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特許7310348ポリエステル樹脂組成物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/83 20060101AFI20230711BHJP
   C08L 67/03 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C08G63/83
C08L67/03
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019113436
(22)【出願日】2019-06-19
(65)【公開番号】P2020007542
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2018121592
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 研
(72)【発明者】
【氏名】孫 澤蒙
(72)【発明者】
【氏名】松本 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/167084(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021787(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/032876(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/83
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4級アンモニウムカチオンおよび/または4級ホスホニウムカチオンと、pKaが正である有機酸イオンの組合せからなる有機塩化合物を含み、下記式(I)~()を満たすことを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
線状オリゴマー発生量(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)<900ppm(I)
線状オリゴマー飛散量(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)<500ppm
(II)
5ppm≦Mn原子の含有量(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)≦40ppm (III)
4ppm≦Na原子の含有量(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)≦40ppm (IV)
ΔCOOH/COOH≦2.0 (V)
(線状オリゴマー発生量とは、温度23℃、湿度50%の環境下に24時間以上静置したポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を窒素下、290℃で20分後加熱処理した際の線状オリゴマーの増加量である。線状オリゴマー飛散量とは、窒素雰囲気下300℃で60分間溶融したサンプルを急冷後、空気流通下220℃で24時間熱処理した際に飛散した線状オリゴマーの量である。ΔCOOHは、155℃、100%RHの条件で4時間処理を行ったときのCOOH末端基の増加量であり、COOHとは、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物中のカルボキシル末端基量等量/トンである。
【請求項2】
リチウム原子およびカリウム原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含む請求項1記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記リチウム原子およびカリウム原子から選ばれる少なくとも1種の原子の含有量(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)が1ppm以上30ppm以下である請求項1または2記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
パーフルオロアルキルスルホンイミドを10ppm以上200ppm以下(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)含有する請求項1からのいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物からなるポリエチレンテレフタレートフィルム。
【請求項6】
ポリエチレンテレフタレートの固有粘度が0.4以下の段階で、マンガン化合物を添加し、かつ重縮合反応終了までの段階でリン酸とリン酸ナトリウム塩、および4級アンモニウムカチオンおよび/または4級ホスホニウムカチオンと、pKaが正である有機酸イオンの組合せからなる有機塩化合物を添加し、かつMn原子の含有量およびNa原子の含有量が下記式(VI)、(VII)を満たすことを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
5ppm≦Mn原子の含有量(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)≦40ppm (VI)
4ppm≦Na原子の含有量(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)≦40ppm (VII)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性や耐加水分解性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生する線状オリゴマーの発生量および飛散量が少なく、線状オリゴマー異物による欠点のない表面特性に優れた製品を得ることができるポリエステル樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は機械特性、熱特性、耐薬品性、電気特性、成形性に優れ、様々な用途に用いられている。ポリエステル樹脂の中でも、特にポリエチレンテレフタレート(以降PETと記す)は、透明性や加工性に優れていることから、光学用フィルムや離型用フィルムなど高品位性が求められる用途に幅広く使われている。しかしながら、PETのモノマー成分や低分子量体(オリゴマー成分)といった線状オリゴマーは、ポリエステル樹脂の分解反応によって発生・増加し、これが成形や加工時に揮発・飛散し、成形品の表面に線状オリゴマー異物による欠点が発生するという問題が起こる。近年、光学用フィルムなどは品位の要求がますます高くなっており、上記のような表面汚れを引き起こす線状オリゴマー異物欠点を抑制する樹脂組成物が望まれている。これらの課題に対して、様々な検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には固相重合および失活処理を行うことで、ポリエステル樹脂中のオリゴマー含有量および溶融時のオリゴマー再生量を低減させる技術が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、イオン液体をポリエステル中に含有させることで線状オリゴマーの飛散を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-176347号公報
【文献】WO2016/167084
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1の技術のように、固相重合や失活処理では、ポリエステル樹脂に含有または成形加工時に発生する環状オリゴマーを低減させるのみであり、溶融時の熱分解や加水分解という異なる機構により発生・増加する線状オリゴマーには効果がないため、製品の線状オリゴマー異物を防ぐことができなかった。
【0007】
また、特許文献2の技術のように、線状オリゴマーの飛散を抑制するためにイオン液体を添加した場合では、線状オリゴマーの飛散量を低減させる効果はみられるが、溶融時の熱分解や加水分解で発生する線状オリゴマーを抑制することができず、線状オリゴマー異物のさらなる低減には改善が必要であった。
【0008】
