(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-04
(45)【発行日】2023-07-12
(54)【発明の名称】車両の運転制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 40/08 20120101AFI20230705BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20230705BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20230705BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20230705BHJP
B60W 30/182 20200101ALI20230705BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230705BHJP
【FI】
B60W40/08
B60W50/14
B60W30/09
B60W40/107
B60W30/182
G08G1/16 F
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2019040831
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2022-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-207955(JP,A)
【文献】特表2007-528815(JP,A)
【文献】特開2007-253820(JP,A)
【文献】特開2018-041328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を自動運転で走行させる自動運転モードを備える車両の運転制御システムであって、
前記自動運転モードによる走行中に前記運転制御システムから運転を引継ぎ可能な車室内の乗員を運転者として監視する運転者監視部と、
前記運転者監視部の監視結果に基づいて、前記運転者の異常状態を検出する運転者異常状態検出部と、
前記自動運転モード
の目標車速に向かって加速制御中の前記車両の加速度を、前記自動運転モードに含まれるリスクの大きさを表す指標となるリスク状態として検出するリスク状態検出部と、
前記リスク状態として検出される前記加速度が予め設定した加速度以上である場合、前記自動運転モードによる走行時に前記運転者に対して出力する警報
の出力レベルを通常よりも大きくする又は出力タイミングを通常よりも早くするよう制御
し、前記警報を出力後に前記運転者の前記異常状態が設定時間以上継続した場合、前記自動運転モードにおける目標加速度を低下させて前記加速度を抑制させる警報制御部と
を備えることを特徴とする車両の運転制御システム。
【請求項2】
前記運転者異常状態検出部は、前記異常状態を、前記運転者の視線方向と閉眼状態との少なくとも一方に基づいて検出することを特徴とする請求項1に記載の車両の運転制御システム。
【請求項3】
前記警報制御部は、前記加速度の抑制後も前記運転者の前記異常状態が一定時間以上継
続した場合、前記自動運転モードを減速制御を含むリスク低減モードに遷移させることを
特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の車両の運転制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を自動運転で走行させる自動運転モードを備える車両の運転制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、運転者の運転操作を要することなく走行可能な自動運転モードを備える運転制御システムが実用化に向かって開発されている。