(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-27
(45)【発行日】2023-07-05
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20230628BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20230628BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2019187538
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】米田 毅
(72)【発明者】
【氏名】家永 寛史
(72)【発明者】
【氏名】阪口 晋一
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-184004(JP,A)
【文献】特開2007-245821(JP,A)
【文献】特開2010-132095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと、
前記ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、
前記ステアリングホイールに接続されるクラッチと、
前記クラッチを介して前記ステアリングホイールと機械的に連結可能な左右の操舵輪と、
前記操舵輪の転舵を行う転舵アクチュエータと、
前記操舵角センサで検出された操舵角に基づいて前記転舵アクチュエータに前記操舵輪を転舵させる操舵制御部と、
前記転舵アクチュエータの異常を検知する異常検知部と、
左右の前記操舵輪の各々を互いに異なるトルクで駆動可能な操舵輪駆動部と、
を備え、
前記操舵制御部は、
前記転舵アクチュエータの異常が検知されていない場合、前記クラッチを開放させ、前記転舵アクチュエータに前記操舵輪を転舵させ、
前記転舵アクチュエータの異常が検知された場合、前記クラッチを締結させ、前記ステアリングホイールによって自車両に要求される進行方向である要求方向に対して前記操舵輪が向く方向側に位置する前記操舵輪のトルクを相対的に高くさせ、前記要求方向に対して前記操舵輪が向く方向とは反対方向側に位置する前記操舵輪のトルクを相対的に低くさせる車両。
【請求項2】
前記操舵制御部は、前記クラッチが締結された後、右側の前記操舵輪の現在の回転速度に対する左側の前記操舵輪の現在の回転速度の比率である回転速度比が、右側の前記操舵輪の目標回転速度に対する左側の前記操舵輪の目標回転速度の比率である目標回転速度比に等しくなるように、左右の前記操舵輪におけるトルクの配分比を制御する請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記操舵制御部は、自車両が直進走行している状態において、前記操舵輪の転舵角が直進方向を示す基準転舵角となっていなければ、前記クラッチを半締結にさせる請求項1または2に記載の車両。
【請求項4】
前記操舵制御部は、自車両が停止している状態において、前記操舵輪の転舵角が直進方向を示す基準転舵角となっていなければ、前記クラッチを開放させ、左右の前記操舵輪を互いに逆方向に回転させる請求項1から3のいずれか1項に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤ式の操舵機構を備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ステアバイワイヤ式の操舵機構では、ステアリングホイール(ハンドル)と操舵輪(車輪)とが機械的に切り離されており、操舵輪を転舵する転舵アクチュエータをステアリングホイールの操舵角にしたがって駆動させることで操舵輪が転舵する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアバイワイヤ式の操舵機構では、転舵アクチュエータに異常が生じた場合、ステアリングホイールと操舵輪とを機械的に連結させ、操舵輪をステアリングホイールで直接的に転舵可能としている。転舵アクチュエータに異常が生じるタイミングによっては、ステアリングホイールは、直進方向に対応する基準操舵角に対して回転した状態で、操舵輪と連結されることがある。ここで、ステアリングホイールの操舵角に対する操舵輪の転舵角の関係は、ステアリングホイールと操舵輪とが機械的に切り離されている場合には操舵角が小さくなるほど転舵角の変化量を小さくしているが、ステアリングホイールと操舵輪とが機械的に連結された場合には操舵角に依らず転舵角の変化量が一定となる。このため、基準操舵角に対して回転した状態で操舵輪と連結されたステアリングホイールの操舵角を基準操舵角に戻したとき、操舵輪は、直進方向に対応する基準転舵角から傾斜した状態となることがある。そうすると、ステアリングホイールを通じて直進を指示しているにも拘わらず車両が旋回するようになり、運転者は、車両を運転し難くなってしまう。
【0005】
そこで、本発明は、転舵アクチュエータに異常が生じたとしても、操舵に関する性能の低下を抑制することが可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両は、ステアリングホイールと、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、ステアリングホイールに接続されるクラッチと、クラッチを介してステアリングホイールと機械的に連結可能な左右の操舵輪と、操舵輪の転舵を行う転舵アクチュエータと、操舵角センサで検出された操舵角に基づいて転舵アクチュエータに操舵輪を転舵させる操舵制御部と、転舵アクチュエータの異常を検知する異常検知部と、左右の操舵輪の各々を互いに異なるトルクで駆動可能な操舵輪駆動部と、を備え、操舵制御部は、転舵アクチュエータの異常が検知されていない場合、クラッチを開放させ、転舵アクチュエータに操舵輪を転舵させ、転舵アクチュエータの異常が検知された場合、クラッチを締結させ、ステアリングホイールによって自車両に要求される進行方向である要求方向に対して操舵輪が向く方向側に位置する操舵輪のトルクを相対的に高くさせ、要求方向に対して操舵輪が向く方向とは反対方向側に位置する操舵輪のトルクを相対的に低くさせる。
