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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/095 20120101AFI20230627BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20230627BHJP
   B60W 40/04 20060101ALI20230627BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20230627BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20230627BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20230627BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20230627BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20230627BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20230627BHJP
【FI】
B60W30/095
B60T7/12 C
B60W40/04
B62D6/00 ZYW
G08G1/16 C
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
B62D137:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019117736
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021003952
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】倉上 優輝
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-013607(JP,A)
【文献】特開2017-043262(JP,A)
【文献】特開2001-219863(JP,A)
【文献】特開2002-046632(JP,A)
【文献】特許第3416474(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00~60/00
B60T 7/12
B62D 5/04
B62D 6/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の外部に存在する物体との衝突を回避する操舵制御である自動操舵回避制御を行う車両における操舵制御装置であって、
前記自車両に設けられたセンサの検出信号に基づいて前記自車両の車外環境を認識する車外環境認識部と、
前記車外環境の認識結果に基づき、前記自動操舵回避制御による操舵介入の有無を予測する予測部と、
前記予測部が前記操舵介入があるとの予測をしたことに応じ、操舵の制御信号に対しディザ信号を重畳する処理を行う重畳処理部と、を備え、
前記自動操舵回避制御においては、前記車外環境の認識結果に基づき前記物体との衝突リスクの大きさを表すリスク評価値を計算し、該リスク評価値が第一リスク閾値を超えたことに応じて前記操舵介入を開始し、
前記予測部は、
前記リスク評価値が前記第一リスク閾値よりも安全側に設定された第二リスク閾値を超えた場合に前記操舵介入があるとの予測結果を得る
操舵制御装置。
【請求項2】
前記リスク評価値が前記第一リスク閾値よりも安全側に設定された第三リスク閾値を超えたことに応じて前記自車両を制動させる制御を行う制動制御部を備え、
前記第三リスク閾値が前記第二リスク閾値以上に安全側の値として設定された
請求項に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記第二リスク閾値と前記第三リスク閾値とが同値とされた
請求項に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記重畳処理部は、
前記車外環境の認識結果から前記自動操舵回避制御の実行が不可と判定された場合は、前記リスク評価値が前記第二リスク閾値を超えるか否かに拘わらず、前記ディザ信号を重畳する処理を実行しない
請求項から請求項の何れかに記載の操舵制御装置。
【請求項5】
前記重畳処理部は、
前記ディザ信号の重畳開始後、前記自車両の実操舵速度が所定速度を超えたことに応じて前記ディザ信号の重畳を停止する処理を行う
請求項1から請求項4の何れかに記載の操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される操舵制御装置についての技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突回避技術として、AES(Automatic Emergency Steering:自動操舵回避)の技術が知られている。AESにおいては、先行車両等の車外物体との衝突リスクを表す評価値(リスク評価値)を計算し、リスク評価値を基に、衝突リスクが所定以上に増大したと判定された場合に操舵介入を行い、物体との衝突回避を図るようにしている。
【0003】
ここで、車両の操舵制御系においては、制御目標値に対する応答遅れが少なからず生じる。このような応答遅れの一因として、操舵機構における各種ギヤ(例えばラックアンドピニオン機構におけるギヤ等)の静止摩擦やバックラッシを挙げることができる。車両走行中には、操舵輪の切れ角方向の動きが完全に停止する状態が生じ得るが、その状態から再度操舵輪を切れ角方向に動かそうとした場合に、上記の静止摩擦やバックラッシに起因した操舵の応答遅れが生じてしまう。
