(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】多孔性ポリオレフィンフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230704BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20230704BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20230704BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
B32B5/18
H01M50/409
(21)【出願番号】P 2019180076
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2018205023
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金子 慧
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】石原 毅
(72)【発明者】
【氏名】久万 琢也
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/204274(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/024533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/32
B32B 5/18
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポロメータによる平均細孔径が15nmより小さく、シャットダウン温度が140℃以下であり、膜厚20μm相当での透気抵抗度が1000sec/100cm
3以下であり、ポリプロピレン系樹脂を80質量%以上含むA層を少なくとも1層有することを特徴とする多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項2】
ポリエチレンを主成分とする層(B層)をさらに少なくとも各1層以上有する、請求項1に記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項3】
前記A層及び前記B層の厚みが、多孔性ポリオレフィンフィルムの全体の厚みのそれぞれ10%以上である、請求項2に記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項4】
150℃での貯蔵弾性率E’(150)と80℃での貯蔵弾性率E’(80)との比が長手方向、幅方向のそれぞれについて下の式を満たす、請求項1~3のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
1≦E’(80)/ E’(150)≦20
【請求項5】
ポロメータによる最大細孔径が1nm以上30nm以下である請求項1~4のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項6】
落球法によるメルトダウン温度が170℃以上である、請求項1~5のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項7】
TD方向の引張強度が50MPa以上である、請求項1~6のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の多孔性ポリオレフィンフィルムを用いたことを特徴とする電池用セパレータ。
【請求項9】
多孔性ポリオレフィンフィルムの少なくとも一方の表面に、多孔層を積層した請求項8に記載の電池用セパレータ。
【請求項10】
請求項9に記載の電池用セパレータを用いたことを特徴とする2次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用セパレータに適した多孔性ポリオレフィンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のリチウムイオン二次電池の高出力密度化、高容量化に伴い、より安全性に優れたバッテリーセパレータフィルムが要望されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池には内部短絡の防止の点からセパレータが正極と負極の間に構成されており、絶縁性が要求される。さらに有機電解液中でも安定である必要がある。また、電解液の保持、ならびに充放電に際してリチウムイオンが電極間を往来するための通路の確保を目的として、微細孔構造を有していなければならない。これらの要求を満たすため、セパレータとしてはポリオレフィンなどの絶縁性材料を主成分とした多孔性フィルムが使用されている。セパレータの孔構造はリチウムイオン二次電池の出力に大きな影響を与えるため、孔構造を評価するさまざまなパラメータを用いて特性が改良されている。
【0004】
特許文献1には、造核剤、ポリオレフィンに対する良溶媒と造核剤の分散性に優れた溶媒との混合溶媒およびポリオレフィンを溶融混合してなるポリオレフィン溶液を冷却してゲル状組成物を形成し、ゲル状組成物を加熱延伸し、しかる後残存溶媒を除去することにより製造される多孔性ポリオレフィンフィルムが記載されている。しかし、このような多孔性ポリオレフィンフィルムは、高速にて延伸することができず生産性に課題があった。
【0005】
特許文献2には、ポリエチレンとポリプロピレンとを必須成分として含み、表面層におけるポリプロピレンの混合比率を50重量%以上95重量%以下とすることで、平均孔径が0.02μm以上1μm以下であるポリオレフィン多孔質膜が記載されている。しかし実施例に開示があるように平均孔径が0.03μmであり、高容量電池での絶縁破壊電圧、耐デンドライト機能を達成させるのに不十分である。
【0006】
特許文献3には、ポリプロピレン樹脂と可塑剤、造核剤等の添加成分とを混合してシート状に成形した後に、溶剤により当該添加成分を抽出した後に延伸、または延伸した後に溶剤により当該添加成分を抽出することで、孔構造を形成する手法により、ポロメータによる最大細孔径が30nm未満、平均細孔径が20nm未満であるセパレータが示されている。しかし透気抵抗度が著しく高く。シャットダウン温度も高温であるため低シャットダウン温度と高シャットダウン温度を両立する設計には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-222237号公報
【文献】特許4540607号公報
【文献】WO2016/104789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、電池に組み込んだ際に安全性に優れるようなシャットダウン特性とメルトダウン特性を両立し、微小な孔径を維持しつつ高出力を達成することのできる多孔性ポリオレフィンフィルムおよび電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、ポロメータによる平均細孔径が15nmより小さく、シャットダウン温度が140℃以下であり、透気抵抗度が1000sec/100cm3以下であり、ポリプロピレン系樹脂を80質量%以上含む層を有するA層を少なくとも1層有することを特徴とする多孔性ポリオレフィンフィルムである。
