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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータ材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0206 20160101AFI20230704BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20230704BHJP
   C23C 8/12 20060101ALI20230704BHJP
   H01M 8/0215 20160101ALI20230704BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20230704BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20230704BHJP
   H01M 8/0226 20160101ALI20230704BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230704BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20230704BHJP
【FI】
H01M8/0206
C22F1/18 H
C23C8/12
H01M8/0215
H01M8/0213
H01M8/0228
H01M8/0226
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 661A
C22F1/00 661C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
H01M8/10 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019098624
(22)【出願日】2019-05-27
(65)【公開番号】P2020194664
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】相武 将典
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 順
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊樹
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-170291(JP,A)
【文献】特開2018-067450(JP,A)
【文献】特開2018-063903(JP,A)
【文献】特開2016-122642(JP,A)
【文献】特開2008-176988(JP,A)
【文献】特開2019-133862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
C22F 1/18
C23C 8/12
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン基材の上に、酸化チタン層と該酸化チタン層中に分散した炭素粒子とを含む表面層を備える、燃料電池用セパレータ材の製造方法であって、
前記チタン基材の表面の窒素濃度を2.0原子%以下に低減させる窒素濃度低減処理工程と、
前記チタン基材の表面に炭素粒子を塗布する塗布工程と、
前記チタン基材を酸化雰囲気下で熱処理して前記酸化チタン層を形成する酸化処理工程と、
を含む、燃料電池用セパレータ材の製造方法。
【請求項2】
チタン基材の上に、酸化チタン層と該酸化チタン層中に分散した炭素粒子とを含む表面層を備える、燃料電池用セパレータ材であって、
前記チタン基材の表面の窒素濃度が2.0原子%以下である、燃料電池用セパレータ材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池用セパレータ材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、固体高分子電解質膜をアノード電極とカソード電極とで挟んだ構造体を単セルとして備える。また、燃料電池は、ガス(水素、酸素等)の流路となる溝が形成されたセパレータ(バイポーラプレートとも呼ばれる)を介して前記単セルを複数個重ね合わせたスタックとして構成される。燃料電池は、スタックあたりのセル数を増やすことで、出力を高くすることができる。
【0003】
燃料電池用のセパレータは、発生した電流を冷却水(FCC)が流れる面を介して隣のセルに流す役割も担っている。そのため、セパレータを構成するセパレータ材には、高い導電性及びその高い導電性が燃料電池のセル内の雰囲気中においても長期間維持されることが要求される。ここで、高い導電性とは、接触抵抗が低いことを意味する。また、接触抵抗とは、電極とセパレータ表面との間で、界面現象のために電圧降下が生じることをいう。
