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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】塗布シート材の検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/89 20060101AFI20230711BHJP
   G01N 21/892 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
G01N21/89 K
G01N21/892 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017175515
(22)【出願日】2017-09-13
(65)【公開番号】P2019052868
(43)【公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-07-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内野 亮
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-145028(JP,A)
【文献】特開平09-136323(JP,A)
【文献】特開2008-058257(JP,A)
【文献】特開2017-083279(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084260(WO,A1)
【文献】特開平09-302578(JP,A)
【文献】特開2015-152412(JP,A)
【文献】特開2006-079466(JP,A)
【文献】特開平07-042068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84 - G01N 21/958
G01B 11/00 - G01B 11/30
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/74
B05D 3/00 - B05D 3/16
C08J 7/04
H04N 5/222- H04N 5/257
H04N 7/18
H04N 23/00
H04N 23/40 - H04N 23/76
H04N 23/90 - H04N 23/959
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光特性を有するシート基材の少なくとも片面が前記シート基材とは異なる蛍光特性を有する塗布剤により被覆された塗布シート材の検査方法であって、
前記塗布シート材に励起光を照射するステップAと、
前記シート基材が前記励起光を吸収することで生じる前記シート基材からの蛍光あるいは前記塗布剤が前記励起光を吸収することで生じる前記塗布剤からの蛍光について、蛍光の発光強度を特定発光帯域の波長範囲で積分した値を、蛍光の特定発光帯域の光強度(光量)としたとき、
前記シート基材または塗布剤からの蛍光のうち、前記シート基材からの蛍光の特定発光帯域の光強度(光量)と、前記塗布剤からの蛍光の特定発光帯域の光強度(光量)との差が25%以上ある特定発光帯域の光を選択して、受光するステップBと、
前記ステップBで受光した光を信号処理して、発光強度分布を出力するステップCと、
前記発光強度分布から、発光強度が大きい方の光量ともう一方の光量との差が、波長選択手段を通過した後の光量が大きい方の光量を100%としたときに25%以上ある場合に欠陥として判定するステップDと、
を有し、前記励起光が波長範囲300~400nmの紫外光であり、前記特定発光帯域の光の波長範囲が500~700nmの範囲の一部または全部である、塗布シート材の検査方法。
【請求項2】
前記シート基材が白色のポリエチレンフィルムであって、前記塗布剤が透明あるいは白色である、請求項1に記載の塗布シート材の検査方法。
【請求項3】
蛍光特性を有するシート基材の少なくとも片面に前記シート基材とは異なる蛍光特性を有する塗布剤を塗布して塗布シート材を得る塗布工程と、前記塗布シート材を請求項1または2に記載の塗布シート材の検査方法により検査する検査工程とを含む塗布シート材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光するシート基材に蛍光する塗布剤を塗布した塗布シート材の塗布欠陥の検査に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光を利用した塗布剤の抜けやムラなどの塗布欠陥の光学的手段による検査は、産業界で広く利用されている。