【0007】
また、操舵制御部は、クラッチが締結された後、右側の操舵輪の現在の回転速度に対する左側の操舵輪の現在の回転速度の比率である回転速度比が、右側の操舵輪の目標回転速度に対する左側の操舵輪の目標回転速度の比率である目標回転速度比に等しくなるように、左右の操舵輪におけるトルクの配分比を制御してもよい。
【0008】
また、操舵制御部は、自車両が直進走行している状態において、操舵輪の転舵角が直進方向を示す基準転舵角となっていなければ、クラッチを半締結にさせてもよい。
【0009】
また、操舵制御部は、自車両が停止している状態において、操舵輪の転舵角が直進方向を示す基準転舵角となっていなければ、クラッチを開放させ、左右の操舵輪を互いに逆方向に回転させてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転舵アクチュエータに異常が生じたとしても、操舵に関する性能の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1実施形態による車両の構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、操舵角と転舵角との関係を説明する図である。
【
図3】
図3は、操舵輪が要求方向に対して右方向を向いている場合における操舵輪のトルクについて説明する図である。
図3Aは、要求方向が直進方向である場合の一例を示している。
図3Bは、要求方向が右旋回方向である場合の一例を示している。
図3Cは、要求方向が左旋回方向である場合の一例を示している。
【
図4】
図4は、操舵輪が要求方向に対して左方向を向いている場合における操舵輪のトルクについて説明する図である。
図4Aは、要求方向が直進方向である場合の一例を示している。
図4Bは、要求方向が右旋回方向である場合の一例を示している。
図4Cは、要求方向が左旋回方向である場合の一例を示している。
【
図5】
図5は、操舵制御部の動作の流れを説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、通常操舵制御の流れを説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、ベクタリング制御の流れを説明するフローチャートである。
【
図8】
図8は、第2実施形態による車両の構成を示す概略図である。
【
図9】
図9は、第2実施形態の操舵制御部の動作を説明するフローチャートである。
【
図10】
図10は、第3実施形態による車両の構成を示す概略図である。
【
図11】
図11は、第3実施形態の操舵制御部の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態による車両1の構成を示す概略図である。以下では、第1実施形態に関係する構成や処理について詳細に説明し、第1実施形態と無関係の構成や処理については説明を省略する。
【0014】
車両1は、ステアリングホイール10、ステアリングシャフト12、操舵角センサ14、ピニオンシャフト16、ステアリングロッド18、アーム20、左操舵輪22L、右操舵輪22R、クラッチ24、転舵アクチュエータ26、転舵角センサ28、左駆動モータ30L、右駆動モータ30R、車輪速センサ32、速度センサ34、車両制御部36を含む。以後、車両1を自車両と呼ぶ場合がある。
【0015】
ステアリングホイール10には、運転者によって操舵角が入力される。操舵角は、ステアリングホイール10の回転角度を示す。操舵角の基準となる基準操舵角(操舵角ゼロ)は、車両1の直進方向に対応するステアリングホイール10の回転角度を示す。ステアリングホイール10は、ステアリングシャフト12に連結されている。ステアリングシャフト12は、ステアリングホイール10の回転に従って軸周りに回転する。ステアリングシャフト12には、ステアリングホイール10の操舵角を検出する操舵角センサ14が設けられている。
【0016】
ピニオンシャフト16は、ラックアンドピニオン機構によってステアリングロッド18に連結されている。ステアリングロッド18の一端は、アーム20を通じて左操舵輪22Lに接続され、ステアリングロッド18の他端は、アーム20を通じて右操舵輪22Rに接続される。左操舵輪22Lは、車両1の前方左側に位置し、右操舵輪22Rは、車両1の前方右側に位置する。以後、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rを総称して、操舵輪22と呼ぶ場合がある。
【0017】
クラッチ24は、ステアリングシャフト12とピニオンシャフト16との間に設けられる。クラッチ24は、例えば、電磁クラッチである。クラッチ24は、励磁電流が流れていないときにステアリングシャフト12とピニオンシャフト16との間を開放する。換言すると、クラッチ24は、ステアリングホイール10と左右の操舵輪22とを機械的に切り離す。また、クラッチ24は、励磁電流が流れるとステアリングシャフト12とピニオンシャフト16とを締結する。換言すると、クラッチ24は、ステアリングホイール10と左右の操舵輪22とを機械的に連結可能である。
【0018】
転舵アクチュエータ26は、例えば、モータであり、回転軸がラックアンドピニオン機構によってステアリングロッド18に連結されている。転舵アクチュエータ26は、回転軸を回転させることでステアリングロッド18を左右方向に移動させる。ステアリングロッド18が左右方向に移動すると、アーム20を通じて操舵輪22が転舵する。つまり、転舵アクチュエータ26は、操舵輪22の転舵を行う。なお、転舵は、操舵輪22の向きを変えることを示す。
【0019】
転舵角センサ28は、操舵輪22の転舵角を検出する。転舵角は、操舵輪22の鉛直軸周りの回転角度を示す。すなわち、転舵角は、操舵輪22の左右方向の向きを示す。転舵角の基準となる基準転舵角(転舵角ゼロ)は、操舵輪22が自車両の直進方向を向いているときの操舵輪22の鉛直軸周りの回転角度である。転舵角センサ28は、例えば、ステアリングロッド18の左右方向の位置に基づいて転舵角を検出してもよいし、転舵アクチュエータ26の回転角度に基づいて転舵角を検出してもよい。
【0020】
