IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャープ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-トナー、2成分現像剤及び画像形成装置 図1
  • 特許-トナー、2成分現像剤及び画像形成装置 図2
  • 特許-トナー、2成分現像剤及び画像形成装置 図3
  • 特許-トナー、2成分現像剤及び画像形成装置 図4
  • 特許-トナー、2成分現像剤及び画像形成装置 図5
  • 特許-トナー、2成分現像剤及び画像形成装置 図6
  • 特許-トナー、2成分現像剤及び画像形成装置 図7
  • 特許-トナー、2成分現像剤及び画像形成装置 図8
  • 特許-トナー、2成分現像剤及び画像形成装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】トナー、2成分現像剤及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20230629BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20230629BHJP
【FI】
G03G9/097 365
G03G9/087 331
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019167484
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021043415
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 裕也
(72)【発明者】
【氏名】椿 頼尚
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-167447(JP,A)
【文献】特開2015-118310(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0059561(US,A1)
【文献】特開2019-020492(JP,A)
【文献】国際公開第2018/042903(WO,A1)
【文献】特開2008-209489(JP,A)
【文献】特開2019-120816(JP,A)
【文献】特開2017-003082(JP,A)
【文献】特開2009-116175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含むトナー粒子を有するトナーであって、
前記トナー粒子は、金属石鹸を含み、
前記非晶性ポリエステル樹脂のSP値(溶解度パラメータ)であるSPa〔(cal/cm1/2〕と、前記結晶性ポリエステル樹脂のSP値であるSPb〔(cal/cm1/2〕とが、
1.3≦SPa-SPb≦1.8
の関係を満たし、
前記トナー粒子中の前記金属石鹸の平均分散径は、0.5μm~2.0μmの範囲内であることを特徴とするトナー。
【請求項2】
請求項1に記載のトナーであって、
前記金属石鹸の前記結晶性ポリエステル樹脂に対する添加量は、5重量%~20重量%の範囲内であることを特徴とするトナー。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のトナーであって、
前記金属石鹸の融点は、145℃以下であることを特徴とするトナー。
【請求項4】
請求項1から請求項までの何れか1つに記載のトナーであって、
前記結晶性ポリエステル樹脂の結晶化度は、0.7~0.9であることを特徴とするトナー。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか1つに記載のトナーと、キャリアとを含むことを特徴とする2成分現像剤。
【請求項6】
請求項に記載の2成分現像剤を用いることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項に記載の画像形成装置であって、
接触型帯電手段を備えたことを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含むトナー粒子を有するトナー及び2成分現像剤に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用した複写機、複合機、プリンタ、ファクシミリ装置などの画像形成装置に使用されるトナー(電子写真用トナー)のなかには、画像形成装置の省エネルギー化に伴う低温定着化と耐熱保存性とを両立させるために、非晶性ポリエステル樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂を熱溶融混練し、得られた溶融混練物を粉砕してトナー粒子を得るものがある(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
ところが、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含むトナー粒子を有するトナーでは、次のような不都合があった。図8及び図9は、従来の不都合を説明するためのトナーTX,TYの断面を模式的に示す断面図である。
【0004】
図8は、非相溶系のトナーTXの断面を示している。非相溶系のトナーTXのように、非晶性ポリエステル樹脂QXのSP値〔溶解度(ソルビリティー)パラメータ〕であるSPaから、結晶性ポリエステル樹脂RXのSP値であるSPbを差し引いた値であるΔSP値を適度に大きくすると(SPaとSPbとを適度に離すと)、結晶性ポリエステル樹脂RXの分散性は微分散し、適度に相溶した状態になる。トナーTXの物性としては非晶性ポリエステル樹脂QXのガラス転位点(Tg)はやや低くなる。ガラス転移点が低くなるため、低温定着性は向上し、耐熱保存性も(微分散かつガラス転移点が耐熱性許容範囲内なので)両立させることができる。さらにΔSP値を大きくすると(SPaとSPbとを離すと)、逆に結晶性ポリエステル樹脂RXの分散径が大きくなり、低温定着性は良化せず、耐熱保存性は非常に悪くなる。そのため、ΔSP値を大きくしすぎると(SPaとSPbとを離しすぎると)、耐熱保存性も悪化してしまう。ΔSP値を適度に離し、結晶性ポリエステル樹脂を微分散させたトナーは、低温定着性と耐熱保存性とは両立できるが、低温定着性に限界がある。
