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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】車両用電源装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/633 20140101AFI20230704BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20230704BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20230704BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20230704BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20230704BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20230704BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20230704BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20230704BHJP
   H01M 10/6568 20140101ALI20230704BHJP
   H01M 50/20 20210101ALI20230704BHJP
   H01M 50/30 20210101ALI20230704BHJP
【FI】
H01M10/633
B60K1/04 Z
B60K11/04 Z
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/647
H01M10/651
H01M10/6556
H01M10/6568
H01M50/20
H01M50/30
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019047382
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020149900
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】岡住 綾馬
(72)【発明者】
【氏名】中川 功
(72)【発明者】
【氏名】板井 啓祐
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-197078(JP,A)
【文献】特開2015-111581(JP,A)
【文献】特開2014-175156(JP,A)
【文献】特開2011-222419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/633
H01M 10/613
H01M 10/625
H01M 10/6568
H01M 10/6556
H01M 10/651
H01M 50/20
H01M 10/647
H01M 50/30
B60K 11/04
B60K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリセルから成り、安全弁を有するバッテリと、
前記バッテリセルから発生する熱を吸熱するバッテリ冷却部と、
前記バッテリ冷却部を流通する冷却流体が循環する流体回路と、
前記バッテリセルから発生するガスを前記流体回路に導入するガス導入機構と、
前記冷却流体の流れを制御する演算制御部と、を具備し、
前記ガス導入機構は、前記バッテリ冷却部に設けられ、且つ、前記バッテリセルの前記安全弁に接近する位置に配設され、
前記ガス導入機構と前記安全弁とは、同じ密閉空間に配設されることを特徴とする車両用電源装置。
【請求項2】
前記演算制御部は、前記流体回路の上流側と下流側との温度差が閾値以上の場合に、前記流体回路の冷却能力を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の車両用電源装置。
【請求項3】
前記演算制御部は、前記流体回路の特定箇所における前記冷却流体の温度が閾値以上の場合に、前記流体回路の冷却能力を大きくすることを特徴とする請求項1に記載の車両用電源装置。
【請求項4】
前記演算制御部は、前記流体回路に於ける前記冷却流体の流速を大きくすることで、前記冷却能力を大きくすることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用電源装置。
【請求項5】
前記演算制御部は、前記流体回路に於いて流体冷却器が前記冷却流体を更に低温に冷却することで、前記冷却能力を大きくすることを特徴とする請求項2から請求項4の何れかに記載の車両用電源装置。
