IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の運転制御システム 図1
  • 特許-車両の運転制御システム 図2
  • 特許-車両の運転制御システム 図3
  • 特許-車両の運転制御システム 図4
  • 特許-車両の運転制御システム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】車両の運転制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/08 20200101AFI20230705BHJP
   B60W 30/00 20060101ALI20230705BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20230705BHJP
   B60W 50/12 20120101ALI20230705BHJP
【FI】
B60W50/08
B60W30/00
B60W40/08
B60W50/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019025796
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020131844
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑原 敬祐
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196285(JP,A)
【文献】特開2016-115356(JP,A)
【文献】特開2017-001532(JP,A)
【文献】特開2018-001908(JP,A)
【文献】特開2014-044707(JP,A)
【文献】特開2019-021229(JP,A)
【文献】特開2018-144534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 50/08
B60W 30/00
B60W 40/08
B60W 50/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の運転操作を要することなく走行可能な自動運転モードと前記運転者の運転操作を支援する運転支援モードとを備える車両の運転制御システムであって、
前記自動運転モードを解除して前記運転者の運転操作による手動運転モードに遷移させるオーバーライド操作を検出するオーバーライド検出部と、
車室内の運転操作が可能な乗員を前記運転者として監視し、運転者状態を検出する運転者監視部と、
前記運転者状態に基づいて、前記運転者が正常に運転可能な状態であるか否かを判断する運転者状態判断部と、
前記自動運転モードによる走行中に、前記運転者状態判断部によって前記運転者が正常に運転可能な状態でないと判断されたとき、前記オーバーライド操作を無効として自車両を安全に停車可能な地点まで退避走行させる退避モードを制御する退避モード制御部と、
前記退避走行中に、前記運転者状態判断部により前記運転者が正常に運転可能な状態に復帰したと判断されたとき、前記退避モードを解除して前記オーバーライド操作を有効とする退避モード解除部とを備え、
前記退避モード解除部は、前記退避走行中に前記退避モードを解除したとき、前記オーバーライド操作による前記手動運転モードと前記運転支援モードとの間の遷移のみを可能とし、前記自動運転モードへの遷移を制限することを特徴とする車両の運転制御システム。
【請求項2】
前記退避モード解除部は、前記自動運転モードへの遷移の制限下で前記運転者が前方を確認してハンドルを保舵した状態で一定時間走行した場合、前記自動運転モードへの遷移の制限を解除することを特徴とする請求項1に記載の車両の運転制御システム。
【請求項3】
前記運転者状態判断部は、前記退避走行中に、前記運転者状態から前記運転者が少なくとも進行方向を注視していることを検出した場合、前記運転者が正常に運転可能な状態に復帰したと判断することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の運転制御システム。
【請求項4】
前記運転者状態判断部は、更に、前記運転者がハンドルを保持していること、前記運転者の手の動きが予め登録しておいた特定の手の動きと同じ動きであることの少なくとも一方を検出した場合、前記運転者が正常に運転可能な状態に復帰したと判断することを特徴とする請求項3に記載の車両の運転制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者の運転操作を要することなく走行可能な自動運転モードを備える車両の運転制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、運転者の運転操作を要することなく走行可能な自動運転モードを備えるシステムが実用化に向かって開発されている。この自動運転の車両においては、車両に障害が発生する等して自動運転の継続が困難であるとシステムが判断した場合、運転者に運転を引き継いで手動運転を行うことが要求される。