【0005】
一方、図9は、相溶系のトナーTYの断面を示している。相溶系のトナーTYのように、ΔSP値を小さくすると(SPaとSPbとを近づけると)、非晶性ポリエステル樹脂QYと結晶性ポリエステル樹脂RYとが樹脂同士で相溶する。トナーTYの物性としては、ガラス転移点が極端に低下する。このため、低温定着性は向上するが、耐熱保存性は悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-42135号公報
【文献】特開2012-128040号公報
【文献】特開2015-118310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが相溶することにより低温定着性を向上させることができる上、耐熱保存性を向上させることができるトナー、2成分現像剤及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために、鋭意研鑽した結果、次のことを見出した。すなわち、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含むトナー粒子を有するトナーにおいては、非晶性ポリエステル樹脂のSP値であるSPa〔(cal/cm1/2〕から、結晶性ポリエステル樹脂のSP値であるSPb〔(cal/cm1/2〕(SP値の単位は以下の説明では省略することがある。)を差し引いた値であるΔSP値が1.8を超えると、非晶性ポリエステル樹脂の分散径が大きくなり、低温定着性が良化せずに耐熱保存性が悪化する。この点、ΔSP値を1.8以下かつ0.9以上にすることで、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが適度に相溶する。そうすると、低温定着性と耐熱保存性とが両立できるが、低温定着性に限界がある。そこで、本発明では、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含むトナー粒子に結晶核剤として金属石鹸を含有することにより従来よりも低温定着性に対応できる上、低温定着性と耐熱保存性とを両立させることができる。また、ΔSP値が0.9を下回ると、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが相溶し過ぎて金属石鹸の効果を発揮し難い。この点、ΔSP値を0.9以上にし、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含むトナー粒子において、金属石鹸を含有することで、結晶性ポリエステル樹脂を非晶性ポリエステル樹脂に分散させ、結晶性ポリエステルの再結晶化を促進させることができる。これにより、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とをトナーを加熱しない常温状態では相溶させないようにする一方、トナーの定着時に相溶させることができる。
【0009】
本発明に係るトナーは、かかる知見に基づくものであり、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含むトナー粒子を有するトナーであって、前記トナー粒子は、金属石鹸を含み、前記非晶性ポリエステル樹脂のSP値であるSPa〔(cal/cm1/2〕と、前記結晶性ポリエステル樹脂のSP値であるSPb〔(cal/cm1/2〕とが、0.9≦SPa-SPb≦1.8の関係を満たすことを特徴とする。また、本発明に係る2成分現像剤は、前記本発明に係るトナーと、キャリアとを含むことを特徴とする。また、本発明に係る画像形成装置は、前記本発明に係る2成分現像剤を用いることを特徴とする。
【0010】
なお、特許文献3には、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とを含むトナー粒子に結晶核剤として高級脂肪酸金属塩を含有させたトナーが記載されている。しかしながら、特許文献3に記載のトナーでは、低温定着性を向上させることができるものの、-1.0≦SPa-SPb≦0.8とするだけで、0.9≦SPa-SPb≦1.8とするようにはなっていない。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが相溶することにより低温定着性を向上させることができる上、耐熱保存性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施の形態に係るトナーを模式的に示す断面図である。
図2】本実施の形態に係る2成分現像剤で現像する現像装置を備えた画像形成装置の概略構成を模式的に示す断面図である。
図3】金属石鹸が導入されたトナー粒子を有するトナーが定着される様子を模式的に示す断面図である。
図4】実施例1~3の評価結果を比較例1~3と共に示す図表である。
図5】実施例4~8の評価結果を示す図表である。
図6】実施例9~13の評価結果を示す図表である。
図7】実施例1,14の評価結果を示す図表である。
図8】従来の非相溶系のトナーの断面を模式的に示す断面図である。
図9】従来の相溶系のトナーの断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施の形態に係るトナーTを模式的に示す断面図である。
【0014】