【請求項6】
前記演算制御部は、前記流体回路の上流側と下流側との温度差が閾値以下の場合に、前記流体回路における前記冷却流体の冷却を終了することを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の車両用電源装置。
【請求項7】
前記演算制御部は、前記流体回路の特定箇所における前記冷却流体の温度が閾値以下の場合に、前記流体回路における前記冷却流体の冷却を終了することを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の車両用電源装置。
【請求項8】
前記演算制御部は、前記バッテリセルへの前記冷却流体の供給量を制御することを特徴とすることを特徴とする請求項2から請求項7の何れかに記載の車両用電源装置。
【請求項9】
前記安全弁は、前記バッテリセルと前記バッテリ冷却部との間に形成された収納領域に配置され、
前記安全弁の近傍に充填剤が配置され、
前記バッテリセルが発煙した際に、前記充填剤が前記収納領域に充填されることを特徴とする請求項1から請求項8の何れかに記載の車両用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電源装置に関し、特に、バッテリセルからの発煙が生じた際にガスを安全且つ効果的に排出処理することができる車両用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の車両として、ハイブリッド自動車や電気自動車が登場してきており、これらの車両には大型の充電式バッテリが搭載されている。車両に搭載される充電式バッテリは、例えば略板状に形成されたバッセリセルと呼称する単体のリチウムイオンバッテリを複数個組み合わせた組電池から構成される。
【0003】
リチウムイオンバッテリ等でバッテリセルを構成した場合、内部短絡が起こった際にバッテリセルの上端に形成された排気弁からガスがバッテリセル外部に噴出される恐れがある。このようなバッテリセルの内部短絡の対策として、特許文献1には複数の温度センサでバッテリセルの異常を検出する発明が記載されている。また、特許文献2には、バッテリセルの短絡等が発生した際に、冷媒をバッテリセルに効果的に供給して冷却を図る発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-192124号公報
【文献】特開2017-147128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1および特許文献2では、バッテリセルの短絡を検出する方法およびバッテリセルの冷却方法は記載されているが、バッテリセルが短絡した際に発生するガスの処置方法は記載されていない。
【0006】
一般に、バッテリセルが短絡する際に発生するガスは、車両に搭乗する乗員に悪影響が及ばないように、車外に向かって放出される。しかしながら、有害性を帯びているガスを車外に放出した場合、そのガスが車両の近傍に存在する人に悪影響を及ぼす恐れがある。特に、ガレージ等の密閉空間に車両が存在する際に、バッテリセルからガスが車外に放出されると、その悪影響が顕著になる恐れがある。
【0007】
本発明は、このような問題点を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、バッテリセルの短絡等に伴いガスが発生した際に、そのガスを安全且つ効果的に処置することができる車両用電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の車両用電源装置は、複数のバッテリセルから成り、安全弁を有するバッテリと、前記バッテリセルから発生する熱を吸熱するバッテリ冷却部と、前記バッテリ冷却部を流通する冷却流体が循環する流体回路と、前記バッテリセルから発生するガスを前記流体回路に導入するガス導入機構と、前記冷却流体の流れを制御する演算制御部と、を具備し、前記ガス導入機構は、前記バッテリ冷却部に設けられ、且つ、前記バッテリセルの前記安全弁に接近する位置に配設され、前記ガス導入機構と前記安全弁とは、同じ密閉空間に配設されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路の上流側と下流側との温度差が閾値以上の場合に、前記流体回路の冷却能力を大きくすることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路の特定箇所における前記冷却流体の温度が閾値以上の場合に、前記流体回路の冷却能力を大きくすることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路に於ける前記冷却流体の流速を大きくすることで、前記冷却能力を大きくすることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路に於いて流体冷却器が前記冷却流体を更に低温に冷却することで、前記冷却能力を大きくすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路の上流側と下流側との温度差が閾値以下の場合に、前記流体回路における前記冷却流体の冷却を終了することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路の特定箇所における前記冷却流体の温度が閾値以下の場合に、前記流体回路における前記冷却流体の冷却を終了することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記バッテリセルへの前記冷却流体の供給量を制御することを特徴とする。
【0016】
本発明の車両用電源装置では、前記安全弁は、前記バッテリセルと前記バッテリ冷却部との間に形成された収納領域に配置され、前記安全弁の近傍に充填剤が配置され、前記バッテリセルが発煙した際に、前記充填剤が前記収納領域に充填されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の車両用電源装置は、複数のバッテリセルから成り、安全弁を有するバッテリと、前記バッテリセルから発生する熱を吸熱するバッテリ冷却部と、前記バッテリ冷却部を流通する冷却流体が循環する流体回路と、前記バッテリセルから発生するガスを前記流体回路に導入するガス導入機構と、前記冷却流体の流れを制御する演算制御部と、を具備し、前記ガス導入機構は、前記バッテリ冷却部に設けられ、且つ、前記バッテリセルの前記安全弁に接近する位置に配設され、前記ガス導入機構と前記安全弁とは、同じ密閉空間に配設されることを特徴とする。これにより、本発明の車両用電源装置によれば、内部短絡等が発生することでバッテリセルからガスが発生した場合、ガス導入機構を経由してガスが流体回路に導入されるので、ガスが車外に放出されることを抑止できる。
【0018】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路の上流側と下流側との温度差が閾値以上の場合に、前記流体回路の冷却能力を大きくすることを特徴とする。これにより、本発明の車両用電源装置によれば、流体回路における相対的な温度差を用いることで、周囲の温度環境の影響を受けずに、バッテリが発煙しているか否かを正確に判断できる。
【0019】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路の特定箇所における前記冷却流体の温度が閾値以上の場合に、前記流体回路の冷却能力を大きくすることを特徴とする。これにより、本発明の車両用電源装置によれば、流体回路の特定箇所における冷却流体の温度を用いることで、バッテリの温度状態を安定的にモニタし、バッテリが発煙しているか否かを正確に判断できる。
【0020】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路に於ける前記冷却流体の流速を大きくすることで、前記冷却能力を大きくすることを特徴とする。これにより、本発明の車両用電源装置によれば、流速を大きくする簡易な制御で流体回路の冷却能力を大きくすることができる。
【0021】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路に於いて流体冷却器が前記冷却流体を更に低温に冷却することで、前記冷却能力を大きくすることを特徴とする。これにより、本発明の車両用電源装置によれば、流体冷却器の出力を大きくする簡易な制御で流体回路の冷却能力を大きくすることができる。
【0022】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路の上流側と下流側との温度差が閾値以下の場合に、前記流体回路における前記冷却流体の冷却を終了することを特徴とする。これにより、本発明の車両用電源装置によれば、流体回路の温度差に基づいて、発熱が終了するまで、バッテリセルを連続的に冷却することができる。
【0023】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記流体回路の特定箇所における前記冷却流体の温度が閾値以下の場合に、前記流体回路における前記冷却流体の冷却を終了することを特徴とする。これにより、本発明の車両用電源装置によれば、流体回路の温度に基づいて、発煙に伴う発熱が終了するまで、バッテリセルを連続的に冷却することができる。
【0024】
