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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】車両用ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/96 20060101AFI20230627BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20230627BHJP
   B60T 17/22 20060101ALI20230627BHJP
【FI】
B60T8/96
B60T8/17 C
B60T17/22 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020214061
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099964
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡野 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】神谷 雄介
(72)【発明者】
【氏名】小林 達史
(72)【発明者】
【氏名】古谷 慎平
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-131247(JP,A)
【文献】特開2017-43300(JP,A)
【文献】特開2011-156998(JP,A)
【文献】特開2019-151158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 - 8/1769
8/32 - 8/96
B60T 15/00 - 17/22
B60T 13/00 - 13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に加えられるブレーキ力を制御可能な第1ブレーキ力制御機構と、
前記第1ブレーキ力制御機構とは別の前記ブレーキ力を制御可能な第2ブレーキ力制御機構と、
前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であるか否かを検出する異常状態検出装置と、
前記異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出されない場合に、前記第1ブレーキ力制御機構を制御することにより、前記第1ブレーキ力制御機構により前記車両に加えられるブレーキ力である第1ブレーキ力を制御し、前記異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態にあると検出された場合には、前記第1ブレーキ力制御機構の停止状態において、前記第2ブレーキ力制御機構を制御することにより、前記第2ブレーキ力制御機構により前記車両に加えられるブレーキ力である第2ブレーキ力を制御する制御装置を含む車両用ブレーキシステムであって、
当該車両用ブレーキシステムが、前記第1ブレーキ力制御機構が前記異常状態であると疑いがある疑似異常状態にあるか否かを検出する疑似異常状態検出装置を含み、
前記制御装置が、前記疑似異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が前記疑似異常状態であると検出された場合に、前記第1ブレーキ力制御機構の作動状態において、前記第2ブレーキ力制御機構の制御により前記第2ブレーキ力を制御する疑似異常状態制御部を含む車両用ブレーキシステム。
【請求項2】
前記異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力が異常判定しきい値より小さい場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出するものであり、
前記疑似異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力が、前記異常判定しきい値以上であるが、前記異常判定しきい値より大きい疑似異常判定しきい値より小さい場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が疑似異常状態であると検出するものである請求項1に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項3】
前記異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力制御機構の駆動源への供給電圧が異常判定電圧より低い場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出するものであり、
前記疑似異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力制御機構の駆動源への供給電圧が、前記異常判定電圧以上であるが、前記異常判定電圧より高い疑似異常判定電圧より低い場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が疑似異常状態であると検出するものである請求項1または2に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項4】
当該車両用ブレーキシステムが、前記第1ブレーキ力制御機構の状態を表す物理量である第1物理量を予め定められた設定時間毎に取得する第1物理量取得部を含み、
前記異常状態検出装置が、前記第1物理量取得部によって設定個数以上の前記第1物理量が取得された後に、前記設定個数以上の前記第1物理量に基づいて、前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態にあるか否かを検出するものである請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項5】
当該車両用ブレーキシステムが、前記第1ブレーキ力制御機構および前記第2ブレーキ力制御機構とは別の第3ブレーキ力制御機構を含み、
前記制御装置が、前記異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出されない場合には、前記第3ブレーキ力制御機構の作動により前記車両に加えられるブレーキ力である第3ブレーキ力と、前記第1ブレーキ力とで協調制御を行い、前記異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出された場合には、前記第1ブレーキ力制御機構と前記第3ブレーキ力制御機構との停止状態において、前記第2ブレーキ力制御機構の制御により前記第2ブレーキ力を制御するものであり、
前記疑似異常状態制御部が、前記疑似異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が前記疑似異常状態であると検出された場合には、前記第1ブレーキ力、前記第3ブレーキ力および前記第2ブレーキ力により協調制御を行うものである請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項6】
当該車両用ブレーキシステムが、前記車両の車輪に設けられ、液圧により作動させられる液圧ブレーキを含み、
前記第1ブレーキ力制御機構および前記第2ブレーキ力制御機構が、それぞれ、前記液圧ブレーキに供給する液圧を制御する第1液圧制御機構および第2液圧制御機構であり、
前記第1液圧制御機構が、前記第2液圧制御機構より下流側に設けられた請求項1ないし5のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両にブレーキ力を付与する車両用ブレーキシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液圧ブレーキシステムにおいて、実際の油圧の目標油圧に対する乖離量が設定量以上である場合に異常であると検出することが記載されている。本液圧ブレーキシステムにおいて、目標油圧が変化状態にある場合には設定量が大きくされ、保持状態にある場合には設定量が漸減させられる。それにより、作動液の温度が低い場合であっても、適切に異常であるか否かを検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-043283号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、車両用ブレーキシステムにおいて、異常検出までのブレーキ力不足を抑制することである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本発明に係る車両用ブレーキシステムにおいては、第1ブレーキ力制御機構が異常の疑いがある異常疑似状態にあると検出された場合に、第2ブレーキ力制御機構によりブレーキ力が加えられる。その結果、第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出された場合に、第2ブレーキ力制御機構によりブレーキ力が加えられる場合に比較して、ブレーキ力不足を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキシステムを概念的に示す図である。
