(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】電動車両の温調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20230714BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20230714BHJP
F16H 57/04 20100101ALI20230714BHJP
B60L 58/26 20190101ALI20230714BHJP
B60H 1/00 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
B60H1/22 671
B60L3/00 H
F16H57/04 G
B60L58/26
B60H1/00 101Z
(21)【出願番号】P 2019092167
(22)【出願日】2019-05-15
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 豊
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-119356(JP,A)
【文献】特開2011-027246(JP,A)
【文献】特開2004-224109(JP,A)
【文献】特開2017-171247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
B60L 3/00
F16H 57/04
B60L 58/26
B60H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行モータの動力を伝動機構を介して駆動輪に伝達する電動車両に搭載される電動車両の温調装置であって、
ラジエータを含み、前記伝動機構と熱交換可能な冷却液が流れる冷却液回路と、
前記ラジエータの後方に隣接する室外熱交換器を含み、乗員室を冷房可能な冷媒回路と、
前記ラジエータ及び前記室外熱交換器に空気を流すファンと、
前記冷却液回路、前記冷媒回路及び前記ファンを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記電動車両の始動時に、
乗員室の冷房要求が行われていない状態でも、前記電動車両の予め定められた箇所で計測された温度が第1条件を満たす場合に、前記冷却液回路及び前記冷媒回路を駆動し、かつ、前記ファンを逆回転に駆動して前記ファンから前方に空気を送ることを特徴とする電動車両の温調装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記電動車両の車速が車速閾値以上となったら、前記ファンの逆回転の駆動を停止することを特徴とする請求項1記載の電動車両の温調装置。
【請求項3】
前記電動車両の予め定められた箇所で計測された温度には、外気温、前記伝動機構の潤滑油の温度、又は、これら両方が含まれることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動車両の温調装置。
【請求項4】
ヒータと、前記ヒータの熱を前記冷媒回路の冷媒へ移す第1熱交換器と、を更に備え、
前記制御部は、前記電動車両の始動時に前記温度が前記第1条件よりも低い第2条件を満たす場合に、更に前記ヒータを駆動することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動車両の温調装置。
【請求項5】
前記冷却液回路は、前記走行モータを駆動するインバータ回路、走行用の電力を蓄積するバッテリから電圧を受けて他の電圧を生成するDC/DCコンバータ、並びに、前記バッテリへ充電電力を送る車載充電器のいずれか一つ又は複数と熱交換可能に冷却液を流すことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電動車両の温調装置。
【請求項6】
前記冷媒回路は、走行用の電力を蓄積するバッテリの熱を冷媒へ移すことが可能な第2熱交換器を更に含むことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電動車両の温調装置。
【請求項7】
前記冷媒回路は、前記室外熱交換器と
前記第1熱交換器との間に配置された電子膨張弁を更に含むことを特徴とする請求項
4記載の電動車両の温調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行モータの動力を伝動機構を介して駆動輪に伝達する電動車両に搭載される電動車両の温調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
EV(Electric Vehicle))、HEV(Hybrid Electric Vehicle)などの電動車両においても、走行モータの動力を駆動輪に伝達する伝動機構が設けられる。伝動機構は、例えばトランスミッション及びデファレンシャルギヤなどであり、その内部には機構をスムースに動かす潤滑油が含まれる。低温での電動車両の始動時には、潤滑油の粘性抵抗が大きく、伝動機構の損失が大きくなる。
【0003】
特許文献1には、内燃機関を搭載しない電気自動車において、変速機に用いられる潤滑油を走行モータの排熱を利用して温める技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動車両の始動時、走行モータの駆動により走行を開始する場合、内燃機関を駆動する場合と比較して、大きな排熱が得られない。したがって、排熱を用いたのでは、伝動機構の潤滑油を速やかに温めることはできず、潤滑油の粘性抵抗が高いまま走行が開始されることになる。この場合、粘性抵抗により走行損失が増加し、電動車両の航続距離が減る。一方、電動車両では、電動ヒータを用いて潤滑油を温める構成を採用できる。しかし、闇雲にバッテリの電力を用いて暖機を行うと、バッテリの電力が減る分、電動車両の航続距離が減るという課題が生じる。
