(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】車両の走行制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/08 20120101AFI20230712BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20230712BHJP
G08G 1/09 20060101ALI20230712BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
B60W30/08
B60W30/02
G08G1/09 F
G08G1/16 A
(21)【出願番号】P 2019144788
(22)【出願日】2019-08-06
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 哉
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-060520(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115262(WO,A1)
【文献】特開2017-200791(JP,A)
【文献】特開2017-182129(JP,A)
【文献】特開2017-182568(JP,A)
【文献】国際公開第2019/008755(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00~60/00
G08G 1/00~ 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エッジ環境を含むクラウド環境と通信し、少なくとも前記エッジ環境から他車両の走行情報を含むクラウド情報を取得するクラウド情報取得部と、
自車両の走行環境を認識するとともに、認識した前記走行環境と前記自車両の車両制御状態とを含む自車走行情報を取得する自車走行情報取得部と、
前記自車両を自動走行させる自動運転のパスプランを設定するパスプラン設定部と、
前記パスプラン及び前記
自動運転を制御する自動運転制御の変更の要否を判断し、前記変更の要否に応じ
て前記自車両の走行挙動
を制御する走行挙動制御部とを備え
、
前記走行挙動制御部は、
前記パスプラン及び前記自動運転制御の変更の要否を、前記自車両の前方に危険事象が認識されるか否かによって判断し、前記自車両の前方に危険事象が認識される場合、前記危険事象を前記自動運転制御で回避可能か否かを、前記パスプランの変更に要する時間を考慮して前記危険事象毎に設定される余裕時間に基づいて判断し、
前記危険事象を前記自動運転制御で回避可能と判断した場合、前記パスプランを変更した回避パスプランに基づく前記自動運転制御で前記自車両の走行挙動を制御し、
前記危険事象を前記自動運転制御で回避不可と判断した場合、前記自動運転制御を、前記クラウド情報と前記自車走行情報とを入力とする多層ニューラルネットワークから前記危険事象に応じて単独或いは組み合わせて出力される最適な高運動の制御系による高運動制御に切り換え、前記自車両の走行挙動を制御し、
前記高運動制御は、スリップを抑制する車体滑り抑制制御、外乱の影響を抑制する外乱抑制制御、被害軽減を含む危険回避のための危険回避制御を含む
ことを特徴とする車両の走行制御システム。
【請求項2】
前記走行挙動制御部は、前記危険事象を前記自動運転制御で回避可能と判断した場合、
前記回避パスプラン
を運転者に提示し、前記回避パスプランに基づく
前記自動運転と前記運転者による手動運転との何れか一方を選択可能とすることを特徴とする
請求項1に記載の車両の走行制御システム。
【請求項3】
前記クラウド情報は、前記
他車両の走行情報として、加速度、減速度、操舵速度、ヨーレート、アンチロックブレーキシステムの作動状態、横滑り防止装置の作動状態を含むことを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の車両の走行制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を自動運転で走行させる車両の走行制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、運転者の運転操作を必要とせずに車両を自動的に走行させる自動運転システムの開発が進められており、最終的なレベルとして、異常発生時を含めて全ての機能をシステムで担うことが期待される。
