(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29B 15/14 20060101AFI20230713BHJP
B29K 105/12 20060101ALN20230713BHJP
【FI】
B29B15/14
B29K105:12
(21)【出願番号】P 2019562677
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032396
(87)【国際公開番号】W WO2020040122
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2018155450
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091384
【氏名又は名称】伴 俊光
(74)【代理人】
【識別番号】100125760
【氏名又は名称】細田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】越 政之
(72)【発明者】
【氏名】石田 翔馬
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 恵寛
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/038521(WO,A1)
【文献】特開平01-178412(JP,A)
【文献】特開平01-016612(JP,A)
【文献】特開2017-154330(JP,A)
【文献】特開2012-016857(JP,A)
【文献】特開平07-252372(JP,A)
【文献】特表2018-507801(JP,A)
【文献】特開2006-289714(JP,A)
【文献】特表2017-533994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
B05C 1/00- 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続繊維からなる強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させて熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を製造する方法であって、
熱可塑性樹脂を貯留する塗布部に、連続繊維からなる強化繊維を一方向に配列したシート状強化繊維束を通過させ、熱可塑性樹脂をシート状強化繊維束に塗布して
熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束とする塗布工程、
塗布した前記熱可塑性樹脂を、前記
熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の内部に追含浸させる追含浸工程、および
前記
熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を賦形し、冷却固化する賦形工程からなり、
前記塗布工程において、前記シート状強化繊維束を、鉛直方向下向きに通過させて熱可塑性樹脂を前記シート状強化繊維束に塗布するとともに、前記塗布工程および追含浸工程において、前記熱可塑性樹脂を融点+30℃以上に加熱し、加熱状態における熱可塑性樹脂の粘度が5~200Pa・sであ
り、
前記塗布部は互いに連通された液溜り部と狭窄部とを備え、前記液溜り部はシート状強化繊維束の走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有し、
前記液溜り部内にシート状強化繊維束の幅を規制するための幅規制機構を備え、狭窄部の直下におけるシート状強化繊維束の幅W(mm)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅L2(mm)との関係が、L2≦W+10(mm)を満たす熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項2】
前記液溜まり部における熱可塑性樹脂の滞留時間が1~60minである請求項1に記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項3】
強化繊維の配列方向における前記液溜り部の下部の幅L(mm)と、狭窄部の直下におけるシート状強化繊維束の幅W(mm)が、L≦W+10(mm)を満たす請求項
1または2に記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項4】
前記幅規制機構を前記液溜り部および狭窄部の全域にわたって具備する請求項
1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項5】
前記液溜り部における断面積が連続的に減少する部分の鉛直方向高さが10mm以上である請求項
1~
4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項6】
前記塗布工程において、狭窄部のスリット状断面において下記(式1)で表されるシート状強化繊維束に作用するせん断力が1~1500Nの範囲である請求項1~
5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
(式1) F=2×(Y+D)×X×η×(U/δ)
F:狭窄部で作用するせん断力(N)、Y:狭窄部の幅、D:狭窄部の隙間
η:樹脂粘度(MPa)、U:引取速度(m/min)、δ:繊維間距離(mm)
X:狭窄部長さ(mm)
【請求項7】
前記塗布工程、追含浸工程、及び賦形工程を連続的に行う請求項1~
6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項8】
前記塗布工程における熱可塑性樹脂の塗布を不活性ガス雰囲気下で行う請求項1~
7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項9】
前記追含浸工程における追含浸を不活性ガス雰囲気下で行う請求項1~
8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項10】
前記塗布工程通過後の前記
熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の繊維体積含有率
の、賦形工程通過後の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の繊維体積含有率
に対する比が0.9以上
かつ1.1以下である請求項1~
9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項11】
前記塗布工程において、シート状強化繊維束を加熱した後、塗布部に通過させる請求項1~
10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項12】
前記塗布工程において、シート状強化繊維束を平滑化処理した後、塗布部に通過させる請求項1~
11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項13】
前記塗布工程において、シート状強化繊維束を拡幅処理した後、塗布部に通過させる請求項1~
12のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項14】
前記追含浸工程において超音波振動を前記
熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束に付与する請求項1~
13のいずれかに記載の連熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【請求項15】
前記塗布工程において、塗布部に貯留された熱可塑性樹脂に超音波振動を付与する請求項1~
14のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法、特に、シート状強化繊維束に樹脂を均一に供給し、含浸する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させてなる繊維強化熱可塑性樹脂基材は、比強度、比剛性に優れ、軽量化効果が高い上に、耐熱性、耐薬品性が高いため、航空機、自動車等の輸送機器や、スポーツ、電気・電子部品などの各種用途へ好ましく用いられている。近年、軽量化に対する需要の高まりにより、航空機、自動車用途を中心に、金属部品から樹脂部品への代替や、部品の小型化、モジュール化が進みつつあることから、より成形性に優れ、かつ、機械特性に優れる材料開発が求められている。
【0003】
成形性と機械特性に優れた構造材用複合材料としては、例えば、ポリアミド樹脂に炭素繊維を含有してなる繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグ(例えば、特許文献1参照)が知られている。このようなプリプレグは、高い機械特性のために軽量化材料として期待されているが、安定して機械特性を発現するためには、繊維束間へのマトリックス樹脂の含浸性に優れることが必要である。
【0004】
熱可塑性樹脂を用いたプリプレグの製造方法として、帯状強化繊維束を水平方向(横方向)に搬送し、ダイに通過させ、帯状強化繊維束に熱可塑性樹脂を付与・含浸する横型引き抜き方式(特許文献2、特許文献3など)が知られている。特許文献2には、テープ状強化
繊維
束をクロスヘッド(特許文献2の
図2)に通し、クロスヘッド内の直線状のダイ部直前で樹脂がテープ状強化繊維束に付与される。特許文献3には、複数の帯状強化繊維束を別々に溶融熱可塑樹脂が満たされたダイ内へ導入し、固定ガイド(例えばスクイーズバー)により、開繊、含浸、積層し、最終的に1枚のシート状プリプレグとしてダイから引き抜くことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2001/028951パンフレット
【文献】特開平6-31821号公報
【文献】国際公開WO2012/002417パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の技術では、クロスヘッド内のダイ部の前部は樹脂が無い状態でテープ状強化繊維がスリット状のガイダーチップを通過するため、毛羽が詰まり易く、また毛羽を除去する機能も無いため、長時間連続走行させることは困難と考えられる。特に毛羽が発生し易い炭素繊維ではこの傾向が顕著になると考えられる。
【0007】
また、特許文献3の方法では連続生産時に液溜り部に毛羽が滞留し易く、引き抜き部で毛羽が詰まり易い。特に、帯状強化繊維束を高速で連続走行させると、毛羽が詰まる頻度が非常に高まるため、非常に遅い速度でしか生産ができず、生産性が上がらない問題点があった。また、横型引き抜き方式においては、帯状強化繊維束の内部に熱可塑性樹脂が含浸する際、帯状強化繊維束の内部に残留していた気泡は、浮力により強化繊維束の配向方向と直交する方向(帯状強化繊維束の厚み方向)に排出されるため、含浸してくる熱可塑性樹脂を押しのけるようにして気泡の排出が進む。そのため、気泡の移動が液によって阻害される上に、熱可塑性樹脂の含浸も気泡によって阻害されるため、含浸効率が悪いという問題点があった。なお、特許文献3では気泡をベントから排気することも提案されているが、ダイ出口付近のみであり、その効果は限定的と考えられる。
