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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】吸収体
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/53 20060101AFI20230711BHJP
   A61F 13/534 20060101ALI20230711BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
A61F13/53 300
A61F13/534 110
A61F13/15 321
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019126662
(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公開番号】P2021010625
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】新崎 盛昭
(72)【発明者】
【氏名】蓑毛 克弘
(72)【発明者】
【氏名】大井 亮
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/086841(WO,A1)
【文献】特開2011-168927(JP,A)
【文献】特開2011-200445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F13/15-13/84
A61L15/16-15/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の不織布および第2の不織布ならびに吸水ポリマーを備え、
前記吸水ポリマーは、前記第1の不織布および前記第2の不織布に挟持されており、
前記第1の不織布は、第1の短繊維を含み、
前記第1の短繊維の単糸強度は、0.15N以上であり、
前記第1の短繊維の含有量は、前記第1の不織布全体に対し10質量%以上であり、
前記第1の不織布の目付は、60g/m以下であり、
前記第1の不織布の厚さ方向の配向角は、20°以上であり、
厚さが3mm以下である、吸収体。
【請求項2】
前記第1の不織布が、第2の短繊維を含み、
前記第2の短繊維の公定水分率が、8%以上であり、
前記第2の短繊維の含有量が、前記第1の不織布全体に対し50質量%以上90質量%以下であり、
前記第1の短繊維の含有量が、前記第1の不織布全体に対し10質量%以上50質量%以下である、請求項1に記載の吸収体。
【請求項3】
前記第1の短繊維は中空繊維であり、
前記第1の短繊維の空孔率が10%以上である、請求項1または2に記載の吸収体。
【請求項4】
前記第2の不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さが、前記第1の不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さよりも大きい、請求項1から3のいずれかに記載の吸水体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の吸収体の製造方法であって、
前記第1の短繊維と第2の短繊維とをカードマシンに投入した後、前記第1の短繊維および前記第2の短繊維に対し混繊処理および開繊維処理を施し、クロスラップウエーバーでウエッブを成形する工程と、
前記ウエッブをウォータージェット式の不織布化装置に投入し、高圧水流により交絡させた後、乾燥させて第1の不織布を得る工程とを備え、
前記第1の短繊維のカードマシンへの投入量が、カードマシンに投入する前記第1の短繊維および前記第2の短繊維の合計投入量に対し10質量%以上50質量%以下であり、
前記第2の短繊維のカードマシンへの投入量が、カードマシンに投入する前記第1の短繊維および前記第2の短繊維の合計投入量に対し50質量%以上90質量%以下であり、
前記第1の短繊維の単糸強度は、0.15N以上であり、
前記第2の短繊維の公定水分率が、8%以上である、吸収体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
紙おむつやナプキン等の衛生材料製品は、尿や経血等の水系液体を吸収し保水するシート状の吸収体、吸収体の一方の面に配置された表面シートおよび吸収体の他方の面に配置された裏面シートを有している。上記の表面シートは尿や経血の透過性を有し、上記の裏面シートは尿や経血の防漏性を有する。また、上記の吸収体は、パルプ繊維と吸水ポリマーの混合物が不織布またはティッシュ等で包まれた構成となっている。
【0003】
そして、衛生材料製品において、吸収体、表面シートおよび裏面シートは、上記の衛生材料製品の着用時に、着用者に近い方から表面シート、吸収体および裏面シートの順に配置されている。
【0004】
ここで、近年、紙おむつやナプキン等の衛生材料製品の普及に伴い、衛生材料製品は薄型化による着用感の向上が望まれるようになってきている。
【0005】
そして、薄型化による着用感の向上を図った衛生材料製品として、以下のものが知られている。
【0006】
