損失が増加しないようなクラッド層が求められる。
【0006】
本開示の目的は、高い縦伝導率と低い縦横抵抗率の比を実現し、内部損失の増加を抑制できるレーザーダイオードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るレーザーダイオードは、AlN単結晶の基板と、前記基板上に形成され、n型の導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層と、前記n型クラッド層上に形成され、一つ以上の量子井戸を含む発光層と、前記発光層上に形成され、p型の導電性を有する窒化物半導体層を含むp型クラッド層と、前記p型クラッド層上に形成され、GaNを含む窒化物半導体を含むp型コンタクト層と、を備える。前記p型クラッド層は、AlGa1-sN(0.3≦s≦1)を含み、前記基板から遠ざかるにつれてAl組成sが小さくなる組成傾斜を有し、膜厚を0.5μm未満とするp型縦伝導層と、AlGa1-tN(0<t≦1)を含むp型横伝導層と、を備える。ここで、例えば「基板上に形成され、n型の導電性を有する窒化物半導体層を含むn型クラッド層」という表現における「上に」という文言は、基板の上にn型クラッド層が形成されることを意味するが、基板とn型クラッド層との間に別の層がさらに存在する場合もこの表現に含まれる。その他の層同士の関係においても、「上の」という文言は、同様の意味を有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高い縦伝導率と低い縦横抵抗率の比を実現し、内部損失の増加を抑制できるレーザーダイオードの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施形態に係るレーザーダイオードの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<レーザーダイオードの構成>
図1に示すように、本実施形態のレーザーダイオード1は、基板11と、n型クラッド層12と、n型導波路層13と、発光層14と、p型導波路層15と、p型クラッド層20と、p型コンタクト層18と、を備える。p型クラッド層20は、p型縦伝導層16と、p型横伝導層17と、を備える。レーザーダイオード1は、正孔を発光層14へ注入させるため、Al組成sが、基板11の上面から遠ざかるにつれて減少する様に傾斜させたAlGa1-sNから成るp型縦伝導層16と、p型縦伝導層16との隣接面において、AlGa1-tN(t>sの最小値)から成るp型横伝導層17から構成されるp型クラッド層20を備える。ここで、sの最小値とは、組成傾斜を有するAlGa1-sN(0.3≦s≦1)から成るp型縦伝導層16がとり得るsのうち最小の値をいう。基板11から遠ざかるにつれてAl組成sが減少する様に傾斜させたAlGa1-sから成るp型縦伝導層16は、p型の伝導性を獲得し得る。Al組成sの傾斜は、基板11の上面方向(すなわち垂直方向)の内部電界を生じさせるため、単一のAl組成sから成るAlGa1-s混晶より縦伝導率に優れており、レーザーダイオード1に適している。一方で、Al組成を傾斜させた層における横抵抗率は縦抵抗率と比較して大幅に高いため、縦横抵抗率の比が大きくなる傾向にある。ここで、基板11の上面とは、基板11に積層される層のうち直上の層(図1の例ではn型クラッド層12)との界面を意味する。
【0011】
(基板)
基板11は、Al及びGaを含む窒化物半導体を、低い面内転位密度を有する基板11の上面に成長できるものが好ましい。本発明の効果を最大化できる実施形態の一つは、レーザーダイオード1の様々な層において、面内転位密度が5×10cm-2以下の良質な層である。特に面内転位密度が5×10cm-2以下の結晶では、転位によるキャリア散乱が軽減されることで、縦抵抗率が減少する結果、さらに縦横抵抗率の比が小さくなる傾向にある。したがって基板11は上記の欠陥密度よりさらに低い欠陥密度(例えば1×10~1×10cm)が求められる。様々な基板11のうち、例えば、AlN単結晶の基板11上には1×10cm-2以下の欠陥密度を有するAlGa1-xN混晶を得ることができるため好ましいが、この限りではない。基板11の貫通転位密度は、例えば、450℃で5分間KOH-NaOH共晶エッチングを行った後にエッチピット密度測定を用いて測定され得る。
【0012】
基板11は、異なる材料(例えばSiC、Si、MgO、Ga、アルミナ、ZnO、GaN、InN、及び/又はサファイア)を含むか、本質的にそれから成るか、若しくはそれから成り、その上にAlGa1-uN材料(0≦u≦1.0)が例えばエピタキシャル成長によって形成されている可能性がある。そのような材料は、実質的に完全に格子緩和され、例えば少なくとも1μmの厚さを有し得る。基板11は、例えばAlNのような、基板11内又は基板11上に存在する同一の材料を含むか、本質的にそれから成るか、又はそれから成るホモエピタキシャル層で覆うことができる。
【0013】
基板11は、伝導性を得るなどの目的で、Nの他に,P,As,Sb等のN以外のV族元素,H,C,O,F,Mg,Si等の不純物が混入していて良いが,元素としてはこの限りではない。