本発明の目的は、耐熱性や耐加水分解性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生する線状オリゴマーの発生量および飛散量が少なく、線状オリゴマー異物による欠点のない表面特性に優れた製品を得ることができるポリエステル樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の特徴を有するものである。
(1)4級アンモニウムカチオンおよび/または4級ホスホニウムカチオンと、pKaが正である有機酸イオンの組合せからなる有機塩化合物を含み、下記式(I)~()を満たすことを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
【0010】
線状オリゴマー発生量(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)<900ppm
(I)
線状オリゴマー飛散量(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)<500ppm
(II)
5ppm≦Mn原子含有量≦40ppm(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)
(III)
4ppm≦Na原子の含有量≦40ppm(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)
(IV)
ΔCOOH/COOH≦2.0 (V)
(線状オリゴマー発生量とは、温度23℃、湿度50%の環境下に24時間以上静置したポリエチレンテレフタレート樹脂組成物を窒素下、290℃で20分後加熱処理した際の線状オリゴマーの増加量である。線状オリゴマー飛散量とは、窒素雰囲気下300℃で60分間溶融したサンプルを急冷後、空気流通下220℃で24時間熱処理した際に飛散した線状オリゴマーの量である。ΔCOOHは、155℃、100%RHの条件で4時間処理を行ったときのCOOH末端基の増加量であり、COOHとは、ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物中のカルボキシル末端基量等量/トンである。
【0011】
)リチウム原子およびカリウム原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含む(1)記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
)前記リチウム原子およびカリウム原子から選ばれる少なくとも1種の原子の含有量(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)が1ppm以上30ppm以下である(1)または)記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
)パーフルオロアルキルスルホンイミドを10ppm以上200ppm以下(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)含有する(から)に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物。
)(1)から()いずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂組成物からなるポリエチレンテレフタレートフィルム。
)ポリエチレンテレフタレートの固有粘度が0.4以下の段階で、マンガン化合物を添加し、かつ重縮合反応終了までの段階でリン酸とリン酸ナトリウム塩、および4級アンモニウムカチオンおよび/または4級ホスホニウムカチオンと、pKaが正である有機酸イオンの組合せからなる有機塩化合物を添加し、かつMn含有量およびNa含有量が下記式(VI)、(VII)を満たすことを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の製造方法。
【0012】
5ppm≦Mn原子の含有量≦40ppm(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)
(VI)
4ppm≦Na原子の含有量≦40ppm(ポリエチレンテレフタレート樹脂組成物に対する重量比)
(VII)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐熱性や耐加水分解性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生する線状オリゴマーの発生量および飛散量が少なく、線状オリゴマー異物による欠点のない表面特性に優れた製品を得ることができるポリエステル樹脂組成物およびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸成分とジオール成分を重縮合して得られるポリエステル樹脂を指す。
【0015】
本発明におけるジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、鎖状脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸など種々のジカルボン酸成分を用いることができる。その中でも、ポリエステル樹脂組成物の機械的特性、耐熱性、耐加水分解性の観点から、芳香族ジカルボン酸およびそのエステル形成誘導体成分であることが好ましい。特には、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸およびこれらのエステル形成誘導体成分が重合性、機械的特性から好ましい。
【0016】
本発明におけるジオール成分としては、各種ジオールを用いることができる。例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール、脂環式ジオールとしてはシクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロドデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノールなどの飽和脂環式1級ジオール、2,6-ジヒドロキシ-9-オキサビシクロ[3,3,1]ノナン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(スピログリコール)、5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサン、イソソルビドなどの環状エーテルを含む飽和ヘテロ環1級ジオール、その他1,4-シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、1,3-シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンジオールなどの各種脂環式ジオールや、ビスフェノールA、ビスフェノールS,スチレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香環式ジオールが例示できる。またジオール以外にもトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多官能アルコールも用いることができる。
【0017】
この中で、反応系外に留出させやすいことから、沸点230℃以下のジオールであることが好ましく、低コストであり反応性が高いことから、脂肪族ジオールがより好ましい。さらに、得られたポリエステル樹脂組成物やその成形品の機械的特性の観点からエチレングリコールが特に好ましい。
【0018】
なお、本発明の効果の範囲を損なわない程度に、他のジカルボン酸成分やヒドロキシカルボン酸誘導体、ジオール成分が共重合されていてもよい。
【0019】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー発生量が900ppm未満であることが必要である。なお、線状オリゴマー発生量は温度23℃、湿度50%の環境下に24時間以上静置したポリエステル樹脂組成物を窒素雰囲気下、290℃で20分後加熱処理した際の線状オリゴマーの増加量である。
【0020】
線状オリゴマー発生量が少ないポリエステル樹脂組成物は、溶融加工時の線状オリゴマーの析出や飛散による成形体表面への線状オリゴマー異物増加を抑制することが可能である。
【0021】
