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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-28
(45)【発行日】2023-07-06
(54)【発明の名称】アダプティブレンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/14 20060101AFI20230629BHJP
   G02B 7/02 20210101ALI20230629BHJP
   G02B 7/04 20210101ALI20230629BHJP
【FI】
G02B3/14
G02B7/02 H
G02B7/04 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019569219
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 EP2018067386
(87)【国際公開番号】W WO2019002448
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】17179006.6
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】17179023.1
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511009547
【氏名又は名称】ポライト アーエスアー
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】クレイン、ピエール
(72)【発明者】
【氏名】カルタショフ,ウラジミール
(72)【発明者】
【氏名】タラロン、ニコラ
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0290887(US,A1)
【文献】特開2016-085463(JP,A)
【文献】特表2010-504554(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0018626(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0300171(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/14
G02B 7/02
G02B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-ヤング率が2MPa~1,000MPaの範囲の材料で形成される、透明な可撓性膜(4)と、
-透明なバックウィンドウ(3)と、
-前記バックウィンドウの表面部分に垂直な光軸(6)を有するレンズを形成するよう、前記透明なバックウィンドウ(3)と前記透明な可撓性膜(4)との間に挟まれた、透明で変形可能な非流体のレンズ本体(2)と、
を備える光学レンズアセンブリ(1)であって、
前記透明な可撓性膜および前記非流体レンズ本体を含む前記レンズの第1全体形状が少なくとも10μmのサグを有するように、前記透明な可撓性膜は、10~500μmのサグ、および1~60mmの開口径を有する形状に予め成形されており、
前記第1全体形状は、前記レンズが非ゼロの第1光パワーを有し、
前記レンズ本体は上面部分を有し、前記上面部分は前記予め成形された膜の前記第1全体形状に対応する形状を有し、
前記光学レンズアセンブリ(1)は、
-前記可撓性膜の周囲を支持するように配置された剛性フレーム(9)と、
-前記可撓性膜および前記レンズ本体の全体形状を前記第1全体形状から、前記レンズが異なった光学特性を有する第2全体形状に変化させる力を加えるためのアクチュエータシステム(7)と、
を備え、
前記アクチュエータシステムは、前記透明な可撓性膜の表面上に圧電アクチュエータ(8)を有し、
前記レンズは、前記アクチュエータシステムが作動ていないとき、少なくとも10μmのサグを有する
光学レンズアセンブリ(1)。
【請求項2】
前記非流体レンズ本体は、300Paより大きい弾性率を有する、
請求項1に記載の光学レンズアセンブリ。
