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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】車両用モード運転補助システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
G01M17/007 Z
G01M17/007 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019165441
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021043070
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】伊津井 裕
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-18370(JP,A)
【文献】実開昭63-51249(JP,U)
【文献】特開2017-111116(JP,A)
【文献】特開2006-90301(JP,A)
【文献】特開2003-14586(JP,A)
【文献】実開平5-59280(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第2246686(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00-17/10
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行速度が予め設定された走行速度時系列変化に合致するようにシャシダイナモメータ上に配置された車両の加速及び減速の少なくとも一方を行うための操作手段を運転者が操作してモード運転を行う場合の補助システムであって、
前記運転者が目視可能なディスプレイと、
前記予め設定された走行速度時系列変化を達成するために予め算出・設定された前記操作手段の操作量に関する目標値を時系列的に記憶する操作量目標値記憶手段と、
前記操作手段の操作量の実際値を検出する操作実際値検出手段と、
前記操作量目標値記憶手段に記憶されている前記操作手段の操作量の目標値及び前記操作実際値検出手段で検出された前記操作手段の操作量の実際値を時系列的な画像として前記ディスプレイに表示する制御手段と、を備えたことを特徴とする車両用モード運転補助システム。
【請求項2】
前記車両の走行速度の実際値を検出する走行速度実際値検出手段を備え、
前記制御手段は、前記予め設定された走行速度時系列変化からなる走行速度の目標値及び前記走行速度実際値検出手段で検出された前記走行速度の実際値を時系列的な画像として前記ディスプレイに表示することを特徴とする請求項1に記載の車両用モード運転補助システム。
【請求項3】
前記制御手段は、前記操作手段の操作量の実際値が前記操作手段の操作量の目標値に対して予め設定された所定範囲内にあり且つ前記走行速度の実際値が前記走行速度の目標値に対して予め設定された所定範囲から外れた場合に、前記走行速度の実際値と目標値との乖離量に応じて前記操作手段の操作量の目標値を補正する操作量目標値補正手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載の車両用モード運転補助システム。
【請求項4】
前記加速を行うための操作手段がアクセルペダルであり、前記操作手段の操作量が該アクセルペダルの踏込量からなるアクセル開度であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用モード運転補助システム。
【請求項5】
前記減速を行うための操作手段がブレーキペダルであり、前記操作手段の操作量が該ブレーキペダルの踏込量に応じたブレーキ液圧又はブレーキ踏力であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の車両用モード運転補助システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用モード運転補助システム、特に、予め設定された走行速度の時系列変化に合致するようにシャシダイナモメータ上で運転者が加減速操作をしてモード運転を行う場合の補助システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、10・15モード、JC08モード、WLTCモードと呼ばれるモード運転を行って車両の燃費が算出される。これらのモード運転では、車両の暖機・冷機状態の設定が異なっているが、車両の走行速度は予め時系列的に決められており(走行速度そのものはモードごとに異なる)、シャシダイナモメータ上に搭載された状態の車両の加減速操作手段を運転者が操作して、その走行速度時系列変化に実際の車両の走行速度(正確には、その走行速度に相当する駆動輪の回転周速度)を合致させる。これらのモード運転では車両が停止している期間もあるので、上記の加減速操作手段には、一般的に、アクセルペダルに加えてブレーキペダルも含まれる。