【0004】
このような要求を満たすべく、例えば、特許文献1には、純チタン又はチタン合金からなる基材上に、酸化チタンとカーボンブラックが混合した混合層が形成されており、前記酸化チタンが結晶性のルチルを含み、前記混合層中のカーボンの結合状態をX線光電子分光分析により分析した際に検出されたカーボンのうちの70%以上がC-C結合を有するカーボンブラック単体として存在していることを特徴とする燃料電池用セパレータ材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-122642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、チタン基材の表面に酸化チタンとカーボンブラックとを含む混合層が形成され、該混合層の表面から該混合層とチタン基材との界面までカーボンブラックが繋がることにより、導電性が確保される。カーボンブラックは導電性に優れており、また、酸化チタンは耐食性に優れているため、特許文献1に記載の燃料電池用セパレータ材は高い導電性及び導電耐久性を有することが記載されている。
【0007】
しかしながら、上述の通り、燃料電池用セパレータ材には、高い導電性が求められており、特許文献1等に記載されるカーボンブラック等の炭素粒子がチタン基材上に配置されている燃料電池用セパレータ材についても、さらなる導電性の改良が求められている。
【0008】
そこで、本開示の課題は、導電性に優れた燃料電池用セパレータ材を得ることが可能な燃料電池用セパレータ材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、チタン基材の表面の窒素濃度を2.0原子%以下にすることにより、後の酸化処理工程において酸化チタンを良好に形成させることができ、その結果、接触抵抗を低減できることを見出し、本開示に至った。
【0010】
そこで、本実施形態の態様例は以下の通りである。
【0011】
[1] チタン基材の上に、酸化チタン層と該酸化チタン層中に分散した炭素粒子とを含む表面層を備える、燃料電池用セパレータ材の製造方法であって、
前記チタン基材の表面の窒素濃度を2.0原子%以下に低減させる窒素濃度低減処理工程と、
前記チタン基材の表面に炭素粒子を塗布する塗布工程と、
前記チタン基材を酸化雰囲気下で熱処理して前記酸化チタン層を形成する酸化処理工程と、
を含む、燃料電池用セパレータ材の製造方法。
[2] 前記窒素濃度低減処理工程において、0.002Pa以下の真空雰囲気下で、30秒以上、前記チタン基材を加熱処理する、[1]に記載の燃料電池用セパレータ材の製造方法。
[3] 前記加熱処理の温度が、650~850℃の温度範囲である、[2]に記載の燃料電池用セパレータ材の製造方法。
[4] 前記酸化雰囲気が、25Pa以下である低酸素分圧を有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータ材の製造方法。
[5] チタン基材の上に、酸化チタン層と該酸化チタン層中に分散した炭素粒子とを含む表面層を備える、燃料電池用セパレータ材であって、
前記チタン基材の表面の窒素濃度が2.0原子%以下である、燃料電池用セパレータ材。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、導電性に優れた燃料電池用セパレータ材を得ることが可能な燃料電池用セパレータ材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る製造方法により得られる燃料電池用セパレータ材の構成を説明するための概略断面図である。
図2】本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法を説明するフローチャートである。
図3A】塗布工程でチタン基材の表面に炭素粒子を塗布した状態を示した概略断面図である。
図3B図3Aに続き、酸化処理工程を行った状態を示す概略断面図である。
図4】試験片の接触抵抗値の測定装置の構成を説明するための模式図である。
図5】耐久試験後の試験片について接触抵抗値を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態は、チタン基材の上に、酸化チタン層と該酸化チタン層中に分散した炭素粒子とを含む表面層を備える、燃料電池用セパレータ材の製造方法であって、前記チタン基材の表面の窒素濃度を2.0原子%以下に低減させる窒素濃度低減処理工程と、前記チタン基材の表面に炭素粒子を塗布する塗布工程と、前記チタン基材を酸化雰囲気下で熱処理して前記酸化チタン層を形成する酸化処理工程と、を含む、燃料電池用セパレータ材の製造方法である。
【0015】