【0003】
この自動運転システムでは、走行に先だって、車両が将来どのように動くべきかを計画するパスプランを作成することが一般的である。例えば、特許文献1には、車両が目標位置へ移動することの妥当性に基づいて目標位置への移動に対する報酬を算出し、報酬に基づくポリシーに従って所定時間後の車両の目標位置を決定するパスプランナが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動運転システムは、急激な環境変化や危険状況の発生に対して自律的に対応する必要がある。しかしながら、これらの環境変化や危険状況に対応する制御は、通常のパスプランに従った自動運転の走行挙動から乖離して運転者の感覚と合わない場合があり、違和感や不安感を与える虞がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、自動運転のパスプラン及び自動運転制御の変更の要否に応じて車両の走行挙動を制御し、自動運転による走行中に環境変化や危険状況が予想される場合にも、運転者の違和感や不安感を低減することのできる車両の走行制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様による車両の走行制御システムは、エッジ環境を含むクラウド環境と通信し、少なくとも前記エッジ環境から他車両の走行情報を含むクラウド情報を取得するクラウド情報取得部と、自車両の走行環境を認識するとともに、認識した前記走行環境と前記自車両の車両制御状態とを含む自車走行情報を取得する自車走行情報取得部と、前記自車両を自動走行させる自動運転のパスプランを設定するパスプラン設定部と、前記パスプラン及び前記自動運転を制御する自動運転制御の変更の要否を判断し、前記変更の要否に応じて前記自車両の走行挙動を制御する走行挙動制御部とを備え、前記走行挙動制御部は、前記パスプラン及び前記自動運転制御の変更の要否を、前記自車両の前方に危険事象が認識されるか否かによって判断し、前記自車両の前方に危険事象が認識される場合、前記危険事象を前記自動運転制御で回避可能か否かを、前記パスプランの変更に要する時間を考慮して前記危険事象毎に設定される余裕時間に基づいて判断し、前記危険事象を前記自動運転制御で回避可能と判断した場合、前記パスプランを変更した回避パスプランに基づく前記自動運転制御で前記自車両の走行挙動を制御し、前記危険事象を前記自動運転制御で回避不可と判断した場合、前記自動運転制御を、前記クラウド情報と前記自車走行情報とを入力とする多層ニューラルネットワークから前記危険事象に応じて単独或いは組み合わせて出力される最適な高運動の制御系による高運動制御に切り換え、前記自車両の走行挙動を制御し、前記高運動制御は、スリップを抑制する車体滑り抑制制御、外乱の影響を抑制する外乱抑制制御、被害軽減を含む危険回避のための危険回避制御を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、自動運転のパスプラン及び自動運転制御の変更の要否に応じて車両の走行挙動を制御し、自動運転による走行中に環境変化や危険状況が予想される場合にも、運転者の違和感や不安感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】危険事象に対する余裕時間に応じた制御切り換えの説明図
【
図3】多層ニューラルネットワークによる制御系の選択を示す説明図
【
図4】低摩擦路面のカーブを走行する場合の危険事象を示す説明図
【
図6】先行車両が障害物を緊急回避した場合の危険事象を示す説明図
【
図8】自動運転の制御切り換え処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は車両の走行制御システムを示す構成図である。
図1に示す走行制御システム10は、運転者の運転操作を必要とせずに車両を自動的に走行させる自動運転制御の機能を主として、運転者の手動運転による走行を支援する運転支援制御の機能も備えている。
【0011】
また、走行制御システム10は、クラウド環境CLに接続されてデータ通信を行い、クラウド環境CLから他車両の走行情報を含むクラウド情報を受信すると共に、自車両の走行情報をクラウド環境CLに送信する。クラウド環境CLは、広域通信エリアのクラウド空間に設けられる単一或いは複数のクラウドサーバ200と、クラウド空間の中の狭域通信エリアであるエッジ空間(エッジ環境)に設けられる複数のエッジサーバ100とを含んでいる。
【0012】