【0008】
このように、一方向に配列した強化繊維束への効率的な熱可塑性樹脂付与および含浸方法、特に一方向強化繊維束を用いた熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の効率的な製造方法は未だ確立されていなかった。
【0009】
本発明の課題は、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法に関して、毛羽発生を抑制し、かつ毛羽が詰まることなく連続生産が可能であり、さらにシート状強化繊維束に熱可塑性樹脂を効率よく含浸させ、生産速度の高速化が可能な、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するために本発明は主として以下の構成を有する。
[1]連続繊維からなる強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させて熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を製造する方法であって、熱可塑性樹脂を貯留する塗布部に、連続繊維からなる強化繊維を一方向に配列したシート状強化繊維束を通過させ、熱可塑性樹脂をシート状強化繊維束に塗布して熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束とする塗布工程、塗布した前記熱可塑性樹脂を、前記熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の内部に追含浸させる追含浸工程、および前記熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を賦形し、冷却固化する賦形工程からなり、前記塗布工程において、前記シート状強化繊維束を、鉛直方向下向きに通過させて熱可塑性樹脂を前記シート状強化繊維束に塗布するとともに、前記塗布工程および追含浸工程において、前記熱可塑性樹脂を融点+30℃以上に加熱し、加熱状態における熱可塑性樹脂の粘度が5~200Pa・sである熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[2]前記塗布部は互いに連通された液溜り部と狭窄部とを備え、前記液溜り部はシート状強化繊維束の走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部はスリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有するとともに、前記液溜まり部における熱可塑性樹脂の滞留時間が1~60minである[1]に記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[3]強化繊維の配列方向における前記液溜り部の下部の幅L(mm)と、狭窄部の直下におけるシート状強化繊維束の幅W(mm)が、L≦W+10(mm)を満たす[2]に記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[4]前記液溜り部内にシート状強化繊維束の幅を規制するための幅規制機構を備え、狭窄部の直下におけるシート状強化繊維束の幅W(mm)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅L2(mm)との関係が、L2≦W+10(mm)を満たす、[2]または[3]に記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[5]前記幅規制機構を前記液溜り部および狭窄部の全域にわたって具備する[4]に記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[6]前記液溜り部における断面積が連続的に減少する部分の鉛直方向高さが10mm以上である[2]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[7]前記塗布工程において、狭窄部のスリット状断面において下記(式1)で表されるシート状強化繊維束に作用するせん断力が1~1500Nの範囲である[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
(式1) F=2×(Y+D)×X×η×(U/δ)
F:狭窄部で作用するせん断力(N)、Y:狭窄部の幅、D:狭窄部の隙間
η:樹脂粘度(MPa)、U:引取速度(m/min)、δ:繊維間距離(mm)
X:狭窄部長さ(mm)
[8]前記塗布工程、追含浸工程、及び賦形工程を連続的に行う[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[9]前記塗布工程における熱可塑性樹脂の塗布を不活性ガス雰囲気下で行う[1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[10]前記追含浸工程における追含浸を不活性ガス雰囲気下で行う[1]~[9]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[11]前記塗布工程通過後の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の繊維体積含有率と賦形工程通過後の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の繊維体積含有率との比が0.9以上である[1]~[10]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[12]前記塗布工程において、シート状強化繊維束を加熱した後、塗布部に通過させる[1]~[11]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[13]前記塗布工程において、シート状強化繊維束を平滑化処理した後、塗布部に通過させる[1]~[12]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[14]前記塗布工程において、シート状強化繊維束を拡幅処理した後、塗布部に通過させる[1]~[13]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[15]前記追含浸工程において超音波振動を前記熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束に付与する[1]~[14]のいずれかに記載の連熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[16]前記塗布工程において、塗布部に貯留された熱可塑性樹脂に超音波振動を付与する[1]~[15]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法。
[17][1]~[16]のいずれかに記載の製造方法により製造された熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束。
[18][17]に記載の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を成形してなる強化繊維複合材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法によれば、熱可塑性樹脂を定量・均一に供給でき低コストで生産できる。さらに、連続強化繊維束を連続かつ高速で走行させることが可能となり、熱可塑性樹脂を含浸した熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の生産性が向上する。
【0012】
さらに、含浸性に優れ、樹脂の劣化が少ない熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法および塗工装置を示す概略横断面図である。
【
図2】
図1における塗布部20の部分を拡大した詳細横断面図である。
【
図3】
図2における塗布部20を、
図2のAの方向から見た下面図である。
【
図4a】
図2における塗布部20を、
図2のBの方向から見た場合の塗布部内部の構造を説明する断面図である。
【
図4b】
図4aにおける隙間26での熱可塑性樹脂2の流れを表す断面図である。
【
図5】幅規制機構の設置例を示す図であり、(A)はA方向から見た図、(B)はB方向から見た図、(C)はZ方向から見た図、(D)は
図2と同方向から見た図である。
【
図6】
図2とは別の実施形態の塗布部20bの詳細横断面図である。
【
図7】
図6とは別の実施形態の塗布部20cの詳細横断面図である。
【
図8】
図6とは別の実施形態の塗布部20dの詳細横断面図である。
【
図9】
図6とは別の実施形態の塗布部20eの詳細横断面図である。
【
図10】本発明とは異なる実施形態の塗布部30の詳細横断面図である。
【
図11】
図1における追含浸部40の部分を拡大した詳細横断面図である。
【
図12】
図11とは別の実施形態の追含浸部40bの詳細横断面図である。
【
図13】図
11とは別の実施形態の追含浸部40cの詳細横断面図である。
【
図14】図
11とは別の実施形態の追含浸部40dの詳細横断面図である。
【
図15】本発明の一実施形態に係る複数の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を積層する態様の例を示す
概略横断面図である。
【
図16】本発明を用い
たプリプレグ製造工程・装置の例の概略
横断面図である。
【
図17】本発明を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の例の概略
横断面図である。
【
図18】本発明を用いた別のプリプレグ製造工程・装置の概略
横断面図である。
【
図19】本発明の一実施形態に係る複数の塗布部を具備する態様の
プリプレグ製造
工程・装置の例を示す
概略外観図である。
【
図20】本発明の一実施形態に係る複数の塗布部を具備する別の態様の
プリプレグ
製造工程・装置の例を示す
概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の望ましい実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明は発明の実施形態を例示するものであり、本発明はこれに限定して解釈されるものではなく、本発明の目的・効果を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0015】
まず、
図1により本発明の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法の概略を述べる。
