(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-30
(45)【発行日】2023-07-10
(54)【発明の名称】インタークーラー冷却構造
(51)【国際特許分類】
B60K 11/08 20060101AFI20230703BHJP
F02B 29/04 20060101ALI20230703BHJP
【FI】
B60K11/08
F02B29/04 K
(21)【出願番号】P 2019227998
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大木 裕介
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-020739(JP,A)
【文献】実開平02-063225(JP,U)
【文献】特開平08-169243(JP,A)
【文献】特開平07-052665(JP,A)
【文献】特開昭51-065226(JP,A)
【文献】特開平11-141415(JP,A)
【文献】特開2017-187020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/00-15/10
B62D 25/10-25/13
F02B 29/00-29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前方のフードの外表面の車両前後方向途中に設けられた開口部から導風ダクトを通してインタークーラーに走行風を導風するインタークーラー冷却構造において、
前記導風ダクトの開口部の位置よりも車両前方側で前記フードの外表面に開設された通気口と、
該通気口とエンジンの吸気系とを連通する通気路と、
前記フードの外表面に連続する前記導風ダクトの内側面に開口して該導風ダクトと前記通気路とを連通する連通路と、
前記連通路よりも前記エンジンの吸気系側で前記通気路を開閉する通気路開閉弁と、
前記連通路の前記導風ダクトとの連通開口部を開閉すると共に該連通開口部が開口されている状態で前記導風ダクトを流れる走行風を前記連通路内に導入するための導入構造を有する連通開口部開閉弁と、
を備えたことを特徴とするインタークーラー冷却構造。
【請求項2】
前記導入構造は、前記連通開口部を開閉する弁体部と、該弁体部に連設され且つ前記連通開口部が開口されている状態で前記連通路よりも前記インタークーラー寄りの部位で前記導風ダクト内の走行風と略直交方向で且つ前記内側面側に延伸する導風部と、を備えて構成され、
前記エンジンの吸気系を空圧源とし且つ前記弁体部によって前記連通開口部が開閉されるように前記導入構造を移動する空圧シリンダを備えたことを特徴とする請求項1に記載のインタークーラー冷却構造。
【請求項3】
前記エンジンの吸気系は、該エンジンの運転中、常時、負圧を発生する負圧発生部位であり、
前記空圧シリンダは、前記負圧が大きい状態で前記弁体部により前記連通開口部が閉じられるように前記負圧発生部位に接続され、
前記弁体部が開方向に移動されるように前記導入構造を付勢する導入構造付勢手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載のインタークーラー冷却構造。
【請求項4】
前記エンジンの吸気系は、該エンジンの運転中、常時、負圧を発生する負圧発生部位であり、
前記通気路開閉弁は、前記連通路よりも前記エンジンの吸気系側で前記通気路を開閉する弁体を常時閉方向に付勢する通気路弁体付勢手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のインタークーラー冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インタークーラー冷却構造、特に、車体前方のフードの外表面の車両前後方向途中に設けられた開口部から導風ダクトを通してインタークーラーに走行風を導風するインタークーラー冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
インタークーラーは、過給機で過給された新気を冷却する熱交換器であり、一般的にはエンジンルーム内に配設される。熱交換器であるインタークーラーで新気を冷却するために、多くの場合は、インタークーラーに走行風を導風してインタークーラー自体を冷却する。走行風の導風形態については種々のものがあるが、一般的にはフードの外表面(上面)の途中に導風ダクトの開口部を形成し、その開口部から導風ダクトを通して走行風をインタークーラーに導くものが多い。この場合、導風ダクトの下面がフードの上面に連続している。過給された新気を冷却するほど、燃焼に利用可能な酸素量の増加、吸気温度低下に伴う異常燃焼の抑制により、出力の向上を図ることができる。
