IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドヴィックスの特許一覧

<>
  • 特許-ブレーキ制御装置 図1
  • 特許-ブレーキ制御装置 図2
  • 特許-ブレーキ制御装置 図3
  • 特許-ブレーキ制御装置 図4
  • 特許-ブレーキ制御装置 図5
  • 特許-ブレーキ制御装置 図6
  • 特許-ブレーキ制御装置 図7
  • 特許-ブレーキ制御装置 図8
  • 特許-ブレーキ制御装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】ブレーキ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20230711BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20230711BHJP
   B60T 13/12 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
B60T7/12 A
B60T13/74 G
B60T13/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019098065
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2020192836
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 達也
(72)【発明者】
【氏名】浦岡 照薫
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-112240(JP,A)
【文献】特開2008-087698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 13/00-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪と一体に回転する被制動部材に向けて液圧によって制動部材を押圧して液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、
モータを駆動することによって前記被制動部材に向けて前記制動部材を押圧して電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、
を備える車両に適用されるブレーキ制御装置であって、
マスタシリンダの液圧に基づいて前記モータへの電流の目標値である目標電流値を演算し、前記モータへの電流の実績値である実績電流値が前記目標電流値に到達すると、前記モータへの通電量を減少させ、
前記車両が停止している道路の傾斜角に基づいて、前記車両が停止するために必要な制動力に対応する前記マスタシリンダの液圧の閾値である液圧閾値を設定し、
前記マスタシリンダの液圧の時間変化量を演算し、前記時間変化量が所定変化量を超過した場合には、その後に前記マスタシリンダの液圧が前記液圧閾値以下になったときに前記モータへの通電量を増加させる制御部を備えるブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記液圧閾値を、前記モータへの通電量の減少を開始する時点の前記実績電流値に基づいて決定する、請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記液圧閾値を、前記モータへの通電量の減少を開始する時点の前記実績電流値が大きいほど小さく設定する、請求項2に記載のブレーキ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車等の車両において、液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置(EPB(Electric Parking Brake))を併用するブレーキ装置が多く採用されている。このブレーキ装置では、例えば、車両の車輪と一体に回転する被制動部材に向けて液圧によって制動部材を押圧して液圧制動力を発生させ、また、モータを駆動することによって前記被制動部材に向けて前記制動部材を押圧して電動制動力を発生させる。この場合、液圧制動力と電動制動力を合計した制動力が発生する。
【0003】
したがって、例えば、液圧制動力が発生している場合に、それとは独立して目標制動力を電動制動力によって発生させようとすると、過剰な制動力が発生してしまう。そこで、発生している液圧制動力をマスタシリンダの液圧に基づいて推定し、目標制動力からその推定液圧制動力を減算した分を電動制動力によって発生させる従来技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】独国特許出願公開第10150803号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術の場合、例えば、ドライバ(運転者)による急なブレーキ操作(急踏み)等によってマスタシリンダの液圧がホイールシリンダに充分に到達していない状態では、推定液圧制動力は、現実に発生している液圧制動力よりも小さいことになる。その場合、推定液圧制動力と電動制動力の合計は、目標制動力よりも小さくなってしまう。