(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】インナトリム
(51)【国際特許分類】
B60R 13/02 20060101AFI20230703BHJP
【FI】
B60R13/02 B
(21)【出願番号】P 2019171816
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-048888(JP,A)
【文献】特開2013-249010(JP,A)
【文献】特開2008-284958(JP,A)
【文献】実開平06-087017(JP,U)
【文献】特開2008-132825(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/01 - 13/04
B60R 13/08
B60J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室内部側面を構成する内装部材であるインナトリムにおいて、
車室の側壁部を構成する側壁パネルと結合する複数の結合点と、
当該インナトリムの車両横方向の屈曲を誘発する複数の屈曲部と、
を備え、
前記結合点は、車両上下方向で、上端または下端ではない位置に、他の前記結合点よりも強固な結合がなされる強固結合点を有し、
前記屈曲部は、前記強固結合点よりも上方に有し、前記強固結合点から上方に向かうほど剛性が高くなっている、
ことを特徴とするインナトリム。
【請求項2】
前記強固結合点より下方の剛性は、いずれの前記屈曲部の剛性よりも高い、
ことを特徴とする請求項1に記載のインナトリム。
【請求項3】
前記強固結合点の車室内側に、車室方向に突出するトリム肘掛部が設けられている、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインナトリム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の車室構造におけるインナトリムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、自動車などの車両のドア部等では、板金製の側壁パネルが設けられる。この側壁パネルでは、車両の外側にアウタパネル、車両の内側にインナパネルを有している。さらに、インナパネルの車室内側には、樹脂製のインナトリムが設けられる。また、インナパネルとインナトリムの間に衝撃吸収体を配設し、乗員の腰部や胸部に対応して側面衝突時に衝撃がかかるのを抑制したものも知られている。なお、アウタパネルとインナパネルの間の空間には、ドアガラスを昇降可能に支持するガイドレールが配設されている。
【0003】
また、正面衝突時やオフセット衝突時にドアの形状を保持してドア部分がクラッシュして乗員が車内に閉じ込められたり、挟まれたりするのを防止するために、ドアのアウタパネルの内側に前後方向に沿ってインパクトビームを配設したものが知られている。この自動車のドア構造では、インパクトビームを配設したことにより、障害物が車体に側面衝突した場合、アウタパネル、インパクトビームが衝突エネルギーを吸収しながら変形し、インパクトビームがガイドレールに当たり、さらに、インナパネルに当たり、衝撃吸収体が圧縮変形して衝突エネルギーが吸収された後、インナトリムが乗員の腰部に当たることにより、乗員の受ける衝撃が緩和されるようになっている。
【0004】
さらに、上記のような自動車のドア構造において、側面衝突時にドア上部が先行して車室内側に侵入して乗員の胸部への衝撃を抑制するため、ガイドレールの側面視でインパクトビームと交差する位置に脆弱部を形成したものが提案されている。この自動車のドア構造では、側面衝突時にガイドレールに衝撃荷重が負荷されると、ガイドレールが脆弱部で容易に折り曲げられ、ドアの上部が先行して車室内側に侵入するのを防止している(特許文献1参照)。
【0005】
また、車両の側面衝突時にインナトリムの上部がチャイルドシートに衝突することを抑制する車両用サイドドアも提案されている。このものは、アウタパネルとインナパネルとの間に配設された押込部材と、インナパネルとインナトリムとの間に配設され、側面衝突時に押込部材に押し込まれたインナパネルによって室内側に押し込まれ、インナトリムを貫通して、座席のシート面よりも上方でかつアームレスト面より下方の位置に突出する突出部材と、を備えている。そして、側面衝突時に、上記突出部材が、チャイルドシートの側面の下部に衝突するようになっている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-127880号公報