図1に示すように、トナーTは、トナー粒子Pと、トナー粒子Pの表面Paに付着する外添剤(図示省略)とを有している。トナー粒子Pは、非晶性ポリエステル樹脂Qと結晶性ポリエステル樹脂Rと金属石鹸Mとを含んでいる。そして、結晶性ポリエステル樹脂Rからなる粒子Ra及び金属石鹸Mからなる粒子Maが、非晶性ポリエステル樹脂Qからなる母相Qa中に分散している。
【0015】
[トナー]
トナー粒子Pの1次粒子の体積平均粒子径は、それには限定されないが、例えば、4.0μm~8.0μm程度を挙げることができる。非晶性ポリエステル樹脂Q及び結晶性ポリエステル樹脂Rは、熱可塑性樹脂である。結晶性ポリエステル樹脂Rは、粒子状となって、非晶性ポリエステル樹脂Qからなる母相Qa中に分散して存在している。
【0016】
非晶性ポリエステル樹脂は、テレフタル酸又はイソフタル酸を主成分として含むジカルボン酸モノマーと、エチレングリコールを主成分として含むジオールモノマーとを重縮合させて得ることができる。
【0017】
結晶性ポリエステル樹脂は、炭素数9~22の脂肪族ジカルボン酸を主成分として含むジカルボン酸モノマーと、炭素数2~10の脂肪族ジオールを主成分として含むジオールモノマーとを重縮合させて得ることができる。
【0018】
非晶性ポリエステル樹脂Qは、75重量%~85重量%の範囲内であることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂Rは、1重量%~10重量%の範囲であることが好ましい。結晶性ポリエステル樹脂Rが1重量%以上であることで、低温定着性を向上させ易くすることができる。結晶性ポリエステル樹脂Rが10重量%以下であることで、トナーTの耐熱保存性を向上させ易くすることができる。
【0019】
さらに、トナー粒子Pは、図示しない、着色剤、電荷制御剤(CCA:Charge Control Agent)及び離型剤等を含み得る。外添剤以外の成分はまとめて内添剤とも呼ばれる。着色剤としては、電子写真分野で用いられる有機系染料、有機系顔料、無機系染料、無機系顔料などを使用できる。電荷制御剤としては、電子写真分野で用いられる正電荷制御用及び負電荷制御用の電荷制御剤を使用できる。離型剤としては、電子写真分野で用いられるワックスを使用することができる。
【0020】
<金属石鹸の種類(微粒子タイプ)>
金属石鹸としては、それには限定されないが、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムやステアリン酸カルシウム等を挙げることができる。これらは、物性として主に融点が異なる。ステアリン酸マグネシウムの融点として110℃~135℃(平均円相当径3μm)、ステアリン酸カルシウムの融点として155℃~165℃(平均円相当径2μm)、ステアリン酸亜鉛の融点として125~135℃(平均円相当径1.5μm)を例示できる。これらのうちステアリン酸亜鉛は、融点と平均円相当径とのバランスがよく、低温定着性と耐熱性との効果を発揮し易い。
【0021】
[トナーの製造方法]
トナーTは、粉砕法により製造することができる。詳しくは、トナーTの製造方法は、混合工程、混練工程、冷却工程、粉砕工程、分級工程及び外添工程を含む。
【0022】
混合工程では、非晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、金属石鹸及び必要に応じてその他の内添剤を混合する。これにより混合物を得る。混練工程では、二軸混練機を用いて混合物を溶融しながら混練して、非晶性ポリエステル樹脂中に、結晶性樹脂、金属石鹸及びその他の内添剤を更に均一に分散させる。これにより混練物を得る。冷却工程では、溶融混練によって得られた混練物を冷却して固化する。
【0023】
粉砕工程では、冷却して固化した固化物を粉砕機によって粉砕する。粉砕機としては、例えば、超音速ジェット気流を利用して粉砕するジェット式粉砕機、及び、高速で回転する回転子(ロータ)と固定子(ライナ)との間に形成される空間に固化物を導入して粉砕する衝撃式粉砕機が挙げられる。粉砕工程では、粉砕条件を適宜に変更することによって、トナー粒子Pの平均円形度を調整することができる。粉砕条件の変更の一例として、衝撃式粉砕機の回転子の回転数を1000rpmから10000rpmまでの範囲内で変更することを挙げることができる。
【0024】
分級工程では、粉砕物の粒度調整を行う。これによってトナー粒子Pが得られる。分級機としては、遠心力による分級及び風力による分級によって、過粉砕されたトナー粒子Pを除去できる公知の分級機を使用することができる。例えば、旋回式風力分級機(ロータリー式風力分級機)などを使用することができる。外添工程では、トナー粒子Pと外添剤とをヘンシェルミキサなどの粉体混合機で混合することによって、トナー粒子Pに外添剤を付着させる。これにより、トナーTを得る。外添工程では、混合条件を適宜に変更することによって、トナー粒子Pに対する外添剤の付着強度を調整することができる。混合条件の変更の一例として、粉体混合機の攪拌羽根の回転数を1000rpmから1500rpmまでの範囲内で変更することを挙げることができる。
【0025】
[2成分現像剤]
本実施の形態に係る2成分現像剤において、本実施の形態に係るトナーTと、キャリア(図示せず)とを含む。2成分現像剤は、公知の混合機を用いて、トナーTとキャリアとを混合することによって製造できる。トナーTとキャリアの重量比は、特に限定されないが、例えば3:97~12:88を挙げることができる。
【0026】
[画像形成装置]
図2は、本実施の形態に係る2成分現像剤DVで現像する現像装置40を備えた画像形成装置100の概略構成を模式的に示す断面図である。
【0027】