【0003】
このような自動運転モードから手動運転への引継要求に対して、運転者の体調が悪化する等して運転を引き継ぐことができない場合のリスク低減として、例えば特許文献1に開示されているように、運転者に代わって車両を自動で停車させる退避モードを備えることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-196285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、自動運転モードを有するシステムにおいては、自動運転中に運転者が所定の操舵トルク以上でハンドルを保舵したりブレーキ操作やアクセル操作を行った場合、この運転者の操作をオーバーライド操作として検出し、自動運転を解除して手動運転に移行させる。しかしながら、従来、このオーバライド操作は、退避モードに遷移して退避走行が開始された後は無効とされ、誤った操作によって退避走行が中断されることを防止するようにしている。
【0006】
このため、運転者が一時的に脇見運転や居眠り運転したことによって退避モードに遷移してしまった場合や、運転者の体調が悪化して退避モードに遷移した後、退避地点に到達する前に運転者の体調が正常に運転可能な状態に回復した場合には、車両が退避地点に到達して退避モードが解除されるまで待たなければならなくなり、運転者が煩わしく感じる場合がある。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、自動運転モードから退避モードに遷移した後も、運転者の状態に応じて安全に退避モードを解除して運転者のオーバーライド操作による手動運転に移行させることのできる車両の運転制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様による車両の運転制御システムは、運転者の運転操作を要することなく走行可能な自動運転モードと前記運転者の運転操作を支援する運転支援モードとを備える車両の運転制御システムであって、前記自動運転モードを解除して前記運転者の運転操作による手動運転モードに遷移させるオーバーライド操作を検出するオーバーライド検出部と、車室内の運転操作が可能な乗員を前記運転者として監視し、運転者状態を検出する運転者監視部と、前記運転者状態に基づいて、前記運転者が正常に運転可能な状態であるか否かを判断する運転者状態判断部と、前記自動運転モードによる走行中に、前記運転者状態判断部によって前記運転者が正常に運転可能な状態でないと判断されたとき、前記オーバーライド操作を無効として自車両を安全に停車可能な地点まで退避走行させる退避モードを制御する退避モード制御部と、前記退避走行中に、前記運転者状態判断部により前記運転者が正常に運転可能な状態に復帰したと判断されたとき、前記退避モードを解除して前記オーバーライド操作を有効とする退避モード解除部とを備え、前記退避モード解除部は、前記退避走行中に前記退避モードを解除したとき、前記オーバーライド操作による前記手動運転モードと前記運転支援モードとの間の遷移のみを可能とし、前記自動運転モードへの遷移を制限する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動運転モードから退避モードに遷移した後も、運転者の状態に応じて安全に退避モードを解除して運転者のオーバーライド操作による手動運転に移行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】運転制御システムの全体構成図
図2】自動運転制御装置の機能を示すブロック図
図3】運転モードの遷移を示す説明図
図4】運転モード遷移処理を示すフローチャート
図5】運転モード遷移処理を示すフローチャート(続き)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は運転制御システムの全体構成図である。図1に示す運転制御システム1は、自動車等の車両に搭載され、運転者の運転操作を支援する運転支援や運転者の運転操作を必要としない自動運転を可能とする。具体的には、運転制御システム1は、自動運転制御装置100を中心として、外部環境認識装置10、測位装置20、地図情報処理装置30、運転者監視装置40、制駆動制御装置50、操舵制御装置60、情報提示装置70等が通信バス150を介してネットワーク接続されて構成されている。
【0012】