【請求項3】
前記非流体レンズ本体は、架橋または部分架橋ポリマーのポリマー網状組織、および混和性油または油の組合せから作成される、
請求項1又は2に記載の光学レンズアセンブリ。
【請求項4】
前記第1全体形状を有する前記レンズは、少なくとも15μmまたは少なくとも20μmのサグを有する、
請求項1に記載の光学レンズアセンブリ。
【請求項5】
前記予め成形された膜の中央部分は、球形の形状を有し、この中央部分の円周は、前記レンズアセンブリの開口を画定する、
請求項1に記載の光学レンズアセンブリ。
【請求項6】
前記第1全体形状の前記少なくとも10μmのサグは、少なくとも5ジオプトリの第1光パワーに対応する、
請求項1に記載の光学レンズアセンブリ。
【請求項7】
前記異なる光学特性は、サグおよび/または光パワーおよび/または光学収差である、
請求項1に記載の光学レンズアセンブリ。
【請求項8】
前記異なる光学特性は、光パワーを含み、
前記レンズは前記第2全体形状を有する第2光パワーを有し、
前記第1光パワーと前記第2光パワーとの間の差、光パワー範囲は、少なくとも2ジオプトリである、
請求項5又は7に記載の光学レンズアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光パワー範囲内で調整することができる所与の非ゼロの光パワー(または、すなわち有限焦点距離)を有するアダプティブレンズ、および当該レンズを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話のカメラ、スキャン装置、マシンビジョン等の光学機器の発達に伴い、高速フォーカスが可能な小型レンズが求められている。携帯電話カメラでは画素数が増加しているが、画素の利点を最大限に活かすのに十分な品質のコンパクトレンズが求められている。これは、特に、カメラがバーコードの読み取りおよびカメラに近い物体の画像の走査のような他の目的にも適応される場合、小さいサイズに加えて焦点合わせ機能を必要とする。また、レンズに焦点合わせ機能を追加することにより、より大きな開口を使用することが可能になり、したがって、レンズの被写界深度の減少を被ることなく、システムの光感受性を増大させることができる。
【0003】
従来のガラスレンズは、たとえいくつかのモバイルカメラで使用されたとしても、非チューナブルなままであり、また多くの目的のためには高価すぎると考えられていて、他の解決策を見つけるための研究が行われてきた。1つの有望な分野は、軟質ポリマーから製造されたレンズの開発であった。これらにはいくつかの光学特性があり、静電力、軟質ポリマーレンズの延伸、または軟質ポリマー表面を成形して選択された形状を得ることによって、焦点を合わせるために成形することができる。別の提案された解決策は、段階的な屈折率を有する軟質ポリマーを使用することであったが、これは十分に良好な品質で製造するには複雑であることが判明した。これらの解決策に関連する問題は、曲率および表面連続性の両方において、十分に良好なレンズ表面を得ることであった。
【0004】
他の提案された解決策は、レンズの焦点距離を調整するためにキャビティの形状が調整される、レンズ内部のキャビティ内に配置された液体を使用することを含む。これを示す例は、特開2002-239769号、特開2001-257932号、特開2000-081503号、特開2000-081504号、特開平10-144975号、特開平11-133210号、特開平10-269599号、および特開2002-243918号に記載されている。さらに、これは、T. Kaneko et al: “Quick Response Dynamic Focusing Lens using Multi-Layered Piezoelectric Bimorph Actuator”, Micro-Opto-Mechanic Systems, Richard R. A. Syms Editor, Proceedings of SPIE, Vol. 4075 (2000)においても記載されている。これらの全ては、レンズとして機能し、加えられた力によって表面の少なくとも1つを成形することができるキャビティ内に閉じ込められた液体に基づいている。これは、レンズを成形するために加えられる圧力が流体またはキャビティを圧縮しなければならず、この力は大きなものである必要があり、またはキャビティから液体の一部を押し出すために追加のチャンバを設けなければならないという欠点を有する。温度変動による体積変化もまた問題を引き起こし得る。