【0003】
そこで、従来より、インタークーラーの冷却効率に優れた種々のインタークーラー冷却構造が提案されている。そうしたインタークーラー冷却構造の1つとして、例えば、下記特許文献1に記載されるものが挙げられる。このインタークーラー冷却構造は、インタークーラーに向けて導風される走行風のインタークーラーより下流側に、空気流を車両後方に向けて整流する整流部を設け、例えば、ラジエータ(コア)を通過した温かい空気(走行風)がインタークーラーに当たらないようにしてインタークーラーの冷却効率を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、インタークーラーの冷却効率を高める、すなわちインタークーラーの冷却に導風される走行風量を多くすればするほど、エンジンの出力を向上することが可能である。しかしながら、インタークーラーを冷却したあとの走行風(空気流)はエンジンルーム内に流入してから車外に流出することから、特に近年のエンジンルーム内の高密度化に伴い、エンジンルームを通過する走行風が増加するほど、流動抵抗が増大し、結果として燃費が悪化する。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンの出力向上と燃費確保のトレードオフを適時に両立することが可能なインタークーラー冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のインタークーラー冷却構造は、
車体前方のフードの外表面の車両前後方向途中に設けられた開口部から導風ダクトを通してインタークーラーに走行風を導風するインタークーラー冷却構造において、
前記導風ダクトの開口部の位置よりも車両前方側で前記フードの外表面に開設された通気口と、該通気口とエンジンの吸気系とを連通する通気路と、前記フードの外表面に連続する前記導風ダクトの内側面に開口して該導風ダクトと前記通気路とを連通する連通路と、前記連通路よりも前記エンジンの吸気系側で前記通気路を開閉する通気路開閉弁と、前記連通路の前記導風ダクトとの連通開口部を開閉すると共に該連通開口部が開口されている状態で前記導風ダクトを流れる走行風を前記連通路内に導入するための導入構造を有する連通開口部開閉弁と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、通気路開閉弁が開弁し且つ連通開口部開閉弁が閉弁している状態では、上記フードの外表面(上面)に沿って流れる走行風の一部が導風ダクトの開口部よりも車両前方側の通気口から通気路を通ってエンジンの吸気系に供給される。フードの外表面に沿って流れる走行風のうち、その外表面側の領域には、流速の遅い低速領域がある。この低速領域は、導風ダクトの開口部における走行風の流入を阻害し、導風ダクト内に流入する冷却風量を減らしている。
【0009】
上記通気口から通気路を通して走行風の一部をエンジンの吸気系側に流入させることにより、上記低速領域における流速の遅い走行風(の一部)がエンジンの吸気系に導風される。これにより、導風ダクト内における低速領域を小さくして(流速の速い)走行風の流れる断面積を増大することができる。その結果、導風ダクト内に流入し、インタークーラーの冷却に利用される走行風量を増大してインタークーラーの冷却効率を高めることができる。
【0010】
一方、通気路開閉弁が閉弁し且つ連通開口部開閉弁が開弁している状態では、上記低速領域を流れる走行風の一部が上記導入構造によって連通路内に導入され、通気路を逆向きに通って通気口から吹出される。この通気口から吹出される空気流は、走行風が上記開口部から導風ダクトへ流入するのを邪魔することから、結果として上記フードの外表面から連続する導風ダクトの内側面(下面)に沿って生じる低速領域が大きくなり、導風ダクト内での走行風の流れる断面積が減少する。その結果、導風ダクトからインタークーラーを経てエンジンルーム内に流入する走行風(空気流)量を低減することができる。したがって、例えば、エンジンの高負荷時には、通気路開閉弁を開弁すると共に連通開口部開閉弁を閉弁する構成とすれば、インタークーラーの冷却効率を高めてエンジンの出力を向上することができる。これに対し、エンジンの低負荷時には、通気路開閉弁を閉弁すると共に連通開口部開閉弁を開弁する構成とすれば、導風ダクトからエンジンルーム内に流入する走行風(空気流)量を低減して燃費を確保することができる。