【0006】
本発明は、始動時に伝動機構の潤滑油を適切に加熱でき、電動車両の航続距離を延ばすことのできる電動車両の温調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、
走行モータの動力を伝動機構を介して駆動輪に伝達する電動車両に搭載される電動車両の温調装置であって、
ラジエータを含み、前記伝動機構と熱交換可能な冷却液が流れる冷却液回路と、
前記ラジエータの後方に隣接する室外熱交換器を含み、乗員室を冷房可能な冷媒回路と、
前記ラジエータ及び前記室外熱交換器に空気を流すファンと、
前記冷却液回路、前記冷媒回路及び前記ファンを制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記電動車両の始動時に、乗員室の冷房要求が行われていない状態でも、前記電動車両の予め定められた箇所で計測された温度が第1条件を満たす場合に、前記冷却液回路及び前記冷媒回路を駆動し、かつ、前記ファンを逆回転に駆動して前記ファンから前方に空気を送ることを特徴とする電動車両の温調装置である。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の電動車両の温調装置において、
前記制御部は、前記電動車両の車速が車速閾値以上となったら、前記ファンの逆回転の駆動を停止することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の電動車両の温調装置において、
前記電動車両の予め定められた箇所で計測された温度には、外気温、前記伝動機構の潤滑油の温度、又は、これら両方が含まれることを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動車両の温調装置において、
ヒータと、前記ヒータの熱を前記冷媒回路の冷媒へ移す第1熱交換器と、を更に備え、
前記制御部は、前記電動車両の始動時に前記温度が前記第1条件よりも低い第2条件を満たす場合に、更に前記ヒータを駆動することを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電動車両の温調装置において、
前記冷却液回路は、前記走行モータを駆動するインバータ回路、走行用の電力を蓄積するバッテリから電圧を受けて他の電圧を生成するDC/DCコンバータ、並びに、前記バッテリへ充電電力を送る車載充電器のいずれか一つ又は複数と熱交換可能に冷却液を流すことを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電動車両の温調装置において、
前記冷媒回路は、走行用の電力を蓄積するバッテリの熱を冷媒へ移すことが可能な第2熱交換器を更に含むことを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項4記載の電動車両の温調装置において、
前記冷媒回路は、前記室外熱交換器と前記第1熱交換器との間に配置された電子膨張弁を更に含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電動車両の始動時に、制御部が、温度条件に基づいて、冷却液回路及び冷媒回路を駆動し、かつファンを逆回転に駆動する。これにより、暖機をした方が航続距離を延ばせるような温度条件のときに、冷媒回路のヒートポンプ作用による排出熱を冷却液へ移し、伝動機構を暖機できる。暖機により、潤滑油の粘性抵抗が低下し、伝動機構の走行損失を低減できる。さらに、冷媒回路のヒートポンプ作用により室外熱交換器からは冷媒回路の駆動電力以上の熱量が得られるので、高い効率で伝動機構を暖機できる。したがって、駆動系の排熱又は自己発熱で暖機される場合と比較して、少ない電力で伝動機構の走行損失が低減され、その結果、総合的な電動車両の航続距離を延ばすことができる。また、室外熱交換器がラジエータの後方に隣接する構成により、通常走行時の駆動系の冷却作用を阻害することなく、かつ、新たな部品の追加を抑制しつつ、ファンの逆回転駆動により室外熱交換器からラジエータへの暖機時の熱の移動を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態の電動車両の温調装置を示すブロック図である。
【
図2】伝動機構の潤滑油の温度と粘性抵抗との関係を示すグラフである。
【
図3】ファンの駆動量と車速と風速との関係を示すグラフである。
【
図4】ファンの制御パラメータと回転速度との関係を示すグラフである。
【
図5】制御部が実行する電動車両の始動時処理を示すフローチャートである。
【
図6】ファンを制御する第1制御マップ(A)及び第2制御マップ(B)を示すグラフである。
【
図7】実施形態と比較例1、2との差を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態の電動車両の温調装置を示すブロック図である。
【0017】