そうすると、例えば、車両を坂路で停止させるために必要な制動力を実現できない事態が発生する、という問題がある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、液圧ブレーキ装置と電動ブレーキ装置を併用するブレーキ装置において、ドライバによる急なブレーキ操作等によってマスタシリンダの液圧がホイールシリンダに充分に到達しない場合でも、必要な制動力を実現することができるブレーキ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるブレーキ制御装置は、例えば、車両の車輪と一体に回転する被制動部材に向けて液圧によって制動部材を押圧して液圧制動力を発生させる液圧ブレーキ装置と、モータを駆動することによって前記被制動部材に向けて前記制動部材を押圧して電動制動力を発生させる電動ブレーキ装置と、を備える車両に適用されるブレーキ制御装置であって、マスタシリンダの液圧に基づいて前記モータへの電流の目標値である目標電流値を演算し、前記モータへの電流の実績値である実績電流値が前記目標電流値に到達すると、前記モータへの通電量を減少させ、前記車両が停止している道路の傾斜角に基づいて、前記車両が停止するために必要な制動力に対応する前記マスタシリンダの液圧の閾値である液圧閾値を設定し、前記マスタシリンダの液圧の時間変化量を演算し、前記時間変化量が所定変化量を超過した場合には、その後に前記マスタシリンダの液圧が前記液圧閾値以下になったときに前記モータへの通電量を増加させる制御部を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。
図2図2は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。
図3図3は、第1実施形態におけるマスタシリンダ液圧と目標電流値の関係を示すグラフである。
図4図4は、第1実施形態における道路傾斜角と液圧閾値の関係を示すグラフである。
図5図5は、第1実施形態における各値の経時変化の例を示すタイムチャートである。
図6図6は、第1実施形態のブレーキ制御装置によって実行される駐車ブレーキ制御処理を示すフローチャートである。
図7図7は、第1実施形態のブレーキ制御装置によって実行されるリクランプ制御処理を示すフローチャートである。
図8図8は、第2実施形態における各値の経時変化の例を示すタイムチャートである。
図9図9は、第2実施形態のブレーキ制御装置によって実行される駐車ブレーキ制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態(第1実施形態、第2実施形態)が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、以下の構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0010】
なお、以下において、1回目のEPB作動をクランプと称し、その後の制動力調整のための2回目のEPB作動をリクランプと称する場合がある。また、第1実施形態と第2実施形態は、第1実施形態ではクランプを完了してからリクランプを行い、第2実施形態ではクランプを途中で強制的に終了してからリクランプを開始する点で異なっている。
【0011】
また、第1実施形態、第2実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキ装置を例に挙げて説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。図2は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。
【0013】
図1図2に示すように、第1実施形態の車両用ブレーキ装置は、車両の車輪と一体に回転するブレーキディスク12(被制動部材)に向けて液圧によってブレーキパッド11(制動部材)を押圧して液圧制動力(サービスブレーキ力)を発生させるサービスブレーキ1(液圧ブレーキ装置)と、EPBモータ10を駆動することによってブレーキディスク12に向けてブレーキパッド11を押圧して電動制動力を発生させるEPB2(電動ブレーキ装置)と、を備える。
【0014】
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに基づいてブレーキ液圧を発生させ、このブレーキ液圧に基づいてサービスブレーキ力を発生させる液圧ブレーキ機構である。具体的には、サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をM/C(マスタシリンダ)5内に発生させる。そして、このブレーキ液圧を各車輪の車輪ブレーキ機構に備えられたW/C(ホイールシリンダ)6に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられている。アクチュエータ7は、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行う。
【0015】