図2】上記車両用ブレーキシステムの液圧ブレーキ機構の回路図である。
図3】上記車両用ブレーキシステムのブレーキECUの記憶部に記憶されたブレーキ力制御プログラムを表すフローチャートである。
図4】上記ブレーキ力制御プログラムの一部を表すフローチャートである。
図5】上記車両用ブレーキシステムが正常である場合に行われる回生協調制御の状態を概念的に示す図である。
図6】上記車両用ブレーキシステムにおいて、下流側液圧制御ユニットが疑似異常状態から異常状態に移行した場合の回生協調制御の状態を概念的に示す図である。
図7】上記車両用ブレーキシステムにおいて、下流側液圧制御ユニットが疑似異常状態から正常状態に移行した場合の回生協調制御の状態を概念的に示す図である。
図8】上記車両用ブレーキシステムにおいて、異常判定しきい値、疑似異常判定しきい値を概念的に示す図である。
図9】上記ブレーキ力制御プログラムの一部を表す別のフローチャートである。
図10】上記ブレーキ力制御プログラムの一部を表すさらに別のフローチャートである。
図11】従来の車両用ブレーキシステムにおいて、下流側液圧制御ユニットが異常状態であると判定された場合の回生協調制御の状態を概念的に示す図である。
【発明の実施形態】
【0007】
以下、本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキシステムについて図面に基づいて詳細に説明する。本車両用ブレーキシステムは、駆動源が電動モータを含み、かつ、マニュアル運転状態と自動運転状態とに切換可能な車両に搭載されるが、それに限らない。
【0008】
本実施例に係る車両用ブレーキシステムが搭載された車両の一例を図1に模式的に示す。本車両は、左右前輪8FL,8FR,左右後輪10RL,10RRを含むハイブリッド車両であり、左右前輪8FL,8FRが駆動輪である。本車両の駆動システムは、駆動源としてのエンジン12および電動モータ13、主に発電機として機能するジェネレータ14、動力分割機構16等を含む。
【0009】
動力分割機構16は、エンジン12の回転を、ジェネレータ14の回転と、動力分割機構16の出力軸の回転とに分割するものであり、動力分割機構16の出力軸には減速機として機能するリダクション機構20が設けられる。リダクション機構20には電動モータ13が接続され、リダクション機構20の出力軸は、差動装置22,ドライブシャフト24L,24Rを介して左右前輪8FL,8FRに接続される。左右前輪8FL,8FRは、エンジン12と電動モータ13との少なくとも一方により回転駆動される。ジェネレータ14、電動モータ13は、それぞれ、インバータ26G、26Mを介してメインバッテリ28に接続される。メインバッテリ28は、電動モータ13等に電気エネルギを供給する一方、メインバッテリ28には、電動モータ13、ジェネレータ14において得られた電気エネルギが蓄えられる。ジェネレータ14、電動モータ13の作動は、それぞれ、インバータ26M、26Gの制御により制御される。
【0010】
本実施例に係るブレーキシステムは、(i)駆動輪である左右前輪8FL,8FRの各々に回生ブレーキ力を付与する回生ブレーキ機構30と、(ii)前後左右の4輪8FL,8FR,10RL,10RRにそれぞれ摩擦ブレーキ力としての液圧ブレーキ力を付与する液圧ブレーキ機構32とを含み、液圧ブレーキ機構32は、(a)第1ブレーキ力制御機構、第1液圧制御機構としての下流側液圧制御機構33、(b)第2ブレーキ力制御機構、第2液圧制御機構としての上流側液圧制御機構34、(c)左右前輪8FL,8FRにそれぞれ設けられたホイールシリンダ36FL,36FRを備えた摩擦ブレーキとしての液圧ブレーキ、(d) 左右後輪10RL,10RRにそれぞれ設けられたホイールシリンダ38RL,38RRを備えた摩擦ブレーキとしての液圧ブレーキ等を含む。
【0011】
回生ブレーキ機構30は、上述の電動モータ13、インバータ26M、バッテリ28等を含む。回生ブレーキ機構30は、電動モータ13の回生ブレーキにより、左右前輪8FL,8FRに回生ブレーキ力を付与するとともに、回生ブレーキ力を制御可能なものである。電動モータ13の回生ブレーキにより発生させられた電気エネルギはインバータ26Mを介してメインバッテリ28に供給されて、蓄えられる。インバータ26Mの制御により電動モータ13が制御され、左右前輪8FL,8FRに付与される回生ブレーキ力が制御される。
以下、本明細書において、ホイールシリンダ等につき、車輪位置を区別する必要がない場合等には、車輪位置を表すFL,FR,RL,RR、F,Rを省略する場合がある。
【0012】
また、メインバッテリ28に蓄えられた電力は電圧が降下されてサブバッテリ35に供給されて蓄えられるとともに、降下された電圧の電力は電力供給線28Lを介して下流側液圧制御機構33に供給される。また、サブバッテリ35の電力は電力供給線35Lを介して上流側液圧制御機構34に供給される。このように、本実施例においては、上流側液圧制御機構34と下流側液圧制御機構33とには、互いに異なる電源28,35から電力が供給されるのである。
【0013】
図2に示すように、上流側液圧制御機構34は、(a)運転者によって操作されるブレーキ操作部材であるブレーキペダル39に連携させられた入力ピストン40および2つの加圧ピストン41,42を備えたマスタシリンダ43と、(b)マスタシリンダ43の加圧ピストン41の後方に設けられた背面室44に接続されたレギュレータ45等を備えた背面液圧制御装置48とを含み、背面液圧制御装置48により背面室44の液圧を制御して、加圧ピストン41,42の前方の加圧室46,47の液圧を制御する。
【0014】
マスタシリンダ43において、ハウジング50に、加圧ピストン41,42、入力ピストン40が互いに直列に、液密かつ摺動可能に嵌合され、加圧室46,47には、それぞれ、液通路54,56を介して左右前輪8の液圧ブレーキのホイールシリンダ36、左右後輪10の液圧ブレーキのホイールシリンダ38等が接続される。また、加圧ピストン41,42はリターンスプリングにより後退方向に付勢されるが、加圧ピストン41,42の後退端位置において、加圧室46,47はマスタリザーバ60に連通させられる。
【0015】
マスタシリンダ43において、加圧ピストン41は、概して段付き形状を成し、(a)前部の前ピストン部62と、(b)中間部の、半径方向に突出した中間ピストン部64と、(c)後部の、中間ピストン部64より小径の後小径部66とを含む。前ピストン部62、中間ピストン部64および後小径部66は、ハウジング50にそれぞれ液密かつ摺動可能に嵌合され、前ピストン部62の前方が加圧室46とされ、中間ピストン部64の前方が環状室70とされる。また、ハウジング50,後小径部66および中間ピストン部64によって形成された中間ピストン部64の後方の室が背面室44とされる。
【0016】
また、加圧ピストン41の後方に入力ピストン40が位置し、後小径部66と入力ピストン40との間が離間室72とされる。入力ピストン40の後部にはブレーキペダル39がオペレイティングロッド(以下、単にロッドと称する場合がある)等を介して連携させられる。
【0017】
環状室70と離間室72とは連結通路74によって接続され、連結通路74に連通制御弁76が設けられる。連通制御弁76は常閉の電磁開閉弁である。連結通路74の連通制御弁76より環状室70側の部分はストロークシミュレータ78に接続されるとともに、リザーバ通路80を介してマスタリザーバ60に接続される。リザーバ通路80には常開の電磁開閉弁であるリザーバ遮断弁82が設けられる。
【0018】
また、連結通路74の連通制御弁76より環状室側の部分に液圧センサ84が設けられる。液圧センサ84は、環状室70,離間室72が互いに連通させられ、かつ、マスタリザーバ60から遮断された状態において、環状室70,離間室72の液圧を検出する。環状室70、離間室72の液圧は、ブレーキペダル39の操作力に応じた高さとなるため、液圧センサ84を操作液圧センサと称することができる。
【0019】