外部環境認識装置10は、運転制御システム1を搭載する車両(自車両)の周囲の外部環境を認識する。外部環境認識装置10は、カメラユニット11、ミリ波レーダやレーザレーダ等のレーダ装置12等の環境認識用の各種デバイスを備えている。そして、外部環境認識装置10は、カメラユニット11やレーダ装置12等で検出した自車両周囲の物体の検出情報、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報、測位装置20で測位した自車両の位置情報、地図情報処理装置30からの地図情報等により、自車両周囲の外部環境を認識する。
【0013】
例えば、外部環境認識装置10は、カメラユニット11として、同一対象物を異なる視点から撮像する2台のカメラで構成されるステレオカメラを自車両に搭載する場合、このステレオカメラで撮像した左右一対の画像をステレオ処理することにより、外部環境を3次元的に認識する。ステレオカメラとしてのカメラユニット11は、例えば、車室内上部のフロントウィンドウ内側のルームミラー近傍に、CCDやCMOS等の撮像素子を有するシャッタ同期の2台のカラーカメラが所定の基線長で車幅方向左右に配置されて構成されている。
【0014】
ステレオカメラとしてのカメラユニット11で撮像された左右一対の画像はマッチング処理され、左右画像間の対応位置の画素ずれ量(視差)が求められる、そして、この画素ずれ量が輝度データ等に変換されて距離画像が生成される。距離画像上の点は、三角測量の原理から、自車両の中心とする実空間上の点に座標変換され、自車両が走行する道路の白線(車線)、障害物、自車両の前方を走行する車両等が3次元的に認識される。
【0015】
車線としての道路白線は、画像から白線の候補となる点群を抽出し、その候補点を結ぶ直線や曲線を算出することにより、認識することができる。例えば、画像上に設定された白線検出領域内において、水平方向(車幅方向)に設定した複数の探索ライン上で輝度が所定以上変化するエッジの検出を行い、探索ライン毎に1組の白線開始点及び白線終了点を検出することにより、白線開始点と白線終了点との間の中間の領域が白線候補点として抽出される。
【0016】
そして、単位時間当たりの車両移動量に基づく白線候補点の空間座標位置の時系列データを処理して左右の白線を近似するモデルを算出することにより、白線が認識される。白線の近似モデルとしては、ハフ変換によって求めた直線成分を連結した近似モデルや、2次式等の曲線で近似したモデルを用いることができる。
【0017】
測位装置20は、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星等の複数の航法衛星からの信号に基づく測位を主として、自車両の車両位置を検出する。また、衛星からの信号(電波)の捕捉状態化や電波の反射によるマルチパスの影響等で測位精度が悪化した場合には、測位装置20は、ジャイロセンサ22や車速センサ23等の車載センサを用いた自律航法による測位を併用して自車両の車両位置を検出する。
【0018】
複数の航法衛星による測位は、航法衛星から送信される軌道及び時刻等に関する情報を含む信号を受信機21を介して受信し、受信した信号に基づいて自車両の自己位置を、経度、緯度、高度、及び時間情報を含む絶対位置として測位する。また、自律航法による測位は、ジャイロセンサ22によって検出した自車両の進行方位と車速センサ23から出力される車速パルス等から算出した自車両の移動距離とに基づいて、相対的な位置変化分としての自車位置を測位する。
【0019】
地図情報処理装置30は、地図データベースDBを備え、測位装置20で測位した自車両の位置データから地図データベースDBの地図データ上での位置を特定して出力する。地図データベースDBは、自動運転を含む走行制御用に作成された高精度地図を保有するデータベースであり、HDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)等の大容量記憶媒体に格納されている。
【0020】
詳細には、高精度地図は、道路形状や道路間の接続関係等の静的な情報と、インフラ通信によって収集される交通情報等の動的な情報とを複数の階層で保持する多次元マップ(ダイナミックマップ)として構成されている。道路データとしては、道路白線の種別、走行レーンの数、走行レーンの幅、走行レーンの幅方向の中心位置を示す点列データ、走行レーンの曲率、走行レーンの進行方位角、制限速度等が含まれている。データの信頼度やデータ更新の日付け等の属性データと共に保持されている。
【0021】
更に、地図情報処理装置30は、地図データベースDBの保守管理を行い、地図データベースDBのノード、リンク、データ点を検定して常に最新の状態に維持すると共に、データベース上にデータが存在しない領域についても新規データを作成・追加し、より詳細なデータベースを構築する。地図データベースDBのデータ更新及び新規データの追加は、測位装置20によって測位された位置データと、地図データベースDBに記憶されているデータとの照合によって行われる。
【0022】