アクチュエータ7を用いた各種制御は、サービスブレーキ力を制御するESC(Electronic Stability Control)-ECU8にて実行される。例えば、アクチュエータ7に備えられる各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流をESC-ECU8が出力することにより、アクチュエータ7に備えられる液圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータ7は、各車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。また、アクチュエータ7は、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基づいて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/C6を加圧できる。
【0016】
一方、EPB2は、EPBモータ10によって車輪ブレーキ機構を駆動させることで電動制動力を発生させるものであり、EPBモータ10の駆動を制御するEPB-ECU9(制御部)を有して構成されている。なお、EPB-ECU9とESC-ECU8は、例えばCAN(Controller Area Network)通信によって情報の送受信を行う。
【0017】
車輪ブレーキ機構は、第1実施形態の車両用ブレーキ装置においてブレーキ力(制動力)を発生させる機械的構造であり、まず、前輪系の車輪ブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってサービスブレーキ力を発生させる構造とされている。一方、後輪系の車輪ブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系の車輪ブレーキ機構は、後輪系の車輪ブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基づいて電動制動力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられている車輪ブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下では後輪系の車輪ブレーキ機構について説明する。
【0018】
後輪系の車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12(12RL、12RR、12FR、12FL)を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0019】
具体的には、車輪ブレーキ機構は、図1に示すキャリパ13内において、図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているEPBモータ10を回転させることにより、EPBモータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させる。そして、平歯車15に噛合わされた平歯車16にEPBモータ10の回転力(出力)を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2による電動制動力を発生させる。
【0020】
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19などを備えて構成されている。
【0021】
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回動させられると、平歯車16の回動に伴って回動させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支持している。
【0022】
推進軸18は、中空状の筒部材からなるナットにて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回動しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられない構造になっている。このため、回転軸17が回動させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、EPBモータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標とする電動制動力になったときにEPBモータ10の駆動を停止すれば、推進軸18がその位置で保持され、所望の電動制動力を保持してセルフロック(以下、単に「ロック」という。)できるようになっている。
【0023】
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液漏れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。シール部材22は、ロック制御後のリリース制御時にピストン19を引き戻すための反力を発生させるために用いられる。このシール部材22を備えてあるため、基本的には旋回中に傾斜したブレーキディスク12によってブレーキパッド11およびピストン19がシール部材22の弾性変形量を超えない範囲で押し込まれても、それらをブレーキディスク12側に押し戻してブレーキディスク12とブレーキパッド11との間が所定のクリアランスで保持されるようにできる。
【0024】
また、ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
【0025】
