(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-29
(45)【発行日】2023-07-07
(54)【発明の名称】スイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20230630BHJP
G01N 33/553 20060101ALI20230630BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230630BHJP
C12M 1/40 20060101ALI20230630BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20230630BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230630BHJP
【FI】
G01N33/543 525U
G01N33/543 541A
G01N33/553
C12M1/00 A
C12M1/40 Z
C12N1/02
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2021569491
(86)(22)【出願日】2020-01-10
(86)【国際出願番号】 KR2020000492
(87)【国際公開番号】W WO2020241999
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0061120
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0100142
(32)【優先日】2019-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521339050
【氏名又は名称】ソル バイオ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ベク,セ ファン
【審査官】下村 一石
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-138913(JP,A)
【文献】米国特許第05985658(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0303256(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0336405(US,A1)
【文献】特表2017-513524(JP,A)
【文献】MUKHERJEE, S. et al.,A New Versatile Immobilization Tag Based on the Ultra High Affinity and Reversibility of the Calmodulin-Calmodulin Binding Peptide Interaction,Journal of Molecular Biology,2015年08月14日,Vol.427, No.16,pp.2707-2725
【文献】VAILLANCOURT, P. et al.,Affinity Purification of Recombinant Proteins Fused to Calmodulin or to Calmodulin-Binding Peptides,Methods in Enzymology,2000年,Vol.326,pp.340-362
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リガンドと、
前記リガンドが
解離可能に結合され、前記リガンドと結合反応して構造が変わるバインダーと、
構造が変わった前記バインダーと特異的に結合する認識素材と、
前記バインダー及び前記認識素材のいずれか一方が表面に固定される固定部材と、
前記バインダー及び前記認識素材の他方と重合されて重合体を形成し、サンプル溶液内の目標亜集団対象物質と特異的に結合する捕捉素材とを含
み、
前記サンプル溶液は、異種のエクソソームバルク集団が含まれた体液を含み、
前記目標亜集団対象物質は、前記異種のエクソソームバルク集団のうち、所定の疾患の診断に用いられる表面タンパク質を有する疾患の診断用のエクソソームであり、
前記捕捉素材は、前記疾患の診断用のエクソソームの表面タンパク質と特異的に結合し、
前記捕捉素材に結合された前記疾患の診断用のエクソソームは、液体生検(liquid biopsy)に用いられる、親和分離システム。
【請求項2】
前記リガンドは、糖分子、イオン、基質、及び抗原からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、請求項1に記載の親和分離システム。
【請求項3】
前記バインダーは、糖結合タンパク質、イオン結合タンパク質、酵素、抗体、アプタマー、細胞受容体、及びナノ構造体からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、請求項1に記載の親和分離システム。
【請求項4】
前記認識素材は、抗体、タンパク質受容体、細胞受容体、アプタマー、酵素、ナノ粒子、ナノ構造体、及び重金属キレート剤(chelator)からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、請求項1に記載の親和分離システム。
【請求項5】
前記固定部材は、ヒドロゲル、磁性ビーズ、ラテックスビーズ、ガラスビーズ、ナノ金属構造体、細孔性メンブレン、及び非細孔性メンブレンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含む、請求項1に記載の親和分離システム。
【請求項6】
内部に前記固定部材を収容する反応器をさらに含む、請求項1に記載の親和分離システム。
【請求項7】
結合された前記リガンドが
解離されるときに、結合された前記バインダーと前記認識素材が互いに分離される、請求項1に記載の親和分離システム。
【請求項8】
前記目標亜集団対象物質と結合した前記固定部材は、磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上によって濃縮される、請求項1に記載の親和分離システム。
【請求項9】
(a)リガンドが含有されたリガンド溶液、前記リガンドと
解離可能に結合反応して構造が変わるバインダー、構造が変わった前記バインダーと特異的に結合する認識素材、及び前記バインダー及び前記認識素材のいずれか一方と重合されて重合体を形成する捕捉素材を反応させて、前記バインダー及び前記認識素材の他方と、前記重合体とを結合させるステップと、
(b)前記捕捉素材が特異的に結合する目標亜集団対象物質を含むサンプル溶液を添加し、前記重合体の前記捕捉素材と前記目標亜集団対象物質とを結合させるステップと、
(c)前記バインダーに結合された前記リガンドが
解離されるように、前記リガンドが含まれていない回収溶液を添加して、前記認識素材及び前記バインダーの他方から、前記目標亜集団対象物質と結合された前記重合体を分離するステップとを含
み、
前記サンプル溶液は、異種のエクソソームバルク集団が含まれた体液を含み、
前記目標亜集団対象物質は、前記異種のエクソソームバルク集団のうち、所定の疾患の診断に用いられる表面タンパク質を有する疾患の診断用のエクソソームであり、
前記捕捉素材は、前記疾患の診断用のエクソソームの表面タンパク質と特異的に結合し、
前記捕捉素材に結合された前記疾患の診断用のエクソソームは、液体生検(liquid biopsy)に用いられる、親和分離方法。
【請求項10】
前記(a)ステップは、
前記バインダー及び前記認識素材の他方を固定部材の表面に固定させるステップと、
前記重合体が溶解された前記リガンド溶液を、前記固定部材に添加して、前記固定部材に固定された前記バインダー及び前記認識素材の他方と、前記重合体とを結合させるステップとを含む、請求項
9に記載の親和分離方法。
【請求項11】
前記(b)ステップと前記(c)ステップとの間に、
磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上を用いて、前記目標亜集団対象物質と結合された前記固定部材を、前記リガンド溶液及び前記サンプル溶液が混合された混合溶液内の所定の空間領域に捕捉するステップと、
前記固定部材が含まれていない前記混合溶液の一部を除去して、前記目標亜集団対象物質を濃縮するステップとをさらに含む、請求項
10に記載の親和分離方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、スイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法に関し、より詳細には、サンプル内の所定の対象成分を亜集団に分離する技術に関する。
【0002】
[背景技術]
最近、癌疾患及び退行性疾患などの特定疾患の検査の痛みを最小化し、早期診断を実現するための「液体生検(liquid biopsy)」の概念が紹介された。液体生検は、非侵襲的な方法で比較的簡便に血液、唾液、尿などの体液を抽出して、特定疾患関連の細胞あるいはこれから流出された構成成分(ペプチド、タンパク質、核酸、小器官、特定の物質など)に対する分析を行う方法である。これを通じて、特定の疾患が発生したか否かを早期に確認できるので、既存の映像診断、組織検査、そして血液検査方法などのような検査方法の代案として注目を集めている。特に、人体内の細胞から微小小胞(microvesicle)の形態で分泌されて、その由来細胞の特徴をそのまま反映しているエクソソームは、細胞の「アバター」と呼ばれ、血液、唾液、尿などの様々な体液から抽出可能である。エクソソームは、脂質二重層からなる小胞体であるので、体内で安定的であるだけでなく、プロテアーゼ(protease)、RNase、DNaseなどの攻撃から自由である。したがって、エクソソームを癌疾患及び退行性疾患などの特定疾患の診断の新たなバイオマーカーとして利用しようとする研究が増加しており、実際にエクソソームを用いた癌の早期診断の目的の製品が開発されている。
【0003】
しかし、体液にはあらゆる細胞から由来したエクソソームが混合された形態で存在するため、単純に体液から分離されたバルク母集団(bulk population)形態のエクソソームサンプルでは癌などの特定の疾患を正確に診断するのに限界がある。さらに、疾患の発病初期には体液内の特定疾患関連細胞由来のエクソソームの濃度が相対的に非常に低いため、早期診断のためには、体液からターゲットエクソソームの分離及び濃縮が先行しなければならない。現存するエクソソーム分離技術の中で、密度差ベースの超遠心分離方法が再現性が高く、比較的安定した工程により、最上位標準(gold standard)分離過程として採択されている。しかし、高価な装備が必ず必要であり、分離時間が長くかかるという欠点がある。このような欠点を補完するために、エクソソームを沈殿させて分離する方法、及びサイズ排除クロマトグラフィ(size exclusion chromatography)を用いるか、または特許文献(韓国登録特許第10-1807256号)に開示されたようにマイクロフルイディクス(microfluidics)を用いてサイズによって分離する方法が開発された。
【0004】
しかし、このような既存のエクソソーム分離技術は、体液に存在する全てのエクソソームを一つの母集団の形態で提供するため、癌のような特定細胞由来の極微量のエクソソームを選択的に探知するのに限界がある。
