(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】誘電体フィルム
(51)【国際特許分類】
H01B 17/56 20060101AFI20230711BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20230711BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230711BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20230711BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20230711BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20230711BHJP
H01B 3/00 20060101ALI20230711BHJP
H01B 3/44 20060101ALI20230711BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
H01B17/56 A
C08K3/01
C08L101/00
C08K3/38
C08L27/16
C08K7/00
H01B3/00 A
H01B3/44 C
H01B3/44 P
H01G4/30 201L
H01G4/30 515
(21)【出願番号】P 2018244589
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 友美
(72)【発明者】
【氏名】小澤 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 忠司
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-078512(JP,A)
【文献】特開2011-184273(JP,A)
【文献】特開2009-038088(JP,A)
【文献】特開2017-010978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 17/56
C08K 3/01
C08L 101/00
C08K 3/38
C08L 27/16
C08K 7/00
H01B 3/00
H01B 3/44
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた誘電体フィルム。
(1)前記誘電体フィルムは、
ポリマーと、
前記ポリマー中に分散している板状の無機フィラーと
を備え、
前記無機フィラーは、
層状ペロブスカイト型酸化物誘電体からなる。
(2)前記誘電体フィルムは、平均D
max/t
max比が
5以上300以下である。
但し、
「D
max」とは、前記誘電体フィルム中に分散している前記無機フィラーを前記誘電体フィルムの表面に対して平行な面に投影した時の、投影面の長さ、
「t
max」とは、前記誘電体フィルム中に分散している前記無機フィラーを前記誘電体フィルムの表面に対して垂直な面に投影した時の、投影面の長さ。
【請求項2】
前記層状ペロブスカイト型酸化物誘電体は、BO
6八面体(但し、Bは、1種又は2種以上の遷移金属イオン)を単位格子内に少なくとも4個内包したペロブスカイト型構造を有する酸化物からなる
請求項1に記載の誘電体フィルム。
【請求項3】
前記ポリマーは、ポリフッ化ビニリデンを含む
請求項1又は2に記載の誘電体フィルム。
【請求項4】
厚さが2μm以上10μm以下である
請求項1から3までのいずれか1項に記載の誘電体フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体フィルムに関し、さらに詳しくは、ポリマーと板状の無機フィラーとの複合体からなる誘電体フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサは、2枚の電極の間に誘電体を挿入したものであり、その静電容量は、誘電体の比誘電率に比例する。コンデンサに使用される誘電体としては、例えば、セラミックス、プラスチック、絶縁油、マイカなどが知られている。特に、BaTiO3は、比誘電率が大きいため、小型・大容量のコンデンサの誘電体には、主としてBaTiO3が用いられている。
【0003】