【0003】
たとえば、離型紙上に塗布した樹脂の塗布欠陥を客観的に検出でき、製造される樹脂塗布シートの信頼性を高めた樹脂塗布シートの製造に関する技術が提案されている(特許文献1)。ロールから繰り出された離型紙に樹脂を塗布する塗布ローラ及び樹脂が塗布された樹脂塗布シートを巻き取る巻取ローラを備えた樹脂塗布シートの製造装置は、樹脂の塗布面に波長範囲300~400nmの検査光を照射する光源と、照射した検査光の光学特性の差を利用して塗布欠陥を検出する検出手段とが設けられている。
【0004】
また、塗布剤の塗布状態を正確に検査することのできる技術が提案されている(特許文献2)。蛍光物質が混合された塗布剤の塗布状態を検査するための装置は、塗布剤に紫外線を照射するための高圧水銀灯、高圧水銀灯を高周波駆動によって点灯させるために所定の周期で正方向及び負方向に交互に繰り返される矩形状波形の高周波電力を出力するランプ駆動回路、高圧水銀灯の照射により塗布剤が発する蛍光を受光し受光量に応じた受光信号を出力する受光素子、及び受光信号に含まれる交流成分を高周波電力の波形と同期して検出するための同期整流回路を有して構成される。
【0005】
また、フイルムに透明や白色の塗工液を塗工する際、塗工不良部分を簡便に発見することができる技術が提案されている(特許文献3)。フイルムに透明または白色の塗工液を塗工する際に、塗工液中に蛍光増白剤を包含させ、塗工中または塗工後、塗工面に紫外線を照射して、塗工面を肉眼で観察する。
【0006】
また、基板上のコーティング剤塗布状態のより正確に検査できる技術が提案されている(特許文献4)。基板上のコーティング剤塗布状態の検査装置は、基板に紫外光を照射するブラックライト(照射手段)と、紫外光を受けて基板を被覆するコーティング剤が含む第一蛍光剤が発生する第一蛍光と基板が含む第二蛍光剤が発生する第二蛍光を撮像する撮像手段と、撮像手段の画像内の第一蛍光が所定の単色となるように色相を変更する変更手段と、変更された後の画像のRGB信号をゲイン調整する調整手段と、ゲイン調整した後の画像を二値化する二値化手段から構成される。
【0007】
また、紫外線ランプを照射してそれぞれの蛍光体を発光させ、この時それぞれの蛍光体から発される光を波長にしたがって明度差が大きくなるようにしてプラズマディスプレイパネル背面板の蛍光体における不良有無を迅速で正確に検査できるようにしたプラズマディスプレイパネルの蛍光体検査に関する技術が提案されている(特許文献5)。少なくとも一つ以上の蛍光体が塗布されたプラズマディスプレイパネルに紫外線を照射する照射段階と、前記照射により蛍光体から発される光の明度差が大きくなるように差等透過するフィルタリング段階と、前記フィルタリング段階の後、蛍光体からの発光の読出し結果に基づいて蛍光体の不良有無を判断する判断段階とからなる。
【0008】
また、通常可視光、近赤外光の照射では検出できないウェブの欠陥を目視に頼らずに検査する技術が提案されている(特許文献6)。蛍光物質を成分として含む走行ウェブに対象欠陥を可視化させる目的で蛍光染料を励起発光させる主に紫外域の光を照射する投光部と蛍光物質を成分として含む走行ウェブ上を反射または走行ウェブの中を透過した走行ウェブ表面又は内部の構造的な不均一に起因する蛍光反応で励起された光の不均一を欠陥として知覚する受光部と、欠陥を系外に抽出する目的で欠陥の程度の大小、長短を判別するための識別レベルを与える設定部と、設定レベルとの差で大小長短を判別する比較部と、比較された欠陥のウェブ上の発生個所を明示するためにウェブのエツジに印を入れるマーキング部と、比較された欠陥の情報を作成するデータロギング部を有するウェブ検査装置であり、上記の受光部はウェブの走行方向に対しその走査方向の分解能が高くなるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-136323号公報
【文献】特開平8-141487号公報
【文献】特開平5-157706号公報
【文献】特開2015-21797号公報
【文献】特開2004-158454号公報