【0011】
また、本発明の他の構成は、前記導入構造は、前記連通開口部を開閉する弁体部と、該弁体部に連設され且つ前記連通開口部が開口されている状態で前記連通路よりも前記インタークーラー寄りの部位で前記導風ダクト内の走行風と略直交方向で且つ前記内側面側に延伸する導風部と、を備えて構成され、前記エンジンの吸気系を空圧源とし且つ前記弁体部によって前記連通開口部が開閉されるように前記導入構造を移動する空圧シリンダを備えたことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、弁体部が連通開口部を閉じていない開口状態では、連通路よりもインタークーラー側の部位で弁体部に連設された導風部が、導風ダクト内の上記低速領域の走行風を連通路内に導入し、上記のように、導風ダクトからエンジンルーム内に流入する走行風(空気流)量が低減される。このとき、上記弁体部が連通開口部を開閉するように導入構造を移動する空圧シリンダの空圧源として例えばエンジン吸気系の負圧を導入し、エンジンの高負荷時に連通開口部が閉じられ且つエンジンの低負荷時に連通開口部が開口するようにエンジン吸気系の負圧が空圧シリンダに供給される構成とすれば、個別の駆動源を必要とすることなく、エンジン高負荷時のエンジン出力の向上とエンジン低負荷時の燃費の確保を両立することが可能となる。
【0013】
本発明の更なる構成は、前記エンジンの吸気系は、該エンジンの運転中、常時、負圧を発生する負圧発生部位であり、前記空圧シリンダは、前記負圧が大きい状態で前記弁体部により前記連通開口部が閉じられるように前記負圧発生部位に接続され、前記弁体部が開方向に移動されるように前記導入構造を付勢する導入構造付勢手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、エンジン吸気系の負圧が大きいエンジンの高負荷時に連通開口部が閉弁され且つエンジン吸気系の負圧が小さくなるエンジンの低負荷時には連通開口部が開弁されるので、個別の駆動源を必要とすることなく、エンジン高負荷時のエンジン出力の向上とエンジン低負荷時の燃費の確保を両立することができる。
【0015】
本発明の更なる構成は、前記エンジンの吸気系は、該エンジンの運転中、常時、負圧を発生する負圧発生部位であり、前記通気路開閉弁は、前記連通路よりも前記エンジンの吸気系側で前記通気路を開閉する弁体を常時閉方向に付勢する通気路弁体付勢手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、エンジン吸気系の負圧が大きいエンジンの高負荷時に通気路が開弁され且つエンジン吸気系の負圧が小さくなるエンジンの低負荷時には通気路が閉弁されるので、個別の駆動源を必要とすることなく、エンジン高負荷時のエンジン出力の向上とエンジン低負荷時の燃費の確保を両立することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、エンジンの高負荷時にはエンジン出力を向上し且つエンジンの低負荷時には燃費を確保することができ、これにより過給機付きエンジン搭載車両の性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のインタークーラー冷却構造が適用された車両の一実施の形態を示すフード部分の断面図である。
【
図2】
図1のフードに設けられた開閉弁及び導入構造の詳細を示す断面図である。
【
図3】
図1のインタークーラー冷却構造の作用の説明図である。
【
図4】
図1のインタークーラー冷却構造の作用の説明図である。
【
図5】
図1のインタークーラー冷却構造の作用の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明のインタークーラー冷却構造の一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この実施の形態のインタークーラー冷却構造が適用された車両のフード部分の断面図である。したがって、車体前方上部に位置するフード1の下方はエンジンルーム、フード1の上方は外部(外気)である。この車両は、図示しない駆動源として、ターボチャージャ(過給機)を備えたエンジンを搭載している。ターボチャージャは、周知のように、エンジン排気系内に配設されたタービンとエンジン吸気系内に配設されたコンプレッサを回転軸で接続して構成される。