【0014】
本発明に係るレーザーダイオード1は、好ましくは(0001)面、又は(0001)面法線方向からいくらかの角度に傾いた(例えば-4°~4°、好ましくは-0.4°~0.4°)面上に形成することができるが、これに限らない。
【0015】
基板11上に配置された多層膜構造の様々な層は、例えば、有機金属化学気相堆積(MOCVD)、ハライド気相成長法(HVPE)等の堆積法、分子線エピタキシー法(MBE)のようなエピタキシャル成長技法等、多種多様な異なる技法のいずれかによって形成され得る。
【0016】
(p型クラッド層)
p型クラッド層20は、p型の導電性を有する窒化物半導体層を含む。p型クラッド層20は、基板11に対して完全歪であることが好ましい。完全歪で形成されるレーザーダイオード1の層は貫通転位密度の増加を抑制することができるため、本発明の効果を最大化する。ここで、「基板11に対して完全歪」という文言は、多層膜を構成する層が基板11に対して格子緩和率が5%以下の非常に小さな歪み緩和を有することを意味する。格子緩和率は、非対称面のX線回折測定によって十分な回折強度が得られる面、例えば(105)面、(114)面又は(205)面などのいずれかの非対称面の回折ピークの逆格子座標と、基板11の回折ピークの逆格子座標から規定することができる。
【0017】
(p型縦伝導層)
p型縦伝導層16は、p型の伝導性を得る目的で、Al組成sが基板11の上面から遠ざかる方向へ減少する様に傾斜したAlGa1-sNから成る層である。p型縦伝導層16の膜厚とAl組成s範囲は、所望する発光波長の光を吸収しないバンドギャップの材料であって、デバイス内で定在する光モードの電界強度分布と発光層14の重なりを増大させる(すなわち光閉じ込めを増大させる)目的でAl組成、膜厚が限定されることがある。発光層14の発光波長が210nm以上300nm以下の場合、例えばAl組成sが0.3以上1.0以下の範囲において、基板11の上面から遠ざかる方向に減少したAlGa1-sNから成る層であって、膜厚が250nm以上450nm以下、より好ましくは300nm以上400nm以下であることが好ましい。適切に膜厚を制御することで、レーザーダイオード1の内部損失を低減することができる。
【0018】
適切な光閉じ込めと完全歪下でのp型クラッド層形成の観点から、p型縦伝導層のAl組成sが0.35より大きく1.0以下であることが好ましい場合がある。
【0019】
レーザーダイオード1の内部損失は、例えば、公知のVariable Stripe Length Method(以下、VSLM)などの方法によって測定が可能である。
【0020】
p型縦伝導層16は、その膜厚に対するAl組成の変化量が一様でなくとも良い。光閉じ込めを増大させる目的などから、発光層14へ近づくにつれてAl組成の変化量が漸近的に、又は段階的に減少する構成であり得る。
【0021】
p型縦伝導層16は、不純物の拡散を抑制する目的などから,p型導波路層15に近い領域においてH,Mg,Be,Zn,Si,B,等の不純物を意図的に混入しないことが好ましく、すなわちアンドープの状態であることが好ましい。ここで、「アンドープ」という文言は、対象の層を形成する過程で元素として上記が意図に供給されないことを意味する。原料、製造装置由来の元素が、例えば1016cm-3以下の範囲で混入される場合は、この限りではない。元素の混入量は、二次電子イオン質量分析等の手法によって規定することができる。本願の「アンドープ」は本質的に同様な意味を示す。また、p型縦伝導層16のアンドープの状態とする領域は、少なくともp型導波路層15との境界を含む。その大きさは限定されない。例えば、p型縦伝導層16の全ての領域がアンドープの状態であってよい。また、別の例として、p型縦伝導層16のうち、p型横伝導層17よりもp型導波路層15に近い50%の領域がアンドープの状態であってよい。また、別の例として、p型縦伝導層16のうち、p型導波路層15に近い約10%の領域がアンドープの状態であってよい。
【0022】
p型縦伝導層16とp型導波路層15の中間に、伝導率を向上させる目的、かつ/又はp型横伝導層17及びp型コンタクト層18を完全歪で形成させるためなどの目的から、基板11の上面から遠ざかる方向へAl組成vが増加するようなAlGa1-vN(0<v≦1.0)から成る中間層を設けることができる。p型縦伝導層16とp型導波路層15の中間層は、所望する発光波長の光を吸収しないバンドギャップである混晶であって良く、さらに50nm以下の膜厚であることが好ましく、アンドープであって良い。
【0023】
p型縦伝導層16の縦抵抗率は、例えば本願実施形態のレーザーダイオード1の直列抵抗値Rsから、n型クラッド層12が寄与する抵抗値Rnを除いた抵抗値Rs´=Rs-Rnを用いて算出することができる。レーザーダイオード1のp型コンタクト層18に接触するp型電極の面積Aとp型クラッド層20の膜厚Tから、p型クラッド層20の縦抵抗率はRs´×A/Tとして算出される。n型クラッド層12の抵抗値Rは、例えば、伝送線路測定法、渦電流による非接触抵抗測定によって決定され得る。