【0005】
そこで、従来の細胞や細胞由来の構成成分を分離する技術の問題点を解決するための方案が切実に求められている状況である。
【0006】
[発明の概要]
[発明が解決しようとする課題]
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためのもので、結合タンパク質などのようなバインダーがリガンドと結合して引き起こされるバインダーの構造変化(conformation change)を特異的に認識する認識素材を用いて、溶液内のリガンドの有無に応じて迅速にバインダー-認識素材の結合あるいは各個の成分に解離されるスイッチ性付着反応(switch-like reversible binding)に基づいて、分離対象の亜集団を高収率及び元の状態で親和分離する技術を提供することにある。
【0007】
[課題を解決するための手段]
本発明の実施例に係る親和分離システムは、リガンドと;前記リガンドが着脱可能に結合され、前記リガンドと結合反応して構造が変わるバインダーと;構造が変わった前記バインダーと特異的に結合する認識素材と;前記バインダー及び前記認識素材のいずれか一方が表面に固定される固定部材と;前記バインダー及び前記認識素材の他方と重合されて重合体を形成し、サンプル溶液内の目標亜集団対象物質と特異的に結合する捕捉素材と;を含む。
【0008】
また、本発明の実施例に係る親和分離システムにおいて、前記リガンドは、糖分子、イオン、基質、及び抗原からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。
【0009】
また、本発明の実施例に係る親和分離システムにおいて、前記バインダーは、糖結合タンパク質、イオン結合タンパク質、酵素、抗体、アプタマー、細胞受容体、及びナノ構造体からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。
【0010】
また、本発明の実施例に係る親和分離システムにおいて、前記認識素材は、抗体、タンパク質受容体、細胞受容体、アプタマー、酵素、ナノ粒子、ナノ構造体、及び重金属キレート剤(chelator)からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。
【0011】
また、本発明の実施例に係る親和分離システムにおいて、前記固定部材は、ヒドロゲル、磁性ビーズ、ラテックスビーズ、ガラスビーズ、ナノ金属構造体、細孔性メンブレン、及び非細孔性メンブレンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。
【0012】
また、本発明の実施例に係る親和分離システムにおいて、内部に前記固定部材を収容する反応器;をさらに含むことができる。
【0013】
また、本発明の実施例に係る親和分離システムにおいて、結合された前記リガンドが脱着されるときに、結合された前記バインダーと前記認識素材が互いに分離されてもよい。
【0014】
また、本発明の実施例に係る親和分離システムにおいて、前記目標亜集団対象物質と結合した前記固定部材は、磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上によって濃縮されてもよい。
【0015】
また、本発明の実施例に係る親和分離システムにおいて、前記サンプル溶液は体液を含み、前記目標亜集団対象物質は、前記体液内の異種のバルク集団から分離される物質であってもよい。
【0016】
また、本発明の実施例に係る親和分離システムにおいて、前記異種のバルク集団は、所定の疾患の診断に使用される細胞、エクソソーム、DNA、RNA、タンパク質、脂質、糖、及び代謝成分からなる群から選択される少なくとも2つ以上を含むことができる。
【0017】
一方、本発明の実施例に係る親和分離方法は、(a)リガンドが含有されたリガンド溶液、前記リガンドと着脱可能に結合反応して構造が変わるバインダー、構造が変わった前記バインダーと特異的に結合する認識素材、及び前記バインダー及び前記認識素材のいずれか一方と重合されて重合体を形成する捕捉素材を反応させて、前記バインダー及び前記認識素材の他方と、前記重合体とを結合させるステップと;(b)前記捕捉素材が特異的に結合する目標亜集団対象物質を含むサンプル溶液を添加し、前記重合体の前記捕捉素材と前記目標亜集団対象物質とを結合させるステップと;(c)前記バインダーに結合された前記リガンドが脱着されるように、前記リガンドが含まれていない回収溶液を添加して、前記認識素材及び前記バインダーの他方から、前記目標亜集団対象物質と結合された前記重合体を分離するステップと;を含む。
【0018】
また、本発明の実施例に係る親和分離方法において、前記(a)ステップは、前記バインダー及び前記認識素材の他方を固定部材の表面に固定させるステップと;前記重合体が溶解された前記リガンド溶液を、前記固定部材に添加して、前記固定部材に固定された前記バインダー及び前記認識素材の他方と、前記重合体とを結合させるステップと;を含むことができる。
【0019】
また、本発明の実施例に係る親和分離方法において、前記(b)ステップと前記(c)ステップとの間に、磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上を用いて、前記目標亜集団対象物質と結合された前記固定部材を、前記リガンド溶液及び前記サンプル溶液が混合された混合溶液内の所定の空間領域に捕捉するステップと;前記固定部材が含まれていない前記混合溶液の一部を除去して、前記目標亜集団対象物質を濃縮するステップと;をさらに含むことができる。
【0020】
また、本発明の実施例に係る親和分離方法において、前記サンプル溶液は体液を含み、前記目標亜集団対象物質は、前記体液内の異種のバルク集団から分離される物質であってもよい。
【0021】
また、本発明の実施例に係る親和分離方法において、前記異種のバルク集団は、所定の疾患の診断に使用される細胞、エクソソーム、DNA、RNA、タンパク質、脂質、糖、及び代謝成分からなる群から選択される少なくとも2つ以上を含むことができる。
【0022】
本発明の特徴及び利点は、添付の図面に基づく次の詳細な説明によりさらに明らかになるであろう。
【0023】
先ず、本明細書及び特許請求の範囲に使用された用語や単語は、通常の又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者が自分の発明を最良の方法で説明するために用語の概念を適宜定義できるという原則に基づき、本発明の技術的思想に符合する意味及び概念として解釈されなければならない。
【0024】
[発明の効果]
本発明によれば、特定の疾患と関連する生体対象成分を苛酷でない条件下で亜集団に分離することができ、分離された対象成分の亜集団を液体生検サンプルとして用いて、癌疾患及び退行性疾患などの特定の疾患の診断を高感度で行うことができる。
【0025】
[図面の簡単な説明]
[
図1]本発明の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システムの構成図である。
【0026】
[
図2]本発明の他の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システムの構成図である。
【0027】
[
図3]本発明の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離方法の流れ図である。
【0028】
[
図4]本発明の他の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離方法の流れ図である。
【0029】
[
図5]本発明の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離方法を用いて黒色腫癌細胞と関連するエクソソーム亜集団を分離する工程を示した流れ図である。
【0030】
[
図6]本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いてサンプル内のCD63+エクソソームを免疫親和クロマトグラフィー工程により分離した結果である。
【0031】
[
図7]
図6の免疫親和クロマトグラフィー工程を繰り返して用いてエクソソームの分離時の再現性を示した結果である。
【0032】
[
図8]本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いてサンプル内のCD63+エクソソームを免疫磁性分離工程により分離及び濃縮した結果である。
【0033】
[
図9]
図8の免疫磁性分離工程を繰り返して行う場合のCD63+エクソソームの分離時の再現性を示した結果である。
【0034】
[
図10]本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いて分離されたCD63+エクソソームに対する物理的特性化の結果である。
【0035】
[
図11]本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いて分離されたCD63+エクソソームサンプルのエクソソーム表面マーカーに対する特性化の結果である。
【0036】
[
図12]エクソソーム標準サンプル間の濃度の変移を補償するために、CD9の濃度を基準としてCav1マーカーの濃度を補正した結果である。
【0037】
[
図13]本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いて分離したCD63+エクソソームを分析サンプルとして用いる際に、黒色腫癌の診断に対する潜在的な効果を示した結果である。
【0038】
[
図14]本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システムと、現在商業的に販売されている様々なエクソソーム分離システムとの間に、分離されたサンプルの免疫分析によって決定されたCav1/CD9の濃度比率を基準として、黒色腫癌サンプルを正常サンプルから区分する性能に対する比較結果である。
【0039】
[発明を実施するための最良の形態]
本発明の目的、特定の利点及び新規な特徴は、添付の図面と関連する以下の詳細な説明及び好ましい実施例からさらに明らかになるだろう。本明細書において各図面の構成要素に参照番号を付加するにおいて、同一の構成要素に限っては、たとえ他の図面上に表示されても、可能な限り同一の番号を有するようにしていることに留意しなければならない。また、「第1」、「第2」などの用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別するために使用されるもので、構成要素が前記用語によって制限されるものではない。以下、本発明を説明するにおいて、本発明の要旨を不要に曖昧にする可能性がある係る公知技術についての詳細な説明は省略する。
【0040】
以下、添付の図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0041】
図1は、本発明の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システムの構成図であり、
図2は、本発明の他の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システムの構成図である。
【0042】
図1及び