特許文献1には、吸収体に嵩高いパルプ繊維を用いずに、2枚の親水性の不織布により吸収ポリマーを狭持してなる吸収体を備える衛生材料製品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2011/086841号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された衛生材料製品が備える吸収体では、着用者にとって十分満足のいく吸収特性が発現できないという課題がある。例えば、特許文献1に開示された衛生材料製品では、吸収体に用いる親水性の不織布としてレーヨン短繊維とポリエステル短繊維の混合繊維からなるスパンレース不織布が用いられている。スパンレース不織布とは、不織布の面方向から高圧水流を噴射して繊維同士を交絡させるウォータージェット式の製法により得られる不織布である。そして、ウォータージェット式の製法では、スパンレース不織布が高圧により不織布全体として厚み方向に押しつぶされた様態となるため、スパンレース不織布を形成する繊維も全体的に面方向に配向しがちになる。すなわち、スパンレース不織布の厚さ方向の配向角が小さくなる。また、上記の吸収体では薄型化を実現するために2枚の親水性の不織布の間にパルプ繊維が配置されていない。よって、結果として、上記のスパンレース不織布は尿や経血などの水系液体の通液性(不織布面と垂直方向から投与された水系液体が厚み方向に通過する速度)に劣るものとなる課題がある。このようなスパンレース不織布を用いた吸収体を備える衛生材料製品では、装着時の衛生材料製品を想定した表面液流れ試験において、吸収体の内部への水系液体の浸透がスムーズに行かず、表面シートを伝って衛生材料製品の端部から水系液体が漏れてしまう。なお、詳細は後述するが、上記の表面液流れ試験とは衛生材料製品を45°の傾斜角度を有した傾斜台に固定した状態で、表面シート側から、0.9%生理食塩水25gを滴下し、生理食塩水が表面シート伝いに流れ落ちてから表面シート内部に吸収されるまでの距離を評価する試験である。
【0009】
上記の課題に鑑み、本発明は、薄型であり、かつ、吸収特性に優れる吸収体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、下記の構成からなる。
(1)第1の不織布および第2の不織布ならびに吸水ポリマーを備え、前記吸水ポリマーは、前記第1の不織布および前記第2の不織布に挟持されており、前記第1の不織布は、第1の短繊維を含み、前記第1の短繊維の単糸強度は、0.15N以上であり、前記第1の短繊維の含有量は、前記第1の不織布全体に対し10質量%以上であり、前記第1の不織布の目付は、60g/m以下であり、前記第1の不織布の厚さ方向の配向角は、20°以上であり、厚さが3mmである、吸収体、
(2)前記第1の不織布が、第2の短繊維を含み、前記第2の短繊維の公定水分率が、8%以上であり、前記第2の短繊維の含有量が、前記第1の不織布全体に対し50質量%以上90質量%以下であり、前記第1の短繊維の含有量が、前記第1の不織布全体に対し10質量%以上50質量%以下である、(1)の吸収体、
(3)前記第1の短繊維は中空繊維であり、前記第1の短繊維の空孔率が10%以上である、(1)または(2)の吸収体、
(4)前記第2の不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さが、前記第1の不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さよりも大きい、(1)から(3)のいずれかの吸水体であり、
また、(5)(1)~(4)のいずれかに記載の吸収体の製造方法であって、前記第1の短繊維と第2の短繊維とをカードマシンに投入した後、前記第1の短繊維および前記第2の短繊維に対し混繊処理および開繊維処理を施し、クロスラップウエーバーでウエッブを成形する工程と、前記ウエッブをウォータージェット式の不織布化装置に投入し、高圧水流により交絡させた後、乾燥させて第1の不織布を得る工程とを備え、前記第1の短繊維のカードマシンへの投入量が、カードマシンに投入する前記第1の短繊維および前記第2の短繊維の合計投入量に対し10質量%以上50質量%以下であり、前記第2の短繊維のカードマシンへの投入量が、カードマシンに投入する前記第1の短繊維および前記第2の短繊維の合計投入量に対し50質量%以上90質量%以下であり、前記第1の短繊維の単糸強度は、0.15N以上であり、前記第2の短繊維の公定水分率が、8%以上である、吸収体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、薄型であり、かつ、吸収特性に優れる吸収体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の吸収体は、第1の不織布および第2の不織布ならびに吸水ポリマーを備え、かつ、厚さが3mmである。また、上記の吸水ポリマーは、上記の第1の不織布および上記の第2の不織布に挟持されている。そして、上記の第1の不織布は、第1の短繊維を含み、
上記の第1の短繊維の単糸強度は、0.15N以上であり、上記の第1の短繊維の含有量は、前記第1の不織布全体に対し10質量%以上である。さらに、上記の第1の不織布は、目付が60g/m以下であり、かつ、厚さ方向の配向角が20°以上である。なお、詳細は後述するが、不織布の厚さ方向の配向角とは、その不織布を構成する繊維の繊維軸の配向の状態を表すものである。不織布の厚さ方向の配向角の値が90°以下の範囲で大きくなるほど、その不織布を構成する繊維の繊維軸の方向と不織布の面方向に垂直な方向とのなす鋭角がより小さくなる。
【0013】