【0024】
(p型横伝導層)
p型横伝導層17は、p型横伝導層17を貫通するキャリアの量子透過を容易とするように薄い膜厚であり得る。例えば20nm以下、又は10nm以下、好ましくは5nm以下である。
【0025】
p型横伝導層17は、p型横伝導層17の縦抵抗率を制御する目的などからH,Mg,Be,Zn,Si,B,等の不純物を意図的に混入されることができる。混入される不純物の量は、p型横伝導層17の表面及び内部に誘積される正味の電界量に応じて、一例として、1×1018cm-3以上5×1021cm-3以下を取り得る。また、混入される不純物の量は、1×1019cm-3以上5×1021cm-3以下を取り得る。
【0026】
p型横伝導層17の、p型コンタクト層18との界面におけるAl組成は、好ましくは0.9以上1.0以下の範囲であって、基板11に対して完全歪であることが好ましい。このようなp型横伝導層17は、p型横伝導層17の表面及び表面付近の内部に生じる正味内部電界が負となって、正孔が誘積されることで横伝導率を向上させる効果がある。また、レーザーダイオード1の領域においてp型横伝導層17のAl組成の分布が5%以下に制限されることが好ましい。このようなp型横伝導層17は、組成の分布によるキャリア散乱が低減されるためにより高い横伝導率を実現し得る。
【0027】
p型横伝導層17は、最終的なp型横伝導層17のAl組成tより小さいAl組成yから成るAlGa1-yNをAl原料及びGa原料が供給されない高温状態で保持することによって、Al組成tが0.9≦t≦1.0のAlGa1-tNであるように形成されることが好ましい。
【0028】
(n型クラッド層)
n型クラッド層12は、n型の導電性を有する窒化物半導体層を含む。n型クラッド層12は、基板11に対して完全歪で形成されることが好ましい、またn型クラッド層12が基板11に対して完全歪で形成する目的で、n型クラッド層12と基板11の界面にAl組成が一様に変化する中間層が存在し得、また、n型クラッド層12のAl組成と膜厚が制約を受けることがある。n型クラッド層12は、適切な電極に対して低い接触抵抗(例えば1×10-6~1×10-3Ωcm、好ましくは1×10-6~1×10-4Ωcm)を得る目的でAl組成が制限を受けることがある。上記の制限を鑑みたn型クラッド層12の実施形態として、Al組成が0.6~0.8、厚みが0.3~0.5μmであってよい。
【0029】
n型クラッド層12は、その縦伝導率を制御する目的などから、Al組成を基板11から遠ざかる方向に対して増加させるような傾斜層であって良い。この場合、上記のAl組成に対する限定はn型クラッド層12内、各膜厚方向位置におけるAl組成をn型クラッド層12の膜厚で平均したAl組成として、同様の実施形態を取ることができる。
【0030】
n型クラッド層12は、その縦伝導率を制御する目的などから,Nの他に,P,As,Sb等のN以外のV族元素,H,C,O,F,Mg,Ge,Si等の不純物が混入していて良いが,元素としてはこの限りではない。適切な不純物の混入量はn型クラッド層12のAl組成によって制限を受ける。好ましくは1×1019~1×1020cm-3である。
【0031】
(導波路層)
導波路層は、所望する発光波長の光を吸収しないバンドギャップを持つAl、Gaを含む窒化物半導体であって、デバイス内で定在する光の電界強度分布と発光層14の重なりを増大させる目的でAl組成、膜厚が限定され得る。例えば260nm~280nmの発光層14に対してAl組成0.55~0.65、膜厚70~150nmなどが好ましい。
【0032】
導波路層は、発光層14に対してn型クラッド層12側の部分(n型導波路層13)と、発光層14に対してp型クラッド層20側(p型導波路層15)の2層から構成され得る。すなわち、n型導波路層13は、n型クラッド層12と発光層14との間に形成される。また、p型導波路層15は、p型クラッド層20と発光層14との間に形成され得る。n型導波路層13とp型導波路層15の膜厚比は、発光層14への光閉じ込めと、n型クラッド層12とp型クラッド層20のAl組成によってさまざまに取りうる。n型導波路層13とp型導波路層15のAl組成は膜厚方向において均一であることが好ましいが、この限りではない。p型コンタクト上に存在する金属への光吸収を回避するために、p型導波路層15のAl組成がn型導波路層13のAl組成より高い可能性がある。同様の目的で、p型導波路層15の膜厚がn型導波路の膜厚より厚い可能性がある。n型導波路層13は、n型クラッド層12と同じ伝導型を得る目的などからNの他に,P,As,Sb等のN以外のV族元素,H,C,O,F,Mg,Si等の不純物が混入していて良いが,元素としてはこの限りではない。
【0033】
n型導波路層13とn型クラッド層12の中間に、縦伝導率を向上させる目的などから、Al組成wが、基板11の上面から遠ざかる方向において、減少するようなAlGa1-wNから成る組成傾斜層を設けることができる。n型導波路層13とn型クラッド層12の中間層は、10nm以下の膜厚であることが好ましい。
【0034】