図2に示すように、画像形成装置100は、像担持体として作用する感光体ドラム10と、帯電装置90(接触型帯電手段)と、露光装置30と、現像装置40と、転写帯電装置50と、クリーニング装置60と、定着装置70とを備えている。帯電装置90は、感光体ドラム10の表面10aを帯電させる。露光装置30は、帯電装置90によって帯電された感光体ドラム10を露光して静電潜像を形成する。現像装置40は、露光装置30によって形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する。転写帯電装置50は、現像装置40によって形成されたトナー像を記録紙等の記録媒体S上に転写する。クリーニング装置60は、感光体ドラム10に残留するトナーを除去し回収する。定着装置70は、転写帯電装置50によって転写されたトナー像を記録媒体S上に定着して画像を形成する。この例では、画像形成装置100は、モノクロのプリンタ(具体的にはレーザプリンタ)とされている。なお、画像形成装置100は、例えば、カラー画像を形成できる中間転写方式のカラー画像形成装置であってもよい。また、画像形成装置100は、この例では、プリンタとしたが、例えば、複写機、複合機又はファクシミリ装置であってもよい。
【0028】
感光体ドラム10は、基体11が画像形成装置100の本体フレーム(図示せず)に回転自在に支持され、図示を省略した駆動手段によって回転軸線γ回りに所定の回転方向G1(図中時計方向)に回転駆動される。
【0029】
帯電装置90は、帯電部材として作用する帯電ローラ20を備えている。帯電ローラ20は、感光体ドラム10の表面10aに接触する。帯電装置90は、高電圧印加装置24にて感光体ドラム10の表面10aを所定の電位に一様に帯電させる。帯電ローラ20は、感光体ドラム10の回転に伴って回転方向G1とは反対方向G2に従動回転する。帯電ローラ20は、回転軸21と、回転軸21上に形成された円筒状の弾性部材22と、弾性部材22上に形成された抵抗層23を備えている。帯電ローラ20の外径としては、それには限定されないが、8mm~14mm程度を例示できる。回転軸21としては、例えば、金属材料を用いることができる。弾性部材22は、感光体ドラム10に対する給電を確保するために適当な導電性を有している。抵抗層23は、帯電ローラ20全体の電気抵抗を調整することができる。
【0030】
露光装置30は、画像情報に基づいて変調された光を回転駆動される感光体ドラム10の表面10aに主走査方向である感光体ドラム10の回転軸線γ方向に繰り返し走査する。現像装置40は、現像ローラ41と、現像槽42とを備えている。現像ローラ41は、感光体ドラム10の表面10aに2成分現像剤DVを供給する。現像槽42は、2成分現像剤DVを収容する。転写帯電装置50は、高電圧印加装置51にて感光体ドラム10と転写帯電装置50との間に形成される転写ニップ部TNに所定の高電圧を印加する。クリーニング装置60は、クリーニングブレード61と、回収用ケーシング62とを備えている。クリーニングブレード61は、感光体ドラム10の表面10aに残留するトナーを除去する。回収用ケーシング62は、クリーニングブレード61によって除去されたトナーを収容する。定着装置70は、加熱ローラ71と、加圧ローラ72とを備えている。加圧ローラ72は、加熱ローラ71に押圧されて定着ニップ部FNを形成する。また、画像形成装置100は、画像形成装置100を構成する各構成要素を収容する筐体80さらに備えている。なお、図2において、符号Fは記録媒体Sの搬送方向を示している。
【0031】
[キャリア]
キャリアは、現像槽42内でトナーTと撹拌及び混合され、トナーTに所望の電荷を与える。また、キャリアは、図2に示す現像装置40と感光体ドラム10との間で電極として働き、電荷を帯びたトナーTを感光体ドラム10上の静電潜像に運び、トナー像を形成させる役割を果たす。キャリアは、磁気力により現像装置40の現像ローラ41上に保持され、現像に作用した後、再び現像槽42に戻り、新たなトナーTと再び撹拌及び混合されて寿命まで繰り返し使用される。
【0032】
キャリアは、キャリア芯材と、キャリア芯材を被覆する樹脂層とを有している。キャリア芯材としては、電子写真分野で用いられるものであれば特に限定されない。キャリア芯材の材料の具体例として、鉄、銅、ニッケル、コバルトなどの磁性金属、フェライト及びマグネタイトなどの磁性金属酸化物などを挙げることができる。キャリア芯材の体積平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、30μm~100μmを挙げることができる。樹脂層は、シリコーン樹脂を含むことが好ましい。シリコーン樹脂は、トナーTの消耗を抑制することができる。樹脂層は、フッ素樹脂を含む。フッ素樹脂の具体例として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)及びエチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)を挙げることができる。
【0033】
(本実施の形態について)
本実施の形態に係るトナーTは、トナー粒子Pが金属石鹸Mを含み、非晶性ポリエステル樹脂QのSP値であるSPa〔(cal/cm1/2〕と、結晶性ポリエステル樹脂RのSP値であるSPb〔(cal/cm1/2〕とが、0.9≦SPa-SPb≦1.8の関係を満たす。
【0034】
本実施の形態によれば、非晶性ポリエステル樹脂Qと結晶性ポリエステル樹脂Rとを含むトナー粒子Pにおいて、金属石鹸Mを含有することで、非晶性ポリエステル樹脂Qと結晶性ポリエステル樹脂RとをトナーTを加熱しない常温状態では相溶させないようにする一方、トナーTの定着時に相溶させることができる。これにより、低温定着性を向上させることができる上、耐熱保存性を向上させることができる。
【0035】
図3は、金属石鹸Mが導入されたトナー粒子Pを有するトナーTが定着される様子を模式的に示す断面図である。図3に示すように、金属石鹸Mが導入されたトナー粒子Pを有するトナーTは、常温状態では非相溶となり、耐熱保存性を向上させることができる。一方、定着時では非晶性ポリエステル樹脂Qと結晶性ポリエステル樹脂Rとが相溶させることができ、低温定着性を向上させることができる。
