(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】冷却液
(51)【国際特許分類】
C09K 5/10 20060101AFI20230711BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C09K5/10 F
C01B33/18 Z
(21)【出願番号】P 2019131617
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2020-10-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一久
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】植田 忠伸
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-185838(JP,A)
【文献】特開2000-176488(JP,A)
【文献】特開2008-174435(JP,A)
【文献】国際公開第2005/026048(WO,A1)
【文献】特開2004-315323(JP,A)
【文献】特開2005-000761(JP,A)
【文献】米国特許第05692461(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
C09K 3/00-3/32
B01J 39/00-49/90
H01M 8/00-8/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却液であって、
水またはアルコール水溶液であるベース液体と、
複数の細孔を有する多孔質微粒子であって、前記ベース液体中に含有され、イオンを捕獲可能な多孔質微粒子と、
を含み、
前記多孔質微粒子は、
単分散球状メソポーラスシリカのスルホン酸基修飾体であって、前記細孔の内部に陽イオンを捕獲可能な第1多孔質微粒子と、
単分散球状メソポーラスシリカのアミノ基修飾体であって、前記細孔の内部に陰イオンを捕獲可能な第2多孔質微粒子と、
から成る、
冷却液。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却液であって、
前記多孔質微粒子の濃度は、10vol%以下である、
冷却液。
【請求項3】
請求項1または請求項
2に記載の冷却液であって、
前記多孔質微粒子の直径は、10nm以上3000nm以下である、
冷却液。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記第1多孔質微粒子と、前記第2多孔質微粒子とが、等量含まれる、
冷却液。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の冷却液であって、
前記多孔質微粒子が、前記ベース液体中に分散されている、
冷却液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の冷却系では、液体の熱輸送流体(以下、「冷却液」と称する)を用いた熱輸送システムが採用されている。冷却液を長期間に亘り使用すると、冷却液に混入したイオンにより絶縁性が低下するおそれがある。これに対し、従来、冷却系がイオン交換器を備えることにより、冷却液の絶縁性を確保する技術が用いられている(例えば、特許文献1参照)。また、硬度成分の吸着能力を向上させたイオン交換膜が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
ところで、多孔質構造をもつ物質は高い表面積を有するため、触媒担体、酵素や機能性有機化合物等の固定化担体として広く使用されている。そして、均一で微細な細孔を有する多孔体として、メソ細孔構造を有しポリマーを包含する複合シリカ粒子、メソ細孔構造を有する中空シリカ粒子が提案されている(例えば、特許文献3参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-214348号公報
【文献】特開2018-176051号公報
【文献】特許第5480461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、冷却液の絶縁性の低下を抑制する他の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本発明の一形態によれば、冷却液が提供される。この冷却液は、水またはアルコール水溶液であるベース液体と、複数の細孔を有する多孔質微粒子であって、前記ベース液体中に含有され、イオンを捕獲可能な多孔質微粒子と、を含み、前記多孔質微粒子は、単分散球状メソポーラスシリカのスルホン酸基修飾体であって、前記細孔の内部に陽イオンを捕獲可能な第1多孔質微粒子と、単分散球状メソポーラスシリカのアミノ基修飾体であって、前記細孔の内部に陰イオンを捕獲可能な第2多孔質微粒子と、から成る。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、冷却液が提供される。この冷却液は、ベース液体と、複数の細孔を有する多孔質微粒子であって、前記ベース液体中に含有され、イオンを捕獲可能な多孔質微粒子と、を含み、前記多孔質微粒子は、陽イオンを捕獲可能な第1多孔質微粒子と、陰イオンを捕獲可能な第2多孔質微粒子と、を含む。