これにより、タービンが排ガスで回転されると、それに伴って回転されるコンプレッサは、エアクリーナを介して吸気した新気を圧縮する。圧縮された新気は、一般に昇温するので、これをインタークーラー2で冷却する。圧縮後に冷却された新気は、図示しないスロットルバルブからインテークマニホールドを経てエンジンの燃焼室に過給される。新気の過給状態では、コンプレッサよりも吸気下流側は凡そ正圧(大気圧より高圧)であるが、エンジンが運転している間は、コンプレッサよりも吸気上流側、例えばエアクリーナ(ボックス)内は常時負圧である。また、排ガス流量が小さいときにタービンが回転されない、すなわちコンプレッサが新気を圧縮しない場合もあり、その場合には、自然吸気と同じく、吸気行程で生じる負圧によって新気が燃焼室に流れ込む。
【0020】
この実施の形態では、エンジンルームのトーボード寄り部分、すなわちフード1の車両後方側端部の下方にインタークーラー2が配置されている。このインタークーラー2に走行風を導風して冷却するための導風ダクト3が、フード1の上面に設けられている。この導風ダクト3は、フード1の車両前後方向の途中で車両前方向きに開口しており、この開口部4から走行風を取り込んでインタークーラー2に導く。この導風ダクト3の形態は特に限定されるものではなく、例えばフード1の上面に個別のカバーを被せて形成してもよいし、逆に、フード1の上面の一部を窪ませるようにして形成してもよい。したがって、この実施の形態では、導風ダクト3の下面はフード1の上面に連続している。なお、導風ダクト3を通ってインタークーラー2を冷却した走行風は、インタークーラー2の側部を通ってエンジンルーム内に流入し、そこからエンジンルーム内を通って外部に流出する。
【0021】
この実施の形態では、上記導風ダクト3の開口部4よりも車両前方側の位置で、フード1の上面に、例えばスリット状の通気口5が開設されている。そして、この通気口5には通気路6が連接されており、通気路6は、図示しないエンジンの吸気系、具体的にはエアクリーナ(ボックス)に接続されている。この通気路6は、フード1の上面の下方から導風ダクト3の下面の下方にかけて形成されている。なお、図では、フード1の部材に穿設された空洞部のように通気路6が示されているが、この通気路6は、例えば、フード1の下面(裏面)に取付けられる補強部材とフード1との隙間で構成してもよいし、或いは、個別の管部材で構成するなどしてもよい。また、通気路6の接続先は、エアクリーナに限らず、常時負圧が発生するエンジン吸気系であれば、理論上はどこでもよいが、この実施の形態では、通気路6を通じて走行風がエンジン吸気系に流入するので、エアクリーナかそれよりも吸気上流側に接続するのが望ましい。
【0022】
上記通気路6は、上記導風ダクト3の開口部4よりも車両後方側で導風ダクト3と連通路7で連通されている。したがって、連通路7は上記フード1の上面と連続する導風ダクト3の下面に、例えばスリット状に開口している。この連通路7の車両後方側直近に、上記通気路6を開閉する通気路開閉弁8及び連通路7の導風ダクト3との連通開口部7aを開閉する連通開口部開閉弁9が設けられている。
図2は、通気路開閉弁8及び連通開口部開閉弁9と、連通開口部開閉弁9に設けられた導入構造10の詳細を示す断面図である。このうち、通気路開閉弁8は、通気路6の内側断面を開閉可能な弁体11と、その弁体11を通気路閉状態方向に付勢する通気路弁体付勢手段12で構成される。弁体11は、例えば、フラップ型の板状弁体で構成され、通気路6が閉塞されている状態から、通気路6が接続されているエアクリーナ(ボックス)側にのみ開動作する。この弁体11には、フラップ型以外の弁体も適用可能であるが、後述する負圧開動作に関してはフラップ型弁体が好適である。また、通気路弁体付勢手段12は、例えばコイルスプリングで構成され、開状態にあるフラップ型弁体11を通気路閉状態方向にのみ付勢する。この通気路弁体付勢手段12には、板バネなどのその他のスプリング、ゴムや樹脂などの弾性体なども適用可能であるが、後述する弁体11の負圧開動作とのバランスに関してはスプリングが好適である。この通気路開閉弁8は、エアクリーナ(ボックス)の負圧が小さい(圧力値は大きい)状態では通気路弁体付勢手段12の付勢力によって弁体11が通気路6を閉じているが、エアクリーナ(ボックス)の負圧が大きく(圧力値が小さく)なると、通気路弁体付勢手段12の付勢力に抗して弁体11が負圧に引かれてエアクリーナ(ボックス)側に開く。このときの弁体11の弁開度は、エアクリーナ(ボックス)、すなわちエンジン吸気系の負圧の大きさに依存する。