エッジサーバ100は、クラウドサーバ200とユーザデバイスとの間の中間層に置かれるサーバであり、ユーザの近くで高速に通信を行って低遅延で情報を提供する。例えば、エッジサーバ100は、信号機や高速道路の付帯設備、携帯電話等の高速通信の基地局等に設置することができ、高速で効率的な分散処理が可能になる。
【0013】
このような走行制御システム10は、具体的には、自動運転の走行を制御する自動運転制御ユニット20を中心として構成される。自動運転制御ユニット20には、クラウド情報取得ユニット30、自車走行情報取得ユニット40、制駆動制御ユニット50、操舵制御ユニット60、情報報知ユニット70等が車内ネットワークを介して相互に通信可能に接続されている。各ユニット20~70は、それぞれ、単一或いは複数のコンピュータを主として構成されている。
【0014】
クラウド情報取得ユニット30は、クラウド環境CLにネットワーク接続するための通信装置を備え、クラウド環境CLからクラウド情報を取得するクラウド情報取得部として機能する。クラウド情報は、クラウド環境CLに接続される複数の他車両の走行情報を含む。他車両の走行情報としては、走行位置、走行環境、及び車両制御情報を含み、クラウド情報取得ユニット30は、これらの情報を少なくともエッジサーバ100から取得し、自動運転制御ユニット20に送る。自動運転制御ユニット20は、クラウド情報取得ユニット30を経由して取得するエッジサーバ100からの情報により、自車両前方の危険状況を表す事象(危険事象)、例えば、天候の急変による道路環境の悪化、先行車両の障害物回避等の緊急行動、対向車両の車線逸脱走行等の危険事象を、略リアルタイムで迅速に把握することができる。
【0015】
自車走行情報取得ユニット40は、自車両を取り巻く周囲の外部環境や自車両の走行位置等の走行環境を認識するとともに、認識した走行環境と自車両の車両制御状態とを含む自車走行情報を取得する自車走行情報取得部として機能する。自車走行情報取得ユニット40による外部環境の認識結果及び自車走行情報は、車内ネットワークを介して自動運転制御ユニット20に送信される。また、自車走行情報取得ユニット40は、他車両からクラウド環境CLに送信する走行情報と同様の情報を、自車両の自車走行情報としてクラウド環境CLに送信する。
【0016】
例えば、自車走行情報取得ユニット40は、自車両前方の先行車両や自車両後方の後続車両の速度(自車両との相対速度)、車間距離、道路の路面状態、走行地点及び時刻、走行時の天候状態、自車両の車両制御状態等を、自車走行情報としてクラウド環境CLに送信する。車両制御状態は、例えば、加速度、減速度、操舵速度、ヨーレート、アンチロックブレーキシステムの作動状態、横滑り防止装置の作動状態等を含んでいる。他車両からクラウド環境CLに送信する走行情報も、基本的には同様である。
【0017】
このため、自車走行情報取得ユニット40は、カメラ、ミリ波レーダ、レーザレーダ等の自車両の外部環境を自律的にセンシングするためのデバイスや、GNSS(Global Navigation Satellite System)等を利用して自己位置を測位するためのロケータを備えている。自車走行情報取得ユニット40は、カメラやレーダ等で検出した自車両周囲の物体の検出情報、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報、GNSS衛星からの信号を受信して測位した自車両の位置情報等により、自車両周囲の外部環境を認識するとともに、車内ネットワークを介して車両制御の各種制御情報を取得する。
【0018】
また、自車走行情報取得ユニット40は、地図データベースDBを備え、ロケータで測位した自車両の位置データから地図データベースDBの地図データ上での位置を特定する。地図データベースDBは、自動運転を含む走行制御用に作成された高精度のデジタル地図を保有するデータベースであり、HDD(hard disk drive)やSSD(solid state drive)等の大容量記憶媒体に格納されている。
【0019】
詳細には、高精度のデジタル地図は、道路形状や道路間の接続関係等の静的な情報と、インフラ通信によって収集される交通情報等の動的な情報とを複数の階層で保持する多次元マップ(ダイナミックマップ)として構成されている。道路データとしては、道路白線の種別、車線の数、車線の幅、車線の幅方向の中心位置を示す点列データ、車線の曲率、車線の進行方位角、制限速度等が含まれ、データの信頼度やデータ更新の日付等の属性データと共に保持されている。
【0020】