【0008】
この構成によれば、冷却液において、ベース液体中に第1多孔質微粒子および第2多孔質微粒子が含まれているため、冷却液中に溶出した陽イオン(カチオン)および陰イオン(アニオン)を、多孔質微粒子により捕獲することができる。そのため、冷却液の使用に伴う冷却液の絶縁性の低下を抑制することができる。
【0009】
(2)上記形態の冷却液であって、前記多孔質微粒子は、前記細孔内部に前記イオンを捕獲可能であってもよい。このようにすると多孔質微粒子の細孔内部にイオンが捕獲され、多孔質微粒子の表面の電荷状態が変更されにくいため、多孔質微粒子がイオンを捕獲した後も、分散性の低下を抑制することができる。
【0010】
(3)上記形態の冷却液であって、前記多孔質微粒子は、シリカ系メソ多孔体であってもよい。シリカ系メソ多孔体は孔径が比較的一定であるため、このようにすると、より安定して冷却液の絶縁性の低下を抑制することができる。
【0011】
(4)上記形態の冷却液であって、前記多孔質微粒子は、ゼオライト、およびシリカゲルの少なくともいずれか一方であってもよい。このようにしても、冷却液の絶縁性の低下を抑制することができる。また、冷却液のコストの上昇を抑制することができる。
【0012】
(5)上記形態の冷却液であって、前記多孔質微粒子の濃度は、10vol%以下であってもよい。このようにすると、圧力損失の上昇を抑制しつつ、熱伝達率を向上させることができる。
【0013】
(6)上記形態の冷却液であって、前記多孔質微粒子の直径は、10nm以上3000nm以下であってもよい。このようにすると、沈殿しにくくなり、多孔質微粒子の分散性を向上させることができる。
【0014】
(7)上記形態の冷却液であって、前記第1多孔質微粒子および前記第2多孔質微粒子の少なくともいずれか一方は、前記細孔内部および前記多孔質微粒子の表面の少なくともいずれか一方が修飾されていてもよい。このようにすると、修飾されていない多孔質微粒子と比較して、イオン捕獲性能を向上させることができる。
【0015】
(8)上記形態の冷却液であって、前記第1多孔質微粒子は、スルホン酸基を含有する官能基によって修飾されており、前記第2多孔質微粒子は、アミノ基を含有する官能基によって修飾されていてもよい。スルホン酸基は強酸性、アミノ基は強塩基性であるため、イオン捕獲能が高い。そのため、このようにすると、多孔質微粒子の細孔を修飾する官能基を少量にして、孔径の減少を抑制することができ、より多くのイオンを捕獲することができる。
【0016】
(9)上記形態の冷却液であって、前記第1多孔質微粒子と、前記第2多孔質微粒子とが、等量含まれてもよい。第1多孔質微粒子による陽イオン捕獲量と第2多孔質微粒子による陰イオン捕獲量が同じ場合に、冷却液における陰イオン捕獲量と陽イオン捕獲量が略同量になるため、冷却液の絶縁性の低下を適切に抑制することができる。
【0017】
(10)上記形態の冷却液であって、前記多孔質微粒子が、前記ベース液体中に分散されていることが好ましい。このようにすると、より多くのイオンを捕獲することができ、冷却液の絶縁性の低下をより抑制することができる。
【0018】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、冷却液を用いる熱輸送システム、その熱輸送システムを備えるシステムなどの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態における熱輸送システムの概略構成を示す説明図である。
【
図2】第1熱交換器の配置を模式的に示す説明図である。
【
図3】本実施形態の冷却液を説明するための説明図である。
【
図4】第1多孔質微粒子を説明するための説明図である。
【
図5】第2多孔質微粒子を説明するための説明図である。
【
図6】ベース多孔質微粒子の断面形状を模式的に示す説明図である。
【
図7】第1多孔質微粒子および第2多孔質微粒子によるイオンの捕獲を概念的に示す説明図である。
【
図8】第1多孔質微粒子のSEM(走査電子顕微鏡)像の一例を示す図である。
【
図9】第2多孔質微粒子のSEM像の一例を示す図である。
【
図10】多孔質微粒子の主要諸元の一例を示す図である。
【
図11】粒子濃度と圧力損失との関係を示す図である。
【
図12】粒子濃度と熱伝達率比との関係を示す図である。