【0005】
上記の解決策は、以下の欠点を有する。
-リアルタイムの適応を提供できない。
-実際に良好な光学品質を提供できない。
-携帯電話のカメラモジュールなどの小型の解決策には適さない、厚さまたは複雑さを追加する。
-製造の面で困難な液体を使用するもので、その結果、信頼性が低く、堅牢性が低く、性能が不安定になる。
【0006】
多くの調節可能な焦点を有する先行技術レンズの欠点は、それらがゼロまたは非常に小さな光パワー付近の範囲で調節可能であることであり、それは、それらが、必須の拡大力/光パワーおよび画像形成機能を提供するためには、従来のレンズと組み合わせられなければならないことを意味する。これは、コストおよび空間的要件を増大させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、大量生産に適し、固有の非ゼロ光パワーを有するコンパクトな調整可能レンズアセンブリを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様では、本発明は、前記バックウィンドウの表面部分に垂直な光軸を有するレンズを形成するよう、透明なバックウィンドウと透明な可撓性膜との間に挟まれた変形可能な非流体レンズ本体を備える光学レンズアセンブリであって、前記膜は、前記レンズが少なくとも10μmのサグを有する第1全体形状を、前記膜および前記レンズ本体に付与するように予め成形され、前記光学レンズアセンブリは、前記膜および前記レンズ本体の前記全体形状を前記第1全体形状から、前記レンズが異なった光学特性を有する第2全体形状に変化させる力を加えるためのアクチュエータシステムを備える、光学レンズアセンブリを提供する。
【0009】
以下では、いくつかの好ましいおよび/または任意の特徴、要素、例、および実装を要約する。1つの実施形態または態様に関連して説明された特徴または要素は、適用可能な場合、他の実施形態または態様と組み合わされてもよく、または適用されてもよい。例えば、レンズアセンブリに関連して適用される構造的および機能的特徴は、本方法に関連する特徴としても使用され、その逆も同様である。さらに、本発明者らによって実現されるような本発明の基礎となる機構の説明は、説明の目的で提示され、本発明を推論するための事後分析において使用されるべきではない。
【0010】
透明な可撓性膜が予め成形されることは、レンズアセンブリに組み立てる前に、膜がその形状を得たことを意味する。膜は、レンズ本体およびバックウィンドウと共に組み立てられるとき、球形または少なくとも実質的に球形の形状を有する中央部分を有するベル形状(凸状または凹状)を有することが好ましいが、通常のレンズ表面の形状に対応する非球形であってもよい。これは、図3(b)に示されている。膜の事前成形に起因する少なくとも10μmのサグは、アクチュエータシステムが起動されていないとき、すなわち、レンズの「デフォルト」、「固有」または「ゼロボルト」状態のときに測定される。デフォルト状態において実質的に球形の中央部分の円周は、レンズアセンブリの開口を画定する。
【0011】
サグは、図2に示されており、次式によって与えられる、弦からのレンズ表面の高さとして定義される。
【数1】
ここで、Rは、(膜の中央部分の)曲率半径であり、Dは、開口の径に等しい弦長である。少なくとも10μmのサグは、(第1全体形状の)開口径または曲率半径の具体的な値に限定されず、したがって、様々なサイズおよび強度のレンズに適応する。さらなる実施形態では、サグは、少なくとも15μmまたは少なくとも20μmであることが好ましい。
【0012】
サグは、次式による光パワー(OP)に関連する。
【数2】
ここで、nはレンズ本体の屈折率である。
【0013】
以下の表1は、サグ≧10μmおよびn=1.57に対する弦長/開口径および光パワーの例示的な値を示す。
【表1】
【0014】