図2に示したように、本発明に係る親和分離システムは、リガンド10と、前記リガンド10が着脱可能に結合され、前記リガンド10と結合反応して構造が変わるバインダー20と、構造が変わったバインダー20と特異的に結合する認識素材30と、バインダー20及び認識素材30のいずれか一方が表面に固定される固定部材40と、バインダー20及び認識素材30の他方と重合されて重合体Cを形成し、サンプル溶液内の目標亜集団対象物質1と特異的に結合する捕捉素材50とを含む。
【0043】
本発明は、サンプル内の所定の対象成分を亜集団に分離する技術に関する。特定の疾患が発生したか否かを早期に確認する診断方法として、血液、唾液、尿などの体液を抽出して、特定疾患関連の細胞あるいはこれから流出された構成成分(ペプチド、タンパク質、核酸、小器官、特定の物質など)に対する分析を行う「液体生検(liquid biopsy)」がある。特に、体液から抽出されるエクソソーム(exosome)を、癌疾患及び退行性疾患などの特定疾患の診断の新たなバイオマーカーとして用いる技術が最近研究されている。但し、体液にはあらゆる細胞に由来したエクソソームが混合された形態で存在するため、単純に体液から分離されたバルク母集団(bulk population)の形態のエクソソームサンプルでは癌のような特定の疾患を正確に診断するのに限界があるので、ターゲットエクソソームの分離及び濃縮技術が求められる。従来のエクソソーム分離技術としては、超遠心分離、沈殿分離、サイズ排除クロマトグラフィ(size exclusion chromatography)またはマイクロフルイディクス(microfluidics)を用いて分離する方法があるが、このような従来技術は、体液に存在する全てのエクソソームを一つの母集団の形態で提供するため、癌のような特定の細胞に由来した極微量のエクソソームを選択的に探知するのに限界がある。
【0044】
そこで、本発明は、エクソソームの表面に癌との相関性が高いタンパク質マーカー、例えば、黒色腫癌の場合にCaveolin1(Cav1)、胃癌の場合にHER-2/neu、そして、卵巣癌の場合にL1CAMが存在する点に着目して、特定のマーカーに対する免疫親和分離方法を採用することによって、特定のエクソソーム亜集団を分離しようとする。但し、体液内の極微量のエクソソームを既存の一般の工程により分離し、探知するには、探知の限界の克服及び再現性の維持の観点で非常に難しい。実際に、固相の母体に捕捉された特定のエクソソームを解離させるためには、酸性pHあるいは界面活性剤の包含のような苛酷条件を用いなければならないので、エクソソームの損傷及び収率の減少がもたらされるという問題が依然として存在するためである。そこで、本発明は、サンプルから目標亜集団を高収率及び元の状態で回収できるように、苛酷条件を用いない親和分離技術を実現するために案出された。
【0045】
ここで、サンプルは、液体生検に必要な体液であって、目標亜集団対象物質1はエクソソームであってもよいが、必ずしもこれに限定されるものではない。したがって、体液が必ずしも液体生検に活用される場合のみに限定されるものではなく、サンプルは、目標亜集団対象物質1を含むいかなる種類のサンプルであっても構わない。また、目標亜集団対象物質1は、細胞や細胞由来の構成成分などのように、本発明によって分離可能な物質であれば、特に制限はない。
【0046】
具体的には、本発明に係る親和分離システムは、リガンド10、バインダー20、認識素材30、固定部材40、及び捕捉素材50を含む。
【0047】
ここで、リガンド10は、バインダー20に着脱可能に結合される物質であって、糖分子、イオン、基質、及び抗原からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。
【0048】
バインダー20は、リガンド10との結合反応を通じて構造変化(conformation change)が引き起こされる物質である。このようなバインダー20は、糖結合タンパク質、イオン結合タンパク質、酵素、抗体、アプタマー、細胞受容体、及びナノ構造体からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。したがって、バインダー20及びリガンド10は、糖結合タンパク質-糖分子ペア、イオン結合タンパク質-イオンペア、酵素-基質ペア、抗原-抗体ペア、アプタマー(aptamer)-リガンドペア、細胞受容体-リガンドペア、ナノ構造体-リガンドペアなどのようなバインダー-リガンドペアをなすことができ、最も代表的なバインダー20とリガンド10の例としては、カルシウム結合タンパク質(calcium binding protein、CBP)とカルシウムイオンが挙げられる。但し、バインダー20及びリガンド10が必ずしも前記物質に限定されるものではなく、互いに着脱可能に結合して構造変化を起こす物質であれば、いかなるものでも構わない。
【0049】
認識素材30は、リガンド10と結合して構造が変わったバインダー20と特異的に結合する物質であって、抗体、タンパク質受容体、細胞受容体、アプタマー、酵素、ナノ粒子、ナノ構造体、及び重金属キレート剤(chelator)からなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。但し、前記物質は、認識素材30の一例に過ぎず、必ずしもこれに限定して本発明の権利範囲が定められてはならない。具体的な実施例として、リガンド10とバインダー20と認識素材30との間の結合反応を説明すると、カルシウムイオン(リガンド)がカルシウム結合タンパク質(バインダー)と1次結合してカルシウム結合タンパク質の構造変化が引き起こされ、構造が変わったカルシウム結合タンパク質と抗体(認識素材)との間に抗原-抗体反応が起こって互いに結合される。
【0050】
ここで、バインダー20及び認識素材30のいずれか一方は、固定部材40に固定され、他方は、捕捉素材50と重合されて重合体Cを形成する。すなわち、
図1のように、固定部材40上に認識素材30が固定され、バインダー20と捕捉素材50が重合されてバインダー-捕捉素材重合体Cを形成する場合(第1実施例、後述する実施例2及び実施例3参照)と、
図2のように、固定部材40上にバインダー20が固定され、認識素材30と捕捉素材50が重合されて認識素材-捕捉素材重合体Cを形成する場合(第2実施例)とに区分することができる。
【0051】
それぞれの前記実施例において、固定部材40は、表面にバインダー20又は認識素材30を結合固定する部材であって、ヒドロゲル(実施例2参照)、磁性ビーズ(実施例3参照)、ラテックスビーズ、ガラスビーズ、ナノ金属構造体、細孔性メンブレン、及び非細孔性メンブレンからなる群から選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。但し、固定部材40が必ずしも前記に限定されるものではなく、バインダー20又は認識素材30と結合可能な素材であれば、特に制限されない。捕捉素材50は、バインダー20又は認識素材30と重合され、サンプル溶液内の目標亜集団対象物質1と特異的に結合される抗体のような物質である。このような抗体などの捕捉素材50は、目標亜集団対象物質1の表面タンパク質のようなターゲットマーカーPと抗原-抗体反応などを通じて特異的に結合され得る。
【0052】
したがって、前記第1実施例の場合には、固定部材40上に認識素材30が固定され、リガンド10が結合されて構造が変わったバインダー20が認識素材30と結合し、バインダー20と重合された捕捉素材50が目標亜集団対象物質1と特異的に結合して、サンプル溶液内の目標亜集団対象物質1を捕捉する。このとき、バインダー20と捕捉素材50が互いに重合された状態で、すなわち、バインダー-捕捉素材重合体Cとしてバインダー20がリガンド10と結合されるか、またはバインダー20がリガンド10と先に結合し、以降にバインダー20と捕捉素材50が互いに重合されてもよい。
【0053】
第2実施例の場合には、固定部材40上にバインダー20が固定され、リガンド10が結合されて構造が変わったバインダー20と認識素材30が互いに結合し、認識素材30と重合された捕捉素材50が目標亜集団対象物質1と特異的に結合して、サンプル溶液内の目標亜集団対象物質1を捕捉する。このとき、認識素材30と捕捉素材50が重合された認識素材-捕捉素材重合体Cがバインダー20と結合するか、または認識素材30が先にバインダー20と結合した後に捕捉素材50と重合されてもよい。
【0054】
一方、前記第1及び第2実施例において、それぞれの結合反応は、内部に固定部材40を収容する反応器(図示せず)内で行われ得る。このとき、反応器の内部では、認識素材30、バインダー20、及び捕捉素材50を媒介として、固定部材40と目標亜集団対象物質1が互いに結合するようになる。ここで、磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上を用いて目標亜集団対象物質1を濃縮することができる。例えば、磁性ビーズを固定部材40として使用する場合、磁石を用いて目標亜集団対象物質1と結合された固定部材40を捕捉した状態で上層液を除去し、磁性ビーズを除去することによって濃縮が可能である。
【0055】
一方、前述したように、サンプル溶液内の目標亜集団対象物質1を捕捉した後は、これを回収しなければならないが、ここで、バインダー20に結合されたリガンド10を脱着させることによって、構造が変わったバインダー20を元の状態に回復させ、結合されたバインダー20と認識素材30を互いに分離する方法を取ることができる。このとき、リガンド10が含まれていない回収溶液を注入してリガンド10を脱着させることができる。
【0056】
前記のように具現された本発明の親和分離システムは、体液から癌疾患や退行性疾患などのような特定の疾患と関連する細胞や細胞由来の構成成分を分離して回収するのに用いることができる。この場合、体液を含むサンプル溶液を使用するが、その体液内には異種のバルク集団が存在するので、その異種のバルク集団から必要な目標亜集団対象物質1を前記親和分離システムを用いて分離回収する。このとき、異種のバルク集団は、所定の疾患の診断に使用される細胞、エクソソーム、DNA、RNA、タンパク質、脂質、糖、及び代謝成分からなる群から選択される少なくとも2つ以上を含むことができる。
【0057】
総合的に、本発明は、カルシウム結合タンパク質のようなバインダー20がこれと特異的に反応するカルシウムイオンのようなリガンド10と結合して引き起こされる構造変化を特異的に認識する抗体などの認識素材30の利用に基づく。このような抗原-抗体反応のようなバインダー20-認識素材30反応は、カルシウムイオンのようなリガンド10の有無に応じて迅速に結合あるいは解離され、まるでスイッチを操作してオン/オフする原理と類似するので、‘スイッチ性可逆付着反応(switch-like reversible binding)’として描写される。このような本発明によれば、新たな可逆性の抗原-抗体反応のような付着反応を用いて、ターゲットマーカーを含む対象亜集団を、苛酷でない条件で高効率で分離及び濃縮することができる。すなわち、抗原-抗体反応によって結合されたエクソソームのような目標亜集団対象物質を固相のビーズの表面から回収するために、酸性pHのような苛酷な条件を用いる方式と比較するとき、エクソソームなどの構造的原形を維持することができ、また、高収率の回収が可能である。
【0058】
以下では、本発明に係る親和分離システムを用いた親和分離方法について説明する。親和分離システムについては上述したので、重複する事項については説明を省略又は簡単に記述する。