この自動運転の運転制御システムにおいては、車両に障害が発生する等して自動運転の継続が困難であると判断した場合、運転者に自動運転の継続が困難であることを警報し、車両の運転を運転者に委ねる必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、自動運転の継続が可能でないと判定された場合、運転者がハンドルを把持し、運転者の視線が前方を向いている場合には、ヘッドアップディスプレイを用いて警報し、運転者がハンドルを把持していない状態、運転者の視線が前方を向いていない状態のいずれか一方または両方の場合には、ヘッドアップディスプレイに加えて、音声出力デバイスまたは振動出力デバイスの少なくともいずれかを用いて警報を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自動運転の継続が可能で自動運転による走行中であっても、加速走行や曲率の大きいカーブの走行、雨天時や積雪路の走行等のように、通常よりも危険度の高い走行状態の場合には、確実に運転者の注意を喚起し、自動運転の継続が不可となった場合にも迅速に対応可能とすることが望まれる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、自動運転による走行中であっても、通常よりも危険度の高い走行状態の場合には、確実に運転者の注意を喚起することのできる車両の運転制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による車両の運転制御システムは、車両を自動運転で走行させる自動運転モードを備える車両の運転制御システムであって、前記自動運転モードによる走行中に前記運転制御システムから運転を引継ぎ可能な車室内の乗員を運転者として監視する運転者監視部と、前記運転者監視部の監視結果に基づいて、前記運転者の異常状態を検出する運転者異常状態検出部と、前記自動運転モードの目標車速に向かって加速制御中の前記車両の加速度を、前記自動運転モードに含まれるリスクの大きさを表す指標となるリスク状態として検出するリスク状態検出部と、前記リスク状態として検出される前記加速度が予め設定した加速度以上である場合、前記自動運転モードによる走行時に前記運転者に対して出力する警報の出力レベルを通常よりも大きくする又は出力タイミングを通常よりも早くするよう制御し、前記警報を出力後に前記運転者の前記異常状態が設定時間以上継続した場合、前記自動運転モードにおける目標加速度を低下させて前記加速度を抑制させる警報制御部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自動運転による走行中であっても、通常よりも危険度の高い走行状態の場合には、確実に運転者の注意を喚起することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図4】自動運転モードにおける警報処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は運転制御システムの全体構成図である。
図1に示す運転制御システム1は、自動車等の車両に搭載され、運転者の運転操作を支援する運転支援や運転者の運転操作を必要としない自動運転を可能とする。具体的には、運転制御システム1は、自動運転制御装置100を中心として、外部環境認識装置10、測位装置20、地図情報処理装置30、運転者監視装置40、制駆動制御装置50、操舵制御装置60、情報提示装置70等が通信バス150を介してネットワーク接続されて構成されている。
【0011】
外部環境認識装置10は、運転制御システム1を搭載する車両(自車両)の周囲の外部環境を認識する。外部環境認識装置10は、カメラユニット11、ミリ波レーダやレーザレーダ等のレーダ装置12等の環境認識用の各種デバイスを備えている。そして、外部環境認識装置10は、カメラユニット11やレーダ装置12等で検出した自車両周囲の物体の検出情報、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報、測位装置20で測位した自車両の位置情報、地図情報処理装置30からの地図情報等により、自車両周囲の外部環境を認識する。
【0012】
例えば、外部環境認識装置10は、カメラユニット11として、同一対象物を異なる視点から撮像する2台のカメラで構成されるステレオカメラを自車両に搭載する場合、このステレオカメラで撮像した左右一対の画像をステレオ処理することにより、外部環境を3次元的に認識する。ステレオカメラとしてのカメラユニット11は、例えば、車室内上部のフロントウィンドウ内側のルームミラー近傍に、CCDやCMOS等の撮像素子を有するシャッタ同期の2台のカラーカメラが所定の基線長で車幅方向左右に配置されて構成されている。
【0013】
ステレオカメラとしてのカメラユニット11で撮像された左右一対の画像はマッチング処理され、左右画像間の対応位置の画素ずれ量(視差)が求められる、そして、この画素ずれ量が輝度データ等に変換されて距離画像が生成される。距離画像上の点は、三角測量の原理から、自車両の中心とする実空間上の点に座標変換され、自車両が走行する道路の白線(車線)、障害物、自車両の前方を走行する車両等が3次元的に認識される。