本明細書では、開口とは、上記で定義されたレンズアセンブリ内の開口を指すものであって、レンズアセンブリが用いられる光学装置の実際の開口ではなく、これはしばしば可変である。したがって、所与の開口寸法およびレンズ本体について、サグと光パワーとの間には直接的な関連があり、これらは本明細書では入れ替え可能に使用される。したがって、代替の表現では、第1全体形状でレンズが実質的に非ゼロの第1光パワーを有する場合、本発明の第1の態様は、サグの代わりに光パワーを使用して定義することができる。第1光パワー(および開口の大きさ)の好ましい数値は、レンズアセンブリが使用される用途に大きく依存する。好ましい実施形態では、第1光パワーは、少なくとも5ジオプトリ、例えば少なくとも10ジオプトリ、例えば少なくとも20ジオプトリである。
【0015】
ほとんどの先行技術の小型の調整可能なレンズは、ゼロまたはわずかな固有の光パワーを有し、したがって、最大電圧で、だいたい数ジオプトリの総光パワーをもたらすので、第1全体形状の固有のサグまたは光パワーは、好都合である。したがって、そのようなレンズは、通常、調整が望まれる光パワーを有する標準レンズと組み合わされなければならない。そのようなレンズは、一般的には、ヤング率が数十GPa程度のガラス、例えば、パイレックス(登録商標)、サファイア、SiOまたはBPSGで作成される、ゼロボルトで平坦またはほぼ平坦である変形可能な膜を用いている。このようなレンズアセンブリの例は、例えば、国際公開第2008/035983号パンフレット、国際公開第2010/005315号パンフレット、または国際公開第2014/147060号パンフレットに見ることができる。
【0016】
本明細書では、変形可能な非流体レンズ本体は、弾性材料から作られることが好ましい。レンズ本体は非流体であるので、レンズ本体を保持するための密閉は必要とされず、漏れの危険はない。レンズ本体は、300Paより大きい弾性率を有する点で非流体であることが好ましい。好ましい実施形態では、レンズ本体が、シリコン、ポリマーゲル、架橋または部分架橋ポリマーのポリマー網目構造、および混和性油または油の組合せなどの多くの異なる材料を含むことができる軟質ポリマーから作成される。軟質ポリマーを使用することにより、ポリマーが大気または他の圧縮性ガスと接触するレンズを製造することができ、したがってレンズの焦点距離を調整する際に必要とされる力は、はるかに小さくなる。また、たとえ異なる製造工程が、異なる場所または施設においてローカライズされている場合でも、ポリマーが適切に保持するので、製造が容易になる。上述したように、レンズを調整するために必要な力を低減するために、また環境における温度や圧力の変動によって起こる歪みを低減するために、圧縮性ガスの漏れチャネルまたは気泡を提供することを可能にする。比較的薄く柔らかい膜に圧力を加えないために、レンズ本体は、予め成形された膜の形状に対応する形状を有する上面部分を有することが好ましい。
【0017】
バックウィンドウは、例えば、SiOまたはガラスの、平坦で透明な基板であることが好ましい。バックウィンドウは、レンズ本体に面する平坦な表面を有することが好ましい。レンズ本体に面する側から離れた反対の表面は、平坦であってもよく、または、例えば、レンズの背面を構成するために球面形状であるなど、凸状または凹状であってもよい。しかしながら、他の実施形態においては、バックウィンドウは、非球面形状とともに球面部分もあるなどの、湾曲した基板であってもよい。
【0018】
バックウィンドウは、携帯電話カメラなどといった、レンズアセンブリを含む装置のためのカバーガラスを形成してもよい。これは、層の数を減らし、また、フレアを減らして透過率を改善することによって光学品質を改善する。バックウィンドウは、反射防止コーティング(ARC)を有してもよく、また、レンズ本体のフィルタリング特性と組み合わせられたIRフィルタ機能を提供してもよい。別の実施形態では、バックウィンドウが、タッチスクリーンの透明基板の一部を形成する。そのようなタッチスクリーンは、携帯電話、タブレット、コンピュータモニタ、GPS、メディアプレーヤ、時計などの多くの電子機器において標準的なものである。
そのようなタッチセンシティブスクリーンは、抵抗システム、容量システム、弾性表面波システム、赤外システムなどの様々なタッチスクリーン技術に基づいてもよく、それらの全ては、そのベースに透明基板を含んでいる。
【0019】