AESにおいては、このような操舵の応答遅れを抑制して、回避性能の向上を図ることが望まれる。
【0004】
一方で、下記特許文献1には、操舵機構を駆動するモータの駆動信号に対し、該モータを微小振動させる(つまり操舵トルクに微小な振動成分を付与する)ためのディザ信号を重畳する技術が開示されている。
このディザ信号の重畳によりモータを微小振動させることで、上記のような静止摩擦やバックラッシに起因した操舵の応答遅れの抑制を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-11834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1では、ディザ信号の重畳をモータのPWM(パルス幅変調)制御におけるデューティ比が所定値以下となったとき、具体的には、モータの角速度が所定値以下のときに行うこととしている。
このため、特許文献1では、モータの角速度(つまり操舵速度)が所定値以下である全ての場合においてディザ信号の重畳が行われ得るものであり、ディザ信号重畳のための消費電力の増加や、操舵機構における各種ギヤの摩耗を誘発する虞がある。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑み為されたものであり、自動操舵回避制御による衝突回避性能の向上を消費電力の削減、及びギヤの摩耗抑制による操舵機構の長寿命化を図りつつ実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る操舵制御装置は、自車両の外部に存在する物体との衝突を回避する操舵制御である自動操舵回避制御を行う車両における操舵制御装置であって、前記自車両に設けられたセンサの検出信号に基づいて前記自車両の車外環境を認識する車外環境認識部と、前記車外環境の認識結果に基づき、前記自動操舵回避制御による操舵介入の有無を予測する予測部と、前記予測部が前記操舵介入があるとの予測をしたことに応じ、操舵の制御信号に対しディザ信号を重畳する処理を行う重畳処理部とを備えるものである。
【0009】
ディザ信号は、操舵トルクに微小な振動成分を付与するための振動信号を意味する。ディザ信号の重畳により、静止摩擦やバックラッシに起因した操舵機構の応答遅れの抑制が図られる。そして、上記構成によれば、ディザ信号の重畳は、自動操舵回避制御による操舵介入が予測されたことを条件として行われるため、ディザ信号が重畳される頻度の低減が図られる。
【0010】
上記した本発明に係る操舵制御装置においては、前記自動操舵回避制御においては、前記車外環境の認識結果に基づき前記物体との衝突リスクの大きさを表すリスク評価値を計算し、該リスク評価値が第一リスク閾値を超えたことに応じて前記操舵介入を開始し、前記予測部は、前記リスク評価値が前記第一リスク閾値よりも安全側に設定された第二リスク閾値を超えた場合に前記操舵介入があるとの予測結果を得る構成とすることが考えられる。
【0011】
ここで、リスク評価値がリスク閾値を超えるとは、リスク評価値が表すリスクの大きさが、リスク閾値の表すリスクの大きさを超えることを意味する。
上記構成によれば、物体との衝突リスクを定量的に表す評価指標に基づいて衝突回避のための操舵介入が行われる。そして、上記予測部によれば、このような定量的な評価指標に基づき、自動操舵回避制御による操舵介入の有無を適切に予測することが可能とされる。
【0012】
上記した本発明に係る操舵制御装置においては、前記リスク評価値が前記第一リスク閾値よりも安全側に設定された第三リスク閾値を超えたことに応じて前記自車両を制動させる制御を行う制動制御部を備え、前記第三リスク閾値が前記第二リスク閾値以上に安全側の値として設定された構成とすることが考えられる。
【0013】
これにより、衝突リスクが増大していく状況下で制動制御部による制動介入、次いで動操舵回避制御による操舵介入という順序で衝突回避制御が行われる場合において、ディザ信号の重畳は、制動介入の開始タイミング以降、操舵介入の開始前までの間のタイミングで実行される。
【0014】
上記した本発明に係る操舵制御装置においては、前記第二リスク閾値と前記第三リスク閾値とが同値とされた構成とすることが考えられる。
【0015】
これにより、ディザ信号の重畳と制動介入とについて、それぞれの開始タイミング条件が同じとなる。
【0016】
上記した本発明に係る操舵制御装置においては、前記重畳処理部は、前記ディザ信号の重畳開始後、前記自車両の実操舵速度が所定速度を超えたことに応じて前記ディザ信号の重畳を停止する処理を行う構成とすることが考えられる。
【0017】
これにより、ディザ信号の重畳が無闇に継続されてしまうことの防止が図られる。
【0018】
上記した本発明に係る操舵制御装置においては、前記重畳処理部は、前記車外環境の認識結果から前記自動操舵回避制御の実行が不可と判定された場合は、前記リスク評価値が前記第二リスク閾値を超えるか否かに拘わらず、前記ディザ信号を重畳する処理を実行しない構成とすることが考えられる。
【0019】
これにより、ディザ信号の重畳が不必要に行われてしまうことの防止が図られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、自動操舵回避制御による衝突回避性能の向上を消費電力の削減、及びギヤの摩耗抑制による操舵機構の長寿命化を図りつつ実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態としての操舵制御装置を含む車載システムの要部を示したブロック図である。
図2】実施形態としてのディザ信号重畳手法についての説明図である。
図3】実施形態としてのディザ信号重畳手法を実現するための具体的な処理手順の例を示したフローチャートである。
図4】変形例としてのディザ信号重畳手法を実現するための具体的な処理手順の例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<1.操舵制御装置の構成>