BaTiO3は、常温(25℃)では正方晶であるが、結晶構造が正方晶(強誘電体)から立方晶(常誘電体)に変化するキュリー点(約125℃)を持ち、キュリー点では比誘電率が最も高くなる。そのため、BaTiO3を用いたコンデンサは、キュリー点近傍において静電容量が大きく変化する。しかし、BaTiO3からなる緻密な焼結体を得るためには、1300℃前後の高い焼結温度を必要とする。さらに、BaTiO3は、加工性に乏しいために、任意の形状や複雑な形状に加工するのが難しい。
【0004】
一方、ポリプロピレンなどのポリマーからなるプラスチックフィルムは、フィルムコンデンサの誘電体として用いられている。プラスチックフィルムは、可撓性があるために、容易にロール状に巻き取ることができる。しかしながら、ポリマーは、比誘電率が小さいために、コンデンサ容量を大きくするためには、巻回数を多くする必要がある。そのため、フィルムコンデンサは、積層セラミックチップコンデンサに比べて大型化するという問題がある。
【0005】
これに対し、可撓性のあるポリマーと、高い比誘電率を有する無機フィラーとを複合化させると、可撓性と高比誘電率とを両立させることができる。また、このような複合体を用いてフィルムコンデンサを作製すると、ポリマーのみを用いた場合に比べて、フィルムコンデンサを小型化することができる。しかしながら、ポリマーと無機フィラーとの複合体は、絶縁破壊強度が低いという問題がある。
【0006】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、チタン酸ストロンチウム粉末を40体積%含む複合誘電体層の両面に、ポリビニルアセトアセタール樹脂からなる高耐電圧性樹脂層を形成した誘電体フィルムが開示されている。
同文献には、
(a)熱硬化性樹脂に無機成分を分散させると、複合誘電体層の表面の平滑性が低下し、複合誘電体層の両主面に形成される電極と、複合誘電体層を構成する無機成分との間にある樹脂部分に電界集中が発生するために、耐電圧性が低下する点、及び
(b)有機成分と無機成分とを複合化した複合誘電体層の両面に高耐電圧性樹脂層を形成すると、誘電体フィルム全体の耐電圧性が向上する点
が記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、樹脂からなるマトリックス粒子の表面に無機化合物からなる被膜が形成された複合粒子を作製し、複合粒子を成形することにより得られる誘電体複合材料が開示されている。
同文献には、
(a)このような方法により、電極対向方向において並列接続モデル又はこれに近い構造を備えた誘電体複合材料が得られる点、及び、
(b)これにより、少量の無機化合物の添加で高い比誘電率が得られる点
が記載されている。
【0008】
ハイブリッド自動車や電気自動車のパワーコントロールユニット(PCU)には、フィルムコンデンサが用いられている。フィルムコンデンサは、PCUの構成部品の中でも大型であるため、小型化が望まれている。フィルムコンデンサを小型化するためには、材料の容量密度を向上させることが必須である。
【0009】
容量密度を向上させるためには、フィルムの厚さを薄くすることが必要である。それに伴い、フィルム中の無機フィラーの微細化も求められる。しかし、従来用いられてきた球形フィラー(BaTiO3などの単純ペロブスカイト型化合物)は、サイズ効果があり、粒子サイズが小さくなるほど、比誘電率が低下する。そのため、従来の方法では、高性能なコンデンサ用フィルムは得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4893396号公報
【文献】特開2018-006052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、ポリマーと板状の無機フィラーとを含む新規な誘電体フィルムを提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、フィルムの厚さを薄くした場合であっても、相対的に高い絶縁破壊強度を示す誘電体フィルムを提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、フィルムの厚さを薄くした場合であっても、相対的に高い比誘電率を示す誘電体フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る誘電体フィルムは、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記誘電体フィルムは、
ポリマーと、
前記ポリマー中に分散している板状の無機フィラーと
を備え、
前記無機フィラーは、誘電特性を持つ無機化合物からなる。
(2)前記誘電体フィルムは、平均Dmax/tmax比が1超である。
但し、