【0059】
図3は、本発明の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離方法の流れ図であり、
図4は、本発明の他の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離方法の流れ図である。
【0060】
図3及び
図4に示したように、本発明に係る親和分離方法は、(a)リガンド10が含有されたリガンド溶液、リガンド10と着脱可能に結合反応して構造が変わるバインダー20、構造が変わったバインダー20と特異的に結合する認識素材30、及びバインダー20及び認識素材30のいずれか一方と重合されて重合体Cを形成する捕捉素材50を反応させて、バインダー20及び認識素材30の他方と、重合体Cとを結合させるステップ(S100)と、(b)捕捉素材50が特異的に結合する目標亜集団対象物質1を含むサンプル溶液を添加し、重合体Cと目標亜集団対象物質1とを結合させるステップ(S200)と、(c)バインダー20に結合されたリガンド10が脱着されるように、リガンド10が含まれていない回収溶液を添加して、認識素材30及びバインダー20の他方から、目標亜集団対象物質1と結合された重合体Cを分離するステップ(S300)とを含む。
【0061】
サンプル溶液内で目標亜集団対象物質1を分離し、回収するために、まず、リガンド溶液、バインダー20、認識素材30、及び捕捉素材50を反応させる(S100)。このとき、バインダー20及び認識素材30のいずれか一方は、捕捉素材50と重合されて重合体Cを形成し、他方は、その重合体Cと結合する。ここで、リガンド溶液内に含有されたリガンド10がバインダー20に結合されてバインダー20の構造変化が引き起こされ、構造が変わったバインダー20を認識素材30が特異的に認識して結合する。
【0062】
すなわち、
図3を参照すると、前述した第1実施例のように、バインダー20と捕捉素材50が重合されてバインダー-捕捉素材重合体Cが形成され、バインダー20は、リガンド溶液の添加により構造変化が引き起こされるので、認識素材30がバインダー20と結合できる。このとき、バインダー20及び捕捉素材50は、重合体Cが形成された状態で添加されるか、または個別に添加されて重合体Cを形成してもよい。一実施例として、認識素材30を固定部材40の表面に固定させ、バインダー-捕捉素材重合体Cが溶解されたリガンド溶液を固定部材40に添加することによって、認識素材30と重合体Cを結合させることができる。
【0063】
また、
図4を参照すると、前述した第2実施例のように、認識素材-捕捉素材重合体Cが形成され、リガンド溶液により構造が変わったバインダー20が重合体Cの認識素材30と結合できる。このときにも、認識素材30及び捕捉素材50は、重合体Cの状態で添加されてもよいが、個別に添加されて重合体Cを形成してもよい。一例として、バインダー20を固定部材40の表面に固定させ、認識素材-捕捉素材重合体Cが溶解されたリガンド溶液を固定部材40に添加することによって、バインダー20と重合体Cを結合させることができる。
【0064】
次に、目標亜集団対象物質1を含むサンプル溶液を添加する(S200)。このとき、重合体Cの捕捉素材50が目標亜集団対象物質1と特異的に結合するようになる。ここで、サンプル溶液は体液を含むことができ、このとき、目標亜集団対象物質1は、前記体液内の異種のバルク集団から分離される。ここで、異種のバルク集団は、所定の疾患の診断に使用される細胞、エクソソーム、DNA、RNA、タンパク質、脂質、糖、及び代謝成分からなる群から選択される少なくとも2つ以上を含むことができるので、一例として、エクソソームを含む異種のバルク集団から、エクソソームを目標亜集団対象物質1として分離することができる。
【0065】
以降に、回収溶液を添加する(S300)。回収溶液は、リガンド10を含有していないリガンド10非含有の溶液であって、回収溶液が添加されると、バインダー20に結合されたリガンド10が脱落するようになり、これにより、バインダー20の変化した構造が元の状態に回復されながら、バインダー20と認識素材30との結合が解除される。したがって、目標亜集団対象物質1と結合された重合体Cが、認識素材30から分離されるか(第1実施例及び
図3参照)、またはバインダー20から分離されるので(第2実施例及び
図4参照)、最終的に目標亜集団対象物質1を回収することができる。このとき、目標亜集団対象物質1は、重合体Cと共に回収され、固定部材40上には、初期のような形態で認識素材30が固定されるか(第1実施例及び
図3参照)、またはバインダー20が固定されるので(第2実施例及び
図4参照)、認識素材30又はバインダー20が固定された固定部材40を活用して新たなサンプル溶液を分離することもできる。
【0066】
一方、サンプル溶液を添加した後、回収溶液を添加する前に、目標亜集団対象物質1を濃縮することができる。具体的には、磁力、重力、及び遠心力のいずれか1つ以上を用いて、目標亜集団対象物質1と結合された固定部材40を、リガンド溶液及びサンプル溶液が混合された混合溶液内の所定の空間領域に捕捉する。次に、固定部材40が含まれていない混合溶液の一部(例えば、上層液)を除去することによって、目標亜集団対象物質1を濃縮することができる。
【0067】
前記の工程は反応器で行うことができ、反応器の内部に認識素材30又はバインダー20が固定された固定部材40を充填し、これに、リガンド溶液、重合体C、サンプル溶液などを添加する。ここで、反応器は、クロマトグラフィーカラムであって、クロマトグラフィー方式で結合及び脱着反応を行うか、またはバッチ容器であって、バッチ(batch)方式で反応を行い、磁力、重力、または遠心力を用いて分離する工程を行うことができる。
【0068】
一例として、本発明は、特定疾患の診断のための液体生検時に体液内のエクソソーム亜集団を分離・濃縮する技術として活用できるところ、以下では、
図5を参照して、本発明を用いてエクソソーム亜集団を分離する工程について説明する。
図5は、本発明の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離方法を用いて黒色腫癌細胞と関連するエクソソーム亜集団を分離する工程を示した流れ図である。
【0069】
体液内のエクソソームを用いた液体生検時に、単純に濃縮したバルク母集団の形態のサンプルから、検査対象の疾病に選択的に分離されたエクソソーム(disease relevant exosome)サンプルの使用は診断の正確度を向上させることができる。このような接近法を実験的に例示するために、メラニン産生細胞から発生する皮膚癌である黒色腫癌を対象として選択した。参考に、黒色腫癌は、悪性度が最も高く、転移率が高いため、生存率を高めるために、迅速かつ正確な診断が必要な疾病である。過去のある研究によれば、エクソソームの表面タンパク質であるCaveolin1(Cav1)は、健常者に比べて黒色腫癌患者の血液で著しく増加するので、Cav1陽性(Cav1+)エクソソームベースの診断敏感度は68%で、他の黒色腫癌マーカーであるCD63ベースの診断敏感度である43%よりも相対的に高い。このような液体生検の性能の向上を通じて臨床に用いるためには、ターゲットエクソソームの選択的な分離及び濃縮が必要であるが、体液内の全エクソソーム中のその割合が非常に低いため、公知の一般的な工程によっては実現しにくい。
【0070】
したがって、本発明は、体液内のエクソソームを選択的に分離してCav1+エクソソームを含有した亜集団を取得し、これを検査サンプルとして用いることで、黒色腫癌の診断の正確度及び敏感度を増加させる方法として活用しようとする。エクソソームの分離時に、その収率及び再現性を考慮して、Cav1+エクソソームを分離対象としてターゲッティングせず、癌の発生と連関性があるその上位のエクソソーム集団を分離対象とした。例えば、他の表面タンパク質と比較して一般的なエクソソームに多く存在するhouse-keeping proteinであるCD63タンパク質は、黒色腫癌を含むいくつかの癌の発生時にエクソソームの表面に増加して発現するので、この表面タンパク質を分離媒介体として用いる技術である。実際に、エクソソーム表面タンパク質CD63+エクソソームを黒色腫癌に対する診断マーカーとして用いる際に、その敏感度が43%であって、エクソソーム表面タンパク質Cav1+の利用時よりも低いと報告されているが、分離されたCD63+エクソソーム亜集団にCav1+エクソソームが含まれれば、これを検査サンプルとして用いた黒色腫癌の診断の敏感度は、バルク母集団サンプルの利用時よりも遥かに増加すると仮定することができる(
図5の上段参照)。
【0071】
表面タンパク質マーカーによるエクソソームの分離のために、ターゲットマーカーに特異な抗体を用いた免疫分離方法を適用することができる。この方法によれば、エクソソームサンプルを磁性ビーズやゲルビーズのような固体表面に固定された抗体と反応させた後、解離させてターゲットエクソソームを分離することができる。抗原-抗体反応は選択性が非常に高いため、現存する他の分離方法(例えば、超遠心分離、加速沈降、サイズによる分離など)に比べて、表面タンパク質に関連するエクソソームを分離するにはさらに適している。しかし、抗原-抗体反応により結合されたエクソソームを固体表面から回収するためには、酸性pHのような苛酷な条件を用いなければならないが、この場合、エクソソームに損傷を与えることがあり、また、高収率の回収が難しいという問題がある。しかし、本発明によれば、新たな可逆性の抗原-抗体反応のような付着反応を用いて、ターゲットマーカーを含むエクソソーム亜集団を、苛酷でない条件で高効率で分離及び濃縮することができる。
【0072】
本発明に係る一実施例によって、エクソソームを分離するためには、可逆的認識素材を固体表面(Bead surface)に固定させ(
図5のI)、カルシウム結合タンパク質(CBP)は、エクソソーム表面タンパク質(例:CD63)に対する特異抗体とビオチン―ストレプトアビジンリンケージ(biotin-streptavidin linkage)を介して重合する(CBP-捕捉抗体重合体)。固定された可逆的認識素材にカルシウムイオン(例>10mM Ca
2+)が含まれた溶液に溶解されたCBP-捕捉抗体重合体を添加すると、‘スイッチオン’認識反応によって、重合体は固体表面に固定される(
図5のII)。同じ溶液に、準備されたバルクエクソソーム試料を順次添加すると、CD63マーカーを含むエクソソームが固体表面の捕捉抗体と反応して捕捉される(
図5のIII)。同じ溶液で洗浄した後、カルシウムが除去されたエクソソーム回収溶液を添加すると、CBPと結合されていたカルシウムイオンが脱着されて‘スイッチオフ’の状態になるので、捕捉されていたエクソソームを捕捉抗体と結合された状態で溶液内に回収することができる(
図5のIV)。その結果、CD63マーカーを含むエクソソーム亜集団が分離回収され、使用された試料溶液と回収溶液の体積の比率に応じてエクソソームの濃縮も可能である。追加的に、固体表面は再生されて他の試料の分離に再利用できる。
【0073】
以下では、具体的な実施例及び評価例を通じて、本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのもので、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0074】
<材料>