左駆動モータ30Lは、左操舵輪22Lに連結され、左操舵輪22Lを駆動する。右駆動モータ30Rは、右操舵輪22Rに連結され、右操舵輪22Rを駆動する。以後、左駆動モータ30Lおよび右駆動モータ30Rを総称して、駆動モータ30と呼ぶ場合がある。駆動モータ30は、左右の操舵輪22の各々を互いに異なるトルクで駆動可能な操舵輪駆動部として機能する。
【0021】
車輪速センサ32は、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rの各々に設けられる。車輪速センサ32は、操舵輪22の回転速度(車輪速)を検出する。速度センサ34は、自車両の速度(車速)を検出する。
【0022】
車両制御部36は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む半導体集積回路から構成される。車両制御部36は、プログラムを実行することで異常検知部40および操舵制御部42として機能する。
【0023】
異常検知部40は、転舵アクチュエータ26の異常を検知する。例えば、異常検知部40は、操舵角センサ14で検出された操舵角、および、転舵角センサ28で検出された転舵角を取得する。異常検知部40は、操舵角が変化しているにも拘わらず転舵角が変化していない場合、転舵アクチュエータ26に異常が生じていると判断する。なお、転舵アクチュエータ26の異常の具体的な検知方法は、この例に限らない。
【0024】
操舵制御部42は、転舵アクチュエータ26に異常が生じていない通常時、クラッチ24に励磁電流を流さず、クラッチ24を開放状態に維持させる。このとき、左右の操舵輪22は、クラッチ24によってステアリングホイール10とは機械的に切り離されている。この状態において、操舵制御部42は、操舵角センサ14で検出された操舵角に基づいて転舵アクチュエータ26に操舵輪22を転舵させる。
【0025】
つまり、車両1は、ステアリングホイール10と操舵輪22とが機械的に切り離されており、ステアリングホイール10の操舵角にしたがって転舵アクチュエータ26を駆動させることで操舵輪22を転舵させるステアバイワイヤ式の操舵機構を備える。以後、転舵アクチュエータ26に操舵輪22を転舵させる操舵制御を、通常操舵制御と呼ぶ場合がある。
【0026】
ここで、転舵アクチュエータ26に異常が生じた場合、転舵アクチュエータ26は、操舵輪22を適切に転舵することができなくなる。
【0027】
そこで、車両1は、転舵アクチュエータ26の異常に対処するフェールセーフ機能を有している。具体的には、異常検知部40によって転舵アクチュエータ26の異常が検知された場合、操舵制御部42は、クラッチ24に励磁電流を流し、クラッチ24を締結させる。そうすると、ステアリングホイール10は、クラッチ24を介して操舵輪22と機械的に連結される。これにより、運転者は、ステアリングホイール10およびクラッチ24を通じて操舵輪22を直接的に転舵可能となる。その結果、転舵アクチュエータ26に異常が生じても、運転者は、車両1を操舵できる。
【0028】
図2は、操舵角と転舵角との関係を説明する図である。
図2において、実線A10は、クラッチ24が開放状態のときの操舵角と転舵角との関係の一例を示している。一点鎖線A12は、操舵角が基準操舵角のときにクラッチ24が締結された場合の操舵角と転舵角との関係の一例を示している。破線A14は、操舵角が基準操舵角ではないときにクラッチ24が締結された場合の操舵角と転舵角の関係の一例を示している。
【0029】
実線A10で示すように、クラッチ24が開放状態のとき、すなわち、通常操舵制御を行っているとき、操舵角に対する転舵角の関係は曲線的としている。具体的には、操舵角が小さいほど、操舵角に対する転舵角の増加量を少なくし、操舵角が大きくなるほど、操舵角に対する転舵角の増加量を多くしている。このようにしている理由は、直進しているときにステアリングホイール10の少しの操作で自車両が蛇行することを防止するためである。
【0030】
操舵制御部42は、通常操舵制御時、操舵角センサ14で検出された操舵角を、実線A10で示すテーブルや関係式に適用して転舵角を導出する。そして、操舵制御部42は、導出された転舵角に対応する分だけ転舵アクチュエータ26を駆動させる。
【0031】
一方、一点鎖線A12で示すように、クラッチ24が締結されると、操舵角に対する転舵角の関係は直線的となる。具体的には、クラッチ24が締結されると、ピニオンシャフト16は、ステアリングホイール10の操舵角に同期して回転する。ピニオンシャフト16とステアリングロッド18とのラックアンドピニオン機構におけるギア比は、一定とされている。これらより、操舵角に対する転舵角の増加量は、操舵角に依らず一定とされる。
【0032】
ところで、転舵アクチュエータ26の異常は、車両1の旋回中にも生じる可能性がある。このような状況でクラッチ24が締結されると、ステアリングホイール10は、基準操舵角に対して回転した状態で操舵輪22と連結される。
【0033】
例えば、
図2に示すように、基準操舵角(操舵角ゼロ)より大きな操舵角A20のタイミングでクラッチ24が締結されたとする。この場合、操舵角に対する転舵角の関係は、操舵角A20と実線A10との交点A22において曲線的な関係から直線的な関係に切り替わる。そして、交点A22を通る破線A14に沿って操舵角が基準操舵角(操舵角ゼロ)に戻されたとき、丸印A24で示すように、転舵角は、基準転舵角(転舵角ゼロ)に一致しなくなる。つまり、ステアリングホイール10の操舵角が基準操舵角であるにも拘わらず、操舵輪22は、直進方向に対してずれた方向を向いてしまう。そうすると、ステアリングホイール10を通じて直進を指示しているにも拘わらず自車両が旋回するようになり、運転者は、車両1を運転し難くなってしまう。
【0034】
そこで、操舵制御部42は、転舵アクチュエータ26の異常が検知された場合、クラッチ24を締結することに加え、要求方向に車両1が進行するように、左右の操舵輪22のトルクをそれぞれ制御する。要求方向は、ステアリングホイール10によって自車両に要求される進行方向である。
【0035】
図3は、操舵輪22が要求方向に対して右方向を向いている場合における操舵輪22のトルクについて説明する図である。