制駆動制御ユニット50は、電動モータや内燃機関で発生させる走行駆動力を制御し、また、自車両の走行速度、前進と後退の切換え、ブレーキ等を制御する。例えば、制駆動制御ユニット50は、エンジン運転状態を検出する各種センサ類からの信号及び車内ネットワークを介して取得される各種制御情報に基づいて、エンジンの運転状態を制御し、また、ブレーキスイッチ、4輪の車輪速、操舵角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、4輪のブレーキ装置(図示せず)を運転者のブレーキ操作とは独立して制御する。更に、制駆動制御ユニット50は、各輪のブレーキ力に基づいて各輪のブレーキ液圧を算出して、アンチロックブレーキ制御や横すべり防止制御等を行う。
【0021】
操舵制御ユニット60は、例えば、車速、運転者の操舵トルク、操舵角、ヨーレート、その他の車両情報に基づいて、操舵系に設けた電動パワーステアリング(EPS)ユニット61による操舵トルクを制御する。この操舵トルクの制御は、実操舵角を目標操舵角に一致させるための目標操舵トルクを実現するEPSユニット61の電動モータに対する電流制御として実行される。EPSユニット61は、操舵制御ユニット60からの目標操舵トルクを指示トルクとして、この指示トルクに対応する電動モータの駆動電流を、例えばPID制御によって制御する。
【0022】
情報報知ユニット70は、車両の各種装置に異常が生じた場合や運転者に注意を喚起するための警報、及び運転者に提示する各種情報の出力を制御する。例えば、モニタ、ディスプレイ、アラームランプ等の視覚的な出力と、スピーカ・ブザー等の聴覚的な出力との少なくとも一方を用いて、警告や制御情報を報知する。情報報知ユニット70は、自動運転を含む走行制御を実行中、その制御状態を運転者に提示し、また、運転者の操作によって自動運転を含む走行制御が休止された場合には、そのときの運転状態を運転者に報知する。
【0023】
次に、走行制御システム10の中心となる自動運転制御ユニット20について説明する。自動運転制御ユニット20は、運転者が操舵、加減速、ブレーキ等の全ての運転操作を行って自車両を走行させる手動運転モードに対して、運転者の運転操作を支援する運転支援モードや運転者の運転操作を必要としない自動運転モードの制御を実行する。この自動運転モードにおいて、自動運転制御ユニット20は、クラウド情報取得ユニット30、自車走行情報取得ユニット40からの情報に基づいて、制駆動制御ユニット50及び操舵制御ユニット60を介した走行制御を実行する。
【0024】
尚、運転モードは、運転者が図示しないスイッチやパネル等を操作することにより、初期状態の運転モードから所望の運転モードに切り換えることができる。初期状態の運転モードは、手動運転モード、運転支援モード、自動運転モードの何れでも良く、自動運転のレベルに応じて適宜設定される。
【0025】
この場合、運転支援モードは、運転者の保舵或いは操舵を必要として、加減速制御と操舵制御との少なくとも一方を自動的に行う運転モードを意味し、部分的な自動運転を含むものとする。一方、自動運転モードは、運転者がハンドルに触れることのない手放し運転を前提とする運転モードを意味し、条件付きの自動運転モード、高度自動運転モード、完全自動運転モードがある。
【0026】
条件付きの自動運転モードは、自動運転機能が正常に作動する設計上の運行領域において加減速制御及び操舵制御の全ての運転タスクをシステムが実行し、作動継続が困難な場合には運転者に操作を委ねる。高度自動運転モードは、限定条件下でシステムが全ての運転タスクを実行し、作動継続が困難な場合への応答をシステムが限定領域において実行する。また、完全自動運転モードは、限定条件無しにシステムが全ての運転タスクを実行し、作動継続が困難な場合への応答をシステムが無制限に実行する。
【0027】
自動運転制御ユニット20は、自動運転制御に係る機能部として、パスプラン設定部21、走行挙動制御部22を備えている。自動運転制御ユニット20は、自動運転モードにおいて、自動運転のためのパスプランを設定し、パスプランに従った自動運転の走行挙動となるように制御する。
【0028】
また、自動運転制御ユニット20は、クラウド情報から危険事象を認識した場合には、危険事象を回避する走行挙動となるように制御する。自動運転モードにおいては、手動運転モードや運転支援モードと異なり、急激な環境変化や交通状況の悪化等による危険事象に遭遇しても、自動運転制御ユニット20は、これらの危険事象を自律的に回避する必要がある。しかしながら、危険事象を回避するための制御は、運転者の感覚と合わない場合がある。
【0029】