「Dmax」とは、前記誘電体フィルム中に分散している前記無機フィラーを前記誘電体フィルムの表面に対して平行な面に投影した時の、投影面の長さ、
「tmax」とは、前記誘電体フィルム中に分散している前記無機フィラーを前記誘電体フィルムの表面に対して垂直な面に投影した時の、投影面の長さ。
前記無機フィラーは、層状ペロブスカイト型酸化物誘電体が好ましい。
【発明の効果】
【0013】
無機化合物からなる無機フィラーは、ポリマーに比べて比誘電率が高い。特に、層状ペロブスカイト型酸化物は、結晶構造に異方性があるため、比較的容易に板状粒子を合成することができる。さらに、板状粒子は、サイズ効果がないため、平均粒子サイズを小さくしても比誘電率の低下が少ない。そのため、このような板状粒子を無機フィラーとして用いると、球状フィラーを用いた場合に比べて、高性能な誘電体フィルムを作製することができる。
【0014】
具体的には、板状の無機フィラーを用いた誘電体フィルムは、球状の無機フィラーを用いた場合に比べて最大エネルギー密度が高くなる。その結果、フィルムの厚さを薄くした場合であっても、高い絶縁破壊強度を示す。また、板状の無機フィラーは、粒子サイズ効果がないため、フィルムの厚さを薄くし、それに適合するように平均粒子サイズを小さくした場合であっても、高い比誘電率を示す。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】無機フィラーのアスペクト比とD
max/t
max比との関係を示す図である。
【
図2】矩形フィラーの平均D
max/t
max比と相対性能指数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 誘電体フィルム]
本発明に係る誘電体フィルムは、以下の構成を備えている。
(1)前記誘電体フィルムは、
ポリマーと、
前記ポリマー中に分散している板状の無機フィラーと
を備え、
前記無機フィラーは、誘電特性を持つ無機化合物からなる。
(2)前記誘電体フィルムは、平均Dmax/tmax比が1超である。
【0017】
[1.1. ポリマー]
本発明において、ポリマーの材料は、特に限定されない。ポリマーは、熱可塑性樹脂であっても良く、あるいは、熱硬化性樹脂であっても良い。
ポリマーとしては、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、ポリフルオレン、ポリスルホン、ポリエチレンイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリウレタン、セルロースアセテート、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン、シアノエチルセルロースなどがある。ポリマーには、これらのいずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を用いても良い。
これらの中でも、ポリマーは、PVDFが好ましい。これは、他のポリマーに比べて比誘電率が高いためである。
【0018】
[1.2. 無機フィラー]
[1.2.1. 組成]
本発明において、無機フィラーは、誘電特性を持つ無機化合物であれば良く、その組成は特に限定されない。無機フィラーとしては、例えば、層状ペロブスカイト型酸化物誘電体、ペロブスカイト型酸化物誘電体、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタルなどがある。これらの中でも、層状ペロブスカイト型酸化物誘電体は、
(a)相対的に高い比誘電率を持つ、
(b)結晶構造に異方性があるために、板状粒子の合成が容易である、
などの利点があるので、無機フィラーの材料として好適である。
ここで、「層状ペロブスカイト型酸化物誘電体」とは、BO6八面体(但し、Bは、1種又は2種以上の遷移金属イオン)を単位格子内に少なくとも4個内包したペロブスカイト型構造を有する酸化物をいう。Bは、特にNb、Ta、又はTiが好ましい。
【0019】
層状ペロブスカイト型酸化物誘電体としては、具体的には、以下のようなものがある。無機フィラーは、これらのいずれか1種を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
(a)KCa2Nam-3NbmO3m+1(mは、1以上の整数)。
(b)Ca2Nam-3NbmO3m+1(mは、1以上の整数)。
(c)一般式:A'・An-1BnO3n+1(nは、1以上の整数)で表されるディオンヤコブソン(DJ)型化合物。
(d)一般式:A'm・An-1BnO3n+1(n、mは、1以上の整数)で表されるルドルスデンポッパー(RP)型化合物。