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸18が通常リリースのときの待機位置であるリリース位置(EPBモータ10が回転させられる前の状態)のときに、中空部14a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、後述するシール部材22の弾性力によりピストン19が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離間させられるようになっている。また、EPBモータ10が回転させられて推進軸18が初期位置から紙面左方向に移動させられているときには、W/C圧が0になっても、移動した推進軸18によってピストン19の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド11がその場所で保持される。
【0026】
このように構成された車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基づいてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、サービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、EPBモータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴って推進軸18の先端がピストン19の底面に当接してピストン19を押圧し、ピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、電動制動力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の車輪ブレーキ機構とすることが可能となる。
【0027】
また、EPBモータ10の電流を検出する電流センサ(不図示)による電流検出値を確認することにより、EPB2による電動制動力の発生状態を確認したり、その電流検出値を認識したりすることができる。
【0028】
前後Gセンサ25は、車両の前後方向(進行方向)のG(加速度)を検出し、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0029】
M/C圧センサ26は、M/C5におけるM/C圧を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0030】
温度センサ28は、車輪ブレーキ機構(例えばブレーキディスク)の温度を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0031】
車輪速センサ29は、各車輪の回転速度を検出し、検出信号をEPB-ECU9に送信する。なお、車輪速センサ29は、実際には各車輪に対応して1つずつ設けられるが、ここでは、詳細な図示や説明を省略する。
【0032】
EPB-ECU9は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってEPBモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。
【0033】
EPB-ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作SW(スイッチ)23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてEPBモータ10を駆動する。さらに、EPB-ECU9は、EPBモータ10の電流検出値に基づいてロック制御やリリース制御などを実行するものであり、その制御状態に基づいてロック制御中であることやロック制御によって車輪がロック状態であること、および、リリース制御中であることやリリース制御によって車輪がリリース状態(EPB解除状態)であることを認識する。そして、EPB-ECU9は、インストルメントパネルに備えられた表示ランプ24に対し、各種表示を行わせるための信号を出力する。
【0034】
以上のように構成された車両用ブレーキ装置では、基本的には、車両走行時にサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させることで車両に制動力を発生させるという動作を行う。また、サービスブレーキ1によって車両が停車した際に、ドライバが操作SW23を押下してEPB2を作動させて電動制動力を発生させることで停車状態を維持したり、その後に電動制動力を解除したりするという動作を行う。すなわち、サービスブレーキ1の動作としては、車両走行時にドライバによるブレーキペダル3の操作が行われると、M/C5に発生したブレーキ液圧がW/C6に伝えられることでサービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2の動作としては、EPBモータ10を駆動することでピストン19を移動させ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けることで電動制動力を発生させて車輪をロック状態にしたり、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離すことで電動制動力を解除して車輪をリリース状態にしたりする。
【0035】