【0003】
こうしたモード運転では、例えば、下記特許文献1に記載されるように、予め設定された走行速度が走行速度の目標値として点や線からなる時系列的なパターン画像で表示されるディスプレイが用いられる。このディスプレイには、検出された車両の走行速度の実際値も点や線からなる時系列的なパターン画像として表示されるので、この走行速度の実際値が予め設定された走行速度の目標値に合致するように、運転者はその画像を目視しながら上記シャシダイナモメータ上に配置された車両の加減速操作手段を操作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-64203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シャシダイナモメータ上に配置された車両の走行速度を目標値に合致させるためには相応の経験が必要とされ、そうした経験の少ない運転者と十分な経験を有する運転者とでは、走行速度の目標値への合致の度合いが異なる。車両の走行速度がモード運転で規定される目標値に合致しなければ、算出される車両の燃費も真の燃費から乖離してしまう。実在の道路を走行しているときのように、実際の走行環境に応じて車両の走行速度を目標値に合致させることは比較的容易であっても、シャシダイナモメータ上という、走行環境が変化しない、しかも実際には車両が走行していない状態で、ディスプレイ上の目視だけで走行速度を目標値に合致させることは、特に経験の少ない運転者にとって困難である。特に、車両の走行速度は、例えばアクセルペダルを操作した結果として生じるものであるから、その操作量が適正でないと、その後の走行速度が目標値から乖離してしまう。また、シャシダイナモメータ上で車両の走行速度を減速する場合に、ブレーキペダルを踏込むべきなのか、そうすべきでないのかも、経験の少ない運転者には判断が難しい。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、経験の少ない運転者であっても、モード運転で規定される走行速度時系列変化に車両の走行速度を合致させやすい車両用モード運転補助システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の車両用モード運転補助システムは、
走行速度が予め設定された走行速度時系列変化に合致するようにシャシダイナモメータ上に配置された車両の加速及び減速の少なくとも一方を行うための操作手段を運転者が操作してモード運転を行う場合の補助システムであって、
前記運転者が目視可能なディスプレイと、前記予め設定された走行速度時系列変化を達成するために予め算出・設定された前記操作手段の操作量に関する目標値を時系列的に記憶する操作量目標値記憶手段と、前記操作手段の操作量の実際値を検出する操作実際値検出手段と、前記操作量目標値記憶手段に記憶されている前記操作手段の操作量の目標値及び前記操作実際値検出手段で検出された前記操作手段の操作量の実際値を時系列的な画像として前記ディスプレイに表示する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、ディスプレイに表示される加速及び減速の少なくとも一方を行うための操作手段(以下、加減速操作手段ともいう)の操作量の目標値は、その目標値が達成されれば予め設定された走行速度時系列変化を達成可能とするものであるから、この目標値に加減速操作手段の操作量の実際値が一致するように加減速操作手段を操作すれば、走行速度が目標値に凡そ合致される。従来は、目標とする走行速度の画像表示を目視して、これに走行速度が合致するように、例えばアクセルペダルを踏み込んでいたが、そのためには、どの程度、アクセルペダルを踏み込めば、その走行速度に至るかの経験と技量などが要求される。これに対して、加速操作量の目標値として、アクセルペダルの踏込量、例えばアクセル開度の目標値が画像表示されれば、そのアクセル開度に一致するようにアクセルペダルを踏み込めば、目標とする走行速度が達成される。
【0009】
また、この加減速操作手段の操作量の目標値は、加減速操作の結果としての走行速度よりも時系列的に早い時刻のものであると共に加減速操作手段の操作量の目標値や実際値が時系列的な画像で表示されることから、それらが数値表示される場合に比して、モード運転の経験が少ない運転者でも加減速操作手段の操作量の実際値を目標値に視覚的にも一致させやすく、その結果、走行速度を予め設定された走行速度時系列変化に合致させやすい。
【0010】