このような、特徴的な構成の本発明の吸収体は、薄く、かつ、吸収特性に優れたものとなる。上記の効果が得られるメカニズムについて、詳細は後述するが、以下のとおりと推測する。すなわち、本発明の吸収体が備える第1の不織布は、単糸強度の高い第1の短繊維を特定の含有量で含み、目付が60g/m以下であり、さらに、厚さ方向の配向角が20°以上であることで、第1の不織布の一方の面から他方の面に水系液体は透過し易くなる。このことにより、第1の不織布と第2の不織布との間にパルプ繊維が存在しなくとも、第1の不織布と第2の不織布との間に存在する吸水ポリマーが迅速に水系溶液を吸水し、保水することが可能となる。よって、本発明の吸収体では第1の不織布と第2の不織布との間にパルプ繊維を配置する必要がないため、厚さが3mm以下と薄い吸収体とすることができる。なお、上記の第1の不織布の目付が60g/m以下であることは、吸収体の薄型化にとって有利であることはいうまでもない。
【0014】
(第1の不織布)
まず、本発明の吸収体が備える第1の不織布について説明する。上記のとおり、第1の不織布は、単糸強度の高い第1の短繊維を特定の含有量で含み、目付が60g/m以下であり、さらに、厚さ方向の配向角が20°以上である。この第1の不織布の構成により、第1の不織布の一方の面から他方の面に水系液体は透過し易くなる。よって、本発明の吸収体を用いた衛生材料製品において、上記の衛生材料製品の着用時に第2の不織布および吸水ポリマーよりも第1の不織布が着用者側となるように第1の不織布が配置されることで、着用者から発せられた尿などの水系液体は第1の不織布を透過し、吸水ポリマーに吸水され、保水されやすくなる。すなわち、吸収体の吸収特性が優れたものとなる。
【0015】
ここで、第1の不織布は第1の短繊維を含む。詳細は後述するが、第1の短繊維の単糸強度は高い。そして、第1の短繊維の単糸強度が高いことで、第1の不織布の製造時においてウォータージェットなどにより、第1の不織布を構成する繊維の繊維軸を本発明における所望の方向に配向させ易くなる。また、第1の短繊維の単糸強度が高いことで、所望の方向に配向されられた第1の不織布を構成する繊維の繊維軸を吸収体の使用後まで維持し易くなる。そして、第1の不織布における第1の短繊維の含有量は、第1の不織布全体に対し10質量%以上である。上記の第1の短繊維の含有量が10質量%以上であることで、第1の不織布を構成する繊維の繊維軸の所望の方向への配向および上記の配向の維持が可能となる。第1の不織布を構成する繊維の繊維軸の所望の方向への配向および上記の配向の維持がより確実なものとなるとの理由から、上記の第1の短繊維の含有量は20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。
【0016】
そして、第1の不織布の厚さ方向の配向角は20°以上である。すなわち、第1の不織布では、第1の不織布を構成する繊維の繊維軸の方向と不織布の面方向に垂直な方向とのなす鋭角は70°以下となる。そして、第1の不織布を構成する繊維の繊維軸の配向が上記の様になることで、水系液体は第1の不織布の内部を不織布の面方向に垂直な方向に移動しやすくなり、結果として、第1の不織布の一方の面から他方の面に水系液体は透過し易くなる。上記の効果がより優れたものとなるとの理由から、第1の不織布の厚さ方向の配向角は30°以上であることが好ましい。一方で、第1の不織布の厚さ方向の配向角の上限は特に限定はされないが、90°以下であることが好ましい。
【0017】
次に、第1の不織布の目付は60g/m以下である。第1の不織布の目付が60g/m以下であることで、第1の不織布の一方の面から他方の面に水系液体は透過し易くなる。上記の効果がより優れたものとなるとの理由から、第1の不織布の目付は50g/m以下であることが好ましい。一方で、第1の不織布の目付の下限は特に限定はされないが、後述する吸水ポリマーをより確実に担時することができるとの理由から20g/m以上であることが好ましい。
【0018】
また、第1の不織布として、具体的には、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布およびスパンレース不織布を挙げることができる。これらの中でも、後述する第2の短繊維としてセルロース系の繊維を用いた場合であっても、バインダーレスで不織布化が可能であるとの理由により、第1の不織布はスパンレース不織布であることが好ましい。
【0019】
また、第1の不織布は、第1の短繊維に加えて、第2の短繊維を含有することが好ましい。詳細は後述するが、第2の短繊維は公定水分率が8%以上の短繊維である。このような第2の短繊維は親水性の短繊維であるといえ、本発明の吸収体に尿や経血などの水系液体が第1の不織布に到達した際に、水系液体が第2の短繊維に余すことなく一時的に保水され、次いで、水系液体は第2の短繊維を経由して最終的に吸水ポリマーに保水されやすくなる。その結果、吸収体に保水された水系液体は、着用者の体重による加圧を吸収体が受けた場合であっても、吸収体から表面シートを透過して、着用者の側に逆流することが抑制される。さらに、第2の短繊維の含有量は、第1の不織布の全体に対し50質量%以上であることが好ましい。第1の不織布が、第2の短繊維を50質量%以上含有することで、前記の逆戻りをさらに抑制し易くなる。上記の理由により、第1の不織布における第2の短繊維の含有量は65質量%以上であることがより好ましい。一方で、第1の不織布を構成する繊維の繊維軸を本発明における所望の方向に配向させ易くなり、さらに、所望の方向に配向されられた第1の不織布を構成する繊維の繊維軸を吸収体の使用後まで維持し易くなるとの理由から、第2の短繊維の含有量は90質量%以下であることが好ましい。なお、各短繊維の公定水分率は繊消誌1991年32巻3号P.88-86に記載されている。