【0014】
車線としての道路白線は、画像から白線の候補となる点群を抽出し、その候補点を結ぶ直線や曲線を算出することにより、認識することができる。例えば、画像上に設定された白線検出領域内において、水平方向(車幅方向)に設定した複数の探索ライン上で輝度が所定以上変化するエッジの検出を行い、探索ライン毎に1組の白線開始点及び白線終了点を検出することにより、白線開始点と白線終了点との間の中間の領域が白線候補点として抽出される。
【0015】
そして、単位時間当たりの車両移動量に基づく白線候補点の空間座標位置の時系列データを処理して左右の白線を近似するモデルを算出することにより、白線が認識される。白線の近似モデルとしては、ハフ変換によって求めた直線成分を連結した近似モデルや、2次式等の曲線で近似したモデルを用いることができる。
【0016】
測位装置20は、GNSS(Global Navigation Satellite System)衛星等の複数の航法衛星からの信号に基づく測位を主として、自車両の車両位置を検出する。また、衛星からの信号(電波)の捕捉状態や電波の反射によるマルチパスの影響等で測位精度が悪化した場合には、測位装置20は、ジャイロセンサ22や車速センサ23等の車載センサを用いた自律航法による測位を併用して自車両の車両位置を検出する。
【0017】
複数の航法衛星による測位は、航法衛星から送信される軌道及び時刻等に関する情報を含む信号を受信機21を介して受信し、受信した信号に基づいて自車両の自己位置を、経度、緯度、高度、及び時間情報を含む絶対位置として測位する。また、自律航法による測位は、ジャイロセンサ22によって検出した自車両の進行方位と車速センサ23から出力される車速パルス等から算出した自車両の移動距離とに基づいて、相対的な位置変化分としての自車位置を測位する。
【0018】
地図情報処理装置30は、地図データベースDBを備え、測位装置20で測位した自車両の位置データから地図データベースDBの地図データ上での位置を特定して出力する。地図データベースDBは、自動運転を含む走行制御用に作成された高精度地図を保有するデータベースであり、HDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)等の大容量記憶媒体に格納されている。
【0019】
詳細には、高精度地図は、道路形状や道路間の接続関係等の静的な情報と、インフラ通信によって収集される交通情報等の動的な情報とを複数の階層で保持する多次元マップ(ダイナミックマップ)として構成されている。道路データとしては、道路白線の種別、走行レーンの数、走行レーンの幅、走行レーンの幅方向の中心位置を示す点列データ、走行レーンの曲率、走行レーンの進行方位角、制限速度等が含まれている。データの信頼度やデータ更新の日付け等の属性データと共に保持されている。
【0020】
更に、地図情報処理装置30は、地図データベースDBの保守管理を行い、地図データベースDBのノード、リンク、データ点を検定して常に最新の状態に維持すると共に、データベース上にデータが存在しない領域についても新規データを作成・追加し、より詳細なデータベースを構築する。地図データベースDBのデータ更新及び新規データの追加は、測位装置20によって測位された位置データと、地図データベースDBに記憶されているデータとの照合によって行われる。
【0021】
運転者監視装置40は、後述する自動運転制御装置100の各機能部に対して、車室内の運転操作が可能な乗員、特に自動運転による走行中に運転制御システム1から運転を引継いで運転操作を行うことが可能な車室内の乗員を運転者として監視する運転者監視部として機能する。運転者監視装置40は、運転者の監視結果としての運転者状態を、自動運転制御装置100に送信する。
【0022】
運転者状態は、運転者の覚醒度や体調、運転者の運転操作に係る動作等であり、車内に設置された視覚センサ41、生体センサ42、後述するリスク低減モード解除用の解除スイッチ43等の複数のセンサによって検出される。視覚センサ41としては、車内に設置されたカメラ、近赤外線LED、レーダや超音波センサ等が用いられる。また、生体センサ42としては、カメラ、近赤外線LED、レーダや超音波センサ、温度センサ、振動センサ等が用いられる。
【0023】