図3Aは、要求方向が直進方向である場合の一例を示している。
図3Bは、要求方向が右旋回方向である場合の一例を示している。
図3Cは、要求方向が左旋回方向である場合の一例を示している。
図3A~
図3Cでは、要求方向を実線の矢印で示し、操舵輪22の向きに従った進行方向である操舵輪方向を一点鎖線の矢印で示している。また、
図3A~
図3Cでは、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rの相対的なトルクを白抜き矢印で示しており、トルクの高低を白抜き矢印の長さで示している。
【0036】
通常操舵制御では、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rに互いに等しいトルクを与えている。このため、
図3Aで示すように、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rが要求方向に対して右方向を向いていると、車両1は、要求方向に対して右方向を向く操舵輪方向(一点鎖線の矢印の方向)に進行してしまう。
【0037】
そこで、操舵制御部42は、要求方向に対して操舵輪22が向く方向側に位置する操舵輪22(
図3Aでは、右操舵輪22R)のトルクを相対的に高くさせ、要求方向に対して操舵輪22が向く方向とは反対方向側に位置する操舵輪22(
図3Aでは、左操舵輪22L)のトルクを相対的に低くさせる。そうすると、操舵輪22は要求方向に対して右方向を向いているが、左操舵輪22Lに対して右操舵輪22Rのトルクが高いため、車両1は、操舵輪方向に対して左方向にずれた方向に進行することとなる。そして、左操舵輪22Lのトルクの配分に対して右操舵輪22Rのトルクの配分を適切に高くすることで、車両1は、要求方向に一致する方向に進行可能となる。
【0038】
左右の操舵輪22のトルクの配分をこのように変えると、操舵角が基準操舵角のときの転舵角が基準転舵角に一致していなくても、
図3Aで示すように、要求方向である直進方向に車両1を進行させることができる。
【0039】
また、ステアリングホイール10によって右旋回が要求されたとしても、左操舵輪22Lのトルクの配分に対して右操舵輪22Rのトルクの配分を適切に高くすることで、
図3Bで示すように、要求される旋回半径で車両1を右旋回させることができる。
【0040】
また、ステアリングホイール10によって左旋回が要求されたとしても、左操舵輪22Lのトルクの配分に対して右操舵輪22Rのトルクの配分を適切に高くすることで、
図3Cで示すように、要求される旋回半径で車両1を左旋回させることができる。
【0041】
図4は、操舵輪22が要求方向に対して左方向を向いている場合における操舵輪22のトルクについて説明する図である。
図4Aは、要求方向が直進方向である場合の一例を示している。
図4Bは、要求方向が右旋回方向である場合の一例を示している。
図4Cは、要求方向が左旋回方向である場合の一例を示している。
図4A~
図4Cでは、要求方向を実線の矢印で示し、操舵輪22の向きに従った進行方向である操舵輪方向を一点鎖線の矢印で示している。また、
図4A~
図4Cでは、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rの相対的なトルクを白抜き矢印で示しており、トルクの高低を白抜き矢印の長さで示している。
【0042】
上述のように、通常操舵制御では、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rに互いに等しいトルクを与えている。このため、
図4Aで示すように、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rが要求方向に対して左方向を向いていると、車両1は、要求方向に対して左方向を向く操舵輪方向(一点鎖線の矢印の方向)に進行してしまう。
【0043】
そこで、操舵制御部42は、要求方向に対して操舵輪22が向く方向側に位置する操舵輪22(
図4Aでは、左操舵輪22L)のトルクを相対的に高くさせ、要求方向に対して操舵輪22が向く方向とは反対方向側に位置する操舵輪22(
図4Aでは、右操舵輪22R)のトルクを相対的に低くさせる。そうすると、操舵輪22は要求方向に対して左方向を向いているが、右操舵輪22Rに対して左操舵輪22Lのトルクが高いため、車両1は、操舵輪方向に対して右方向にずれた方向に進行することとなる。そして、右操舵輪22Rのトルクの配分に対して左操舵輪22Lのトルクの配分を適切に高くすることで、車両1は、要求方向に一致する方向に進行可能となる。
【0044】
左右の操舵輪22のトルクの配分をこのように変えると、操舵角が基準操舵角のときの転舵角が基準転舵角に一致していなくても、
図4Aで示すように、要求方向である直進方向に車両1を進行させることができる。
【0045】
また、ステアリングホイール10によって右旋回が要求されたとしても、右操舵輪22Rのトルクの配分に対して左操舵輪22Lのトルクの配分を適切に高くすることで、
図4Bで示すように、要求される旋回半径で車両1を右旋回させることができる。
【0046】
また、ステアリングホイール10によって左旋回が要求されたとしても、右操舵輪22Rのトルクの配分に対して左操舵輪22Lのトルクの配分を適切に高くすることで、
図4Cで示すように、要求される旋回半径で車両1を左旋回させることができる。
【0047】
また、操舵制御部42は、操舵角が基準操舵角であるときの転舵角と基準転舵角との差分の絶対値が大きいほど、左右の操舵輪22のトルク差を大きくする。例えば、操舵制御部42は、
図3A~
図3Cのように、要求方向に対する転舵角の絶対値が右方向に大きくなるほど、右操舵輪22Rの相対的なトルクを、より高くさせ、左操舵輪22Lの相対的なトルクを、より低くさせる。また、操舵制御部42は、
図4A~
図4Cのように、要求方向に対する転舵角の絶対値が左方向に大きくなるほど、左操舵輪22Lの相対的なトルクを、より高くさせ、右操舵輪22Rの相対的なトルクを、より低くさせる。
【0048】
ところで、一般的に、旋回中における外側に位置する操舵輪22は、旋回中における内側に位置する操舵輪22よりも回転速度(車輪速)が高くなる。例えば、車両1が右旋回する場合、左操舵輪22Lの回転速度が、右操舵輪22Rの回転速度より高くなり、車両1が左旋回する場合、右操舵輪22Rの回転速度が、左操舵輪22Lの回転速度より高くなる。