カルシウムイオンがカルシウム付着タンパク質(CBP)に付着反応時に変化したCBPの独特の構造を特異に認識する単一クローン抗体は、本発明者らによって生産された(Paek et al.Analyst 139,3781-3789,2014))。また、CBPとして、突然変異されたグルコース/ガラクトース結合タンパク質(glucose-galactose binding protein;GGBP)を選択し、このタンパク質を大腸菌(Escherichia coli;E.coli)から産生した後、精製した。塩化ナトリウム(Sodium chloride)、Trizma、カゼイン(casein)(sodium salt form、extract from bovine milk)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine;TMB)、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate;SDS)、ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin;BSA)、及びCNBr活性化セファロース4Bゲル(CNBr-activated Sepharose 4B gel)(4%アガロース)は、Sigma社(St.Louis,MO,米国)から購入した。塩化カルシウム二水和物(Calcium chloride dihydrate)及び塩化カリウム(potassium chloride)は、Daejung(始興、韓国)で供給した。スルホスクシンイミジル-6-[ビオチンアミド]-6-ヘキサンアミドヘキサノエート(Sulfosuccinimidyl-6-[biotinamido]-6-hexanamido hexanoate)(NHS-LC-LC-biotin)、スクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate;SMCC)、N-スクシンイミジル 3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオナート(N-succinimidyl 3-(2-pyridyldithio)-propionate;SPDP)、ジチオトレイトール(dithiothreitol;DTT)、マレイミド(maleimide)、ストレプトアビジン(streptavidin;SA)、及びホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase;HRP)は、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)社(Rockford,IL,米国)から購入した。抗CD63抗体(Cat.No.353014)は、BioLegend(San Diego,CA,米国)で供給し、CD9(Cat.No.MAB1880)、CD81(Cat.No.MAB4615)、あるいはCaveolin-1(Cav1;Cat.No.MAB5736)に特異な単一クローン抗体は、R&D Systems(Minneapolis,MN,米国)で供給した。冷凍乾燥された健常者のエクソソーム標準試薬(ヒト血漿由来)及び黒色腫癌細胞培養液はHansaBioMed(Tallinn、エストニア)から購入した。磁性ビーズ(Dynabeads M-280 Tosylactivated、直径2.8mm)及びstreptavidin-poly-HRP20は、Invitrogen(Carlsbad,CA,米国)及びFitzgerald(Acton,MA,米国)でそれぞれ供給した。種々の他のエクソソーム分離キット、すなわち、ExoQuickTM kit(System Biosciences;Mountain View,CA,米国)、MagCaptureTM kit(Wako;Osaka、日本)、及びexoEasy MaxiTM kit(Qiagen;Hilden、ドイツ)は、それぞれ異なる供給源から購入した。それ以外の他の試薬も分析用製品を使用した。
【0075】
<実施例1:エクソソームの分離及び特性化用構成成分の製造>
〔SAとCBPとの重合。〕10mMのリン酸緩衝溶液(pH7.4;PB)に溶解されたCBP(400μg)を、20モル倍のSMCCと混合した後、室温で1時間反応させて活性化した。PBに溶解されたSA(2mg)を、5モル倍のSPDPと1時間反応させた後、5mMのエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid;EDTA)を含む10mMのDTT溶液で37℃で1時間、化学的に還元させて、スルフヒドリル基(sulfhydryl groups)を表出させた。各活性化された成分は、Sephadex G-15ゲル濾過カラム(10mlの体積)を介して過剰に使用された試薬を除去することによって分離した。2つの活性化されたタンパク質、すなわち、maleimide-CBP及びthiolated-SAを1:5のモル比で混合し、室温で4時間反応させた。その後、SAとCBPとの重合体(CBP-SA)が含まれた最終溶液を、使用時まで、よくシールされた容器内で4℃で保管した。
【0076】
〔抗CD63抗体のビオチン化(biotinylation)。〕NHS-LC-LC-ビオチンのスクシンイミジル-エステル(succinimidyl-ester)部分を抗体分子上のアミン基と反応させて、ビオチン化された抗体を製造した。簡略に過程を記述すると、140mMのNaClを含むPB溶液(PBS)に溶解された抗CD63抗体を、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide;DMSO)に溶解された20モル倍のNHS-LC-LC-ビオチンと混合し、室温で2時間反応させた。混合物内の未反応試薬は、PBSで平衡状態にあるSephadex G-15カラムを用いたサイズ排除クロマトグラフィ(size-exclusion chromatography)を介して除去した。精製された重合体は、PBSで2回透析し、Vivaspin500を用いて1mg/mlの濃度に濃縮した後、使用時まで4℃で保管した。
【0077】
〔HRPを用いた抗CD63抗体の標識。〕抗CD63抗体を一般的な過程を用いてHRPで標識した。簡略に説明すると、抗体を、まず、10mMのDTTで37℃で1時間還元させ、過量の試薬はゲル濾過カラムを用いて除去した。HRPも30モル倍のSMCCで活性化させ、未反応試薬は、先と同様にサイズ排除クロマトグラフィを介して除去した。還元された抗体を、10モル倍の活性化されたHRPと混合した後、重合反応を4℃で24時間以上行った。生成された重合体は、同じ体積のグリセロール(glycerol)と混合した後、-20℃で保管した。
【0078】
<実施例2:免疫親和クロマトグラフィー>
〔免疫親和ゲルの製造。〕免疫親和クロマトグラフィーを行うために、CBPに特異な単一クローン抗体をCNBr活性化セファロース4Bゲルの表面に固定させた。製造社で提供した説明書に従って、抗体(水和されたゲルの体積ml当たり2mg)をアガロースゲル(agarose gel)上に化学的に結合させるために、抗体分子上のリジン(lysine)残基をゲル上の機能性基とアルカリ条件で反応させた。抗体を結合させた後、ゲル上の残りの反応基は、Tris-HCl緩衝溶液を用いて加水分解させた。
【0079】
製造された免疫親和ゲルをプラスチックカラムに充填させて免疫親和クロマトグラフィーカラムを製造し、酸性条件とアルカリ性条件を交互に用いて洗浄することによって、固体(ゲル)表面に非特異的に吸着された抗体を除去した。
【0080】
〔前処理された免疫親和クロマトグラフィーカラムの製造、及びこれを介したCD63陽性(CD63+)エクソソームの分離。〕前記で製造された免疫親和ゲルを活用して前処理された免疫親和クロマトグラフィーカラムを製造した。エクソソームマーカーの一種であるCD63陽性(CD63+)エクソソームに特異な免疫親和クロマトグラフィーカラムを作製するために、プラスチックカラムに免疫親和ゲルを充填し、Ca2+(10mM)が含まれた運搬溶液(‘Ca2+スイッチオン’の条件)を用いて、CBP-SA重合体(5μg/ml)を単一クローン抗体と反応させて免疫親和ゲルに固定させた後、ビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体(3μg/ml)を、biotin-SA結合を介してCBP-SA重合体に順次固定させた。
【0081】
このように作製された免疫親和カラム(9mm×3.2mm;1.5ml bed volume)を用いてエクソソームを分離した。準備されたCD63免疫親和カラムにエクソソーム試料(健常者のエクソソーム標準サンプル(25μg/ml;1ml))を添加し、Ca2+を含む運搬溶液を注入して、結合されなかった成分を洗浄した。その後、Ca2+が除去された運搬溶液(‘Ca2+スイッチオフ’の条件)を注入して、免疫親和ゲルに付着していたCBP-抗体-エクソソーム結合体(CD63+エクソソームを含む)を分画別に回収した。ここで、前処理カラムは、再生した後、他のサンプルの分析に再利用した。
【0082】
前記過程をより詳細に説明すると、エクソソームサンプルを免疫親和カラムに添加する前に、ゲルを、140mMのNaCl、10mMのCa2+及び2%BSAを含む20mMのTris-HCl(pH7.4;付着溶液)と平衡状態を維持させた。実施例1で製造したCBP-SA(5μg/ml、1ml)及びビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体(3μg/ml、1ml)、そして、エクソソーム標準サンプル(1ml;健常者のエクソソーム標準試薬あるいは黒色腫癌細胞培養液)をそれぞれ付着溶液で希釈させた。また、各試薬の添加位置を確認できるように、マーキングのために、HRP酵素(0.1μg/ml)を各希釈溶液に添加した。製造した各溶液を、予め指定された流出体積で流出されるように、ゲルカラムに順に添加した。カラムからの流出液は、連動ポンプを用いて120μl/minの流出速度で分画収集器(分画体積:1ml)に移送された。未反応のタンパク質をカラムから除去するために、ゲルカラムを、BSAが排除された付着溶液で洗浄した。最終的に、カラムに、500mMのNaClが含まれた20mMのTris-HCl(pH7.4)緩衝溶液を供給して、カラムに付着されていたエクソソームを流出させて回収した。その後、ゲルカラムに、500mMのNaCl、5%(v/v)Tween-20、及び0.02%(w/v)チメロサールが含まれた100mMの酢酸ナトリウム(sodium acetate)緩衝溶液(pH4.5)を供給し、カラムからタンパク質の流出がなくなるまで完全に洗浄してカラムを再生した。
【0083】
<実施例3.免疫磁性分離>
〔CD63+エクソソームの免疫磁性濃縮。〕一般に、磁性濃縮技術は、抗体が結合された免疫磁性ビーズを用いて、抗原-抗体反応を介して磁場下で目標物質を分離し、濃縮を同時に行う方法である。この方法を用いたCD63+エクソソームの分離過程は、基本的に実施例2の免疫親和クロマトグラフィーを行う工程と同一である。Ca2+結合によるCBPの構造変化を認知する単一クローン抗体を磁性ビーズに結合させた後、‘Ca2+スイッチオン’の条件下で、CBP-SA重合体、そして、ビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体を順次反応させた。このように製造した免疫磁性ビーズをエクソソームサンプル(健常者のエクソソーム標準サンプル1ml)と反応させた後、磁石を用いて磁性ビーズを捕捉した状態で上層液を除去し、ビーズを洗浄した。その後、‘Ca2+スイッチオフ’の条件下で、初期に比べて1/10体積の緩衝溶液を添加して、CD63+エクソソームを回収及び濃縮した。