背面液圧制御装置48は、レギュレータ45に加えて、高圧源93、液圧制御弁装置等を含む。高圧源93は、ポンプ86及びポンプモータ88を備えたポンプ装置90、アキュムレータ92等を含み、液圧制御弁装置は、後述する制御室の液圧を制御するものであり、増圧制御弁94および減圧制御弁96等を含む。
アキュムレータ92には、ポンプ装置90から吐出された作動液が加圧された状態で蓄えられる。アキュムレータ92に収容された作動液の液圧であるアキュムレータ圧はアキュムレータ圧センサ98によって検出され、アキュムレータ圧センサ98によって検出されるアキュムレータ圧が、設定範囲内に保たれるようにポンプモータ88が制御される。
【0020】
レギュレータ45は、(d)ハウジング110と、(e)ハウジング110に、軸線hと平行な方向に、互いに直列に並んで設けられたパイロットピストン112および制御ピストン114とを含む。ハウジング110の制御ピストン114の前方には高圧室116が形成され、高圧源93に接続される。パイロットピストン112とハウジング110との間がパイロット圧室120とされ、制御ピストン114の後方が制御室122とされ、制御ピストン114の前方が出力室としてのサーボ室124とされる。また、サーボ室124と高圧室116との間に高圧供給弁126が設けられる。高圧供給弁126は常閉弁であり、レギュレータ45の非作動状態において、サーボ室124と高圧室116とを遮断する。なお、制御ピストン114はリターンスプリング130により後退方向に付勢される。
【0021】
制御ピストン114の内部には、低圧通路128が通り、常時、マスタリザーバ60に連通させられる。また、低圧通路128は、制御ピストン114の前端部に開口し、その開口が高圧供給弁126に対向する。そのため、制御ピストン114が後退端にある場合には、サーボ室124は高圧室116から遮断され、低圧通路128を介してマスタリザーバ60に連通させられる。制御ピストン114が前進させられ、開口が塞がると、サーボ室124がマスタリザーバ60から遮断され、高圧供給弁126が開かれて高圧室116に連通させられる。
【0022】
なお、パイロット圧室120には加圧室46が接続され、これらパイロット圧室120と加圧室46とは、常時、連通状態にある。そのため、パイロットピストン112には、常時、加圧室46の液圧が作用する。
また、サーボ室124には背面室44が接続され、これらサーボ室124と背面室44とは常時連通状態にある。そのため、サーボ室124の液圧であるサーボ圧Psと背面室66の液圧とは原則として同じ高さになる。サーボ室124の液圧であるサーボ圧Psはサーボ圧センサ132によって検出される。
【0023】
増圧制御弁(SLA)94と減圧制御弁(SLR)96とは、制御室112に接続される。増圧制御弁94は、制御室122と高圧源93との間に設けられ、減圧制御弁96は、制御室122とマスタリザーバ60との間に設けられる。これら増圧制御弁94のコイル,減圧制御弁96のコイルへの供給電流(以下、コイルへの供給電流を単に供給電流と称する場合がある。他の電磁弁についても同様とする)の制御により、制御室122の液圧が制御される。また、制御室122にはダンパ134が接続され、制御室122とダンパ134との間で作動液の授受が行われる。
【0024】
本実施例においては、レギュレータ45における制御室122の液圧とサーボ室124のサーボ圧Psとの関係、マスタシリンダ43における背面室44の液圧と加圧室46,47の液圧との関係は、レギュレータ45、マスタシリンダ43の構造で決まる。そのため、加圧室46,47の液圧が目標液圧に近づくように、制御室122の液圧が制御される。
【0025】
下流側液圧制御機構33は、(a)スリップ制御弁装置150、(b)減圧用リザーバ152F,152Rの作動液を汲み上げて、スリップ制御弁装置150の上流側に吐出するポンプ154F,154Rおよびポンプモータ156を備えたポンプ装置158、(c)ポンプ154F,154Rとマスタシリンダ43の加圧室46,47との間に設けられた常開の液圧制御弁160F,160R等を含む。液圧制御弁160F,160Rは、マスタシリンダ43の加圧室46,47の液圧に対して液圧ブレーキのホイールシリンダ36FR,36FL,38RR,38RLの液圧を制御するものである。
【0026】
下流側液圧制御機構33は前後2系統式とされている。前輪側の系統において、液通路54に、左右前輪8FL,8FRのホイールシリンダ36FL,36FRの各々に接続された個別通路146FL,146FRが接続される。個別通路146FR,146FLの各々には保持弁170FL,170FRが設けられる。また、ホイールシリンダ36FL,36FRの各々と減圧用リザーバ152Fの液室178Fとが減圧通路によって接続され、減圧通路の各々には減圧弁172FL,172FRが設けられる。
【0027】
後輪側の系統において、液通路56に、ホイールシリンダ38RL,38RRの各々に接続された個別通路148RL,148RRが接続され、個別通路148RL,148RRの各々には保持弁170RL,170RRが設けられる。また、ホイールシリンダ38RL,38RRの各々と減圧用リザーバ152Rの液室178Rとの間には、それぞれ、減圧弁172RL,172RRが設けられる。これら保持弁170、減圧弁172、減圧用リザーバ152等により、スリップ制御弁装置150が構成される。
【0028】
以下、前輪側の系統について説明し、後輪側の系統についての説明を省略する。
減圧用リザーバ152Fは、ハウジングと、ハウジングに摺動可能に嵌合された仕切り部材174Fと、ハウジングの仕切り部材174Fの一方に設けられた弾性部材176Fとを含む。ハウジングの仕切り部材174の弾性部材176が設けられた側との反対側が液室178Fとされ、作動液が収容される。
【0029】
液室178Fには、それぞれ、補給弁179Fが設けられる。補給弁179Fは、弁座および弁子と、弁子を弁座に押し付ける向きに弾性力を加えるスプリングと、仕切り部材174Fに設けられた開弁部材175Fとを含む。減圧用リザーバ152Fにおいて、液室178Fに収容された作動液の液量が設定量以上である場合には、弁子が弁座に着座させられ、補給弁179Fは閉状態にある。液室178Fに収容された作動液の液量が設定量より少なくなると、仕切り部材174Fがスプリング176Fの弾性力により移動させられ、開弁部材175Fにより弁子が弁座から離間させられ、補給弁179Fが開状態に切り換えられる。
【0030】
減圧用リザーバ152Fの液室178Fと、液通路54の個別通路146FL,146FRの接続部より上流側の部分(保持弁170FL,170FRより上流側の部分)とは、ポンプ通路180Fによって接続される。ポンプ通路180Fには、ポンプ154Fが設けられる。また、ポンプ通路180Fの、ポンプ154Fの吐出側の部分には、それぞれ、ダンパ、絞り等が設けられ、ポンプ154Fから吐出された作動液の脈動が抑制される。また、ポンプ154Fの吸引側は、吸入弁を介して減圧用リザーバ152Fの液室178Fに接続される。
【0031】
また、液通路54のポンプ通路180Fの接続部より上流側の部分には液圧制御弁160Fが設けられ、液通路54の液圧制御弁160Fより上流側の部分と減圧用リザーバ152Fとは、それぞれ、補給弁179Fを介して補給通路182Fによって接続される。
【0032】
液圧制御弁160Fは、液圧制御弁160Fの上流側の部分の液圧と下流側の部分の液圧との差圧dPを、液圧制御弁160Fへの供給電流に応じた大きさに制御するものである。液圧制御弁160Fへの供給電流が大きくなると差圧dPが大きくなり、マスタシリンダ43の加圧室46の液圧に対するホイールシリンダ36の液圧が高くなる。
【0033】
図1に示すように、本車両用ブレーキシステムには、コンピュータを主体とする制御装置であるブレーキECU200が設けられる。ブレーキECU200は図示しない実行部、記憶部、入出力部等を含み、入出力部には、ストロークセンサ202、操作液圧センサ84、アキュムレータ圧(Acc圧)センサ98、サーボ圧センサ132、マスタシリンダ圧センサ210、ホイールシリンダ圧センサ212F,212R、車輪速度センサ216、周辺情報取得装置218、電圧センサ220,222、電流センサ224等が接続されるとともに、増圧制御弁94、減圧制御弁96、連通制御弁76、リザーバ遮断弁82、スリップ制御弁装置150、ポンプモータ156、液圧制御弁160等が図示を省略する駆動回路を介して接続される。
【0034】