【0049】
例えば、要求方向が直進方向であるにも拘らず、左操舵輪22Lの回転速度が右操舵輪22Rの回転速度より高ければ、車両1は、
図3Aの一点鎖線の矢印で示すように、意図せず右旋回していることを示す。また、要求方向が直進方向であるにも拘らず、右操舵輪22Rの回転速度が左操舵輪22Lの回転速度より高ければ、車両1は、
図4Aの一点鎖線の矢印で示すように、意図せず左旋回していることを示す。
【0050】
ここで、右操舵輪22Rの現在の回転速度に対する左操舵輪22Lの現在の回転速度の比率を、回転速度比と定義する(回転速度比=左操舵輪22Lの現在の回転速度/右操舵輪22Rの現在の回転速度)。また、車両1が要求方向に進行するときの左操舵輪22Lの回転速度を、左操舵輪22Lの目標回転速度と呼び、車両1が要求方向に進行するときの右操舵輪22Rの回転速度を、右操舵輪22Rの目標回転速度と呼ぶ場合がある。また、右操舵輪22Rの目標回転速度に対する左操舵輪22Lの目標回転速度の比率を、目標回転速度比と定義する(目標回転速度比=左操舵輪22Lの目標回転速度/右操舵輪22Rの目標回転速度)。
【0051】
回転速度比が目標回転速度比より大きい場合、左操舵輪22Lの回転速度の比率が想定より高くなっているため、
図3A~
図3Cで示すように、車両1は、要求方向に対して意図せず右方向にずれて進行する。そこで、操舵制御部42は、回転速度比が目標回転速度比より大きい場合、操舵輪22が要求方向に対して右方向に向いているとし、左操舵輪22Lのトルクを相対的に所定量分だけ減少させ、右操舵輪22Rのトルクを相対的に所定量分だけ増加させる。操舵制御部42は、回転速度比が目標回転速度比に等しくなるように、所定制御周期毎に、左右の操舵輪22のトルクの増減を繰り返す。これにより、左操舵輪22Lのトルクの配分に対して右操舵輪22Rのトルクの配分が適切に高くなり、自車両を要求方向に進行させることができる。
【0052】
また、回転速度比が目標回転速度比より小さい場合、右操舵輪22Rの回転速度の比率が想定より高くなっているため、
図4A~
図4Cで示すように、車両1は、要求方向に対して意図せず左方向にずれて進行する。そこで、操舵制御部42は、回転速度比が目標回転速度比より小さい場合、操舵輪22が要求方向に対して左方向に向いているとし、左操舵輪22Lのトルクを相対的に所定量分だけ増加させ、右操舵輪22Rのトルクを相対的に所定量分だけ減少させる。操舵制御部42は、回転速度比が目標回転速度比に等しくなるように、所定制御周期毎に、左右の操舵輪22のトルクの増減を繰り返す。これにより、右操舵輪22Rのトルクの配分に対して左操舵輪22Lのトルクの配分が適切に高くなり、自車両を要求方向に進行させることができる。
【0053】
図5は、操舵制御部42の動作の流れを説明するフローチャートである。操舵制御部42は、所定制御周期の割り込みタイミング毎に
図5の一連の処理を繰り返す。
【0054】
まず、操舵制御部42は、異常検知部40の検知結果が転舵アクチュエータ26の異常を示すものであるか否かを判断する(S100)。
【0055】
転舵アクチュエータ26の異常を示すものではない場合(S100におけるNO)、操舵制御部42は、通常操舵制御を行い(S110)、一連の処理を終了する。通常操舵制御の流れについては、後述する。
【0056】
転舵アクチュエータ26の異常を示すものである場合(S100におけるYES)、操舵制御部42は、クラッチ24を締結する(S120)。次に、操舵制御部42は、左右の操舵輪22におけるトルクの配分を制御するベクタリング制御を行い(S130)、一連の処理を終了する。ベクタリング制御の流れについては、後述する。
【0057】
図6は、通常操舵制御の流れを説明するフローチャートである。まず、操舵制御部42は、操舵角センサ14から操舵角を取得する(S200)。次に、操舵制御部42は、取得された操舵角に基づいて目標転舵角を導出する(S210)。具体的には、操舵制御部42は、取得された操舵角を、操舵角と転舵角とが関連付けられたテーブルや関係式に適用して目標転舵角を導出する。次に、操舵制御部42は、転舵角が目標転舵角となるように転舵アクチュエータ26を駆動させ(S220)、一連の処理を終了する。
【0058】
図7は、ベクタリング制御の流れを説明するフローチャートである。まず、操舵制御部42は、左操舵輪22Lの車輪速センサ32から左操舵輪22Lの回転速度を取得し、右操舵輪22Rの車輪速センサ32から右操舵輪22Rの回転速度を取得する(S300)。次に、操舵制御部42は、左操舵輪22Lの回転速度および右操舵輪22Rの回転速度に基づいて回転速度比を導出する(S310)。
【0059】
次に、操舵制御部42は、操舵角センサ14から操舵角を取得する(S320)。次に、操舵制御部42は、取得された操舵角に基づいて、左操舵輪22Lの目標回転速度および右操舵輪22Rの目標回転速度を導出する(S330)。具体的には、操舵制御部42は、取得された操舵角に正規に対応する目標転舵角を、操舵角と転舵角との関係を示すテーブルや関係式を用いて導出する。操舵制御部42は、目標転舵角に対応する左操舵輪22Lの目標回転速度および右操舵輪22Rの目標回転速度を、転舵角と左右の操舵輪22の回転速度との関係を示すテーブルや関係式を用いて導出する。
【0060】
次に、操舵制御部42は、左操舵輪22Lの目標回転速度および右操舵輪22Rの目標回転速度に基づいて目標回転速度比を導出する(S340)。
【0061】
次に、操舵制御部42は、回転速度比が目標回転速度比に等しいか否かを判断する(S350)。
【0062】
回転速度比が目標回転速度比に等しい場合(S350におけるYES)、操舵制御部42は、右操舵輪22Rに対する左操舵輪22Lのトルクの配分比を維持させる(S360)。その後、操舵制御部42は、維持されたトルクの配分比および要求トルクに従って、左操舵輪22Lの目標トルクおよび右操舵輪22Rの目標トルクを導出する(S370)。そして、操舵制御部42は、左操舵輪22Lのトルクが目標トルクとなるように左駆動モータ30Lを駆動させつつ、右操舵輪22Rのトルクが目標トルクとなるように右駆動モータ30Rを駆動させ(S380)、一連の処理を終了する。
