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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/26 20060101AFI20230714BHJP
   B60K 6/28 20071001ALI20230714BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20230714BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20230714BHJP
   B60W 10/30 20060101ALI20230714BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20230714BHJP
【FI】
B60W10/26 900
B60K6/28
B60K6/485 ZHV
B60L1/00 L
B60W10/30 900
B60W20/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019233985
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102371
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】守屋 史之
(72)【発明者】
【氏名】家邊 裕文
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓馬
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092348(WO,A1)
【文献】特開2015-149849(JP,A)
【文献】特開2015-175313(JP,A)
【文献】特開2019-031259(JP,A)
【文献】特開2015-217919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/26
B60K 6/485
B60W 10/30
B60K 6/28
B60W 20/00
B60L 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を供給する第1電源及び第2電源と、
電力を受けて動作する第1電気機器群及び第2電気機器群と、
前記第2電源の電力で駆動され、一時的に動力を発生する第1機器と、
前記第1電気機器群へ電力を送る第1電源ラインが前記第1電源に接続され、前記第2電気機器群へ電力を送る第2電源ラインが前記第2電源に接続され、かつ、前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとが切り離される接続形態と、前記第1電源ラインが前記第2電源に接続され、前記第2電源ラインが前記第1電源に接続され、かつ、前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとが切り離される接続形態とに、切り替え可能なスイッチ部と、
前記スイッチ部を切り替えるスイッチ制御部と、
を備える電動車両。
【請求項2】
前記スイッチ制御部は、
車両状態に応じて、前記第1電源ラインが前記第1電源に接続されかつ前記第2電源ラインが前記第2電源に接続される第1接続形態、又は、前記第1電源ラインが前記第2電源に接続されかつ前記第2電源ラインが前記第1電源に接続される第2接続形態を選択し、
前記第1機器の駆動の際、選択された前記第1接続形態又は前記第2接続形態で前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとを切り離すことを特徴とする請求項1記載の電動車両。
【請求項3】
前記第1電気機器群には、運転を支援する運転支援機器が含まれ、
前記第2電気機器群には、停車中に駆動される電気機器又は車室内環境を調整する電気機器が含まれ、
前記スイッチ制御部は、
走行中に前記第1機器が駆動される際には、前記第1接続形態で前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとを切り離し、停車中に前記第1機器が駆動される際には、前記第2接続形態で前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとを切り離すことを特徴とする請求項2記載の電動車両。
【請求項4】
前記第1機器は、エンジンの再始動モータであり、
前記第1電気機器群の特定機能の実行要求があった場合に、前記特定機能を実行する前に前記エンジンを再始動させる機器制御部を、
更に備えることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の電動車両。
【請求項5】
前記スイッチ部は、