本発明において、線状オリゴマーとは、ポリエステル樹脂の熱分解や加水分解、酸化分解等の分解反応によって生成するモノマー成分やオリゴマー成分であり、具体的にはポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分や、ジカルボン酸のカルボキシル基とジオールのヒドロキシル基が反応してできる鎖状の反応物のことを指し、環状3量体のような環状のオリゴマーは含めない。具体的にはジカルボン酸単量体およびグリコール成分とのモノエステル、ジエステルである。この線状オリゴマーは昇華や析出しやすく、溶融成形などの加工工程において、成形体の表面に線状オリゴマー異物欠点を引き起こすものである。
【0022】
代表的なポリエステル樹脂であるPETを例に挙げると、TPA(テレフタル酸)、テレフタル酸とエチレングリコールの反応物である、MHET(モノヒドロキシエチルテレフタレート)およびBHET(ビスヒドロキシエチルテレフタレート)であり、この中でも、飛散しやすいTPAが主成分である。
【0023】
これら線状オリゴマーの総量として、発生量が900ppm未満であることが必要であり、好ましくは800ppm未満、より好ましくは700ppm未満である。線状オリゴマーの発生量を上記範囲内とすることで、成形加工時に問題となる、線状オリゴマーに起因した線状オリゴマー異物欠点の低減を実現することができる。
【0024】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー飛散量が500ppm未満であることが必要である。なお、線状オリゴマー飛散量は、窒素雰囲気下300℃で60分間溶融したサンプルを急冷後、凍結粉砕した後、空気流通下220℃で24時間熱処理した際の後記、測定法に記載の捕集瓶にて捕集された線状オリゴマーの量である。
【0025】
線状オリゴマーの総量として、飛散量が500ppm未満であることが必要であり、好ましくは400ppm未満、より好ましくは350ppm未満である。線状オリゴマーの発生量を上記範囲内とすることで、成形加工時に問題となる、線状オリゴマーに起因した線状オリゴマー異物欠点の低減を実現することができる。
【0026】
線状オリゴマー発生量と線状オリゴマー飛散量が上記範囲内のポリエステル樹脂組成物は、溶融工程を通りさらに熱処理を施すような繊維用途、フィルム用途において好適に用いられ、成形体の表面汚れの低減を実現し、高品位な成形体を提供する。
【0027】
例えばフィルム製造工程においては、ポリエステル樹脂溶融成形時において、熱分解や加水分解、酸化分解によって、線状オリゴマーが生成・増加し、さらに概ね200℃を超えるようなフィルムの熱処理工程などにおいても、熱分解や加水分解、酸化分解によって、さらに線状オリゴマーが生成・増加し、ポリエステル樹脂中に含有する線状オリゴマーがフィルム表面へ析出したり、フィルム製造工程で飛散した線状オリゴマーの微小粒子が凝集し粗大粒子を形成しフィルム表面へ付着したりと、製品自身の表面に発生する線状オリゴマー異物欠点の原因となる。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂組成物をフィルム製造工程に用いた場合、フィルム製造工程における線状オリゴマーの発生・飛散が抑制できるため、上記の線状オリゴマー起因の汚れによる欠点の発生を低減できる。
【0029】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、耐加水分解性の指標であるΔCOOH/COOHの値が2.0以下であることが好ましい。このΔCOOHとは、飽和水蒸気下で155℃、4時間湿熱処理した際のCOOH末端基増加量であり、処理前のCOOH末端基量で割ったΔCOOH/COOHが少ない値であるほど、耐加水分解性が良好となる。このΔCOOH/COOHが2.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.9以下である。上記範囲であれば、耐加水分解性は良好であり、加水分解に起因する線状オリゴマーの発生および飛散を抑制できる。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、下記式(III)で表されるように、マンガン原子を5ppm以上40ppm以下含有していることが好ましい。
【0031】
5ppm≦Mn含有量(ポリエステル樹脂組成物に対する重量比)≦40ppm (III)
下限としてより好ましくは10ppm以上である。また、上限としてより好ましくは30ppm以下である。マンガン原子はフィルム延伸工程などのポリエステル融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステルの熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のマンガン原子の含有量を満たすことで、加工工程における線状オリゴマー発生量および飛散量を低減することが可能となる。
【0032】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、下記式(IV)で表されるように、ナトリウム原子を4ppm以上40ppm以下含有していることが好ましい。
【0033】
4ppm≦Na含有量(ポリエステル樹脂組成物に対する重量比)≦40ppm (IV)
下限としてより好ましくは10ppm以上である。また上限としてより好ましくは30ppm以下である。上記範囲とすることで、耐加水分解性が良好となり、加水分解に起因する線状オリゴマー発生および飛散を抑制でき、静電印加製膜に必要なポリエステル樹脂の溶融比抵抗を小さくすることができ、成形性が向上する。
【0034】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、リン原子(P)を17ppm以上70ppm(ポリエステル樹脂組成物に対する重量比)以下含有していることが好ましい。下限として好ましくは20ppm以上、より好ましくは25ppm以上である。上限として好ましくは60ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。上記範囲とすることで、加工工程における線状オリゴマー発生量および飛散量を低減できる。
【0035】
さらに、本発明のポリエステル樹脂組成物は、ナトリウム原子とリン原子の含有量のモル比であるNa/Pが0.3以上1.2以下であることが好ましい。下限として好ましくは0.4以上であり、上限として好ましくは1.0以下である。上記範囲とすることで、耐加水分解性を付与することが可能となり、加工工程における線状オリゴマー発生量および飛散量を低減できる。
【0036】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、リチウムまたはカリウムから選ばれる少なくとも1種の原子を含有することが、線状オリゴマー発生量を増加させることなく、静電印加製膜に必要なポリエステル樹脂の溶融比抵抗を小さくすることができ、成形性が向上する点で好ましい。リチウムまたはカリウムから選ばれる少なくとも1種の原子の含有量としては、1ppm以上30ppm以下であることが好ましく、下限は5ppm以上がより好ましく、上限は20ppmがより好ましい。樹脂中での形態は特に制限はなく、酢酸リチウム、酢酸カリウム、水酸化カリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドカリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドリチウムなどが挙げられる。
【0037】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、パーフルオロアルキルスルホンイミドを含有することが、溶融比抵抗の低減の観点から好ましい。パーフルオロアルキルスルホンイミドとして例えば、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドカリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドナトリウム、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドリチウムなどの、パーフルオロアルキルスルホンイミド塩であることが、溶融比抵抗の低減の観点から特に好ましい。パーフルオロアルキルスルホンイミド含有量としては、10ppm以上200ppm以下であることが好ましく、下限は30ppm以上がより好ましく、上限は150ppmがより好ましい。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、4級アンモニウムカチオンおよび/または4級ホスホニウムカチオンと、pKaが正である有機酸イオンの組合せからなる有機塩化合物を含むことが好ましい。有機塩化合物は、線状オリゴマーと静電的な相互作用を形成することができ、そのため線状オリゴマー飛散量を抑制することが可能となる。