また、本発明の車両用電源装置では、前記演算制御部は、前記バッテリセルへの前記冷却流体の供給量を制御することを特徴とする。これにより、本発明の車両用電源装置によれば、バッテリセルへ供給される冷却流体を制御することで、効率的にバッテリセルを冷却できる。
【0025】
本発明の車両用電源装置では、前記安全弁は、前記バッテリセルと前記バッテリ冷却部との間に形成された収納領域に配置され、前記安全弁の近傍に充填剤が配置され、前記バッテリセルが発煙した際に、前記充填剤が前記収納領域に充填されることを特徴とする。これにより、本発明の車両用電源装置によれば、バッテリセルが発煙した際に、充填剤が収納領域に充填されることで、ガスの外部への漏出を抑止できる。この充填剤としては、発泡剤または膨張剤を採用できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施の形態に係る車両用電源装置を示す分解斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係る車両用電源装置を示す図であり、(A)は断面図であり、(B)は拡大断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る車両用電源装置の接続構成を示すブロック図である。
図4】本発明の実施の形態に係る車両用電源装置によりバッテリを冷却する方法を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態に係る車両用電源装置によりバッテリを冷却する方法を示す図であり、(A)から(C)はこの方法を逐次的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る車両用電源装置10を図面に基づき詳細に説明する。以下の説明では、上下前後左右の各方向を用いて説明する。ここで、前後とは車両用電源装置10を構成するバッテリセル12が積層される方向である。
【0028】
図1は、車両用電源装置10を示す分解斜視図である。車両用電源装置10は、車両のモータや電装部品に電力を供給する。車両用電源装置10が搭載される車両としては、EV(Electric Vehicle)車、HEV(Hybrid Electric Vehicle)車やPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)車等を採用できる。車両用電源装置10は、全体として、前後方向に細長く形成された略直方体形状を呈している。
【0029】
車両用電源装置10では収納ケースの内部にバッテリ11が収納されている。収納ケースは、バッテリ11を上方から塞ぐカバー17と、バッテリ11を下方から塞ぐ底面部材20と、バッテリ11を前後方向から塞ぐエンドプレート19と、バッテリ11を左右方向から塞ぐ側面部材18と、から構成されている。
【0030】
バッテリ11は、充電可能な高出力バッテリであり、前後方向に沿って積層配置された多数のバッテリセル12から構成される。バッテリセル12どうしの間には、冷却のための空気の流通を許容する空間が形成されている。バッテリセル12は、例えばリチウムイオンバッテリまたはニッケル水素バッテリから成る板状の複数の二次電池である。バッテリセル12の上端には、ガスを外部に逃がすための安全弁23が形成されている。
【0031】
バッテリ11の上方には、伝熱シート21が配置されている。上方から見た伝熱シート21の形状は矩形形状であり、バッテリ11と同等の大きさに形成されている。伝熱シート21は、バッテリ11が充放電時に発する熱を、後述するバッテリ冷却部14に伝熱させるための部材である。伝熱シート21には、前後方向に沿って収納領域22が形成されている。収納領域22は、伝熱シート21を貫通する孔部であり、バッテリセル12の安全弁23が収納される。伝熱シート21の材料としては、バッテリ11が発する熱を伝導する良熱伝導体が採用され、具体的には、合成樹脂、ゴム、金属、ゲル状物質等を採用できる。
【0032】
伝熱シート21とカバー17との間には、バッテリ冷却部14が配置されている。上方から見た場合、バッテリ冷却部14は前後方向に細長く形成される矩形形状を呈している。バッテリ冷却部14の大きさは、伝熱シート21およびバッテリ11と略同一とされている。後述するように、バッテリ冷却部14の内部には、バッテリ11から発生される熱を吸収する冷却流体が流通する冷却経路が形成されている。
【0033】
なお、ここでは図示しないが、バッテリ11と底面部材20との間には、バッテリ11の温度が過度に低下した際に、バッテリ11を昇温するための昇温手段が配置される。
【0034】
図2を参照して、車両用電源装置10の構成を詳述する。図2(A)は車両用電源装置10を前後方向に沿って安全弁23の中間部で切断した場合の側方断面図であり、図2(B)は収納領域22が形成される部分に於ける車両用電源装置10の拡大断面図である。
【0035】