運転者監視装置40は、自動運転制御装置100に対して、車室内の運転操作が可能な乗員を運転者として監視する運転者監視部として機能し、運転者状態を検出して自動運転制御装置100に送信する。運転者状態は、運転者の覚醒度や体調、運転者の運転操作に係る動作等であり、車内に設置された視覚センサ41、生体センサ42、後述する退避モード解除用の解除スイッチ43等の複数のセンサによって検出される。視覚センサ41としては、車内に設置されたカメラ、近赤外線LED、レーダや超音波センサ等が用いられる。また、生体センサ42としては、カメラ、近赤外線LED、レーダや超音波センサ、温度センサ、振動センサ等が用いられる。
【0023】
運転者監視装置40は、視覚センサ41によって運転者の顔の表情や運転者の手の動き等を検出し、また、生体センサ42によって、運転者の呼吸の有無、心拍数、血圧、体温、脳波等の生体情報を検出する。後述するように、自動運転制御装置100は、運転者監視装置40からの情報に基づいて、運転者が正常に運転可能な状態であるか否か否かを判断する。
【0024】
制駆動制御装置50は、電動モータや内燃機関で発生させる走行駆動力を制御し、また、自車両の走行速度、前進と後退の切換え、ブレーキ等を制御する。例えば、制駆動制御装置50は、エンジン運転状態を検出する各種センサ類からの信号及び通信バス150を介して取得される各種制御情報に基づいて、エンジンの運転状態を制御し、また、ブレーキスイッチ、4輪の車輪速、操舵角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、4輪のブレーキ装置(図示せず)を運転者のブレーキ操作とは独立して制御する。更に、制駆動制御装置50は、各輪のブレーキ力に基づいて各輪のブレーキ液圧を算出して、アンチロック・ブレーキ・システムや横すべり防止制御等を行う。
【0025】
操舵制御装置60は、例えば、車速、運転者の操舵トルク、操舵角、ヨーレート、その他の車両情報に基づいて、操舵系に設けた電動パワーステアリング装置(EPS)61による操舵トルクを制御する。この操舵トルクの制御は、実操舵角を目標操舵角に一致させるための目標操舵トルクを実現するEPS装置61の電動モータに対する電流制御として実行される。EPS装置61は、操舵制御装置60からの目標操舵トルクを指示トルクとして、この指示トルクに対応する電動モータの駆動電流を、例えばPID制御によって制御する。
【0026】
情報提示装置70は、車両の各種装置に異常が生じた場合や運転者に注意を喚起するための警報、及び運転者に提示する各種情報の出力を制御する装置である。例えば、モニタ、ディスプレイ、アラームランプ等の視覚的な出力と、スピーカ・ブザー等の聴覚的な出力との少なくとも一方を用いて、警告や制御情報を提示する。情報提示装置70は、自動運転を含む走行制御を実行中、その制御状態を運転者に提示し、また、運転者の操作によって自動運転含む走行制御が休止された場合には、そのときの運転状態を運転者に提示する。
【0027】
次に、運転制御システム1の中心となる自動運転制御装置100について説明する。自動運転制御装置100は、運転者が操舵、加減速、ブレーキ等の全ての運転操作を行って自車両を走行させる手動運転モードに対して、運転者が図示しないスイッチやパネル等を操作して、運転者の運転を支援する運転支援モードや、運転者の運転操作を要しない自動運転モードを選択したとき、外部環境認識装置10、測位装置20、地図情報処理装置30からの情報に基づいて、制駆動制御装置50及び操舵制御装置60を介した走行制御を実施する。
【0028】
尚、本実施の形態においては、運転支援モードは、運転者の保舵或いは操舵を必要として、加減速制御と操舵制御との少なくとも一方を自動的に行う運転モードを意味し、部分的な自動運転を含むものとする。一方、自動運転モードは、運転者がハンドルに触れることのない手放し運転を前提とする運転モードを意味し、自動運転機能が正常に作動する設計上の運行領域において加減速制御及び操舵制御の全てを自動で行う条件付きの自動運転モードである。この自動運転モードにおいては、システムによる作動継続が困難な場合には、運転者に運転を委ねる。
【0029】
自動運転制御装置100は、このような各運転モードに係る制御機能部を備えている。図2は自動運転制御装置の機能を示すブロック図である。図2に示すように、自動運転制御装置100は、運転モード遷移制御部101、運転者状態判断部102、オーバーライド検出部103、運転制御部104、退避モード制御部105、退避モード解除部106を備えている。運転制御部104は、自動運転モードの制御を主として、運転支援モードの制御も含めて実行する。
【0030】
運転モード遷移制御部101は、運転モードの設定スイッチや操作パネル等からの運転者による操作入力に応じて自車両の運転モードを決定し、運転制御部104に運転モードを通知する。本実施の形態においては、システム起動時の初期状態では運転モードが手動運転モードに設定され、運転モード遷移制御部101は、運転者状態判断部102及びオーバーライド検出部103からの情報に基づいて、運転モードを手動運転モードと運転支援モードと自動運転モードとの間で遷移させる。