【0039】
本発明における4級アンモニウムカチオンとは、金属原子を含まず、窒素をイオン中心とし、4つの炭素原子を含む置換基を有することを特徴としているカチオンを指す。
【0040】
本発明における4級ホスホニウムカチオンとは、金属原子を含まず、リンをイオン中心とし、4つの炭素原子を含む置換基を有することを特徴としているカチオンを指す。
【0041】
なお、置換基には酸素、窒素などが含まれてもいてもよい。
【0042】
本発明における4級アンモニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラヘキシルアンモニウムカチオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカチオンなどの4級アルキルアンモニウムカチオン、ベンジルトリメチルアンモニウムカチオン、ベンジルトリエチルアンモニウムカチオン、3-(トリフルオロメチル)フェニルトリメチルアンモニウムカチオンなどの4級アリールアルキルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。
【0043】
本発明における4級ホスホニウムカチオンとしては、テトラエチルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、テトラヘキシルホスホニウムカチオン、メチルトリブチルホスホニウムカチオン、エチルトリブチルホスホニウムカチオン、オクチルトリブチルホスホニウムカチオン、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムカチオンなどの4級アルキルホスホニウムカチオン、ベンジルトリメチルホスホニウムカチオン、ベンジルトリエチルホスホニウムカチオン、3-(トリフルオロメチル)フェニルトリメチルホスホニウムカチオンなどの4級アリールアルキルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。
【0044】
4級未満のアミンやホスフィンをプロトン化した構造であると、有機塩化合物の耐熱性が不十分となりポリエステル樹脂組成物の色調悪化を招き、また副反応により線状オリゴマー発生量が増加するため好ましくない。4級アンモニウムカチオンや4級ホスホニウムカチオンにすることで、求核反応を受けにくくなり分解しにくくなり、副反応による線状オリゴマー発生量を低減することができる。
【0045】
本発明の有機塩化合物においては、pKaが正である有機酸イオンは、カルボン酸イオン、有機リン酸イオン、スルホン酸イオンから選ばれることが好ましく、得られるポリエステル樹脂組成物の耐久性と線状オリゴマー飛散抑制効果の観点から、特に芳香族カルボン酸イオンが好ましい。これらの有機酸イオンは、線状オリゴマーとの相互作用が起こりやすく、効果的に線状オリゴマーの飛散を抑制することができる。
【0046】
本発明のイオン塩においては、アニオンが有機酸を脱プロトン化した構造のアニオンであることが好ましい。有機酸を脱プロトン化した構造のアニオンとは、有機酸アニオンのことであり、有機酸とは少なくとも一つの炭素を持つ酸性化合物のことを指す。有機酸がカルボン酸の場合を例に取ると、(RCOO-:Rは任意の置換基)の一般式で表される構造を持つアニオンである。
【0047】
有機酸イオンの具体例としては、アセテート、プロピオネート、ブチレート、トリフルオロアセテート、トリクロロアセテート、メシチレート、フェニルアクリレート、メチルフェニルアクリレート、2-(4-メトシキフェニル)プロピオネート、フェニルプロピオネート、4-フェニルブチレート、フタレート、ナフタレート、メチルベンゾエート、フェニルベンゾエート、ジフェニルアセテートなどが挙げられる。
【0048】
本発明のポリエステル樹脂組成物においては、有機酸イオンのpKaが正であることが好ましい。有機酸イオンのpKaがこの範囲を満たすことによって、線状オリゴマーとの相互作用を高め、飛散量を効果的に抑えることができ、副反応による線状オリゴマー発生量の増加を抑制できる。有機酸イオンのpKaに関しては、例えばInternational Journal of Quantum Chemistry, Vol 90, 1396-1403(2002)に記載されている。有機酸イオンのpKaの値としては、0.0より大きいことが好ましく、1.0より大きいとさらに好ましい。また、有機酸イオンのpKaの上限は特に設けないが、脱プロトン化によりカチオンと有機塩化合物の形成のしやすさから、7.0以下であることがより好ましく、6.0以下であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明の有機塩化合物において、有機酸イオン/4級カチオンのモル質量の比として、0.5以上2.0以下であることが好ましい。アニオンとカチオンの分子量の差が大きくなると、分子の広がりの差が大きくなることで有機塩化合物の安定性が低下する。また、有機塩化合物の分子量は特に限定しないが、200g/mol以上1000g/mol以下であることで、効率的に線状オリゴマーと相互作用ができるため、飛散抑制効果が増大できる。なお、本発明でいう有機塩化合物の分子量は、ChemBioDraw(PerkinElmer社製)を用いて求められるMolcularWeightのことをさす。
【0050】
本発明のポリエステル樹脂組成物においては、有機塩化合物がポリエステル樹脂の重量を基準として10ppm以上1000ppm以下の範囲で含まれていることが好ましい。有機塩化合物の含有量が10ppm以上であると、線上オリゴマー飛散量低減効果が発揮でき、1000ppm以下であると、得られるポリエステル樹脂組成物のCOOH末端基量が高くなることを抑制できるため、線状オリゴマー発生量を低減できる。その結果として、飛散量も低減する傾向にあるため、有機塩化合物の効果が最大限発揮できる。
【0051】
有機塩化合物の具体例としては、テトラエチルアンモニウムサリチレート、テトラブチルアンモニウムサリチレート、テトラヘキシルアンモニウムサリチレート、ベンジルトリエチルアンモニウムサリチレート、テトラブチルホスホニウムサリチレート、テトラヘキシルホスホニウムサリチレート、テトラエチルアンモニウムベンゾエート、テトラブチルアンモニウムメチルベンゾエート、テトラヘキシルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムトリフルオロアセテート、テトラブチルホスホニウムサリチレート、テトラヘキシルホスホニウムサリチレート、メチルトリブチルホスホニウムサリチレート、オクチルトリブチルホスホニウムサリチレート、テトラブチルホスホニウムベンゾエート、テトラヘキシルホスホニウムメチルベンゾエート、メチルトリブチルホスホニウムトリフルオロアセテート、オクチルトリブチルホスホニウムベンゾエートなどが挙げられるが、好ましくはテトラエチルアンモニウムサリチレート、テトラブチルホスホニウムサリチレート、さらに好ましくはテトラブチルホスホニウムサリチレートである。カチオンとアニオンを最適な組み合わせにした相乗効果によって、より一層優れた線状オリゴマー飛散抑制効果が得られ、静電印加製膜に必要なポリエステル樹脂の溶融比抵抗を小さくすることができ、成形性も向上する。
【0052】
次に、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法について記載する。
【0053】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ジカルボン酸成分またはそのエステル形成誘導体成分と、ジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応してポリエステルを製造するに際して、ポリエステルの固有粘度が0.4以下の段階で、マンガン化合物を添加し、さらに重縮合反応終了までの段階でリン酸とリン酸ナトリウム塩、および4級アンモニウムカチオンおよび/または4級ホスホニウムカチオンと、pKaが正である有機酸イオンの組合せからなる有機塩化合物を添加し、かつMn含有量およびNa含有量が下記式(VI)、(VII)を満たすことで得ることができる。