【0020】
(第2の不織布)
次に、本発明の吸収体が備える第2の不織布について説明する。第2の不織布としては、特に限定はされず、第1の不織布と同一の不織布であってもよいし、第1の不織布とは異なる不織布であってもよい。
【0021】
ここで、第2の不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さは、第1の不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さよりも大きいことが好ましい。かかる様態とすることにより、吸収体の第1の不織布側から侵入した水系液体は、吸収体の内部を吸水ポリマーおよび第2の不織布の方へ拡散していくとともに、第2の不織布に到達した水系液体は第2の不織布の内部を第2の不織布の面方向に平行な方向に拡散していく。そして、結果として、吸収体の内部に侵入した水系液体は吸水ポリマーおよび第2の不織布の全体に広く拡散し、吸水され、保水されることとなる。よって、吸収体の吸収特性はより優れたものとなる。なお、ここでいうバイレック法吸水試験における吸水高さとはJIS L1907(2010)7.1.2に規定された方法で測定されたものをいう。第2の不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さを、第1の不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さよりも大きくする方法としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、第2の不織布における第2の短繊維の含有量を、第1の不織布における第2の短繊維の含有量よりも大きくする方法が例示できる。
【0022】
また、第2の不織布として、具体的には、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布およびスパンレース不織布を挙げることができる。これらの中でも、後述する第2の短繊維としてセルロース系の繊維を用いた場合であっても、バインダーレスで不織布化が可能であるとの理由により、第2の不織布はスパンレース不織布であることが好ましい。
【0023】
(第1の短繊維)
次に、第1の短繊維について説明する。第1の不織布に含有される第1の短繊維の単糸強度は0.15N以上である。このような第1の短繊維を第1の不織布が含有することで、第1の不織布の製造時においてウォータージェットなどにより、第1の不織布を構成する繊維の繊維軸を本発明における所望の方向に配向させ易くなり、さらに、所望の方向に配向されられた第1の不織布を構成する繊維の繊維軸を吸収体の使用後まで維持し易くなる。上記の理由により、第1の短繊維の単糸強度は0.2N以上であることが好ましい。一方で、第1の短繊維の単糸強度の上限は、特に限定はされないが、第1の不織布を触感の良いものとし、着用時に不快感のない衛生材料製品を得ることができるとの理由により、1.0N以下であることが好ましい。ここで、短繊維の単糸強度とはJIS L 1015(1999) 8.7.1を参考に、短繊維1本について引張試験を行った際に得られる伸び-荷重曲線の最大荷重をいう。また、短繊維とは、繊維長が10~100mmの範囲である繊維をいう。後述するカードマシンの通過性の観点からは、第1の短繊維の繊維長は20~80mmであることが好ましい。
【0024】
また、吸水による第1の不織布の強度の低下を抑え、第1の不織布を構成する繊維の繊維軸を本発明における所望の方向に配向させ易くすることができるとの理由により、第1の短繊維の公定水分率は8%未満であることが好ましい。上記の理由により、第1の短繊維の公定水分率は1%以下であることが好ましい。吸水による第1の不織布の強度の低下を最小限に抑えるとの理由により、第1の短繊維の公定水分率の下限は0%であることが好ましい。
【0025】
ここで、第1の短繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン短繊維、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル短繊維、ナイロン短繊維、アクリルニトリル等のアクリル繊維、ポリビニルアルコール等のビニロン繊維を挙げることができる。これらの短繊維の中でも強度や汎用性に優れるとの観点からポリエステル短繊維であることが好ましい。さらに、ポリエチレンテレフタレートの短繊維であることがより好ましい。
【0026】
また、第1の短繊維は中空繊維であることが好ましい。また、上記の中空繊維の空孔率は10%以上であることが好ましい。第1の短繊維が空孔率10%以上の中空繊維であることで、第1の短繊維の嵩が大きくなり、結果として、第1の不織布を構成する繊維の繊維軸を本発明における所望の方向に配向させ易くなり、さらに、所望の方向に配向されられた第1の不織布を構成する繊維の繊維軸を吸収体の使用後まで維持し易くなる。上記の理由により、空孔率は20%以上であることが好ましい。一方で、第1の不織布の強度を維持することができるとの理由により、空孔率の上限は、50%以下であることが好ましい。
【0027】
(第2の短繊維)
次に第2の短繊維について説明する。第2の短繊維の公定水分率は8%以上である。第2の短繊維が公定水分率8%以上と親水性の短繊維であることで、第1の不織布の一方の面から他方の面に水系液体はより透過し易くなる。
【0028】