【文献】特開平4-34348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの従来技術には次のような問題点が残されている。
【0011】
塗布剤が透明あるいは半透明であったり、シート基材と同色であったりする場合は、単にカメラで撮像する方法では、塗布剤の抜けを認識することは出来ない。
【0012】
また、シート基材と塗布剤のいずれもが蛍光性を有している場合、単に塗布剤表面の蛍光強度を測る従来技術では、塗布剤の抜けやムラを認識することはできなかった。
【0013】
さらに特許文献4が提案する、発光色の色身の違いをカラーカメラで撮像した後に色変換でコントラストを改善する手法では、特定の色を発色する材料の組み合わせ以外では利用することができない。
【0014】
本発明の目的は、シート基材に塗布剤をコートする塗布シート材において、シート基材と塗布剤のいずれもが蛍光特性を有する場合でも、精度良く塗布剤の抜けやムラを検査する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明の塗布シート材の検査方法は、
蛍光特性を有するシート基材の少なくとも片面が前記シート基材とは異なる蛍光特性を有する塗布剤により被覆された塗布シート材の検査方法であって、
前記塗布シート材に励起光を照射するステップAと、
前記シート基材が前記励起光を吸収することで生じる前記シート基材からの蛍光あるいは前記塗布剤が前記励起光を吸収することで生じる前記塗布剤からの蛍光について、蛍光の発光強度を特定発光帯域の波長範囲で積分した値を、蛍光の特定発光帯域の光強度(光量)としたとき、
前記シート基材または塗布剤からの蛍光のうち、前記シート基材からの蛍光の特定発光帯域の光強度(光量)と、前記塗布剤からの蛍光の特定発光帯域の光強度(光量)との差が25%以上ある特定発光帯域の光を選択して受光するステップBと、
前記ステップBで受光した光を信号処理して、発光強度分布を出力するステップCと、
前記発光強度分布から、発光強度が大きい方の光量ともう一方の光量との差が、波長選択手段を通過した後の光量が大きい方の光量を100%としたときに25%以上ある場合に欠陥として判定するステップDとを有する。
【0016】
上記課題を解決する本発明の塗布シート材の製造方法は、蛍光特性を有するシート基材の少なくとも片面に、前記シート基材とは異なる蛍光特性を有する塗布剤を塗布して塗布シート材を得る塗布工程と、前記塗布シート材を前記の塗布シート材の検査方法により検査する検査工程とを含む。
【0017】
上記課題を解決する本発明の塗布シート材の検査装置は、
蛍光特性を有するシート基材の少なくとも片面が前記シート基材とは異なる蛍光特性を有する塗布剤により被覆された塗布シート材の検査装置であって、
前記塗布シート材に励起光を照射する照明手段と、
前記シート基材が前記励起光を吸収することで生じる前記シート基材からの蛍光あるいは前記塗布からの蛍光について、蛍光の発光強度を特定発光帯域の波長範囲で積分した値を、蛍光の特定発光帯域の光強度(光量)としたとき、
前記シート基材または塗布剤からの蛍光のうち、前記シート基材からの蛍光の特定発光帯域の光強度(光量)と、前記塗布剤からの蛍光の特定発光帯域の光強度(光量)との差が25%以上である特定発光帯域の光を取得す波長選択手段と、
前記塗布シート材からの蛍光のうち、前記波長選択手段により選択された光を受光する受光手段と、
前記受光手段からの信号を処理して、前記選択された光の発光強度分布を取得する信号処
理手段と、
前記信号処理手段の出力から前記塗布シート材における前記発光強度分布のうち、発光強度が大きい方の光量ともう一方の光量との差が、波長選択手段を通過した後の光量が大きい方の光量を100%としたときに25%以上ある場合に欠陥として判定する判定手段とを有する。
【0018】
ここでいう蛍光特性とは、蛍光スペクトルを示し、各素材が光を吸収し蛍光を発したときの波長毎の発光強度を指す。蛍光において物質に照射する光を励起光と呼び、蛍光の波長は必ず励起光より長くなる。励起光には多くの場合、波長の短い紫外線を用いるが、可視光、たとえば青色の励起光を用いる場合もある。この場合、蛍光の波長は青色より波長の長い緑色や赤色となる。また、光を吸収した後に蛍光を発しない素材もあり、それらは蛍光特性を有さないものとする。
【0019】
また、「蛍光の特定発光帯域の光強度」とは、蛍光の発光強度を特定発光帯域の波長範囲で積分した値のこと、すなわち光量を指す。
【0020】