【
図13】多孔質微粒子による導電率低下の実施例を示す図である。
【
図14】多孔質微粒子のイオン吸着前後のゼータ電位を示す図である。
【
図15】比較例の第1熱交換器の配置を模式的に示す説明図である。
【
図16】比較例のイオン交換樹脂粒子によるイオン交換を示す説明図である。
【
図17】第2実施形態の第1熱交換器を模式的に示す説明図である。
【
図18】変形例の多孔質微粒子を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態における熱輸送システム100の概略構成を示す説明図である。熱輸送システム100は、冷却液(液体の熱媒体)を用いて、熱源を放熱させるシステムである。本実施形態の冷却液は、ベース液体と、イオンを捕獲可能な多孔質微粒子とを含む。多孔質微粒子は、陽イオンを捕獲可能な第1多孔質微粒子と、陰イオンを捕獲可能な第2多孔質微粒子と、を含む(後に詳述する)。本実施形態では、ベース液体として、エチレングリコール水溶液を用いている。
【0021】
熱輸送システム100は、第1熱交換器10と、第2熱交換器20と、冷却液タンク30と、バルブ40と、冷却液を送液するポンプ50と、を備える。第1熱交換器10と、第2熱交換器20と、冷却液タンク30と、ポンプ50とは、配管62、63、64、65を介して環状に接続されている。冷却液は、ポンプ50によって、配管62、63、64、65を介して、第1熱交換器10、第2熱交換器20、冷却液タンク30の順に循環している。
【0022】
第1熱交換器10は、冷却液を用いて熱源を放熱させる。本実施形態では、熱源として、電気自動車に搭載された電池Cを例示する。
【0023】
第2熱交換器20は、第1熱交換器10の下流に配置されており、第1熱交換器10を通過した冷却液を放熱させる。本実施形態では、第2熱交換器20としてラジエータを例示する。
【0024】
冷却液タンク30は、内部に冷却液を有する。冷却液は、上述の通り、ベース液体と、第1多孔質微粒子と、第2多孔質微粒子と、を含んでいる。後述するように、第1多孔質粒子と第2多孔質粒子は、分散性が高いため、ベース液体中に分散されている。
図1では、冷却液に含まれる微粒子を拡大して図示している。
【0025】
配管64上にはバルブ40が設けられており、例えば、電気自動車の運転中に開弁される。
【0026】
図2は、第1熱交換器10の配置を模式的に示す説明図である。第1熱交換器10は、熱源である電池Cの下に、電池Cと接触して配置され、電池Cと共に絶縁性のケース12に内包されている。第1熱交換器10は、管状に形成された管体の内部を冷却液が流通する構成である。後述するように、本実施形態の冷却液は絶縁性の低下を抑制することができるため、第1熱交換器10をケース12内に配置することが可能である。そのため、第1熱交換器10をケース12の外に配する場合と比較して、第1熱交換器10による熱交換効率を向上させることができる。
【0027】
図3は、本実施形態の冷却液を説明するための説明図である。本実施形態の冷却液は、ベース液体Lと、ベース液体L中に含まれる多孔質微粒子Pを含む。多孔質微粒子Pは、複数の細孔を有し、イオンを捕獲可能である。多孔質微粒子Pとして、陽イオンを捕獲可能な第1多孔質微粒子P1と、陰イオンを捕獲可能な第2多孔質微粒子P2を含む(後に詳述する)。
図3では、第1多孔質微粒子P1に右肩上がりの斜線ハッチングを付し、第2多孔質微粒子P2に右肩下がりの斜線ハッチングを付している。本実施形態における多孔質微粒子は、シリカ系メソ多孔体の単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)であり、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2とは、細孔内を修飾する官能基が互いに異なる。
【0028】
冷却液は、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2とを等量含む。本実施形態の冷却液は、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2を含むことにより、ベース液体L中の絶縁性の低下を抑制し、冷却液の絶縁性を10μS/cm以下に保持可能である。図示するように、冷却液が第1熱交換器10内を流通する際に、電池Cと熱交換を行い、電池Cを冷却する。
【0029】