代替の実施形態では、追加のポリマー層が、バックウィンドウと、バックウィンドウのレンズ本体側とは反対の側にあるカバーガラスとの間に追加される。これは、空気/ガラス界面が、より少ないので、先行技術の解決手段よりも、より小型であり、透過率およびゴーストに関して、より良好であるという長所を提供する。また、バックウィンドウ上にARコーティングを施す必要もなくなる。
【0020】
膜およびレンズ本体の第2全体形状を有する、レンズの異なる光学特性は、サグおよび/または光パワーおよび/または光学収差であることが好ましい。これは、全体形状を変化させることが、サグ、したがって、レンズのデフォルトの第1光パワー「に加えて」光パワーまたは収差を調整する、ということを意味している。これにより、本発明のレンズのみを用いて、ほぼいずれの光パワー付近においてもダイナミックフォーカス調整やダイナミック収差補正を行うことができる。
【0021】
Dおよびnが与えられる特定の用途では、サグ値の代わりにその光パワー値によってチューナブルレンズのダイナミックレンジを画定することが一般的である。光パワー範囲とは、アクチュエータシステムの手段によってレンズが得ることができる最高光パワーと最低光パワーとの間の差異である。膜の事前備成形から生じる第1光パワーは、この光パワー範囲の終点であってもよく、またはこの光パワー範囲内にあってもよく、これらの両方の場合において、光パワーは、第1光パワーの「付近」で調整可能である。光パワー範囲は、少なくとも2ジオプトリまたは4ジオプトリであることが好ましく、例えば少なくとも6ジオプトリ、または少なくとも10ジオプトリであることが好ましい。対応するサグ値範囲は、上記の式(2)を用いて計算することができる。
【0022】
シミュレーションおよび実験は、予め成形された膜が実質的な光パワー範囲を提供するために、膜は、先行技術のガラス膜に対して、柔らかく、非常に柔軟であることが好ましいことを示した。したがって、第1の態様によるレンズアセンブリの予め成形された膜は、例えば100~10000MPa、例えば100~7000MPa、例えば100~5000MPa、好ましくは2~1000MPaの、1~10000MPaの範囲のヤング率を有する材料で形成されることが好ましい。
【0023】
膜は、アクリル、ポリオレフィン、ポリエステル、シリコン、ポリウレタンおよびその他のような多数の異なる材料で形成されてもよい。
【0024】
予め成形された膜の好ましいパラメータ範囲は、以下の通りである。
厚さ:5~30μm
サグ:10~500μm
弦長/開口径:1~60mm
【0025】
このような厚さを有する予め成形された膜は、単独で残された場合、その形状を保持することができない。レンズ本体が膜とバックウィンドウとの間に挟まれるとき、レンズ本体が予め成形された膜の下の凸状空間を満たし、したがって、膜の少なくとも中央部分を支持するように、構成の寸法およびレンズ本体のサイズが調整されることが好ましい。
【0026】
膜は、第1全体形状が、予め行われる成形およびレンズ本体の充填のみによるものであるよう、レンズが組み立てられる際に伸張されないままであることが好ましい。膜を伸張によって「上昇」させるよう、レンズ本体を、膜とバックウィンドウとの間の空間に圧力下で挿入して全体形状を得ることは、非常に不十分な力学的挙動をもたらす。
【0027】
アクチュエータシステムは、膜およびレンズ本体の全体形状を変化させる働きをする。アクチュエータシステムは、膜に隣接して全体の形状を変化させてもよく、またはアクチュエータシステムは、膜またはレンズ本体または流体を保持する支持体などの別の構造または媒体を介して膜に作用してもよい。好ましい実施形態では、アクチュエータシステムは、中央部分の外側の膜の表面上にPZTなどの圧電アクチュエータを備える。このような圧電材料は、形成や制御が容易であり、ウェハスケール加工技術に適合する。それらは、典型的には膜の中央部分を取り囲むように形成されるので、レンズアセンブリを使用する光学構造のための開口を画定することもできる。別の好ましい実施形態では、アクチュエータシステムは、(i)圧電アクチュエータよりも大きな力およびストロークまたは振幅を与えることができる、また、(ii)予め成形された膜を曲げることができる力を加えるために使用することができる、より大きな開口または任意の他の手段のための空間を可能にすることができる、ボイスコイルモータ(VCM)を備え、アクチュエータシステムは、圧電アクチュエータ、静電アクチュエータ、または他のいずれかの種類のアクチュエータであってもよい。