また、本発明の他の構成は、前記車両の走行速度の実際値を検出する走行速度実際値検出手段を備え、前記制御手段は、前記予め設定された走行速度時系列変化からなる走行速度の目標値及び前記走行速度実際値検出手段で検出された前記走行速度の実際値を時系列的な画像として前記ディスプレイに表示することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、モード運転中の車両の走行速度の目標値と実際値が加減速操作手段の操作量の目標値と実際値と共にディスプレイに同時に画像表示されるので、運転者は加減速操作手段の操作量の目標値に実際値を一致させた結果として走行速度の目標値に実際値が合致されていることを目視することができ、これによりモード運転の経験が少ない運転者でも、走行速度を予め設定された走行速度時系列変化により一層合致させやすい。
【0012】
本発明の更なる構成は、前記制御手段は、前記操作手段の操作量の実際値が前記操作手段の操作量の目標値に対して予め設定された所定範囲内にあり且つ前記走行速度の実際値が前記走行速度の目標値に対して予め設定された所定範囲から外れた場合に、前記走行速度の実際値と目標値との乖離量に応じて前記操作手段の操作量の目標値を補正する操作量目標値補正手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、予め設定された加減速操作手段の操作量の目標値に実際値を略一致させているにも関わらず、走行速度の目標値に実際値が合致しない場合には、例えば、車両の個体差によるものなどであると考えられるから、走行速度の目標値に実際値が合致するように、その乖離量、例えば、乖離方向に応じて加減速操作手段の操作量の目標値を補正することで、走行速度を予め設定された走行速度時系列変化に合致させることが可能となる。
【0014】
本発明の更なる構成は、前記加速を行うための操作手段がアクセルペダルであり、前記操作手段の操作量が該アクセルペダルの踏込量からなるアクセル開度であることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、加減速操作手段の操作量の目標値をアクセル開度の目標値とすることで、モード運転の経験が少ない運転者でもアクセル開度の目標値に実際値を一致させやすく、その結果、走行速度を予め設定された走行速度時系列変化により一層合致させやすい。
【0016】
本発明の更なる構成は、前記減速を行うための操作手段がブレーキペダルであり、前記操作手段の操作量が該ブレーキペダルの踏込量に応じたブレーキ液圧又はブレーキ踏力であることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、加減速操作手段の操作量の目標値をブレーキ液圧又はブレーキ踏力の目標値とすることで、モード運転の経験が少ない運転者でもブレーキ液圧又はブレーキ踏力の目標値に実際値を一致させやすく、その結果、走行速度を予め設定された走行速度時系列変化により一層合致させやすい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、経験の少ない運転者であっても、モード運転で規定される走行速度時系列変化に車両の走行速度を合致させやすいことから、運転者のモード運転経験の多寡に関わらず、真の燃費に近い燃費を常時取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の車両用モード運転補助システムが適用されたシャシダイナモメータ装置の一実施の形態の概略構成を示す正面図である。
図2図1の制御装置で実行される演算処理のフローチャートである。
図3図2の演算処理で表示されるディスプレイの表示内容の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の車両用モード運転補助システムの一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、この実施の形態の車両用モード運転補助システムが適用されたシャシダイナモメータ装置の概略構成を示す正面図である。この実施の形態では、シャシダイナモメータ1そのものは、既存のものを用いているが、新規に構築してもよい。シャシダイナモメータ1は、周知のように、シャシダイナモメータ1上に配置された車両2の駆動輪が搭載されるローラ3の回転軸に図示しない電気動力計が直結され、この電気動力計により、発電機の原理で駆動輪の駆動力を吸収して走行抵抗が付与される。この走行抵抗が、実在の道路(実路ともいう)を走行しているときの抵抗、すなわち転がり抵抗、空気抵抗、慣性抵抗の合計になるように電気動力計の負荷が自動制御される。したがって、シャシダイナモメータ1上に配置された車両2の運転者は、この走行抵抗に抗して車両2が所定の加速度で加速するようにアクセルペダルの踏込量、すなわちアクセル開度を調整する。一方、車両2を減速する場合には、電気動力計によりローラ3を介して車両2が動き続けようとする慣性力が主として駆動輪に付与されるので、シャシダイナモメータ1上に配置された車両2を運転する運転者はブレーキペダルを踏み込んで制動する。ブレーキペダルを踏込む力、いわゆるブレーキ踏力は、車輪制動トルクとして作用するブレーキ液圧と略比例関係にある。なお、この実施の形態では、モード運転される車両2として、エンジンのみを駆動源として搭載するコンベンショナルな車両を想定している。