本発明において蛍光特性を有するとは、光を吸収した後に蛍光を発する能力を有すること指す。蛍光特性は一般的に、素材毎でスペクトルは異なった形状をしており、それを人間の目やカメラでは、明るさや色の違いとして認識される。また、各素材の蛍光特性のうち、蛍光を発する波長の範囲を発光帯域と呼ぶ。発光帯域の幅は素材により様々であるが、単一の材料からなる素材では、なだらかな山形の特性を描く場合が多い。本発明では素材ごとの発光帯域の違いを利用し、シート基材と塗布剤のいずれか一方が他方に比べて明るく発光している特定発光帯域のみを受光することで、塗布シート材の表面状態を精度のよい検査方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明を利用した検査を行うことで、これまで精度の高い検査が難しかった、シート基材と塗布剤のいずれもが蛍光発光する塗布シート材における塗布剤の抜けやムラなどの塗布欠陥の検査を精度良く行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態にかかる検査装置の概略図である。
図2】本発明の実施の形態にかかる塗布シート材のシート基材と塗布剤の蛍光特性の一例を示す図である。
図3】波長選択手段により選択される、特定の波長による塗布シート材の画像の一例を示す図である。
図4】波長を選択しない光学系で取得した塗布シート材の画像の一例を示す図である。
図5】本発明の実施の形態にかかる塗布シート材のシート基材と塗布剤の蛍光特性の一例を示す図である。
図6】実施例1-1におけるシート基材と塗布剤の蛍光特性を示す図である。
図7】実施例1-1における塗布シート材の取得画像を示す図である。
図8】実施例1-2におけるシート基材と塗布剤の蛍光特性を示す図である。
図9】実施例1-2における塗布シート材の取得画像を示す図である。
図10】比較例1-1におけるシート基材と塗布剤の蛍光特性を示す図である。
図11】比較例1-1における塗布シート材の取得画像を示す図である。
図12】実施例2-1におけるシート基材と塗布剤の蛍光特性を示す図である。
図13】実施例2-1における塗布シート材の取得画像を示す図である。
図14】実施例2-2におけるシート基材と塗布剤の蛍光特性を示す図である。
図15】実施例2-2における塗布シート材の取得画像を示す図である。
図16】比較例2-1におけるシート基材と塗布剤の蛍光特性を示す図である。
図17】比較例2-1における塗布シート材の取得画像を示す図である。
図18】実施例3-1におけるシート基材と塗布剤の蛍光特性を示す図である。
図19】実施例3-1における塗布シート材の取得画像を示す図である。
図20】実施例3-2におけるシート基材と塗布剤の蛍光特性を示す図である。
図21】実施例3-2における塗布シート材の取得画像を示す図である。
図22】比較例3-1におけるシート基材と塗布剤の蛍光特性を示す図である。
図23】比較例3-1における塗布シート材の取得画像を示す図である。
図24】実施例4におけるシート基材と塗布剤コート剤の蛍光特性を示す図である。
図25】実施例4におけるカラーカメラにより取得された塗布シート材の取得画像を示す図である。
図26】実施例4におけるカラーカメラにより取得された塗布シート材の画像を、RGBの3チャンネルに分割した場合の画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1に、本発明に係る検査装置の概略を示す。塗布シート材1は、シート基材1aの片面に塗布剤1bにより被覆されている。シート基材1aと塗布剤1bの蛍光特性は例えば図2に示すような関係になっており、シート基材の蛍光特性11と塗布剤の蛍光特性12は異なる蛍光特性を有している。塗布シート材1に励起光源2から励起光を照射すると、励起光を吸収したシート基材1aと塗布剤1bはおのおのの蛍光特性に応じた蛍光を発し、その蛍光スペクトルは図2に示すとおりとなる。シート基材1aの蛍光スペクトル11と塗布剤1bの蛍光スペクトル12では、発光する波長域や発光強度が異なる。ここで塗布剤1bのみが明るく発光し、シート基材1aはほとんど発光しない波長域13を特定発光帯域とする。この帯域を透過させる光学フィルタ3を装着したカメラ4で撮像を行い、塗布シート材の発光強度分布を取得し、信号処理部5により処理を行うと、図3に示すように塗布剤1bに被覆されている(被覆状態がよい)領域である正常部21は明るく写り、塗布剤1bに被覆されていない(被覆状態がよくない)領域である塗工不良部(抜け)22は暗く写る画像が得られる。判定部6では図3のような画像を入力信号として、画像の輝度値が一定の基準を下回る部分を塗工不良部(抜け)22として判定する。仮に光学フィルタ3を用いず、波長を限定せずにカメラ4で撮像を行い、信号処理部5により処理を行った場合、図4に示すように塗布剤1bに被覆されている領域である正常部21と、塗布剤1bに被覆されていない塗工不良部(抜け)23とのいずれもが明るく写る画像が得られるため、塗工不良部(抜け)23を判定することはできない。