図2(A)を参照して、車両用電源装置10は、前後方向に沿って積層配置された複数のバッテリセル12を有している。バッテリセル12は、互いに離間した状態で積層配置されている。また、上記したように、バッテリセル12の上方には、伝熱シート21およびバッテリ冷却部14が配置されている。
【0036】
伝熱シート21は、バッテリセル12とバッテリ冷却部14との間に配置され、バッテリセル12が充放電時に発生する熱をバッテリ冷却部14に伝導する部材である。伝熱シート21の下面はバッテリセル12の上端に接触し、伝熱シート21の上面はバッテリ冷却部14の下面に接触している。
【0037】
バッテリ冷却部14の内部には、冷却流体が流通するための流体回路13が形成されている。冷却流体としては、例えば冷却水を採用できる。
【0038】
図2(B)を参照して、伝熱シート21を貫通する孔部として形成された収納領域22に、バッテリセル12の上端に形成された安全弁23が配置されている。安全弁23の中間部の外面には充填剤24が備えられている。充填剤24は、例えば高温時に発泡または膨張する高分子材料からなり、安全弁23の外面に接触するように配置されている。充填剤24としては、発泡剤または膨張剤を採用できる。
【0039】
収納領域22は、バッテリセル12の上面とバッテリ冷却部14の下面との間に形成される密閉空間である。後述するように、安全弁23から発生するガスは、収納領域22を経由してバッテリ冷却部14の内部に流入する。
【0040】
収納領域22に露出する部分の流体回路13の下面には、ガス導入機構15が形成されている。ガス導入機構15は、バッテリセル12の安全弁23からガスが放出されていない通常時に於いては、閉鎖状態とされており、バッテリ冷却部14の内部と収納領域22とを連通させない。一方、バッテリセル12の内部が短絡することで安全弁23からガスが放出される短絡時においては、ガス導入機構15は、バッテリ冷却部14の内部と収納領域22とを連通させる。これにより、安全弁23から噴出されるガスは、収納領域22およびガス導入機構15を経由して、バッテリ冷却部14の内部に移送される。
【0041】
ガス導入機構15の具体的構成としては、例えば、バッテリ冷却部14を部分的に薄く形成した肉薄部を採用できる。ガス導入機構15として肉薄部を採用することで、通常時に於いて、ガス導入機構15から冷却流体が外部に漏出することを防止できる。また、短絡時に於いては、安全弁23から発生するガスの熱および圧力により肉薄部であるガス導入機構15が開口することで、ガス導入機構15を経由して、ガスをバッテリ冷却部14の内部に導くことができる。ここで、ガス導入機構15の別の構成としては、安全弁23から発生するガスの圧力や熱により、通常時に於いては閉状態であり、短絡時に於いては開状態と成る開閉弁等の機械式開閉機構を採用することもできる。
【0042】
図3は、車両用電源装置10の接続構成を示すブロック図である。この図を参照して、バッテリ冷却部14は、循環閉回路である流体回路13を介して流体冷却器26およびポンプ25と接続されている。ポンプ25は、流体回路13にバッテリ冷却流体を流通させるための水流を発生させる。流体冷却器26は、バッテリ11からの熱を吸収することで温度上昇した冷却流体を冷却する。
【0043】
演算制御部16は、CPU、RAM、ROM等を含み、車両用電源装置10を構成する各部位を制御する。具体的には、演算制御部16は、上流側温度センサ29および下流側温度センサ30から入力される冷却流体の温度を示す情報等に基づいて、流体冷却器26、ポンプ25、バッテリ11およびジャンクションボックス27の動作を制御している。
【0044】
流体回路13には、流体回路13を流通する冷却流体の温度を計測する上流側温度センサ29および下流側温度センサ30が介装されている。上流側温度センサ29は、バッテリ冷却部14の上流側で冷却流体の温度を計測し、下流側温度センサ30はバッテリ冷却部14の下流側で冷却流体の温度を計測する。上流側温度センサ29は、冷却流体の流れに於いてバッテリ冷却部14の内部に配設されても良いし、バッテリ冷却部14よりも上流側に配設されても良い。下流側温度センサ30は、冷却流体の流れに於いてバッテリ冷却部14の内部に配設されても良いし、バッテリ冷却部14よりも下流側に配設されても良い。上流側温度センサ29および下流側温度センサ30で計測された冷却流体の温度を示す電気信号は演算制御部16に伝送される。
【0045】
バッテリ11は、高電圧回路28を介してジャンクションボックス27と接続されている。ジャンクションボックス27は、ここでは図示しないインバータ回路等と接続されている。インバータ回路で所定の周波数に変換された交流電力は、タイヤを駆動するモータに供給される。
【0046】