前記第1電源の接続を前記第1電源ライン又は前記第2電源ラインに切り替える第1スイッチと、
前記第2電源の接続を前記第1電源ライン又は前記第2電源ラインに切り替える第2スイッチと、
前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとの接続又は切断を切り替える第3スイッチと、を含み、
前記スイッチ制御部は、
前記第1機器の駆動のない走行中、前記第1スイッチを前記第1電源ライン側に接続、前記第2スイッチを前記第2電源ライン側に接続、前記第3スイッチを接続に切り替え、
前記第1機器の駆動のない停車中、前記第1スイッチを前記第2電源ライン側に接続、前記第2スイッチを前記第1電源ライン側に接続、前記第3スイッチを接続に切り替える、
ことを特徴とする請求項3又は請求項4記載の電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1電源と第2電源とを備えた電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、走行モータを有する電動車両又は走行モータとエンジンとを有するハイブリッド車両は、電気モータに電力を供給する高電圧バッテリと、電気モータ以外の電気機器(補機を含む)に電力を供給する鉛バッテリとを備える。さらに、このような車両は、高電圧バッテリから電気モータ以外の電気機器に電力を供給するDC/DCコンバータを備える。
【0003】
特許文献1には、DC/DCコンバータとバッテリと複数の負荷とを有する車両において、アイドリングストップの際、あるいは、エンジンの再始動の際などに、スイッチを切り替えて、複数の負荷に電力を供給する経路を切り替える技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-217919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンの再始動モータ、運転支援装置で緊急自動制動を実現するアクチュエータなど、車両には、一時的に大きな電力を消費して動力を発生させる高負荷機器が備わる。高負荷機器の駆動時には、電源電圧が急激に低下し、同一電源に接続されている他の電気機器に影響を与える場合がある。
【0006】
一方、鉛バッテリとDC/DCコンバータなど、複数の電源を有する車両においては、一方の電源で高負荷機器を駆動しつつ、他方の電源から他の電気機器へ電力を供給することで、高負荷機器による電圧降下が、他の電気機器へ影響を及ぼすことを回避することができる。しかしながら、高負荷機器が駆動する際に、他の電源にその他の多くの電気機器が接続される状況が生じると、これらの電気機器が同時に電力消費する場合を想定し、他方の電源の出力容量を大きくするなど、高い能力の電源が要求される。そして、その分、電源のコストが高騰する。
【0007】
本発明は、第1電源、第2電源、並びに、一時的に動力を発生させる第1機器を有する電動車両において、第1機器の駆動が他の電気機器に与える影響を低減しつつ、第1電源及び第2電源の要求能力の低減を図ることのできる電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
電力を供給する第1電源及び第2電源と、
電力を受けて動作する第1電気機器群及び第2電気機器群と、
前記第2電源の電力で駆動され、一時的に動力を発生する第1機器と、
前記第1電気機器群へ電力を送る第1電源ラインが前記第1電源に接続され、前記第2電気機器群へ電力を送る第2電源ラインが前記第2電源に接続され、かつ、前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとが切り離される接続形態と、前記第1電源ラインが前記第2電源に接続され、前記第2電源ラインが前記第1電源に接続され、かつ、前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとが切り離される接続形態とに、切り替え可能なスイッチ部と、
前記スイッチ部を切り替えるスイッチ制御部と、
を備える電動車両である。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の電動車両において、
前記スイッチ制御部は、
車両状態に応じて、前記第1電源ラインが前記第1電源に接続されかつ前記第2電源ラインが前記第2電源に接続される第1接続形態、又は、前記第1電源ラインが前記第2電源に接続されかつ前記第2電源ラインが前記第1電源に接続される第2接続形態を選択し、
前記第1機器の駆動の際、選択された前記第1接続形態又は前記第2接続形態で前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとを切り離すことを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2記載の電動車両において、