本実施形態の温調装置1が搭載される電動車両は、走行モータ(リアモータ2及びフロントモータ3)及びバッテリ11を有する一方、内燃機関を有さないEVである。なお、電動車両は、内燃機関を有し、始動時に内燃機関を使用しないHEV等であってもよい。電動車両は、走行モータ及び走行用の電力(走行モータを駆動する電力)を蓄積するバッテリ11に加えて、走行モータを駆動するインバータ回路(リアインバータ5、フロントインバータ6)と、走行モータの動力を駆動輪に伝達する伝動機構7、8とを備える。伝動機構7は、リアモータ2から駆動輪(後輪)までの動力伝達経路に設けられるトランスミッション、及び、ディファレンシャルギヤなどを含む。伝動機構8は、フロントモータ3から駆動輪(前輪)までの動力伝達経路に設けられるトランスミッション、及び、ディファレンシャルギヤなどを含む。さらに、電動車両は、バッテリ11の電力を用いて他の電源電圧(例えば12V)を生成するDC/DCコンバータ13と、例えば車外から電力を取り込んでバッテリ11へ充電電力を送る車載充電器14と、温調装置1とを備える。
【0018】
温調装置1は、駆動系の温調を行う冷却液回路CL1と、バッテリ11の温調を行う冷却液回路CL2と、乗員室の温調を行う冷却液回路CL3と、乗員室の冷房及び除湿が可能な冷媒回路CL4とを備える。さらに、温調装置1は、冷媒回路CL4の室外熱交換器54と冷却液回路CL1のラジエータ21とに送風可能なファン71と、各部を制御する制御部80とを備える。
【0019】
冷却液回路CL1は、駆動系の構成(リアモータ2、フロントモータ3、リアインバータ5、フロントインバータ6、DC/DCコンバータ13、車載充電器14及び伝動機構7、8)と、冷却液との間で熱交換可能に冷却液を流す液通路L1、L2を備える。さらに、冷却液回路CL1は、周囲空気と冷却液との間で熱を交換するラジエータ21と、冷却液を圧送するポンプ22と、冷却液の体積の増減を緩衝するタンク23とを有する。ラジエータ21は、電動車両の前部に配置される。電動車両の通常の走行時、ポンプ22が駆動することで、液通路L1、L2とラジエータ21との間を冷却液が循環し、駆動系の構成の熱を空気中に排出し、駆動系の構成を冷却することができる。ポンプ22の駆動は、電動の構成であっても、車輪を回転する動力の一部が伝達されることで駆動される構成であってもよい。
【0020】
冷却液回路CL2は、バッテリ11の周囲に熱交換可能に冷却液を流す液通路L3と、ポンプ31と、冷却液と冷媒との間で熱を交換する熱交換器32Aと、冷却液の通路を切り替え可能な制御弁(三方弁等)34、35と、を備える。冷却液回路CL2によれば、例えばバッテリ11の発熱時にポンプ31が駆動されることで、液通路L3と熱交換器32Aとの間で冷却液が循環し、冷却液から冷媒へ熱が送られることで、バッテリ11を冷却することができる。
【0021】
冷却液回路CL3は、電動で発熱するヒータ41と、ポンプ42と、乗員室に空気を送る風路49内の空気へ冷却液の熱を移すヒータコア43と、冷却液と冷媒との間で熱を交換する熱交換器44Aと、冷却液の通路を切り替える制御弁(三方弁等)46と、冷却液回路CL2との間で、冷却液を循環させる介在通路L5、L6とを備える。乗員室の暖房時など、ヒータ41とポンプ42とが駆動され、ヒータ41、ヒータコア43及び熱交換器44Aに冷却液が循環することで、ヒータ41の熱で風路49内の空気を暖めたり、冷媒の熱で風路49内の空気を暖めたりするこができる。また、冷却液の温度を上げることで、ヒータ41の熱を冷媒回路CL4の冷媒へ送ることもできる。
【0022】
さらに、冷却液回路CL2及び冷却液回路CL3においては、制御弁46、34、35の切替えにより、介在通路L5、L6に冷却液を流すことで、ヒータ41、ヒータコア43及び熱交換器44A及びバッテリ11の液通路L3の間で冷却液を循環できる。これにより、ヒータ41を駆動しなくても、バッテリ11が温まっている場合には、バッテリ11の熱で風路49内の空気を温め、かつ、バッテリ11の熱を冷媒回路CL4の冷媒へ送ることもできる。
【0023】
冷媒回路CL4は、コンプレッサ51、ヒータコア43に流れる冷却液と熱を交換する熱交換器44B、電子膨張弁53、室外熱交換器54、制御弁(開閉弁)55、電子膨張弁57、エバポレータ58、制御弁(開閉弁)56、電子膨張弁59、バッテリ11の液通路L3に流れる冷却液と熱を交換する熱交換器32B及びアキュムレータ61を備える。
【0024】
コンプレッサ51は、低温低圧の気相の冷媒を高温高圧の気相の冷媒に圧縮する。コンプレッサ51は、バッテリ11の電力で駆動できる電動機器であるが、走行モータ(2、3)の動力の一部を用いて駆動される構成としてもよい。
【0025】
熱交換器44Bは、熱交換器44Aと一体化され、高温高圧の気相の冷媒と、ヒータコア43を通る高温の冷却液との間で熱を交換する。冷媒が通る熱交換器44Bは、熱を排出するコンデンサの機能と高温高圧の気相の冷媒をさらに加熱する機能とに切り替え可能である。これらの機能は、熱交換器44Aに通す冷却液の温度及び冷却液の流量とにより切り替えられる。熱交換器44A、44Bは、本発明に係る第1熱交換器の一例に相当する。
【0026】
室外熱交換器54は、電動車両の前部において、ラジエータ21の後方に隣接して配置される。室外熱交換器54は、コンデンサ又はエバポレータとして機能する。これらの機能は室外熱交換器54へ送られる冷媒の温度及び圧力により切り替えられる。電子膨張弁53は、室外熱交換器54の上流に配置され、液相の冷媒が通過する場合に、霧状に膨張させる冷媒量を調整し、室外熱交換器54へ送る。これにより、室外熱交換器54において液相から気相へ遷移する冷媒量を調整できる。前段の熱交換器44Bで冷媒が冷却されない場合には、室外熱交換器54は、コンデンサとして機能し、高温高圧の冷媒から熱を周囲空気に排出する。
【0027】