【0054】
5ppm≦Mn原子の含有量≦40ppm(ポリエステル樹脂組成物に対する重量比) (VI)
4ppm≦Na原子の含有量≦40ppm(ポリエステル樹脂組成物に対する重量比) (VII)
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、マンガン化合物はポリエステル樹脂の固有粘度が0.4以下の段階で添加することが必要である。上記範囲に添加することで、重合反応性が良好となる。その中でも、エステル交換反応にてポリエステルオリゴマーを得る場合は、反応をより効率的に進行させるため、エステル交換反応開始時にマンガン化合物を添加することが好ましい。また、エステル化反応にてポリエステルオリゴマーを得る場合には、エステル化反応終了時からポリエステル樹脂の固有粘度が0.4以下の段階でマンガン化合物を添加することが必要であり、エステル化反応終了時から、重縮合反応開始までに添加することがより好ましい。エステル化反応は、テレフタル酸などの酸成分による自己触媒反応により、無触媒でも十分に反応は進行し、触媒を含有しているとジオール成分の2量体などの副生成物が増加することから、無触媒で実施し、ポリエステルの粘度が上昇する前に添加することで、耐熱性を損なうことなく、マンガン化合物の分散性が向上しポリエステルオリゴマーの重縮合反応を促進できる。
【0055】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、マンガン化合物の添加量はポリエステル組成物中でのマンガン原子としての含有量が下記式(VI)を満たすことが必要である。
【0056】
5ppm≦Mn原子の含有量≦40ppm(ポリエステル樹脂組成物に対する重量比) (VI)
下限として好ましくは10ppm以上である。また、上限として好ましくは30ppm以下である。上記下限以上とすることで、溶融成形時に線状オリゴマー発生量を抑制できるため成形体の欠点を抑制できる。また、マンガン原子はフィルム延伸工程などのポリエステル融点以下の比較的低い温度での加熱処理においても触媒活性が高いためにポリエステル樹脂の熱分解や酸化分解、加水分解に寄与する。したがって、上記上限以下のマンガン原子の含有量を満たすことで、加工工程における線状オリゴマー発生量および飛散量を低減することが可能となる。
【0057】
マンガン化合物は、特に限定しないが、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン、塩化マンガンなどが挙げられ、溶解性および触媒活性の点から酢酸マンガンが好ましい。
【0058】
また、添加する際の形態は粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。このときの溶媒は、ポリエステル樹脂組成物のジオール成分と同一にすることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0059】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、重縮合反応が終了するまでの段階で、リン酸とリン酸ナトリウム塩を添加することが必要である。リン酸とリン酸ナトリウム塩の添加時期として、より好ましくは、エステル交換反応またはエステル化反応終了後から重縮合反応開始までの間である。上記範囲に添加することで、重縮合反応を遅延させることなく、効果的にポリエステル樹脂に熱安定性と耐加水分解性を付与することができる。
【0060】
リン酸の添加量には特に制限を設けないが、添加量の下限としては、リン酸として25ppm以上であることが好ましく、より好ましくは45ppm以上である。添加量の上限としては、200ppm以下であることが好ましく、より好ましくは150ppm以下である。上記範囲にすることで、重合の遅延を起こすことがなく、ポリエステル樹脂組成物の熱安定性を良好にすることができる。なお、リン酸は通常の場合、水溶液として入手できるため、前記添加量は水溶液の濃度から換算したリン酸成分正味の添加量である。
【0061】
リン酸ナトリウム塩の添加量は、ポリエステル組成物中でのナトリウム原子としての含有量が4ppm以上40ppm以下とすることが必要である。下限としてより好ましくは10ppm以上である。また上限として好ましくは30ppm以下である。上記範囲とすることで、耐加水分解性が良好となり、加水分解に起因する線状オリゴマー発生量および飛散量を抑制できる。
【0062】
リン酸ナトリウム塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウムが挙げられる。耐加水分解性の点から、リン酸二水素ナトリウムが特に好ましい。また、複数のリン酸ナトリウム塩を併用しても構わない。
【0063】
また、添加する際の形態は粉体、スラリー、溶液のいずれでもよく、分散性の点から、溶液として添加することが好ましい。この時の溶媒は、ポリエステル樹脂組成物のジオール成分と同一にすることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートの場合はエチレングリコールを用いることが特に好ましい。
【0064】
さらに、リン酸とリン酸ナトリウム塩の溶液を混合し添加することが好ましい。リン酸とリン酸ナトリウム塩を混合し、緩衝溶液として添加することで、より良好な耐加水分解性が発現し、ポリエステル樹脂組成物の加工工程における線状オリゴマー発生量および飛散量を低減することが可能となる。
【0065】
また、上記ナトリウム原子の添加量を満たす範囲で、リン酸ナトリウム塩以外のアルカリ金属化合物を併用しても構わない。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウムの水酸化物、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、塩化物、パーフルオロアルキルスルホンイミド塩などが挙げられる。この中でも、酢酸リチウム、酢酸カリウム、水酸化カリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドカリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドナトリウム、ビス(ノナフルオロブタンスルホニル)イミドナトリウム、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドリチウムを併用することで、線状オリゴマー発生量を増加させることなく、静電印加製膜に必要なポリエステル樹脂の溶融比抵抗を小さくすることができ、成形性が向上する。
【0066】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、エステル化反応を経て実施する場合、エステル化反応後から、リン酸ナトリウム塩を添加するまでの間に、エチレングリコールなどグリコール成分の追加添加を実施することが好ましい。より好ましくは、マンガン化合物添加後から、リン酸ナトリウム塩を添加するまでの間である。エステル化反応にて得られるポリエステル樹脂組成物の低分子量体は、エステル交換反応で得られる低分子量体よりも重合度が高いためにリン酸ナトリウム塩が分散しにくく、異物化が起こりやすい。したがって、エチレングリコールなどグリコール成分を追加添加し、解重合によって重合度を低下させておくことで異物化を抑制できる。このとき、マンガン化合物が存在しているとより効率的に解重合できる。
【0067】
この追加添加するエチレングリコールなどグリコール成分は、全酸成分に対し0.05倍モル以上0.5倍モル以下であることが好ましい。より好ましくは0.1倍モル以上0.3倍モル以下である。上記範囲とすることで、重合系内の温度降下による重合時間の遅延を起こすことなく、リン酸ナトリウム塩の異物化を抑制できる。
