(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】車両用ピラー
(51)【国際特許分類】
B60J 1/02 20060101AFI20230714BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
B60J1/02 J
B62D25/04 A
(21)【出願番号】P 2020000822
(22)【出願日】2020-01-07
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【氏名又は名称】藤谷 修
(74)【代理人】
【識別番号】100165962
【氏名又は名称】一色 昭則
(74)【代理人】
【識別番号】100206357
【氏名又は名称】角谷 智広
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】西垣 英一
(72)【発明者】
【氏名】朝賀 泰男
(72)【発明者】
【氏名】尼子 龍幸
(72)【発明者】
【氏名】上野 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】嶺井 太一
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-273057(JP,A)
【文献】特開2002-274269(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0089215(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/02
B62D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明部材を有した車両用ピラーにおいて、
前記透明部材の車両外側側面は、水平方向の断面において円弧である第1外曲面を有し、
前記透明部材の車両内側側面のうち、前記第1外曲面に対向する領域は、水平方向の断面において、前記第1外曲面と曲率中心が同一であって、互いに曲率半径の異なる2以上の円弧である第1内曲面を有した形状である、
ことを特徴とする車両用ピラー。
【請求項2】
前記車両内側側面の前記形状は、前記第1外曲面の端部から中央に向かうにつれて前記透明部材が厚くなるような段差形状であり、その段差形状の各段の表面が前記第1内曲面である、ことを特徴とする請求項1に記載の車両用ピラー。
【請求項3】
前記車両外側側面は、前記第1外曲面の両端にそれぞれ接続する平面である外平面を有し、
前記車両内側側面のうち、前記外平面に対向する領域は、前記外平面に平行な平面である内平面である、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ピラー。
【請求項4】
前記車両外側側面は、前記第1外曲面の一端に接続し、水平方向の断面において前記第1外曲面よりも曲率半径が大きな円弧である第2外曲面を有し、
前記車両内側側面のうち、前記第2外曲面に対向する領域は、水平方向の断面において前記第2外曲面と曲率中心が同一の円弧である第2内曲面である、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ピラー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ピラーに関するものであり、特に透明部材を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用ピラーは不透明な材料であり、運転者の視界を遮り死角を発生させる。そこで車両用ピラーによる死角を減少させる技術が各種提案されており、たとえば特許文献1がある。
【0003】
特許文献1には、2本の骨格部材により透明部材が保持された車両用ピラーが記載されている。また、透明部材は、車両外側側面、車両内側側面のいずれも曲面を有しており、車両外側側面の曲率と、車両内側側面の曲率を同一にすることが記載されている。これにより、運転者が視認する像の大きさが実像と相違することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1では、車両内側側面と車両外側側面を同一の曲率とするため、車両内側側面の形状自由度が低く、座屈耐性や剛性などを向上させることが難しかった。