【0031】
運転者状態判断部102は、運転者監視部としての運転者監視装置40において視覚センサ41や生体センサ42によって検出された運転者状態に基づいて、運転者が自車両を正常に運転可能か否かを判断する。例えば、運転者状態として、運転者の眼球運動による角膜上の虚像の移動に基づく視線挙動、視線挙動のばらつきや瞳孔面積の変化に基づく覚醒度、運転者の呼吸の有無、心拍数、血圧、体温、脳波等の生体情報、運転者の顔の向き、運転者の手の動き等を検出し、運転者状態判断部102は、これらの情報に基づいて運転者が自車両を正常に運転可能か否かを判断する。
【0032】
運転者状態判断部102は、運転者の顔の向き、開眼状態、視線の方向変化から運転者が少なくとも進行方向を注視していることを検出した場合、運転者が正常に運転可能な状態にあると判断する。一方、運転者が車線変更や隣接車線に車両がないにも拘わらず、所定時間以上、進行方向以外の方向を向いて脇見運転したり、所定時間以上、瞳孔面積が閾値以下となって居眠り運転をしたことを検出した場合、或いは、運転者の生体情報が予め設定した基準値から外れていることを検出した場合、運転者の健康状態が悪化して正常に運転可能な状態ではないと判断する。
【0033】
また、運転者状態判断部102は、運転者の健康状態が悪化して正常に運転可能な状態ではないと判断した後に、再度、運転者状態を調べ、運転者の健康状態が正常に復帰して運転可能な状態になったか否かを判断する。例えば、運転者が進行方向を注視していることを検出し、更に、運転者がハンドルを保持していること、運転者の手の動きが予め登録しておいた特定の手の動き(ハンドジェスチャ)と同じ動きであることの少なくとも一方を検出した場合、運転者の健康状態が回復し、正常に運転可能な状態に復帰したと判断する。
【0034】
オーバーライド検出部103は、自動運転モードを解除して運転者による手動運転モードに遷移させるオーバーライド操作を検出する。例えば、自動運転での走行中に、運転者がハンドルを保持或いは設定値以上の操舵トルクで操舵する、ブレーキペダルを踏む、アクセルペダルを踏む等の動作を行った場合、オーバーライド検出部103は、これらの運転者の動作をオーバーライド操作として、タッチセンサや操舵トルクセンサ等からのセンシング情報、運転者監視装置40からの情報によって検出し、運転モード遷移制御部101に通知する。
【0035】
運転制御部104は、運転モード遷移制御部101から通知される運転モードが自動運転モードであり、且つ道路条件、地理的条件、環境条件等が自動運転の条件を満足する場合、自車両の加減速制御及び操舵制御を自動的に実行する。この自動運転では、目的地及び走行ルートが予め指定されている場合には、周囲の交通環境に応じた車速、他車両との車間距離、車線を適切に設定しながら走行ルートに沿って目的地まで自動走行し、目的地及び走行ルートが指定されていない場合には、車線に沿って自動走行する。
【0036】
尚、オーバーライド検出部103によって運転者のオーバーライド操作が検出された場合には、運転制御部104による自動運転は停止され、運転モードが自動運転モードから手動運転モードに遷移する。
【0037】
また、運転制御部104は、自動運転による走行中に、自動運転を継続可能な条件(自動運転条件)を満足しなくなった場合、運転者に運転の引継ぎを要求する引継要求を出力する。例えば、システムの一部に異常が発生したり、自動運転の運行領域外となる等して自動運転の継続が困難となった場合、或いは、運転者状態判断部102によって運転者のよそ見や居眠りが検知されたり、運転者の体調悪化が検出され、正常に運転可能な状態でないと判断された場合には、自動運転条件不成立と判断して、その時点までの自動運転における自車位置や速度等の制御情報を記憶すると共に、運転者に運転の引継ぎを要求する引継要求を出力する。
【0038】
この引継要求は、運転モード遷移制御部101に通知されると共に、情報提示装置70を介して運転者に警報される。運転者が反応して前方を確認し、ハンドルやブレーキ等を操作すると、運転モード遷移制御部101から情報提示装置70に警報解除が指示され、運転制御部104に自動運転モードの制御停止が指示される。これにより、運転モードが自動運転モードから運転者自身による手動運転モードに遷移する。
【0039】
一方、引継要求に対して運転者が反応しない場合、運転モード遷移制御部101は、運転制御部104に自動運転の中止を指示すると共に、退避モード制御部105に退避モードの退避走行を指示する。退避モードは、自動運転中におけるリスク低減のモードの一つであり、引継要求を出力する時点までの自動運転の制御状態から、路側帯等の車両を安全に停止させることのできる地点(退避地点)を探索し、退避地点まで自動で走行させる運転モードである。この退避モードでは、退避モード制御部105は、運転者の意図しない操作に対する安全を確保するため、通常では運転者のオーバーライド操作を無効として、手動運転モードへの遷移を不可とする。