前記第1電気機器群には、運転を支援する運転支援機器が含まれ、
前記第2電気機器群には、停車中に駆動される電気機器又は車室内環境を調整する電気機器が含まれ、
前記スイッチ制御部は、
走行中に前記第1機器が駆動される際には、前記第1接続形態で前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとを切り離し、停車中に前記第1機器が駆動される際には、前記第2接続形態で前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとを切り離すことを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項2又は請求項3に記載の電動車両において、
前記第1機器は、エンジンの再始動モータであり、
前記第1電気機器群の特定機能の実行要求があった場合に、前記特定機能を実行する前に前記エンジンを再始動させる機器制御部を、
更に備えることを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項3又は請求項4記載の電動車両において、
前記スイッチ部は、
前記第1電源の接続を前記第1電源ライン又は前記第2電源ラインに切り替える第1スイッチと、
前記第2電源の接続を前記第1電源ライン又は前記第2電源ラインに切り替える第2スイッチと、
前記第1電源ラインと前記第2電源ラインとの接続又は切断を切り替える第3スイッチと、を含み、
前記スイッチ制御部は、
前記第1機器の駆動のない走行中、前記第1スイッチを前記第1電源ライン側に接続、前記第2スイッチを前記第2電源ライン側に接続、前記第3スイッチを接続に切り替え、
前記第1機器の駆動のない停車中、前記第1スイッチを前記第2電源ライン側に接続、前記第2スイッチを前記第1電源ライン側に接続、前記第3スイッチを接続に切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1機器の一時的な動力の発生で、第2電源の電源電圧が大きく降下する場合でも、スイッチ部により第1電源ラインと第2電源ラインとを切り離すことができる。この切り離しにより、第1電源に接続されている第1電源ライン又は第2電源ラインは、第2電源の電圧降下の影響を受けない。
【0014】
電動車両に搭載される電気機器には、電源電圧の大きな電圧降下に対する耐性(例えば瞬時停電に対する耐性)が、車両状態、外気温又は天気などの外部環境、路面状態、運転モードの選択状況、もしくは、その他の何等かの状況によって変化する。例えば、運転支援装置などは走行中に電圧降下があると、所望の機能が得られなかったり、運転者に違和感を与えたりするが、停車中の電圧降下であれば、さほどの影響はない。逆に、ドアの自動開閉装置などは、停車中の電圧降下の影響があると、所望の機能が得られなかったり、運転者に違和感を与えたりするが、走行中の電圧降下であれば、さほどの影響はない。そこで、本発明によれば、スイッチ部により、第1電源ラインと第2電源ラインとを切り離したときに、第1電源及び第2電源と第1電源ライン及び第2電源ラインとの接続の組み合わせを、2つの組み合わせのいずれかに選択することができる。そして、これらの選択により、第1電気機器群に対して電圧降下の影響が大きく、第2電気機器群に対して電圧降下の影響が生じない状況では、第1電源ラインを第2電源に接続しかつ第2電源ラインを第1電源に接続することができる。逆に、第2電気機器群に対して電圧降下の影響が大きく、第1電気機器群に対して電圧降下の影響が生じない状況では、第1電源ラインを第1電源に接続しかつ第2電源ラインを第2電源に接続することができる。このように状況に合わせて接続形態を選択することができることによって、第2電源の電圧降下が生じても、第1電気機器群及び第2電気機器群の両方に対して電圧降下の影響が生じないように電力を供給できる。
【0015】
一方、仮に、第2電源に電圧降下が生じる際に、他の電気機器の全てを第1電源に接続する構成を採用したとする。この場合、同時期に多くの電気機器が第1電源の電力を消費する可能性があるため、第1電源の出力容量を高める必要が生じる。また、仮に、第2電源の電圧降下が生じる際に、電圧降下の影響を受けやすい電気機器を第2電源に接続したままとする構成を採用した場合、第2電源の電圧降下が低減されるように、第2電源の出力性能を向上する必要が生じる。本発明によれば、第2電源に電圧降下が生じる際でも、第1電気機器群及び第2電気機器群は第1電源と第2電源に分散されて接続され、一方の電源のみに第1電気機器群と第2電気機器群との両方が接続されることがない。したがって、第1電源及び第2電源に要求されるの出力容量及び出力性能を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態1に係る電動車両の要部を示す図である。