【0036】
ところで、結晶性ポリエステル樹脂Rの再結晶化が促進されないと、感光体ドラム10(感光体)の表面10aにトナーTが溶着する現象、いわゆるフィルミングが発生するという課題がある。例えば、感光体ドラム10の表面10aに接触させて感光体ドラム10の表面10aを帯電する帯電装置90(接触型帯電手段)により感光体ドラム10を帯電する場合、感光体ドラム10に圧力がかかり、感光体ドラム10の表面10aに傷が発生する。そうすると、感光体ドラム10の表面10aに結晶性ポリエステル樹脂R成分が付着し易くなる。このことは、本実施の形態のような接触型帯電手段を備えた画像形成装置100において特に顕著となる。
【0037】
この点、本実施の形態では、結晶性ポリエステル樹脂Rの再結晶化を促進せることができる。これにより、フィルミングの発生を抑制することができる。例えば、帯電装置90(接触型帯電手段)により感光体ドラム10に圧力がかかり、たとえ感光体ドラム10の表面10aに傷が発生しても、感光体ドラム10の表面10aに結晶性ポリエステル樹脂R成分を付着し難くすることができ、これにより、フィルミングの発生を抑制することができる。しかも、金属石鹸Mの滑剤作用により感光体ドラム10のクリーニング性を向上させることができ、これによっても、フィルミングの発生を抑制することができる。これらのことは、本実施の形態のような接触型帯電手段を備えた画像形成装置100において特に有効となる。
【0038】
ところで、トナー粒子P中の金属石鹸Mの平均分散径が0.5μmを下回るか、或いは、2.0μmを超えると、結晶性ポリエステル樹脂Rの再結晶化が進み難くなる。
【0039】
この点、本実施の形態において、トナー粒子P中の金属石鹸Mの平均分散径は、0.5μm~2.0μmの範囲内である。こうすることで、結晶性ポリエステル樹脂Rの再結晶化を進み易くすることができ、これにより、耐熱保存性を向上させることができる。しかも、耐熱保存性と低温定着性との両立を確実に実現させることができる。
【0040】
本実施の形態において、金属石鹸Mの結晶性ポリエステル樹脂Rに対する添加量は、5重量%~20重量%の範囲内である。こうすることで、結晶性ポリエステル樹脂Rの再結晶化をより進み易くすることができ、これにより、耐熱保存性をさらに向上させることができる。
【0041】
本実施の形態において、非晶性ポリエステル樹脂Qと結晶性ポリエステル樹脂Rと結晶核材とを含むトナーT(結晶核材を入れたトナーT)中の結晶性ポリエステル樹脂Rの結晶化度は、0.7~0.9であることが望ましい。非晶性ポリエステル樹脂Qと結晶性ポリエステル樹脂Rと結晶核材とを含むトナーT中の結晶性ポリエステル樹脂Rの結晶化度が0.7未満であると、再結晶化があまり進まず、結晶核剤の効果が十分に発揮し難い。一方、非晶性ポリエステル樹脂Qと結晶性ポリエステル樹脂Rと結晶核材とを含むトナーT中の結晶性ポリエステル樹脂Rの結晶化度が0.9より大きいと、結晶化度が高くなり過ぎ、結晶性ポリエステル樹脂Rの分散径が大きくなってしまうため、耐熱保存性が悪化し易い。
【0042】
本実施の形態において、非晶性ポリエステル樹脂Qと結晶性ポリエステル樹脂Rとを含むトナーT(結晶核材を入れていないトナーT)中の結晶性ポリエステル樹脂Rの結晶化度は、0.2~0.7であることが望ましい。非晶性ポリエステル樹脂Qと結晶性ポリエステル樹脂Rとを含むトナーT中の結晶性ポリエステル樹脂Rの結晶化度が0.2未満であると、相溶し過ぎるため、たとえ結晶核剤を使用しても再結晶化の効果が見込み難い。また、非晶性ポリエステル樹脂Qと結晶性ポリエステル樹脂Rとを含むトナーT中の結晶性ポリエステル樹脂Rの結晶化度が、0.7より大きいと、結晶核剤が無くてもすでに再結晶化が進む。そのため、結晶核剤は必要無い。
【0043】
[結晶化度の測定方法]
トナー中の結晶性ポリエステル樹脂の吸熱量をR(J/g)とする。一方、結晶性ポリエステル樹脂の吸熱量をQ(J/g)とする。トナー中の結晶性ポリエステル樹脂の重量%をMとしたときに結晶化度は下記のように求めることができる。ここで、吸熱量の測定方法は、DSC(Differential Scanning Calorimeter:示差走査熱量測定)による測定方法とする。
【0044】
トナー中の結晶性ポリエステル樹脂の結晶化度=R×100/(M×Q)
(製造例1)
<非晶性ポリエステル樹脂A>
製造例1では、反応槽中に、テレフタル酸440g(2.7モル)、イソフタル酸235g(1.4モル)、アジピン酸7g(0.05モル)、エチレングリコール554g(8.9モル)、重合触媒としてテトラブトキシチタネート0.5gを入れ、210℃で窒素気流下に生成する水とエチレングリコールとを留去しながら5時間反応させた後、666.7Pa(5mmHg)~2666.4Pa(20mmHg)の減圧下に1時間反応させた。次いで、無水トリメリット酸103g(0.54モル)を加え、常圧下で1時間反応させた後、2666.4Pa(20mmHg)~5332.9Pa(40mmHg)の減圧下で反応させ、所定の軟化点で樹脂を取出した。回収されたエチレングリコールは219g(3.5モル)であった。得られた樹脂を室温まで冷却した後、粉砕により粒子化した。これを非晶性ポリエステル樹脂Aとした。非晶性ポリエステル樹脂AのSP値(SPa)は11.0であった。
【0045】
(製造例2)
<非晶性ポリエステル樹脂B>
製造例2では、製造例1と同様とし、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、エチレングリコール量を調整し、非晶性ポリエステル樹脂Bを得た。非晶性ポリエステル樹脂BのSP値(SPa)は11.5であった。
【0046】
(製造例3)
<非晶性ポリエステル樹脂C>