【0040】
例えば、退避モード制御部105は、オーバーライド検出部103によって運転者のオーバーライド操作が検出されても無視する、或いはオーバーライド検出部103にオーバーライド操作の検出を停止させる等して、オーバーライド操作を無効とする。そして、自車両が退避地点に到着して運転者が電動モータやエンジン等の走行駆動源を停止させた後、運転者が解除スイッチ43をオンすると、退避モード解除部106によって退避モードが解除される。
【0041】
また、退避モード解除部106は、退避モード中であっても、運転者状態判断部102によって運転者が正常に運転可能と判断された場合には、退避モードを解除し、運転者のオーバーライド操作を有効すなわち検出可能とする。オーバーライド操作が有効となることにより、退避走行の途中であっても運転者のオーバーライド操作を検出して手動運転モードに遷移させることができ、更には運転支援モードへの遷移が可能となる。
【0042】
更に、退避モード解除部106は、退避モードに遷移するまでの自動運転の制御情報、退避モードが解除されるまでの制御情報を、それぞれ、運転制御部104、退避モード制御部105から取得し、また、退避モード解除時の自車両周囲の外部環境情報を外部環境認識装置10から取得する。そして、これらの情報に基づいて、退避モード解除部106で自動走行の再開の可否を判断することにより、退避モードを解除した後、自動運転モードに復帰させることも可能となる。
【0043】
ここで、各運転モード間の遷移について説明する。図3は運転モードの遷移を示す説明図である。本実施の形態においては、各運転モードの遷移は、図3に示すように、状態ST1における遷移と状態ST2における遷移がある。
【0044】
状態ST1は、リスク低減の退避モードへの遷移が発生する前の通常の状態を示しており、手動運転モードM1と運転支援モードAS1と自動運転モードATとの間で遷移可能である。状態ST2は、リスク低減の退避モードが途中で解除された後の状態を示しており、手動運転モードM2と運転支援モードAS2との間で遷移可能な状態である。
【0045】
手動運転モードM1と手動運転モードM2とは、同じ手動運転モードであるが、遷移可能な範囲が異なることを示している。同様に、運転支援モードAS1と運転支援モードAS2とは、同じ運転支援モードであるが、遷移可能な範囲が異なることを示している。
【0046】
状態ST1と状態ST2との間には、リスク発生時の退避モードRMが介在する。自動運転モードATから退避モードRMに遷移した場合、退避モードRMの終了によって退避モードRMから状態ST1の手動運転モードM1へ復帰する場合と、退避モードRMの途中で退避モードRMが解除され、退避モードRMから状態ST2の手動運転モードM2に遷移する場合がある。
【0047】
退避モードRMの終了によって状態ST1の手動運転モードM1に遷移した場合は、通常の運転モード間の遷移が可能となる。例えば目的地への自動走行中に退避モードRMに遷移してしまった場合であっても、退避地点で安全を確認した後、目的地に向けての自動走行を再開することが可能となる。
【0048】
一方、退避モードRMの途中で状態ST2の手動運転モードM2に遷移した場合には、遷移可能な運転モードが一時的に制限される。このモード遷移の制限が解除されるまでは手動運転モードM2と運転支援モードAS2との間の遷移のみが可能となり、自動運転モードATでの自動走行は不可となる。そして、モード遷移の制限が解除されたとき、状態ST2から状態ST1に移行する。
【0049】
例えば、運転者状態判断部102によって運転者が前方を確認してハンドルを保舵したことが検知されている状態で一定時間走行した場合、退避モード解除部106は、モード遷移の制限を解除する条件が満たされたと判断する。これにより、状態ST2から通常の状態ST1に移行し、手動運転モードM1、運転支援モードAS1、自動運転モードATの遷移が可能となる。
【0050】
次に、運転制御システム1における運転モードの遷移に係る動作について、自動運転制御装置100の動作を中心として説明する。図4及び図5は自動運転中の運転モード遷移処理を示すフローチャートである。
【0051】
この運転モード遷移処理では、自動運転制御装置100は、最初のステップS1において、システム異常や運転者の体調悪化等によって自動運転条件が不成立となり、自動運転を継続できなくなっているか否かを調べる。自動運転条件が不成立の場合、自動運転制御装置100は、ステップS2で運転者に運転の引継ぎを要求する引継要求を出力し、ステップS3で運転者監視装置40の情報に基づいて引継要求に対する運転者の反応を調べる。
【0052】