運転者監視装置40は、視覚センサ41によって運転者の顔の表情や運転者の手の動き等を検出し、また、生体センサ42によって、運転者の呼吸の有無、心拍数、血圧、体温、脳波等の生体情報を検出する。後述するように、自動運転制御装置100は、運転者監視装置40からの情報に基づいて、運転者の異常状態を検出する。
【0024】
制駆動制御装置50は、電動モータや内燃機関で発生させる走行駆動力を制御し、また、自車両の走行速度、前進と後退の切換え、ブレーキ等を制御する。例えば、制駆動制御装置50は、エンジン運転状態を検出する各種センサ類からの信号及び通信バス150を介して取得される各種制御情報に基づいて、エンジンの運転状態を制御し、また、ブレーキスイッチ、4輪の車輪速、操舵角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、4輪のブレーキ装置(図示せず)を運転者のブレーキ操作とは独立して制御する。更に、制駆動制御装置50は、各輪のブレーキ力に基づいて各輪のブレーキ液圧を算出して、アンチロック・ブレーキ・システムや横すべり防止制御等を行う。
【0025】
操舵制御装置60は、例えば、車速、運転者の操舵トルク、操舵角、ヨーレート、その他の車両情報に基づいて、操舵系に設けた電動パワーステアリング装置(EPS)61による操舵トルクを制御する。この操舵トルクの制御は、実操舵角を目標操舵角に一致させるための目標操舵トルクを実現するEPS装置61の電動モータに対する電流制御として実行される。EPS装置61は、操舵制御装置60からの目標操舵トルクを指示トルクとして、この指示トルクに対応する電動モータの駆動電流を、例えばPID制御によって制御する。
【0026】
情報提示装置70は、車両の各種装置に異常が生じた場合や運転者に注意を喚起するための警報、及び運転者に提示する各種情報の出力を制御する装置である。例えば、モニタ、ディスプレイ、アラームランプ等の視覚的な出力と、スピーカ・ブザー等の聴覚的な出力との少なくとも一方を用いて、警告や制御情報を提示する。情報提示装置70は、自動運転を含む走行制御を実行中、その制御状態を運転者に提示し、また、運転者の操作によって自動運転を含む走行制御が休止された場合には、そのときの運転状態を運転者に提示する。
【0027】
次に、運転制御システム1の中心となる自動運転制御装置100について説明する。自動運転制御装置100は、運転者が操舵、加減速、ブレーキ等の全ての運転操作を行って自車両を走行させる手動運転モードに対して、運転者が図示しないスイッチやパネル等を操作して、運転者の運転を支援する運転支援モードや、運転者の運転操作を要しない自動運転モードを選択したとき、外部環境認識装置10、測位装置20、地図情報処理装置30からの情報に基づいて、制駆動制御装置50及び操舵制御装置60を介した走行制御を実施する。
【0028】
尚、本実施の形態においては、運転支援モードは、運転者の保舵或いは操舵を必要として、加減速制御と操舵制御との少なくとも一方を自動的に行う運転モードを意味し、部分的な自動運転を含むものとする。一方、自動運転モードは、運転者がハンドルに触れることのない手放し運転を前提とする運転モードを意味し、自動運転機能が正常に作動する設計上の運行領域において加減速制御及び操舵制御の全てを自動で行う条件付きの自動運転モードである。この自動運転モードにおいては、システムによる作動継続が困難な場合には、運転者に運転を委ねる。
【0029】
自動運転制御装置100は、このような各運転モードに係る制御機能部を備えている。
図2は自動運転制御装置の機能を示すブロック図である。
図2に示すように、自動運転制御装置100は、運転モード遷移制御部101、運転制御部102、運転者異常状態検出部103、リスク状態検出部104、警報制御部105を備えている。運転制御部102は、自動運転モードの制御を主として、運転支援モードの制御も含めて実行する。
【0030】
運転モード遷移制御部101は、運転モードの設定スイッチや操作パネル等からの運転者による操作入力に応じて自車両の運転モードを決定し、運転制御部102に運転モードを通知する。本実施の形態においては、システム起動時の初期状態では運転モードが手動運転モードに設定されており、運転モード遷移制御部101は、運転モードを手動運転モードと運転支援モードと自動運転モードとの間で遷移させる。
【0031】
また、運転モード遷移制御部101は、自動運転での走行中に、例えば、運転者がハンドルを保持或いは設定値以上の操舵トルクで操舵する、ブレーキペダルを踏む、アクセルペダルを踏む等の動作を行った場合、これらの運転者の動作をオーバーライド操作として自動運転モードを解除し、運転者による手動運転モードに遷移させる。