このため、自動運転制御ユニット20は、クラウド情報、特にエッジサーバ100から低遅延で伝達されるクラウド情報に基づいて、自車両前方の危険事象を略リアルタイムで認識した場合、危険事象に対する余裕時間に応じて制御を切り換える。この場合の余裕時間は、自動運転制御で危険事象を回避可能な位置に到達するまでの時間である。以下、自動運転制御ユニット20の詳細機能について説明する。
【0030】
パスプラン設定部21は、乗員(運転者)が目的地や経由地の情報(施設名、住所、電話番号等)を入力、或いはパネル等に表示される地図上で直接指定すると、地図データベースDB及びクラウド情報を参照して、道路条件、地理的条件、環境条件等から最適な走行経路の位置座標(緯度、経度)を計画し、また、走行経路に沿って自車両を円滑な挙動で移動させるための軌道を計画する。この軌道は、デジタル地図を主体とする空間的な走行経路に対して、交通環境の時間的な変化に対応するためのものである。パスプラン設定部21は、走行経路計画と軌道計画とを併せたパスプランを、クラウド情報取得ユニット30からのクラウド情報、自車走行情報取得ユニット40からの地図情報、自車両周囲の外部環境、車両制御情報に基づいて設定し、また動的に変更する。
【0031】
走行挙動制御部22は、パスプラン設定部21で設定したパスプランに従って自車両を自動運転で走行させるための走行挙動を、制駆動制御ユニット50への制駆動量及び操舵制御ユニット60への操舵量によって決定し、制駆動制御ユニット50及び操舵制御ユニット60に対応する制御指示値を出力する。この場合、走行挙動制御部22は、クラウド情報に基づいてパスプラン及び自動運転制御の変更の要否を判断し、変更の要否の判断結果に応じて、自車両の走行挙動をクラウド情報及び自車走行情報に基づいて制御する。
【0032】
パスプラン及び自動運転制御の変更の要否は、クラウド情報から自車両の前方に危険事象を認識したか否かによって判断する。走行挙動制御部22は、危険事象を認識した場合、パスプラン及び自動運転制御を変更する必要があると判断し、さらに、パスプランに基づく自動運転制御で危険事象を回避可能か否かを、危険事象に対する余裕時間に基づいて判断する。
【0033】
例えば、クラウドサーバ200から比較的遠方の地点で事故等による交通規制が実施されていることを受信して危険事象として認識した場合、危険事象に対する余裕時間は十分にあるため、走行挙動制御部22は、現在のパスプランを変更して迂回ルートを通る等のパスセッティングをパスプラン設定部21に指示する。エッジサーバ100から比較的近い場所の危険事象を認識した場合も同様であり、例えば
図2に示すように、危険事象に対する余裕時間に応じてパスプラン及び自動運転制御の変更の要否を判断する。
図2は危険事象に対する余裕時間に応じた制御切り換えの説明図である。
【0034】
走行挙動制御部22は、例えば
図2に示すように、自車両Csの前方の先行車両Cfに対して、強風の影響等による車両挙動の不安定化を招く危険事象Rskが発生していることをクラウド情報から認識した場合、危険事象Rskに対する余裕時間TRが予め設定した閾値Tset以上か否かを調べる。閾値Tsetは、パスプランの変更に要する時間を考慮して、危険事象毎に設定される。そして、TR≧Tsetの場合、走行挙動制御部22は、危険事象Rskを自動運転制御で回避可能と判断してパスセッティングをパスプラン設定部21に指示する。
【0035】
この場合のパスセッティングは、現在のパスプランを変更して危険事象を回避するための回避パスプランを作成するものである。回避パスプランは、運転者に提示され、回避パスプランに基づく自動運転と、運転者による手動運転との何れか一方が選択可能とされる。例えば、ディスプレイ上に、前方に危険事象が発生して現在のパスプランを変更する必要があることや危険事象を回避するめの回避パスプランの内容等を表示すると共に、回避パスプランに基づく自動運転と運転者による手動運転との何れかを選択するための選択画面を表示する。
【0036】
運転者が手動運転を選択した場合、走行挙動制御部22は、自動運転制御を停止して手動運転による走行挙動となるように制御する。この場合、例えば手動運転に対する運転支援の走行挙動となるよう、操舵アシスト制御や加減速制御等を行うようにしても良い。また、運転者が回避パスプランによる自動運転を選択した場合には、走行挙動制御部22は、回避パスプランに従って自動運転の制御指示値を変更し、危険事象を自動運転で回避するように制御する。
【0037】
一方、自車両Csが