【0010】
また本発明は、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを用いたことを特徴とする電池用セパレータである。
【0011】
また本発明は、本発明の電池用セパレータを用いたことを特徴とする2次電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、ポリプロピレンを主成分とする層を有し、微細で均一な多孔質構造を有するので、優れた熱絶縁特性、小孔径を維持しつつ高出力を達成することができる。そのため、リチウムイオン二次電池のような電池に使用した際に、電池の長寿命化、および改善された安全性を付与することが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、ポリプロピレン系樹脂を80質量%以上含む層を少なくとも1層有する。かかる層は微細で均一な多孔質構造を有するので、局部的な目詰まりやデンドライトの成長が抑制され、電池の安全性やサイクル寿命を向上させることができる。A層におけるポリプロピレン系樹脂の含有量としては、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。
【0014】
A層に含まれるポリプロピレン系樹脂としては、その重量平均分子量(Mw)が6×105以上1×108以下であることが好ましく、1×106以上1×108以下であることがさらに好ましい。ポリプロピレンのMwが上記範囲内であると本実施形態のポリオレフィン多層微多孔質膜の強度、透気抵抗度および耐熱特性が良好となる。ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は1.1以上50以下が好ましく、2.0以上20以下がより好ましい。ポリプロピレン樹脂の分子量分布が上記範囲内であると、成膜用溶剤と溶融混練して押出す工程での取り扱い作業性が向上する。なおMw、Mnは、後述するゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
【0015】
ポリプロピレン樹脂は、他のオレフィンとの共重合体であってもよいが、ホモポリマーであることが好ましい。ポリプロピレンと他のオレフィンとの共重合体としては、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、プロピレン-ヘキセン共重合体等を挙げることができる。
【0016】
このポリプロピレン系樹脂に結晶化制御剤を配合してもよい。結晶化制御剤を配合することにより延伸の際の延伸応力が、膜を構成する構造に均一に作用し、多孔性ポリオレフィンフィルムの細孔構造を制御できると考えられる。
【0017】
ここで結晶化制御剤とは、ポリプロピレン樹脂に配合することでポリプロピレン樹脂の結晶化を促進または抑制する添加剤であり、造核剤、透明化剤、結晶化遅延剤等があげられる。中でも造核剤が好ましい。結晶化制御剤の配合により、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの細孔構造が均一に微細になることが期待できる。
【0018】
ポリプロピレン樹脂用造核剤としては、リン酸エステル金属塩系造核剤、ソルビトール系造核剤、カルボン酸金属塩系造核剤およびこれらの混合物などポリオレフィン樹脂用造核剤として一般的に使用されるものが使用できる。リン酸エステル金属塩系造核剤としては、ナトリウムビス(4-tert-ブチルフェニル)ホスフェート、ナトリウム 2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェート等が挙げられる。ソルビトール系造核剤としては、ジベンジリデンソルビトール、ビス(4-メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール等が挙げられる。カルボン酸金属塩系造核剤としては、リチウムベンゾエート、ナトリウムベンゾエート、4-第三ブチル安息香酸アルミニウム塩、アジピン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0019】
ポリオレフィン樹脂の結晶化遅延剤としては、非晶性樹脂、低結晶性ポリオレフィン樹脂などが使用でき、中でも低結晶性ポリプロピレン樹脂などが好適に使用できる。具体的には、非晶性樹脂としては、ポリスチレン、ポリカーボネート等が挙げられ、低結晶性ポリオレフィン樹脂としては、エチレン-プロピレン、エチレン-ブテン等のランダム共重合体、アタクチックポリプロピレン等の低立体規則性ポリオレフィンが挙げられる。
【0020】
結晶化制御剤の配合量は、一般的にポリオレフィン樹脂100質量部に対して0質量%より大きく5質量%以下であり、さらに好ましくは0質量%より大きく3質量%以下であるが、特に限定されない。
【0021】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、ポリプロピレンを主成分とする層(A層)だけを有していてもよいが、ポリエチレンを主成分とする層(B層)をさらに含むことが好ましい。これにより、シャットダウン特性とメルトダウン特性と強度がバランスよく高いレベルで達成することができる。A層が主にメルトダウン特性と膜の微細孔化に寄与し、機能層としての役割を担うことができる。また、B層が主にシャットダウン特性と強度に寄与し、ベース層としての役割を担うことができ、電池用セパレータとして好適に用いることができる。ここで、本発明において「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が80質量%以上であることを意味し、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。
【0022】
B層に含まれるポリエチレン系樹脂としては、Mwが1.0×106未満のポリエチレンまたはMwが1.0×106未満のポリエチレンとMwが1.0×106以上の超高分子量ポリエチレンとからなる組成物であることが好ましい。
【0023】
Mwが1.0×106未満のポリエチレンには高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリチレンを含むことができ、好ましくはMwが5×104以上9.5×105以下である高密度ポリエチレン、より好ましくはMwが1×105以上8×105以下、さらに好ましくはMwが1×105以上7×105以下である高密度ポリエチレンを含む。
【0024】
ポリエチレンの分子量分布(Mw/Mn)は、押出成形性、安定した結晶化制御による物性コントロールの観点から、1.0以上50以下が好ましく、3.0以上20.0以下がより好ましい。
【0025】
高密度ポリエチレンの密度は0.92g/cm3以上0.98g/cm3以下であることが好ましく、より好ましくは0.93g/cm3以上0.97g/cm3以下である。高密度ポリエチレンを上記範囲で含有させることにより、良好な溶融押出特性、均一な延伸加工特性に優れる。
【0026】