ストロークセンサ202は、ブレーキペダル39のストローク(移動量と同じ)を検出するものである。車輪速度センサ216は、車輪8,10の各々に対応して設けられ、車輪8,10の回転速度をそれぞれ検出するものである。車輪速度センサ216の検出値に基づいて車両の走行速度が取得される。周辺情報取得装置218は、カメラ、レーダ等を備え、これらによって取得された情報に基づいて、車両の周辺に存在する物体、区画線等が取得される。電圧センサ220,222は、それぞれ、メインバッテリ28、サブバッテリ35の電圧またはポンプモータ156、88に供給される電圧を検出するものである。マスタシリンダ圧センサ210は、液通路54に設けられ、加圧室46の液圧を検出するものである。加圧室46,47の液圧はほぼ同じであると推測されるため、マスタシリンダ圧センサ210の検出値に基づけば、加圧室47の液圧を推定することができる。ホイールシリンダ圧センサ212F,212Rは、ホイールシリンダ36FL,38RRの液圧を検出するものである。前輪側、後輪側の各々において、ホイールシリンダ36FR,36FLの液圧はほぼ同じであり、ホイールシリンダ38RL,38RRの液圧はほぼ同じであるため、いずれか一方の液圧を検出すれば、他方の液圧を推定することができる。
電流センサ224はメインバッテリ28に設けられたものであり、電流センサ224の検出値に基づいてメインバッテリ28に蓄電可能な残容量が取得される。
【0035】
以上のように構成された車両用ブレーキシステムの作動について説明する。
本車両用ブレーキシステムにおいて、ブレーキ操作部材39の操作状態と周辺情報取得装置218によって取得された車両の周辺の情報との少なくとも一方に基づいて、ブレーキ要求の有無が判定される。ブレーキ操作部材39の操作状態は、ストロークセンサ202の検出値と操作液圧センサ84の検出値との少なくとも一方に基づいて取得される。
【0036】
マニュアル運転状態においては、ブレーキ操作部材39の操作状態と周辺情報取得装置218によって取得された車両の周辺の情報との少なくとも一方に基づいて、ブレーキ要求の有無が判定されるが、自動運転状態においては、周辺情報取得装置218によって取得された情報に基づいてブレーキ要求の有無が判定される。
【0037】
ブレーキ要求が有ると判定された場合には、その車両の周辺の情報とブレーキ操作部材39の操作状態との少なくとも一方等に基づいて、目標ブレーキ力Ftが取得される。そして、その目標ブレーキ力Ftが得られるように、回生ブレーキ力と液圧ブレーキ力(ホイールシリンダ36,38の液圧に応じて車両に加えられるブレーキ力をいう。)とにより回生協調制御が行われる。
【0038】
回生協調制御において、例えば、車両の走行速度、メインバッテリ28の蓄電可能な残容量等に基づいて回生ブレーキ機構30により出力可能な回生ブレーキ力が取得される。この出力可能な回生ブレーキ力,目標ブレーキ力Ft等に基づいて目標回生ブレーキ力Fteが取得される。目標ブレーキ力Ftから目標回生ブレーキ力Fteを引いた値に基づいて目標液圧ブレーキ力Ftpが取得される。
【0039】
そして、図5に示すように、目標ブレーキ力Ftが設定値より小さい場合には、目標液圧ブレーキ力Ftpが下流側目標液圧ブレーキ力Ftdとされ、上流側目標液圧ブレーキ力Ftuは0とされる。回生ブレーキ力と下流側液圧ブレーキ力とにより回生協調制御が行われる。
Ftp=Ft-Fte
Ftd=Ftp
Ftu=0
【0040】
また、目標ブレーキ力Ftが設定値以上である場合には、目標液圧ブレーキ力Ftpが上流側実液圧ブレーキ力と下流側実液圧ブレーキ力とによって実現されるように、上流側目標液圧ブレーキ力Ftuと下流側目標液圧ブレーキ力Ftdとが決定される。回生ブレーキ力、下流側液圧ブレーキ力、上流側液圧ブレーキ力により回生協調制御が行われる。
Ftp=Ftu+Ftd
【0041】
上流側液圧制御機構34において、レギュレータ45が作動させられ、背面室44の液圧が制御され、加圧室46,47の液圧が制御される。
背面液圧制御装置48において、増圧制御弁94、減圧制御弁96の制御により、制御室122の液圧が制御される。制御ピストン114が前進させられ、サーボ室124にサーボ圧が発生し、背面室44に供給される。背面室44の液圧により加圧ピストン41が前進させられ、加圧ピストン42が前進させられる。それにより、加圧室46,47に液圧が発生させられる。
【0042】
本実施例において、加圧室46,47の液圧に応じたブレーキ力を上流側液圧ブレーキ力Fと称する。換言すると、加圧室46,47の液圧がホイールシリンダ36,38に供給されたと仮定した場合に、ホイールシリンダ36,38の液圧により作動させられる液圧ブレーキにより加えられるブレーキ力を上流側液圧ブレーキ力と称するのである。本実施例においては、マスタシリンダ圧センサ210によって検出された加圧室46の実際の液圧に応じたブレーキ力である上流側実液圧ブレーキ力Fpuが上流側目標液圧ブレーキ力Ftuに近づくように、増圧制御弁94、減圧制御弁96が制御される。
【0043】
下流側液圧制御機構33において、保持弁170の開状態、減圧弁172の閉状態において、ポンプ装置158が作動させられ、ホイールシリンダ37,38の液圧が液圧制御弁160の制御により制御される。
液圧制御弁160の下流側の液圧はホイールシリンダ36,38の液圧に対応し、上流側の液圧は加圧室46,47の液圧に対応する。液圧制御弁160への供給電流の制御により、これら上流側の液圧と下流側の液圧との差圧dPが制御されるのであり、ホイールシリンダ36,38の液圧が加圧室46,47の液圧に対して大きくされる。
【0044】
本実施例においては、そのホイールシリンダ36,38の液圧から加圧室46,47の液圧を引いた差圧(増加分)dPに対応するブレーキ力を下流側液圧ブレーキ力と称する。また、ホイールシリンダ圧センサ212の検出値からマスタシリンダ圧センサ210の検出値を引いた差圧に応じた実際のブレーキ力である下流側実液圧ブレーキ力Fpdが、下流側目標液圧ブレーキ力Ftdに近づくように、液圧制御弁160への供給電流が制御される。
【0045】
以上のことから、ホイールシリンダ36,38の液圧は、加圧室46,47の液圧が液圧制御弁160により差圧dP増加された高さであるため、ホイールシリンダ36,38の液圧に応じたブレーキ力は、上流側液圧ブレーキ力に下流側液圧ブレーキ力を加えた大きさ、換言すると、液圧ブレーキ力に対応する。また、上流側液圧ブレーキ力がほぼ0である場合には、ホイールシリンダ36,38の液圧に応じたブレーキ力が下流側液圧ブレーキ力に対応し、下流側液圧ブレーキ力がほぼ0である場合には、ホイールシリンダ36,38の液圧に応じたブレーキ力が上流側液圧ブレーキ力に対応する。
Pw=Pm+dP
Ftp=Ftu+Ftd
Fpd∝dP=Pw-Pm
Fpu∝Pm
【0046】
このように、ホイールシリンダ36,38の液圧とブレーキ力とがほぼ比例すると考えた場合には、増圧制御弁94、減圧制御弁96、液圧制御弁160の制御は、ブレーキ力ではなく、液圧に基づいて行うことができる。
以下、同様に、異常状態や疑似異常状態の検出も、ブレーキ力ではなく、液圧に基づいて行うことができるのである。
【0047】
なお、本明細書において、ホイールシリンダ圧センサ212、マスタシリンダ圧センサ210によって検出された液圧に応じたブレーキ力を下流側実液圧ブレーキ力、上流側実液圧ブレーキ力と称する。特に、下流側実液圧ブレーキ力、上流側実液圧ブレーキ力は、液圧ブレーキ力の制御において用いられる。それに対して、ホイールシリンダ圧センサ212、マスタシリンダ圧センサ210によって検出された液圧値に応じたブレーキ力に限らず、下流側液圧制御機構33、上流側液圧制御機構34によりそれぞれ発生させられる液圧に応じたブレーキ力を、一般的に、下流側液圧ブレーキ力、上流側液圧ブレーキ力と称することがある。
【0048】
従来の車両用ブレーキシステムにおいて、下流側液圧制御機構33が、異常状態にあると検出された場合、例えば、ポンプ装置158の異常等によりホイールシリンダ36,38の液圧をマスタシリンダ43の液圧に対して高くすることができない場合、液圧制御弁160の異常により、ホイールシリンダ36,38の液圧を制御することができない場合等には、図11に示すように、回生ブレーキ力が0とされ、下流側液圧制御機構33の作動が停止させられ、上流側液圧制御機構34が作動させられる。マスタシリンダ43の加圧室46,47の液圧が制御され、ホイールシリンダ36,38に供給される。ホイールシリンダ36,38の液圧が上流側液圧ブレーキ力に対応する大きさとされるのであり、上流側液圧ブレーキ力が加えられる。
【0049】
しかし、特に、自動運転状態においては、下流側液圧制御機構33の異常の有無を精度よく検出することが望ましい。そのため、例えば、ホイールシリンダ圧センサ212によって検出されたホイールシリンダ液圧Pwが異常判定液圧より低い場合に異常であると検出される場合において、ホイールシリンダ圧センサ212による検出圧のモニタリング時間を長くすることが望ましく、異常検出に長時間を要する。そのため、ホイールシリンダ液圧Pwが低く、液圧ブレーキ力が小さい間、ブレーキ力不足が長い間続く。また、自動運転状態においては、ブレーキ力が不足しても、運転者によってブレーキ操作部材39が踏み増されることがない。そのため、ブレーキ力不足が長い間続くことは望ましくない。