【0063】
また、回転速度比が目標回転速度比に等しくない場合(S350におけるNO)、操舵制御部42は、回転速度比が目標回転速度比より大きいか否かを判断する(S390)。つまり、ここでは、左操舵輪22Lの現在の回転速度の比率が、左操舵輪22Lの目標回転速度の比率より大きいか否かが判断される。
【0064】
回転速度比が目標回転速度比より大きい場合(S390におけるYES)、操舵制御部42は、自車両が要求方向に対して右方向にずれて進行しているとして、左操舵輪22Lのトルクの比率を相対的に所定量分だけ減少させ、右操舵輪22Rのトルクの比率を相対的に所定量分だけ増加させる(S400)。
【0065】
また、回転速度比が目標回転速度比より大きくない場合(S390におけるNO)、操舵制御部42は、自車両が要求方向に対して左方向にずれて進行しているとして、左操舵輪22Lのトルクの比率を相対的に所定量分だけ増加させ、右操舵輪22Rのトルクの比率を相対的に所定量分だけ減少させる(S410)。
【0066】
ステップS400またはステップS410の後、操舵制御部42は、変更後のトルクの配分比および要求トルクに従って、左操舵輪22Lの目標トルクおよび右操舵輪22Rの目標トルクを導出する(S370)。そして、操舵制御部42は、左操舵輪22Lのトルクが目標トルクとなるように左駆動モータ30Lを駆動させつつ、右操舵輪22Rのトルクが目標トルクとなるように右駆動モータ30Rを駆動させ(S380)、一連の処理を終了する。
【0067】
以上のように、第1実施形態の車両1では、転舵アクチュエータ26に異常が生じた場合、クラッチ24が締結される。そして、操舵制御部42は、要求方向に対して操舵輪22が向く方向側に位置する操舵輪22のトルクを相対的に高くさせ、要求方向に対して操舵輪22が向く方向とは反対方向側に位置する操舵輪22のトルクを相対的に低くさせる。これにより、操舵角が基準操舵角に戻ったときに転舵角が基準転舵角から傾斜する状態でステアリングホイール10と操舵輪22とが連結されているとしても、自車両を要求方向に進行させることが可能となる。
【0068】
したがって、第1実施形態の車両1によれば、転舵アクチュエータ26に異常が生じたとしても、操舵に関する性能の低下を抑制することが可能となる。
【0069】
また、第1実施形態の車両1の操舵制御部42は、回転速度比が目標回転速度比に等しくなるように、左右の操舵輪22におけるトルクの配分比を制御する。このため、第1実施形態の車両1では、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rのトルクの配分を適切に行うことができ、自車両を的確に要求方向に進行させることが可能となる。
【0070】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態による車両100の構成を示す概略図である。第2実施形態の車両100は、転舵アクチュエータ26の異常を検知した後の制御の一部が、第1実施形態の車両1と異なる。以下では、第1実施形態と共通する構成および動作については説明を省略し、異なる構成および動作について詳述する。
【0071】
例えば、操舵角が基準操舵角ではないときに転舵アクチュエータ26の異常が生じてクラッチ24が締結されたとする。そして、要求方向が直進方向となったとき、操舵輪22の向きは、直進方向(要求方向)に対して右方向にずれているとする。この状態において、操舵制御部42は、右操舵輪22Rのトルクを相対的に高くさせ、左操舵輪22Lのトルクを相対的に低くさせるようなベクタリング制御を行う。この場合、自車両を要求方向に進行させることはできるが、操舵輪22は、要求方向に対して右方向にずれた状態で維持されたままである。
【0072】
ところで、旋回などのように、転舵角が基準転舵角に対して傾斜している(操舵輪22が直進方向を向いていない)状態で走行すると、操舵輪22には、操舵輪22の向きを直進方向に戻そうとする力が働く。以後、操舵輪22の向きを直進方向に戻そうとする作用をセルフステアと呼ぶ場合がある。
【0073】
第2実施形態の操舵制御部42は、ベクタリング制御を行うことに加え、操舵角が基準操舵角のときの転舵角のずれを、セルフステアを利用して直進走行中に修正する。具体的には、操舵制御部42は、自車両が所定速度以上で直進走行している場合、クラッチ24を半締結にする。
【0074】
図8の二点鎖線のようにセルフステアが操舵輪22に作用すると、ステアリングロッド18は左右方向の中心に戻ろうとし、ピニオンシャフト16は、ステアリングロッド18の戻りに従って回転しようとする。クラッチ24が半締結にされると、ステアリングシャフト12に対してピニオンシャフト16が滑って回転可能となる。そうすると、ステアリングホイール10の操舵角が基準操舵角に維持された状態で、操舵輪22の向きが直進方向となるように徐々に修正される。その結果、操舵角が基準操舵角のときの転舵角が基準転舵角に修正される。
【0075】
操舵制御部42は、所定制御周期毎にベクタリング制御を行うため、操舵輪22の向きが修正される過程においても、左操舵輪22Lと右操舵輪22Rとのトルクの配分を逐次調整することができる。このため、車両100では、転舵角の修正中においても、要求方向への進行が妨げられない。
【0076】
また、操舵制御部42は、クラッチ24が半締結の状態で、操舵角が基準操舵角から変化した場合、クラッチ24を半締結から締結状態に変化させてもよい。これにより、車両100では、転舵角の修正中に旋回の要求があった場合には、転舵角の修正を中断させて、自車両を旋回させることができる。
【0077】
また、操舵制御部42は、転舵角の修正が完了した場合、クラッチ24を半締結から締結状態に戻してもよい。
【0078】
図9は、第2実施形態の操舵制御部42の動作を説明するフローチャートである。操舵制御部42は、異常検知部40の検知結果が転舵アクチュエータ26の異常を示すものである場合、
図9の一連の処理を所定制御周期毎に繰り返す。
【0079】