【0023】
一方、上記連通開口部開閉弁9の導入構造10は、上記連通開口部7aを開閉する弁体部13と、この弁体部13に連設された導風部14とを備え、更にこの実施の形態では、導風部14に連結部15を連設して構成される。弁体部13は、連通路7の導風ダクト側連通開口部7aを主として閉じるものであり、この実施の形態では水平方向に延伸する板状体で構成される。導風部14は、弁体部13から略直交方向、すなわちこの実施の形態では鉛直方向に延設された板状体であり、弁体部13と合わせて逆L字断面を構成している。また、連結部15は、弁体部13と逆向きに導風部14から略直交方向、すなわち水平方向に延設された板状体であり、導風部14と合わせてL字断面を構成している。この導入構造10は、後述するアクチュエータ及びリターンスプリングによって
図2の実線の位置と二点鎖線の位置の間で往復移動される。したがって、上記導風部14は、弁体部13が連通開口部7aから離れて連通開口部7aが開口している状態で、導風ダクト3内の走行風と略直交方向で且つ(フード1の上面に連続する)導風ダクト3の下面側に延伸している。
【0024】
また、この連通開口部開閉弁9のアクチュエータには空圧シリンダ(負圧シリンダともいう)16が用いられており、この空圧シリンダ16の駆動源には、上記エアクリーナ(ボックス)の負圧が用いられている。この空圧シリンダ16は、上記導入構造10の連結部15と、例えば上記通気路6の上面部に固定された開閉弁基部18との間に介装されている。これにより、空圧シリンダ16に負圧が作用すると、
図2の下方向に収縮し、導入構造10の弁体部13は、図の二点鎖線の位置から実線の位置まで移動して連通開口部7aを閉じる。また、この空圧シリンダ16と並べて、導入構造付勢手段17としてのリターンスプリングが上記連結部15と開閉弁基部18との間に配設されている。この導入構造付勢手段17は、例えばコイルスプリングで構成され、上記弁体部13が連通開口部7aから離間して連通開口部7aを開口する方向に上記導入構造10を付勢する。
【0025】
この連通開口部開閉弁9は、エアクリーナ(ボックス)の負圧が大きい(圧力値が小さい)状態では導入構造付勢手段17の付勢力に抗して空圧シリンダ16が収縮し、導入構造10の弁体部13が連通開口部7aを閉じているが、エアクリーナ(ボックス)の負圧が小さく(圧力値が大きく)なると、導入構造付勢手段17の付勢力により弁体部13が連通開口部7aから離間して開口する。このときの弁体部13の弁開度は、エアクリーナ(ボックス)、すなわちエンジン吸気系の負圧の大きさに依存する。また、連通開口部7aが開口している状態では、導風ダクト3を流れる走行風が逆L字断面形状の弁体部13及び導風部14に当たり、連通路7内に導入される。この連通路7内に導入される走行風は、導風ダクト3を流れる走行風のうちでも、フード1の上面と連続する導風ダクト3の下面側の領域の走行風である。なお、導入構造付勢手段17であるリターンスプリングには、板バネなどのその他のスプリング、ゴムや樹脂などの弾性体なども適用可能であるが、後述する弁体部13の負圧開動作とのバランスに関してはスプリングが好適である。
【0026】
この実施の形態のインタークーラー冷却構造では、例えばエアクリーナ(ボックス)内に生じるエンジン吸気系の負圧が中庸状態である場合には、
図3に示すように、通気路開閉弁8の弁体11によって通気路6が閉じられると共に連通開口部開閉弁9の弁体部13によって連通路7(連通開口部7a)が閉じられる。これにより、通気路6にも連通路7にも走行風は流入せず、導風ダクト3のみを通る走行風がインタークーラー2に導風されてインタークーラー2が冷却される。
【0027】
これに対し、
図3の状態からエアクリーナ(ボックス)内に生じるエンジン吸気系の負圧が大きく(圧力値が小さく)なると、
図4に示すように、通気路開閉弁8の弁体11が負圧に引かれて開弁し、通気路6とエアクリーナ(ボックス)が連通状態となる。この状態では、導風ダクト3の車両前方向きの開口部4よりも車両前方側に位置する通気口5から走行風(の一部)が通気路6内に流入する。流入した走行風はエアクリーナ(ボックス)内に流れ込む。
【0028】
一方、
図3の状態からエアクリーナ(ボックス)内に生じるエンジン吸気系の負圧が小さく(圧力値が大きく)なると、