【0032】
更に、運転モード遷移制御部101は、自動運転の継続が不可となった場合の後述する引継要求に対して、運転者が反応しない場合に運転制御部102に自動運転の中止を指示し、自動運転モードからリスク低減モードに遷移させる。リスク低減モードは、自動運転中のリスクを低減するための運転モードであり、車両を減速させて安全を確保する。本実施の形態においては、リスク低減モードとして、例えば、路側帯等の車両を安全に停止させることのできる地点(退避地点)を探索し、車両を減速させながら退避地点まで自動で走行させて停止させる退避モードを備えている。
【0033】
この退避モードでは、運転モード遷移制御部101は、運転者の意図しない操作に対する安全を確保するため、運転者のオーバーライド操作を無効として、手動運転モードへの遷移を不可とする。そして、自車両が退避地点に到着して運転者が電動モータやエンジン等の走行駆動源を停止させた後、運転者が解除スイッチ等をオンすると、退避モードが解除される。
【0034】
運転制御部102は、運転モード遷移制御部101から通知される運転モードが自動運転モードであり、且つ道路条件、地理的条件、環境条件等が自動運転の条件を満足する場合、自車両の加減速制御及び操舵制御を自動的に実行する。この自動運転では、目的地及び走行ルートが予め指定されている場合には、周囲の交通環境に応じた車速、他車両との車間距離、車線を適切に設定しながら走行ルートに沿って目的地まで自動走行し、目的地及び走行ルートが指定されていない場合には、車線に沿って自動走行する。
【0035】
また、運転制御部102は、自動運転による走行中に、自動運転を継続可能な条件(自動運転条件)を満足しなくなった場合、運転者に運転の引継ぎを要求する引継要求を出力する。例えば、システムの一部に異常が発生したり、自動運転の運行領域外となる等して自動運転の継続が困難となった場合、或いは、運転者異常状態検出103によって運転者の脇見や居眠りが検知されたり、運転者の体調悪化が検出され、正常に運転可能な状態でないと判断された場合には、自動運転条件不成立と判断して、その時点までの自動運転における自車位置や速度等の制御情報を記憶すると共に、運転者に運転の引継ぎを要求する引継要求を出力する。
【0036】
この引継要求は、運転モード遷移制御部101に通知されると共に、警報制御部105に通知され、警報制御部105から情報提示装置70を介して運転者に警報される。運転者が反応して前方を確認し、ハンドルやブレーキ等を操作すると、運転モード遷移制御部101から警報制御部105に警報解除が指示され、運転制御部102に自動運転モードの制御停止が指示される。これにより、運転モードが自動運転モードから運転者自身による手動運転モードに遷移する。一方、引継要求に対して運転者が反応しない場合には、運転モード遷移制御部101から運転制御部102に自動運転の中止とリスク低減モードへの制御が指示される。
【0037】
ここで、各運転モード間の遷移について説明する。
図3は運転モードの遷移を示す説明図である。本実施の形態においては、各運転モードの遷移は、
図3に示すように、状態ST1における遷移と状態ST2における遷移がある。
【0038】
状態ST1は、退避モード等のリスク低減モードへの遷移が発生する前の通常の状態を示しており、手動運転モードM1と運転支援モードAS1と自動運転モードATとの間で遷移可能である。状態ST2は、リスク低減モードが途中で解除された後の状態を示しており、手動運転モードM2と運転支援モードAS2との間で遷移可能な状態である。
【0039】
手動運転モードM1と手動運転モードM2とは、同じ手動運転モードであるが、遷移可能な範囲が異なることを示している。同様に、運転支援モードAS1と運転支援モードAS2とは、同じ運転支援モードであるが、遷移可能な範囲が異なることを示している。
【0040】
状態ST1と状態ST2との間には、リスク低減モードRMが介在する。自動運転モードATからリスク低減モードRMに遷移した場合、リスク低減モードRMの終了によってリスク低減モードRMから状態ST1の手動運転モードM1へ復帰する場合と、リスク低減モードRMの途中でリスク低減モードRMが解除され、リスク低減モードRMから状態ST2の手動運転モードM2に遷移する場合がある。
【0041】