【0006】
そこで本発明の目的は、透明部材を有した車両用ピラーにおいて、運転者が透明部材を介して視認する像の歪みを軽減しつつ、座屈耐性や剛性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、透明部材を有した車両用ピラーにおいて、透明部材の車両外側側面は、水平方向の断面において円弧である第1外曲面を有し、透明部材の車両内側側面のうち、第1外曲面に対向する領域は、水平方向の断面において、第1外曲面と曲率中心が同一であって、互いに曲率半径の異なる2以上の円弧である第1内曲面を有した形状である、ことを特徴とする車両用ピラーである。
【0008】
本発明において、車両内側側面の形状は、第1外曲面の端部から中央に向かうにつれて透明部材が厚くなるような段差形状であり、その段差形状の各段の表面が第1内曲面であってもよい。
【0009】
本発明において、車両外側側面は、第1外曲面の両端にそれぞれ接続し、平面である外平面を有し、車両内側側面のうち、外平面に対向する領域は、外平面に平行な平面である内平面であってもよい。
【0010】
車両外側側面は、第1外曲面の一端に接続し、水平方向の断面において第1外曲面よりも曲率半径が大きな円弧である第2外曲面を有し、車両内側側面のうち、第2外曲面に対向する領域は、水平方向の断面において第2外曲面と曲率中心が同一の円弧である第2内曲面であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明部材を有した車両用ピラーにおいて、運転者が透明部材を介して視認する像の歪みを軽減しつつ、座屈耐性や剛性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の車両用ピラー1を有した車両を示した図。
【
図3】実施例1の車両用ピラー1の水平方向の断面図。
【
図7】実施例2の車両用ピラーの透明部材の構成を示した図。
【
図8】比較例3の車両用ピラーの透明部材の構成を示した図。
【
図9】比較例4の車両用ピラーの透明部材の構成を示した図。
【
図10】実施例3の車両用ピラーの透明部材の構成を示した図。
【
図11】比較例5の車両用ピラーの透明部材の構成を示した図。
【
図12】比較例6の車両用ピラーの透明部材の構成を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
図1は、実施例1の車両用ピラー1を有した車両を示した図であり、
図2は車両用ピラー1を車両外側から見た図である。また、
図3は、実施例1の車両用ピラー1の水平方向の断面図である。
【0015】
実施例1の車両用ピラー1は、
図1に示すように、車両のフロントピラーであり、フロントウィンドウ2と前座席のサイドウィンドウ3との交差部分に設けられた柱状の構造体である。
【0016】
また、実施例1の車両用ピラー1は、
図1、2のように、第1骨格部材10と、第2骨格部材11と、透明部材12と、によって構成されている。
【0017】
第1骨格部材10および第2骨格部材11は、鋼板や炭素繊維強化樹脂からなり、それぞれ柱状であり、所定間隔を空けておよそ平行に配置されている。また、第1骨格部材10および第2骨格部材11は凹部をそれぞれ有し、その2つの凹部が向かい合うように配置されている。この凹部は、透明部材12の端部を嵌め込んで透明部材12を保持するためのものである。
【0018】
なお、第1骨格部材10および第2骨格部材11は、実際にはフロントウィンドウ2やサイドウィンドウ3と接続、支持する構造も有するが、実施例1においては省略する。
【0019】
透明部材12は、可視光に対して十分に高い透過率を有した材料からなる柱状、板状の部材であり、屈折率は一様である。透明部材12の端部は、第1骨格部材10および第2骨格部材11の凹部に嵌め込まれている。これにより、透明部材12は第1骨格部材10と第2骨格部材11との間に保持された構造となっている。透明部材12の材料は、樹脂、ガラスなどを用いることができ、強度などの点から繊維強化樹脂を用いてもよい。
【0020】
このように、実施例1の車両用ピラー1は、窓を設けて透明部材12を嵌め込んだ構造であり、透明部材12によって車両用ピラー1により生じる死角を軽減し、運転者の視認性を向上させている。