図5に示すように、連通開口部開閉弁9の空圧シリンダ16の収縮力よりもリターンスプリングの付勢力が大きくなり、導入構造10が図の上方に移動し、これにより導入構造10の弁体部13が連通開口部7aから離間して連通開口部7aが開口する。このとき、通気路開閉弁8の弁体11は通気路6を連通路7よりもエアクリーナ(ボックス)側で閉塞しており、一方で、前述のように、導風ダクト3を流れる走行風(の一部)は連通路7内に導入されるので、その走行風は通気路6内を
図4と逆方向に流れ、通気口5から空気流として吹出す。
【0029】
導風ダクト3を流れる走行風には、例えば
図3に網掛けして示すように、フード1の上面及びそれと連続する導風ダクト3の下面との間の流動抵抗に依存して流速の遅い領域が存在する。この流速の遅い走行風領域は、例えば特開平11-20739号公報に記載されるように、境界層とも呼ばれ、インタークーラー2に導風される走行風の流れを阻害することから、導風ダクト3内で走行風が流れる断面積を小さくしている。これに対し、
図4に示すように、導風ダクト3の車両前方向き開口部4よりも車両前方側に位置する通気口5から、フード1の上面側の走行風が通気路6内に流入すると、導風ダクト3内における流速の遅い走行風領域、すなわち低速領域が小さくなり、導風ダクト3内で走行風が流れる断面積が、
図3の状態よりも大きくなる。これにより、導風ダクト3を通じてインタークーラー2に導風される走行風量が増大し、インタークーラー2の冷却効率が向上することから、エンジンの出力向上が達成され得る。
【0030】
一方、
図5に示すように、導風ダクト3の車両前方向き開口部4よりも車両前方側に位置する通気口5、すなわちフード1の上面から空気流が吹出すと、走行風の導風ダクト3への流入が邪魔されることから、
図5に網掛けして示すように、上記フード1の上面及びそれと連続する導風ダクト3の下面に沿って生じる低速領域が大きくなり、導風ダクト3内における走行風の流れる断面積が減少する。これにより、導風ダクト3からインタークーラー2を経てエンジンルーム内に流入する走行風(空気流)量を低減することができ、エンジンルーム内の走行風の流動抵抗を低減して燃費を確保することが可能となる。
【0031】
このうち、導風ダクト3内の走行風が流れる断面積が大きくなるのは、エアクリーナ(ボックス)、すなわちエンジン吸気系の負圧が大きくなる場合であり、そうした状態は、一般に、スロットル開度が大きいか、或いは、エンジン回転速度が大きいかの少なくとも一方であり、したがってエンジンの出力向上が望まれている高負荷状態である。また、導風ダクト3内を走行風が流れる断面積が小さくなるのは、エアクリーナ(ボックス)、すなわちエンジン吸気系の負圧が小さくなる場合であり、そうした状態は、一般に、スロットル開度が小さいか、或いは、エンジン回転速度が小さいかの少なくとも一方であり、したがってエンジンの出力向上を必要としない低負荷状態である。以上より、この実施の形態のインタークーラー冷却構造は、通気路開閉弁8及び連通開口部開閉弁9を開閉するための個別の駆動源を必要とすることなく、エンジンの高負荷時にはエンジン出力を向上し且つエンジンの低負荷時には燃費を確保することができる。そして、個別の駆動源を必要としないことから、構成の簡素化、軽量化、コストの低廉化を達成することが可能となる。
【0032】
このように、この実施の形態のインタークーラー冷却構造では、通気路開閉弁8が開弁し且つ連通開口部開閉弁9が閉弁している状態では、フード1の上面に沿って流れる走行風の一部が導風ダクト3の開口部4よりも車両前方側の通気口5から通気路6を通ってエンジンの吸気系、ここではエアクリーナ(ボックス)に供給される。これにより、フード1の上面に沿って生じる上記低速領域の走行風(の一部)がエンジンの吸気系に導風され、導風ダクト3内における低速領域を小さくして(流速の速い)走行風の流れる断面積を増大することができる。その結果、導風ダクト3内に流入し、インタークーラー2の冷却に利用される走行風量を増大してインタークーラー2の冷却効率を高めることができる。
【0033】
一方、通気路開閉弁8が閉弁し且つ連通開口部開閉弁9が開弁している状態では、上記低速領域を流れる走行風の一部が上記導入構造10によって連通路7内に導入され、通気路6を逆向きに通って通気口5から吹出される。この通気口5から吹出される空気流は、走行風が開口部4から導風ダクト3へ流入するのを邪魔することから、結果としてフード1の上面に連続する導風ダクト3の下面に沿って生じる低速領域が大きくなり、導風ダクト3内での走行風の流れる断面積が減少する。その結果、導風ダクト3からインタークーラー2を経てエンジンルーム内に流入する走行風(空気流)量を低減することができる。したがって、エンジンの高負荷時には、通気路開閉弁8を開弁すると共に連通開口部開閉弁9を閉弁する構成とすることで、インタークーラー2の冷却効率を高めてエンジンの出力を向上することができる。これに対し、エンジンの低負荷時には、通気路開閉弁8を閉弁すると共に連通開口部開閉弁9を開弁する構成とすることで、導風ダクト3からエンジンルーム内に流入する走行風(空気流)量を低減して燃費を確保することができる。