以下、本発明に係る実施形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る実施形態としての操舵制御装置を含む車載システム1の要部を示している。本実施形態の操舵制御装置は、図中の構成において、少なくとも衝突回避制御ユニット14を含む。図1では、操舵制御装置による制御対象としてのステアリング機構(操舵機構)30を示している。また、衝突回避制御に係るセンサ類として、車速センサ15、ヨーレートセンサ16、後側方センサ17、実舵角センサ18、及び操舵トルクセンサ19を示している。さらに、衝突回避制御の関連部位として表示部23、発音部24を示している。
【0023】
ここで、後側方センサ17は、例えば自車両5の後端部における左右両端部に設置されたレーダーセンサ等を有して構成され、自車両5の後方や側方における車外物体の有無や車外物体までの距離を検出する。
実舵角センサ18は、操舵輪40(後述する左右の操舵輪40L、40R)の実際の切れ角(操舵輪40の回転面と自車両5の前後方向とがなす角度)を実舵角として検出する。
操舵トルクセンサ19は、例えば、ステアリング軸32に対する入力トルクを検出することで、ステアリングホイール34を介して運転者が入力した操舵力(操舵入力トルク)を検出する。
【0024】
撮像ユニット10は、自車両5において進行方向(前方)を撮像可能に設置された撮像部11L、撮像部11Rと、画像処理部12と、運転支援制御部13とを備えている。
撮像ユニット10には、自車両5の車速を自車速vとして検出する車速センサ15、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ16、及び、上記した後側方センサ17と実舵角センサ18が接続され、画像処理部12や運転支援制御部13はこれらセンサによる検出信号を入力可能とされている。また、撮像ユニット10には、運転者等の乗員からの操作入力情報である操作情報SDが入力され、画像処理部12や運転支援制御部13は操作情報SDに応じた処理を実行可能とされている。
【0025】
撮像部11L、11Rは、いわゆるステレオ法による測距が可能となるように、例えば自車両5のフロントガラスの上部付近において車幅方向に所定間隔を空けて配置されている。撮像部11L、11Rの光軸は平行とされ、焦点距離はそれぞれ同値とされる。また、フレーム周期は同期し、フレームレートも一致している。撮像素子の画素数は例えば水平方向1280画素程度×垂直方向960画素程度である。
【0026】
撮像部11L、11Rの各撮像素子で得られた電気信号(撮像画像信号)はそれぞれA/D変換され、画素単位で所定階調による輝度値を表すデジタル画像信号(撮像画像データ)とされる。撮像画像データは例えばカラー画像データとされる。
【0027】
画像処理部12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びワークエリアとしてのRAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータを有して構成され、ROMに格納されたプログラムに従った各種の処理を実行する。
画像処理部12は、撮像部11L、11Rが自車両5の前方を撮像して得た撮像画像データとしての各フレーム画像データを内部メモリに格納していく。そして、各フレームとしての二つの撮像画像データに基づき、外部環境として自車両5前方に存在する物体を認識するための各種処理を実行する。例えば、道路上に形成された規制線(例えば白線やオレンジ線等)、先行車両や障害物などの立体物等の認識を行う。
ここで、規制線は、車両の走行車線(走行レーン)を仕切る線を意味する。画像処理部12は、認識した規制線の情報に基づき、自車両5の走行車線を認識する。
【0028】
画像処理部12は、自車両5前方の立体物の認識にあたり、撮像部11L、11Rにより得られた一対の撮像画像データ(ステレオ画像)に対し、画像内の対応する位置同士のずれ量(つまり視差)から三角測量の原理によって距離情報を求める処理を行い、この距離情報に基づいて三次元の距離分布を表すデータ(距離画像)を生成する。その後、このデータを基に、周知のグルーピング処理や、予め記憶されている三次元的な道路形状データ、立体物データ等と比較し、上述した規制線や、道路に沿って存在するガードレール・縁石等の側壁、車両等の立体物データを抽出する。
【0029】
立体物データでは、立体物までの距離と、距離の時間的変化(自車両5に対する相対速度)が求められ、特に自車進行路上にある最も近い車両で、自車両5と略同方向を向くものが先行車両として抽出される。なお、先行車両の中で走行速度が略0km/hである車両は停止した先行車両として認識される。
【0030】
また、立体物情報、及び、先行車両情報は、立体物や先行車両の後面の左端点と右端点の位置情報が記憶され、さらに、この後面における左端点と右端点との略中央が立体物又は先行車両の中心位置として記憶される。
【0031】
さらに、先行車両情報については、自車両5前後方向をz軸、自車両5左右方向(横方向)をx軸としたx-z座標系の座標位置として表した先行車位置、先行車距離(先行車両との車間距離:以下「車間距離dc」と表記)、先行車速(「車間距離dcの変化量」+「自車速v」)、先行車加速度(先行車速の微分値)の情報も算出され、記憶される。
なお、先行車両以外の立体物位置、規制線の位置、自車両5の走行車線の位置についても、上記のx-z座標系上の座標位置として算出され、記憶される。
【0032】
また、画像処理部12は、後述する衝突回避制御ユニット14による衝突回避制御に係る情報として、「車間距離xr」及び「相対速度vr」を算出する。これら「車間距離xr」「相対速度vr」は、認識した立体物のうち、回避対象とする立体物(以下「回避対象物体」と表記する)を基準とした値である。本例では、回避対象物体は、自車進行路上に存在し自車両5との距離が最短である立体物である。