図1は本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造方法を示す概略断面図である。シート状強化繊維束1aは融点+30℃以上に加熱した熱可塑性樹脂が貯留された塗布部20を通過し、熱可塑性樹脂が定量的に塗布される。続いて、熱可塑性樹脂が付着した熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bは追含浸部40により、熱可塑性樹脂が熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの内部にまで追含浸される。さらに、賦形部50を通過し、所定形状に賦形された後、冷却固化部60により、融点以下まで冷却し固化される。また、塗布部20、追含浸部40および冷却固化部60を備えた塗工装置の前後には、強化繊維1を巻き出す複数のクリール11と、巻き出された強化繊維1を一方向に配列したシート状強化繊維束1a(
図1では紙面奥行き方向に配列)を得る配列装置12と、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの巻取り装置15を備えることができ、また、図示していないが塗工装置には熱可塑性樹脂の供給装置が具備されている。
【0016】
本発明において、連続繊維からなる強化繊維とは、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束中で当該強化繊維が途切れのないものをいう。本発明における強化繊維の形態および配列としては、例えば、一方向に引き揃えられたもの、織物(クロス)、編み物、組み紐、トウ等が挙げられる。中でも、特定方向の機械特性を効率よく高められることから、強化繊維が一方向に配列してなることが好ましい。
【0017】
強化繊維の種類としては特に限定されず、炭素繊維、金属繊維、有機繊維、無機繊維が例示される。これらを2種以上用いてもよい。強化繊維に炭素繊維を用いることで、軽量でありながら高い機械特性を有する熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束が得られる。
【0018】
炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を原料とするPAN系炭素繊維、石油タールや石油ピッチを原料とするピッチ系炭素繊維、ビスコースレーヨンや酢酸セルロースなどを原料とするセルロース系炭素繊維、炭化水素などを原料とする気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられる。これら炭素繊維のうち、強度と弾性率のバランスに優れる点で、PAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
【0019】
金属繊維としては、例えば、鉄、金、銀、銅、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属からなる繊維が挙げられる。
【0020】
有機繊維としては、例えば、アラミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンなどの有機材料からなる繊維が挙げられる。アラミド繊維としては、例えば、強度や弾性率に優れるパラ系アラミド繊維と、難燃性、長期耐熱性に優れるメタ系アラミド繊維が挙げられる。パラ系アラミド繊維としては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維などが挙げられ、メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維などが挙げられる。アラミド繊維としては、メタ系アラミド繊維に比べて弾性率の高いパラ系アラミド繊維が好ましく用いられる。
【0021】
無機繊維としては、例えば、ガラス、バサルト、シリコンカーバイド、シリコンナイトライドなどの無機材料からなる繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維(電気用)、Cガラス繊維(耐食用)、Sガラス繊維、Tガラス繊維(高強度、高弾性率)などが挙げられる。バサルト繊維は、鉱物である玄武岩を繊維化した物で、耐熱性の非常に高い繊維である。玄武岩は、一般的に、鉄の化合物であるFeOまたはFeO2を9~25重量%、チタンの化合物であるTiOまたはTiO2を1~6重量%含有するが、溶融状態でこれらの成分を増量して繊維化することも可能である。
【0022】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束は、補強材としての役目を期待されることが多いため、高い機械特性を発現することが望ましく、高い機械特性を発現するためには、強化繊維として炭素繊維を含むことが好ましい。
【0023】
シート状強化繊維束は、通常、多数本の単繊維を束ねた強化繊維束を1本または複数本並べたものである。1本または複数本の強化繊維束を並べたときの強化繊維束1本あたりの総フィラメント数(単繊維の本数)は、1,000~2,000,000本が好ましい。生産性の観点からは、強化繊維の総フィラメント数は、1,000~1,000,000本がより好ましく、1,000~600,000本がさらに好ましく、1,000~300,000本が特に好ましい。強化繊維束1本あたりの総フィラメント数の上限は、分散性や取り扱い性とのバランスも考慮して、生産性と分散性、取り扱い性を良好に保てるように決められればよい。
【0024】
1本の強化繊維束は、好ましくは平均直径5~10μmである強化繊維の単繊維を1,000~50,000本束ねて構成される。
【0025】
また、一方向に配列したシート状強化繊維束とは、複数本の強化繊維を一方向に面上で配列させたものを言い、必ずしも該複数の強化繊維は相互に絡み合う等して一体化している必要は無い。すなわち、本発明の製造方法によれば、熱可塑性樹脂の塗布後には熱可塑性樹脂が含浸されたシート状物として得られることから強化繊維が配列された状態として便宜上シート状強化繊維束と称している。強化繊維が一方向に配列された熱可塑性樹脂含浸シート状物は複合材料業界で「一方向材」や「UD材」と呼ばれているFRPの基材となるものである。シート状強化繊維束は厚み、幅には特に制限は無く、目的、用途に応じ適宜選択することができる。炭素繊維の場合には、通常、1,000本~1,000,000本程度の単繊維がテープ状に集合したものを「トウ」と呼んでおり、このトウを配列させてシート状強化繊維束を得ることができるが、トウが厚み方向に積層されていても良い。なお、シート状強化繊維束は、その幅/厚みで定義されるアスペクト比は10以上であると、取り扱い易く好ましい。なお、本発明では、テープ状の「トウ」1本もシート状強化繊維束の一形態と解される。
【0026】
また、シート状強化繊維束を形成する方法は公知の方法を用いることができ、特に制限は無いが、単繊維をあらかじめ配列させた強化繊維束を形成し、この強化繊維束を更に配列させてシート状強化繊維束を形成させることが、工程効率化、配列均一化の観点から好ましい。例えば炭素繊維では、前記したようにテープ状の強化繊維束である「トウ」がボビンに巻かれているが、ここから引き出されたテープ状の強化繊維束を配列させてシート状強化繊維束を得ることができる。また、クリールにかけられたボビンから引き出された強化繊維束を整然と並べ、シート状強化繊維束中で強化繊維束の望ましくない重なりや折りたたみ、強化繊維束間の隙間を無くするための強化繊維配列機構を有することが好ましい。強化繊維配列機構としては公知のローラーやくし型配列装置などを用いることができる。また、予め配列したシート状強化繊維束を複数枚重ねることも強化繊維間の隙間を減じる観点から有用である。なお、クリールには強化繊維を引き出す際に発生する張力を制御する張力制御機構が付与されていることが好ましい。張力制御機構としては、公知のものを使用可能であるが、ブレーキ機構などが挙げられる。また、糸道ガイドの調整などによっても張力を制御することができる。
【0027】
本発明においては、シート状強化繊維束の表面平滑性を高くする平滑化処理を行うことで、塗布部での塗布量の均一性を向上させることができる。このため、シート状強化繊維束を平滑化処理した後、液溜り部に導くことが好ましい。平滑化処理の方法は特に制限は無いが、対向ロールなどで物理的に押しつける方法や空気流を用いて強化繊維を動かす方法などを例示できる。物理的に押しつける方法は簡便かつ、強化繊維の配列を乱しにくいため好ましい。より具体的にはカレンダー加工などを用いることができる。空気流を用いる方法は擦過が起こりにくいだけでなく、シート状強化繊維束を拡幅する効果もあり好ましい。
【0028】
また、本発明において、シート状強化繊維束を拡幅処理した後、液溜り部に導くことも、薄いプリプレグを効率的に製造できる観点から好ましい。拡幅処理方法は特に制限は無いが、機械的に振動を付与する方法、空気流により強化繊維束を拡げる方法などを例示できる。機械的に振動を付与する方法としては、例えば特開2015-22799号公報記載のように、振動するロールにシート状強化繊維束を接触させる方法がある。振動方向としては、シート状強化繊維束の進行方向をX軸とすると、Y軸方向(水平方向)、Z軸方向(垂直方向)の振動を与えることが好ましく、水平方向振動ロールと垂直方向振動ロールを組み合わせて用いることも好ましい。また振動ロール表面は複数の突起を設けておくと、ロールでの強化繊維の擦過を抑制でき、好ましい。空気流を用いる方法としては、例えば、SEN-I GAKKAISHI,vol.64,P-262-267(2008)に記載の方法を用いることができる。
【0029】
また、本発明において、シート状強化繊維束を加熱した後、液溜り部に導くと、熱可塑性樹脂の温度低下を抑制し、熱可塑性樹脂の粘度均一性を向上させられるため好ましい。シート状強化繊維束は熱可塑性樹脂温度近傍まで加熱されることが好ましいが、このための加熱手段としては、空気加熱、赤外線加熱、遠赤外線加熱、レーザー加熱、接触加熱、熱媒加熱(スチームなど)など多様な手段を用いることができる。中でも赤外線加熱は装置が簡便であり、またシート状強化繊維束を直接加熱できるため、走行速度が速くても所望の温度まで効率よく加熱が可能であり、好ましい。
【0030】
本発明に使用される熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリアリーレンエーテルケトン(PAEK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。前記ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(PAEK)としては、例えば、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、ポリエーテルエーテルケトンエーテルケトン(PEEKEK)、ポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)、及びポリエーテルジフェニルエーテルケトン(PEDEK)等やこれらの共重合体、変性体、および2種以上ブレンドした樹脂などであってもよい。とりわけ、耐熱性、耐薬品性の観点からはPPS樹脂やPEEK樹脂およびPEKK樹脂が、成形品外観、寸法安定性の観点からはポリカーボネート樹脂やスチレン系樹脂が、成形品の強度、耐衝撃性の観点からはポリアミド樹脂がより好ましく用いられる。また、これらの熱可塑性樹脂を流動性、成形加工性などの必要特性に応じて混合することも実用上好適である。
【0031】