【0068】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造に用いられるその他触媒は公知のエステル交換触媒、重縮合触媒、助触媒を用いることができる。例えば、重合触媒としてはアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、エステル交換触媒および助触媒としては、マンガン化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、コバルト化合物、亜鉛化合物、リチウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0069】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法において、重縮合反応が終了するまでの段階で、4級アンモニウムカチオンおよび/または4級ホスホニウムカチオンと、pKaが正である有機酸イオンの組合せからなる有機塩化合物を添加することが必要である。有機塩化合物の添加時期として、より好ましくは、エステル交換反応またはエステル化反応終了後から重縮合反応開始までの間である。上記範囲に添加することで、重縮合反応を遅延させることなく、有機塩化合物の分散性が良好であり、効果的にポリエステル樹脂に線状オリゴマー飛散抑制効果を付与することができる。
【0070】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法においては、有機塩化合物がポリエステル樹脂の重量を基準として10ppm以上1000ppm以下の範囲で含まれていることが好ましい。有機塩化合物の含有量が10ppm以上であると、線上オリゴマー飛散量低減効果が発揮でき、1000ppm以下であると、得られるポリエステル樹脂組成物のCOOH末端基量が高くなることを抑制できるため、線状オリゴマー発生量を低減できる。その結果として、飛散量も低減する傾向にあるため、有機塩化合物の効果が最大限発揮できる。
【0071】
また、有機塩化合物の分子量は特に限定しないが、200g/mol以上1000g/mol以下であることで、効率的に線状オリゴマーと相互作用ができるため、飛散抑制効果が増大できる。なお、本発明でいう有機塩化合物の分子量は、ChemBioDraw(PerkinElmer社製)を用いて求められるMolcularWeightのことをさし、無水和物として求める。
【0072】
有機塩化合物の具体例としては、テトラエチルアンモニウムサリチレート、テトラブチルアンモニウムサリチレート、テトラヘキシルアンモニウムサリチレート、ベンジルトリエチルアンモニウムサリチレート、テトラブチルホスホニウムサリチレート、テトラヘキシルホスホニウムサリチレート、テトラエチルアンモニウムベンゾエート、テトラブチルアンモニウムメチルベンゾエート、テトラヘキシルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムトリフルオロアセテート、テトラブチルホスホニウムサリチレート、テトラヘキシルホスホニウムサリチレート、メチルトリブチルホスホニウムサリチレート、オクチルトリブチルホスホニウムサリチレート、テトラブチルホスホニウムベンゾエート、テトラヘキシルホスホニウムメチルベンゾエート、メチルトリブチルホスホニウムトリフルオロアセテート、オクチルトリブチルホスホニウムベンゾエートなどが挙げられる。
【0073】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法の重縮合反応において、重合反応系外に留出するエチレングリコールなどのグリコール成分は、生産性の観点から回収、精留して再度原料として使用することが好ましいが、留出するグリコール中に一部の有機酸化合物やその分解物が含まれると、回収グリコール成分の精留工程を汚染する可能性がある。精留工程を汚染しない観点から、有機塩化合物は、テトラエチルアンモニウムサリチレート、テトラブチルホスホニウムサリチレートが特に好ましい。
【0074】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、末端封鎖剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、蛍光増白剤、艶消剤、可塑剤もしくは消泡剤またはその他の添加剤等を必要に応じて配合しても良い。
【0075】
以下、本発明におけるポリエステル樹脂組成物の製造方法の具体例を挙げるが、これに制限されない。
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレートが仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸とエチレングリコール(テレフタル酸に対し1.15倍モル)のスラリーをスネークポンプにて徐々に添加し、エステル化反応を進行させる。反応系内の温度は245~255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とする。
【0076】
こうして得られた255℃のエステル化反応物を重合装置に移送し、マンガン化合物、重縮合触媒を添加する。その後、エチレングリコールを追加添加し、リン酸、リン酸ナトリウム塩、有機酸化合物を添加する。これらの操作の際は、エステル化物が固化しないように、反応系内の温度を240~255℃に保つことが好ましい。
【0077】
その後、重合装置内の温度を290℃まで徐々に昇温しながら、重合装置内の圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させる。所定の撹拌トルクに到達した段階で反応を終了とし、反応系内を窒素ガスで常圧にし、溶融ポリマーを冷水中にストランド状に吐出、カッティングし、ポリエステル樹脂組成物を得る。
【0078】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、耐熱性や耐加水分解性に優れ、溶融成形や加工工程にて発生する線状オリゴマー発生量および飛散量が少ない。したがって、フィルム、繊維、成形体など各種用途に好適に用いることができ、特に表面特性が製品として重要である光学フィルムや離型フィルムなどの高品位フィルムに用いることが可能である。
【0079】
本発明のポリエステルフィルムとしては、未延伸フィルムや一軸延伸フィルム、逐次二軸延伸フィルム、同時二軸延伸フィルムなどのフィルム状成形体が挙げられる。中でも、一軸方向以上に延伸されたフィルムが好ましい。さらに好ましくは、特に表面特性が製品として重要である光学フィルムや離型フィルムなどの高品位フィルムがよい。
【0080】
このようにして得られたポリエステルフィルムは、上記の如く、必要に応じて一軸以上に延伸することができる。好適な例を挙げれば、溶融押出後のフィルムを縦方向および横方向に延伸することにより、強度を付与することができる。さらに縦方向および横方向に段階的に延伸してさらに強度を付与してもよい。
【0081】
本発明のポリエステルフィルムとしては、本発明のポリエステル樹脂組成物から構成される単膜フィルムでも、本発明のポリエステル樹脂組成物を少なくとも1層有する積層フィルムでもよい。特に積層フィルムの場合は、本発明のポリエステル樹脂組成物からなる層を少なくとも片表面に有する積層フィルムが好ましい。本発明のポリエステル樹脂組成物からなる層がフィルム表面に存在する場合、フィルム表面からの線状オリゴマー飛散が抑制されるため、線状オリゴマー欠点の発生を効果的に抑制できる。
【実施例
【0082】
以下実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例中の物性値は以下の方法で測定した。以下記載する方法は、本発明のポリエステル樹脂組成物ペレットなど単成分の場合の測定方法を記載しているが、積層フィルムなどのように複数樹脂からなる成形体の場合、各層の樹脂を削り出すなどして単離し、分析を行う。
【0083】
(1)ポリエステル樹脂組成物の固有粘度
オルトクロロフェノール10mlに、測定試料を100℃で溶解させ(溶液濃度C(測定試料重量/溶液体積)=0.08g/mL)、粘度計を用いてその溶液の25℃での粘度を測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式(α)により、[η]を算出し、得られた値をもって固有粘度とした。
【0084】
ηsp/C=[η]+K[η]2・C (α)
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)