リスク低減モードRMの終了によって状態ST1の手動運転モードM1に遷移した場合は、通常の運転モード間の遷移が可能となる。例えば目的地への自動走行中にリスク低減モードRMに遷移してしまった場合であっても、周囲の安全を確認した後、目的地に向けての自動走行を再開することが可能となる。
【0042】
一方、リスク低減モードRMの途中で状態ST2の手動運転モードM2に遷移した場合には、遷移可能な運転モードが一時的に制限される。このモード遷移の制限が解除されるまでは手動運転モードM2と運転支援モードAS2との間の遷移のみが可能となり、自動運転モードATでの自動走行は不可となる。そして、モード遷移の制限が解除されたとき、状態ST2から状態ST1に移行する。
【0043】
例えば、運転者異常状態検出部103によって運転者が前方を確認してハンドルを保舵したことが検出されている状態で一定時間走行した場合、モード遷移の制限を解除する条件が満たされたと判断する。これにより、状態ST2から通常の状態ST1に移行し、手動運転モードM1、運転支援モードAS1、自動運転モードATの遷移が可能となる。
【0044】
運転者異常状態検出部103は、運転者監視部としての運転者監視装置40において視覚センサ41や生体センサ42によって検出された運転者状態を調べ、運転者が自動運転から正常に運転を引き継ぐことのできない異常状態を検出する。例えば、運転者状態として、運転者の眼球運動による角膜上の虚像の移動に基づく視線挙動、視線挙動のばらつきや瞳孔面積の変化に基づく覚醒度、運転者の呼吸の有無、心拍数、血圧、体温、脳波等の生体情報、運転者の顔の向き、運転者の手の動き等を検出する場合、運転者異常状態検出部103は、これらの情報の少なくとも一つに基づいて運転者の異常状態を検出する。
【0045】
例えば、運転者異常状態検出部103は、車線変更や隣接車線に車両がないにも拘わらず、運転者の顔の向きや視線方向が閾値以上で進行方向を注視しておらず、設定時間以上、運転者が進行方向以外の方向を向いて脇見していることを検出した場合、自動運転から正常に引継ぎできない異常状態とする。
【0046】
また、運転者異常状態検出部103は、運転者の瞳孔面積が閾値以下の状態が設定時間以上継続しているか否か、或いは、運転者の生体情報が予め設定した基準値から外れているか否かを調べ、運転者の居眠り或いは健康状態の悪化により、正常に運転を引継ぎできない異常状態を検出する。
【0047】
リスク状態検出部104は、外部環境認識装置10、測位装置20、地図情報処理装置30、運転制御部102からの情報に基づいて、自動運転モードに含まれるリスクの大きさを表す指標となるリスク状態を検出する。リスク状態としては、車両の制御状態と走行環境との少なくとも一方を含んで検出する。
【0048】
車両の制御状態によるリスク状態としては、例えば、自動運転モードにおいて目標車速に向かって加速制御中である場合には、定速、減速制御時に比較して危険度が大きくなるため、リスク状態検出部104は、走行中の加速度をリスク状態として検出する。また、リスク状態検出部104は、自動運転による操舵角、車線中央に対する自車両の横位置、車線に対する自車両のヨー角、前照灯の点灯状態、ワイパの作動状態、走行車線(白線)の認識状態等の車両の制御状態もリスク状態として検出する。
【0049】
更に、リスク状態検出部104は、走行環境によるリスク状態として、走行路の種別(高速道路、一般道路)、走行車線の曲率、走行時の気象状態(外気温、横風、降雨、降雪)等も検出する。高速道路の走行時、曲率の大きいカーブの旋回走行時、外気温低温時、強風時、降雨時、降雪時等は、いずれも通常の環境に比較して危険性が高くなる走行環境であり、リスク状態検出部104は、これらの走行環境をリスク状態として検出する。
【0050】
警報制御部105は、運転者の異常状態とリスク状態とのうちの少なくともリスク状態に基づいて、自動運転モードによる走行時に運転者に対して出力する警報を制御する。警報の制御は、情報提示装置70を介して運転者に出力される警報の強弱又は出力タイミングを可変することで行われる。警報制御部105は、例えば、聴覚的な警報の場合、警報音の出力レベル(振幅)の大小を可変し、視覚的な警報出力の場合は、光の出力レベル(光の強弱)や強調表示の大きさを可変する。
【0051】
警報制御部105は、例えば、リスク状態として検出される加速度が予め設定した加速度以上の加速制御実施中である場合や、悪天候時等の走行環境下である場合、運転者の脇見や居眠りを検知するための運転者の顔の向きや視線方向に対する閾値を、通常よりも警報のタイミングが早くなるように変更し、早期に運転者の前方注視を促す。これにより、万一、自動運転から手動運転への引継要求が出力された場合にも、運転者が迅速に運転を引き継ぐことが可能となる。