本発明に係る熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束は、連続繊維からなる強化繊維に前述の熱可塑性樹脂を塗布したものであり、必要に応じて、さらに、充填材、他種ポリマー、各種添加剤などを含有してもよい。
【0032】
充填材としては、一般に樹脂用フィラーとして用いられる任意のものを用いることができ、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束やそれを用いた成形品の強度、剛性、耐熱性、寸法安定性をより向上させることができる。充填材としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状無機充填材、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、タルク、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、アスベスト、アルミノシリケート、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどの非繊維状無機充填材などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これら充填材は中空であってもよい。また、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で処理されていてもよい。また、モンモリロナイトとして、有機アンモニウム塩で層間イオンをカチオン交換した有機化モンモリロナイトを用いてもよい。なお、繊維状充填材は、不連続繊維からなるものであれば、連続繊維からなる強化繊維の補強効果を損なうことなく機能を付与できる。
【0033】
他種ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどのエラストマーや、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレンなどを挙げることができる。これらを2種以上含有してもよい。熱可塑性樹脂から得られる熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束材の耐衝撃性を向上させるためには、オレフィン系化合物および/または共役ジエン系化合物の(共)重合体などの変性ポリオレフィン、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどの耐衝撃性改良剤が好ましく用いられる。
【0034】
オレフィン系化合物および/または共役ジエン系化合物の(共)重合体としては、エチレン系共重合体、共役ジエン系重合体、共役ジエン-芳香族ビニル炭化水素系共重合体などが挙げられる。
【0035】
エチレン系共重合体としては、例えば、エチレンと、炭素数3以上のα-オレフィン、非共役ジエン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、α,β-不飽和カルボン酸およびその誘導体などとの共重合体が挙げられる。炭素数3以上のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン-1などが挙げられる。非共役ジエンとしては、例えば、5-メチリデン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンなどが挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテンジカルボン酸などが挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、前記α,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アリールエステル、グリシジルエステル、酸無水物、イミドなどが挙げられる。
【0036】
共役ジエン系重合体とは、少なくとも1種の共役ジエンの重合体を指す。共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン(2-メチル-1,3-ブタジエン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどが挙げられる。また、これらの重合体の不飽和結合の一部または全部が水添により還元されていてもよい。
【0037】
共役ジエン-芳香族ビニル炭化水素系共重合体とは、共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素との共重合体を指し、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。共役ジエンとしては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。芳香族ビニル炭化水素としては、例えば、スチレンなどが挙げられる。また、共役ジエン-芳香族ビニル炭化水素系共重合体の芳香環以外の二重結合以外の不飽和結合の一部または全部が水添により還元されていてもよい。
【0038】
耐衝撃性改良剤の具体例としては、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/プロピレン-g-無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン-1-g-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。
【0039】
各種添加剤としては、例えば、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどの非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
【0040】
本発明で用いる熱可塑性樹脂としては、工程通過性・安定性の観点から最適な粘度を選択することが重要である。具体的には、塗布工程および追含浸工程において、粘度を5~200Pa・sの範囲とすることが重要である。このような範囲の粘度にすると、シート状強化繊維束の高速走行性、安定走行性を向上させることができる。なお、この溶融粘度は、熱可塑性樹脂の融点+30℃の温度で、熱可塑性樹脂を溶融させるため5分間滞留させた後に、せん断速度9728sec-1の条件下で、キャピラリーフローメーターによって測定することができる。本発明においては、溶融粘度を評価するための指標として、短時間の滞留では熱分解が進行しにくい温度条件として融点+30℃を選択し、塗布部出口の狭窄部の通過を想定した高せん断条件であるせん断速度として9728sec-1を選択した。熱可塑性樹脂の粘度はより好ましくは20~100Pa・sである。
【0041】
本発明における熱可塑性樹脂の温度は、熱可塑性樹脂の安定性の観点から最適な温度を選択することが重要である。具体的には、塗布工程および追含浸工程において熱可塑性樹脂の温度を融点+30℃~+100℃の範囲とすることが重要である。このような範囲の温度にすると、熱可塑性樹脂の安定性を向上させることができる。熱可塑性樹脂が融点を持たない非晶性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂の安定性を損なわない範囲で温度を選択できる。
【0042】
本発明における熱可塑性樹脂の塗布工程について図を用いて説明する。塗工装置20における熱可塑性樹脂2をシート状強化繊維束1aに付与する方法は、クリール11から巻き出された複数本の強化繊維1を、配列装置12によって一方向(紙面奥行き方向)に配列してシート状強化繊維束1aを得た後、シート状強化繊維束1aを塗布部20に通過させてシート状強化繊維束1aの両面に熱可塑性樹脂2を塗布するものである。これにより、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bを得ることができる。
【0043】
塗布工程において、塗布部における熱可塑性樹脂の貯溜しやすさや、シート状強化繊維束への熱可塑性樹脂の含浸性の観点から、シート状強化繊維束を鉛直下向きに通過させる必要がある。
【0044】
塗布工程において、液溜まり部を構成する熱可塑性樹脂の滞留時間は1~60minであることが好ましい。熱可塑性樹脂の滞留時間が1min以上であることにより、熱可塑性樹脂を安定して塗布することができる。5min以上がより好ましく、10min以上がさらに好ましい。熱可塑性樹脂の滞留時間が60min以下であることにより、熱可塑性樹脂の劣化・架橋を生じることなく熱可塑性樹脂の塗布が可能である。40min以下が好ましく、30min以下がより好ましく、20min以下がさらに好ましい。
【0045】
本発明における熱可塑性樹脂の滞留時間Q(min)は、液溜まり部の容積M(cm3)と熱可塑性樹脂の供給量N(cm3/min)から下記(式2)で表される。
(式2) Q(min)=M(cm3)/N(cm3/min)
【0046】
塗布工程において、熱可塑性樹脂を貯留する塗布部の内部には不活性ガスを封入してよい。不活性ガスを封入することにより、液溜まり部での熱可塑性樹脂の劣化、架橋を抑制することができる。不活性ガスの種類は特に限定されないが、取り扱い性と生産性の観点から、窒素ガスが最も好ましい。不活性ガスの温度は特に制限されないが、熱可塑性樹脂と同等の温度に加熱されていることが、樹脂温度が変動しない点で好ましい。
【0047】
次に
図2~4により、シート状強化繊維束1aへの熱可塑性樹脂2の塗布工程について詳述する。
図2は、
図1における塗布部20を拡大した詳細横断面図である。塗布部20は、所定の隙間Dを開けて対向する壁面部材21a、21bを備え、壁面部材21a、21bの間には、鉛直方向下向き
(すなわちシート状強化繊維束の走行方向
Z)に断面積が連続的に減少する液溜り部22と、液溜り部22の下方(シート状強化繊維束1aの搬出側)に位置し、液溜り部22の上面(シート状強化繊維束1aの導入側)の断面積よりも小さい断面積を有するスリット状の狭窄部23が形成されている。
図2において、シート状強化繊維束1aは、紙面の奥行き方向に配列されている。
【0048】
塗布部20において、液溜り部22に導入されたシート状強化繊維束1aは、その周囲の熱可塑性樹脂2を随伴しながら、鉛直方向下向きに走行する。その際、液溜り部22の断面積は鉛直方向下向き(シート状強化繊維束1aの走行方向Z)に向かって減少するため、随伴する熱可塑性樹脂2は徐々に圧縮され、液溜り部22の下部に向かうにつれて熱可塑性樹脂2の圧力が増大する。液溜り部22の下部の圧力が高くなると、前記随伴液流がそれ以上は下部に流動し難くなり、壁面部材21a、21b方向に流れ、その後、壁面部材21a、21bに阻まれ、上方へ流れるようになる。結果、液溜り部22内ではシート状強化繊維束1aの平面と、壁面部材21a、21b壁面に沿った循環流Tを形成する。これにより、仮にシート状強化繊維1aが毛羽を液溜り部22に持ち込んだとしても毛羽は循環流Tに沿って運動し、液圧の大きな液溜り部22下部や狭窄部23に近づくことができない。さらに下で述べるとおり、気泡が毛羽に付着することにより毛羽が循環流Tから上方に移動し、液溜り部22の上部液面付近を通過する。そのため、毛羽が液溜り部22の下部および狭窄部23に詰まることが防止されるだけでなく、滞留する毛羽は液溜り部22の上部液面から容易に回収することも可能となる。さらに、シート状強化繊維束1aを高速で走行させた場合、前記の液圧はさらに増大するため、毛羽の排除効果がより高くなる。その結果、シート状強化繊維束1aにより高速で熱可塑性樹脂2を付与することが可能となり、生産性が大きく向上する。