【0021】
透明部材12の車両外側側面12aは、車両内側から外側に向かって凸な曲面(本発明の第1外曲面に相当)を有している。また、水平方向の断面において曲率半径は一定であり、円弧を成している。
図3のように、車両内側側面12bの曲面の曲率中心をO、曲率半径をRとする。
【0022】
透明部材12の車両内側側面12bは、
図3に示すように、透明部材12の端部側から中央側に向かって透明部材12が段階的に厚くなっていく3段の段差形状13となっている。そのため、透明部材12の両端を結ぶ直線と透明部材12の重心との距離が小さくなり、かつ透明部材12の中央の厚みが増す。その結果、実施例1の車両用ピラー1は、座屈耐性や剛性が向上している。
【0023】
また、段差形状13の各段の表面は曲面(本発明の第1内曲面に相当)となっており、以下、段差形状13の各段のうち下段の表面を第1表面13a、中段の表面を第2表面13b、上段の表面を第3表面13cとする。第1表面13a、第2表面13b、第3表面13cのいずれも、水平方向の断面において曲率中心、曲面の曲率半径が一定で円弧を成している。また、第1表面13a、第2表面13b、第3表面13cの曲率中心は、車両外側側面12aの曲面の曲率中心と一致している。また、第1表面13a、第2表面13b、第3表面13cの曲率半径をそれぞれR1、R2、R3として、R>R1>R2>R3となっている。
【0024】
段差形状13の各段の側面は平面であり、その角度は実施例1の車両用ピラー1の視認性が高く、かつ座屈耐性や剛性が向上できる範囲であれば任意である。たとえば、曲率半径方向に対して-30~30°である。また、段差形状13の各段の側面を曲面などによって連続的にしてもよいが、視認性の点で平面とした方が好ましい。
【0025】
透明部材12の車両内側側面12bが上記のように設定されている結果、水平方向の断面において、第1表面13aの領域、第2表面13bの領域、第3表面13cの領域の各領域は、車両外側側面12aの同心円の一部となり、光の屈折が抑制される。そのため、運転者が曲率中心O近傍から透明部材12を介して視認する像の歪みが軽減されている。
【0026】
なお、車両外側側面12aの曲面および車両内側側面12bの曲面は、曲率半径が完全に一定である必要はなく、視認性の向上と座屈耐性、剛性の向上を両立できる範囲であれば、変動があってもよい。たとえば、曲率半径の最小値に対する最大値の比が1.1以下、好ましくは1.05以下であればよい。
【0027】
また、車両外側側面12aの曲面の曲率中心と、車両内側側面12bの曲面の曲率中心とは、完全に一致している必要はなく、視認性の向上と座屈耐性、剛性の向上を両立できる範囲であれば、ずれがあってもよい。たとえば、車両外側側面12aの曲面の曲率中心と車両内側側面12bの曲面の曲率中心との距離が、車両外側側面の曲面の曲率半径の0.1倍以下、好ましくは0.05倍以下であればよい。
【0028】
また、段差形状13の段数は実施例1のように3段である必要はなく、段数が第1骨格部材10側と第2骨格部材11側とで対称である必要もない。互いに曲率半径の異なる2以上の円弧である曲面を有するような段差構造であれば、任意でよく、求める視認性、座屈耐性、剛性などに応じて設定することができる。たとえば、
図4のように、第1骨格部材10側は4段、第2骨格部材11側は5段の段差形状13としてもよい。
図4の車両用ピラーでは、各段表面は実施例1と同様の曲面となっており、第2骨格部材11側の5段の曲率半径を最上段から順に、R5、R4、R3、R2、R1として、R1>R2>R3>R4>R5となっている。また、第1骨格部材10側の4段の曲率半径は、最上段から順に、R5、R4、R3、R2となっている。
【0029】
以上、実施例1の車両用ピラー1では、透明部材12の車両内側側面12bを、水平方向の断面において、互いに曲率半径の異なる2以上の円弧を有する構造とし、それら円弧を車両外側側面12aと曲率中心が同一の円弧としている。そのため、運転者が透明部材12を介して視認する像の歪みを軽減しつつ、車両用ピラー1の座屈耐性や剛性を向上させることができる。
【0030】
(比較例1の車両用ピラーについて)