まず、操舵制御部42は、速度センサ34から自車両の速度を取得する(S500)。次に、操舵制御部42は、取得された自車両の速度が所定速度以上であるか否かを判断する(S510)。所定速度は、例えば、10km/hなどのように、セルフステアが適切に作用する速度に設定される。
【0080】
自車両の速度が所定速度以上である場合(S510におけるYES)、操舵制御部42は、操舵角センサ14から操舵角を取得する(S520)。次に、操舵制御部42は、操舵角が基準操舵角(操舵角ゼロ)であるか否かを判断する(S530)。
【0081】
操舵角が基準操舵角である場合(S530におけるYES)、操舵制御部42は、転舵角センサ28から転舵角を取得する(S540)。次に、操舵制御部42は、転舵角が基準転舵角(転舵角ゼロ)であるか否かを判断する(S550)。
【0082】
転舵角が基準転舵角ではない場合(S550におけるNO)、操舵制御部42は、クラッチ24を半締結にさせる(S560)。これにより、セルフステアが作用することとなる。そして、操舵制御部42は、第1実施形態の
図7と同様のベクタリング制御を行う(S130)。
【0083】
また、自車両の速度が所定速度以上ではない場合(S510におけるNO)、操舵制御部42は、クラッチ24を締結させ(S580)、ベクタリング制御(S130)を行い、一連の処理を終了する。この場合、セルフステアが適切に作用しないため、クラッチ24を半締結にさせず締結させる。
【0084】
操舵角が基準操舵角ではない場合(S530におけるNO)、操舵制御部42は、クラッチ24を締結させ(S580)、ベクタリング制御を行い(S130)、一連の処理を終了する。この場合、自車両が直進走行していないため、クラッチ24を半締結にさせず締結させる。
【0085】
転舵角が基準転舵角である場合(S550におけるYES)、操舵制御部42は、クラッチ24を締結させ(S580)、ベクタリング制御を行い(S130)、一連の処理を終了する。この場合、転舵角の修正が完了しているため、クラッチ24を半締結にさせず締結させる。なお、この場合、転舵角の修正が完了しているため、ベクタリング制御を省略してもよい。
【0086】
以上のように、第2実施形態の車両100の操舵制御部42は、第1実施形態と同様にベクタリング制御を行う。したがって、第2実施形態の車両100によれば、第1実施形態と同様に、転舵アクチュエータ26に異常が生じたとしても、操舵に関する性能の低下を抑制することが可能となる。
【0087】
また、第2実施形態の車両100の操舵制御部42は、自車両が直進走行している状態において、操舵輪22の転舵角が直進方向を示す基準転舵角となっていなければ、クラッチ24を半締結にさせる。これにより、第2実施形態の車両100では、操舵角が基準操舵角のときの転舵角が基準転舵角に修正される。このため、第2実施形態の車両100では、転舵角の修正後、ベクタリング制御を省略したとしても、自車両の進行方向を確実に要求方向とすることができる。
【0088】
(第3実施形態)
図10は、第3実施形態による車両200の構成を示す概略図である。以下では、第1実施形態および第2実施形態と共通する構成および動作については説明を省略し、異なる構成および動作について詳述する。
【0089】
図10で示すように、車両200は、車輪210および制動装置212を含む。車輪210は、操舵輪22以外の車輪であり、例えば、後輪である。制動装置212は、車輪210に設けられており、車輪210の制動を行う。
【0090】
例えば、操舵角が基準操舵角ではないときに転舵アクチュエータ26の異常が生じてクラッチ24が締結されたとする。その後、運転者は、操舵角を基準操舵角として車両200を停止させたとする。このとき、左右の操舵輪22は、直進方向に対して右方向を向いているとする。第3実施形態の操舵制御部42は、自車両の停止中(停車中)において、左右の操舵輪22の向き(転舵角)を修正する。
【0091】
具体的には、操舵制御部42は、制動装置212に車輪210を制動させて自車両の停止を確実に維持させる。この状態で、操舵制御部42は、クラッチ24を開放させる。そして、操舵制御部42は、左右の操舵輪22を互いに逆方向に回転させる。これにより、ステアリングホイール10を回転させることなく、自車両を停止させた状態で、左右の操舵輪22が据え切りされる。以後、左右の操舵輪22を互いに逆方向に回転させて据え切りさせる制御を、据え切り修正制御と呼ぶ場合がある。
【0092】
例えば、操舵輪22におけるキングピンオフセットが操舵輪22の幅方向中心に対して内側にあるとする。キングピンオフセットは、操舵輪22の連結部分におけるキングピン軸と操舵輪22の接地面との交点と、操舵輪22の幅方向中心とのずれを示す。操舵制御部42は、キングピンオフセットを予め記憶している。
【0093】
キングピンオフセットが内側にあり、左右の操舵輪22が右方向を向いている場合、操舵制御部42は、直進方向に対して操舵輪22が向く方向側に位置する右操舵輪22Rを前転させ、直進方向に対して操舵輪22が向く方向とは反対方向側に位置する左操舵輪22Lを後転させる。そうすると、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rは、各々におけるアーム20との連結部を中心に、水平方向時計回りに回転される。これにより、自車両が停止した状態で、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rは、向きが左方向に変化していく。その結果、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rの向きが直進方向に修正される。つまり、操舵角が基準操舵角のときの転舵角が、基準転舵角に修正される。
【0094】
なお、キングピンオフセットが内側にあり、左右の操舵輪22が左方向を向いている場合、操舵制御部42は、左操舵輪22Lを前転させ、右操舵輪22Rを後転させる。また、キングピンオフセットが外側にある場合、操舵制御部42は、左操舵輪22Lおよび右操舵輪22Rを、キングピンオフセットが内側にあるときの回転方向とは反対方向に各々回転させる。
【0095】
また、操舵制御部42は、自車両が停止しており、かつ、シフトポジションがPレンジである場合に据え切り修正制御を行ってもよい。この態様では、より安全に転舵角の修正を行うことができる。また、操舵制御部42は、転舵角の修正中において、シフトポジションがDレンジなどに変化した場合や自車両の速度がゼロではなくなった場合、据え切り修正制御を中断してクラッチ24を締結させてもよい。