p型導波路層15とp型クラッド層20の中間に、縦伝導率を向上させる目的などから、基板11の上面から遠ざかる方向へAl組成xが増加するようなAlGa1-xNから成る組成傾斜層を設けることができる。p型導波路層15とp型クラッド層20の中間層は、導波路層への光閉じ込めを劣化させないために十分に薄い(例えば30nm以下、又は20nm以下の)膜厚であることが好ましい。
【0035】
p型導波路層15の内部又はp型導波路層15と発光層14の中間、又はp型導波路層15とp型縦伝導層16の中間、又はp型導波路層15の一部において、バンドギャップがp型導波路層15より大きい電子ブロック層を設けることができる。電子ブロック層は、電子ブロック層を正孔が量子貫通しやすいように、30nm以下、又は20nm以下、さらに好ましくは15nm以下とすることができる。
【0036】
(発光層)
発光層14は、n型導波路層13とp型導波路層15によって挟まれた単数又は複数の量子井戸であり得る。量子井戸の数は、n型クラッドとp型クラッドの縦伝導率によって、3又は2、又は1であり得る。
【0037】
発光層14の結晶欠陥の影響を低減する目的などから、発光層14の一部又は全てがSi,Sb,Pなどの元素が1×1015cm-3以上意図的に混入されても良い。
【0038】
(p型コンタクト層)
p型コンタクト層18は、p型クラッド層20上に形成され、GaNを含む窒化物半導体であってよい。コンタクト抵抗を低減するなどの目的において、Nの他に,P,As,Sb等のN以外のV族元素,H,B,C,O,F,Mg,Ge,Si等の不純物が混入していて良いが,元素としてはこの限りではない。例えばMgを1×1020~1×1022cm-3混入させることができる。
【0039】
本発明のレーザーダイオード1に対する電気的接触は、p型コンタクト層18上に配置された電極層によって、及び、n型クラッド層12に接触するように配置された電極層によって行うことができる。例えば、基板11の裏側に電極層を配置するか、又は、p型コンタクト層18近傍の1つ以上の領域において、n型クラッド層12が露出するようにレーザーダイオード1の様々な上部の層を、例えば化学エッチング又はドライエッチングによって除去し、露出したn型クラッド層12上に電極を配置することで成し得る。
【0040】
(電極層)
p型コンタクト層18上に配置された電極層は、Ni,Pt、Au、B、Pdのうち一つ以上の元素を含む金属であって良い。
【0041】
n型クラッド層12、又は基板11の裏面に配置された電極層は、V,Al,Au,Ti、Ni、Moのうち一つ以上の元素を含む金属であって良い。基板11に接触する金属層はV又はTiを含む金属であることが好ましい。
【実施例
【0042】
上記の実施形態のレーザーダイオード1と同じ層構成を有する、実施例1-4のレーザーダイオード1が作製された。また、実施例5、6、比較例1、2及び参考例1-5を以下に示す。
【0043】
[実施例1]
実施例1として、以下に示す窒化物半導体レーザーダイオード1が作製された。レーザーダイオード1の作製にはMOCVD、また、原料には、トリメチルガリウム(TMG)、トリエチルガリウム(TEG)、トリメチルアルミニウム(TMA)、アンモニア(NH)、シラン(SiH)、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(CpMg)などが用いられた。単結晶AlN基板11の[0001]面に対して0.1°~0.3°傾斜した面上に、TMA、NHを1200℃のH雰囲気中で反応させることによって、0.2μmのAlNから成るホモエピ層が形成された。
【0044】
AlNから成るホモエピ層上に、TMA、TMG、NH及びSiHを1055℃のH雰囲気中で反応させることによって、30nmの膜厚を有し、基板11の上面から遠ざかる方向にAl組成が1.0から0.7まで一様に減少するAlGaN中間層と、0.35μmの膜厚を有し、5×1019cm-3のSiによってドープされたAl0.7Ga0.3Nのn型クラッド層12と、がこの順序で積層された。AlNホモエピ層、中間層及びn型クラッド層12は、0.3~0.6μm/hの速度で形成されることによって、基板11に対して完全歪であるように形成された。
【0045】
n型クラッド層12上に、TMA、TMG、NHを1055℃のH雰囲気中で反応させることによって、60nmの膜厚を有し、Al0.63Ga0.37Nから成るn型導波路層13と、総膜厚30nmの多層量子井戸層から成る発光層14と、がこの順序で積層された。発光層14の障壁層の一部の形成中に、SiHを原料として導入することによって、3×1019cm-3のSiがドープされた。さらに、発光層14上に50nmの膜厚を有し、Al0.62Ga0.38Nから成るp型導波路層15が形成された。n型導波路層13、発光層14及びp型導波路層15は、0.4μm/hの速度で形成されたことによって、基板11に対して完全歪であるように形成された。
【0046】