図5は、比較例1の車両用ピラーの構成を示した図である。比較例1の車両用ピラーは、実施例1の車両用ピラーの透明部材12を、透明部材112に置き換えたものであり、他の構成は実施例1と同様である。
【0031】
透明部材112の車両外側側面112aは、透明部材12の車両外側側面12aと同様の曲面である。透明部材112の車両内側側面112bは、水平方向の断面において、車両外側側面112aの円弧と同心円の円弧であり、曲率中心がOで一致し、曲率半径はR1である。
【0032】
比較例1の車両用ピラーは、水平方向の断面において、車両内側側面112bが車両外側側面112aの同心円の一部となるため、光の屈折が抑制され、運転者が透明部材112を介して視認する像の歪みは軽減されている。そのため、比較例1の車両用ピラーは実施例1の車両用ピラーと同等の視認性である。しかし、比較例1の車両用ピラーは、透明部材112の両端を結ぶ直線と透明部材112の重心との距離が、実施例1の車両用ピラーの透明部材12の場合よりも大きく、座屈耐性や剛性が実施例1に比べて劣っている。
【0033】
(比較例2の車両用ピラーについて)
図6は、比較例2の車両用ピラーの構成を示した図である。比較例2の車両用ピラーは、実施例1の車両用ピラーの透明部材12を、透明部材212に置き換えたものであり、他の構成は実施例1と同様である。
【0034】
透明部材212の車両外側側面212aは、透明部材12の車両外側側面12aと同様の曲面である。透明部材212の車両内側側面212bは、平面である。
【0035】
比較例2の車両用ピラーは、車両外側側面212aが曲面、車両内側側面212bが平面であることから、透明部材212の中心が厚くなる。そのため、比較例2の車両用ピラーは、実施例1の車両用ピラーと同等の座屈耐性、剛性を有している。しかし、比較例2の透明部材212はレンズ形状をしており、運転者が透明部材を介して視認する像に歪みを生じる。よって比較例2の車両用ピラーは実施例1の車両用ピラーよりも視認性が劣っている。
【0036】
このように、比較例1、2の車両用ピラーでは、視認性の高さと座屈耐性、剛性の向上とを両立することができない。これに対し、実施例1の車両用ピラーはそれを両立することができる。
【実施例2】
【0037】
図7は、実施例2の車両用ピラーの構成を示した図である。実施例2の車両用ピラーは、
図7のように、第1骨格部材20と、第2骨格部材21と、透明部材22と、によって構成されている。第1骨格部材20および第2骨格部材21は、透明部材22の両端に嵌め込んで保持するための凹部の形状が異なる以外は実施例1の第1骨格部材10および第2骨格部材11と同様である。
【0038】
透明部材22は、実施例1の透明部材12とは車両外側側面22a、車両内側側面22bが異なっている。それ以外は透明部材12と同様の構造である。
【0039】
透明部材22の車両外側側面22aは、水平方向の断面において曲率半径が一定の円弧である曲面22aaと、その曲面22aaの両端で接続する平面22ab(本発明の外平面に相当)とを有している。曲面の曲率中心はO、曲率半径はRとする。
【0040】
透明部材22の車両内側側面22bは、車両外側側面22aの平面22abと対向する領域については平面abと平行な平面22ba(本発明の内平面に相当)であり、車両外側側面22aの曲面22aaと対向する領域は、中央に向かって段階的に厚くなっていく3段の段差形状23となっている。この段差形状23は、実施例1の段差形状13と同様の構造である。段差形状23の各段の表面は、水平方向の断面において曲率中心Oで曲率半径が一定の円弧であり、最上段表面の曲率半径をR3、中段表面の曲率半径をR2、下段表面の曲率半径をR1として、R>R1>R2>R3となっている。
【0041】
実施例2のように、透明部材22の車両外側側面22aが曲面22aaと平面22abで構成される場合、透明部材22の座屈の際は曲面22aaに応力が集中する。そこで、車両内側側面22bのうち曲面22aaに対向する領域を実施例1と同様の段差形状の構造とすることで、車両用ピラーの座屈耐性や剛性を向上させ、かつ運転者が透明部材22の曲面領域を介して視認する像の歪みも損なわないようにしている。
【0042】
(比較例3の車両用ピラーについて)
図8は、比較例3の車両用ピラーの構成を示した図である。比較例3の車両用ピラーは、実施例2の車両用ピラーの透明部材22を透明部材122に置き換えたものであり、他の構成は実施例2と同様である。