製造例3では、製造例1と同様とし、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、エチレングリコール量を調整し、非晶性ポリエステル樹脂Cを得た。非晶性ポリエステル樹脂CのSP値(SPa)は10.5であった。
【0047】
(製造例4)
<結晶性ポリエステル樹脂A>
製造例4では、反応槽中に、1,6-ヘキサンジオール132g(1.12モル)、1、10-デカンジカルボン酸230g(1.0モル)、及び重合触媒としてテトラブトキシチタネート3gを入れ、210℃で常圧下に生成する水を留去しながら5時間反応させた。次いで、666.7Pa(5mmHg)~2666.4Pa(20mmHg)の減圧下で反応を継続し、酸価が2mgKOH/g以下になったところで樹脂を取り出した。得られた樹脂を室温まで冷却した後、粉砕により粒子化した。これを結晶性ポリエステル樹脂Aとした。結晶性ポリエステル樹脂AのSP値(SPb)は9.7であった。
【0048】
(製造例5)
<結晶性ポリエステル樹脂B>
製造例5では、製造例3と同様とし、1,6-ヘキサンジオール132g1、10-デカンジカルボン酸、及び重合触媒としてテトラブトキシチタネートを調整し、結晶性ポリエステル樹脂Bを得た。結晶性ポリエステル樹脂BのSP値(SPb)は10.1であった。
【0049】
(製造例6)
<結晶性ポリエステル樹脂C>
製造例6では、製造例3と同様とし、1,6-ヘキサンジオール132g1、10-デカンジカルボン酸、及び重合触媒としてテトラブトキシチタネートを調整し、結晶性ポリエステル樹脂Cを得た。結晶性ポリエステル樹脂CのSP値(SPb)は9.1であった。
【0050】
(実施例1)
結着樹脂:非ポリエステル樹脂A(ガラス転移温度62℃、軟化点115℃、重量平均分子量65000)
76重量%
着色剤:着色剤(C.I.Pigment Blue 15:3、DIC製)
7重量%
離型剤:離型剤E(エステル、融点73℃、日油株式会社製、商品名:WEP3)
5重量%
帯電制御剤:サリチル酸系化合物(オリエント化学工業株式会社、商品名:ボントロE84)
1重量%
結晶性ポリエステル樹脂:結晶性ポリエステル樹脂A(融点80℃)
10重量%
金属石鹸(結晶核剤):ステアリン酸亜鉛A(日油株式会社、商品名 MZ-2)
1重量%
ステアリン酸亜鉛Aの物性:透明融点120℃、水分0.5%以下、金属含有率10.0%~11.0%、遊離脂肪酸0.5%以下
ステアリン酸亜鉛Aの添加量は、結晶性ポリエステル樹脂Aに対して0.5重量%にした。ステアリン酸亜鉛Aの平均分散径は、1.5μmであった。
【0051】
ヘンシェルミキサ〔三井鉱山株式会社(現 日本コークス工業株式会社)〕製、型式:FM20C)を用いて、上記の離型剤E以外のトナー原料を5分間、前混合した後、離型剤Eを混合してオープンロール型連続混練機(商品名:MOS320-1800、三井鉱山株式会社製)を用いて溶融混練した。オープンロールの設定条件は、加熱ロールの供給側温度が130℃、排出側温度が100℃、冷却ロールの供給側温度が40℃、排出側温度が25℃であった。加熱ロール及び冷却ロールとしては、ともに直径が320mm、有効長が1550mmであるロールを用い、供給側及び排出側におけるロール間ギャップを何れも0.3mmとした。加熱ロールの回転数を75rpm、冷却ロールの回転数を65rpmとし、トナー原料の供給量を5.0kg/hとした。
【0052】
得られた溶融混練物を、冷却ベルトで冷却させた後、直径2mmのスクリーンを有するスピードミルを用いて粗粉砕し、次いでジェット式粉砕機(日本ニューマチック工業株式会社製、型式:IDS-2)を用いて微粉砕し、さらにエルボージェット分級機(日鉄鉱業株式会社製、型式:EJ-LABO)を用いて分級して、6.7μmのトナー粒子を得た。非晶性ポリエステル樹脂AのSP値(SPa=11.0)から結晶性ポリエステル樹脂AのSP値(SPb=9.7)を差し引いたΔSP値(=SPa-SPb)は1.3であった。
【0053】
(実施例2)
非晶性ポリエステル樹脂Aを結晶性ポリエステル樹脂Bに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。ΔSP値(=11.0-10.1)は0.9であった。
【0054】
(実施例3)
非晶性ポリエステル樹脂Aを非晶性ポリエステル樹脂Bに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。ΔSP値(=11.5-9.7)は1.8であった。
【0055】
(実施例4)
混錬温度を10℃上げたこと以外は実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。ステアリン酸亜鉛Aの平均分散径は0.7μmであった。
【0056】
(実施例5)
実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。ステアリン酸亜鉛Aの平均分散径は0.5μmであった。
【0057】
(実施例6)
ステアリン酸亜鉛Aをステアリン酸亜鉛B(日油株式会社、商品名 ジンクステアレート)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。ステアリン酸亜鉛Bの平均分散径は2.0μmであった。
【0058】
ステアリン酸亜鉛Bの物性:透明融点116~124℃、水分0.8%以下、金属含有率10.5~11.3%、遊離脂肪酸0.5%以下
(実施例7)
混錬温度を10℃下げたこと以外は実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。ステアリン酸亜鉛Aの平均分散径は0.2μmであった。
【0059】
(実施例8)
混錬温度を10℃上げたこと以外は実施例6と同様にして、トナー粒子を得た。
ステアリン酸亜鉛Bの平均分散径は5.0μmであった。
【0060】
(実施例9)
ステアリン酸亜鉛Aの添加量を結晶性ポリエステル樹脂Aに対して10重量%にしたこと以外は実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。