本実施形態により、導電性に優れた燃料電池用セパレータ材を製造することができる。導電性が向上する理由としては、あくまで推測であり、本実施形態を限定するものではないが、チタン基材の表面の窒素濃度を2.0原子%以下にすることにより、後の酸化処理工程において酸化チタン層を良好に形成させることができ、その結果、接触抵抗を低減できるものと考えられる。また、酸化チタン層を良好に形成できる理由としては、チタン基材の表面の窒素濃度を2.0原子%以下にすることにより、チタン基材からのチタンの炭素粒子間への外方拡散が良好に行われるようになるためと推測される。
【0016】
以下、適宜図面を参照して、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法について詳細に説明する。
【0017】
<燃料電池用セパレータ材>
図1は、本実施形態に係る製造方法により得られる燃料電池用セパレータ材の構成を説明する概略断面図である。図1に示すように、燃料電池用セパレータ材1は、チタン基材2上に形成された表面層3を有する。表面層3は、図1に示すように、酸化チタン層4と、該酸化チタン層4中に分散した炭素粒子5とを含む。表面層3の断面を観察した場合、表面層3のマトリックスとしての酸化チタン層4中に炭素粒子5が埋まっている。なお、該断面は、基材の面方向に対して平行な面による断面であってもよく、面方向に対して垂直な面による断面であってもよく、面方向に対して斜めとなる面による断面であってもよい。炭素粒子5は、酸化チタン層4の表面から酸化チタン層4とチタン基材2との界面まで分散しており、電流を流す導電パスとして存在する。
【0018】
チタン基材は、純チタン又はチタン合金から構成される基材である。純チタンとしては、例えば、JIS H 4600に規定されるものを挙げることができる。また、チタン合金としては、例えば、Ti-Al、Ti-Nb、Ti-Ta、Ti-6Al-4V、Ti-Pdを挙げることができる。ただし、いずれの場合もこれらの例示に限定されるものではない。純チタン又はチタン合金製のチタン基材は、軽く、耐食性に優れている。また、チタン基材の表面に表面層に被覆されずに露出している部分があったとしても、燃料電池内の高温酸性雰囲気(例えば、80℃、pH2)でチタン又はチタン合金が溶出せず、固体高分子膜を劣化させる恐れがない。
【0019】
チタン基材は、例えば、冷間圧延材である。
【0020】
チタン基材の厚さは、例えば、0.05~1mmである。厚さがこの範囲であると、セパレータの軽量化及び薄型化の要求を満足し易く、セパレータ材としての強度及びハンドリング性を備える。そのため、セパレータ材をセパレータの形状にプレス加工することが比較的容易となる。チタン基材の形状は、コイル状に巻かれた長尺帯状であってもよく、所定の寸法に切断された枚葉紙状であってもよい。
【0021】
炭素粒子は、炭素で構成される粒子であり、例えば、カーボンブラック、黒鉛、Bドーピングダイヤモンド粒子、Nドーピングダイヤモンド粒子等が挙げられる。炭素粒子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。カーボンブラックは、無定形炭素から成る鎖状構造を持つ炭素粒子である。カーボンブラックは、その製造方法によってファーネスブラック、アセチレンブラック又はサーマルブラック等に分類されるが、いずれも使用可能である。黒鉛としては、人造黒鉛又は天然黒鉛が挙げられる。
【0022】
炭素粒子の平均粒径は、20~200nmであることが好ましい。炭素粒子の平均粒径が20nm以上である場合、後述の酸化処理工程における酸化による消滅を抑制し易くなる。また、炭素粒子の平均粒径が200nm以下である場合、表面層中に保持し易くなる。なお、この平均粒径(一次粒子径)は、透過型電子顕微鏡画像(TEM画像)において無作為に選択した100個の炭素粒子の直径(円相当径)の平均値である。
【0023】
表面層中の酸化チタン層は、例えば、TiO(1<x≦2)で表される酸化チタンからなる。酸化チタン層は、導電耐食性の観点から、結晶性のルチル構造のものを含むことが好ましい。
【0024】
表面層の厚さは、10~500nmであることが好ましい。表面層の厚さがこの範囲であると、高い導電性と導電耐食性を備えることができる。
【0025】
なお、表面層の上に、炭素粒子の層が形成されていてもよい。この炭素粒子の層は、例えば、表面層の形成に用いられた炭素粒子が残存したものである。また、一実施形態において、このような炭素粒子の層は、洗浄等により除去される。また、表面層はチタン基材の片面のみに形成してもよく、チタン基材の両面に形成してもよい。
【0026】
<燃料電池用セパレータ材の製造方法>
図2は、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法を説明するためのフローチャートである。図2に示すように、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法は、窒素濃度低減処理工程S1と、塗布工程S2と、酸化処理工程S3と、を含む。