【0084】
前記過程をより詳細に説明すると、磁性濃縮のために、CD63に特異な抗体を、磁性ビーズの固体表面上に活性化されたトシル(tosyl)部分に抗体上のアミン基と化学的に結合させて固定した。Tris-HCl緩衝溶液で3回洗浄した後、残りの表面をCasein-PBSでブロッキングした。ビーズ(総1mg)を溶液から磁性分離した後、付着溶液で希釈したCBP-SA重合体(5μg/ml;1ml)を添加し、振盪器上で1時間反応させた。ビーズをBSAが除去された付着溶液で洗浄した後、ビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体(3μg/ml;1ml)を同じ条件で順次反応させた。再び洗浄した後、付着溶液で希釈したエクソソームサンプル(25μg/ml;1ml)を添加し、3時間反応させた。最後に、免疫親和クロマトグラフィーでのようなプロトコルに従ってCD63+エクソソームの回収及びビーズの再生を行った。
【0085】
<評価例1:実施例1で回収された流出分画の分析>
図6は、本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いてサンプル内のCD63+エクソソームを免疫親和クロマトグラフィー工程により分離した結果である。
【0086】
実施例2において、各添加試料のクロマトグラム上の流出位置を確認するために、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase;HRP)に対する発色式酵素分析を先に行った。実施例2による分離過程を介してカラムから収集した溶出分画を分析してみると、各成分の添加位置、及び各分画別のCD63+エクソソームに対する分布を確認することができる。前処理されたゲルカラムに各成分(即ち、CBP-SA重合体、ビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体及びエクソソームサンプル)を注入する際に、各溶液に総0.1μgのHRPを含ませることで、溶出後、添加された位置を確認できるようにした。したがって、各分画から一部をサンプリングしてマイクロウェルに分注し、HRP基質溶液を添加して得た反応結果から、各成分の注入位置情報に対するクロマトグラムを得、
図6に点線で(a)、(b)、(c)ピークを表示した。前記酵素分析過程についてより詳細に説明すると、各分画の一定量(5μl)をマイクロタイタープレート(microtiter plate)に分注した後、酵素基質溶液(200μl)を添加して酵素から信号を発生させた。酵素基質溶液は、3%(v/v)過酸化水素水溶液(10μl)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide;DMSO)に溶解された10mg/mlのTMB(100μl)、そして、0.05Mのアセテート(acetate)緩衝溶液(pH5.1;10ml)を混合して製造した。酵素の信号が飽和する前に2M硫酸溶液(50μl)を添加して反応を終結させ、光学密度を最大吸光度450nmでマイクロプレートリーダ(microplate reader)(Synergy H4,BioTek Inc.;Winooski,VT,USA)で測定した。
【0087】
さらに、免疫親和力によって分離されて回収されたエクソソームの流出位置を確認するために、各分画内のエクソソームに対する酵素免疫分析(enzyme-linked immunosorbent assay;ELISA)を行った。このために、抗CD63抗体が固定されたマイクロウェルに、各分画から一部をサンプリングして添加して反応させ、カラム内でエクソソームと反応したと予測されるビオチン化(biotinylated)抗体分子上の残りのビオチンにSA-poly HRP20重合体を順次反応させた。より具体的には、抗体の固定化は、5μg/mlの抗体(100μl)を各ウェルに添加した後、37℃で1時間反応させて行った。洗浄後、残りの表面を、0.5%カゼインが含まれたTris-HCl緩衝溶液(Casein-Tris)でブロッキングした。その後、各分画の一定部分(100μl)を各ウェルに添加し、37℃及び100%湿度が維持される箱内で12時間反応させた。ウェルを洗浄し、実施例1で製造したビオチン化(biotinylated)抗CD63抗体(1μg/ml;100μl)を添加した後、37℃で1時間反応させた。再び洗浄した後、Casein-Trisで希釈したSA-poly HRP20(66ng/ml;ウェル当たり100μl)を添加し、37℃で1時間反応させた。最後に、HRPに対する基質溶液(200μl)を添加し、発色が飽和する前に2M硫酸溶液(50μl)を添加して反応を停止させ、光学密度を前記のように測定した。HRP基質溶液を添加してエクソソーム特異クロマトグラムを得た結果は
図6の実線で表示し、‘Ca
2+スイッチオフ’の条件下で意味のある信号は
図6に(d)ピークとして表示した。使用された免疫分析では、CD63+エクソソームを中心に形成された抗CD63抗体サンドイッチ結合体のみが探知されるので(
図6の挿入図参照)、カラムから流出された(d)ピークには、免疫分離されて回収されたCD63+エクソソームが含まれたと判断される。それに加えて、エクソソームサンプルの注入位置(
図6の(c)ピーク)でも信号が弱く発生したことからみて、一部のエクソソーム結合体が流出されるか、あるいは親和力がない過量のエクソソームが非特異反応した結果であると予測される。しかし、このピークの大きさが、(d)ピークの大きさに比べて10%以下であるので、これ以上分析対象としなかった。
【0088】
<評価例2:実施例2による免疫親和クロマトグラフィーの再現性の評価>
図7は、
図6の免疫親和クロマトグラフィー工程を繰り返して用いて、エクソソームの分離時の再現性を示した結果である。
【0089】
実施例2による免疫親和カラムを用いたエクソソームの分離再現性を確認するために、同じ免疫分離過程を繰り返し、各実験結果から得た流出分画を、既に言及したCD63+エクソソームに対する免疫分析を行って各クロマトグラムを取得した(
図7のA参照)。Ca
2+が除去された流出用運搬溶液に転換した後(35番目の分画後)、繰り返し実験時にも、CD63+エクソソームが分離されて単一の独立したピークの形態で形成されることが確認できた。さらに、CD63+エクソソームピークを形成する分画番号、及びエクソソームに対する特異信号の強度も非常に類似していることを確認した。特に、クロマトグラム上の回収エクソソームピーク内の37、38及び39番目の分画に含まれたCD63+エクソソームに対する免疫分析信号は、平均変異係数(coefficient of variation;CV)が9.4%以下程度であって、高い再現性を示した(
図7のB参照)。
【0090】
本評価例2の試験過程をより詳細に説明すると、前記のように免疫親和クロマトグラムを最初に得た後、同じ分離プロトコルに従って各流出分画に含まれたエクソソームを回収し、分析する過程を3回繰り返した。本評価実験では、各分離されたエクソソームピークを構成する主要分画内に含まれたCD63+エクソソームに対する免疫分析結果を得、その測定された信号間の変異係数(coefficient of variation;CV)を、各分離試験に対する再現性の評価指標として使用した。分離用ゲルカラムを使用しない時には、Tris-HCl緩衝溶液を充填して4℃で保管した。
【0091】
<評価例3:実施例3の濃縮性能の評価>
図8は、本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いてサンプル内のCD63+エクソソームを免疫磁性分離工程により分離及び濃縮した結果である。
【0092】
実施例3の濃縮性能を試験するために、磁性分離工程を他のエクソソーム標準サンプル(1、3、あるいは5μg/ml)に対して繰り返して適用した後、前述したCD63+エクソソームに対するサンドイッチ免疫分析を行い、その結果を、
図8のAに黒色の棒グラフで表示した。磁性濃縮前の元の標準サンプル内のCD63+エクソソームに対する免疫分析の結果は、
図8のAに白色の棒で表示したが、両者を比較すると、磁性濃縮により、信号が平均的に約3.7倍程度増加したことが分かった。分離されたエクソソームの濃縮比率を決定するために、元の標準サンプルに対する免疫分析の濃度応答をlog-logit変換を通じて線形化し、これから、濃縮されたCD63+エクソソームの濃度を決定して、
図8のBに示した。その中で、CD63+エクソソームを基準として3μg/mlのエクソソームサンプルに対して濃縮した結果、約22μg/mlを得ることができ、このことから、約7.9倍の濃縮効率が確認できた。
【0093】
ここで、分離前後のエクソソームサンプルの濃度を、免疫分析において標準試薬で得た結果との比較を通じて決定したが、まず、健常者のエクソソーム標準試薬をCasein-Trisで希釈してエクソソーム標準サンプル(1~100μg/ml)を準備し、免疫分析のために、抗CD63抗体(5μg/ml;100μl)をマイクロウェル内に添加し、37℃で1時間反応させて、ウェル内部の表面に捕捉バインダーで固定した。洗浄後、Casein-Trisを添加して、残りの表面を前記と同じ条件下でブロッキングした。各エクソソームサンプル(100μl)をそれぞれ異なるウェルに添加し、37℃で12時間反応させた。残りの分析過程は、前述したELISAプロトコルに従って行われた。
【0094】
<評価例4:実施例3による免疫磁性分離の再現性の評価>
図9は、
図8の免疫磁性分離工程を繰り返して行う場合のCD63+エクソソームの分離時の再現性を示した結果である。
【0095】
実施例3によるスイッチ認識素材ベースの磁性濃縮技術は、‘Ca
2+スイッチオン’の条件下でターゲットエクソソームを捕捉し、順次に‘Ca
2+スイッチオフ’の条件下でエクソソームを回収した後、前処理された磁性ビーズは再生されて新しい試料の分離及び濃縮に再利用できる特性を提供する。実際に、前処理されたビーズの再利用時に、その濃縮性能の再現性を確認するために、異なる濃度のエクソソーム標準サンプル(1、3、5μg/ml;健常者の血漿から採取)に対して磁性分離及び濃縮した後、再利用された前処理されたビーズを用いて同じ過程を2回さらに繰り返した。分離されたエクソソームサンプルの濃度は、CD63+エクソソームに対するサンドイッチ免疫分析を用いて分析した。その結果を示す
図9のAを参照すると、サンプルの分離及び濃縮を、前処理されたビーズを再利用して行う際に、CD63+エクソソームに対する濃度応答パターンは非常に類似していた。実際に、エクソソームの濃度による分離サンプル内のCD63+エクソソームの濃縮は、免疫分析からの信号値を基準として平均CV8.3%であって、再現性が非常に高いことが分かった(
図9のB参照)。
【0096】
ここで、標準サンプル(1、3及び5μg/ml)は、健常者のエクソソーム標準試薬を付着溶液で希釈して製造され、磁性ビーズを使用しない時には、Casein-Trisに浸して4℃で保管した。
【0097】
<評価例5:実施例2及び3によって分離されたCD63+エクソソームに対する特性化>