なお、測定試料を溶解させた溶液に無機粒子などの不溶物がある場合は、以下の(i)~(iv)の方法を用いて測定を行った。
【0085】
(i)オルトクロロフェノール10mLに測定試料を溶解させ、溶液濃度が0.08g/mLよりも濃い溶液を作成する。ここで、オルトクロロフェノールに供した測定試料の重量を測定試料重量とする。
【0086】
(ii)次に、不溶物を含む溶液を濾過し、不溶物の重量測定と、濾過後の濾液の体積測定を行う。
【0087】
(iii)濾過後の濾液にオルトクロロフェノールを追加して、(測定試料重量(g)-不溶物の重量(g))/(濾過後の濾液の体積(mL)+追加したオルトクロロフェノールの体積(mL))が、0.08g/mLとなるように調整する。
【0088】
(例えば、測定試料重量1.00g/溶液体積10mLの濃厚溶液を作成したときに、該溶液を濾過したときの不溶物の重量が0.02g、濾過後の濾液の体積が9.9mLであった場合は、オルトクロロフェノールを5.1mL追加する調整を実施する。((1.00g-0.20g)/(9.9mL+0.1mL)=0.08g/mL))
粘度計を用いて(iv)(iii)で得られた溶液の25℃での粘度を測定し、得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、上記式(α)により、[η]を算出し、得られた値をもって固有粘度とする。
【0089】
なお、粘度計は次の自動粘度計装置を使用した。
【0090】
VMR-052UPC・F10((株)離合社製)。
【0091】
(2)ポリエステル樹脂組成物のCOOH末端基量
オルトクレゾール1000mLに純水60mLを加え、オルトクレゾール調整液を調合した。オルトクレゾール調整液10mLに、試料0.5gを100℃で溶解させ、25℃に冷却後、さらにジクロロメタン3mLを加えた溶液を測定試料とし、滴定装置で0.02NのKOH/メタノール溶液によって滴定し、COOH末端基量(等量/トン)を測定した。なお、試料を溶解させた溶液に無機粒子などの不溶物がある場合は、溶液を濾過して不溶物の重量測定を行い、不溶物の重量を試料重量から差し引いた値を測定試料重量とする補正を実施した。
【0092】
なお、滴定は次の自動滴定装置を使用した。
【0093】
COM-550(平沼産業(株)製)。
【0094】
(3)ポリエステル樹脂組成物のマンガンおよびリン、アルカリ金属原子の含有量
試料1gを白金皿にとり、700℃にて1.5hrかけて完全に灰化させ、つぎに灰化物を0.25N塩酸水溶液20mLに溶かし、0.1N塩酸水溶液となるように純水を加え、測定試料とした。
【0095】
上記の溶液Aを測定試料として、原子吸光分析法(フレーム:アセチレン-空気)にて定量を行った。測定吸光度が1.0を超える場合、0.1N塩酸水溶液を用いて希釈して、測定吸光度が1.0を超えない濃度で定量を行った。
【0096】
なお、原子吸光分光光度計は次の装置を使用した。
【0097】
AA-6300(島津製作所(株)製)。
【0098】
(4)ポリエステル樹脂組成物の有機塩化合物の含有量
ポリエステル樹脂組成物をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、メタノールによる再沈した後、遠心分離を行い、上澄液を採取する。上澄液は40℃に加温しながら緩やかに窒素ガスを吹き付け、濃縮後、メタノールにてメスアップを行い液体クロマトグラフィー/質量分析(以降LC/MSと記す)の試料とした。試料中の有機酸基含有量(ppm)をLC/MS装置を用いて求めた。
【0099】
LC/MS測定条件は以下の通りである。
LCシステム
メーカー:(株)島津製作所
機種名:LC20A
カラム:Symmetry C8 2.1×150mm、3.5μm(GLサイエンス)
移動相:A(0.1%ギ酸水溶液)、B(0.1%ギ酸メタノール溶液)
タイムプログラム:移動相のB成分率について以下のように変更した。
【0100】
0分から5分 B:10%
5分から10分 B:10→100%
10分から20分 B:100%
20分から30分 B:100→10%
流量:0.3mL/分
注入量:3μL
カラム温度:45℃
MSシステム
メーカー:AB/MDS Sciex
機種名:API4000
MSイオン化:ESI
検出モード:ESI negative
乾燥ガス:N2(350℃,10L/min)。
【0101】
(5)ポリエステル樹脂組成物の耐加水分解性評価(ΔCOOH/COOH)
ポリエステル樹脂組成物を飽和水蒸気下、155℃で4時間湿熱処理し、処理前後のCOOH末端基量を測定することで、COOH末端基増加量(ΔCOOH=処理後COOH-処理前COOH)を算出した。このΔCOOHの値を処理前のCOOH末端基量で割ることで耐加水分解性を評価した。
なお、処理装置は次の加熱処理装置を使用した。
PRESSER COOKER 306SIII(HIRAYAMA製作所(株)製) 。
【0102】
(6)ポリエステル樹脂組成物の線状オリゴマー発生量
温度23℃、湿度50%の環境下に24時間以上静置したポリエステル樹脂組成物(水分率2000~3000ppm)を0.1g計量し、封管内を窒素雰囲気下とし、290℃で20分溶融処理を行った。溶融処理した封管内の試料を2mLのHFIP(ヘキサフルオロ-2-プロパノール)/クロロホルム=1/1(体積)混合溶液で溶解させた後、ビーカーに移し、クロロホルム3mLを添加し、さらにメタノール40mLを徐々に加えた。その後、ペーパーフィルター(ADVANTEC製No.2)でろ過して得られた溶液を濃縮乾固させて得られた残渣にDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)0.5mLを加えて溶解・分散させ、エタノールを加えて5mLに定容した。孔径0.45μmのPTFEメンブレンフィルターでろ過した溶液を試料溶液とした。得られた試料溶液を、LC/UVで分析することにより、溶融処理後のポリエステル樹脂組成物中の線状オリゴマー(TPA、MHET、BHET)の含有量を測定した。この時、溶融処理前後の線状オリゴマー含有量の差(溶融処理後含有量-溶融処理前含有量)を算出することで、線状オリゴマー発生量を求めた。
【0103】
(7)ポリエステル樹脂組成物の線状オリゴマー飛散量
温度150℃、1Torr以下で12時間真空乾燥したポリエステル樹脂組成物8gを、窒素雰囲気下、温度300℃で60分間溶融して、氷浴中で急冷した後、凍結粉砕して得られた粉末について、さらに1Torr以下80℃で3時間真空乾燥した。乾燥した樹脂粉末を0.5g秤量瓶に収め、秤量瓶をセパラブルフラスコ中に置き、工業用空気50mL/分流通下、温度220℃で24時間熱処理し、発生する排気について、メタノール/N,N-ジメチルホルムアミド(容積比:30/1)の入った捕集瓶Aと、メタノールの入った捕集瓶Bに、連結して吹き込むことで排気中に含まれる線状オリゴマーを捕集し、その捕集液に含まれる線状オリゴマー(TPA、MHET、BHET)の量を液体クロマトグラフィーにて定量した。
【0104】
液体クロマトグラフィーの測定条件は以下の通りである。
メーカー:(株)島津製作所
機種名:LC20A
カラム:Inertsil OSD-3 3.0×250mm、5μm(GLサイエンス)
移動相:A(0.1%リン酸水溶液)、B(アセトニトリル)
タイムプログラム:移動相のB成分率について以下のように変更した。
【0105】
0分から15分 B:15%
15分から16分 B:15→30%
16分から35分 B:30→80%
35分から40分 B:80→100%
40分から45分 B:100%
流量:0.8mL/分
注入量:10μL
カラム温度:45℃
検出:UV波長240nm。
【0106】
(8)線状オリゴマー異物量
製膜開始から48時間後の二軸延伸フィルムを採取し、偏光板2枚の間にフィルムを置き、クロスニコル状態で目視にて検査を行い、フィルム表面上の異物を確認した。フィルム5mについて異物を確認し、短径と長径の平均径が5μm以上の異物について、顕微赤外分光光度計で線状オリゴマーが主成分であることを確認し、1mあたりの短径と長径の平均径が5μm以上の線状オリゴマー量を求めた。線状オリゴマー異物量の個数が、それぞれ1個/m以上を「×」、0.5個/m以上1.0個/m未満を「○」、0.5個/m未満を「◎」として評価した。
【0107】
顕微赤外分光光度計の測定条件および判別方法は以下の通りである。