【0021】
この実施の形態では、上記モード運転で規定される予め設定された走行速度の時系列変化にシャシダイナモメータ1上に配置された車両2の走行速度(いうまでもなくシミュレートされた走行速度である)を合致させるための制御装置4として、例えば高度な演算処理機能を有するコンピュータシステムを用いた。このコンピュータシステムは、既存のコンピュータシステムと同様に、演算処理を行う演算処理装置に加えて、例えばプログラムやデータを記憶する記憶装置や、各種センサからの信号を入力したり、後述するディスプレイなどの外部装置に信号を出力したりするための入出力装置を備えて構成される。この制御装置4には、シャシダイナモメータ1のローラ3の回転速度から得られる車両2の走行速度、車両2に設けられたアクセル開度センサ6で検出されるアクセル開度、車両2に設けられたブレーキ液圧センサ7で検出されるブレーキ液圧が入力される。以下、この実施の形態では、検出された走行速度、アクセル開度、ブレーキ液圧を、それぞれ、実走行速度、実アクセル開度、実ブレーキ液圧ともいう。
【0022】
この実施の形態では、車両2のフロントウインドウの車両前方に、車両2の運転者が目視可能なディスプレイ5が配設されている。このディスプレイ5には、例えば液晶ディスプレイなどを適用することができる。このディスプレイ5は、上記制御装置4の出力信号で駆動され、その出力信号に含まれる表示内容を表示する。このディスプレイ5は、必ずしも車両2の外部に配設される必要はなく、例えばパソコンのディスプレイとして車両2の内部に持ち込まれるようにすることも可能である。また、シャシダイナモメータ1の駆動制御装置がディスプレイを備えている場合には、そのディスプレイで兼用することも可能である。このディスプレイ5の必須要件は、その表示内容を車両2の運転者が目視できることである。
【0023】
上記ディスプレイ5には、上記特許文献1に記載されるように、各モード運転で規定されている予め設定された走行速度時系列変化、すなわち走行速度の目標値(以下、目標走行速度ともいう)と検出された実走行速度を時系列的な画像で表示する。また、この実施の形態では、上記目標走行速度及び実走行速度と共に、その目標走行速度を達成するための加減速操作手段の操作量の目標値とその検出された実際値も時系列的な画像で表示する。この場合の加減速操作手段は、アクセルペダルとブレーキペダルであり、その操作量の目標値は、アクセル開度の目標値とブレーキ液圧の目標値とした。この実施の形態では、アクセル開度の目標値を目標アクセル開度、ブレーキ液圧の目標値を目標ブレーキ液圧ともいう。また、各モード運転で規定される目標走行速度は、上記制御装置4の記憶装置に予め記憶されている。
【0024】
このシャシダイナモメータ1上に配置された車両2で、例えば燃費算出のためにモード運転を行う場合、前述のように、各モード運転では、車両2の走行速度が時系列的に予め設定されている。この予め設定された走行速度の時系列変化、即ち目標走行速度を達成するための駆動力は、上記シャシダイナモメータ1側から与えられる走行抵抗と、例えばアクセルペダルを操作してから走行速度が加速するまでの応答遅れを考慮した加速度から求められる。そして、この必要駆動力を達成するための目標アクセル開度は、例えば走行速度とアクセル開度を軸とするエンジン回転数マップ、エンジン回転数とアクセル開度を軸とするトルクマップを用いて算出・設定することができる。一方、上記目標走行速度を達成するための制動力は、上記シャシダイナモメータ1側から与えられる走行抵抗と、例えばブレーキペダルを操作してから走行速度が減速するまでの応答遅れを考慮した減速度から求められる。そして、この必要制動力を達成するための目標ブレーキ液圧は、例えば走行速度とアクセル開度(=0)を軸とするエンジン回転数マップ、エンジン回転数とアクセル開度を軸とするトルクマップ(=エンジンブレーキトルク)、ブレーキ液圧と制動トルクの相関を用いて算出・設定することができる。
【0025】
この実施の形態では、上記のようにして算出・設定された目標アクセル開度及び目標ブレーキ液圧を操作量目標値記憶手段に時系列的に記憶させておき、この記憶されている目標アクセル開度と検出された実アクセル開度、並びに記憶されている目標ブレーキ液圧と検出された実ブレーキ液圧を、制御手段によって、上記目標走行速度と検出された実走行速度と共に、時系列的な画像として上記ディスプレイ5に表示する。図1の符号8は、上記記憶装置内に構築された操作量目標値記憶手段であり、符号9は、上記演算処理装置及び記憶装置内に構築された制御手段である。なお、これらの手段は、後述するロジック上の機能を構成するものであり、具体的な構成部品として存在しているものではない。