【0050】
そこで、本実施例においては、図6,7に示すように、下流側液圧制御機構33が異常である異常状態と異常の疑いがある疑似異常状態とを設定し、異常状態にあるか否か、疑似異常状態にあるか否かが、それぞれ、判定されるようにした。そして、下流側液圧制御機構33が疑似異常状態であると検出された場合には、上流側液圧制御機構34を作動させ、上流側液圧ブレーキ力が加えられるようにした。このように、下流側液圧制御機構33が疑似異常状態であると検出された場合には、回生ブレーキ力、下流側液圧ブレーキ力、上流側液圧ブレーキ力により回生協調制御が行われるようにしたのである。
【0051】
本実施例において、例えば、下流側実液圧ブレーキ力Fpdが、異常判定しきい値FAより小さいと検出された回数が第1設定回数N1を越えた場合に、下流側液圧制御機構33が異常状態であると判定され、異常判定しきい値FAより大きい疑似異常判定しきい値FB(FB>FA)より小さく、異常判定しきい値FAより大きいと検出された回数が第2設定回数N2を越えた場合に疑似異常状態であると判定されるようにすることができる。また、図8に示すように、異常判定しきい値FAは、下流側目標液圧ブレーキ力Ftdから異常判定乖離値ΔF引いた値とし、疑似異常判定しきい値FBは、下流側目標液圧ブレーキ力Ftdから異常判定乖離値ΔFより小さい疑似異常判定乖離値ΔFsを引いた値とすることができる。疑似異常判定しきい値FBは異常判定しきい値FAより大きい値(FB>FA)である。
FA=Ftd-ΔF
FB=Ftd-ΔFs
【0052】
このように、異常判定乖離値ΔF,疑似異常判定乖離値ΔFsは、下流側実液圧ブレーキ力Fpdが下流側目標液圧ブレーキ力Ftdに近づくように、ポンプ装置158の作動状態において、液圧制御弁160への供給電流が制御されているにもかかわらず、下流側実液圧ブレーキ力Fpdが異常判定しきい値FA,疑似異常判定しきい値FBに達しない場合には、下流側液圧制御機構33が異常状態、疑似異常状態であると判定し得る大きさに決定される。
【0053】
また、第1設定回数N1,第2設定回数N2は、それぞれ、下流側液圧制御機構33が異常状態、疑似異常状態であると高い精度で検出し得る回数とされる。第2設定回数N2と第1設定回数N1とは同じ回数であっても異なる回数であってもよく、例えば、第2設定回数N2は第1設定回数N1より少ない回数とすることができる。
【0054】
なお、ホイールシリンダ36,38の液圧とブレーキ力とがほぼ比例する範囲内においては、ブレーキ力ではなく、ホイールシリンダ36,38の液圧または液圧の増加分に基づいて、下流側液圧制御機構33が異常状態にあるか否か、疑似異常状態にあるか否かが検出されるようにすることもできる。この場合には、異常判定しきい値FAに対応する異常判定液圧PA、疑似異常判定しきい値FBに対応する疑似異常判定液圧PB(PB>PA)が決定されることになる。
【0055】
ブレーキECU200には、図3のフローチャートで表されるブレーキ力制御プログラムが記憶されて、予め定められたサイクルタイム毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップにおいても同様とする)において、ブレーキ操作部材39の操作状態と周辺情報取得装置218によって取得された情報との少なくとも一方に基づいて車両にブレーキ要求があるか否かが判定される。判定がNOである場合には、S2以降が実行されることはないが、判定がYESである場合には、S2以降が実行される。
【0056】
S2において、ブレーキ操作状態と周辺情報取得装置218によって取得された情報との少なくとも一方に基づいて目標ブレーキ力Ftが取得され、S3において、目標回生ブレーキ力Fteが取得され、目標ブレーキ力Ftと目標回生ブレーキ力Fteとの差に基づいて目標液圧ブレーキ力Ftpが取得され、上流側目標液圧ブレーキ力Ftuと下流側目標液圧ブレーキ力Ftdとが取得される。なお、目標ブレーキ力Ftが設定値より小さい場合には、上流側目標液圧ブレーキ力Ftuは0とされる。
【0057】
S4において、下流側液圧制御機構33が異常状態にあるか否か、疑似異常状態にあるか否かを検出するために必要な情報が取得される。必要な情報としては、例えば、下流側液圧制御機構33の状態を表す物理量等が該当する。また、物理量と比較する異常判定しきい値や疑似異常判定しきい値等が該当する場合もある。
【0058】
S5,6において、S4において取得された物理量等の情報に基づいて下流側液圧制御機構33が異常状態にあるか否か、疑似異常状態にあるか否かが判定される。
【0059】
S5,6の両方の判定がNOである場合には、下流側液圧制御機構33が正常であると検出される。例えば、図8の実線が示すように、下流側実液圧ブレーキ力が疑似異常判定しきい値FBより大きい場合が該当する。S8において、S3において取得された目標回生ブレーキ力Fte、上流側目標液圧ブレーキ力Ftu、下流側目標液圧ブレーキ力Ftdが得られるように、回生ブレーキ機構30、液圧ブレーキ機構32が制御される。異常状態や疑似異常状態の検出が行われる場合には、目標ブレーキ力Ftが設定値より小さいことが多い。そのため、上流側目標液圧ブレーキ力Ftuは0であり、回生ブレーキ機構30、下流側液圧制御機構33が作動させられる。
【0060】
S5の判定がYESである場合には、下流側液圧制御機構33が異常状態であると検出される。S7において、回生ブレーキ機構30が停止させられ、下流側液圧制御機構33が停止させられる。回生ブレーキ力、下流側液圧ブレーキ力が0とされ、上流側目標液圧ブレーキ力Ftuが目標ブレーキ力Ftとされて、上流側液圧制御機構34が作動させられる。例えば、図8の二点鎖線が示すように、下流側液圧制御機構33は疑似異常状態であると検出された後に、異常状態であると検出されるのが普通である。
【0061】
S5の判定がNO、S6の判定がYESである場合には、下流側液圧制御機構33が疑似異常状態であると検出される。例えば、図8の一点鎖線が示すように、下流側実液圧ブレーキ力が疑似異常判定しきい値FBより小さく、異常判定しきい値FAより大きい場合が該当する。S9において、回生ブレーキ力、上流側液圧ブレーキ力、下流側液圧ブレーキ力により回生協調制御が行われる。回生ブレーキ機構30が作動させられた状態で、下流側液圧ブレーキ力が小さいことに起因する目標ブレーキ力Ftの不足分が上流側液圧ブレーキ力により補われる。
【0062】
また、下流側液圧制御機構33が疑似異常状態であると検出された後に、下流側液圧制御機構33が異常状態であると検出された場合には、S7において、下流側液圧制御機構33の作動が停止させられるとともに回生ブレーキ機構30が停止させられ、上流側液圧制御機構34の制御により上流側液圧ブレーキ力が大きくされる。
【0063】
また、下流側液圧制御機構33が疑似異常状態であると検出された後に、下流側液圧制御機構33が正常であると検出された場合には、S8において、下流側液圧ブレーキ力、上流側液圧ブレーキ力、回生ブレーキ力によって回生協調制御が行われる。
【0064】
S4,5,6の実行の一具体例を図4のフローチャートに基づいて説明する。図4のフローチャートで表されるブレーキ力制御プログラムは、図3のフローチャートで表されるブレーキ力制御プログラムのS4,5,6の実行を具体的にしたものであり、他のステップ(S1-3,7-9)は同じである。
本実施例においては、S11において、下流側液圧制御機構33の状態を表す物理量としてホイールシリンダ圧センサ212の検出値に基づいて下流側実液圧ブレーキ力Fpdが取得される。加圧室46の液圧はほぼ大気圧にあり、上流側液圧ブレーキ力はほぼ0であることが多いからである。S12において、下流側液圧制御機構33が異常状態等であるか否かを検出するために必要な情報として、下流側実液圧ブレーキ力Fpdについての異常判定しきい値FA、疑似異常判定しきい値FBが取得される。S13において、下流側実液圧ブレーキ力Fpdが、異常判定しきい値FAより小さいか否かが判定され、S14において、疑似異常判定しきい値FBより小さいか否かが判定される。
【0065】
S13,14の判定がNOである場合には、下流側液圧制御機構33が正常であると判定され、S7が実行される。S13,14のいずれか一方の判定がYESである場合には、S15,16において、それぞれ、その判定がYESとなった回数がカウントされる。そして、S17において、下流側実液圧ブレーキ力Fpdが異常判定しきい値FAより小さいと判定された回数が第1設定回数N1を越えたか否かが判定される。S17の判定がYESである場合には、下流側液圧制御機構33が異常状態であると検出される。また、S18において、下流側実液圧ブレーキ力Fpdが疑似異常判定しきい値FBより小さいと判定された回数が第2設定回数を越えたか否かが判定される。S18の判定がNOである場合には、下流側液圧制御機構33が正常状態である(疑似異常状態ではない)と検出され、判定がYESである場合には、疑似異常状態であると判定される。なお、S17の判定がNOである場合には、下流側液圧制御機構33が疑似異常状態であると検出される。