図4は、第1多孔質微粒子P1を説明するための説明図である。上述の通り、第1多孔質微粒子P1は、細孔内が官能基によって修飾された単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)である。以下の説明において、修飾されていない多孔質微粒子を、「ベース多孔質微粒子」とも呼ぶ。すなわち、第1多孔質微粒子P1は、ベース多孔質微粒子Mとして未修飾のシリカ系メソ多孔体の単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)を用いている。第1多孔質微粒子P1は、ベース多孔質微粒子Mの細孔H内を、スルホン酸基を含有する第1官能基R1で修飾したものであり、酸性粒子である。第1多孔質微粒子P1は、細孔H内に第1官能基R1を有するため、細孔H内に陽イオンを捕獲可能である。第1官能基R1としては、例えば、アルキルスルホン酸基、フェニルスルホン酸基等、スルホン酸基を含有する種々の官能基を用いることができる。第1多孔質微粒子P1における、官能基の重量分率は、2~50%が好ましい。
【0030】
図5は、第2多孔質微粒子P2を説明するための説明図である。上述の通り、第2多孔質微粒子P2は、第1多孔質微粒子P1と異なる官能基によって細孔内が修飾された単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)である。第2多孔質微粒子P2は、ベース多孔質微粒子Mの細孔H内を、アミノ基を含有する第2官能基R2で修飾したものであり、
細孔内が塩基性
の粒子である。第2多孔質微粒子P2は、細孔H内に第2官能基R2を有するため、細孔Hに陰イオンを捕獲可能である。第2官能基R2としては、例えば、アミノプロピル基、アミノエチルアミノプロピル基、アミノエチルアミノエチルアミノプロピル基等、アミノ基を含有する種々の官能基を用いることができる。第2多孔質微粒子P2における、官能基の重量分率は、2~50%が好ましい。
【0031】
図6は、ベース多孔質微粒子Mの断面形状を模式的に示す説明図である。本実施形態では、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2共に、ベース多孔質微粒子Mとして、未修飾の単分散球状メソポーラスシリカ(MMSS)を用いて、ベース多孔質微粒子Mの細孔H内を官能基で修飾することにより形成されている。本実施形態のベース多孔質微粒子Mは、粒子径が150~1500nm、細孔径が1.5~20nm、比表面積が1100m
2/g以下である。第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、
図6に示すベース多孔質微粒子Mに対して、共重合法により細孔H内に第1官能基R1および第2官能基R2を、それぞれ導入することにより形成されている。第1多孔質微粒子P1およびP2は、例えば、特許第4968431号、特許第5057019号、および特許第5057021号公報に記載された方法により製造することができる。また、グラフト法により、ベース多孔質微粒子に官能基を導入してもよい。
【0032】
本実施形態の冷却液は、ベース液体L中に、等量の第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2が分散されている。第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2とは、互いにイオンの吸着力(量)が等しいため、冷却液中に等量含まれると、冷却液に混入したイオンを吸着することにより絶縁性の低下を効率よく抑制ができる。また、第1官能基R1は酸性が強く、第2官能基R2は塩基性が強いため、ベース多孔質微粒子Mの細孔H内を修飾する官能基が少なくても、十分にイオンを吸着することができるため、ベース多孔質微粒子Mの細孔Hの孔径の減少を抑制することができ、イオン吸着性能の低下を抑制することができるため、好ましい。
【0033】
図7は、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2によるイオンの捕獲を概念的に示す説明図である。
図7では、第1多孔質微粒子P1の細孔Hと第2多孔質微粒子P2の細孔Hの断面を拡大して図示している。紙面左に図示された第1多孔質微粒子P1の細孔H内は、第1官能基R1で修飾されているため、冷却液に溶出したカチオンCAが捕獲されている。一方、紙面右に図示された第2多孔質微粒子P2の細孔H内は、第2官能基R2で修飾されているため、冷却液に溶出したアニオンANが捕獲されている。
【0034】
図8~
図10に、本実施形態の第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2の一実施例を示す。第1多孔質微粒子P1の実施例として、単分散球状メソポーラスシリカ(以下、「MMSS」とも呼ぶ)のスルホン酸基修飾体を用い、第2多孔質微粒子P2の実施例として、MMSSのアミノ基修飾体を用いた。
図8は、第1多孔質微粒子P1のSEM(走査電子顕微鏡)像の一例を示す図である。
図9は、第2多孔質微粒子P2のSEM像の一例を示す図である。
図10は、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2の主要諸元の一例を示す図である。