図2】実施形態1の車両制御部が実行する再始動及び電源切替処理を示すフローチャートである。
図3】実施形態2の車両制御部が実行する機器制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る電動車両の要部を示す図である。本発明の実施形態1に係る電動車両1は、エンジン7と走行モータ3とを備えるHEV(Hybrid Electric Vehicle)である。電動車両1は、駆動輪2と、駆動輪2の動力を発生する走行モータ3及びエンジン7と、電力の入出力により走行モータ3を駆動するインバータ4と、走行用の電力を供給する第1バッテリ5と、エンジン7を駆動するための補機8と、第1バッテリ5の電圧から機器用の駆動電圧を生成するDC/DCコンバータ11と、機器用の駆動電圧を出力する第2バッテリ12と、エンジン7の再始動を行う再始動モータとして機能するISG(integrated starter generator)15と、電動車両1の各種の機能を提供する第1電気機器群21及び第2電気機器群22と、電源の接続形態を切り替えるためのリレーRL1~RL3と、電動車両1の制御を行う車両制御部9と、を備える。第1バッテリ5は、リチウムイオン二次電池などであり第2バッテリ12よりも高い電圧を出力する。第2バッテリ12は、例えば鉛蓄電池又はリチウムイオン二次電池などであり、例えば12V系など補機を含む機器用の電源電圧を出力する。上記の構成の内、DC/DCコンバータ11は、本発明に係る第1電源の一例に相当する。第2バッテリ12は、本発明に係る第2電源の一例に相当する。ISG15は、本発明に係る第1機器の一例に相当する。車両制御部9は、本発明に係るスイッチ制御部の一例に相当する。リレーRL1~RL3は、本発明に係るスイッチ部、並びに、本発明に係る第1スイッチから第3スイッチの一例に相当する。
【0019】
第1電気機器群21は、第1電源ラインL1に接続され、第1電源ラインL1から電力を受けて動作する。第1電気機器群21は、運転を支援する運転支援機器が含まれる。より具体的には、第1電気機器群21は、主に走行中に動作し、動作中の瞬時停電の影響が大きい機器が含まれる。第1電気機器群21には、例えば、横滑り防止装置21a(VDC:Vehicle Dynamics Controlとも呼ばれる)、衝突軽減ブレーキシステム21b、電動パワーステアリング21c、並びに、運転操作を補助するメータ表示(車速、エンジン回転速度、運転補助機能の作動状況など)を行うメータ表示システム21dが含まれる。横滑り防止装置21aは、電動車両1が横滑りする状態が生じないか監視し、横滑りが発生したらブレーキ及び動力の出力を調整して車両の挙動を安定させるシステムであり、センサと制御回路とアクチュエータとを含む。衝突軽減ブレーキシステム21bは、障害物の出現を監視し、障害物の出現に基づき運転者への警告とブレーキの補助操作を行うシステムであり、センサと制御回路とアクチュエータとを含む。
【0020】
第2電気機器群22は、第2電源ラインL2に接続され、第2電源ラインL2から電力を受けて動作する。第2電気機器群22は、主に停車中に動作して走行中に動作しない電気機器又は車室内環境を調整する電気機器が含まれる。第2電気機器群22は、言い換えれば、主に停車中に動作するが動作中の瞬時停電の影響が大きい機器、並びに、走行中及び停車中に動作するが動作中の瞬時停電の影響が少ない機器が含まれる。第2電気機器群22には、例えば、パワーリアゲート22a、電動パーキングブレーキ22b、メータパネルに外気温、室温等の補助情報を表示する補助表示システム22c、リアウインドウの曇りを除去するリアデフロスタ22d、シートを暖めるヒートシーター22e、並びに、車室及び空調内ダクトの空気を循環させるブロアファン22fが含まれる。
【0021】
リレーRL3は、第1電源ラインL1と第2電源ラインL2との接続と切断とを切り替えることができる。リレーRL3は、例えば励磁(制御線への励磁電流の出力)により切断状態に切り替わり、励磁無しで接続状態に切り替わる、ノーマリクローズの構成が採用される。ノーマリクローズの構成とすることで、車両制御部9が第1電源ラインL1と第2電源ラインL2とのどちらに接続されているかに関わらず、システム休止時(イグニションオフ時、すなわち、DC/DCコンバータ11の停止時)に、車両制御部9へ電源を供給することができる。ただし、これに限定されず、リレーRL3としては、その他、ノーマリオープンのリレー、ラッチリレー、半導体スイッチ(例えば寄生ダイオードを有する半導体スイッチ、あるいは、ダイオードと並列接続された半導体スイッチ)などが採用されてもよい。リレーRL3をノーマリオープンの構成とした場合、リレーRL1、RL2はシステム休止時に所定の切替状態になるように制御されればよい。すなわち、システム休止時に、車両制御部9の電源ライン(第1電源ラインL1又は第2電源ラインL2)が第2バッテリ12に接続されるように、リレーRL1、RL2が切り替えられればよい。