【0026】
図2は、上記制御装置4で実行される演算処理のフローチャートである。この演算処理は、シャシダイナモメータ1上の車両2のモード運転開始と共に開始され、実質的に、上記ディスプレイ5への実走行速度、実アクセル開度、実ブレーキ液圧の表示サンプリング周期毎に実行される。この演算処理では、まずステップS1で、制御装置4の記憶装置に記憶されている目標走行速度、及びその目標走行速度を達成するために予め算出・設定された、又は、後述のように補正によって更新記憶された目標アクセル開度及び目標ブレーキ液圧を読込み、それを線からなる時系列的な画像(線画)としてディスプレイ5に表示する。線画の表示は、例えば、それらの目標値の経時変化、すなわち時系列変化を折れ線グラフ状に曲線でパターン表示する。線に代えて、点の羅列などでパターン表示してもよい。この目標値のパターン表示は、例えば、ディスプレイ5の左右方向の中央が現在(現時点)で且つ右方向が時刻の先方になるようにして表示され、更に、時間の経過に伴って、例えば、常時、ディスプレイ5の左右方向の中央部が現在になるようにスクロール表示される。
【0027】
次にステップS2に移行して、上記シャシダイナモメータ1のローラ3の回転速度から検出された現在の実走行速度、アクセル開度センサ6で検出された実アクセル開度、ブレーキ液圧センサ7で検出された実ブレーキ液圧を読込み、それぞれを上記制御装置4の記憶装置に記憶する。
【0028】
次にステップS3に移行して、上記実走行速度、実アクセル開度、実ブレーキ液圧を上記ディスプレイ5に表示するための予め設定された次の表示時刻に到達したか否かを判定し、次の表示時刻に到達した場合にはステップS4に移行し、そうでない場合にはステップS2に移行する。
【0029】
上記ステップS4では、前述のように、現在の時刻をディスプレイ5の所定位置にスクロールしながら、上記実走行速度、実アクセル開度、実ブレーキ液圧を、例えば、それらの履歴と同時に、ディスプレイ5に表示する。この実施の形態では、実走行速度は目標走行速度に、実アクセル開度は目標アクセル開度に、実ブレーキ液圧は目標ブレーキ液圧に、それぞれ重ね合わせるようにパターン表示する。
【0030】
次にステップS5に移行して、例えば、先の表示時刻における目標アクセル開度が0でないか否かを判定し、その目標アクセル開度が0でない場合にはステップS6に移行し、そうでない場合にはステップS9に移行する。
【0031】
上記ステップS6では、例えば、先の表示時刻における実アクセル開度と先の表示時刻における目標アクセル開度の差分値の絶対値が予め設定された所定値A未満であるか否かを判定し、アクセル開度の差分値の絶対値が所定値A未満である、すなわちアクセル開度の目標値に対して実際値が所定範囲(A)内にある場合にはステップS7に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0032】
上記ステップS7では、例えば、現在の実走行速度と現在の目標走行速度の差分値の絶対値が予め設定された所定値C以上であるか否かを判定し、走行速度の差分値の絶対値が所定値C以上である、すなわち走行速度の目標値に対して実際値が所定範囲(C)から外れる場合にはステップS8に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0033】
上記ステップS8では、例えば、現在の実走行速度と現在の目標走行速度の差分値、すなわち車両2で発生する走行速度の乖離量に応じて、これより先の時刻の目標アクセル開度を補正し、その補正された目標アクセル開度を記憶装置(操作量目標値記憶手段8)に更新記憶してから復帰する。この目標アクセル開度の補正は、例えば、走行速度の目標値に対する実際値の乖離の方向と大きさに応じて、例えば、目標アクセル開度を所定量ずつ増減する学習補正などが挙げられる。
【0034】
一方、上記ステップS9では、例えば、先の表示時刻における目標ブレーキ液圧が0でないか否かを判定し、その目標ブレーキ液圧が0でない場合にはステップS10に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0035】
上記ステップS10では、例えば、先の表示時刻における実ブレーキ液圧と先の表示時刻における目標ブレーキ液圧の差分値の絶対値が予め設定された所定値B未満であるか否かを判定し、ブレーキ液圧の差分値の絶対値が所定値B未満である、すなわちブレーキ液圧の目標値に対して実際値が所定範囲(B)内にある場合にはステップS11に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0036】