【0025】
撮像装置であるカメラについては、蛍光スペクトルの波長帯域に感度を持つ市販のモノクロカメラを使用することができる。撮像素子のセンサタイプとしては、エリアセンサもしくはラインセンサのいずれも使用することができる。また、ビット深度は8ビットや16ビットなどのカメラが使用できる。レンズは蛍光スペクトルの波長帯域での反射コートなどを有していない市販のレンズを使用することができる。
【0026】
また励起光源の設置位置は、図1では塗布シート材に対してカメラと同じ面側に配置されているが、シート基材が励起光に対して透過性を有している場合は、塗布シート材を挟んでカメラと反対側に配置されても良い。
【0027】
次に図5に示すように、シート基材のスペクトル11aと塗布剤のスペクトル12aとの一方のみが発光する特定発光帯域の波長範囲14aが狭い場合、カメラ4に入射する絶対的な光量が少ないため、信号処理部5での処理の結果、全体が暗い画像となってしまい、欠点の認識が難しくなってしまう場合がある。このような場合は、一方の発光スペクトルの光強度と他方の発光スペクトルの光強度の差が25%以上ある波長域を特定発光帯域として選択することが出来る。
【0028】
シート基材と塗布剤がそれぞれ図5のような蛍光特性を有している場合、シート基材の蛍光特性11aと塗布剤の蛍光特性12aとの差が大きい選択波長域13aの範囲の光を透過する光学フィルタ3を選択することで、前記被覆状態の判定を行うことができる。カメラが受光する光量は、選択範囲内の蛍光スペクトルの面積(積分値)に比例する。図5において13aに示す範囲を選択した場合、カメラが受光する塗布剤の光量は、シート基材の光量に対しておおむね2倍であり、検査に十分な光量を得つつ、塗布剤の被覆状態を判断することが出来る。本発明では基材あるいは塗布剤からの蛍光のうち、波長選択手段を通過した後の光量が大きい方の光量を100%として、もう一方の光量が75%以下の場合、つまり両者の差が25%以上ある場合に有意差があると判断して、塗布剤の被覆状態の判定を行う。また選択波長域13は前記条件を満たす範囲を選択することとする。
【0029】
次に、波長選択手段および受光手段にカラーカメラを用いた場合について説明する。カラーカメラは一般的に赤色(R)・緑色(G)・青色(B)に感度を持った3つの素子(チャンネル)の合成で表現される。各チャンネルの選択波長域は一部が重複しており、一般的に赤色に相当するRチャンネルは600~750nmを、緑色に相当するGチャンネルは450~650nmを、青色に相当するBチャンネルは400~550nmを選択波長域としている。シート基材や塗布剤の蛍光特性がこれらのチャンネルでうまく分離できるような蛍光波長を有している場合、たとえばシート基材が600~700nmで蛍光し、塗布剤が400~500nmで蛍光する場合には、前記カラーカメラの出力信号のうち、Bチャンネルの信号を用いることで塗布剤の被覆状態を判断することが出来る。このような場合、Bチャンネルの選択波長域である400~550nmが特定発光帯域である。
【0030】
ここで、特定発光帯域の光の信号処理について説明する。シート基材や塗布剤の蛍光をカメラが受光すると、カメラ内部の撮像素子が光を電荷に変換し、電気信号として処理し、電気信号の大きさに応じた輝度値を出力する。ここで、前記カメラが8ビットのモノクロカメラであれば、最も明るい輝度値を255、最も暗い輝度値を0の256階調(8ビット)に変換する。カメラ内部の撮像素子の各画素に入力される光の光強度が高ければ大きく、光強度が低ければ小さい輝度値となり、蛍光の特定発光帯域の光強度分布に応じた画像が生成される。