そして、運転者が引継要求に反応してハンドルを保舵したことが確認された場合、自動運転制御装置100は自動運転を中止し、ステップS3から本処理を抜ける。これにより、運転モードが自動運転モードATから通常の手動運転モード(状態ST1の手動運転モードM1)に遷移する。
【0053】
一方、運転者の体調が悪化する等して正常に運転が行えない場合等、引継要求に対して運転者が反応しない場合、自動運転制御装置100は、ステップS3からステップS4へ進み、自動運転モードATの制御から退避モードRMの制御に移行する。この退避モードRMの制御では、運転者のオーバーライド操作を無効として、自車両を退避地点に向かって自動走行で移動させる。
【0054】
更に自動運転制御装置100は、ステップS5において、運転モードの遷移を制限するモード遷移制限フラグをセットし、ステップS6において退避モードRMが非解除の状態のままか否かを調べる。前述したように、退避モードRMは、運転者が正常に運転可能な状態に復帰したと判断されたときには解除され、運転者のオーバーライド操作が有効となる。
【0055】
退避モードRMが非解除の状態である場合、自動運転制御装置100は、ステップS7で自車両が退避地点に達して車速が0となったか否かを調べる。車速が0になっていない場合はステップS6へ戻り、車速が0になったときステップS8で車両を停止させる。
【0056】
ステップS8で自車両を停止させた後は、ステップS9へ進み、自動運転制御装置100は、モード遷移制限フラグをクリアする条件(モード遷移制限を解除する条件)が成立するか否かを調べる。例えば、自動運転制御装置100は、車両停止後に電動モータやエンジン等の走行駆動源が停止され、解除スイッチ43がオンされたことを検知すると、モード遷移制限を解除する条件が満たされたと判断し、モード遷移制限フラグをクリアして本処理を抜ける。これにより、退避モードRMが終了して通常の状態ST1の手動運転モードM1に遷移する。
【0057】
一方、ステップS6において、運転者監視装置40からの情報により、運転者の体調が正常となり、運転者がハンドルを保持して進行方向に所定の操舵トルクをかけていることが検知された場合、自動運転制御装置100は、ステップS10で退避モードRMを解除する。これにより、退避地点への自動走行が停止され、状態ST2の手動運転モードM2に移行する。
【0058】
ステップS10で手動運転モードM2に移行した後は、ステップS11へ進み、自動運転制御装置100は、運転者が運転支援モードにセットしたか否かを調べる。運転者が運転支援モードにセットした場合、自動運転制御装置100は、ステップS12で運転モードを状態ST2の運転支援モードAS2に遷移させる。
【0059】
状態ST2における運転支援モードAS2は、自動運転モードATに遷移させることのできないモードであり、ステップS13で運転支援モードAS2がキャンセルされた場合、ステップS10に戻り、状態ST2内で手動運転モードM2に遷移するループとなる。この手動運転モードM2において、運転者が運転支援モードにセットせずに手動運転で走行している場合、自動運転制御装置100は、ステップS14でモード遷移制限フラグをクリアする条件が成立するか否かを調べる。
【0060】
この場合のモード遷移制限フラグのクリア条件は、状態ST2の手動運転モードM2に対する制限を解除して状態ST1の手動運転モードM1に移行させる条件である。例えば、運転者が前方を確認してハンドルを保舵したことが検知されている状態で一定時間走行したことが確認された場合、自動運転制御装置100は、モード遷移制限フラグをクリアして本処理を抜ける。これにより、状態ST2の手動運転モードM2から通常の状態ST1の手動運転モードM1に遷移する。
【0061】
このように本実施の形態においては、自動運転モードから退避モードに遷移した後、運転者状態によって運転者が正常に運転可能な状態に復帰したと判断したとき、退避モードを解除して運転者のオーバーライド操作を有効とする。これにより、退避モードに遷移した後に運転者が正常な状態に復帰した場合、車両が停止して退避モードが終了するまで待つ必要がなく、運転者に煩わしさを感じさせることなく安全に退避モードを解除して手動運転に移行させることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 運転制御システム
10 外部環境認識装置
11 カメラユニット
12 レーダ装置
20 測位装置
21 受信機
22 ジャイロセンサ
23 車速センサ
30 地図情報処理装置
40 運転者監視装置(運転者監視部)
41 視覚センサ
42 生体センサ
43 解除スイッチ
50 制駆動制御装置
60 操舵制御装置
61 電動パワーステアリング装置
70 情報提示装置
100 自動運転制御装置
101 運転モード遷移制御部
102 運転者状態判断部
103 オーバーライド検出部
104 運転制御部
105 退避モード制御部
106 退避モード解除部
図1
図2
図3
図4
図5