上記ステップS11では、例えば、現在の実走行速度と現在の目標走行速度の差分値の絶対値が予め設定された所定値C以上であるか否かを判定し、走行速度の差分値の絶対値が所定値C以上である、すなわち走行速度の目標値に対して実際値が所定範囲(C)から外れる場合にはステップS12に移行し、そうでない場合には復帰する。
【0037】
上記ステップS12では、例えば、現在の実走行速度と現在の目標走行速度の差分値、すなわち車両2で発生する走行速度の乖離量に応じて、これより先の時刻の目標ブレーキ液圧を補正し、その補正された目標ブレーキ液圧を記憶装置(操作量目標値記憶手段8)に更新記憶してから復帰する。この目標ブレーキ液圧の補正は、例えば、走行速度の目標値に対する実際値の乖離の方向と大きさに応じて、例えば、目標ブレーキ液圧を所定量ずつ増減する学習補正などが挙げられる。
【0038】
この演算処理によれば、例えばモード運転で規定される目標走行速度を達成するための目標アクセル開度及び目標ブレーキ液圧が予め算出・設定され、それらが記憶装置から読込まれて、目標走行速度と共にディスプレイ5に時系列的な線画としてパターン表示される。また、検出された実アクセル開度及び実ブレーキ液圧が、実走行速度と共に点又は線からなる時系列的な画像としてディスプレイ5にパターン表示される。したがって、車両2をモード運転する運転者は、例えば、目標アクセル開度に実アクセル開度が一致するようにアクセルペダルを操作するか、又は、目標ブレーキ液圧に実ブレーキ液圧が一致するようにブレーキペダルを操作する。
【0039】
前述のように、応答遅れを考慮して算出・設定される目標アクセル開度や目標ブレーキ液圧は、アクセルペダル又はブレーキペダルを操作した結果としての走行速度よりも時系列的に早い時刻で表示される。したがって、単に目標走行速度に実走行速度が合致するようにアクセルペダル又はブレーキペダルを操作するよりも、目標アクセル開度に実アクセル開度が一致するようにアクセルペダルを操作するか、又は、目標ブレーキ液圧に実ブレーキ液圧が一致するようにブレーキペダルを操作する方が、結果として目標走行速度に実走行速度を合致させやすい。また、目標アクセル開度に実アクセル開度を一致させたり、目標ブレーキ液圧に実ブレーキ液圧を一致させたりした結果、目標走行速度に実走行速度が合致していることが目視されれば、経験の少ない運転者であっても、余裕をもってモード運転を継続して実行することができる。
【0040】
更に、目標走行速度や実走行速度と同様に、目標アクセル開度や実アクセル開度、目標ブレーキ液圧や実ブレーキ液圧も点や線からなる時系列的な画像でパターン表示されることから、運転者がそれら自体及び関連する両者の一致や合致を感覚的に認識しやすく、より一層、目標走行速度に実走行速度を合致させやすい。更には、目標アクセル開度と実アクセル開度が略一致しているか、又は、目標ブレーキ液圧と実ブレーキ液圧が略一致しているにも関わらず、目標走行速度から実走行速度が乖離している場合には、例えば車両2の個体差によるものであるとして、走行速度の乖離量に応じて目標アクセル開度や目標ブレーキ液圧が補正される。したがって、こうした車両2にあっても、目標走行速度に実走行速度を合致させてモード運転を実施することができる。
【0041】
従来は、目標とする走行速度の画像表示を目視して、これに走行速度が合致するように、運転者はアクセルペダルを踏み込んでいたが、そのためには、どの程度、アクセルペダルを踏み込めば、その走行速度に至るかの経験と技量などが運転者に要求される。これに対して、加速操作量の目標値として、アクセルペダルの踏込量、例えばアクセル開度の目標値が画像表示されれば、そのアクセル開度に一致するようにアクセルペダルを踏み込むだけで、目標とする走行速度が達成される。
【0042】
図3は、上記演算処理によって表示されたディスプレイ5の表示画面の一例である。図の最上段が、例えば、このモード運転の開始から終了までの走行速度時系列変化を示している。この例では、この走行速度時系列変化において四角で囲まれた部分が、その下方に拡大表示されている。この拡大詳細表示には、上段から、走行速度、アクセル開度、ブレーキ液圧がそれぞれ線画で時系列的にパターン表示されている。それぞれの線画のうち、破線は目標値、太い実線が実際値を示している。また、二点鎖線はそれぞれの上限値、一点鎖線はそれぞれの下限値を示しており、例えば、目標走行速度と走行速度の上下限値との差分値が上記所定値C、目標アクセル開度とアクセル開度の上下限値との差分値が上記所定値A、目標ブレーキ液圧とブレーキ液圧の上下限値との差分値が上記所定値Bに設定されている。なお、上記線画は、上記線種に加えて又はその代わりに異なる色で表示されてもよい。また、それぞれの上下限値から外れても車両2の運転自体に支障はない。
【0043】