このようにして得られた発光強度分布を表す画像に対し、画像の輝度値が一定の基準を下回る/上回る部分が含まれていることを判定し、「画像に含まれていれば塗工不良部(抜け)が存在する」とし、「画像に含まれていなければ塗工不良部(抜け)が存在しない」とする判定によって、塗工不良部(抜け)の有無を判定することができる。事前にシート基材と塗布剤のそれぞれの蛍光スペクトルの違いを見て、画像の輝度値の大きい側もしくは小さい側のどちらを塗工不良部(抜け)として判定するかを定めておけばよい。さらに、画像の輝度値が一定の基準を下回る/上回る部分の面積を計数すれば、塗工不良部(抜け)の大きさを判定することもできる。このような、判定処理は、市販の画像処理ソフト(例えば、MVTec社のHalconなど)を使うことができる。
【0031】
シート基材の少なくとも片面に前記シート基材とは異なる塗布剤を塗布する工程と、上述したシート基材を検査する工程とを有することで、塗布シート材を製造することが可能となる。
【0032】
励起光源には可視光より波長の短い波長範囲300~400nmの紫外光を発する光源を用いることが好ましい。市販されているカメラの多くは可視光領域(400~700nm)のみに感度を有しており、紫外光に対して感度を有しておらず、塗布シート材上で反射や散乱、透過した光源からの紫外光をカメラが受光することは無い。つまり紫外光を発する光源からの励起光はカメラが取得する画像に影響を与えることは無く、好適である。
【0033】
一方、励起光源に可視光を発する光源を用いた場合、カメラはシート基材および塗布剤からの蛍光に加えて、励起光源からの反射光や散乱光、透過光を重畳して受光する。これによりシート基材からの蛍光の光量と塗布剤からの蛍光の光量との差が相対的に小さくなり、適用可能な条件が狭くなる場合がある。また、特定発光帯域を決定する際に、シート基材および塗布剤の発光スペクトルに加えて、光源のスペクトルも考慮に入れて検討する必要があり、波長選択の自由度が狭くなる場合がある。
【0034】
シート基材として、よく用いられる紙には蛍光増白剤が使用されることが多く、その蛍光波長は一般的に400~450nmである。そこで選択波長域を500nm以上とすることでシート基材からの蛍光をほぼ完全に遮断することができる。また多くのカメラは内部に赤外カットフィルタが挿入されており、そのカットオフ周波数は700nm程度であることが多い。これらを勘案し、本発明の波長選択手段では500~700nmを選択することが好適である。
【実施例
【0035】
本発明に実施例と比較例を以下に示す。実施には、以下に示す装置を用いて評価を行った。
モノクロカメラ:(Basler:acA640-90gm)
カラーカメラ:(Basler:acA640-90cm)
フィルター:(エドモンド・オプティクス・ジャパン株式会社:バンドパスフィルター)
光源:(東芝ライテック株式会社:ブラックライト蛍光ランプ FHF32BLB-T ピーク波長352nm)
画像処理ライブラリ:(MVTec:HALCON12)。
【0036】
[実施例1-1]
シート基材に第1の蛍光物質(セレン化カドミウム(CdSe)および硫化亜鉛(ZnS)からなる量子ドット;シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製 LumidotTM480)を含む白色のポリエチレンフィルムを、塗布剤に第1の蛍光物質とは発光帯域が異なる第2の蛍光物質(同上の成分からなる量子ドットであるが、第1の蛍光物質とは粒子径が異なる;シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製 LumidotTM610)を添加した透明あるいは白色の塗工液を塗布剤として塗布し、塗布シート材を作製した。このときのシート基材の蛍光特性11bと塗布剤の蛍光特性12bを図6に示す。
【0037】
塗布シート材にブラックライト(ピーク波長352nm)を光源とする励起光を照射し、図6に示す蛍光特性から、塗工液の発光帯域12bに対応する選択領域13b(575~625nm)を透過するフィルタ(エドモンド・オプティクス・ジャパン社製 ハードコート OD 4 50NMバンドパスフィルター 600NM)を使用し、モノクロカメラにより撮像したところ、図7のような画像が得られた。この時、図7では塗工液が塗布されている正常部21bは明るく、塗工液が塗布されていない抜け22bは暗く撮像された。これを信号処理部と判定部により処理と判定をすることで抜け22bを欠陥として正しく検出することができた。
【0038】
[実施例1-2]