p型導波路層15上に、TMA、TMG、NHを1055℃のH雰囲気中で反応させることによって、20nmの膜厚を有し、Al組成が、基板11の上面から遠ざかる方向に0.62から1.0まで一様に増加するAlGaN中間層と、0.32μmの膜厚を有し、Al組成が、基板11の上面から遠ざかる方向に1.0から0.3まで減少させたp型縦伝導層16と、がこの順序で積層された。p型縦伝導層16は、0.3~0.5μm/hの速度で形成されたことによって、基板11に対して完全歪であるように形成された。また、p型縦伝導層16は、全ての領域がアンドープの状態である。
【0047】
p型縦伝導層16上に、3nmの膜厚を有し、Al0.45Ga0.05Nから成るp型横伝導層17が形成された。さらに、1055℃の状態でTMA、TMG原料の供給を停止し、CpMgの供給のみを行った状態を10分間以上保持(アニール)し、p型横伝導層17を1×1020cm-3のMgによってドープされたAl0.97Ga0.03N層に変質させた。このような手順で変質させることによって、p型横伝導層17は基板11に対して完全歪であるように形成された。
【0048】
(002)面のXRD測定を行ったところ、p型横伝導層17のAl組成の分散は、レーザーダイオード1の領域に相当する領域範囲において3.5%であった。p型横伝導層17は、複数の位置において、透過電子顕微鏡の<11-20>方向の透過像によって原子配列を確認したところ、基板11に対して完全歪であった。
【0049】
p型横伝導層17上に、TMG、CpMg、NHを940℃のH雰囲気中で反応させることによって、膜厚20nmであって、5×1020cm-3のMgによってドープされたGaNから成るp型コンタクト層18が形成された。
【0050】
上記のように作製された窒化物半導体レーザーダイオード1は、N雰囲気中、700℃で10分以上アニーリングを行うことによって、p型層を更に低抵抗化した。Clを含むガスによりドライエッチングを行うことによって、<11-20>方向に平行であって、<11-20>方向に長い矩形の領域内において、n型クラッド層12が露出した。さらに、窒化物半導体レーザーダイオード1の表面にSiOを含むパッシベーション層が形成された。
【0051】
p型コンタクト層18上に、<11-20>方向に平行であって、<11-20>方向に長い矩形のNi又はAuを含む電極金属領域(p型電極)が複数形成された。また、n型クラッド層12が露出した領域において、<11-20>方向に平行であって、<11-20>方向に長い矩形のV、Al、Ni、Ti又はAuから成る電極金属(n型電極)が複数形成された。さらに、電極金属領域内において、<1-100>方向に平行な複数回の劈開によって、基板11はストライプ状に分割された。
【0052】
<1-100>方向に平行な複数の自然劈開面を端面とし、長辺がその劈開方向と垂直となるような、長さYμm(Y=50、100,150、200、250、300、350、400μm)の共振器を形成した。これら長さYμmが異なる共振器を用いて、長さ500μm及び幅15μmの矩形レーザースポットによる励起長依存性を取得した。VSLMに基づいて演算を行ったところ、内部損失は10cm-1であった。
【0053】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、最近接のp型電極とn型電極によって順方向バイアスの元でダイオード特性を評価することによって、レーザーダイオード1の全体の直列抵抗が測定された。さらに、複数n型電極間の抵抗をTLM法に基づいて測定することによって、n型クラッド層12の縦・横抵抗率が得られた。n型クラッド層12は均質の混晶であることから、縦抵抗率と横抵抗率が一致する。測定された上記のデータから、p型クラッド層20の縦伝導率は、0.13Ω-1cm-1と算出された。さらに複数p型電極間の抵抗をTLM法に基づいて測定することによって、p型クラッド層20の横抵抗率が得られた。p型クラッド層20の縦横抵抗率の比は1.5であった。
【0054】
基板11の(205)面におけるXRD回折強度ピークと、以上のように作製されたレーザーダイオード1のそれぞれの膜の(205)面におけるXRD回折強度ピークから算出される格子緩和率は、いずれも4%以下であった。
【0055】
[実施例2]
実施例1の手順において、p型縦伝導層16の膜厚を0.21μmとする以外は、同様の手順でレーザーダイオード1が作製された。
【0056】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、4%以下であった。
【0057】
実施例1記載の手法にて算出したところ、p型クラッド層20の縦伝導率は0.17Ω-1cm-1であった。また、実施例1記載の手法にて求めたところ、p型クラッド層20の縦横抵抗率の比は1.9であった。実施例1記載の手法にて測定したところ、VSLMによる内部損失は20cm-1であった。
【0058】
[実施例3]
実施例1の手順において、p型縦伝導層16の膜厚を0.25μmとする以外は、同様の手順でレーザーダイオード1が作製された。
【0059】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも4%以下であった。
【0060】