図10に示す「単分散性」の値は、平均粒子径に対する粒子径分布の幅の割合(%)であり、±15%以下であることを「単分散性」であるといえる。単分散性とは、粒子の大きさが略均一であって凝集せずに散らばりやすい状態のことをいう。
図8~
図10に示すように、本実施形態の第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、単分散性である。
【0035】
図11は、粒子濃度と圧力損失との関係を示す図である。
図11では、本実施形態の冷却液における多孔質微粒子のベース液体Lに対する割合を変更して、圧力損失を測定した結果を示す。測定条件は、温度80℃、流速2.0m/sである。圧損比率として、ベース液体Lに対する本実施形態の冷却液(
図11においてスラリーと記載)の圧損比率を記載している。図示するように、圧損比率は、粒子濃度が高くなるにつれ、大きくなる。そのため、圧力損失の上昇を抑制する観点から、粒子濃度は低い方が好ましい。
【0036】
図12は、粒子濃度と熱伝達率比との関係を示す図である。
図12では、本実施形態の冷却液における多孔質微粒子のベース液体Lに対する割合を変更して、熱伝達率を測定した結果を示す。測定条件は、温度80℃、流速2.0m/sである。熱伝達率比として、ベース液体Lに対する本実施形態の冷却液の熱伝達率比を記載している。図示するように、熱伝達率比は、粒子濃度が高くなるにつれ、大きくなる。固体粒子を含有する冷却液を循環させることにより、固体粒子の効果を利用して、冷却液の熱伝達率を促進することができる。
【0037】
図11、
図12に示すように、圧力損失、熱伝達率共に、粒子濃度が高くなるにつれ、大きくなる。冷却液の冷却性能と圧損とのバランスを考慮すると、冷却液中の多孔質微粒子の濃度(第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2を合わせた濃度)は、10vol%以下が好ましい。このようにすると、圧力損失の上昇を抑制しつつ、多孔質微粒子を含むことにより熱伝達率を向上させることができる。
【0038】
図13は、多孔質微粒子による導電率低下の実施例を示す図である。
図13は、多孔質微粒子の細孔内の修飾有無による導電率の違いを示す。
図13において、修飾有と記載されたサンプルは、本実施形態の冷却液の実施例であり、ベース液体L中に、第1多孔質微粒子P1としてMMSSのスルホン酸基修飾体を0.1wt%、第2多孔質微粒子P2としてMMSSのアミノ基修飾体を0.1wt%含む。一方、修飾無と記載されたサンプルは、ベース液体L中に、第2多孔質微粒子P2としてMMSSのアミノ基修飾体を0.1wt%、修飾されていないMMSSを0.1wt%含む。
図13において、[1]で陰イオンが吸着され、[2]で陽イオンが吸着される。修飾されていないMMSSは、表面が負に帯電しているものの、図示するように、MMSSのスルホン酸基修飾体は、修飾されていないMMSSと比較して、20倍程度のイオン吸着能を有する。すなわち、官能基により修飾することにより、イオン捕獲能を向上させることができる。
【0039】
図14は、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2のイオン吸着前後のゼータ電位を示す図である。第1多孔質微粒子P1として、
図8、
図10に示したのと同様のMMSSのスルホン酸基修飾体を用い、第2多孔質微粒子P2として、
図9、
図10に示したのと同様のMMSSのアミノ基修飾体を用いた。ここで、ゼータ電位は分散された粒子の分散安定性の指標として用いられている。ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなり粒子の安定性は高くなり、ゼータ電位がゼロに近くなると、粒子は凝集しやすくなる。図示するように、第1多孔質微粒子P1、第2多孔質微粒子P2ともに、イオン吸着後もゼータ電位を維持している。すなわち、イオン吸着後も多孔質微粒子の分散性を維持している。本実施形態の第1多孔質微粒子P1、および第2多孔質微粒子P2は、細孔H内が官能基に修飾されているため、細孔H内にイオンが吸着され、多孔質微粒子の表面にイオンが吸着されにくく、表面の電荷状態が変更されにくいためである。
【0040】
以上、説明したように、本実施形態の冷却液は、ベース液体L中に第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2が分散されているため、冷却液中に溶出した陽イオン(カチオン)および陰イオン(アニオン)を、多孔質微粒子Pにより捕獲することができる。そのため、冷却液の使用に伴う冷却液の絶縁性の低下を抑制することができる。
【0041】
本実施形態の冷却液は絶縁性の低下を抑制することができるため、本実施形態の熱輸送システム100によれば、第1熱交換器10をケース12内に配置することができる。