実施例1-1と同じ素材に対して、図8に示す選択領域13c(475~525nm)を透過するフィルタ(エドモンド・オプティクス・ジャパン社製 ハードコート OD 4 50NMバンドパスフィルター 500NM)を使用し、モノクロカメラにより撮像したところ、図9のような画像が得られた。この時、図9では塗工液が塗布されている正常部21cは暗く、塗工液が塗布されていない抜け22cはシート基材のポリエチレンフィルムが表出しているため明るく撮像された。これを信号処理部と判定部により処理と判定をすることで抜け22cを欠陥として正しく検出することができた。
【0039】
[比較例1-1]
実施例1-1と同じ素材に対して、図10に示すように波長を選択せずに可視光の全領域14d(380~750nm)を利用してモノクロカメラにより撮像したところ、図11のような画像が得られた。この時、正常部21dと抜け22dからとの光強度は概ね等しいため、いずれの領域も明るく撮像されてしまい、正常部21dと抜け22dとの差が無いため、抜けを欠陥として正しく検出することができなかった。
【0040】
[実施例2-1]
シート基材として蛍光増白剤が添加された紙(三菱製紙 特菱アート紙)を、塗布剤にシグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製 LumidotTM560を添加したアクリル塗料(株式会社タミヤ タミヤカラーアクリル塗料ミニ X-22)を使用した。図12にシート基材に含まれる蛍光増白剤の蛍光特性11eと塗布剤の蛍光特性12eを示す。この塗布シート剤にブラックライトを光源とする励起光を照射し、塗布剤のみが発光する選択領域13e(550~600nm)を透過するフィルタ(エドモンド・オプティクス・ジャパン社製 ハードコート OD 4 50NMバンドパスフィルター 575NM)を使用し、モノクロカメラにより撮像したところ、図13のような画像が得られた。この時、図13では塗布剤が塗布されている正常部21eは明るく、塗布剤が塗布されていない抜け22eは暗く撮像された。これを信号処理部と判定部により処理と判定をすることで抜け22eを欠陥として正しく検出することができた。
【0041】
[実施例2-2]
実施例2-1と同じ素材に対して、図14に示す選択領域13f(425~475nm)を透過するフィルタ(エドモンド・オプティクス・ジャパン社製 ハードコート OD 4 50NMバンドパスフィルター 450NM)を使用し、モノクロカメラにより撮像したところ、図15のような画像が得られた。この時、図15では塗布剤が塗布されていない抜け22fはシート基材の紙が表出しているため明るく撮像された。これを信号処理部と判定部により処理と判定をすることで抜け22fを欠陥として正しく検出することができた。
【0042】
[比較例2-1]
実施例2-1と同じ素材に対して、図16に示すように波長を選択せずに可視光の全領域14g(380~750nm)を利用してモノクロカメラにより撮像したところ、図17のような画像が得られた。この時、塗布剤が塗布されている正常部21gと塗布剤が塗布されていない抜け22gからとの光強度の積分値は概ね等しいため、いずれの領域も明るく撮像されてしまい、正常部21gと抜け22gとの差が無いため抜けを欠陥として正しく検出することができなかった。
【0043】
[実施例3-1]
シート基材に第1の蛍光物質(セレン化カドミウム(CdSe)および硫化亜鉛(ZnS)からなる量子ドット;シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製 LumidotTM560)を含む白色のポリエチレンフィルムを、塗布剤に第1の蛍光物質とは発光帯域が異なる第2の蛍光物質(同上の成分からなる量子ドットであるが、第1の蛍光物質とは粒子径が異なる;シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製 LumidotTM590)を添加した透明あるいは白色の塗工液を塗布剤として塗布し、塗布シート材を作製した。図18に第1の蛍光物質の蛍光特性11hと第2の蛍光物質の蛍光特性12hを示す。この塗布コート材にブラックライトを光源とする励起光を照射し、領域13h(575nm以上)を透過するフィルタ(エドモンド・オプティクス・ジャパン社製 OD2 ロングパスフィルター 575NM)を使用し、モノクロカメラにより撮像したところ、図19のような画像が得られた。この時、図19では塗布剤が塗布されている正常部21hは明るく撮像された。また塗布剤が塗布されていない抜け22gはシート基材の蛍光があるが、その光量は正常部21hに比べて概ね20%であり、両者の差は80%であった。そのため塗工抜け22hは正常部21hの20%の明るさで撮像された。これを信号処理部と判定部により処理と判定をすることで抜け22hを欠陥として正しく検出することができた。