図2中に破線で示す位置にあり、余裕時間TRが閾値Tsetよりも短い場合(TR<Tset)、走行挙動制御部22は、危険事象を自動運転制御では回避不可と判断し、自動運転制御を高運動制御に切り換える。高運動制御は、危険事象を回避するため、ヨーレート、横加速度、前後加速度等の制限値を通常時よりも高くして、車両の運動性能を限界に近い性能まで高める車両制御であり、複数の制御系を対象として適宜切り換えられる。
【0038】
本実施の形態においては、パスプランの変更の要否を含めて、高運動制御への切り換えを、走行挙動制御部22が備える人工知能によって判断する。走行挙動制御部22の人工知能は、
図3に示すように、多層ニューラルネットワーク(DNN ; deep neural network)22aを中心として形成されている。ネットワークモデルとしては、例えば、全結合していない順伝播型ニューラルネットワークの一種である畳み込みニューラルネットワークを用い、この畳み込みニューラルネットワークを用いた教師付きの深層学習(ディープラーニング)により、最適な制御系を選択することができる。
【0039】
図3は多層ニューラルネットワークによる制御系の選択を示す説明図である。
図3に示すように、DNN22aには、少なくともエッジサーバ100からの情報を含むクラウド情報と自車走行情報取得ユニット40からの自車走行情報とが入力される。DNN22aは、入力層のデータに対して学習済みの隠れ層で高速に推論を行い、出力層から最適な走行制御系の種類を単独或いは組み合わせて出力する。
【0040】
本実施の形態においては、DNN22aによって危険事象の有無が同時に判断され、危険事象が認識されない場合、通常制御(通常の自動運転制御)が選択され、危険事象が認識される場合、高運動の制御系が危険事象に応じて選択される。高運動の制御系による高運動制御としては、
図4から
図7に示すような危険事象の例に対応して、低摩擦路面のカーブ走行等における車体(車輪)のスリップを抑制する車体滑り抑制制御、横風等の外乱の影響を抑制する外乱抑制制御、障害物や対向車両等との衝突の危険を回避するための危険回避制御等が単独或いは組み合わせて選択される。
【0041】
図4は低摩擦路面のカーブを走行する場合の危険事象を示す説明図である。
図4に示すように、自車両Csが追従している前方の先行車両Cfが路面凍結等によってスリップして横滑り防止装置が作動した場合、先行車両Cfのスリップ情報は、クラウド環境CLのエッジサーバ100を介して自車両Csに迅速に送信される。
【0042】
自車両Csは、先行車両Cfのスリップ情報を受信すると、自動運転制御ユニット20の走行挙動制御部22において、現在の自動運転制御を車体滑り抑制の高運動制御に切り換える。このときの高運動制御は、車速の減速、ヨーモーメント制御の早期介入、高速の操舵速度での操舵制御の介入等により、自車両Csが路面摩擦係数の低いカーブに進入したときに車両挙動を安定化させる制御となる。
【0043】
図5は横風を受けた場合の危険事象を示す説明図である。
図5に示すように、自車両Csが追従している前方の先行車両Cfが横風Wdを受けて横方向に大きくずれ、過大な横位置修正操舵を行った場合、先行車両Cfの過大な横位置修正の操舵制御情報がクラウド環境CLのエッジサーバ100を介して自車両Csに迅速に送信される。
【0044】
自車両Csは、先行車両Cfの過大な横位置修正の操舵制御情報を受信すると、自動運転制御ユニット20の走行挙動制御部22において、現在の自動運転制御を外乱抑制の高運動制御に切り換える。このときの高運動制御は、操舵制御のゲインを高めて操舵速度を高速化することにより通常よりも強めの横位置制御として、横風による進路からの逸脱を防止する制御となる。
【0045】
図6は先行車両が障害物を緊急回避した場合の危険事象を示す説明図である。
図6に示すように、自車両Csが追従している前方の先行車両Cfが路上の障害物Objを避けて緊急の回避運転をした場合、先行車両Cfの緊急回避運転情報がクラウド環境CLのエッジサーバ100を介して自車両Csに迅速に送信される。
【0046】
自車両Csは、先行車両Cfの緊急回避運転情報を受信すると、自動運転制御ユニット20の走行挙動制御部22において、現在の自動運転制御を危険回避の高運動制御に切り換える。このときの高運動制御は、急減速、高応答の操舵制御、認識及び制御の処理速度優先、路肩を含めた走行領域の拡大等により、障害物Objとの接触回避又は損傷軽減の制御となる。
【0047】
図7は対向車両の車線逸脱の危険事象を示す説明図である。