【0028】
別の好ましい実施形態では、第1の態様によるレンズアセンブリは、剛性フレームをさらに含み、膜の周囲を支持するためにレンズ本体を取り囲む。この実施形態では、膜、フレーム、およびバックウィンドウはレンズ本体を保持するキャビティを形成する。このような剛性フレームは、膜を保持するための支持やレンズ本体の横方向の閉じ込めなどのいくつかの目的に役立ち得る。フレームは、例えばシリコンのウェハスケール製造技術を使用して形成されることが好ましく、剛性フレームとして機能するために、膜よりもはるかに変形しにくくなるように形成されるべきである。これは、数百μmまたは数mmの厚さを有するシリコンフレーム(数百GPaのヤング率)を用いて得ることができる。機械的手段は、バックウィンドウに対する膜の同心性を確保するために必要とされ得る。この同心性の必要とされる精度は、用途、必要とされる光学品質のレベル、ならびにそれが使用される光学システムの各光学構成要素の光パワーに応じて変化する。
【0029】
膜は、フレームに固定されることが好ましいが、バックウィンドウは、レンズ本体にのみ取り付けられてもよく、したがって、フレームに対して自由に浮動してもよい。これは、レンズ本体が、膜にほとんどまたは全く影響を与えることなく膨張することができるので、熱補償を補償するのに役立つ。代替の実施形態では、バックウィンドウが、より閉じたおよび/または剛性のある構造を形成するために、柔らかい材料を介してフレームに取り付けられてもよい。この場合、レンズ本体の熱膨張は、他の方法で補償されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】先行技術文献からの調整可能なレンズを示す。
図2】本発明によるレンズアセンブリの様々な設計パラメータを示す。
図3】本発明の好ましい実施形態によるレンズアセンブリの平面図および側断面図を示す。
図4】レンズアセンブリの実施形態の1/4平面図を示す。
図5】レンズアセンブリの実施形態の3D図を示す。
図6図4(a)および(b)の実施形態の、光パワー範囲と膜のヤング率の依存関係を示すグラフである。
図7図4(a)および(b)の実施形態の、異なる電圧での膜の変形を示すグラフであり、膜のヤング率は44MPaに等しい。
図8】本発明の異なる実施形態による代替的なアクチュエーションシステムを示す。
図9】本発明の異なる実施形態による代替的なアクチュエーションシステムを示す。
図10】本発明の一実施形態による、追加のポリマー層およびカバーガラスを有するレンズアセンブリの断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の好ましい実施形態によるレンズアセンブリは、参照によって本明細書に含まれる、国際公開第2008/035983号パンフレット、国際公開第2010/005315号パンフレット、または国際公開第2014/147060号パンフレットなどの先の特許出願に詳細に記載されている、ポライト アーエスによって開発されたTレンズ技術と共に構築されるものである。本発明による予め成形された膜を用いることができるTレンズアセンブリについてのさらなる詳細は、そこで見ることができる。
【0032】
図1は、バックウィンドウ3と平坦な可撓性膜14との間に挟まれた変形可能な本体12を有する先行技術文献の調整可能なレンズ11を示す。また、膜上には、電圧が印加される際に光パワーを変化させるために膜を上方(破線)に曲げる圧電フィルム8が設けられている。
【0033】