【0049】
また、前記の増大した液圧により、熱可塑性樹脂2がシート状強化繊維束1aの内部に含浸しやすくなる効果がある。これは、シート状強化繊維束のような多孔質体(隣接する単繊維同士の間に空隙を有する状態)に熱可塑性樹脂が含浸される際、その含浸度が熱可塑性樹脂の圧力で増大する性質(ダルシーの法則)に基づく。これについても、シート状強化繊維束1aをより高速で走行させた場合、液圧がより増大することから、含浸効果をより高めることができる。なお、熱可塑性樹脂2はシート状強化繊維束1aの内部に残留する気泡と気/液置換で含浸されるが、気泡は前記の液圧と浮力によりシート状強化繊維束1aの内部の隙間を通って、繊維の配向方向(鉛直方向上向き)に排出される。このとき、気泡は含浸してくる熱可塑性樹脂2を押しのけずに排出されるため、含浸を阻害しない効果もある。また、気泡の一部はシート状強化繊維束1aの表面から面外方向(法線方向)に排出されるが、この気泡も前記の液圧と浮力により速やかに鉛直方向上向きに排除されるため、含浸効果の高い液溜り部22の下部に留まらず、効率よく気泡の排出が進む効果もある。これらの効果により、シート状強化繊維束1aに熱可塑性樹脂2を効率よく含浸させることが可能となり、その結果、熱可塑性樹脂2が均一に含浸された高品質の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bを得ることが可能となる。
【0050】
さらに、前記の増大した液圧により、シート状強化繊維束1aが隙間Dの中央に自動的に調心され、シート状強化繊維束1aが液溜り部22や狭窄部23の壁面に直接擦過せず、ここでの毛羽発生を抑制する効果もある。これは、外乱などによりシート状強化繊維束1aが隙間Dのどちらかに接近した場合、接近した側ではより狭い隙間に熱可塑性樹脂2が押し込まれて圧縮されるため、接近した側で液圧がより増大し、シート状強化繊維束1aを隙間Dの中央に押し戻すためである。
【0051】
狭窄部23は、液溜り部22の上面よりも断面積が小さく設計される。
図2や
図4から理解されるとおり専らシート状強化繊維束による疑似平面の垂線方向の長さが小さい、すなわち部材間の間隔が狭い、ことで断面積は小さくなる。これは、前記のように狭窄部で液圧を高くすることで、含浸や自動調心効果を得るためである。また、狭窄部23の最上部の面の断面形状は、液溜り部22の最下部の面の断面形状と一致させることが、シート状強化繊維束1aの走行性や熱可塑性樹脂2の流れ制御の観点から好ましいが、必要に応じ狭窄部23の方を若干大きくしてもよい。
【0052】
ここで、
図2の塗布部20では、シート状強化繊維束1aが完全に鉛直方向下向き
(水平面から90度
のZ方向)に走行しているが、これに限定されず、前記の毛羽回収、気泡の排出効果が得られ、シート状強化繊維束1aが安定して連続走行可能な範囲で、実質的に鉛直方向下向きであればよい。ここで実質的に鉛直下向きとは、鉛直方向に対して±5°の範囲を含むものである。
【0053】
また、シート状強化繊維束1aに付与される熱可塑性樹脂2の総量は、狭窄部23の隙間Dで制御可能であり、例えば、シート状強化繊維束1aに付与する熱可塑性樹脂2の総量を多くしたい(目付けを大きくしたい)場合は、隙間Dが広くなるよう、壁面部材21a、21bを設置すればよい。
【0054】
図3は、塗布部20を、
図2のAの方向から見た下面図である。塗布部20には、シート状強化繊維束1aの配列方向両端から熱可塑性樹脂2が漏れるのを防ぐための側壁部材24a、24bが設けられており、壁面部材21a、21bと側壁部材24a、24bに囲われた空間に狭窄部23の出口25が形成されている。ここで、出口25はスリット状をしており、断面アスペクト比(
図3のY/D)は熱可塑性樹脂2を付与したいシート状強化繊維束1aの形状に合わせて設定すればよい。
【0055】
狭窄部23において、下記(式1)で表されるシート状強化繊維束1aに作用するせん断力が1~1500Nであることが好ましい。せん断力が前記範囲であることにより、狭窄部における毛羽の発生を抑制しながら、熱可塑性樹脂の含浸を両立できる。
(式1) F=2×(Y+D)×X×η×(U/δ)
F:狭窄部で作用するせん断力(N)、Y:狭窄部の幅、D:狭窄部の隙間
η:樹脂粘度(MPa)、U:引取速度(m/min)、δ:繊維間距離(mm)
X:狭窄部長さ(mm)
【0056】
図4aは塗布部20を、Bの方向から見た場合の塗布部内部の構造を説明する断面図である。なお、図を見やすくするため壁面部材21bは省略してあるほか、シート状強化繊維束1aは強化繊維1を、隙間を開けて配列しているように描画しているが、実際には強化繊維1を隙間無く配列することが、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の品位、FRPの力学特性の観点から好ましい。
【0057】
図4bは隙間26での熱可塑性樹脂2の流れを示している。隙間26が大きいと熱可塑性樹脂2には、Rの向きに渦流れが発生する。この渦流れRは、液溜り部22の下部では外側に向かう流れ(Ra)となるため、シート状強化繊維束を引き裂いてしまう(シート状繊維束の割れが発生する)場合や強化繊維間の間隔を拡げてしまい、そのために熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束としたときに強化繊維の配列ムラを発生する可能性がある。一方、液溜り部22の上部では、内側に向かう流れ(Rb)となるため、シート状強化繊維束1aが幅方向に圧縮され、その端部が折れてしまう場合がある。特許文献2(特許第3252278号公報)に代表されるような、一体物のシート状基材(特にフィルム)に熱可塑性樹脂を両面塗布する装置ではこのような隙間26での渦流れが発生しても品質への影響が少ないため、注意がされていなかった。
【0058】
そこで、本発明においては、隙間26を小さくする幅規制を行い、端部での渦流れの発生を抑制することが好ましい。具体的には、液溜り部22の幅L、すなわち、側板部材24aと24bの間隔L(mm)は、狭窄部23の直下で測定したシート状強化繊維束の幅W(mm)と下記(式3)の関係を満たすよう構成することが好ましい。
(式3) L≦W+10
【0059】
これにより、端部での渦流れ発生が抑制され、シート状強化繊維束1aの割れや端部折れを抑制でき、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの全幅W(mm)にわたって均一に強化繊維1が配列された、高品位で安定性の高い熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bを得ることができる。さらに、この技術をプリプレグに適用した場合には、プリプレグの品位、品質を向上させるのみならず、これを用いて得られるFRPの力学特性や品質を向上させることができる。L(mm)とW(mm)の関係はより好ましくは、L≦W+2(mm)とすると、さらにシート状強化繊維束の割れや端部折れを抑制することができる。
【0060】
また、L(mm)の下限は、W-5(mm)以上となるよう調整することが、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの幅方向寸法の均一性を向上させる観点から好ましい。
【0061】
なお、この幅規制は、液溜り部22下部の高い液圧による渦流れR発生を抑制する観点から、少なくとも液溜り部22の下部(
図4aのGの位置)で行うことが好ましい。さらに、この幅規制はより好ましくは、液溜り部22の全域で行うと、渦流れRの発生をほぼ完全に抑制することができ、その結果、シート状強化繊維束の割れや端部折れをほぼ完全に抑制することが可能となる。
【0062】
また、前記幅規制は、前記隙間26の渦流れ抑制の観点からは、液溜り部22だけでもよいが、狭窄部23も同様に行うと熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの側面に過剰な熱可塑性樹脂2が付与されることを抑制する観点から好ましい。
【0063】
<幅規制機構>
前記では幅規制を側壁部材24a、24bが担う場合を示したが、
図5に示すように、側壁部材24a、24b間に幅規制機構27a、27bを設け、かかる機構で幅規制を行うこともできる。これにより、幅規制機構によって規制される幅を自在に変更可能とすることで一つの塗布部により、種々の幅の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を製造できる観点から好ましい。ここで、狭窄部の直下におけるシート状強化繊維束の幅W(mm)と該幅規制機構下端において幅規制機構により規制される幅L2(mm)との関係はL2≦W+10(mm)とすることが好ましく、より好ましくは、L2≦W+2(mm)である。また、L2(mm)の下限は、W-5(mm)以上となるよう調整することが、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの幅方向寸法の均一性を向上させる観点から好ましい。幅規制機構の形状および材質に特に制限は無いが、板形状のブッシュであると簡便であり、好ましい。また、上部、すなわち液面に近い場所では壁面部材21a、21bとの間隔よりも小さい幅(
図5(C)の「Z方向からみた図」中、幅規制機構の上下方向の長さを指す)を有することで、熱可塑性樹脂の水平方向の流れを妨げないようにでき、好ましい。一方、幅規制機構の中間部から下部にかけては塗布部の内部形状に沿った形状とすることが液溜り部での熱可塑性樹脂の滞留を抑制でき、熱可塑性樹脂の劣化を抑制できることから好ましい。この意味から、幅規制機構は狭窄部23まで挿入されることが好ましい。
【0064】
図5は、幅規制機構として板形状ブッシュの例を示しているが、ブッシュの中間より下部が液溜り部22のテーパー形状に沿い、狭窄部23まで挿入される例を示している。
図5にはL2(mm)が液面から出口まで一定の例を示しているが、幅規制機構の目的を達成する範囲で部位によって規制する幅を変更してもよい。幅規制機構は任意の方法で塗布部20に固定することができるが、板形状ブッシュの場合には、上下方向で複数の部位で固定することで、高液圧による板形状ブッシュの変形による規制幅の変動を抑制することができる。例えば、上部はステーを用い、下部は塗布部に差し込むようにすると、幅規制機構による幅の規制が容易であり、好ましい。
【0065】
<液溜り部の形状>
前記で詳述したように、本発明においては、液溜り部22でシート状強化繊維束1aの走行方向に断面積が連続的に減少することで、シート状強化繊維束の走行方向に液圧を増大させることが重要であるが、ここでシート状強化繊維束1aの走行方向に断面積が連続的に減少するとは、走行方向に連続的に液圧を増大可能であれば、その形状には特に制限は無い。液溜り部22の横断面図において、テーパー状(直線状)であったり、ラッパ状などのように曲線的な形態を示してもよい。また、断面積減少部は液溜り部22の全長にわたって連続してもよいし、本発明の目的、効果が得られる範囲であれば、一部に断面積が減少しない部分や逆に拡大する部分を含んでいてもよい。これらについて、下記、
図6~9で例を挙げて詳述する。