実施例1記載の手法にて算出したところ、p型クラッド層20の縦伝導率は0.15Ω-1cm-1であった。また、実施例1記載の手法にて求めたところ、p型クラッド層20の縦横抵抗率の比は1.9であった。実施例1記載の手法にて測定したところ、VSLMによる内部損失は15cm-1であった。
【0061】
[実施例4]
実施例1の手順において、p型縦伝導層16の膜厚を0.45μmとする以外は、同様の手順でレーザーダイオード1を作製した。
【0062】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも4%以下であった。
【0063】
実施例1記載の手法にて算出したところ、p型クラッド層20の縦伝導率は0.11Ω-1cm-1であった。また、実施例1記載の手法にて求めたところ、p型クラッド層20の縦横抵抗率の比は1.4であった。実施例1記載の手法にて測定したところ、VSLMによる内部損失は9cm-1であった。
【0064】
[実施例5]
実施例1の手順において、以下に示すp型横伝導層17の作製手順以外は同様の手順でレーザーダイオード1を作製する。
【0065】
p型縦伝導層16上に、3nmの膜厚を有し、TMA、TMG、CpMg、NHを940℃のH雰囲気中で反応させることによって、レーザーダイオード1のさまざまな層と同様の手法にて3×1020cm-3のMgによってドープされたAl0.97Ga0.03Nから成るp型横伝導層17を積層する。
【0066】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも4%以下である。
【0067】
実施例1記載の手法にて算出したところ、p型クラッド層20の縦伝導率は0.13Ω-1cm-1である。また、実施例1記載の手法にて求めたところ、p型クラッド層20の縦横抵抗率の比は2.9である。実施例1記載の手法にて測定したところ、VSLMによる内部損失は11cm-1である。
【0068】
[実施例6]
実施例1の手順において、p型横伝導層17におけるMg濃度を1×1016cm-3とする以外は、同様の手順でレーザーダイオード1を作製する。
【0069】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも4%以下である。
【0070】
実施例1記載の手法にて算出したところ、p型クラッド層20の縦伝導率は0.11Ω-1cm-1である。また、実施例1記載の手法にて求めたところ、p型クラッド層20の縦横抵抗率の比は1.6である。実施例1記載の手法にて測定したところ、VSLMによる内部損失は10cm-1である。
【0071】
[比較例1]
実施例1において、p型縦伝導層16を膜厚0.32μmのAl0.7Ga0.3N(組成傾斜なし)とする以外は、実施例1と同一のレーザーダイオード1を作製する。
【0072】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも4%以下である。
【0073】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦伝導率を算出したところ、0.06Ω-1cm-1である。また、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦横抵抗率の比を求めたところ、11.3である。実施例1記載の手法にてVSLMによる内部損失を測定したところ、31cm-1である。
【0074】
[比較例2]
実施例1において、p型縦伝導層16を膜厚0.32μmのAl0.7Ga0.3N(組成傾斜なし)とし、さらにp型縦伝導層16の形成に続いて、p型コンタクト層18形成以降の手順を取ることによって、p型横伝導層17を無いレーザーダイオード1を作製する。
【0075】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも4%以下である。
【0076】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦伝導率を算出したところ、0.07Ω-1cm-1である。また、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦横抵抗率の比を求めたところ、16.4である。実施例1記載の手法にてVSLMによる内部損失を測定したところ、31cm-1である。
【0077】
[参考例1]
実施例1と同様の手順で、p型縦伝導層16までを作製し、続いてp型コンタクト層18形成以降の手順を取ることによって、p型横伝導層17の無いレーザーダイオード1を作製する。
【0078】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも4%以下である。
【0079】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦伝導率を算出したところ、0.14Ω-1cm-1である。また、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦横抵抗率の比を求めたところ、26.7である。実施例1記載の手法にてVSLMによる内部損失を測定したところ、10cm-1である。