つまり、ロック・リリース制御により、電動制動力を発生させたり解除したりする。ロック制御では、EPBモータ10を正回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望の電動制動力を発生させられる位置でEPBモータ10の回転を停止し、この状態を維持する。これにより、所望の電動制動力を発生させる。リリース制御では、EPBモータ10を逆回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて発生させられている電動制動力を解除する。
【0036】
より具体的には、EPB-ECU9は、M/C5の液圧に基づいてEPBモータ10への電流の目標値である目標電流値を演算し、EPBモータ10への電流の実績値である実績電流値が目標電流値に到達すると、モータへの通電量を減少させる。そして、M/C5の液圧とW/C6の液圧が同等である場合、この制御によって、目標制動力を実現できる。ただし、この制御だけでは、ドライバによる急なブレーキ操作(急踏み)等によってM/C5の液圧がM/C5に充分に到達していない状態では、実現される制動力は、目標制動力よりも小さくなってしまう。そこで、以下の制御も併せて行う。
【0037】
EPB-ECU9は、車両が停止している道路の傾斜角に基づいて、車両が停止するために必要な制動力に対応するM/C5の液圧の閾値である液圧閾値を設定する。なお、道路の傾斜角は、例えば、前後Gセンサ25による検出信号に基づいて認識(算出)できる。
【0038】
また、EPB-ECU9は、M/C5の液圧の時間変化量を演算し、その時間変化量が所定変化量(閾値)を超過した場合には、その後にM/C5の液圧が液圧閾値以下になったときにEPBモータ10への通電量を増加させる(リクランプを行う)。
【0039】
なお、EPB-ECU9は、例えば、液圧閾値を、EPBモータ10への通電量の減少を開始する時点の実績電流値に基づいて決定する。EPB-ECU9は、例えば、液圧閾値を、EPBモータ10への通電量の減少を開始する時点の実績電流値が大きいほど小さく設定する。以下、EPB-ECU9の処理等について、図3以降の図面を用いて詳述する。
【0040】
ここで、以下の説明で使用する主な記号の意味について説明する。Pmは、M/C5の液圧である。Iaは、EPBモータ10の実績電流値である。Itは、EPBモータ10の目標電流値である。Ixは、EPBモータ10への通電量の減少を開始する時点の実績電流値(開始実績電流値)である。
【0041】
Zitは、EPBモータ10の目標電流値の演算マップである。Kaは、道路傾斜角である。dPは、M/C液圧Pmの時間変化量(Pmの微分値:液圧勾配)である。pxは、時間変化量dPについての所定変化量(閾値)である。Pzは、液圧閾値である。Zpzは、液圧閾値Pzの演算マップである。
【0042】
図3は、第1実施形態におけるとM/C液圧Pmと目標電流値Itの関係(演算マップZit)を示すグラフである。図3のグラフにおいて、縦軸は目標電流値Itで、横軸はM/C液圧Pmである。この演算マップZitを用いることで、概ね、M/C液圧Pmが大きいほど、目標電流値Itを小さく決定することができる。これは、目標制動力が同じであると、液圧制動力が大きいほど、電動制動力は小さくてよいためである。
【0043】
図4は、第1実施形態における道路傾斜角Kaと液圧閾値Pzの関係(演算マップZpz)を示すグラフである。図4のグラフにおいて、縦軸は液圧閾値Pzで、横軸は道路傾斜角Kaである。また、演算マップZpzは、開始実績電流値Ixが大きいほど下方に移動し、開始実績電流値Ixが小さいほど上方に移動する。
【0044】
この演算マップZpzを用いることで、概ね、道路傾斜角Kaが大きいほど、液圧閾値Pzを大きく決定することができる。これは、道路傾斜角が大きいほど、車両の停止状態を維持するために必要な制動力が大きいためである。
【0045】
また、この演算マップZpzを用いることで、開始実績電流値Ixが大きいほど、液圧閾値Pzを小さく決定することができる。これは、開始実績電流値Ixが大きいほど、すでに実現されている電動制動力が大きく、車両の停止状態を維持するために必要な液圧制動力は小さいためである。
【0046】
次に、図5を参照して、第1実施形態における各値の経時変化の例について説明する。図5は、第1実施形態における各値の経時変化の例を示すタイムチャートである。(a)において、縦軸は電流値で、横軸は時間である。
【0047】
また、(b)において、縦軸は制動力で、横軸は時間である。Btは、目標制動力である。Bmは、M/C液圧Pmの制動力換算値である。Bwは、W/C6の液圧の制動力換算値である。Baは、W/C液圧制動力換算値Bwと電動制動力の和(全制動力)である。Bnは、液圧閾値Pzの制動力換算値である。
【0048】
時刻t1で、EPB2の作動要求があると、EPB-ECU9によりEPB2の作動制御が行われ、実績電流値Iaは、突入電流により急増し、その後、低下して、時刻t2で安定値となる。その後、時刻t3~t5の間、ドライバが急なブレーキ操作を行うと、M/C液圧制動力換算値Bmは上昇し、その分、目標電流値Itは減少する。また、時刻t3以降、W/C液圧制動力換算値Bwも上昇するが、M/C液圧制動力換算値Bmの上昇よりも緩やかである。
【0049】
また、実績電流値Iaは、時刻t4から上昇して、時刻t6で目標電流値Itに到達し、EPB2の作動終了により0になる。なお、目標電流値Itが時刻t3~t5で減少したが、W/C液圧制動力換算値BwはM/C液圧制動力換算値Bmよりも小さいため、全制動力Baは、時刻t6の時点で目標制動力Btに到達していない。
【0050】