制御弁55、56は、制御部80により開閉制御され、冷媒が流れる通路を、風路49内のエバポレータ58に導く冷媒通路L11と、バッテリ温調用の冷媒通路L12と、これらを介さない冷媒通路とのいずれかに切り替える。
【0028】
エバポレータ58は、乗員室に空気を送る風路49内の空気を冷却する。電子膨張弁57は冷媒の圧力を調整し、エバポレータ58に霧状に膨張させた低温低圧の液相の冷媒を送る。エバポレータ58において、空気から冷媒へ熱が移ることで、低温低圧の液相の冷媒が低温低圧の気相の冷媒に遷移する。アキュムレータ61は、コンプレッサ51の上流で冷媒を貯留し、気相の冷媒をコンプレッサに供給する。
【0029】
熱交換器32Bは、熱交換器32Aと一体化され、低温低圧の冷媒とバッテリ11の液通路L3を通る冷却液との間で熱を交換する。冷媒が通る熱交換器32Bは、冷却液を冷やすエバポレータとして機能する。電子膨張弁59は、冷媒の圧力を調整し、熱交換器32Bに霧状に膨張させた冷媒を送る。熱交換器32Bにおいて、冷却液から冷媒へ熱が移ることで、低温低圧の液相の冷媒が低温低圧の気相の冷媒に遷移する。熱交換器32A、32Bは、本発明に係る第2熱交換器の一例に相当する。
【0030】
冷媒回路CL4において、制御弁55を閉、制御弁56を開とすることで、冷媒をコンプレッサ51、熱交換器44B、室外熱交換器54及びアキュムレータ61の順で循環させることができる。この場合、電子膨張弁53の調整により、熱交換器44Bがコンデンサ、室外熱交換器54がエバポレータとして機能し、外気から熱を取り込んで、冷却液回路CL2、CL3の冷却液を加熱することができる。
【0031】
冷媒回路CL4において、制御弁55を開、制御弁56を閉とすることで、冷媒を冷媒通路L11へ流すことができる。この場合、電子膨張弁53、57の調整により、室外熱交換器54がコンデンサとして機能し、エバポレータ58を介して乗員室に送られる空気から熱を取り込んで、室外熱交換器54から熱を排出することができる。これにより乗員室の冷房又は除湿を実現できる。
【0032】
冷媒回路CL4において、制御弁55を閉、制御弁56を閉とすることで、冷媒を冷媒通路L12へ流すことができる。この場合、電子膨張弁53、59の調整により、室外熱交換器54がコンデンサ、熱交換器32Bがエバポレータとして機能し、熱交換器32Bを介して冷却液回路CL2の冷却液から熱を取り込み、室外熱交換器54から熱を排出することができる。室外熱交換器54から熱を排出しているときに、室外熱交換器54からラジエータ21の方へ空気が送られることで、ラジエータ21を介して冷却液回路CL1の冷却液を加熱することができる。
【0033】
制御部80は、冷却液回路CL1~CL3及び冷媒回路CL4の各駆動制御、冷媒の経路及び冷却液の経路を選択する制御、電子膨張弁53、57、59の調整制御、並びに、ファン71の駆動制御を行う。制御部80は、1つのECU(Electronic Control Unit)から構成されてもよいし、通信により連携して動作する複数のECUから構成されてもよい。
【0034】
図2は、伝動機構の潤滑油の温度と粘性抵抗との関係を示すグラフである。伝動機構7、8の潤滑油は、温度が低くなると粘性抵抗が増加する。このため、潤滑油の温度には、小さい損失で通常の運転を行うことのできる標準温度η(例えば50℃)と、ヒートポンプを利用して加熱することで走行損失を減らして総合的な航続距離を延ばすことのできる温度閾値β(例えば25℃)と、ヒータ41を利用して加熱しても走行損失を減らして総合的な航続距離を延ばすことのできる温度閾値δ(例えば15℃)とを設定できる。
【0035】
図3は、ファンの駆動量、車速及び風速の関係を示すグラフである。
図4は、ファンの制御パラメータと回転速度との関係を示すグラフである。
【0036】
ファン71は、例えばPWM(Pulse Width Modulation)制御により回転速度可変に駆動される。回転速度及び回転方向は、制御パラメータ(例えばPWMパルスのデューティ)により制御できる。
【0037】
電動車両が停止し、風もないとき、ファン71を正回転に駆動することでラジエータ21から室外熱交換器54の向きに回転速度に応じて送風速度を変えて空気を流すことができる。逆に、ファン71を逆回転に駆動することで室外熱交換器54からラジエータ21の向きに(前方に)回転速度に応じて送風速度を変えて空気を流すことができる。逆回転の駆動による送風は、電動車両の走行に対して押し風となり、電動車両の走行時に走行抵抗を与える。
【0038】
図3に示すように、電動車両が走行すると、走行風(周囲の空気が電動車両の走行により相対的に流れる風)の影響で、ラジエータ21及び室外熱交換器54に流れる空気の送風速度が変化する。走行風は、ファン71の逆回転の駆動に対抗する向きに流れるので、或る車速において走行風と逆回転駆動されたファン71の送風とが均衡する。均衡とは、ラジエータ21及び室外熱交換器54に空気が流れない状態を意味する。
図3に示すように、例えば、ファン71を50%の回転速度で逆回転した場合、車速aのときにラジエータ21及び室外熱交換器54に流れる空気の送風速度がゼロとなり、ファン71を100%の回転速度で逆回転した場合、車速bのときにラジエータ21及び室外熱交換器54に流れる空気の送風速度がゼロになる。
【0039】
さらに、電動車両の停止中に外気の流れ(風)がある場合には、この外気の流れも走行風と同様にラジエータ21及び室外熱交換器54に流れる空気の送風速度に影響する。
【0040】
<始動時処理>
図5は、制御部が実行する電動車両の始動時処理を示すフローチャートである。
【0041】