「車間距離xr」は、回避対象物体と自車両5との離間距離であり、「相対速度vr」は回避対象物体と自車両5との相対速度である。
【0033】
画像処理部12による上記の先行車両や立体物、走行車線等の画像認識結果は、各種の運転支援制御に用いられる。
【0034】
運転支援制御部13は、画像処理部12による画像認識結果を表す入力情報を基に、各種運転支援のための制御を行う。
運転支援制御部13は、衝突回避制御ユニット14を備えている。衝突回避制御ユニット14は、例えばCPU、ROM及びRAM等を備えたマイクロコンピュータを有して構成され、ROMに格納されたプログラムに従った各種の処理を実行する。具体的に、衝突回避制御ユニット14は、AEB(Autonomous Emergency Braking:衝突被害軽減ブレーキ)やAES(Automatic Emergency Steering:自動操舵回避)に係る処理を行う。
ここで、AEBやAESとしての衝突回避制御においては、車外環境の認識結果に基づき、物体との衝突リスクの大きさを表すリスク評価値を計算し、該リスク評価値が示すリスクの大きさに基づいて制動や操舵の介入タイミングを判定する。
具体的に、本例の衝突回避制御ユニット14は、前述した回避対象物体についての車間距離xr及び相対速度vrを取得し、これらの情報に基づいてTTC(Time To Collision:衝突余裕時間)としてのリスク評価値を算出する。ここで、TTCは、現在の相対速度vrが維持された場合にあと何秒で衝突するかを表わす指標であり、具体的には下記式により計算される。

TTC=xr/vr

このようなTTCは、その値が小さいほど衝突リスクが大きいことを表すリスク評価値となる。
【0035】
本例の衝突回避制御においては、TTCについて閾値TH3、閾値TH1、及び閾値TH4の三つの閾値THが設定される。
閾値TH3はAEBの作動に係る閾値THであり、閾値TH1はAESの作動に係る閾値THである。これら閾値TH3、TH1については、大小関係が「TH3>TH1」とされている。すなわち、AEBに係る閾値TH3は、AESに係る閾値TH1よりも安全側の値として設定されている。
TTCが閾値TH3を下回った場合、衝突回避制御ユニット14はAEBによるブレーキ介入の処理を開始し、TTCがさらに低下して閾値TH1を下回った場合は、AESによる操舵介入の処理を開始する。すなわち、TTCの値が徐々に低下していく状況、換言すれば衝突リスクが徐々に増大していく状況下では、AEBによる制動介入、次いでAESによる操舵介入という順序で衝突回避制御が行われる。
【0036】
閾値TH4は、AEBの解除に係る閾値THであり、一旦TTCが閾値TH3を下回ってAEBが作動した後、TTCが閾値TH4以上となった場合、衝突回避制御ユニット14はAEBによるブレーキ介入を停止する処理を行う。ここで、閾値TH4としては、閾値TH3以上の値に設定する。
【0037】
車載システム1には、自車両5の制動制御を実現するための構成として、ブレーキ制御ユニット20及びブレーキ関連アクチュエータ21が設けられている。
ブレーキ制御ユニット20は、マイクロコンピュータを有して構成され、運転支援制御部13(衝突回避制御ユニット14を含む)からの指示に基づき、ブレーキ関連アクチュエータ21として設けられた各種のアクチュエータを制御する。ブレーキ関連アクチュエータ21としては、例えば、ブレーキブースターからマスターシリンダへの出力液圧やブレーキ液配管内の液圧をコントロールするための液圧制御アクチュエータ等、ブレーキ関連の各種のアクチュエータが設けられる。ブレーキ制御ユニット20は、運転支援制御部13からの指示に基づき、上記の液圧制御アクチュエータを制御して自車両5の制動制御を行う。
【0038】
衝突回避制御ユニット14は、AEBの作動時には、ブレーキ制御ユニット20に制動指示を行うことで自車両5を制動させる。
【0039】
また、衝突回避制御ユニット14は、AESの作動時においては、画像処理部12による画像認識結果に基づいて、目標とする操舵角(以下「目標舵角θs」と表記する)を求める。そして、この目標舵角θsに応じたステアリング指示電流値を、後述するEPS(Electric Power Steering:電動パワーステアリング)制御ユニット22に出力する。
【0040】
また、衝突回避制御ユニット14は、画像処理部12による画像認識結果や後側方センサ17による検出信号に基づき、AESの実行可否判定(以下「AES可否判定」と表記する)を行う。AES可否判定では、例えば自車両5の走行車線の側壁等の障害物や、自車両5の側方に併走する車両等の影響により操舵回避可能なスペースが存在しない状態であるか否かの判定を行う。操舵回避可能なスペースが存在しない状態であると判定した場合、衝突回避制御ユニット14はAES不可フラグFaをONとする。このAES不可フラグFaは、AESを実行不可な状態にあるか否かを識別するためのフラグである。衝突回避制御ユニット14は、操舵回避可能なスペースが存在する状態であると判定した場合には、AES不可フラグFaをOFFとする。
【0041】
本例における運転支援制御部13は、運転者に対し運転支援に関する各種通知も行う。具体的に、運転支援制御部13は、表示部23や発音部24に対して表示情報や発音指示情報を供給する。
表示部23は、例えばマイクロコンピュータによる表示制御ユニットと表示デバイスを包括的に示している。表示デバイスとは、例えば運転者の前方に設置されたメータパネル内に設けられるスピードメータやタコメータ等の各種メータやMFD(Multi Function Display)、その他運転者に情報提示を行うためのデバイスである。表示部23では、衝突回避制御に関しては、物体衝突の危険性に係る警告表示や、AEB、AESの作動/停止を運転者に知覚させるための表示が行われる。