【0022】
リレーRL1は、DC/DCコンバータ11の接続先を、第1電源ラインL1又は第2電源ラインL2に切り替える三極リレーである。リレーRL1は、例えば励磁によりDC/DCコンバータ11を第2電源ラインL2に接続し、励磁無しでDC/DCコンバータ11を第1電源ラインL1に接続する。ただし、これに限定されず、リレーRL1としては、励磁と接続状態の関係が逆のリレー、ラッチリレー、半導体スイッチなどが採用されてもよい。
【0023】
リレーRL2は、第2バッテリ12の接続先を、第1電源ラインL1又は第2電源ラインL2に切り替える三極リレーである。リレーRL2は、例えば励磁により第2バッテリ12を第1電源ラインL1に接続し、励磁無しで第2バッテリ12を第2電源ラインL2に接続する。ただし、これに限定されず、リレーRL2としては、励磁と接続状態の関係が逆のリレー、ラッチリレー、半導体スイッチなどが採用されてもよい。
【0024】
リレーRL1~RL3は、車両制御部9からの励磁ラインA、Bの出力に基づいて接続状態を切り替える。一方の励磁ラインAは、2つのリレーRL1、RL2の制御線に接続され、2つのリレーRL1、RL2を同時に励磁できる。もう一方の励磁ラインBは、リレーRL3の制御線に接続され、リレーRL3を励磁できる。
【0025】
このようなリレーRL1~RL3の構成により、次のパターン表Aに示されるように、4通りの電源の接続形態(「パターン1」~「パターン4」と記す)が選択可能となる。パターン1及びパターン2では、励磁ラインBの無励磁により、第1電源ラインL1と第2電源ラインL2とが切り離され、励磁ラインAの励磁又は無励磁により、第1電源ラインL1及び第2電源ラインL2と、DC/DCコンバータ11及び第2バッテリ12と、の接続の組み合わせが異なる2通りの接続形態が得られる。パターン3及びパターン4では、励磁ラインBの励磁により、第1電源ラインL1と第2電源ラインL2とが接続される。したがって、第1電源ラインL1と第2電源ラインL2とに電力を供給する電源は、DC/DCコンバータ11及び第2バッテリ12の両方となる。パターン3とパターン4とでは、電力の供給先と供給元との関係について変化がない。パターン3とパターン4とでは、パターン1へ遷移するためのリレーRL1~RL3の切り替えの工数と、パターン2へ遷移するためのリレーRL1~RL3の切り替えの工数とが異なる。例えばパターン3からパターン1へは、励磁ラインBへの出力の切り替えのみで遷移できる。パターン4からパターン2へは、励磁ラインBへの出力の切り替えのみで遷移できる。
【表1】
パターン1は、本発明に係る第1接続形態の一例に相当し、パターン2は、本発明に係る第2接続形態の一例に相当する。
【0026】
車両制御部9は、電動車両1の種々の制御、具体的には、リレーRL1~RL3の切り替え制御、ISG15の駆動によるエンジン7の再始動制御、第1電気機器群21及び第2電気機器群22の各機器の機能の実行制御、運転者の運転操作に応じて補機8又はインバータ4を制御して駆動力又は制動力を制御する駆動制御などを行う。車両制御部9は、1つのECU(Electronic Control Unit)から構成されても良いし、複数のECUが互いに通信を行って連携して動作する構成としてもよい。車両制御部9は、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)と、計算処理を行うCPU(Central Processing Unit)とを含み、CPUが制御プログラムを実行することで、複数の機能モジュールが実現される。複数の機能モジュールは、異なる制御処理を並列的に実行することができる。
【0027】
<電源の切替制御>
図2は、車両制御部が実行する再始動及び電源切替処理を示すフローチャートである。車両制御部9は、電動車両1のシステムの動作中、図2の「再始動及び電源切替処理」を継続的に実行する。この処理では、まず、車両制御部9は、車両状態の検出に基づき電動車両1が停車から走行へ、又は、走行から停車へ切り替わったか否かを判別する(ステップS1)。停車とは、車速がゼロの状態を意味する。走行とは、車速がゼロ以外の状態を意味する。電動車両1が停車中のとき、エンジン7は動作している場合も、停止している場合もある。車両状態が走行中のとき、エンジン7は動作している場合も、停止している場合(走行モータ3により走行している場合)もある。
【0028】