時刻t6の後、M/C液圧制動力換算値Bmは、時刻t7から減少し、時刻t8でW/C液圧制動力換算値Bwと等しくなる。また、時刻t7からM/C液圧制動力換算値Bmが減少することで、EPB-ECU9は、その後、目標電流値Itをその分増加させる。目標電流値Itは、時刻t7から増加し始め、M/C液圧制動力換算値Bmの減少が止まる時刻t10まで増加する。
【0051】
時刻t9で、M/C液圧制動力換算値Bmが液圧閾値制動力換算値Bnまで低下すると、EPB-ECU9によってEPB2が駆動されてEPBモータ10への通電が行われ、実績電流値Iaは、突入電流により急増し、少し低下した後、時刻t11まで増加する。そうすると、全制動力Baは、時刻t9から増加し始め、時刻t11の時点で目標制動力Btに到達する。
【0052】
次に、図6を参照して、第1実施形態のブレーキ制御装置によって実行される駐車ブレーキ制御処理について説明する。図6は、第1実施形態のブレーキ制御装置によって実行される駐車ブレーキ制御処理を示すフローチャートである。なお、図6の制御の開始時点で、EPB2の作動要求があるものとする。
【0053】
ステップS1において、EPB-ECU9は、M/C液圧Pm、実績電流値Iaを読み込む。次に、ステップS2において、EPB-ECU9は、M/C液圧Pmに基づいて目標電流値Itを演算する(図3)。
【0054】
次に、ステップS3において、EPB-ECU9は、M/C液圧Pmに基づいて、M/C液圧時間変化量dpを演算する。次に、ステップS4において、EPB-ECU9は、実績電流値Iaが増加するように制御する。つまり、EPB2のEPBモータ10への通電量を増加させる。
【0055】
次に、ステップS5において、EPB-ECU9は、「M/C液圧時間変化量dp≧所定変化量px」か否かを判定し、Yesの場合はステップS6に進み、Noの場合はステップS7に進む。
【0056】
ステップS6において、EPB-ECU9は、リクランプが必要と判定し、ステップS7に進む。ステップS7において、EPB-ECU9は、実績電流値Iaが目標電流値Itに到達したか否かを判定し、Yesの場合はステップS8に進み、Noの場合はステップS1に戻る。
【0057】
ステップS8において、EPB-ECU9は、そのときの実績電流値Iaを開始実績電流値Ixとして記憶する。次に、ステップS9において、EPB-ECU9は、実績電流値Iaが減少するように制御する。つまり、EPB2のEPBモータ10への通電量を減少させる。
【0058】
次に、ステップS10において、EPB-ECU9は、リクランプが必要か否かを判定し、Yesの場合(ステップS6を経由した場合)はステップS11に進み、Noの場合(ステップS6を経由していない場合)はステップS12に進む。ステップS12において、EPB-ECU9は、クランプを終了する。
【0059】
図7は、第1実施形態のブレーキ制御装置によって実行されるリクランプ制御処理(図6のステップS11)を示すフローチャートである。ステップS21において、EPB-ECU9は、M/C液圧Pm、実績電流値Ia、道路傾斜角Ka、開始実績電流値Ixを読み込む。
【0060】
次に、ステップS22において、EPB-ECU9は、道路傾斜角Ka、開始実績電流値Ixに基づいて液圧閾値Pzを演算する(図4)。
【0061】
次に、ステップS23において、EPB-ECU9は、「M/C液圧Pm≦液圧閾値Pz」か否かを判定し、Yesの場合はステップS24に進み、Noの場合はステップS21に戻る。
【0062】
ステップS24において、EPB-ECU9は、M/C液圧Pmに基づいて目標電流値Itを演算する(図3)。
【0063】
次に、ステップS25において、EPB-ECU9は、実績電流値Iaが増加するように制御する。つまり、EPB2のEPBモータ10への通電量を増加させる。
【0064】
次に、ステップS26において、EPB-ECU9は、実績電流値Iaが目標電流値Itに到達したか否かを判定し、Yesの場合はステップS27に進み、Noの場合はステップS21に戻る。
【0065】
ステップS27において、EPB-ECU9は、実績電流値Iaが減少するように制御する。つまり、EPB2のEPBモータ10への通電量を減少させる。
【0066】
このように、第1実施形態のブレーキ制御装置によれば、M/C5の液圧が急上昇した場合(図5のステップS5でYesの場合)にリクランプを行うことで、ドライバによる急なブレーキ操作等によってM/C5の液圧がW/C6に充分に到達しない場合でも、必要な制動力を実現することができる。
【0067】
具体的には、M/C5の液圧が急上昇した場合、クランプの終了後に、すぐにリクランプを行うのではなく、「M/C液圧Pm≦液圧閾値Pz」の条件を満たしてから(図7のステップS23でYesの後)リクランプを行うことで、車両がずり下がることを液圧制動力で防止しつつ、M/C5の液圧とW/C6の液圧が確実に同等になっていることで過不足のない適切な制動力を実現できる。
【0068】
また、液圧閾値Pzを、EPBモータ10への通電量の減少を開始する時点の実績電流値(開始実績電流値Ix)に基づいて、適切に決定することができる(図4)。具体的には、液圧閾値Pzを、開始実績電流値Ixが大きいほど小さくように適切に設定することができる(図4)。
【0069】
一方、例えば、従来技術で、液圧制動力が発生している場合に、それとは独立して目標制動力を電動制動力によって発生させようとすると、過剰な制動力が発生し、キャリパ13に対して過剰なハード負荷がかかる事態が発生する。