図15は、比較例の第1熱交換器10Pの配置を模式的に示す説明図である。比較例の冷却液は、イオンを捕獲可能な多孔質微粒子Pを含まない。比較例の冷却液として、本実施形態の冷却液のベース液体であるエチレングリコール水溶液を例示する。比較例の冷却液は絶縁性が低いため、電池Cと冷却液との接触を防ぐために、比較例の第1熱交換器10Pは、図示するように、ケース12の外に配置される。このようにすると、本実施形態の熱輸送システム100の場合と比較して、熱交換の効率が低下する。すなわち、本実施形態の熱輸送システム100によれば、熱交換の効率を比較例より向上させることができる。
【0042】
また、本実施形態の熱輸送システム100によれば、イオン交換器を備えないため、イオン交換器を備える熱輸送システムと比較して、システムを簡素化および小型化でき、また、システムのコストを低減することができる。
【0043】
また、本実施形態の冷却液に用いられる第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、細孔H内部が修飾されており、細孔H内部にイオンを捕獲可能であるため、多孔質微粒子の分散性の低下を抑制することができる。
【0044】
図16は、比較例のイオン交換樹脂粒子によるイオン交換を概念的に示す説明図である。例えば、カチオン交換樹脂としてPCH(米国Graver社製)、アニオン交換樹脂としてPAO(米国Graver社製)を用いることができる。図示するように、これらのイオン交換樹脂粒子は、表面にイオンが吸着されるため、表面電荷が減少する。本実施形態の冷却液に含まれる第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2に替えて、比較例のイオン交換樹脂を用いた場合、冷却液が循環して時間が経過すると、カチオン交換樹脂粒子とアニオン交換樹脂粒子が凝集し、沈殿するため、イオン交換樹脂粒子の分散性を維持するのが困難である。これに対し、本実施形態の冷却液に含まれる第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、上述の通り、分散性が高いため、冷却液に溶出したイオンを比較例と比較して長時間に亘り、吸着することができる。
【0045】
本実施形態において、多孔質微粒子Pは、細孔内が官能基によって修飾されたMMSSであるため、孔径が比較的一定であり、また、分散性が良好であるため、絶縁性の低下をより抑制することができるため、好ましい。
【0046】
本実施形態において、第1多孔質微粒子P1は、スルホン酸基を含む官能基によって修飾されており、第2多孔質微粒子P2は、アミノ基を含む官能基によって修飾されている。スルホン酸基は強酸性、アミノ基は強塩基性であるため、イオン吸着能が高く、ベース多孔質微粒子Mの細孔Hを修飾する官能基を少量にして、孔径の減少を抑制することができる。その結果、より多くのイオンを吸着することができる。
【0047】
本実施形態の冷却液は、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2とを等量含む。第1多孔質微粒子P1による陽イオン吸着量と第2多孔質微粒子P2による陰イオン吸着量が同じ場合に、冷却液における陰イオン吸着量と陽イオン吸着量が略同量になるため、冷却液の絶縁性の低下を適切に抑制することができる。
【0048】
<第2実施形態>
図17は、第2実施形態の第1熱交換器10Aを模式的に示す説明図である。第2実施形態の第1熱交換器10Aは、電池Cを内包する筐体14と、筐体14内を流れる冷却液を含む。冷却液は、第1実施形態の冷却液と同一であり、絶縁性の低下を抑制することができるため、第2実施形態の第1熱交換器10Aを用いる場合は、筐体14内に電池Cを配置し、冷却液に電池Cを漬けて、電池Cを冷却している。そのため、本実施形態の第1熱交換器10Aによれば、第1実施形態の第1熱交換器10よりさらに、熱交換効率を向上させることができる。
【0049】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0050】
・冷却液に含まれるベース液体Lは、上記実施形態に限定されず、例えば、水、アルコール水溶液等種々の液体を用いることができる。
【0051】
・冷却液に含まれる第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2は、上記実施形態に限定されず、イオンを捕獲可能な種々の多孔質微粒子を用いることができる。例えば、ベース多孔質微粒子として、ゼオライト、シリカゲル等、他の多孔質微粒子を用いることができる。ベース多孔質微粒子としてシリカ系メソ多孔体を用いると、孔径が一定であり、また、分散性がよいため、好ましい。
【0052】
図18は、変形例の多孔質微粒子を説明するための説明図である。