超高分子量ポリエチレンはMwが1×106以上であり、好ましくは1×106以上1×107以下、より好ましくは1×106以上5×106以下、さらに好ましくは1.5×106以上3×106以下である。Mwが上記範囲であることにより、成形性が良好となる。
【0027】
超高分子量ポリエチレンは、上記Mwを満たす範囲において、特に限定されず従来公知のものを用いることができ、エチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有するエチレン・α-オレフィン共重合体を用いることができる。
【0028】
エチレン以外のα-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル及びスチレンが好ましい。エチレン以外のα-オレフィンの含有量は、5mol%以下が好ましい。
【0029】
前記ポリエチレン系樹脂中の超高分子量ポリエチレンの樹脂成分の含有量は、前記ポリエチレン系樹脂全体100質量%に対して、好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上70質量%以下であり、さらに好ましくは25質量%以上60質量%以下である。超高分子ポリエチレンの含有量が上記範囲であると、ポリオレフィン多層微多孔質膜を薄膜化した際にも高い機械強度、高い空孔率を得ることができる。
【0030】
また、上記ポリエチレン以外に他のポリオレフィンを含んでもよく、Mwが1×104以上4×106以下のポリブテン-1ポリブテン-1、ポリペンテン-1、ポリヘキセン-1、ポリオクテン-1及びMwが1×103以上1×104以下のポリエチレンワックスからなる群から選ばれた少なくとも一種を用いてもよい。
【0031】
前記A層およびB層に含まれるポリオレフィン樹脂は、必要に応じて、前記ポリプロピレン及びポリエチン以外のその他の樹脂成分を含むことができる。その他の樹脂成分としては、耐熱性樹脂であることが好ましく、耐熱性樹脂としては、例えば、融点が150℃以上の結晶性樹脂(部分的に結晶性である樹脂を含む)、及び/又はガラス点移転(Tg)が150℃以上の非晶性樹脂が挙げられる。ここでTgはJIS K7121に準拠して測定した値である。
【0032】
その他の樹脂成分の具体例としては、ポリエステル、ポリメチルペンテン[PMP又はTPX(トランスパレントポリマーX)、融点:230~245℃]、ポリアミド(PA、融点:215~265℃)、ポリアリレンスルフィド(PAS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ化ビニリデン単独重合体やポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ化オレフィンおよびこれらの共重合体などの含フッ素樹脂;ポリスチレン(PS、融点:230℃)、ポリビニルアルコール(PVA、融点:220~240℃)、ポリイミド(PI、Tg:280℃以上)、ポリアミドイミド(PAI、Tg:280℃)、ポリエーテルサルフォン(PES、Tg:223℃)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、融点:334℃)、ポリカーボネート(PC、融点:220~240℃)、セルロースアセテート(融点:220℃)、セルローストリアセテート(融点:300℃)、ポリスルホン(Tg:190℃)、ポリエーテルイミド(融点:216℃)等が挙げられる。樹脂成分は、単一樹脂成分からなるものに限定されず、複数の樹脂成分からなるものでもよい。その他の樹脂成分の好ましいMwは、樹脂の種類により異なるが、一般的に1×103以上1×106以下であり、より好ましくは1×104以上7×105以下である。また、前記ポリオレフィン樹脂中のその他の樹脂成分の含有量は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜、調節されるが、前記ポリオレフィン樹脂中、20質量%以下の範囲で含有され、好ましくは5質量%以下である。
【0033】
本発明による多孔性ポリオレフィンフィルムは、A層とB層とを含み、2層以上で構成されていることが好ましい。さらに好ましくはA層/B層/A層またはB層/A層/B層の順で積層された構造を有することである。このような多層構造を有することにより、単層のポリオレフィン多孔質膜と比較して、シャットダウン特性とメルトダウン特性と強度がバランスよく高いレベルで達成させることができる。A層が主にメルトダウン特性と膜の微細孔化に寄与し、機能層としての役割を担うことができる。また、B層が主にシャットダウン特性と強度に寄与し、ベース層としての役割を担うことができる。
【0034】
本発明による多孔性ポリオレフィンフィルムは、A層およびB層の厚みが、多孔性ポリオレフィンフィルムの全体厚みのそれぞれ10%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上、さらに好ましくは20%以上、さらに好ましくは25%以上である。A層の厚みが上記範囲である場合、細孔径が小孔径化することや、良好なメルトダウン特性を有することから、電池の安全性が向上する。B層の厚みが上記範囲である場合、透気抵抗度が低くなり電池の出力特性が向上することや、良好なシャットダウン特性を有することで電池の安全性が向上する。
【0035】
本発明による多孔性ポリオレフィンフィルムは、フィルム全体に含まれるポリプロピレン樹脂の割合が14質量%以上100質量%より少ないことが好ましく、より好ましくは18質量%以上95質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上90質量%以下である。
【0036】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、ポロメータによる平均細孔径が15nm以下であるものである。さらに、1nm以上15nm以下のものが好ましく、1nm以上14.8nm以下のものがより好ましく、1nm以上14.5nm以下のものが更に好ましく、1nm以上14.2nm以下のものがさらに好ましい。平均細孔径が上記範囲であると、緻密で貫通孔径の均一性が高い細孔構造となる。このような細孔構造を有する電池用セパレータは、イオンの通過経路をセパレータ面内方向で均一に分散させることができることから、局部的な目詰まりやデンドライトの成長が抑制され、電池の安全性やサイクル寿命を向上させることができる。平均細孔径を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を前述する範囲とし、また、延伸条件を後述する範囲とすることが好ましい。
【0037】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、シャットダウン温度が110℃以上140℃以下であることが好ましい。より好ましくは110℃以上138℃以下、さらに好ましくは110℃以上136℃以下である。シャットダウン温度を上記範囲とすることで電池の異常時に発熱により速やかに細孔が閉塞して電池反応を停止できるために、電池の安全性を高めることができる。シャットダウン温度が110℃より低いと、一般的な延伸温度域と重なり、製造時の延伸中に孔が塞がってしまい、微多孔膜として不均一な構造になりやすい。シャットダウン温度を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を前述する範囲とすることが好ましい。