【0027】
(窒素濃度低減処理工程)
まず、本実施形態に係る製造方法は、チタン基材の表面の窒素濃度を2.0原子%以下に低減させる窒素濃度低減処理工程を含む。
【0028】
窒素濃度低減処理としては、チタン基材の表面の窒素濃度を2原子%以下に低減できるものであれば特に制限されるものではない。本実施形態の一態様では、窒素濃度低減処理工程において、チタン基材は、0.002Pa以下の真空雰囲気下で、30秒以上、加熱処理される。このような条件でチタン基材を焼鈍することにより、チタン基材の表面に存在する窒素を拡散させ、チタン基材の表面の窒素濃度を十分に低減させることができる。また、0.002Pa以下の真空雰囲気で焼鈍することにより、チタン基材中への窒素の混入を防ぐことができる。また、本実施形態の一態様では、窒素濃度低減処理工程において、チタン基材は、アルゴンガス含有雰囲気下で加熱処理される。アルゴンガス含有雰囲気中で焼鈍することにより、窒素の混入を抑制しつつ、チタン基材中の窒素濃度を低減させることができる。
【0029】
加熱処理の温度は、650~850℃の温度範囲であることが好ましい。加熱処理の温度を650℃以上とすることにより、窒素を十分に拡散させることができる。また、加熱処理の温度を850℃以下とすることにより、チタンがα相からβ相に変化することを抑制することができる。
【0030】
窒素濃度低減処理工程後におけるチタン基材の表面の窒素濃度は、2.0原子%以下であり、好ましくは1.8原子%以下であり、より好ましくは1.6原子%以下であり、さらに好ましくは1.4原子%以下である。本実施形態において、チタン基材の表面の窒素濃度とは、チタン基材の最表面から深さ10nmの位置での窒素濃度のことを指す。窒素濃度は、X線光電子分光分析装置(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)を用いて測定することができる。XPSを用いることにより、深さ方向の組成分析を行うことができる。また、本実施形態の一態様において、チタン基材の最表面から深さ50nmまでの平均窒素濃度も2.0原子%以下である。
【0031】
なお、通常、チタン基材の表面には、雰囲気中に存在する有機物が吸着している場合があるが、このような有機物の存在は、洗浄等により除去されることが好ましい。
【0032】
(塗布工程)
次に、本実施形態に係る製造方法は、チタン基材の表面に炭素粒子を塗布する塗布工程を含む。図3Aは、塗布工程S2によりチタン基材2の表面に炭素粒子5が塗布された状態を示す模式図である。
【0033】
炭素粒子は、炭素粒子を分散させた水性や油性の分散液(分散塗料とも称す)の形態でチタン基材上に塗布することができる。また、炭素粒子は、チタン基材上に直接塗布することもできる。
【0034】
炭素粒子を含む分散塗料は、バインダー樹脂及び/又は界面活性剤を含んでもよい。しかし、バインダー樹脂や界面活性剤は、導電性を低下させる傾向があるため、これらの含有量は可能な限り少ない方が好ましい。また、分散塗料は、必要に応じて、他の添加剤を含むことができる。
【0035】
バインダー樹脂には、酸化処理工程における加熱により残渣なく分解する樹脂を用いることが好ましい。このようなバインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、又はポリビニルアルコール樹脂等が挙げられる。これらのうち、分解する温度が低いほど表面層の形成に影響を及ぼさなくなるという観点から、アクリル樹脂が好ましい。バインダー樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
分散塗料における炭素粒子とバインダー樹脂との配合比率は、固形分の質量比で、(バインダー樹脂固形分量/炭素粒子固形分量)が0.3~2.5であることが好ましい。この質量比が小さくなる程、炭素粒子の量が多くなり、その結果、導電性が向上する。それゆえ、導電性の観点から、この質量比は2.5以下であることが好ましく、2.3以下であることがより好ましい。一方、この質量比が大きくなる程、バインダー樹脂の量が大きくなる。そのため、この質量比が大きい場合、チタン基材2と塗膜との密着性が大きくなる。それゆえ、密着性の観点から、この質量比が0.3以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましい。
【0037】
水性の媒体としては、例えば、水又はエタノール等を用いることができる。油性の媒体としては、例えば、トルエン又はシクロヘキサノン等を用いることができる。
【0038】