ここで、第2の短繊維としては、具体的には、羊毛の繊維、絹の繊維、および綿・麻・レーヨンの繊維等のセルロース系の繊維を挙げることができる。これらの繊維のなかでも、第2の短繊維はセルロース系の繊維であることが好ましく、第2の短繊維はレーヨンの繊維であることがより好ましい。ここで、第2の短繊維がセルロース系の繊維であることで、吸収体が虫害などに対して保存安定性に優れたものとなり、第2の短繊維が公定水分率10%以上であるレーヨン繊維であることで、第1の不織布を介した吸収体からの水系液体の逆流をより抑制することができる。なお、第2短繊維の繊維長は、第1の短繊維と同様に繊維長が10~100mmの範囲であることが好ましく、第2の短繊維のカードマシンの通過性向上の観点からは、20~80mmの範囲であることが好ましい。
【0029】
(吸収体)
本発明の吸収体は厚みが3mm以下である。吸収体の厚みが3mm以下であることで、本発明の吸収体をおむつなどの衛生材料製品に用いた場合に、本発明の吸収体を用いた衛生材料製品を柔軟であり、ごわつき感が抑制され、さらに、着用感に優れたものとすることができる。衛生材料製品の着用感をより良くするとの理由から、吸収体は薄いほうが好ましく、吸収体の厚さは2.5mm以下であることが好ましい。一方で、吸収体の吸収特性をより優れたものとするとの理由から、吸収体の厚さは1mm以上であることが好ましい。なお、ここで言う吸収体の厚みとはJIS L1913(1998) 6.1.2 A法に基づいて測定したものをいう。
【0030】
なお、本発明の吸収体を3mm以下とする方法について説明する。ここで、従来の吸収体では、吸収体の吸収特性を優れたものとするために、ティッシュなどの不織布2枚の間に吸水ポリマーと多量のパルプ繊維とが挟持されている。そして、上記のパルプ繊維は嵩高いため、従来の吸収体の厚さは3mmを大きく超え、厚いものとなっている。一方で、本発明の吸収体においては、上記の事情により、第1の不織布と第2の不織布との間に嵩高いパルプ繊維を配置することなく、吸収体の優れた吸収特性を担保することができる。よって、本発明の吸収体においては、第1の不織布と第2の不織布との間に配置されたパルプ繊維の含有量を50g/m以下とすることで吸収体の厚さを3mm以下とすることができる。本発明の吸収体の厚さをより薄くすることができるとの理由から、上記のパルプの含有量は10g/m以下であることが好ましく、0g/mであることが特に好ましい。
【0031】
(吸水ポリマー)
本発明の吸収体は、吸水ポリマーを含む。本発明に用いられる吸水ポリマーとしては、例えば、デンプンや架橋カルボキシメチル化セルロース、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又はその共重合体、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸塩やポリアクリル酸塩グラフト重合体等が挙げられる。これらの中でも、吸水ポリマーは、ポリアクリル酸ナトリウムであることがこのましい。上記とは別の観点から、吸水ポリマーは、吸水ポリマー1g当たりの生理食塩水の吸収倍率が40~80倍であって、かつ、吸水ポリマー1g当たりの生理食塩水の吸収速度が50秒以下であるものが、吸収特性がより優れたものとなるとの観点から好ましい。また、吸水ポリマーは、製造工程などにおける取り扱い性の観点から粒子状であることが好ましい。吸水ポリマーが粒子状である場合において、その数平均粒子径は、50μm以上800μm以下であることが好ましい。吸水ポリマーの数平均粒子径が50μm以上800μm以下であることで、吸水ポリマーが第1の不織布や第2の不織布を透過することを抑制することができる。ここで、吸水ポリマーの生理食塩水の吸収倍率はJIS K7223(1996)に規定されたティーパック法で測定されたものをいい、吸水ポリマーの生理食塩水の吸収速度はJIS K7224(1996)に規定されたVortex法で測定されたものをいう。また、吸水ポリマーの数平均粒子径は、10粒の吸水ポリマーについてSEM等で観察し、それぞれの粒について円形近似を行うことで得られた直径を10粒について平均することで算出する。本発明において、吸水ポリマーとしてポリアクリル酸ナトリウム系吸水ポリマーを用いる場合は、SDPグローバル社製『サンウェット IM-930』を採用することができる。
【0032】
本発明の吸収体では、吸水ポリマーの目付けが100g/m以上500g/m以下であることが好ましい。吸水ポリマーが密に存在した状態で水系液体と接した際に吸水膨張した吸水ポリマー同士が接触して、他の未吸水・未膨張の吸水ポリマーと水系液体の接触を阻害する『ゲルブロック現象』が起こることが知られているが、吸水ポリマーの目付けが上記の範囲であることにより、吸水ポリマーの粒子同士が適度な間隔で存在し『ゲルブロック現象』を回避して、吸水ポリマーが効率的に機能し易くなる。
【0033】
(第1の不織布および第2の不織布の製造方法)
次に、本発明の吸収体に用いる第1の不織布および、第2の不織布を製造する方法について具体的に説明するが、本発明の吸収体で用いる第1の不織布および、第2の不織布の製造方法はこれらに限定されるものではない。
【0034】
本発明の第1の不織布を得るために用いる第1の短繊維と必要に応じて第2の短繊維を、第1の不織布とした際の含有量が所望の範囲となる比率でカードマシンに投入し、混繊および開繊維を行った後、クロスラップウエーバーで均一なウエッブを成形する。続いてウエッブをウォータージェット式の不織布化装置に投入し、高圧水流により交絡させて不織布とする。その後、熱風オーブンで不織布を乾燥させ第1の不織布を得る。