【0034】
また、導入構造10の弁体部13が連通開口部7aを閉じていない開口状態では、連通路7よりもインタークーラー2側の部位で弁体部13に連設された導風部14が、導風ダクト3内の上記低速領域の走行風を連通路7内に導入し、上記のように、導風ダクト3からエンジンルーム内に流入する走行風(空気流)量が低減される。この導入構造10を移動する空圧シリンダ16の空圧源としてエンジン吸気系、ここではエアクリーナ(ボックス)の負圧を導入し、エンジンの高負荷時に連通開口部7aが閉弁され且つエンジンの低負荷時に連通開口部7aが開弁されるようにエンジン吸気系の負圧が空圧シリンダ16に供給される構成とすることで、個別の駆動源を必要とすることなく、エンジン高負荷時のエンジン出力の向上とエンジン低負荷時の燃費の確保を両立することが可能となる。
【0035】
また、エンジンの運転中、常時、負圧を発生する負圧発生部位、例えば上記エアクリーナ(ボックス)を、負圧が大きい状態で弁体部13により連通開口部7aが閉じられるように空圧シリンダ16に接続し、弁体部13が開方向に移動されるように導入構造10を導入構造付勢手段17で付勢する。これにより、エンジン吸気系の負圧が大きいエンジンの高負荷時に連通開口部7aが閉弁され且つエンジン吸気系の負圧が小さくなるエンジンの低負荷時には連通開口部7aが開弁されるので、個別の駆動源を必要とすることなく、エンジン高負荷時のエンジン出力の向上とエンジン低負荷時の燃費の確保を両立することができる。
【0036】
また、エンジンの運転中、常時、負圧を発生する負圧発生部位、例えば上記エアクリーナ(ボックス)に通気路6を接続し、連通路7よりもエアクリーナ(ボックス)側で通気路6を開閉する通気路開閉弁8の弁体11を通気路弁体付勢手段12で常時閉方向に付勢する。これにより、エンジン吸気系の負圧が大きいエンジンの高負荷時に通気路6が開弁され且つエンジン吸気系の負圧が小さくなるエンジンの低負荷時には通気路6が閉弁されるので、個別の駆動源を必要とすることなく、エンジン高負荷時のエンジン出力の向上とエンジン低負荷時の燃費の確保を両立することができる。
【0037】
以上、実施の形態に係るインタークーラー冷却構造について説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記実施の形態では、上記通気路開閉弁8及び連通開口部開閉弁9の双方がエンジンの吸気系で発生する負圧で駆動される構成としたが、それら開閉弁の一方又は双方を、個別の駆動源、例えば電動アクチュエータで駆動される構成とすることも可能である。但し、前述のように、通気路開閉弁8及び連通開口部開閉弁9を共に負圧駆動とすることで、構成の簡素化、軽量化、コストの低廉化といった効果が得られる。
【0038】
また、上記低速領域の走行風を連通路7に導入する導入構造10は、上記逆L字状の弁体部13及び導風部14に限定されるものではない。すなわち、導入構造10は、連通開口部7aを開閉する弁体部13と、その弁体部13に連設されて連通路7内に上記低速領域の走行風を導入する導風部14とを備えていればよい。但し、導風ダクト3内の低速領域の走行風を連通路7内に導入する導風部14は、連通路7よりもインタークーラー2側の部位に存在し且つ導風ダクト3内を流れる走行風と略直交し且つ導風ダクト3の下面側に向けて延伸しているものである必要がある。
【0039】
また、新気の過給機には、上記ターボチャージャの他に、スーパーチャージャもある。本件発明は、過給機としてスーパーチャージャを搭載し、このスーパーチャージャで過給された新気を冷却するインタークーラー2の冷却にも適用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 フード(車体の外部)
2 インタークーラー
3 導風ダクト
4 開口部
5 通気口
6 通気路
7 連通路
7a 連通開口部
8 通気路開閉弁
9 連通開口部開閉弁
10 導入構造
11 弁体
12 通気路弁体付勢手段
13 弁体部
14 導風部
16 空圧シリンダ
17 導入構造付勢手段