この例では、実アクセル開度が目標アクセル開度によく一致されており、その結果、実走行速度も目標アクセル開度によく合致している。例えば、この例では、目標アクセル開度に実アクセル開度が一致せず、その結果、目標走行速度に実走行速度が合致していない期間があるが、運転者は、このアクセル開度の操作量と走行速度の関係を目視することで、逆に、目標アクセル開度に実アクセル開度を一致させるようにアクセルペダルを操作すれば、実走行速度が目標走行速度に合致すると認識することができる。その逆もしかりであり、目標アクセル開度に実アクセル開度が一致しているから、目標走行速度に実走行速度が合致しているとも認識することができる。したがって、アクセルペダルの操作の結果として変化する実走行速度を目標走行速度に合致させるよりも、目標アクセル開度に実アクセル開度を一致させる方が全ての運転者にとって容易である。
【0044】
このように、この実施の形態の車両用モード運転補助システムでは、ディスプレイ5に表示される目標アクセル開度及び目標ブレーキ液圧は、それら目標値が達成されれば予め設定された走行速度時系列変化を達成可能とするものであるから、この目標値に実アクセル開度及び実ブレーキ液圧が一致するようにアクセルペダル又はブレーキペダルを操作すれば、走行速度が目標値に凡そ合致される。この目標アクセル開度及び目標ブレーキ液圧は、アクセルペダル又はブレーキペダルの操作の結果としての走行速度よりも時系列的に早い時刻のものであると共に目標アクセル開度及び目標ブレーキ液圧並びに実アクセル開度及び実ブレーキ液圧が点や線からなる時系列的な画像でパターン表示されることから、それらが数値表示される場合に比して、モード運転の経験が少ない運転者でも実アクセル開度又は実ブレーキ液圧を目標アクセル開度又は目標ブレーキ液圧に視覚的にも一致させやすく、その結果、走行速度を予め設定された走行速度時系列変化に合致させやすい。
【0045】
また、モード運転中の目標走行速度と実走行速度が目標アクセル開度及び目標ブレーキ液圧並びに実アクセル開度及び実ブレーキ液圧と共にディスプレイ5に同時に画像表示されるので、運転者は目標アクセル開度又は目標ブレーキ液圧に実アクセル開度又は実ブレーキ液圧を一致させた結果として目標走行速度に実走行速度が合致されていることを目視することができ、これによりモード運転の経験が少ない運転者でも、走行速度を予め設定された走行速度時系列変化により一層合致させやすい。
【0046】
また、予め設定された目標アクセル開度又は目標ブレーキ液圧に実アクセル開度又は実ブレーキ液圧を略一致させているにも関わらず、目標走行速度に実走行速度が合致しない場合には、例えば、車両2の個体差によるものなどであると考えられるから、目標走行速度に実走行速度が合致するように、その乖離量、例えば、乖離方向や大きさに応じて目標アクセル開度又は目標ブレーキ液圧を補正することで、走行速度を予め設定された走行速度時系列変化に合致させることが可能となる。
【0047】
また、アクセルペダルの操作量の目標値を目標アクセル開度とすることで、モード運転の経験が少ない運転者でも目標アクセル開度に実アクセル開度を一致させやすく、その結果、走行速度を予め設定された走行速度時系列変化により一層合致させやすい。
【0048】
また、ブレーキペダルの操作量の目標値を目標ブレーキ液圧とすることで、モード運転の経験が少ない運転者でも目標ブレーキ液圧に実ブレーキ液圧を一致させやすく、その結果、走行速度を予め設定された走行速度時系列変化により一層合致させやすい。
【0049】
以上、実施の形態に係る車両用モード運転補助システムについて説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、ブレーキペダルの操作量としてブレーキ液圧を用いたが、これに代えて、ブレーキペダルの踏込力からなるブレーキ踏力を用いることも可能である。特に、例えば、ブレーキバイワイヤを用いるハイブリッド車両などの電動車両でブレーキ系統にペダルストロークシミュレータが介装されているような場合には、ブレーキ踏力をブレーキペダルの操作量として用いるのが有利である。
【0050】
また、上記実施の形態では、モード運転における走行速度を目標値に合致させるための操作対象として、アクセルペダルからなる加速操作手段及びブレーキペダルからなる減速操作手段の双方を用いたが、何れか一方のみの操作手段を対象として、その目標値及び実際値をディスプレイ表示することも可能である。しかしながら、前述のように、慣れない車両の走行速度を目標値に合致させるのに難しいのがアクセルペダルの操作量である一方、例えば、そうした車両の減速時にブレーキペダルを踏込むべきか否かを迷うことも多い。したがって、加速操作手段及び減速操作手段の双方について目標値と実際値をディスプレイ表示することが最も望ましい。
【符号の説明】
【0051】
1 シャシダイナモメータ
2 車両
3 ローラ
4 制御装置
5 ディスプレイ
6 アクセル開度センサ
7 武器液圧センサ
8 操作量目標値記憶手段
図1
図2
図3