【0096】
また、操舵制御部42は、所定の条件を満たした場合に自動で据え切り修正制御を行う態様に限らず、運転者による実行指示に応じて据え切り修正制御を行ってもよい。また、操舵制御部42は、据え切り修正制御を開始する旨や実行中である旨を、音声や表示などで報知することで、運転者に対して注意を喚起してもよい。
【0097】
図11は、第3実施形態の操舵制御部42の動作を説明するフローチャートである。操舵制御部42は、異常検知部40の検知結果が転舵アクチュエータ26の異常を示すものである場合、
図11の一連の処理を所定制御周期毎に繰り返す。
【0098】
まず、操舵制御部42は、自車両の速度を取得する(S600)。次に、操舵制御部42は、自車両の速度がゼロであるか否かを判断する(S610)。自車両の速度がゼロである場合(S610におけるYES)、操舵制御部42は、操舵角センサ14から操舵角を取得する(S620)。次に、操舵制御部42は、操舵角が基準操舵角(操舵角ゼロ)であるか否かを判断する(S630)。
【0099】
操舵角が基準操舵角である場合(S630におけるYES)、操舵制御部42は、転舵角センサ28から転舵角を取得する(S640)。次に、操舵制御部42は、転舵角が基準転舵角(転舵角ゼロ)であるか否かを判断する(S650)。
【0100】
転舵角が基準転舵角ではない場合(S650におけるNO)、操舵制御部42は、制動装置212に操舵輪22以外の車輪210を制動させる(S660)。次に、操舵制御部42は、クラッチ24を開放させる(S660)。
【0101】
次に、操舵制御部42は、左右の操舵輪22を互いに逆回転させる据え切り修正制御を行い(S670)、一連の処理を終了する。この際、操舵制御部42は、ステップS640で取得された転舵角の符号(例えば、正符号が右方向を示し、負符号が左方向を示す)によって、操舵輪22が右方向を向いているか、あるいは、左方向を向いているかを認識してもよい。操舵制御部42は、キングピンオフセットの方向と、操舵輪22の向いている方向(転舵角の符号)とに基づいて、左右の操舵輪22の回転方向を各々決定する。そして、操舵制御部42は、左右の操舵輪22が各々決定された回転方向に回転するように左右の駆動モータ30を駆動させる。
【0102】
また、自車両の速度がゼロではない場合(S610におけるNO)、操舵制御部42は、クラッチ24を締結させ(S680)、ベクタリング制御を行い(S130)、一連の処理を終了する。この場合、車両200が停止していないため、据え切り修正制御は行われない。なお、ベクタリング制御は、第1実施形態の
図7と同様である。
【0103】
操舵角が基準操舵角ではない場合(S630におけるNO)、操舵制御部42は、クラッチ24を締結させ(S680)、ベクタリング制御を行い(S130)、一連の処理を終了する。この場合、操舵角が基準操舵角ではないため、据え切り修正制御を行ったとしても操舵角に対する転舵角が適切に修正されない。このため、この場合、据え切り修正制御は行われない。
【0104】
転舵角が基準転舵角である場合(S650におけるYES)、操舵制御部42は、クラッチ24を締結させ(S680)、ベクタリング制御を行い(S130)、一連の処理を終了する。この場合、転舵角の修正が完了しているため、据え切り修正制御は行われない。なお、この場合、転舵角の修正が完了しているため、ベクタリング制御を省略してもよい。
【0105】
以上のように、第3実施形態の車両200の操舵制御部42は、第1実施形態と同様にベクタリング制御を行う。したがって、第3実施形態の車両200によれば、第1実施形態と同様に、転舵アクチュエータ26に異常が生じたとしても、操舵に関する性能の低下を抑制することが可能となる。
【0106】
また、第3実施形態の車両200の操舵制御部42は、自車両が停止している状態において、操舵輪22の転舵角が直進方向を示す基準転舵角となっていなければ、クラッチ24を開放させ、左右の操舵輪22を互いに逆方向に回転させる。これにより、第3実施形態の車両200では、操舵角が基準操舵角のときの転舵角が基準転舵角に修正される。このため、第3実施形態の車両200では、転舵角の修正後、ベクタリング制御を省略したとしても、自車両の進行方向を確実に要求方向とすることができる。
【0107】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0108】
例えば、上記各実施形態では、左操舵輪22Lを駆動する左駆動モータ30Lと、右操舵輪22Rを駆動する右駆動モータ30Rとが設けられていた。しかし、左右の操舵輪22の各々を互いに異なるトルクで駆動可能とする構成は、この例に限らない。例えば、左右の操舵輪22にドライブシャフトを通じて共通の駆動モータ30が接続され、ドライブシャフトにクラッチが設けられ、このクラッチの締結力を変化させることで、左右の操舵輪22におけるトルクの配分を変化させてもよい。また、例えば、左右の操舵輪22に共通の駆動モータ30が接続され、左操舵輪22Lを制動する制動装置と右操舵輪22Rを制動する制動装置とを個別に制御することで、左右の操舵輪22におけるトルクの配分を変化させてもよい。
【0109】
また、上記各実施形態では、操舵輪22の現在の回転速度比が目標回転速度比に等しくなるように、左右の操舵輪22におけるトルクの配分比を調整していた。しかし、トルクの配分比を調整する具体的な方法は、この例に限らない。例えば、操舵制御部42は、操舵角から自車両の将来の要求経路を予測し、現在の転舵角から自車両の将来の進行経路を予測し、将来の進行経路が将来の要求経路に一致するように、左右の操舵輪22におけるトルクの配分比を調整してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明は、ステアバイワイヤ機能を備える車両に利用できる。
【符号の説明】
【0111】
1 車両
10 ステアリングホイール
14 操舵角センサ
22 操舵輪
24 クラッチ
26 転舵アクチュエータ
30 駆動モータ
40 異常検知部
42 操舵制御部