(e)一般式:A'2O2・An-1BnO3n+1(n、mは、1以上の整数)で表されるオーリビリウス型化合物。
但し、
A'は、1種又は2種以上のアルカリ金属イオン、
Aは、アルカリ金属イオン、第2族元素のイオン、及び希土類金属イオンからなる群から選ばれるいずれか1種以上のイオン、
Bは、1種又は2種以上の遷移金属イオン。
【0020】
[1.2.2. 比誘電率]
無機フィラーを構成する無機化合物の比誘電率は、誘電体フィルムの特性に影響を与える。一般に、無機化合物の比誘電率が大きくなるほど、これを含む誘電体フィルムの比誘電率も大きくなる。ポリマーのみからなる誘電体フィルムよりも高い比誘電率を得るためには、無機化合物の比誘電率は、3以上が好ましい。無機化合物の比誘電率は、好ましくは、6以上、さらに好ましくは、10以上である。
【0021】
[1.3. 誘電体フィルムの特性]
[1.3.1. 無機フィラーの含有量]
誘電体フィルムに含まれる無機フィラーの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。ポリマーは、無機フィラーに比べて比誘電率が小さい。そのため、無機フィラーの含有量が少なすぎると、誘電体フィルムの比誘電率が低下する。従って、無機フィラーの含有量は、10vol%以上が好ましい。無機フィラーの含有量は、好ましくは、20vol%以上である。
【0022】
一方、無機フィラーの含有量が過剰になると、無機フィラーがフィルム内で凝集しやすくなり、フィルム性能の低下を招く。従って、無機フィラーの含有量は、40vol%以下が好ましい。無機フィラーの含有量は、好ましくは、30vol%以下である。
【0023】
[1.3.2. 平均Dmax/tmax比]
[A. 定義]
「平均Dmax/tmax比」とは、100個以上の無機フィラーについて測定されたDmax/tmax比の平均値をいう。
「Dmax」とは、前記誘電体フィルム中に分散している前記無機フィラーを前記誘電体フィルムの表面に対して平行な面に投影した時の、投影面の長さをいう。
「tmax」とは、前記誘電体フィルム中に分散している前記無機フィラーを前記誘電体フィルムの表面に対して垂直な面に投影した時の、投影面の長さをいう。
【0024】
図1に、無機フィラーのアスペクト比とD
max/t
max比との関係を示す。
図1中、x軸方向が誘電体フィルムの表面に対して平行方向を表し、y軸方向が誘電体フィルムの表面に対して垂直方向を表す。また、θは、板状粒子の長軸方向とx軸とのなす角を表す。
例えば、板状粒子の断面が楕円形をしている場合において、θがゼロより大きい時には、D
maxは、楕円をx軸に投影した時の、投影面のx軸方向の長さとして求められる。また、t
maxは、楕円をy軸に投影した時の、投影面のy軸方向の長さとして求められる。なお、θがゼロである場合、D
max/t
max比は、アスペクト比(D/t)と同義となる。板状粒子の断面が他の形状(例えば、矩形状)である場合も同様であり、
図1と同様の方法により、D
max/t
max比を求めることができる。
【0025】
無機フィラーが層状ペロブスカイト型酸化物誘電体からなる場合、層状ペロブスカイト型酸化物誘電体は結晶構造に異方性があるため、その板状粒子は、通常、厚さ方向の誘電特性が最も高くなる。しかしながら、ポリマー中にアスペクト比がD/tである板状粒子を分散させた場合、板状粒子の長軸方向が誘電体フィルムの表面(x軸)に対して必ずしも平行になるとは限らない。そのため、高い誘電特性を得るためには、単に板状粒子の平均アスペクト比を特定するだけでなく、平均Dmax/tmax比を特定する必要がある。
【0026】
[B. 好適な平均Dmax/tmax比]
無機フィラーの平均Dmax/tmax比は、性能指数に影響を与える。一般に、平均Dmax/tmax比が大きくなるほど、性能指数が向上する。高い性能指数を得るためには、平均Dmax/tmax比は、1超である必要がある。平均Dmax/tmax比は、好ましくは、5以上である。
一方、平均Dmax/tmax比が大きくなりすぎると、フィルムの可撓性が低下し、巻き取りが困難となる。従って、平均Dmax/tmax比は、300以下が好ましい。
【0027】
[1.3.3. 誘電体フィルムの厚さ]
誘電体フィルムの厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。一般に、誘電体フィルムの厚さが薄くなりすぎると、自立膜としての取り扱いが困難となる。従って、誘電体フィルムの厚さは、2μm以上が好ましい。