【0043】
透明部材122は、透明部材22の車両内側側面22bのうち、段差形状23が設けられている領域を、水平方向の断面において曲率中心がOで曲率半径がR1の曲面122baに置き換えた以外は透明部材22と同様である。
【0044】
比較例3の車両用ピラーは、車両内側側面のうち曲面122baが、水平方向の断面において、車両外側側面22aの曲面22aaの同心円の一部となるため、光の屈折が抑制され、運転者が透明部材122の曲面22aaの領域を介して視認する像の歪みは軽減されている。そのため、比較例3の車両用ピラーは実施例2の車両用ピラーと同等の視認性である。しかし、比較例3の車両用ピラーは、透明部材122の両端を結ぶ直線と透明部材122の重心との距離が、実施例2の車両用ピラーの透明部材22の場合よりも大きく、座屈耐性や剛性が実施例2に比べて劣っている。
【0045】
(比較例4の車両用ピラーについて)
図9は、比較例4の車両用ピラーの構成を示した図である。比較例4の車両用ピラーは、実施例2の車両用ピラーの透明部材22を透明部材222に置き換えたものであり、他の構成は実施例2と同様である。
【0046】
透明部材222は、透明部材22の車両内側側面22bのうち、段差形状23が設けられている領域を、平面222baに置き換えた以外は透明部材22と同様である。
【0047】
比較例4の車両用ピラーは、車両内側側面のうち、曲面22aaと対向する領域が平面222baであることから、透明部材222の中心が厚くなる。そのため、比較例4の車両用ピラーは、実施例2の車両用ピラーと同等の座屈耐性、剛性を有している。しかし、比較例4の透明部材222の曲面領域はレンズ形状をしており、運転者が透明部材222の曲面22aaの領域を介して視認する像に歪みを生じる。よって比較例4の車両用ピラーは実施例2の車両用ピラーよりも視認性が劣っている。
【0048】
このように、比較例3、4の車両用ピラーは、視認性の高さと座屈耐性、剛性の向上とを両立することができない。これに対し、実施例2の車両用ピラーはそれを両立することができる。
【実施例3】
【0049】
図10は、実施例3の車両用ピラーの構成を示した図である。実施例3の車両用ピラーは、
図10のように、第1骨格部材30と、第2骨格部材31と、透明部材32と、によって構成されている。第1骨格部材30および第2骨格部材31は、透明部材32の両端に嵌め込んで保持するための凹部の形状が異なる以外は実施例1の第1骨格部材10および第2骨格部材11と同様である。
【0050】
透明部材32は、実施例1の透明部材12とは車両外側側面32a、車両内側側面32bが異なっている。それ以外は透明部材12と同様の構造である。
【0051】
透明部材32の車両外側側面32aは、水平方向の断面において曲率半径が一定の円弧である曲面32aaと、その曲面32aaの一端で接続し、水平方向の断面において曲率半径が曲面32aaよりも大きな円弧である曲面32ab(本発明の第2外曲面に相当)と、曲面32aaの他端で接続する平面22acとを有している。ここで、曲面32aaの曲率中心をO、曲率半径をRとする。
【0052】
透明部材32の車両内側側面32bは、車両外側側面32aの平面32acと対向する領域については、平面32acと平行な平面32bcである。また、車両外側側面32aの曲面32abと対向する領域については、水平方向の断面において曲面32abと曲率中心が同一で曲面32abよりも曲率半径が小さな円弧の曲面32bb(本発明の第2内曲面に相当)である。また、車両外側側面32aの曲面32aaと対向する領域は、中央に向かって段階的に厚くなっていく3段の段差形状33となっている。この段差形状33は、実施例1の段差形状13と同様の構造である。段差形状33の各段の表面は、水平方向の断面において曲率中心Oで曲率半径が一定の円弧であり、最上段表面の曲率半径をR3、中段表面の曲率半径をR2、下段表面の曲率半径をR1として、R>R1>R2>R3となっている。
【0053】