図4のフローチャートに基づいて、上記した各図および図5も参照しつつ、車両用電源装置10の動作を説明する。図5(A)ないし図5(C)は、短絡時に於けるガスの径路を逐次的に示す断面図である。
【0047】
先ず、ステップS10では、図5(A)を参照して、バッテリセル12の内部短絡等に起因して有害ガスが発生する。
【0048】
ステップS11では、バッテリセル12から発生するガスが流体回路13に流入される。図5(B)を参照して、バッテリセル12から発生したガスは、安全弁23から噴射される。発生するガスは、例えば300℃程度の高温であるため、安全弁23も高温状態となる。
【0049】
図5(C)を参照して、安全弁23が高温状態となると、安全弁23の表面に配設された充填剤24が発泡または膨張し、収納領域22が充填剤24で満たされる。これにより、収納領域22の内部に於けるガスの進行が、充填剤24で制限される。よって、バッテリセル12と伝熱シート21との間隙や、伝熱シート21とバッテリ冷却部14との間隙を経由して、有害なガスが車両用電源装置10の外部に放出されることが防止される。充填剤24の内部に、安全弁23からガス導入機構15に向かってガスが流通する経路が形成される。
【0050】
安全弁23からのガスの放出に伴い、ガス導入機構15が開状態とされる。例えば、安全弁23から放出されるガスの熱および圧力により、ガス導入機構15の部分のバッテリ冷却部14が開口することで、開状態とされる。または、ガスの圧力や熱により、開閉弁であるガス導入機構15が開状態となる。
【0051】
本実施形態では、バッテリセル12から発生するガスをバッテリ冷却部14の内部に移送しており、車両用電源装置10の外部にガスを漏出させていない。流体回路13の内部では、冷却流体によりガスは沸点以下に冷却されるので、ガスは液化する。これにより、ガスの体積が大幅に減少し、比較的大量のガスを流体回路13に封じ込めることができる。
【0052】
よって、車両用電源装置10が備えられる車両の車内で、ガスの悪影響が及ぶことを防止できる。更には、車両がガレージ等の閉鎖空間に配置された場合であっても、ガスは流体回路13に封じ込まれるので、ガレージで作業する人にガスの悪影響が及ぶことを防止できる。更に、バッテリセル12の短絡が発生した後に、バッテリ11を流体回路13と共に車体から取り外すことで、ガスを流体回路13と共に廃棄処理することができる。
【0053】
ステップS12では、冷却流体の温度を確認することで、バッテリセル12からの排煙の有無を判定する。この判定は温度差または温度値から判定することができる。
【0054】
温度差により排煙の有無を判定する場合、図3を参照して、バッテリ冷却部14の上流側に配置された上流側温度センサ29で計測した冷却流体の温度T29を示す情報が演算制御部16に入力される。同時に、バッテリ冷却部14の下流側に配置された下流側温度センサ30で計測した冷却流体の温度T30を示す情報が演算制御部16に入力される。演算制御部16は、温度T30から温度T29を減算することで、温度差を算出する。演算制御部16は、この温度差が予め定めた閾値以上であれば、バッテリ冷却部14の内部を流れている冷却流体がガスにより加熱されたと判断し、バッテリセル12からガスが発生していると判断する。よって、ステップS12でYESと判定し、ステップS13に移行して排煙が発生していると判断する。一方、この温度差が予め定めた閾値未満であれば、ステップS12でNOと判定し、ステップS12に於ける判断を続行する。
【0055】
また、ステップS12に於ける判断は、上流側温度センサ29または下流側温度センサ30の何れか一方を用いて行うこともできる。好適には、バッテリ冷却部14の下流側に配置された下流側温度センサ30の計測値を用いた方が、バッテリセル12から排出されるガスによる冷却流体の温度変化を検知しやすい。具体的には、下流側温度センサ30で計測した冷却流体の温度T30を示す情報が演算制御部16に入力される。次に、演算制御部16は、この温度T30が予め定めた閾値以上であれば、バッテリ冷却部14の内部を流れている冷却流体がガスにより加熱されたと判断し、即ちバッテリセル12からガスが発生していると判断する。即ち、ステップS12でYESと判定し、ステップS13に移行して排煙が発生していると判断する。一方、この温度T30が予め定めた閾値未満であれば、ステップS12でNOと判定し、ステップS12に於ける判断を続行する。
【0056】
ステップS14では、メインリレーをオフにする。メインリレーは、バッテリ11と図示しないインバータ回路との間の径路に介装されている。メインリレーをオフにすることで、インバータ回路への電力の供給が遮断され、異常時における事故の発生を予防できる。
【0057】