【0038】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、膜厚20μm相当での透気抵抗度が1000sec/100cm3以下であることが好ましく、より好ましくは850sec/100cm3以下、さらに好ましくは650sec/100cm3以下、さらに好ましくは450sec/100cm3以下である。その下限は30sec/100cm3が好ましい。透気抵抗度が上記範囲であることにより、電池セパレータとして用いた場合、イオン透過性に優れ、電池容量が大きく、電池のサイクル特性も良好である。透気抵抗度を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を前述する範囲とし、また、フィルム積層条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
【0039】
本発明の多孔性ポリオレフィンフルムは、最大細孔径が1nm以上30nm以下のものが好ましい。より好ましくは1nm以上26nm以下、更に好ましくは1nm以上24nm以下、さらに好ましくは以上22nm以下である。最大細孔径が上記範囲であると、緻密で貫通孔径の均一性が高い細孔構造となる。このような細孔構造を有する電池用セパレータは、イオンの通過経路をセパレータ面内方向で均一に分散させることができることから、局部的な目詰まりやデンドライトの成長が抑制され、電池の安全性やサイクル寿命を向上させることができる。最大細孔径を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を前述する範囲とすることが好ましい。
【0040】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、メルトダウン温度が170℃以上であることが好ましい。より好ましくは180℃以上、さらに好ましくは185℃以上、さらに好ましくは188℃以上である。メルトダウン温度が上記範囲にあることにより、耐熱性に優れ、電池の安全性を高めることができる。メルトダウン温度を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を前述する範囲とすることが好ましい。その上限は250℃が好ましい。
【0041】
なお、本発明においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向あるいは長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD方向と称する。
【0042】
また本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、150℃での貯蔵弾性率E’(150)と80℃での貯蔵弾性率E’(80)との比E'(80)/E'(150)がMD、TD方向のそれぞれについて1以上20以下であることが好ましく、より好ましくは1以上15以下である。E’ (80)/ E’(150)の値が上記範囲にあることにより、シャットダウン温度以上の温度での形状維持特性に優れ、電池の安全性を高めることができる。E’(80)/ E’(150)の値を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を前述する範囲とし、さらにフィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
【0043】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムのTD方向の引張強度は50MPa以上であることが好ましく、より好ましくは80MPa以上、さらに好ましくは100MPa以上である。TD方向の引張強度が上記範囲であることにより、薄膜化した場合においても機械的強度に優れ、電池用セパレータとして用いた場合、衝撃による破膜、短絡が防止され安全性に優れる。TD方向の引張強度を上記範囲とするには、フィルムの原料組成を前述する範囲とし、また、フィルム製膜時の延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。その上限は300MPaが好ましい。
【0044】
以下、本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムを製造する方法について、説明する。
【0045】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、上述した原料を用い、二軸延伸されることによって得られる。二軸延伸の方法としては、インフレーション法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性、フィルムの高剛性と寸法安定性を制御する点において同時二軸延伸法または逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
【0046】
(第1の製造方法)
本実施形態による多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法は、ポリプロピレンを含む第1の樹脂材料並びに溶剤を含む第1のポリオレフィン溶液と、ポリエチレンを含む第2の樹脂材料および溶剤を含む第2のポリオレフィン溶液とを溶融状態で積層する工程と、得られた積層体を延伸して延伸成形物を形成する工程を有する。ここで第1の樹脂材料および第2の樹脂材料はそれぞれ、前述のA層およびB層を形成するための樹脂材料である。第1の樹脂材料および第2の樹脂材料の組成はそれぞれ、形成しようとするA層およびB層の組成に応じて適宜変更することができる。
【0047】
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムの製造方法としては、上述した特性を有する多孔性ポリオレフィンフィルムが製造できれば、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、日本国特許第2132327号および日本国特許第3347835号の明細書、国際公開2006/137540号等に記載された方法を用いることができる。
【0048】
具体的な製造方法として、下記の工程(1)~(7)を含むことが好ましく、さらに下記の工程(8)を含むこともできる。
(1)第1の樹脂材料と成膜用溶剤とを溶融混練し、第1のポリオレフィン溶液を調製する工程
(2)第2の樹脂材料と成膜用溶剤とを溶融混練し、第2のポリオレフィン溶液を調製する工程
(3)第1および第2のポリオレフィン溶液を共押出し、多層シートを形成した後、冷却し、ゲル状多層シートを形成する工程
(4)前記ゲル状多層シートを延伸して多孔質シートとする第1の延伸工程
(5)前記多孔質シート(延伸成形物)から成膜用溶剤を除去する工程
(6)成膜用溶剤除去後の多孔質シートを乾燥する工程
(7)乾燥後の多孔質シートを延伸する第2の延伸工程
(8)前記多孔質シートを熱処理する工程。
【0049】