一方、誘電体フィルムの厚さが厚くなりすぎると、容量密度が低下する。従って、誘電体フィルムの厚さは、10μm以下が好ましい。誘電体フィルムの厚さは、好ましくは、6μm以下、さらに好ましくは、4μm以下である。
【0028】
[2. 誘電体フィルムの製造方法]
本発明に係る誘電体フィルムは、
(a)所定の組成となるように原料を混合し、
(b)混合物をフィルム状に成形する
ことにより製造することができる。
混合方法及び成形方法、並びに、それらの条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0029】
[3. 作用]
ハイブリッド自動車や電気自動車のパワーコントロールユニット(PCU)には、フィルムコンデンサが用いられている。フィルムコンデンサは、PCUの構成部品の中でも大型であるため、小型化が望まれている。フィルムコンデンサを小型化するためには、材料の容量密度を向上させることが必須である。容量は、次の式(1)で表される。
容量密度[F/m3]=ε0εr/d2 …(1)
但し、
ε0:真空の誘電率、8.854×10-12[F/m]、
εr:材料の比誘電率、
d:フィルムの厚み[m]
【0030】
容量密度を向上させるためには、フィルムの薄膜化が必要である。それに伴い、フィルム中の無機フィラーの微細化も求められる。しかし、従来用いられてきた球状フィラーは、サイズ効果があり、平均粒子サイズが小さくなるほど、比誘電率が減少する。そのため、従来の誘電体フィルムでは、高性能なコンデンサ用フィルムは得られない。
【0031】
これに対し、無機化合物からなる無機フィラーは、ポリマーに比べて比誘電率が高い。特に、層状ペロブスカイト型酸化物は、結晶構造に異方性があるため、比較的容易に板状粒子を合成することができる。さらに、板状粒子はサイズ効果がないため、粒子サイズを小さくしても比誘電率の低下が少ない。そのため、このような板状粒子を無機フィラーとして用いると、球状フィラーを用いた場合に比べて高性能な誘電体フィルムを作製することができる。
【0032】
具体的には、板状の無機フィラーを用いた誘電体フィルムは、球状の無機フィラーを用いた場合に比べて高エネルギー密度化する。その結果、フィルムの厚さを薄くした場合であっても、高い絶縁破壊強度を示す。また、板状の無機フィラーは、粒子サイズ効果がないため、フィルムの厚さを薄くし、それに適合するように粒子サイズを小さくした場合であっても、高い比誘電率を示す。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
[1. 試験方法]
矩形の無機フィラーをポリマー中に分散させた誘電体フィルムについて、シミュレーションにより比誘電率及び抵抗率(絶縁破壊強度に相当)を算出した。この場合、θ=0°又は90°、無機フィラーの平均アスペクト比=1~7.5、無機フィラーの含有量=30vol%、誘電体フィルムの厚さ=5μmとした。得られた比誘電率及び抵抗率を用いて、最大エネルギー密度Umaxを算出した。さらに、矩形フィラーを含む誘電体フィルムの最大エネルギー密度Umaxを、球形フィラーを含む誘電体フィルムの最大エネルギー密度Umaxで除すことで相対性能指数を求めた。
【0034】
ここで、「最大エネルギー密度Umax」とは、コンデンサに蓄積可能な最大エネルギーを示す指標であって、次の式(2)で表される値をいう。
Umax=(1/2)ε0εrEBDS
2 …(2)
但し、
ε0:8.854×10-12m-3kg-1s4A2
εr:比誘電率
EBDS:絶縁破壊強度(V/μm)
【0035】
[2. 結果]
図2に、矩形フィラーの平均D
max/t
max比と相対性能指数との関係を示す。
図2中、平均D
max/t
max比が1未満である時は、矩形フィラーの長軸方向が縦向きに配向していることを表す。また、平均D
max/t
max比が1超である時は、矩形フィラーの長軸方向が横向きに配向していることを表す。
図2より、以下のことが分かる。
(1)平均D
max/t
max比が1より大きい矩形フィラーを含む誘電体フィルムは、球形フィラーを含む誘電体フィルムより相対性能指数が高い。
(2)平均D
max/t
max比が3以上である矩形フィラーを含む誘電体フィルムは、球形フィラーを含む誘電体フィルムに比べて、5%以上の性能向上が予測される。
(3)平均D
max/t
max比が5以上である矩形フィラーを含む誘電体フィルムは、球形フィラーを含む誘電体フィルムに比べて、10%以上の性能向上が予測される。
【0036】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る誘電体フィルムは、ハイブリッド車やHV車のPCUに用いられるコンデンサの誘電体として使用することができる。