ステップS1で走行と停車との切り替わりがないと判別したら、車両制御部9は、処理をジャンプして、エンジン7の再始動要求があったか否かを判別する(ステップS4)。エンジン7の再始動要求は、車両制御部9により実現される他の機能モジュールの並列処理内で発行される場合、第1電気機器群21及び第2電気機器群22の機器の制御部が発行する場合などがある。また、エンジン7の再始動要求は、電動車両1の停車中及び走行中の両方において生じる場合がある。停車中には、例えばアイドリングストップの解除条件が満たされた場合などに、エンジン7の再始動が要求される。走行中には、例えば走行モータ3による駆動走行からエンジン7の駆動走行に切り替わる際などにエンジン7の再始動が要求される。ステップS4でエンジン7の再始動要求がないと判別されたら、車両制御部9は、処理をステップS1に戻す。そして、ステップS1、S4のいずれの判別結果がNOであれば、これらの判別処理が繰り返される。
【0029】
ステップS1の判別処理において、走行から停車への切り替わりがあった場合には、車両制御部9は、励磁ラインAを励磁する(ステップS2)。また、ステップS1の判別処理において、停車から走行への切り替わりがあった場合には、車両制御部9は、励磁ラインAを無励磁とする(ステップS3)。
【0030】
ステップS2で励磁ラインAが励磁されると、リレーRL1の接続が第2電源ラインL2側に切り替わり、リレーRL2の接続が第1電源ラインL1側に切り替わる。このとき、リレーRL3は第1電源ラインL1と第2電源ラインL2とを接続した状態にあり、DC/DCコンバータ11と第2バッテリ12とは第1電源ラインL1と第2電源ラインL2の両方に接続され、電力の供給元と供給先との関係は変化しない。ステップS2の処理は、電源の接続形態をパターン表Aのパターン4への切替える処理であり、停車中のエンジン7の再始動時に、電源の接続形態をパターン表Aのパターン2へ速やかに遷移可能とするための準備処理である。
【0031】
ステップS3で励磁ラインAが励磁無しにされると、リレーRL1の接続が第1電源ラインL1側に切り替わり、リレーRL2の接続が第2電源ラインL2側に切り替わる。このとき、リレーRL3は第1電源ラインL1と第2電源ラインL2とを接続した状態にあり、DC/DCコンバータ11と第2バッテリ12とは第1電源ラインL1と第2電源ラインL2の両方に接続され、電力の供給元と供給先との関係は変化しない。ステップS3の処理は、電源の接続形態をパターン表Aのパターン3へ切り替える処理であり、走行中のエンジン7の再始動時に、電源の接続形態をパターン表Aのパターン1へ速やかに遷移可能とするための準備処理である。
【0032】
さらに、ステップS4の判別処理において、エンジン7の再始動要求が有りと判別されたら、車両制御部9は、先ず、励磁ラインBの励磁を解除する(ステップS5)。励磁の解除により、リレーRL3が切断状態に切り替えられ、第1電源ラインL1と第2電源ラインL2とが切り離される。
【0033】
ステップS5でリレーRL3が切り替えられた際、車両状態が停車中であれば、以前のステップS2で、電源の接続パターンはパターン表Aのパターン4に切り替わっている。したがって、停車中にステップS5が実行されると、電源の接続形態は、パターン表Aのパターン2に切り替わり、第2電源ラインL2がDC/DCコンバータ11に接続され、第1電源ラインL1が第2バッテリ12に接続された状態で、第1電源ラインL1と第2電源ラインL2とが切り離される。
【0034】
一方、ステップS5でリレーRL3が切り替えられた際、車両状態が走行中であれば、以前のステップS3で、電源の接続パターンはパターン表Aのパターン3に切り替わっている。したがって、走行中にステップS5が実行されると、電源の接続形態は、パターン表Aのパターン1に切り替わり、第1電源ラインL1がDC/DCコンバータ11に接続され、第2電源ラインL2が第2バッテリ12に接続された状態で、第1電源ラインL1と第2電源ラインL2とが切り離される。
【0035】
車両制御部9は、リレーRL3を切り替えたら、ISG15を駆動してエンジン7を再始動する(ステップS6)。エンジン7の再始動時にはISG15が一時的に大きな電力を消費するため、第2バッテリ12の出力に大きな電圧降下が生じる。そして、この電圧降下は、電源の接続パターンに応じて、第2バッテリ12に接続されている電源ライン(第1電源ラインL1又は第2電源ラインL2の一方)にも及ぶ。
【0036】
しかし、走行中であれば、第2バッテリ12に接続されている第2電気機器群22に対して電圧降下の影響は少ない。そして、走行中に電圧降下が生じると不都合が生じる可能性のある第1電気機器群21は、DC/DCコンバータ11に接続され、安定した電源電圧が供給される。したがって、第2バッテリ12の電圧降下があっても、走行中に使用している第1電気機器群21及び第2電気機器群22のいずれかの機器が、再起動により停止したり、所望の機能を提供できないなどの不都合が抑制される。
【0037】
また、停車中にステップS6が実行された場合、第2バッテリ12に接続されている第1電気機器群21は、停車中なので電圧降下の影響が少ない。そして、停車中に電圧降下が生じると不都合が生じる可能性のある電気機器は、DC/DCコンバータ11に接続され、安定した電源電圧が供給される。したがって、第2バッテリ12の電圧降下があっても、停車中に使用している第1電気機器群21及び第2電気機器群22のいずれかの機器が、再起動により停止したり、所望の機能を提供できないなどの不都合が抑制される。