発音部24は、例えばマイクロコンピュータによる発音制御ユニットと、アンプ/スピーカ等の発音デバイスとを包括的に示している。発音部24では、衝突回避制御に関しては、警告音出力やAEB、AESの作動/停止を運転者に知覚させるための通知音等の出力が行われる。
【0042】
EPS制御ユニット22は、例えばマイクロコンピュータを有して構成され、運転支援制御部13(衝突回避制御ユニット14)からのステアリング指示電流値や操舵トルクセンサ19による検出信号に基づき、ステアリング機構30におけるEPSモータ42を制御する。
【0043】
EPS制御ユニット22は、操舵トルクセンサ19の検出信号から取得される運転者による操舵入力トルクの情報に基づき、該操舵入力トルクに応じた操舵のアシストトルクが得られるようにするためのステアリング指示電流値を求め、該指示電流値に基づきEPSモータ42を駆動する。これにより、運転者による操舵をアシストするパワーステアリング制御が実現される。
なお、運転者は、衝突回避制御ユニット14による操舵制御(AES)の実行時においても操舵操作を行うことが可能とされているが、このように操舵制御中に手動操舵が行われた際には、EPS制御ユニット22において衝突回避制御ユニット14からのステアリング指示電流値と上記のように求められたパワーステアリング制御のためのステアリング指示電流値とが合算され、合算された電流値に基づいてEPSモータ42が駆動される。
【0044】
操舵制御の対象となるステアリング機構30は、例えば次のように構成される。
ステアリング機構30は、ステアリング軸32が、図示しない車体フレームにステアリングコラム33を介して回動自在に支持されている。ステアリング軸32の一端は運転席側に延出され、このステアリング軸32の一端部には、ステアリングホイール34が取り付けられている。ステアリング軸32の他端はエンジンルーム側に延出され、このステアリング軸32の他端部にはピニオン軸35が連結されている。
エンジンルームには、車幅方向へ延出するステアリングギヤボックス36が配設され、このステアリングギヤボックス36には、ラック軸37が往復移動自在に挿通支持されている。ラック軸37の途中にはラック(図示せず)が設けられ、このラックに対し、ピニオン軸35に設けられたピニオン(図示せず)が噛合することにより、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤ機構が構成されている。
【0045】
また、ラック軸37の左右両端はステアリングギヤボックス36から各々突出されており、該左右両端には、それぞれタイロッド38が連接されている。各タイロッド38は、それぞれラック軸37と連接される側とは逆側の端部にフロントナックル39が接続されている。それぞれのフロントナックル39は、操舵輪40L,40Rのうち対応する操舵輪40を支持すると共に、キングピン(図示せず)を介して車体フレームに支持されている。各フロントナックル39は、それぞれキングピンを中心に回動自在となるように対応するタイロッド38の端部に接続されている。
従って、ステアリングホイール34を操作し、ステアリング軸32、ピニオン軸35を回動させると、このピニオン軸35の回転によりラック軸37が左右方向へ移動し、その移動によりフロントナックル39がキングピンを中心に回動して、操舵輪40L、40Rが左右方向へ転舵される。
【0046】
また、ピニオン軸35には、アシスト伝達機構41を介してEPSモータ42が連設されており、このEPSモータ42により、ステアリングホイール34に加える操舵トルクのアシストや、目標舵角θsとなるような操舵トルクの付加が行われる。
【0047】
<2.ディザ信号の重畳について>
ここで、AESによる衝突回避を行う場合には、操舵の応答遅れを抑制して回避性能の向上を図ることが望まれる。前述のように、操舵の応答性向上を図る上では、操舵トルクにディザ信号の成分を重畳することが有効であるが、徒にディザ信号を重畳することは消費電力の増大や操舵機構(ステアリング機構30)における各種ギヤの摩耗を増大させるため望ましくない。
【0048】
そこで、本実施形態では、例えば図2に例示するようなタイミングでディザ信号の重畳を行う。
図2では、回避対象物体としての先行車両(図中、斜線で示す車両)と自車両5との距離が徐々に近接していったことに伴いAEB、AESが作動する様子を模式的に表している。図中の時点t0は、TTCの値がAEBの作動に係る閾値TH3より十分に大きい状態を表している。時点t1では、TTCの値が閾値TH3を下回り、先ずはAEBが作動する。さらに先行車両と自車両5との距離が縮まりTTCの値が閾値TH1を下回ると、時点t2のように、AESが作動する。
【0049】
本実施形態では、このようなTTCの値に基づく衝突回避制御が実行される下において、TTCの値に基づき、AESによる操舵介入の有無を予測し、操舵介入があると予測された場合にディザ信号の重畳を行う。
具体的に、本実施形態では、TTCに対する閾値THとして、ディザ信号の重畳に係る閾値TH2が定められる。この閾値TH2としては、AESの作動に係る閾値TH1よりも安全側の値(つまりTTCに係る閾値として「TH2>TH1」)に設定する。
本実施形態では、TTCが閾値TH2を下回ったか否かにより、AESによる操舵介入の有無を予測する。すなわち、TTCが閾値TH2を下回った場合はAESによる操舵介入があるとの予測結果を得、TTCが閾値TH2を下回っていない場合はAESによる操舵介入がないとの予測結果を得る。操舵介入があるとの予測結果が得られた場合には、操舵の制御信号に対するディザ信号の重畳を行い、操舵介入がないとの予測結果が得られた場合は該ディザ信号の重畳を行わない。
【0050】
ここで、上述のようにTTCは、回避対象物体に対する車間距離xrと相対速度vrとに基づき計算されるものであり、これら車間距離xr、相対速度vrは画像処理部12による画像認識結果、つまりは自車両5の車外環境についての認識結果に基づき算出されるものである。従って、上記のようにTTCに基づき操舵介入の有無を予測することは、自車両5の車外環境の認識結果に基づいて操舵介入の有無を予測することと換言できる。