電動車両の始動時、伝動機構7、8が冷えていると、潤滑油の粘性抵抗により走行損失が生じ、暖機されている場合と比較して、電動車両の航続距離が減る。一方、潤滑油を闇雲に加熱したのでは、加熱に使用した電力により、走行に使用できる電力量が減り、電動車両の航続距離が減る。温調装置1の制御部80は、続いて説明する始動処理によって、走行損失の低減による航続距離の増加分と暖機の電力消費による航続距離の減少分とを合わせた総合的な航続距離が長くなるように、所定の条件を満たしている場合に、条件に適した暖機処理を行う。
【0042】
始動処理は、電動車両のシステム起動時、あるいは、システム起動後の走行開始に伴って開始される。始動処理が開始されると、先ず、制御部80は、温調装置1の制御パラメータを初期化する(ステップS1)。制御パラメータのうち、駆動系暖気フラグは、通常暖機モードにより総合的な航続距離を延ばすことのできる温度状態か否かを示す制御フラグである。極低温フラグは、緊急暖機モードにより総合的な航続距離を延ばすことのできる温度状態か否かを示す制御フラグである。冷媒回路動作要求フラグは、暖機用に冷媒回路CL4を駆動するか否かを示す制御フラグである。ヒータ動作要求フラグは、暖機用にヒータ41の駆動を併用するか否かを示す制御フラグである。
【0043】
次に、制御部80は、各センサにより計測された現在の電動車両の車速、外気温、伝動機構7、8の潤滑油の温度、冷媒の温度、並びに、外気風速を示すデータを、随時、取り込み、随時、値が更新されるようにデータ変数を設定する入力設定処理を行う(ステップS2)。以下のステップにおいて、制御部80は、このデータ変数を使用することで、その時点で最新の車速、外気温、潤滑油の温度、冷媒の温度及び外気風速の値を得ることができる。冷媒の温度は、例えば室外熱交換器54の前段部における温度が採用されるが、他の部位の温度が採用されてもよい。
【0044】
初期化及び入力設定処理が完了したら、まず、制御部80は、電動車両の予め定められた箇所の温度が第1条件を満たすか否かを判定する(ステップS3)。第1条件とは、冷媒回路CL4の駆動により総合的な航続距離を延ばすことのできる温度条件を意味する。具体的には、ステップS3において、制御部80は、外気温が第1外気温閾値α[℃]よりも低いか、あるいは、潤滑油の温度が第1潤滑油温閾値β[℃]よりも低いか判別する(ステップS3)。なお、第1条件は、上記の例に限られない。第1条件としては、電動車両の様々な箇所の温度パラメータを用いて、冷媒回路CL4の駆動による伝動機構7、8の暖機によって総合的な航続距離を延ばすことのできる温度条件が適宜設定されればよい。
【0045】
ステップS3の判別の結果、第1条件を満たす場合(ステップS3のYES)には、制御部80は、駆動系暖機フラグの値を“1”にセットし、冷媒回路動作要求フラグの値を“1”にセットする(ステップS4、S5)。そして、これらのフラグに基づき、制御部80は、通常暖機モードへ移行し、冷媒回路CL4を駆動する。
【0046】
通常暖機モードにおいては、暖機用途でのヒータ41の駆動を行わず(乗員室の暖房要求に基づきヒータ41が駆動されてもよい)、室外熱交換器54をコンデンサとし、エバポレータ58又は熱交換器32Bをエバポレータとして、ヒートポンプ動作が行われるように冷媒回路CL4が駆動される。ここで、電動車両の始動時の直前までバッテリ11が充電され、バッテリ11の温度が上昇している場合には、制御部80は、冷媒通路L12に冷媒を流しかつ冷却液回路CL2に冷却液を流し、バッテリ11の熱を熱交換器32A、32Bを介して冷媒に移すようにしてもよい。通常暖機モードによる、冷媒回路CL4の駆動により、コンプレッサ51の駆動電力、その他、電子膨張弁53、57、59の電力などの制御用の電力が消費されるが、これらの電力以上の熱を室外熱交換器54から排出することができる。
【0047】
さらに、温調装置1の制御部80は、電動車両のシステム動作中、常時、ポンプ22を駆動する。これにより、冷却液回路CL1に冷却液が流れ、冷却液の温度よりもラジエータ21の周囲温度が低ければ、ラジエータ21を介して冷却液から熱が排出される。逆に、冷却液の温度よりもラジエータ21の周囲温度が高ければ、ラジエータ21を介して冷却液を加熱することができる。通常暖機モードにおいては、室外熱交換器54の排熱がラジエータ21に送られることで、冷媒回路CL4のヒートポンプ作用により得られた排出熱で、冷却液回路CL1の冷却液を加熱して、伝動機構7、8を暖機することができる。
【0048】
一方、ステップS3の判別の結果、第1条件を満たしていなければ、制御部80は、駆動系暖機フラグの値を“0”にセットし、冷媒回路動作要求フラグの値を“0”にセットする(ステップS6、S7)。そして、これらのフラグに基づき、制御部80は、非暖機モードへ移行し、暖機用途において冷媒回路CL4を非駆動とする(乗員室の冷房要求がある場合など、他用途の要求に基づき冷媒回路CL4が駆動されてもよい)。
【0049】
ステップS3の判別処理の結果、通常暖機モードへ移行したら、制御部80は、処理を次のステップS8に進める。一方、ステップS3の判別処理の結果、非暖機モードとなったら、制御部80は、処理をステップS3に戻し、ステップS3からの処理を繰り返す。
【0050】