【0066】
本実施例においては、S11~16がS4の実行に対応し、S17がS5,S18がS6に対応する。S13,14はS6の一部を構成すると考えることもできる。
【0067】
以上のように、本実施例においては、図11に示す場合と比較して、ブレーキ力が不足する期間を短くすることができ、それによって、ブレーキ力不足を抑制することができる。
【0068】
また、本実施例においては、ブレーキ作動開始当初に、回生ブレーキ力と、上流側液圧ブレーキ力ではなく下流側液圧ブレーキ力とにより回生協調制御が行われる。下流側液圧制御機構33は上流側液圧制御機構34よりホイールシリンダ36,38に近い位置に設けられる。また、下流側液圧制御機構33においては、上流側液圧制御機構34における場合より応答性がよく、液圧を細かに制御できる。さらに、前輪側と後輪側とでホイールシリンダ36,38の液圧を異なる高さに制御することができるため、回生協調制御が行われる場合に、前輪側のブレーキ力と後輪側のブレーキ力とをそれぞれ制御することが可能となり、良好な前後制動力配分制御を行うことができる。その結果、回生協調制御において、出力可能な回生ブレーキ力を大きくすることができ、エネルギ効率を向上させることができるのである。
【0069】
さらに、本発明は、車両の自動運転状態においても、マニュアル運転状態においても、実施されるようにすることができる。自動運転状態にある場合には、ブレーキ力不足抑制の大きな効果が得られるが、マニュアル運転状態においても、疑似異常状態であることを検出して、ブレーキ力不足を抑制する効果は享受できる。
【0070】
本実施例においては、ブレーキECU200の図3のフローチャートで表されるブレーキ力制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により制御装置が構成される。また、ホイールシリンダ圧センサ212、ブレーキECU200のS4,5(S11~13,15,17)を記憶する部分、実行する部分等により異常状態検出装置が構成され、ホイールシリンダ圧センサ212、ブレーキECU200のS4,6(S11~14,16~18)を記憶する部分、実行する部分等により疑似異常状態検出装置が構成される。また、ブレーキECU200のS9を記憶する部分、実行する部分等により疑似異常状態制御部が構成される。また、ホイールシリンダ圧センサ212、S4(S12)を記憶する部分、実行する部分等により第1物理量取得部(第1ブレーキ力取得部)が構成され、回生ブレーキ機構30等により第3ブレーキ力制御機構が構成される。
なお、下流側液圧ブレーキ力が第1ブレーキ力に対応し、上流側液圧ブレーキ力が第2ブレーキ力に対応し、回生ブレーキ力が第3ブレーキ力に対応する。
【0071】
なお、ブレーキ作動開始当初に、下流側液圧制御機構33ではなく上流側液圧制御機構34が作動させられ、回生ブレーキ力と上流側液圧ブレーキ力とによって回生協調制御が行われるようにすることもできる。
【0072】
また、下流側液圧制御機構33が異常状態にあるか否か、疑似異常状態にあるか否かの検出方法は、上述の方法に限定されない。例えば、下流側実液圧ブレーキ力が、異常判定しきい値FAより小さい状態が異常判定時間H1を越えて継続した場合に、下流側液圧制御機構33が異常状態にあると判定され、異常判定時間H1には達しないが、異常判定時間H1より短い疑似異常判定時間H2(H2<H1)を越えて継続した場合に、疑似異常状態にあると検出されるようにすることができる。
【0073】
その場合のS4,5,6の実行の一具体例を図9のフローチャートに基づいて説明する。図9のフローチャートで表されるブレーキ力制御プログラムは、図3のフローチャートで表されるブレーキ力制御プログラムのS4,5,6の実行を具体的にしたものであり、他のステップ(S1-3,7-9)は同じである。
S21において、下流側目標液圧ブレーキ力Ftdから異常判定乖離値ΔFを引いて、異常判定しきい値FAを決定し、S22において、ホイールシリンダ圧センサ212の検出値に基づいて下流側実液圧ブレーキ力Fpdが取得される。S23において、下流側実液圧ブレーキ力Fpdが異常判定しきい値FAより小さいか否かが判定される。判定がYESである場合には、S24において、その判定がYESである間の時間Hが計測される。
【0074】
S25において、時間Hが予め定められた異常判定時間H1を越えたか否かが判定され、S26において、時間Hが予め定められた疑似異常判定時間H2を越えたか否かが判定される。S25の判定がYESである場合には、下流側液圧制御機構33が異常状態であると検出され、S7が実行される。
【0075】
S25、S26の判定がNOである場合には、下流側液圧制御機構33が正常状態にあると判定され、S8が実行される。
S25の判定がNO,S26の判定がYESである場合には、下流側液圧制御機構33が疑似異常状態であると判定され、S9が実行される。
【0076】
本実施例においては、S21~24がS4に対応し、S25がS5、S26がS6に対応する。S23は、S6の一部を構成すると考えることもできる。
【0077】
さらに、メインバッテリ28の電圧またはポンプモータ156に供給される電圧を統計的に処理した値(例えば、平均値)が、異常判定電圧EAより低い場合に異常状態であると検出され、異常判定電圧EA以上であるが、異常判定電圧EAより高い疑似異常判定電圧EB(EB>EA)より低い場合には疑似異常状態であると検出されるようにすることもできる。
【0078】
その場合のS4,5,6の実行の一具体例を図10のフローチャートに基づいて説明する。図10のフローチャートで表されるブレーキ力制御プログラムは、図3のフローチャートで表されるブレーキ力制御プログラムのS4,5,6の実行を具体的にしたものであり、他のステップ(S1-3,7-9)は同じである。
S31において、電圧センサ220によりポンプモータ156への供給電圧Eを検出し、S32,33において、供給電圧Eの合計SEを求めて、検出した供給電流Eの個数(サンプル数)をカウントする。S34において、サンプル数が設定個数N3を越えたか否かが判定される。判定がYESである場合には、S35において、供給電流Eの平均値xEが取得され、S36,37において、平均値xEが異常判定電圧値EAより低いか否か、疑似異常判定電圧値EBより低いか否かが判定される。
【0079】
S36の判定がYESである場合には、下流側液圧制御機構33が異常状態であると検出されて、S7が実行され、S36,37の判定がNOである場合には、正常状態であると検出されて、S8が実行される。また、S36の判定がNO、S37の判定がYESである場合には、下流側液圧制御機構33が疑似異常状態であると検出されて、S9が実行される。
【0080】
また、疑似異常状態であると検出された後に、ポンプモータ156への供給電圧が低くなり、異常判定電圧値EBより低くなった場合には、下流側液圧制御機構33が異常状態であると検出され、S7が実行される。
【0081】
本実施例においては、S31~S35がS4に対応し、S36,37がそれぞれS5,6に対応する。なお、S34はS6の一部を構成すると考えることができる。
【0082】
また、上記実施例においては、上流側液圧制御機構34と下流側液圧制御機構33とで、電源が別にされていたが、そのようにすることは不可欠ではない。例えば、同じ電源から異なる電力供給線によって電力が供給されるようにすることもできる。
【0083】
さらに、下流側実液圧ブレーキ力Fpdと下流側目標液圧ブレーキ力Ftdとの差である偏差を設定サンプル数以上取得し、これら設定サンプル数以上の偏差を統計的に処理した値(例えば、平均値、中間値等)が異常判定乖離値ΔFより大きい場合に異常状態であると検出され、偏差を統計的に処理した値が異常判定乖離値ΔF以下であるが、疑似異常判定乖離値ΔFsより大きい場合に疑似異常状態であると検出されるようにすることもできる。
【0084】
さらに、本発明は、ハイブリッド車両に限らず、電気自動車やエンジン駆動車両に適用することもできる。
また、ブレーキ回路の構造は問わない等本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0085】