工程(3)においては、特定の条件下、第1および第2のポリオレフィン溶液を、多層ダイにより同時に押出し、多層シートを形成することが好ましい。これにより、各層間の密着性に優れ、かつ、電池用セパレータとして用いた場合、単層では達成し得ないシャットダウン特性、メルトダウン特性および機械的強度を備えたポリオレフィン複合多孔質膜を製造することができる。
【0050】
以下、各工程について説明する。
【0051】
工程(1)および(2)第1および第2のポリオレフィン溶液の調製
前記第1の樹脂材料及び前記第2の樹脂材料に、それぞれ適当な成膜用溶剤を添加した後、溶融混練し、第1及び第2のポリオレフィン溶液をそれぞれ調製する。溶融混練方法としては、例えば日本国特許第2132327号および日本国特許第3347835号の明細書に記載の二軸押出機を用いる方法を利用できる。二軸押出機を用いた溶融混練方法は、通常の方法を適用できる。
【0052】
第1のポリオレフィン溶液中の第1の樹脂材料と成膜用溶剤との割合、第2のポリオレフィン溶液中の第2の樹脂材料と成膜用溶剤との配合割合は、特に限定されないが、第1又は第2の樹脂材料20~50質量部に対して、成膜溶剤50~80質量部であることが好ましい。第1又は第2の樹脂材料の割合が上記範囲内であると、第1及び第2のポリオレフィン溶液を押し出す際にダイ出口でスウェルやネックインが防止でき、押出し成形体(ゲル状成形体)の成形性及び自己支持性を良好にできる。
【0053】
工程(3)ゲル状多層シートの形成工程
第1及び第2のポリオレフィン溶液をそれぞれ押出機から1つのダイに送給し、そこで両溶液を層状に組合せ、シート状に押し出す。
【0054】
押出方法はフラットダイ法およびインフレーション法のいずれでもよい。押出し温度は140~250℃好ましく、押出速度は0.2~25m/分が好ましい。ポリオレフィン溶液の各押出量を調節することにより、膜厚を調節することができる。
【0055】
押出方法としては、例えば日本国特許第2132327号公報および日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。
【0056】
得られた押出し成形体を冷却することによりゲル状多層シートを形成する。ゲル状多層シートの形成方法として、例えば日本国特許第2132327号公報および日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。冷却は少なくともゲル化温度までは50℃/分以上の速度で行うのが好ましい。冷却は25℃以下まで行うのが好ましい。
【0057】
工程(4)第1の延伸工程
次に、得られたゲル状多層シートを少なくとも一軸方向に延伸する。ゲル状多層シートは、結晶化制御剤および成膜用溶剤を含むので、均一に延伸できる。ゲル状多層シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、又はこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸および多段延伸(例えば同時二軸延伸および逐次延伸の組合せ)のいずれでもよい。
【0058】
本工程における延伸倍率(面積延伸倍率)は、一軸延伸の場合、2倍以上が好ましく、3~30倍がより好ましい。二軸延伸の場合、9倍以上が好ましく、16倍以上がより好ましく、25倍以上が特に好ましい。また、長手および横手方向(MDおよびTD方向)のいずれでも3倍以上が好ましく、MD方向とTD方向での延伸倍率は、互いに同じでも異なってもよい。延伸倍率を9倍以上とすると、突刺強度の向上が期待できる。なお、本工程における延伸倍率とは、本工程直前のゲル状多層シートを基準として、次工程に供される直前のゲル状多層シートの面積延伸倍率のことをいう。
【0059】
本工程の延伸温度は、第2の樹脂材料の結晶分散温度(Tcd)~Tcd+30℃の範囲内にするのが好ましく、結晶分散温度(Tcd)+5℃~結晶分散温度(Tcd)+28℃の範囲内にするのがより好ましく、Tcd+10℃~Tcd+26℃の範囲内にするのが特に好ましい。延伸温度が上記範囲内であると第2の樹脂材料の延伸による破膜が抑制され、高倍率の延伸ができ、得られる多孔性ポリオレフィンフィルムの細孔構造が微細化、均一化される。
【0060】
結晶分散温度(Tcd)は、ASTM D4065による動的粘弾性の温度特性測定により求められる。第2の樹脂材料を構成する超高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレン及びポリエチレン組成物は約90~100℃の結晶分散温度を有するので、延伸温度の下限は、100℃以上であり、好ましくは110℃以上であり、より好ましくは115℃以上である。また、この延伸温度の上限は、130℃以下であり、好ましくは125℃以下であり、より好ましくは120℃以下である。
【0061】
以上のような延伸により樹脂のラメラ間に開裂が起こり、微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した極めて微細な網目構造を形成する。
【0062】
所望の物性に応じて、膜厚方向に温度分布を設けて延伸してもよく、これにより一層機械的強度に優れた多孔性フィルムが得られる。その方法の詳細は日本国特許第3347854号に記載されている。
【0063】
工程(5)成膜用溶剤の除去
洗浄溶媒を用いて、成膜用溶剤の除去(洗浄)を行う。ポリオレフィン相は成膜用溶剤相と相分離しているので、成膜用溶剤を除去すると、微細な三次元網目構造を形成するフィブリルからなり、三次元的に不規則に連通する孔(空隙)を有する多孔性フィルムが得られる。洗浄溶媒およびこれを用いた成膜用溶剤の除去方法は公知であるので説明を省略する。例えば日本国特許第2132327号明細書や特開2002-256099号公報に開示の方法を利用することができる。
【0064】
工程(6)乾燥
成膜用溶剤を除去した多孔性フィルムを、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。乾燥温度は第2のポリオレフィン樹脂の結晶分散温度(Tcd)以下であるのが好ましく、特にTcdより5℃以上低いことが好ましい。乾燥は、多孔質膜を100質量%(乾燥重量)として、残存洗浄溶媒が5質量%以下になるまで行うのが好ましく、3質量%以下になるまで行うのがより好ましい
工程(7)第2の延伸工程
必要に応じて、乾燥後の多孔性フィルムを、少なくとも一軸方向に延伸してもよい。多孔性フィルムの延伸は、加熱しながら上記と同様にテンター法等により行うことができる。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸および逐次延伸のいずれでもよい。
【0065】
本工程における延伸温度は、特に限定されないが、通常90~150℃であり、より好ましくは95~145℃である。
【0066】
本工程における多孔性フィルムの延伸の一軸方向への延伸倍率(面積延伸倍率)は、下限が1.0倍以上であるのが好ましく、より好ましくは1.1倍以上、さらに好ましくは1.2倍以上である。また、上限が5.0倍以下とするのが好ましい。一軸延伸の場合、MD方向又はTD方向に1.0~5.0倍とする。二軸延伸の場合、面積延伸倍率は、下限が1.0倍以上であるのが好ましく、より好ましくは1.1倍以上、さらに好ましくは1.2倍以上である。上限は、16.0倍以下が好適であり、MD方向およびTD方向に各々1.0~2.0倍とし、MD方向とTD方向での延伸倍率が互いに同じでも異なってもよい。なお、本工程における延伸倍率とは、本工程直前の多孔性フィルムを基準として、次工程に供される直前の多孔性フィルムの延伸倍率のことをいう。