実施例3のように、透明部材22の車両外側側面32aが曲面32aaと、曲面32aaよりも曲率半径が大きな曲面32abと、平面32acで構成される場合、透明部材32の座屈の際は曲率半径が最も小さい曲面32aaに応力が集中する。そこで、車両内側側面32bのうち曲面32aaに対向する領域を実施例1と同様の段差形状の構造とすることで、車両用ピラーの座屈耐性や剛性を向上させ、かつ運転者が透明部材32の曲面32aaの領域を介して視認する像の歪みも損なわないようにしている。
【0054】
なお、もちろん、車両内側側面32bのうち曲面32abに対向する領域にも、実施例1と同様の段差形状を設け、車両用ピラーの座屈耐性や剛性のさらなる向上を図ってもよい。
【0055】
(比較例5の車両用ピラーについて)
図11は、比較例5の車両用ピラーの構成を示した図である。比較例5の車両用ピラーは、実施例3の車両用ピラーの透明部材32を透明部材132に置き換えたものであり、他の構成は実施例3と同様である。
【0056】
透明部材132は、透明部材32の車両内側側面32bのうち、段差形状33が設けられている領域を、水平方向の断面において曲率中心がOで曲率半径がR1の円弧である曲面132baに置き換えた以外は透明部材32と同様である。
【0057】
比較例5の車両用ピラーは、車両内側側面のうち曲面132baが、水平方向の断面において、車両外側側面32aの曲面32aaの同心円の一部となるため、光の屈折が抑制され、運転者が透明部材132の曲面32aaの領域を介して視認する像の歪みは軽減されている。そのため、比較例5の車両用ピラーは実施例3の車両用ピラーと同等の視認性である。しかし、比較例5の車両用ピラーは、透明部材132の両端を結ぶ直線と透明部材132の重心との距離が、実施例3の車両用ピラーの透明部材32の場合よりも大きく、座屈耐性や剛性が実施例3に比べて劣っている。
【0058】
(比較例6の車両用ピラーについて)
図12は、比較例6の車両用ピラーの構成を示した図である。比較例6の車両用ピラーは、実施例3の車両用ピラーの透明部材32を透明部材232に置き換えたものであり、他の構成は実施例3と同様である。
【0059】
透明部材232は、透明部材32の車両内側側面32bのうち、段差形状33が設けられている領域を、平面232baに置き換えた以外は透明部材32と同様である。
【0060】
比較例6の車両用ピラーは、車両内側側面のうち、曲面32aaと対向する領域が平面232baであることから、曲面32aaの中心が厚くなる。そのため、比較例6の車両用ピラーは、実施例3の車両用ピラーと同等の座屈耐性、剛性を有している。しかし、比較例6の透明部材232の曲面32aaの領域はレンズ形状をしており、運転者が透明部材232の曲面32aaの領域を介して視認する像に歪みを生じる。よって比較例6の車両用ピラーは実施例3の車両用ピラーよりも視認性が劣っている。
【0061】
このように、比較例5、6の車両用ピラーは、視認性の高さと座屈耐性、剛性の向上とを両立することができない。これに対し、実施例3の車両用ピラーはそれを両立することができる。
【0062】
(各種変形例)
実施例1の車両用ピラー1では、骨格部材は、第1骨格部材10と第2骨格部材11の2本のみであるが、視認性を損なわない範囲であれば、骨格部材の本数は問わない。また、骨格部材の位置も、実施例1のように透明部材12の両端で支えるものである必要はない。たとえば透明部材12の内部を貫通するように設けてもよい。また、骨格部材同士がはしご状、三角格子状、正方格子状などに連結されていてもよい。また、骨格部材は網状、パンチングシート状などの形状であってもよい。要するに、骨格部材は透明部材を支持できる構造、形状であって、搭乗者が車外を認識できる程度に開口部を有していれば任意である。
【0063】
実施例1では、本発明の車両用ピラーをフロントピラーに適用した例を示しているが、本発明の車両用ピラーはフロントピラー以外にも適用可能である。
【0064】
本発明の車両用ピラーは、自動車や電車など、あらゆる車両のピラーに適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の車両用ピラーは、種々の車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1:車両用ピラー
10、20、30:第1骨格部材
11、21、31:第2骨格部材
12、22、32:透明部材
12a、22a、32a:車両外側側面
12b、22b、32b:車両内側側面