【0080】
[参考例2]
意図的にレーザーダイオード構造を緩和させる目的で、実施例1の手順において、p型縦伝導層16の膜厚を0.8μmとする以外は、同様の手順でレーザーダイオード1を作製する。
【0081】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも30%である。
【0082】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦伝導率を算出したところ、0.02Ω-1cm-1である。また、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦横抵抗率の比を求めたところ、6.1である。実施例1記載の手法にてVSLMによる内部損失を測定したところ、17cm-1である。
【0083】
[参考例3]
実施例1の手順において、p型縦伝導層16の膜厚を0.5μmとする以外は、同様の手順でレーザーダイオード1を作製する。
【0084】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも20%である。
【0085】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦伝導率を算出したところ、0.04Ω-1cm-1である。また、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦横抵抗率の比を求めたところ、9.7である。実施例1記載の手法にてVSLMによる内部損失を測定したところ、8cm-1である。
【0086】
[参考例4]
p型縦伝導層16が0.32μmの膜厚を有し、Al組成が、基板11の上面から遠ざかる方向に1.0から0.1まで減少させるように積層される以外は、実施例1と同様の手順でレーザーダイオード1を作製する。
【0087】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも4%以下である。
【0088】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦伝導率を算出したところ、0.13Ω-1cm-1である。また、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦横抵抗率の比を求めたところ、1.5である。実施例1記載の手法にてVSLMによる内部損失を測定したところ、27cm-1である。
【0089】
[参考例5]
p型縦伝導層16が0.32μmの膜厚を有し、Al組成が、基板11の上面から遠ざかる方向に1.0から0.2まで減少させるように積層される以外は、実施例1と同様の手順でレーザーダイオード1を作製する。
【0090】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の方法で算出された格子緩和率は、いずれも4%以下である。
【0091】
以上のように作製されたレーザーダイオード1について、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦伝導率を算出したところ、0.13Ω-1cm-1である。また、実施例1記載の手法にてp型クラッド層20の縦横抵抗率の比を求めたところ、1.5である。実施例1記載の手法にてVSLMによる内部損失を測定したところ、19cm-1である。
【0092】
実施例1-6、比較例1、2及び参考例1-5のレーザーダイオード1について、上記の構成、製造条件及び評価の結果を下記の表1にまとめて示す。
【0093】
【表1】
【0094】
(比較)
実施例1-6のレーザーダイオード1は、縦伝導率が0.11以上かつ0.17以下、縦横抵抗率の比が1.5以上かつ2.9以下、内部損失が9cm-1以上かつ20cm-1以下である。比較例1及び2のレーザーダイオード1は、縦伝導率が0.06以上かつ0.07以下、縦横抵抗率の比が11.3以上かつ16.7以下であって、内部損失が31cm-1である。
【0095】
比較例1-2のレーザーダイオード1はp型縦伝導層16として組成傾斜層を用いない構造であるため、縦伝導率が低い。さらに比較例2はp型横伝導層17が存在しないことにより、抵抗率の比が比較例1に対してさらに増大している。いずれの比較例においても、実施例1-6のレーザーダイオード1が示す、低い内部損失、高い縦伝導率及び低い縦横抵抗率の比を同時に有する特性を達成できない。
【0096】