【文献】特開2016-190608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、側面衝突(以下、側突という)等の際には、衝突物が接触する高さは一定ではなく、例えば、一般的な車高の車両に対して、SUV(Sports Utility Vehicle:スポーツ用多目的車)等の車両では、接触する高さが高くなることがある。このため、従来のドア構造においては、側突位置が高い場合には、上方でインナトリムが鋭角に折れ曲がり、乗員の頭部や上体に突起部が接触してしまう虞がある。
【0008】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、側突する車両の高さによらず、対象車両の車高が高い場合であっても、衝突物から乗員を平行に衝突とは逆方向に逃がし、乗員の保護機能を高めることができるインナトリムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るインナトリムは、車両の車室内部側面を構成する内装部材であるインナトリムにおいて、車室の側壁部を構成する側壁パネルと結合する複数の結合点と、当該インナトリムの車両横方向の屈曲を誘発する複数の屈曲部と、を備え、前記結合点は、車両上下方向で、上端または下端ではない位置に、他の前記結合点よりも強固な結合がなされる強固結合点を有し、前記屈曲部は、前記強固結合点よりも上方に有し、前記強固結合点から上方に向かうほど剛性が高くなっている、ことを特徴とする。
【0010】
また、前記強固結合点より下方の剛性は、いずれの前記屈曲部の剛性よりも高い、ようにしてもよい。
【0011】
さらに、前記強固結合点の車室内側に、車室方向に突出するトリム肘掛部が設けられている、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、側突する車両の高さによらず、対象車両の車高が高い場合であっても、衝突物から乗員を平行に衝突とは逆方向に逃がし、乗員の保護機能を高めることができるインナトリムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施の形態におけるインナトリムを備えた車両の一例を示す側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態におけるインナトリムを備えた車両の一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態における側突時のインナトリムの変化の一例を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施の形態における高所に側突時のインナトリムの変化の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
なお、本実施の形態においては、上および下の定義を、車両の上下方向を基準としたものとする。例えば、車両の上下方向で上方を、単に上方、車両の上下方向で下方を、単に下方という。また、上部、下部、上端、下端等も同様である。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態におけるインナトリムを備えた車両の一例を示す側面図である。また、
図2は、本発明の実施の形態におけるインナトリムを備えた車両の一例を示す断面図である。また、
図3は、本発明の実施の形態における側突時のインナトリムの変化の一例を示す模式図である。また、
図4は、本発明の実施の形態における高所に側突時のインナトリムの変化の一例を示す模式図である。
【0016】
(車両1の構成)
図1、
図2に示すように、車両1の車体サイドには、フロントドア10およびリアドア20が設けられている。また、車両1の下部にはアンダーフロア3が設けられ、上部にはルーフ4が設けられている。そして、アンダーフロア3、ルーフ4、フロントドア10、リアドア20等で車室が形成される。
【0017】
また、アンダーフロア3には、座席シート30が配備されている。
なお、本発明のインナトリムにおける特徴的な構造は、フロントドア10およびリアドア20、並びに、左右で同様のものなので、以下の説明では、車両1の右側のフロントドア10の内側に設けられたインナトリムについて、説明する。