【0066】
図6は、
図2とは別の実施形態の塗布部20bの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21c、21dの形状が異なる以外は、
図2の塗布部20と同じである。
図6の塗布部20bのように、液溜り部22が、鉛直方向下向き
(Z
方向)に断面積が連続的に減少する領域22aと、断面積が減少しない領域22bに分かれていてもよい。このとき、断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは10mm以上であることが好ましい。さらに好ましい断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは50mm以上である。これにより、シート状強化繊維束1aによって随伴された熱可塑性樹脂2が、液溜まり部22の断面積が連続的に減少する領域22aで圧縮される距離が確保され、液溜り部22の下部で発生する液圧を十分に増大させることができる。その結果、液圧により毛羽が狭窄部23に詰まるのを防止し、また液圧により熱可塑性樹脂2がシート状強化繊維束1aに含浸する効果を得ることができる。
【0067】
ここで、
図2の塗布部20や
図6の塗布部20bのように、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aをテーパー状とする場合、テーパーの開き角度θは小さい方が好ましく、具体的には鋭角(90°以下)にすることが好ましい。これにより、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22a(テーパー部)で熱可塑性樹脂2の圧縮効果を高め、高い液圧を得やすくすることができる。
【0068】
図7は、
図6とは別の実施形態の塗布部20cの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21e、21fの形状が2段テーパー状となっている以外は、
図6の塗布部20bと同じである。このように、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aを2段以上の多段テーパー部で構成してもよい。このとき、狭窄部23に最も近いテーパー部の開き角度θを鋭角にするのが、前記の圧縮効果を高める観点から好ましい。またこの場合も、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aの高さHを10mm以上にするのが好ましい。さらに好ましい断面積が連続的に減少する鉛直方向高さHは50mm以上である。
図7のように液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aを多段のテーパー部にすることで、液溜り部22に貯留できる熱可塑性樹脂2の体積を維持しつつ、狭窄部23に最も近いテーパー部の角度θをより小さくすることができる。これにより液溜り部22の下部で発生する液圧がより高くなり、毛羽の排除効果や熱可塑性樹脂2の含浸効果をさらに高めることが可能となる。
【0069】
図8は、
図6とは別の実施形態の塗布部20dの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21g、21hの形状が階段状となっている以外は、
図6の塗布部20bと同じである。このように、液溜り部22の最下部に断面積が連続的に減少する領域22aがあれば、本発明の目的である液圧の増大効果は得られるため、液溜り部22の他の部分に断面積が断続的に減少する領域22cを含んでいてもよい。液溜り部22を
図8のような形状にすることで、断面積が連続的に減少する領域22aの形状を維持しつつ、液溜り部22の奥行きBを拡大して貯留できる熱可塑性樹脂2の体積を大きくすることができる。その結果、塗布部20dに熱可塑性樹脂2を連続して供給できない場合でも、長時間シート状強化繊維束1aに熱可塑性樹脂2を付与し続けることが可能となり、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの生産性がより向上する。
【0070】
図9は、
図6とは別の実施形態の塗布部20eの詳細横断面図である。液溜り部22を構成する壁面部材21i、21jの形状がラッパ状(曲線状)となっている以外は、
図6の塗布部20bと同じである。
図6の塗布部20bでは、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aはテーパー状(直線状)だが、これに限定されず、例えば図
9のようにラッパ状(曲線状)でもよい。ただし、液溜り部22の下部と、狭窄部23の上部は滑らかに接続することが好ましい。これは、液溜り部22の下部と、狭窄部23の上部の境界に段差があると、シート状強化繊維束1aが段差に引っ掛かり、この部分で毛羽が発生する懸念があるためである。また、このように液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域をラッパ状とする場合は、液溜り部22の断面積が連続的に減少する領域22aの最下部における仮想接線の開き角度θを鋭角にするのが好ましい。
【0071】
なお、上記は滑らかに断面積が減少する例をあげて説明したが、本発明の目的を損なわない限り、本発明において液溜まり部の断面積は必ずしも滑らかに減少しなくともよい。
【0072】
図10は本発明とは別の実施形態の塗布部30の詳細横断面図である。本発明の実施形態とは異なり、
図10の液溜り部32は鉛直方向下向き
(Z
方向)に断面積が連続的に減少する領域33を含まず、狭窄部23との境界で断面積が不連続で急激に減少する構成である。このため、シート状強化繊維束1aが詰まり易い。
【0073】
<走行機構>
シート状強化繊維束や本発明の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を搬送するための走行機構としては、公知のローラー等を好適に用いることができる。本発明ではシート状強化繊維束1aが鉛直下向きに搬送されるため、塗布部を挟んで上下にローラーを配置することが好ましい。
【0074】
また、本発明では、強化繊維の配列乱れや毛羽立ちを抑制するため、シート状強化繊維束の走行経路はなるべく直線状であることが好ましい。
【0075】
<熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束>
塗布工程で得られる熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bにおいて、熱可塑性樹脂の含浸度は10%以上であることが望ましい。熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の含浸度は、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の厚み方向断面を以下のように観察して求めた。熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束をエポキシ樹脂で包埋したサンプルを用意し、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の厚み方向断面が良好に観察できるようになるまで、前記サンプルを研磨した。研磨したサンプルを、超深度カラー3D形状測定顕微鏡VHX-950F(コントローラー部)/VH-Z100R(測定部)((株)キーエンス製)を使用して、拡大倍率400倍で撮影した。撮影範囲は、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の厚み×幅500μmの範囲とした。撮影画像において、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の断面積および樹脂が含浸している部位の面積を求め、(式4)により含浸度を算出した。
(式4) 含浸度(%)=(含浸部位が占める部位の総面積)/(熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の総面積)×100
【0076】
<追含浸>
本発明に係る熱可塑性樹脂の追含浸工程について説明する。所望の含浸度に調整するために、本発明においては追含浸装置40を用いて更に含浸度を高める必要がある。ここでは、塗布部20での含浸と区別するために、塗布工程後に追加で含浸することを追含浸と称することとする。追含浸装置として用いられる装置には特に制限は無く、目的に応じて公知のものから適宜選択することができる。
【0077】
次に
図11~14により、シート状強化繊維束1aへの熱可塑性樹脂2の追含浸工程について詳述する。
図11は、
図1における追含浸部40を拡大した詳細横断面図である。熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bは含浸バー41をS字状に通過することにより追含浸が進行する。含浸バー41の個数、抱き角、温度などは所望の含浸度となるように適宜調整することができる。また、含浸バー41は固定されていても良いし、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの走行に伴って従動回転もしくは、モーター等で独立して回転させても良い。モーター等で独立して回転(自立回転)させることにより、含浸度の調整が容易となることから好ましい。さらには、含浸バー41に超音波発生装置を設けることで、超音波振動を熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bに付与した状態で追含浸を行うことができ好ましい。超音波振動を付与することにより短時間で追含浸が進行することから、生産性をより向上させることができる。
【0078】
図12は、
図11とは別の実施形態の追含浸部40bの詳細横断面図である。熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bを、対向する含浸ロール42間で加熱・加圧することにより熱可塑性樹脂2を追含浸する。含浸ロール42の個数、ロール温度、圧力などを所望の含浸度となるように適宜調整することができる。また、対向する含浸ロール42に互いにかみ合う凹凸を設けることで、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bを構成する強化繊維のアライメントを乱さずに追含浸が可能である。また、対向する含浸ロール42間のクリアランスを所望の寸法に調整することで追含浸工程と、後述する賦形とを同時に行うこともできる。さらには、追含浸部の出口側のロール温度を熱可塑性樹脂2の結晶化温度もしくはガラス転移温度以下に下げることにより、冷却を同時に達成させることもできる。
【0079】
図13は、図
12とは別の実施形態の追含浸部40cの詳細横断面図である。熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bを上下に対向したベルト43間で加熱・加圧することで追含浸させることができる。ベルト43の長さ、加圧力、加熱温度、加熱距離を調整することで所望の含浸度となるように適宜調整することができる。また、ベルト43の温度に勾配をつけることで賦形および冷却工程を連続して行うこともできる。つまり、図