【0067】
工程(8)熱処理
また、乾燥後の多孔性フィルムは、熱処理を行うことができる。熱処理によって結晶が安定化し、ラメラが均一化される。熱処理方法としては、熱固定処理および/又は熱緩和処理を用いることができる。熱固定処理とは、膜の寸法が変わらないように保持しながら加熱する熱処理である。熱緩和処理とは、膜を加熱中にMD方向やTD方向に熱収縮させる熱処理である。熱固定処理は、テンター方式又はロール方式により行うのが好ましい。例えば、熱緩和処理方法としては特開2002-256099号公報に開示の方法があげられる。熱処理温度はポリオレフィン樹脂のTcd~Tmの範囲内が好ましく、多孔性フィルムの延伸温度±5℃の範囲内がより好ましく、多孔性フィルムの第2の延伸温度±3℃の範囲内が特に好ましい。
【0068】
(第2の製造方法)
また、第2の製造方法として、下記の工程(1)~(8)を含む。
(1)第1の樹脂材料と成膜用溶剤とを溶融混練し、第1のポリオレフィン溶液を調製する工程
(2)第2の樹脂材料と成膜用溶剤とを溶融混練し、第2のポリオレフィン溶液を調製する工程
(3)第1及び第2のポリオレフィン溶液を、別々に押出機を介して別個のダイより押出した直後に積層し、冷却してゲル状多層シートを形成する工程、
(4)前記ゲル状多層シートを延伸して多孔質シートとする第1の延伸工程、
(5)前記多孔質シートから成膜用溶剤を除去して多孔質シートとする工程、
(6)成膜用溶剤除去後の多孔質シートを乾燥する工程及び
(7)乾燥後の多孔質シートを延伸する第2の延伸工程。
【0069】
第2の製造方法における、工程(1)~(2)、(4)~(7)は、前記第1の方法における、各工程と同様の条件で行なうことができる。工程(3)については、複数の押出機の各々に接続した近接するダイから第1および第2のポリオレフィン溶液をそれぞれシート状に押出し、各溶液の温度が高い(例えば100℃以上)うちに直ちに積層し、積層された押出成形体とする。
【0070】
(第3の製造方法)
第3の製造方法として、下記の工程(1)~(9)を含む。
(1)第1の樹脂材料と成膜用溶剤とを溶融混練し、第1のポリオレフィン溶液を調製する工程
(2)第2の樹脂材料と成膜用溶剤とを溶融混練し、第2のポリオレフィン溶液を調製する工程
(3)第1のポリオレフィン溶液を一つのダイより押し出し、冷却して第1のゲル状シートを形成する工程
(4)第2のポリオレフィン溶液を別のダイより押し出し、冷却して第2のゲル状シートを形成する工程
(5)第1および第2のゲル状シートをそれぞれ延伸して第1および第2の多孔質シートとする工程
(6)前記第1および第2の多孔質シートを積層する工程
(7)前記積層した多孔質シートから成膜用溶剤を除去する工程
(8)成膜用溶剤除去後の積層した多孔質シートを乾燥する工程
(9)乾燥後の積層した多孔質シートを延伸する第2の延伸工程。
【0071】
第3の製造方法における、工程(1)~(2)、(5)、(7)~(9)は、前記第1の方法における、各工程と同様の条件で行なうことができる。
【0072】
工程(3)及び(4)は、第1及び第2のポリオレフィン溶液を層状に組合せない点、第1および第2の押出成形体をそれぞれ別々に冷却する点で第1の製造方法における工程(3)と異なる。使用するダイは第2の製造方法における工程(3)で使用するダイと同じである。工程(5)は、第1および第2のゲル状シートをそれぞれ延伸する点でのみ第1の製造方法における工程(4)と異なる。一方、工程(6)は、第1および第2の延伸物を積層するという第1及び第2の製造方法にはない工程であるが、延伸物の積層は公知の方法を用いることができる。
【0073】
(第4の製造方法)
第4の製造方法として、下記の工程(1)~(9)を含む。
(1)第1の樹脂材料と成膜用溶剤とを溶融混練し、第1のポリオレフィン溶液を調製する工程
(2)第2の樹脂材料と成膜用溶剤とを溶融混練し、第2のポリオレフィン溶液を調製する工程
(3)第1のポリオレフィン溶液を一つのダイより押し出し、冷却して第1のゲル状シートを形成する工程
(4)第2のポリオレフィン溶液を別のダイより押し出し、冷却して第2のゲル状シートを形成する工程
(5)第1および第2のゲル状シートをそれぞれ延伸して第1および第2の多孔質シートとする工程
(6)前記第1および第2の多孔質シートから成膜用溶剤をそれぞれ除去する工程
(7)前記第1および第2の多孔質シートをそれぞれ乾燥する工程
(8)乾燥後の第1および第2の多孔質シートをそれぞれ延伸する第2の延伸工程
(9)前記第2の延伸工程後の、第1および第2の多孔質シートを積層する工程。
【0074】
第4の製造方法における、工程(1)~(5)は、前記第3の方法における、各工程と同様の条件で行なうことができる。
【0075】
工程(6)は、第1および第2の延伸物からそれぞれ成膜用溶剤を除去する点で第1製造方法における工程(5)、第2製造方法における工程(6)及び第3の製造方法における工程(7)と異なる。工程(7)は、第1および第2の膜をそれぞれ乾燥する点で第1製造方法における工程(6)、第2製造方法における工程(7)及び第3の製造方法における工程(8)と異なる。工程(8)は、第1および第2の膜をそれぞれ延伸する点で第1製造方法における工程(7)、第2製造方法における工程(8)及び第3の製造方法における工程(9)と異なる。
【0076】
また、工程(9)は、第1および第2の膜を積層するという第1~3の製造方法にはない工程であるが、膜の積層は延伸物の積層と同様に公知の方法を用いることができる。
【0077】
その他の多孔層の積層
前記多孔性ポリオレフィンフィルムの少なくとも一方の表面に、多孔層を積層してもよい。多孔層としては、例えば、フィラーと樹脂バインダとを含むフィラー含有樹脂溶液や耐熱性樹脂溶液を用いて形成される多孔層を挙げることができる。
【0078】
前記フィラーとしては、無機フィラーや架橋高分子フィラーなどの有機フィラーが挙げられ、200℃以上の融点をもち、電気絶縁性が高く、かつリチウムイオン二次電池の使用範囲で電気化学的に安定であるものが好ましい。このような無機フィラーとしては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄などの酸化物系セラミックス、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックス、ガラス繊維およびこれらのフッ化物が挙げられる。このような有機フィラーとしては、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子、PTFEなどのフッ素樹脂粒子が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0079】
前記フィラーの平均粒径は特に限定されないが、例えば、好ましくは0.1μm以上3.0μm以下である。フィラーの平均粒径はレーザー回折方式や動的光散乱方式の測定装置を使用して測定できる。
【0080】
前記フィラーが、前記多孔層中に占める割合(質量分率)としては、耐熱性の点から、好ましくは50%以上99.99%以下である。
【0081】