【0035】
より具体的な第1の不織布の製造方法を以下に例示する。第1の短繊維と第2の短繊維とをカードマシンに投入する。このとき、各短繊維の投入量は、以下のとおりとする。第1の短繊維の投入量については、第1の短繊維および第2の短繊維の合計の質量に対し、10質量%以上50質量%以下とし、第2の短繊維の投入量については、第1の短繊維および第2の短繊維の合計の質量に対し、50質量%以上90質量%以下とする。次に、第1の短繊維および第2の短繊維に対し混繊処理および開繊維処理を施し、クロスラップウエーバーで厚さの均一なウエッブを成形する。さらに、得られたウエッブをウォータージェット式の不織布化装置に投入し、高圧水流により交絡させて不織布とする。その後、熱風オーブンで不織布を乾燥させ第1の不織布を得る。
【0036】
第2の不織布を得る場合も、短繊維の組成や含有量を変更する以外は第1の不織布と同様の製造方法を採用することができる。
【0037】
(吸収体の製造方法)
続いて、本発明の吸収体を製造する方法について具体的に説明するが、本発明の吸収体の製造方法は下記のものに限定されるものではない。第1の不織布と第2の不織布との間に吸水ポリマーを固定して吸収体を得る。吸水ポリマーを固定する方法としては、(1)第1の不織布の片面にホットメルト接着剤をスプレー状やスパイラル状に散布しその上から吸水ポリマーを散布した後に、同様に片面にホットメルト接着剤を散布した第2の不織布を、ホットメルト接着剤と吸水ポリマーが接するように上から被せて圧着させる方法や、(2)熱融着性の樹脂パウダーと吸水ポリマーを予め均一混合したものを第1の不織布の片面に散布した後に、第2の不織布を吸水ポリマーの上から被せて熱融着性パウダーの融点以上の温度に加熱して熱圧着させる方法が挙げられる。このとき用いるホットメルト接着剤としては、衛生材料製品用途に適したスチレン系ホットメルトやオレフィン系ホットメルト接着剤を好適なものとして用いることができる。また、熱融着性の樹脂パウダーとしては、比較的、低温で熱融着を可能とすることができるとの観点から、ポリエチレンパウダーやエチレン-酢酸ビニル共重合体パウダーを好適に用いることができる。
【0038】
(衛生材料製品の製造方法)
本発明の吸収体使用した、紙おむつやナプキン等の衛生材料製品の製造方法について説明する。本発明の吸収体を略長方形状に断裁した後に、断裁後の吸収体と同じく略長方形状であり、かつ、断裁後の吸収体よりも面積の大きい表面シートおよび裏面シートの間に吸収体を挟持して固定する。このとき、吸収体の第1の不織布が表面シートと接するように吸収体を表面シートと裏面シートとで挟持することが好ましい。第1の不織布は、第1の不織布の一方の面から他方の面に水系液体は透過し易くする特徴を有するため、表面シートが第1の不織布と接することにより、表面シート内部に浸透した水系液体は第1の不織布を迅速に透過し、吸水ポリマーに吸水され、保水されやすくなる。よって、吸収体の吸収特性はより優れたものとなる。表面シートと吸収体、裏面シートと吸収体、および表面シートと裏面シートが、直接接する部分を固定する方法は、ホットメルト接着剤を用いる方法や熱融着性の樹脂パウダーを用いる方法を挙げることができる。また、本発明の吸収体を衛生材料製品とする際に用いる表面シートとしては、通液性や触感がより優れたものとなるとの観点から、不織布を採用することが好ましく、例えば、湿式不織布やレジンボンド式乾式不織布、サーマルボンド式乾式不織布、スパンボンド式乾式不織布、ニードルパンチ式乾式不織布、ウォータージェットパンチ式乾式不織紙布またはフラッシュ紡糸式乾式不織布等のほか、目付や厚みが均一にできる抄紙法により製造された不織布も好ましく使用できる。中でも、人肌に触れる場所に位置するという観点から、触感に優れるサーマルボンド式乾式不織布を表面シートとして用いることが好ましい。また、本発明の吸収体を衛生材料製品とする際に用いる裏面シートとしては、衛生材料製品内部に蓄積した水蒸気を外部に逃がして着用者に快適性を与えることができるとの観点と、防水性や触感を優れたものとすることができるとの観点とから、透湿防水性フィルムと不織布との積層シートであることが好ましい。上記の透湿防水性フィルムとしては多孔質ポリエチレンフィルム、透湿性ウレタンフィルムや透湿性ポリエステルエラストマーフィルム等が挙げられる。また上記の不織布としては表面シートと同様の不織布を用いることができるが、コストと強度の観点からスパンボンド式乾式不織布が好ましい。
【実施例
【0039】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0040】
[測定および評価方法]
(1)不織布の目付
JIS L1913(1999) 6.2に基づき、不織布から25cm×25cmの試験片3枚を採取し、それぞれの標準状態における質量(g)を量り、次の式によって、1m当たりの質量(g/m)を求め、次式により目付の平均値を算出した。
Sm=W/A
Sm:目付(g/m
W:標準状態における試験片の質量(g)
A:試験片の面積(m)。
【0041】
(2)不織布の厚み方向の配向角