【0051】
本実施形態では、閾値TH2は、AEBの作動に係る閾値TH3との関係において、以下のような大小関係が成り立つように設定される。すなわち、閾値TH3が閾値TH2以上に安全側の値となるようにするものである。これは、TTCに係る閾値としては、少なくとも「TH1<TH2≦TH3」を満たすように閾値TH2を定めることを意味する。
具体的に、本例においては、閾値TH2は「TH1<TH2<TH3」を満たす値として設定する。
上記のような「TH1<TH2≦TH3」や「TH1<TH2<TH3」の条件により、ディザ信号の重畳は、図中の時点t1から時点t2の間の何れかのタイミングで開始され、時点t2、すなわちAESによる操舵介入が行われる時点において、既にディザ信号が重畳されている状態が得られるようにすることができる。
なおかつ、上記条件によれば、ディザ信号の重畳は、AEBの作動前(時点t1より前)、すなわちTTCの値が十分に大きい(十分に安全側にある)状態では行われないものとなり、これにより消費電力の削減や操舵機構における各種ギヤの摩耗抑制が図られる。
【0052】
ここで、確認のためディザ信号について述べておく。
ディザ信号は、操舵トルクに微小な振動成分を付与するための振動信号を意味するものである。本例において、ディザ信号としては、例えばsin波による振動信号を用い、その振幅や周波数については、操舵機構におけるバックラッシは乗り越えるが、実舵角は変化しない程度に設定する。ディザ信号に起因した振動成分は、自車両5におけるトーションバー(不図示)等の振動吸収要素によって少なくとも一部が吸収される。ディザ信号の振幅や周波数は、このような自車両5における振動吸収要素を考慮して、実舵角に変化を与えないような数値に設定する。
また、本例において、ディザ信号の振幅や周波数は、運転者にステアリングホイール34を介した振動が知覚されない程度の数値に定める。
【0053】
本例において、ディザ信号の重畳は、衝突回避制御ユニット14が、EPS制御ユニット22に出力するステアリング指示電流値の信号に対して行う。
【0054】
ここで、本例における衝突回避制御ユニット14は、実操舵速度に基づいてディザ信号の重畳を停止する。ここで、実操舵速度は、実舵角の変化速度を意味し、実舵角センサ18により検出される実舵角の微分値として求めることができる。
衝突回避制御ユニット14は、ディザ信号の重畳中において、実操舵速度が所定の閾値THv(0以上の値)を超えたことに応じてディザ信号の重畳を停止する。
これにより、ディザ信号の重畳開始後において、実際に操舵輪40が切れ角方向に動き始めたことに応じて、ディザ信号の重畳を停止することが可能となる。換言すれば、操舵輪40が切れ角方向に実際に動き始めたにも拘わらず、ディザ信号の重畳が無闇に継続されてしまうことの防止を図ることが可能とされる。
【0055】
さらに、衝突回避制御ユニット14は、前述したAES不可フラグFaがONである場合、すなわち操舵回避可能なスペースが存在しないためにAESの実行が不可と判定されている場合には、TTCの値が閾値TH2を下回っているか否かに拘わらず、ディザ信号の重畳処理を実行しない。
これにより、ディザ信号の重畳が不必要に行われてしまうことの防止が図られる。
【0056】
<3.処理手順>
図3のフローチャートを参照し、上記により説明した実施形態としてのディザ信号重畳手法を実現するための具体的な処理手順の例を説明する。
図3に示す処理は、衝突回避制御ユニット14のCPUが例えばROM等に格納されたプログラムに従って実行する。
【0057】
先ず、衝突回避制御ユニット14はステップS101で、TTCが閾値TH3を下回るまで待機し、TTCが閾値TH3を下回った場合はステップS102でAEB作動処理を実行する。すなわち、AEBとしての制動制御を開始する。
【0058】
ステップS102に続くステップS103で衝突回避制御ユニット14は、TTCが閾値TH2を下回ったか否かを判定し、TTCが閾値TH2を下回っていないと判定した場合は、ステップS104でTTCが閾値TH4以上であるか否かを判定する。TTCが閾値TH4以上でなければ、衝突回避制御ユニット14はステップS103に戻り、再びTTCが閾値TH2を下回ったか否かを判定する。つまり、これらステップS103及びS104の処理によっては、TTCが閾値TH2を下回るとの条件(つまりディザ信号の重畳開始条件)、TTCが閾値TH4以上になるとの条件(つまりAEB解除条件)の何れかの成立を待機するループ処理が形成されている。
【0059】
ステップS103において、TTCが閾値TH2を下回ったと判定した場合、衝突回避制御ユニット14はステップS105に進み、AES不可フラグFaがONであるか否かを判定する。
AES不可フラグFaがONでなければ、衝突回避制御ユニット14はステップS106に進んでディザ信号重畳中であるか否かを判定し、ディザ信号重畳中でなければステップS107に進んでディザ信号の重畳開始処理、すなわちEPS制御ユニット22に出力するステアリング指示電流値の信号に対するディザ信号の重畳を開始する処理を行い、ステップS108に進む。
一方、ステップS106でディザ信号重畳中であると判定した場合、衝突回避制御ユニット14はステップS107の開始処理をパスしてステップS108に進む。
【0060】
ステップS108で衝突回避制御ユニット14は、TTCが閾値TH1を下回ったか否か(つまりAESの作動開始条件を満たすか否か)を判定する。
TTCが閾値TH1を下回っていないと判定した場合、衝突回避制御ユニット14はステップS103に戻る。
ここで、TTCが一旦閾値TH2を下回ってステップS107の重畳開始処理が実行された以降、TTCが「TH1≦TTC<TH4」の範囲内にある状態では、処理がステップS108→S103→S105→S106→S108→S103の順で繰り返される(ただし、AES不可フラグFa=ONでないことが前提)。