【0018】
(座席シート30)
座席シート30は、車両1に乗車した乗員Pが着座するものである。また、座席シート30は、乗員Pの臀部から大腿部を支えるシートクッション31(座部)と、リクライニング可能に設けられたシートバック32(背もたれ部)と、乗員Pの頭部を支えるヘッドレスト33(ヘッド部)と、を備えている。
【0019】
(フロントドア10)
フロントドア10は、アウタパネル11と、インナパネル12と、インナトリム13と、を備えている。
また、アウタパネル11およびインナパネル12は、車室の側壁部を構成する側壁パネルを形成する。また、アウタパネル11とインナパネル12との間には、ウインドガラス5を昇降可能に収納する空間が設けられるとともに、ウインドガラス5の昇降機構(図示せず)等が配設されている。
また、インナパネル12とインナトリム13との間には、衝撃吸収体(図示せず)が配設されている。なお、インナトリム13の中には、図示しないサイドエアバッグが設けられており、側突時には、サイドエアバッグが展開するようになっている。
【0020】
(アウタパネル11)
アウタパネル11は、車両1の外側に設けられ、外壁を成すものである。また、アウタパネル11は、外部からの衝撃を直接受け、吸収するようになっている。
【0021】
(インナパネル12)
インナパネル12は、アウタパネル11に対して、車両1の内側に設けられ、内壁を成すものである。
【0022】
(インナトリム13)
インナトリム13は、車室内部側面を構成し、インナパネル12と結合される内装部材であり、インナパネル12よりも車室内側に設けられ、内部に衝撃吸収体が設けられている。
【0023】
インナトリム13は、複数の結合点14a、14b、14cを有し、図示しない結合部材により、インナパネル12に結合されている。
結合点14bは、インナトリム13の車両上下方向で上端に位置し、インナパネル12の上端と結合されている。結合点14cは、インナトリム13の車両上下方向で下端に位置し、インナパネル12の下端と結合されている。
【0024】
結合点14aは、上端や下端ではなく、インナトリム13の中段よりやや下方に位置し、インナパネル12の中段やや下方と結合されている。また、結合点14aは、他の結合点14bや結合点14cよりも、インナパネル12と強固に結合された強固結合点となっている。
また、結合点14aの車室内側には、インナトリム13が車室方向に突出して乗員Pの肘掛となるトリム肘掛部16が設けられている。
【0025】
さらに、インナトリム13は、結合点14aおよびトリム肘掛部16よりも上方に、インナトリム13の車両横方向の屈曲を誘発する複数の屈曲部15a、15b、15c、15dが設けられている。
複数の屈曲部15a、15b、15c、15dは、結合点14aから上方に向かうほど剛性が高くなっている。すなわち、屈曲部15aが最も剛性が高く、次に屈曲部15bが高く、3番目が屈曲部15cであり、屈曲部15dが最も剛性が低くなっている。
【0026】
また、インナトリム13の結合点14aおよびトリム肘掛部16よりも下方の剛性は、いずれの屈曲部15a~屈曲部15dの剛性よりも高くなっている。
なお、本実施の形態では、複数の結合点14a、14b、14cを、3つの場合としたが、これに限らず、4つ以上であっても、3つ未満であってもよい。また、本実施の形態では、複数の屈曲部15a、15b、15c、15dを、4つの場合としたが、これに限らず、5つ以上であっても、4つ未満であってもよい。
【0027】
以下、他車両が車両1に対して側突した場合について、説明する。
図3、
図4は、他車両60が車両1に側突した場合のインナトリム13の変化を示す模式図である。なお、
図3は、一般的な車高の他車両60が車両1に側突した場合の変化を示す模式図であり、
図4は、車高の高い他車両60が車両1に側突した場合の変化を示す模式図である。
【0028】
図3に示すように、一般的な車高の他車両60が車両1の右のフロントドア10に衝突する場合、まず、他車両60のバンパが、アウタパネル11に当接し、アウタパネル11を車両1の内側に変形させる。そして、アウタパネル11の変形により、インナパネル12を変形させる。すなわち、アウタパネル11およびインナパネル12は、他車両60のバンパの当接点を中心に、車両1の内側に折れ曲がる。
【0029】