図3(a)および図3(b)は、本発明の好ましい実施形態によるレンズアセンブリ1の平面図(図3(a))および断面側面図(図3(b))を示す。ここで、レンズアセンブリは、バックウィンドウの表面部分に垂直な光軸6を有するレンズを形成するよう、バックウィンドウ3と透明な可撓性膜4との間に挟まれた変形可能な非流体レンズ本体2を含む。レンズアセンブリの様々な構成要素は、典型的にはレンズ本体を取り囲む剛性フレーム9によって一緒に保持される。フレーム9は、アセンブリにおいて別の機能も提供する別個の部品を備えてもよい。例えば、バックウィンドウ3は、他の構成要素のための支持体としても機能することができ、この点でフレームの一部であってもよい。フレーム9は、丸みを帯びた角を有する正方形の開口部を形成する。膜は、レンズが少なくとも10μmの最小サグを有する第1全体形状を、膜およびレンズ本体に付与するように予め成形される。さらに、膜およびレンズ本体の全体形状を第1全体形状から、レンズが異なる光学特性を有する第2全体形状(破線4a)に変化させるための力を加えるためのアクチュエータシステム7が設けられる。
【0034】
予め成形された膜の中央部分は、レンズ表面として機能するために実質的に球形の形状を有するが、様々な光学収差を補正するために小さな差を有してもよい。予め成形された膜の形態は、ベル形状(図3(b))、球形状(不図示)、または他の形状であってもよい。ベル形状の膜の場合、外側の領域は凹形状を有し、したがって集束に寄与しないので、中央部分は、曲線の変曲点内にあるものとして定義することができる。この中央部分の円周またはその内部は、レンズアセンブリの開口を画定する。一般に、開口が大きいほど、レンズは大きくなり、それによってより多くの光を集めることができる。
【0035】
レンズ本体2は、膜4、フレーム9およびバックウィンドウ3の間に形成されたキャビティの容積を完全には満たさず、空気又は他の圧縮性流体が残りの容積を満たす。これは、この容積の大きさの変化、したがって膜の形状の変化を可能にする。
【0036】
レンズ本体は、予め成形された膜の形状に対応する形状を有することができるので、これらに当接することは、膜の形状を変化させるものではない。これは、組み立て前にレンズ本体を予め成形することによって、またはバックウィンドウと膜との間に成形可能な材料を注入することによって行うことができる。特定の実施形態では、液体反応混合物がバックウィンドウと膜との間に注入される。次いで、レンズを高温の炉に特定の時間入れ、液体反応混合物が、予め成形された膜の形状などに成形された粘弾性非流体ポリマーに変わる。
【0037】
(シミュレーション)
多数のシミュレーションが、圧電PZTフィルム8を含むアクチュエータシステムを有する、図3(a)および図3(b)に示されるレンズアセンブリで行われた。シミュレーションでは、PZTフィルムのレイアウトや膜4のヤング率を変化させた。PZTへの電圧は、0Vと40Vとの間で変化させ、光パワー範囲は、OP(40V)~OP(0V)に等しい。
【0038】
図4(a)および(b)は、2つの異なるレイアウトの圧電フィルム8を有する、図3(a)および(b)に示されているレンズアセンブリの1/4平面図を示している。両方の場合において、PZTフィルムの孔の径は、1.55mmであり、膜4の中央部分と同心円状に開口5を形成する。図5(a)および(b)は、図4(a)および(b)のレンズアセンブリの3D図、レンズ本体2、バックウィンドウ3および側壁9を示している。
【0039】
図4(a)および図4(b)の両方の実施形態について、膜のヤング率の変化に関する光パワー範囲をシミュレートした。結果は、ヤング率に対する光パワー範囲の依存性を示す図6(a)および(b)に記される。
【0040】
実質的な収差がもたらされない限りは、光パワー範囲をできるだけ大きくすることが望ましい。5dptの好ましい光パワー範囲では、ヤング率の好ましい範囲は、図6(a)では0.8~3000MPaであり、図6(b)では2~10000MPaであることが分かる。光パワー範囲10dptを好む場合、ヤング率の好ましい範囲は、図6(a)では2~800MPaであり、図6(b)では20~1000MPaである。これらの実施形態の物理的な実施において、より高い光パワー範囲が膜の中央部分における非点収差または望ましくない変形につながるかどうかは、依然として探求されるべきである。
【0041】
図7(a)および(b)は、図4(a)および(b)の実施形態について、膜のヤング率を44MPaとし、それぞれ異なる電圧で膜を変形させたグラフである。
【0042】
以下の表は、予め成形された膜およびレンズアセンブリのいくつかの考え得るパラメータを要約したものである(EFLは有効焦点距離)。
【表2】
【0043】