通常暖機モードへ移行し、次に処理が進むと、制御部80は、電動車両の予め定められた箇所の温度が第2条件を満たすか否か判別する(ステップS8)。第2条件とは、冷媒回路CL4の駆動とヒータ41の駆動とを併用して暖機を行うことで、総合的な航続距離を延ばすことのできる温度条件を意味する。第2条件は、ステップS3の第1条件よりも、低い温度条件に設定される。具体的には、ステップS8において、制御部80は、外気温が第2外気温閾値γ[℃]よりも低いか、あるいは、潤滑油の温度が第2潤滑油温閾値δ[℃]よりも低いか判別する。第2外気温閾値γは第1外気温閾値αよりも低い値に設定され、第2潤滑油温閾値δは第1潤滑油温閾値βよりも低い値に設定される。なお、第2条件は、上記の例に限られない。第2条件としては、電動車両の様々な箇所の温度パラメータを用いて、冷媒回路CL4の駆動とヒータ41の駆動との併用により総合的な航続距離を延ばすことのできる温度条件が適宜設定されればよい。
【0051】
ステップS8の判別の結果、第2条件を満たす場合(ステップS8のYES)には、制御部80は、極低温フラグの値を“1”にセットし、ヒータ動作要求フラグの値を“1”にセットする(ステップS9、S10)。そして、これらのフラグに基づき、制御部80は、緊急暖機モードへ移行し、ヒータ41及び冷却液回路CL3(ポンプ42)を駆動する。
【0052】
緊急暖機モードでは、ヒータ41の駆動により、冷却液回路CL3の加熱された冷却液から、熱交換器44A、44Bを介して冷媒回路CL4の冷媒へ熱が移され、室外熱交換器54における冷媒回路CL4の排熱量が上昇する。したがって、緊急暖機モードにおいて室外熱交換器54の排熱がラジエータ21に送られると、冷媒回路CL4のヒートポンプ作用により得られた排出熱と、ヒータ41から伝えられた熱とが、冷却液回路CL1の冷却液へ移され、伝動機構7、8をより暖機することができる。
【0053】
一方、ステップS8の判別の結果、第2条件を満たしていなければ、制御部80は、極低温フラグの値を“0”にセットし、ヒータ動作要求フラグの値を“0”にセットする(ステップS11、S12)。そして、これらのフラグに基づき、制御部80は、通常暖機モードを維持し、暖機用途においてヒータ41を非駆動とする(乗員室の暖房要求がある場合など、他用途の要求に基づきヒータ41が駆動されてもよい)。
【0054】
ステップS10又はステップS12の処理を実行すると、次に、制御部80は、電動車両の予め定められた箇所の温度が始動処理の終了条件を満たすか否かを判別する(ステップS13)。終了条件は、例えば、伝動機構7、8の走行抵抗が解消されたことを示す温度条件が設定され、より具体的には、潤滑油の温度が標準温度η[℃]以上となる温度条件が設定される。終了条件としては、暖機による走行損失の低減分よりも暖機のための電力消費が大きくなることを示す温度条件が設定されてもよい。ステップS3~S17のループ処理の途中、あるいは、ステップS13、S15のループ処理の途中、制御部80は、ステップS13で終了条件を満たしたか否かを判定する。
【0055】
ステップS13の判別の結果、終了条件を満たさなければ、制御部80は、ファン71の逆回転駆動の実行条件を満たしているかい否かを判別する(ステップS15)。具体的には、逆回転駆動の実行条件として、制御部80は、冷媒温度が閾値温度εより高く、かつ、車速が車速閾値(例えば15km/h)よりも高いか否かを判別する。閾値温度εは、例えば暖機可能な冷媒の温度範囲の下限値に設定されればよい。車速閾値(例えば15km/h)は、例えば走行モータ(リアモータ2、フロントモータ3)及びインバータ(リアインバータ5、フロントインバータ6)の排熱が伝動機構7、8を十分に暖機できる量に達しない範囲で、かつ、ファン71の逆回転駆動により室外熱交換器54からラジエータ21の方へ空気を送ることのできる車速の範囲内に設定されればよい。さらに、車速閾値(例えば15km)は、ファン71の逆回転駆動による走行抵抗が大きくならない範囲内に設定されてもよい。
【0056】
ファン71の逆回転駆動の実行条件を満たす場合、ファン71を逆回転駆動することで、冷媒回路CL4の排出熱をラジエータ21へ移して伝動機構7、8を暖機できる。一方、逆回転駆動の実行条件を満たさない場合、例えば冷媒温度が低い場合には、室外熱交換器54からラジエータ21へ大きな排出熱を移すことができず、また、車速が車速閾値を越えている場合、ファン71の逆回転駆動が走行抵抗となって、走行時の損失が増える。さらに、車速が車速閾値を越えていれば、冷媒回路CL4の排出熱を使用しなくても、走行モータ及びインバータ回路等の排熱により伝動機構7、8を十分に暖機できる。このため、ステップS15の条件を満たしていれば、ファン71の逆回転駆動を実行に移し、満たしていなければ、ファン71の逆回転駆動を非実行とする。
【0057】
なお、逆回転駆動の実行条件は、ステップS15の具体例に限られない。例えば、逆回転駆動の実行条件としては、外気風速の条件が追加され、ファン71で発生する送風速度及び風量と、車速及び外気風の速度により生じる送風速度及び風量とを比較して、暖機の効率が低くなる場合には、逆回転駆動を非実行とし、高い効率の暖機が得られる場合には、逆回転駆動を実行とする条件に設定されてもよい。
【0058】
逆回転駆動の実行条件が満たされず、ステップS15の判別の結果がNOとなった場合、制御部80は、ファン71の逆回転駆動を非実行としたまま、処理をステップS13に戻す。そして、制御部80は、ステップS13の終了条件を満たすか、ステップS15の逆回転駆動の実行条件を満たすまで、ステップS13、S15の判別処理を繰り返す。ここで、仮に、電動車両の車速が車速閾値(15km/h)を越えた状態で時間が経過すると、走行モータ及びインバータの排熱で伝動機構7、8の潤滑油の温度が標準温度η[℃]を越えるので、ステップS13の終了条件が満たされ、制御部80は、処理をステップS14へ進める。一方、仮に、低温状態で電動車両を始動した際、電動車両が停止したままあるいは低速で走行している場合には、冷媒回路CL4の駆動により比較的速やかに冷媒温度が閾値温度εを越えるので、ステップS15の判別結果がYESとなって、制御部80は、処理をステップS16へ進める。