前記樹脂バインダとしては、前述のポリオレフィン樹脂に含まれるその他の樹脂成分の項で記載したポリオレフィンや耐熱性樹脂が好適に使用できる。
【0082】
前記樹脂バインダが、前記フィラーと前記樹脂バインダとの総量に占める割合としては、両者の結着性の点から、体積分率で0.5%以上8%以下であることが好ましい。
【0083】
前記耐熱性樹脂としては、前述のポリオレフィン樹脂に含まれるその他の樹脂成分の項で記載した耐熱性樹脂と同様のものが好適に使用できる。
【0084】
前記フィラー含有樹脂溶液や耐熱性樹脂溶液を多孔性ポリオレフィンフィルムの表面に塗布する方法としては、必要とする層厚や塗布面積を実現できる方法であれば特に限定されない。具体的には、例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクタコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗布法が挙げられる。
【0085】
前記フィラー含有溶液や耐熱性樹脂溶液の溶媒としては、多孔性ポリオレフィンフィルムに塗布した溶液から除去され得る溶媒であることが好ましく、特に限定されない。具体的には、例えば、アセトン、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、水、エタノール、トルエン、熱キシレン、塩化メチレン、ヘキサン又はこれらの混合物が挙げられる。
【0086】
溶媒を除去する方法としては、多孔性ポリオレフィンフィルムに悪影響を及ぼさない方法であれば特に限定することない。具体的には、例えば、多孔性ポリオレフィンフィルムを固定しながらその融点以下の温度で乾燥する方法、貧溶媒を含む気体を吹き付ける方法、減圧乾燥する方法、樹脂バインダや耐熱性樹脂の貧溶媒に浸漬して樹脂を凝固させると同時に溶媒を抽出する方法が挙げられる。
【0087】
前記多孔層の厚さとしては、耐熱性向上の観点から、好ましくは0.5μm以上100μm以下である。
【0088】
本発明の積層多孔性フィルムにおいて、前記多孔層の厚さが、積層多孔性フィルムの厚さに占める割合は、目的に応じて適宜調整して使用できる。具体的には、例えば15%以上80%以下であることが好ましく、20%以上75%以下がより好ましい。
【0089】
また、前記多孔層は、積層多孔性フィルムの一方の表面に形成されてもよく、両面に形成されてもよい。
【0090】
電池用セパレータ
本発明の多孔性ポリオレフィンフィルムは、水系電解液を使用する電池、非水系電解質を使用する電池のいずれにも好適に使用できる。具体的には、ニッケル-水素電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-亜鉛電池、銀-亜鉛電池、リチウム二次電池、リチウムポリマー二次電池等の二次電池のセパレータとして好ましく用いることができる。中でも、非水系電解質を使用するリチウムイオン二次電池のセパレータとして用いることが好ましい。
【0091】
リチウムイオン二次電池は、正極と負極がセパレータを介して積層されており、セパレータが電解液(電解質)を含有している。電極の構造は特に限定されず、従来公知の構造を用いることができ、例えば、円盤状の正極および負極が対向するように配設された電極構造(コイン型)、平板状の正極および負極が交互に積層された電極構造(積層型)、積層された帯状の正極および負極が巻回された電極構造(捲回型)等にすることができる。
【0092】
リチウムイオン二次電池に使用される、集電体、正極、正極活物質、負極、負極活物質および電解液は、特に限定されず、従来公知の材料を適宜組み合わせて用いることができる。
【0093】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【実施例】
【0094】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明の実施態様は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた評価法、分析の各法および材料は、以下の通りである。
【0095】
評価方法、分析方法
(1)膜厚(μm)
多孔質膜の50mm×50mmの範囲内における無作為に抽出した5点の膜厚を接触厚み計(株式会社ミツトヨ製ライトマチック)により測定し、膜厚の平均値を求めた。
【0096】
(2)空孔率(%)
多孔性フィルムの重量w1とそれと等価な空孔のないポリマーの重量w2(幅、長さ、組成の同じポリマー)とを比較した、以下の式によって、空孔率を測定した。
空孔率(%)=(w2-w1)/w2×100
(3)透気抵抗度(sec/100cm3)
膜厚T1の多孔質膜に対して透気度計(旭精工株式会社製、EGO-1T)で透気抵抗度P1を測定した。また、式:P2=(P1×20)/T1により、膜厚20μm相当での透気抵抗度P2を算出した。
【0097】
(4)最大細孔径および平均細孔径(nm)
パームポロメーター(PMI社製、CFP-1500A)を用いて、Dry-up、Wet-upの順で測定した。Wet-upには表面張力が既知のPMI社製Galwick(商品名)(表面張力:15.9dynes/cm)で十分に浸した微多孔質膜に圧力をかけ、空気が貫通し始める圧力から換算される孔径を最大細孔径とした。平均細孔径については、Dry-up測定で圧力、流量曲線の1/2の傾きを示す曲線と、Wet-up測定の曲線が交わる点の圧力から孔径を換算した。圧力と孔径の換算は下記の数式を用いた。
d=C・γ/P
上記式中、「d(μm)」は微多孔質膜の孔径、「γ(mN/m)」は液体の表面張力、「P(Pa)」は圧力、「C」は定数とした。
【0098】
(5)動的粘弾性測定
動的粘弾性測定機(TAインスツルメントRSA-G2)を用いて、貯蔵弾性率を測定した。測定条件は、サンプル形状;幅10mm×長さ50mm、初期チャック間距離;20mm、初期ひずみ;0.1%、周波数;1Hz、温度走査範囲30~180℃、昇温速度;5℃/min、初期張力50gf、ひずみ自動調整プログラムとして最小ひずみ0.1%、最大ひずみ1.5%、最小張力1.0g、最大張力300.0gとする。MDとTDについて同じフィルム中の異なる箇所で、各3点ずつ試料を採取し、各試料の貯蔵弾性率E’の温度依存性を測定した。得られたE’の曲線からMD、TDそれぞれについて、80℃での貯蔵弾性率の平均値を求めE’(80)とし、150℃での貯蔵弾性率の平均値を求めE’(150)とした。
【0099】
(6)突刺強度(gf)
先端に球面(曲率半径R:0.5mm)を有する直径1mmの針を、平均膜厚T1(um)の多孔性フィルムに2mm/秒の速度で突刺して最大荷重L1(貫通する直前の荷重、単位:gf)を測定し、L2=(L1×20)/T1の式により、膜厚を20μmとしたときの突刺強度L2(gf/20um)を算出した。
【0100】
(7)熱収縮率
50mm角のポリオレフィン多孔質膜を105℃にて8時間保持したときのMD方向における収縮率を3回測定し、それらの平均値をMD方向の熱収縮率とした。また、TD方向についても同様の測定を行い、TD方向の熱収縮率を求めた。
【0101】
(8)引張強度
MD引張強度およびTD引張強度については、幅10mmの短冊状試験片を用いて、ASTM D882に準拠した方法により測定した。
【0102】
(9)シャットダウン温度