図10は、本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いて分離されたCD63+エクソソームに対する物理的特性化の結果であり、
図11は、本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いて分離されたCD63+エクソソームサンプルのエクソソーム表面マーカーに対する特性化の結果である。
【0098】
実施例2及び3で分離したCD63+エクソソーム亜集団に対する形態学的な特性化、及び表面タンパク質に対する分析を介して、実際にエクソソームの2つの特徴、すなわち、微小小胞(microvesicle)の形態及び異種の表面タンパク質の分布を確認した。形態学的な特性化のために、本発明で開発した方法で分離されたエクソソームの形態を測定するために、走査電子顕微鏡(scanning electron microscope;SEM)を用いてイメージを観察し、また、動的光散乱(dynamic light scattering;DLS)技術を用いて大きさの分布を測定した。
【0099】
〔走査電子顕微鏡(Scanning electron microscopy;SEM)イメージング。〕実施例2及び3で分離されたCD63+エクソソームサンプルに対して、SEMイメージングを介して形態学的に観察した。高倍率イメージを得るために、前記の免疫親和クロマトグラフィーあるいは免疫磁性分離過程を通じてそれぞれ分離されたエクソソームサンプルを、標準プロトコルに従って試片を作製した。固体状態で微細構造及び形態を測定するために、各元のサンプルを顕微鏡ガラススライドに移した後、カバーガラスで覆い、対象物を液体窒素中に浸して急速冷凍させて冷却固定させた。カバーガラスを除去した後、冷凍標本を2.5%グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)溶液を添加して固定させ、Tris-HCl緩衝溶液及び脱イオン水でそれぞれ1回洗浄し、アセトンを添加して脱水させた。次に、液体二酸化炭素を使用する臨界点乾燥法(critical point drying)によりアセトンを除去した。サンプルをtempfix mounting adhesiveを用いてアルミニウムスタブ(aluminum stubs)上に載せ、コロイド銀(colloidal silver)を添加して表面と接触させた。白金を3~5nmの厚さにスパッタコーティング(sputter-coating)した後、サンプルをHitachi S-4700 SEM(Hitachi;東京、日本)で観察した。SEM観察の結果、各サンプル試片から、同一に直径が約100nmである球状の粒子のイメージを得ることができた(
図10のA参照)。実際に、エクソソームは、様々な種類の細胞から分泌される膜構造の微小小胞(microvesicle)であって、直径がおよそ30~200nmであるものと知られている。
【0100】
〔動的光散乱(Dynamic light scattering;DLS)分析。〕分離されたCD63+サンプルの大きさの分布をさらに正確に測定するために、エクソソームのDLS分析を、室温で粒度分析器(ELSZ-1000,Otsuka Electronics;大阪、日本)を用いて行った。エクソソームサンプル(0.5ml)を使い捨てキュベット(cuvette)(BI-SCP,Brookhaven Instruments Corporation;NY,米国)に移した後、分析器製造者の実行案内に従って分析した。エクソソームの大きさをストークス-アインシュタイン(Stokes-Einstein)方程式によって決定した後、細胞外小胞(extracellular vesicles)の大きさの分布を特性化した。その結果、各サンプルでの粒子の直径は、平均約186.2nmあるいは193.8nmレベルであることが分かった(
図10のB参照)。このように測定された粒子の大きさ及びその分布から、免疫親和クロマトグラフィー及び免疫磁性分離過程を通じて分離されたサンプルに含まれた粒子はエクソソームであると判断される。
【0101】
〔ウエスタンブロッティング(Western blotting)。〕エクソソームの一般的な特徴の一つである異種の表面タンパク質の分布を確認するために、実施例2及び3で分離したCD63+エクソソームサンプル内のテトラスパニン(tetraspanin)系列のタンパク質マーカーに対してウエスタンブロッティング(Western blotting)分析をそれぞれ行った。エクソソームサンプルを最適化された条件下でSDS-PAGE分析を行った後、分離されたタンパク質をニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane)に移送させ、エクソソームの表面に一般に多く分布するCD9、CD63、及びCD81に対してそれぞれ特異な抗体-HRP重合体を反応させた。より詳細に説明すると、各エクソソームサンプルを、まず、150mMのNaCl、1%トリトンX-100、0.5%デオキシコール酸ナトリウム(sodium deoxycholate)、及び0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate;SDS)を含む50mMのTris緩衝溶液(pH8.0)で処理した。このように変性されたタンパク質を8%SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(polyacrylamide gel electrophoresis)(SDS-PAGE)を用いて分離した後、ニトロセルロース膜(nitrocellulose membrane)上に電気泳動的方法を通じて移送した。Casein-PBSで残りの表面をブロッキングした後、メンブレンを予めHRPと化学重合させた抗CD63、CD9、及びCD81抗体を用いてブロッティング分析を行った。最後に、発色試薬として3,3’-ジアミノベンジジン(3,3’-diaminobenzidine;DAB)を含むHRP基質溶液を添加して、メンブレン上に発色信号を発生させた。基質溶液は、50mMの酢酸ナトリウム(sodium acetate)緩衝溶液(pH5.0;1ml)に0.05%DAB(10μl)及び3%H2O2(1μl)を添加して製造した。
【0102】
染色された発色信号から、エクソソームのテトラスパニン(tetraspanin)タンパク質マーカーが、いずれも、実施例2及び3の方法で分離したCD63+エクソソームサンプル内に発現されていることが確認できた(
図11のA参照)。参考に、CD9とCD81に対するバンドの発色信号の鮮明度と比較して、CD63に対するバンド信号が鮮明でないが、これは、CD63マーカーが糖化タンパク質であるため、バンドが30~60kDaと比較的広く存在するということも影響があるが、より根本的に、本評価実験で使用したエクソソーム標準試料(
図11のA、control)自体において、CD63マーカーの発現に対するバンド信号が低いためである(
図11のA参照)。前記で得た結果を総合すると、免疫親和クロマトグラフィー及び免疫磁性分離過程を通じて分離されたサンプルが、エクソソームの一般的な特徴をすべて示している点からみて、本発明によってCD63+エクソソーム亜集団の分離が達成されたと判断される。
【0103】
〔分離後のCD63+エクソソームの回収率。〕エクソソーム分離システムの回収率を決定するために、分離前後のサンプル内のCD63+エクソソームに対する定量分析を行ったが、エクソソーム標準試料に対するCD63マーカーの免疫分析を介して求めた標準曲線を用いて、CD63+エクソソーム亜集団の濃度を迂回的に測定した。免疫分析時にエクソソーム表面マーカーであるCD63特異抗体を捕捉及び探知バインダーとして使用した酵素免疫分析(ELISA)を介して標準曲線を求めた(
図11のB;左側)。同じ条件下で、分離前及び分離後のサンプルに対して免疫分析を行い、これから発生した信号を標準曲線に代入して各エクソソームの濃度に換算した。体積希釈比率を補正した後、免疫親和クロマトグラフィー及び免疫磁性分離前後のエクソソームサンプル内のエクソソームの総量を計算して、各分離工程の回収収率を決定した(
図11のB;右側)。これから、2つの工程の収率は、それぞれ78.3%及び68.5%程度であったが、このような結果は、既存の酸性pHなどの苛酷条件を用いて分離産物を回収する分離工程(例:収率<50%)に比べて非常に高かった。これは、本発明によってスイッチ認識素材を使用する分離工程では、溶液内のカルシウムイオンの除去時に、CBPに対する認識素材の親和力が背景レベルに低くなることで、分離されたエクソソームの回収収率が相対的に非常に高く、また、構造的変形が最小化されたためである。
【0104】
<評価例6:CD63+エクソソーム亜集団を診断サンプルとして利用時の分析性能の評価>
図12は、エクソソーム標準サンプル間の濃度の変移を補償するために、CD9の濃度を基準としてCav1マーカーの濃度を補正した結果であり、
図13は、本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いて分離したCD63+エクソソームを分析サンプルとして用いる際に、黒色腫癌の診断に対する潜在的な効果を示した結果である。
【0105】
〔ターゲットマーカーの濃度の標準化。〕本発明によってCD63+エクソソーム亜集団を分離して診断サンプルとして用いる際に、黒色腫癌関連マーカーであるCav1+エクソソームの濃縮効果により、高感度診断が可能になると予測される。しかし、単純にCav1タンパク質の発現レベルを測定する場合、エクソソームの濃度がサンプルに応じて変化するため、分離効果を正確に判断するには制限的である。したがって、性能の比較時の不確実性を最小化するために、一般にエクソソームの表面に存在する正常マーカーであるCD9タンパク質を測定し、補正を通じて標準化させる方法を導入した。このために、黒色腫癌関連マーカーであるCav1タンパク質特異抗体とCD9タンパク質特異抗体をそれぞれ異なるマイクロタイタープレートウェル(microtiter plate well)に固定させ、同じサンプルを添加して反応させた後、CD63抗体を探知抗体として用いてELISAを行った。これから、癌マーカー及び正常マーカーに比例した信号を得(
図12;棒グラフ)、その2つの信号の比率、すなわち、Cav1/CD9の信号比率を計算した(
図12;線グラフ)。このとき、健常者供与の血漿サンプルを希釈して分析した場合(
図12のA)、そのCav1/CD9の信号比率が平均0.147であって、希釈比率に応じて概ね一定に維持された。また、黒色腫癌細胞サンプルの場合(
図12のB)は、各マーカーに対する信号は相対的に高く測定され、そのCav1/CD9の比率が平均0.206であって、Cav1の発現レベルが、健常者の標準サンプルよりも平均40%程度高いことが分かった。このように、総エクソソームの濃度の変化に対して、CD63+エクソソーム亜集団内のCav1+エクソソームを、正常マーカーであるCD9+エクソソームで補正して標準化させることができた。
【0106】
前記評価実験過程について敷衍すると、エクソソーム標準サンプル(5~100μg/ml)を、健常者の血漿あるいは黒色腫癌細胞株から得たエクソソームをCasein-Trisで希釈して準備した。サンプル内の各マーカーの濃度を測定するために、各マーカーに対して特異な捕捉抗体(5μg/ml;100μl)を各マイクロウェル内に添加した後、37℃で1時間反応させて固定させた。残りの実験過程は、前記で既に紹介したCD63に対するELISA過程と同一に行われた。CD9とCav1に対して分析した後、発生した信号を測定し、Cav1/CD9の信号比率を各サンプルに対して計算した。