さらに、インナパネル12に伝わった衝撃は、インナトリム13に伝達し、インナトリム13も変形する。なお、一般的な車高の他車両60による側突では、結合点14aの高さ付近に衝突が発生するため、インナトリム13は、結合点14a付近が強く車両1の内側方向に押し込まれる。このとき、インナトリム13は、結合点14aおよびトリム肘掛部16よりも上方に、屈曲部15a、15b、15c、15dが設けられており、下方の屈曲部15a、15b、15c、15dほど剛性が低く(弱く)なっている。このため、インナトリム13は、結合点14a付近が強く車両1の内側方向に押し込まれると、屈曲部15aよりも、屈曲部15dの方が大きく変形されて、トリム肘掛部16が座席シート30の方向に移動される。
【0030】
ここで、トリム肘掛部16は、座席シート30に着座する乗員Pの腰部付近の高さであるので、インナトリム13が側突によって変形し、乗員Pに迫ってきても、インナトリム13と乗員Pとの間に、カーテンエアバッグやサイドエアバッグが展開するので、側突による衝撃を十分に緩和することができる。この場合、乗員Pの肩部近傍は車体の変形が小さいため、他車両60からの直接的な入力から乗員Pの肩部を逃がすように乗員Pを水平に移動させる必要は少ない。そして、結合点14aが強固結合点となっていることで、インナトリム13がインナパネル12の変形に追従していく。さらに、下方の屈曲部15a、15b、15c、15dほど剛性が低くなっているため、下方ほどインナトリム13の変形がインナパネル12の変形に同調して変形していく。この構成により、変形の少ない乗員Pの肩部側方における比較的広い空間を、主にカーテンエアバッグが埋めることで、緩やかに肩部の衝撃を吸収することができる。
【0031】
次に、一般的な車高よりも、車高が高い他車両60に側突された場合について、説明する。
図4に示すように、車高が高い他車両60が車両1の右のフロントドア10に衝突する場合、上記と同様に、他車両60のバンパが、アウタパネル11に当接し、アウタパネル11を車両1の内側に変形させる。ただし、他車両60の車高が高いため、アウタパネル11の当接位置は、
図3の場合よりも高い位置となる。
【0032】
そして、アウタパネル11の変形により、インナパネル12を変形させる。すなわち、アウタパネル11およびインナパネル12は、他車両60のバンパの当接点を中心に、車両1の内側に折れ曲がる。
【0033】
さらに、インナパネル12に伝わった衝撃は、インナトリム13に伝達し、インナトリム13も変形する。このとき、インナパネル12の衝撃は、インナトリム13の高い位置に伝達される。そして、インナトリム13の結合点14aおよびトリム肘掛部16よりも高い位置には、屈曲部15a、15b、15c、15dが設けられている。また、屈曲部15a、15b、15c、15dは、上方ほど剛性が高くなっている。
【0034】
このため、インナトリム13は、側突によって曲げられても、上方の屈曲部15a、15b、15c、15dほど、曲りが少なく、乗員P側の面が垂直に近い形態となる。したがって、インナトリム13が変形はするものの、一般的な車高の他車両に衝突される場合と比べて略垂直に近い形態のまま、乗員P方向に移動し、乗員Pを水平に押圧する。この構成により、変形の大きい乗員Pの肩部側方における比較的狭い空間に、主にカーテンエアバッグが展開することで、速やかに肩部を車両中央側へ押圧し、アウタパネル11、インナパネル12の変形から乗員Pを逃がすことができる。
【0035】
以上のように、本実施の形態におけるインナトリム13は、他の結合点14b、14cよりも強固な結合がなされる結合点14aよりも上方に、複数の屈曲部15a、15b、15c、15dを有し、この屈曲部15a、15b、15c、15dが、上記結合点14aから上方に向かうほど剛性が高くなっているので、通常の車高の車両だけではなく、車高の高い他車両60による側突に対しても、乗員Pを車両1の内側に水平に移動させ、他車両60の直接的な衝撃から回避、または、衝撃を緩和させることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 車両、3 アンダーフロア、4 ルーフ、5 ウインドガラス、10 フロントドア、11 アウタパネル、12 インナパネル、13 インナトリム、14a、14b、14c 結合点、15a、15b、15c、15d 屈曲部、16 トリム肘掛部、20 リアドア、30 座席シート、31 シートクッション、32 シートバック、33 ヘッドレスト、60 他車両