13においてベルトを駆動するロール44aおよび44bを熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移温度以上に加熱し、ロール44cを結晶化温度以下として所望の含浸度を達成しながら熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの賦形が可能である。
【0080】
図14は、図
12とは別の実施形態の追含浸部40dの詳細横断面図である。熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bをプレス45a、45bで連続的に加熱・加圧することで熱可塑性樹脂2を追含浸させることができる。プレス機の数、加熱温度、加圧力を調整することで所望の含浸度となるように適宜調整することができる。また、連続したプレス機の温度を変化させることで、賦形および冷却工程を連続して行うこともできる。つまり、
図14においてプレス45aを熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移温度以上に加熱し、プレス45bを結晶化温度以下とし所望の含浸度を達成しながら熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの賦形が可能である。
【0081】
本発明における追含浸工程においては、追含浸部40の内部は不活性ガスを封入してもよい。不活性ガスを封入することにより、追含浸工程での熱可塑性樹脂の劣化、架橋を抑制することができる。不活性ガスの種類は特に限定されないが、取り扱い性と生産性の観点から、窒素ガスが最も好ましい。不活性ガスの温度は特に制限されないが、熱可塑性樹脂と同等の温度に加熱されていることが、樹脂温度が変動しない点で好ましい。
【0082】
追含浸工程は熱可塑性樹脂の塗布工程の直後の時間がたっていない段階に実施しても良いし、一度冷却固化した後に熱可塑性樹脂を追含浸工程に投入しても良い。生産性の観点から塗布工程の直後に連続して追含浸工程があることが好ましい。また、追含浸工程は塗布工程の直後の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束をそのまま追含浸工程に投入しても良いし、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を離形シートで挟み込んでから追含浸工程に投入しても良い。生産性および含浸性の観点から熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を直接、追含浸工程に投入することが好ましい。
【0083】
本発明における追含浸工程は塗布工程において鉛直下向きに通過したシート状強化繊維束1aの方向を維持した状態でシート状強化繊維束1aを通過させても良いし、ロールやバーを用いて方向を転換させても良い。追含浸とシート状強化繊維束1aの方向転換を同時に行ってもよい。
【0084】
<賦形工程>
本発明における樹脂の賦形および冷却固化する賦形工程について説明する。所望の寸法および表面品位に調整するために、本発明においては賦形工程により寸法を調整する必要がある。賦形・冷却装置として用いられる装置には特に制限は無く、目的に応じて公知のものから適宜選択することができる。
【0085】
賦形方法としては例えば、所望する断面形状のノズルを通過させる方法や前述したロール法やダブルベルトプレス法、間欠プレス方法などがあげられる。
【0086】
賦形と冷却は同時に行っても良いし、分けて実施しても良い。また、賦形工程と冷却工程は異なる装置を用いてもよい。例えば、賦形工程は樹脂を所望する断面形状のダイノズルを通過させた後に、冷却水が通過したカレンダーロール間を通過させてもよい。
【0087】
賦形工程は追含浸工程の直後の時間がたっていない段階に実施しても良いし、熱可塑性樹脂を一度冷却固化した後に、再加熱して追含浸工程に投入しても良い。生産性の観点から追含浸工程の直後に賦形、冷却固化工程があることが好ましい。
【0088】
賦形装置と冷却装置との距離については特に制限はなく、所望の寸法、表面外観が得られるように適宜調整される。冷却装置投入時の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の温度が、結晶性の熱可塑性樹脂であれば結晶化温度(Tc)以上、非晶性の熱可塑性樹脂であればガラス転移温度(Tg)以上であることが好ましい。
【0089】
前記塗布工程通過後の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の繊維体積含有率と賦形工程通過後の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の繊維体積含有率との比が0.9~1.0であることが好ましい。繊維体積含有率の比が上記範囲であることにより、熱可塑性樹脂の損失を抑えることができ、生産性の向上が可能である。
【0090】
<プリプレグ幅>
FRPの前駆体の一種であるプリプレグは、本発明で得られる熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの一形態に相当することから、本発明をFRP用途に適用する場合として、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束をプリプレグと称して以下説明する。
【0091】
プリプレグの幅には、特に制限は無く、幅が数十cm~2m程度の広幅でも良いし、幅数mm~数十mmのテープ状でも良く、用途に応じ幅を選択することができる。近年では、プリプレグの積層工程を効率化するため、細幅プリプレグやプリプレグテープを自動積層していくATL(Automated Tape Laying)やAFP(Automated Fiber Placement)と呼ばれる装置が広く用いられるようになってきており、これに適合した幅とすることも好ましい。ATLでは幅が約7.5cm、約15cm、約30cm程度の細幅プリプレグが用いられることが多く、AFPでは幅が約3mm~約25mm程度のプリプレグテープが用いられることが多い。
【0092】
所望の幅のプリプレグを得る方法には特に制限は無く、幅1m~2m程度の広幅プリプレグを細幅にスリットする方法を用いることができる。また、スリット工程を簡略化あるいは省略するため、最初から所望の幅となるよう本発明で用いる塗布部の幅を調整することもできる。例えば、ATL用に30cm幅の細幅プリプレグを製造する場合には、塗布部出口の幅をそれに応じて調整すればよい。また、これを効率的に製造するためには、製品幅を30cmとして製造することが好ましく、
かかる製造装置を複数個並列させると、同一の走行装置・搬送装置、各種ロール、ワインダーを用いて複数ラインのプリプレグを製造することができる。
図19には
プリプレグ製造装置の一例として、塗布部を5つ並列方向に連結した例を示している。この時、5枚のシート状強化繊維束416は、それぞれ独立した5つの強化繊維予熱装置420、塗布部430を通過し、5枚のプリプレグ471が得られるようにしても良いし、強化繊維予熱装置420、塗布部430は並列方向に一体化されていてもよい。この場合には、塗布部430中で幅規制機構、塗布部
を独立に5つ備えればよい。
【0093】
また、プリプレグテープの場合には、テープ状の強化繊維束が1糸条~3糸条程度でシート状強化繊維束を形成させ、これを所望のテープ幅が得られるように幅を調整した塗布部に通すことで得ることもできる。プリプレグテープの場合はテープ同士の横方向の重なりを制御する観点から、特にテープ幅の精度が求められる場合が多い。このため、塗布部出口幅をより厳密に管理することが好ましく、この場合には、前記のL、L2およびWが、L≦W+1mmおよび/またはL2≦W+1mm、の関係を満たすようすることが好ましい。
【0094】
<スリット>
プリプレグのスリット方法にも特に制限は無く、公知のスリット装置を用いることができる。プリプレグを一旦巻き取った後、改めてスリット装置に設置し、スリットを行っても良いし、効率化のため、プリプレグを一旦巻き取ることなくプリプレグ作製工程から連続してスリット工程を配置しても良い。また、スリット工程は1m以上の広幅プリプレグを直接、所望の幅にスリットしても良いし、一旦、30cm程度の細幅プリプレグにカット・小分けした後、これを改めて所望の幅にスリットしても良い。
【0095】
なお、上記の細幅プリプレグ、テーププリプレグを供給する複数の塗布部を並列させた場合には、それぞれ独立に離型シートを供給しても良いし、1枚の広幅離型シートを供給し、これに複数枚のプリプレグを積層させても良い。このようにして得られるプリプレグの幅方向の端部を切り落とし、ATLやAFPの装置に供給することができる。この場合には切り落とす端部の大部分が離型シートとなるため、スリットカッター刃に付着する熱可塑性樹脂を減じることができ、スリットカッター刃の清掃周期を延長できるというメリットもある。
【0096】
<本発明の変形態様(バリエーション)および応用態様>
本発明においては、塗布部を複数個用いて、更なる製造工程の効率化や高機能化を図ることができる。
【0097】
例えば、複数枚の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を積層させるように複数の塗布部を配置することができる。
図15には一例として、2つの塗布部を用いての熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の積層を行う態様の例を示している。第1の塗布部431と第2の塗布部432から引き出された2枚の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束471は第1の追含浸部433および第2の追含浸部434を通過し第1の賦形部435及び第2の賦形部436を通過し、第1の冷却固化部437および第2の冷却固化部438を通過し方向転換ロール445を経て、その下方の積層ロール447で積層される。なお、方向転換ロールは、離型処理の施された方向転換ガイド等で代用することも可能である。
図15では冷却工程通過後に熱可塑性
樹脂含浸シート状強化繊維束を積層しているが、追含浸工程前後で積層することも可能である。このような積層型の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束とすることで、プリプレグ積層の効率化を図ることができ、例えば厚ものFRPを作製する場合に有効である。また、薄ものプリプレグを多層積層することで、FRPの靱性や耐衝撃性が向上することが期待でき、本製造方法を適用することで、薄もの多層積層プリプレグを効率的に得ることができる。さらに、異なる種類のプリプレグ
を積層することで、機能性を付加したヘテロ結合プリプレグを容易に得ることができる。この場合、強化繊維の種類や繊度、フィラメント数、力学物性、繊維表面特性などを変更することが可能である。また、熱可塑性樹脂も異なるものを用いることが可能である。例えば、厚みの異なるプリプレグや力学物性が異なるものを積層したヘテロ結合プリプレグとすることができる。また、第1の塗布部で含浸性に優れる熱可塑性樹脂を付与し、第2の塗布部で靭性に優れる樹脂を付与し、これらを積層することで力学物性と靭性を両立できるプリプレグを容易に得ることができる。