【0070】
また、例えば、他の従来技術で、発生している液圧制動力をマスタシリンダの液圧に基づいて推定し、目標制動力からその推定液圧制動力を減算した分を電動制動力によって発生させようとすると、ドライバによる急なブレーキ操作(急踏み)等があると、必要な制動力を実現できない事態が発生する。このような事態は、特に、ブレーキ液が流れにくい低温時に発生する。
【0071】
第1実施形態のブレーキ制御装置によれば、それらの事態を回避することができる。
【0072】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態のブレーキ制御装置について説明する。第1実施形態と同様の事項については説明を適宜省略する。
【0073】
図8は、第2実施形態における各値の経時変化の例を示すタイムチャートである。図5と同様の事項については説明を適宜省略する。
【0074】
時刻t23以前は、図5の時刻t3以前と同様である。実績電流値Iaは、時刻t23の後、時刻t24から上昇する。また、時刻t23~t26の間、ドライバが急なブレーキ操作を行うと、M/C液圧制動力換算値Bmは上昇し、その分、目標電流値Itは減少する。また、時刻t23以降、W/C液圧制動力換算値Bwも上昇するが、M/C液圧制動力換算値Bmの上昇よりも緩やかである。
【0075】
また、時刻t25で、EPB-ECU9は、M/C5の液圧の時間変化量が所定変化量を超過したと判定する。そうすると、EPB-ECU9は、クランプを強制的に終了し、実績電流値Iaは0になる。なお、全制動力Baは、時刻t26の時点で目標制動力Btに到達していない。
【0076】
時刻t26の後、M/C液圧制動力換算値Bmは、時刻t27から減少し、時刻t28でW/C液圧制動力換算値Bwと等しくなる。また、時刻t27からM/C液圧制動力換算値Bmが減少することで、EPB-ECU9は、その後、目標電流値Itをその分増加させる。目標電流値Itは、時刻t27から増加し始め、M/C液圧制動力換算値Bmの減少が止まる時刻t30まで増加する。
【0077】
時刻t29で、M/C液圧制動力換算値Bmが液圧閾値制動力換算値Bnまで低下すると、EPB-ECU9によってEPB2が駆動されてEPBモータ10への通電が行われ、実績電流値Iaは、突入電流により急増し、少し低下した後、時刻t31まで増加する。そうすると、全制動力Baは、時刻t29から増加し始め、時刻t31の時点で目標制動力Btに到達する。
【0078】
次に、図9を参照して、第2実施形態のブレーキ制御装置によって実行される駐車ブレーキ制御処理について説明する。図9は、第2実施形態のブレーキ制御装置によって実行される駐車ブレーキ制御処理を示すフローチャートである。なお、図9の制御の開始時点で、EPB2の作動要求があるものとする。
【0079】
ステップS1~S4は、図6と同様である。ステップS5において、EPB-ECU9は、「M/C液圧時間変化量dp≧所定変化量px」か否かを判定し、Yesの場合はステップS11に進み、Noの場合はステップS7に進む。
【0080】
ステップS7~S9は、図6と同様である。ステップS9の後、ステップS12に進む。また、ステップS11の詳細は、図7と同様である。
【0081】
このように、第2実施形態のブレーキ制御装置によれば、M/C5の液圧が急上昇した場合にクランプを強制的に終了させた場合でも、第1実施形態の場合と同様に、その後にリクランプを行うことで必要な制動力を実現すること等の効果を得ることができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態および変形例を説明したが、上述した実施形態および変形例はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態および変形例は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、または変更を行うことができる。また、上述した実施形態および変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0083】
例えば、上述の実施形態では、後輪が電動制動車輪であるものとしたが、これに限定されず、前輪が電動制動車輪であってもよい。
【0084】
また、図7のステップS23において「M/C液圧Pm≦液圧閾値Pz」か否かを判定する代わりに、ドライバが急なブレーキ操作を行ってM/C5の液圧とW/C6の液圧が乖離した場合にその乖離が無くなると考えられる所定時間(予め設定)が経過したか否かを判定するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…サービスブレーキ(液圧ブレーキ装置)、2…EPB(電動ブレーキ装置)、5…M/C、6…W/C、7…アクチュエータ、8…ESC-ECU、9…EPB-ECU(制御部)、10…EPBモータ(モータ)、11…ブレーキパッド、12…ブレーキディスク、13…キャリパ、14…ボディ、14a…中空部、14b…通路、17…回転軸、17a…雄ネジ溝、18…推進軸、18a…雌ネジ溝、19…ピストン、23…操作SW、24…表示ランプ、25…前後Gセンサ、26…M/C圧センサ、28…温度センサ、29…車輪速センサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9