【0038】
車両制御部9は、ステップS6のエンジン7の再始動が完了したら、励磁ラインBを励磁し(ステップS7)、リレーRL3を接続状態に切り替える。これにより、第1電源ラインL1と第2電源ラインL2とが接続され、第1電気機器群21及び第2電気機器群22の両方へDC/DCコンバータ11及び第2バッテリ12から電力が供給可能な状態となる。そして、車両制御部9は、処理をステップS1に戻し、ステップS1からの処理を繰り返す。
【0039】
以上のように、実施形態1の電動車両1によれば、DC/DCコンバータ11及び第2バッテリ12と、一時的に動力を発生するISG15と、第1電源ラインL1及び第2電源ラインL2の電源の接続形態を切り替え可能なリレーRL1~RL3とを備える。そして、リレーRL1~RL3の切り替えにより、パターン表Aのパターン1及びパターン2の電源の接続形態を実現できる。したがって、ISG15の駆動により第2バッテリ12の電圧降下が生じても、電圧降下が第1電気機器群21に影響を及ぼしにくい状況と、電圧降下が第2電気機器群22に影響を及ぼしにくい状況とで、第2バッテリ12に接続される機器群をどちらかに切り替えることができる。よって、第2バッテリ12の一時的な電圧降下により第1電気機器群21及び第2電気機器群22のいずれかの機器に影響が及んで、要求された動作が得られないなどの不都合を抑制することができる。さらに、電源の接続形態が切り替わっても、第1電気機器群21と第2電気機器群22とがDC/DCコンバータ11のみに同時に接続されたり、第2バッテリ12のみに同時に接続されたりしないので、DC/DCコンバータ11及び第2バッテリ12の要求能力を低く抑えることができ、部品コストを低減できる。
【0040】
さらに、実施形態1の電動車両1によれば、車両制御部9が、電動車両1の車両状態に応じて、パターン表Aのパターン1とパターン2とに電源の接続形態を切り替える。さらに、特定の車両状態のときに電源電圧の降下の影響を受けやすい電気機器と、別の車両状態のときに電源電圧の降下の影響を受けやすい電気機器とが、第1電気機器群21と第2電気機器群22とに振り分けられている。したがって、ISG15の駆動による第2バッテリ12の一時的な電圧降下があっても、第2バッテリ12には車両状態に応じて電圧降下の影響を受けにくい電気機器群が接続されるので、電圧降下が電気機器に影響を与えて不都合が生じることを抑制できる。
【0041】
さらに、実施形態1の電動車両1によれば、第1電気機器群21には、運転を支援する運転支援機器が含まれ、第2電気機器群22には、停車中に駆動される電気機器又は車室内環境を調整する電気機器が含まれる。さらに、ISG15の駆動の際の電源の接続形態をパターン表Aのパターン1又はパターン2に選択する車両条件が、走行中であるか、停車中であるかという条件に設定されている。このような車両条件の採用によれば、上記のような電気機器のグループ分けにより、第2バッテリ12の一時的な電圧降下により第1電気機器群21及び第2電気機器群22の全ての電気機器に不都合が生じることを回避しつつ、電動車両1に備わる複数の電気機器を総合の消費電力が大きく一方に偏ることなく、2つの群に分けることができる。
【0042】
さらに、実施形態1の電動車両1によれば、ISG15が駆動しない段階から、運転状況に応じて、車両制御部9が、電源の接続形態をパターン表Aのパターン3又はパターン4に切り替える(図2のステップS2、S3)。このような処理により、ISG15が駆動する際、車両制御部9は、1つのリレーRL3の切り替えのみで、車両状態に合わせたパターン1又はパターン2(パターン表A)への切り替えを実現できる。したがって、ISG15の駆動要求から速やかに車両状態に応じた電源の接続形態の切り替えを実現でき、ISG15の駆動の遅延が抑制される。
【0043】
(実施形態2)
図3は、実施形態2の車両制御部が実行する機器制御処理を示すフローチャートである。実施形態2の電動車両1は、実施形態1の構成を同様に備え、かつ、実施形態1の制御処理を同様に実行する。加えて、実施形態2の電動車両では、車両制御部9が、図3の機器制御処理を実行する。実施形態2の車両制御部9は、本発明に係るスイッチ制御部及び機器制御部の一例に相当する。
【0044】
車両制御部9は、電動車両1のシステム動作中、図3の機器制御処理を常時実行する。機器制御処理では、車両制御部9は、対象機能の実行要求があるか否か判別し(ステップS11)、対象機能の実行要求がなければ、処理をステップS1に戻して、この判別処理を繰り返す。対象機能とは、第1電気機器群21に含まれる機器の特定の機能に該当し、例えば、衝突軽減ブレーキシステム21bにおける緊急自動制動の発動など、一時的なアクチュエータの駆動により消費電力が比較的に大きい機能に該当する。対象機能の実行要求は、第1電気機器群21の制御部により発行されたり、例えば運転者によるスイッチ操作により発行されたり、あるいは、車両制御部9の他の機能モジュールの並列処理の中で発行されたりする。