【0098】
別の
態様としては、
図19で例示し前記したように、塗布部をシート状強化繊維束の走行方向に対し、複数個並列させる、すなわち複数個の塗布部をシート状強化繊維束の幅方向に並列させることができる。これにより、細幅やテープ状の熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の製造を効率化することができる。また、塗布部毎に、強化繊維や熱可塑性樹脂を変更すると幅方向に性質の異なる熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を得ることもできる。
【0099】
また、別の
態様としては、シート状強化繊維束の走行方向に対して塗布部を直列に複数個配置させることができる。
図20には一例として、2つの塗布部を直列に配置させた例を示している。
【0100】
このような直列型の配置とすることで、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の厚み方向に熱可塑性樹脂種類を変えることができる。また、同じ種類の熱可塑性樹脂であっても、塗布部によって塗布条件を変えることで、走行安定性や高速走行性などを向上することもできる。例えば、第1の塗布部で低粘度の熱可塑性樹脂を付与し、第2の塗布部で靭性に優れる樹脂を付与し、これらを積層することで力学物性と含浸性を両立できるプリプレグを容易に得ることができる。また、第1の塗布部で耐熱性の高い樹脂を付与し、第2の塗布部で第1の塗布部で塗布した熱可塑性樹脂よりも低い融点を有する熱可塑性樹脂を付与することで、表面に他種材料との接着層を有するプリプレグを容易に得ることもできる。
【0101】
以上のように、複数の塗布部を配置させる態様をいくつか示したが、塗布部の数に特に制限は無く、目的に応じ種々、適用することができる。また、これらの配置を複合させることももちろん可能である。更に、塗布部の各種サイズ・形状や塗布条件(温度など)も混合して用いることもできる。
【0102】
以上述べてきたように、本発明の製造方法は製造効率化・安定化のみならず、製品の高性能化・機能化も可能であり、拡張性にも優れた製造方法である。
【0103】
<熱可塑性樹脂供給機構>
本発明において塗布部20内に熱可塑性樹脂は貯留されているが、熱可塑性樹脂を塗布部に供給する機構には特に制限は無く、公知の装置を使用することができる。熱可塑性樹脂は連続的に塗布部20に供給することが、塗布部20の上部液面を乱さず、シート状強化繊維束1aの走行を安定化でき、好ましい。例えば、熱可塑性樹脂を貯留する槽から自重を駆動力として供給したり、ポンプなどを用いて連続的に供給したりすることができる。ポンプとしては、ギヤポンプやチューブポンプ、圧力ポンプなど熱可塑性樹脂の性質に応じ適宜使用することができる。また、連続押し出し機などを用いることもできる。また、熱可塑性樹脂の塗布部上部の液面がなるべく一定となるよう、塗布量に応じ連続供給できる機構を備えることが好ましい。このためには、例えば液面高さや塗布部重量などをモニタリングし、それを供給装置にフィードバックするような機構が考えられる。
【0104】
<オンラインモニタリング>
また、塗布量のモニタリングのために、塗布量をオンラインモニタリングできる機構を備えることが好ましい。オンラインモニタリング方法についても特に制限は無く、公知のものを使用可能である。例えば、厚みを計測する装置として、例えばベータ線計などを用いることができる。この場合は、シート状強化繊維束厚みと熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の厚みを計測し、その差分を解析することで塗布量を見積もることが可能である。オンラインモニタリングされた塗布量は、直ぐに塗布部にフィードバックされ、塗布部の温度や狭窄部23の隙間D(
図2参照)の調整に利用することができる。塗布量モニタリングは、もちろん欠点モニタリングとしても使用可能である。厚み計測位置としては、例えば
図16で言えば、方向転換ロール419近傍でシート状強化繊維束416の厚みを計測し、塗布部430から方向転換ロール441の間で熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の厚みを計測することができる。また、赤外線、近赤外線、カメラ(画像解析)などを用いたオンライン欠点モニタリングを行うことも好ましい。
【0105】
本発明の塗工装置は、強化繊維が一方向に配列されたシート状強化繊維束を実質的に鉛直方向下向きに走行させる走行機構と、塗布機構を有し、前記塗布機構はその内部に熱可塑性樹脂を貯留可能であり、さらに互いに連通された液溜り部と狭窄部を備えており、前記液溜り部は、シート状強化繊維束の走行方向に沿って断面積が連続的に減少する部分を有し、前記狭窄部は、スリット状の断面を有し、かつ液溜り部上面よりも小さい断面積を有するものである。
【0106】
以下では、熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束の一態様であるプリプレグの例に、当該塗工装置を用いたプリプレグの製造例を具体的に挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、以下は例示であり、本発明は以下に説明される態様に限定して解釈されるものではない。
【0107】
図16は本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の例の概略
横断面図である。複数個の強化繊維ボビン412はクリール411に掛けられ、方向転換ガイド413を経て、上方に引き出される。この時、クリールに付与されたブレーキ機構により一定張力で強化繊維束414を引き出すことができる。引き出された複数本の強化繊維束414は強化繊維配列装置415により整然と配列され、シート状強化繊維束416が形成される。なお、
図16では強化繊維束は3糸条しか描画されていないが、実際には、2糸条~数百糸条とすることができ、所望のプリプレグ幅、繊維目付けとするよう調整可能である。
シート状強化繊維束416はその後、拡幅装置417、平滑化装置418を経て、方向転換ロール419を経て、鉛直下向きに搬送される。
図16では、強化繊維配列装置415~方向転換ロール419までシート状強化繊維束416は装置間を直線状に搬送される。なお、拡幅装置417、平滑化装置418は、目的に応じ、適宜スキップすることもできるし、装置を配置しないこともできる。また、強化繊維配列装置415、拡幅装置417、平滑化装置418の配列順序は目的に応じ適宜変更することもできる。シート状強化繊維束416は方向転換ロール419から鉛直下向きに走行し、強化繊維予熱装置420、塗布部430、追含浸部433、賦形部435および冷却部437を経て方向転換ロール441に到達する。塗布部430は本発明の目的を達成する範囲で任意の塗布部形状を採用することができる。例えば、
図2、
図6~
図9のような形状が挙げられる。また、必要に応じ
図5のようにブッシュを備えることもできる。これを引取装置444で引き取り、巻取装置464で巻き取ることで熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束を得ることができる。なお、
図12では、熱可塑性樹脂供給装置、オンラインモニタリング装置の描画は省略してある。
【0108】
図17は本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略
横断面図である。
図17では、クリール411から強化繊維束414を引き出し、そのまま強化繊維配列装置415でシート状強化繊維束416を形成し、その後、拡幅装置417、平滑化装置418まで直線状に搬送され、その後、シート状強化繊維束416を上方に導く点が
図16とは異なる。このような構成とすることで、上方に装置を設置することが不要となり、足場などの設置を大幅に簡略化することができる。
【0109】
図18は本発明を用いたプリプレグの製造工程・装置の別の例の概略
横断面図である。
図18では、階上にクリール411を設置し、シート状強化繊維束416の走行経路を更に直線化している。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の製造方法で得られる熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束は、CFRPに代表されるFRPとして、航空・宇宙用途や自動車・列車・船舶などの構造材や内装材、圧力容器、産業資材用途、スポーツ材料用途、医療機器用途、筐体用途、土木・建築用途など広く適用することができる。
【符号の説明】
【0111】
1 強化繊維
1a シート状強化繊維束
1b 熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束
2 熱可塑性樹脂
11 クリール
12 配列装置
13、14 搬送ロール
15 巻取り装置
20 塗布部
20b 別の実施形態の塗布部
20c 別の実施形態の塗布部
20d 別の実施形態の塗布部
20e 別の実施形態の塗布部
21a、21b 壁面部材
21c、21d 別の形状の壁面部材
21e、21f 別の形状の壁面部材
21g、21h 別の形状の壁面部材
21i、21j 別の形状の壁面部材
22 液溜り部
22a 液溜り部のうち断面積が連続的に減少する領域
22b 液溜り部のうち断面積が減少しない領域
22c 液溜り部のうち断面積が断続的に減少する領域
23 狭窄部
24a、24b 側板部材
25 出口
26 隙間
27a、27b 幅規制機構
30 比較例1の塗布部
31a、31b 比較例1の壁面部材
32 比較例1の液溜り部
33 比較例1の液溜り部のうち断面積が断続的に減少する領域
40 追含浸部
41 含浸バー
42 含浸ロール
43 含浸ベルト
44a、44b、44c ベルト駆動ロール
45a、45b プレス
50 賦形部
60 冷却固化部
100 塗工装置
B 液溜り部22の奥行き
C 液溜り部22の上部液面までの高さ
D 狭窄部の隙間
F 狭窄部で作用するせん断力
G 幅規制を行う位置
H 液溜り部22の断面積が連続的に減少する鉛直方向高さ
L 液溜り部22の幅
M 液溜まり部の容積
N 熱可塑樹脂の供給量
Q 滞留時間
R、Ra、Rb 渦流れ
T 循環流
U 引取速度
X 狭窄部の長さ
W 狭窄部23の直下で測定した熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束1bの幅
Y 狭窄部23の幅
Z シート状強化繊維束1aの走行方向(鉛直方向下向き)
η 樹脂粘度
δ 繊維間距離
θ テーパー部の開き角度
411 クリール
412 強化繊維ボビン
413 方向転換ガイド
414 強化繊維束
415 強化繊維配列装置
416 シート状強化繊維束
417 拡幅装置
418 平滑化装置
419 方向転換ロール
420 強化繊維予熱装置
430 塗布部
431 第1の塗布部
432 第2の塗布部
433 第1の追含浸部
434 第2の追含浸部
435 第1の賦形部
436 第2の賦形部
437 第1の冷却固化部
438 第2の冷却固化部
441 方向転換ロール
444 引取装置
445 方向転換ロール
447 積層ロール
464 巻取装置
471 プリプレグ(熱可塑性樹脂含浸シート状強化繊維束)