・メーカー:サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)
・機種名:NICOLET6700、およびCONTINUμM赤外顕微鏡
・測定条件
測定範囲:650cm-1~4000cm-1
分解能:4cm-1
検出器:MCT
フィルム表面から異物を剥離し、ダイヤモンドウィンドウ上に取り出し、顕微赤外分光光度を測定した。得られた赤外線吸収スペクトルから1690cm-1のカルボン酸のカルボニル結合起因の吸収から線状オリゴマー主成分のTPAを確認でき、1720cm-1のエステル結合のカルボニル起因の吸収強度より、1690cm-1のカルボン酸のカルボニル結合起因の吸収が大きい場合線状オリゴマー異物とした。
【0108】
(9)ポリエステル樹脂組成物の溶融比抵抗
温度150℃、1Torr以下で12時間真空乾燥したポリエステル樹脂組成物を、窒素雰囲気下、温度290℃で10分間溶融して、ステンレス製の電極(サイズ:5mmW×20mmH×1mmT)を電極間距離8mmで溶融樹脂中に配し、電極挿入10分後の体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。溶融比抵抗は、低いほど静電印加キャスト時の密着性が良好であり、静電印加による製膜性が良好である。
【0109】
なお、体積抵抗率測定は次の装置を使用した。
【0110】
RM3545(日置電機(株)製)。
【0111】
(有機塩化合物名)
各実施例および比較例にて使用した有機塩化合物名およびアニオンの分子量および共役酸のpKa、アニオン分子量は表1に示すものである。
【0112】
【表1】
【0113】
(実施例1)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105重量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86重量部とエチレングリコール37重量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。
【0114】
こうして得られた255℃のエステル化反応物105重量部(PET100重量部相当)を重合装置に移送し、酢酸マンガン4水和物0.01重量部のエチレングリコール溶液、三酸化二アンチモン0.012重量部のエチレングリコールスラリーを添加した。その後、エチレングリコール5重量部(テレフタル成分対比0.15倍モル)を追加添加して解重合を進め、次いでリン酸0.006重量部とリン酸2水素ナトリウム2水和物0.0095重量部の混合エチレングリコール溶液を添加し、さらに有機塩化合物A0.005重量部を添加した。
【0115】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.65相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水中にストランド状に吐出、チップ状にカッティングした。
【0116】
得られたチップを160℃で8時間真空乾燥し、押出機に投入し、280℃で溶融押出し、フィルターを経て口金に移送した。次に口金から押出されたシート状の溶融物を静電印加により、表面温度25℃の冷却ドラム上に冷却固化させたシート状の未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを延伸ロールにて、95℃で縦方向に3.3倍延伸し、一軸延伸フィルムを得た。さらにこの一軸延伸フィルムを115℃熱風雰囲気下で幅方向に3.5倍延伸後、200℃で熱固定し、二軸延伸フィルム状のポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表2に示す。
【0117】
実施例1で得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー異物量が少ないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
【0118】
(実施例2~5、比較例1~2)
マンガン化合物の添加量を表2の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表2に示す
実施例2~5にて得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー異物量が少ないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
【0119】
比較例1~2で得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー発生量および線状オリゴマー飛散量が多いことから、線状オリゴマー異物量が増加した。
【0120】
【表2】
【0121】
(実施例6~9、比較例3~5)
リン酸ナトリウム塩およびリン酸の添加量を表3の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表3に示す。
【0122】
実施例6~9で得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー異物量が少ないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
【0123】
比較例3~5で得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー発生量および線状オリゴマー飛散量が多いことから、線状オリゴマー異物量が増加した。
【0124】
【表3】
【0125】
(実施例10~13、比較例6~7)
有機塩化合物種を表4の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表4に示す。
【0126】
実施例10~13で得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー異物量が少ないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
【0127】
比較例6~7にて得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー発生量および線状オリゴマー飛散量が多いことから、線状オリゴマー異物量が増加した。
【0128】
【表4】
【0129】
(実施例14~15、比較例8~9)
有機塩化合物の添加量を表5の通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表5に示す。
【0130】
実施例14~15で得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー異物量が少ないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。
【0131】
比較例8~9にて得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー発生量および線状オリゴマー飛散量が多いことから、線状オリゴマー異物量が増加した。
【0132】
【表5】
【0133】
(実施例16)
リン酸ナトリウム塩以外のアルカリ金属化合物種として水酸化カリウム0.0008重量部を酢酸マンガン4水和物のエチレングリコール溶液とともに添加した以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表6に示す。
【0134】
実施例16で得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー異物量が少ないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。また、溶融比抵抗が低く、静電印加による製膜性が良好であった。
【0135】
(実施例17~22)
リン酸ナトリウム塩以外のアルカリ金属化合物種および添加量を表6の通りに変更した以外は、実施例16と同様の方法でポリエステル樹脂組成物を得た。得られたポリエステル樹脂組成物の特性を表6に示す。
【0136】
実施例17~22で得られたポリエステル樹脂組成物は、線状オリゴマー異物量が少ないことから、光学フィルムや離型フィルムに好適な物性を有していた。また、溶融比抵抗が低く、静電印加による製膜性が良好であった。
【0137】
【表6】