【0061】
(実施例10)
ステアリン酸亜鉛Aの添加量を結晶性ポリエステル樹脂Aに対して5重量%にしたこと以外は実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。
【0062】
(実施例11)
ステアリン酸亜鉛Aの添加量を結晶性ポリエステル樹脂Aに対して20重量%にしたこと以外は実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。
【0063】
(実施例12)
ステアリン酸亜鉛Aの添加量を結晶性ポリエステル樹脂Aに対して1重量%にしたこと以外は実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。
【0064】
(実施例13)
ステアリン酸亜鉛Aの添加量を結晶性ポリエステル樹脂Aに対して30重量%にしたこと以外は実施例1と同様で、トナー粒子を得た。
【0065】
(実施例14)
ステアリン酸亜鉛Aをステアリン酸カルシウムに変えたこと以外は実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。
【0066】
金属石鹸(結晶核剤):ステアリン酸カルシウム(日油株式会社、商品名 MC-2)
ステアリン酸カルシウムの物性:透明融点160℃、水分3.0%以下、金属含有率6.0%~7.0%、遊離脂肪酸0.5%以下
(比較例1)
非晶性ポリエステル樹脂Aを非晶性ポリエステル樹脂Cに変えたこと、ステアリン酸亜鉛Aを添加しないこと以外は実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。この場合のΔSP値(=10.5-9.7)は0.8であった。
【0067】
(比較例2)
非晶性ポリエステル樹脂Aを非晶性ポリエステル樹脂Cに変えたこと以外は実施例1と同様にして、トナー粒子を得た。この場合のΔSP値(=10.5-9.7)は0.8であった。
【0068】
(比較例3)
結晶性ポリエステル樹脂Aを結晶性ポリエステル樹脂Cに変えたこと以外は、実施例1と同様で、トナー粒子を得た。この場合のΔSP値は1.9(=11.0-9.1)であった。
【0069】
〔キャリアの製造〕
次に、シリコーン樹脂(信越化学工業社製、商品名:KR-251)100重量部に、フッ素樹脂微粒子としてPTFE(ダイキン工業株式会社製、商品名:LDE-410)を10重量部添加して樹脂液を調製し、この樹脂液にキャリア芯材(DOWA IPクリエイション社製)を浸漬させることによって、実施例1~14及び比較例1~3のキャリアを製造した。
【0070】
〔2成分現像剤の製造〕
上記のようにして得られたトナーとキャリアとを8:92の質量比で混合することによって、実施例1~14及び比較例1~3の2成分現像剤を製造した。
【0071】
<評価>
実施例1~14及び比較例1~3について、耐熱保存性、低温定着性及びフィルミングを評価した。
【0072】
評価結果を図4から図7に示す。図4から図7は、実施例1~14の評価結果を比較例1~3と共に示す図表である。
【0073】
[トナー粒子中に分散した金属石鹸の平均分散径の測定]
実施例及び比較例のトナー粒子を常温硬化性のエポキシ樹脂に包埋して得られた硬化物を、ダイヤモンド歯を備えたウルトラミクロトーム(Reichert社製、商品名:ウルトラカットN)で面出しを行った。得られたトナー粒子の断面を、走査透過電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式:S-4800)で観察した。この電子顕微鏡写真データから無作為に相当数(200~300個)の金属石鹸粒子を抽出し、画像解析ソフト(商品名:A像くん、旭化成エンジニアリング株式会社製)で画像解析し、相当数の金属石鹸の分散径を平均することによりトナー粒子中の金属石鹸の平均分散径を求めた。
【0074】
〔耐熱保存性の評価〕
高温保存後の凝集物の有無によって保存安定性を評価した。トナー20gをポリ容器に密閉し、50℃で72時間放置した後、トナーを取り出して230(63μm)メッシュのふるいに掛けた。ふるい上に残存するトナーの重量である残存量を測定し、この残存量のトナー全重量に対する割合である残存率〔(72時間後のトナーの残存量)/(トナー全重量)×100〕を求め、下記の評価基準で評価した。残存率の数値が低いほど、トナーがブロッキングを起こしていないことを示す。
【0075】
耐熱保存性の評価基準は以下のとおりである。
【0076】
◎:非常に良好 (凝集なし。残存量が0.5%未満である。)
○:良好 (凝集微量。残存量が0.5%以上2.0%未満である。)
△:やや悪い (凝集少量。残存量が2%以上10.0%未満である。)
×:不良 (凝集多量。残存量が10.0%以上である。)
〔低温定着性の評価〕
製作した上記2成分現像剤及びトナーを複合機(シャープ株式会社製、型式:MX-6150FN)の現像装置及びトナーカートリッジにそれぞれ充填し、定着装置における定着ローラ温度を145℃±1℃に設定し、室温25℃、湿度50%の環境にて定着強度測定用の画像サンプルを作成した。
【0077】
定着強度測定用の画像サンプルは、一辺が3cmのベタ画像部(画像濃度ID=1.5)を含む原稿を、記録用紙(商品名:PPC用紙SF-4AM3、シャープ株式会社製)上にコピーすることにより作成した。
【0078】
画像サンプルのベタ画像部を内側にして折り曲げ、折り曲げた状態で折り曲げ線上に850gのローラを一定加圧で一往復転がし、折り曲げ部分においてトナー画像が剥離した剥離サンプルを作成した。
【0079】
剥離サンプルを広げて剥離したトナーをエアーブラシで吹き払い、定着強度の指標として剥離幅(折り曲げ部分にできる白地の最大ライン幅)を測定した。
【0080】
低温定着性の評価基準は以下のとおりである。