上述した透気抵抗度を室温から5℃/分で昇温しながら測定し、透気抵抗度が10万秒に達した時の温度をシャットダウン温度とした。
【0103】
(10)メルトダウン温度
50mm角のポリオレフィン多孔質膜を直径12mmの穴を有する金属製のブロック枠を用いて挟み、タングステンカーバイド製の直径10mmの球を前記多孔質膜上(ブロック枠における前記穴に重なる位置)に設置する。前記多孔質膜は水平方向に平面を有するように設置される。30℃からスタートし、5℃/分で昇温する。前記多孔質膜がボールによって破膜されたときの温度を3回測定し、平均温度をメルトダウン温度とした。
【0104】
(11)数平均分子量(Mn)重量平均分子量(Mw)
ポリプロピレン、超高分子量ポリエチレンおよび高密度ポリエチレンのMnおよびMwは以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた。
・測定装置:Waters Corporation製GPC-150C
・カラム:昭和電工株式会社製Shodex UT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):o-ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0 ml/分
・試料濃度:0.1 wt%(溶解条件:135℃/1h)
・インジェクション量:500μl
・検出器:Waters Corporation製ディファレンシャルリフラクトメーター(RI検出器)
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作成した。
【0105】
(12)絶縁破壊電圧(耐電圧性能)
一辺150mmの正方形のアルミニウム板上に、直径60mmの円状に切り出した膜厚T1の多孔性フィルムを置き、その上に真鍮製の直径50mm、高さ30mm、重さ500gの円柱電極を置いて、菊水電子工業製TOS5051A耐絶縁破壊特性試験器を接続した。0.2kV/秒の昇圧速度で電圧を加え、絶縁破壊したときの電圧値を絶縁破壊電圧とした。絶縁破壊電圧の測定はそれぞれ15回行い、最大値、平均値および最小値を得た。
【0106】
[実施例1]
(1)第1のポリオレフィン溶液の調製
Mwが2.0×106のポリプロピレン(PP:融点162℃)100質量%からなる第1のポリオレフィン樹脂100質量部に、造核剤NA―11(ADEKA) 0.2質量部、酸化防止剤テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、混合物を調製した。
【0107】
得られた混合物25質量部を、二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン[35cst(40℃)]75質量部を供給し、210℃及び250rpmの条件で溶融混練して、第1のポリオレフィン溶液を調製した。
【0108】
(2)第2のポリオレフィン溶液の調製
Mwが2.0×106の超高分子量ポリエチレン(UHMwPE)30質量%及びMwが5.6×105の高密度ポリチレン(密度0.955g/cm3)70質量%からなる第2のポリオレフィン樹脂100質量部に、酸化防止剤テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部を配合し、混合物を調製した。
【0109】
得られた混合物30質量部を、上記と同タイプの別の二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン[35cSt(40℃)]70質量部を供給し、上記と同条件で溶融混練して、第2のポリオレフィン溶液を調製した。
【0110】
(3)押出
第1及び第2のポリオレフィン溶液を、各二軸押出機から三層用Tダイに供給し、第1のポリオレフィン溶液/第2のポリオレフィン溶液/第1のポリオレフィン溶液の層厚比が1/10/1となるように押し出した。押出し成形体を、30℃に温調した冷却ロールで引き取り速度2m/minで、引き取りながら冷却し、ゲル状三層シートを形成した。
【0111】
(4)第1の延伸、成膜溶剤の除去、乾燥
ゲル状三層シートを、テンター延伸機により120℃でMD方向及びTD方向ともに5倍に同時二軸延伸(第1の延伸)した。延伸後のゲル状三層シートを20cm×20cmのアルミニウム枠板に固定し、25℃に温調した塩化メチレン浴中に浸漬し、100rpmで3分間揺動しながら流動パラフィンを除去し、室温で風乾した。
【0112】
(5)第2の延伸、熱固定
得られた多孔性ポリオレフィンフィルムを第2の延伸は実施せず、125℃×10分で熱固定処理を行った。
得られた多孔性ポリオレフィンフィルムを構成する各成分の配合割合、製造条件、評価結果等を表1に記載した。
【0113】
[実施例2~11]
実施例2~10では、表1に記載した条件以外は実施例1と同様にして、多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。
得られた多孔性ポリオレフィンフィルムを構成する各成分の配合割合、製造条件、評価結果等を表1に記載した。
【0114】
【0115】
[比較例1~7]
比較例1、2では、第1のポリオレフィン溶液をMwが2.0×106のポリプロピレンとMwが5.6×105の高密度ポリチレンを表2に記載した割合とし、作製条件を表2に記載した条件以外は実施例1と同様の作製法で多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。
【0116】
比較例3は、第2のポリオレフィン溶液の作製にMwが5.0×105のポリプロピレンを用い、作製条件を表2に記載した条件以外は実施例1と同様にして、多孔性ポリオレフィンフィルムを作製した。
【0117】
比較例4は、表2に記載した条件および第A層を形成しなかった以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン単層多孔質膜を作製した。
比較例5、6は、表2に記載した条件および第B層を形成しなかった以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン単層多孔質膜を作製した。
得られた多孔性ポリオレフィンフィルムおよび単層多孔質膜を構成する各成分の配合割合、製造条件、評価結果等を表2に記載した。
【0118】
比較例1、2、5はポリプロピレン含有層を含むことで良好なシャットダウン温度とメルトダウン温度を有するが、A層を代替するA’層のポリプロピレンの割合が80質量%未満であった結果、平均細孔径、最大細孔径共に良好な細孔径を得ることができなかった。
比較例4は高融点の原料であるポリプロピレンを用いていないことから、良好なシャットダウン温度と機械物性が得られたが、良好なメルトダウン温度と平均細孔径が得られなかった。
【0119】
比較例6は高融点の原料であるポリプロピレンのみを用いていることから、良好なメルトダウン温度と平均細孔径が得られたが、良好なシャットダウン温度と透気抵抗度が得られなかった。
【0120】
比較例7はポリプロピレン含有層を含むことで良好なシャットダウン温度とメルトダウン温度を有するが、A層を代替するA’層のポリプロピレンの割合が80質量%未満であった結果、良好な透気抵抗度が得られなかった。
【0121】