ステップS15では、ガスが発生しているバッテリセル12を冷却するべく、バッテリ冷却部14における冷却性能を大きくする。例えば、バッテリ冷却部14における冷却性能を最大にする。バッテリ冷却部14の冷却性能を大きくする方法としては、図3を参照して、ポンプ25の回転数を早くすることで、流体回路13を流れる冷却流体の流量を大きくする方法、流体冷却器26の出力を高めることで流体回路13を流れる冷却流体の温度を更に低くする方法、ポンプ25の回転数を早くする共に流体冷却器26の出力を高めることで冷却流体の流量を大きくし且つ冷却流体の温度を低くする方法、を採用できる。
【0058】
バッテリ冷却部14における冷却性能を大きくすることで、図2(A)を参照して、特定のバッテリセル12が内部短絡することでガスが発生しても、そのバッテリセル12の温度上昇を抑制することができる。更には、隣接する他のバッテリセル12の温度上昇を抑制できる。よって、隣接する他のバッテリセル12が連鎖的に故障してしまう所謂連爆が発生することを抑制できる。
【0059】
更には、バッテリ冷却部14における冷却性能を大きくすることで、流体回路13に流入するガスの液化を更に促進でき、バッテリ冷却部14および流体回路13の内部圧力の増加を抑制できる。
【0060】
ステップS16では、バッテリセル12が冷却されているか否かを判断する。この判定は温度差または温度値から判定することができる。
【0061】
温度差により排煙の有無を判定する場合、図3を参照して、バッテリ冷却部14の上流側に配置された上流側温度センサ29で計測した冷却流体の温度T29を示す情報が演算制御部16に入力される。同時に、バッテリ冷却部14の下流側に配置された下流側温度センサ30で計測した冷却流体の温度T30を示す情報が演算制御部16に入力される。演算制御部16は、温度T30から温度T29を減算することで、温度差を算出する。演算制御部16は、この温度差が予め定めた閾値以下であれば、バッテリ冷却部14の内部を流れている冷却流体により、発煙したバッテリセル12が充分に冷却されたと判断する。即ち、ステップS16でYESと判定し、ステップS17に移行する。一方、この温度差が予め定めた閾値未満であれば、ステップS16でNOと判定し、ステップS15から再度実施する。
【0062】
また、ステップS16に於ける判断は、上流側温度センサ29または下流側温度センサ30の何れか一方を用いて行うこともできる。好適には、バッテリ冷却部14の下流側に配置された下流側温度センサ30の計測値を用いた方が、バッテリセル12から排出されるガスによる冷却流体の温度変化を検知しやすい。具体的には、下流側温度センサ30で計測した冷却流体の温度T30を示す情報が演算制御部16に入力される。次に、演算制御部16は、この温度T30が予め定めた閾値以下であれば、発煙したバッテリセル12が充分に冷却されたと判断する。即ち、ステップS16でYESと判定し、ステップS17に移行する。一方、この温度差が予め定めた閾値未満であれば、ステップS16でNOと判定し、ステップS15から再度実施する。
【0063】
ステップS17では、車両用電源装置10におけるバッテリ11の冷却を終了する。即ち、演算制御部16は、ポンプ25および流体冷却器26を停止する。
【0064】
上記のように、本実施形態の車両用電源装置10では、短絡時にバッテリセル12から発生するガスを流体回路13に導入することで、ガスの周囲への拡散を防止している。よって、使用している部品を生かし大まかな構造を変えない簡易な構成でバッテリ短絡時の排煙ガス排出経路を確立し安全に処理することができる。
【0065】
また、冷却流体の温度または温度差が閾値以上の場合に、バッテリセル12の発煙を検知することができるので、簡単な構成および制御でバッテリ短絡を検出することができる。同様に、冷却流体の温度または温度差が閾値以下の場合に、バッテリセル12の冷却が充分に行われたことを判断できるので、簡単な構成および制御で短絡したバッテリを充分に冷却できる。
【0066】
尚、一般的には演算制御部16にて各バッテリセル12の電圧を常時監視している為、検出した上記の温度と監視している電圧値を併せて用いることでより、精度よくバッテリセル12の内部短絡を判断することもできる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。また、上記した各形態は相互に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 車両用電源装置
11 バッテリ
12 バッテリセル
13 流体回路
14 バッテリ冷却部
15 ガス導入機構
16 演算制御部
17 カバー
18 側面部材
19 エンドプレート
20 底面部材
21 伝熱シート
22 収納領域
23 安全弁
24 充填剤
25 ポンプ
26 流体冷却器
27 ジャンクションボックス
28 高電圧回路
29 上流側温度センサ
30 下流側温度センサ



図1
図2
図3
図4
図5