【0081】
◎:非常に良好 (剥離幅が0.2mm未満である。)
○:良好 (剥離幅が0.2mm以上0.3mm未満である。)
△:やや悪い (剥離幅が0.3mm以上0.5mm未満である。)
×:不良 (剥離幅が0.5mm以上である。)
〔フィルミングの評価〕
作製した上記2成分現像剤及びトナーを、カラー複合機(商品名:MX-2640、シャープ株式会社製)に充填し、現像ローラの軸方向における中央部と両端部の3点の位置に、一辺が1cmの正方形のベタ画像(ID=1.45~1.50)が形成されるように、50000枚の連続プリントテストを行った。その後、A3用紙にベタ画像(ID1.6~1.8)を出力し、目視で画像の判定を行った。
【0082】
フィルミングの評価基準は以下のとおりである。
【0083】
◎:非常に良好 (出力したベタ画像に荒れがない状態で、かつ、感光体表面にトナーの融着がない。)
○:良好 (出力したベタ画像に荒れがない状態であるが、感光体表面にトナーの融着がややある。)
△:やや悪い (出力したベタ画像に荒れがない状態であるが、感光体表面にトナーの融着がある。)
×:不良 (出力したベタ画像に荒れが確認でき、感光体表面にトナーの融着がある。)
<総評>
実施例1では、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが適度に相溶し、金属石鹸による結晶性ポリエステル樹脂の再結晶化が促進し、低温定着性が非常に良好(◎)で、耐熱保存性、フィルミングが共に良好(〇)であった。実施例2では、SP値が小さく、金属石鹸による結晶性ポリエステル樹脂の再結晶化が少なくなるため、低温定着性が非常に良好(◎)、フィルミングが良好(〇)であったが、耐熱保存性がやや悪かった(△)。実施例3では、SP値の範囲内が大きく、金属石鹸による結晶性ポリエステル樹脂の再結晶化が起こり易くなるため、低温定着性、フィルミングが共に良好(〇)であったが、耐熱保存性がやや悪かった(△)。また、トナーの可塑化力が低いため、定着性がやや落ちた。
【0084】
比較例1では、低温定着性が非常に良好(◎)であったものの、金属石鹸がないので、結晶性ポリエステル樹脂の再結晶化が進み難く、耐熱保存性が不良(×)であり、また、滑剤効果は無いため、フィルミングが不良(×)であった。比較例2では、滑剤効果は有るため、低温定着性が非常に良好(◎)であり、フィルミングが良好(〇)であったものの、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが相溶し過ぎて、結晶性ポリエステル樹脂の再結晶化がし難く、耐熱保存性は不良(×)であった。比較例3では、金属石鹸による効果が少ないため、非晶性ポリエステル樹脂と結晶性ポリエステル樹脂とが非相溶となり、結晶性ポリエステル樹脂の分散径が大きくなるので、低温定着性、フィルミングが共にやや悪く(△)、耐熱保存性が不良(×)であった。
【0085】
実施例4では、金属石鹸の分散径が適度であり、再結晶化が促進し易いので、低温定着性、耐熱保存性が共に非常に良好(◎)で、フィルミングが良好(○)であった。実施例5では、金属石鹸の分散径が小さくなると、再結晶化が少し進み難くなるが、低温定着性が非常に良好(◎)で、耐熱保存性、フィルミングが共に良好(〇)であった。実施例6では、金属石鹸の分散径が大きくなると、再結晶化が少し進み難くなるが、低温定着性が非常に良好(◎)であり、耐熱保存性、フィルミングが共に良好(〇)であった。
【0086】
実施例7では、低温定着性が非常に良好(◎)であったが、金属石鹸の分散径が比較的小さいため、金属石鹸の結晶核剤としての効果が得られ難く、耐熱保存性、フィルミングが共にやや悪かった(△)。実施例8では、低温定着性、フィルミングが共に非常に良好(◎)であったが、金属石鹸の分散径が比較的大きいため、金属石鹸の結晶核剤としての効果が得られに難く、耐熱保存性がやや悪かった(△)。実施例9では、金属石鹸の添加量が最適であり、再結晶化が進むため、低温定着性、耐熱保存性、フィルミングが何れも非常に良好(◎)であった。
【0087】
実施例10では、金属石鹸の添加量が小さくなると、再結晶化がやや進み難くなるが、低温定着性が非常に良好(◎)で、耐熱保存性、フィルミングが共に良好(〇)であった。実施例11では、金属石鹸の添加量が大きくなると、再結晶化がやや進み難くなるが、低温定着性、フィルミングが共に非常に良好(◎)で、耐熱保存性が良好(〇)であった。実施例12では、低温定着性が非常に良好(◎)であったが、金属石鹸の添加量が比較的少ないため、金属石鹸の結晶核剤としての効果が得られに難く、耐熱保存性、フィルミングが共にやや悪かった(△)。
【0088】
実施例13では、低温定着性が非常に良好(◎)で、フィルミングが良好(〇)であったが、金属石鹸の添加量が比較的多いため、金属石鹸の結晶核剤としての効果が得られに難く、耐熱保存性がやや悪かった(△)。実施例1では、金属石鹸の融点が適正であり、低温定着性が非常に良好(◎)で、耐熱保存性、フィルミングが共に良好(〇)であった。実施例14では、金属石鹸の融点が比較的高いが、低温定着性、耐熱保存性、フィルミングが何れも良好(〇)であった。
【0089】
本発明は、以上説明した実施の形態に限定されるものではなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、係る実施の形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0090】
10 感光体ドラム
20 帯電ローラ
40 現像装置(接触型帯電手段)
41 現像ローラ
42 現像槽
70 定着装置
90 帯電装置
100 画像形成装置
M 金属石鹸
P トナー粒子
Q 非晶性ポリエステル樹脂
R 結晶性ポリエステル樹脂
T トナー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9