炭素粒子の平均粒径は20~200nmであることが好ましい。炭素粒子は塗料中で凝集体を作りやすい傾向があるため、凝集体が形成しないように工夫された塗料を用いることが好ましい。例えば、炭素粒子として、カルボキシル基等の官能基を表面に化学結合させて粒子間の反発を強めることにより分散性を高めたカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0039】
チタン基材の表面への炭素粒子の塗布量は、特に制限されるものではなく、導電性等を考慮して適宜選択することができる。炭素粒子の塗布量は、導電性の観点から、1.0μg/cm以上であることが好ましく、2.0μg/cm以上であることがより好ましい。なお、炭素粒子の塗布量は、50μg/cm以下であることが好ましい。炭素粒子の塗布量をこれより多くしても導電性を向上させる効果が飽和する傾向がある。
【0040】
炭素粒子を分散させた分散液をチタン基材に塗付する方法としては、例えば、刷毛塗り、バーコーター、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、ディップコーター、又はスプレーコーター等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、粉末の形態で塗布する方法としては、例えば、炭素粒子を用いて作製したトナーを使用し、チタン基材に該トナーを静電塗装する方法が挙げられる。
【0041】
(酸化処理工程)
次に、本実施形態に係る製造方法は、チタン基材を酸化雰囲気下で熱処理して酸化チタン層を形成する酸化処理工程を含む。図3Bは、酸化処理工程S3によりチタン基材2の表面に酸化チタン層4が形成された状態を示す概略断面図である。酸化処理工程S3において、炭素粒子5が塗布されたチタン基材2が酸化雰囲気下で熱処理されると、チタン基材2中のチタンが炭素粒子5の間に外方拡散し、その外方拡散したチタンの一部又は全部が酸化されて酸化チタン層4を形成する。これにより、酸化チタン層4中に炭素粒子5が分散した表面層3が形成される。
【0042】
酸化雰囲気は、熱処理によりチタンが酸化して酸化チタンが形成される雰囲気であれば、特に制限されるものではないが、酸化雰囲気が25Pa以下である低酸素分圧を有することが好ましい。酸化処理工程S3における酸素分圧が25Paを超えると、炭素粒子が燃焼して二酸化炭素になり、炭素粒子が消失する可能性がある。また、炭素粒子の酸化分解が生じるとともに、チタン基材の表面が露出した部分でチタンの酸化が過剰に起こり、酸化チタン層4が厚くなり過ぎる場合がある。そのため、酸素分圧は、25Pa以下であることが好ましく、20Pa以下であることがより好ましく、15Pa以下であることがさらに好ましく、10Pa以下であることが特に好ましい。酸素分圧は、減圧により、又はArガスや窒素ガス等の不活性ガスを用いることにより、適宜調整することができる。また、酸素分圧は、酸化促進の観点から、0.05Pa以上であることが好ましく、0.1Pa以上であることがより好ましく、0.5Pa以上であることがさらに好ましい。熱処理の温度は、例えば、300~800℃の温度範囲であり、500~750℃であることが好ましい。酸素分圧及び熱処理の温度がそれぞれ前記した範囲である場合、チタン基材2から外方拡散したチタン原子の一部又は全部が雰囲気中の微量の酸素と反応して酸化チタンとなり、酸化チタンと炭素粒子が混合した表面層3を容易に形成することができる。
【0043】
熱処理の時間は、熱処理の温度や酸素分圧等の条件を考慮して、適宜選択できる。熱処理の時間は、例えば、熱処理の温度が500℃の場合は1~60分であり、700℃の場合は10~120秒である。
【0044】
本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法は以上の通りであるが、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法は、以上に述べた工程以外の工程を任意に含むことができる。例えば、窒素濃度低減処理工程S1の前に酸洗処理工程を含んでもよい。また、例えば、圧延工程の後に、圧延油を除去する脱脂工程を含んでもよい。塗布工程S2と酸化処理工程S3との間に塗布面を乾燥する乾燥工程を含んでもよい。さらに、酸化処理工程S3の後に、熱処理で生じた長さ方向のチタン基材の反りを矯正して、平坦化させる矯正工程(レベリング工程)を含んでもよい。なお、矯正は、例えば、テンションレベラー、ローラーレベラー又はストレッチャーを用いることにより行うことができる。また、酸化処理工程S3又は矯正工程を終えた燃料電池用セパレータ材を、洗浄して乾燥する洗浄・乾燥工程を含んでいてもよい。該洗浄により、表面層上に存在する余剰な炭素粒子を除去してもよい。また、上記工程を終えた燃料電池用セパレータ材を所定の寸法に裁断する裁断工程を含んでいてもよい。これらの工程はいずれも任意の工程であり、必要に応じて行うことができる。
【0045】