この表中のパラメータは、本発明によるレンズアセンブリの設計において使用され得る例示的な値である。しかしながら、それらは、好ましい値ではなく、また、決して本発明の範囲を限定することを意図したものではない。
【0044】
(アクチュエータシステム)
膜を変形させ、光学的変化をもたらすよう、主に、膜に沿って圧縮/引張圧力を導入するアクチュエータを使用することができる。圧力が光軸の周りに回転の対称性を有するようアクチュエータが対称的に配置される場合、アクチュエータは、光軸に沿って主に焦点変動を生成する。設計により、アクチュエータは、非対称の圧力を加え、円筒形の変形、三葉形の変形などを導入することができる。
前述の圧電フィルムは、このようなアクチュエータの例である。これらは、薄膜PZT、バルクPiezo、または膜を曲げるのに十分な力を生成することができる任意の他の種類とすることができる。膜上の圧電フィルムは、電圧が印加されると引張応力を受ける。この応力は、フィルムを横方向寸法に収縮させ、膜を曲げるものである。中央部分における膜の形を変えるために、圧電フィルムは、典型的にはフレームの開口部内に配置されなければならず、これは中央部分の大きさ、従って、開口を制限し得る。したがって、他の考え得るアクチュエータシステムが関連する場合があり、以下で説明する。
【0045】
膜は、アクチュエーティングシステムと直接接触している必要はなく、レンズ本体などの媒体を介していてもよい。膜は柔らかく、レンズ本体によって支持されており、また、レンズ本体は非流体であるため、レンズ本体を変形させると、膜の形状が変化する。例えば、レンズ本体を取り囲む多数のアクチュエータを同期して作動させて、レンズ本体のウエストを圧搾し、膜を上方に押すことができる。一方の側のアクチュエータのみを作動させると、膜の形状が傾斜し、焦点を横方向に移動させることができる。
【0046】
図8および図9は、異なるアクチュエータを適用する実施形態を示す。図8は、アクチュエーティングシステムとしてストリング81および回転モータ82を用いるレンズアセンブリ80の側面図および平面図を示す。モータの回転は、ストリングを締め付け/緩め、それによって、膜およびレンズ本体の全体形状を変化させる。
【0047】
図9は、VCM(ボイスコイルモータ)ベースのアクチュエータシステムを用いるレンズアセンブリ91を示す。アクチュエータシステムは、軟質または可撓性のホルダ93によって膜4の近くに保持されたコイル92と、ここではフレーム9に一体化された磁石または磁化可能部材94とを含む。コイル92に電流を流すと、磁石94と相互作用してコイルを動かす磁界が誘起される。コイル、磁石、および膜を適切に配置することによって、コイルを使用して、膜に所望の方向に力を加えることができる。図9は例示的な配置のみを示し、コイルおよび磁石は、異なる方向に動くように配置されてもよい。あるいは、コイル92を固定し、磁石または磁化可能部材94を移動可能に保持することができる。
【0048】
レンズアセンブリが既にカバーガラスを有する装置に一体化される場合、カバーガラスとしてバックウィンドウを使用することができない場合があり、レンズアセンブリを装置と光学的に結合する方法が必要とされる。図11は、追加のポリマー層33とカバーガラス31とを有するレンズアセンブリ32を示す。ここで、受動(passive)であることが好ましい追加のポリマー層33は、空気/ガラス界面のない可撓性の光学界面を提供する。図11はまた、レンズ装置のどこにでも追加することができる開口絞り34を示す。
【0049】
(用途)
本発明によるレンズアセンブリは、様々な装置、特に携帯電話のカメラモジュールに使用されるレンズスタックに使用することができる。これは、厚さを追加しないという利点を有する。通常、スタックの第1レンズは、そのような可変焦点レンズを実装するための最良の位置である。
【0050】
また、本発明は、非ゼロの光パワー付近で調整することができる、より大きなチューナブルレンズを可能にする。このようなレンズは、老眼、近視、または乱視を矯正する必要がある人々のための適応眼鏡、ならびに顕微鏡または望遠鏡の焦点面などの科学機器に使用され得る。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10