【0061】
一方、ステップS108でTTCが閾値TH1を下回ったと判定した場合、衝突回避制御ユニット14はステップS109に進んでAES作動処理を実行する。つまり、AESとしての操舵制御を開始する。
【0062】
ステップS109に続くステップS110で衝突回避制御ユニット14は、実操舵速度が閾値THvを超えるまで待機する。前述のように実操舵速度は、実舵角センサ18により検出される実舵角の微分値として求めることができる。
実操舵速度が閾値THvを超えた場合、衝突回避制御ユニット14はステップS111に進んでディザ信号重畳停止処理を実行する。すなわち、ステアリング指示電流値の信号に対するディザ信号の重畳を停止する処理を実行する。
ステップS111の停止処理を実行したことに応じ、衝突回避制御ユニット14は図3に示す一連の処理を終える。
【0063】
また、ステップS105において、AES不可フラグFaがONであると判定した場合、衝突回避制御ユニット14はステップS112に進んでディザ信号重畳中であるか否かを判定し、ディザ信号重畳中であればステップS113に進んでディザ信号重畳停止処理を実行して、ステップS103に戻り、ディザ信号重畳中でなければステップS113の重畳停止処理をパスしてステップS103に戻る。
これにより、TTCが閾値TH2を下回ったとしても、AES不可フラグFa=ONである場合(つまり操舵回避可能なスペースが存在せずAESの実行が不可と判定されている場合)には、ディザ信号の重畳処理が行われないものとなる。
また、TTCが閾値TH2を下回った時点ではAES不可フラグFa=OFFであったことに応じて、ステップS107でディザ信号の重畳が開始された場合であっても、その後にAES不可フラグFaがONとなった場合(ただし、TTCが「TH1≦TTC<TH4」の範囲内にある場合)には、ディザ信号の重畳が停止されることになる(S112及びS113)。
【0064】
また、ステップS104において、TTCが閾値TH4以上であると判定した場合、衝突回避制御ユニット14は先ずステップS114に進んでディザ信号重畳中であるか否かを判定し、ディザ信号重畳中であればステップS115でディザ信号重畳停止処理を実行した上でステップS116のAEB停止処理を実行し、ディザ信号重畳中でなければステップS115の重畳停止処理をパスしてステップS116のAEB停止処理を実行する。
ステップS116のAEB停止処理としては、ステップS102で開始したAEBとしての制動制御を停止する処理を行う。このAEB停止処理を実行したことに応じ、衝突回避制御ユニット14は図3に示す一連の処理を終える。
【0065】
<4.変形例>
なお、実施形態としては上記した具体例に限定されるものではなく、多様な変形例を採り得る。
例えば、上記では、ディザ信号の重畳に係る閾値TH2は「TH1<TH2<TH3」を満たす値とする例を挙げたが、「閾値TH2=閾値TH3」とすることもできる。すなわち、ディザ信号の重畳開始タイミングを、AEBによる制動介入の開始タイミングと同タイミングとすることができる。
【0066】
図4は、「閾値TH2=閾値TH3」とした変形例において実行されるべき具体的な処理手順の例を示したフローチャートである。
なお図4において、既に図3で説明した処理と同様となる処理については同一ステップ番号を付して説明を省略する。
図示のようにこの場合の衝突回避制御ユニット14は、先ずステップS201でTTCが閾値TH3(=閾値TH2)を下回るまで待機し、TTCが閾値TH3を下回った場合はステップS102でAEB作動処理を実行する。
【0067】
この場合の衝突回避制御ユニット14は、ステップS102のAEB作動処理を実行したことに応じ、ステップS104でTTCが閾値TH4以上か否かを判定する。ステップS104でTTCが閾値TH4以上となった場合に実行する処理については既に説明済みであるため重複説明は避ける。
【0068】
ステップS104でTTCが閾値TH4以上でないと判定した場合、衝突回避制御ユニット14はステップS105でAES不可フラグFaがONであるか否かを判定する。
ステップS105でAES不可フラグFaがONでないと判定した場合には、図3の場合と同様にステップS106からS111の処理が実行される。このため、ステップS201でTTCが閾値TH3(=閾値TH2)を下回ったことを条件として、ディザ信号の重畳が開始される(S107)。
ここで、この場合の衝突回避制御ユニット14は、ステップS108でTTCが閾値TH1を下回っていないと判定した場合には、ステップS104に戻る。これにより、TTCが閾値TH3(=閾値TH2)を下回ってディザ信号の重畳が開始された以降は、ステップS105でAES不可フラグ=ONと判定されない限り、TTCが閾値TH4以上に上昇するか(S104)、或いはTTCが閾値TH1を下回るか(S108)かの何れかの条件成立が待機されることになる。
【0069】
この場合も、ステップS107のディザ信号重畳開始処理はステップS105でAES不可フラグ=ONでないと判定されることを条件に実行されるので、TTCが閾値TH3(=閾値TH2)を下回ったとしても、AES不可フラグFa=ONである場合にはディザ信号の重畳処理が行われない。
【0070】
上記のように「閾値TH2=閾値TH3」とした場合には、ディザ信号の重畳とAEBの制動介入とについて、開始タイミングの判定処理を共通化(S201)することができ、処理の効率化を図ることができる。
【0071】
ここで、これまでの説明では、ディザ信号をステアリング指示電流値の信号に重畳する例を挙げたが、例えば、EPSモータ42に供給されるモータ駆動信号に対しディザ信号を重畳することもできる。ディザ信号は、操舵の制御信号に対して重畳さればよく、具体的にどの信号に対して重畳するかについては適宜選択可能なものである。
【0072】
また、これまでの説明では、衝突リスクの大きさを表すリスク評価値の例としてTTCを挙げたが、該リスク評価値はTTCに限るものではない。