28:メインバッテリ 30:回生ブレーキ機構 32:液圧ブレーキ機構 33:下流側液圧制御機構 34:上流側液圧制御機構 35:サブバッテリ 36,38:ホイールシリンダ 44:背面室 45:レギュレータ 48:背面液圧制御装置 94:増圧制御弁 96:減圧制御弁 150:スリップ制御弁装置 158:ポンプ装置 160:液圧制御弁 200:ブレーキECU 210:マスタシリンダ圧センサ 212:ホイールシリンダ圧センサ 218:周辺情報取得装置 220,222:電圧センサ
【特許請求可能な発明】
【0086】
(1)車両に加えられるブレーキ力を制御可能な第1ブレーキ力制御機構と、
前記第1ブレーキ力制御機構とは別の前記ブレーキ力を制御可能な第2ブレーキ力制御機構と、
前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であるか否かを検出する異常状態検出装置と、
前記異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出されない場合に、前記第1ブレーキ力制御機構を制御することにより、前記第1ブレーキ力制御機構により前記車両に加えられるブレーキ力である第1ブレーキ力を制御し、前記異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態にあると検出された場合には、前記第1ブレーキ力制御機構の停止状態において、前記第2ブレーキ力制御機構を制御することにより、前記第2ブレーキ力制御機構により前記車両に加えられるブレーキ力である第2ブレーキ力を制御する制御装置を含む車両用ブレーキシステムであって、
当該車両用ブレーキシステムが、前記第1ブレーキ力制御機構が前記異常状態であると疑いがある疑似異常状態にあるか否かを検出する疑似異常状態検出装置を含み、
前記制御装置が、前記疑似異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が前記疑似異常状態であると検出された場合に、前記第1ブレーキ力制御機構の作動状態において、前記第2ブレーキ力制御機構の制御により、前記第2ブレーキ力を制御する疑似異常状態制御部を含む車両用ブレーキシステム。
【0087】
第1ブレーキ力制御機構、第2ブレーキ力制御機構は、それぞれ、ブレーキ力を0以上の大きさに制御可能なものである。換言すると、第1ブレーキ力制御機構、第2ブレーキ力制御機構は、それぞれ、ブレーキ力を発生させるとともに、そのブレーキ力を制御可能なものである。
【0088】
第1ブレーキ力制御機構の異常状態とは、第1ブレーキ力制御機構において、車両に加えられるブレーキ力を制御することが困難である状態をいう。第1ブレーキ力制御機構の異常状態は、例えば、第1ブレーキ力制御機構に含まれる駆動源の異常、制御系要素の異常、第1ブレーキ力制御機構の駆動源等の構成要素に充分な電力が供給されない異常等に起因して生じる場合が多い。
【0089】
第1ブレーキ力制御機構の疑似異常状態とは、例えば、異常状態に近い状態、または、近い将来異常状態になる可能性が高い状態、または、異常状態の予兆が現れた状態等をいい、具体的には、構成要素(例えば、駆動源、制御系要素等)が異常状態に近い状態にある場合、駆動源等の構成要素に供給される電圧が異常であるとはいえないが、正常な電圧より低い場合等がある。例えば、後述するように、第1ブレーキ力が異常判定しきい値より小さい場合に異常状態であると検出される場合において、第1ブレーキ力が異常判定しきい値以上であるが、異常判定しきい値より大きい疑似異常判定しきい値より小さい場合に疑似異常状態であると検出されるようにしたり、第1ブレーキ力が異常判定しきい値より小さい状態が異常判定時間を越えて継続した場合に異常状態であると検出される場合において、第1ブレーキ力が異常判定しきい値より小さい状態が異常判定時間以下であるが、異常判定時間より短い疑似異常判定時間を越えて継続した場合に、疑似異常状態であると検出されるようにしたりすること等ができる。
【0090】
(2)前記異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力が異常判定しきい値より小さい場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出するものであり、
前記疑似異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力が、前記異常判定しきい値以上であるが、前記異常判定しきい値より大きい疑似異常判定しきい値より小さい場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が疑似異常状態であると検出するものである(1)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0091】
なお、第1ブレーキ力取得部によって取得された第1ブレーキ力と目標第1ブレーキ力との偏差が異常判定乖離値より大きい場合に第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出され、偏差が異常判定乖離値以下であるが異常判定乖離値より小さい疑似異常判定乖離値より大きい場合に、第1ブレーキ力制御機構が疑似異常状態であると検出されるようにすることもできる。
【0092】
(3)当該車両用ブレーキシステムが、前記第1ブレーキ力を、予め定められた設定時間毎に取得する第1ブレーキ力取得部を含み、
前記異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力取得部によって取得された前記第1ブレーキ力が前記異常判定しきい値より小さいと検出された回数が第1設定回数を越えた場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が異常であると検出するものであり、
前記疑似異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力取得部によって取得された前記第1ブレーキ力が前記異常判定しきい値以上であるが、前記疑似異常判定しきい値より小さいと検出された回数が第2設定回数を越えた場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が疑似異常状態であると検出するものである(2)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0093】
第1設定回数と第2設定回数とは同じであっても異なっていてもよい。例えば、第2設定回数は第1設定回数より少ない回数とすることができる。
また、設定時間は、上記実施例におけるサイクルタイムに対応する。
【0094】
(4)前記異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力が異常判定しきい値より小さい状態が異常判定時間より長く継続した場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出するものであり、
前記疑似異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力が前記異常判定しきい値より小さい状態が前記異常判定時間に達しないが、前記異常判定時間より短い疑似異常判定時間より長く継続した場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が疑似異常状態であると検出するものである(1)項ないし(3)のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0095】
異常判定時間、疑似異常判定時間は、第1ブレーキ力が異常判定しきい値、疑似異常判定しきい値より小さいと認定し得る長さの時間とすることができる。
【0096】
(5)前記異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力制御機構の駆動源への供給電圧が異常判定電圧より低い場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が異常であると検出するものであり、
前記疑似異常状態検出装置が、前記第1ブレーキ力制御機構の駆動源への供給電圧が、前記異常判定電圧以上であるが、前記異常判定電圧より高い疑似異常判定電圧より低い場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が疑似異常状態であると検出するものである(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0097】
同様に、駆動源に電力を供給する電源の電圧を検出して、異常状態、疑似異常状態であるか否かを検出することもできる。
【0098】