図7において、対向車両Ccが居眠り運転等によって自車両Csの車線内にはみ出してくる場合、クラウド環境CLのエッジサーバ100が道路の車線配置構造、対向車両Ccの横位置やヨーレート等の車両情報から車線逸脱挙動を検知し、自車両Csに通知する。
【0048】
自車両Csは、対向車両Ccの車線逸脱挙動情報を受信すると、自動運転制御ユニット20の走行挙動制御部22において、現在の自動運転制御を、
図6の障害物回避と同様の危険回避制御に切り換える。すなわち、急減速、高応答の操舵制御、認識及び制御の処理速度優先、路肩を含めた走行領域の拡大等により、対向車両Ccとの接触を回避し、最悪でも損傷を軽減可能な制御を実行する。
【0049】
次に、以上の走行制御システム10の動作について、
図8のフローチャートで例示される自動運転制御ユニット20の動作を中心として説明する。
図8は自動運転の制御切り換え処理を示すフローチャートである。
【0050】
自動運転制御ユニット20は、最初のステップS1において、クラウド環境CLからクラウド情報を受信し、ステップS2で前方に危険事象が発生しているか否かを判断する。自動運転制御ユニット20は、ステップS2において、危険事象が発生していないと判断した場合、ステップS11へ進んで通常の自動運転制御を実行し、危険事象が発生していると判断した場合、ステップS3で危険事象を通常の自動運転制御の制御範囲内で回避可能か否かを判断する。
【0051】
尚、本実施の形態においては、自動運転制御ユニット20は、DNN22aを用いた人工知能を主として動作し、危険事象を回避可能か否かを含めて自動運転制御と高運動制御との切り換えを人工知能によって判断する。
【0052】
自動運転制御ユニット20は、ステップS3において、危険事象を通常の自動運転制御の制御範囲内で回避可能と判断した場合、ステップS4で回避パスプランを作成する。そして、ステップS5へ進み、自動運転制御ユニット20は、ディスプレイに回避パスプラン及び自動運転と手動運転との選択画面を表示する等して、運転者に回避パスプランを提示するとともに、運転引継ぎの提案を行う。
【0053】
次に、自動運転制御ユニット20は、ステップS6で自動運転が選択されたか否かを調べる。自動運転制御ユニット20は、自動運転が選択された場合、ステップS7で回避パスプランによる自動運転制御を実行し、手動運転が選択された場合、ステップS8で自動運転制御を停止して、運転者の操作による手動運転への引継ぎを行う。この場合、運転者の操作を支援する運転支援制御を実行することが望ましい。
【0054】
一方、ステップS3において、通常の自動運転制御の制御範囲内では危険事象は回避不可と判断される場合、ステップS3からステップS9へ進み、自動運転制御ユニット20は、クラウド情報と自車走行情報とに基づいて、最適な高運動制御を人工知能によって選択する。自動運転制御ユニット20は、最適な高運動制御を選択すると自動運転制御を停止し、高運動制御で危険事象を回避するように自車両の走行挙動を制御する。
【0055】
その後、ステップS9からステップS10へ進み、自動運転制御ユニット20は、危険事象が発生している危険環境を通過したか否かを調べる。危険環境を通過していない場合、自動運転制御ユニット20は、ステップS10からステップS9へ戻って高運動制御を続け、危険環境を通過した場合、ステップS10からステップS11へ進んで通常の自動運転制御に復帰する。
【0056】
このように本実施の形態においては、クラウド情報取得ユニット30でエッジ環境を含むクラウド環境と通信し、少なくともエッジ環境から他車両の走行情報を含むクラウド情報を取得する。そして、自動運転制御ユニット20において、クラウド情報に基づいて自動運転のパスプラン及び自動運転制御の変更の要否を判断し、変更の要否に応じて自車両の走行挙動をクラウド情報及び自車走行情報に基づいて制御する。従って、自動運転による走行中に環境変化や危険状況が予想される場合、危険回避までに時間的な余裕がある場合にはパスプランを変更した自動運転で対応し、危険回避までに時間的な余裕がない場合にのみ危険回避を優先した制御に切り換えることにより、運転者の違和感や不安感を低減することが可能となる。
【符号の説明】
【0057】
10 走行制御システム
20 自動運転制御ユニット
21 パスプラン設定部
22 走行挙動制御部
30 クラウド情報取得ユニット(クラウド情報取得部)
40 自車走行情報取得ユニット(自車走行情報取得部)
50 制駆動制御ユニット
60 操舵制御ユニット
70 情報報知ユニット
100 エッジサーバ
200 クラウドサーバ
CL クラウド環境
DB 地図データベース