江前らによる論文(文化財保存修復学会第26回大会研究発表要旨集, 44-45(2004))記載の方法を参考に繊維の配向角を求めた。評価手順としてはX線CTや走査型電子顕微鏡で得られた断面画像に対して2値化と2次元フーリエ変換処理を施しパワースペクトルを得る。得られたパワースペクトルから平均振幅幅の角度分布を求め、その楕円近似を行い、近似楕円の長軸/短軸比を配向度、長軸の角度-90°を配向角として求めた。具体的には、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 S-3400N)を用いて不織布の幅方向-厚み方向で形成される断面を1,000倍で観察した。なお断面画像は不織布1試料当たり5箇所について採取した。得られた画像をbmpファイル形式・1辺の画素数を4の倍数、画像の水平方向が幅方向となるように変換した後、5箇所の画像を非破壊による紙の表面繊維配向解析プログラム『FiberOri8single03』を用いて一括読み込みし、2値化、フーリエ変換およびパワースペクトルの平均振幅幅の角度分布の楕円近似の自動処理を行い、配向角・配向度を算出した。不織布の対象性を加味して、90°以上の配向角を示したものについては、180°からその値を引き90°以下の値に変換し配向角とした。
【0042】
(3)不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さ
JIS L1907(2010)7.1.2に基づいて測定した。具体的には不織布から200mm×25mmの試験片を5枚採取し、水を入れた水槽の水面上に支えた水平棒上に試験片を固定した後、水平棒を降下させて試験片の下端の20mmが水に浸せきするように調整し、そのまま10分間放置する。放置後、毛細管現象によって水が上昇した高さをスケールで1mmまで測定し、試験片5点の平均値を求めた。
【0043】
(4)不織布を構成する繊維の含有量
JIS L 1030-1(2006)「繊維製品の混用率試験方法-第1部:繊維識別」、およびJIS L 1030-2(2005)「繊維製品の混用率試験方法-第2部:繊維混用率」に基づいて、正量混用率(標準状態における各繊維の質量比)を測定し、これを不織布を構成する繊維の含有量(質量%)とした。
【0044】
(5)短繊維の単糸強度
JIS L1015(1999) 8.7.1を参考に測定した。具体的には繊維一本を緩く伸ばした状態で繊維の両端をそれぞれ接着剤で紙に貼り付け、紙を貼り付けた部分をつかみ部とした試料を作成した。このときつかみ部分間の繊維のみの領域を20mm確保するようにした。この試料のつかみ部分を引張試験器(オリエンテック社製 テンシロン万能試験機 型式RTG-1210)のつかみに取り付け、つかみ間隔10mm、引張速度10mm/分の速度で引っ張り、得られた伸び(mm)-荷重(N)曲線における最大荷重を単糸強度(N)とした。測定は各試料10本について行いその平均値を算出した。
【0045】
(6)短繊維の公定水分率
短繊維の組成が既知である場合は、繊消誌1991年32巻3号P.88-86において同一の組成について記載されている公定水分率値を、短繊維の公定水分率とした。短繊維の組成が不明である場合は、(4)不織布を構成する繊維の含有量に記載の方法で、短繊維の組成を特定し、同様に繊消誌1991年32巻3号P.88-86において同一の組成について記載されている公定水分率値を、短繊維の公定水分率とした。
【0046】
(7)短繊維の空孔率
ウルトラミクロトームを用いて短繊維サンプルを繊維軸と直行する方向から切り出することにより露出した繊維断面を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 S-3400N)を用いて倍率500倍~1,500倍で観察した。得られた繊維断面画像において繊維内部に空間が確認できた場合は、大津の2値化処理を施すことにより繊維成分部分の面積(S1)と繊維内部の空間部分の面積(S2)を求め、次式により空孔率を算出した。
空孔率(%)=S1/(S1+S2)×100
(8)吸収体の厚み
JIS L1913(1998) 6.1.2 A法に基づいて測定した。具体的には不織布の試料から50mm×50mmの試験片を5枚採取し、厚さ測定器(TECLOCK社製定圧厚さ測定器、型式PG11J)を用いて標準状態で試験片に0.36kPaの圧力を10秒間かけて厚さを測定した。測定は各試験片(5枚)について行い、平均値を算出した。
【0047】
(9)不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さ
JIS L1907(2010)7.1.2に規定された方法で測定された値を言う。
【0048】
(10)衛生材料製品の逆戻り量、繰り返し使用時の逆戻り量
表面シート、吸収体、裏面シートを接着して一体化した衛生材料製品を試料とし、試料の表面シート側から尿を模倣した水系液体として用意した生理食塩水(9%の塩化ナトリウム水溶液)を20ml投与した。生理食塩水を投与して5分後に、表面シート上の生理食塩水を投与した位置に予め重量を測定したろ紙(アドバンテック社製定性濾紙No1 110φ)を置き、その上からステンレス製の110φの円柱形状の錘を置き5分間保持した。試験終了後、錘を除去して逆戻りにより吸水したろ紙の重量を測定した。試験後のろ紙重量(W1)と試験前のろ紙重量(W0)を用いて次式により逆戻り量を算出した。
逆戻り量(mg)=W1―W0
錘を除去してから30分経過後に、前回生理食塩水を投与した位置に再び20mlの生理食塩水を投与し、新たに準備したろ紙を用いて同様の錘保持時間・方法で逆戻り量を測定する操作を2回繰り返し、2回目の逆戻り量と3回目の逆戻り量を算出した。この3回目の逆戻り量を繰り返し使用時の逆戻り量とした。
【0049】
逆戻り量は低い値を示すものほど優れている。逆戻り量が60mg以下のものは尿や経血等の水系液体を一度吸収した状態で着用し続けても、肌側への水系液体の逆戻りが抑制されているため快適性があり好ましい。同様に繰り返し使用時の逆戻り量も低い値ほど優れており、繰り返し使用時の逆戻り量が100mg以下のものは、繰り返し使用しても快適性が持続しており好ましい。