(6)当該車両用ブレーキシステムが、前記第1ブレーキ力制御機構の状態を表す物理量である第1物理量を予め定められた設定時間毎に取得する第1物理量取得部を含む(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0099】
第1物理量は、例えば、第1ブレーキ力または駆動源への供給電圧等とすること等ができる。
【0100】
(7)前記異常状態検出装置が、前記第1物理量取得部によって設定個数以上の前記第1物理量が取得された後に、前記設定個数以上の前記第1物理量に基づいて、前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態にあるか否かを検出するものである(6)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0101】
上述の(3)項-(5)項の態様は本(7)項の一態様である。
例えば、設定個数以上の第1ブレーキ力を統計的に処理した値(例えば、平均値や中間値等)に基づいて異常状態にあるか否かを検出すること等ができる。設定個数は、第3設定個数としたり、第1設定回数、第2設定回数に対応する個数以上の個数としたりすること等ができる。また、設定個数は、設定個数に設定時間(サイクルタイム)を掛けた時間が、異常判定時間、疑似異常判定時間以下となるように、決めることができる。
【0102】
(8)当該車両用ブレーキシステムが、前記第1ブレーキ力を、予め定められた設定時間毎に取得する第1ブレーキ力取得部を含み、
前記異常状態検出装置が、複数の前記第1ブレーキ力取得部によって取得された前記第1ブレーキ力と目標第1ブレーキ力との差である偏差を統計的に処理した値が、異常判定乖離値より大きい場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出するものであり、
前記疑似異常状態検出装置が、前記偏差を統計的に処理した値が、前記異常判定乖離値以下であるが、前記異常判定乖離値より小さい疑似異常判定乖離値より大きい場合に、前記第1ブレーキ力制御機構が疑似異常状態であると検出するものである(1)項ないし(7)項のいずれ1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0103】
(9)前記第1ブレーキ力制御機構が、前記第1ブレーキ力制御機構を作動させる駆動源である第1駆動源を含み、
前記第2ブレーキ力制御機構が、前記第2ブレーキ力制御機構を作動させる駆動源である第2駆動源を含み、
当該車両用ブレーキシステムが、前記第1駆動源に電力を供給する第1電源と、前記第2駆動源に電力を供給する前記第1電源とは別の第2電源とを含む(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0104】
なお、第1駆動源と第2駆動源とは、同じ電源に、異なる電力供給線を介して電力が供給されるようにすることもできる。上記実施例において、第1駆動源はポンプモータ156に対応し、第2駆動源はポンプモータ88に対応する。また、第1電源がメインバッテリ28に対応し、第2電源がサブバッテリ35に対応する。
【0105】
(10)当該車両用ブレーキシステムが、前記第1ブレーキ力制御機構および前記第2ブレーキ力制御機構とは別の第3ブレーキ力制御機構を含み、
前記制御装置が、前記異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出されない場合には、前記第3ブレーキ力制御機構の作動により前記車両に加えられるブレーキ力である第3ブレーキ力と前記第1ブレーキ力とで協調制御を行い、前記異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態であると検出された場合には、前記第1ブレーキ力制御機構と前記第3ブレーキ力制御機構との停止状態において、前記第2ブレーキ力制御機構の制御により前記第2ブレーキ力を制御するものであり、
前記疑似異常状態制御部が、前記疑似異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が前記疑似異常状態であると検出された場合には、前記第1ブレーキ力、前記第3ブレーキ力および前記第2ブレーキ力により協調制御を行うものである(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0106】
(11)前記車両が、駆動源として電動モータを含み、
前記第3ブレーキ力制御機構が、前記電動モータの回生制動により前記車両の駆動輪に制動力を付与する回生ブレーキ機構である(10)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0107】
(12)当該車両用ブレーキシステムが、前記車両の車輪に設けられ、液圧により作動させられる液圧ブレーキを含み、
前記第1ブレーキ力制御機構および前記第2ブレーキ力制御機構が、それぞれ、前記液圧ブレーキに供給する液圧を制御する第1液圧制御機構および第2液圧制御機構であり、
前記第1液圧制御機構が、前記第2液圧制御機構より下流側に設けられた(1)項ないし(11)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0108】
第1液圧制御機構、第2液圧制御機構は、それぞれ、液圧を発生可能、かつ、液圧を制御可能なものとすることができる。第1液圧制御機構を下流側液圧制御機構、第2液圧制御機構を上流側液圧制御機構と称することができる。
【0109】
(13)前記第1液圧制御機構が、前記第2液圧制御機構と前記液圧ブレーキのホイールシリンダとの間に設けられ、作動液を汲み上げて加圧して前記ホイールシリンダに供給可能なポンプ装置と、前記ポンプ装置から吐出された作動液の液圧を利用して前記ホイールシリンダの液圧を制御可能な液圧制御弁とを含む(12)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0110】
(14)前記第2液圧制御機構が、加圧ピストンを備えたマスタシリンダと、加圧ピストンの後方に設けられた背面室の液圧を制御する背面液圧制御装置とを含み、前記背面液圧制御装置により、前記背面室に液圧を供給することにより前記加圧ピストンを前進させて、前記加圧ピストンの前方の加圧室の液圧を制御するものである(12)項または(13)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0111】
第2液圧制御機構より第1液圧制御機構の方が、応答性がよく、かつ、細かに制御可能である。そのため、ブレーキ作動当初において、第1液圧制御機構を作動させることにより、高い応答性で、液圧ブレーキ力を細かに制御することが可能となる。
【0112】
(15)車両に加えられるブレーキ力を制御可能な第1ブレーキ力制御機構と、
前記第1ブレーキ力制御機構とは別の前記ブレーキ力を制御可能な第2ブレーキ力制御機構と、
前記第1ブレーキ力制御機構が異常状態のうちの第1異常状態であるか否かを検出する第1異常状態検出装置と、
前記第1異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が第1異常状態であると検出されない場合に、前記第1ブレーキ力制御機構を制御することにより、前記第1ブレーキ力制御機構により前記車両に加えられるブレーキ力である第1ブレーキ力を制御し、前記第1異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が第1異常状態にあると検出された場合には、前記第1ブレーキ力制御機構の停止状態において、前記第2ブレーキ力制御機構を制御することにより、前記第2ブレーキ力制御機構により前記車両に加えられるブレーキ力である第2ブレーキ力を制御する制御装置を含む車両用ブレーキシステムであって、
当該車両用ブレーキシステムが、前記第1ブレーキ力制御機構が前記第1異常状態とは異なる異常状態である第2異常状態であるか否かを検出する第2異常状態検出装置を含み、
前記制御装置が、前記第2異常状態検出装置によって前記第1ブレーキ力制御機構が前記第2異常状態であると検出された場合に、前記第1ブレーキ力制御機構の作動状態において、前記第2ブレーキ力制御機構の制御により、前記第2ブレーキ力を制御する第2異常状態制御部を含む車両用ブレーキシステム。
本項に記載の車両用ブレーキシステムには、(1)項ないし(14)項の技術的特徴を採用することができる。(1)項ないし(14)項に記載の異常状態が第1異常状態に対応し、疑似異常状態が第2異常状態に対応する。同様に、(1)項ないし(14)項に記載の異常状態検出装置が第1異常状態検出装置に対応し、疑似異常状態検出装置が第2異常状態検出装置に対応する。
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