【0045】
ステップS11の判別の結果、対象機能の実行要求があれば、車両制御部9は、エンジン7が停止中か否かを判別する(ステップS12)。第1電気機器群21の機能は、走行中に実行されるが、走行モータ3による走行中など、エンジン7が停止している期間に実行される場合がある。
【0046】
ステップS12の判別の結果、エンジン7が停止中であれば、車両制御部9は、エンジン7の再始動を要求する(ステップS13)。再始動要求は、図2に示した「再始動及び電源切替処理」に渡され、図2の処理内でエンジン7の再始動が遂行される。
【0047】
再始動要求後、車両制御部9は、エンジン7が再始動を完了したか否かを確認し(ステップS14)、再始動が完了したのを確認した後、対象機能を実行(又は実行を許可)する(ステップS15)。
【0048】
このように、対象機能(第1電気機器群21の機器の機能)の実行要求があった場合に、エンジン7を先に始動してから対象機能を実行することで、消費電力の大きなISG15の駆動と、比較的に消費電力の大きな特定機能の実行とが、同時になされることを回避できる。同時に実行される場合には、対象機能を実行する電気機器は、DC/DCコンバータ11のみに接続された状態で、大電力を消費することになるが、実行時期がずらされることで、対象機能を実行する電気機器は、DC/DCコンバータ11とび第2バッテリ12との両方に接続された状態で、大電力を消費する。したがって、対象機能を安定的に実行することができる。
【0049】
ステップS12の判別の結果、エンジン7の停止中でなければ、車両制御部9は、エンジン7の再始動中か否かを判別する(ステップS16)。そして、再始動中でなければ、車両制御部9は、処理をステップS15に移行して、対象機能を実行するが、再始動中であれば、車両制御部9は、再始動が完了する程度の遅延処理(所定時間の待機)を実行し(ステップS17)、その後、対象機能を実行する(ステップS15)。
【0050】
ステップS16、S17の処理によっても、消費電力の大きなISG15の駆動と、比較的に消費電力の大きな特定機能の実行とが、同時期に重なることが回避される。したがって、上述したように、対象機能を実行する電気機器が、DC/DCコンバータ11及び第2バッテリ12の両方に接続された状態で、安定的に対象機能を実行することができる。
【0051】
対象機能を実行したら、車両制御部9は、処理をステップS1に戻して、ステップS1からの処理を繰り返す。
【0052】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、一時的に動力を発生させる第1機器としてISG15を適用した例を示した。しかし、第1機器は、例えば、緊急自動制動を実現するアクチュエータなど、一時的に動力を発生させて大きな電力を消費する機器であれば、実施形態の例に限定されない。したがって、本発明に係る電動車両は、ハイブリッド自動車に限られず、エンジンを有さない電動車両であってもよい。さらに、上記実施形態では、第1電源及び第2電源と第1電源ラインL1及び第2電源ラインL2との接続の組み合わせを切り替える条件として、走行中であるか停車中であるかという車両条件を採用した例を示した。しかし、実施形態の例に限定されず、例えば、雨又は雪などの路面状況が悪いときと路面状況が良いとき、あるいは、応答性の高い運転モードが選択されているときと応答性の緩やかな運転モードが選択されているときなど、異なる条件を採用することも可能である。さらに、第1電気機器群と第2電気機器群とのグループ分けの仕方も、雨又は雪などの状況で瞬時停電の影響が大きい機器と、晴れの状況で瞬時停電の影響が大きい機器、あるいは、応答性の高い運転モードで瞬時停電の影響が大きい機器と、応答性が緩やかな運転モードで瞬時停電の影響が大きい機器など、異なる条件でグループ分けされてもよい。また、上記実施形態では、電源の接続パターンを速やかに切り替えるために図2のステップS2、S3の準備処理を実行する例を示したが、準備処理は無しで、第1機器の駆動時に全てのスイッチ部を切り替えてもよい。その他、スイッチ部としてのリレーRL1~RL3の具体的な構成など、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 電動車両
3 走行モータ
7 エンジン
9 車両制御部(スイッチ制御部、機器制御部)
11 DC/DCコンバータ(第1電源)
12 第2バッテリ(第2電源)
15 ISG(第1機器)
21 第1電気機器群
22 第2電気機器群
L1 第1電源ライン
L2 第2電源ライン
RL1~RL3 リレー(スイッチ部)
図1
図2
図3