さらに、参考例1-5のレーザーダイオード1について検討する。参考例1のレーザーダイオード1は、比較例1と同じくp型縦伝導層として組成傾斜層を備えるが、p型横伝導層17が存在しない。参考例1のレーザーダイオード1は、実施例1-6と比べると、低い縦横抵抗率の比を達成できない。また、参考例2及び3のレーザーダイオード1は、比較例1と同じくp型縦伝導層16として組成傾斜層を備えるが、p型縦伝導層16の膜厚が0.5μm以上である。参考例2及び3のレーザーダイオード1は、実施例1-6と比べると、高い縦伝導率も低い縦横抵抗率の比も達成できない。参考例4及び5のレーザーダイオード1は、p型縦伝導層として組成傾斜層を備えるが、Al組成の最小値が0.3未満である。参考例4及び5のレーザーダイオード1は、実施例1-6と比べると、低い内部損失を達成できない。参考例1-5のレーザーダイオード1は、実施例1-6と比べると、低い内部損失、高い縦伝導率及び低い縦横抵抗率の比を同時に有する特性を達成するとは言えない。
【0097】
(変形例)
上記の通り、実施例1-6のレーザーダイオード1は低い内部損失、高い縦伝導率及び低い縦横抵抗率の比を同時に有する。ここで、更に発振との関係性を調べるために、実施例1に対して発光層14が含む量子井戸層の構成と、p型縦伝導層16の構成と、を変更した変形例を用いて発振状態について測定した。以下の変形例の作製では、まず、電極付きのレーザーダイオード1を<11-20>方向に沿って切り出して、長さ400μmのレーザーキャビティを形成した。劈開によって原子的に平坦な(1-100)ファセットを得た後、両側の劈開面にHfO/SiO多層膜からなる高反射コーティング(反射率90%以上)を適用した。電気的特性は、室温で0.5ms周期(デューティ0.01%)で50nsのパルス電流注入下で測定された。
【0098】
[変形例1]
変形例1として、発光層14が総膜厚7.5nmの1枚の量子井戸層を備える以外は、実施例1と同じ構成のレーザーダイオード1を作製した。変形例1のレーザーダイオード1は発振し、発振閾値が60kA/cmであった。
【0099】
[変形例2]
変形例2として、発光層14が総膜厚9nmの1枚の量子井戸層を備える以外は、実施例1と同じ構成のレーザーダイオード1を作製した。変形例2のレーザーダイオード1は発振し、発振閾値が25kA/cmであった。
【0100】
[変形例3]
変形例3として、発光層14が総膜厚15nmの1枚の量子井戸層を備える以外は、実施例1と同じ構成のレーザーダイオード1を作製した。変形例3のレーザーダイオード1は発振し、発振閾値が9kA/cmであった。
【0101】
[変形例4]
変形例4として、発光層14が総膜厚9nmの1枚の量子井戸層を備え、p型縦伝導層16のうちp型導波路層15との界面から厚み方向に10nmまでの領域がアンドープの状態である以外は、実施例1と同一のレーザーダイオード1を作製した。ここで、p型縦伝導層16のアンドープの状態でない部分は、1.3×1019cm-3のMgによってドープされている。また、p型縦伝導層16の膜厚は実施例1と同じく0.32μmである。変形例4のレーザーダイオード1は発振し、発振閾値が30kA/cmであった。
【0102】
[変形例5]
変形例5として、発光層14が総膜厚9nmの1枚の量子井戸層を備え、p型縦伝導層16のうちp型導波路層15との界面から厚み方向に50nmまでの領域がアンドープの状態である以外は、実施例1と同一のレーザーダイオード1を作製した。ここで、p型縦伝導層16のアンドープの状態でない部分は、1.3×1019cm-3のMgによってドープされている。変形例5のレーザーダイオード1は発振し、発振閾値が20kA/cmであった。
【0103】
[変形例6]
変形例6として、発光層14が総膜厚9nmの1枚の量子井戸層を備え、p型縦伝導層16のうちp型導波路層15との界面から厚み方向に100nmまでの領域がアンドープの状態である以外は、実施例1と同一のレーザーダイオード1を作製した。ここで、p型縦伝導層16のアンドープの状態でない部分は、1.3×1019cm-3のMgによってドープされている。変形例6のレーザーダイオード1は発振し、発振閾値が18kA/cmであった。
【0104】
変形例1-6のレーザーダイオード1について、上記の構成及び評価の結果を下記の表2にまとめて示す。
【0105】
【表2】
【0106】
変形例1-6のレーザーダイオード1は低い発振閾値で発振する。例えば変形例3の発振閾値は9kA/cmであった。
【0107】
ここで、レーザーダイオード1の作製において、エピタキシャル成長後に、凸状の六角錐状ヒロック(HPH)が生じて特性を悪化することがあった。HPHの密度は一例として6×10cm-2であり、波長の発光ピークを長波長側にシフトさせる特性悪化が見られた。HPHは、主に単結晶AlN基板の貫通転位が存在する近傍で形成されると考えられる。変形例のレーザーダイオード1では、貫通転位の発生を抑制することで、HPHがp型電極と接することを回避し、レーザー発振を達成した。
【0108】
(その他)
本開示は、以上に記載した実施形態及び変形例に限定されうるものではない。当業者の知識に基づいて各実施形態に設計の変更等を加えることが可能であり、そのような変更等を加えた態様は本開示の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0109】
1 レーザーダイオード11 基板12 n型クラッド層13 n型導波路層14 発光層15 p型導波路層16 p型縦伝導層17 p型横伝導層18 p型コンタクト層20 p型クラッド層
図1