例えば、リスク評価値としては、回避対象物体を基準とした車間距離xr及び相対速度vrのみに基づく値とするのではなく、さらに回避対象物体と自車両5とのラップ率に基づいた値とすることもできる。ここで言うラップ率とは、横方向(自車両5の横方向)における自車両5の範囲と回避対象物体の範囲との重複率を意味する。
【0073】
<5.実施形態のまとめ>
以上で説明してきたように、実施形態としての操舵制御装置(衝突回避制御ユニット14)は、自車両の外部に存在する物体との衝突を回避する操舵制御である自動操舵回避制御を行う車両における操舵制御装置であって、自車両に設けられたセンサの検出信号に基づいて自車両の車外環境を認識する車外環境認識部(画像処理部12)と、車外環境の認識結果に基づき、自動操舵回避制御による操舵介入の有無を予測する予測部(衝突回避制御ユニット14:S103、S201を参照)と、予測部が操舵介入があるとの予測をしたことに応じ、操舵の制御信号に対しディザ信号を重畳する処理を行う重畳処理部(衝突回避制御ユニット14:S107参照)とを備えている。
【0074】
ディザ信号は、操舵トルクに微小な振動成分を付与するための振動信号を意味する。ディザ信号の重畳により、静止摩擦やバックラッシに起因した操舵機構の応答遅れの抑制が図られる。そして、上記構成によれば、ディザ信号の重畳は、自動操舵回避制御による操舵介入が予測されたことを条件として行われるため、ディザ信号が重畳される頻度の低減が図られる。
従って、自動操舵回避制御による衝突回避性能の向上を消費電力の削減、及びギヤの摩耗抑制による操舵機構の長寿命化を図りつつ実現することができる。
【0075】
また、実施形態としての操舵制御装置においては、自動操舵回避制御においては、車外環境の認識結果に基づき物体との衝突リスクの大きさを表すリスク評価値(TTC)を計算し、該リスク評価値が第一リスク閾値(閾値TH1)を超えたことに応じて操舵介入を開始し、予測部は、リスク評価値が第一リスク閾値よりも安全側に設定された第二リスク閾値(閾値TH2)を超えた場合に操舵介入があるとの予測結果を得ている(S103参照)。
【0076】
ここで、リスク評価値がリスク閾値を超えるとは、リスク評価値が表すリスクの大きさが、リスク閾値の表すリスクの大きさを超えることを意味する。
上記構成によれば、物体との衝突リスクを定量的に表す評価指標に基づいて衝突回避のための操舵介入が行われる。そして、上記予測部によれば、このような定量的な評価指標に基づき、自動操舵回避制御による操舵介入の有無を適切に予測することが可能とされる。
従って、ディザ信号の重畳開始タイミングが操舵介入の開始タイミングに対し過剰に早まったり遅まったりすることの防止が図られ、無闇な電力消費やギヤ摩耗の抑制を図りながら、ディザ信号の重畳による衝突回避性能向上を図ることができる。
【0077】
さらに、実施形態としての操舵制御装置においては、リスク評価値が第一リスク閾値よりも安全側に設定された第三リスク閾値(閾値TH3)を超えたことに応じて自車両を制動させる制御を行う制動制御部(衝突回避制御ユニット14:S101若しくはS201、及びS102参照)を備え、第三リスク閾値が第二リスク閾値以上に安全側の値として設定されている。
【0078】
これにより、衝突リスクが増大していく状況下で制動制御部による制動介入、次いで動操舵回避制御による操舵介入という順序で衝突回避制御が行われる場合において、ディザ信号の重畳は、制動介入の開始タイミング以降、操舵介入の開始前までの間のタイミングで実行される。
従って、操舵介入の開始タイミングに対するディザ信号の重畳開始タイミングの適正化が図られ、無闇な電力消費やギヤ摩耗の抑制を図りながら、ディザ信号の重畳による衝突回避性能向上を図ることができる。
【0079】
さらにまた、実施形態としての操舵制御装置においては、第二リスク閾値と第三リスク閾値とが同値とされている。
【0080】
これにより、ディザ信号の重畳と制動介入とについて、それぞれの開始条件が同じとなる。
従って、ディザ信号の重畳と制動介入とについて、開始タイミングの判定処理を共通化することができ、処理の効率化を図ることができる。
【0081】
また、実施形態としての操舵制御装置においては、重畳処理部は、ディザ信号の重畳開始後、自車両の実操舵速度が所定速度を超えたことに応じてディザ信号の重畳を停止する処理を行っている(S110及びS111参照)。
【0082】
これにより、ディザ信号の重畳が無闇に継続されてしまうことの防止が図られる。
従って、消費電力の削減効果やギヤの摩耗抑制効果を高めることができる。
【0083】
さらに、実施形態としての操舵制御装置においては、重畳処理部は、車外環境の認識結果から自動操舵回避制御の実行が不可と判定された場合は、リスク評価値が第二リスク閾値を超えるか否かに拘わらず、ディザ信号を重畳する処理を実行しない。
【0084】
これにより、ディザ信号の重畳が不必要に行われてしまうことの防止が図られる。
従って、消費電力の削減効果やギヤの摩耗抑制効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0085】
1 車載システム、5 自車両、10 撮像ユニット、11L、11R 撮像部、12 画像処理部、13 運転支援制御部、14 衝突回避制御ユニット、15 車速センサ、16 ヨーレートセンサ、17 後側方センサ、18 実舵角センサ、19 操舵トルクセンサ、20 ブレーキ制御ユニット、21 ブレーキ関連アクチュエータ、22 EPS制御ユニット、23 表示部、24 発音部、SD 操作情報、30 ステアリング機構、32 ステアリング軸、33 ステアリングコラム、34 ステアリングホイール、35 ピニオン軸、36 ステアリングギヤボックス、37 ラック軸、38 タイロッド、39 フロントナックル、40L、40R 操舵輪、41 アシスト伝達機構、42 EPSモータ
図1
図2
図3
図4