【0059】
逆回転駆動の実行条件が満たされて、ステップS15の判別の結果がYESとなった場合、制御部80は、外気風速がゼロ以上か否かを判別する(ステップS16)。ここで、外気風速は、正の値が追い風、負の値が向かい風を表わす。外気風速は、車速分の風の流れをキャンセルした値、すなわち、電動車両が停止時の外気風速を示す。追い風であれば、ファン71の回転速度を低くしても、室外熱交換器54からラジエータ21の方へ大きな風量を送ることができる。一方、向かい風であれば、ファン71の回転速度を高くしないと、室外熱交換器54からラジエータ21の方へ大きな風量を送ることができない。このため、ステップS16で、外気風速を判別している。
【0060】
図6は、ファンを制御する第1制御マップ(A)及び第2制御マップ(B)を示すグラフである。
【0061】
ステップS16の判別の結果、外気風速が0以上(追い風)であれば、制御部80は、
図6(A)の第1制御マップを使用してファン71を逆回転駆動するよう回転指示を出力する(ステップS17)。第1制御マップは、車速とファンの制御パラメータとの関係を示すマップデータであり、例えば、
図6(A)に示すように、車速がゼロのときに、制御パラメータ“0”(=回転速度100%の逆回転駆動)となり、車速が逆回転駆動の限界となる車速閾値(15km/h)のときに、制御パラメータ“50”(=回転速度ゼロ)となる制御マップである。
【0062】
一方、ステップS16の判別の結果、外気風速が負(向かい風)であれば、制御部80は、第2制御マップを使用してファン71を逆回転駆動するよう回転指示を出力する(ステップS18)。第2制御マップは、車速とファンの制御パラメータとの関係を示すマップデータであり、例えば、
図6(B)に示すように、車速がゼロのときに、制御パラメータ“0”(=回転速度100%の逆回転駆動)となり、車速が逆回転駆動の限界となる車速閾値(15km/h)よりも低い速度(例えば10km/h)の段階で、制御パラメータ“50”(=回転速度ゼロ)となる制御マップである。
【0063】
ステップS17、S18の回転指示は、所定の制御サイクル期間における回転駆動の指示であり、ステップS13~S18のループ処理において、ステップS17、S18の回転指示が繰り返し出力されることで、ファン71が連続的に逆回転駆動される。途中でステップS13、S15のループ処理へ移行し、ステップS17、S18の回転指示が途絶えると、ファン71の逆回転駆動は停止する。ステップS17、S18の車速と外気風速とに応じたファン71の駆動制御により、逆回転駆動の回転数が状況に応じて詳細に変更され、これにより、ファン71の非効率な駆動が抑制され、無駄な電力消費を削減できる。例えば、ステップS17またはステップS18のファン71の回転指示により、車速が低いときにはファン71が高速で逆回転駆動し、冷媒回路CL4の排出熱を冷却液回路CL1へ効率的に移すことができる。一方、車速が車速閾値(15km/h)以下の範囲で上昇するとファン71の逆回転速度が低下し、走行抵抗の上昇を抑制することができる。さらに、外気風速があっても、ステップS16の判別処理により、ファン71を駆動する際の制御マップを変えることで、外気風速が無い場合と同様の作用が得られるようにファン71を制御することができる。
【0064】
ステップS17またはステップS18でファン71の回転指示を出力したら、制御部80は、処理をステップS3へ戻し、再び、ステップS3からの処理を繰り返す。
【0065】
ステップS13の終了条件の判別処理において、終了条件を満たしたと判別された場合には、制御部80は、全制御フラグ(駆動系暖気フラグ、冷媒回路動作要求フラグ、極低温フラグ、ヒータ動作要求フラグ)の値を“0”にセットする(ステップS14)。これにより、温調装置1は非暖機モードに移行し、暖機用途での冷媒回路CL4及び冷却液回路CL1~CL3の駆動が停止される。そして、始動処理が終了する。
【0066】
図7は、実施形態と比較例1、2との差を説明するタイムチャートである。
【0067】
本実施形態の温調装置1によれば、冷媒回路CL4のヒートポンプ作用の排出熱を用いて伝動機構7、8を暖機する。したがって、電動車両の始動のすぐ後から暖機を開始し、例えば車庫から道路へ電動車両を低速で移動している間に、伝動機構7、8を暖機して走行損失を低減することでができる。また、暖機の熱はヒートポンプ作用の排出熱を利用しているので、使用電力を抑制でき、結果として、総合的な航続距離の延長化を図ることができる。一方、比較例1のように、駆動系の排熱(走行モータ及びインバータの排熱)と、伝動機構7、8自体の発熱を利用して伝動機構7、8の暖機を行う構成では、暖機遅延が長くなる。また、ヒータを用いて伝動機構7、8の暖機を行う構成でも、航続距離の低減を避けるために電力使用を抑えると、ヒータから大きな熱量が得られず、同様に暖機遅延が長くなる。このため、電動車両が通常走行に移行して暖機完了となるまで、伝動機構7、8で大きな損失が発生し、結果として、本実施形態よりも航続距離が低減してしまう。
【0068】
以上説明したように、本実施形態の電動車両の温調装置1によれば、電動車両の始動時に、制御部80が、電動車両の予め定められた箇所の温度が第1条件を満たすか否かを判定する(ステップS3)。そして、第1条件を満たす場合に、冷媒回路CL4及び冷却液回路CL1の駆動と、ファン71の逆回転駆動により、冷媒回路CL4の排出熱を冷却液回路CL1の冷却液に移して、伝動機構7、8を暖機する。これにより、電動車両が高速で走行する前に、少ない電力で伝動機構7、8を速やかに暖機することができ、その結果、総合的な電動車両の航続距離を延ばすことができる。また、室外熱交換器54をラジエータ21の後方に隣接させることで、通常走行時の駆動系の冷却作用を阻害することなく、ファン71の逆回転駆動により暖機時の熱の移動を実現することができる。