【0050】
(11)傾斜状態での表面液流れ距離
表面シート、吸収体、裏面シートを接着して一体化した略長方形状の衛生材料製品を試料とし、試料を45°の傾斜角度を有した傾斜台に試料の長手方向が傾斜方向と一致するように固定した。このとき表面シート上の皺をなくすため試料を伸ばした状態で固定した。続いて表面シートの上端から1cm下方の位置で、0.90%生理食塩水(青色染料で着色)を、マイクロチューブポンプまたはビュレットから、1.5g/秒の速度で合計25gを滴下した。このとき生理食塩水が表面シート伝いに傾斜方向に流れ落ち、ある位置で表面シート内部に吸収されて表面シート上から消失する挙動が観測される。滴下位置を始点としてこの生理食塩水が消失するまでの距離を表面液流れ距離とし、25gの生理食塩水全量を滴下している間に観察された最大の表面液流れ距離を、傾斜状態での表面液流れ距離とした。
【0051】
表面液流れ距離は低い値を示すものほど、液漏れ防止性に優れている。表面液流れ距離が45mmより大きいのものは、着用状態で寝位を取った際など衛生材料製品が傾斜状態になるときの漏れが顕著であり、実用レベルの吸収特性を有さないと判断した。
【0052】
(実施例1)
第1の不織布の第1の短繊維としてポリエチレンテレフタレート(公定水分率:0.4%)からなる中空短繊維(単繊維繊度:6.6T、繊維長:51mm、空孔率:30%)40質量%と第2の短繊維としてレーヨン(公定水分率:11%)からなる短繊維(単繊維繊度:1.4dtex、繊維長:51mm)60質量%とを、カードで混繊し、開繊した後、クロスラップウエーバーでウエッブとした。このウエッブを、圧力:3MPa、速度1.0m/minの条件で高圧水流により絡合させ、150℃で3分間乾燥することにより40g/mの第1の不織布を得た。第1の不織布の片面にスチレン系ホットメルトを1g/mとなるようにスプレー状に塗布し、さらにその上から吸水ポリマー(SDPグローバル社製 IM930)を300g/mとなるように均一に散布した。続いて第1の不織布と同じ短繊維組成・製造方法で不織布を作成し、40g/mの第2の不織布を得るとともに、第2の不織布の片面にスチレン系ホットメルトを1g/mとなるようにスプレー状に塗布した後、第2の不織布を、第2の不織布のホットメルト塗布面が第1の不織布上に散布した吸水ポリマーと接するように被せ、圧着することにより吸収体を得た。さらに吸収体を30cm×10cmの略長方形状にカットするとともに、表面シートとして芯部にポリエチレン、鞘部にポリプロピレンを有した芯鞘構造のポリエチレン/ポリプロピレン短繊維を用いて作成したサーマルボンド式乾式不織布を35cm×14cmの略長方形状にカットしたものと、裏面シートとして多孔質ポリエチレンフィルムとポリプロピレン製スパンボンド式乾式不織布を35cm×20cmの略長方形状にカットしたものを準備するとともに、吸収体の両面にスチレン系ホットメルトをそれぞれの面で1g/mとなるようにスプレー状に塗布した。続いて、表面シート/吸収体/裏面シートの順に各材料の長方形状の長手方向を揃えつつ重心が一致するように重ねて圧着し衛生材料製品とした。このとき、吸収体が備える第1の不織布が表面シート側に配置されるように、吸収体を第1の不織布および第2の不織布とで挟持した。第1および第2の不織布を構成する短繊維特性および、得られた第1および第2の不織布、吸収体、および衛生材料製品の組成および評価結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2~8、比較例1~2)
第1の不織布および第2の不織布についてそれぞれ、短繊維含有量、種類、不織布の目付けを表1および表2に記載の内容とした以外は、実施例1と同様の方法で、第1の不織布、第2の不織布、吸収体および衛生材料製品を得た。第1および第2の不織布、吸収体、および衛生材料製品の評価結果を表1および表2に示す。
実施例1、5,6と比較例1の比較により、第1の短繊維の単糸強度が、0.15N以上であることにより、配向角を20°以上とし表面液流れ距離を実用的な範囲の値にできることがわかる。
【0054】
実施例1、7と比較例2の比較において、第1の不織布の目付けが60g/m以下とすることにより、厚みを3mm以下にとどめ着用感に優れたものとすることができる。
【0055】
また、実施例1と実施例5の比較において、第1の短繊維の空孔率が10%以上の中空繊維であることにより、単糸強度が低くとも配向角を高い値とし表面液流れ距離を低い値とすることができることがわかる。
【0056】
実施例1~3と実施例4の比較において、第2の短繊維の含有量が、第1の不織布全体に対し50質量%以上であることにより、表面液流れ距離に加え逆戻り量を好ましい範囲の値にできることがわかる。さらに実施例1と実施例8の比較により、第2の不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さが、第1の不織布のバイレック法吸水試験における吸水高さよりも大きいことにより、繰り返し使用時の逆戻り量を好ましい範囲の値にできることがわかる。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の吸収体は、薄型でありかつ、吸収特性に優れる吸収体であり、テープタイプ紙おむつ、パンツタイプ紙おむつ、生理用ナプキン、尿取りパッド等の種々の衛生材料製品として好適に用いることができる。