図18では、多孔質微粒子としてゼオライトを用いる例を示している。図示するように、アミノ基で修飾したゼオライトを用いて、第1多孔質微粒子および第2多孔質微粒子を生成することができる。この例において、ルイス塩基点が第1多孔質微粒子、ルイス酸点が第2多孔質微粒子である。
【0053】
・第1多孔質微粒子P1に含まれる官能基は、例えば、シラノール基、カルボキシル基等を含む他の酸性の官能基でもよい。第2多孔質微粒子P2に含まれる官能基は、例えば、ピリジン基等を含む他の塩基性の官能基でもよい。さらに、第1多孔質微粒子P1、および第2多孔質微粒子P2は、官能基で修飾されていなくてもよい。例えば、シリカ系メソ多孔体微粒子は、酸性の微粒子であるため、修飾されていなくても、陽イオンを捕獲することができる。酸性の官能基、塩基性の官能基で修飾されていると、イオン捕獲能が強化されるため、好ましい。
【0054】
・上記実施形態において、第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2が共にシリカ系メソ多孔体である例を示したが、例えば、第1多孔質微粒子P1がシリカ系メソ多孔体、第2多孔質微粒子P2がゼオライト等、異なる組み合わせであってもよい。また、多孔質微粒子として3種以上を用いてもよい。例えば、第1多孔質微粒子がシリカ系メソ多孔体とゼオライト、第2多孔質微粒子がシリカゲル等でもよい。
【0055】
・冷却液に含まれる多孔質微粒子は、表面が修飾されていてもよい。細孔内が修飾されていると、細孔内にイオンが捕獲されるため、多孔質微粒子の分散性の低下が抑制されるため、好ましい。
【0056】
・冷却液に含まれる多孔質微粒子の濃度は、上記実施形態に限定されない。濃度を10vol%以下にすると、圧損の増加を抑制しつつ、熱伝達率を向上させることができるため、好ましい。
【0057】
・上記実施形態において、第1多孔質微粒子P1と、第2多孔質微粒子P2とが、等量含まれる例を示したが、等量でなくてもよい。第1多孔質微粒子P1のイオン捕獲能と第2多孔質微粒子P2のイオン捕獲能が同一である場合に、第1多孔質微粒子P1と第2多孔質微粒子P2を等量にすると、バランスよく陽イオンと陰イオンとを捕獲できるため、絶縁性の低下を良好に抑制することができる。
【0058】
・冷却液に含まれる多孔質微粒子の平均粒子径は、上記実施形態に限定されず、種々の大きさの多孔質微粒子を用いることができる。多孔質微粒子の平均粒子径を、10~3000nmにすると、沈殿しにくいため、好ましい。
【0059】
・冷却液に含まれる多孔質微粒子の中心細孔直径は、適宜設定可能であるが、1~5nmが好ましい。ここで、中心細孔直径とは、細孔径分布曲線において、最大のピークを示した細孔直径をいう。細孔径分布曲線とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線をいう。
【0060】
・冷却液の絶縁性制御範囲は、上記実施形態に限定されず、適宜設定可能である。自動車用冷却液の場合、絶縁性制御範囲を10μS/cm以下に設定するのが好ましい。
【0061】
・第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2がイオンを捕獲する手段は、吸着、吸収、吸蔵、反応等、物理的または化学的な種々の公知の手段を適用することができる。
【0062】
・上記実施形態の冷却液として、ベース液体Lに第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2が分散された冷却液を例示したが、ベース液体Lに第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2が含まれていれば、分散されていなくてもよい。ベース液体Lに第1多孔質微粒子P1および第2多孔質微粒子P2が分散されていると、効率よくイオンを捕獲できるため、好ましい。
【0063】
・上記実施形態において、熱輸送システム100がイオン交換器を備えてもよい。イオン交換器を備えることにより、冷却液の使用期間を、イオン交換器を備えない場合より延長することができる。
【0064】
・上記実施形態において、電気自動車に搭載された電池Cの熱を放熱させる熱輸送システム100を例示したが、冷却液は、空調設備、プラント等種々の物の冷却に用いることができる。
【0065】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0066】
10、10A、10P…第1熱交換器
12…ケース
14…筐体
20…第2熱交換器
30…冷却液タンク
40…バルブ
50…ポンプ
62…配管
100…熱輸送システム
H…細孔
L…ベース液体
M…ベース多孔質微粒子
P…多孔質微粒子
P1…第1多孔質微粒子
P2…第2多孔質微粒子
R1…第1官能基
R2…第2官能基