【0069】
さらに、本実施形態の電動車両の温調装置1によれば、電動車両の車速が車速閾値(例えば15km/h)以上となった場合には(ステップS15でNO)、ファン71の逆回転駆動が停止される。これにより、ファン71の送風が走行抵抗となって無駄な電力が消費されてしまうことを抑制できる。さらに、走行により駆動系の排熱及び伝動機構7、8の自己発熱が得られる領域となるため、ファン71の駆動が停止されても、伝動機構7、8を暖機させることができ、その結果、総合的な電動車両の航続距離を延ばすことができる。
【0070】
さらに、本実施形態の電動車両の温調装置1によれば、制御部80は、電動車両の予め定められた箇所の温度が、第1条件よりも温度条件の低い第2条件を満たすか否かを判定する(ステップS8)。そして、第2条件を満たす場合に、ヒータ41の駆動と冷媒回路CL4の駆動とを併用して、伝動機構7、8の暖機を行う。このような構成によれば、低温で潤滑油の粘性抵抗が非常に高い場合に適した暖機を行うことができ、このような場合でも、総合的な電動車両の航続距離を延ばすことができる。
【0071】
さらに、本実施形態の電動車両の温調装置1によれば、制御部80は、外気温と潤滑油の温度に基づいて、非暖機モード(駆動系暖機フラグ=0)、通常暖機モード(駆動系暖機フラグ=1)、非常暖機モード(極低温フラグ=1)の切替えを行う(ステップS3、S8)。これらの温度を用いた判断により、暖機しないほうが総合的な航続距離を延ばせる場合と、冷媒回路CL4のヒートポンプの排出熱を用いて暖機を行った方が総合的な航続距離を延ばせる場合と、ヒータ41を併用した方が総合的な航続距離を延ばせる場合とを、容易にかつ的確に振り分けることができる。
【0072】
さらに、本実施形態の電動車両の温調装置1によれば、伝動機構7、8の暖機を行う冷却液回路CL1は、冷却液を走行モータ(リアモータ2、フロントモータ3)、インバータ回路(リアインバータ5、フロントインバータ6)、DC/DCコンバータ13及び車載充電器14の複数の発熱要素から熱を取り込む回路である。したがって、電動車両が高い車速で走行している場合、冷媒回路CL4の排出熱を用いた暖機を行わなくても、複数の発熱要素が発熱することで、速やかに伝動機構7、8の暖機を行うことができ、その結果、総合的な航続距離を延ばすことができる。
【0073】
さらに、本実施形態の電動車両の温調装置1によれば、冷媒回路CL4及び冷却液回路CL2は、バッテリ11の熱を冷媒へ移す熱交換器32A、32Bを有する。したがって、バッテリ11の充電直後に電動車両を始動する場合には、充電により発熱しているバッテリ11の熱を利用して、伝動機構7、8の速やかな暖機を図ることができる。この場合、暖機モードへ移行する温度条件にバッテリ11の温度条件を加え、さらに、暖機モードとして、バッテリ11の排熱を吸収するように冷媒回路CL4を駆動するバッテリ排熱利用暖機モードを加え、制御部80が、所定の温度条件に基づきバッテリ排熱利用暖機モードへ移行するように制御すればよい。
【0074】
さらに、本実施形態の電動車両の温調装置1によれば、室外熱交換器54とヒータ41の熱を冷媒に移すことのできる熱交換器44A、44Bとの間、室外熱交換器54とバッテリ11の排熱を冷媒に移すことのできる熱交換器32A、32Bとの間に、電子膨張弁53、59を備える。電子膨張弁53、59を、このように配置することで、1つの冷媒回路CL4の複数の箇所で、熱を効率的に吸収させることができ、ヒートポンプ作用の排出熱を用いた伝動機構7、8の暖機の効率をより向上できる。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、伝動機構7、8の暖機を行う冷却液回路CL1は、冷却液を走行モータ(リアモータ2、フロントモータ3)、インバータ回路(リアインバータ5、フロントインバータ6)、DC/DCコンバータ13及び車載充電器14の複数の発熱要素から熱を取り込む回路とした。しかし、これらの発熱要素のうちいずれかは冷却液回路CL1から外れてもよい。また、上記実施形態では、冷媒回路CL4は、バッテリ11の排熱を行う冷却液回路CL2と熱交換可能な冷媒通路を含んでいるが、この冷媒通路は省略されてもよい。また、上記実施形態では、伝動機構7、8の暖機のために駆動されるヒータ41として、乗員室の暖房用のヒータ41を流用した例を示したが、別の箇所のヒータを用いたり、暖機専用のヒータを適用してもよい。また、ヒータは、冷却液を介して冷媒を加熱する構成に限られず、直接に冷媒又は直接に伝動機構の周囲を通る冷却液を加熱する構成としてもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 温調装置
2 リアモータ
3 フロントモータ
5 リアインバータ
6 フロントインバータ
7、8 伝動機構
11 バッテリ
13 DC/DCコンバータ
14 車載充電器
21 ラジエータ
22、31、42 ポンプ
CL1~CL3 冷却液回路
CL4 冷媒回路
32A、32B、44A、44B 熱交換器
41 ヒータ
43 ヒータコア
51 コンプレッサ
53、57、59 電子膨張弁
54 室外熱交換器
58 エバポレータ
61 アキュムレータ
71 ファン
80 制御部