【0044】
[実施例3-2]
実施例3-1と同じ素材に対して、図20に示す選択領域13i(550nm以上)を透過するフィルタ(エドモンド・オプティクス・ジャパン社製 OD2 ショートパスフィルター 550NM)を使用し、モノクロカメラにより撮像したところ、図21のような画像が得られた。この時、図21では塗布剤が塗布されていない抜け22iが明るく撮像された。また塗布剤が塗布されている正常部21iは抜け22iに比べて概ね30%の明るさで撮像された。両者の光量差は70%あり、これを信号処理部と判定部により処理と判定をすることで抜け22iを欠陥として正しく検出することができた。
【0045】
[比較例3-1]
実施例3-1と同じ素材に対して、図22に示すように波長を選択せずに可視光の全領域13j(380~750nm)を利用してモノクロカメラにより撮像したところ、図23のような画像が得られた。この時、正常部21jと抜け22jからとの光強度の積分値は概ね等しいため、いずれの領域も明るく撮像されてしまい、正常部21jと抜け22jとの差が無いため抜け22jを欠陥として正しく検出することができなかった。
【0046】
[実施例4]
実施例2-1と同じ素材で作製した塗布シート材に、ブラックライトを励起光源とし、波長選択手段および受光手段にカラーカメラを用いて得られた、RGB(レッド/グリーン/ブルー)の3チャンネルからなるカラー画像30を用いて画像処理により良否を判定する画像処理装置から構成された検査装置で検査した。図24にシート基材である紙の蛍光特性11eと塗布剤の蛍光特性12eを示す。カラーカメラの各チャンネルはそれぞれ若干重複しながら、赤色に相当するRチャンネルは600~750nmを、緑色に相当するGチャンネルは450~650nmを、青色に相当するBチャンネルは400~550nmを選択波長域としている。
【0047】
上記に示す構成の検査装置で、図25のような3種の欠陥(抜け32a、シート基材の破れ32b、蛍光しない異物の混入32c)が発生している撥水紙の撮像画像を取得し、各チャンネルに分割した画像、すなわちR画像30a、G画像30bおよびB画像30cを図26に示す。この時、正常部31および各欠点部32のRGBの各画像での明暗の組み合わせは表1の通りである。
【0048】
【表1】
【0049】
このときB画像、G画像が共に明部である領域は正常に塗布されている正常部31である。B画像が明、G画像が暗の領域は塗布が正常にされていない抜け32aである。B画像、G画像が共に暗な領域はシート基材の破れ32bである。B画像が暗、G画像が明の領域はシート基材と塗布剤との間に異物が混入した異物32cである。このようにRGB画像の明暗の比較により、撥水紙の欠陥検査を精度良く行うことが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、蛍光特性を持つシート基材に塗布剤の塗布した塗布シート材の塗布状態の検査に有用である。
【符号の説明】
【0051】
1:塗布シート材
1a:シート基材
1b:塗布剤
2:励起光源
3:光学フィルタ
4:カメラ
5:信号処理部
6:判定部
11:シート基材の蛍光特性
11a~h:各実施例あるいは比較例のシート基材の蛍光特性
12:塗布剤の蛍光特性
12a~h:各実施例あるいは比較例の塗布剤の蛍光特性
13:選択した発光帯域
13a~i:各実施例の選択した発光帯域
14:検査に適さない発光帯域
14d~j:各比較例の選択した発光帯域21:正常部
21a~j:各実施例あるいは比較例の正常部
22:塗工不良部(抜け)
22a~j:各実施例あるいは比較例の塗工不良部(抜け)
23:塗工不良部(抜け)
30:カラー画像
30a:Rチャンネル画像
30b:Gチャンネル画像
30c:Rチャンネル画像
31:正常部
32a:欠陥(抜け)
32b:欠陥(異物)
32c:欠陥(破れ)
図1
図2
図3
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