【0052】
この場合、警報制御部105は、警報を出力後に運転者の脇見や居眠り等の異常状態が設定時間以上継続した場合、運転制御部104に、加速度抑制の指示を送信し、自動運転モードにおいて通常の制御時よりも加速度を抑制する制御を実施させる。更に、警報制御部105は、加速度抑制後も運転者の異常状態が一定時間以上継続した場合には、運転モード遷移制御部101を介して運転制御部104の自動運転モードを、車両を減速させながら退避地点まで自動で走行させて停止させる退避モード等のリスク低減モードに遷移させる。
【0053】
次に、運転制御システム1の警報制御に係る動作について、
図4のフローチャートで例示される自動運転制御装置100の動作を中心として説明する。
図4は自動運転モードにおける警報処理を示すフローチャートであり、
図4においては運転者の脇見に対する警報出力及び加速抑制の例を示している。
【0054】
自動運転制御装置100における警報処理では、最初のステップS1において、自動運転制御装置100は、加速制御を実施中か否かを調べ、加速制御中でない場合、更にステップS2で悪環境下での走行か否かを調べ、加速制御中の場合、ステップS3へ進む。
【0055】
ステップS2において、自動運転制御装置100は、悪環境下での走行、すなわち、前方のカーブの半径が閾値以下(走行路の曲率が閾値以上)、悪天候下の走行で車線認識(白線認識)の信頼性が低下している等の通常よりも悪条件下での走行と判断した場合、ステップS3の処理を実行し、悪環境でない通常の環境で走行の場合には、ステップS2からステップS4の処理へ進む。
【0056】
ステップS3では、自動運転制御装置100は、脇見検知の閾値を変更する。例えば、運転者の顔の向きや視線方向から脇見を検知する場合、顔の向きや視線方向の変化が通常より小さくても脇見とされるように、閾値を変更する。そして、自動運転制御装置100は、ステップS4において脇見が検知されたか否かを調べ、脇見が検知されていない場合、本処理を抜け、脇が検知された場合、ステップS5で運転の前方注視を促すための前方注視警報を出力する。
【0057】
更に、自動運転制御装置100は、ステップS6において、前方注視警報を出力後に予め設定した時間が経過しても運転者の脇見が継続しているか否かを調べる。前方注視警報によって運転者が前方を確認した場合には本処理を抜け、前方注視警報にも拘わらず運転者の脇見が継続されている場合、ステップS7へ進む。
【0058】
ステップS7では、自動運転制御装置100は、加速制御における目標加速度を低下させる等して加速抑制を行い、ステップS8で、加速抑制後に一定時間が経過しても運転者の脇見が継続しているか否かを調べる。加速抑制後に運転者の脇見が解消された場合には本処理を抜け、加速度抑制後も運転者の脇見が一定時間以上継続した場合、ステップS9で、自動運転モードを退避モード等のリスク低減モードに遷移させ、安全を確保する。
【0059】
このように本実施の形態においては、自動運転モードでの走行中に、運転者の脇見等の異常状態と自動運転の制御状態や走行環境によるリスク状態とのうちの少なくともリスク状態に基づいて、運転者に対して出力する警報を制御する。この警報制御は、通常よりも警報の出力レベルを大きくする又は警報の出力タイミングを通常よりも早くする等して警報を可変することで行う。
【0060】
これにより、自動運転による走行中の危険度が大きくなるような運転状況において、確実に運転者の注意を喚起することができ、自動運転モードから運転者に運転を引継ぐような事態が発生しても、迅速に運転を引き継ぐことが可能となる。しかも、警報出力後に脇見等の運転者の異常状態が解消されない場合には、自動運転モードにおける加速度を抑制し、更にはリスク低減モードに遷移させるので、確実に危険を回避し、安全を確保することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 運転制御システム
10 外部環境認識装置
20 測位装置
30 地図情報処理装置
40 運転者監視装置(運転者監視部)
50 制駆動制御装置
60 操舵制御装置
70 情報提示装置
100 自動運転制御装置
101 運転モード遷移制御部
102 運転制御部
103 運転者異常状態検出部
104 リスク状態検出部
105 警報制御部