本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材の製造方法は以上の通りであるが、本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材は、チタン基材の上に、酸化チタン層と該酸化チタン層中に分散した炭素粒子とを含む表面層を備える、燃料電池用セパレータ材であって、前記チタン基材の表面の窒素濃度が2.0原子%以下である、燃料電池用セパレータ材と表すことができる。
【0046】
<燃料電池用セパレータの製造方法>
本実施形態に係る燃料電池用セパレータ材を用いて燃料電池用セパレータを作製するには、燃料電池用セパレータ材に対して、ガスを流通させるガス流路及び当該ガス流路にガスを導入するガス導入口を形成させるプレス成形工程を行うことが好ましい。
【0047】
プレス成形は、例えば、所望の形状を有する成形用金型(例えば、ガス流路及びガス導入口を形成する成形用金型)を装着したプレス成形装置を用いて行うことができる。なお、必要に応じて、成形時に潤滑剤を使用してもよい。潤滑剤を用いてプレス成形する場合は、潤滑剤を除去するための工程をプレス成形工程後に行うことが好ましい。
【実施例
【0048】
以下に、本実施形態について実施例を用いて説明する。
【0049】
[実施例1]
(基材)
基材には厚さ0.1mmの純チタン(JIS H 4600に規定される1種)の冷間圧延材(サイズ:20×65mm)を用いた。
【0050】
(窒素濃度低減処理工程)
上記チタン基材を、アルゴンガス含有雰囲気下において表1に記載の条件にて炉内で焼鈍し、基材E1~E3及びC1~C7を作製した。なお、本実施例及び比較例では、アルゴンガスの吐出量を調整することで炉内のアルゴンガス濃度を調整した。表1には実施例1におけるアルゴンガス吐出量を100として、各実施例又は比較例におけるアルゴンガス吐出量を相対比で示した。作製した基材E1~E3及びC1~C7について、基材の最表面から深さ10nmの位置での窒素濃度をXPSによって測定した。結果を表1に示す。
【0051】
(塗布工程:炭素粒子分散塗料の塗布)
炭素粒子として、市販のカーボンブラック含有塗料(Aqua Black-162、東海カーボン(株)製)を用いた。この塗料を蒸留水とエタノールを用いて希釈した後、アクリル樹脂を添加してカーボンブラック分散塗料を調製した。そして、このカーボンブラック分散塗料を、バーコーターによって上記基材の両面に塗布した。塗布量は、カーボンブラックが20~30μg/cmの範囲となるように調整した。
【0052】
(酸化処理工程)
酸化処理は、サンプル室及び加熱室を備える熱処理炉を用いて行った。まず、カーボンブラック分散塗料を塗布した基材を熱処理炉のサンプル室に配置した。次に、炉内を真空ポンプで0.01Pa以下に排気した。次に、加熱室の温度を650℃に昇温させた。次に、炉内に酸素を導入した。次に、チタン基材をサンプル室から加熱室に搬送し、650℃で加熱した。その後、チタン基材をサンプル室に戻して冷却した。
【0053】
(洗浄工程)
チタン基材が100℃以下に冷えた後、炉内を大気圧に戻し、チタン基材を取り出した。その後、チタン基材の表面に存在する余剰のカーボンブラックをエタノールを含浸させたガーゼでふき取った。次いで、基材をエタノール中で超音波洗浄した。
【0054】
以上の工程により、試験片E1~E3及びC1~C7を作製した。
【0055】
[評価]
各試験片について下記耐久試験を行い、耐久試験後の試験片について接触抵抗値を測定した。
【0056】
(耐久試験)
各試験片を80℃の燃料電池用冷却液中に100時間浸漬させた。冷却液としては、水及びエチレングリコールを1:1の割合で混合させた混合液を用いた。
【0057】
(接触抵抗値の測定)
接触抵抗値は、図4に示す接触抵抗測定装置10を用いて測定した。詳細には、試験片11の両面をカーボンクロス12(Fuel Cell Earth社製、CC6 Plain、厚さ26mils(約660μm))で挟み、さらにその外側を接触面積1cmの2枚の銅電極13で挟み、荷重98N(10kgf)で加圧した。そして、直流電流電源14を用いて7.4mAの電流を通電し、カーボンクロス12の間に加わる電圧を電圧計15で測定し、接触抵抗値を求めた。なお、耐久試験後の接触抵抗値が7mΩ・cm以下である試験片を良品と判断した。
【0058】
表1及び図5に、耐久試験後の試験片について接触抵抗値を測定した結果を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
試験片E1~3では、接触抵抗値が5mΩ・cm以下と非常に低く、良好な結果を示した。
【符号の説明】
【0061】
1 燃料電池用セパレータ材
2 チタン基材
3 表面層
4 酸化チタン層
5 炭素粒子
S1 塗布工程
S2 酸化処理工程
S3 還元処理工程
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5