【0107】
〔診断サンプルとして分離されたエクソソームの潜在性。〕このような免疫分析を介したCav1/CD9の信号比率の測定方法を用いて、スイッチ認識素材をベースとして分離したCD63+エクソソーム亜集団を診断サンプルとして用いる際に、黒色腫癌の診断に対する潜在的な効果を試験した。健常者のエクソソームと黒色腫癌エクソソームの各標準物質25μg/mlを分離してCD63+エクソソーム亜集団を得、そのCav1タンパク質の発現レベルに対する分析結果を、分離前の結果と比較した。分離前のバルクエクソソームサンプルの利用時には、Cav1/CD9の信号比率が、健常者サンプルの場合と比較して、癌サンプルで40%程度増加した(
図13のA;左側)。免疫クロマトグラフィー方法で分離したCD63+エクソソーム亜集団サンプルの利用時には、その信号が、健常者の場合と比較して、癌サンプルで約4倍(即ち、400%)増加した(
図13のA;右側)。すなわち、分離されたCD63+エクソソーム亜集団サンプルの利用時に、黒色腫癌細胞のスクリーニングに対する潜在的敏感度が約10倍増加することが分かった。このような癌細胞のスクリーニングに対する効果は、免疫磁性分離方法で分離した亜集団サンプルの利用時にもほぼ同一に約7.7倍増加した(
図13のA参照)。このような効果は、CD63+エクソソーム亜集団をスクリーニングサンプルとして用いる際に、Cav1+エクソソームの増加だけでなく、CD9+エクソソームの減少を招いたことに起因すると予測される。実際に、CD9+エクソソームの濃度が癌サンプルにおいて減少するという報告がある。
【0108】
<評価例7:既存のエクソソーム分離システムとの性能の比較>
図14は、本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システムと、現在商業的に販売されている様々なエクソソーム分離システムとの間に、分離されたサンプルの免疫分析によって決定されたCav1/CD9の濃度比率を基準として、黒色腫癌サンプルを正常サンプルから区分する性能に対する比較結果である。
【0109】
本発明の実施例2及び3によるスイッチ認識素材ベースの分離システムから得たCD63+エクソソーム亜集団サンプルの黒色腫癌細胞のスクリーニングに対する効果を客観的に評価するために、現在商用化されているエクソソーム分離キットを用いて得たサンプルを用いた効果と比較した。商用化されたエクソソーム分離キットのうち、一般に販売される様々なExoQuick
TM、MagCapture
TM、及びexoEasy Maxi
TMキットを購入して使用した。正常エクソソームと黒色腫癌エクソソームの標準物質25μg/ml(1ml)を、各システムの定められたプロトコルに従って分離した。各分離されたエクソソームサンプルを、上述したようなELISAを介してCav1及びCD9タンパク質の発現レベルを信号として測定して、補正パラメータであるCav1/CD9の信号比率を計算して比較した。その結果を示す
図14を参照すると、本発明の免疫クロマトグラフィー及び免疫磁性分離システムから得たCD63+エクソソーム亜集団サンプルの利用時に、上述したように、Cav1/CD9の信号比率が、健常者の場合と比較して癌サンプルでそれぞれ5.5倍、4.1倍増加した反面、商用化された分離キットから求めたサンプルの利用時に、使用されたキットに関係なく、いずれも、Cav1/CD9の信号比率が分離前と差がないか、またはむしろ癌サンプルにおいて減少することが分かった。
【0110】
このような結果は、商用化されたエクソソーム分離キットの分離原理が、本発明で用いた原理と異なるためであると判断される。実際に、商用化キットは、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)のようなポリマーを使用した沈殿方法(ExoQuickTM、SBI社)や、エクソソームの表面のホスファチジルセリン(phosphatidylserine;PS)と金属イオンの存在下で反応するタンパク質を用いた親和的方法(MagCaprueTM、Wako社)、または回転カラムを用いて分離時間を短縮する方法(exoEasy MaxiTM、Qiagen社)などでエクソソームを分離する。
【0111】
このように、販売されるほとんどのキットは、単にバルクエクソソーム集団を分離または濃縮する程度であって、診断敏感度を著しく向上させるには制限的であり、したがって、癌細胞のスクリーニングなどに適用しにくい。それに加えて、診断敏感度の増加のために特定のエクソソーム表面マーカーに対する免疫分離方法が適用されることはできるが、本発明のようにスイッチ認識素材の使用などを通じた画期的な方法の導入なしでは、エクソソームの回収収率及び原形の維持の面で競争することは難しい。
【0112】
以下では、本評価実験で使用された商用キットを用いたエクソソームの分離過程を簡単に説明する。
【0113】
〔ExoQuickキットを用いたエクソソームの分離。〕エクソソーム標準サンプルを、使用したキットのメーカーが提供した案内に従って分離した。簡略に紹介すると、購入したエクソソームサンプル(各25μg/ml;1ml)を別々のマイクロウェル内に移した後、予め定められた量のExoQuickエクソソーム沈殿溶液を添加した。混合後、4℃で冷蔵した後、遠心分離した。上澄液を除去した後、粒状に沈殿したエクソソームを回収し、緩衝溶液(500μl)に再溶解させた後、Cav1/CD9の比率を決定するために、既に説明したように免疫分析を行った。
【0114】
〔MagCaptureキットを用いたエクソソームの分離。〕同じエクソソーム標準サンプルを、当該キットのメーカーが提供したプロトコルに従って分離した。簡略に紹介すると、エクソソームに対する特定の捕捉因子であるホスファチジルセリン(phosphatidylserine;PS)-付着タンパク質でコーティングされた磁性ビーズ(60μl)を、付着増進剤である金属イオンを含んでいる分析サンプル(1ml)に添加した。その混合物を3時間撹拌しながら反応させた。その後、ビーズを洗浄溶液(150mMのNaCl、0.05%Tween20、及び2mMのCaCl2を含む20mMのTris-HCl(pH7.4;1ml)で3回洗浄した後、溶出溶液(150mMのNaCl及び2mMのEDTAを含む20mMのTris-HCl(pH7.4))で溶出させた。回収されたエクソソームサンプルに対するCav1/CD9の比率を決定するために免疫分析を行った。
【0115】
〔exoEasy Maxiキットを用いたエクソソームの分離。〕エクソソームサンプルをまた、商業的に購入した他のキットを用いて分離した。簡略に説明すると、キットと共に提供されたXBP緩衝溶液(1ml)を、同じ体積のサンプルに添加した。軽く混合した後、混合物を室温に置いて室温まで予熱した。この混合物をexoEasyスピンカラム内に移した後、1分間遠心分離した。XWP緩衝溶液(10ml)を順次にカラム内に添加し、入れた緩衝溶液を除去するために、5分間さらに遠心分離した。スピンカラムを新しい回収チューブに移した後、XE緩衝溶液(500μl)をカラムに添加し、その後、1分間反応させた。追加で5分間遠心分離してエクソソームを溶出させてチューブに回収した。最後に、溶出液をスピンカラムに再投入した後、1分間反応させ、5分間遠心分離して、溶出溶液を回収した。回収された溶液は、上述したようにCav1/CD9の比率を測定するために免疫分析を行った。
【0116】
以上、本発明を具体的な実施例を通じて詳細に説明したが、これは本発明を具体的に説明するためのもので、本発明はこれに限定されず、本発明の技術的思想内で当分野における通常の知識を有する者によってその変形や改良が可能であることは自明である。
【0117】
本発明の単純な変形及び変更はいずれも本発明の領域に属するものであって、本発明の具体的な保護範囲は、添付の特許請求の範囲によって明らかになるであろう。
【0118】
[符号の説明]
1:目標亜集団対象物質
10:リガンド
20:バインダー
30:認識素材
40:固定部材
50:捕捉素材
C:重合体
P:ターゲットマーカー
【図面の簡単な説明】
【0119】
【
図1】本発明の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システムの構成図である。
【
図2】本発明の他の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システムの構成図である。
【
図3】本発明の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離方法の流れ図である。
【
図4】本発明の他の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離方法の流れ図である。
【
図5】本発明の実施例に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離方法を用いて黒色腫癌細胞と関連するエクソソーム亜集団を分離する工程を示した流れ図である。
【
図6】本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いてサンプル内のCD63+エクソソームを免疫親和クロマトグラフィー工程により分離した結果である。
【
図7】
図6の免疫親和クロマトグラフィー工程を繰り返して用いてエクソソームの分離時の再現性を示した結果である。
【
図8】本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いてサンプル内のCD63+エクソソームを免疫磁性分離工程により分離及び濃縮した結果である。
【
図9】
図8の免疫磁性分離工程を繰り返して行う場合のCD63+エクソソームの分離時の再現性を示した結果である。
【
図10】本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いて分離されたCD63+エクソソームに対する物理的特性化の結果である。
【
図11】本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いて分離されたCD63+エクソソームサンプルのエクソソーム表面マーカーに対する特性化の結果である。
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図12】エクソソーム標準サンプル間の濃度の変移を補償するために、CD9の濃度を基準としてCav1マーカーの濃度を補正した結果である。
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図13】本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システム及び方法を用いて分離したCD63+エクソソームを分析サンプルとして用いる際に、黒色腫癌の診断に対する潜在的な効果を示した結果である。
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図14】本発明に係るスイッチ性付着反応を用いた親和分離システムと、現在商業的に販売されている様々なエクソソーム分離システムとの間に、分離されたサンプルの免疫分析によって決定されたCav1/CD9の濃度比率を基準として、黒色腫癌サンプルを正常サンプルから区分する性能に対する比較結果である。